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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-06
(45)【発行日】2023-06-14
(54)【発明の名称】溶射コバルト酸リチウムターゲット
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/34 20060101AFI20230607BHJP
   H01M 4/1391 20100101ALI20230607BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20230607BHJP
   C23C 4/11 20160101ALI20230607BHJP
【FI】
C23C14/34 A
C23C14/34 B
C23C14/34 R
H01M4/1391
H01M4/525
C23C4/11
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2020531967
(86)(22)【出願日】2018-12-11
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-02-22
(86)【国際出願番号】 EP2018084379
(87)【国際公開番号】W WO2019121170
(87)【国際公開日】2019-06-27
【審査請求日】2021-11-30
(31)【優先権主張番号】2017/5957
(32)【優先日】2017-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】BE
(73)【特許権者】
【識別番号】505360498
【氏名又は名称】ソレラス・アドヴァンスト・コーティングス・ビーヴイ
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【氏名又は名称】松島 鉄男
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【識別番号】100170379
【弁理士】
【氏名又は名称】徳本 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100180231
【弁理士】
【氏名又は名称】水島 亜希子
(74)【代理人】
【氏名又は名称】有原 幸一
(72)【発明者】
【氏名】デ・ボスヘル,ウィルマート
(72)【発明者】
【氏名】オーバーステ・ベルクハウス,イェルク
【審査官】山本 一郎
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-511742(JP,A)
【文献】特表2016-507004(JP,A)
【文献】国際公開第2016/146732(WO,A1)
【文献】GUMMOW R.J. 他,Materials Research Bulletin,vol. 28,1993年,pp. 1177 - 1184
【文献】HU Qi 他,Journal of Materials Science in Electronics,2019年01月23日,vol. 30,pp. 4753 - 4759,doi.org/10.1007/s10854-019-00768-5
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/34
H01M 4/1391
H01M 4/525
C23C 4/11
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トップコート(103)を含むスパッタリングターゲット(100)であって、前記トップコート(103)が、コバルト酸リチウムLiCoの組成物を含み、式中、xがy+z以下であり、前記トップコートは、X線回折パターンがCuKα1放射線を用いてX線回折計で測定された場合、44°±0,2° 2θにピークP2を有するX線回折パターンを有する、スパッタリングターゲット(100)。
【請求項2】
前記トップコートが、38°±0,2° 2θにピークP1、および64°±0,2° 2θにピークP3をさらに含むX線回折パターンを有する、請求項1に記載のスパッタリングターゲット(100)。
【請求項3】
前記ピークP2が、前記トップコートX線回折パターンにおける最高強度のピークである、請求項1または2に記載のスパッタリングターゲット(100)。
【請求項4】
前記ピークP2のピーク強度が、前記トップコートの前記X線回折パターンにおける最高強度を有するピークの最小10%、または前記トップコートの前記X線回折パターンにおける最高強度を有するピークのさらには最小20%、もしくはさらには最小50%である、請求項1~3のいずれか一項に記載のスパッタリングターゲット(100)。
【請求項5】
前記トップコート(103)の前記コバルト酸リチウムLiCoの組成物が、Fd-3m立方晶スピネル相を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載のスパッタリングターゲット(100)。
【請求項6】
前記コバルト酸リチウムの組成物が、前記トップコート(103)の42,5at%~49,8at%の酸化物量を有する亜酸化物である、請求項1~5のいずれか一項に記載のスパッタリングターゲット(100)。
【請求項7】
yおよびzが、ほぼ等しい、請求項1~6のいずれか一項に記載のスパッタリングターゲット(100)。
【請求項8】
yが、zに等しいか、またはzより最大20%大きい、請求項1~6のいずれか一項に記載のスパッタリングターゲット(100)。
【請求項9】
前記トップコート(103)が、室温で20kΩ・cm~200kΩ・cmの抵抗率を有する、請求項1~8のいずれか一項に記載のスパッタリングターゲット(100)。
【請求項10】
前記トップコートが、1ピースのトップコートである、請求項1~9のいずれか一項に記載のスパッタリングターゲット。
【請求項11】
前記スパッタリングターゲットが、円筒形状を有する、請求項1~10のいずれか一項に記載のスパッタリングターゲット(100)。
【請求項12】
前記スパッタリングターゲットが、バッキング基材(101)と、前記バッキング基材(101)を前記トップコート(103)に接合する接合コート(102)と、をさらに含む、請求項1~11のいずれか一項に記載のスパッタリングターゲット(100)。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか一項に記載のスパッタリングターゲットが使用されるスパッタリングにより、基材上にコーティングを形成するためのプロセス。
【請求項14】
前記スパッタリングが、350kHz未満の周波数でDCスパッタリング、パルスDCスパッタリングまたはACスパッタリングである、請求項13に記載のプロセス。
【請求項15】
前記スパッタリングが、ターゲット長さ1メートルあたり少なくとも6kWの平均DC電力の電力密度で実施される、請求項14に記載のプロセス。
【請求項16】
スパッタリングターゲットを製造するための方法であって、
-コバルト酸リチウムLiCoの粒子を含み、式中、xがy+z以下である粉末を提供するステップと、
-バッキング基材を提供するステップと、
-前記粉末を溶融形態で前記バッキング基材上に投射、好ましくは溶射し、それによって、前記バッキング基材上で前記粉末を冷却して固化して、X線回折パターンがCuK α1 放射線を用いてX線回折計で測定された場合、44°±0,2° 2θにピークP2を有するX線回折パターンを有するトップコートを得るステップと、を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コバルト酸リチウムスパッタリングターゲットの分野に関する。より具体的には、それは、直流モードでもスパッタリング可能なコバルト酸リチウムスパッタリングターゲットに関する。
【背景技術】
【0002】
充電式薄膜電池(RTFB)は、高速充電および長寿命サイクルを有する極薄(200μm)充電式固体電池であり得る。それらは、例えば、スクリーン内の電池を有する超薄型携帯電話に適用することができる。他の用途は、例えば、「モノのインターネット」装置またはチップ電池におけるRTFBである。
【0003】
RTFBの基本的な例を、図1に概略的に図示する。これは、カソード側に第1の電極11、カソード12、固体電解質13、アノード14、アノード側に第2の電極15の積層を含む。
【0004】
コバルト酸リチウム(LiCoO)は、これらのRTFBのカソード材料として使用され得る。それによって、それは、電池電圧を規定するカソード材料である。コバルト酸リチウムは、高容量化が可能であるという利点を有する。
【0005】
アノード14は、Liイオンを提供するためのリチウム金属アノードであってもよい。また、それは、Li化合物であってもよく、それは、酸化リチウムまたは窒化物含有LiなどのLiイオンアノードであることができ、それは、炭素もしくはグラファイト構造、または、Liなどを吸収または放出するために、スポンジのような役割を果たすシリコンであってもよい。
【0006】
電解質は、電気アイソレータであるべきであるが、良好なイオン伝導性を有する必要がある。RTFBにおいて、アノードとカソードとの間の電解質は、固体材料であり、これは、それが漏れを開始しないという利点を有する。電解質は、例えば、LiPON(窒化リン酸リチウム)または硫化物ガラスであってもよい。LiPONは、良好なLi導電性を有し、Liとの接触において安定であるという利点を有する。
【0007】
Liイオンは、アノードからカソードへと移動する正電荷である。充電すると、そのイオンは、カソードからアノードへと移動し、放電すると、イオンは、アノードからカソードへと移動する。複数のアノード/電解質/カソード層の積層を作製することにより、RTFBのエネルギーを増加させることができる。
【0008】
これらの電池は大きな表面を有し、イオンが、短い距離を移動する必要があるだけなので、それらを急速に充電することができる。同じ理由で、このような電池を使用して、高電流パルスを生成することができる。
【0009】
これらのRTFBでは、カソードが厚くなるほど、LiCoO材料が多くなり、得られるRTFBの容量が高くなる。例えば、3~10μmの厚さのLiCoOを所望することができるアノード/電解質/カソードおよび接触電極の積層は、例えば、10~15μmの厚さを有し得る。
【0010】
このようなLiCoOカソード層の堆積は、スパッタリングによって達成することができる。さらに、比較的厚い層(例えば、3~10μm)をスパッタする必要がある。
【0011】
したがって、スパッタリングシステムで使用することができるコバルト酸リチウムの組成物を含む良好なターゲットに対する必要性が存在する。
【発明の概要】
【0012】
本発明の目的は、良好なスパッタリングターゲットおよびそれを製造するための方法、ならびにこれらのターゲットを使用したスパッタリングのためのスパッタリングプロセスを提供することである。
【0013】
上記の目的は、本発明による方法および装置によって達成される。
【0014】
第1の態様では、本発明の実施形態は、コバルト酸リチウムLiCoの組成物を含むトップコートを含む、スパッタリングターゲットに関し、式中、xがy+z以下であり、コバルト酸リチウムが、44°±0,2° 2θにピークP2を有するX線回折パターンを有し、X線回折パターンが、CuKα1放射線を用いたX線回折計で測定される。
【0015】
本発明の実施形態の利点は、DCスパッタ可能なコバルト酸リチウムターゲットが得られることである。トップコートが、コバルト酸リチウムの組成物を含み、コバルト酸リチウムが44°±0,2° 2θにピークP2を有するX線回折パターンを有するため、スパッタリングターゲットは、DCスパッタが可能である。
【0016】
低温では、DCスパッタリングにはターゲットの抵抗率が高すぎると考えられるが、これらのターゲットをDCスパッタリングに使用することが可能である。これは、本発明の実施形態によるターゲットをスパッタリングシステムに使用した場合、ターゲットに対する電力を増加させることにより、このターゲットの抵抗率を低下させることができるため、可能である。電力閾値を超えて、スパッタリングは、電力密度の単位当たりの高い堆積速度で非常に効率的となる。
【0017】
本発明の実施形態の利点は、コバルト酸リチウムが、44°±0,2° 2θにピークP2を有するX線回折パターンを有することである。このピークの存在は、数百ボルト(すなわち典型的なスパッタ電圧)の電圧を印加することによってプラズマを点火することができるようにするトップコートの材料特性を意味する。さらに、P2ピークの存在は、利点として、低いアーク放電で広い範囲の圧力および電力で安定したスパッタリングが可能である。さらに、P2ピークの存在により、高い堆積速度が可能となる-この低安定形態のLiCoが、アルゴン衝撃によって早期に除去されるためである。
【0018】
本発明の実施形態の利点は、ターゲットのDCスパッタを可能にするために、カーボンブラックもしくは有機結合剤または金属のような導電性元素を追加する必要がないことである。
【0019】
このようなターゲットは、バッキング基材上にコバルト酸リチウムの粒子を含む粉末の溶射によって達成され得る。焼結が適用されないため、ターゲットのトップコート中のコバルト酸リチウムのX線回折パターンに、44°±0,2° 2θにピークP2が存在する。
【0020】
本発明の実施形態では、コバルト酸リチウムは、38°±0,2° 2θにピークP1と、64°±0,2° 2θにピークP3と、をさらに含む、X線回折パターンを有する。XRD回折パターンにおける3つのピークの存在は、ターゲットがDCスパッタ可能であるようにするトップコート中の相に対応するため、有利である。始動中に、このようなターゲット上の電圧は、ターゲットをDCスパッタリングに好適にする電力レベルをさらに増加させて、抵抗率が減少し始める点まで電力レベルを増加させて、大幅に増加する。
【0021】
本発明の実施形態では、ピークP2は、コバルト酸リチウム材料のXRDパターンにおける最高強度のピークである。
【0022】
本発明の実施形態では、ピークP2のピーク強度は、コバルト酸リチウム材料のXRDパターンにおける最高強度を有するピークの最小10%であるか、またはコバルト酸リチウム材料のXRDパターンにおける最高強度を有するピークのさらには最小20%、もしくはさらには最小50%である。
【0023】
ピークの強度を修正することにより、トップコートの材料特性を修正することができる。それによって、P2ピークの強度が、ターゲットがDCスパッタ可能なままであるような、コバルト酸リチウム材料のXRDパターンにおける最高強度を有するピークの少なくとも10%であることが重要である。
【0024】
本発明の実施形態では、トップコートのコバルト酸リチウムLiCoの組成物は、Fd-3m立方晶スピネル相を含む。
【0025】
Fd-3m立方晶スピネル相の存在は、ピークP1、P2、およびP3によって決定することができる。立方晶スピネル相の存在もまた、DCスパッタリングを可能にするため有利である。
【0026】
本発明の実施形態では、コバルト酸リチウムの組成物は、該トップコートの42,5at%~49,8at%の酸化物量(すなわち、酸素量)を有する亜酸化物である。
【0027】
本発明の実施形態では、xはy+zよりも小さい。y+zがほぼ2である場合、xは、例えば、1.7~1.99で変化し得る。それは、例えば、1.85に等しくてもよい。本発明の実施形態では、yおよびzは、ほぼ1であり得る。
【0028】
本発明の実施形態では、yおよびzは、ほぼ等しい。それらは、例えば、互いに20%未満、またはさらには10%未満、またはさらには5%未満異なっていてもよい。本発明の実施形態では、yは、zに等しいか、またはzよりも最大20%大きい。
【0029】
本発明の実施形態では、組成物は、Co含有量よりも高いLi含有量を有する。本発明の実施形態では、yは、例えば、zが1であるとき、1~1,2の範囲であり得る。本発明の実施形態によるターゲットは、例えば、6~8.5重量%のリチウムを含み得る。
【0030】
本発明の実施形態の利点は、本発明の実施形態によるターゲットを使用したスパッタリングの後に、最終的に堆積された膜中のコバルト-酸化物相の存在により、ターゲット中のLiの量を増加させることによって低減することができることである。
【0031】
本発明の実施形態では、該トップコートの材料は、室温で20kΩ・cm~200kΩ・cmの抵抗率を有する。
【0032】
本発明の実施形態では、該抵抗率は、該デバイスの外側プローブ距離の少なくとも2倍の厚さを有する該材料の1ピースのトップコート上に、2つの外側プローブを備える、4探針プローブ抵抗率測定装置によって測定される。この厚さ要件は、スパッタリングターゲット自体の要件ではない。むしろ、より薄いトップコートの4探針プローブ抵抗率測定値が、不正確な測定値をもたらす可能性があるため、それは、測定方法の要件である。
【0033】
室温での抵抗率は、DCスパッタリングに理想的ではないようだが、典型的なスパッタリング電圧のレベルでDC電圧を印加することによりプラズマを点火することが可能であり、その後、点火が閾値を超えて電力をさらに増加させ、その後、高電力で単位電力密度当たりの高い堆積速度を可能にするために、電力が増加するにつれて電圧が減少する。この電流電圧挙動は、電力を増加および/またはターゲット温度を上昇させることで、ターゲット抵抗率を減少させることによって引き起こされる。
【0034】
本発明の実施形態では、トップコートは、1ピースのトップコートである。
【0035】
本発明の実施形態の利点は、長い酸化コバルトターゲットを1ピースで生成することができることである。例えば、50cm超、またはさらには65cm超、またはさらには80cm超、またはさらには100cm超、またはさらには400cm超の長さを有する、1ピースのコバルト酸リチウムターゲットを生成することができる。
【0036】
1ピースのトップコート、すなわち、互いに付着した2つ以上のピース(例えば、スリーブまたはタイル)から構成されていないトップコートを有することは、トップコートのピース間の境界で通常観察される優先的なスパッタリングを排除するため、有利である。ピースの縁部から発生するこのようなスパッタリングは、スパッタ層中に不均一なバンドを形成することにつながる。したがって、1ピースのトップコートは、均一なスパッタ層を可能にする。さらに、2つの隣接するピース間のこれらの界面では、層の品質および性能に影響を与えるような、過剰なアーク放電が発生する可能性がある。最大4メートルの長さのトップコートを達成することができる。
【0037】
本発明の実施形態では、スパッタリングターゲットは、円筒形状を有する。
【0038】
実施形態では、スパッタリングターゲットは、従来技術において有用であると認識される任意の形状を有することができる。しかしながら、円筒形状は、スパッタ膜中に不均一性を生じることなく回転することができ、それによって、平坦なスパッタ源と比較して、増大したプロセス安定性と組み合わせて、大きな材料デポ(material depot)および高いターゲット利用、ならびに粒子の非常に少ない生成により、高い動作可能時間が可能となるため、好ましい。
【0039】
本発明の実施形態では、スパッタリングターゲットは、バッキング基材と、該バッキング基材を該トップコートと接合する接合コートと、をさらに含む。
【0040】
本発明の実施形態では、バッキング基材は、金属チューブなどの金属基材であってよい。本発明の実施形態では、接合コートは、200℃より高い、好ましくは300℃より高い、より好ましくは400℃より高い溶融温度を有する金属合金であってよい。
【0041】
実施形態では、該合金は、Ni合金であってよい。このような接合コートは、スパッタリング中の接合材料に関連する故障のリスクを低減するため、有利である。また、それにより、接合材料を溶融することなく、より高い電力密度を使用できる。より高い電力密度により、より高いスパッタ率が可能となる。
【0042】
本発明の実施形態では、バッキング基材は、バッキングチューブである。
【0043】
第2の態様では、本発明の実施形態は、本発明の実施形態によるスパッタリングターゲットが使用される、スパッタリングによって基材上にコーティングを形成するためのプロセスに関する。
【0044】
本発明の実施形態では、該スパッタリングは、350kHz未満の周波数でのDCスパッタリング、パルスDCスパッタリングまたはACスパッタリングである。
【0045】
本発明の実施形態では、該スパッタリングは、ターゲット長さ1メートルあたり少なくとも6kWの平均DC電力の電力密度で実施される。
【0046】
本発明の実施形態では、該スパッタリングは、最大35kW/mのターゲット長さ1メートルあたり少なくとも6kW、好ましくは少なくとも10kW、より好ましくは少なくとも14kW、および最も好ましくは少なくとも18kWの平均DC電力の電力密度で実施され得る。
【0047】
本発明の明らかな利点は、このような高電力密度を使用できることである。ACスパッタリングの場合、AC電力密度は、上記のDC値と同等になるように選択することができる。後者は、例えば、二重構成に適用される(統合された)電力レベルの2倍が、単一ターゲットあたりの平均DC電力密度に対応する必要があることを考慮して決定できる。
【0048】
第3の態様では、本発明の実施形態は、スパッタリングターゲットを製造するための方法であって、
-コバルト酸リチウム、LiCoの粒子を含み、式中、xがy+z以下である粉末を提供するステップと、
-バッキング基材を提供するステップと、
-該粉末を溶融形態で該バッキング基材上に投射、好ましくは溶射し、それによって、該バッキング基材上で該粉末を冷却して固化するステップと、を含む、方法に関する。
【0049】
粉末は、例えば、それを1100℃~1300℃の温度にすることにより溶融することができる。
【0050】
本発明の実施形態の利点は、コバルト酸リチウムの組成物を含むターゲットを、比較的単純で安価な方法、すなわち溶射によって生成できることである。
【0051】
この方法を使用して、コバルト酸リチウム組成物を含んでいるターゲットを生成することが可能であり、コバルト酸リチウムが、44°±0,2° 2θにピークP2を有するX線回折パターンを有することがさらに有利である。溶射により、組成物が、Fd-3m立方晶スピネル相を有するスパッタリングターゲットを得ることができる。
【0052】
本発明者らの知る限り、焼結などの従来技術から既知の他の方法では、第1の態様によるスパッタリングターゲットを得ることができない。特に、トップコートは、コバルト酸リチウム組成物を有さず、その組成物は、Fd-3m立方晶スピネル相を有する。これに対して、焼結により、コバルト酸リチウム組成物は、R-3m相に変化する。
【0053】
本発明の実施形態の利点は、溶融形態の粉末の投射が、バッキング基材上に直接行われることである。これにより、1ピースのトップコートを形成できる。
【0054】
本発明の実施形態では、スパッタリングターゲット基材のバッキング基材(例えば、バッキングチューブ)は、接合コートとの、または直接トップコートとのバッキング基材の界面を増加させるために、粗面化(例えば、サンドブラストにより)され得る。これには、熱伝導率および電気伝導率を向上させるという利点がある。
【0055】
本発明の実施形態による方法では、バッキング基材は、バッキングチューブである。
【0056】
本発明の特定の好ましい態様は、添付の独立および従属請求項に記載されている。従属請求項からの特徴は、独立請求項の特徴および他の従属請求項の特徴と、必要に応じて、単に請求項で明示的に述べられるようなだけではなく、組み合わせることができる。
【0057】
本発明のこれらおよび他の態様は、以下に説明される実施形態(複数可)を参照して明らかになり、解明されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0058】
図1】先行技術のRTFBの概略図を示す。
図2】本発明の実施形態によるターゲットの概略図を示す。
図3】本発明の実施形態による円筒形のLiCoOターゲットの写真を示す。
図4】本発明の実施形態による平面のLiCoOターゲットの写真を示す。
図5】従来技術のターゲットおよび本発明の実施形態によるターゲットの印加電力の関数でのスパッタ電圧およびスパッタ電流を示す。
図6】本発明の実施形態によるターゲットを使用してスパッタリングする場合の印加電圧の関数での電流を示す。
図7】本発明の実施形態によるLiCo溶射サンプルの断面微細構造を示す。
図8】本発明の実施形態によるターゲットを形成するために使用し得るLiCoOの粒子を含む粉末のX線回折(XRD)グラフを示す。
図9】本発明の実施形態によるターゲットのXRDグラフを示す。
図10】本発明の実施形態によるターゲットのXRDグラフを示す。ターゲットは、図9のターゲットとは別のターゲットである。
図11】本発明の実施形態によるターゲットをスパッタリングする場合のスパッタ電力の関数での動的堆積速度を示す。
図12】動的堆積速度に対するスパッタリングプロセスへの酸素の追加の影響を示す。
図13】本発明の実施形態によるスパッタリングターゲットから得られたスパッタされたLiCoO膜のRamanスペクトルを示す。
【0059】
請求項におけるあらゆる参照符号は、範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。異なる図面では、同一の参照符号は、同一または類似の要素を指す。
【発明を実施するための形態】
【0060】
本発明は、特定の実施形態に関して、および特定の図面を参照して説明されるが、本発明はそれに限定されず、特許請求の範囲によってのみ限定される。記載された図面は、模式図のみであるが、非限定的である。図面では、いくつかの要素のサイズは、例示の目的で誇張され、縮尺通りに描かれていない場合がある。寸法および相対寸法は、本発明の実施に対する実際の縮小に対応していない。
【0061】
説明および特許請求の範囲における第1、第2などの用語は、類似の要素を区別するために使用され、必ずしも時間的、空間的、ランク付け、またはあらゆる他の方法で順序を記述するためではない。そのように使用される用語は、適切な状況下で交換可能であり、本明細書に記載された本発明の実施形態は、本明細書に記載または図示される以外の順序で動作することができることを理解されたい。
【0062】
さらに、説明および特許請求の範囲における上部、下部などの用語は、説明目的で使用されており、必ずしも相対位置を説明するために使用されているわけではない。そのように使用される用語は、適切な状況下で置き換え可能であり、本明細書に記載される本発明の実施形態は、本明細書に記載または図示される以外の向きで動作することができることを理解されたい。
【0063】
請求項で使用される「含む(comprising)」という用語は、その後に列挙される手段に限定されると解釈されるべきではなく、他の要素またはステップを除外するものではないことに留意されたい。したがって、述べられた特徴、整数、ステップ、または言及されたような構成要素の存在を指定すると解釈されるべきであるが、1つ以上の他の特徴、整数、ステップもしくは構成要素、またはそれらのグループの存在または追加を排除するものではない。したがって、「手段AおよびBを含む装置」という表現の範囲は、構成要素AおよびBのみからなる装置に限定されるべきではない。それは、本発明に関して、装置の関連する構成要素のみが、AおよびBであることを意味する。
【0064】
本明細書を通して「一実施形態」または「実施形態」への言及は、実施形態に関連して記載される特定の特徴、構造または特性が、本発明の少なくとも1つの実施形態に含まれることを意味する。したがって、本明細書全体にわたる様々な場所での「一実施形態では」または「実施形態では」という句の出現は、必ずしもすべて同じ実施形態を指しているとは限らないが、そうであってもよい。さらに、この開示から当業者には明らかなように、1つ以上の実施形態では、特定の特徴、構造、または特性を任意の適切な方法で組み合わせることができる。
【0065】
同様に、本発明の例示的な実施形態の説明では、本発明の様々な特徴は、本開示を簡素化し、様々な発明の態様のうちの1つ以上の理解において助けとなる目的で、単一の実施形態、図、またはその説明にまとめられることがあることが理解されるべきである。しかしながら、この開示の方法は、請求された発明が、各請求項に明示的に列挙されているよりも多くの特徴を必要とするという意図を反映するものとして解釈されるべきではない。むしろ、以下の特許請求の範囲が反映するように、発明の態様は、前述の単一の開示された実施形態のすべての特徴より少ない。したがって、詳細な説明に続く特許請求の範囲は、これによってこの詳細な説明に明示的に組み込まれ、各請求項は、本発明の別個の実施形態として独立している。
【0066】
さらに、本明細書に記載されるいくつかの実施形態は、他の実施形態に含まれるいくつかの特徴を含むが他の特徴は含まず、当業者によって理解されるように、異なる実施形態の特徴の組み合わせは本発明の範囲内にあり、異なる実施形態を形成することを意味する。例えば、以下の特許請求の範囲において、請求された実施形態のいずれも、任意の組み合わせで使用され得る。
【0067】
本明細書で提供される説明では、多数の特定の詳細が明記されている。しかしながら、本発明の実施形態は、これらの特定の詳細なしで実施されてもよいことが理解される。他の例では、この説明の理解を不明瞭にしないために、周知の方法、構造、および技術は、詳細には示されていない。
【0068】
本発明の実施形態では、コバルト酸リチウムの組成物に言及する場合、xがy+z以下であるLiCoを含む組成物に言及する。化学式では、yおよびzは、例えば、実質的に1に等しくてもよく、xは、その場合、2以下であってもよい。
【0069】
本発明の実施形態では、高温相に言及する場合、R-3m結晶構造相中のLiCoに言及する。これは、ロンボヘドラル相(rombohedral)である。
【0070】
本発明の実施形態では、低温相に言及する場合、Fd-3m構造中のLiCoに言及する。
【0071】
第1の態様では、本発明の実施形態は、トップコート103を含むスパッタリングターゲット100に関する。トップコート103は、コバルト酸リチウムLiCoの組成物を含み、式中、xがy+z以下であり、コバルト酸リチウムが、44°±0,2° 2θにピークP2を有するX線回折パターンを有し、X線回折パターンが、CuKα1放射線を用いたX線回折計で測定される。CuKα1の波長は、それによって、λ=1.540562Åとして既知である。
【0072】
本組成物では、yおよびzは、1とほぼ等しいか、またはさらには1と等しくてもよい。本組成物は、該トップコートの42,5at%~49,8at%の酸化物量を有する亜酸化物であり得る。このようなターゲットの概略図を図2に図示する。左の図は、本発明の実施形態によるスパッタリングターゲットチューブの断面の略図である。右の図は、チューブ材料の拡大した断面を示す。
【0073】
トップコート中のコバルト酸リチウムの濃度は、非常に高いので、そのX線回折パターンのピークP2が、トップコートの最終的なX線回折パターンに存在する。本発明の実施形態では、トップコート中のコバルト酸リチウムの濃度は、例えば、50%超、70%超、またはさらには80%超、またはさらには90%超、またはさらには99%超、またはさらには100%であり得る。LiCo中の可能性のあるドーパント材料は、例えば、LiCoMnO(Mnドーピング)、Li(Ni(1-y)Co)O(Niドーピング)、LiMn、V、LiMn1.5Ni0.5などであり得る。
【0074】
LiCoをターゲット材料として使用する場合の問題は、それが、電気的に絶縁性であり得ることである。電気絶縁性ターゲットの欠点は、DCまたは中波ACでスパッタすることが不可能であるが、RFでのスパッタリングが必要とされることである。従来技術のコバルト酸リチウムスパッタリングターゲットでは、この高い抵抗率の問題は、所定量で組成物に1つ以上の導電性材料を組み込むことによって解決される。このようなターゲットは、例えば、US2015/0248997に開示されている。
【0075】
本発明の実施形態によるLiCoターゲットは、DCまたは周波数が350kHz未満、例えば、50kHzである中波ACでスパッタすることが可能であることという利点を有する。したがって、動作中は、このようなターゲットは、導電性でなければならない。これは、トップコート103を含むスパッタリングターゲット100を提供することによって達成され、トップコート103は、コバルト酸リチウムLiCoの組成物を含み、式中、xはy+z以下であり、コバルト酸リチウムは、44°±0,2° 2θにピークP2を有するX線回折パターンを有する。
【0076】
本発明の実施形態では、コバルト酸リチウムは、38°±0,2° 2θにピークP1と、64°±0,2° 2θにピークP3とをさらに含む、X線回折パターンを有する。ピークP2は最高ピークであり得るか、またはそれは、コバルト酸リチウム材料のXRDパターンにおける最高強度でピークの最低10%、またはさらにはコバルト酸リチウム材料のXRDパターンにおける最高強度でピークの最低20%、もしくはさらには最低50%であり得る。溶射のプロセスパラメーター(例えば、温度、コバルト酸リチウム組成物中の異なる元素の濃度)を調節することにより、ピークP1、P2、およびP3を調整できる。本発明の実施形態では、トップコートの組成物は、Fd-3m立方晶スピネル相を含む。
【0077】
図3は、本発明の実施形態による円筒形のLiCoOターゲットの写真を示す。図は、バッキング基材101上のトップコート103を示す。この例示的なターゲットの材料組成物は、以下の表に示すとおりである。ターゲット材料は、LiCoOである。x値は、1.96である。密度は、3.78g/cmである。試験方法は、ICP(誘導結合プラズマ分光法)である。得られた組成物(他のすべての金属不純物0,1%未満を含む)は、
【表1】
【0078】
図4は、本発明の実施形態による平面のLiCoO(2未満のxを含む)ターゲットの写真を示す。ターゲットは、銅バッキング基材101に溶射を使用して得た。この図のトップコート103は、2.7mmの厚さを有する。本発明のこの例示的な実施形態では、バッキング基材101は、250x100mmの面積を有する。
【0079】
本発明の実施形態の利点は、コバルト酸リチウムが、44°±0,2° 2θにピークP2を有するX線回折パターンを有することであり、これにより、ターゲットがスパッタ可能になる(例えば、組成物が、Fd-3m立方晶スピネル相を含み得る)からである。組成物が亜酸化物である(例えば、2未満のxを含むLiCoOを含む)場合は、さらに有利である。
【0080】
これは、本発明の第2の態様も説明するときにさらに説明される。この第2の態様は、本発明の実施形態によるスパッタリングターゲットが使用される、スパッタリングによって基材上にコーティングを形成するためのプロセスに関する。
【0081】
図5は、室温で導電性である(例えば、1000Ω・cm未満の抵抗率で)従来技術のターゲットに対する印加電力の関数でのスパッタ電圧202およびスパッタ電流204を示す。図5はまた、本発明の実施形態による、ターゲットに対する印加電力の関数でのスパッタ電圧201およびスパッタ電流203も示す。
【0082】
従来技術の導電性ターゲットの場合、電力が増加すると、電圧202が増加することが分かり得る。第1の段階では、電圧202は急速に増加するが、第2の段階では、電圧202はわずかに増加する。この図から分かり得るように、電流204の勾配は、第1の段階で最も高く、第2の段階でより小さくなる。
【0083】
本発明の実施形態によるLiCoターゲットの場合、第1の段階では、電力が増加すると、電圧201は、従来技術の導電性ターゲットの場合よりもはるかに高いレベルに増加することが分かり得る。電力が限られているため、これは、電流203がそれほど高くないことを示唆する。電力をさらに増加させると、電圧は最大に達し、その後、それは、電力の増加とともに減少し始める。電流は第1の段階では低いままで、最終的には増加する。
【0084】
図5は、本発明の実施形態による、LiCoターゲットが、第1の段階(電力が増大するにつれて電圧が増大するとき)では比較的小さいが、電圧が最大に達した後に増大する導電率を有することを示す。
【0085】
DCスパッタを可能にするには、ターゲットの導電率を最小限にする必要がある。MΩ・cm範囲のターゲットは、ターゲットにDC電圧を印加してもスパッタできない。一方、1000~3000Ω・cm以下の範囲のターゲットは、DCスパッタが可能である。従来技術のLiCoターゲットは、室温で1000Ω・cm未満の抵抗率を有するように設計されている。しかしながら、本発明の実施形態によるLiCoターゲットは、室温で10kΩ・cm超の抵抗率を有し得る。これらの高い抵抗率は、これらのターゲットがDCスパッタできない方向にヒントを与え得る。しかしながら、ターゲットに電力を印加することにより、驚くべきことに、プラズマが容易に点火することが見出された。始動フェーズ(第1の段階)でより多くの電力を印加することにより、電圧は急激に増加する。この始動フェーズでは、低い堆積速度しか達成できなかった。さらに電力レベルを増加させると、ターゲットの抵抗率が低下し始め、DCスパッタリングに好適なターゲットになり、高い堆積速度で安定した動作が実現された。
【0086】
理論に束縛されるものではないが、抵抗率のこの変化の異なる原因は、X線回折パターンでのP2ピークに主に関連していると特定でき、本発明の実施形態によるターゲット中のFd-3m立方晶スピネル相の存在を指し示し、従来技術のLiCoOターゲットにおいて支配的であるロンボヘドラル相よりも安定性が低い。さらに、組成物が亜酸化物組成物であるターゲットでは、抵抗率の変化が増強される。
【0087】
驚くべきことに、44°±0,2° 2θにピークP2を有するX線回折パターンを示すトップコートが、DCスパッタリングで点火されることができ、長さが、135~170mmの外径を有する円筒形ターゲットの長さで、最大10kW/m、またはさらには最大20kW/mもしくはさらには最大40kW/mの電力密度でスパッタできることが見出された。
【0088】
これは、Fd-3m相が最も安定性の低い相であり、したがって、スパッタプロセスでそれを導電性にするのが容易であるために可能であると推測される。これは、それを加熱、イオン衝撃、または電圧の印加によって達成され得る。さらに、亜酸化組成物は酸素を欠いており、その結果、酸素空孔が生じ、これにより、自由電荷のキャリーおよび導電性ももたらし得る。
【0089】
プラズマがターゲットに到達すると、ターゲットが加熱される。これにより、ターゲットの導電率が上昇する。これはまた、印加電圧の関数での電流を示す図6にも図示されている。第1の段階では、電圧は、最大550Vの電圧に上昇している。この領域では、ターゲットは、単位電力密度あたりの最も効率的な速度でLiCoを堆積するのに好適ではない。その電圧で電流を流すと、ターゲットは加熱を開始し、伝導率が上昇する。その時点以降、電圧は低下し、より多くの電流がターゲットを通過する。図6では、0.2Pa(純粋なAr)で15分あたり1kWでシステムのランプアップを適用した。
【0090】
これに対して、先行技術のスパッタ可能なターゲットは、プラズマ点火とは別に高電圧が印加される、第1の段階を通過する必要がない低い抵抗率を有する。従来技術のスパッタ可能なターゲットは、室温ですでに低い抵抗率(例えば、200Ω・cm)を有する。しかしながら、この低い抵抗率を達成するために、導電性材料が、これらのターゲットに追加され得る。これらの追加の導電性材料は、スパッタリング時に堆積され、それによって、LiCoOコーティングの組成物に悪影響を及ぼし得る。
【0091】
従来技術のスパッタ可能なターゲットは、しばしば、焼結および接合によって作製される。これには、接合材料の制限のために高電力密度を適用できないという欠点がある。したがって、より高い堆積速度には近づくことはできない。dc電力を印加するとき、驚くべきことに、本発明の実施形態によるターゲット上のプラズマが容易に点火することが見出された。電力閾値では、電圧は、高速で膜を堆積するのに好適である領域に減少し始める。本発明の実施形態では、ターゲットの抵抗率は、温度の上昇とともに減少し得る。本発明の実施形態では、電圧が最大に達するまで電力が増加した場合にのみ、ターゲットの抵抗率が低下し始め、電流が増加し、単位電力あたりの堆積速度が高くなり、スパッタリングが安定する。
【0092】
本発明の実施形態では、ターゲット中の酸素化学量論x(LiCo中)は、例えば、1.4~2、例えば、1.7~1.99で変化し得、それは、例えば、1.85であり得る(yおよびzは、この場合、ほぼ1または1に等しいと推測される)。本発明の実施形態の利点は、亜酸化物ターゲットを提供することにより、ターゲットがより容易に導電状態に到達できることである(例えば、ターゲットに400Vをかける)。
【0093】
第3の態様では、本発明の実施形態は、スパッタリングターゲットを製造するための方法に関する。
【0094】
この方法は、
-コバルト酸リチウムLiCoの粒子を含み、式中、xがy+z以下である、粉末を提供するステップと、
-バッキング基材を提供するステップと、
-該粉末を溶融形態で該バッキング基材上に投射、好ましくは溶射し、それによって該バッキング基材上で該粉末を冷却して固化するステップと、を含む。
【0095】
それによって、得られたトップコート中のコバルト酸リチウムの濃度が、非常に高いので、投射されたLiCoのX線回折パターンのピークP2は、トップコートのX線回折パターンにも存在する。本発明の実施形態では、トップコート中のコバルト酸リチウムの濃度は、例えば、50%超、70%超、またはさらには80%超、またはさらには90%超、またはさらには99%超、またはさらには100%であり得る。
【0096】
コバルト酸リチウム粉末は、例えば、沈殿および凍結乾燥によって生成される水酸化物前駆体の分解およびインターカレーションを含む固相合成経路によって得ることができる。それらは、市販されている。それらは、例えば、中国のLinyi Gelon New Battery Materials Co.,Ltdから得られる。
【0097】
図2の例では、スパッタリングターゲット基材は、バッキング基材101および高融点Ni合金接合コート102から構成され得る。図2では、バッキング基材101は、バッキングチューブである。バッキングチューブ101は、比較的高い粗さ(これは、例えば、サンドブラスティングによって達成され得る)を有し得、接合コート102は、数百μmの厚さを有し得る。溶射プロセスは、少なくとも部分的に溶融したコバルト酸リチウム材料の液滴をスパッタリングターゲット基材上に加速して投射(この場合は溶射)し、衝撃で平坦化し、固化してコーティングを形成することである。原料の粉末粒子は、典型的には10~90ミクロンのサイズ範囲であり、自由に流動し、これにより、これらの粉末を、ガス、典型的にはアルゴンによって、装置への供給ホースおよびインジェクターを通して運びながら、スプレー装置に一貫して供給することができる。これらの例では、プラズマスプレーシステムを使用した。
【0098】
溶射すると、粒子は加速し、溶融する。溶射のため、得られたターゲットのトップコートの組成物は、44°±0,2° 2θにピークP2を有するX線回折パターンを有する。さらに、溶射の間に加熱により酸素が失われる可能性がある。この酸素が回復しない場合、これは、亜酸化コバルト酸リチウム組成物をもたらす。
【0099】
図7は、LiCo溶射サンプルの断面微細構造を示す。左の写真は顕微鏡画像を示し、指し示された目盛りは、500μmである。右下の写真は顕微鏡画像を示し、指し示された目盛りは、20μmである。それは、後に固化する溶融粉末の画像を示す。これは、材料が充填され、固体拡散によって共に焼結する焼結プロセス後に得られるターゲットとは異なる。この例では、ターゲットの密度は3.78g/cm、気孔率は10.7%、x値は1.96、Li含有量は7.7重量%、およびCo含有量は61.6重量%である。
【0100】
本発明の実施形態では、提供される粉末は、Li富化され得る。したがって、Li富化ターゲットを得られる。
【0101】
図8は、本発明の実施形態による、バッキング基材上に粉末を溶融形態で溶射することによってスパッタリングターゲットを製造するために使用される粉末のX線回折(XRD)グラフを示す。グラフのピークから、粒子が、菱面体晶R-3m(高温)LiCoO2を有すると結論付けることができる。CuKα1放射線で20°~90°の2θ範囲においてX線回折計を使用すると、菱面体晶R-3m相の最も重要なピークは、37.4°±0.3°、39.1°±0.3°、45.2°±0.3°、49.5°±0.3°、59.5°±0.3°、65.4°±0.3°、66.3°±0.3°、67.8°±0.3°である。
【0102】
図9は、図8にXRDグラフが示されている粉末を溶射することにより得られた、本発明の実施形態によるターゲットのXRDグラフを示す。グラフから、ターゲットには大量のFd-3m立方スピネル-(低温)LiCoOが含まれていることが分かり得る。Fd-3m立方晶スピネル相の最も重要なピークは、38°±0.2°にP1、44°±0.2°にP2、64°±0.2°、76.9°±0.2°、79.9°±0.2°にP3である。
【0103】
図10は、本発明の実施形態によるターゲットのXRDグラフを示す。ターゲットは、図9のターゲットとは別のターゲットである。どちらのグラフでも、P2ピークの強度が最も高くなっている。両方のグラフ間でピークの変動に気付くことができる。他のピークの組み合わせが可能である。ピークP2が存在することが重要である。本発明の特定の実施形態では、ピークP1、P2、およびP3が存在する。これは、立方晶スピネル相の存在を指し示す。
【0104】
本発明の実施形態によるターゲットは、10%超、さらには20%超、さらには50%超、さらには60%超のFd-3m立方晶スピネル相を有するトップコーティングを有し得る。これは、例えば、トップコーティングのXRDの回折ピークの相対面積から決定することができる。
【0105】
図11は、本発明の実施形態によるターゲットをスパッタリングするときのスパッタ電力の関数での動的堆積速度、および各電力レベル(左から右へ0.3Pa、0.8Pa、3Pa)での異なる圧力に対するものを示す。このグラフの場合、酸素の追加は、0%であった。このグラフから、本発明の実施形態によるターゲットを使用して高い堆積速度を得ることができるという利点があることが分かり得る。このグラフはまた、電力が2倍になると、スパッタ率も少なくとも2倍になることも図示している。このグラフはまた、単位電力あたりの最大堆積速度が最大電力で得られることも図示している。
【0106】
この例では、18kW/mの電力密度で、最大約4nm m/分/kW/mの単位電力密度あたりの堆積速度を得ることができる。それによって、最初のnmは厚さを指し、m/分は基材の移送速度を指し、kW/mはターゲット長さあたりの電力を指す。この図から分かり得るように、単位電力密度あたりの堆積速度は、電力密度の増加に伴ってさらに増加している。
【0107】
したがって、理論に束縛されるものではないが、その理由は、コバルト酸リチウムのX線回折パターンで44°±0,2° 2θにピークP2の存在下で見い出され得る。その結果として、ターゲットのトップコーティングの材料特性は、抵抗率が温度の上昇とともに減少するようである。これは、抵抗率が温度によって大幅に影響されない、少なくともスパッタリングで目立つ程度ではない従来技術のスパッタリングターゲットとは対照的である。
【0108】
図12は、酸素をスパッタリングプロセスに追加することにより、堆積速度が低下することを示す。印加されたスパッタ電力は、それぞれ5、12、および18kW/mであった。各電力レベルで、酸素の異なる分圧(左から右に0%、5%、10%、15%、20%、30%)の動的堆積率を示す。圧力は、0.8Paであった。堆積された膜において特定の化学量論を達成するために、酸素をスパッタリングプロセスに追加する。また、この例では、18kW/mの電力密度で、最大約4nm m/分/kW/mの単位電力密度あたりの堆積速度を得ることができる。
【0109】
本発明の実施形態によるスパッタリングターゲットの利点は、最大21kW/m、およびさらには最大30kW/m、およびさらには最大40kW/mの電力レベルを得ることができ、したがって、高い堆積速度も得ることができることである。これはまた、図11および図12にも示され、本発明の実施形態によるスパッタリングターゲットを使用して、高電力で有利な高い堆積速度を得ることができることを示す。この高電力は、接合がないため、このような溶射ターゲットによって達成できる。本発明の実施形態によるスパッタリングターゲットが、室温では導電性ではなくても、それらのトップコート組成物が、Fd-3m立方晶スピネル相を含むので、それらは、高電力で高い堆積速度の利点を有する。
【0110】
ターゲットがLiCoOから作製される場合、酸素がスパッタリングプロセス中に失われるため、それは、スパッタリングプロセス中に酸素を追加することを優先し得る。また、ターゲットが亜酸化物である場合、それは、スパッタリングプロセス中に酸素を追加することを優先し得る。
【0111】
スパッタリングプロセス中、厚いコバルト酸リチウムコートを実現するために、高電力が好ましい場合がある。最大10kW/m、またはさらには最大20kW/mの電力を印加し得る。多孔性コートを達成するために、最大1Paまたはさらには最大5Paの圧力を印加し得る。多孔性コートは、多孔度が高いほど、Liイオンを保存するための表面積が大きくなるため、有利である。
【0112】
本発明の実施形態によるターゲットは、LiCoO膜をスパッタリングするために使用され得る。例えば、3μmの厚さを得ることができる。スパッタリング中に酸素を追加して、LiCoO層を得ることができる。ターゲットは、リチウム含有量が高くてもよい(例えば、Li/(Li+Co)>11重量%)。ターゲットは、円筒形状(管状の回転ターゲット)を有し得る。スパッタリングプロセス中の圧力は、ほぼ1Paであってもよい。スパッタリングガスは、純粋なアルゴンであってもよい。堆積中は、追加の酸素ガスは、厳密には必要ない場合がある。それが、例えば500℃に数時間)堆積された後、ポストアニーリングステップを、膜に適用し得る。
【0113】
異なる相のうちの1つ以上の存在は、Raman分光計で測定できる。図13は、スパッタされたLiCoO膜のRamanスペクトルを示す。本発明の実施形態による管状スパッタリングターゲットから、スパッタリングガスとして純粋なアルゴンを使用して0.8Paの圧力でDCスパッタリングすることによって膜を得た。スパッタリング後、膜に500℃で10時間の後加熱ステップを適用する。それによって、レーザー光のRamanシフトは、相のうちの1つ以上の存在を指し示す。所望のR-3m LiCoO2相(高温相)の487および597cm-1で鋭いピーク。450cm-1で低温-LiCoO2(Fd3m)は、スパッタされたLiCoO膜では検出されない。
【0114】
基材、本発明の実施形態によるスパッタリングターゲットを使用してスパッタリングされたLiCoOカソード膜、LiPON電解質、および金属リチウムアノードを含む薄膜電池装置は、多数の充電/放電サイクルに対してほぼ1.7mA/時の容量をもたらした。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13