(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-07
(45)【発行日】2023-06-15
(54)【発明の名称】ワムシの変異系統の作出方法、ワムシの変異系統、および重イオンビームの判定方法
(51)【国際特許分類】
A01K 67/033 20060101AFI20230608BHJP
C12N 5/07 20100101ALI20230608BHJP
【FI】
A01K67/033 501
C12N5/07
(21)【出願番号】P 2019015899
(22)【出願日】2019-01-31
【審査請求日】2021-12-17
(31)【優先権主張番号】P 2018015200
(32)【優先日】2018-01-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、農林水産省、クロマグロ養殖用の高機能、高効率餌料の開発事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】504205521
【氏名又は名称】国立大学法人 長崎大学
(73)【特許権者】
【識別番号】501168814
【氏名又は名称】国立研究開発法人水産研究・教育機構
(74)【代理人】
【識別番号】110003063
【氏名又は名称】弁理士法人牛木国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100080089
【氏名又は名称】牛木 護
(74)【代理人】
【識別番号】100121153
【氏名又は名称】守屋 嘉高
(74)【代理人】
【識別番号】100194892
【氏名又は名称】齋藤 麻美
(72)【発明者】
【氏名】阿部 知子
(72)【発明者】
【氏名】常泉 和秀
(72)【発明者】
【氏名】市田 裕之
(72)【発明者】
【氏名】萩原 篤志
(72)【発明者】
【氏名】金禧珍
(72)【発明者】
【氏名】阪倉 良孝
(72)【発明者】
【氏名】菅 向志郎
(72)【発明者】
【氏名】小磯 雅彦
(72)【発明者】
【氏名】手塚 信弘
(72)【発明者】
【氏名】川田 実季
(72)【発明者】
【氏名】小林 敬典
【審査官】中村 俊之
(56)【参考文献】
【文献】特開昭53-017193(JP,A)
【文献】特開2018-000129(JP,A)
【文献】特開2007-228849(JP,A)
【文献】特開2001-095423(JP,A)
【文献】特開2017-153437(JP,A)
【文献】Sublethal gamma irradiation affects reproductive impairment and elevates antioxidant enzyme and DNA repair activities in the monogonont rotifer Brachionus koreanus,Aquatic Toxicology,2014年,Vol. 155,p. 101-109
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 67/02- 67/033
C12N 1/00- 7/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワムシを1個体とするサンプル個体群に、核種と、照射線量と、線エネルギー付与値(LET)との組み合わせで特定される重イオンビーム(ただし、原子番号が6以上92以下の元素群から一種選択される元素を核種とし、照射線量が25Gy以上1000Gy以下であり、線エネルギー付与値(LET)が10keV/μm以上800keV/μm以下)を照射後、該サンプル個体を1つずつ分画し、全区画数Fの各区画内で、10℃を超える温度で増殖させ、各区画内の増殖後の個体数を(1+n)個とし、全区画数Fに対する、区画内の個体数(1+n)が20以上である区画数fの割合を算出し、該算出値が15%以上90%以下である、サンプル個体群に照射された該重イオンビームがワムシの有増殖性変異系統の作出誘導性を有すると判定する工程を有し、
ワムシを1個体とする第一の個体群に、
ワムシの有増殖性変異系統の作出誘導性を有すると判定された、重イオンビームを照射する、重イオンビーム照射ステップと、
重イオンビームを照射した後、第一の個体群に属する個体を1つずつ分画して培養する第一の培養を含む培養ステップと、
培養ステップの後、各区画内で増殖した個体群の個体数に基づき増殖力が強い個体が存在する区画を選抜する増殖力選抜を行い、増殖力選抜により選抜された区画内の個体からなる第二の個体群から
第一の個体群の平均背甲長より7%以上大きな個体を選抜して変異系統を樹立する選抜ステップを含むワムシの変異系統の作出方法。
【請求項2】
前記重イオンビーム照射ステップにおける重イオンビームが、線エネルギー付与値(LET)が20keV/μm以上600keV/μm以下の重イオンビームである、請求項
1に記載のワムシの変異系統の作出方法。
【請求項3】
重イオンビーム照射ステップで、単為生殖サイクルを有するワムシまたは両性生殖サイクルを有するワムシを含む第一の個体群に重イオンビームを照射する、請求項1
または2に記載のワムシの変異系統の作出方法。
【請求項4】
重イオンビーム照射ステップで、Brachionus plicatilis species complexから1種以上選択される個体を含む第一の個体群に重イオンビームを照射する、請求項1ないし請求項
3のいずれか1項に記載のワムシの変異系統の作出方法。
【請求項5】
請求項1ないし請求項
4のいずれか1項に記載される方法により作出されるワムシの変異系統。
【請求項6】
Brachionus plicatilis species complexから一種以上選択される個体を含む第一の個体群より、平均背甲長が7%以上大きい請求項
5に記載のワムシの変異系統。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水産業界で餌料として用いられるワムシの変異系統の作出方法、ワムシの変異系統、および重イオンビームの判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水産業界では、仔魚が捕食しやすい餌料が求められる。餌料の捕食容易性を検討するとき、仔魚が成長にあわせて口の大きさに合うサイズの餌料を捕食する習性を有することが考慮される。従来、仔魚の初期餌料として、シオミズツボワムシが知られる。本分類群は15種からなる複合種であるが形態的に、L型、S型、SS型の3グループがあり、成熟個体ではL型が260μm前後、S型が200μm前後、SS型が150μm前後である。
【0003】
シオミズツボワムシを捕食する仔魚は、口径がL型シオミズツボワムシの背甲長の大きさよりも大きくなると、従来のL型シオミズツボワムシより大きい餌料、例えばアルテミアを捕食しようとする。しかし仔魚の成長過程において餌料のサイズが、L型シオミズツボワムシでは小さすぎ、アルテミアでは大きすぎる場合がある。仔魚の飼育領域に、その仔魚の口の大きさに適合するサイズの餌料が存在しないと、餌料が不足して仔魚が餓死したり、共食いしたりする場合がある。上記に例示する事態により引き起こされる仔魚の個体数の減少を回避するため、仔魚の口の大きさや飼育領域に適合する特性を備えるワムシの変異系統を作出することが望まれる。さらに仔魚用餌料は、水産業用途に利用可能なものでなければならないため、増殖性も求められる。
【0004】
動物、特にワムシの増殖性の検討については、非特許文献1~3を参照できる。非特許文献1は、Brachionus koreanusに対するγ線照射の急性毒性についての文献である。非特許文献1では、半数致死量(Median lethal dose、LD50)を指標として、Brachionus koreanusにγ線を照射したときの急性毒性を検討する。非特許文献1によれば、150~200Gy程度のγ線を照射するとき、Brachionus koreanusの増殖に影響を与える致死量が報告される。
【0005】
非特許文献2では、bdelloid rotiferの電離放射線耐性に関する文献である。非特許文献2では、560Gyのγ線が照射されたヒルガタワムシ(Adineta vagaおよびPhilodina roseola)は、ゲノムあたり約500個のDNA2本鎖の切断が起きているにもかかわらず、上記の560Gyのγ線照射後のヒルガタワムシの卵の孵化率の減少は、非照射ヒルガタワムシの卵の孵化率の減少との比較で、10%~20%程度の減少であったことが報告される。
【0006】
非特許文献3は、キイロショウジョウバエの突然変異分離におけるLET条件の影響に関する。非特許文献3では、キイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)の変異系の大規模選抜を目的とするときは、線エネルギー付与値(Linear energy transfer,LET)が22.5~80keV/μm、照射線量1~3Gyの炭素イオンビームが、好ましい放射条件であることが報告される。
【0007】
しかし、動物、特にワムシに対する重イオンビームやγ線の照射結果の検討では、致死量や孵化率等、個体数に着目される場合がほとんどであり、照射後に産生された次世代以降の個体の態様や増殖性について、活発な議論はなされていない。従って、仔魚用飼料に好適な特性を備え、かつ水産業用途に利用可能な増殖性を有するワムシの変異系統の作出方法が望まれる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【文献】“Acute Toxicity of Gamma Radiation to the Monogonont Rotifer Brachionus koreanus” Won Eun-Ji Won et al., Bulletin of Environmental Contamination and Toxicology 2016 September;97(3).:387-391.
【文献】“Extreme resistance of bdelloid rotifers to ionizing radiation” Gladyshev et al., Proceedings National Academy of Sciences of the United States of America,1 April 2008,105(3):5139-5144.
【文献】“Effects of several LET conditions on the mutation isolation system in fruit flies” Tsuneizumi et al., RIKEN Accelerator Progress Report Vol.49,253(2016).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、仔魚用餌料として好適な特性と十分な増殖性を備えるワムシの変異系統の作出方法を提供することである。とりわけ、成長して口が大きくなった仔魚が捕食するサイズを有することや、仔魚の飼育領域に分布可能であることを特性とする、有増殖性のワムシの変異系統の作出方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、ワムシを1個体とする第一の個体群に、有増殖性変異系統の作出誘導性を有する重イオンビームを照射する、重イオンビーム照射ステップと、重イオンビームを照射した後、第一の個体群に属する個体を1つずつ分画して培養する第一の培養を含む培養ステップと、培養ステップの後、各区画内で増殖した個体群の個体数に基づき増殖力が強い個体が存在する区画を選抜する増殖力選抜を行い、増殖力選抜により選抜された区画内の個体からなる第二の個体群から変異体を選抜して変異系統を樹立する選抜ステップを含むワムシの変異系統の作出方法である。
【0011】
本発明は、重イオンビーム照射ステップで、有増殖性変異系統の作出誘導性を判定する重イオンビームの判定方法によって有増殖性変異系統の作出を誘導すると判定された重イオンビーム群から1種以上選択される重イオンビームが、第一の個体群に照射されることが好ましい。上記の重イオンビームの有増殖性変異系統の作出誘導性は、下記の方法で判定されることが好ましい。すなわち、ワムシを1個体とするサンプル個体群に、核種と、照射線量と、線エネルギー付与値(LET)との組み合わせで特定される重イオンビームを照射後、該サンプル個体を1つずつ分画し、全区画数Fの各区画内で、10℃を超える温度で増殖させ、各区画内の増殖後の個体数を(1+n)個とし、全区画数Fに対する、区画内の個体数(1+n)が20以上である区画数fの割合を算出し、該算出値に基づき判定する方法である。本発明では、全区画数Fに対する区画数fの割合が15%以上90%以下であるとき、サンプル個体群に照射された該重イオンビームがワムシの有増殖性変異系統の作出誘導性を有すると判定する。
【0012】
より具体的には、重イオンビーム照射ステップで、第一の個体群に、原子番号が6以上92以下の元素群から一種選択される元素を核種とする重イオンビームからなる群から一つ以上選択される重イオンビームを照射することが好ましい。また本発明では、重イオンビーム照射ステップで、第一の個体群に、照射線量が25Gy以上1000Gy以下の重イオンビームを照射することが好ましい。さらに本発明は、重イオンビーム照射ステップで、第一の個体群に、線エネルギー付与値(LET)が10keV/μm以上800keV/μm以下の重イオンビームを照射することが好ましい。
【0013】
本発明は重イオンビーム照射ステップで、単為生殖サイクルを有するワムシまたは両性生殖サイクルを有するワムシを含む第一の個体群に重イオンビームを照射する、ワムシの変異系統の作出方法を包含する。また本発明は、重イオンビーム照射ステップで、Brachionus plicatilis species complexから1種選択される個体を含む第一の個体群に重イオンビームを照射するワムシの変異系統の作出方法を包含する。
【0014】
本発明は、上記の作出方法により作出されるワムシの変異系統を包含する。さらに本発明は、Brachionus plicatilis species complexから一種以上選択される個体を含む第一の個体群より、平均背甲長が7%以上大きいワムシの変異系統を包含する。
【0015】
本発明は、ワムシを1個体とするサンプル個体群に、核種と、照射線量と、線エネルギー付与値(LET)との組み合わせで特定される重イオンビームを照射後、該サンプル個体を全区画数Fの各区画に1つずつ分画し、全区画数Fの各区画内で増殖させ、各区画内の増殖後の個体数を(1+n)個とし、全区画数Fに対する、区画内の個体数(1+n)が20以上である区画数fの割合を算出し、全区画数Fに対する区画数fの割合が15%以上90%以下であるとき、サンプル個体群に照射された該重イオンビームがワムシの有増殖性変異系統の作出誘導性を有すると判定する、重イオンビームの判定方法を包含する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、仔魚用餌料として好適な特性と十分な増殖性を備えるワムシの変異系統の作出方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明のワムシの変異系統の作出方法の例を示す概念図である。
【
図2】本発明で用いられる重イオンビームの判定方法の例の概念図である。
【
図3】本発明で用いられる重イオンビームの判定方法の例の概念図である。
【
図4】本発明の重イオンビームの判定方法の例である。
【
図5】本発明のワムシの有増殖性変異系統の作出方法の選抜ステップの例を示す図である。
【
図6】本発明の実施例で作出されたワムシの変異体の写真である。
【
図7】本発明の重イオンビームの判定方法の例である。
【
図8】本発明の重イオンビームの判定方法の例である。
【
図9】本発明の実施例で作出されたワムシの変異体の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<ワムシの変異系統の作出方法、および重イオンビームの判定方法>
本発明のワムシの変異系統の作出方法を、
図1を用いて説明する。なお本明細書で説明する、ワムシおよびワムシの変異体の個体数は、光学顕微鏡で観察して計測できる。ただし本発明の作用効果を得られる限り、他の計測方法を用いてもよい。
【0019】
図1は本発明のワムシの変異系統の作出方法の例を示す概念図である。
図1に示されるように、本発明のワムシの変異系統の作出方法は、ワムシを1個体とする第一の個体群に、有増殖性変異系統の作出誘導性を有する重イオンビームを照射する、重イオンビーム照射ステップ(S10)と、重イオンビームを照射した後、第一の個体群に属する個体を1つずつ分画して培養する第一の培養を含む培養ステップ(S20)と、所定の選抜ステップ(S30)を含む。選抜ステップ(S30)では、培養ステップ(S20)の後、各区画内で増殖した個体群の個体数に基づき増殖力が強い個体が存在する区画を選抜する増殖力選抜(S31)を行い、増殖力選抜により選抜された区画内の個体からなる第二の個体群から変異体を選抜して変異系統を樹立する(S34)。
【0020】
本発明において、「有増殖性」とは、下記の培養条件1で、分画日の翌日を培養の第1日目として19~20日間経過後(第20~21日目)に、1個体(親株)から増殖した個体数(1+n)が20以上になる性質を有することをいう。
[培養条件1]
培養温度:20℃
培養塩濃度:1.8%
日照条件:全暗
震盪条件:静置
【0021】
本発明の作出方法で、第一の個体群に照射される重イオンビームは、ワムシの有増殖性変異系統の作出誘導性を有する重イオンビーム群から選択される。これにより本発明は、水産業用途に好適な形態と増殖力を備えたワムシの変異系統を作出できる。
【0022】
本発明の重イオンビーム照射ステップで第一の個体群に照射される重イオンビームは、後に詳説する本発明の所定の判定方法によって、ワムシの有増殖性変異系統の作出誘導性を有すると判定された重イオンビーム群から1種以上選択されることが好ましい。しかし、本発明の作用効果を得られる限り、当該判定方法によらずに選択された重イオンビームを第一の個体群に照射することもできる。
【0023】
本発明において、重イオンビーム照射ステップで用いられる重イオンビームは、原子番号が6以上92以下の元素群から一種選択される元素を核種とする重イオンビームであり、原子番号が6以上38以下の元素群から一種選択される元素を核種とする重イオンビームであることが好ましい。原子番号が6以上92以下の元素とは、C、N、O、F、Ne、Na、Mg、Al、Si、P、S、Cl、Ar、K、Ca、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、As、Se、Br、Kr、Rb、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、In、Sn、Sb、Te、I、Xe、Cs、Ba、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、Hg、Tl、Pb、Bi、Po、At、Rn、Fr、Ra、Ac、Th、Pa、Uである。さらに当該重イオンビーム照射ステップでは、C、N、O、Ne、Ar及びFeから選ばれる元素を核種とする重イオンビームを用いることが好ましく、CまたはArを核種とする重イオンビームが用いられることが、より好ましい。
【0024】
上記の重イオンビーム照射ステップにおいて、重イオンビームを第一の個体群に照射するときの照射線量は、25Gy以上1000Gy以下であることが好ましく、25Gy以上600Gy以下がより好ましく、50Gy以上600Gy以下がさらに好ましい。上記の好ましい範囲の照射線量で第一の個体群に重イオンビームを照射することにより、所望のワムシの有増殖性変異系統を作出できる。当該照射線量が25Gy未満の場合、変異系統を作出し難くなる。1000Gyを超えると、ワムシの孵化率が低下する。
【0025】
上記の重イオンビーム照射ステップにおいて、重イオンビームを第一の個体群に照射するときの、線エネルギー付与値(LET)は、10keV/μm以上800keV/μm以下であることが好ましく、20keV/μm以上600keV/μm以下であることがより好ましい。LETが10keV/μm未満であると、変異系統を作出し難くなる。またLETが800keV/μmを超えても変異系統を作出し難くなる。
【0026】
本発明における重イオンビームの好適な照射条件は、作出させたいワムシの変異系統の形態や、重イオンビームの核種によっても異なる。例えば、平均背甲長が大きなワムシの変異系統を作出する場合に第一の個体群に照射される、Cを核種とする重イオンビーム(Cイオンビーム)の照射条件としては、照射線量25Gy以上1000Gy以下で、かつLET 20keV/μm以上150keV/μm以下が好ましく、照射線量100Gy以上600Gy以下で、かつLET20keV/μm以上120keV/μm以下とすることがより好ましい。
【0027】
上記と同様のワムシの変異系統を作出する場合で、第一の個体群にArを核種とする重イオンビーム(Arイオンビーム)を照射する場合の照射条件としては、照射線量25Gy以上1000Gy以下で、かつLET150keV/μm以上800keV/μm以下とすることが好ましく、照射線量25Gy以上100Gy以下で、かつLET150keV/μm以上600keV/μm以下とすることがより好ましく、照射線量25Gy以上100Gy以下で、かつLET150keV/μm以上300keV/μm未満とするか、照射線量50Gy以上100Gy以下で、かつLET300keV/μm以上600keV/μm以下とすることがさらに好ましい。
【0028】
上記の重イオンビームが照射される第一の個体群は、ワムシ、好ましくは携卵数が1個以上であるワムシ、を1個体とする。重イオンビームの照射開始時の第一の個体群の個体数は、500以上3000以下が好ましい。第一の個体群に属するワムシは、その携卵数が2個以上でもよく、1個でもよい。
【0029】
第一の個体群に属するワムシは、単為生殖サイクルを有するワムシと両性生殖サイクルを有するワムシとのいずれでもよい。本発明の作出方法を適用できる単為生殖サイクルを有するワムシとしては、二倍体単為生殖サイクルを有するワムシ、Brachionus plicatilisが挙げられる。両性生殖サイクルを有するワムシとしては、NH1Lが挙げられる。
【0030】
また第一の個体群は、Brachionus plicatilis species complexから1種以上選択される個体で構成されてもよい。Brachionus plicatilis species complexを構成するCladesは、L1、L2、L3、L4、SM1、SM2、SM3、SM4、SM5、SM6、SM7、SM8、SM9、SS1、SS2である。本発明のワムシの変異系統の作出方法は、いずれのCladeに属するワムシの変異系統を作出する場合にも適用できる。なお、各Cladeに属する生物群はそれぞれ命名されている。すなわちL1はBrachionus plicatilis、L2はBrachionus manjavacas(非公式名'Manjavacas')、L3はBrachionus asplanchnoidis(非公式名'Austria')、L4は非公式名'Nevada'、SM1はBrachionus ibericus、SM2はBrachionus koreanus(非公式名'Cayman')、SM3は非公式名'Tiscar'、SM4は非公式名'Towerinniensis'、SM5は非公式名'Coyrecupiensis'、SM6は非公式名'Almenara'、SM7は非公式名'Mexico'、SM8は非公式名'Harvey'、SM9は非公式名'Turkana'、SS1はBrachionus roturdiformis、SS2は非公式名'Lost'である。本発明のワムシの変異系統の作出方法は、Brachionus plicatilisやBrachionus rotundiformisの変異系統の作出方法として好適である。
【0031】
<培養ステップ>
本発明では、第一の個体群に上記の重イオンビームが照射された後、第一の個体群に属する個体を一つずつ分画して培養する第一の培養を含む培養ステップが行われる(S20)。分画は、24wellプレート等を用いて従来公知の方法により行うことができる。第一の培養において、分画された個体は、10℃以上30℃以下、好ましくは20℃以上25℃以下の温度条件で培養される。温度条件が10℃未満の場合、個体を増殖させることができない。温度条件が30℃を超えると個体が死滅しやすくなる。ワムシの増殖状態は、一般的に、培養日数の経過に伴い、ワムシ個体数が急激に増える「対数増殖期」の後、ワムシ個体数が停滞する「定常期」を経て、ワムシ個体数が減少し始める「退行期」に至る。したがって、培養期間は培養開始から対数増殖期~定常期までの間とすることが好ましい。つまり、分画の翌日を第1日目として、培養期間は、13日以上30日以下であればよく、17日以上21日以下が好ましい。なお本発明の培養ステップ、選抜ステップでは、第一の培養だけでなく、必要な個体数を得るため、第二の培養ないし第nの培養が行われる場合がある。第二の培養ないし第nの培養の培養条件は、上記に説明した第一の培養の培養条件と同様である。
【0032】
<選抜ステップ>
本発明において、上記の培養ステップの後行われる選抜ステップ(S30)は、増殖力選抜(S31)と変異系統樹立(S34)が行われる。増殖力選抜(S31)では、まず第一の増殖力選抜工程(S32)として、上記の培養ステップで第一の個体群を分画させた全区画から、培養ステップ終了後の各区画内の個体数に基づき、増殖力がある個体が存在する区画を選抜する。すなわち、1区画内の個体数が少なくとも20以上、好ましくは40以上である区画を、増殖力がある個体が存在する区画として選抜する。
【0033】
増殖力がある個体が属する区画として選抜された区画から任意に個体を抽出し、第二の個体群とする。第二の個体群の個体数は、第二の増殖力選抜行程で個体数の損耗が生じるため、20以上200以下が好ましく、60以上200以下がより好ましい。増殖力がある個体が属する区画として選抜された区画が複数ある場合、第二の個体群は、区画ごとに複数存在する。
【0034】
第一の増殖力選抜工程(S32)により得られた第二の個体群には、続いて、第二の増殖力選抜工程(S33)が実施される。第二の個体群が複数存在する場合は、それぞれの第二の個体群ごとに、第二の増殖力選抜工程(S33)が実施される。
【0035】
第二の増殖力選抜工程(S33)では、直接計測により、または画像解析ソフトを用いて、所望の変異体が存在する区画の選抜を行う。どちらの手段を選択する場合も、個体の視認性のため、第二の個体群に属する個体の1/10程度の数の任意の個体を従来公知の方法で染色してもよい。染色方法の例としては、ルゴール染色が挙げられる。直接計測する場合、第二の個体群に属する各個体を顕微鏡下で直接計測した結果に基づき、所望の変異体が存在する区画の選抜を行う。画像解析ソフトを用いる場合、第二の個体群を公知の手段で画像化し、画像解析ソフトを用いて得られた第二の個体群の解析結果に基づき、所望の変異体が存在する区画の選抜を行う。第二の個体群の画像化手段の例としては、光学顕微鏡に付設されるカメラが挙げられる。画像解析ソフトの例としては、ImageJ、Photoshopやデジタルカメラ付属の画像解析ソフトなどが挙げられる。
【0036】
所望の変異体が存在する区画の選抜について、L型能登島株のワムシ(Brachionus plicatilis)の第一の個体群より平均背甲長が7%以上大きな個体が存在する区画の選抜を例にとり説明する。本明細書中、「平均背甲長」とは、一つの個体群に属する全個体の背甲長の合計を、該個体群に属する全個体数で除した値をいう。また、第一の個体群の平均背甲長より背甲長がx%大きい個体A、とは、その背甲長が、下記式により算出される値である個体をいう。
個体Aの背甲長=第一の個体群の平均背甲長*[(100+x)/100]
【0037】
従って、平均背甲長が280μmである第一の個体群に対して重イオンビームを照射し、これらを選抜飼育条件下(培養温度:20℃、培養塩濃度1.8%)で飼育し、第一の個体群の平均背甲長より7%以上大きくなった変異体が存在する区画を選抜する基準は、上記式により、区画に変異体の背甲長が300μm以上の個体が存在すること、である。本工程は単一個体分離を行う前の選抜基準であるため、区画内の個体群の中に背甲長が300μm以上の個体が存在していれば、その区画は選抜される。従って直接計測の結果に基づき、もしくは画像解析ソフトによる解析結果に基づき、計測対象または解析対象の区画の第二の個体群に背甲長が300μm以上である個体が存在するか否かを確認する。その結果、区画内の当該第二の個体群に背甲長が300μm以上である個体の存在が認められた場合、当該区画は、所望の変異体が存在する区画として選抜される。
【0038】
本発明は、重イオンビーム照射ステップで、第一の個体群に、ワムシの有増殖性変異系統の作出誘導性を有する重イオンビームを照射する。そのため、第一および第二の増殖力選抜工程を含む増殖力選抜(S31)によって、所望の変異体が存在する区画を一つ以上選抜できる。第二の増殖力選抜(S33)で当該選抜された区画に属する個体群を第三の個体群として、第三の個体群を用いて変異系統樹立(S34)を実施する。
【0039】
変異系統樹立(S34)では、24wellプレート等を用いて、第三の個体群に属する個体から所望の変異体を抽出して一つずつ分画し、区画ごとに公知の系統樹立手段を適用して、所定の変異系統を樹立する。公知の系統樹立手段としては、単一個体分離等を例示できる。第一の個体群に属する個体、すなわち親世代の、重イオンビームを照射された個体を排除し、遺伝形質を均一にする観点から、単一個体分離は少なくとも2回行うことが好ましく、3回行うことがより好ましい。本発明の作出方法を用いることにより、仔魚用餌料として好適な特性と増殖性を有するワムシの変異系統を樹立できる。
【0040】
[ワムシの変異系統]
本発明のワムシの変異系統は、上記に説明した作出方法を用いて作出されたワムシの変異系統であり、本発明の作出方法の重イオンビーム照射ステップの第一の個体群を構成するワムシの変異系統を包含する。また本発明は、Brachionus plicatilis species complexから一種以上選択される個体を含む第一の個体群より、平均背甲長が7%以上大きいワムシの変異系統を包含する。本発明のワムシの変異系統は、従来のL型ワムシを捕食する仔魚より大きな口を有する仔魚の餌料として好適である。
【0041】
本発明により作出できるワムシの変異系統の他の例として、眼点を消失させたワムシを作出できる。当該ワムシの変異系統は、光が到達しない水域にも分布させることができるため、そのような水域に生息する仔魚でも捕食しやすくなる点で有用である。
【0042】
[重イオンビームの判定方法]
本発明の重イオンビームの判定方法は、ワムシの変異系統の生存率だけでなく、その増殖性を判定基準に反映させたため、本発明所定の基準を満たす重イオンビームを個体に照射することで、増殖性を有するワムシの変異系統の作出を誘導できる。
【0043】
図2、
図3は、本発明の重イオンビームの判定方法の例の概念図である。
図2、
図3に示されるように、まずワムシを1個体とするサンプル個体群(個体数F)に、核種と、照射線量と、線エネルギー付与値(LET)との組み合わせで特定される判定対象の重イオンビームを照射する(S101、S102)。
【0044】
上記の任意の重イオンビームをサンプル個体群に照射後、該サンプル個体を全区画数Fの各区画に1つずつ分画し、10℃を超える温度で増殖させる(S103)。増殖後、各区画内の個体数を計測する(S104)。計測された増殖後の各区画内の個体数は(1+n)個とする。計測は、サンプル個体を1つずつ分画した日の翌日を第1日目として19~20日経過後、すなわち第20~21日目に行う。
【0045】
上記の計測で、増殖後の1区画内の個体数(1+n)が20以上であった区画は、増殖後の各区画内の個体数(1+n)が20以上である区画数(区画数f)に算入する(S105、S106)。次に全区画数Fに対する、区画内の個体数(1+n)が20以上である区画数fの割合を算出する(S107)。
【0046】
本発明の判定方法では、上記の算出値に基づき判定対象の重イオンビームがワムシの有増殖性変異系統の作出誘導性を有するか否かを判定する。すなわち全区画数Fに対する、区画内の個体数(1+n)が20以上である区画数fの割合が15%以上90%以下であるとき、判定対象の重イオンビームがワムシの有増殖性変異系統の作出誘導性を有すると判定され(S108)、上記の算出値が15%未満または90%を超える場合は、判定対象の重イオンビームがワムシの有増殖性変異系統の作出誘導性を有さないと判定される。より厳格な判定を行う場合は、(区画数f/全区画数F)×100(%)の値が満たすべき判定基準値を、30%以上90%以下とすることが好ましく、40%以上70%以下とすることがより好ましい。
【0047】
判定対象の重イオンビームの上記の算出値(区画数f/全区画数F)×100(%)が15%未満である場合、当該重イオンビームをワムシに照射しても卵の孵化率が低い。また(区画数f/全区画数F)×100(%)が90%を超える場合、当該重イオンビームをワムシに照射しても、孵化した個体における変異体の作出率が低い。
【0048】
本発明の判定方法で、ワムシの有増殖性変異系統の作出誘導性を有すると判定された重イオンビームは、上記に説明したワムシの有増殖性変異系統の作出方法の重イオンビーム照射ステップで用いられる重イオンビームとして好ましく選択される。
例えば、変異系統として大型化したワムシの変異体を作出する場合、「有増殖性変異系統の作出誘導性を有する重イオンビーム」としては、線エネルギー付与値(LET)が10keV/μm以上800keV/μm以下の重イオンビームが好ましく、20keV/μm以上600keV/μm以下の重イオンビームがより好ましく、20keV/μm以上400keV/μm以下の重イオンビームがさらに好ましい。また、原子番号が6以上38以下の元素群から一種選択される元素を核種とする重イオンビームが好ましく、C、N、O、Ne、Ar及びFeから選ばれる元素を核種とする重イオンビームがより好ましい。照射線量は25Gy以上1000Gy以下であることが好ましく、25Gy以上600Gy以下がより好ましく、50Gy以上600Gy以下がさらに好ましい。具体的には、炭素を核種とする重イオンビームで、照射線量を100Gy以上600Gy以下で、LET20keV/μm以上120keV/μm以下の重イオンビーム、及びアルゴンを核種とする重イオンビームで、照射線量を25Gy以上100Gy以下で、LET150keV/μm以上600keV/μm以下とする重イオンビームが、上記場合の有増殖性変異系統の作出誘導性を有する重イオンビームの一例として挙げることができ、核種を問わずこれらと同等の重イオンビームも使用できる。
【実施例】
【0049】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明する。ただし、本発明は下記の実施例に制限されない。
【0050】
<実施例1>
[重イオンビームのワムシの有増殖性変異系統の作出誘導性の判定]
実施例1では、L型能登島株のワムシ(Brachionus plicatilis)を用いて重イオンビームのワムシの有増殖性変異系統の作出誘導性の判定を行った。以下の実施例と比較例との説明では、L型能登島株のワムシ(Brachionus plicatilis)を、単に「ワムシ」と記載する場合がある。
【0051】
まず、上記のL型能登島株のワムシ培養水を、メッシュサイズ40μmのセルストレーナーを用いて濃縮した。濃縮後のワムシ培養水を1.8パーセント海水で洗浄後、クロレラ入り1.8パーセント海水で再懸濁し、約150倍に濃縮させた濃縮ワムシ培養水を得た。当該濃縮ワムシ培養水を200μl PCRチューブに分注した。分注された濃縮ワムシ培養水中のワムシを、それぞれサンプル個体群とした。
【0052】
200μl PCRチューブに分注された濃縮ワムシ培養水に、照射線量が25Gy、50Gy、75Gy、100Gy、150Gy、200GyのArイオンビーム(LET312keV/μm)をそれぞれ1.17Gy/秒~3.57Gy/秒の強度で照射した。照射から2時間経過後、回収された濃縮ワムシ培養水を、クロレラ入り1.8パーセント海水に懸濁させた。またControlとして、Arイオンビームを照射しなかった濃縮ワムシ培養水も、Arイオンビームを照射した濃縮培養水に対し行った方法と同様の方法で、懸濁させた。クロレラ入り1.8パーセント海水の添加量は、濃縮ワムシ培養水100μlに対し20mlとした。懸濁液は約15℃で保存した。
【0053】
25GyのArイオンビームが照射されたサンプル個体群の懸濁液を3枚の24wellプレートに分画した。サンプル個体は、1wellに1つずつ分画されるようにした。これにより、25GyのArイオンビームが照射されたサンプル個体は、1プレートあたり24区画に分画された。分画後のサンプル個体を下記の培養条件で増殖させた。培養期間は分画日の翌日を第1日目として22日間とした。
<サンプル個体群の培養条件>
培養温度:20℃
培養塩濃度:1.8パーセント
日照条件:全暗
震盪条件:静置
【0054】
サンプル個体の培養期間中、5日目、7日目、11日目、13日目、16日目、20日目、22日目の各well内のサンプル個体数(1+n)を顕微鏡観察により目視で計測した。分画に用いた3枚の24wellプレート、すなわち第一ないし第三の24wellプレートについて、24well中(全区画数F)に対する、個体数(1+n)が20以上になったwell数(区画数f)の割合をそれぞれ計測日ごとに算出した。さらに当該算出値に基づき、計測日ごとに、(区画数f/区画数F×100)(%)の第一ないし第三の24wellプレートの平均値を算出した。
【0055】
上記に説明した25GyのArイオンビームを照射したサンプル個体群と同様の方法で、50Gy、75Gy、100Gy、150Gy、200GyのArイオンビーム(LET312keV/μm)を照射したサンプル個体およびControlのサンプル個体についても分画、培養し、(区画数f/区画数F×100)(%)の平均値を算出した。各平均値を表1と
図4に示す。
【0056】
【0057】
表1、
図4において、20日目の平均値に着目すると、50Gy、75Gyまたは100GyのArイオンビームを照射したときに、当該平均値が15%以上90%以下の範囲内であった。従って、本発明のワムシの変異系統の作出方法の重イオンビーム照射ステップで照射するArイオンビーム(LET=312keV/μm)としては、照射線量は50Gy、75Gyまたは100Gyとすることが好ましいことが分かった。
【0058】
[第一の個体群の平均背甲長より7%大きい個体(平均背甲長が300μm以上のワムシ)の有増殖性変異系統の作出]
<実施例1-1、1-2、比較例1-1、1-2、1-3>
上記の実施例1と同様の方法で、L型能登島株のワムシ培養水を濃縮、再懸濁し、150倍濃縮ワムシ培養水を用意した。この濃縮ワムシ培養水を200μl PCRチューブに分注した。分注された200μl PCRチューブ内の濃縮ワムシ培養水に照射線量が異なるArイオンビーム(LET=312keV/μm)を照射した。Arイオンビーム照射後の濃縮ワムシ培養水を、それぞれ実施例1-1(Arイオンビームの照射線量75Gy)、実施例1-2(同100Gy)、比較例1-1(同25Gy)、比較例1-2(同150Gy)、比較例1-3(同200Gy)とした。
【0059】
上記の重イオンビーム照射ステップ後、培養ステップを行うため、実施例1-1の濃縮ワムシ培養水中のワムシを、24wellプレートに1wellあたりの個体数を1として分画した。その後、該24wellプレートを温度条件20℃で静置し、各well内でワムシを培養した。
【0060】
分画日を第1日目として3週間経過後(第21日目)に培養ステップを終了し、選抜ステップを行った。選抜ステップでは、まず第一の増殖力選抜工程として、1well内の培養後の個体数が20以上であるwellを、増殖力ある個体が存在するwellとして選抜した。各well内のワムシの個体数は、顕微鏡観察により目視で計測した。実施例1-2および比較例1-1、1-2、1-3の濃縮ワムシ培養水についても実施例1-1と同様の方法で培養ステップを行った。培養ステップ後、ワムシの個体数が20以上に増殖したwellの数は、実施例1-1、1-2、比較例1-1、1-2および比較例1-3でそれぞれ確認されたものを合わせて、530であった(第1ないし第530のwell)。第1ないし第530のwellは、それぞれ、いずれの実施例または比較例に対応するwellであるかが識別可能な状態にして、次の第二の増殖力選抜工程を行った。
【0061】
48wellプレートを用意し、第1のwellから全個体数の1/10程度のワムシをランダムに抽出し、該48wellプレートに移し、ルゴール染色した。ルゴール染色液は、0.7%NaCl溶液50mlにヨウ素1.5gとヨウ化カリウム2.5gを溶解して作製したものを用いた。具体的には、当該ルゴール染色液を48wellプレートに4μl添加し、さらに20個体程度のワムシを含む培養水200μlを添加した。当該48wellプレートを1分間90rpmで振とうさせてワムシを染色した。第2ないし第530のwellのワムシに対しても、第1のwellと同様にwell内のワムシのランダムな抽出およびルゴール染色を行った。
【0062】
第二の増殖力選抜工程として、第1のwellから抽出され、染色されたワムシ群に、背甲長が300μm以上のワムシが存在するか否かを確認するため、染色されたワムシ群をZeiss AxioCam HRc顕微鏡用デジタルカメラで撮影し、各ワムシの背甲長を画像解析ソフトImageJで解析した。なお、第一の個体群の定常期の平均背甲長は280μmであったため、第一の個体群より平均背甲長が7%以上大きな個体を選抜するため、第二の増殖力選抜工程において、背甲長が300μm以上のワムシが存在する区画を選抜した。
図5は、本発明のワムシの有増殖性変異系統の作出方法の選抜ステップにある実施例を示す図である。
図5(a)は、本発明の実施例1-1のルゴール染色された個体群の光学顕微鏡写真である。
図5(a)の写真の中で明らかに背甲長が長い個体を10個体以上選抜し、識別番号を設定して解析した。
図5(a)中のワムシを図示する数字は、識別番号である。
図5(b)は、本発明の実施例1-1の選抜ステップにおける解析結果である。
図5(b)において、左列に示される数値は、
図5(a)に示す識別番号と対応するワムシの識別番号である。右列に示される数値は、ImageJで解析された各ワムシの背甲長(μm)である。
図5(b)の解析結果から、第1のwellから抽出されたワムシ群には背甲長が300μm以上のワムシが存在することを確認できた。
【0063】
第2ないし第530のwellについても、第1のwellで実施した方法と同様の方法で、背甲長が300μm以上のワムシが存在するか否かを確認した。その結果、背甲長が300μm以上のワムシが存在することを確認できたwellの数は、第1ないし第530のwellのうち、29であった。そこで、第1ないし第29のwellを選抜well(第1ないし第29の選抜well)とし、選抜well中のワムシを用いて、背甲長が300μm以上であるワムシの変異系統を樹立した。なお、第1ないし第29の選抜wellは、いずれの実施例または比較例に対応するwellであるかが識別可能な状態にして、系統樹立を行った。
【0064】
変異系統の樹立に際しては、単一個体分離を3回行った。1回の単一個体分離につき、24wellプレートを、選抜well数と同数用意した。各選抜well内から目視で背甲長が大きなワムシを抽出し、用意した24wellプレートに1wellあたり1個体ずつ分画した。該24wellプレートをインキュベーターに収容し、20℃で培養した。培養期間中、2~3日ごとに各wellに培養水(0.02μl濃縮クロレラ/1μl 1.8パーセント海水)を添加し、培養を行った。各wellからワムシを回収し、上記の第二の増殖力選抜工程で行った背甲長計測と同様の方法で、単一個体分離後培養されたワムシの背甲長を計測した。最も平均背甲長が大きいワムシの存在したwellを選抜し、そのwellのワムシを用いて再度単一個体分離を行った。同じ工程を繰り返し、合計3回の単一個体分離を行った。選抜後順次培養水を増やし、20mlになるまで培養し系統樹立とした。
【0065】
上記のとおり、実施例1-1、実施例1-2および比較例1-1、1-2、1-3の濃縮ワムシ培養水について培養ステップ、選抜ステップを行い、単一個体分離後培養されたワムシの定常期における平均背甲長を計測した。実施例1-1、1-2および比較例1-1、1-2、1-3を用いた、平均背甲長が300μm以上のワムシの変異系統の作出結果を表2に示す。表2中、「収容個体数」とは、第一の培養において分画された総個体数である。「選抜大型株数」とは、選抜ステップで樹立された、平均背甲長300μm以上のワムシの変異系統数である。また選抜頻度は、次式により算出した。
選抜頻度(%)=(選抜大型株数/収容個体数)×100
【0066】
【0067】
実施例1-1で作出したワムシの変異体と、重イオンビームを照射せずに培養したL型能登島株のワムシとをルゴール染色し、顕微鏡を用いてデジタルカメラで撮影した。
図6は本発明のワムシの変異体の実施例の写真である。撮影は、デジタルカメラを用いて行った。上記に説明する計測方法でワムシの背甲長を計測した結果、実施例1-1のワムシの変異体の背甲長は約380μmであった。一方、第一の個体群のワムシに重イオンビームを照射せずに定常期まで培養した任意のL型能登島株のワムシの背甲長は、280μmであった。これにより実施例1-1では、大型化したワムシの変異系統を作出できることを確認できた。
【0068】
表2に示されるように、実施例1-1の照射線量75GyのArイオンビーム(LET 312keV/μm)を照射したワムシからは平均背甲長300μm以上のワムシの変異系統を6系統を樹立でき、選抜頻度は1.3%であった。また実施例1-2の照射線量100GyのArイオンビーム(LET 312keV/μm)を照射したワムシからは、同変異系統を2系統を樹立でき、選抜頻度は0.4%であった。一方、比較例1-1、1-2、1-3では所望の変異系統を作出できなかった。また作出されたワムシの変異系統(TYA-03株)に属する個体の背甲長及び背甲幅の計測結果を表3に示す。なお、表3の識別番号1~20で示されるTYA-03株の個体は、実施例1-1より選抜された。
【0069】
【0070】
実施例1-1より選抜され作出されたワムシの変異系統(TYA-01株、TYA-05株)に属する個体について、TYA-03株に属する個体と同様に任意の20個体から計測・算出された平均背甲長及び平均背甲幅を表4に示す。
【0071】
【0072】
<実施例2>
[重イオンビームのワムシの有増殖性変異系統の作出誘導性の判定]
実施例1と同様の方法で、濃縮ワムシ培養水に、照射線量が25Gy、50Gy、75Gy、100Gy、150Gy、200GyのArイオンビーム(LET189keV/μm)を照射し、(区画数f/区画数F×100)(%)の平均値を算出した。またControlとして、Arイオンビームを照射しなかった濃縮ワムシ培養水も、Arイオンビームを照射した濃縮培養水に対し行った方法と同様の方法で、(区画数f/区画数F×100)(%)の平均値を算出した。各平均値を表5と
図7に示す。
【0073】
【0074】
表5、
図7において、21日目の平均値に着目すると、25Gy、50Gy、75Gyまたは100GyのArイオンビームを照射したときに、平均値が15%以上90%以下の範囲内であった。従って、本発明のワムシの変異体の作出方法の重イオンビーム照射ステップで照射するArイオンビーム(LET=189keV/μm)としては、照射線量は25Gy、50Gy、75Gyまたは100Gyとすることが好ましいことが分かった。
【0075】
[第一の個体群の平均背甲長より7%大きい個体(平均背甲長が300μm以上のワムシ)の有増殖性変異系統の作出]
<実施例2-1、2-2>
上記の実施例1と同様の方法で、L型能登島株のワムシ培養水を濃縮、再懸濁し、150倍濃縮ワムシ培養水を用意した。この濃縮ワムシ培養水を200μl PCRチューブに分注した。分注された200μl PCRチューブ内の濃縮ワムシ培養水に照射線量が異なるArイオンビーム(LET=189keV/μm)を照射した。Arイオンビーム照射後の濃縮ワムシ培養水を、それぞれ実施例2-1(Arイオンビームの照射線量50Gy)、実施例2-2(同75Gy)とした。
【0076】
実施例2-1、2-2について、実施例1-1と同様の方法で、培養ステップと選抜ステップとを行い、単一個体分離後培養されたワムシの平均背甲長を計測した。第一の増殖力選抜工程で選抜された選抜well数は、実施例2-1、2-2でそれぞれ確認されたものを合わせて210であった。また選抜wellのうち背甲長300μm以上のワムシの存在を確認できたwell数は、実施例2-1、2-2でそれぞれ確認されたものを合わせて23であった。これらのwellに属するワムシを用いて、平均背甲長300μm以上のワムシの変異系統を樹立した。なお、実施例2-1、2-2における培養ステップおよび選抜ステップの各wellは、それぞれいずれの実施例に対応するwellであるかが識別可能な状態にして、各ステップを実施した。実施例2-1、2-2を用いた平均背甲長300μm以上のワムシの変異系統の作出結果を表6に示す。
【0077】
【0078】
表6に示されるように、平均背甲長300μm以上のワムシの変異系統の作出において、実施例2-1の照射線量50GyのArイオンビーム(LET 189keV/μm)を照射したワムシからは1系統を樹立でき、選抜頻度は0.2%であった。また実施例2-2の照射線量75GyのArイオンビーム(LET 189keV/μm)を照射したワムシからは、9系統を樹立でき、選抜頻度は1.6%であった。また作出されたワムシの変異系統(TYA-18株)に属する個体の背甲長及び背甲幅の計測結果を表7に示す。なお、表7の識別番号1~20で示されるTYA-18株の個体は、実施例2-2より選抜された。
【0079】
【0080】
<実施例3>
[重イオンビームのワムシの有増殖性変異系統の作出誘導性の判定]
実施例1と同様の方法で、濃縮ワムシ培養水に、照射線量が100Gy、150Gy、200Gy、300Gy、400Gy、600GyのCイオンビーム(LET22.6keV/μm)を照射し、(区画数f/区画数F×100)(%)の平均値を算出した。またControlとして、Cイオンビームを照射しなかった濃縮ワムシ培養水も、Cイオンビームを照射した濃縮培養水に対し行った方法と同様の方法で、(区画数f/区画数F×100)(%)の平均値を算出した。各平均値を表8と
図8に示す。
【0081】
【0082】
表8、
図8において、21日目の平均値に着目すると、100Gy、150Gy、200Gy、300Gy、400Gy、または600GyのCイオンビームを照射したときに、平均値が15%以上90%以下の範囲内であった。従って、本発明のワムシの変異体の作出方法の重イオンビーム照射ステップで照射するCイオンビーム(LET=22.6keV/μm)としては、照射線量は100Gy、150Gy、200Gy、300Gy、400Gy、または600Gyとすることが好ましいことが分かった。
【0083】
<実施例3-1、3-2、3-3>
[第一の個体群の平均背甲長より7%大きい個体(平均背甲長が300μm以上のワムシ)の有増殖性変異系統の作出]
上記の実施例1と同様の方法で、L型能登島株のワムシ培養水を濃縮、再懸濁し、150倍濃縮ワムシ培養水を用意した。この濃縮ワムシ培養水を200μl PCRチューブに分注した。分注された200μl PCRチューブ内の濃縮ワムシ培養水に照射線量が異なるCイオンビーム(LET=22.6keV/μm)を照射した。Cイオンビーム照射後の濃縮ワムシ培養水を、それぞれ実施例3-1(Cイオンビームの照射線量150Gy)、実施例3-2(同200Gy)、実施例3-3(同300Gy)とした。
【0084】
実施例1-1と同様の方法で、培養ステップと選抜ステップとを行い、単一個体分離後培養されたワムシの背甲長を計測した。培養ステップの増殖力選抜で選抜された選抜well数は、実施例3-1、3-2、3-3でそれぞれ確認されたものを合わせて69であった。また選抜wellのうち背甲長300μm以上のワムシの存在を確認できたwell数は、実施例3-1、3-2、3-3でそれぞれ確認されたものを合わせて29であった。これらの29wellのワムシを用いて、平均背甲長300μm以上のワムシの変異系統を樹立した。なお、実施例3-1、3-2、3-3における培養ステップおよび選抜ステップの各wellは、それぞれいずれの実施例に対応するwellであるかが識別可能な状態にして、各ステップを実施した。実施例3-1、3-2、3-3を用いた平均背甲長300μm以上のワムシの変異系統の作出結果を表9に示す。
【0085】
【0086】
表9に示されるように、平均背甲長300μm以上のワムシの変異系統の作出において、実施例3-1の照射線量150GyのCイオンビーム(LET 22.6keV/μm)を照射したワムシからは1系統を樹立でき、選抜頻度は0.1%であった。また実施例3-2の照射線量200GyのCイオンビーム(LET 22.6keV/μm)を照射したワムシからは、2系統を樹立でき、選抜頻度は0.3%であった。実施例3-3の照射線量300GyのCイオンビーム(LET 22.6keV/μm)を照射したワムシからは、8系統を樹立でき、選抜頻度は1.2%であった。また作出されたワムシの変異系統(TYC-02株)に属する個体の背甲長及び背甲幅の計測結果を表10に示す。なお、表10の識別番号1~20で示されるTYC-02株の個体は、実施例3-3より選抜された。
【0087】
【0088】
実施例3-3より選抜され作出されたワムシの変異系統(TYC-01株、TYC-03株及びTYC-05株)に属する個体について、TYC-02株に属する個体と同様に任意の20個体から計測・算出された平均背甲長及び平均背甲幅を表11に示す。
【表11】
【0089】
<実施例4-1、4-2、4-3、比較例4-1、4-2>
[第一の個体群の平均背甲長より11%大きい個体(平均背甲長が340μm以上のワムシ)の有増殖性変異系統の作出]
上記の実施例1と同様の方法で、L型能登島株のワムシ培養水を濃縮、再懸濁し、150倍濃縮ワムシ培養水を用意した。この濃縮ワムシ培養水を200μl PCRチューブに分注した。分注された200μl PCRチューブ内の濃縮ワムシ培養水に照射線量が異なるArイオンビーム(LET=312keV/μm)を照射した。Arイオンビーム照射後の濃縮ワムシ培養水を、それぞれ実施例4-1(Arイオンビームの照射線量50Gy)、実施例4-2(同75Gy)、実施例4-3(同100Gy)、比較例4-1(同150Gy)、比較例4-2(同200Gy)とした。
【0090】
実施例1-1と同様の方法で、培養ステップと選抜ステップとを行い、単一個体分離後培養されたワムシの対数増殖期における背甲長を計測した。第一の増殖力選抜工程で選抜された選抜well数は、実施例4-1、4-2、4-3、比較例4-1、4-2でそれぞれ確認されたものを合わせて405であった。また選抜wellのうち背甲長340μm以上のワムシの存在を確認できたwell数は、実施例4-1、4-2、4-3、比較例4-1、4-2でそれぞれ確認されたものを合わせて44であった。なお、第一の個体群の対数増殖期の平均背甲長は305μmであったため、第一の個体群より平均背甲長が11%以上大きな個体を選抜するため、第二の増殖力選抜工程において、背甲長が340μm以上のワムシが存在する区画を選抜した。これらの44wellのワムシを用いて、平均背甲長340μm以上のワムシの変異系統を樹立した。なお、実施例4-1、4-2、4-3、比較例4-1、4-2における培養ステップおよび選抜ステップの各wellは、それぞれいずれの実施例、比較例に対応するwellであるかが識別可能な状態にして、各ステップを実施した。実施例4-1、4-2、4-3、比較例4-1、4-2を用いた平均背甲長340μm以上のワムシの変異系統の作出結果を表12に示す。
【0091】
【0092】
表12に示されるように、平均背甲長340μm以上のワムシの変異系統の作出において、実施例4-1の照射線量50GyのArイオンビーム(LET 312keV/μm)を照射したワムシからは2系統を樹立でき、選抜頻度は0.2%であった。また実施例4-2の照射線量75GyのArイオンビーム(LET 312keV/μm)を照射したワムシ及び実施例4-3の照射線量100GyのArイオンビーム(LET 312keV/μm)を照射したワムシからは、それぞれ1系統を樹立でき、選抜頻度は0.1%であった。一方、比較例4-1、4-2では所望の変異系統を作出できなかった。また作出されたワムシの変異系統(TYA-41株)に属する個体の背甲長及び背甲幅の計測結果を表13に示す。なお、表13の識別番号1~20で示されるTYA-41株の個体は、実施例4-1より選抜された。
【0093】
【0094】
実施例4-1より選抜され作出されたワムシの変異系統(TYA-43株)に属する個体、実施例4-2より選抜され作出されたワムシの変異系統(TYA-57株)に属する個体及び実施例4-3より選抜され作出されたワムシの変異系統(TYA-65株)に属する個体について、TYA-41株に属する個体と同様に任意の20個体から計測・算出された平均背甲長及び平均背甲幅を表14に示す。
【表14】
【0095】
表3に示した実施例1-1のTYA-03株に属する各個体の背甲長と、表13に示した実施例4-1のTYA-41株に属する各個体の背甲長とを比較すると、実施例4-1のワムシの背甲長の方が大きく、それらの平均背甲長についても培養を対数増殖期までとした実施例4-1の方が50μmほど大きかった。また、表14に示す通り、培養を対数増殖期までとした実施例4において、平均背甲長が約344~353μmと、第一の個体群の平均背甲長に対して、約12~16%大型化したワムシの変異系統を樹立することができた。
【0096】
<実施例5-1、5-2、5-3、5-4、5-5、5-6>
[第一の個体群の平均背甲長より11%大きい個体(平均背甲長が340μm以上のワムシ)の有増殖性変異系統の作出]
上記の実施例1と同様の方法で、L型能登島株のワムシ培養水を濃縮、再懸濁し、150倍濃縮ワムシ培養水を用意した。この濃縮ワムシ培養水を200μl PCRチューブに分注した。分注された200μl PCRチューブ内の濃縮ワムシ培養水に照射線量が異なるCイオンビーム(LET=22.6keV/μm)を照射した。Cイオンビーム照射後の濃縮ワムシ培養水を、それぞれ実施例5-1(Cイオンビームの照射線量100Gy)、実施例5-2(同150Gy)、実施例5-3(同200Gy)、実施例5-4(同300Gy)、実施例5-5(同400Gy)、実施例5-6(同600Gy)とした。
【0097】
実施例1-1と同様の方法で、培養ステップと選抜ステップとを行い、単一個体分離後培養されたワムシの対数増殖期における背甲長を計測した。第一の増殖力選抜工程で選抜された選抜well数は、実施例5-1、5-2、5-3、5-4、5-5、5-6でそれぞれ確認されたものを合わせて804であった。また選抜wellのうち背甲長340μm以上のワムシの存在を確認できたwell数は、実施例5-1、5-2、5-3、5-4、5-5、5-6でそれぞれ確認されたものを合わせて133であった。これらの133wellのワムシを用いて、平均背甲長340μm以上のワムシの変異系統を樹立した。なお、実施例5-1、5-2、5-3、5-4、5-5、5-6における培養ステップおよび選抜ステップの各wellは、それぞれいずれの実施例に対応するwellであるかが識別可能な状態にして、各ステップを実施した。実施例5-1、5-2、5-3、5-4、5-5、5-6を用いた平均背甲長340μm以上のワムシの変異系統の作出結果を表15に示す。
【0098】
【0099】
表15に示されるように、平均背甲長340μm以上のワムシの変異系統の作出において、実施例5-1の照射線量100GyのCイオンビーム(LET 22.6keV/μm)を照射したワムシからは10系統を樹立でき、選抜頻度は4.2%であった。また実施例5-2の照射線量150GyのCイオンビーム(LET 22.6keV/μm)を照射したワムシからは、6系統を樹立でき、選抜頻度は2.5%であった。実施例5-3の照射線量200GyのCイオンビーム(LET 22.6keV/μm)を照射したワムシからは、5系統を樹立でき、選抜頻度は2.1%であった。実施例5-4の照射線量300GyのCイオンビーム(LET 22.6keV/μm)を照射したワムシからは、8系統を樹立でき、選抜頻度は3.3%であった。実施例5-5の照射線量400GyのCイオンビーム(LET 22.6keV/μm)を照射したワムシからは、8系統を樹立でき、選抜頻度は3.3%であった。実施例5-6の照射線量600GyのCイオンビーム(LET 22.6keV/μm)を照射したワムシからは、1系統を樹立でき、選抜頻度は0.4%であった。また作出されたワムシの変異系統(TYC-221株)に属する個体の背甲長及び背甲幅の計測結果を表16に示す。なお、表16の識別番号1~20で示されるTYC-221株の個体は、実施例5-6より選抜された。
【0100】
【0101】
実施例5-6で作出したワムシの変異系統(TYC-221株)に属する任意の個体をルゴール染色し、顕微鏡を用いてデジタルカメラで撮影した写真を
図9Bに示す。この個体の背甲長は425μmであった。一方、第一の個体群のワムシに重イオンビームを照射せずに対数増殖期まで培養した任意の個体についても同様に染色し、撮影した写真を
図9Aに示す。この個体の背甲長は301μmであった。本発明の方法により、大型化したワムシの変異系統を作出できることを確認できた。
【0102】
実施例5-1~5-6より選抜され作出されたワムシの変異系統に属する個体について、TYC-221株に属する個体と同様に任意の20個体から計測・算出された平均背甲長及び平均背甲幅を表17に示す。
【0103】
【0104】
表10に示した実施例3-3のTYC-02株に属する各個体の背甲長と、表16に示した実施例5-6のTYC-221株に属する各個体の背甲長とを比較すると、実施例5-6のワムシの背甲長の方が大きく、それらの平均背甲長についても培養を対数増殖期までとした実施例5-6の方が45μmほど大きかった。また、表17に示す通り、培養を対数増殖期までとした実施例5において、平均背甲長が約340~378μmと、第一の個体群の平均背甲長に対して、約11~24%大型化したワムシの変異系統を樹立することができた。
【0105】
<実施例6-1、6-2>
[第一の個体群の平均背甲長より11%大きい個体(平均背甲長が340μm以上のワムシ)の有増殖性変異系統の作出]
上記の実施例1と同様の方法で、L型能登島株のワムシ培養水を濃縮、再懸濁し、150倍濃縮ワムシ培養水を用意した。この濃縮ワムシ培養水を200μl PCRチューブに分注した。分注された200μl PCRチューブ内の濃縮ワムシ培養水に照射線量が異なるCイオンビーム(LET=22.6keV/μm)を照射した。Cイオンビーム照射後の濃縮ワムシ培養水を、それぞれ実施例6-1(Cイオンビームの照射線量200Gy)、実施例6-2(同300Gy)とした。
【0106】
実施例1-1と同様の方法で、培養ステップと選抜ステップとを行い、単一個体分離後培養されたワムシの対数増殖期における背甲長を計測した。第一の増殖力選抜工程で選抜された選抜well数は、実施例6-1、6-2でそれぞれ確認されたものを合わせて122であった。また選抜wellのうち背甲長340μm以上のワムシの存在を確認できたwell数は、実施例6-1、6-2でそれぞれ確認されたものを合わせて60であった。これらの60wellのワムシを用いて、平均背甲長340μm以上のワムシの変異系統を樹立した。なお、実施例6-1、6-2における培養ステップおよび選抜ステップの各wellは、それぞれいずれの実施例に対応するwellであるかが識別可能な状態にして、各ステップを実施した。実施例6-1、6-2を用いた平均背甲長340μm以上のワムシの変異系統の作出結果を表18に示す。
【0107】
【0108】
作出されたワムシの変異系統(TYC-78株)に属する個体の背甲長及び背甲幅の計測結果を表19に示す。なお、表19の識別番号1~20で示されるTYC-78株の個体は、実施例6-1より選抜された。
【0109】
【0110】
実施例6-1及び6-2より選抜され作出されたワムシの変異系統に属する個体について、TYC-78株に属する個体と同様に任意の20個体から計測・算出された平均背甲長及び平均背甲幅を表20に示す。
【0111】