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特許7291206センサシステム、及び、センサシステムの故障検知方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-06
(45)【発行日】2023-06-14
(54)【発明の名称】センサシステム、及び、センサシステムの故障検知方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/419 20060101AFI20230607BHJP
   G01N 27/26 20060101ALI20230607BHJP
   G01N 27/416 20060101ALI20230607BHJP
【FI】
G01N27/419 327Z
G01N27/26 391Z
G01N27/416 331
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021507873
(86)(22)【出願日】2020-10-08
(86)【国際出願番号】 JP2020038158
(87)【国際公開番号】W WO2021075351
(87)【国際公開日】2021-04-22
【審査請求日】2022-03-30
(31)【優先権主張番号】P 2019189002
(32)【優先日】2019-10-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】弁理士法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】樋口 雄三
(72)【発明者】
【氏名】大井 雄二
(72)【発明者】
【氏名】戸田 聡
(72)【発明者】
【氏名】阿部 悟
(72)【発明者】
【氏名】三ツ野 潤一郎
(72)【発明者】
【氏名】牧野 秀俊
【審査官】倉持 俊輔
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-012075(JP,A)
【文献】特開2019-074360(JP,A)
【文献】特開2000-266821(JP,A)
【文献】特開2015-121466(JP,A)
【文献】特開2020-085489(JP,A)
【文献】米国特許第10746118(US,B1)
【文献】特開昭64-019828(JP,A)
【文献】特開2004-320613(JP,A)
【文献】特開平11-103252(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0109999(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/00-27/49,
G01R 31/28-31/30,
H03M 1/00-1/88
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
センサ素子に向けて制御電流を出力する電流DAコンバータと、
上記制御電流の大きさに対応する制御電流指示値を生成し、上記電流DAコンバータに入力する制御部と、を備える
センサシステムであって、
上記制御部で生成する上記制御電流指示値に代えて、上記電流DAコンバータに入力する予め定めた検査電流指示値が順に並んだ、上記電流DAコンバータの故障検知が可能な検査指示値列を生成する指示値列生成部と、
上記検査指示値列をなす上記検査電流指示値が順次入力された上記電流DAコンバータから出力された検査電流の検査電流値を検知する検査電流検知部と、
上記検査電流検知部で検知した上記検査電流値を検知順に並べた検査電流値列から、上記電流DAコンバータの故障を検知する故障検知部と、を備え
前記検査指示値列は、
前記電流DAコンバータに入力し得る前記検査電流指示値の範囲内において、1LSBずつ順に変化させた上記検査電流指示値の列であり、
前記センサ素子のセンサ出力端子に生じるセンサ電圧を、順次、センサ電圧値に変換するADコンバータを備え、
前記制御部は、
上記センサ電圧値を用いたPID演算により、前記制御電流指示値を生成するPID演算部を有し、
前記指示値列生成部は、
上記制御部の上記PID演算部に、上記センサ電圧値に代えて、予め定めた入力定数値を入力させる入力部と、
上記PID演算部における上記PID演算のP項の係数Pc及びD項の係数Dcを0に定めると共に、I項の係数Icを上記PID演算部から1LSBずつ順に変化した前記検査電流指示値が出力される大きさに定める、検査時係数設定部と、を有す
センサシステム。
【請求項2】
請求項1に記載のセンサシステムであって、
前記制御電流が入力される前記センサ素子を備える
センサシステム。
【請求項3】
センサ素子に向けて制御電流を出力する電流DAコンバータと、
上記制御電流の大きさに対応する制御電流指示値を生成し、上記電流DAコンバータに入力する制御部と、を備える
センサシステムの故障検知方法であって、
予め定めた検査電流指示値が順に並んだ、上記電流DAコンバータの故障検知が可能な検査指示値列を生成し、
上記制御部で生成する上記制御電流指示値に代えて、上記検査指示値列をなす上記検査電流指示値を上記電流DAコンバータに順次入力し、
上記電流DAコンバータから出力された検査電流の検査電流値を検知し、
検知した上記検査電流値を検知順に並べた検査電流値列から、上記電流DAコンバータの故障を検知し、
生成する前記検査指示値列は、
前記電流DAコンバータに入力し得る前記検査電流指示値の範囲内において、1LSBずつ順に変化させた上記検査電流指示値の列であり、
上記センサシステムは、
前記センサ素子のセンサ出力端子に生じるセンサ電圧を、センサ電圧値に順次変換するADコンバータを備え、
前記制御部は、
上記センサ電圧値を用いたPID演算により、前記制御電流指示値を生成するPID演算部を有しており、
上記PID演算のP項の係数Pc及びD項の係数Dcを0と定めると共に、I項の係数Icを上記PID演算部から1LSBずつ順に変化した前記検査電流指示値が出力される大きさに定め、
上記制御部の上記PID演算部に、上記センサ電圧値に代えて、予め定めた入力定数値を入力し、上記PID演算部に前記検査指示値列を生成させ
センサシステムの故障検知方法。
【請求項4】
請求項3に記載のセンサシステムの故障検知方法であって、
上記センサシステムは、
前記制御電流が入力される前記センサ素子を備える
センサシステムの故障検知方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、センサ素子に向けて制御電流を出力する電流DAコンバータと、制御電流の大きさに対応する制御電流指示値を生成して電流DAコンバータに入力する制御部と、を備えるセンサシステム、及び、センサシステムの故障検知方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両等に搭載され、排気ガスの酸素濃度を検知して内燃機関の空燃比を検知する空燃比センサシステムや、排気ガス中のNOxガス濃度を検知するNOxセンサシステムなどが知られている。従来、車両等に搭載され、排気ガスの酸素濃度を検知して内燃機関の空燃比を検知する、酸素ポンプセル及び酸素濃度検知セルの2つのセルを有するガスセンサ素子を用いた空燃比センサシステムや、上記2つのセルにNOxガス濃度を検知するセルを加えた3つのセルを有するガスセンサ素子を用いたNOxセンサシステムなどが知られている。
【0003】
このようなセンサシステムの中には、処理容易化のため、従来アナログ回路を用いて行っていた制御をデジタル化し、制御部で制御電流指示値を生成し、電流DAコンバータで制御電流とし、センサ素子に入力するタイプのセンサシステムがある。例えばこのようなセンサシステムの例として、特許文献1に記載のガスセンサシステムなどが例示できる。なお、このようなセンサシステムにおいて、電流DAコンバータからセンサ素子に入力される制御電流の大きさを知りたい場合、実際に流れている制御電流を計測すること無く、デジタル値である制御電流指示値を、制御電流の大きさと見做して利用する。例えば、制御電流の大きさとこの制御電流指示値をECU等に送信する。電流DAコンバータ(以下、電流DACともいう)から出力される制御電流の大きさは、この電流DACに入力される制御電流指示値に対応しているからである。
【0004】
ここで、電流DACは、入力された所定ビット数(例えば14bit)の二進数の値(バイナリーコード:例:14bit符号あり整数)に対応した電流値を出力するタイプのDAコンバータである。また、電流DACの出力段は、当該電流DACのビット深度(ビット数)に対応した数の、ビットに応じて重み付けした電流源とスイッチ素子(FET,トランジスタなど)とが、並列接続されている。従って例えば、12ビット符号なし整数の電流DACでは、12ヶ(12組)のスイッチ素子が、14ビット符号付き整数の電流DACでは、26ヶ(プラス側13組とマイナス側13組)のスイッチ素子が、出力段に並列に設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-70882号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、この電流DACの出力段をなすスイッチ素子のいずれかが故障する場合があり得る。具体的には、各ビットに対応した出力段のスイッチ素子のうち、いずれかのスイッチ素子が、常時オンとなる不具合(以下、「オン故障」ともいう)、あるいは常時オフとなる不具合(以下、「オフ故障」ともいう)を生じることがある。この場合、故障したスイッチ素子に対応するビット(桁)に対応した大きさの分だけ、電流DACから出力される制御電流が異常な値となることがある。例えば4ビット符号なし整数の電流DACで説明する。
【0007】
例えば、(0000),(0010),(1110)の順に制御電流指示値が入力された場合、電流DACに故障のない場合、出力される制御電流の大きさは、「0,2,14」となる。しかし、例えば、下から3ビット目に対応するスイッチ素子が「オン故障」していた場合、電流DACは、あたかも(0100),(0110),(1110)の順に制御電流指示値が入力されたかのように振る舞う、即ち、「4,6,14」の制御電流の大きさとなる。なお、故障している下から3ビット目が「1」となるコード(例:上述の(1110))が入力された場合には、あたかも正しい制御電流が出力されているように見える。一方、「オフ故障」の場合には、上述と「オン故障」とは逆となり、あたかも(0000),(0010),(1010)の順に制御電流指示値が入力されたかのように振る舞う。即ち、「0,2,10」の電流の大きさとなる。
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載されたセンサシステムでは、電流DAコンバータの出力段をなすスイッチ素子のいずれかが故障(以下、オン故障、オフ故障を併せて「ビット故障」ともいう)した場合でも、これを検知することはできなかった。電流DACに入力され、ECUなどに送信される制御電流指示値は、正常な値だからである。
【0009】
本技術は、かかる問題点に鑑みてなされたものであって、センサ素子と、これに向けて制御電流を出力する電流DAコンバータと、制御電流指示値を生成して電流DAコンバータに入力する制御部と、を備え、電流DACの故障を検知できるセンサシステム、及び、センサシステムの故障検知方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
その一態様は、センサ素子に向けて制御電流を出力する電流DAコンバータと、上記制御電流の大きさに対応する制御電流指示値を生成し、上記電流DAコンバータに入力する制御部と、を備えるセンサシステムであって、上記制御部で生成する上記制御電流指示値に代えて、上記電流DAコンバータに入力する予め定めた検査電流指示値が順に並んだ、上記電流DAコンバータの故障検知が可能な検査指示値列を生成する指示値列生成部と、上記検査指示値列をなす上記検査電流指示値が順次入力された上記電流DAコンバータから出力された検査電流の検査電流値を検知する検査電流検知部と、上記検査電流検知部で検知した上記検査電流値を検知順に並べた検査電流値列から、上記電流DAコンバータの故障を検知する故障検知部と、を備え、前記検査指示値列は、前記電流DAコンバータに入力し得る前記検査電流指示値の範囲内において、1LSBずつ順に変化させた上記検査電流指示値の列であり、前記センサ素子のセンサ出力端子に生じるセンサ電圧を、順次、センサ電圧値に変換するADコンバータを備え、前記制御部は、上記センサ電圧値を用いたPID演算により、前記制御電流指示値を生成するPID演算部を有し、前記指示値列生成部は、上記制御部の上記PID演算部に、上記センサ電圧値に代えて、予め定めた入力定数値を入力させる入力部と、上記PID演算部における上記PID演算のP項の係数Pc及びD項の係数Dcを0に定めると共に、I項の係数Icを上記PID演算部から1LSBずつ順に変化した前記検査電流指示値が出力される大きさに定める、検査時係数設定部と、を有するセンサシステムである。
【0011】
また、他の態様は、センサ素子に向けて制御電流を出力する電流DAコンバータと、上記制御電流の大きさに対応する制御電流指示値を生成し、上記電流DAコンバータに入力する制御部と、を備えるセンサシステムの故障検知方法であって、予め定めた検査電流指示値が順に並んだ、上記電流DAコンバータの故障検知が可能な検査指示値列を生成し、上記制御部で生成する上記制御電流指示値に代えて、上記検査指示値列をなす上記検査電流指示値を上記電流DAコンバータに順次入力し、上記電流DAコンバータから出力された検査電流の検査電流値を検知し、検知した上記検査電流値を検知順に並べた検査電流値列から、上記電流DAコンバータの故障を検知し、生成する前記検査指示値列は、前記電流DAコンバータに入力し得る前記検査電流指示値の範囲内において、1LSBずつ順に変化させた上記検査電流指示値の列であり、上記センサシステムは、前記センサ素子のセンサ出力端子に生じるセンサ電圧を、センサ電圧値に順次変換するADコンバータを備え、前記制御部は、上記センサ電圧値を用いたPID演算により、前記制御電流指示値を生成するPID演算部を有しており、上記PID演算のP項の係数Pc及びD項の係数Dcを0と定めると共に、I項の係数Icを上記PID演算部から1LSBずつ順に変化した前記検査電流指示値が出力される大きさに定め、上記制御部の上記PID演算部に、上記センサ電圧値に代えて、予め定めた入力定数値を入力し、上記PID演算部に前記検査指示値列を生成させるセンサシステムの故障検知方法である。
【0012】
前述のセンサシステムでは、通常は制御電流指示値が入力される電流DACに、制御電流指示値に代えて、指示値列生成部で生成した、故障検知可能な検査電流指示値の列を入力し、これに応じた検査電流を出力させ、検査電流検知部で、この検査電流の値を実際に検知する。得られた検査電流値を検知順に並べた検査電流値列から、電流DACのビット故障の有無、故障ビットの特定など、電流DACの故障を検知することができる。そしてこれにより、故障のないセンサシステムを用いた適切な運用をすることができる。
【0013】
また前述のセンサシステムの故障検知方法では、電流DACに、故障検知可能な検査指示値列を入力し、出力された検査電流から実際に検査電流値を得て、これを検知順に並べた検査電流値列から、電流DACのビット故障を検知する。このため、センサシステムにおける電流DACのビット故障を確実に検知できる。
【0014】
ここで、故障検知部での故障の検知手法としては、実際に得られた検査電流値を並べた検査電流値列のうち、隣り合う検査電流値の変化量が、予測された変化量よりも大きいか否か、あるいは、小さいか否かで判断する手法が挙げられる。また、実際に得られた検査電流値を並べた検査電流値列と電流DACが正常な場合に予測される検査電流値を並べた予測の検査電流値列との比較により判断する手法などが挙げられる。
【0015】
さらに、検査電流検知部における、検査電流の検査電流値を検知するには、検査電流を流した電流変換抵抗に発生した電圧を、ADコンバータで読み取って検査電流値を得るとよい。なお、このADコンバータで検知する検査電流の分解能(1LSBの大きさ、ビット数)を、電流DACが出力する検査電流の分解能(1LSBの大きさ、ビット数)と同じあるいは小さく(ビット数を同じあるいは多く)すると良い。一方、ADコンバータの分解能(ビット数)を、電流DACの分解能(ビット数)よりも大きく(ビット数を少なく)した場合には、電流DACの出力段の各ビットのうち、一部のビット(例えば上位ビット)についてのみ故障検知が可能となる。なお、センサシステムには、ADコンバータからの制御電流が入力されるセンサ素子を備えるセンサシステムも、センサ素子を備えないセンサシステム(センサ素子はセンサシステム外)も含まれる。
【0018】
さらにこのセンサシステム、及びセンサシステムの故障検知方法では、電流DAコンバータの故障検知が可能な検査指示値列として、1LSBずつ順に変化させた検査電流指示値の列を用いる。例えば、12ビットの場合において(000000000000)から(111111111111)まで1LSBずつ増加させる、(000000000000),(000000000001),(000000000010),…,(111111111111)の検査指示値列が挙げられる。すると、電流DAコンバータから出力される検査電流の値も、電流DACに故障が無ければ、検査電流の範囲の上限値あるいは下限値に向かって徐々に単調に変化する。
【0019】
但し、もし電流DAコンバータの出力段のいずれかのビット(例えば、第3ビット)がオン故障していたならば、「オン故障」している当該ビット(例えば、第3ビット)のスイッチ素子は、オフとなっているべき場合も含めてオンし続けている。このため、故障しているビット(例えば第3ビット)のスイッチ素子に、本来オンされるべき検査電流指示値が入力された場合には、電流DACはあたかも正常な大きさの検査電流を流しているように見える。しかしその後、検査電流指示値が順に更新され、故障しているビット(例えば第3ビット)のスイッチ素子が本来オフにされるべき場合となっても、オンにされ続ける。この場合には、正常な大きさの検査電流よりも大きな検査電流が流されることとなる。さらにその後再び、故障しているビット(例えば第3ビット)のスイッチ素子が本来オンに切り替わるべき場合となると、再び正常な大きさの検査電流を流しているように見える。つまり、電流DACに故障が無い場合とは異なり、検査電流値は単調には変化せず、故障しているビットに対応する特定の検査電流指示値で、検査電流値が大きく変化する。「オフ故障」の場合も同様に考えることができ、スイッチ素子が本来オンにされるべき場合に、正常な大きさの検査電流よりも小さな検査電流が流される。このように、電流DACに前述の検査電流指示値の列を入力するので、検査電流検知部で得られた検査電流値の検査電流値列から、容易に電流DAコンバータの故障を検知することができる。さらに、電流DAコンバータの出力段のどのビットのスイッチ素子が故障しているかについても、容易に検知できる。
【0020】
なお、検査指示値列として採用する「1LSBずつ順に変化させた検査電流指示値の列」としては、例えば、0から上限値((000000000000)~(111111111111))まで、0から下限値((000000000000),(111111111111),(111111111110),~(100000000000):2の補数表示の場合)までなど、検査電流指示値が取り得る全範囲を含む検査電流指示値の列が例示される。そのほか、故障を検知したいビット(例えば第3ビット)の値が「0」となる検査電流指示値(例えば(000000000011))と「1」となる検査電流指示値(例えば(000000000100))を含み、1LSBずつ順に変化させた検査電流指示値の列(例えば、(000000000011),(000000000100)を含む列)も挙げられる。また、「1LSBずつ順に変化させた検査電流指示値の列」として、(000000000000),(000000000001),(000000000010),…,(111111111111)というように、クロック毎に1LSBずつ変化(上昇あるいは減少)させる検査指示値列を用いるほか、(000000000000),(000000000000),(000000000000),(000000000001),(000000000001),(000000000001),(000000000010),…というように複数クロック毎(上記では3クロック毎)に1LSBずつ変化(上昇あるいは減少)させる検査指示値列を用いても良い。また、電流DACとして、正電流も負電流も流しうる両極性の電流DACの場合には、例えば、12ビット符号付き整数を入力し、最上位ビット(MSB)を符号ビットとし、0から上限値及び0から下限値まで検査電流指示値を変化させる検査指示値列とすると良い。
【0023】
加えてこのセンサシステム、及びセンサシステムの故障検知方法では、制御部のPID演算部でセンサ電圧値を用いてPID演算をし、制御電流指示値を生成する。これに加え、PID演算部に予め定めた入力定数値を入力させると共に、係数Pc及び係数Dcを0に定める(Pc=Dc=0)と共に、係数IcをPID演算部から1LSBずつ順に変化した検査電流指示値が出力される大きさに定める。このため、各係数Pc等の変更と、センサ電圧値に代えた入力定数値の入力を行えば、PID演算部での演算とは別に、検査電流指示値を生成しなくても済み、容易に、1LSBずつ順に変化する検査電流指示値の検査指示値列を得ることができる。
【0024】
なお、センサ電圧値に代えて、入力定数値を入力させる入力部としては、PID演算部に、センサ電圧値が入力されないように、ADコンバータからのセンサ電圧値の信号を切り離す手法や、ADコンバータに入力されるセンサ電圧を強制的に0Vとし、センサ電圧値として「0」のセンサ電圧値が出力されるようにする手法が挙げられる。
【0025】
なお、前述のいずれか1項に記載のセンサシステムの故障検知方法であって、上記センサシステムは、前記制御電流が入力される前記センサ素子を備えるセンサシステムの故障検知方法とすると良い。
【0026】
このセンサシステムの故障検知方法では、センサシステムにセンサ素子を備えており、自身が備えるセンサ素子によって完結したセンシングを行うことができるセンサシステムにおいて、故障検知をも行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】実施形態及び変形形態1-3に係るガスセンサシステムを車両の内燃機関の制御に用いた場合の全体構成を示す説明図である。
図2】実施形態及び変形形態1,2に係るガスセンサシステムの概略構成を示す説明図である。
図3】実施形態及び変形形態1-3に係るガスセンサシステムのガス検知部のうち、センサ素子部の概略構成を示す説明図である。
図4】実施形態及び変形形態1-3に係り、電流DAコンバータの故障検知の処理の流れを示すフローチャートである。
図5】実施形態に係るガスセンサシステムにおいて、電流DAコンバータが正常な場合、及び、出力段のうち第11bitがオン故障及びオフ故障した場合の、指示したポンプ電流Ip及び検査電流Ichと、実際に得られるポンプ電流Ip及び検査電流Ichとの関係を示すグラフである。
図6】変形形態3に係るガスセンサシステムの概略構成を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
(実施形態)
以下、実施の形態を、図面を参照しつつ説明する。図1は、本実施形態に係るガスセンサシステム1を車両の内燃機関の制御に用いた場合の全体構成を示す図である。また、図2は、ガスセンサシステム1の概略構成を示す図である。このガスセンサシステム1は、車両(図示しない)のエンジンENGの排気管EPに装着されるガスセンサ2と、このガスセンサ2に図1において破線で示す通信線2B及び接続配線6を介して接続し、車両の電子制御を行うECU5とを備える。
【0029】
このうち、ガスセンサ2は、排気ガスEG(被測定ガス)中の特定ガス濃度として、酸素濃度(空燃比)をリニアに検知して、内燃機関における空燃比フィードバック制御に用いる空燃比センサ(全領域空燃比センサ)である。このガスセンサ2は、図2図3に示すように、排気管EPに装着され、酸素濃度を検知するガス検知部3、及び、ガス検知部3を制御する回路が設けられたセンサ制御回路部4とからなる。また、ガスセンサ2(センサ制御回路部4)は、通信線2Bを介して、ECU5との間で、酸素濃度(空燃比)などのデータの送受信が可能となっている。センサ制御回路部4は、ASIC(Application Specific IC)により構成されており、ガス検知部3に設けたセンサ素子部3Sを制御し、酸素濃度(空燃比)等を検知する制御部4C、電流DAコンバータ42、基準電位生成回路43、ADコンバータ44、微少電流供給回路45及び、ガス検知部3に設けたヒータ部30を制御するヒータ部制御回路49などを備えている。なお、ECU5は、接続バス5Bで車両のCANバスCBに接続されている。
【0030】
なお、本実施形態のガスセンサシステム1は、上述のように、ガス検知部3及びセンサ制御回路部4からなるガスセンサ2と、これに接続したECU5とから構成されたセンサシステムであると把握することができる。しかし、酸素濃度を検知するガス検知部3を独立した部材であると見れば、本実施形態のガスセンサシステム1は、このガス検知部3と、これに接続してガス検出部3を制御する検知部外制御システム1S(センサ制御回路部4及びECU5)とから構成されていると解することもできる。即ち、本実施形態は、ガス検知部3を内包するガスセンサシステム1の説明としても、ガス検知部3とこれは別体の検知部外制御システム1Sの説明としても理解することができる。
【0031】
まず、ガスセンサ2のうちガス検知部3について説明する。図3は、ガス検知部3の概略構成を示す説明図である。ガス検知部3は、酸素ポンプセル14と、多孔質層18と、酸素濃度検知セル24と、をこの順に積層した積層体からなるセンサ素子部3Sを有する。そして、このガス検知部3のうち、センサ素子部3Sの一方側(図3では下方)に、さらにヒータ部30が積層されている。
【0032】
酸素ポンプセル14は、酸素イオン伝導性を有する固体電解質体からなる電解質層14cを基体とし、その両面に一対の電極12,16が形成されている。同様に、酸素濃度検知セル24も、酸素イオン伝導性を有する固体電解質体からなる電解質層24cを基体とし、その両面に一対の電極22,28(多孔質電極)が形成されている。
【0033】
電解質層14cと電解質層24cとの間には、多孔質層18が挟まれている。多孔質層18の拡がり方向の内部(図3において左右方向の内側)には、この多孔質層18と電解質層14cと電解質層24cとによって囲まれ、多孔質層18を介して排気ガスEGを導入可能な中空の測定室20が形成されている。なお、多孔質層18は、測定室20内に排気ガスEGを流入させると共に、その流入速度を制限する。
【0034】
この測定室20内には、酸素ポンプセル14の第2ポンプ電極16及び、酸素濃度検知セル24の第2検知電極22が露出している。これらの電極16,22は、互いに電気的に導通されると共に、センサ素子部3SのCOM端子CTに接続している。また、酸素ポンプセル14の第1ポンプ電極12はIp+端子IPTに接続し、酸素濃度検知セル24の第1検知電極28はVs+端子VSTに接続している。
【0035】
また、酸素ポンプセル14の第1ポンプ電極12の全体は、第1ポンプ電極12の被毒を抑制する保護層15によって覆われている。保護層15は、多孔質のセラミック等によって形成されており、この保護層15を通じて、排気ガスEGは第1ポンプ電極12に到達し得る。
【0036】
ヒータ部30は、酸素濃度検知セル24の電解質層24cに積層されており、導体で形成されたヒータ抵抗37を、一対のアルミナシート33,35で挟んだ構成を有している。ヒータ抵抗37は、ヒータ端子H1,H2に接続している。このヒータ部30に通電して、センサ素子部3Sの温度を高めることによって、センサ素子部3Sの電解質層14c,24cを活性化させる。これにより、酸素イオンが電解質層14c,24c中を移動できるようになる。逆に、車両の始動時(コールドスタート時)など、センサ素子部3Sの温度が十分高くなるまでは、電解質層14c,24cが活性化しておらず、酸素イオンが電解質層14c,24c中を移動できない(ポンプ電流Ipが流れない高抵抗の)状態となっている。
【0037】
また、ヒータ部30のアルミナシート33は、酸素濃度検知セル24の第1検知電極28の全体を覆うことによって、第1検知電極28を封止している。このため、第1検知電極28(多孔質電極)の内部の空間(孔)は、基準酸素室26を構成しており、内部酸素基準源として機能する。
【0038】
次いで、図2を参照しつつ、ガスセンサ2のセンサ制御回路部4について説明する。センサ制御回路部4は、第1端子T1~第5端子T5を有しており、これらの端子T1等は、第1配線L1~第5配線L5を介して、ガス検知部3のセンサ素子部3Sの各端子Ip+等、及びヒータ部30のヒータ端子H1,H2に接続している。
【0039】
またセンサ制御回路部4は、制御部4Cのほか、第1端子T1に接続する電流DAコンバータ42、第2端子T2に接続する基準電位生成回路43、及び、第3端子T3に接続するADコンバータ44及び微少電流供給回路45を有している。このうち、電流DAコンバータ42は、制御部4Cのうち、後述するPID演算部4C2から入力された制御電流指示値Ipcmdに従った大きさのポンプ電流Ipを、第1端子T1を経由して、センサ素子部3Sの酸素ポンプセル14に流す。また、基準電位生成回路43は、オペアンプを利用したバッファ回路によって、基準電位Vref(本例では2.5V)を生成し、第2端子T2及びセンサ素子部3SのCOM端子CTを経由して、第2ポンプ電極16及び第2検知電極22に印加する。ADコンバータ44は、酸素濃度検知セル24の第2検知電極22と第1検知電極28との間に生じる検知セル電圧(センサ電圧)Vsを、VS+端子VST及び第3端子T3を介して検知し、これをAD変換して、検知セル電圧値Vsvとして制御部4Cに入力する。なお、第3端子T3には、酸素濃度検知セル24に一定の微少電流Icp(本例ではIcp=20μA)や、内部抵抗を検知するための電流を流すDAコンバータ(電流DAC)からなる微少電流供給回路45の出力も接続している。酸素濃度検知セル24へ流す微少電流Icpは、酸素濃度検知セル24に対して、測定室20内の酸素を第1検知電極28(多孔質電極)に汲み入れる作用をする。これにより、基準酸素室26は内部酸素基準源として機能する。
【0040】
制御部4Cは、酸素濃度検知セル24にこのような一定の微少電流Icpを流しつつ、酸素濃度検知セル24の両端に発生する検知セル電圧Vs(ADコンバータ44で検知する第3端子T3の電位V3と第2端子の電位V2の差)が所定の電圧になるように、酸素ポンプセル14に流すポンプ電流Ipの大きさを制御する。これにより、多孔質層18を通じて測定室20に導入された排気ガスEG中の酸素濃度が所定の濃度になるように、酸素ポンプセル14による酸素イオンの汲み入れまたは汲み出しが行われる。
【0041】
この制御に当たり、制御部4Cでは、デジタル方式によるPID制御を行う。このPID制御により制御される酸素ポンプセル14に流すポンプ電流Ipの電流値及び電流の方向は、多孔質層18を通じて測定室20内に導入される排気ガスEG中の酸素濃度(空燃比)に応じて変化する。このため、ポンプ電流Ipの大きさから排気ガスEG中の酸素濃度を検知することができる。また、センサ制御回路部4は、酸素濃度検知セル24に発生する検知セル電圧Vsが所定の電圧になるように、酸素ポンプセル14に流すポンプ電流IpをPID制御によるフィードバック制御することで、ガスセンサ2(センサ素子部3S)の駆動制御を行う。
【0042】
加えて、センサ制御回路部4は、ヒータ部制御回路49に接続する第4端子T4及び第5端子T5を備えており、これら第4端子T4及び第5端子T5は、第4配線L4及び第5配線L5を介して、センサ素子部3Sのヒータ部30のヒータ端子H1,H2に接続している。また、ヒータ部制御回路49は、制御部4Cに接続しており、制御部4Cの指示で、ヒータ部30への通電のオンオフがPWM制御される。なお、制御部4Cによる、ヒータ部30のPWM制御の詳細については、説明を省略する。
【0043】
また、センサ制御回路部4のうち、第2端子T2と第3端子T3との間には、第3スイッチSW3が接続されている。この第3スイッチSW3は、通常はオフ(開放)されているが、後述する電流DAC42の故障検査の時点では、オンにされてこれらの間を短絡し、ADコンバータ44に入力される検知セル電圧Vsを強制的にゼロとする。
【0044】
センサ制御回路部4におけるPID制御によるフィードバック制御の詳細について説明する。図3に示すように、センサ制御回路部4には、第2端子T2と第3端子T3を通じて、酸素濃度検知セル24の検知セル電圧Vsが入力され、これをADコンバータ44でデジタルの検知セル電圧値Vsvに順次変換する。制御部4Cに入力された検知セル電圧値Vsvは、差分部4C4において、目標Vs値入力部4C3で保持している目標Vs値OVsとの差分(ΔVs=OVs-Vsv:目標に対する偏差)が算出される。そして、この目標Vs値OVsと検知セル電圧値Vsvとの差分である差分値ΔVs(…,ΔVs(n-1),ΔVs(n),ΔVs(n+1),…。なお、nは自然数。)が、クロック毎に、順次、PID演算部4C2に入力される。
【0045】
PID演算部4C2は、P項を算出する比例演算部4C2P、I項を算出する積分演算部4C2I、及び、D項を算出する微分演算部4C2D、及び、これらの和を得る加算部4C2Aを有している。各演算部4C2P等には、演算に用いる比例係数Pc、積分係数Ic、及び微分係数Dcを保持する係数保持部4C2PC,4C2IC,4C2DCが有る。このうち、比例演算部4C2Pでは、差分値ΔVsに比例係数Pcを乗じた値が算出される。積分演算部4C2Iでは、差分値ΔVsに積分係数Icを乗じた値と、前回得たPID演算の値との和が算出される。また、微分演算部4C2Dでは、今回の差分値ΔVs(n)から前回得た差分値ΔVs(n-1)を引いた差に微分係数Dcを乗じた値が算出される。PID演算値J(n)は、これらP項、I項、D項の和であり、差分値ΔVs(n)等を用いて記載すると、下記式(1)である。
【0046】
J(n)=Pc・ΔVs(n)
+Ic・ΔVs(n)+J(n-1)
+Dc(ΔVs(n)-ΔVs(n-1)) …(1)
【0047】
制御部4Cは、このようにして得られた14ビット符号付き整数のPID演算値J(n)を、制御電流指示値Ipcmdとして、電流DAコンバータ42に入力する。電流DAコンバータ42では、制御電流指示値Ipcmdに応じた大きさで正または負のアナログのポンプ電流(制御電流)Ipを、酸素ポンプセル14に向けて出力する。かくして、センサ素子部3Sは、センサ制御回路部4の制御部4Cによって、PID制御によるフィードバック制御がなされる。
【0048】
なお、この制御電流指示値Ipcmdは、電流DAコンバータ42から出力されるポンプ電流(制御電流)Ipの大きさ、即ち、排気ガスEGの酸素濃度(空燃比)を示している。そこで、制御電流指示値Ipcmdは、別途、第6端子T6、通信線2B、及び第10端子T10を通じて、ECU5に送信される。
【0049】
次いで、電流DAコンバータ42が故障した場合の、ポンプ電流Ipの挙動について説明する。電流DAコンバータ42は、入力された所定ビット深度(所定ビット数、本実施形態では13bit)のバイナリーコード、具体的には、14bit符号付き整数で表される制御電流指示値Ipcmdに応じて、アナログの正負のポンプ電流Ipを出力する。この電流DAコンバータ42が故障する場合がある。その故障モードとして、各ビットに対応した出力段のスイッチ素子のうち、いずれかのスイッチ素子が、常時オンとなる「オン故障」、あるいは常時オフとなる「オフ故障」が生じることがある。すると、故障したスイッチ素子に対応したビット(桁)に対応した大きさだけ、ポンプ電流Ipの大きさが異常となる場合が生じる。図5は、指示したポンプ電流Ipと実際に得られるポンプ電流Ipとの関係を示すグラフであり、実線は電流DAコンバータが正常な場合を、破線は第11ビットのスイッチ素子が「オン故障」した場合を、一点鎖線は同じ第11ビットのスイッチ素子が「オフ故障」した場合を示す。なお、電流DAコンバータ42において、最上位ビット(MLB:第14ビット)は符号ビット、ビット深度は13ビットである。図5は、符号ビットは正の値を示しているものとし、13ビットのビット深度で示される整数(0~8191)の範囲を0~8000μAの範囲に対応させた場合について示している。
【0050】
この図5に示すグラフからも理解できるように、破線で示すオン故障の場合も、一点鎖線で示すオフ故障の場合も、ポンプ電流Ip(制御電流指示値Ipcmd)の大きさによっては、実際のポンプ電流Ipが正常時と同じ値になる場合と、実際のポンプ電流Ipが正常時のポンプ電流から大きく離れる場合とが交互に生じる。例えば、第11ビットのスイッチ素子が「オン故障」している場合において、制御電流指示値Ipcmdの第11ビットの符号が1である場合には、正常な場合と同じ大きさのポンプ電流Ipが流される。一方、制御電流指示値Ipcmdの第11ビットの符号が0である場合には、正常な場合よりも大きなポンプ電流Ipが流されるからである。
【0051】
そこで本実施形態では、電流DAコンバータ42の故障を検知するため、14ビットの制御電流指示値Ipcmdに代えて、電流DAコンバータ42に入力する検査電流指示値Chcmdを、以下のような値として、電流DAコンバータ42の故障を検知する。即ち、電流DAコンバータ42に入力しうる14ビットの検査電流指示値Chcmdの範囲内、具体的には、14ビットのバイナリーコード(00000000000000)~(11111111111111)の範囲のうち、正の電流値を示す範囲のゼロ(00000000000000)から上限値UL(01111111111111)まで、(00000000000000),(00000000000001),(00000000000010),…,(01111111111111)というように、1LSBずつ順に変化させた検査電流指示値Chcmdを電流DAコンバータ42に入力する。これにより、電流DAコンバータ42が故障していない場合には、この電流DAコンバータ42からは、0~上限値(例えば8000μA)まで、ランプ関数状に直線的に上昇する検査電流Ichが出力される。このように、電流DAC42に、検査電流指示値Chcmdを入力して検査電流Ichを出力させた場合でも、指示した検査電流Ichと実際に流れる検査電流Ichとの関係は、図5に示す関係となる。
【0052】
また、図示しないが、続いて、負の電流値を示す範囲のゼロ(00000000000000)から下限値LL(10000000000000)まで、1LSBずつ順に変化させた検査電流指示値Chcmdを電流DAコンバータ42に入力する。なお、電流DAコンバータ42に入力する14bitの指示値(符号)のうち、最上位ビット(第14ビット:MLB)が「0」の場合は正の電流値を示し、「1」の場合は負の電流値を示すものとし、負の値は2の補数表示を用いている。なお、検査電流指示値Chcmdをクロック毎に1LSBずつ順に変化(上昇あるいは減少)させると良いが、複数クロック毎に1LSBずつ検査電流指示値が変化(上昇あるいは減少)するようにしても良い。
【0053】
本実施形態のガスセンサシステム1では、前述のPID演算部4C2を利用して、上述の検査電流指示値Chcmdの列である検査指示値列RChcmdを生成する指示値列生成部47を備えている。この指示値列生成部47は、具体的には、センサ制御回路部4において、第2端子T2と第3端子T3との間を短絡する第3スイッチSW3、制御部4Cのうち、定数入力部4C5、PID演算部4C2、検査時係数設定部4C6などを含む。
【0054】
そして、電流DAコンバータ42の検査を行うべく、検査指示値列RChcmdを生成するに当たっては、第3スイッチSW3をオンとし、第2端子T2と第3端子T3との間を短絡し、ADコンバータ44に入力される検知セル電圧Vsを強制的にゼロとする。これにより、ADコンバータ44の出力である検知セル電圧値Vsvもゼロにされる。
【0055】
一方、定数入力部4C5の切替部4C5Kを切り換えて、目標Vs値入力部4C3に代えて、定数部4C5Cを差分部4C4に接続する。これにより、PID演算部4C2に、センサ電圧値Vsvに代えて、予め定めた入力定数値Nを入力させる。
【0056】
加えて、PID演算部4C2における各係数保持部4C2PC,4C2IC,4C2DCに保持している比例係数Pc、積分係数Ic、及び微分係数Dcを、検査時係数設定部4C6により変更する。具体的には、Pc=0、Dc=0に変更する。前述の式(1)を参照すれば容易に理解できるように、比例係数Pc=0及び微分係数Dc=0とすることにより、比例演算部4C2P及び微分演算部4C2DによるP項及びD項の出力が0となる。さらに、積分係数Ic=1に変更する。積分係数をIc=1に定めたことにより、PID演算部4C2からは、クロック毎に1LSBずつ順に変化した検査電流指示値Chcmdが出力される。かくして、制御部4CのPID演算部4C2から、制御電流指示値Ipcmdに代えて、電流DAコンバータ42に入力する予め定めた検査電流指示値Chcmdが順に並んだ、電流DAコンバータ42の故障検知が可能な検査指示値列RChcmdを生成することができる。前述したように、これにより、電流DAコンバータ42が故障していない場合には、この電流DAコンバータ42から、0~上限値(例えば8000μA)まで、ランプ関数状に直線的に上昇する検査電流Ichが出力される。
【0057】
また、Pc=0、Dc=0に変更するほか、Ic=-1に変更することにより、検査電流指示値Chcmdが順に並んだ、電流DAコンバータ42の故障検知が可能な検査指示値列RChcmdを生成する。これにより、電流DAコンバータ42が故障していない場合には、この電流DAコンバータ42から、0~下限値(例えば8000μA)まで、ランプ関数状に直線的に下降する検査電流Ichが出力される。なお、本実施形態では、Icの値を、Ic=1からIc=-1に符号変更した例を示したが、目標Vs値入力部4C3で保持している目標Vs値OVsの符号を変更しても良い。
【0058】
そして本実施形態のように、各係数Pc等の変更と、検知セル電圧値Vsvに代えた入力定数値Nの入力を行えば、PID演算部4C2での演算とは別に、検査電流指示値Chcmdを生成しなくても済み、容易に、1LSBずつ順に変化する検査電流指示値Chcmdの検査指示値列RChcmdを得ることができる。
【0059】
次いで、検査電流Ichの検知について、図2を参照して説明する。本実施形態では、電流DAコンバータ42の故障検知を、センサ素子部3S(酸素ポンプセル14)が低温で未だ活性化されておらず、高インピーダンスの状態、即ち、酸素ポンプセル14に向けては検査電流Ichが流れない状態(酸素ポンプセル14に向けて流れる検査電流Ichの大きさを無視できる状態)で行うこととする。また、検査電流Ichの大きさを検知する検査回路7を、センサ制御回路部4ではなくECU5に設ける。即ち、電流DAコンバータ42とECU5に設けた検査回路7とは、ガスセンサ2のセンサ制御回路部4の第7端子T7、接続配線6,ECU5の第8端子T8を経由して接続する。
【0060】
検査回路7は、抵抗R1及び第1スイッチSW1を介して接地電位GNDに接続する回路と、抵抗R2及び第2スイッチSW2を介して電源電位Vccに接続する回路とを含んでいる。そして、電流DAコンバータ42から正の検査電流Ichを出力する場合には、第2スイッチSW2をオフとする一方、第1スイッチSW1をオンとする。これにより、電流DAコンバータ42からの正の検査電流Ichを、抵抗R1及び第1スイッチSW1を介して接地電位GNDに流す。一方、電流DAコンバータ42から負の検査電流Ichを出力する場合、即ち、電流DAコンバータ42に検査電流Ichを吸い込む場合には、第1スイッチSW1をオフとする一方、第2スイッチSW2をオンとする。これにより、電源電位Vccから抵抗R2及び第2スイッチSW2を介して電流DAコンバータ42に負の検査電流Ichを流す。
【0061】
従って、検査ノード7nにおける検査電圧Vchの大きさは、検査電流Ichが正の電流である場合、Vch=R1・Ichとなる。また、検査電流Ichが負の電流である場合、Vch=Vcc-R2・Ichとなる。そこで、検査ノード7nに接続したADコンバータ71により、この検査電圧Vchの大きさを検知し、検査電流値Ichvを得る。
【0062】
さらに、故障検知部8において、検査電流値Ichvを検知順に並べた検査電流値列RIchvから、電流DAコンバータ42の故障を検知する。具体的には、検査電流値列RIchv、即ち、実際に電流DAコンバータ42から出力された検査電流Ichが、図5における実線で示すように、ランプ関数状に直線的に変化している場合には、電流DAコンバータ42にビット故障は生じていないと言える。
【0063】
一方、図5における破線あるいは一点鎖線で示すように、検査電流値列RIchvが、階段状に大きく変化している部分が有る場合には、電流DAC42にビット故障が生じていると言え、その変化の位置から、どのビット(桁)に対応するスイッチ素子がビット故障したのかが判る。
【0064】
かくして、電流DAC42のビット故障の有無、故障ビットの特定など電流DAC42の故障を検知することができ、これにより、故障のないガスセンサシステム1を用いた適切な運用をすることができる。また、電流DAC42に前述の検査指示値列RChcmdを入力するので、ADコンバータ71で得られた検査電流値Ichvの検査電流値列RIchvから、容易に電流DAC42の故障を検知することができる。さらに、電流DAC42の出力段のどのビットのスイッチ素子が故障しているかについても、容易に検知できる。
【0065】
このガスセンサシステム1では、前述したセンサ素子部3S(酸素ポンプセル14)が高インピーダンスである期間、具体的には、エンジンENGの始動後、ヒータ部30によってセンサ素子部3Sを加熱する前あるいは十分加熱される前に、電流DAコンバータ42の故障の有無を診断する。そして、正常(故障無し)の場合には、通常通り、ガスセンサシステム1により、排気ガスEGの酸素濃度(空燃比)の検知を行う。なお、エンジンENGの停止から所定時間経過後に、電流DAコンバータ42の故障の有無を診断するようにしても良い。
【0066】
図4は、ガスセンサシステム1における、電流DAコンバータ42の故障検知の処理の流れを示すフローチャートである。この図4に示すように、このガスセンサシステム1では、エンジンENGが始動する(ステップS1)と、ステップS2に進み、この始動がいわゆるコールドスタートであるか否かを判断する。一般に、エンジンENGの始動状態には、概ね2つのパターンがある。1つは、前回のエンジンの駆動停止から十分に時間が経過し、エンジンENGが(従って、ガスセンサ2のセンサ素子部3Sも)十分冷却された状態において、エンジンを始動する場合(いわゆるコールドスタート(冷間始動)の場合)である。もう1つは、ごく短期間の駐車など、前回のエンジンENGの停止から、十分な時間が経過しておらず、エンジンENGが(従って、ガスセンサ2のセンサ素子部3Sも)十分冷却されていない状態で始動する場合である。
【0067】
本実施形態では、前述のように、検査電流Ichが、第1端子T1を介して酸素ポンプセル14に流れ込まない、センサ素子部3S(酸素ポンプセル14)が高インピーダンスの状態において、検査回路7に検査電流Ichを流して、電流DAコンバータ42の故障を検知する。このため、ステップS2において、センサ素子部3S(酸素ポンプセル14)が十分冷却されて、高インピーダンスの状態であるか否かを判断する。センサ素子部3S(酸素ポンプセル14)が高インピーダンスの状態でない(ホットスタートの場合:Noの場合)には、電流DAC42の故障検知を行わないで、ガスセンサ2の通常の制御に戻る。一方、センサ素子部3S(酸素ポンプセル14)が高インピーダンスの状態である(Yes)の場合には、ステップS3に進む。
【0068】
センサ素子部3S(酸素ポンプセル14)が高インピーダンスの状態であるか否かの判断手法としては、例えば、前回のエンジンENGの停止から、所定の時間(例えば、30分)以上経過したか否かを判断する手法や、エンジンENGの冷却水の温度で判断する手法が挙げられる。また、微少電流供給回路45から微少電流Icpを試験的に流して、酸素濃度検知セル24のインピーダンスの大きさから、酸素ポンプセル14のインピーダンスを推定する手法や、ガス検知部3のヒータ抵抗37の抵抗値からセンサ素子部3S(酸素ポンプセル14)のインピーダンスを推定する手法も挙げられる。
【0069】
次に、ステップS3では、検査時係数設定部4C6により、制御部4CのPID演算部4C2のうち、P項,I項,D項の各係数Pc,Ic,Dcを保持する係数保持部4C2PC,4C2IC,4C2DCを所定の値(Pc=Dc=0,Ic=1)に置換する。
【0070】
続くステップS4では、PID演算部4C2に入力定数値Nを入力し、PID演算部4C2により、クロック毎に1LSBずつ順に変化する検査電流指示値Chcmdを生成し、この検査電流指示値Chcmdが並んだ検査指示値列RChcmdを生成する。このように、各係数Pc等の変更と、検知セル電圧値Vsvに代えた入力定数値Nの入力を行えば、PID演算部4C2での演算とは別に、検査電流指示値Chcmdを生成しなくても済み、容易に、1LSBずつ順に変化する検査電流指示値Chcmdの検査指示値列RChcmdを得ることができる。
【0071】
さらにステップS5では、生成した検査電流指示値Chcmdを順に、電流DAC42に入力し、検査回路7に電流DAC42から出力した検査電流Ichを流す。
【0072】
そしてステップS6では、ADコンバータ71で、検査電流値Ichvを検知順に並べた検査電流値列RIchvを取得する。続くステップS7では、取得した検査電流値列RIchvを用いて、電流DAC42のビット故障を検知する。ここで、故障を検知した場合(Yes)には、ステップS8に進み、運転者に向けて、電流DAC42のビット故障を示す警告(サービスマンコールなど)を表示し、ガスセンサ2の通常の制御に戻る。一方、故障を検知しなかった場合(No)にも、ガスセンサ2の通常の制御に戻る。
【0073】
かくして、電流DAC42のビット故障の有無、故障ビットの特定など電流DAC42の故障を検知することができ、これにより、故障のないガスセンサシステム1を用いた適切な運用をすることができる。また、電流DAC42に前述の検査指示値列RChcmdを入力するので、ADコンバータ71で得られた検査電流値Ichvの検査電流値列RIchvから、容易に電流DAC42の故障を検知することができる。さらに、電流DAC42の出力段のどのビットのスイッチ素子が故障しているかについても、容易に検知できる。
【0074】
(変形形態1)
上述の実施形態では、電流DAC42の検査にあたり、PID演算部4C2に入力定数値Nを入力するため、切替部4C5Kにより、差分部4C4への目標Vs値入力部4C3からの入力を、定数部4C5Cから入力定数値Nの入力に切り換えた。これに加え、ADコンバータ44の出力である検知セル電圧値Vsvもゼロとするため、第3スイッチSW3をオンとし、ADコンバータ44に入力される検知セル電圧Vsを強制的にゼロとした。これに対し、本変形形態1では、ADコンバータ44と差分部4C4との間に、図2において破線で示す第4スイッチSW4を設ける。そして、電流DAC42の検査の際には、この第4スイッチSW4をオフとして、差分部4C4に、ADコンバータ44からの出力(検知セル電圧値Vsv)が入力されないようにし、他は実施形態と同様にした。
【0075】
このようにした本変形形態1のガスセンサシステム1でも、PID演算部4C2で実施形態と同様の検査電流指示値Chcmdの列である検査指示値列RChcmdを得ることができる。
【0076】
(変形形態2)
また、実施形態及び変形形態1では、電流DAC42の故障検知を行うタイミングとして、センサ素子部3S(酸素ポンプセル14)が高インピーダンスの場合、具体的には、エンジンENGがコールドスタートの場合としていた。これに対し、本変形形態2では、電流DAC42と第1端子T1との間に、図2において破線で示す第5スイッチSW5を設ける。そして、電流DAC42の検査の際には、この第5スイッチSW5をオフとして、検査電流Ichを、検査回路7に流すようにし、他は実施形態あるいは変形形態1と同様にした。
【0077】
このようにすることで、センサ素子部3S(酸素ポンプセル14)が高インピーダンスであるか否かに拘わらず、電流DAC42の故障検知を行うことができる。具体的には、信号待ちや駐車のために停車して、エンジンENGがアイドリング状態である場合や、エンジンブレーキなどにより、エンジンに燃料が供給されないフューエルカット時などに、電流DAC42の故障検知を行うと良い。
【0078】
(変形形態3)
前述の実施形態及び変形形態1,2では、ガスセンサ2のセンサ制御回路部4とは別のECU5に、検査回路7及び故障検知部8を設けた(図2参照)。これに対し、本変形形態3のガスセンサシステム101では、図6に示すように、検査回路7及び故障検知部8をガスセンサ102のセンサ制御回路部104内に設けた点で、実施形態等と異なる。
【0079】
このように、検査回路7及び故障検知部8をセンサ制御回路部104に設けることで、実施形態のように、センサ制御回路部4とECU5との間に、図1に破線で示す通信線2B及び接続配線6を設け無くとも済む。即ち、ガスセンサ102(センサ制御回路部104)は、接続バス102Bを介してCANバスCBと接続していれば足り、ECU105は、接続バス105Bを介してCANバスCBと接続していれば足りるようにできる(図1参照)。
【0080】
なお、本変形形態3のガスセンサシステム101は、上述のように、ガス検知部3と、センサ制御回路部104とからなるガスセンサ102でもあると把握することができる。しかし、酸素濃度を検知するガス検知部3を独立した部材であると見れば、本変形形態3のガスセンサ102は、このガス検知部3と、これに接続してガス検出部3を制御する検知部外制御システム101S(センサ制御回路部104)とから構成されていると解することもできる。即ち、本変形形態3は、ガス検知部3を内包するガスセンサシステム101の説明としても、ガス検知部3とこれは別体の検知部外制御システム101Sの説明としても理解することができる。
【0081】
以上において、本技術を実施形態及び変形形態1-3に即して説明したが、本技術は上記実施形態等に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で、適宜変更して適用できることはいうまでもない。例えば、実施形態では、ガスセンサ2として、排気ガスEG中の酸素濃度(空燃比)を検知する空燃比センサ(全領域空燃比センサ)を用いた例を示したが、「ガスセンサ」としては、空燃比センサに限られず、特定ガス濃度として、窒素酸化物(NOx)の濃度を検知するNOxセンサなどであっても良い。さらに、ガスセンサに限らず、制御電流が入力されるセンサ素子、この制御電流を出力する電流DAコンバータ、及び、この電流DAコンバータに入力する制御部、を備えるセンサシステムに適用すると良い。
【符号の説明】
【0082】
1,101 ガスセンサシステム(センサシステム)
1S,101S 検知部外制御システム(センサシステム)
2 ,102 ガスセンサ
3 ガス検知部(センサ)
3S センサ素子部(センサ素子)
14 酸素ポンプセル
24 酸素濃度検知セル
Vs 検知セル電圧(センサ電圧)
Vsv 検知セル電圧値(センサ電圧値)
22 第2検知電極
4 ,104 センサ制御回路部(センサ素子)
4C 制御部
4C2 PID演算部
J(n),J(n-1) PID演算値
4C2P 比例演算部
4C2I 積分演算部
4C2D 微分演算部
4C2A 加算部
4C2PC,4C2IC,4C2DC 係数保持部
Pc 比例係数
Ic 積分係数
Dc 微分係数
4C3 目標Vs値入力部
OVs 目標Vs値
4C4 差分部
ΔVs,ΔVs(n),ΔVs(n-1) 差分値
4C5 定数入力部(入力部)
4C5C 定数部
N 入力定数値
4C5K 切替部
SW3 第3スイッチ(入力部)
4C6 検査時係数設定部
Ipcmd 制御電流指示値
Chcmd 検査電流指示値
UL (検査電流指示値の)上限値
LL (検査電流指示値の)下限値
RChcmd 検査指示値列
42 電流DAコンバータ
44 ADコンバータ
Ip ポンプ電流(制御電流)
Icp 微少電流
5 ,105 ECU
6 (センサ制御回路部とECUとの)接続配線
7 検査回路
7n 検査ノード
Ich 検査電流
Ichv 検査電流値
RIchv 検査電流値列
Vcc 電源電位
GND 接地電位
Vch 検査電圧
71 ADコンバータ(検査電流検知部)
8 故障検知部
図1
図2
図3
図4
図5
図6