(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-06
(45)【発行日】2023-06-14
(54)【発明の名称】熱硬化性フィルム、複合シート、及び半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/52 20060101AFI20230607BHJP
【FI】
H01L21/52 E
(21)【出願番号】P 2023515728
(86)(22)【出願日】2022-07-27
(86)【国際出願番号】 JP2022028934
【審査請求日】2023-03-09
(31)【優先権主張番号】P 2021164007
(32)【優先日】2021-10-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000102980
【氏名又は名称】リンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100126882
【氏名又は名称】五十嵐 光永
(74)【代理人】
【識別番号】100153763
【氏名又は名称】加藤 広之
(72)【発明者】
【氏名】安達 一政
(72)【発明者】
【氏名】七島 祐
【審査官】河合 俊英
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-053190(JP,A)
【文献】特開2011-103440(JP,A)
【文献】国際公開第2020/196138(WO,A1)
【文献】特開2018-123253(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱硬化性フィルムであって、
大きさが2mm×2mmで厚さが20μmである前記熱硬化性フィルムの硬化物と、前記硬化物の一方の面の全面に設けられた、厚さが300μmである銅板と、前記硬化物の他方の面の全面に設けられた、厚さが350μmであるシリコンチップと、を備えており、前記硬化物の側面と前記シリコンチップの側面が位置合わせされて構成された第1試験片を作製し、前記銅板を固定した状態で、前記第1試験片中の前記硬化物の側面と前記シリコンチップの側面の位置合わせされた部位に対して、同時に、前記硬化物の一方の面に対して平行な方向に、200μm/secの速度で力を加えたとき、前記硬化物が破壊されるか、前記硬化物が前記銅板から剥離するか、又は、前記硬化物が前記シリコンチップから剥離する、までに加えられた前記力の最大値であるせん断強度が、100N/2mm□以上であり、
5℃で168時間保管した前記熱硬化性フィルムを用いて、直径が10mmで高さが10mmである円柱状の第2試験片を作製し、前記第2試験片に490Nの力を加えながら、前記第2試験片を昇温速度10℃/minで50℃から昇温し、直径0.5mmの毛細管から押し出された、温度が90℃の前記第2試験片の溶融粘度V
0を測定し、40℃で504時間保管した前記熱硬化性フィルムを用いて、直径が10mmで高さが10mmである円柱状の第3試験片を作製し、前記第3試験片に490Nの力を加えながら、前記第3試験片を昇温速度10℃/minで50℃から昇温し、直径0.5mmの毛細管から押し出された、温度が90℃の前記第3試験片の溶融粘度V
1を測定したとき、下記式:
V
R=(V
1-V
0)/V
0×100
で算出される前記熱硬化性フィルムの溶融粘度上昇率V
Rが600%以下である、熱硬化性フィルム。
【請求項2】
前記溶融粘度上昇率V
Rが90~500%である、請求項1に記載の熱硬化性フィルム。
【請求項3】
前記熱硬化性フィルムがフィルム状接着剤である、請求項1又は2に記載の熱硬化性フィルム。
【請求項4】
前記熱硬化性フィルムが、半導体ウエハの裏面に保護膜を形成するための保護膜形成フィルムである、請求項1又は2に記載の熱硬化性フィルム。
【請求項5】
前記熱硬化性フィルムが、バインダー(a)と、エポキシ樹脂(b1)と、熱硬化剤(b2)と、硬化促進剤(c)と、層状化合物(z)と、を含有し、
前記硬化促進剤(c)が前記層状化合物(z)に担持されている、請求項1又は2に記載の熱硬化性フィルム。
【請求項6】
支持シートと、前記支持シートの一方の面上に設けられた熱硬化性フィルムと、を備え、
前記熱硬化性フィルムが、請求項
1に記載の熱硬化性フィルムである、複合シート。
【請求項7】
前記支持シートが基材フィルムからなり、
前記熱硬化性フィルムが前記基材フィルムに直接接触して設けられている、請求項6に記載の複合シート。
【請求項8】
請求項1又は2に記載の熱硬化性フィルムの一方の面、又は請求項6に記載の複合シート中の前記熱硬化性フィルムの露出面を、半導体ウエハの裏面に貼付する工程と、
前記複合シートを用いた場合には、前記複合シート中の前記支持シート上において、前記半導体ウエハを半導体チップへと分割し、前記半導体ウエハの分割箇所に沿って、前記熱硬化性フィルムを切断し、前記複合シートを構成していない前記熱硬化性フィルムを用いた場合には、前記熱硬化性フィルムの他方の面に、ダイシングシートを貼付した後、前記ダイシングシート上において、前記半導体ウエハを半導体チップへと分割し、前記半導体ウエハの分割箇所に沿って、前記熱硬化性フィルムを切断することにより、前記半導体チップと、前記半導体チップの裏面に設けられた、切断後の前記熱硬化性フィルムと、を備えた熱硬化性フィルム付き半導体チップを作製する工程と、
前記熱硬化性フィルム付き半導体チップを、前記ダイシングシート又は支持シートから引き離してピックアップする工程と、
ピックアップした前記熱硬化性フィルム付き半導体チップ中の前記熱硬化性フィルムを、基板の回路形成面に貼付することにより、前記熱硬化性フィルム付き半導体チップを前記回路形成面に接着する工程と、を有する半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱硬化性フィルム、複合シート、及び半導体装置の製造方法に関する。
本願は、2021年10月5日に日本に出願された特願2021-164007号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置の製造分野では、半導体ウエハ又は半導体チップを取り扱う各工程において、熱硬化性フィルムを用いることがある。
【0003】
例えば、半導体ウエハ又は半導体チップの一方の面(回路形成面)には、回路が形成されているが、半導体チップの回路形成面とは反対側の面(裏面)には、フィルム状接着剤が設けられ、このフィルム状接着剤によって、半導体チップがリードフレームや有機基板等に接着(ダイボンディング)される。熱硬化性フィルムは、このフィルム状接着剤として使用されることがある。フィルム状接着剤は、ダイシングシートに積層されて、ダイシング工程でダイシングダイボンディングシートとして使用されることもある。この場合、フィルム状接着剤は、半導体ウエハの裏面に貼付され、半導体ウエハのダイシング時に同時に、半導体チップに沿って切断され、半導体チップとともにダイシングシートから引き離されてピックアップされる。そして、リードフレームや有機基板等への半導体チップの接着に利用された後、最終的には熱硬化されて硬化物となる。
【0004】
一方、半導体ウエハ又は半導体チップの回路形成面上には、バンプ等の突状電極が設けられていることがある。このような半導体ウエハは、半導体チップへと分割され、その突状電極が回路基板上の接続パッドに接続されることにより、前記回路基板に搭載される。このような半導体ウエハ又は半導体チップにおいては、クラックの発生等の破損を抑制するために、回路形成面とは反対側の面(裏面)が、保護膜で保護されることがある。熱硬化性フィルムは、この保護膜を形成するためのフィルム(保護膜形成フィルム)として使用されることもある。この場合、熱硬化性フィルムは、最終的には熱硬化されて硬化物である保護膜となる。そして、この場合も、保護膜形成フィルムは、ダイシングシートに積層されて、ダイシング工程で使用されることもある。保護膜形成フィルムは、半導体ウエハの裏面に貼付され、半導体ウエハのダイシング時に同時に、半導体チップに沿って切断され、半導体チップとともにダイシングシートから引き離されてピックアップされる。
【0005】
熱硬化性フィルムは、その保管時に、加熱しなくても経時によって徐々に硬化が進行することがある。このような目的外の硬化が進行し、物性が変化してしまうと、半導体装置の製造過程において、不具合が生じることがある。例えば、上記のとおり、熱硬化性フィルムがダイシングシートに積層されて、ダイシング工程で使用される場合、切断前又は切断後の熱硬化性フィルムがダイシングシートから剥離するか、又は、切断前又は切断後の熱硬化性フィルムから半導体チップ又は半導体ウエハが剥離してしまい、ダイシング適性が不十分になることがある。さらに、熱硬化性フィルムの目的外の硬化が進行し、物性が変化してしまうと、熱硬化性フィルムの最終的な熱硬化物の物性が不十分となり、半導体装置の信頼性が低下してしまうことがある。
【0006】
このような保管時の硬化が抑制された熱硬化性フィルムとしては、40℃で168時間保管前後の溶融粘度の初期検出温度、ゲル分率又は破断伸度の変化の程度が、保管前の前記ゲル分率の値と共に規定されたフィルム状接着剤が開示されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
新規の熱硬化性フィルムとして、一定時間保管後の熱硬化性フィルムを用いても、ダイシング適性が良好であり、信頼性が高い半導体装置を製造可能なものが提供されれば、熱硬化性フィルムの適用範囲が拡大され、半導体装置の製造がさらに有利となるため、有用である。
【0009】
本発明は、半導体ウエハ又は半導体チップの裏面に設けるための熱硬化性フィルムであって、その最終的な硬化時の硬化性が損なわれることなく、その保管時の目的外の硬化が抑制される熱硬化性フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1の態様は、熱硬化性フィルムであって、大きさが2mm×2mmで厚さが20μmである前記熱硬化性フィルムの硬化物と、前記硬化物の一方の面の全面に設けられた、厚さが300μmである銅板と、前記硬化物の他方の面の全面に設けられた、厚さが350μmであるシリコンチップと、を備えており、前記硬化物の側面と前記シリコンチップの側面が位置合わせされて構成された第1試験片を作製し、前記銅板を固定した状態で、前記第1試験片中の前記硬化物の側面と前記シリコンチップの側面の位置合わせされた部位に対して、同時に、前記硬化物の一方の面に対して平行な方向に、200μm/secの速度で力を加えたとき、前記硬化物が破壊されるか、前記硬化物が前記銅板から剥離するか、又は、前記硬化物が前記シリコンチップから剥離する、までに加えられた前記力の最大値であるせん断強度が、100N/2mm□以上であり、5℃で168時間保管した前記熱硬化性フィルムを用いて、直径が10mmで高さが10mmである円柱状の第2試験片を作製し、前記第2試験片に490Nの力を加えながら、前記第2試験片を昇温速度10℃/minで50℃から昇温し、直径0.5mmの毛細管から押し出された、温度が90℃の前記第2試験片の溶融粘度V0を測定し、40℃で504時間保管した前記熱硬化性フィルムを用いて、直径が10mmで高さが10mmである円柱状の第3試験片を作製し、前記第3試験片に490Nの力を加えながら、前記第3試験片を昇温速度10℃/minで50℃から昇温し、直径0.5mmの毛細管から押し出された、温度が90℃の前記第3試験片の溶融粘度V1を測定したとき、下記式:
VR=(V1-V0)/V0×100
で算出される前記熱硬化性フィルムの溶融粘度上昇率VRが600%以下である、熱硬化性フィルムである。
【0011】
本発明の第2の態様は、前記溶融粘度上昇率VRが90~500%である、第1の態様の熱硬化性フィルムである。
本発明の第3の態様は、前記熱硬化性フィルムがフィルム状接着剤である、第1又は第2の態様の熱硬化性フィルムである。
本発明の第4の態様は、前記熱硬化性フィルムが、半導体チップの裏面に保護膜を形成するための保護膜形成フィルムである、第1又は第2の態様の熱硬化性フィルムである。
本発明の第5の態様は、前記熱硬化性フィルムが、バインダー(a)と、エポキシ樹脂(b1)と、熱硬化剤(b2)と、硬化促進剤(c)と、層状化合物(z)と、を含有し、前記硬化促進剤(c)が前記層状化合物(z)に担持されている、第1~第4の態様のいずれか一の熱硬化性フィルムである。
【0012】
本発明の第6の態様は、支持シートと、前記支持シートの一方の面上に設けられた熱硬化性フィルムと、を備え、前記熱硬化性フィルムが、第1~第5の態様のいずれか一の熱硬化性フィルムである、複合シートである。
本発明の第7の態様は、前記支持シートが基材フィルムからなり、前記熱硬化性フィルムが前記基材フィルムに直接接触して設けられている、第6の態様の複合シートである。
【0013】
本発明の第8の態様は、第1~第5の態様のいずれか一の熱硬化性フィルムの一方の面、又は第6若しくは第7の態様の複合シート中の前記熱硬化性フィルムの露出面を、半導体ウエハの裏面に貼付する工程と、前記複合シートを用いた場合には、前記複合シート中の前記支持シート上において、前記半導体ウエハを半導体チップへと分割し、前記半導体ウエハの分割箇所に沿って、前記熱硬化性フィルムを切断し、前記複合シートを構成していない前記熱硬化性フィルムを用いた場合には、前記熱硬化性フィルムの他方の面に、ダイシングシートを貼付した後、前記ダイシングシート上において、前記半導体ウエハを半導体チップへと分割し、前記半導体ウエハの分割箇所に沿って、前記熱硬化性フィルムを切断することにより、前記半導体チップと、前記半導体チップの裏面に設けられた、切断後の前記熱硬化性フィルムと、を備えた熱硬化性フィルム付き半導体チップを作製する工程と、前記熱硬化性フィルム付き半導体チップを、前記ダイシングシート又は支持シートから引き離してピックアップする工程と、ピックアップした前記熱硬化性フィルム付き半導体チップ中の前記熱硬化性フィルムを、基板の回路形成面に貼付することにより、前記熱硬化性フィルム付き半導体チップを前記回路形成面に接着する工程と、を有する半導体装置の製造方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、半導体ウエハ又は半導体チップの裏面に設けるための熱硬化性フィルムであって、その最終的な硬化時の硬化性が損なわれることなく、その保管時の目的外の硬化が抑制される熱硬化性フィルムが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施形態に係る熱硬化性フィルムの硬化物のせん断強度の測定方法を模式的に説明するための断面図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る熱硬化性フィルムの一例を模式的に示す断面図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る複合シートの一例を模式的に示す断面図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る複合シートの他の例を模式的に示す断面図である。
【
図5A】本発明の一実施形態に係る半導体装置の製造方法の一例を模式的に説明するための断面図である。
【
図5B】本発明の一実施形態に係る半導体装置の製造方法の一例を模式的に説明するための断面図である。
【
図5C】本発明の一実施形態に係る半導体装置の製造方法の一例を模式的に説明するための断面図である。
【
図5D】本発明の一実施形態に係る半導体装置の製造方法の一例を模式的に説明するための断面図である。
【
図6A】本発明の一実施形態に係る半導体装置の製造方法の他の例を模式的に説明するための断面図である。
【
図6B】本発明の一実施形態に係る半導体装置の製造方法の他の例を模式的に説明するための断面図である。
【
図6C】本発明の一実施形態に係る半導体装置の製造方法の他の例を模式的に説明するための断面図である。
【
図6D】本発明の一実施形態に係る半導体装置の製造方法の他の例を模式的に説明するための断面図である。
【
図6E】本発明の一実施形態に係る半導体装置の製造方法の他の例を模式的に説明するための断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
◇熱硬化性フィルム
本発明の一実施形態に係る熱硬化性フィルムは、以下の特性を有する。
すなわち、大きさが2mm×2mmで厚さが20μmである前記熱硬化性フィルムの硬化物と、前記硬化物の一方の面の全面に設けられた、厚さが300μmである銅板と、前記硬化物の他方の面の全面に設けられた、厚さが350μmであるシリコンチップと、を備えており、前記硬化物の側面と前記シリコンチップの側面が位置合わせされて構成された第1試験片を作製し、前記銅板を固定した状態で、前記第1試験片中の前記硬化物の側面と前記シリコンチップの側面の位置合わせされた部位に対して、同時に、前記硬化物の一方の面に対して平行な方向に、200μm/secの速度で力を加えたとき、前記硬化物が破壊されるか、前記硬化物が前記銅板から剥離するか、又は、前記硬化物が前記シリコンチップから剥離する、までに加えられた前記力の最大値であるせん断強度が、100N/2mm□以上であり、5℃で168時間保管した前記熱硬化性フィルムを用いて、直径が10mmで高さが10mmである円柱状の第2試験片を作製し、前記第2試験片に490Nの力を加えながら、前記第2試験片を昇温速度10℃/minで50℃から昇温し、直径0.5mmの毛細管から押し出された、温度が90℃の前記第2試験片の溶融粘度V0を測定し、40℃で504時間保管した前記熱硬化性フィルムを用いて、直径が10mmで高さが10mmである円柱状の第3試験片を作製し、前記第3試験片に490Nの力を加えながら、前記第3試験片を昇温速度10℃/minで50℃から昇温し、直径0.5mmの毛細管から押し出された、温度が90℃の前記第3試験片の溶融粘度V1を測定したとき、下記式:
VR=(V1-V0)/V0×100
で算出される前記熱硬化性フィルムの溶融粘度上昇率VRが600%以下である。
例えば、バインダーと、エポキシ樹脂と、熱硬化剤と、硬化促進剤と、を含有する熱硬化性フィルム等の、従来の熱硬化性フィルムにおいては、その保管時に、加熱しなくても、硬化促進剤が熱硬化剤に作用して、活性化された熱硬化剤がさらにエポキシ樹脂と反応することにより、徐々に熱硬化性フィルムが硬化してしまうことがある。これに対して、本実施形態の熱硬化性フィルムは、その保管時に、目的外の硬化が抑制される。その結果、例えば、保管後の本実施形態の熱硬化性フィルムを用いた場合であっても、ダイシング適性が良好で、さらに、本実施形態の熱硬化性フィルムは、その最終的な硬化時に、十分に硬化するため、信頼性が高い半導体装置を製造できる。
【0017】
本明細書において、「ダイシング適性が良好である」とは、熱硬化性フィルムの一方の面をダイシングシート又は後述する支持シートに貼付し、熱硬化性フィルムの他方の面を半導体ウエハの裏面に貼付して、ダイシングを行うことで、半導体ウエハを半導体チップへと分割し、熱硬化性フィルムを切断するときに、切断前又は切断後の熱硬化性フィルムのダイシングシート又は支持シートからの剥離と、切断前又は切断後の熱硬化性フィルムからの半導体チップ又は半導体ウエハの剥離と、が抑制されることを意味する。
本実施形態の熱硬化性フィルムは、その保管後に用いても、ダイシング適性が良好である。
【0018】
本明細書において、「信頼性が高い半導体装置を製造できる」とは、半導体装置の製造に用いる半導体パッケージを、MSL1(モイスチャーレベル1)の条件下で経時させても、熱硬化性フィルムの硬化物が半導体チップから浮く又は剥がれる不具合や、半導体パッケージでクラックが生じる不具合が、いずれも認められない(すなわち、半導体パッケージの信頼性が高い)ことを意味する。
本実施形態の熱硬化性フィルムは、その保管後に用いても、信頼性が高い半導体装置の製造を可能とする。
【0019】
本明細書においては、半導体ウエハ又は半導体チップの回路が形成されている面を「回路形成面」と称し、この回路形成面とは反対側の面を「裏面」と称する。そして、半導体チップと、前記半導体チップの裏面に設けられた熱硬化性フィルムと、を備えた構造体を、「熱硬化性フィルム付き半導体チップ」と称する。
本明細書においては、基板の回路が形成されている面も「回路形成面」と称する。
【0020】
上述の熱硬化性フィルムの硬化物のせん断強度は、熱硬化性フィルムの、その最終的な硬化時の硬化の程度を示す指標である。本実施形態においては、前記せん断強度が100N/2mm□以上であり、熱硬化性フィルムは、その最終的な硬化時に、十分に硬化する。
以下、前記せん断強度の測定方法について説明する。
【0021】
図1は、前記熱硬化性フィルムの硬化物のせん断強度の測定方法を模式的に説明するための断面図である。
なお、以下の説明で用いる図は、本発明の特徴を分かり易くするために、便宜上、要部となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率等が実際と同じであるとは限らない。
【0022】
前記せん断強度の測定時には、第1試験片5を作製する。
第1試験片5は、熱硬化性フィルムの硬化物50と、前記硬化物50の一方の面(本明細書においては、「第2面」と称することがある)50bの全面に設けられた銅板51と、前記硬化物50の他方の面(本明細書においては、「第1面」と称することがある)50aの全面に設けられたシリコンチップ52と、を備えて構成されている。
【0023】
熱硬化性フィルムの硬化物50は、本実施形態の熱硬化性フィルムの硬化物である。
前記硬化物50の前記第1面50a及び第2面50bの平面形状は矩形(正方形)である。
前記硬化物50の大きさ(前記第1面50a及び第2面50bの大きさ)は2mm×2mmであり、前記硬化物50の厚さは20μmである。
【0024】
銅板51の厚さは300μmであり、シリコンチップ52の厚さは350μmである。
【0025】
第1試験片5において、熱硬化性フィルムの硬化物50の側面50cと、シリコンチップ52の側面52cとは、位置合わせされており、例えば、この断面では、熱硬化性フィルム50の第1面50a又は第2面50bに対して平行な方向において、熱硬化性フィルム50の側面50cの位置と、シリコンチップ52の側面52cの位置とは、一致している。
【0026】
シリコンチップ52の側面52cにおいては、少なくとも熱硬化性フィルムの硬化物50の側面50cと位置合わせされている部位が平面であることが好ましい。
シリコンチップ52の、前記硬化物50との接触面の大きさは、前記硬化物50の第1面50aの大きさに対して、同等以上であればよく、同じであってもよい。
シリコンチップ52の、前記硬化物50との接触面の平面形状は、矩形であることが好ましく、例えば正方形であってもよく、前記硬化物50の第1面50aの平面形状と同じであることが好ましい。
実施例で後述するように、熱硬化性フィルム(図示略)の切断及び硬化によって前記硬化物50を形成し、シリコンウエハ(図示略)の分割によってシリコンチップ52を形成するときに、これら切断及び分割を連続的に行うプロセスを採用可能であり、その場合には、シリコンチップ52の前記硬化物50との接触面と、前記硬化物50の第1面50aとを、互いに同じ大きさで、かつ同じ形状とすることが可能であり、しかも、前記硬化物50の側面50cと、シリコンチップ52の側面52cと、の位置合わせも容易である。
【0027】
銅板51の、熱硬化性フィルムの硬化物50との接触面の大きさは、前記硬化物50の第2面50bの大きさに対して、同等以上であればよく、大きいことが好ましい。
銅板51の、前記硬化物50との接触面の平面形状は、銅板51が前記硬化物50の第2面50bの全面を覆うことが可能であれば、特に限定されず、例えば、矩形であってもよい。
【0028】
前記せん断強度の測定時には、銅板51を固定した状態で、第1試験片5中の熱硬化性フィルムの硬化物50の側面50cと、シリコンチップ52の側面52cと、の位置合わせされた部位に対して、同時に、前記硬化物50の一方の面(前記第1面50a又は第2面50b)に対して平行な方向に、200μm/secの速度で力Pを加える。ここでは、押圧手段4を用いて、上述の位置合わせ部位に対して力Pを加える場合について示している。
前記せん断強度をより高精度に測定できる点から、押圧手段4の力を加える部位は平面であることが好ましく、押圧手段4はプレート状であることがより好ましい。
押圧手段4の構成材料としては、例えば、金属等が挙げられる。
【0029】
上記のように、熱硬化性フィルムの硬化物50及びシリコンチップ52に対して、同時に力Pを加えるときには、押圧手段4を、銅板51に接触させないことが好ましい。
【0030】
本実施形態においては、このように、熱硬化性フィルムの硬化物50の側面50cと、シリコンチップ52の側面52cと、の位置合わせされた部位に対して、力Pを加え、前記硬化物50が破壊されるか、前記硬化物50が銅板51から剥離するか、又は、前記硬化物50がシリコンチップ52から剥離する、までに加えられた力Pの最大値を、前記硬化物50のせん断強度として採用する。
【0031】
硬化性フィルムの硬化物のせん断強度は、100N/2mm□以上であり、105N/2mm□以上であることが好ましく、例えば、112N/2mm□以上であってもよい。
【0032】
前記せん断強度の上限値は特に限定されない。例えば、前記せん断強度が300N/2mm□以下となる熱硬化性フィルムは、より容易に製造できる。
【0033】
前記せん断強度は、上述のいずれかの下限値と、上限値と、を任意に組み合わせて設定される範囲内の、いずれかであってよい。例えば、一実施形態において、前記せん断強度は、100~300N/2mm□、105~300N/2mm□、及び112~300N/2mm□のいずれかであってもよい。ただし、これらは前記せん断強度の一例である。
【0034】
前記せん断強度を規定する第1試験片中の熱硬化性フィルムの硬化物は、熱硬化性フィルムを160℃で1時間加熱処理することにより得られた熱硬化物である。前記硬化物には、熱硬化性及びエネルギー線硬化性をともに有する熱硬化性フィルムの硬化物も含まれる。このような硬化物には、例えば、熱硬化前の熱硬化性フィルムに対して、エネルギー線を照射することにより得られた、完全には硬化していない半硬化物を、さらに、160℃で1時間加熱処理することにより得られた熱硬化物も含まれる。
【0035】
本明細書において、単位「N/2mm□」は「N/(2mm×2mm)」と同義である。
【0036】
本実施形態においては、例えば、製造直後から暗所で空気雰囲気下において、5℃で168時間(7日間)保管した熱硬化性フィルムを用いて測定された前記せん断強度と、製造直後から暗所で空気雰囲気下において、40℃で504時間(21日間)保管した熱硬化性フィルムを用いて測定された前記せん断強度と、のいずれかが、上述のいずれかの数値範囲であってもよく、製造直後から暗所で空気雰囲気下において、40℃で504時間(21日間)保管した熱硬化性フィルムを用いて測定された前記せん断強度が、上述のいずれかの数値範囲であることが好ましい。
【0037】
前記せん断強度は、熱硬化性フィルムの含有成分の種類又は含有量等を調節することで、調節できる。例えば、熱硬化性フィルムが含有する、後述するバインダー(a)、エポキシ樹脂(b1)、熱硬化剤(b2)、硬化促進剤(c)、充填材(d)及びカップリング剤(e)等の種類又は量等を調節することで、前記せん断強度を幅広い範囲で調節できる。
【0038】
上述の熱硬化性フィルムにおける溶融粘度上昇率VR(本明細書においては、単に「VR」と称することがある)は、熱硬化性フィルムの、その保管時における目的外の硬化の抑制の程度を示す指標である。本実施形態においては、前記VRが600%以下であり、熱硬化性フィルムは、その保管時において、目的外の硬化が十分に抑制される。
以下、溶融粘度上昇率VRの測定方法について説明する。
【0039】
溶融粘度上昇率VRの測定時には、5℃で168時間(7日間)保管した前記熱硬化性フィルムを用いて、直径が10mmで高さが10mmである円柱状の第2試験片を作製する。
さらに、別途、40℃で504時間(21日間)保管した前記熱硬化性フィルムを用いて、第2試験片の場合と同様の形状、すなわち、直径が10mmで高さが10mmである円柱状の第3試験片を作製する。
次いで、キャピラリーレオメーター等の測定装置を用いて、第2試験片に490N(50kgf)の力を加えながら、第2試験片を昇温速度10℃/minで50℃から昇温し、直径0.5mmの毛細管から押し出されたときの、温度が90℃の第2試験片の溶融粘度V0を測定する。
さらに、この第2試験片の場合と同じ方法で、第3試験片の溶融粘度V1を測定する。すなわち、キャピラリーレオメーター等の測定装置を用いて、第3試験片に490N(50kgf)の力を加えながら、第3試験片を昇温速度10℃/minで50℃から昇温し、直径0.5mmの毛細管から押し出されたときの、温度が90℃の第3試験片の溶融粘度V1を測定する。
次いで、測定されたV0及びV1を用いて、下記式:
VR=(V1-V0)/V0×100
により、熱硬化性フィルムの溶融粘度上昇率VRを算出する。
【0040】
熱硬化性フィルムの溶融粘度上昇率VRは、600%以下であり、90~500%であることが好ましく、90~400%であることがより好ましく、100~300%であることがさらに好ましく、100~250%であることが特に好ましく、例えば、100~200%、及び100~150%のいずれかであってもよいし、150~250%、及び200~250%のいずれかであってもよいし、150~200%であってもよい。VRがこのような範囲の熱硬化性フィルムは、その保管時における目的外の硬化の抑制効果が高い。
【0041】
第2試験片の溶融粘度V0は、VRが上記の数値範囲となる限り、特に限定されず、500~5000Pa・sであってもよく、2200~3200Pa・sであることが好ましく、2500~3000Pa・sであることがより好ましく、例えば、2600~2900Pa・sであってもよい。
【0042】
第3試験片の溶融粘度V1は、VRが上記の数値範囲となる限り、特に限定されず、6000~18000Pa・sであってもよく、5700~15000Pa・sであることが好ましく、5700~12000Pa・sであることがより好ましく、例えば、5900~10000Pa・s、及び6100~9500Pa・sのいずれかであってもよい。
【0043】
熱硬化性フィルムは、VR、V0及びV1が、いずれも上述のいずれかの数値範囲内であることが好ましい。
【0044】
VR、V0及びV1は、いずれも、熱硬化性フィルムの含有成分の種類又は含有量等を調節することで、調節できる。例えば、熱硬化性フィルムが含有する、後述するバインダー(a)、エポキシ樹脂(b1)、熱硬化剤(b2)、硬化促進剤(c)、充填材(d)及びカップリング剤(e)等の種類又は量等を調節することで、VR、V0及びV1を幅広い範囲で調節できる。
【0045】
上述の硬化物のせん断強度と、溶融粘度上昇率VRを示す本実施形態の熱硬化性フィルムとしては、例えば、バインダー(a)と、エポキシ樹脂(b1)と、熱硬化剤(b2)と、硬化促進剤(c)と、層状化合物(z)と、を含有し、前記硬化促進剤(c)が前記層状化合物(z)に担持され、硬化促進剤複合体(y)を形成している熱硬化性フィルムが挙げられる。
【0046】
前記熱硬化性フィルムは、例えば、バインダー(a)、エポキシ樹脂(b1)、熱硬化剤(b2)、硬化促進剤(c)、層状化合物(z)、及び溶媒(換言すると、バインダー(a)、エポキシ樹脂(b1)、熱硬化剤(b2)、硬化促進剤複合体(y)及び溶媒)等の、熱硬化性フィルムの構成材料を含有する樹脂組成物を用いて形成できる。例えば、熱硬化性フィルムの形成対象面に樹脂組成物を塗工し、必要に応じて乾燥させることで、目的とする部位に熱硬化性フィルムを形成できる。
樹脂組成物中の、常温で気化しない成分同士の含有量の比率は、通常、熱硬化性フィルムの前記成分同士の含有量の比率と同じとなる。なお、本明細書において、「常温」とは、特に冷やしたり、熱したりしない温度、すなわち平常の温度を意味し、例えば、15~25℃の温度等が挙げられる。
【0047】
熱硬化性フィルムにおいて、熱硬化性フィルムの総質量に対する、熱硬化性フィルムの1種又は2種以上の後述する含有成分の合計含有量の割合は、100質量%以下である。
同様に、樹脂組成物において、樹脂組成物の総質量に対する、樹脂組成物の1種又は2種以上の後述する含有成分の合計含有量の割合は、100質量%以下である。
【0048】
樹脂組成物の塗工は、公知の方法で行えばよく、例えば、エアーナイフコーター、ブレードコーター、バーコーター、グラビアコーター、ロールコーター、ロールナイフコーター、カーテンコーター、ダイコーター、ナイフコーター、スクリーンコーター、マイヤーバーコーター、キスコーター等の各種コーターを用いる方法が挙げられる。
【0049】
樹脂組成物の乾燥条件は、特に限定されないが、樹脂組成物は、後述する溶媒を含有している場合、加熱乾燥させることが好ましい。溶媒を含有する樹脂組成物は、例えば、70~130℃で10秒~5分の条件で乾燥させることが好ましい。
【0050】
以下、バインダー(a)、エポキシ樹脂(b1)、熱硬化剤(b2)、硬化促進剤(c)及び層状化合物(z)を含有し、前記硬化促進剤(c)が前記層状化合物(z)に担持され、硬化促進剤複合体(y)を形成している(換言すると、バインダー(a)、エポキシ樹脂(b1)、熱硬化剤(b2)及び硬化促進剤複合体(y)を含有する)熱硬化性フィルムと、この熱硬化性フィルムを形成するための樹脂組成物と、の含有成分について、詳細に説明する。
【0051】
<バインダー(a)>
バインダー(a)は、熱硬化性フィルムのフィルム形状の維持を可能とする成分であれば、特に限定されない。
バインダー(a)としては、重合体成分が挙げられる。
前記重合体成分は、重合性化合物が重合反応して形成されたとみなせる成分であり、熱可塑性を有し、熱硬化性を有しない。本明細書において重合体成分には、重縮合反応の生成物も含まれる。
【0052】
樹脂組成物及び熱硬化性フィルムが含有するバインダー(a)は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよく、2種以上である場合、それらの組み合わせ及び比率は任意に選択できる。
【0053】
バインダー(a)としては、例えば、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、フェノキシ樹脂、シリコーン樹脂、飽和ポリエステル樹脂等が挙げられる。
これらの中でも、バインダー(a)は、アクリル樹脂であることが好ましい。
【0054】
バインダー(a)における前記アクリル樹脂としては、公知のアクリル重合体が挙げられる。
アクリル樹脂の重量平均分子量(Mw)は、10000~2000000であることが好ましく、100000~1500000であることがより好ましく、例えば、500000~1000000であってもよい。アクリル樹脂の重量平均分子量がこのような範囲内であることで、熱硬化性フィルムと被着体との間の接着力を好ましい範囲に調節することが容易となる。
一方、アクリル樹脂の重量平均分子量が前記下限値以上であることで、熱硬化性フィルムの形状安定性(保管時の経時安定性)が向上する。また、アクリル樹脂の重量平均分子量が前記上限値以下であることで、被着体の凹凸面へ熱硬化性フィルムが追従し易くなり、被着体と熱硬化性フィルムとの間でボイド等の発生がより抑制される。
【0055】
本明細書において、「重量平均分子量」とは、特に断りのない限り、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)法により測定されるポリスチレン換算値である。
【0056】
アクリル樹脂のガラス転移温度(Tg)は、-60~70℃であることが好ましく、-45~50℃であることがより好ましい。アクリル樹脂のTgが前記下限値以上であることで、熱硬化性フィルムと被着体との間の接着力が抑制されて、後述するピックアップ工程において、熱硬化性フィルム付き半導体チップの、ダイシングシート又は支持シートからの引き離しがより容易となる。アクリル樹脂のTgが前記上限値以下であることで、熱硬化性フィルムと半導体チップとの間の接着力が向上する。
【0057】
アクリル樹脂が2種以上の構成単位を有する場合には、そのアクリル樹脂のガラス転移温度(Tg)は、Foxの式を用いて算出できる。このとき用いる、前記構成単位を誘導するモノマーのTgとしては、高分子データ・ハンドブック又は粘着ハンドブックに記載されている値を使用できる。
【0058】
アクリル樹脂を構成する前記(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸sec-ブチル、(メタ)アクリル酸tert-ブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸ヘプチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸n-オクチル、(メタ)アクリル酸n-ノニル、(メタ)アクリル酸イソノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ウンデシル、(メタ)アクリル酸ドデシル((メタ)アクリル酸ラウリル)、(メタ)アクリル酸トリデシル、(メタ)アクリル酸テトラデシル((メタ)アクリル酸ミリスチル)、(メタ)アクリル酸ペンタデシル、(メタ)アクリル酸ヘキサデシル((メタ)アクリル酸パルミチル)、(メタ)アクリル酸ヘプタデシル、(メタ)アクリル酸オクタデシル((メタ)アクリル酸ステアリル)等の、アルキルエステルを構成するアルキル基が、炭素数が1~18の鎖状構造である(メタ)アクリル酸アルキルエステル;
(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル等の(メタ)アクリル酸シクロアルキルエステル;
(メタ)アクリル酸ベンジル等の(メタ)アクリル酸アラルキルエステル;
(メタ)アクリル酸ジシクロペンテニルエステル等の(メタ)アクリル酸シクロアルケニルエステル;
(メタ)アクリル酸ジシクロペンテニルオキシエチルエステル等の(メタ)アクリル酸シクロアルケニルオキシアルキルエステル;
(メタ)アクリル酸イミド;
(メタ)アクリル酸グリシジル等のグリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル;
(メタ)アクリル酸ヒドロキシメチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチル等の水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル;
(メタ)アクリル酸N-メチルアミノエチル等の置換アミノ基含有(メタ)アクリル酸エステル等が挙げられる。
本明細書において、「置換アミノ基」とは、アミノ基の1個又は2個の水素原子が水素原子以外の基で置換された構造を有する基を意味する。
【0059】
本明細書において、「(メタ)アクリル酸」とは、「アクリル酸」及び「メタクリル酸」の両方を包含する概念とする。(メタ)アクリル酸と類似の用語についても同様である。
【0060】
アクリル樹脂は、例えば、前記(メタ)アクリル酸エステル以外に、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、酢酸ビニル、アクリロニトリル、スチレン及びN-メチロールアクリルアミド等から選択される1種又は2種以上のモノマーが共重合して得られた樹脂であってもよい。
【0061】
アクリル樹脂を構成するモノマーは、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよく、2種以上である場合、それらの組み合わせ及び比率は任意に選択できる。
【0062】
アクリル樹脂は、上述の水酸基以外に、ビニル基、(メタ)アクリロイル基、アミノ基、カルボキシ基、イソシアネート基等の他の化合物と結合可能な官能基を有していてもよい。アクリル樹脂の水酸基をはじめとするこれら官能基は、後述する架橋剤(f)を介して他の化合物と結合していてもよいし、架橋剤(f)を介さずに他の化合物と直接結合していてもよい。アクリル樹脂が前記官能基により他の化合物と結合することで、熱硬化性フィルムの凝集力が向上し、熱硬化性フィルムの物理的安定性が向上する。
【0063】
本発明においては、バインダー(a)として、アクリル樹脂以外の熱可塑性樹脂(以下、単に「熱可塑性樹脂」と略記することがある)を、アクリル樹脂を用いずに単独で用いてもよいし、アクリル樹脂と併用してもよい。前記熱可塑性樹脂を用いることで、後述するピックアップ工程において、熱硬化性フィルム付き半導体チップの、ダイシングシート又は支持シートからの引き離しがより容易となったり、被着体の凹凸面へ熱硬化性フィルムが追従し易くなり、被着体と熱硬化性フィルムとの間でボイド等の発生がより抑制されることがある。
【0064】
前記熱可塑性樹脂の重量平均分子量は1000~100000であることが好ましく、3000~80000であることがより好ましい。
【0065】
前記熱可塑性樹脂のガラス転移温度(Tg)は、-30~150℃であることが好ましく、-20~120℃であることがより好ましい。
【0066】
前記熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエステル、ポリウレタン、フェノキシ樹脂、ポリブテン、ポリブタジエン、ポリスチレン等が挙げられる。
【0067】
樹脂組成物及び熱硬化性フィルムが含有する前記熱可塑性樹脂は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよく、2種以上である場合、それらの組み合わせ及び比率は任意に選択できる。
【0068】
樹脂組成物において、溶媒以外の全ての成分の総含有量に対するバインダー(a)の含有量の割合は、バインダー(a)の種類によらず、10~40質量%であることが好ましく、10~30質量%であることがより好ましく、10~25質量%であることがさらに好ましい。前記割合が前記下限値以上であることで、熱硬化性フィルムの構造がより安定化する。前記割合が前記上限値以下であることで、バインダー(a)を用いたことによる効果と、バインダー(a)以外の成分を用いたことによる効果と、のバランスを幅広く調節できる。
この内容は、熱硬化性フィルムにおける、熱硬化性フィルムの総質量に対する、バインダー(a)の含有量の割合が、バインダー(a)の種類によらず、10~40質量%であることが好ましく、10~30質量%であることがより好ましく、10~25質量%であることがさらに好ましい、ことと同義である。
これは、溶媒を含有する樹脂組成物から溶媒を除去して、樹脂膜を形成する過程では、溶媒以外の成分の量は、通常、変化しないことに基づいており、樹脂組成物と樹脂膜とでは、溶媒以外の成分同士の含有量の比率は同じである。そこで、本明細書においては、以降、熱硬化性フィルムの場合に限らず、溶媒以外の成分の含有量については、主として、樹脂組成物から溶媒を除去した樹脂膜での含有量を記載する。
【0069】
樹脂組成物及び熱硬化性フィルムにおいて、バインダー(a)の総含有量に対する、アクリル樹脂の含有量の割合は、25~100質量%であることが好ましく、例えば、50~100質量%、70~100質量%、及び90~100質量%のいずれかであってもよい。前記含有量の割合が前記下限値以上であることで、熱硬化性フィルムのその保管時における安定性がより高くなる。
【0070】
<エポキシ樹脂(b1)>
エポキシ樹脂(b1)は熱硬化剤(b2)ともにエポキシ系熱硬化性樹脂を構成する。
エポキシ樹脂(b1)としては、公知のものが挙げられ、例えば、多官能系エポキシ樹脂、ビフェニル化合物、ビスフェノールAジグリシジルエーテル及びその水添物、o-クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、フェニレン骨格型エポキシ樹脂等、2官能以上のエポキシ化合物が挙げられる。本明細書において、エポキシ樹脂(b1)とは、硬化性を有する、すなわち、未硬化のエポキシ樹脂を意味する。
【0071】
エポキシ樹脂(b1)の数平均分子量は、特に限定されないが、熱硬化性フィルムの硬化性、並びに熱硬化性フィルムの熱硬化物の強度及び耐熱性の点から、300~30000であることが好ましく、400~10000であることがより好ましく、500~3000であることが特に好ましい。
【0072】
エポキシ樹脂(b1)のエポキシ当量は、100~1000g/eqであることが好ましく、150~800g/eqであることがより好ましい。
【0073】
樹脂組成物及び熱硬化性フィルムが含有するエポキシ樹脂(b1)は、1種のみでもよいし、2種以上でもよく、2種以上である場合、それらの組み合わせ及び比率は任意に選択できる。
【0074】
エポキシ樹脂(b1)は、常温で液状であってもよいし、常温で固形であってもよい。
【0075】
熱硬化性フィルムにおける、熱硬化性フィルムの総質量に対する、エポキシ樹脂(b1)の含有量の割合は、40~70質量%であることが好ましく、45~65質量%であることがより好ましく、50~60質量%であることが特に好ましい。
【0076】
熱硬化性フィルムにおける、熱硬化性フィルムの総質量に対する、前記常温で液状のエポキシ樹脂(b1)の含有量の割合は、2~20質量%であることが好ましく、3~18質量%であることがより好ましく、4~16質量%であることがさらに好ましい。前記割合が前記下限値以上であることで、低温での熱硬化性フィルムの回路形成面への接着がより容易となる。前記割合が前記上限値以下であることで、熱硬化性フィルムの形状安定性がより高くなる。
【0077】
<熱硬化剤(b2)>
熱硬化剤(b2)は、エポキシ樹脂(b1)に対する硬化剤である。エポキシ樹脂(b1)及び熱硬化剤(b2)の組み合わせは、エポキシ系熱硬化性樹脂(本明細書においては、「エポキシ系熱硬化性樹脂(b)」と称することがある)として機能する。
樹脂組成物及び熱硬化性フィルムが含有するエポキシ系熱硬化性樹脂(b)は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよく、2種以上である場合、それらの組み合わせ及び比率は任意に選択できる。
【0078】
熱硬化剤(b2)としては、例えば、1分子中にエポキシ基と反応し得る官能基を2個以上有する化合物が挙げられる。前記官能基としては、例えば、フェノール性水酸基、アルコール性水酸基、アミノ基、カルボキシ基、酸基が無水物化された基等が挙げられ、フェノール性水酸基、アミノ基、又は酸基が無水物化された基であることが好ましく、フェノール性水酸基又はアミノ基であることがより好ましい。
【0079】
熱硬化剤(b2)のうち、フェノール性水酸基を有するフェノール系硬化剤としては、例えば、多官能フェノール樹脂、ビフェノール、ノボラック型フェノール樹脂、ジシクロペンタジエン型フェノール樹脂、アラルキル型フェノール樹脂等が挙げられる。
熱硬化剤(b2)のうち、アミノ基を有するアミン系硬化剤としては、例えば、ジシアンジアミド(DICY)等が挙げられる。
【0080】
熱硬化剤(b2)は、不飽和炭化水素基を有していてもよい。
不飽和炭化水素基を有する熱硬化剤(b2)としては、例えば、フェノール樹脂の水酸基の一部が、不飽和炭化水素基を有する基で置換された構造を有する化合物、フェノール樹脂の芳香環に、不飽和炭化水素基を有する基が直接結合した構造を有する化合物等が挙げられる。
【0081】
熱硬化剤(b2)としてフェノール系硬化剤を用いる場合には、熱硬化性フィルムの接着力を調節することが容易となる点から、熱硬化剤(b2)の軟化点又はガラス転移温度が高いことが好ましい。
【0082】
熱硬化剤(b2)のうち、例えば、多官能フェノール樹脂、ノボラック型フェノール樹脂、ジシクロペンタジエン型フェノール樹脂、アラルキル型フェノール樹脂等の樹脂成分の数平均分子量は、300~30000であることが好ましく、400~10000であることがより好ましく、500~3000であることが特に好ましい。
熱硬化剤(b2)のうち、例えば、ビフェノール、ジシアンジアミド等の非樹脂成分の分子量は、特に限定されないが、例えば、60~500であることが好ましい。
【0083】
熱硬化剤(b2)は、下記一般式(1)で表される、o-クレゾール型ノボラック樹脂であることが好ましい。
【0084】
【0085】
一般式(1)中、nは1以上の整数であり、例えば、2以上、4以上、及び6以上のいずれかであってもよい。
nの上限値は、本発明の効果を損なわない範囲で、特に限定されない。例えば、nが10以下であるo-クレゾール型ノボラック樹脂は、その製造又は入手がより容易である。
【0086】
一般式(1)中、o-クレゾール-ジイル基(-C6H4(-OH)(-CH3)-)同士を連結しているメチレン基(-CH2-)の、これらo-クレゾール-ジイル基に対する結合位置は、特に限定されない。
【0087】
熱硬化剤(b2)は、一般式(1)から明らかなように、フェノール樹脂のうち、フェノール性水酸基が結合している炭素原子と隣り合う炭素原子(ベンゼン環骨格を構成している炭素原子)に対して、メチル基が結合した構造を有しており、前記フェノール性水酸基の近傍に立体障害を有していることが好ましい。熱硬化剤(b2)は、このような立体障害を有していることにより、その保管中の反応性が抑制される。そして、このような熱硬化剤(b2)を用いることで、熱硬化性フィルムの保管時に、熱硬化性フィルムの含有成分(例えば、硬化可能な成分)が熱硬化剤(b2)と反応することが抑制され、保管時の熱硬化性フィルムの目的外の硬化が抑制される。後述する硬化促進剤複合体(y)を用いた効果に加え、このような熱硬化剤(b2)を用いた効果によって、保管後の前記熱硬化性フィルムを用いた場合であっても、ダイシング適性がより良好で、信頼性がより高い半導体装置を製造できる。
一般式(1)で表される熱硬化剤(b2)を用いた熱硬化性フィルムは、このように、その保管時の安定性が高く、室温下での保管が可能であり、同様の理由で、樹脂組成物もその保管時の安定性が高く、室温下での保管が可能である。
【0088】
樹脂組成物及び熱硬化性フィルムが含有する熱硬化剤(b2)は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよく、2種以上である場合、それらの組み合わせ及び比率は任意に選択できる。
【0089】
熱硬化性フィルムにおける、熱硬化性フィルムの総質量に対する、熱硬化剤(b2)の含有量の割合は、10~45質量%であることが好ましく、15~40質量%であることがより好ましく、20~35質量%であることがさらに好ましい。前記割合が前記下限値以上であることで、熱硬化性フィルムの硬化がより進行し易くなる。前記割合が前記上限値以下であることで、熱硬化性フィルムの吸湿率が低減されて、熱硬化性フィルムを用いて得られた半導体パッケージ(半導体装置)の信頼性がより向上する。
【0090】
樹脂組成物及び熱硬化性フィルムにおいて、熱硬化剤(b2)の総含有量に対する、一般式(1)で表される熱硬化剤(b2)の含有量の割合([熱硬化性フィルムにおける、一般式(1)で表される熱硬化剤(b2)の含有量(質量部)]/[熱硬化性フィルムにおける、一般式(1)で表される熱硬化剤(b2)と、一般式(1)で表されない熱硬化剤(b2)と、の総含有量(質量部)]×100)は、70質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましい。前記割合が前記下限値以上であることで、一般式(1)で表される熱硬化剤(b2)を用いたことにより得られる効果が、より高くなる。
一方、前記割合は、100質量%以下であり、100質量%であってもよい。
【0091】
熱硬化性フィルムにおける、熱硬化性フィルムの総質量に対する、エポキシ樹脂(b1)及び熱硬化剤(b2)の総含有量(エポキシ系熱硬化性樹脂(b)の含有量)の割合は、60~85質量%であることが好ましく、65~85質量%であることがより好ましく、70~85質量%であることがさらに好ましい。前記割合が前記下限値以上であることで、熱硬化性フィルムの接着特性がより向上する。前記割合が前記上限値以下であることで、熱硬化性フィルムのその保管時の安定性がより高くなる。
【0092】
樹脂組成物及び熱硬化性フィルムにおいて、エポキシ樹脂(b1)及び熱硬化剤(b2)の総含有量は、バインダー(a)の含有量100質量部に対して、400質量部以上であることが好ましく、420質量部以上であることがより好ましく、435質量部以上であることがさらに好ましい。前記含有量が前記下限値以上であることで、熱硬化性フィルムの熱硬化物の耐熱性及び接着力が向上し、半導体パッケージ(半導体装置)の信頼性がより高くなる。
【0093】
樹脂組成物及び熱硬化性フィルムにおいて、エポキシ樹脂(b1)及び熱硬化剤(b2)の総含有量は、バインダー(a)の含有量100質量部に対して、700質量部以下であることが好ましく、例えば、600質量部以下、及び500質量部以下のいずれかであってもよい。
【0094】
熱硬化性フィルムの熱硬化物の耐熱性及び接着力が向上し、半導体パッケージ(半導体装置)の信頼性がさらに高くなる点では、熱硬化剤(b2)の軟化点は、例えば、64~130℃、68~130℃、72~130℃、及び76~130℃以下のいずれかであってもよいし、60~120℃、60~110℃、60~100℃、及び60~90℃のいずれかであってもよいし、64~120℃、68~110℃、72~100℃、及び76~90℃のいずれかであってもよい。
【0095】
バインダー(a)及びエポキシ系熱硬化性樹脂(b)を含有する熱硬化性フィルムは、熱硬化性を有しており、さらに感圧接着性を有することが好ましい。熱硬化性及び感圧接着性をともに有する熱硬化性フィルムは、未硬化状態では各種被着体に軽く押圧することで貼付できる。また、熱硬化性フィルムは、加熱して軟化させることで各種被着体に貼付可能であってもよい。熱硬化性フィルムは、硬化によって最終的には耐衝撃性が高い熱硬化物となり、この熱硬化物は、厳しい高温及び高湿度条件下においても、十分な接着特性を保持し得る。
【0096】
<硬化促進剤(c)>
硬化促進剤(c)は、樹脂組成物及び熱硬化性フィルムの硬化速度を調節するための成分である。
前記熱硬化性フィルムにおいて、硬化促進剤(c)は、後述する層状化合物(z)に担持され、硬化促進剤複合体(y)を形成している。すなわち、熱硬化性フィルムにおいて、硬化促進剤(c)は、硬化促進剤複合体(y)として存在している。
【0097】
硬化促進剤(c)は、常温で液状であること、又は、常温で固体であり、水溶性を有することが好ましい。
【0098】
好ましい硬化促進剤(c)としては、例えば、トリエチルアミン、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン、トリエチレンジアミン、ベンジルジメチルアミン、トリエタノールアミン、ジメチルアミノエタノール、トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール等の第3級アミン;ヘキサメチレンジアミン等の第1級アミン;2-メチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール等のイミダゾール類(1個以上の水素原子が水素原子以外の基で置換されたイミダゾール);トリブチルホスフィン、ジフェニルホスフィン、トリフェニルホスフィン等の有機ホスフィン類(1個以上の水素原子が有機基で置換されたホスフィン)等が挙げられる。
【0099】
硬化促進剤(c)である好ましいアミンとしては、第3級アミンが挙げられる。
硬化促進剤(c)である好ましいアミンとしては、1分子中にアミノ基又は置換アミノ基を合計で2個以上有する多官能アミンも挙げられる。先に例示した硬化促進剤(c)のうち、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン、トリエチレンジアミン、トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、ヘキサメチレンジアミンは、多官能アミンである。
【0100】
樹脂組成物及び熱硬化性フィルムが含有する(樹脂組成物及び熱硬化性フィルムにおいて配合されている)硬化促進剤(c)は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよく、2種以上である場合、それらの組み合わせ及び比率は任意に選択できる。
【0101】
熱硬化性フィルムにおいて、硬化促進剤(c)の配合量は、熱硬化性フィルムの総質量100gに対して、400μmol以上であることが好ましく、500μmol以上であることがより好ましく、例えば、700μmol以上、1000μmol以上、及び1300μmol以上のいずれかであってもよい。前記配合量が前記下限値以上であることで、熱硬化性フィルムの熱硬化物の接着力がより高くなる。
本明細書において、熱硬化性フィルムにおける、熱硬化性フィルムの総質量100gに対する、硬化促進剤(c)の配合量は、樹脂組成物における、溶媒以外の全ての成分の総配合量100gに対する、硬化促進剤(c)の配合量と同じである。
【0102】
熱硬化性フィルムにおいて、硬化促進剤(c)の配合量は、熱硬化性フィルムの総質量100gに対して、3000μmol以下であることが好ましく、2000μmol以下であることがより好ましく、1600μmol以下であることがさらに好ましい。前記配合量が前記上限値以下であることで、保管時の熱硬化性フィルムの目的外の硬化がより抑制される。
【0103】
熱硬化性フィルムにおいて、硬化促進剤(c)の配合量は、熱硬化性フィルムの総質量100gに対して、400~3000μmolであってもよいし、400~2000μmol、及び400~1600μmolのいずれかであってもよいし、500~3000μmol、700~3000μmol、及び1000~3000μmolのいずれかであってもよいし、500~2000μmol、及び700~1600μmolのいずれかであってもよい。ただし、これらは、硬化促進剤(c)の前記配合量の一例である。
【0104】
<層状化合物(z)>
層状化合物(z)は、層状化合物(z)が形成する層の間に、硬化促進剤(c)を担持する。この層状化合物(z)が形成する層の間での硬化促進剤(c)の担持には、硬化促進剤(c)のインターカレーションも含まれる。
前記熱硬化性フィルムにおいて、層状化合物(z)は硬化促進剤(c)を担持し、硬化促進剤複合体(y)を形成している。
【0105】
層状化合物(z)としては、例えば、層状の金属リン酸塩、層状の金属酸化物、層状の複水酸化物、層状の金属カルコゲン化物等が挙げられる。これら層状化合物(z)は、「Solid State Ionics,Volume 22,Issue 1,December 1986,Pages 43-51」にも例示されている。
一般的な層状化合物としては、スメクタイト族(モンモリロナイト、サポナイト等)、カオリン族等の層状の粘土鉱物・ケイ酸塩類も挙げられるが、これら粘土鉱物・ケイ酸塩類は、層状化合物(z)に含まれない。
【0106】
樹脂組成物及び熱硬化性フィルムが含有する層状化合物(z)は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよく、2種以上である場合、それらの組み合わせ及び比率は任意に選択できる。
【0107】
層状化合物(z)は、層状の金属リン酸塩であることが好ましい。
層状の金属リン酸塩としては、例えば、リン酸ジルコニウム、リン酸チタン等の4価金属の酸性リン酸塩;三リン酸二水素アルミニウム二水和物(本明細書においては、単に「リン酸アルミニウム」と称することがある)等が挙げられる。
【0108】
4価金属の酸性リン酸塩は、一般式「M4(HPO4)2・nH2O(式中、M4は4価金属であり、nは0、1又は2である。)」で表される。
4価金属の酸性リン酸塩としては、一水和物(n=1)のα型リン酸塩、二水和物(n=2)のγ型リン酸塩等が挙げられる。
三リン酸二水素アルミニウム二水和物(リン酸アルミニウム)は、式「AlH2P3O10・2H2O」で表される。
【0109】
層状化合物(z)は、リン酸ジルコニウム又はリン酸アルミニウムであることが好ましく、リン酸ジルコニウムであることがより好ましい。
リン酸ジルコニウムは、α型リン酸ジルコニウムであることが好ましい。
【0110】
〇硬化促進剤複合体(y)
硬化促進剤複合体(y)は、層状化合物(z)が硬化促進剤(c)を担持して構成されている。
熱硬化性フィルムにおいて、硬化促進剤(c)は、層状化合物(z)に担持されているため、熱硬化性フィルムの保管時においては、硬化促進剤(c)の熱硬化剤(b2)への作用が抑制される。その結果、保管時の熱硬化性フィルムの目的外の硬化が抑制される。そして、保管後の熱硬化性フィルムを用いた場合であっても、ダイシング適性が良好で、信頼性が高い半導体装置を製造できる。
熱硬化性フィルムが、硬化促進剤複合体(y)を形成していない層状化合物(z)及び硬化促進剤(c)を含有していても、本発明の効果は得られず、本発明の効果を得るためには、熱硬化性フィルムが硬化促進剤複合体(y)を含有している必要がある。
【0111】
硬化促進剤複合体(y)は、例えば、層状化合物(z)、硬化促進剤(c)及び溶媒成分を配合することにより、製造できる。
配合する溶媒成分は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよく、2種以上である場合、それらの組み合わせ及び比率は任意に選択できる。
好ましい溶媒成分としては、例えば、水が挙げられる。
【0112】
層状化合物(z)、硬化促進剤(c)及び溶媒成分は、すべて別々に配合してもよいし、層状化合物(z)及び溶媒成分の混合物と、硬化促進剤(c)と、を配合してもよいし、層状化合物(z)と、硬化促進剤(c)及び溶媒成分の混合物と、を配合してもよいし、層状化合物(z)及び溶媒成分の混合物と、硬化促進剤(c)及び溶媒成分の混合物と、を配合してもよい。
【0113】
層状化合物(z)、硬化促進剤(c)及び溶媒成分の配合の途中で得られる中間配合物と、これらをすべて配合して得られた配合物は、公知の方法で撹拌することが好ましい。
前記中間配合物及び配合物の撹拌は、例えば、15~35℃の温度条件下で行ってもよい。
【0114】
前記配合物の撹拌時間は、特に限定されず、例えば、1~168時間であってもよい。
撹拌後の前記配合物は、例えば、15~35℃の温度条件下で一定時間静置してもよい。
【0115】
前記配合物の撹拌後、取り出された目的物(硬化促進剤複合体(y)の粗生成物)は、溶媒成分で洗浄することが好ましい。得られた洗浄物を乾燥させることにより、高純度の硬化促進剤複合体(y)が得られる。
【0116】
洗浄に用いる溶媒成分は、例えば、水であってもよいし、有機溶媒であってもよいし、水及び有機溶媒の混合物である混合溶媒であってもよい。
洗浄に用いる有機溶媒は、アルコールであることが好ましく、メタノールであることがより好ましい。
洗浄に用いる溶媒成分は、硬化促進剤(c)が溶解可能であることが好ましい。
【0117】
例えば、常温で液状の硬化促進剤(c)を単独で、若しくは、常温で液状であるか固体であるかによらず水溶性の硬化促進剤(c)を水溶液として、層状化合物(z)の水分散体に添加することによって、前記配合物として、硬化促進剤複合体(y)の水分散体が得られ易い。
あるいは、常温で液状であるか固体であるかによらず水溶性の硬化促進剤(c)を水溶液として、この水溶液に、層状化合物(z)を添加することによっても、前記配合物として、硬化促進剤複合体(y)の水分散体が得られ易い。
このような水分散体からは、固液分離によって、硬化促進剤複合体(y)を簡単に取り出すことができ、硬化促進剤複合体(y)を単純な工程で得られる。得られた硬化促進剤複合体(y)は、溶媒成分(例えば、水、前記有機溶媒、又は前記混合溶媒)で洗浄することで、より高純度となる。
【0118】
硬化促進剤(c)の配合量は、層状化合物(z)の配合量に対して、0.7~1.3質量倍であることが好ましく、0.9~1.1質量倍であってもよい。
溶媒成分の配合量は、硬化促進剤(c)及び層状化合物(z)の合計配合量に対して、7~13質量倍であることが好ましく、9~11質量倍であってもよい。
ただし、ここに示す、層状化合物(z)、硬化促進剤(c)及び溶媒成分の配合量は、一例である。
【0119】
層状化合物(z)の層間距離は、典型的には、溶媒成分中では、溶媒成分との混合前よりも広がっている。この状態で、層状化合物(z)と硬化促進剤(c)が共存すると、水素結合等の分子間の相互作用によって、層状化合物(z)の層間に、硬化促進剤(c)が入り込み、硬化促進剤(c)が層状化合物(z)によって担持され、硬化促進剤複合体(y)が形成される。単離され、乾燥された硬化促進剤複合体(y)では、層状化合物(z)の層間距離は、溶媒成分との混合前の場合よりも増大しており、硬化促進剤(c)が層状化合物(z)によって担持された構造が維持される。保管時の熱硬化性フィルム中では、このような硬化促進剤複合体(y)が安定して存在し、硬化促進剤(c)の熱硬化剤(b2)への作用が抑制される。
一方、熱硬化性フィルムの加熱時には、層状化合物(z)の分子と硬化促進剤(c)の分子は、それぞれ動きが活発になり、層状化合物(z)の層間距離がさらに広がり、上述の水素結合等の分子間の相互作用が解消されるか又は弱くなる。そして、硬化促進剤(c)が層状化合物(z)によって担持されなくなって、熱硬化剤(b2)に作用するか、又は、距離が広がっている層状化合物(z)の層間に熱硬化剤(b2)が入り込んで、この熱硬化剤(b2)に硬化促進剤(c)が作用することによって、熱硬化性フィルムの目的とする硬化が進行すると推測される。ただし、この間、硬化促進剤複合体(y)中のすべての硬化促進剤(c)が同一の挙動を示すとは限らない。
【0120】
樹脂組成物及び熱硬化性フィルムにおいて、硬化促進剤複合体(y)の含有量は、エポキシ樹脂(b1)及び熱硬化剤(b2)の総含有量(エポキシ系熱硬化性樹脂(b)の含有量)100質量部に対して、0.25質量部以上であることが好ましく、例えば、0.35質量部以上、及び0.45質量部以上のいずれかであってもよい。前記含有量が前記下限値以上であることで、熱硬化性フィルムは、その最終的な硬化時に、より高い硬化度を示し、熱硬化性フィルムを用いて得られた半導体装置の信頼性がより高くなる。また、熱硬化性フィルムのダイシング適性がより良好となる。
【0121】
樹脂組成物及び熱硬化性フィルムにおいて、硬化促進剤複合体(y)の含有量は、エポキシ樹脂(b1)及び熱硬化剤(b2)の総含有量100質量部に対して、1.7質量部以下であることが好ましく、1.2質量部以下であることがより好ましく、例えば、0.7質量部以下であってもよい。前記含有量が前記上限値以下であることで、熱硬化性フィルムは、その保管時に、目的外の硬化がより抑制される。また、熱硬化性フィルムのダイシング適性がより良好となる。
【0122】
樹脂組成物及び熱硬化性フィルムにおいて、硬化促進剤複合体(y)の含有量は、エポキシ樹脂(b1)及び熱硬化剤(b2)の総含有量100質量部に対して、0.25~1.7質量部、0.25~1.2質量部、及び0.25~0.7質量部のいずれかであってもよいし、0.35~1.7質量部、0.35~1.2質量部、及び0.35~0.7質量部のいずれかであってもよいし、0.45~1.7質量部、0.45~1.2質量部、及び0.45~0.7質量部のいずれかであってもよい。ただし、これらは、硬化促進剤複合体(y)の前記含有量の一例である。
【0123】
樹脂組成物及び熱硬化性フィルムは、熱硬化性フィルムの各種物性を改良するために、バインダー(a)、エポキシ樹脂(b1)、熱硬化剤(b2)、及び硬化促進剤複合体(y)以外に、さらに必要に応じて、これらのいずれにも該当しない他の成分を含有していてもよい。
熱硬化性フィルムが含有する前記他の成分としては、例えば、硬化促進剤(c)、層状化合物(z)、充填材(d)、カップリング剤(e)、架橋剤(f)、エネルギー線硬化性樹脂(g)、光重合開始剤(h)、汎用添加剤(i)等が挙げられる。
熱硬化性フィルムは、硬化促進剤複合体(y)とは別途に、硬化促進剤複合体(y)を形成していない硬化促進剤(c)及び層状化合物(z)のいずれか一方又は両方を含有していてもよいし、含有していなくてもよい。
これらの中でも、好ましい前記他の成分としては、カップリング剤(e)、架橋剤(f)が挙げられる。
【0124】
本明細書において、「エネルギー線」とは、電磁波又は荷電粒子線の中でエネルギー量子を有するものを意味し、その例として、紫外線、放射線、電子線等が挙げられる。
紫外線は、例えば、紫外線源として高圧水銀ランプ、ヒュージョンランプ、キセノンランプ、ブラックライト又はLEDランプ等を用いることで照射できる。電子線は、電子線加速器等によって発生させたものを照射できる。
本明細書において、「エネルギー線硬化性」とは、エネルギー線を照射することにより硬化する性質を意味し、「非エネルギー線硬化性」とは、エネルギー線を照射しても硬化しない性質を意味する。
【0125】
<充填材(d)>
熱硬化性フィルムは、充填材(d)を含有することにより、その熱膨張係数の調整が容易となり、この熱膨張係数を熱硬化性フィルムの貼付対象物に対して最適化することで、熱硬化性フィルムを用いて得られたパッケージの信頼性がより向上する。また、熱硬化性フィルムが充填材(d)を含有することにより、硬化後の熱硬化性フィルムの吸湿率を低減したり、放熱性を向上させたりすることもできる。
【0126】
充填材(d)は、有機充填材及び無機充填材のいずれであってもよいが、無機充填材であることが好ましい。
好ましい無機充填材としては、例えば、シリカ、アルミナ、タルク、炭酸カルシウム、チタンホワイト、ベンガラ、炭化ケイ素、窒化ホウ素等の粉末;これら無機充填材を球形化したビーズ;これら無機充填材の表面改質品;これら無機充填材の単結晶繊維;ガラス繊維等が挙げられる。
これらの中でも、無機充填材は、シリカ又はアルミナであることが好ましい。
【0127】
樹脂組成物及び熱硬化性フィルムが含有する充填材(d)は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよく、2種以上である場合、それらの組み合わせ及び比率は任意に選択できる。
【0128】
<カップリング剤(e)>
熱硬化性フィルムは、カップリング剤(e)を含有することにより、その被着体に対する接着性及び密着性が向上する。また、熱硬化性フィルムがカップリング剤(e)を含有することにより、その硬化物は耐熱性を損なうことなく、耐水性が向上する。カップリング剤(e)は、無機化合物又は有機化合物と反応可能な官能基を有する。
【0129】
カップリング剤(e)は、バインダー(a)、エポキシ系熱硬化性樹脂(b)等が有する官能基と反応可能な官能基を有する化合物であることが好ましく、シランカップリング剤であることがより好ましい。
【0130】
好ましい前記シランカップリング剤としては、例えば、3-グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシジルオキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシジルオキシプロピルトリエトキシシラン、3-グリシジルオキシメチルジエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-(2-アミノエチルアミノ)プロピルトリメトキシシラン、3-(2-アミノエチルアミノ)プロピルメチルジエトキシシラン、3-(フェニルアミノ)プロピルトリメトキシシラン、3-アニリノプロピルトリメトキシシラン、3-ウレイドプロピルトリエトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルファン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、イミダゾールシラン、オリゴマー型又はポリマー型オルガノシロキサン等が挙げられる。
【0131】
樹脂組成物及び熱硬化性フィルムが含有するカップリング剤(e)は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよく、2種以上である場合、それらの組み合わせ及び比率は任意に選択できる。
【0132】
カップリング剤(e)を用いる場合、樹脂組成物及び熱硬化性フィルムにおいて、カップリング剤(e)の含有量は、バインダー(a)及びエポキシ系熱硬化性樹脂(b)の総含有量(バインダー(a)、エポキシ樹脂(b1)及び熱硬化剤(b2)の総含有量)100質量部に対して、0.03~20質量部であることが好ましく、0.05~10質量部であることがより好ましく、0.1~5質量部であることがさらに好ましい。カップリング剤(e)の前記含有量が前記下限値以上であることで、充填材(d)の樹脂への分散性の向上や、熱硬化性フィルムの被着体との接着性の向上など、カップリング剤(e)を用いたことによる効果がより顕著に得られる。カップリング剤(e)の前記含有量が前記上限値以下であることで、アウトガスの発生がより抑制される。
【0133】
<架橋剤(f)>
バインダー(a)として、上述のアクリル樹脂等の、他の化合物と結合可能なビニル基、(メタ)アクリロイル基、アミノ基、水酸基、カルボキシ基、イソシアネート基等の官能基を有するものを用いる場合、樹脂組成物及び熱硬化性フィルムは、架橋剤(f)を含有していてもよい。架橋剤(f)は、バインダー(a)中の前記官能基を他の化合物と結合させて架橋するための成分であり、このように架橋することにより、熱硬化性フィルムの初期接着力及び凝集力を調節できる。
【0134】
架橋剤(f)としては、例えば、有機多価イソシアネート化合物、有機多価イミン化合物、金属キレート系架橋剤(金属キレート構造を有する架橋剤)、アジリジン系架橋剤(アジリジニル基を有する架橋剤)等が挙げられる。
【0135】
前記有機多価イソシアネート化合物としては、例えば、芳香族多価イソシアネート化合物、脂肪族多価イソシアネート化合物及び脂環族多価イソシアネート化合物(以下、これら化合物をまとめて「芳香族多価イソシアネート化合物等」と略記することがある);前記芳香族多価イソシアネート化合物等の三量体、イソシアヌレート体及びアダクト体;前記芳香族多価イソシアネート化合物等とポリオール化合物とを反応させて得られる末端イソシアネートウレタンプレポリマー等が挙げられる。前記「アダクト体」は、前記芳香族多価イソシアネート化合物、脂肪族多価イソシアネート化合物又は脂環族多価イソシアネート化合物と、エチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン又はヒマシ油等の低分子活性水素含有化合物との反応物を意味する。前記アダクト体の例としては、トリメチロールプロパンのトリレンジイソシアネート付加物、トリメチロールプロパンのキシリレンジイソシアネート付加物等が挙げられる。また、「末端イソシアネートウレタンプレポリマー」とは、ウレタン結合を有するとともに、分子の末端部にイソシアネート基を有するプレポリマーを意味する。
【0136】
前記有機多価イソシアネート化合物として、より具体的には、例えば、2,4-トリレンジイソシアネート;2,6-トリレンジイソシアネート;1,3-キシリレンジイソシアネート;1,4-キシレンジイソシアネート;ジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート;ジフェニルメタン-2,4’-ジイソシアネート;3-メチルジフェニルメタンジイソシアネート;ヘキサメチレンジイソシアネート;イソホロンジイソシアネート;ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネート;ジシクロヘキシルメタン-2,4’-ジイソシアネート;トリメチロールプロパン等のポリオールのすべて又は一部の水酸基に、トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート及びキシリレンジイソシアネートのいずれか1種又は2種以上が付加した化合物;リジンジイソシアネート等が挙げられる。
【0137】
前記有機多価イミン化合物としては、例えば、N,N’-ジフェニルメタン-4,4’-ビス(1-アジリジンカルボキシアミド)、トリメチロールプロパン-トリ-β-アジリジニルプロピオネート、テトラメチロールメタン-トリ-β-アジリジニルプロピオネート、N,N’-トルエン-2,4-ビス(1-アジリジンカルボキシアミド)トリエチレンメラミン等が挙げられる。
【0138】
架橋剤(f)として有機多価イソシアネート化合物を用いる場合、バインダー(a)としては、水酸基含有重合体を用いることが好ましい。架橋剤(f)がイソシアネート基を有し、バインダー(a)が水酸基を有する場合、架橋剤(f)とバインダー(a)との反応によって、熱硬化性フィルムに架橋構造を簡便に導入できる。
【0139】
樹脂組成物及び熱硬化性フィルムが含有する架橋剤(f)は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよく、2種以上である場合、それらの組み合わせ及び比率は任意に選択できる。
【0140】
架橋剤(f)を用いる場合、樹脂組成物において、架橋剤(f)の含有量は、バインダー(a)の含有量100質量部に対して、0.01~20質量部であることが好ましく、0.1~10質量部であることがより好ましく、0.3~5質量部であることがさらに好ましい。架橋剤(f)の前記含有量が前記下限値以上であることで、架橋剤(f)を用いたことによる効果がより顕著に得られる。架橋剤(f)の前記含有量が前記上限値以下であることで、架橋剤(f)の過剰使用が抑制される。
【0141】
<エネルギー線硬化性樹脂(g)>
樹脂組成物及び熱硬化性フィルムが、エネルギー線硬化性樹脂(g)を含有していることにより、熱硬化性フィルムは、エネルギー線の照射によって、その特性を変化させることができる。
【0142】
エネルギー線硬化性樹脂(g)は、エネルギー線硬化性化合物から得られたものである。
前記エネルギー線硬化性化合物としては、例えば、分子内に少なくとも1個の重合性二重結合を有する化合物が挙げられ、(メタ)アクリロイル基を有するアクリレート系化合物が好ましい。
【0143】
樹脂組成物が含有するエネルギー線硬化性樹脂(g)は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよく、2種以上である場合、それらの組み合わせ及び比率は任意に選択できる。
【0144】
エネルギー線硬化性樹脂(g)を用いる場合、樹脂組成物において、樹脂組成物の総質量に対する、エネルギー線硬化性樹脂(g)の含有量の割合は、1~95質量%であることが好ましく、例えば、5~90質量%、及び10~85質量%のいずれかであってもよい。
【0145】
<光重合開始剤(h)>
樹脂組成物及び熱硬化性フィルムは、エネルギー線硬化性樹脂(g)を含有する場合、エネルギー線硬化性樹脂(g)の重合反応を効率よく進めるために、光重合開始剤(h)を含有していてもよい。
【0146】
光重合開始剤(h)としては、例えば、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾイン安息香酸、ベンゾイン安息香酸メチル、ベンゾインジメチルケタール等のベンゾイン化合物;アセトフェノン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン等のアセトフェノン化合物;ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド等のアシルフォスフィンオキサイド化合物;ベンジルフェニルスルフィド、テトラメチルチウラムモノスルフィド等のスルフィド化合物;1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン等のα-ケトール化合物;アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物;チタノセン等のチタノセン化合物;チオキサントン等のチオキサントン化合物;パーオキサイド化合物;ジアセチル等のジケトン化合物;ベンジル;ジベンジル;ベンゾフェノン;2,4-ジエチルチオキサントン;1,2-ジフェニルメタン;2-ヒドロキシ-2-メチル-1-[4-(1-メチルビニル)フェニル]プロパノン;1-クロロアントラキノン、2-クロロアントラキノン等のキノン化合物等が挙げられる。
光重合開始剤(h)としては、例えば、アミン等の光増感剤等も挙げられる。
【0147】
樹脂組成物が含有する光重合開始剤(h)は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよく、2種以上である場合、それらの組み合わせ及び比率は任意に選択できる。
【0148】
光重合開始剤(h)を用いる場合、樹脂組成物において、光重合開始剤(h)の含有量は、エネルギー線硬化性樹脂(g)の含有量100質量部に対して、0.1~20質量部であることが好ましく、1~10質量部であることがより好ましく、2~5質量部であることがさらに好ましい。
【0149】
<汎用添加剤(i)>
汎用添加剤(i)は、公知のものでよく、目的に応じて任意に選択でき、特に限定されない。好ましい汎用添加剤(i)としては、例えば、可塑剤、帯電防止剤、酸化防止剤、着色剤(染料、顔料)、ゲッタリング剤等が挙げられる。
【0150】
樹脂組成物及び熱硬化性フィルムが含有する汎用添加剤(i)は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよく、2種以上である場合、それらの組み合わせ及び比率は任意に選択できる。
樹脂組成物及び熱硬化性フィルムの汎用添加剤(i)の含有量は、特に限定されず、目的に応じて適宜選択すればよい。
【0151】
<溶媒>
樹脂組成物は、さらに溶媒を含有することが好ましい。溶媒を含有する樹脂組成物は、取り扱い性が良好となる。
前記溶媒は特に限定されないが、好ましいものとしては、例えば、トルエン、キシレン等の炭化水素;メタノール、エタノール、2-プロパノール、イソブチルアルコール(2-メチルプロパン-1-オール)、1-ブタノール等のアルコール;酢酸エチル等のエステル;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン;テトラヒドロフラン等のエーテル;ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン等のアミド(アミド結合を有する化合物)等が挙げられる。
樹脂組成物が含有する溶媒は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよく、2種以上である場合、それらの組み合わせ及び比率は任意に選択できる。
【0152】
樹脂組成物が含有する溶媒は、樹脂組成物中の含有成分をより均一に混合できる点から、メチルエチルケトン等であることが好ましい。
【0153】
樹脂組成物の溶媒の含有量は、特に限定されず、例えば、溶媒以外の成分の種類に応じて適宜選択すればよい。
【0154】
<樹脂組成物の製造方法>
樹脂組成物は、これを構成するための各成分を配合することで得られる。
各成分の配合時における添加順序は特に限定されず、2種以上の成分を同時に添加してもよい。
溶媒を用いる場合には、溶媒を溶媒以外のいずれかの配合成分と混合してこの配合成分を予め希釈しておくことで用いてもよいし、溶媒以外のいずれかの配合成分を予め希釈しておくことなく、溶媒をこれら配合成分と混合することで用いてもよい。
【0155】
配合時に各成分を混合する方法は特に限定されず、撹拌子又は撹拌翼等を回転させて混合する方法;ミキサーを用いて混合する方法;超音波を加えて混合する方法等、公知の方法から適宜選択すればよい。
各成分の添加及び混合時の温度並びに時間は、各配合成分が劣化しない限り特に限定されず、適宜調節すればよいが、温度は15~30℃であることが好ましい。
【0156】
図2は、本実施形態の熱硬化性フィルムの一例を模式的に示す断面図である。
図2以降の図において、既に説明済みの図に示すものと同じ構成要素には、その説明済みの図の場合と同じ符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0157】
図2に示す熱硬化性フィルム13は、その一方の面(本明細書においては、「第1面」と称することがある)13a上に第1剥離フィルム151を備え、前記第1面13aとは反対側の他方の面(本明細書においては、「第2面」と称することがある)13b上に第2剥離フィルム152を備えている。
このような熱硬化性フィルム13は、例えば、ロール状として保管するのに好適である。
【0158】
第1剥離フィルム151及び第2剥離フィルム152は、いずれも公知のものでよい。
第1剥離フィルム151及び第2剥離フィルム152は、互いに同じものであってもよいし、例えば、熱硬化性フィルム13から剥離させるときに必要な剥離力が互いに異なるなど、互いに異なるものであってもよい。
【0159】
図2に示す熱硬化性フィルム13においては、第1剥離フィルム151及び第2剥離フィルム152がいずれも取り除かれ、生じた露出面の一方が半導体ウエハへの貼付面となり、他方は、例えば、基板への貼付面であってもよい。例えば、前記第1面13aが半導体ウエハへの貼付面である場合には、前記第2面13bが基板への貼付面であってもよい。
【0160】
図2においては、剥離フィルムが熱硬化性フィルム13の両面(第1面13a、第2面13b)に設けられている例を示しているが、剥離フィルムは、熱硬化性フィルム13のいずれか一方の面のみ、すなわち、第1面13aのみ、又は第2面13bのみに、設けられていてもよい。
【0161】
熱硬化性フィルムは1層(単層)からなるものであってもよいし、2層以上の複数層からなるものであってもよく、複数層からなる場合、これら複数層は、互いに同一でも異なっていてもよく、これら複数層の組み合わせは特に限定されない。
【0162】
本明細書においては、熱硬化性フィルムの場合に限らず、「複数層が互いに同一でも異なっていてもよい」とは、「すべての層が同一であってもよいし、すべての層が異なっていてもよいし、一部の層のみが同一であってもよい」ことを意味し、さらに「複数層が互いに異なる」とは、「各層の構成材料及び厚さの少なくとも一方が互いに異なる」ことを意味する。
【0163】
熱硬化性フィルムの厚さは、目的に応じて任意に設定でき、特に限定されない。熱硬化性フィルムの厚さは、例えば、2~100μm、2~70μm、2~40μm、及び3~25μmのいずれかであってもよい。熱硬化性フィルムの厚さが前記下限値以上であることで、熱硬化性フィルムは、被着体に対してより高い接着力を示すとともに、より高い厚さの精度で製造できる。熱硬化性フィルムの厚さが前記上限値以下である場合には、例えば、後述する前記樹脂組成物を必要とされる厚さで塗工した際に、溶媒の揮発量を低減できる。また、このような厚さの熱硬化性フィルムは、近年の薄型半導体装置への適性が高い。
ここで、「熱硬化性フィルムの厚さ」とは、熱硬化性フィルム全体の厚さを意味し、例えば、複数層からなる熱硬化性フィルムの厚さとは、熱硬化性フィルムを構成するすべての層の合計の厚さを意味する。
【0164】
本明細書においては、熱硬化性フィルムの場合に限らず、「厚さ」とは、特に断りのない限り、対象物において無作為に選出された5箇所で測定した厚さの平均で表される値であり、JIS K7130に準じて、定圧厚さ測定器を用いて取得できる。
【0165】
<熱硬化性フィルムの用途>
本実施形態の熱硬化性フィルムは、例えば、フィルム状接着剤、又は半導体ウエハの裏面に保護膜を形成するための保護膜形成フィルムとして好適である。
【0166】
前記フィルム状接着剤は、半導体ウエハ又は半導体チップの回路形成面とは反対側の面(裏面)に設けられる。半導体チップと、前記半導体チップの裏面に設けられたフィルム状接着剤と、を備えたフィルム状接着剤付き半導体チップは、フィルム状接着剤によって、リードフレームや有機基板等に接着(ダイボンディング)される。フィルム状接着剤は、ダイシングシートに積層されて、ダイシング工程でダイシングダイボンディングシートとして使用されることもある。この場合、フィルム状接着剤は、半導体ウエハの裏面に貼付され、半導体ウエハのダイシング時に同時に、半導体チップに沿って切断され、半導体チップとともにダイシングシートから引き離されてピックアップされる。フィルム状接着剤は、リードフレームや有機基板等への半導体チップの接着に利用された後、最終的には熱硬化されて硬化物となる。
【0167】
前記保護膜形成フィルムも、半導体ウエハ又は半導体チップの回路形成面とは反対側の面(裏面)に設けられる。半導体ウエハ又は半導体チップの回路形成面上に、バンプ等の突状電極が設けられた半導体ウエハは、半導体チップへと分割され、その突状電極が回路基板上の接続パッドに接続されることにより、前記回路基板に搭載される。このような半導体ウエハ又は半導体チップにおいては、クラックの発生等の破損を抑制するために、回路形成面とは反対側の面(裏面)が、保護膜で保護されることがある。熱硬化性フィルムは、この保護膜を形成するための保護膜形成フィルムとしても好適である。この場合、半導体チップと、前記半導体チップの裏面に設けられた保護膜形成フィルムと、を備えた保護膜形成フィルム付き半導体チップが使用される。保護膜形成フィルムも、ダイシングシートに積層されて、ダイシング工程で使用されることがある。保護膜形成フィルムは、半導体ウエハの裏面に貼付され、半導体ウエハのダイシング時に同時に、半導体チップに沿って切断され、半導体チップとともに(保護膜形成フィルム付き半導体チップとして)ダイシングシートから引き離されてピックアップされる。熱硬化性フィルムは、最終的には熱硬化されて硬化物である保護膜となる。
【0168】
本実施形態の好ましい熱硬化性フィルムの一例としては、大きさが2mm×2mmで厚さが20μmである前記熱硬化性フィルムの硬化物と、前記硬化物の一方の面の全面に設けられた、厚さが300μmである銅板と、前記硬化物の他方の面の全面に設けられた、厚さが350μmであるシリコンチップと、を備えており、前記硬化物の側面と前記シリコンチップの側面が位置合わせされて構成された第1試験片を作製し、前記銅板を固定した状態で、前記第1試験片中の前記硬化物の側面と前記シリコンチップの側面の位置合わせされた部位に対して、同時に、前記硬化物の一方の面に対して平行な方向に、200μm/secの速度で力を加えたとき、前記硬化物が破壊されるか、前記硬化物が前記銅板から剥離するか、又は、前記硬化物が前記シリコンチップから剥離する、までに加えられた前記力の最大値であるせん断強度が、100N/2mm□以上であり、
前記熱硬化性フィルムの硬化物が、前記熱硬化性フィルムを160℃で1時間加熱処理することにより得られた熱硬化物であり、
5℃で168時間保管した前記熱硬化性フィルムを用いて、直径が10mmで高さが10mmである円柱状の第2試験片を作製し、前記第2試験片に490Nの力を加えながら、前記第2試験片を昇温速度10℃/minで50℃から昇温し、直径0.5mmの毛細管から押し出された、温度が90℃の前記第2試験片の溶融粘度V0を測定し、40℃で504時間保管した前記熱硬化性フィルムを用いて、直径が10mmで高さが10mmである円柱状の第3試験片を作製し、前記第3試験片に490Nの力を加えながら、前記第3試験片を昇温速度10℃/minで50℃から昇温し、直径0.5mmの毛細管から押し出された、温度が90℃の前記第3試験片の溶融粘度V1を測定したとき、下記式:
VR=(V1-V0)/V0×100
で算出される前記熱硬化性フィルムの溶融粘度上昇率VRが600%以下である、熱硬化性フィルムが挙げられる。
このような熱硬化性フィルムは、硬化促進剤(c)と、層状化合物(z)と、を含有し、前記硬化促進剤(c)が前記層状化合物(z)に担持されていることが好ましい。
【0169】
本実施形態の好ましい熱硬化性フィルムの他の例としては、大きさが2mm×2mmで厚さが20μmである前記熱硬化性フィルムの硬化物と、前記硬化物の一方の面の全面に設けられた、厚さが300μmである銅板と、前記硬化物の他方の面の全面に設けられた、厚さが350μmであるシリコンチップと、を備えており、前記硬化物の側面と前記シリコンチップの側面が位置合わせされて構成された第1試験片を作製し、前記銅板を固定した状態で、前記第1試験片中の前記硬化物の側面と前記シリコンチップの側面の位置合わせされた部位に対して、同時に、前記硬化物の一方の面に対して平行な方向に、200μm/secの速度で力を加えたとき、前記硬化物が破壊されるか、前記硬化物が前記銅板から剥離するか、又は、前記硬化物が前記シリコンチップから剥離する、までに加えられた前記力の最大値であるせん断強度が、100N/2mm□以上であり、
5℃で168時間保管した前記熱硬化性フィルムを用いて、直径が10mmで高さが10mmである円柱状の第2試験片を作製し、前記第2試験片に490Nの力を加えながら、前記第2試験片を昇温速度10℃/minで50℃から昇温し、直径0.5mmの毛細管から押し出された、温度が90℃の前記第2試験片の溶融粘度V0を測定し、40℃で504時間保管した前記熱硬化性フィルムを用いて、直径が10mmで高さが10mmである円柱状の第3試験片を作製し、前記第3試験片に490Nの力を加えながら、前記第3試験片を昇温速度10℃/minで50℃から昇温し、直径0.5mmの毛細管から押し出された、温度が90℃の前記第3試験片の溶融粘度V1を測定したとき、下記式:
VR=(V1-V0)/V0×100
で算出される前記熱硬化性フィルムの溶融粘度上昇率VRが600%以下であり、
前記V1が5700~15000Pa・sである、熱硬化性フィルムが挙げられる。
このような熱硬化性フィルムは、硬化促進剤(c)と、層状化合物(z)と、を含有し、前記硬化促進剤(c)が前記層状化合物(z)に担持されていることが好ましい。
【0170】
◇複合シート
本発明の一実施形態に係る複合シートは、支持シートと、前記支持シートの一方の面上に設けられた熱硬化性フィルムと、を備え、前記熱硬化性フィルムが、上述の本発明の一実施形態に係る熱硬化性フィルムである。
本実施形態の複合シートは、半導体ウエハのダイシング時に、半導体ウエハの裏面に熱硬化性フィルムによって貼付することで使用可能であり、すなわち、前記複合シート中の前記支持シートは、ダイシングシートとして使用可能である。このとき、前記複合シートが前記熱硬化性フィルムを備えていることで、切断前又は切断後の熱硬化性フィルムの支持シートからの剥離と、切断前又は切断後の熱硬化性フィルムからの半導体チップ又は半導体ウエハの剥離と、が抑制され、ダイシング適性が良好である。
【0171】
<<支持シート>>
前記支持シートは、1層(単層)からなるものであってもよいし、2層以上の複数層からなるものであってもよい。支持シートが複数層からなる場合、これら複数層の構成材料及び厚さは、互いに同一でも異なっていてもよく、これら複数層の組み合わせは、本発明の効果を損なわない限り、特に限定されない。
【0172】
支持シートは、透明及び非透明のいずれであってもよく、目的に応じて着色されていてもよい。
【0173】
支持シートとしては、例えば、基材フィルムと、前記基材フィルムの一方の面上に設けられた粘着剤層と、を備えたもの;基材フィルムのみからなるもの;等が挙げられる。支持シートが粘着剤層を備えている場合、粘着剤層は、複合シートにおいては、基材フィルムと熱硬化性フィルムとの間に配置される。
【0174】
基材フィルム及び粘着剤層を備えた支持シートを用いた場合には、複合シートにおいて、支持シートと熱硬化性フィルムとの間の、密着性及び剥離性を容易に調節できる。
基材フィルムのみからなる支持シートを用いた場合には、低コストで複合シートを製造できる。
【0175】
◎複合シートの一例
図3は、本実施形態の複合シートの一例を模式的に示す断面図である。
ここに示す複合シート101は、支持シート10と、支持シート10の一方の面(本明細書においては、「第1面」と称することがある)10a上に設けられた熱硬化性フィルム13と、を備えて構成されている。
支持シート10は、基材フィルム11と、基材フィルム11の一方の面(第1面)11a上に設けられた粘着剤層12と、を備えて構成されている。複合シート101中、粘着剤層12は、基材フィルム11と熱硬化性フィルム13との間に配置されている。
すなわち、複合シート101は、基材フィルム11、粘着剤層12及び熱硬化性フィルム13がこの順に、これらの厚さ方向において積層されて構成されている。
支持シート10の第1面10aは、粘着剤層12の基材フィルム11側とは反対側の面(本明細書においては、「第1面」と称することがある)12aと同じである。
【0176】
複合シート101は、さらに熱硬化性フィルム13上に、治具用接着剤層16及び剥離フィルム15を備えている。
複合シート101においては、粘着剤層12の第1面12aの全面又はほぼ全面に、熱硬化性フィルム13が積層され、熱硬化性フィルム13の粘着剤層12側とは反対側の面(本明細書においては、「第1面」と称することがある)13aの一部、すなわち、周縁部近傍の領域に、治具用接着剤層16が積層されている。さらに、熱硬化性フィルム13の第1面13aのうち、治具用接着剤層16が積層されていない領域と、治具用接着剤層16の熱硬化性フィルム13側とは反対側の面(本明細書においては、「第1面」と称することがある)16aに、剥離フィルム15が積層されている。熱硬化性フィルム13の第1面13aとは反対側の面(本明細書においては、「第2面」と称することがある)13bには、支持シート10が設けられている。
【0177】
複合シート101の場合に限らず、本実施形態の複合シートにおいては、剥離フィルム(例えば、
図3に示す剥離フィルム15)は任意の構成であり、本実施形態の複合シートは、剥離フィルムを備えていてもよいし、備えていなくてもよい。
【0178】
治具用接着剤層16は、リングフレーム等の治具に、複合シート101を固定するために用いる。
治具用接着剤層16は、例えば、接着剤成分又は粘着剤成分を含有する単層構造を有していてもよいし、芯材となるシートと、前記シートの両面に設けられた、接着剤成分又は粘着剤成分を含有する層と、を備えた複数層構造を有していてもよい。
【0179】
複合シート101は、剥離フィルム15が取り除かれた状態で、熱硬化性フィルム13の第1面13aに半導体ウエハの裏面が貼付され、さらに、治具用接着剤層16の第1面16aが、リングフレーム等の治具に貼付されて、使用される。
【0180】
図4は、本実施形態の複合シートの他の例を模式的に示す断面図である。
ここに示す複合シート102は、支持シート10に代えて支持シート20を備えて構成されている点以外は、
図3に示す複合シート101と同じである。
【0181】
支持シート20は、基材フィルム11のみからなる。
すなわち、複合シート102は、基材フィルム11及び熱硬化性フィルム13が、これらの厚さ方向において積層されて構成されており、複合シート102においては、熱硬化性フィルム13が基材フィルム11に直接接触して設けられている。
支持シート20の熱硬化性フィルム13側の面(一方の面)20aは、基材フィルム11の第1面11aと同じである。
【0182】
本実施形態の複合シートは、
図3~
図4に示すものに限定されず、本発明の効果を損なわない範囲内において、
図3~
図4に示すものの一部の構成が変更又は削除されたものや、これまでに説明したものにさらに他の構成が追加されたものであってもよい。
例えば、複合シートにおいては、各層の大きさや形状は、目的に応じて任意に調節できる。
【0183】
○基材フィルム
前記基材フィルムは、シート状又はフィルム状であり、その構成材料としては、例えば、各種樹脂が挙げられる。
前記樹脂としては、例えば、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖低密度ポリエチレン(LLDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)等のポリエチレン;ポリプロピレン、ポリブテン、ポリブタジエン、ポリメチルペンテン、ノルボルネン樹脂等のポリエチレン以外のポリオレフィン;エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体、エチレン-ノルボルネン共重合体等のエチレン系共重合体(モノマーとしてエチレンを用いて得られた共重合体);ポリ塩化ビニル、塩化ビニル共重合体等の塩化ビニル系樹脂(モノマーとして塩化ビニルを用いて得られた樹脂);ポリスチレン;ポリシクロオレフィン;ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンイソフタレート、ポリエチレン-2,6-ナフタレンジカルボキシレート、すべての構成単位が芳香族環式基を有する全芳香族ポリエステル等のポリエステル;2種以上の前記ポリエステルの共重合体;ポリ(メタ)アクリル酸エステル;ポリウレタン;ポリウレタンアクリレート;ポリイミド;ポリアミド;ポリカーボネート;フッ素樹脂;ポリアセタール;変性ポリフェニレンオキシド;ポリフェニレンスルフィド;ポリスルホン;ポリエーテルケトン等が挙げられる。
また、前記樹脂としては、例えば、前記ポリエステルとそれ以外の樹脂との混合物等のポリマーアロイも挙げられる。前記ポリエステルとそれ以外の樹脂とのポリマーアロイは、ポリエステル以外の樹脂の量が比較的少量であるものが好ましい。
また、前記樹脂としては、例えば、ここまでに例示した前記樹脂の1種又は2種以上が架橋した架橋樹脂;ここまでに例示した前記樹脂の1種又は2種以上を用いたアイオノマー等の変性樹脂も挙げられる。
前記樹脂は、耐熱性に優れる点では、ポリプロピレン又はポリブチレンテレフタレートであることが好ましい。
【0184】
基材フィルムを構成する樹脂は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよく、2種以上である場合、それらの組み合わせ及び比率は任意に選択できる。
【0185】
基材フィルムは1層(単層)からなるものであってもよいし、2層以上の複数層からなるものであってもよく、複数層からなる場合、これら複数層は、互いに同一でも異なっていてもよく、これら複数層の組み合わせは特に限定されない。
【0186】
基材フィルムの厚さは、50~300μmであることが好ましく、60~140μmであることがより好ましい。基材フィルムの厚さがこのような範囲であることで、複合シートの可撓性と、半導体ウエハへの貼付適性がより向上する。
ここで、「基材フィルムの厚さ」とは、基材フィルム全体の厚さを意味し、例えば、複数層からなる基材フィルムの厚さとは、基材フィルムを構成するすべての層の合計の厚さを意味する。
【0187】
基材フィルムは、前記樹脂等の主たる構成材料以外に、充填材、着色剤、酸化防止剤、有機滑剤、触媒、軟化剤(可塑剤)等の公知の各種添加剤を含有していてもよい。
【0188】
基材フィルムは、透明及び非透明のいずれであってもよく、目的に応じて着色されていてもよいし、他の層が蒸着されていてもよい。
【0189】
基材フィルムは、その上に設けられる層(例えば、粘着剤層、熱硬化性フィルム、又は前記他の層)との密着性を調節するために、サンドブラスト処理、溶剤処理等による凹凸化処理;コロナ放電処理、電子線照射処理、プラズマ処理、オゾン・紫外線照射処理、火炎処理、クロム酸処理、熱風処理等の酸化処理;親油処理;親水処理等が表面に施されていてもよい。また、基材フィルムは、表面がプライマー処理されていてもよい。
【0190】
基材フィルムは、特定範囲の成分(例えば、樹脂等)を含有することで、少なくとも一方の面において、粘着性を有するものであってもよい。
【0191】
基材フィルムは、公知の方法で製造できる。例えば、樹脂を含有する基材フィルムは、前記樹脂を含有する樹脂組成物を成形することで製造できる。
【0192】
○粘着剤層
前記粘着剤層は、シート状又はフィルム状であり、粘着剤を含有する。
前記粘着剤としては、例えば、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ゴム系樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ系樹脂、ポリビニルエーテル、ポリカーボネート、エステル系樹脂等の粘着性樹脂が挙げられる。
【0193】
粘着剤層は1層(単層)からなるものであってもよいし、2層以上の複数層からなるものであってもよく、複数層からなる場合、これら複数層は、互いに同一でも異なっていてもよく、これら複数層の組み合わせは特に限定されない。
【0194】
粘着剤層の厚さは、特に限定されず、例えば、1~100μm、1~60μm、及び1~30μmのいずれかであってもよい。
ここで、「粘着剤層の厚さ」とは、粘着剤層全体の厚さを意味し、例えば、複数層からなる粘着剤層の厚さとは、粘着剤層を構成するすべての層の合計の厚さを意味する。
【0195】
粘着剤層は、透明及び非透明のいずれであってもよく、目的に応じて着色されていてもよい。
【0196】
粘着剤層は、エネルギー線硬化性及び非エネルギー線硬化性のいずれであってもよい。エネルギー線硬化性粘着剤層は、その硬化前及び硬化後での物性を調節できる。例えば、後述する熱硬化性フィルム付き半導体チップのピックアップ前に、エネルギー線硬化性粘着剤層を硬化させることにより、この熱硬化性フィルム付き半導体チップをより容易にピックアップできる。
【0197】
本明細書においては、エネルギー線硬化性粘着剤層がエネルギー線硬化した後であっても、基材フィルムと、エネルギー線硬化性粘着剤層の硬化物と、の積層構造が維持されている限り、この積層構造体を「支持シート」と称する。
【0198】
粘着剤層は、粘着剤を含有する粘着剤組成物を用いて形成できる。例えば、粘着剤層の形成対象面に粘着剤組成物を塗工し、必要に応じて乾燥させることで、目的とする部位に粘着剤層を形成できる。粘着剤組成物における、常温で気化しない成分同士の含有量の比率は、通常、粘着剤層における前記成分同士の含有量の比率と同じとなる。
【0199】
粘着剤組成物の塗工及び乾燥は、例えば、上述の樹脂組成物の塗工及び乾燥の場合と同じ方法で行うことができる。
【0200】
粘着剤組成物は、例えば、配合成分の種類が異なる点以外は、先に説明した樹脂組成物の場合と同じ方法で製造できる。
【0201】
◇複合シートの製造方法
前記複合シートは、上述の各層を対応する位置関係となるように積層し、必要に応じて、一部又はすべての層の形状を調節することで、製造できる。各層の形成方法は、先に説明したとおりである。
【0202】
例えば、支持シートを製造するときに、基材フィルム上に粘着剤層を積層する場合には、基材フィルム上に上述の粘着剤組成物を塗工し、必要に応じて乾燥させればよい。
剥離フィルム上に粘着剤組成物を塗工し、必要に応じて乾燥させることで、剥離フィルム上に粘着剤層を形成しておき、この粘着剤層の露出面を、基材フィルムの一方の表面と貼り合わせる方法でも、基材フィルム上に粘着剤層を積層できる。このとき、粘着剤組成物は、剥離フィルムの剥離処理面に塗工することが好ましい。この場合の剥離フィルムは、複合シートの製造過程又は使用過程のいずれかのタイミングで、取り除けばよい。
ここまでは、基材フィルム上に粘着剤層を積層する場合を例に挙げたが、上述の方法は、例えば、基材フィルム上に粘着剤層以外の他の層を積層する場合にも適用できる。
【0203】
一方、例えば、基材フィルム上に積層済みの粘着剤層の上に、さらに熱硬化性フィルムを積層する場合には、粘着剤層上に樹脂組成物を塗工して、熱硬化性フィルムを直接形成することが可能である。熱硬化性フィルム以外の層も、この層を形成するための組成物を用いて、同様の方法で、粘着剤層の上にこの層を積層できる。このように、基材フィルム上に積層済みのいずれかの層(以下、「第1層」と略記する)上に、新たな層(以下、「第2層」と略記する)を形成して、連続する2層の積層構造(換言すると、第1層及び第2層の積層構造)を形成する場合には、前記第1層上に、前記第2層を形成するための組成物を塗工して、必要に応じて乾燥させる方法が適用できる。
ただし、第2層は、これを形成するための組成物を用いて、剥離フィルム上にあらかじめ形成しておき、この形成済みの第2層の前記剥離フィルムと接触している側とは反対側の露出面を、第1層の露出面と貼り合わせることで、連続する2層の積層構造を形成することが好ましい。このとき、前記組成物は、剥離フィルムの剥離処理面に塗工することが好ましい。剥離フィルムは、積層構造の形成後、必要に応じて取り除けばよい。
ここでは、粘着剤層上に熱硬化性フィルムを積層する場合を例に挙げたが、例えば、粘着剤層上に熱硬化性フィルム以外の層(フィルム)を積層する場合など、対象となる積層構造は、任意に選択できる。
【0204】
このように、複合シートを構成する基材フィルム以外の層はいずれも、剥離フィルム上にあらかじめ形成しておき、目的とする層の表面に貼り合わせる方法で積層できるため、必要に応じてこのような工程を採用する層を適宜選択して、保護膜形成用複合シートを製造すればよい。
【0205】
複合シートは、通常、その支持シートとは反対側の最表層(例えば、熱硬化性フィルム)の表面に剥離フィルムが貼り合わされた状態で保管される。したがって、この剥離フィルム(好ましくはその剥離処理面)上に、樹脂組成物等の、最表層を構成する層を形成するための組成物を塗工し、必要に応じて乾燥させることで、剥離フィルム上に最表層を構成する層を形成しておき、この層の剥離フィルムと接触している側とは反対側の露出面上に残りの各層を積層し、剥離フィルムを取り除かずに貼り合わせた状態のままとすることで、剥離フィルム付きの複合シートが得られる。
【0206】
◇半導体装置の製造方法
本発明の一実施形態に係る半導体装置の製造方法は、上述の本発明の一実施形態に係る熱硬化性フィルムの一方の面、又は上述の本発明の一実施形態に係る複合シート中の前記熱硬化性フィルムの露出面を、半導体ウエハの裏面に貼付する工程(本明細書においては、「貼付工程」と称することがある)と、
前記複合シートを用いた場合には、前記複合シート中の前記支持シート上において、前記半導体ウエハを半導体チップへと分割し、前記半導体ウエハの分割箇所に沿って、前記熱硬化性フィルムを切断し、前記複合シートを構成していない前記熱硬化性フィルムを用いた場合には、前記熱硬化性フィルムの他方の面に、ダイシングシートを貼付した後、前記ダイシングシート上において、前記半導体ウエハを半導体チップへと分割し、前記半導体ウエハの分割箇所に沿って、前記熱硬化性フィルムを切断することにより、前記半導体チップと、前記半導体チップの裏面に設けられた、切断後の前記熱硬化性フィルムと、を備えた熱硬化性フィルム付き半導体チップを作製する工程(本明細書においては、「ダイシング工程」と称することがある)と、
前記熱硬化性フィルム付き半導体チップを、前記ダイシングシート又は支持シートから引き離してピックアップする工程(本明細書においては、「ピックアップ工程」と称することがある)と、
ピックアップした前記熱硬化性フィルム付き半導体チップ中の前記熱硬化性フィルムを、基板の回路形成面に貼付することにより、前記熱硬化性フィルム付き半導体チップを前記回路形成面に接着する工程(本明細書においては、「接着工程」と称することがある)と、を有する。
本実施形態の製造方法では、前記複合シートを構成している熱硬化性フィルム又は前記複合シートを構成していない熱硬化性フィルムを用いることにより、熱硬化性フィルムが保管後のものであっても、前記ダイシング工程において、半導体ウエハの半導体チップへの分割と、熱硬化性フィルムのチップサイズへの切断と、を良好に行うことができる。すなわち、本実施形態の製造方法は、良好なダイシング適性を有する。また、熱硬化性フィルムは、その最終的な硬化時に、十分に硬化するため、本実施形態の製造方法で得られた半導体装置は、高い信頼性を有する。
以下、図面を参照しながら、前記製造方法について説明する。
【0207】
<<製造方法(1)>>
まず、前記複合シートを構成している熱硬化性フィルムを用いた場合の製造方法(本明細書においては、「製造方法(1)」と称することがある)について説明する。
図5A~
図5Dは、前記製造方法(1)の一例を模式的に説明するための断面図である。ここでは、
図4に示す複合シート102を用い、熱硬化性フィルム13をフィルム状接着剤として用いる場合の製造方法(1)について説明する。
【0208】
<貼付工程>
製造方法(1)の前記貼付工程においては、
図5Aに示すように、剥離フィルム15を取り除いた複合シート102中の熱硬化性フィルム13の露出面(第1面)13aを、半導体ウエハ9の裏面9bに貼付する。
【0209】
熱硬化性フィルム13のウエハ9への貼付は、ロールを用いる方法等、公知の方法で行うことができる。
【0210】
熱硬化性フィルム13のウエハ9への貼付条件は、特に限定されない。通常、貼付時の熱硬化性フィルム13の温度(貼付温度)は20~100℃であることが好ましい。
【0211】
<ダイシング工程>
製造方法(1)の前記貼付工程後、前記ダイシング工程においては、
図5Bに示すように、複合シート102中の支持シート20(換言すると基材フィルム11)上において、半導体ウエハ9を半導体チップ90へと分割し、半導体ウエハ9の分割箇所に沿って、熱硬化性フィルム13を切断する。これにより、半導体チップ90と、半導体チップ90の裏面90bに設けられた、切断後の熱硬化性フィルム130と、を備えた熱硬化性フィルム付き半導体チップ913を作製するとともに、支持シート20上で、複数個のこれら熱硬化性フィルム付き半導体チップ913が整列した状態で保持されて構成された、熱硬化性フィルム付き半導体チップ群901を作製する。
図5B中、符号130aは、切断後の熱硬化性フィルム130の第1面を示しており、熱硬化性フィルム13の第1面13aに対応している。また、符号130bは、切断後の熱硬化性フィルム130の第2面を示しており、熱硬化性フィルム13の第2面13bに対応している。
【0212】
製造方法(1)の前記ダイシング工程においては、半導体ウエハ9の分割と、熱硬化性フィルム13の切断と、を同時に行うか、又は、半導体ウエハ9を分割してから熱硬化性フィルム13を切断することが好ましい。
製造方法(1)においては、半導体ウエハ9の分割と、熱硬化性フィルム13の切断とを、その順序によらず、中断することなく同じ操作によって連続的に行った場合には、半導体ウエハ9の分割と、熱硬化性フィルム13の切断と、を同時に行ったものとみなす。
【0213】
半導体ウエハ9の分割と、熱硬化性フィルム13の切断とは、いずれも、これらを行う順番に応じて、公知の方法で行うことができる。
【0214】
例えば、半導体ウエハ9の分割と、熱硬化性フィルム13の切断と、を同時に行う場合には、ブレードを用いるブレードダイシング、レーザー照射によるレーザーダイシング、又は研磨剤を含む水の吹き付けによるウォーターダイシング等の各種ダイシングによって、半導体ウエハ9の分割と、熱硬化性フィルム13の切断と、を同時に行ことができる。
【0215】
製造方法(1)の前記ダイシング工程においては、熱硬化性フィルム13を用いていることにより、熱硬化性フィルム13が保管後のものであっても、ダイシング適性が良好であり、半導体ウエハ9の半導体チップ90への分割と、熱硬化性フィルム13のチップサイズへの切断と、を良好に行うことができる。
【0216】
<ピックアップ工程>
製造方法(1)の前記ダイシング工程後、前記ピックアップ工程においては、
図5Cに示すように、熱硬化性フィルム付き半導体チップ913を、支持シート20から引き離してピックアップする。
製造方法(1)の前記ピックアップ工程においては、熱硬化性フィルム付き半導体チップ913中の熱硬化性フィルム130の第2面130bと、支持シート20の第1面20a(換言すると、基材フィルム11の第1面11a)と、の間で剥離が生じる。
【0217】
熱硬化性フィルム付き半導体チップ913は、公知の方法でピックアップできる。
ここでは、真空コレット等の引き離し手段7を用いて、熱硬化性フィルム付き半導体チップ913を矢印U方向に引き離す場合を示している。なお、
図5Cにおいては、引き離し手段7のみ、断面表示を省略している。
【0218】
<接着工程>
製造方法(1)の前記ピックアップ工程後、前記接着工程においては、
図5Dに示すように、ピックアップした熱硬化性フィルム付き半導体チップ913中の熱硬化性フィルム130を、基板6の回路形成面6aに貼付することにより、熱硬化性フィルム付き半導体チップ913を回路形成面6aに接着する。なお、
図5D中の基板6においては、回路の表示を省略している。
【0219】
熱硬化性フィルム付き半導体チップ913の基板6への貼付条件は、特に限定されない。通常、貼付時の熱硬化性フィルム付き半導体チップ913の温度(貼付温度)は60~140℃であることが好ましく、貼付時に熱硬化性フィルム付き半導体チップ913に加える圧力(貼付圧力)は1~3Nであることが好ましく、貼付時に熱硬化性フィルム付き半導体チップ913に圧力を加える時間(加圧時間)は1~10秒であることが好ましい。
【0220】
製造方法(1)においては、前記接着工程後、公知の操作を行うことで、目的とする半導体装置を製造できる。例えば、必要に応じて、この接着後の半導体チップ90に、さらに半導体チップを1個以上積層した後、ワイヤボンディングを行う。次いで、得られたもの全体をモールド樹脂により封止し、このモールド樹脂と熱硬化性フィルム130を熱硬化させ、必要に応じて、得られたものをさらにダイシングすることにより、半導体パッケージを製造できる。そして、この半導体パッケージを用いて、目的とする半導体装置を製造できる。
【0221】
製造方法(1)によって製造された半導体装置は、熱硬化性フィルム13を用いていることによって、熱硬化性フィルム13が十分に硬化しており、高い信頼性を有する。
【0222】
ここまでは、製造方法(1)として、
図4に示す複合シート102を用いた場合の製造方法について説明したが、
図3に示す複合シート101等、本実施形態の他の複合シートを用いた場合も、上記と同様の方法で製造できる。
【0223】
<<製造方法(2)>>
次に、前記複合シートを構成していない熱硬化性フィルムを用いた場合の製造方法(本明細書においては、「製造方法(2)」と称することがある)について説明する。
図6A~
図6Eは、前記製造方法(2)の一例を模式的に説明するための断面図である。ここでは、
図1に示す熱硬化性フィルム13を用い、熱硬化性フィルム13をフィルム状接着剤として用いる場合の製造方法(2)について説明する。
【0224】
<貼付工程>
製造方法(2)の前記貼付工程においては、
図6Aに示すように、前記複合シートを構成していない熱硬化性フィルム13の一方の面、より具体的には、第1剥離フィルム151を取り除いた熱硬化性フィルム13の第1面13aを、半導体ウエハ9の裏面9bに貼付する。
本工程は、複合シート102を構成している、換言すると支持シート20を備えている熱硬化性フィルム13に代えて、第2剥離フィルム152を備えている熱硬化性フィルム13を用いる点を除けば、製造方法(1)の前記貼付工程と同じである。
【0225】
<ダイシング工程>
製造方法(2)の前記貼付工程後、前記ダイシング工程においては、熱硬化性フィルム13から第2剥離フィルム152を取り除き、これにより新たに生じた露出面、換言すると熱硬化性フィルム13の他方の面(第2面)13bに、
図6Bに示すように、ダイシングシート80を貼付する。
【0226】
ダイシングシート80は、基材フィルム81と、基材フィルム81の一方の面81a上に設けられた粘着剤層82と、を備えて構成されている。本工程においては、粘着剤層82の基材フィルム81側とは反対側の面(本明細書においては、「第1面」と称することがある)82aを、熱硬化性フィルム13の第2面13bに貼付する。粘着剤層82の第1面82aは、ダイシングシート80の第1面80aと同じである。
【0227】
ダイシングシート80は、複合シート中の支持シートと、同様の構成を有するものであってよい。
ここでは、粘着剤層82を備えたダイシングシート80を用いた場合について示しているが、製造方法(2)においては、例えば、基材フィルムのみからなるダイシングシート等、ダイシングシート80以外の公知のダイシングシートを用いてもよい。
【0228】
ダイシングシート80の熱硬化性フィルム13への貼付は、公知の方法で行うことができ、例えば、製造方法(1)の前記貼付工程における、複合シート102のウエハ9への貼付の場合と同じ方法で行うことができる。
【0229】
製造方法(2)の前記ダイシング工程においては、その後、さらに
図6Cに示すように、ダイシングシート80上において、半導体ウエハ9を半導体チップ90へと分割し、半導体ウエハ9の分割箇所に沿って、熱硬化性フィルム13を切断することにより、熱硬化性フィルム付き半導体チップ913を作製するとともに、ダイシングシート80上で、複数個のこれら熱硬化性フィルム付き半導体チップ913が整列した状態で保持されて構成された、熱硬化性フィルム付き半導体チップ群902を作製する。
製造方法(2)の前記ダイシング工程で得られる熱硬化性フィルム付き半導体チップ群902は、支持シート20に代えてダイシングシート80を備えている点を除けば、製造方法(1)の前記ダイシング工程で得られる熱硬化性フィルム付き半導体チップ群901と同じであってよい。
【0230】
製造方法(2)の前記ダイシング工程においては、熱硬化性フィルム13を用いていることにより、熱硬化性フィルム13が保管後のものであっても、ダイシング適性が良好であり、半導体ウエハ9の半導体チップ90への分割と、熱硬化性フィルム13のチップサイズへの切断と、を良好に行うことができる。
【0231】
<ピックアップ工程>
製造方法(2)の前記ダイシング工程後、前記ピックアップ工程においては、
図6Dに示すように、熱硬化性フィルム付き半導体チップ913を、ダイシングシート80から引き離してピックアップする。
製造方法(2)の前記ピックアップ工程においては、熱硬化性フィルム付き半導体チップ913中の熱硬化性フィルム130の第2面130bと、ダイシングシート80の第1面80a(換言すると、粘着剤層82の第1面82a)と、の間で剥離が生じる。
【0232】
熱硬化性フィルム付き半導体チップ913は、公知の方法でピックアップできる。
例えば、熱硬化性フィルム付き半導体チップ913は、支持シート20を備えている熱硬化性フィルム付き半導体チップ群901に代えて、ダイシングシート80を備えている熱硬化性フィルム付き半導体チップ群902を用いる点を除けば、製造方法(1)の場合と同じ方法で行うことができる。
【0233】
ダイシングシート80中の粘着剤層82が、エネルギー線硬化性である場合には、粘着剤層82にエネルギー線を照射して、粘着剤層82を硬化させてから、熱硬化性フィルム付き半導体チップ913をピックアップすることが好ましい。粘着剤層82の硬化物は、粘着剤層82よりも粘着力が小さいため、粘着剤層82を硬化させてから、熱硬化性フィルム付き半導体チップ913をピックアップすることで、熱硬化性フィルム付き半導体チップ913をより容易にピックアップできる。
【0234】
エネルギー線硬化性の粘着剤層82にエネルギー線を照射して、粘着剤層82を硬化させるときの硬化条件は、目的に応じて任意に設定でき、特に限定されない。
例えば、エネルギー線硬化性の粘着剤層82のエネルギー線硬化時における、エネルギー線の照度は、60~320mW/cm2であることが好ましい。そして、前記硬化時における、エネルギー線の光量は、100~1000mJ/cm2であることが好ましい。
【0235】
<接着工程>
製造方法(2)の前記ピックアップ工程後、前記接着工程においては、
図6Eに示すように、ピックアップした熱硬化性フィルム付き半導体チップ913中の熱硬化性フィルム130を、基板6の回路形成面6aに貼付することにより、熱硬化性フィルム付き半導体チップ913を回路形成面6aに接着する。なお、
図6E中の基板6においては、回路の表示を省略している。
【0236】
製造方法(2)の前記接着工程は、製造方法(1)の前記接着工程と同じである。
【0237】
製造方法(2)においては、前記接着工程後、製造方法(1)の場合と同じ方法で、半導体パッケージを製造でき、目的とする半導体装置を製造できる。
【0238】
製造方法(2)によって製造された半導体装置も、熱硬化性フィルム13を用いていることによって、熱硬化性フィルム13が十分に硬化しており、高い信頼性を有する。
【0239】
ここまでは、半導体装置の製造方法として、熱硬化性フィルムをフィルム状接着剤として用いる場合の製造方法について説明したが、保護膜形成フィルム等の、フィルム状接着剤以外のものとして、熱硬化性フィルムを用いる場合も、同様の製造方法で半導体装置を製造できる。これは、これら熱硬化性フィルム(フィルム状接着剤、保護膜形成フィルム等)は、用途は異なっていても、半導体ウエハの裏面に貼付し、この状態でダイシングを行うという点においては、使用方法に共通点を有するからである。
【実施例】
【0240】
以下、具体的実施例により、本発明についてより詳細に説明する。ただし、本発明は、以下に示す実施例に、何ら限定されるものではない。
【0241】
<モノマー>
本実施例および比較例において、略記しているモノマーの正式名称を、以下に示す。
BA:アクリル酸n-ブチル
MMA:メタクリル酸メチル
AA :アクリル酸
HEA:アクリル酸2-ヒドロキシエチル
【0242】
<樹脂組成物の製造原料>
本実施例及び比較例において、樹脂組成物の製造に用いた原料を以下に示す。
【0243】
[バインダー(a)]
(a)-1:BA(84質量部)、MMA(8質量部)、AA(3質量部)及びHEA(5質量部)を共重合して得られたアクリル樹脂(重量平均分子量800000、ガラス転移温度-42℃)。
[エポキシ樹脂(b1)]
(b1)-1:液状ビスフェノールF型エポキシ樹脂(三菱ケミカル社製「YL983U」、エポキシ当量165~175g/eq)
(b1)-2:o-クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(日本化薬社製「EOCN-102S」、エポキシ当量205~217g/eq、軟化点55~77℃)
(b1)-3:トリスヒドロキシフェニルメタン型エポキシ樹脂(日本化薬社製「EPPN-502H」、エポキシ当量167g/eq、軟化点54℃、分子量1200)
[熱硬化剤(b2)]
(b2)-1:o-クレゾール型ノボラック樹脂(DIC社製「フェノライト(登録商標)KA-1160」、水酸基当量117g/eq、軟化点80℃、一般式(1)中のn:6~7)
[硬化促進剤複合体(y)]
(y)-1:2-エチル-4-メチルイミダゾールがリン酸ジルコニウムに担持されている複合体。
[硬化促進剤(c)]
(c)-1:2-エチル-4-メチルイミダゾール(四国化成工業社製「2E4MZ」)
[層状化合物(z)]
(z)-1:α型リン酸ジルコニウム(第一稀元素化学工業社製「CZP-100」)
[カップリング剤(e)]
(e)-1:エポキシ基、メチル基及びメトキシ基を有するオリゴマー型シランカップリング剤(信越シリコーン社製「X-41-1056」、エポキシ当量280g/eq)
[架橋剤(f)]
(f)-1:トリメチロールプロパンのトリレンジイソシアネート三量体付加物(トーヨーケム社製「BHS8515」)
【0244】
[実施例1]
<<熱硬化性フィルムの製造>>
<硬化促進剤複合体(y)-1の製造>
室温下で、硬化促進剤(c)-1(5質量部)を水(100質量部)に溶解させ、水溶液を得た。この水溶液の全量に、層状化合物(z)-1(5質量部)を添加し、3日間撹拌することにより、分散液を得た。
この分散液から、不溶物を取り出し、純水で洗浄した後、50℃で乾燥させることにより、硬化促進剤複合体(y)-1を得た。
【0245】
この硬化促進剤複合体(y)-1を、X線回折(X-ray Diffraction:XRD)法と、熱分解ガスクロマトグラフィー法で分析することにより、目的物であることを確認した。より具体的には、XRD法によって、層状化合物(z)-1単独での層間距離が7.6Åであるのに対して、硬化促進剤複合体(y)-1中の層状化合物(z)-1の層間距離が13Åに増大したこと、及び、硬化促進剤複合体(y)-1中の層状化合物(z)-1のメインピークの検出位置が、層状化合物(z)-1単独でのメインピークの検出位置から変化していること、を確認した。そして、熱分解ガスクロマトグラフィー法によって、硬化促進剤複合体(y)-1における、硬化促進剤複合体(y)-1の総質量に対する、硬化促進剤(c)-1の含有量の割合が、23質量%であることを確認した。これらの結果から、目的とする硬化促進剤複合体(y)-1が得られたことを確認した。
【0246】
<樹脂組成物の製造>
バインダー(a)-1(17.95質量部)、エポキシ樹脂(b1)-1(6質量部)、エポキシ樹脂(b1)-2(40質量部)、エポキシ樹脂(b1)-3(10質量部)、熱硬化剤(b2)-1(24質量部)、硬化促進剤複合体(y)-1(0.35質量部)、カップリング剤(e)-1(1質量部)及び架橋剤(f)-1(0.7質量部)をメチルエチルケトンに溶解又は分散させて、23℃で撹拌することにより、上述のすべての成分の合計濃度が50質量%である樹脂組成物を得た。なお、ここに示すメチルエチルケトン以外の成分の配合量はすべて、溶媒成分を含まない目的物の量である。
【0247】
<熱硬化性フィルムの製造>
ポリエチレンテレフタレート(PET)製フィルムの片面がシリコーン処理により剥離処理されている剥離フィルム(リンテック社製「SP-PET381031」、厚さ38μm)を準備した。この剥離フィルムの剥離処理面に、上記で得られた樹脂組成物を塗工し、100℃で1分加熱乾燥させることにより、厚さ20μmの熱硬化性フィルムを形成した。さらに、この熱硬化性フィルムの露出面に、別途前記剥離フィルムの剥離処理面を貼付することで、熱硬化性フィルムの両面に剥離フィルムが積層されて構成された積層シートを得た。
後述の熱硬化性フィルムの評価用として、このような積層シートを多数製造した。
【0248】
上記で得られた製造直後の積層シートを、暗所で空気雰囲気下において、5℃で168時間(7日間)保管することにより、積層シート(1)とした。
別途、上記で得られた製造直後の積層シートを、暗所で空気雰囲気下において、40℃で504時間(21日間)保管することにより、積層シート(2)とした。
積層シート(1)及び積層シート(2)はいずれも、保管終了後、室温下で静置することで、その温度を常温に戻した。
【0249】
<<複合シートの製造1>>
上記で得られた保管後の常温の積層シート(1)から一方の剥離フィルムを取り除き、これにより生じた熱硬化性フィルムの露出面に、ポリオレフィン製フィルム(グンゼ社製「ファンクレア(登録商標)LLD♯80」、厚さ80μm)を貼り合せた。これにより、ポリオレフィン製フィルム(支持シート)、熱硬化性フィルム及び剥離フィルムがこの順に、これらの厚さ方向において積層されて構成された複合シート(11)を得た。
また、上記で得られた保管後の常温の積層シート(2)を用いて、上記の積層シート(1)を用いた場合と同様に、複合シート(12)を得た。
【0250】
<<複合シートの製造2>>
ダイシングテープ(リンテック社製「Adwill(登録商標) D-510T」)を用意した。このダイシングテープは、ポリプロピレン製の基材フィルム(厚さ110μm)と、前記基材フィルムの一方の面上に設けられたエネルギー線硬化性粘着剤層(厚さ30μm)と、を備えて構成されている。
【0251】
上記で得られた保管後の常温の積層シート(1)から一方の剥離フィルムを取り除き、これにより生じた熱硬化性フィルムの露出面に、前記ダイシングシート中のエネルギー線硬化性粘着剤層の露出面を貼り合せた。これにより、ダイシングシート、熱硬化性フィルム及び剥離フィルムがこの順に、これらの厚さ方向において積層されて構成された複合シート(21)を得た。
また、上記で得られた保管後の常温の積層シート(2)を用いて、上記の積層シート(1)を用いた場合と同じ方法で、複合シート(22)を得た。
【0252】
<<熱硬化性フィルムの評価>>
<溶融粘度上昇率VRの算出>
上記で得られた保管後の常温の複数枚の積層シート(1)を用いて、剥離フィルムを取り除きながら、熱硬化性フィルムをその厚さ方向において積層することで、厚さが1mmの熱硬化性フィルムの積層物を作製した。さらに、この積層物から、直径10mmの切片を10個切り出し、この10個の切片を積層することで、直径が10mmで高さが10mmである円柱状の第2試験片を作製した。
キャピラリーレオメーター(島津製作所社製「CFT-100D」)の測定箇所に、この作製直後の第2試験片をセットし、第2試験片に490N(50kgf)の力を加えながら、第2試験片を昇温速度10℃/minで50℃から昇温した。そして、ダイに設けられた、直径0.5mm、高さ1.0mmの穴から押し出された、温度が90℃の第2試験片の溶融粘度V0を測定した。結果を表1に示す。
【0253】
別途、上記で得られた保管後の常温の積層シート(2)を用いて、上記の積層シート(1)を用いた場合と同じ方法で、第3試験片を作製した。
この第3試験片について、上記の第2試験片の場合と同じ方法で、溶融粘度V1(第3試験片に490Nの力を加えながら、第3試験片を昇温速度10℃/minで50℃から昇温し、直径0.5mmの毛細管から押し出された、温度が90℃の第3試験片の溶融粘度)を測定した。結果を表1に示す。
【0254】
さらに、前記式により、これらV0及びV1から、熱硬化性フィルムの溶融粘度上昇率VRを算出した。結果を表1に示す。
【0255】
<熱硬化性フィルムのダイシング適性の評価1>
(熱硬化性フィルム付きシリコンチップの作製)
上記で得られた複合シート(11)において、剥離フィルムを取り除いた。裏面が#2000研磨面となっているシリコンウエハ(直径200mm、厚さ350μm)の裏面(研磨面)に、テープ貼合装置(リンテック社製「Adwill(登録商標)RAD2500」)を用いて、複合シート(11)を、60℃に加熱しながら、その熱硬化性フィルムによって貼付した。このとき同時に、シリコンウエハの外周部に、ダイシング用の治具であるリングフレームを、前記リングフレームのサイズに抜き加工した治具用接着剤層を介して貼付した。以上により、支持シート、熱硬化性フィルム及びシリコンウエハがこの順に、これらの厚さ方向において積層されて構成された積層体(11)を作製した。
【0256】
次いで、ダイシング装置(ディスコ社製「DFD6361」)を用いて、上記で得られた積層体(11)をダイシングすることにより、シリコンウエハの分割と、熱硬化性フィルムの切断と、を連続的に行い、大きさが2mm×2mmのシリコンチップを作製した。このときのダイシングは、ダイシングブレードの移動速度を30mm/secとし、ダイシングブレードの回転速度を30000rpmとし、複合シート(11)に対して、その支持シートの熱硬化性フィルム側の面から20μmの深さの領域まで(すなわち、熱硬化性フィルムの厚さ方向の全領域と、支持シートの熱硬化性フィルム側の面から20μmの深さの領域まで)ダイシングブレードで切り込むことにより行った。
以上により、複合シート(11)を用いて、シリコンチップと、前記シリコンチップの裏面に設けられた、切断後の熱硬化性フィルムと、を備えて構成された、複数個の熱硬化性フィルム付きシリコンチップ(11)を製造し、同時に、これら複数個の熱硬化性フィルム付きシリコンチップ(11)が、前記熱硬化性フィルムによって、支持シート上に整列した状態で固定されている、熱硬化性フィルム付きシリコンチップ群(11)を製造した。
【0257】
さらに、複合シート(11)に代えて複合シート(12)を用いた点以外は、上記と同じ方法で、積層体(12)を経由して、複数個の熱硬化性フィルム付きシリコンチップ(12)を製造し、これら複数個の熱硬化性フィルム付きシリコンチップ(12)が、前記熱硬化性フィルムによって、支持シート上に整列した状態で固定されている、熱硬化性フィルム付きシリコンチップ群(12)を製造した。
【0258】
(熱硬化性フィルムのダイシング適性の評価)
上記で得られた熱硬化性フィルム付きシリコンチップ群(11)を目視観察し、支持シート上から熱硬化性フィルムごと剥離しているシリコンチップの数(換言すると、熱硬化性フィルム付きシリコンチップ(11)の支持シート上からの飛散数)と、支持シート上の熱硬化性フィルムから剥離しているシリコンチップの数(換言すると、シリコンチップの支持シート上からの飛散数)と、の合計値を求めた。ただし、このとき、シリコンウエハの外周部であった部位のシリコンチップは、評価の対象外とした。そして、下記基準に従って、熱硬化性フィルムのダイシング適性を評価した。結果を表1に示す。
[評価基準]
A:前記合計値が0個である。
B:前記合計値が1~10個である。
C:前記合計値が11個以上である。
【0259】
<熱硬化性フィルムのダイシング適性の評価2>
さらに、上記で得られた熱硬化性フィルム付きシリコンチップ群(12)を用いて、同様に熱硬化性フィルムのダイシング適性を評価した。結果を表1に示す。
【0260】
<熱硬化性フィルムの硬化物のせん断強度の測定1>
(第1試験片の作製)
熱硬化性フィルム付きシリコンチップ群(11)を用いた、上記の熱硬化性フィルムのダイシング適性の評価時に、支持シート上に正常に固定されていた熱硬化性フィルム付きシリコンチップ(11)を、支持シートから引き離してピックアップした。
次いで、マニュアルダイボンダー(CAMMAX Precima社製「EDB65」)を用いて、このピックアップした熱硬化性フィルム付きシリコンチップ(11)中の熱硬化性フィルムの露出面(シリコンチップ側とは反対側の面)全面を、銅板(大きさ30mm×30mm、厚さ300μm)の表面に圧着することにより、熱硬化性フィルム付きシリコンチップ(11)を前記銅板上にダイボンディングした。このときのダイボンディングは、125℃に加熱した熱硬化性フィルム付きシリコンチップ(11)に対して、その前記銅板への接触面に対して直交する方向に、2.45N(250gf)の力を3秒加えることで行った。
次いで、ダイボンディング後の銅板を、160℃で1時間加熱することにより、この銅板上の熱硬化性フィルムを熱硬化させた。
以上により、熱硬化性フィルムの硬化物と、前記硬化物の一方の面の全面に設けられた前記銅板と、前記硬化物の他方の面の全面に設けられた前記シリコンチップと、を備えており、前記硬化物の側面と前記シリコンチップの側面が位置合わせされて構成された第1試験片を作製した。
【0261】
(熱硬化性フィルムの硬化物のせん断強度の測定)
ボンドテスター(Dage社製「Series 4000」)を用いて、上記で得られた第1試験片中の、熱硬化性フィルムの硬化物の側面とシリコンチップの側面の位置合わせされた部位に対して、同時に、前記硬化物の一方の面に対して平行な方向に、200μm/sの速度で力を加えた。このとき、力を加えるための押圧手段としては、ステンレス鋼製のプレート状であるものを用い、押圧手段の銅板側の先端の位置を、銅板の、シリコンチップを搭載している側の表面から7μmの高さとなるように調節することにより、押圧手段を銅板に接触させないようにした。そして、前記硬化物が破壊されるか、前記硬化物が前記銅板から剥離するか、又は、前記硬化物が前記シリコンチップから剥離する、までに加えられた力の最大値を測定し、その測定値を前記硬化物のせん断強度(N/2mm□)として採用した。結果を表1に示す。
【0262】
<熱硬化性フィルムの硬化物のせん断強度の測定2>
さらに、熱硬化性フィルム付きシリコンチップ群(12)を用いた、上記の熱硬化性フィルムのダイシング適性の評価時に、支持シート上に正常に固定されていた熱硬化性フィルム付きシリコンチップ(12)を、支持シートから引き離してピックアップした。
そして、このピックアップした熱硬化性フィルム付きシリコンチップ(12)を用いて、上記の熱硬化性フィルム付きシリコンチップ(11)の場合と同じ方法で、第1試験片を作製し、熱硬化性フィルムの硬化物のせん断強度(N/2mm□)を測定した。結果を表1に示す。
【0263】
<半導体パッケージの信頼性の評価1-1>
(半導体パッケージの作製)
上記で得られた複合シート(21)において、剥離フィルムを取り除いた。半導体ウエハ(8インチサイズ、ドライポリッシュ仕上げ、厚さ75μm)の裏面に、テープ貼合装置(リンテック社製「Adwill(登録商標)RAD2500」)を用いて、複合シート(21)を、60℃に加熱しながら、その熱硬化性フィルムによって貼付した。このとき同時に、半導体ウエハの外周部に、ダイシング用の治具であるリングフレームを、前記リングフレームのサイズに抜き加工した治具用接着剤層を介して貼付した。以上により、ダイシングシート、熱硬化性フィルム及び半導体ウエハがこの順に、これらの厚さ方向において積層されて構成された積層体(21)を作製した。
【0264】
次いで、ダイシング装置(ディスコ社製「DFD6361」)を用いて、上記で得られた積層体(21)をダイシングすることにより、半導体ウエハの分割と、熱硬化性フィルムの切断と、を連続的に行い、大きさが8mm×8mmの半導体チップを作製した。このときのダイシングは、ダイシングブレード(ディスコ社製「Z05-SD2000-D1-90 CC」)の移動速度を30mm/secとし、ダイシングブレードの回転速度を30000rpmとし、複合シート(21)に対して、そのダイシングシートの熱硬化性フィルム側の面から20μmの深さの領域まで(すなわち、熱硬化性フィルムの厚さ方向の全領域と、ダイシングシートの熱硬化性フィルム側の面から20μmの深さの領域まで)ダイシングブレードで切り込むことにより行った。
以上により、複合シート(21)を用いて、半導体チップと、前記半導体チップの裏面に設けられた、切断後の熱硬化性フィルムと、を備えて構成された、複数個の熱硬化性フィルム付き半導体チップ(21)を製造し、同時に、これら複数個の熱硬化性フィルム付き半導体チップ(21)が、前記熱硬化性フィルムによって、ダイシングシート上に整列した状態で固定されている、熱硬化性フィルム付き半導体チップ群(21)を製造した。
【0265】
評価用基板として、銅箔張り積層板(三菱ガス化学社製「CCL-HL830」)の銅箔(厚さ18μm)に回路パターンが形成され、前記回路パターン上にソルダーレジスト(太陽インキ社製「PSR-4000 AUS303」)を有している基板(ちの技研社製「LN001E-001 PCB(Au)AUS303」)を用意した。
次いで、前記ダイシングシートの粘着剤層の粘着性を低減するために、照度230mW/cm2、光量190mJ/cm2の条件で紫外線を照射した。紫外線照射装置としては、リンテック社製「RAD-2000」を用いた。
その後、ダイシングシートにエキスパンドを行い、熱硬化性フィルム付き半導体チップ(21)をダイシングシートからピックアップした。このピックアップした熱硬化性フィルム付き半導体チップ(21)中の熱硬化性フィルムの露出面(半導体チップ側とは反対側の面)全面を、上記の基板の表面に圧着することにより、熱硬化性フィルム付き半導体チップ(21)を前記基板上にダイボンディングした。このときのダイボンディングは、120℃に加熱した熱硬化性フィルム付き半導体チップ(21)に対して、その前記基板への接触面に対して直交する方向に、2.45N(250gf)の力を0.5秒加えることで行った。
こうして得た積層物を、モールド樹脂(京セラケミカル社製「KE-1100AS3」)により、封止厚が400μmになるように封止し(封止装置:アピックヤマダ社製「MPC-06M TriAl Press」)、7MPa、175℃の条件で2分間保持した後、175℃で5時間保持することにより、封止樹脂を硬化させるとともに、熱硬化性フィルム付き半導体チップ(21)中の熱硬化性フィルムも硬化させた。こうして得られた、前記硬化物及び半導体チップが封止されてなる部材に、ダイシングテープ(リンテック社製Adwill「D-510T」)を貼付し、このダイシングテープをさらにリングフレームに貼付して、ダイシング装置(ディスコ社製「DFD6361」)を使用して、15mm×15mmの大きさにダイシングすることにより、信頼性評価用の半導体パッケージ(21)を得た。このときのダイシングは、ダイシングブレード(ディスコ社製「ZHDB-SD400-N1-60」)の移動速度を50mm/secとし、ダイシングブレードの回転速度を30000rpmとして行った。
【0266】
(半導体パッケージの信頼性の評価)
上記で得られた半導体パッケージ(21)を、温度85℃、相対湿度85%の条件下で168時間静置して吸湿させ(MSL1)、半導体パッケージ(211)とした。次いで、最高温度260℃、加熱時間1分間のIRリフロー(リフロー炉:相模理工社製「WL-15-20DNX型」)を3回行い、半導体パッケージ(211)において、前記熱硬化性フィルムの硬化物の半導体チップからの浮き又は剥がれの有無を目視で確認した。また、走査型超音波探傷装置(日立建機ファインテック社製「Hye-Focus」)を用いて、半導体パッケージ(211)の断面を観察することにより、半導体パッケージ(211)でのクラックの有無を確認した。このような試験を9個の半導体パッケージ(211)について行い、下記基準に従って、熱硬化性フィルム付き半導体チップ(21)を用いて、温度変化の履歴を経た場合の、半導体パッケージ(半導体パッケージ(211))の信頼性を評価した。結果を表1に示す。
[評価基準]
A:熱硬化性フィルムの硬化物の半導体チップからの浮き又は剥がれ、あるいは半導体パッケージでのクラックが、9個の半導体パッケージすべて見られなかった。
B:熱硬化性フィルムの硬化物の半導体チップからの浮き又は剥がれ、あるいは半導体パッケージでのクラックが、9個の半導体パッケージのうち、1~3個で見られた。
C:熱硬化性フィルムの硬化物の半導体チップからの浮き又は剥がれ、あるいは半導体パッケージでのクラックが、9個の半導体パッケージのうち、4個以上で見られた。
【0267】
<半導体パッケージの信頼性の評価1-2>
上記で得られた半導体パッケージ(21)を、温度85℃、相対湿度85%の条件下で168時間静置するのに代えて、温度30℃、相対湿度70%の条件下で168時間静置して吸湿させ(MSL3)、半導体パッケージ(212)とした点以外は、上記の半導体パッケージ(211)の場合と同じ方法で、半導体パッケージ(半導体パッケージ(212))の信頼性を評価した。結果を表1に示す。
【0268】
<半導体パッケージの信頼性の評価2-1>
複合シート(21)に代えて、複合シート(22)を用いた点以外は、上記の半導体パッケージ(211)の場合と同じ方法で、半導体パッケージ(221)を作製した。すなわち、上記で得られた複合シート(22)を用いて、ダイシングシート、熱硬化性フィルム及び半導体ウエハがこの順に、これらの厚さ方向において積層されて構成された積層体(22)を作製し、積層体(22)を用いて、半導体チップと、前記半導体チップの裏面に設けられた、切断後の熱硬化性フィルムと、を備えて構成された、複数個の熱硬化性フィルム付き半導体チップ(22)を製造し、同時に、これら複数個の熱硬化性フィルム付き半導体チップ(22)が、前記熱硬化性フィルムによって、ダイシングシート上に整列した状態で固定されている、熱硬化性フィルム付き半導体チップ群(22)を製造した。次いで、熱硬化性フィルム付き半導体チップ(22)をダイシングシートからピックアップした後、前記基板上にダイボンディングし、得られた積層物を、前記モールド樹脂により封止し、7MPa、175℃の条件で2分間保持した後、175℃で5時間保持することにより、封止樹脂を硬化させるとともに、熱硬化性フィルム付き半導体チップ(22)中の熱硬化性フィルムも硬化させ、15mm×15mmの大きさにダイシングすることにより、信頼性評価用の半導体パッケージ(22)を作製した。この半導体パッケージ(22)を、温度85℃、相対湿度85%の条件下で168時間静置して吸湿させ(MSL1)、半導体パッケージ(221)とし、この半導体パッケージ(221)の信頼性を評価した。結果を表1に示す。
【0269】
<半導体パッケージの信頼性の評価2-2>
上記で得られた半導体パッケージ(22)を、温度85℃、相対湿度85%の条件下で168時間静置するのに代えて、温度30℃、相対湿度70%の条件下で168時間静置して吸湿させ(MSL3)、半導体パッケージ(222)とした点以外は、上記の半導体パッケージ(221)の場合と同じ方法で、半導体パッケージ(半導体パッケージ(222))の信頼性を評価した。結果を表1に示す。
【0270】
<<熱硬化性フィルムの製造、複合シートの製造、及び熱硬化性フィルムの評価>>
[実施例2~3、比較例1~5]
樹脂組成物の含有成分の種類及び含有量が、表1及び表2に示すとおりとなるように、樹脂組成物の製造時における、配合成分の種類及び配合量のいずれか一方又は両方を変更した点以外は、実施例1の場合と同じ方法で、樹脂組成物、熱硬化性フィルム及び複合シートを製造し、熱硬化性フィルムを評価した。結果を表1及び表2に示す。
【0271】
なお、表1及び表2中の含有成分の欄の「-」との記載は、樹脂組成物がその成分を含有していないことを意味する。
【0272】
実施例2~3、及び比較例1~2では、実施例1の場合と同様に、樹脂組成物として、硬化促進剤複合体(y)-1を含有するものを用いた。
これに対して、比較例3~4では、樹脂組成物として、硬化促進剤複合体(y)-1を含有せず、硬化促進剤(c)-1を含有するものを用いた。
比較例5では、樹脂組成物として、硬化促進剤複合体(y)-1を含有せず、硬化促進剤複合体(y)-1を形成していない硬化促進剤(c)-1と層状化合物(z)-1を含有するものを用いた。より具体的には、樹脂組成物の製造時に、硬化促進剤複合体(y)-1の製造は行わず、硬化促進剤(c)-1と層状化合物(z)-1を他の成分と同様に配合した。
樹脂組成物の製造時に、硬化促進剤複合体(y)を配合し、硬化促進剤(c)及び層状化合物(z)を配合しなかった場合には、表1及び表2中の「硬化促進剤(c)」及び「層状化合物(z)」の欄には、「-」と記載した。
【0273】
【0274】
【0275】
上記結果から明らかなように、実施例1~3においては、保管時の熱硬化性フィルムの目的外の硬化が抑制されており、これら熱硬化性フィルムは、5℃で168時間保管した場合と、40℃で504時間保管した場合のいずれにおいても、ダイシング適性が良好であった。また、これら熱硬化性フィルムを5℃で168時間保管した場合と、40℃で504時間保管した場合のいずれにおいても、半導体パッケージを、温度85℃、相対湿度85%の条件下で吸湿させた(MSL1)ときの信頼性と、温度30℃、相対湿度70%の条件下で吸湿させた(MSL3)ときの信頼性と、がいずれも良好であり、これら熱硬化性フィルムは、半導体装置の信頼性の低下を抑制可能であった。熱硬化性フィルムは、その最終的な硬化時に(半導体パッケージ中で)、十分に硬化していた。
実施例1~3の熱硬化性フィルムは、バインダー(a)と、エポキシ樹脂(b1)と、熱硬化剤(b2)と、硬化促進剤(c)と、層状化合物(z)と、を含有し、これら熱硬化性フィルムにおいては、硬化促進剤(c)が層状化合物(z)に担持され、硬化促進剤複合体(y)を形成していた(これら熱硬化性フィルムは、硬化促進剤複合体(y)を含有していた)。
【0276】
実施例1~3においては、熱硬化性フィルムを5℃で168時間保管した場合には、第1試験片での熱硬化性フィルムの硬化物のせん断強度が110N/2mm□以上(110~128N/2mm□)であり、熱硬化性フィルムを40℃で504時間保管した場合には、第1試験片での熱硬化性フィルムの硬化物のせん断強度が108N/2mm□以上(108~115N/2mm□)であった。
実施例1~3においては、熱硬化性フィルムの溶融粘度上昇率VRが217%以下(124~217%)であった。
実施例1~3においては、熱硬化性フィルムにおいて、硬化促進剤複合体(y)の含有量は、エポキシ樹脂(b1)及び熱硬化剤(b2)の総含有量100質量部に対して、0.3~0.9質量部であった。
【0277】
これに対して、比較例1においては、保管時の熱硬化性フィルムの目的外の硬化が抑制されていたが、熱硬化性フィルムを40℃で504時間保管した場合、半導体パッケージを温度85℃、相対湿度85%の条件下で吸湿させたときの信頼性が不良であり、この熱硬化性フィルムは、半導体装置の信頼性の低下を抑制できないものであった。
比較例1においては、熱硬化性フィルムを5℃で168時間保管した場合の、熱硬化性フィルムの硬化物のせん断強度が、82N/2mm□であり、熱硬化性フィルムを40℃で504時間保管した場合の、熱硬化性フィルムの硬化物のせん断強度が、71N/2mm□であった。
比較例1の熱硬化性フィルムは、バインダー(a)と、エポキシ樹脂(b1)と、熱硬化剤(b2)と、硬化促進剤複合体(y)と、を含有していたが、硬化促進剤複合体(y)の含有量が少なく、硬化促進剤(c)の配合量が少なかった。その結果、熱硬化性フィルムは、その最終的な硬化時に(半導体パッケージ中で)、十分に硬化していなかった。
【0278】
比較例2においては、保管時の熱硬化性フィルムの目的外の硬化が抑制されておらず、熱硬化性フィルムを40℃で504時間保管した場合、半導体パッケージを温度85℃、相対湿度85%の条件下で吸湿させたときと、半導体パッケージを温度30℃、相対湿度70%の条件下で吸湿させたときの信頼性が、いずれも不良であり、この熱硬化性フィルムは、半導体装置の信頼性の低下を抑制できないものであった。
比較例2においては、熱硬化性フィルムの溶融粘度上昇率VRが613%であり、熱硬化性フィルムを40℃で504時間保管した場合の、熱硬化性フィルムの硬化物のせん断強度が、80N/2mm□であった。
比較例2の熱硬化性フィルムは、バインダー(a)と、エポキシ樹脂(b1)と、熱硬化剤(b2)と、硬化促進剤複合体(y)と、を含有していたが、硬化促進剤複合体(y)の含有量が多く、硬化促進剤(c)の配合量が多かった。その結果、熱硬化性フィルムは、その保管時に目的外の硬化が進行してしまい、その最終的な硬化時に(半導体パッケージ中で)、十分に硬化していなかった。
【0279】
比較例3~5においては、保管時の熱硬化性フィルムの目的外の硬化が抑制されておらず、比較例3においては、熱硬化性フィルムを40℃で504時間保管した場合、半導体パッケージを温度85℃、相対湿度85%の条件下で吸湿させたときと、半導体パッケージを温度30℃、相対湿度70%の条件下で吸湿させたときの信頼性が、いずれも不良であり、比較例4~5においては、熱硬化性フィルムを40℃で504時間保管した場合、半導体パッケージの信頼性は評価不能であった。これら熱硬化性フィルムは、半導体装置の信頼性の低下を抑制できないものであった。
比較例3~5においては、第3試験片の溶融粘度V1が測定不能であり、熱硬化性フィルムの溶融粘度上昇率VRが算出不能であった。そして、比較例3においては、熱硬化性フィルムを40℃で504時間保管した場合のダイシング適性が不良であり、熱硬化性フィルムの硬化物のせん断強度が、55N/2mm□であった。比較例4~5においても、熱硬化性フィルムを40℃で504時間保管した場合のダイシング適性が不良であり、熱硬化性フィルムの硬化物のせん断強度は測定不能であった。
比較例3~5の熱硬化性フィルムは、バインダー(a)と、エポキシ樹脂(b1)と、熱硬化剤(b2)と、硬化促進剤(c)と、を含有していたが、硬化促進剤複合体(y)を含有していなかった。
【0280】
比較例3~4の熱硬化性フィルムは、硬化促進剤(c)を含有していたが、層状化合物(z)を含有しておらず、これら熱硬化性フィルムは、当然に硬化促進剤複合体(y)を含有していなかった。
一方、比較例5の熱硬化性フィルムは、硬化促進剤(c)と層状化合物(z)をともに含有していたが、硬化促進剤(c)が層状化合物(z)に担持されてはおらず、硬化促進剤複合体(y)を形成していなかった(この熱硬化性フィルムは、硬化促進剤複合体(y)を含有していなかった)。
【0281】
すなわち、実施例1~3と、比較例5との比較から、実施例1~3の熱硬化性フィルムにおいては、硬化促進剤複合体(y)が形成されており(これら熱硬化性フィルムは、硬化促進剤複合体(y)を含有しており)、これにより、これら熱硬化性フィルムは、その保管時における硬化が抑制されており、ダイシング適性が良好で、その最終的な硬化時に、十分に硬化しており、半導体装置の信頼性の低下を抑制可能であることが、明確であった。
【産業上の利用可能性】
【0282】
本発明は、半導体装置の製造に利用可能である。
【符号の説明】
【0283】
10,20・・・支持シート、10a,20a・・・支持シートの一方の面(第1面)
11・・・基材フィルム
13・・・熱硬化性フィルム、13a・・・熱硬化性フィルムの一方の面(第1面)、13b・・・熱硬化性フィルムの他方の面(第2面)、130・・・切断後の熱硬化性フィルム
101,102・・・複合シート
5・・・第1試験片
50・・・熱硬化性フィルムの硬化物、50a・・・熱硬化性フィルムの硬化物の他方の面(第1面)、50b・・・熱硬化性フィルムの硬化物の一方の面(第2面)、50c・・・熱硬化性フィルムの硬化物の側面
51・・・銅板
52・・・シリコンチップ、52c・・・シリコンチップの側面
6・・・基板、6a・・基板の回路形成面
80・・・ダイシングシート
9・・・半導体ウエハ、9b・・・半導体ウエハの裏面
90・・・半導体チップ
913・・・熱硬化性フィルム付き半導体チップ
【要約】
熱硬化性フィルムであって、前記熱硬化性フィルムの硬化物と、前記硬化物の一方の面の全面に設けられた銅板と、前記硬化物の他方の面の全面に設けられたシリコンチップと、を備えて構成された第1試験片のせん断強度が、100N/2mm□以上であり、前記熱硬化性フィルムを5℃で168時間保管して得られた第2試験片の、温度が90℃の場合の溶融粘度V0を測定し、前記熱硬化性フィルムを40℃で504時間保管して得られた第3試験片の、温度が90℃の場合の溶融粘度V1を測定したとき、前記V1及びV0を用いて算出される前記熱硬化性フィルムの溶融粘度上昇率VRが600%以下である、熱硬化性フィルム。