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特許7291318粘性水産物食品の製造方法及び粘性水産物食品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-07
(45)【発行日】2023-06-15
(54)【発明の名称】粘性水産物食品の製造方法及び粘性水産物食品
(51)【国際特許分類】
   A23L 17/00 20160101AFI20230608BHJP
   A23L 17/30 20160101ALI20230608BHJP
【FI】
A23L17/00 Z
A23L17/30 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022101768
(22)【出願日】2022-06-24
【審査請求日】2022-06-28
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】301070829
【氏名又は名称】新潟冷蔵株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】522254583
【氏名又は名称】トライデント新潟フーズ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】522254594
【氏名又は名称】株式会社パワー・ブレン
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】弁理士法人創成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】風間 宏一
(72)【発明者】
【氏名】篠崎 知久
(72)【発明者】
【氏名】森 英保
【審査官】山本 英一
(56)【参考文献】
【文献】魚介類(鮭, マグロ, ツナ缶など)のタンパク質について解説! 含む量や調理法などを紹介,森永製菓のプロテインのポータルサイト,2022年09月20日,[オンライン],[検索日2022年9月20日]URL: https://www.morinaga.co.jp/protein/columns/detail/?id=116&category=beauty
【文献】タンパク質の特徴を知れば魚料理がもっとおいしくなる/キッチンは実験室(22),アスレシピ,2019年01月25日,[オンライン],[検索日2022年9月20日]URL:https://athleterecipe.com/column/20/articles/201901210000416?page=2
【文献】鮭といくらの親子漬(200g)×2個 (約4人前)北海道知床産 (出荷元:北海道四季工房),Amazon,2011年
【文献】紅さけ明太|北陽 虻川美穂子オフィシャルブログ「はれ時々あぶ」,Ameba,2020年04月22日,[オンライン],[検索日2022年12月14日]URL:https://ameblo.jp/abukawa/entry-12591374149.html
【文献】マスの明太子マヨネーズ焼き|養護老人ホーム藤野園Blog,Ameba,2017年10月30日,[オンライン],[検索日2023年4月24日]URL:https://cookpad.com/recipe/2445899
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
Google
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
日経テレコン
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘性水産物食品の製造方法であって、
塩化ナトリウムを魚卵に添加し、当該魚卵中の塩化ナトリウムの含有量を3~4質量%に調整して、当該魚卵中のタンパク質を溶出させるタンパク質溶出工程と、
当該タンパク質溶出工程で得られる魚卵と魚介類を混合する混合工程と、
当該混合工程で得られる混合物を120~150℃で加熱する加熱工程を含み、
当該魚介類が、鮭及びマスからなる群から選ばれる少なくとも1つであることを特徴とする粘性水産物食品の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載された粘性水産物食品の製造方法において、タンパク質溶出工程をpH4.5~7の条件下で実施することを特徴とする粘性水産物食品の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載された粘性水産物食品の製造方法において、前記魚卵がタラコを含むことを特徴とする粘性水産物食品の製造方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載された粘性水産物食品の製造方法において、前記混合工程で得られる混合物が容器に充填されている状態で前記加熱工程が実施されることを特徴とする粘性水産物食品の製造方法。
【請求項5】
魚卵と魚介類を含む粘性水産物食品であって
請求項1~3のいずれか1項に記載された粘性水産物食品の製造方法で製造され、
当該魚介類が、鮭及びマスからなる群から選ばれる少なくとも1つであり、
粘度が1~1000Pa・sの範囲である粘性水産物食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘性水産物食品の製造方法及び粘性水産物食品に関する。
【背景技術】
【0002】
魚卵及び魚介類は、栄養価が高く、低カロリーでタンパク質を多く含む食材である。DHA、EPA等の不飽和脂肪酸を多く含む魚卵及び魚介類もある。幼児、被介護者等の嚥下困難者にとって、切る、焼く等の従来の調理方法で調理された魚卵及び魚介類の喫食は困難、ないし不可能であった。
【0003】
一方、前記従来の調理方法によらず、包材内に密封される魚卵が高温高圧処理されて得られる、魚卵本来の風味を保持し、弾力に富み、かつ滑らかなテクスチャーを有する魚卵加工食品が検討された(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、前記魚卵加工食品は嚥下困難者向けに開発されているわけではなく、嚥下困難者による前記魚卵加工食品の喫食は依然として困難、ないし不可能であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平5-284916号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、嚥下困難者が容易に喫食できる、魚卵と魚介類を含む食品が希求されていたが、そのような食品は提供されていなかった。本発明が解決しようとする課題は、嚥下困難者が容易に喫食できる、魚卵と魚介類を含む食品の製造方法と当該食品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記課題に鑑み検討を重ね、塩化ナトリウムの含有量が特定の範囲に調整されている魚卵と魚介類が混合されて得られる混合物が加熱されて製造される粘性水産物食品の喫食が嚥下困難者にとって容易であり、介護食、離乳食等として好適であることを見出した。本発明はこれらの知見に基づき完成されるに至ったものである。
【0007】
本発明は、塩化ナトリウムを魚卵に添加し、当該魚卵中の塩化ナトリウムの含有量を3~4質量%に調整して、当該魚卵中のタンパク質を溶出させるタンパク質溶出工程と、当該タンパク質溶出工程で得られる魚卵と魚介類を混合する混合工程と、当該混合工程で得られる混合物を120~150℃で加熱する加熱工程を含み、当該魚介類が、鮭及びマスからなる群から選ばれる少なくとも1つであることを特徴とする粘性水産物食品の製造方法に関する。
前記タンパク質溶出工程は、好ましくはpH4.5~7の条件下で実施される。
前記魚卵は好ましくはタラコを含む
好ましくは前記混合工程で得られる混合物が容器に充填されている状態で前記加熱工程が実施される。
【0008】
さらに本発明は、魚卵と魚介類を含み、粘性水産物食品の製造方法で製造され、当該魚介類が、鮭及びマスからなる群から選ばれる少なくとも1つであり、粘度が1~1000Pa・sの範囲である粘性水産物食品に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、嚥下困難者が容易に喫食できる、魚卵と魚肉を含む食品の製造方法と当該食品を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明について更に詳細に説明する。
<タンパク質溶出工程>
本発明の粘性水産物食品の製造方法は、魚卵中のタンパク質を溶出させるタンパク質溶出工程を含む。
【0011】
(魚卵)
本発明の粘性水産物食品の製造方法で使用される魚卵は、特定の魚卵に限定されない。前記魚卵として、例えばタラコ、イクラ、カズノコ、トビコ、イソッコ、エビッコ、スジコ、ベニコ、マスコ、ヌノ、ブリコ、タイコ、キャビア、カラスミ、明太子等が挙げられる。前記魚卵は、これらの1種又は2種以上を含む。前記魚卵は、好ましくはタラコ、明太子からなる群から選ばれる少なくとも1つを含み、より好ましくはタラコを含む。
【0012】
(塩化ナトリウムの魚卵への添加)
前記魚卵には、前記魚卵中の塩化ナトリウムの含有量が3~4質量%になるように塩化ナトリウムが添加される。前記魚卵に塩化ナトリウムが添加されると、前記魚卵中のタンパク質が溶出し、本発明の粘性水産物食品の粘度が嚥下困難者にとって喫食しやすい範囲に調整される。塩化ナトリウムの含有量が少なすぎ、ないし多すぎる場合、粘性水産物食品の粘度が嚥下困難者にとって喫食しやすい範囲に調整されなくなるおそれがある。さらに粘性水産物食品の味が悪くなるおそれもある。
【0013】
ここで、前記魚卵中の塩化ナトリウムの含有量は、前記塩化ナトリウム含有魚卵を乳鉢、ブレンダー、ミキサー、超音波破砕機等を用いて粉砕し、モール法、電位差滴定法、電気伝導度、原子吸光光度法、HPLC(高速液体クロマトグラフ法)を用いて測定する。
【0014】
前記塩化ナトリウム含有魚卵のpHは、好ましくはカルシウム塩及び有機酸塩が前記魚卵に添加されて、4.5~7の範囲に調整される。前記カルシウム塩として、例えば塩化カルシウム、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、リン酸カルシウム、酢酸カルシウム等が挙げられる。前記有機酸塩として、例えばクエン酸カルシウム、クエン酸三ナトリウム、グルコン酸カリウム、乳酸、クエン酸、リンゴ酸等が挙げられる。
【0015】
前記塩化ナトリウム含有魚卵には、ペクチン、アルギン酸、ガム質、グルコマンナン等の水溶性食物繊維;セルロース、ヘミセルロース、リグニン、キチン等の難溶性食物繊維、醤油、酢、味噌等の調味料;アスコルビン酸脂肪酸エステル、リグナン、コエンザイムQ、γ-オリザノール、トコフェロール等の酸化防止剤、香料、香辛料、動物エキス等の風味付与材、乳化剤、シリコーン等の添加素材が添加されていてよい。
【0016】
前記塩化ナトリウム含有魚卵には、植物油脂、デンプン、水あめ等の粘性調整剤が添加されていてもよい。前記塩化ナトリウム含有魚卵の粘性は、好ましくは200~400Cpに調整される。
【0017】
<混合工程>
本発明の粘性水産物食品の製造方法は、前記タンパク質溶出工程で得られる前記塩化ナトリウム含有魚卵と魚介類を混合する混合工程を含む。
【0018】
(魚介類)
本発明の粘性水産物食品の製造方法で使用される魚介類は、特定の魚介類に限定されない。前記魚介類として、例えば鮭、ブリ、マス、カツオ、サンマ、ニシン、イワシ、マグロ、タイ、タコ、イカ、サザエ、アサリ等が挙げられる。これらの魚介類の1種又は2種以上が使用される。前記魚介類は、好ましくは魚肉を含み、更に好ましくは鮭、ブリ、マス、カツオ、サンマ、ニシン、イワシからなる群から選ばれる少なくとも1つを含み、特に好ましくは鮭及びブリからなる群から選ばれる少なくとも1つを含む。前記魚介類は、好ましくはフレーカー等で粉砕され、フレーク状にされる。
【0019】
前記混合工程で得られる混合物の粘度は、好ましくは200~400Cpに調整される。
【0020】
<加熱工程>
本発明の粘性水産物食品の製造方法は、前記混合工程で得られる混合物を100~150℃で加熱する加熱工程を含む。加熱温度が100℃未満であると、滅菌が不十分になるおそれがある。さらに前記加熱温度が150℃を超えると、加熱設備が高価になり、粘性水産物食品の食感が悪くなるおそれがある。
【0021】
前記加熱時間は特定の範囲に限定されない。前記加熱時間は、好ましくは30秒~2時間であり、より好ましくは1分~1時間であり、更に好ましくは5分~30分である。前記加熱工程は、加圧下で実施されてよい。
【0022】
前記加熱工程の形態は、特定の形態に限定されない。前記混合物は、圧力鍋中で加熱されても、レトルト容器中で加熱されてもよい。
【0023】
<粘性水産物食品>
本発明の粘性水産物食品は、魚卵と魚介類を含み、粘度が1~1000Pa・sの範囲である。前記粘性水産物食品は、栄養価が高く、低カロリーでタンパク質を多く含む食品である。前記粘性水産物食品は、DHA、EPA等の不飽和脂肪酸を多く含む場合もある。さらに前記粘性水産物食品の粘度は1~1000Pa・sの範囲であるから、前記粘性水産物食品は、嚥下困難者が容易に喫食できる食品である。
【実施例
【0024】
以下、本発明を実施例に基づき更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0025】
実施例及び比較例において、各種物性は以下のとおりに測定ないし算出された。
<魚卵中の塩化ナトリウムの含有量>
塩化ナトリウム含有量はモール法で測定された。測定には器具及び装置の準備をした。試薬の調整をし、滴定用指示薬と滴定用溶液を用意して標定した。試料溶液の調整は秤量した試料をメスフラスコ等の定量用容器に移し入れ全容を一定にした。なお、試料調整にあたっては、乳鉢、ブレンダー、ミキサー、超音波破砕機等を必要に応じて使用した。また、試料溶液の混濁度によりろ過法、遠心分離法などを用いて試料溶液を調整した。滴定は磁器蒸発皿、三角フラスコなどの容器に一定量採取し、滴定用指示薬を添加した。滴定用溶液を滴下して終点の観察をした。滴定値は小数点第二位まで計測した。空試料による空試験から測定値の補正をした。計算は「食塩分(%)={(T-B)/1000}×A×F×M×(定量用容器に移し入れ全容を一定にした量/秤量した試料)×(1/W)×100」の計算式にて算出した。なお、T:試料溶液の滴定に要した滴定用溶液の量(ml)、B:空試験の滴定に要した滴定用溶液の量(ml)、A:滴定に用いた滴定溶液の濃度(mol/L)、F:滴定溶液のファクター、M:塩化ナトリウムの式量(58.44)、W:試料採取量である。
また、モール法の再現性を比較する際は、原子吸光光度法とHPLC(高速液体クロマトグラフ法)を行った。この場合、試料溶液は適切な前処理(分離、濃縮等)を行い測定に供した。使用方法は機器の使用方法に準じた。
また、簡易測定では測定値の傾向を調べるため、電気伝導度を用いた。
【0026】
<粘度>
各試料の粘度を、粘度計(ヤマト科学株式会社製DV2T)を用いて測定した。
【0027】
実施例1
3.5質量部の塩化ナトリウム、30質量部の鮭(添加素材)を、70質量部のタラコに添加し、当該タラコ中の塩化ナトリウムの含有量を3.5質量%に調整して、当該タラコ中のタンパク質を溶出させ、塩化ナトリウム含有タラコを得た。前記塩化ナトリウム含有タラコの粘度は500Cpだった。100質量部の前記塩化ナトリウム含有タラコと、三枚おろしにした鮭肉を粉砕して得た30質量部の鮭肉フレークを混合し、タラコ-鮭肉混合物を得た。当該タラコ-鮭肉混合物をレトルト容器に充填し、120℃、0.1MPaで4分間加熱し、粘性タラコ-鮭肉食品を製造した。当該粘性タラコ-鮭肉食品の粘度は500Pa・sだった。50名のパネルが当該粘性タラコ-鮭肉食品を喫食し、当該粘性タラコ-鮭肉食品の食感が良好であることを確認した。
【0028】
実施例2
3.5質量部の塩化ナトリウム、30質量部の鮭(添加素材)を、70質量部のブリ卵に添加し、当該ブリ卵中の塩化ナトリウムの含有量を3.5質量%に調整して、当該ブリ卵中のタンパク質を溶出させ、塩化ナトリウム含有ブリ卵を得た。前記塩化ナトリウム含有ブリ卵の粘度は500Cpだった。100質量部の前記塩化ナトリウム含有ブリ卵と、三枚おろしにした鮭肉を粉砕して得た30質量部の鮭肉フレークを混合し、ブリ卵-鮭肉混合物を得た。当該ブリ卵-鮭肉混合物をレトルト容器に充填し、120℃、0.1MPaで4分間加熱し、粘性ブリ卵-鮭肉食品を製造した。当該粘性ブリ卵-鮭肉食品の粘度は500Pa・sだった。50名のパネルが当該粘性ブリ卵-鮭肉食品を喫食し、当該粘性ブリ卵-鮭肉食品の食感が良好であることを確認した。
【0029】
比較例1
塩化ナトリウムの含有量が2.5質量%の塩化ナトリウム含有タラコを調製した以外、実施例1と同様にして粘性タラコ-鮭肉食品を製造した。当該粘性タラコ-鮭肉食品の粘度は0.9Pa・sだった。50名のパネルが当該タラコ-鮭肉食品を喫食し、当該タラコ-鮭肉食品の食感が悪いことを確認した。
【0030】
比較例2
塩化ナトリウムの含有量が4.5質量%の塩化ナトリウム含有タラコを調製した以外、実施例1と同様にして粘性タラコ-鮭肉食品を製造した。当該粘性タラコ-鮭肉食品の粘度は1001Pa・sだった。50名のパネルが当該タラコ-鮭肉食品を喫食し、当該タラコ-鮭肉食品の食感が悪いことを確認した。
【要約】
【課題】嚥下困難者が容易に喫食できる、魚卵と魚肉を含む食品の製造方法とこの食品を提供する。
【解決手段】粘性水産物食品の製造方法が、塩化ナトリウムを魚卵に添加し、この魚卵中の塩化ナトリウムの含有量を3~4質量%に調整して、この魚卵中のタンパク質を溶出させるタンパク質溶出工程と、このタンパク質溶出工程で得られる魚卵と魚介類を混合する混合工程と、この混合工程で得られる混合物を100~150℃で加熱する加熱工程を含む。粘性水産物食品が魚卵と魚介類を含み、その粘度が1~1000Pa・sの範囲である。
【選択図】なし