(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-06
(45)【発行日】2023-06-14
(54)【発明の名称】1-アシルオキシ-2-メチル-2-プロペンの製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 67/055 20060101AFI20230607BHJP
C07C 69/145 20060101ALI20230607BHJP
C07C 69/24 20060101ALI20230607BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20230607BHJP
【FI】
C07C67/055
C07C69/145
C07C69/24
C07B61/00 300
(21)【出願番号】P 2020532433
(86)(22)【出願日】2019-07-24
(86)【国際出願番号】 JP2019028951
(87)【国際公開番号】W WO2020022365
(87)【国際公開日】2020-01-30
【審査請求日】2022-04-20
(31)【優先権主張番号】P 2018141808
(32)【優先日】2018-07-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】源 直也
(72)【発明者】
【氏名】村田 裕輔
【審査官】高橋 直子
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-256459(JP,A)
【文献】特開昭53-090212(JP,A)
【文献】特開昭48-029712(JP,A)
【文献】特開昭57-131741(JP,A)
【文献】特開昭50-126612(JP,A)
【文献】特開昭52-027710(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 67/055
C07C 69/145
C07C 69/24
C07B 61/00
CAplus/REGISTRY(STN)
CASREACT(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒の存在下、下記一般式(I)で表されるカルボン酸、イソブチレンおよび酸素を、該イソブチレンの使用量が該カルボン酸1モルに対して1モル超50モル以下で、液相中で反応させる、下記一般式(II)で表される1-アシルオキシ-2-メチル-2-プロペンの製造方法
であって、
前記触媒が、パラジウムと周期表第8族から第11族までの遷移金属から選ばれる少なくとも1種とを含む触媒であり、
前記触媒の担体がシリカである、
1-アシルオキシ-2-メチル-2-プロペンの製造方法。
【化1】
(式中、Rは水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1~8のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数3~8のシクロアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数2~6のアルケニル基または置換基を有していてもよい炭素数6~14のアリール基を表す。)
【請求項2】
前記カルボン酸が酢酸であり、前記1-アシルオキシ-2-メチル-2-プロペンが2-メチル-2-プロペニルアセテートである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記触媒が、少なくとも1種の貴金属が担持された触媒である、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記触媒の使用量が、前記カルボン酸と前記イソブチレンとの合計質量に対して0.01~20質量%である、請求項1~
3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
前記液相中の反応における反応温度が、80~200℃である、請求項1~
4のいずれかに記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1-アシルオキシ-2-メチル-2-プロペンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
1-アシルオキシ-2-メチル-2-プロペンは、同一分子内に、ラジカル付加反応、ヒドロシリル化反応またはヒドロホルミル化反応などに適用可能な2,2-置換炭素-炭素不飽和結合、および鹸化反応やエステル交換反応などに適用可能なアシル基を持つことから、その反応性に起因して様々な化学品の製造原料として用いることができる(例えば、特許文献1)。
【0003】
従来から1-アシルオキシ-2-メチル-2-プロペンの製造方法はいくつか知られている。
例えば特許文献2には、塩化メタリルと酢酸ナトリウムを反応させることにより2-メチル-2-プロペニルアセテート(以下、「酢酸メタリル」ということもある。)を製造する方法が記載されている。
しかしながら、この製造方法では、通常廃棄物となる無機副生物が生成物に対し等モル以上発生する。従って、環境負荷低減の観点からは無機副生物を発生させない製造方法が望まれる。
【0004】
一方、無機副生物を発生させない製造方法として、固体触媒存在下、イソブチレン、カルボン酸および酸素を気相にて反応させ、1-アシルオキシ-2-メチル-2-プロペンを製造する方法が知られている。
例えば特許文献3には、イソブチレン、酢酸、および酸素を、気相中において特定の触媒の存在下で反応させることにより、酢酸メタリルを製造する方法が記載されている。この特許文献3には、固体触媒1Lに対し、酢酸を毎時870g、イソブチレンを毎時850NLおよび酸素を75NL(イソブチレン:酢酸:酸素=68:26:6{モル比})を5気圧で通じ、反応温度180℃で気相反応させることにより、酢酸メタリルを選択率96%で毎時270g得たことが記載されている。イソブチレンの転化率は6.2%である。
また特許文献4には、イソブチレン、酢酸および酸素を含む混合ガスをパラジウム触媒上に気相で通じて反応させることにより酢酸メタリルを製造する方法が記載されている。この特許文献4には、固体触媒10mLに対し、イソブチレン:酢酸:酸素:窒素=30:30:8:32の混合ガスを毎時10Lの速度で通じ、反応温度160℃で気相反応させることにより、酢酸メタリルを選択率88%で538mmoL/{L(触媒)・hr}の生産効率で得たことが記載されている。イソブチレンの転化率は4.7%である。
【0005】
また、固体触媒存在下、末端オレフィン化合物、カルボン酸および酸素を液相にて反応させ、不飽和エステルを製造する方法が知られている。
例えば、特許文献5では、固体触媒の存在下、イソブチレン、酢酸および酸素を反応させることにより酢酸メタリルを製造する方法が記載されている。この特許文献5には、固体触媒1.00g存在下、酢酸10.0g、イソブチレンを30%含む炭化水素混合物1.00g(イソブチレンと酢酸のモル比=1:31)および酸素ガスを、反応温度85℃で液相反応させることにより、イソブチレンの転化率が71%で、酢酸メタリルを選択率92%で製造できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2016-50241号公報
【文献】特開2005-320329号公報
【文献】特開昭47-10612号公報
【文献】特開昭57-131741号公報
【文献】特開昭53-127409号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献3および4記載の気相条件での反応では、無機副生物を発生させないが、安全上の観点からその酸素濃度を限界酸素濃度以下にしなければならず、低い基質転化率での運転が強いられ、基質の回収装置が必須となる。また原料の気化装置、触媒が充填された反応管、さらには原料を気化するための膨大なエネルギーも必要となり、生産効率、設備コスト、エネルギー消費のいずれの観点からも改善の余地が大きい。
【0008】
特許文献5記載の液相条件における1-アシルオキシ-2-メチル-2-プロペンの製造方法では、無機副生物を発生させないうえ、原料の気化装置や触媒が充填された反応管が不要となり、さらには原料を気化させる必要がないため、設備コスト、エネルギー消費のいずれの観点からも有利である。
【0009】
しかしながら、特許文献5に具体的に記載された上記結果は、基質としてイソブチレンと共に他の不飽和化合物を多量に含む炭化水素混合物を用いた場合のものであり、発明者らが基質としてイソブチレンを用いて特許文献5と同様に酢酸がイソブチレンに対し過剰量となる条件で反応を実施したところ、反応の進行とともに過剰反応が優先して進行し、酢酸メタリルの生産効率を高めることができないことが分かった。
【0010】
上記事情に鑑み、本発明の課題は、生成物に対し等モル以上の無機副生物を発生させず、かつ生産効率およびコストの改善された1-アシルオキシ-2-メチル-2-プロペンの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、本発明者らはイソブチレンの使用量が後述するカルボン酸(I)1モルに対して1モル超50モル以下である特定の液相条件において1-アシルオキシ-2-メチル-2-プロペンを製造することで上記課題を解決できることを見出し、当該知見に基づいてさらに検討を重ねて本発明を完成した。
【0012】
すなわち、本発明は下記のとおりである。
[1]触媒の存在下、下記一般式(I)で表されるカルボン酸、イソブチレンおよび酸素を、該イソブチレンの使用量が該カルボン酸1モルに対して1モル超50モル以下で、液相中で反応させる、下記一般式(II)で表される1-アシルオキシ-2-メチル-2-プロペンの製造方法。
【0013】
【0014】
(式中、Rは水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1~8のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数3~8のシクロアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数2~6のアルケニル基または置換基を有していてもよい炭素数6~14のアリール基を表す。)
[2]前記カルボン酸が酢酸であり、前記1-アシルオキシ-2-メチル-2-プロペンが2-メチル-2-プロペニルアセテートである、[1]に記載の製造方法。
[3]前記触媒が、少なくとも1種の貴金属が担持された触媒である、[1]または[2]に記載の製造方法。
[4]前記触媒が、パラジウムと周期表第8族から第11族までの遷移金属から選ばれる少なくとも1種とを含む触媒である、[1]~[3]のいずれかに記載の製造方法。
[5]前記触媒の使用量が、前記カルボン酸と前記イソブチレンとの合計質量に対して0.01~20質量%である、[1]~[4]のいずれかに記載の製造方法。
[6]前記液相中の反応における反応温度が、80~200℃である、[1]~[5]のいずれかに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、生成物に対し等モル以上の無機副生物を発生させず、かつ生産効率およびコストの改善された1-アシルオキシ-2-メチル-2-プロペンの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。
なお、本発明の発明特定事項の説明とともに、本発明の好ましい形態を示すが、本発明の個々の好ましい形態を2つ以上組み合わせたものもまた、本発明の好ましい形態である。また数値範囲で示した事項について、いくつかの数値範囲がある場合、それらの下限値と上限値とを選択的に組み合わせて好ましい形態とすることができる。
【0017】
前記一般式(II)で表される1-アシルオキシ-2-メチル-2-プロペン(以下、「1-アシルオキシ-2-メチル-2-プロペン(II)」と略記することがある。)を製造するための本発明の方法は、触媒の存在下、前記一般式(I)で表されるカルボン酸(以下、「カルボン酸(I)」と略記することがある。)、イソブチレンおよび酸素を液相中で反応させる。
この反応においては、形式的には、イソブチレンが酸化されてカルボン酸(I)と脱水縮合し、1-アシルオキシ-2-メチル-2-プロペン(II)とともに水を生成する。
本発明の好ましい実施形態における反応式を示すと、次のようになる。
【0018】
【0019】
上記式中のRは、前記一般式(I)および(II)中のRと同義である。
【0020】
また、本発明の望まない過剰反応を式に示すと、次のようになる。
すなわち、生成した1-アシルオキシ-2-メチル-2-プロペン(II)はさらに酸化されてカルボン酸(I)と脱水縮合し、1,3-ビスアシルオキシ-2-メチレンプロパンとともに水を生成する。
【0021】
【0022】
上記式中のRは、前記一般式(I)および(II)中のRと同義である。
【0023】
本発明の製造方法では、液相条件での反応を採用することにより、設備およびエネルギーの各コストを抑制できる。
また本発明者らの検討により、気相条件では、主な副生物であるビスアシルオキシ化エキソメチレン化合物が高沸点であるため触媒上に吸着し反応を阻害することが判明した。すなわち、気相条件では生産性を上げることが難しく、生産効率の観点からも液相条件が有利である。
【0024】
さらに、本発明者らの検討により、イソブチレンの使用量が後述するカルボン酸(I)1モルに対して1モル超50モル以下となる条件において、基質を高転化率まで反応させても上記過剰反応を抑制し1-アシルオキシ-2-メチル-2-プロペン(II)を高い生成効率で得ることができることが判明した。
【0025】
(原料および目的生成物)
原料のカルボン酸を表す前記一般式(I)および目的生成物の1-アシルオキシ-2-メチル-2-プロペンを表す前記一般式(II)において、Rは、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1~8のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数3~8のシクロアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数2~6のアルケニル基または置換基を有していてもよい炭素数6~14のアリール基を表す。
【0026】
Rが表す炭素数1~8のアルキル基は、直鎖状であっても分岐状であってもよく、例えばメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-オクチル基などが挙げられる。
前記Rが表す炭素数1~8のアルキル基は、1つ以上の水素原子が置換基で置換されていてもよい。当該置換基としては、例えば炭素数3~8のシクロアルキル基、炭素数6~14のアリール基、炭素数1~8のアルコキシ基、炭素数6~14のアリールオキシ基、シリル基などが挙げられる。前記Rが表す炭素数1~8のアルキル基が置換基を有する場合、置換基の数としては、1~3個が好ましい。また、前記Rが表す炭素数1~8のアルキル基が置換基を複数有する場合、置換基は同一でも異なっていてもよい。
【0027】
前記置換基である炭素数3~8のシクロアルキル基としては、例えば後述するRが表す炭素数3~8のシクロアルキル基の例示と同様のものが挙げられる。
前記置換基である炭素数6~14のアリール基としては、例えば後述するRが表す炭素数6~14のアリール基の例示と同様のものが挙げられる。
前記置換基である炭素数1~8のアルコキシ基としては、例えばメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、t-ブトキシ基、ペンチルオキシ基、シクロペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基、2-エチルヘキシルオキシ基、オクチルオキシ基などの直鎖状、分岐状又は環状のアルコキシ基が挙げられる。
前記置換基である炭素数6~14のアリールオキシ基としては、フェノキシ基、ナフトキシ基などが挙げられる。
前記置換基であるシリル基としては、例えばトリメチルシリル基、トリエチルシリル基、t-ブチルジメチルシリル基、t-ブチルジフェニルシリル基、トリフェニルシリル基などが挙げられる。
【0028】
Rが表す炭素数3~8のシクロアルキル基は、単環式、多環式、縮合環式のいずれであってもよく、例えばシクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などが挙げられる。
前記Rが表す炭素数3~8のシクロアルキル基は、1つ以上の水素原子が置換基で置換されていてもよい。当該置換基としては、例えば前記したRが表す炭素数1~8のアルキル基の例示と同様の炭素数1~8のアルキル基、前記したRが表す炭素数3~8のシクロアルキル基の例示と同様の炭素数3~8のシクロアルキル基、前記した置換基の例示と同様の炭素数6~14のアリール基、炭素数1~8のアルコキシ基、炭素数6~14のアリールオキシ基、およびシリル基などが挙げられる。前記Rが表す炭素数3~8のシクロアルキル基が置換基を有する場合、置換基の数としては、1~3個が好ましい。また、前記Rが表す炭素数3~8のシクロアルキル基が置換基を複数有する場合、置換基は同一でも異なっていてもよい。
【0029】
Rが表す炭素数2~6のアルケニル基としては、例えばエテニル基(ビニル基)、1-メチルエテニル基、1-プロペニル基、2-プロペニル基(アリル基)、1-メチル-1-プロペニル基、1-メチル-2-プロペニル基、1-ブテニル基、2-ブテニル基、3-ブテニル基などが挙げられる。
前記Rが表す炭素数2~6のアルケニル基は、1つ以上の水素原子が置換基で置換されていてもよい。当該置換基としては、例えばRが炭素数1~8のアルキル基を表す場合に有していてもよい置換基として上述したものと同様のものが挙げられる。前記Rが表す炭素数2~6のアルケニル基が置換基を有する場合、置換基の数としては、1~3個が好ましい。また、前記Rが表す炭素数2~6のアルケニル基が置換基を複数有する場合、置換基は同一でも異なっていてもよい。
【0030】
Rが表す炭素数6~14のアリール基は、単環式、多環式、縮合環式のいずれであってもよく、例えばフェニル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基などが挙げられる。
前記Rが表す炭素数6~14のアリール基は、1つ以上の水素原子が置換基で置換されていてもよい。当該置換基としては、例えばRが炭素数3~8のシクロアルキル基を表す場合に有していてもよい置換基として上述したものと同様のものが挙げられる。前記Rが表す炭素数6~14のアリール基が置換基を有する場合、置換基の数としては、1~3個が好ましい。また、前記Rが表す炭素数6~14のアリール基が置換基を複数有する場合、置換基は同一でも異なっていてもよい。
【0031】
入手容易性等の観点から、Rは炭素数1~8のアルキル基または炭素数2~6のアルケニル基であることが好ましく、メチル基、エチル基、n-プロピル基、2-プロピル基、n-ブチル基、2-ブチル、イソブチル基、エテニル基および1-メチルエテニル基からなる群から選択される1種であることがより好ましく、メチル基、2-プロピル基または1-メチルエテニル基であることがさらに好ましく、メチル基または2-プロピル基であることが最も好ましい。
すなわち、カルボン酸(I)は酢酸または2-メチルプロパン酸(イソ酪酸)であることが最も好ましく、1-アシルオキシ-2-メチル-2-プロペン(II)は2-メチル-2-プロペニルアセテート(酢酸メタリル)または2-メチル-2-プロペニルイソブチレート(イソ酪酸メタリル)であることが最も好ましい。中でも、カルボン酸(I)は酢酸であり、1-アシルオキシ-2-メチル-2-プロペンは2-メチル-2-プロペニルアセテート(酢酸メタリル)であることが好ましい。
【0032】
(触媒)
本発明の製造方法において用いる触媒は、カルボン酸(I)およびイソブチレンの反応を促進するものであればよく、担体に貴金属が担持された触媒が好ましい。触媒は市販されているものを用いてもよく、公知の方法で合成したものを用いてもよい。
【0033】
・担体
担体としては、例えば多孔質物質を用いることができる。当該担体としては、例えばシリカ、アルミナ、シリカ-アルミナ、珪藻土、モンモリロナイト、ゼオライト、チタニア、ジルコニア、活性炭等の無機系の担体;ポリスチレン、ポリエチレン、ポリアミド、セルロース等の高分子化合物などが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも無機系の担体が好ましく、シリカ、アルミナがより好ましく、シリカがさらに好ましい。なおシリカは、SiO2以外の不純物が含まれていてもよい。
【0034】
担体の形状に特に制限はなく反応形式に応じて適宜選択することができる。具体的な形状としては、例えば粉末状、球状、ペレット状などが挙げられ、球状が好ましい。担体が球状である場合、粒子直径に特に制限はないが、好ましくは1~10mmである。粒子直径が10mm以下であれば、触媒内部まで原料が充分に浸透しやすくなり、有効に反応が進みやすくなる。1mm以上であれば、担体としての作用を充分に発揮しやすくなる。
【0035】
・貴金属
貴金属としては、例えばパラジウム、金、銀、白金、ロジウム、ルテニウムなどが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。中でも、パラジウムが好ましい。前記パラジウムは金属パラジウムであってもよく、パラジウム化合物であってもよい。前記パラジウム化合物としては、特に制限はないが、例えば塩化パラジウム、酢酸パラジウム、硝酸パラジウム、硫酸パラジウム、塩化パラジウム酸ナトリウム、塩化パラジウム酸カリウム、塩化パラジウム酸バリウムなどが挙げられる。
【0036】
担体にパラジウムが担持された触媒を用いる場合、担体にはパラジウムの他に、鉄、ロジウム、銅、金等の周期表第8族から第11族までの遷移金属;亜鉛、インジウム、錫、ビスマス等の周期表第12族から第15族までの卑金属;ヒ素、テルル等の周期表第13族から第16族までの半金属などのパラジウム以外の元素がさらに担持されていてもよい。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、反応の転化率および選択率の観点から、周期表第8族から第11族までの遷移金属が好ましく、周期表第11族の遷移金属がより好ましく、金がさらに好ましい。なお、触媒調製時におけるこれらのパラジウム以外の元素の使用形態に特に制限はなく、例えば、硝酸塩、炭酸塩、硫酸塩、有機酸塩、ハロゲン化物などの化合物の形態が挙げられる。
【0037】
触媒として担体にパラジウムと周期表第8族から第11族までの遷移金属から選ばれる少なくとも1種とが担持されたものを用いる場合、触媒におけるパラジウムと周期表第8族から第11族までの遷移金属との比率は、パラジウム1質量部に対して周期表第8族から第11族までの遷移金属が0.001~10質量部であることが好ましく、0.05~5質量部であることがより好ましい。
【0038】
担体にパラジウムおよび周期表第8族から第11族までの遷移金属が担持された触媒の調製方法に特に制限はなく、例えば、以下の工程(1)~(4)を順次実施することにより得ることができる。
【0039】
工程(1)
パラジウム塩と周期表第8族から第11族までの遷移金属を含む化合物との水溶液に担体を含浸させて、触媒前駆体Aを得る工程
工程(2)
工程(1)で得られた触媒前駆体Aを乾燥させずにアルカリ金属塩の水溶液と接触させて、触媒前駆体Bを得る工程
工程(3)
工程(2)で得られた触媒前駆体Bをヒドラジン、ホルマリン等の還元剤と接触させ、触媒前駆体Cを得る工程
工程(4)
工程(3)で得られた触媒前駆体Cを水で洗浄および乾燥する工程
【0040】
上記の調製方法で得られた触媒としては、比表面積10~250m2/gであり、細孔容積0.1~1.5mL/gであるものが好適である。
【0041】
触媒における貴金属と担体との比率は、貴金属1質量部に対して担体が10~1000質量部であることが好ましく、30~500質量部であることがより好ましい。貴金属1質量部に対して担体が10質量部以上であることにより、貴金属の分散状態が向上して反応成績が向上する。また、貴金属1質量部に対して担体が1000質量部以下であることにより、工業的な実用性が向上する。
【0042】
本発明の製造方法における上記触媒の使用量に特に制限はないが、カルボン酸(I)とイソブチレンとの合計質量100質量%に対して、0.01~20質量%が好ましく、0.1~10質量%がより好ましく、1.0~10質量%がさらに好ましく、3.0~10質量%よりさらに好ましい。
【0043】
(酸素)
本発明の製造方法において用いる酸素としては、原子状および/または分子状酸素を用いることができ、好ましくは分子状酸素である。分子状酸素を用いる場合、窒素、アルゴン、ヘリウムおよび二酸化炭素等の不活性な気体との混合気体として用いるのが好ましい。この場合、酸素濃度は、反応系内で気体が爆発組成とならない範囲に調整して使用するのがより好ましい。
分子状酸素または分子状酸素を含む混合気体を反応系に供給する方法としては、反応系内の液相部に供給する方法、気相部に供給する方法、液相部と気相部の両方に供給する方法が挙げられる。
分子状酸素または分子状酸素を含む混合気体を反応系に供給する場合には、酸素分圧が好ましくは0.01~200気圧(ゲージ圧)、より好ましくは0.1~100気圧(ゲージ圧)の範囲内となるように供給すればよい。
【0044】
(触媒活性化剤)
本発明の製造方法においては、触媒活性化剤の存在下に反応を行ってもよい。当該触媒活性化剤は、予め触媒に担持させた状態で使用してもよく、反応混合物と共に反応装置に仕込んでもよい。触媒活性化剤としては、ナトリウム、カリウム、セシウム等のアルカリ金属の水酸化物、硝酸塩、カルボン酸塩または炭酸塩;マグネシウム、カルシウム、バリウム等のアルカリ土類金属の水酸化物、硝酸塩、カルボン酸塩または炭酸塩などが挙げられる。これらの触媒活性化剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、入手性や反応活性の観点から、カルボン酸(I)の塩が好ましく、カルボン酸(I)のアルカリ金属塩がより好ましく、酢酸カリウムがさらに好ましい。
前記触媒活性化剤の使用量に特に制限はないが、触媒の質量(触媒活性化剤が触媒に担持されている場合には当該触媒活性化剤を含めた質量)に対して1~20質量%が好ましく、3~15質量%がより好ましい。
【0045】
(溶媒)
本発明の製造方法における、触媒の存在下、カルボン酸(I)、イソブチレンおよび酸素の液相中での反応は、溶媒を用いてまたは無溶媒で実施することができる。
本発明の製造方法において必要に応じて用いる溶媒としては、例えばヘキサン、ヘプタン、メチルシクロヘキサン、ベンゼン等の炭化水素(脂肪族炭化水素や芳香族炭化水素等);ピリジン、キノリン等の複素環式化合物;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、メチルtert-ブチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル等のエーテル;アセトン、メチルエチルケトン、イソブチルメチルケトン等のケトン;カルボン酸エステル、炭酸ジエチル、炭酸プロピレン等のエステル;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド;アセトニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、フェノール等のアルコールなどが挙げられる。これらは、1種を単独で用いてよく、2種以上を併用してもよい。
上記反応に溶媒を用いる場合、溶媒の使用量は反応に悪影響を与えない範囲であれば特に制限はないが、カルボン酸(I)とイソブチレンとの合計質量に対して、通常は0.1~1000質量倍程度であり、生産性の観点から0.4~100質量倍が好ましい。
【0046】
(反応条件)
本発明の製造方法においては、前記イソブチレンの使用量が、カルボン酸(I)1モルに対して1モル超50モル以下である。前記イソブチレンの使用量(カルボン酸1モルに対する使用量)は、1.5モル以上であることが好ましく、2モル以上であることがより好ましく、5モル以上、8モル以上とすることもできる。また前記イソブチレンの使用量は、45モル以下であることが好ましく、40モル以下であることがより好ましく、35モル以下であることがさらに好ましい。前記使用量が1モル以下である場合は過剰反応が進行するため、1-アシルオキシ-2-メチル-2-プロペン(II)を生産効率よく得ることができない。前記使用量を1モル超とすることで、生産効率がより優れたものとなる。前記使用量が50モル超である場合、過剰なイソブチレンの回収工程が長くなり、経済的に好ましくない。
なお、カルボン酸(I)を複数回に分けて反応系内に投入した場合は、上記使用量は投入した合計使用量である。
【0047】
本発明の製造方法における反応温度、反応圧力および反応時間等の反応条件は、カルボン酸(I)、イソブチレンおよび必要に応じて使用される溶媒の種類や組み合わせ、触媒の組成等に応じて適宜設定すればよく、特に限定されない。
例えば反応温度は80~200℃の範囲内が好ましい。反応温度を80℃以上とすることで、反応速度が遅くなりすぎず、1-アシルオキシ-2-メチル-2-プロペン(II)を効率的に製造することができる。反応温度は90℃以上がより好ましく、120℃以上がさらに好ましい。一方、反応温度を200℃以下とすることで、燃焼を含めた副反応が起こりにくくなり、1-アシルオキシ-2-メチル-2-プロペン(II)を効率的に製造することができ、またカルボン酸による反応装置の腐食も抑制できる。反応温度は180℃以下がより好ましく、160℃以下がさらに好ましい。
また、反応時間は例えば0.5~12時間の範囲とすることができる。生産効率の観点から1時間以上であってもよく、また同観点から10時間以下、8時間以下であってもよい。
【0048】
本発明の製造方法における反応形態は、連続式、回分式のいずれであってもよく、特に限定されない。反応形態として例えば回分式を採用する場合には、触媒は反応装置に原料と共に一括して仕込めばよく、また、反応形態として例えば連続式を採用する場合には、触媒を反応装置に予め充填しておくか、あるいは、反応装置に原料と共に連続的に仕込めばよい。触媒は、固定床、流動床、懸濁床の何れの形態で使用してもよい。
【0049】
(精製)
本発明の製造方法において、上記反応の後、精製を行ってもよい。具体的には、上記反応により生成された1-アシルオキシ-2-メチル-2-プロペン(II)は、触媒を分離した後、反応溶液を精製することによって単離することができる。
触媒の分離の手段は特に限定されず、通常の固液分離手段により行うことができ、例えば、自然濾過、加圧濾過、減圧濾過、遠心濾過等の濾過法などを採用することができる。
反応溶液の精製の手段は特に限定されないが、蒸留法、抽出法またはカラムクロマトグラフィーなどを採用することができる。これらの方法は組み合わせて実施してもよい。中でも、蒸留法または抽出法が好ましい。
上記精製により分離された原料および溶媒は、再び反応に用いることができる。また、分離した触媒も、再び反応に用いることができる。
【0050】
以上のような実施形態例で示される本発明の製造方法では、目的生成物に対し等モル以上の無機副生成物が生成されず、目的生成物である1-アシルオキシ-2-メチル-2-プロペン(II)を、高転化率、高選択率および高収率で生成効率よく製造することができる。
【実施例】
【0051】
以下、本発明を実施例および比較例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0052】
〔分析条件〕
反応後の溶液(反応混合物)の分析は、ガスクロマトグラフ GC2014(島津製作所社製 FID検出器)、キャピラリーカラム(アジレントテクノロジー社製 DB-1、長さ30m、内径0.25mm、膜厚0.25μm)を用いて、下記条件にて行った。
カラム温度 :50℃(5分)→10℃/分→250℃(5分)
FID温度 :250℃
注入口温度 :250℃
キャリアガス :ヘリウム
メイクアップガス :ヘリウム
注入量 :0.2μL
カラムのガス流速 :0.38mL/分
スプリット比 :20
【0053】
〔製造例:触媒の調製〕
テトラクロロパラジウム酸ナトリウム4.00g(13.6mmol)およびテトラクロロ金酸四水和物3.90g(9.5mmol)を含む水溶液に、シリカ担体(5mmφ)250mLを浸し、全量吸水させた。続いて、メタケイ酸ナトリウム16g(131mmol)を含む水溶液200mLを加え、20時間静置させた。その後、ヒドラジン一水和物9.50g(190mmol)を添加し、パラジウム塩および金塩を金属に還元した。還元後の触媒を水洗した後、110℃で4時間乾燥して触媒を調製した。
【0054】
〔実施例1〕
ガス導入口およびサンプリング口を備えた内容積100mLの電磁撹拌式オートクレーブに、前記製造例で得られた触媒を1.3g、酢酸を2.4g(41mmol)およびイソブチレンを22.8g(406mmol)仕込み、酸素/窒素=8/92(モル比)の混合ガスをオートクレーブ内が20気圧(ゲージ圧)となるように液相部に供給した後、撹拌しながらオートクレーブ内の温度を140℃に上げた。その後、酸素/窒素=8/92(モル比)の混合ガスで90気圧(ゲージ圧)を保ちながら200mL/分の流速で混合ガスを流しつつ、5時間反応させ、反応溶液を得た。
得られた反応溶液を前述の方法により分析したところ、酢酸の転化率は98%、酢酸メタリルへの選択率は90%であった。また、得られた酢酸メタリルの収量は4.1g(36mmol)であり、酢酸メタリルの生成効率は0.64g(生成物)/{g(触媒)・hr}であった。
【0055】
〔実施例2〕
酢酸を0.84g(14mmol)およびイソブチレンを23.5g(419mmol)使用したこと以外は実施例1と同様の操作を行い、反応を行った。
得られた反応溶液を前述の方法により分析したところ、酢酸の転化率は98%、酢酸メタリルへの選択率は88%であった。酢酸メタリルの収量は1.4g(12mmol)であり、酢酸メタリルの生成効率は0.22g(生成物)/{g(触媒)・hr}であった。
【0056】
〔実施例3〕
触媒を2.6g、および酢酸の代わりにイソ酪酸を3.6g(41mmol)使用したこと以外は実施例1と同様の操作を行い、反応を行った。
得られた反応溶液を前述の方法により分析したところ、イソ酪酸の転化率は77%、イソ酪酸メタリルへの選択率は87%であった。イソ酪酸メタリルの収量は3.8g(27mmol)であり、イソ酪酸メタリルの生成効率は0.30g(生成物)/{g(触媒)・hr}であった。
【0057】
〔比較例1〕
酢酸を42.2g(703mmol)、およびイソブチレンを3.9g(70mmol)使用したこと以外は実施例1と同様の操作を行い、反応を行った。
反応5時間後ではイソブチレンの転化率は53%、酢酸メタリルへの選択率は74%であった。さらに反応を続け、23時間後にはイソブチレンの転化率は91%に向上したものの、酢酸メタリルから1,3-ジアセトキシ-2-メチレンプロパンへの過剰反応が進行し、酢酸メタリルへの選択率は45%に低下した。
反応5時間後の酢酸メタリルの収量は3.1g(27.4mmol)、酢酸メタリルの生成効率は0.49g(生成物)/{g(触媒)・hr}であり、反応23時間後の酢酸メタリルの収量は3.3g(28.8mmol)、酢酸メタリルの生成効率は0.11g(生成物)/{g(触媒)・hr}であった。
【0058】
〔比較例2〕
内径23mm、長さ20cmのステンレス製反応管に、前記製造例で得られた触媒を8.6g(約15mL)詰めた後、イソブチレン、酢酸、酸素、窒素および水を、イソブチレン:酢酸:酸素:窒素:水=30:7:8:53:2の体積比(気体換算)で70.5NL/hrの速度で流し、0.5MPaGの圧力下、160℃で反応させた。4時間後の反応管出口組成を分析したところ、酢酸メタリルの生成速度は0.16g(生成物)/{g(触媒)・hr}であり、反応管に導入した酢酸に対する酢酸メタリルの収率は5.5%であった。反応したイソブチレンに対して二酸化炭素が5.5%の選択率で発生した。
その後、160℃、大気圧下で窒素のみを70NL/hrの速度で1時間流したのち、室温まで冷やして反応管から触媒を取り出した。その触媒1gをメタノール10mLに浸漬させ、溶液部を分析したところ、1,3-ジアセトキシ-2-メチレンプロパンの存在を確認した。すなわち、1,3-ジアセトキシ-2-メチレンプロパンは反応条件で十分に気化できず、触媒に吸着されていることがわかった。
【0059】
上記した実施例1~3および比較例1、2の結果を下記の表1に示す。
【0060】
【0061】
なお、表1中の各表記は下記のとおりである。
※1:イソブチレン/カルボン酸(I)
※2:生成物における1-アシルオキシ-2-メチル-2-プロペン(II)への選択率
※3:1-アシルオキシ-2-メチル-2-プロペン(II)の生成効率[g(生成物)/{g(触媒)・hr}]
※4:カルボン酸(I)基準
※5:イソブチレン基準
【0062】
実施例1~3は優れた選択率を示しており、生成物に対して等モル以上の無機副生物が発生しなかったことがわかる。また、転化率、選択率および収率から、比較例に比べ実施例は生産効率に優れることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の製造方法により、生成物に対し等モル以上の無機副生物を発生させず、かつ高い生産効率およびコストパフォーマンスで1-アシルオキシ-2-メチル-2-プロペンを製造可能となる。得られる1-アシルオキシ-2-メチル-2-プロペンは、工業的に有用な種々の化合物の製造原料として用いることができる。