(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-06
(45)【発行日】2023-06-14
(54)【発明の名称】低温安定性に優れる低熱膨張合金およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20230607BHJP
C22C 38/10 20060101ALI20230607BHJP
B22F 3/105 20060101ALI20230607BHJP
B22F 3/16 20060101ALI20230607BHJP
【FI】
C22C38/00 302R
C22C38/10
B22F3/105
B22F3/16
(21)【出願番号】P 2021020642
(22)【出願日】2021-02-12
【審査請求日】2022-09-16
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000231855
【氏名又は名称】日本鋳造株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099944
【氏名又は名称】高山 宏志
(72)【発明者】
【氏名】蓮見 侑士
(72)【発明者】
【氏名】半田 卓雄
(72)【発明者】
【氏名】古野 好克
(72)【発明者】
【氏名】大山 伸幸
(72)【発明者】
【氏名】鷲尾 勝
(72)【発明者】
【氏名】西山 博輝
(72)【発明者】
【氏名】山崎 基晴
【審査官】櫻井 雄介
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/195405(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/044093(WO,A1)
【文献】特開2002-194440(JP,A)
【文献】特開平11-279707(JP,A)
【文献】特開平07-003401(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00-38/60
B22F 3/105
B22F 3/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、
C:0.01%以下、
Si:0.05%以下、
Mn:0.05%以下、
Ni:35.5~36.0%、
Co:1.0%未満を含有し、
かつNi+0.8Co:35.7~36.3%であり、
残部がFeおよび不可避的不純物からなり、デンドライト2次アーム間隔が5μm以下である凝固組織を有し、-190~200℃の平均熱膨張係数が0~1.0ppm/℃の範囲で、かつMs点が-196℃以下であることを特徴とする低熱膨張合金。
【請求項2】
C、Si、Mn
がこれらの質量%での含有量である場合に、C×7+Si×1.5+Mn≦0.15を満足することを特徴とする請求項1に記載の低熱膨張合金。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の組成を有する低熱膨張合金素材を、レーザーまたは電子ビームによって溶融
し、3000℃/sec.以上の冷却速度で凝固させて積層造形させ、-190~200℃の平均熱膨張係数が0~1.0ppm/℃の範囲で、かつMs点が-196℃以下の低熱膨張合金を製造することを特徴とする低熱膨張合金の製造方法。
【請求項4】
前記低熱膨張合金素材は、粉末であることを特徴とする請求項3に記載の低熱膨張合金の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低温安定性に優れる低熱膨張合金およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
低熱膨張合金材料は、各種先端分野の精密装置の温度変化に伴う熱変形を抑える目的で適用される。
【0003】
現在、低熱膨張材料として、スーパーインバー(SI)に代表されるFe-Ni-Co系低熱膨張合金が工業的に利用されている。SIは、室温付近の熱膨張係数は1~2ppm/℃であるFe-36%Ni合金(インバー)のNiの一部をCoに置き換えることで低膨張化させたもので、Fe-32%Ni-5%Co合金であり、室温付近の熱膨張係数は1ppm/℃以下になる。
【0004】
ところで、航空・宇宙機器や計測機器、クライオ装置等の部材には低温域で稼働するものがあり、液体窒素の温度-196℃以下の極低温で使用される場合もある。このため、このような低温域においても熱膨張係数の急激な変化がなく低熱膨張係数が得られる材料が望まれる。一方、精密装置の部材には、電子基板と接合するものがあり、はんだ付けにより200℃程度まで昇温される場合もある。このため、このような高い温度域においても熱膨張係数の急激な変化がなく低熱膨張係数が得られる材料が望まれる。すなわち、液体窒素温度付近の極低温域から200℃までの広い範囲で安定して1ppm/℃以下の低熱膨張を有する金属材料が求められる。
【0005】
しかし、上述したSIは、室温付近の熱膨張係数は1ppm/℃以下であるものの、NiをCoで置換することによりNi量が低下してオーステナイトが不安定化し、マルテンサイト生成開始温度(以下、Ms点と記す)が高温側に移動するため、低温での熱膨張安定性に問題がある。すなわち、SIのMs点は不純物量によって多少変化するが、概ね-40℃前後であるため、この温度以下ではマルテンサイト組織を生成して熱膨張係数が急激に増加し、低熱膨張性を失うため、低温域で稼働する航空・宇宙機器や計測機器等の部材への適用が制限される(特許文献1の段落0003、0034)。
【0006】
一方、インバーは、Ms点が液体窒素温度である-196℃以下であり、-196℃以下でも組織が変化せず、低温での熱膨張安定性(低温安定性)に優れているが、上述したように、室温付近の熱膨張係数が1~2ppm/℃でSIより大きく、熱変形抑制効果が不十分であり、超精密装置部材への適用が制限される(特許文献1の段落0024)。
【0007】
また、特許文献2では、特定組成の合金粉末にレーザーまたは電子ビームを照射して溶融・急速凝固および積層造形してデンドライト2次アーム間隔を5μm以下とすることにより、-70~100℃の平均熱膨張係数が0±0.2ppm/℃の低熱膨張係数およびSIでは得られなかった低温安定性の両立を図ることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2011-174854号公報
【文献】特許第6754027号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
以上のように、SIは-100℃のような低温においてはマルテンサイト組織を生成して熱膨張係数が急激に増加し低温安定性が不十分であり、インバーは低温安定性には優れているものの、熱膨張係数が1~2ppm/℃で、熱変形抑制効果が不十分である。さらに、特許文献2の低熱膨張合金は、低熱膨張性と低温安定性が高いレベルで両立できているものの、200℃という高温領域および液体窒素温度付近の低温領域での熱膨張係数については検討されていない。
【0010】
本発明は、液体窒素温度付近の極低温から200℃までの広い温度範囲で平均熱膨張係数が0~1.0ppm/℃の範囲であり、Ms点が-196℃以下の低温安定性が得られる低熱膨張合金およびその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述したように、Fe-Ni-Co系低熱膨張合金の熱膨張係数を決定する最大の要因はCoの含有量である。インバー組成より高Co、低Ni化すると低熱膨張性が向上するが、Co含有量が増加すると相対的にNi量が低下してオーステナイトが不安定化し、Ms点が上昇する。そこで、Coにより極力熱膨張係数を低下させつつ、Ms点が実用材料としての低温適用限界温度とされる-40℃前後となるように、Co含有量を約5%程度に制限したのが、Fe-32%Ni-5%Co組成のSIである。したがって、Co含有量を約5%程度含有させて低熱膨張化を図る限り、液体窒素温度付近までの極低温域で安定して熱膨張係数を0~1.0ppm/℃にすることは困難である。
【0012】
また、特許文献2では、Co含有量を2.0%未満とし、積層造形技術によりデンドライト2次アーム間隔を5μm以下の微細組織とすることにより、低熱膨張係数および低温安定性の両立を図っているが、200℃という高温領域および液体窒素温度付近の低温領域での熱膨張係数については検討されていない。
【0013】
そこで、本発明者らは、特許文献2に記載の、従来のFe-Ni-Co系低熱膨張合金に見られるCoによるMs点上昇を抑えながら、ミクロ組織を小さくしてデンドライト2次アーム間隔を5μm以下とする技術を基本として、液体窒素温度付近から200℃まで広い温度範囲で0~1.0ppm/℃の範囲の低熱膨張が得られる技術について検討した。その結果、特許文献2の組成範囲内であっても、200℃までの高温領域では急激に熱膨張係数が上昇し、0~1.0ppm/℃の範囲の低熱膨張が得られない組成が存在することが判明した。さらに検討した結果、NiおよびCoの含有量およびNi当量を特許文献2より狭い範囲に限定するとともに、C、Si、Mnをさらに低減することにより、液体窒素温度付近から200℃まで広い温度範囲で0~1.0ppm/℃の範囲の低熱膨張が得られることを見出した。
【0014】
本発明はこれらの知見に基づいて完成されたものであり、以下の(1)~(4)を提供する。
【0015】
(1)質量%で、
C:0.01%以下、
Si:0.05%以下、
Mn:0.05%以下、
Ni:35.5~36.0%、
Co:1.0%未満を含有し、
かつNi+0.8Co:35.7~36.3%であり、
残部がFeおよび不可避的不純物からなり、デンドライト2次アーム間隔が5μm以下である凝固組織を有し、-190~200℃の平均熱膨張係数が0~1.0ppm/℃の範囲で、かつMs点が-196℃以下であることを特徴とする低熱膨張合金。
【0016】
(2)C、Si、Mnがこれらの質量%での含有量である場合に、C×7+Si×1.5+Mn≦0.15を満足することを特徴とする上記(1)に記載の低熱膨張合金。
【0017】
(3)上記(1)または(2)に記載の組成を有する低熱膨張合金素材を、レーザーまたは電子ビームによって溶融し、3000℃/sec.以上の冷却速度で凝固させて積層造形させ、-190~200℃の平均熱膨張係数が0~1.0ppm/℃の範囲で、かつMs点が-196℃以下の低熱膨張合金を製造することを特徴とする低熱膨張合金の製造方法。
【0018】
(4)前記低熱膨張合金素材は、粉末であることを特徴とする上記(3)に記載の低熱膨張合金の製造方法。
【0019】
なお、本発明において、熱膨張係数の温度範囲の下限を-190℃としているのは、実施例の中で記載しているように、低温における熱膨張測定時において、試料の冷却を-196℃の液体窒素で行うため、試料の冷却限界温度は-190℃となるからである。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、液体窒素温度付近から200℃までの広い温度範囲で平均熱膨張係数が0~1.0ppm/℃の範囲であり、Ms点が-196℃以下の低温安定性が得られる低熱膨張合金およびその製造方法が提供される。本発明に係る低熱膨張合金は、従来の低膨張合金では適用が制限されていた、航空・宇宙分野やクライオ装置を始めとする低温域で稼働する各種精密装置部材への適用が可能となり、また、精密装置の部材に電子基板と接合する際のはんだ付けのような200℃程度まで昇温される場合にも熱膨張係数が急激に上昇することがなく、当該分野における高精度化に大きく貢献する。
【0021】
また、Fe-Ni-Co系低熱膨張合金であるSIでは、高価なCoを5%程度含有しているため、材料費が大きくなるとともに、安衛法特化則の1%超Co含有物質に該当し、所定の管理・対策が必要となる。これに対して、本発明に係る低熱膨張合金は、Coが1.0%未満と少なく、材料費を低減できるとともに、その適用に際してCo含有の表示のみを行えばよく、安衛法特化則の所定の管理・対策が不要となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の実施例に用いたアトマイズ装置を示す概念図である。
【
図2】
図1のアトマイズ装置により得られた球状粉末を示す光学顕微鏡写真である。
【
図4】本発明組成合金のレーザー積層造形物のDASを示すミクロ組織写真である。
【
図5】純銅型鋳造物のDASを示すミクロ組織写真である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の限定理由について、化学成分および製造条件に分けて説明する。
なお、以下の説明において、特に断わらない限り成分における%表示は質量%であり、熱膨張係数αは-190~200℃の平均熱膨張係数である。
る。
【0024】
[化学成分]
C:0.01%以下
Cは本発明に係る低熱膨張合金のαを著しく増加させる元素であり、低いことが望ましい。Cは0.01%を超えて含有すると、後述する他の元素の含有量によってαが0~1.0ppm/℃の範囲を超えるため、C含有量を0.01%以下とする。
【0025】
Si:0.05%以下
Siは合金中の酸素を低減する目的で添加する元素である。しかし、Siは本発明に係る低熱膨張合金のαを著しく増加させる元素であり、低いことが望ましい。その含有量が0.05%超ではCと同様にαの増加が無視できなくなる。したがって、Si含有量を0.05%以下とする。
【0026】
Mn:0.05%以下
MnはSiと同様に脱酸に有効な元素である。しかし、Mnは本発明に係る低熱膨張合金において、αを著しく増加させる元素であり、低いことが望ましい。その含有量が0.05%を超えるとCと同様にαの増加が無視できなくなる。したがって、Mn含有量を0.05%以下とする。
【0027】
Ni:35.5~36.0%
Niは合金の基本的なαを決定する元素である。αを0~1.0ppm/℃の範囲にするためには、Co量に応じて後述の範囲に調整する必要がある。Niが35.5%未満、36.0%超では、後述するCo量による調整および製造条件によってもαを0~1.0ppm/℃の範囲にすることは困難である。したがって、Niの含有量を35.5~36.0%の範囲とする。
【0028】
Co:1.0%未満
CoはNiとともにαを決定する重要な元素であり、Ni単独添加の場合より小さなαを得るために添加する元素である。しかし、Coが1.0%以上では後述のNi量とCo量の関係式に基づいて得られるNi量が減少し、オーステナイトが不安定化するため、Ms点が-196℃より高温になる。したがって、Coの含有量を1.0%未満とする。
【0029】
Ni+0.8Co:35.7~36.3%
Fe-Ni-Co合金は、前記のNi量、Co量の範囲でかつ、Ni+0.8×Coで表されるNi当量(Nieq.)が一定範囲において顕著な低熱膨張性が得られる。Ni当量は、35.7%未満でも、36.3%超でも、αが0~1.0ppm/℃の範囲に入らなくなる。したがって、Nieq.であるNi+0.8Coを35.7~36.3%の範囲とする。
【0030】
C×7+Si×1.5+Mn≦0.15
本発明のFe-Ni-Co合金において、C量、Si量およびMn量を上記範囲に規定した上で、C×7+Si×1.5+Mnで表される式の値を0.15以下とすることにより顕著な低熱膨張性が得られる。したがって、C×7+Si×1.5+Mn≦0.15とすることが好ましい。
【0031】
本発明において、C、Si、Mn、Ni、Co以外の残部は、Feおよび不可避的不純物である。
【0032】
[凝固組織]
凝固組織を微細化することによりαを小さくすることができる。その理由は、前述のように、組織の微細化によってNiのミクロ偏析が軽減するためであると考えられる。本発明に係る低熱膨張合金は、デンドライト2次アーム(DAS)間隔が5μm以下となるように凝固組織を微細化する。上記組成の合金においてDAS間隔を5μm以下とすることにより、αを0~1.0ppm/℃の範囲とすることができる。
【0033】
[Ms点]
本発明に係る低熱膨張合金は、1.0%未満のCoを含有するが、Ni含有量が35.5%以上で、かつ上述のような微細な凝固組織を有することから、Ms点がインバー合金と同様、-196℃以下となり、優れた低温安定性が得られる。
【0034】
[製造条件]
上記組成を有する低熱膨張合金素材を、レーザーまたは電子ビームによって、溶融・凝固させて積層造形させる。これにより低熱膨張合金素材が溶融された後、急冷され、DAS間隔を5μm以下の微細な組織とすることができる。これによりNiのミクロ偏析が軽減され、αを0~1.0ppm/℃の範囲とすることができる。
【0035】
具体的には、上記範囲内の組成を有する合金素材として合金粉末を準備し、レーザーまたは電子ビームによって、溶融・凝固させて積層造形させることによりDAS間隔を5μm以下の微細凝固組織の合金とすることができる。
【0036】
積層造形においては、合金の凝固時の冷却速度を3000℃/sec.以上とすることにより、DAS間隔が5μm以下の微細凝固組織を得ることができる。レーザーまたは電子ビームであれば、この冷却速度を満たす。
【0037】
一方、後掲の
図3に示すように、従来の鋳造プロセスの中では、最も冷却速度が大きいダイカストによってもDASを5μm以下とするには冷却速度が不十分であり、まして本発明の合金のような高融点の鉄系合金の鋳造が可能である銅合金型の場合には、後掲の
図3に示すように、DASを5μm以下にすることは到底できず、所期の特性を得ることは不可能である。
【0038】
なお、以上のような積層造形を用いた方法に限らず、DASが5μm以下の微細な凝固組織が得られる溶融・凝固条件を実現できればいずれの方法も適用可能である。
【実施例】
【0039】
以下、本発明の実施例について説明する。
表1に示す化学成分および組成の合金の積層造形、ならびに純銅型への鋳造によって試料を作製した。
【0040】
積層造形の試料は、表1に示す化学組成の合金を高周波誘導炉で溶解し、
図1に示すアトマイズ装置を用いて、溶融した金属を滴下し、ノズルから不活性ガス(本例では窒素ガス)を噴霧することで液滴に分断するとともに急速凝固させて球状粉末を得た。その後、ふるい分けして
図2に示す粒径10~45μmの造形用粉末を得た。レーザー式積層造形装置を用いて、出力300W、レーザー移動速度1000mm/秒、レーザー走査ピッチ0.1mm、粉末積層厚さ0.04mmの条件で造形用粉末を積層造形し、φ10×L100の試料を作製した。
【0041】
鋳造の試料は、高周波誘導炉で溶解した合金溶湯約100gを、鋳込み温度1550℃で
図6に示す純銅型に鋳造し、鋳型底の先端部から採取した。
【0042】
図3は、本発明試料の光学顕微鏡組織観察によって実測したDASと、以下の文献1に記載のDASと冷却速度の関係の外挿線から、試料の冷却速度を推定するもので、以下の文献2~4の情報から得られた各種鋳型の冷却速度も併記した。
R=(DAS/709)
1/-0.386 ・・・(1)
R:冷却速度(℃/min.)、DAS:デンドライト2次アーム間隔(μm)
文献1:「鋳鋼の生産技術」P378、素形材センタ―
文献2:「鋳物」、第63巻(1991)第11号、P915
文献3:「鋳造工学」、第68巻(1996)第12号、P1076
文献4:「素形材」、Vol.54(2013)No.1、P13
【0043】
試料は造形用ベースプレートから放電ワイヤーカットで切り離した後、φ6×50mmの熱膨張試験片に機械加工し、レーザー干渉式熱膨張計を用いてαを測定した。まず2℃/min.で昇温しながら-10~200℃の温度範囲の熱膨張を測定した後、引き続き液体窒素により3℃/min.で冷却しながら、液体窒素の冷却限界温度である-190℃まで熱膨張を測定した。比較例Bの試料の一部はその温度に到達する前にマルテンサイト変態により熱膨張曲線が急激に変化したため、そこで測定を中断した。上記測定により得られた熱膨張曲線から-190~200℃の平均熱膨張係数であるαを求めた。
【0044】
前記の測定で熱膨張曲線の急激な変化が認められなかった試料については、液体窒素に15分間浸漬した後、ミクロ組織を観察し、マルテンサイト組織の有無を確認した。
【0045】
表1の本発明例No.1~7は、化学成分および組成が本発明の範囲内であり、かつ粉末積層造形により製造されたものであり、いずれも、-190~200℃間の平均熱膨張係数であるαが0~1.0ppm/℃の範囲およびMs点が-196℃以下であった。
【0046】
図4は本発明例No.7の光学顕微鏡写真であるが、この光学顕微鏡写真からNo.7のDASを実測した結果、1.6μmであり、5μm以下であった。また、このDASの値から、冷却速度は1.5×10
5℃/sec.と推定した。
【0047】
以上の結果から、本発明合金は航空・宇宙やクライオ装置分野の厳しい要求にも応えられる特性を持っていることが確認された。
【0048】
一方、比較例AのNo.11~17は、それぞれ発明例のNo.1~7と化学成分および組成は同じであるが、純銅型に鋳造したものであり、DASが5μmを超えた本発明範囲外のものである。
図5は比較例AのNo.17の光学顕微鏡写真であるが、この写真からNo.17の純銅型に鋳造した場合のDASを実測した結果19μmであった。このため、No.11~17のいずれもαが0~1.0ppm/℃の範囲を外れた。
【0049】
また比較例BのNo.18~24は化学成分および組成が本発明範囲外のものであり、積層造形、および純銅型を用いた鋳造により試料を作製した。No.18はCが、No.19はSiが、No.20はMnが、No.22はNiが上限超であったため、製造方法によらず、いずれもαが0~1.0ppm/℃の範囲を外れた値となった。No.23はCoが上限超であったため、製造方法によらず、いずれもαが0~1.0ppm/℃の範囲を外れた値となった。No.21はNiが下限未満であったため、製造方法によらず、αが0~1.0ppm/℃の範囲を外れた値となった。No.24はNi当量が下限未満であったため、製造方法によらず、αが0~1.0ppm/℃の範囲を外れた値となった。比較例BのNo.25は従来合金のSIで、製造方法によらず、Ms点が-196℃より高温であった。
【0050】