(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-06
(45)【発行日】2023-06-14
(54)【発明の名称】新規白金錯体
(51)【国際特許分類】
C07C 53/126 20060101AFI20230607BHJP
C07C 13/263 20060101ALI20230607BHJP
C07C 13/605 20060101ALI20230607BHJP
C07C 53/128 20060101ALI20230607BHJP
C07C 53/134 20060101ALI20230607BHJP
C07F 15/00 20060101ALI20230607BHJP
【FI】
C07C53/126
C07C13/263
C07C13/605
C07C53/128
C07C53/134
C07F15/00 F CSP
(21)【出願番号】P 2022513349
(86)(22)【出願日】2020-07-01
(86)【国際出願番号】 EP2020068465
(87)【国際公開番号】W WO2021058154
(87)【国際公開日】2021-04-01
【審査請求日】2022-02-25
(32)【優先日】2019-09-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】515131116
【氏名又は名称】ヘレウス ドイチェラント ゲーエムベーハー ウント カンパニー カーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】シエヴィ、ロバート
(72)【発明者】
【氏名】ワルター、リチャード
(72)【発明者】
【氏名】ラウター、ホルガー
(72)【発明者】
【氏名】ゴック、マイケル
(72)【発明者】
【氏名】ウルランド、ホルガー
【審査官】長谷川 莉慧霞
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第05695815(US,A)
【文献】国際公開第2014/060864(WO,A1)
【文献】特表平04-504133(JP,A)
【文献】国際公開第1990/007561(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F
C07C
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
[L1L2Pt[O(CO)R1]X]
n型の白金錯体であって、
式中、L1及びL2
は、同じ又は異なるモノオレフィン配位子を表し、又は
一体となって、ジオレフィン配位子として機能する化合物L1L2を表し、
Xは、ブロマイド、クロライド、ヨウダイド、及び-O(CO)R2から選択され、
-O(CO)R1及び-O(CO)R2は、それぞれフェニル酢酸基を除いて、同じ又は異なるC6~C1
8非芳香族モノカルボン酸基を表し、又は
一体となって、C8~C18非芳香族ジカルボン酸基-O(CO)R1R2(CO)O-を表し、
前記白金錯体は、
n=1を有する単核白金錯体であり、又は
、
L1L2及び/又は-O(CO)R1R2(CO)O-が
架橋配位子として存在する場合、前記白金錯体は、整数n>1の多核白金錯体で
ある、
白金錯体。
【請求項2】
L1L2が、ジオレフィン配位子として機能する化合物を表し、
Xは、ブロマイド、クロライド、ヨウダイド、及び-O(CO)R2から選択され、
-O(CO)R1及び-O(CO)R2は、それぞれフェニル酢酸基を除いて、同じ又は異なるC6~C1
8非芳香族モノカルボン酸基を表し、前記白金錯体は、n=1の単核白金錯体であり、又は整数n>1の多核白金錯体である、請求項1に記載の白金錯体。
【請求項3】
整数n>1が2~5の範囲にある、請求項1又は2に記載の白金錯体。
【請求項4】
個別化又は組み合わせた形態における、請求項1~3のいずれか一項に記載の白金錯体。
【請求項5】
[(COD)Pt[O(CO)R1]
2]
n型又は[(NBD)Pt[O(CO)R1]
2]
n型の白金錯体であって、式中、nは、1又は2であり、R1は、ベンジルを除いてC5~C1
7非芳香族炭化水素基を表す、白金錯体。
【請求項6】
配位子交換を介して請求項1~5のいずれか一項に記載の白金錯体を製造する方法であって、二相系を乳化することであって、一方の相が、ブロマイド、クロライド及びヨウダイドから選択されるXを有する[L1L2PtX
2]
n型の反応物
の水非混和性の有機溶液を含み、他の相が、R1COOH及び任意にR2COOHから対応して選択されるモノカルボン酸又はジカルボン酸HOOCR1R2COOHのアルカリ塩及び/又はマグネシウム塩の水溶液を含む、乳化することを含む、方法。
【請求項7】
基材上に白金層を製造するための、請求項1~5のいずれか一項に記載の1つ以上の白金錯体の、又は請求項6に記載の方法を介して得ることができる1つ以上の白金錯体の使用。
【請求項8】
前記基材が、温度感受性基材である、請求項7に記載の使用。
【請求項9】
前記白金錯体の有機溶液を提供することと、前記有機溶液を基材に直接又は少なくとも1つの更なる成分を有する調製物の成分として適用することと、前記適用したコーティングを前記白金錯体の分解温度超の物体温度に加熱することと、を含む、請求項7又は8に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規白金錯体、それらの製造方法、及び白金層を製造するためのそれらの使用に関する。
【0002】
国際公開第90/07561(A1)号は、式LM[O(CO)R]2の白金錯体であって、式中、Lが、窒素を含まない環状ポリオレフィン配位子、好ましくはシクロオクタジエン(COD)又はペンタメチルシクロペンタジエンを表し、Mは、白金又はイリジウムを表し、Rは、4個以上の炭素原子を有するベンジル、アリール、又はアルキル、特に好ましくはフェニルを表す、白金錯体を開示している。白金錯体は、燃料添加剤として役立つ。
【0003】
本発明の目的は、特に温度感受性基材上であっても白金層を製造するために使用され得る白金化合物を見出すことであった。
【0004】
この目的は、[L1L2Pt[O(CO)R1]X]n型の白金錯体であって、
式中、L1及びL2が、同じ又は異なるモノオレフィン配位子であり、又は一緒に、ジオレフィン配位子として機能する化合物L1を表し、
Xは、ブロマイド、クロライド、ヨウダイド、及び-O(CO)R2から選択され、
-O(CO)R1及び-O(CO)R2は、フェニル酢酸基を除いて、同じ又は異なるC6~C18又は好ましくはC8~C18の非芳香族モノカルボン酸基を表し、又は一緒に、C8~C18非芳香族ジカルボン酸基-O(CO)R1R2(CO)O-を表し、
当該白金錯体は、n=1の単核白金錯体であり、又はL1L2及び/又は-O(CO)R1R2(CO)O-が存在する場合、当該白金錯体は、整数n>1の多核白金錯体であり得る、白金錯体を提供することによって達成することができる。
【0005】
本発明によれば、好ましくは、[L1L2Pt[O(CO)R1]X]n型の白金錯体であって、L1及びL2が一緒に、ジオレフィン配位子として機能する化合物L1L2を表し、
Xは、ブロマイド、クロライド、ヨウダイド、及び-O(CO)R2から選択され、
-O(CO)R1及び-O(CO)R2は、それぞれ、フェニル酢酸基を除いて、同じ又は異なるC6~C18又は好ましくはC8~18非芳香族モノカルボン酸基を表し、
当該白金錯体は、n=1の単核白金錯体、又は整数n>1の多核白金錯体である、白金錯体が提供される。式中、L1L2は、ジオレフィン配位子として機能する化合物を表す。
【0006】
本発明による多核白金錯体の場合、数nは概して、例えば2~5の範囲の整数を表す。言い換えれば、整数n>1は、概して2~5の範囲であり、特に、このnが2に等しい場合、白金錯体は、二核白金錯体である。特に、化合物L1L2又はそれぞれ、ジカルボン酸基-O(CO)R1R2(CO)O-は、本発明による多核白金錯体中の架橋配位子として機能する。Xはまた、架橋効果を有し得る。
【0007】
白金錯体中に、白金は、+2の酸化状態で存在する。
【0008】
L1L2Pt[O(CO)R1]X型の単核白金錯体の本発明による第1の実施形態では、L1及びL2は、同じ又は異なるモノオレフィン配位子であり、Xは、ブロマイド、クロライド、ヨウダイド、又は-O(CO)R2を表し、-O(CO)R1及び-O(CO)R2は、それぞれ、フェニル酢酸基を除いて、同じ又は異なる非芳香族C6~C18又は好ましくはC8~C18モノカルボン酸基である。
【0009】
L1L2Pt[O(CO)R1]X型の単核白金錯体の本発明による第2の及び同時に好ましい実施形態では、L1及びL2は一緒に、同じ中心白金原子でジオレフィン配位子として機能する化合物L1L2であり、Xは、ブロマイド、クロライド、ヨウダイド、又は-O(CO)R2を表し、-O(CO)R1及び-O(CO)R2は、それぞれ、フェニル酢酸基を除いて、同じ又は異なるC6~C18又は好ましくはC8~C18の非芳香族モノカルボン酸基を表す。
【0010】
L1L2Pt[O(CO)R1]X型の単核白金錯体の本発明による第3の実施形態では、L1及びL2は、同じ又は異なるモノオレフィン配位子であり、Xは、-O(CO)R2を表し、-O(CO)R1及び-O(CO)R2は一緒に、同じ中心白金原子で二座配位子として機能するC8~C18非芳香族ジカルボン酸基-O(CO)R1R2(CO)O-を表す。
【0011】
L1L2Pt[O(CO)R1]X型の単核白金錯体の本発明による第4の実施形態では、L1、及びL2は一緒に、同じ中心白金原子でジオレフィン配位子として機能する化合物L1L2であり、Xは、-O(CO)R2を表し、-O(CO)R1及び-O(CO)R2は一緒に、同じ中心白金原子で二座配位子として機能するC8~C18非芳香族ジカルボン酸基-O(CO)R1R2(CO)O-を表す。
【0012】
[L1L2Pt[O(CO)R1]X]n型の二核又は多核白金錯体の本発明による第1の及び同時に好ましい実施形態では、L1及びL2は一緒に、異なる白金中心を架橋し、ジオレフィン配位子として機能する化合物L1L2を表し、Xは、ブロマイド、クロライド、ヨウダイド、又は-O(CO)R2を表し、nは、2、3、4、又は5、好ましくは2を表し、-O(CO)R1及び-O(CO)R2は、各々の場合において、フェニル酢酸基を除いて、同じ又は異なるC6~C18又は好ましくはC8~C18の非芳香族モノカルボン酸基である。
【0013】
[L1L2Pt[O(CO)R1]X]n型の本発明による二核又は多核白金錯体の第2の実施形態では、L1及びL2は一緒に、異なる白金中心を架橋し、ジオレフィン配位子として機能する化合物L1L2を表し、Xは、-O(CO)R2を表し、nは、2、3、4、又は5、好ましくは2を表し、-O(CO)R1及び-O(CO)R2は一緒に、異なる白金中心を架橋するC8~C18非芳香族ジカルボン酸基-O(CO)R1R2(CO)O-を表す。
【0014】
[L1L2Pt[O(CO)R1]X]n型の二核又は多核白金錯体の本発明による第3の実施形態では、L1及びL2は、同じ又は異なるモノオレフィン配位子を表し、Xは、-O(CO)R2を表し、nは、2、3、4、又は5、好ましくは2を表し、-O(CO)R1及び-O(CO)R2は一緒に、異なる白金中心を架橋するC8~C18非芳香族ジカルボン酸基-O(CO)R1R2(CO)O-を表す。
【0015】
本発明は、個別化され、また組み合わされた形態で、すなわち、単独で、又はそれぞれ[L1L2Pt[O(CO)R1]X]n型の複数の異なる種の混合物としても、当該白金錯体に関する。
【0016】
L1及びL2は、単独で、同じ若しくは異なる、好ましくは同じモノオレフィンを表し、又は一緒に、ジオレフィン配位子として機能することができるポリオレフィン性不飽和化合物L1L2、例えば、ジオレフィン又はポリオレフィンを表す。これにより、ジオレフィン配位子として機能することができるポリオレフィン性不飽和化合物L1L2が好ましい。
【0017】
モノオレフィンの例としては、単一のオレフィン性不飽和二重結合を有するC2~C18炭化水素が挙げられる。これらは、それによって、直鎖化合物、分岐化合物、又は環状構造を有する化合物であり得る。これらは、好ましくは純粋な炭化水素であり、しかしながら、例えば、官能基の形態でヘテロ原子の存在も可能である。モノオレフィンの好ましい例としては、エテン、プロペン、及びシクロヘキセンが挙げられる。
【0018】
ジオレフィン又はそれぞれ、ジオレフィン配位子として機能することができるL1L2型の化合物の例としては、COD(1、5-シクロオクタジエン)、NBD(ノルボルナジエン)、COT(シクロオクタテトラエン)、及び1、5-ヘキサジエン、特にCOD及びNBDなどの炭化水素が挙げられる。これらは、好ましくは純粋な炭化水素であり、しかしながら、例えば、官能基の形態でヘテロ原子の存在も可能である。
【0019】
Xは、ブロマイド、クロライド、ヨウダイド、又は-O(CO)R2を表すことができる。Xは、好ましくは、クロライド又は-O(CO)R2、特に-O(CO)R2を表す。
【0020】
それぞれの非芳香族モノカルボン酸基-O(CO)R1及び-O(CO)R2は単独で、それぞれ、フェニル酢酸基を除いて、同じ又は異なるC6~C18又は好ましくはC8~C18の非芳香族モノカルボン酸基を表す。それらは一緒に、-O(CO)R1R2(CO)O-型のC8~C18非芳香族ジカルボン酸基を表す。本文で使用される「非芳香族」という用語は、純粋な芳香族モノカルボン酸及びジカルボン酸基を除外するが、カルボキシル官能基が脂肪族炭素に結合しているアラリファティックモノカルボン酸(araliphatic monocarboxylic acid)及びジカルボン酸基は除外しない。-O(CO)R1及びまた-O(CO)R2は、いかなる場合でも、フェニル酢酸基を表すものではない。好ましくは、-O(CO)R1及び-O(CO)R2は、それぞれ、フェニル酢酸基を除いて、同じ又は異なるC6~C18又はC8~18非芳香族モノカルボン酸基を表し、特に、-O(CO)R1及び-O(CO)R2は、好ましくは、同じC6~C18又はC8~C18の非芳香族モノカルボン酸基を表すが、いかなる場合でも、フェニル酢酸基を表すものではない。
【0021】
-O(CO)R1又はそれぞれ-O(CO)R2を有するC6~C18非芳香族又は好ましいC8~C18非芳香族モノカルボン酸の例としては、少しの例を挙げると、異性体ヘキサン酸、異性体ヘプタン酸、n-オクタン酸及び2-エチルヘキサン酸をはじめとする異性体オクタン酸、異性体ノナン酸、及び異性体デカン酸が挙げられる。カルボキシル基に結合したそれぞれのR1及びR2基は、5~17又はそれぞれ7~17個の炭素原子を含み、それに関して、ベンジルは除外される。
【0022】
HOOCR1R2COOH型のC8-C18非芳香族ジカルボン酸の例としては、少しの例を挙げると、対応する置換マロン酸、対応する置換1,1-シクロブタンジカルボン酸、及びシクロヘキサンジカルボン酸が挙げられる。2つのカルボキシル基を有する構造要素-R1R2-は、6~16個の炭素原子を含む。
【0023】
本発明による白金錯体の好ましい例としては、[(COD)Pt[O(CO)R1]2]n及び[(NBD)Pt[O(CO)R1]2]nが挙げられ、式中、nは、1又は2、特に1であり、R1は、ベンジルを除いてC5~C17又はC7~C17非芳香族炭化水素基を表す。
【0024】
本発明による白金錯体[L1L2Pt[O(CO)R1]X]nは、配位子交換を介して、容易に調製することができ、これに関して特に銀のカルボン酸塩を使用することがない。製造方法は、混合又はそれぞれ、二相系を懸濁又は乳化することを含む。それに関して、一方の相は、[L1L2PtX2]n型の反応物であって、Xがブロマイド、クロライド、及びヨウダイド、好ましくはクロライドから選択されるものを、そのようなもののまま、又はそのような反応物の少なくとも実質的に水非混和性の有機溶液の形態のいずれかで含む。好ましい反応物としては、[L1L2PtCl2]nであって、nを1~5の整数、特にn=1とするものが挙げられる。好適な少なくとも実質的に水非混和性の有機溶媒の例としては、酸素含有溶媒、例えば、トルエン、キシレン、ジ-、トリ、及びテトラクロロメタンなどの芳香族及び塩素化炭化水素に加えて、対応する水非混和性ケトン、エステル、及びエーテルが挙げられる。比較として、他の相は、R1COOH型、及び任意に更にR2COOH型のC6-C18モノカルボン酸又はそれぞれC8-C18モノカルボン酸のアルカリ塩(特にナトリウム又はカリウム塩)及び/又はマグネシウム塩の水溶液、又はHOOCR1R2COOH型のC8-C18ジカルボン酸の対応するアルカリ塩及び/又はマグネシウム塩の水溶液を含む。モノカルボン酸塩の型の選択は、製造される本発明による白金錯体の型、又は製造される本発明による白金錯体の組み合わせに依存する。2つの相は、例えば振盪及び/又は撹拌によって激しく混合され、それによって懸濁液又はエマルジョンを形成する。混合は、懸濁状態又は乳化状態を、例えば、0.5~24時間の期間、例えば20~50℃の範囲の温度で維持する目的で行われる。それにより配位子交換が行われ、本発明によって形成された白金錯体は有機相に溶解する一方、同様に形成されたアルカリX塩又はMgX2塩は水相に溶解する。懸濁又は乳化が完了すると、有機相及び水相が互いに分離される。本発明によって形成された白金錯体は、有機相から得、必要に応じて、従来の方法によってその後精製することができる。
【0025】
例えば、1つの具体例のみを挙げると、(COD)Pt[O(CO)CH(C2H5)C4H9]2は、(COD)PtCl2のジクロロメタン溶液と2-エチルヘキサン酸ナトリウムの水溶液とを合わせて乳化することにより調製することができる。乳化完了後、配位子交換により形成された塩溶液をジクロロメタン相から分離し、後者から(COD)Pt[O(CO)CH(C2H5)C4H9]2を単離し、任意に従来の精製方法を介して精製することができる。例えば、白金錯体(COD)Pt[O(CO)CH(C2H5)C4H9]Clも、化学量論がそれに応じて選択される場合、同様に製造することができる。
【0026】
本発明による白金錯体は、従来の有機溶媒に無限に容易に溶解することができる。例えば、それらは、アリフェート、シクロアリフェート、トルエンやキシレンなどの芳香族、アルコール、エーテル、グリコールエーテル、エステル、及びケトンに溶解して真の溶液、すなわち非コロイド溶液を形成することができる。
【0027】
従来の有機溶媒における当該溶解性に加えて、重要な特性は、本発明による白金錯体の比較的低い分解温度、例えば、150℃未満から、概して200℃以下の分解温度である。この特徴の組み合わせにより、基材上に白金層を製造するための、本発明による白金錯体の使用が可能になる。白金層の製造において、コロイド状白金又はナノ白金を含有する調製物を使用する必要がない本発明による白金錯体によっても有利であるため、それらに関連する任意の可能性のあるリスクを回避することができる。
【0028】
白金層を作製する目的で、本発明による有機的に溶解した白金錯体は、基材上に、例えば、有機溶液として直接適用することができ、又は有機溶液は、少なくとも1つの更なる成分を有する調製物の成分であり得る。本発明による白金錯体を含むコーティングは、最初に乾燥させて有機溶媒をなくした後、それ、又は乾燥残留物を、熱処理を介して分解して、層の形態で金属白金を形成することができる。熱処理は、本発明による白金錯体、又は本発明による白金錯体の組み合わせの分解温度超の物体温度までの加熱を含む。この目的のために、例えば、加熱は、概して、150℃~200℃の前述の分解温度範囲を超える物体温度まで、すなわち、例えば、150℃超~200℃超、例えば、1000℃まで、例えば炉内及び/又は赤外線照射を介して、短時間で行われる。概して、物体温度は、分解温度をわずかに超えるように選択される。概して、加熱は、より正確に述べると、物体温度の維持が、15分を超える必要はない。
【0029】
このようにして得られる白金層は、ミラーに匹敵する高い金属光沢を特徴とし、白金層は、平滑でザラザラしていない外表面という観点から均質である。そのような白金層の厚さは、例えば、50nm~5μmの範囲であり得、白金層は、表面内に所望の不連続性のある、又はない平面の性質を有し得、又は所望のパターン若しくは設計を有し得る。白金層は、温度感受性基材上で、すなわち、例えば、200℃を超える温度安定性ではない基材上で製造され得る。例えば、これらは、温度感受性ポリマー基材、例えば、ポリオレフィン又はポリエステルに基づくものであり得る。
【実施例】
【0030】
実施例1(COD)Pt[O(CO)CH(C2H5)C4H9]2の調製及び白金層の製造における使用
100mlのジクロロメタン中65mmolの(COD)PtCl2の溶液を撹拌し、500mlの水中260mmolの2-エチルヘキサン酸ナトリウムの溶液を添加した。2相混合物を激しく撹拌しながら20℃で24時間乳化させた。ジクロロメタン相は、それによって黄色に変わった。
【0031】
ジクロロメタン相を分離し、溶媒を留去した。粘性の黄色の残留物を石油ベンジン(40~60)に吸収し、溶液を硫酸マグネシウムで乾燥させ、濾過した。次いで、石油ベンジンを完全に留去した。粘性の黄色の残留物(COD)Pt[O(CO)CH(C2H5)C4H9]2が残った。200℃まで10分間加熱した後、(COD)Pt[O(CO)CH(C2H5)C4H9]2の20μm厚の層から鏡面の0.5μmの白金の薄層を得ることができた。
【0032】
実施例2(COD)Pt[O(CO)C6H11]2)の調製
実施例1と同様に、100mlのジクロロメタン中32.5mmolの(COD)PtCl2を、200mlの水中130mmolのシクロヘキサン酸ナトリウムと反応させた。
【0033】
実施例3(COD)Pt[O(CO)C7H15]2)の調製
実施例1と同様に、100mlのジクロロメタン中32.5mmolの(COD)PtCl2を、200mlの水中130mmolのn-オクタン酸ナトリウムと反応させた。
【0034】
実施例4(COD)Pt[O(CO)C8H17]2)の調製
実施例1と同様に、200mlのジクロロメタン中130mmolの(COD)PtCl2を、500mlの水中520mmolのイソノナノン酸ナトリウムと反応させた。
【0035】
実施例5(COD)Pt[O(CO)(CH2)5C(CH3)3]2)の調製
実施例1と同様に、100mlのジクロロメタン中65mmolの(COD)PtCl2を、500mlの水中260mmolのネオデカン酸ナトリウムと反応させた。
【0036】
実施例6(NBD)Pt[O(CO)CH(C2H5)C4H9]2)の調製
実施例1と同様に、100mlのジクロロメタン中27.3mmolの(NBD)PtCl2を、100mlの水中110mmolの2-エチルヘキン酸ナトリウムと反応させた。