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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-06
(45)【発行日】2023-06-14
(54)【発明の名称】スクロール式流体機械およびシール
(51)【国際特許分類】
   F04C 18/02 20060101AFI20230607BHJP
【FI】
F04C18/02 311Q
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2022004650
(22)【出願日】2022-01-14
(62)【分割の表示】P 2018543944の分割
【原出願日】2017-10-04
(65)【公開番号】P2022050629
(43)【公開日】2022-03-30
【審査請求日】2022-01-18
(31)【優先権主張番号】P 2016198286
(32)【優先日】2016-10-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503405689
【氏名又は名称】ナブテスコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100127465
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 幸裕
(72)【発明者】
【氏名】水船 徹
(72)【発明者】
【氏名】黒光 将
(72)【発明者】
【氏名】中川 裕
(72)【発明者】
【氏名】高橋 亮
(72)【発明者】
【氏名】高嶋 洋司
(72)【発明者】
【氏名】田中 源平
(72)【発明者】
【氏名】宮内 辰雄
【審査官】松浦 久夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-223163(JP,A)
【文献】特開2005-207364(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04C 18/02
F03C 2/02
F01C 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
相対移動可能であり、互いに対向している第1スクロール及び第2スクロールと、
前記第1スクロール及び前記第2スクロールとの間に位置して前記第1スクロール及び前記第2スクロールのそれぞれに接触する防塵シールと、を備え、
前記第1スクロール及び前記第2スクロールの一方に、環状の溝が形成され、
前記防塵シールは、前記環状の溝内を周回し、1周目の前記防塵シールと2周目の前記防塵シールとが径方向で接触するように配置され、
前記溝内における前記1周目の前記防塵シール及び前記2周目の前記防塵シールの両方が位置する領域の周方向の長さは、前記溝内における前記1周目の前記防塵シール及び前記2周目の前記防塵シールの一方のみが位置する領域の周方向の長さより長い、
スクロール式流体機械。
【請求項2】
相対移動可能であり、互いに対向している第1スクロール及び第2スクロールと、
前記第1スクロール及び前記第2スクロールとの間に位置して前記第1スクロール及び前記第2スクロールのそれぞれに接触する、第1防塵シール及び第2防塵シールと、を備え、
前記第1スクロール及び前記第2スクロールの一方に、環状の溝が形成され、
前記第1防塵シール及び前記第2防塵シールは、前記環状の溝内を周回し、互いに径方向で接触するように配置され、
前記溝内における前記第1防塵シール及び前記第2防塵シールの両方が位置する領域の周方向の長さは、前記溝内における前記第1防塵シール及び前記第2防塵シールの一方のみが位置する領域の周方向の長さより長い、
スクロール流体機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐久性に優れたスクロール式流体機械に関する。また、本発明は、シール部材およびシールに関する。
【背景技術】
【0002】
例えばJP7-208353Aに開示されているように、固定スクロールと固定スクロールに対して相対揺動する可動スクロールとを有したスクロール式流体機械が、知られている。このスクロール式流体機械では、固定スクロールと可動スクロールとの間に、作用室が画成されている。固定スクロール及び可動スクロールは、それぞれ、作用室に向けて突出する渦巻き状のラップを有している。また、作用室を外部に連通させる入口および出口が設けられている。可動スクロールが固定スクロールに対して可動すると、巻き状ラップによって画成される渦巻き状の流路に沿って流体が圧縮されていく。この結果、JP7-208353Aに示された例では、外周部に位置する入口から流体が吸引されるとともに、中心部に位置する出口から圧縮流体が排出される。
【0003】
JP7-208353Aに開示されたスクロール式流体機械では、運転中、作用室に負圧が生じる。そして、固定スクロールと可動スクロールとの間から作用室内に外部の空気が流入することを防止するため、スクロール式流体機械には防塵シールが設けられている。線状の防塵シールは、その両端部が径方向に重なり合うようにして配置され、作用室を取り囲む。このように配置された防塵シールは、固定スクロールと可動スクロールとの間を密閉する。
【発明の開示】
【0004】
しかしながら、粉塵等の多い過酷な環境下で従来のスクロール式流体機械を用いた場合、渦巻き状ラップの先端に設けられた先端シール材が、極端に低寿命化するといった不具合が生じた。この不具合の発生原因を調査したところ、従来のスクロール式流体機械では、防塵シール部材の両端部が径方向に重なり合って形成された合口部においてリークが発生し、粉塵等が作用室内に流入していると推定された。より具体的には、空気が、合口部において防塵シール部材の両端部の間を通過して作用室内に流入し、空気とともに作用室内に流入した粉塵が、先端チップを摩擦により劣化させていることが予想された。本発明は、このような本件発明者らの知見によるものであって、スクロール式流体機械内への外部流体の流入を効果的に防止することで、先端シール材の劣化を効果的に抑制することを目的とする。また、本発明は、外部流体の流入を効果的に防止し得るシールおよびシール部材の提供を目的とする。
【0005】
なお、JP7-208353Aでは、継ぎ目のない無端環状の防塵シール部材の採用を提案している。しかしながら、無給油型のスクロール式流体機械では、運転中に温度が上昇する。この結果、防塵シール部材が、固定スクロール及び可動スクロールの間で熱変形により蛇行やねじれを生じ、このような変形に起因したリークが生じてしまう。すなわち、従来のスクロール式流体機械では、十分に不具合に対処できていなかった。
【0006】
本発明によるスクロール式流体機械は、最も広い概念として、相対移動可能であり、互いに対向している第1スクロール及び第2スクロールと、前記第1スクロール及び前記第2スクロールの間にそれぞれに接触して配置された環状の防塵シール部材と、を備える。そして、このスクロール式流体機械が、次に説明する特徴の一以上を含むようにしてもよい。
【0007】
本発明による第1のスクロール式流体機械は、
相対移動可能であり、互いに対向している第1スクロール及び第2スクロールと、
前記第1スクロール及び前記第2スクロールの間にそれぞれに接触して配置され、切断部を有し且つ前記切断部を形成する二つの部分がその幅方向で重なっている環状の防塵シール部材と、を備え、
前記防塵シール部材の前記前記二つの部分が重なっている部分での幅は、前記防塵シール部材のその他の部分での幅以下であり、かつ、前記二つの部分が、前記幅方向に重なった状態で、相対移動可能である。
【0008】
本発明による第1のスクロール式流体機械において、
前記防塵シール部材は、前記二つの部分として、内側部分と、前記内側部分の前記幅方向における外側に位置する外側部分と、を含み、
前記内側部分は、その外側を向く外側側面が、前記防塵シール部材の前記内側部分に隣接する部分での前記外側側面に対して傾斜して、先細りし、
前記外側部分は、その内側を向く内側側面が、前記防塵シール部材の前記外側部分に隣接する部分での前記内側側面に対して傾斜して、先細りし、
前記内側部分の前記外側側面と前記外側部分の前記内側側面が接触するようにしてもよい。
【0009】
本発明による第1のスクロール式流体機械において、
前記二つの部分の一方は、前記環状の防塵シール部材がなす周方向に凹んだ凹部を有し、
前記二つの部分の他方は、前記周方向に突出し前記凹部内に挿入される凸部を有するようにしてもよい。
【0010】
本発明による第1のスクロール式流体機械において、
前記防塵シール部材は、前記二つの部分として、内側部分と、前記内側部分の前記幅方向における外側に位置する外側部分と、を含み、
前記内側部分は、前記防塵シール部材の前記内側部分に隣接する部分の幅よりも幅狭のベース部と、前記防塵シール部材の長手方向に沿って前記ベース部よりも先端側に位置し前記ベース部よりも幅広の拡幅部と、を有し、
前記外側部分は、前記防塵シール部材の前記外側部分に隣接する部分の幅よりも幅狭のベース部と、前記防塵シール部材の長手方向に沿って前記ベース部よりも先端側に位置し前記ベース部よりも幅広の拡幅部と、を有し、
前記内側部分の前記拡幅部は、前記外側部分の前記ベース部に幅方向に対面し、
前記外側部分の前記拡幅部は、前記内側部分の前記ベース部に幅方向に対面するようにしてもよい。
【0011】
本発明による第1のスクロール式流体機械が、前記二つの部分のうちの一方を他方に向けて押圧する押圧手段を、更に備えるようにしてもよい。
【0012】
本発明による第1のスクロール式流体機械において、前記押圧手段は、前記幅方向に沿って、前記一方を前記他方に向けて押圧するようにしてもよい。
【0013】
本発明による第1のスクロール式流体機械において、前記押圧手段は、弾性部材を含むようにしてもよい。
【0014】
本発明による第1のスクロール式流体機械において、前記押圧手段は、流体噴出機構を含むようにしてもよい。
【0015】
本発明による第1のスクロール式流体機械において、前記第1スクロール及び前記第2スクロールの一方に、周状の溝が形成され、前記防塵シール部材は、前記溝に配置され、前記流体噴出機構は、前記溝内に流体を噴出するようにしてもよい。
【0016】
本発明による第1のスクロール式流体機械において、
前記第1スクロール及び前記第2スクロールの一方に、周状の溝が形成され、前記防塵シール部材は、前記溝に配置され、
前記防塵シール部材は、前記二つの部分として、内側部分と、前記内側部分の前記幅方向における外側に位置する外側部分と、を含み、
前記防塵シール部材には、前記内側部分の内側を向く内側側面から内側に突出する内側延出片、及び、前記外側部分の外側を向く外側側面から外側に突出する外側延出片の少なくともいずれか一方が、設けられていてもよい。
【0017】
本発明による第1のスクロール式流体機械において、前記内側延出片は、内側に向けて先細りし、前記外側延出片は、外側に向けて先細りするようにしてもよい。
【0018】
本発明による第1のスクロール式流体機械において、
前記内側延出片は、前記防塵シール部材の長手方向に対向する先端側面および基端側面を含み、
前記第1スクロールと前記第2スクロールが対向する方向からの観察において、前記防塵シール部材の長手方向における先端側に位置する前記先端側面が前記長手方向に対してなす角度は、前記基端側面が前記長手方向に対してなす角度よりも小さく、
前記外側延出片は、前記防塵シール部材の長手方向に対向する先端側面および基端側面を含み、
前記第1スクロールと前記第2スクロールが対向する方向からの観察において、前記防塵シール部材の長手方向における先端側に位置する前記先端側面が前記長手方向に対してなす角度は、前記基端側面が前記長手方向に対してなす角度よりも小さくなっていてもよい。
【0019】
本発明による第1のスクロール式流体機械において、
前記第1スクロール及び前記第2スクロールの一方に、周状の溝が形成され、前記防塵シール部材は、前記溝内に配置され、
前記溝内における少なくとも前記防塵シール部材の前記二つの部分の間に、ペースト状材料が充填されていてもよい。
【0020】
本発明による第1のスクロール式流体機械が、前記防塵シール部材の内側又は外側に設けられた第2の防塵シール部材を、さらに備えるようにしてもよい。
【0021】
本発明による第2のスクロール式流体機械は、
相対移動可能であり、互いに対向している第1スクロール及び第2スクロールと、
前記第1スクロール及び前記第2スクロールの一方上に配置された無担環状で金属製の第1シール部と、
前記第1シール部上に設けられ前記第1スクロール及び前記第2スクロールの他方に接触する無担環状で樹脂製又はゴム製の第2シール部と、を備える。
【0022】
本発明による第2のスクロール式流体機械において、前記第1スクロール及び前記第2スクロールの一方に、周状の溝が形成され、前記第1シール部及び第2シール部は、同一の前記溝内に、前記第1スクロールと前記第2スクロールが対向する方向に重ねて配置されていてもよい。
【0023】
本発明による第2のスクロール式流体機械において、前記第2シール部は、前記第1シール部上に形成されたフッ素系樹脂層であるようにしてもよい。
【0024】
本発明による第2のスクロール式流体機械において、前記第1スクロールと前記第2スクロールが対向する方向における前記第1シール部の幅は、前記第2シール部の幅よりも広くなっていてもよい。
【0025】
本発明による第2のスクロール式流体機械において、前記第1シール部及び前記第2シール部が接触する面は、前記第1スクロールと前記第2スクロールが対向する方向における幅方向に対して傾斜していてもよい。
【0026】
本発明による第3のスクロール式流体機械は、
相対移動可能であり、互いに対向している第1スクロール及び第2スクロールと、
前記第1スクロール及び前記第2スクロールとの間にそれぞれに接触するように、その幅方向で接触した状態で1か所以上で重なっている環状の防塵シールと、を備え、
前記防塵シールの最も幅が狭い部分の長さは、前記防塵シールのその他の部分よりも短い。
【0027】
本発明による第3のスクロール式流体機械において、
前記最も幅が狭い部分には、単一の防塵シール部材が設けられており、
前記最も幅が狭い部分は、前記防塵シールの周方向に離間して二以上設けられていてもよい。
【0028】
本発明による第3のスクロール式流体機械において、前記最も幅が狭い部分の一つが、前記防塵シールの周方向に沿って最も離間した二つの位置の一方を含む領域に設けられ、前記最も幅が狭い部分の他の一つが、前記二つの位置の他方を含む領域に設けられていてもよい。
【0029】
本発明による第4のスクロール式流体機械は、
相対移動可能であり、互いに対向している第1スクロール及び第2スクロールと、
前記第1スクロール及び前記第2スクロールとの間にそれぞれに接触して配置された環状の防塵シールと、を備え、
前記環状の防塵シールは、その二以上の部分が幅方向に重なるようにして配置された領域を含んでおり、
前記防塵シールの前記二以上の部分が重なっている領域の長さは、その他の領域の長さよりも長い。
【0030】
本発明による第4のスクロール式流体機械において、前記二以上の部分が重なっている領域は、前記防塵シールの長手方向に離間して二以上設けられていてもよい。
【0031】
本発明による第4のスクロール式流体機械において、前記二以上の部分が重なっている領域の一つが、前記防塵シールの周方向に沿って最も離間した二つの位置の一方を含む領域に設けられ、前記二以上の部分が重なっている領域の他の一つが、前記二つの位置の他方を含む領域に設けられていてもよい。
【0032】
本発明による第5のスクロール式流体機械は、
相対移動可能であり、互いに対向している第1スクロール及び第2スクロールと、
前記第1スクロール及び前記第2スクロールの間にそれぞれに接触して配置され、切断部を有し且つ前記切断部を形成する二つの部分がその幅方向で重なっている環状の防塵シール部材と、
前記二つの部分の一方を他方に向けて押圧する押圧手段と、を備える。
【0033】
本発明による第6のスクロール式流体機械は、
相対移動可能であり、互いに対向している第1スクロール及び第2スクロールと、
前記第1スクロール及び前記第2スクロールの間にそれぞれに接触して配置され、切断部を有し且つ前記切断部を形成する二つの部分がその幅方向で重なっている環状の防塵シール部材と、を備え、
前記第1スクロール及び前記第2スクロールの一方に、周状の溝が形成され、前記防塵シール部材は、前記溝に配置され、
前記溝内における少なくとも前記防塵シール部材の前記二つの部分の間に、ペースト状材料が充填されている。
【0034】
本発明による第7のスクロール式流体機械は、
相対移動可能であり、互いに対向している第1スクロール及び第2スクロールと、
前記第1スクロール及び前記第2スクロールの間にそれぞれに接触して配置され、切断部を有し且つ前記切断部を形成する二つの部分がその幅方向で重なっている環状の防塵シール部材と、を備え、
前記第1スクロール及び前記第2スクロールの一方に、周状の溝が形成され、前記防塵シール部材は、前記溝に配置され、
前記防塵シール部材は、前記二つの部分として、内側部分と、前記内側部分の前記幅方向における外側に位置する外側部分と、を含み、
前記防塵シール部材には、前記内側部分の内側を向く内側側面から内側に突出する内側延出片、及び、前記外側部分の外側を向く外側側面から外側に突出する外側延出片の少なくともいずれか一方が、設けられている。
【0035】
本発明による第1のシール部材は、
相対移動可能であり互いに対向している第1部品及び第2部品の間にそれぞれに接触して配置されるようになる環状のシール部材であって、
切断部を有し且つ前記切断部を形成する二つの部分がその幅方向で接触して重なり、
前記防塵シール部材の前記切断部での幅は、前記防塵シール部材のその他の部分での幅以下であり、かつ、前記切断部を形成する前記二つの部分が重なった状態で相対移動可能である。
【0036】
本発明による第2のシール部材は、
相対移動可能であり互いに対向している第1部品及び第2部品の間にそれぞれに接触して配置されるようになる環状のシール部材であって、
無担環状で金属製の環状本体部を備える。
【0037】
本発明による第1のシールは、
相対移動可能であり互いに対向している第1部品及び第2部品のうちの一方に形成された周状の溝に配置され、他方に接触して配置されるようになる環状のシール部材であって、
内側部分と、
前記内側部分に幅方向における外側から重なって前記内側部分との間に切断部を形成する外側部分と、
前記内側部分の内側を向く内側部分から内側に突出する内側延出片、及び、前記外側部分の外側を向く外側側面から外側に突出する外側延出片の少なくともいずれか一方と、を備える。
【0038】
本発明による第2のシールは、
相対移動可能であり互いに対向している第1部品及び第2部品の間に配置されるようになる環状のシールであって、
前記第1部品及び前記第2部品の一方上に配置されるようになる無担環状で金属製の第1シール部と、
前記第1シール部上に設けられ前記第1部品及び前記第2部品の他方に接触するようになる無担環状で樹脂製又はゴム製の第2シール部と、を備える。
【0039】
本発明による第3のシールは、
相対移動可能であり互いに対向している第1部品及び第2部品の間にそれ
前記シールは、その幅方向に接触した状態で1か所以上で重なっており、
前シールの最も幅が狭い部分の長さは、前記シールのその他の部分よりも短い。
【0040】
本発明による第4のシールは、
相対移動可能であり互いに対向している第1部品及び第2部品の間にそれぞれに接触して配置されるようになる環状のシールであって、
その二以上の部分が幅方向に重なるようにして配置された領域を含み、
前記二以上の部分が重なっている領域の長さは、その他の領域の長さよりも長い。
【0041】
本発明によれば、スクロール式流体機械の内部への外部流体の流入を効果的に防止することがきる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
図1図1は、本発明の一実施の形態を説明するための図であって、スクロール式流体機械を示す縦断面図である。
図2図2は、図1に示されたスクロール式流体機械に含まれる固定スクロール、防塵シール部材、付勢手段を示す分解斜視図である。
図3図3は、図1の部分拡大図である。
図4図4は、防塵シール構造の第1の例を説明するための図であって、防塵シール部材の端部近傍を示す平面図である。
図5図5は、防塵シール構造の第2の例を説明するための図であって、防塵シール部材の端部近傍を示す平面図である。
図6図6は、防塵シール構造の第3の例を説明するための図であって、防塵シール部材の端部近傍を示す平面図である。
図7図7は、防塵シール構造の第4の例を説明するための図であって、防塵シール部材の端部近傍を示す平面図である。
図8図8は、図7のVIII-VIII線に沿った断面図である。
図9図9は、図8に対応する断面図であって、第4の例の変形例を説明するための図である。
図10図10は、防塵シール構造の第5の例を説明するための図であって、防塵シール部材の端部近傍を示す平面図である。
図11図11は、図10の拡大図である。
図12図12は、防塵シール構造の第6の例を説明するための図であって、防塵シール部材の端部近傍を示す平面図である。
図13図13は、防塵シール構造の第7の例を説明するための図であって、防塵シール部材を示す平面図である。
図14図14は、図13のXIV-XIV線に沿った断面図である。
図15図15は、防塵シール構造の第8の例を説明するための図であって、防塵シール部材を示す平面図である。
図16図16は、図15のXVI-XVI線に沿った断面図である。
図17図17は、図16と同様の断面にて、第8の例の一変形例を説明するための図である。
図18図18は、図16と同様の断面にて、第8の例の他の変形例を説明するための図である。
図19図19は、防塵シール構造の第9の例を説明するための図であって、防塵シール部材を示す平面図である。
図20図20は、図19のXX-XX線に沿った断面図である。
図21図21は、防塵シール構造の第10の例を説明するための図であって、防塵シール部材を示す平面図である。
図22図22は、防塵シール構造の第10の例の変形例を説明するための図であって、防塵シール部材を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下、図面を参照して本発明の一実施の形態について説明する。なお、本件明細書に添付する図面においては、図示と理解のしやすさの便宜上、適宜縮尺および縦横の寸法比等を、実物のそれらから変更し誇張してある。
【0044】
図1乃至図22は本発明による一実施の形態を説明するための図である。このうち図1図3は、スクロール式流体機械の全体的な構成を説明するための図である。図4図22、防塵シール構造のいくつかの例を説明するための図である。
【0045】
図1に示すように、スクロール式流体機械10は、ケース15、第1スクロール20、第2スクロール30及び駆動機構40を主たる構成として含んでいる。図示された例において、第1スクロールは、固定スクロール20として構成され、締結具13を介してケース15と固定されている。第2スクロールは、可動スクロール30として構成され、ケース15及び固定スクロール20によって形成された空間内に配置されている。ただし、この例に限られず、第1スクロールが可動スクロール30として構成され、第2スクロールが固定スクロール20として構成されていてもよい。
【0046】
可動スクロール30は、駆動機構40によって画成される軸方向adに、固定スクロール20と対向している。固定スクロール20及び可動スクロール30の間には、作用室11が形成される。このスクロール式流体機械10では、可動スクロール30が固定スクロール20に対して相対移動することで、作用室11内の流体に作用を及ぼすことができる。固定スクロール20及び可動スクロール30の間には、固定スクロール20及び可動スクロール30の間を密閉して作用室11を外部から区画するため、シール(シール部品)Sが配置されてシール構造が設けられている。
【0047】
以下に説明する一実施の形態では、シール構造におけるリークを効果的に防止するための工夫、言い換えるとシール構造の密閉性を改善するための工夫がなされている。このスクロール式流体機械10によれば、流体だけでなく、流体とともに粉塵が作用室11内に流入することを効果的に防止することができる。これにより、作用室11内の構成の劣化を効果的に抑制することができ、粉塵等の多い劣悪な環境下での使用においても、スクロール式流体機械10の点検整備の頻度を低減し、さらには、スクロール式流体機械10の長寿命化を実現することが可能となる。とりわけこのような作用効果は、長期間に亘って分解整備を実施しないことを想定している無給油型のスクロール式流体機械にとって、とりわけ有用である。
【0048】
なお、以下に説明するシール(シール部品)Sを具備したシール構造は、スクロール式流体機械に限られることなく、相対移動可能であり互いに対向している第1部品及び第2部品を含む種々の機器または装置に対して好適である。例えば、第1部品及び第2部品の相対移動は、種々の動作とすることができ、一例として、旋回動作であってもよいし、並進動作であってもよいし、往復動であってもよい。また、シールSを具備したシール構造は、防塵用途だけでなく、油や水に対する防液用途とすることもできる。
【0049】
まず、防塵シール構造以外のスクロール式流体機械10の全体構成について説明し、その後、シールSを具備したシール構造のいくつかの例について説明する。
【0050】
図1及び図2に示すように、固定スクロール20は、略円板状の外形を有するベース板部21を有している。ベース板部21の周縁には、環状壁部22が設けられている。環状壁部22は、スクロール式流体機械10の軸方向adにおいて、可動スクロール30の側へ向けてベース板部21から延び出している。固定スクロール20の環状壁部22は、締結具13を用いて、ケース15に固定されている。図2に示すように、この環状壁部22には、周状(とりわけ円周状)の溝25が形成されている。溝25には、後述する付勢手段48およびシール部材50が配置される。
【0051】
図1及び図2に示すように、ベース板部21の環状壁部22で囲まれた領域に、固定ラップ23が設けられている。固定ラップ23は、スクロール式流体機械10の軸方向adからの観察において、渦巻き状の経路に沿って立設された壁部である。固定ラップ23は、スクロール式流体機械10の軸方向adにおいて、可動スクロール30の側へ向けてベース板部21から延び出している。固定ラップ23の先端には、先端シール材23aが設けられている。先端シール材23aは、可動スクロール30に接触する。先端シール材23aは、固定ラップ23と可動スクロール30との間を密閉する。
【0052】
図1に示すように、ベース板部21には貫通孔が設けられている。貫通孔は、作用室11を外部に連通させる入口11a及び出口11bを形成している。図示された例において、入口11aが、固定ラップ23の渦巻き状経路に沿った外周部に形成され、出口11bが、固定ラップ23の渦巻き状経路に沿った中心部に形成されている。さらに、図1に示すように、ベース板部21の固定ラップ23が設けられている側とは反対側に、放熱フィン24が設けられている。
【0053】
可動スクロール30は、固定スクロール20のベース板部21に対面して配置されたベース板部31を有している。ベース板部31の固定スクロール20に対面する側に、可動ラップ33が形成されている。可動ラップ33は、スクロール式流体機械10の軸方向adからの観察において、渦巻き状の経路に沿って立設された壁部であり、固定ラップ23と相補的な構成を有している。可動ラップ33は、スクロール式流体機械10の軸方向adにおいて、固定スクロール20の側へ向けてベース板部31から延び出している。可動ラップ33の先端には、先端シール材33aが設けられている。先端シール材33aは、固定スクロール20に接触する。先端シール材33aは、可動ラップ33と固定スクロール20との間を密閉する。図1に示すように、ベース板部31の可動ラップ33が設けられている側とは反対側に、放熱フィン34及び連結ボス35が設けられている。
【0054】
駆動機構40は、可動スクロール30を固定スクロール20に対して相対動作させる機構である。本実施の形態において、駆動機構40は、スクロール式流体機械10の軸方向adに直交する面内において、可動スクロール30を固定スクロール20に対して相対揺動させる。可動スクロール30は、駆動機構40に駆動されて、固定スクロール20に対して並進移動、とりわけ円周経路にそって並進移動する。
【0055】
駆動機構40は、回転力を出力する電動機41と、電動機41から出力された回転動作を円周軌道に沿った並進運動に変換するための変換機構と、を有している。変換機構は、種々の公知の構成、例えば上述した特許文献(JP7-208353A)に開示された構成等を採用することができる。図1に示された例において、変換機構42は、電動機41に回転駆動されるクランク軸43と、可動スクロール30の連結ボス35内に固定された軸受44と、を有している。クランク軸43は、電動機41の回転軸線ra上に配置され電動機41によって回転駆動される第1軸部43aと、回転軸線raから偏心した偏心軸線eaを画成する第2軸部43bと、を有している。第2軸部43bは、軸受44に保持されている。第1軸部43aが回転駆動されると、第2軸部43bは、回転軸線raを中心とする円周軌道上を移動する、円周軌道の半径は、回転軸線raから偏心軸線eaまでの偏心量に一致する。このとき、軸受44を介し、可動スクロール30は、第2軸部43bに対して偏心軸線eaを中心として回転することができる。このような構成により、可動スクロール30は、電動機41から出力される回転により、固定スクロール20に対して揺動することができる。なお、図示は省略するが、固定スクロール20に対する可動スクロール30の回転を規制するための機構、例えばクランク軸等が、別途に設けられていてもよい。
【0056】
なお、電動機41の回転軸線raによって、スクロール式流体機械10の軸方向adが画成される。スクロール式流体機械10の軸方向adは、電動機41の回転軸線raと平行な方向であり、図示された例では、偏心軸線eaとも平行な方向となる。固定スクロール20及び可動スクロール30は、スクロール式流体機械10の軸方向adに対向する。
【0057】
上述した構成要素のうち、ケース15、固定スクロール20及び可動スクロール30は、高い強度を有するとともに耐熱性に優れた金属により作製される。金属の中でもとりわけ、アルミニウム合金は、軽量且つ放熱性に優れるといった利点を有している。
【0058】
以上の構成からなるスクロール式流体機械10では、駆動機構40によって可動スクロール30が、固定スクロール20に対して揺動回転すると、作用室11内において、固定ラップ23及び可動ラップ33が、固定ラップ23の渦巻き状経路に沿った各領域で接近および離間を繰り返す。これにより、作用室11内において、固定ラップ23の渦巻き状経路に沿って、内部媒質である流体の圧縮または流体の膨張が行われていく。図示された例では、固定ラップ23の渦巻き状経路に沿った外周部から中心部に向けて、空気が圧縮されていく。固定ラップ23の渦巻き状経路に沿った中心部では、圧力の高められた空気が得られ、出口11bから外部に供給される。これにともなって、固定ラップ23の渦巻き状経路に沿った外周部に位置する入口11aから空気が吸引される。すなわち、図示された例において、スクロール式流体機械10は、圧縮機として機能する。
【0059】
なお、スクロール式流体機械10の運転中、可動スクロール30及び固定スクロール20の間となる作用室11内での空気圧縮による発熱および摩擦による発熱に対処するため、固定スクロール20及び可動スクロール30は、放熱フィン24,34を有している。そして、図示しない冷却装置によって、冷却媒質が、放熱フィン24,34に供給され、放熱フィン24,34との間で熱交換を行う。一例として、冷却装置は、送風機として構成され、空気を放熱フィン24,34に吹き付ける。
【0060】
ところで、圧縮機として機能するスクロール式流体機械は、種々の分野、電車の車両や自動者等の乗り物にて使用される。ところが、粉塵等の多い過酷な環境で従来のスクロール式流体機械を用いた場合、ラップの先端に設けられた先端シール材(チップシールとも呼ばれる)が、極端に低寿命化するといった不具合が生じた。スクロール式流体機械は、無給油式で、一定期間に亘ってメンテナンスを実施しなくても良いことが、その大きな利点とされてきた。したがって、過酷な環境下での使用における先端シール材の劣化は、スクロール式流体機械にとって重大な欠陥であり、スクロール式流体機械の普及を妨げる理由となる。このような不具合に対処するため、本実施の形態のスクロール式流体機械10では、以下に説明するシール(シール部品)S用いた防塵シール構造を有している。
【0061】
以下の説明では、第1~第6の例を主として参照しながらシール構造の第1態様について説明し、第7及び第8の例を主として参照しながらシール構造の第2態様について説明し、第9及び第10の例を主として参照しながらシール構造の第3態様について説明する。以下の例においては、シールSを形成するシール部材50は、スクロール式流体機械10への適用において、防塵シール部材として防塵機能を発揮する。
【0062】
<<第1態様>>
まず、シール構造の第1態様について説明する。第1態様において用いられるシールSは、相対移動可能であり互いに対向している第1部品20及び第2部品30の間にそれぞれに接触して配置されるようになる一以上の環状のシール部材50を含んでいる。防塵シール部材50は、切断部CUを有し、切断部CUを形成する二つの部分51,52が防塵シール部材50の幅方向で重なっている。防塵シール部材50は、線状に延びる細長い長手方向を有した部材として構成され得る。
【0063】
シールSまたはシール部材50の幅方向とは、軸方向adと防塵シール部材50の長手方向との両方に直交する方向であって、以下に説明する例では、後述する径方向rdに一致する。したがって、以下の説明では、幅方向に対して径方向と同一の符号「rd」を用いる。
【0064】
防塵シール部材50の切断部CUは、連続した部材を切断することによって形成された部位に限られない。切断部CUは、形成方法に限定されることなく、一体化されていない二つの部分51,52の間に位置する切れ目も、切断部CUに該当することになる。
【0065】
そして、第1態様において、切断部CUを形成する二つの部分51,52、言い換えると切断部CUを画成する二つの部分51,52、更に言い換えると切断部CUの両側に位置する二つの部分51,52は、幅方向に重なった状態で、相対移動可能となっている。したがって、後述するように熱膨張に起因して防塵シール部材50の全長が長くなった場合、二つの部分51,52が、その長手方向に移動することができる。このとき、二つの部分51,52が幅方向に重なった状態を維持することで、切断部CUでのシール機能を維持し、切断部CUでのリークを効果的に防止することができる。これにより、作用室11内への粉塵の流入を効果的に防止することができ、固定ラップ23及び可動ラップ33の先端シール材23a,33aの予定外の早期劣化を効果的に回避することができる。
【0066】
なお、切断部CUを形成する二つの部分51,52は、幅方向rdに重なることが維持される範囲で、相対移動可能となっていることが好ましい。すなわち、切断部CUを形成する二つの部分51,52は、その相対移動に依ることなく、幅方向rdに重なった状態に維持されることが好ましい。この場合、切断部CUでのリークを安定して効果的に防止することができる。切断部CUを形成する二つの部分51,52の相対移動が、シール部材50の熱膨張に起因して生じる場合には、シール部材50の昇温前、例えばスクロール式流体機械10等のシール部材50を含む機器や装置の運転前にも、切断部CUを形成する二つの部分51,52が幅方向rdに重なるように、シール部材50の長さを設定すればよい。また、後に参照する図6に示された例では、構造上、切断部CUを形成する二つの部分51,52は、幅方向rdに重なることが維持される範囲で、相対移動可能となっている。
【0067】
加えて、第1態様において、シール部材50の切断部CUでの幅は、防塵シール部材50のその他の部分での幅と同一またはこの幅よりも小さくなっている。すなわち、切断部CUが設けられている領域において、防塵シール部材50は、二つの部分51,52が幅方向rdに重なるが、その幅が大型化することはない。したがって、シール部材50の設置、例えば後述するように溝25内へのシール部材50の設置を容易かつ精確とすることができる。また、周状の溝25の幅を一定とすることもできる。この結果、シールSのシール機能を更に向上させることができる。
【0068】
以下、いくつかの具体例を参照して、シール構造の第1態様について説明する。
【0069】
なお、以下の具体例において、シールSは、単一のシール部材50を有するが、後述する第10の例のように、シールSは、複数のシール部材50を含むようにしてもよい。複数の防塵シール部材50を含むことで、とりわけ、周方向cdにおける切断部CUの位置を変化させて複数の防塵シール部材50を設置することで、密閉性を格段に向上させることができる。
【0070】
また、線状の防塵シール部材50の両端部51,52の間に、合口部55が形成されている。そして、これらの例では、合口部55に、切断部CUが形成されている。すなわち、以下の例では、切断部CUを形成する部分は、防塵シール部材50の端部51及び端部52となっている。ただし、以下の具体的な構成は、例示に過ぎず、種々の変更が可能である。
【0071】
<第1の例>
まず、防塵シール構造の第1の例について説明する。スクロール式流体機械10の全体構成の説明で述べたように、固定スクロール20には溝25が形成されている(図2参照)。溝25は、作用室11を取り囲むように配置されている。また、溝25は、固定スクロール20に対する可動スクロール30の相対位置によらず、可動スクロール30の周縁部に常に対面する領域に設けられている。ただし、このような例に限れず、溝25は、可動スクロール30に設けられていてもよい。また、図示された例において、溝25は、径方向に一定の幅を有している。ただし、この例に限られず、溝25の幅は変動してもよい。
【0072】
なお、溝25を一定幅とすることで、溝の作成を容易化することができる。加えて、後述するように溝25内への、切断部CUを有するシール部材50の配置を容易化することができる。
【0073】
なお、本明細書においては、作用室11を取り囲む周の軌跡に沿った方向を、周方向cdと呼ぶ。また、軸方向ad及び周方向cdの両方に直交する方向を、径方向rdと呼ぶ。図示された例おいて、スクロール式流体機械10の組み込まれた防塵シール部材50の長手方向は、周方向cdに一致し、防塵シール部材50の幅方向は、径方向rdに一致する。また、幅方向rd及び径方向rdにおける「内」側とは、周方向cdによって画定される周の内側であって、スクロール式流体機械10における回転軸線raに近い側である。幅方向rd及び径方向rdにおける「外」側とは、周方向cdによって画定される周の外側であって、スクロール式流体機械10の回転軸線raから遠い側である。
【0074】
図2及び図3に示すように、溝25には、付勢手段48及び防塵シール部材50が設けられている。付勢手段48は、防塵シール部材50を軸方向adに押圧し、固定スクロール20から可動スクロール30に当接するように付勢する。付勢手段48は、弾性部材によって構成され得る。図示された例において、付勢手段48は、円環状のゴムによって形成されている。ただし、この例に限られず、付勢手段48は、周方向cdに分散して配置されていてもよい。この付勢手段48及び防塵シール部材50によって、図3に示すように、固定スクロール20及び可動スクロール30は、軸方向adに密閉させる。
【0075】
防塵シール部材50は、可動スクロール30に当接して、固定スクロール20と可動スクロール30との間の隙間を埋める部材である。したがって、耐摩擦性や密封性を有した材料、例えばゴムや樹脂を、防塵シール部材50の材料として選択することができる。
【0076】
図2図4に示された防塵シール構造の第1の例では、防塵シール部材50の形状により、防塵シール構造の密閉性を改善している。まず、図2に示すように、防塵シール部材50は、線状の部材として構成されている。そして、図4に示すように、防塵シール部材50は、両端部51,52が周方向(防塵シール部材50の長手方向)cdに直交する径方向(防塵シール部材50の幅方向)rdに重なるように配置され、両端部51,52の間に切断部CUが形成される。ただし、両端部51,52が幅方向rdに重なり合っており、この重なり合いにより合口部55が形成されている。そして、防塵シール部材50は、作用室11をその全周から取り囲むようになる。防塵シール部材50は、作用室11を取り込み、固定スクロール20及び可動スクロール30の間を密閉する。なお、図4及び後述する図5図22においては、作用室11や固定ラップ23等の図示を省略している。
【0077】
図4に示すように、とりわけ第1の例では、線状の防塵シール部材50は、合口部55をなす両端部として、相対的に幅方向rdにおける内側に位置する内側端部(内側部分)51と、相対的に幅方向rdにおける外側に位置する外側端部(外側部分)52と、を有している。つまり、外側端部52は、内側端部51の径方向rdにおける外側に位置している。また、防塵シール部材50は、内側端部51および外側端部52の間に位置する中間部53を、さらに有している。図示された例において、中間部53は、一定の幅を有している。一方、内側端部51および外側端部52は、ともに、先細りしている。防塵シール部材50の両端部51,52が重なっている部分での幅方向rdへの幅の大きさは、防塵シール部材のその他の部分での幅方向rdへの幅の大きさ以下となる。図示された例では、これらの幅は同一となっている。結果として、防塵シール部材50は、合口部55を形成しながら、一定の幅を有した周状の溝25内に収容され得る。このような防塵シール部材50によって形成されるシールSの取り付け、とりわけ溝25内への配置は、極めて容易に行われ得る。
【0078】
より具体的な構成として、内側端部(内側部分)51は、径方向rdにおける外側を向く外側側面51bが、防塵シール部材50の内側端部51に隣接する部分53での外側側面53bに対して傾斜している。また、内側端部51は、径方向rdにおける内側を向く内側側面51aが、防塵シール部材50の内側端部51に隣接する部分53での内側側面53aと連続した同一線上に位置している。
【0079】
一方、外側端部(外側部分)52は、径方向rdにおける内側を向く内側側面52aが、防塵シール部材50の外側端部52に隣接する部分53での内側側面53aに対して傾斜している。また、外側端部52は、径方向rdにおける外側を向く外側側面52bが、防塵シール部材50の端部52に隣接する部分53での外側側面53bと連続した同一線上に位置している。
【0080】
このような防塵シール部材50を用いた場合、防塵シール構造からリークした外気とともに粉塵が作用室11内に流入することを効果的に防止することができた。本件発明者らが鋭意検討を重ねたところ、先端シール材23a,33aの早期劣化をきたす主たる原因の一つが、スクロール式流体機械10の運転中に負圧となる作用室11内への、放熱フィン24,34に向けられる冷却風の一部の流入である、ことが確認された。そして、図4に示された防塵シール部材50によれば、防塵シール構造に密閉性が要求されるスクロール式流体機械10の運転中、合口部55(切断部CU)でのリークを効果的に防止することができる。
【0081】
スクロール式流体機械10の稼働中、固定スクロール20及び可動スクロール30間となる作用室11内での空気圧縮により、固定スクロール20及び可動スクロール30に接触する防塵シール部材50は加熱されて膨張する。密閉性および耐摩擦性が要求される防塵シール部材50の材料は、スクロール20,30に用いられる材料よりも、通常、高い線膨張係数を有する。また、防塵シール部材50は、細長状の形状を有し、形状的に長手方向に膨張しやすい。したがって、スクロール式流体機械10の運転中、防塵シール部材50は膨張する。この結果、図4に矢印で示すように、内側端部51の外側側面51bと外側端部52の内側側面52aは、互いに押圧しあうようになる。さらに、外側端部52の内側側面52aの傾斜を利用したくさび効果により、内側端部51の内側側面51aは、溝25の内側の内壁に押圧される。また、内側端部51の外側側面51bの傾斜を利用したくさび効果により、外側端部52の外側側面52bは、溝25の外側の内壁に押圧される。この結果、防塵シール部材50が、合口部55(切断部CU)において固定スクロール20及び可動スクロール30の間を密閉し、流体(外気)が両端部51の間を流れてしまうことを効果的に防止することができる。
【0082】
さらに、このような構成によれば、防塵シール部材50の切断部CUでの幅は、防塵シール部材50のその他の部分での幅以下となっている。したがって、固定スクロール20に形成されて防塵シール部材50を収容する溝25の幅を変化させる必要がない。したがって、溝25内において、防塵シール部材50の位置が安定し、さらに、内側端部51の外側側面51bと外側端部52の内側側面52aを当接した状態に維持することができる。この点からも、合口部55でのリークをより効果的に防止することができる。
【0083】
以上に説明した第1の例において、防塵シール部材50は、固定スクロール20及び可動スクロール30の一方に保持されて固定スクロール20及び可動スクロール30の他方に当接する線状の部材である。防塵シール部材50は、両端部51,52が周方向cdに直交する径方向rdに重なるようにして合口部55を形成し作用室11を取り囲む。合口部55をなす両端部のうちの内側端部51は、その外側側面51bが、防塵シール部材50の内側端部に隣接する部分53での外側側面53bに対して傾斜して、先細りしている。また、合口部55をなす両端部51,52のうちの外側端部52は、その内側側面52aが、防塵シール部材50の外側端部52に隣接する部分53での内側側面53aに対して傾斜して、先細りしている。そして、内側端部51の外側側面51bと外側端部52の内側側面52aが当接する。このような第1の例によれば、合口部55でのリークを効果的に防止することができる。これにより、作用室11内への粉塵の流入を効果的に防止することができ、固定ラップ23及び可動ラップ33の先端シール材23a,33aの予定外の早期劣化を効果的に回避することができる。
【0084】
<第2の例>
次に、主として図5を参照して、合口部でのリークを効果的に防止することを可能にした防塵シール構造の第2の例について説明する。なお、第2の例についての説明、および、その後に行われる更なる例についての説明においては、他の例として説明した防塵シール構造と異なる点について主に説明し、その他の点については他の例として説明した防塵シール構造と同様に構成され得るものとする。また、第2の例についての説明、および、その後に行われる更なる例についての説明において、並びに、図4図22において、他の例と同様に構成され得る又は他の例と同様に機能し得る部分には、他の例の対応する構成に対して用いた符号と同一の符号を付すとともに重複する説明を省略する。
【0085】
図5に示された例においては、第1の例と同様に、切断部CUを形成する部分(防塵シール部材50の両端部)51,52の形状により、切断部CU(合口部55)でのリークの防止を図っている。図5に示された例においても、切断部CUを形成する防塵シール部材50の両端部51,52は、幅方向(径方向)rdに互いに重なり合い、合口部55を形成している。これにより、防塵シール部材50は、作用室11を周状に取り囲んでいる。
【0086】
防塵シール部材50は、両端部51,52と、両端部51,52の間に位置する中間部53と、を有している。中間部53は、一定の幅を有するようにしてもよい。防塵シール部材50の一方の端部(切断部CUを形成する一方の部分)51は、その端面に、周方向cdに凹んだ凹部51cを有している。防塵シール部材50の他方の端部(切断部CUを形成する他方の部分)は、その端面に、周方向cdに突出し凹部51c内に挿入される凸部52cを有している。このような第2の例によれば、切断部CUを形成する両端部51,52の間を流れて合口部55(切断部CU)からリークする流体(気体)は、凸部52cの凹部51c内への進入深さの倍だけ進む必要がある。しかも、合口部55からリークする流体は、凹部51c内において、周方向cdに沿った進行方向を逆向きに折り返す必要がある。これらにより、固定スクロール20と可動スクロール30との間を効果的に密閉して、合口部55でのリークを効果的に防止することができる。結果として、作用室11内への粉塵の流入を効果的に防止することができ、固定ラップ23及び可動ラップ33の先端シール材23a,33aの予定外の早期劣化を効果的に回避することができる。
【0087】
さらに、第2の例では、切断部CUを形成する部分51,52が、幅方向rdへの重なり合いを維持しながら、周方向cdに相対移動可能となっている。すなわち、防塵シール部材50では、一定の幅を維持しながら、溝25内で熱膨張および熱収縮することができる。したがって、固定スクロール20に形成される溝25の幅を変化させる必要がない。これにより、溝25内における防塵シール部材50の配置を安定させることができ、さらに、他方の端部52の凸部52cが、一方の端部51の凹部51c内に進入した状態を維持することができる。この点からも、合口部55(切断部CU)でのリークをより効果的に防止することができる。
【0088】
なお、第1の例として説明した図4の防塵シール部材50において、内側端部(内側部分)51の外側側面51b及び外側端部(外側部分)52の内側側面52aの一方に、図5に示された凹部51cを形成し、内側端部(内側部分)51の外側側面51b及び外側端部(外側部分)52の内側側面52aの他方に、図5に示された凸部52cを形成してもよい。
【0089】
<第3の例>
次に、主として図6を参照して、合口部でのリークを効果的に防止することを可能にした防塵シール構造の第3の例について説明する。図6に示された例においては、第1の例及び第2の例と同様に、切断部CUを形成する部分(防塵シール部材50の両端部)51,52の形状により、合口部でのリークの防止を図っている。図6に示された例においても、防塵シール部材50の両端部51,52は、幅方向rdに互いに重なり合い、合口部55を形成している。これにより、防塵シール部材50は、作用室11を周状に取り囲んでいる。
【0090】
図6に示すように、とりわけ第3の例では、線状の防塵シール部材50は、合口部55をなす両端部として、相対的に径方向rdにおける内側に位置する内側端部(内側部分)51と、相対的に径方向rdにおける外側に位置する外側端部(外側部分)52と、を有している。つまり、外側端部52は、内側端部51の幅方向rdにおける外側に位置している。また、防塵シール部材50は、内側端部51および外側端部52の間に位置する中間部53を、さらに有している。中間部53は、一定の幅を有することができる。
【0091】
内側端部(内側部分)51は、防塵シール部材50の内側端部51に隣接する部分53の幅wmよりも幅狭のベース部51dと、防塵シール部材50の長手方向(周方向cdと一致する方向)に沿ってベース部51dよりも先端側に位置しベース部51dよりも幅広の拡幅部51eと、を有している。同様に、外側端部(外側部分)52は、防塵シール部材50の外側端部52に隣接する部分53の幅wmよりも幅狭のベース部52dと、防塵シール部材50の長手方向に沿ってベース部52dよりも先端側に位置しベース部52dよりも幅広の拡幅部52eと、を有している。内側端部51の拡幅部51eは、外側端部52のベース部52dに幅方向rdに対面し、外側端部52の拡幅部52eは、内側端部51のベース部51dに幅方向rdに対面する。
【0092】
このような第3の例によれば、切断部CUを形成する両端部51,52の間を流れて合口部55(切断部CU)からリークする流体は、内側端部51の拡幅部51eと外側端部52のベース部52dとの隙間、及び、外側端部52の拡幅部52eと内側端部51のベース部51dとの隙間の二つを通過する必要がある。さらに、両端部51,52が周方向cdに並列する長さを比較的長く確保することができる。これらにより、合口部55でのリークを効果的に防止することができる。結果として、作用室11内への粉塵の流入を効果的に防止することができ、固定ラップ23及び可動ラップ33の先端シール材23a,33aの予定外の早期劣化を効果的に回避することができる。
【0093】
さらに、第3の例では、切断部CUを形成する部分51,52が、幅方向rdへの重なり合いを維持しながら、周方向cdに相対移動可能となっている。すなわち、防塵シール部材50は、一定の幅を維持しながら、溝25内で熱膨張および熱収縮することができる。したがって、固定スクロール20に形成される溝25の幅を変化させる必要がない。これにより、溝25内における防塵シール部材50の配置を安定させることができ、さらに、他方の端部52の凸部52cが、一方の端部51の凹部51c内に進入した状態を維持することができる。この点からも、合口部55(切断部CU)でのリークをより効果的に防止することができる。
【0094】
加えて、第3の例において、内側端部(内側部分)51の拡幅部51eの幅w1eと外側端部(外側部分)52のベース部52dの幅w2dとの和が、防塵シール部材50の外側端部52に隣接する中間部53の幅wmと同一またはこの幅wmよりも大きくなるようにしてもよい。この構成によれば、防塵シール部材50の熱膨張又は熱収縮による両端部51,52への相対移動を必要以上に拘束することなく、内側端部51の拡幅部51eと外側端部52のベース部52dとの隙間におけるリークを効果的に防止することができる。同様に、外側端部(内側部分)52の拡幅部52eの幅w2eと内側端部(内側部分)51のベース部51dの幅w1dとの和が、防塵シール部材50の内側端部51に隣接する部分53の幅wmと同一またはこの幅wmよりも大きくなるようにしてもよい。この構成によれば、防塵シール部材50の熱膨張又は熱収縮による両端部51,52への相対移動を必要以上に拘束することなく、外側端部52の拡幅部52eと内側端部51のベース部51dとの隙間におけるリークを効果的に防止することができる。
【0095】
<第4の例>
次に、主として図7図9を参照して、合口部でのリークを効果的に防止することを可能にした防塵シール構造の第4の例について説明する。図7図9に示された例においては、切断部CUを形成する部分(合口部を形成する両端部)51,52の形状に制限を課すことなく、合口部に外力を及ぼすことで切断部CU(合口部)でのリークの防止を図っている。
【0096】
図7図9に示された例においても、防塵シール部材50の切断部CUを形成する両端部51,52は、幅方向rdに互いに重なり合って、合口部55を形成している。これにより、防塵シール部材50は、作用室11を周状に取り囲んでいる。そして、第4の例のスクロール式流体機械10は、切断部CUを形成する一方の部分を他方の部分に向けて押圧する押圧手段60を、さらに有している。言い換えると、スクロール式流体機械10は、防塵シール部材50の合口部55をなす一方の端部51を他方の端部52に向けて押圧する押圧手段60を、さらに有している。
【0097】
なお、押圧手段60は、切断部CUを形成する一方の部分51を他方の部分52に向けて幅方向(径方向)rdに押圧し且つ他方の部分52を一方の部分51に向けて幅方向(径方向)rdに押圧するようにしてもよい。或いは、押圧手段60は、一方の部分51を、溝25を区画する壁部に支持された他方の部分52に向けて、幅方向(径方向)rdに内側又は外側に押圧し、溝25を区画する壁部との間で、切断部CUを形成する部分51,52を互いに当接させるようにしてもよい。
【0098】
図7及び図8の例において、スクロール式流体機械10は、第1押圧手段61及び第2押圧手段62を有している。第1押圧手段61は、内側端部(内側部分)51を径方向rdにおける外側に押圧して、内側端部51を外側端部(外側部分)52に当接した状態に付勢する。第2押圧手段62は、外側端部(外側部分)52を径方向rdにおける内側に押圧して、外側端部52を内側端部(内側部分)51に当接した状態に付勢する。
【0099】
固定スクロール20には、溝25の径方向rdにおける内側となる位置に第1押圧手段61を収容するための収容部26が形成され、溝25の径方向rdにおける外側となる位置に第2押圧手段62を収容するための収容部26が形成されている。各押圧手段61,62は、収容部26内に格納された板材61a,62a及び弾性部材61b,62bを有している。板材61a,62aは、その一端において、固定スクロール20に固定されている。板材61a,62aは、その他端を、弾性部材61b,62bに押圧されている。弾性部材61b,62bは、対応する板材61a,62aを溝25内に収容された防塵シール部材50の合口部55に向けて押圧している。とりわけ、図示された押圧手段61,62は、径方向rdに沿って、一方の端部を他方の端部に向けて押圧するようになっている。図示された例において、弾性部材61b,62bは、圧縮ばねから形成されているが、この例に限られず、例えばゴムチューブ等から形成されるようにしてもよい。
【0100】
なお、図7及び図8に示された例において、第1押圧手段61及び第2押圧手段62の一方を省略することができる。
【0101】
また、図7に示された例において、防塵シール部材50は、合口部55(切断部CU)を形成する両端部51,52の構成として、第1の例で説明した防塵シール部材と同様の構成を有する例を示したが、これに限られない。種々の形態の防塵シール部材50に対して、例えば、第2の例または第3の例として説明した防塵シール部材50に対して、押圧手段60を適用することができる。
【0102】
さらに、押圧手段60の具体的な構成は、図7及び図8に示された例に限られず、種々の形態を採用することができる。一例として、図9に示された例において、押圧手段60は、流体噴出機構63を含んでいる。流体噴出機構63は、気体や液体からなる流体を噴出することができる機構であり、流体源63aと、流体源63aから供給される流体が通過するオリフィス63bと、を有している。固定スクロール20には溝25の底面に、噴出口27が形成されている。オリフィス63bを通過した流体は、噴出口27を介して溝25内に噴出される。図示された例において、噴出口27は、溝25の底面のうちの径方向rdにおける一側に片寄って形成されている。したがって、溝25内での圧力は、径方向rdにおける一側で高くなり、径方向rdにおける他側で低くなる。この結果、径方向rdにおける一側に位置する一方の端部が、径方向rdにおける他側に位置する他方の端部に向けて押圧される。
【0103】
以上のような第4の例において、防塵シール部材50は、固定スクロール20及び可動スクロール30の一方に保持されて固定スクロール20及び可動スクロール30の他方に当接する線状の防塵シール部材である。防塵シール部材50は、切断部CUを形成する二つの部分(両端部)51,52が周方向cdに直交する幅方向(径方向)rdに重なるようにして合口部55を形成し作用室11を取り囲む。そして、スクロール式流体機械10は、防塵シール部材50の一方の端部を他方の端部に向けて押圧する押圧手段60を、さらに有している。押圧手段60を用いて、切断部CUを形成する一方の部分(防塵シール部材50の一方の端部)を他方の部分(他方の端部)に向けて押圧することで、切断部CU(合口部55)において両部分(両端部)51,52の間を流体が通過しにくくなる。したがって、切断部CU(合口部55)でのリークを効果的に防止することができる。結果として、作用室11内への粉塵の流入を効果的に防止することができ、固定ラップ23及び可動ラップ33の先端シール材23a,33aの予定外の早期劣化を効果的に回避することができる。
【0104】
また、図7及び図8に示された例において、押圧手段は、幅方向(径方向)rdに沿って、切断部CUを形成する一方の部分(端部)を他方の部分(端部)に向けて押圧する。このような押圧手段によれば、一方の部分(端部)を他方の部分(端部)に安定して当接させた状態に維持することができ、これにより、合口部55でのリークをより効果的に防止することができる。
【0105】
さらに、押圧手段は、弾性部材61b,62bを有するようにしてもよい。このような押圧手段は、簡易な構成で安価に作製することができ、その一方で、押圧力を安定して供給することができる。
【0106】
一方、図9に示された例において、押圧手段60は、流体噴出機構63を含んでいる。流体噴出機構63から噴出される流体を用いることで、切断部CUを形成する一方の部分(端部)を他方の部分(端部)に向けて径方向rdに沿って押圧し、一方の部分(端部)を他方の部分(端部)に安定して当接させた状態に維持することができ、これにより、合口部55でのリークをより効果的に防止することができる。また、防塵シール部材50と同様に、付勢手段48も幅方向(径方向)rdに沿って押圧される。断面が中空円形である円環状の付勢手段48は、流体噴出機構63からの流体により径方向rdの押圧を受けて、軸方向adに沿って拡大するように変形する。この結果、防塵シール部材50と可動スクロール30との間、防塵シール部材50と付勢手段48との間、および付勢手段48と溝25との間を、それぞれ密着させることで、固定スクロール20と可動スクロール30との間をより安定して密閉することが可能となる。また、流体噴出機構63からの流体噴出量、噴出速度、噴出圧力等を調整することで、切断部CUを形成する一方の部分(端部)を他方の部分(端部)に押圧する力を調節することができる。さらに、粉塵の発生源ともなり得る機械的な構造を用いることなく、押圧力を発生させることができる。
【0107】
加えて、噴出口27が溝25の底面のうちの径方向rdにおける外側に形成されている図9の例では、流体噴出機構63から噴出される流体によって、付勢手段48及び防塵シール部材50は、径方向rdにおける内側に押圧される。すなわち、付勢手段48及び防塵シール部材50は、溝25の軸方向ad内側に位置する側壁に向けて押圧される。一方、流体噴出機構63から噴出される流体は、固定スクロール20と可動スクロール30との間の隙間から径方向rdにおける外側に流れ、外部に排出される。これにより、同じ隙間を通した外部からの粉塵の侵入をより効果的に防止することができる。各スクロール20,30に対する冷却風の一部がその隙間を通して外部から流入しようとしても、その流入圧力(例えば800Pa)よりも大きい圧力(例えば1kPa)で流体噴出機構63から流体を噴射することで、その流入を効果的に防止することができる。
【0108】
さらに、図9に示された例では、固定スクロール20及び可動スクロール30の一方に、作用室11を取り囲む周状の溝25が形成され、防塵シール部材50が、溝25に配置される。そして、流体噴出機構63は、溝25内に流体を噴出するようになっている。このような流体噴出機構63によれば、スクロール式流体機械10自体の構成を制約することなく、既存のスクロール式流体機械10に適用することも可能である。
【0109】
<第5の例>
次に、主として図10及び図11を参照して、合口部でのリークを効果的に防止することを可能にした防塵シール構造の第5の例について説明する。図10及び図11に示された例においては、切断部CUを形成する二つの部分(合口部を形成する両端部)51,52の係合面に制限を課すことなく、切断部CUを形成する二つの部分(両端部)51,52を互いに向けて押圧する力を発生させることで切断部CU(合口部)でのリークの防止を図っている。
【0110】
図10及び図11に示された例においても、固定スクロール20及び可動スクロール30の一方に、作用室11を取り囲む周状の溝25が形成され、防塵シール部材50は、溝25に配置されている。また、切断部CUを形成する二つの部分(防塵シール部材50の両端部)51,52は、幅方向(径方向)rdに互いに重なり合い、合口部55を形成している。これにより、防塵シール部材50は、作用室11を周状に取り囲んでいる。さらに、防塵シール部材50は、切断部CUをなす二つの部分(合口部55をなす両端部)として、内側端部(内側部分)51と、内側端部51の幅方向(径方向)rdにおける外側に位置する外側端部(外側部分)52と、を含んでいる。
【0111】
そして、防塵シール部材50には、内側端部51の径方向rdにおける内側を向く内側側面51aから径方向rdにおける内側に突出する内側延出片(内側リップ)51f、及び、外側端部52の径方向rdにおける外側を向く外側側面52bから径方向rdにおける外側に突出する外側延出片(外側リップ)52fの少なくともいずれか一方が、設けられている。図示された例において、内側端部51に、内側延出片51fが設けられ、外側端部52に、外側延出片52fが設けられている。内側延出片51fは、溝25の径方向rdにおける内側に位置する壁面に当接して、径方向rdに沿って内側端部51を外側端部52に向けて押圧する。外側延出片52fは、溝25の径方向rdにおける外側に位置する壁面に当接して、径方向rdに沿って外側端部52を内側端部51に向けて押圧する。延出片51f,52fによって、切断部CUを形成する二つの部分(防塵シール部材50の両端部)51,52が幅方向(径方向)rdに互いに当接した状態に維持されることで、合口部55でのリークを効果的に防止することができる。なお、第4の例における押圧手段60と同様に、内側延出片51f及び外側延出片52fのいずれか一方を省略することも可能である。
【0112】
合口部55でのリークを防止する観点からは、内側延出片51f及び外側延出片52fは、弾性変形可能であることが好ましい。また、内側延出片51fを含む内側端部51の径方向rdにおける最大幅と、外側延出片52fを含む外側端部52の径方向rdにおける最大幅との和が、溝25の径方向rdにおける幅よりも大きいことが、合口部55でのリークを防止する上で有効である。
【0113】
図11によく示されているように、内側延出片51fは、径方向rdにおける内側に向けて先細りし、外側延出片52fは、径方向rdにおける外側に向けて先細りしている。このような例によれば、内側延出片51f及び外側延出片52fの弾発力が安定して発揮され、防塵シール部材50の両端部51,52が径方向rdに互いに当接した状態に安定して維持することができる。
【0114】
さらに、図11によく示されているように、内側延出片51fは、防塵シール部材50の長手方向(周方向cdに一致する方向)に対向する先端側面51faおよび基端側面51fbを含んでいる。先端側面51faは、防塵シール部材50の長手方向に沿って、内側端部51の先端に近接する側の面であり、基端側面51fbは、防塵シール部材50の長手方向に沿って、中間部53に近接する側の面である。そして、固定スクロールと可動スクロールが対向する方向からの観察(すなわち、軸方向adに沿った図11に観察)において、先端側面51faが防塵シール部材50の長手方向に対してなす角度(厳密には、二つの角のうちの小さい方の角度(劣角))θ1aは、基端側面51fbが防塵シール部材50の長手方向に対してなす角度(厳密には、二つの角のうちの小さい方の角度(劣角))θ1bよりも小さくなっている。このような内側延出片51fによれば、防塵シール部材50の熱膨張時における内側延出片51fの溝25内での移動を阻害しにくくすることができる。これにより、防塵シール部材50が溝25内で蛇行、ねじれ、たわみ等を生じてしまうことを効果的に防止して、溝25内での防塵シール部材50の配置を安定させることができる。併せて、内側端部51を外側端部52に向けて付勢する力を効果的に、とりわけ熱収縮時に効果的に発揮させることができる。これらのことからも、切断部CU(合口部55)でのリークをより効果的に防止することができる。
【0115】
また、図11に示された例では、外側延出片52fも、内側延出片51fと同様に構成されている。すなわち、外側延出片52fは、防塵シール部材50の長手方向に対向する先端側面52faおよび基端側面52fbを含んでいる。先端側面52faは、防塵シール部材50の長手方向に沿って、外側端部52の先端に近接する側の面であり、基端側面52fbは、防塵シール部材50の長手方向に沿って、中間部53に近接する側の面である。そして、固定スクロールと前記可動スクロールが対面する方向からの観察において、先端側面52faが防塵シール部材50の長手方向に対してなす角度θ2aは、基端側面52fbが防塵シール部材50の長手方向に対してなす角度θ2bよりも小さくなっている。内側延出片51fと同様に、外側延出片52fのこのような構成によっても、切断部CU(合口部55)でのリークをより安定して防止することができる。
【0116】
<第6の例>
次に、主として図12を参照して、合口部でのリークを効果的に防止することを可能にした防塵シール構造の第6の例について説明する。図12に示された例においては、切断部CUを形成する部分(合口部を形成する両端部)51,52の係合面に制限を課すことなく、ペースト状材料28を用いて切断部CU(合口部)でのリークの防止を図っている。
【0117】
図12に示された例においても、固定スクロール20及び可動スクロール30の一方に、作用室11を取り囲む周状の溝25が形成され、防塵シール部材50は、溝25に配置されている。また、切断部CUを形成する二つの部分(防塵シール部材50の両端部)51,52は、幅方向(径方向)rdに互いに重なり合い、合口部55を形成している。これにより、防塵シール部材50は、作用室11を周状に取り囲んでいる。
【0118】
そして、第6の例では、溝25内における少なくとも切断部CU(合口部55)の周囲となる領域に、ペースト状材料28が充填されている。ペースト状材料28は、半固体状の材料や、高粘性材料を含む。典型的には、ペースト状材料28として、グリスを用いることができる。一般的に、グリスは、潤滑材として機械装置等に用いられる。その一方で本例では、切断部CU(合口部55)でのリーク防止に加えて、粉塵等の捕獲を期待することができる。本件発明者らが確認したところ、ペースト状材料28は、粉塵等を捕獲すると、しだいに流動性を低下し硬化していく。このように硬化したペースト状材料28は、通常であれば、その本来の目的(例えばグリスによる潤滑作用)を達成することができなくなる。しかしながら、本例における使用では、硬化して流動性を低下させることは、ペースト状材料28が合口部55に留まって、合口部55でのリーク防止および粉塵の捕獲に寄与することになる。このようなペースト状材料28の機能は、メンテナンス頻度の低い無給油式のスクロール式流体機械10において、とりわけ好適と言える。
【0119】
なお、図12において、切断部CUを形成する二つの部分(防塵シール部材50の両端部)51,52の構成を示しているが、図示された構成は、例示に過ぎない。防塵シール部材50と溝25との間に設ける付勢手段を、防塵シール部材50と同じように線状にした場合、その付勢手段の合口部に対してもペースト状材料28が有効に機能することができる。また、例えば、図10及び図11に示された切断部CU(合口部55)や、その他の切断部(合口部)に対しても、ペースト状材料28が有効に機能することができる。なお、図10及び図11に示された例では、内側端部(内側部分)51の外側側面51b上にペースト状材料28が設けられているが、外側端部(外側部分)52の内側側面52a上にペースト状材料28が設けられていても良いし、内側端部(内側部分)51の外側側面51b上及び外側端部(外側部分)52の内側側面52a上の両方にペースト状材料28が設けられていても良い。
【0120】
以上のような第6の例によれば、溝25内における少なくとも切断部CUを形成する二つの端部51,52の間に、好ましくは合口部55の周囲となる領域に、ペースト状材料28が充填されている。このようなペースト状材料28によれば、ペースト状材料28が、切断部CUを形成する二つの部分(合口部55での両端部51,52)の間を封鎖することで、切断部CU(合口部55)でのリークを防止することができるとともに、粉塵の捕獲を行うことができる。また、ペースト状材料28は、粉塵を捕獲することで、流動性を低下させる。流動性が低下したペースト状材料28は、切断部CU(合口部55)に留まり、リーク防止機能および粉塵捕獲機能を発揮し続けることができ、無給油式のスクロール式流体機械10に特に有効である。
【0121】
<<第2態様>>
次に、シール構造の第2態様について説明する。第2態様において用いられるシールSは、相対移動可能であり互いに対向している第1部品20及び第2部品30の一方上に配置されるようになる無担環状で金属製の第1シール部Saと、第1シール部Sa上に設けられ第1部品20及び第2部品30の他方に接触するようになる無担環状で樹脂製又はゴム製の第2シール部Sbと、を有している。
【0122】
このような第2態様によれば、まず、合口部を設けないことによって、密閉性の改善を図ることができる。また、従前広く使用されていた樹脂やゴムと比較して熱変形しにくい金属製の第1シール部Saによれば、シールSに剛性および耐久性を付与することができ、熱膨張や熱収縮を効果的に抑制することもできる。これにより、防塵シール部材50における蛇行やねじれの発生を効果的に防止することができる。さらに、樹脂製又はゴム製の第2シール部Sbをも含むことで、第1部品又は第2部品との緊密な密閉性を確保することができる。したがって、第2態様によっても、第1部品20及び第2部品の間を緊密に密閉することができる。すなわち、第2態様によれば、熱変形しにくい第1シール部Saと、密閉性に優れた第2シール部Sbとの組み合わせにより、第1部品20と第2部品30との間を安定して密閉することができる。スクロール式流体機械10への適用においては、作用室11内への粉塵の流入を効果的に防止することができ、固定ラップ23及び可動ラップ33の先端シール材23a,33aの予定外の早期劣化を効果的に回避することができる。
【0123】
このような第2態様において、第2シール部Sbの厚さ(軸方向adに沿った第2シール部Sbの寸法)は、第1シール部Saの厚さ(軸方向adに沿った第1シール部Saの寸法)よりも小さくなっていることが好ましい。また、第2シール部Sbのアスペクト比(幅に対する高さの比の値)は、第1シール部Saのアスペクト比(幅に対する高さの比の値)よりも小さくなっていることが好ましい。これらの場合、第1シール部Saよりも変形し易い第2シール部Sbの軸方向adへの変形量を効果的に低減することができる。これにより、第2シール部Sbと第1部品20又は第2部品30との間の密閉性低下を効果的に防止することができる。
【0124】
なお、第1シール部Sa及び第2シール部Sbは、一体的に形成されて一つの防塵シール部材50をなすようにしてもよい。このような例が、後述する第7の例にて示されている。また、第1シール部Sa及び第2シール部Sbは、別途の防塵シール部材50をなすようにしてもよい。このような例が、後述する第8の例にて示されている。
【0125】
以下、具体例を参照して、シール構造の第2態様について説明する。ただし、以下の具体的な構成は、例示に過ぎず、種々の変更が可能である。
【0126】
<第7の例>
次に、主として図13及び図14を参照して、防塵シール構造の第7の例について説明する。図13及び図14に示された例においては、防塵シール部材に合口部を設けないことによって、防塵シール部材50による密閉性の改善を図っている。
【0127】
図13及び図14に示された例において、固定スクロール20及び可動スクロール30の間には、一体的に形成された一つの防塵シール部材50が、シール(シール部品)Sとして、設けられている。この防塵シール部材50が、無担環状で金属製の第1シール部Saと、無担環状で樹脂製又はゴム製の第2シール部Sbと、を含んでいる。
【0128】
図13及び図14に示された防塵シール部材50は、固定スクロール20及び可動スクロール30の一方に保持されて固定スクロール20及び可動スクロール30の他方に当接する。防塵シール部材50は、作用室11を取り込み、固定スクロール20及び可動スクロール30の間を密閉する。そして、防塵シール部材50は、無担環状で金属製の環状本体部56を有している。
【0129】
合口部55は、防塵シール部材50がスクロール20,30の一方に形成された溝25内での防塵シール部材50の熱膨張および熱収縮を許容するために設けられている。スクロール式流体機械10の運転中、スクロール20,30は作用室11内での空気圧縮を主原因として温度上昇する。スクロール20,30の温度変化にともなって、防塵シール部材50の温度も変化する。この防塵シール部材50の温度変化を原因として、防塵シール部材50が熱変形する。従来のスクロール式流体機械10では、防塵シール部材50は、熱変形しやすい樹脂やゴムを用いて形成されていた。
【0130】
第7の例において、防塵シール部材50は、無担環状で金属製の環状本体部56を有している。環状本体部56が、シール(シール部品)Sの第1シール部Saをなしている。環状本体部56は、従前広く使用されていた樹脂やゴムと比較して、熱変形しにくい金属によって形成されている。また、スクロール20,30に用いられる材料は、一般的に、環状本体部56と同様に、高剛性及び耐摩耗性を有した金属である。したがって、金属製の環状本体部56は、熱膨張や熱収縮を効果的に抑制することができ、さらに、当該環状本体部56を保持する溝25と類似した変形挙動を呈するようになる。また、金属製の環状本体部56は、それ自体、高剛性を有し、ねじり等の変形をきたしにくい。これらのことから、無担環状で金属製の環状本体部56は、合口部55がなくとも、スクロール式流体機械10の運転中、溝25内で蛇行やねじれの発生を効果的に防止することができ、固定スクロール20と可動スクロール30との間を安定して密封することができる。しかも、合口部55での両端部間を経路としていたリークを防止できるので、作用室11への粉塵の進入を効果的に防止することができる。
【0131】
なお、固定スクロール20と可動スクロール30の材料として、適度な剛性を有するとともに、放熱性に優れ軽量であるアルミニウム合金が広く使用されている。したがって、環状本体部56の材料を、アルミニウムまたはアルミニウム合金とすることが好ましい。この例によれば、環状本体部56と溝25を形成するスクロール20,30の線膨張係数が同程度となり、膨張率や収縮率の相違による溝25内での防塵シール部材50の蛇行、たわみ、ねじれ等をより効果的に抑制し、固定スクロール20と可動スクロール30との間をより安定して密閉することが可能となる。
【0132】
また、図14に示すように、図示された例において、防塵シール部材50は、環状本体部56上に積層されたフッ素系樹脂層57を更に有する。フッ素系樹脂層57が、シール(シール部品)Sの第2シール部Sbをなしている。このフッ素系樹脂層57が、防塵シール部材50を保持する側とは反対側のスクロール(図示された例では、可動スクロール30)に接触する。フッ素系樹脂層57は、例えばポリテトラフルオロエイレン(PTFE)に代表されるように、優れた耐摩擦性を有している。したがって、フッ素系樹脂層57を設けることで、防塵シール部材50の摩耗、並びに、摩耗粉が作用室11に流入することを効果的に防止することができる。なお、数mm程度の厚みの環状本体部56に対し、フッ素系樹脂層57の厚みは、数百μm程度と非常に薄くてもよい。
【0133】
<第8の例>
次に、主として図15図18を参照して、防塵シール構造の第8の例について説明する。図15図18に示された例においては、防塵シール部材に合口部を設けないことによって、防塵シール部材による密閉性の改善を図っている。
【0134】
図15及び図16に示された例において、スクロール式流体機械10は、固定スクロール20及び可動スクロール30の一方に支持された第1防塵シール部材50aと、第1防塵シール部材50a上に配置された第2防塵シール部材50bと、を有している。このうち、第1防塵シール部材50aが、第1シール部Saをなしており、第2防塵シール部材50bが、第2シール部Sbをなしている。そして、第2防塵シール部材50bが、固定スクロール20及び可動スクロール30の他方に当接する。第1防塵シール部材50a及び第2防塵シール部材50bは、作用室11を取り囲み、固定スクロール20及び可動スクロール30の間を密閉する。
【0135】
第1防塵シール部材50a及び第2防塵シール部材50bは、継ぎ目の無い無端環状に形成されている。したがって、リークの原因となっていた合口部は形成されない。すなわち、合口部での両端部間を経路としていた従来のリークを防止できるので、作用室11への粉塵の進入を効果的に防止することができる。
【0136】
第1シール部Saをなす第1防塵シール部材50aは、従前広く使用されていた樹脂やゴムと比較して、熱変形しにくい金属によって形成されている。スクロール20,30に用いられる材料は、一般的に、第1防塵シール部材50aと同様に、高剛性及び耐摩耗性を有した金属である。したがって、金属製の第1防塵シール部材50aは、熱膨張や熱収縮を効果的に抑制することができ、さらに、当該第1防塵シール部材50aを保持する溝25と類似した変形挙動を呈するようになる。また、金属製の第1防塵シール部材50aは、それ自体、高剛性を有し、ねじり等の変形をきたしにくい。これらのことから、無担環状で金属製の環状本体部56は、合口部55がなくとも、スクロール式流体機械10の運転中、溝25内で、リークの原因となり得る第1防塵シール部材50aの蛇行やねじれの発生を効果的に防止することができる。
【0137】
上述したように、固定スクロール20と可動スクロール30の材料として、適度な剛性を有するとともに、放熱性に優れ軽量であるアルミニウム合金が広く使用されている。したがって、第1防塵シール部材50aの材料を、アルミニウムまたはアルミニウム合金とすることが好ましい。この例によれば、第1防塵シール部材50aと溝25を形成するスクロール20,30の線膨張係数が同程度となり、膨張率や収縮率の相違による溝25内での第1防塵シール部材50aの蛇行、たわみ、ねじれ等をより効果的に抑制し、固定スクロール20と可動スクロール30との間をより安定して密閉することが可能となる。
【0138】
第2シール部Sbをなす第2防塵シール部材50bは、樹脂製またはゴム製である。樹脂製またはゴム製の第2防塵シール部材50bは、図16に示すように、溝25内において、固定スクロール20と可動スクロール30が対向する方向(軸方向ad)に重ねて配置されている。とりわけ、第2防塵シール部材50bは、第1防塵シール部材50a上に配置され、第1防塵シール部材50aを介して付勢手段48によりスクロールに向けて押圧されている。樹脂製またはゴム製の第2防塵シール部材50b、スクロールとの間で優れた密閉性を有する。したがって、固定スクロール20と可動スクロール30との間を効果的密閉することができる。
【0139】
このような第2防塵シール部材50bは、フッ素系樹脂を用いて形成され得る。フッ素系樹脂は、例えばポリテトラフルオロエイレン(PTFE)に代表されるように、優れた耐摩擦性を有している。したがって、フッ素系樹脂製の第2防塵シール部材50bによれば、第2防塵シール部材50bの摩耗、並びに、摩耗粉が作用室11に流入することを効果的に防止することができる。
【0140】
なお、樹脂製またはゴム製の第2防塵シール部材50bは、優れた密閉性を有する一方で、比較的大きな熱膨張係数を有する。このためスクロール式流体機械10の運転中、空気圧縮を原因とした発熱により、或る程度熱変形することになる。図17に示された例において、第1防塵シール部材50a及び第2防塵シール部材50bは、溝25内に配置されているものの、第2防塵シール部材50bの径方向に沿った幅wbは溝の幅wmと比較して十分小さくなっている。このため、第2防塵シール部材50bを保持する溝25が、第2防塵シール部材50bの熱膨張および熱収縮を可能とする。とりわけ、図示された例において、第1防塵シール部材50aの幅waは、第2防塵シール部材50bの幅wbよりも広くなっている。したがって、幅狭の第2防塵シール部材50bは、膨張又は収縮して、幅広の第1防塵シール部材50a上において径方向rdに移動することが可能となる。これにより、スクロール式流体機械10の運転中、溝25内で、リークの原因となり得る第2防塵シール部材50bの蛇行やねじれの発生を効果的に防止することができる。
【0141】
また、図示された例では、図16に示すように、第1防塵シール部材50a及び第2防塵シール部材50bが当接する面は、径方向rdに対して傾斜している。より具体的に説明すると、第1防塵シール部材50aは、軸方向adにおける可動スクロール30側を向く第1面50a1と、軸方向adにおける固定スクロール20側を向く第2面50a2と、を有している。第2防塵シール部材50bは、軸方向adにおける可動スクロール30側を向く第1面50b1と、軸方向adにおける固定スクロール20側を向く第2面50b2と、を有している。そして、第1防塵シール部材50aの第1面50a1と第2防塵シール部材50bの第2面50b2とが互いに当接する当接面を形成するが、この当接面をなす第1面50a1及び第2面50b2が、径方向rdに対して傾斜している。その一方で、第1防塵シール部材50aの第2面50a2と第2防塵シール部材50bの第1面50b1は、径方向rdと平行になっている。つまり、第1防塵シール部材50aの軸方向adに沿った厚みは径方向rdに沿って変化し、第2防塵シール部材50bの軸方向adに沿った厚みも径方向rdに沿って変化する。第1防塵シール部材50aの厚みは、径方向rd外側に向けて、厚くなっていき、第2防塵シール部材50bの厚みは、径方向rd外側に向けて、薄くなっていく。これにともない、第1防塵シール部材50a及び第2防塵シール部材50bの当接面は、径方向rd外側に向けて、固定スクロール20側から可動スクロール30側へと移動する。
【0142】
図16に示された例において、第1防塵シール部材50a及び第2防塵シール部材50bは、低温時に実線で示された状態となる。一方、スクロール式流体機械10の運転中に空気圧縮を主原因とする発熱が生じると、第1防塵シール部材50a及び第2防塵シール部材50bは、二点鎖線で示された状態に移動する。すなわち、発熱にともなって、第2防塵シール部材50bが熱膨張して溝25内を径方向rd外側に移動する際、第1防塵シール部材50aは、軸方向adに沿って固定スクロール20の側へ移動する。このとき、第2防塵シール部材50bを可動スクロール30に押圧する付勢手段48からの押圧力は次第に強くなっていく。図16に示された例では、スクロール式流体機械10の運転が開始した後の熱膨張時および熱膨張後に、付勢手段48からの付勢力が増大して、固定スクロール20と可動スクロール30との間を安定して密閉することができる。
【0143】
ただし、第1防塵シール部材50a及び第2防塵シール部材50bの当接面の構成は、図16に示された例に限られず、例えば、図17図18に示された例を採用することもできる。図17に示された例において、第1防塵シール部材50a及び第2防塵シール部材50bの当接面は、図16に示された例と逆無きになる。この例によれば、スクロール式流体機械10の運転が開始した後の熱膨張時に、第2防塵シール部材50bは第1防塵シール部材50a上を径方向rd外側に移動しやすくなり、第2防塵シール部材50bの熱膨張が阻害されにくい。これにより、第1防塵シール部材50a及び第2防塵シール部材50bの蛇行やねじれ等の変形が効果的に防止される。また、図18に示された例では、第1防塵シール部材50aの第1面50a1及び第2面50a2、並びに、第2防塵シール部材50bの第1面50b1及び第2面50b2が、径方向rdと平行になっている。したがって、第1防塵シール部材50a及び第2防塵シール部材50bの溝25内における姿勢が安定し、固定スクロール20と可動スクロール30との間を安定して密閉することができる。
【0144】
なお、図17及び図18においても、図16と同様に、低温時における第1防塵シール部材50a及び第2防塵シール部材50bの状態を実線で示し、高温時における第1防塵シール部材50a及び第2防塵シール部材50bの状態を二点鎖線で示している。
【0145】
以上に説明した第8の例では、スクロール式流体機械10が、固定スクロール20及び可動スクロール30の一方に支持されて作用室11を取り囲む無担環状で金属製の第1防塵シール部材50aと、第1防塵シール部材50a上に設けられ固定スクロール20及び可動スクロール30の他方に当接する無担環状で樹脂製又はゴム製の第2防塵シール部材50bと、を有している。このようなスクロール式流体機械10によれば、スクロール式流体機械10の運転中に熱変形しにくい第1防塵シール部材50aと、密閉性に優れた第2防塵シール部材50bとの組み合わせにより、固定スクロール20と可動スクロール30との間を安定して密閉することができる。
【0146】
また、固定スクロール20及び可動スクロール30の一方に、作用室11を取り囲む周状の溝25が形成され、第1防塵シール部材50a及び第2防塵シール部材50bは、同一の溝25内に、固定スクロール20と可動スクロール30が対面する方向に重ねて配置されている。このような配置により、第1防塵シール部材50a及び第2防塵シール部材50bが上述した密閉機能をより安定して発揮することができる。
【0147】
さらに、第1防塵シール部材50aの幅waは、第2防塵シール部材50bの幅wbよりも広くなっている。この結果、熱膨張率の高くなりやすい傾向のある第2防塵シール部材50bが、第1防塵シール部材50a上で径方向rdに移動することが可能となり、これにより、第1防塵シール部材50a及び第2防塵シール部材50bの組み合わせによって、固定スクロール20と可動スクロール30との間をさらに安定して密閉することが可能となる。
【0148】
さらに、第1防塵シール部材50a及び第2防塵シール部材50bが当接する当接面は、径方向rdに対して傾斜している。このような当接面の構成によれば、第1防塵シール部材50a及び第2防塵シール部材50bの熱変形時においても、固定スクロール20と可動スクロール30との間を安定して密閉することができる。
【0149】
<<第3態様>>
次に、シール構造の第3態様について説明する。第3態様におけるシール(シール部品)Sは、相対移動可能であり互いに対向している第1部品20及び第2部品30の間にそれぞれに接触して配置される。環状のシールSは、その幅方向rdで接触した状態で1か所以上で重なっており、シールSが規定する周方向cdに沿ったシールSの最も幅が狭い部分の長さは、周方向cdに沿ったシールSのその他の部分の長さよりも短くなっている。言い換えると、環状のシールSは、その二以上の部分が幅方向rdに重なるようにして配置された領域を含んでいる。そして、シールSの二以上の部分が重なっている領域Ay(図19及び図21参照)の周方向cdに沿った長さは、その他の領域Ax(図19及び図21参照)の周方向cdに沿った長さよりも長くなっている。さらに言い換えると、シールSが幅方向rdに二重や三重に重なっている領域Ayの周方向cdに沿った長さは、シールSが単独で周方向cdに延びている領域Axの周方向cdに沿った長さよりも長くなっている。
【0150】
このような態様によれば、シールSが幅方向に重複して配置されている領域が長くなる。とりわけ、環状のシールSの全長に沿った半分を超える領域において、シールSが幅方向に重複して配置されるようにすることも可能となる。このような態様によれば、粉塵等の異物の進入経路を長距離化することで、環状のシールSによって囲まれた領域を外部から効果的に密閉することができる。スクロール式流体機械10への適用においては、作用室11内への粉塵の流入を効果的に防止することができ、固定ラップ23及び可動ラップ33の先端シール材23a,33aの予定外の早期劣化を効果的に回避することができる。
【0151】
また、第3態様において、最も幅が狭い部分には、一つの防塵シール部材50が単独で設けられ、そして図21に示すように、このような最も幅が狭い部分Axが、防塵シールSの周方向cdに離間して二以上設けられているようにしてもよい。言い換えると、シールSの二以上の部分が幅方向rdに重なっている領域Ayが、シールSの長手方向に離間して二以上設けられていてもよい。このようなシールSは、二つの防塵シール部材50を用いるといった簡易な構成で容易に実現することができる。また、この場合における二つの防塵シール部材50の設置は、極めて容易であり、精確に配置することで、安定した密閉性を確保することが可能となる。
【0152】
さらに、第3態様において、最も幅が狭い部分Axの一つAx1が、シールSの周方向cdに沿って最も離間した二つの位置p1,p2の一方p1を含む領域に設けられ、最も幅が狭い部分Axの他の一つAx2が、前記二つの位置の他方p2を含む領域に設けられているようにしてもよい。言い換えると、シールSの二以上の部分が重なっている領域Ayの一つAy1が、シールSの周方向cdに沿って最も離間した二つの位置の一方p3を含む領域に設けられ、シールSの二以上の部分が重なっている領域Ayの他の一つAy2が、前記二つの位置の他方p4を含む領域に設けられているようにしてもよい。このような例によれば、例えば第10の例で説明するように、優れた密閉性を確保することが可能となる。
【0153】
なお、第3態様において、シール(シール部品)Sは、単一のシール部材50を有するようにしても良いし、複数のシール部材50を有するようにしてもよい。後述の第9の例において、シールSは、単一のシール部材50を有している。一方、第10の例では、シールSは、複数の防塵シール部材50を有している。
【0154】
以下、具体例を参照して、シール構造の第3態様について説明する。ただし、以下の具体的な構成は、例示に過ぎず、種々の変更が可能である。
【0155】
<第9の例>
次に、主として図19及び図20を参照して、防塵シール構造の第9の例について説明する。図19及び図20に示された例においては、粉塵の進入経路を大幅に長距離化することで、防塵シール部材50による密閉性の改善を図っている。
【0156】
図19及び図20に示された例において、防塵シール部材50は、固定スクロール20及び可動スクロール30の一方に保持されて固定スクロール20及び可動スクロール30の他方に当接する。防塵シール部材50は、線状であり、図示された例では作用室11の周囲を略二周取り囲んでいる。この結果、防塵シール部材50は、固定スクロール20及び可動スクロール30の間で作用室11を密閉することができる。
【0157】
防塵シール部材50は、固定スクロール20及び可動スクロール30の一方に形成された溝25内に配置されている。図19に示すように、溝25は、周方向cdに沿って一定となる幅を有することができる。防塵シール部材50が、溝25内を略二周することで、言い換えると、略720°にわたって延びることで、溝25の周方向cdに沿ったほとんどの領域において、幅方向(径方向)rdに防塵シール部材50の二つの部分が並ぶようになる。
【0158】
図20に示すように、防塵シール部材50及び付勢手段48が、固定スクロール20及び可動スクロール30が対面する方向(軸方向ad)に配置されて、固定スクロール20及び可動スクロール30の間を密閉している場合、作用室11内に流入する粉塵は、径方向rdに並ぶ二つの防塵シール部材50の間を通過することになる。図19に示された例では、作用室11内に流入する粉塵は、作用室11の周囲を略一周に亘って、径方向rdに並ぶ二つの防塵シール部材50の間を移動しなければならない。したがって、作用室11の周囲を略二周する防塵シール部材50によれば、固定スクロール20及び可動スクロール30の間を安定して密閉し、作用室11への粉塵等の流入を効果的に防止することができる。
【0159】
なお、図19に示された例では、防塵シール部材50は、作用室11の周囲を略720°の角度範囲θr1にわたって延びている。しかしながら、作用室11への粉塵等の流入を効果的に防止する観点からは、防塵シール部材50は、このような大きな角度範囲θr1に亘って延びている必要はない。例えば、防塵シール部材50が作用室11の周囲を取り囲む角度範囲θr1は、405°(360°+45°)以上であれば、十分に密閉性を改善することができる。また、密閉性を改善する観点から、この角度範囲θr1は、450°(360°+90°)以上であることが好ましく、540°(360°+180°)以上であることがより好ましく、図19に示された略720°であることがさらに好ましい。
【0160】
<第10の例>
次に、主として図21及び図22を参照して、防塵シール構造の第10の例について説明する。図21及び図22に示された例においては、第9の例と同様に、粉塵の進入経路を長距離化することで、防塵シール部材50による密閉性の改善を図っている。
【0161】
第9の例において、スクロール式流体機械10は、第1防塵シール部材50c及び第2防塵シール部材50dを有している。すなわち、防塵シールSは、第1防塵シール部材50c及び第2防塵シール部材50dを含んでいる。第1防塵シール部材50c及び第2防塵シール部材50dは、固定スクロール20及び可動スクロール30の一方に保持されて固定スクロール20及び可動スクロール30の他方に当接する。第1防塵シール部材50cは、作用室11を少なくとも部分的に取り囲んでいる。また、第1防塵シール部材50cは、第2防塵シール部材50dを少なくとも部分的に取り囲んでいる。第2防塵シール部材50dは、第1防塵シール部材50cとともに作用室11を全周囲から取り囲んでいる。この結果、第1防塵シール部材50c及び第2防塵シール部材50dは、固定スクロール20及び可動スクロール30の間で作用室11を密閉することができる。
【0162】
二本の防塵シール部材50c,50dは、固定スクロール20及び可動スクロール30の一方に形成された溝25内に配置されている。図21及び図22に示すように、溝25は、周方向cdに沿って一定となる幅を有することができる。図示された例では、単一の溝25内に、二本の防塵シール部材50c,50dが配置されている。溝25の周方向cdに沿ったほとんどの領域において、径方向rdに二つの防塵シール部材50が並ぶようになる。
【0163】
防塵シール部材50及び付勢手段48が、固定スクロール20及び可動スクロール30が対面する方向(軸方向ad)に配置されて、固定スクロール20及び可動スクロール30の間を密閉している場合、作用室11内に流入する粉塵は、径方向rdにおける外側に位置する第1防塵シール部材50cの両端部58a,58b間を通過し、その後更に、内側に位置する第2防塵シール部材50dの両端部59a,59b間を通過しなければならない。したがって、作用室11の周囲に配置された二本の防塵シール部材50c,50dによれば、固定スクロール20及び可動スクロール30の間を安定して密閉し、作用室11への粉塵等の流入を効果的に防止することができる。
【0164】
とりわけ、図21及び図22に示された例では、第1防塵シール部材50cの両端部58a,58bの間となる位置paは、第2防塵シール部材50dの両端部59a,59bの間となる位置pbから周方向cdへずれて位置している。この例によれば、作用室11内に流入する粉塵は、二つの防塵シール部材50c,50dの間の空間を周方向cdに位置paから位置pbまで移動しなければならない。したがって、作用室11の周囲に配置された二本の防塵シール部材50c,50dによれば、固定スクロール20及び可動スクロール30の間をより安定して密閉し、作用室11への粉塵等の流入を効果的に防止することができる。
【0165】
なお、図21及び図22に示された例では、第1防塵シール部材50cの両端部58a,58bの間となる位置paは、第2防塵シール部材50dの両端部59a,59bの間となる位置pbから、略半周だけ、つまり略180°周方向cdへずれて位置している。このような構成は、作用室11への粉塵等の流入を防止する上で好ましい。ただし、第1防塵シール部材50cの両端部58a,58bの間となる位置paと、第2防塵シール部材50dの両端部59a,59bの間となる位置pbとの周方向cdに沿ったずれ角度θsが45°以上であれば、密閉性を十分に改善することができ、この角度θsが90°以上であれば、さらに効果的に密閉性を改善することができる。
【0166】
また、図21及び図22に示された例とは異なり、シール(シール部品)Sが、三つ以上の防塵シール部材50を含むようにしてもよい。例えば、シールSが、三つの防塵シール部材50を含む場合には、各防塵シール部材50の両端部の間となる位置が、90°以上150°以下の角度で周方向cdにずれるようにしてもよいし、120°の角度で周方向cdにずれることがより好ましい。
【0167】
さらに、図22に示された例において、第1防塵シール部材50cの端部と、第2防塵シール部材50dの端部は、異なる構成を有している。これらの第1防塵シール部材50c及び第2防塵シール部材50dは、それぞれ、上述の第1態様における防塵シール部材50を構成している。そして、第1防塵シール部材50cの両端部58a,58bは、幅方向(径方向)rdに重なるようにして切断部CU(合口部55)を形成している。同様に、第2防塵シール部材50dの両端部59a,59bは、幅方向(径方向)rdに重なるようにして切断部CU(合口部55)を形成している。第1防塵シール部材50c及び第2防塵シール部材50dの少なくとも一方が、第1態様による防塵シール部材50を構成し、当該少なくとも一方の両端部が切断部CU(合口部55)を形成することで、密閉性をより向上することができ、加えて、第1防塵シール部材50c及び第2防塵シール部材50dが異なる端部の構成を有することで、種々の形体の粉塵に対応することができ、密閉性をさらに向上することができる。
【0168】
また、図22に示された例において、第1防塵シール部材50cは、幅方向(径方向)rdにおける内側に位置する内側端部(内側部分)58aと、内側端部58aの幅方向(径方向)rdにおける外側に位置する外側端部(外側部分)58bと、を有している。内側端部58aは、外側端部58bに対して、周方向cdにおける一側s1に位置している。第2防塵シール部材50dは、幅方向(径方向)rdにおける内側に位置する内側端部(内側部分)59aと、内側端部59aの幅方向(径方向)rdにおける外側に位置する外側端部(外側部分)59bと、を有している。内側端部59aは、外側端部59bに対して、周方向cdにおける他側に位置している。すなわち、第1防塵シール部材50cと第2防塵シール部材50dとの間で、内側端部および外側端部の周方向cdにおける位置が逆となっている。このような例によれば、第2防塵シール部材50dの合口部55、第2防塵シール部材50d及び第1防塵シール部材50cの間、第1防塵シール部材50cの合口部55を通過する流体は、周方向cdにおける進む向きを途中で逆転させることになる。したがって、第1防塵シール部材50c及び第2防塵シール部材50dによる密閉性をさらに改善することができる。
【0169】
以上、本発明を一実施の形態に基づいて説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではなく、この他にも種々の態様で実施可能である。また、上述の一実施の形態では、図面を参照しながら複数の具体例について説明したが、当然に、各例の全部又はその一部の構成を、一以上の他の例の全部又はその一部の構成と適宜組み合わせて適用することも可能である。
【0170】
また、上述してきた防塵シール部材50の構成は、同様に、付勢手段48にも適用することができる。例えば、付勢手段48に切断部および合口部を設けて、上述してきた防塵シール部材50の切断部CU及び合口部55の構成を適用してもよい。付勢手段48に対して上述してきた防塵シール部材50の構成を採用することで、付勢手段48でのリークを効果的に防止することができる。
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