(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-07
(45)【発行日】2023-06-15
(54)【発明の名称】筒状ファブリックを用いたシール材
(51)【国際特許分類】
F16J 15/3284 20160101AFI20230608BHJP
F16J 15/06 20060101ALI20230608BHJP
F16J 15/22 20060101ALI20230608BHJP
F16J 15/10 20060101ALI20230608BHJP
【FI】
F16J15/3284
F16J15/06 L
F16J15/22
F16J15/10 W
(21)【出願番号】P 2022061443
(22)【出願日】2022-03-31
【審査請求日】2022-06-17
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】596116363
【氏名又は名称】三和テクノ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】517052792
【氏名又は名称】ライズテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100185258
【氏名又は名称】横井 宏理
(74)【代理人】
【識別番号】100101085
【氏名又は名称】横井 健至
(74)【代理人】
【識別番号】100134131
【氏名又は名称】横井 知理
(72)【発明者】
【氏名】福井 和郎
(72)【発明者】
【氏名】庄司 進
【審査官】山田 康孝
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-090022(JP,A)
【文献】特許第5255168(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/324-15/3296
F16J 15/00-15/14
F16J 15/16-15/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状ファブリックと、筒状ファブリックを支持する剛性の支持部材とを少なくとも有したシール材であって、
筒状ファブリックは、伸縮性とその厚みによる反発弾性とを備えており、
筒状ファブリックは、被シール部材との当接によって圧縮されうるように、被シール材と当接する部位の裏面に配された支持部材を被覆しながら、支持部材に固定されて
おり、
前記シール材は、環状のシール材であり、
筒状ファブリックの伸縮性は、支持部材の孔の内周から外周に該筒状ファブリックを伸長しうる伸縮性を有するものであって、
支持部材には、筒状ファブリックが内周に配される孔を有し、
筒状ファブリックは、非伸長時の外周長O
L
が支持部材の孔の内周長I
L
と同等もしくはそれ以下であって、
筒状ファブリックは、支持部材の内周面と被シール部材との当接箇所を被覆するように支持部材の孔の内周面に筒状ファブリックの外周面が配されていることを特徴とする、シール材。
【請求項2】
筒状ファブリックは、反発弾性及び伸縮性を有する不織布、マルチフィラメントからなる糸を用い反発弾性及び伸縮性を有する筒状織編物、短繊維の紡績糸を用い反発弾性及び伸縮性を有する筒状織編物のいずれかを用いた筒状ファブリックであり、
支持部材は、被シール部材との当接によって反発弾性を有する筒状ファブリックが圧縮されるときに、筒状ファブリックの圧縮力により支持部材が塑性変形しないだけの剛性を有していること、を特徴とする請求項1
に記載のシール材。
【請求項3】
固体粒子の侵入もしくは漏出を抑止するためのシール材であって、
筒状ファブリックは、
その繊維径φsが、固体粒子の平均粒子径φrに対し4×φr>φsの関係を満たす繊維を少なくとも含み、
支持部材の孔の内周面に接した時の伸び率Frと、被シール部材の当接もしくは圧接によりファブリックが圧縮される圧縮率Crとの関係が、Fr≦Crとなること
を特徴とする請求項1
又は2に記載のシール材。
【請求項4】
筒状ファブリックは、支持部材の内周部との当接部位からはみ出した箇所で粘着剤、接着剤、熱融着、熱溶着により支持部材と固定しているものであることを特徴とする、請求項
1~3のいずれか1項に記載のシール材。
【請求項5】
筒状ファブリックは、支持部材の内周部との当接部位からはみ出した部位が支持部材に巻きつけられるようにして支持部材の外周部まで伸長させた状態で、支持部材の外周部に嵌合するリング状固定部材によって挟持されることによって、支持部材と固定されていること、を特徴とする、請求項
1~3のいずれか1項に記載のシール材。
【請求項6】
筒状ファブリックは、織編物であって、
その構成糸が複数の長繊維からなるマルチフィラメント糸あるいは複数の短繊維からなる紡績糸のいずれかの糸であって、かつ、これらの糸がウーリー加工された糸もしくは甘撚りされた糸のいずれかであること、を特徴とする、請求項1~
5のいずれか1項に記載のシール材。
【請求項7】
支持部材は環状で内部に空洞を備え、環状の一部に外周から内周まで達するスリットが設けられていること、を特徴とする請求項
1~6のいずれか1項に記載のシール材。
【請求項8】
支持部材に、スリットの幅を拡縮させる調整機構を備えた、請求項
7に記載のシール材
。
【請求項9】
筒状ファブリックをスリットを備えた支持部材の一端から挿通し、支持部材の環状部を挿通させた筒状ファブリックで被覆すること、を特徴とする請求項
1~8のいずれか1項に記載のシール材。
【請求項10】
筒状ファブリックを支持部材上に多層に重ね配したものであること、を特徴とする請求項1~
9のいずれか1項に記載の環状シール材。
【請求項11】
筒状ファブリックには、摺動性滑剤が含浸もしくは塗布されていること、を特徴とする請求項1~
10のいずれか1項に記載のシール材。
【請求項12】
冷却用の流体を供給するポンプを備え、オイル、水、空気、ガスのいずれかの流体を筒状ファブリックに向けて供給できること、を特徴とする請求項1~11のいずれか1項に記載のシール材。
【請求項13】
ポンプの作動量は、温度センサの検知信号に基づいて制御されるものであること、を特徴とする請求項
12に記載のシール材
【請求項14】
請求項1~
13のいずれか1項に記載のシール材を用いた輸送機器。
【請求項15】
請求項1~
13のいずれか1項に記載のシール材を用いた搬送機器。
【請求項16】
請求項1~
13のいずれか1項に記載のシール材を用いた工作機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この出願は、非回転体及び回転体の軸の外周面をシールする筒状ファブリックを用いたシール材、とりわけ筒状ファブリックを用いた環状の環状シール材に関する。たとえば、
高回転な軸部などの発熱しやすい機構を備えた機器、たとえば自動車、モータバイク、自転車、アミューズメント乗り物、モータボート、鉄道車両、船舶、航空機、宇宙船や人工衛星などの乗り物等の搬送機器、ベルトコンベアなど直動装置などの搬送機器、工作機、ロボット、生産設備、画像処理装置、半導体製造装置、チップマウンターなどの産業機械、などに適用できる、環状のシール材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の軸シール用シール材としては、ゴムなどで形成されているシール材、発泡体からなるシール材、繊維と弾性材料が一体化されたシール材、パイルなどのファイバーからなるシール材が提案されている。
【0003】
ところで、粉体を取り扱う回転装置では、回転体の回転軸の端部から粉体が外部に漏洩することは次のようなトラブルを招来する。すなわち、粉体の漏洩は、回転軸の軸受けへの粉体侵入による軸受けのロック及び破損、そして、駆動や電気基板やなどに付着し装置の誤動作を生じさせ、早期のメンテナンスや寿命低下をきたすことがある。さらに装置の外に漏洩すると噴煙となり周辺を汚染させてしまう。
【0004】
そこで、従来の粉体が外部に漏洩しないようにシールするための軸シール材としては、ゴムシートからの抜き加工や金型成形から形成されるゴム系及びエラストマーのシール部材や、抜き加工から形成されるスポンジ系のシール部材あるいはフェルト系のシール部材、パイル織編物を用いて形成されるパイル織編物からなる軸シール材が提案されている。
【0005】
具体的には、たとえば、布材に弾性材料を含浸させたり、弾性材料中に短繊維を混ぜ込んで一体成形することで、繊維及び弾性材料が一体化されたシール材の提案がある(特許文献1参照。)。また、回転軸とともに回転しないように、内周面が円形および外周面が非円形の異形である軸シール材が提案されている(特許文献4参照。)。
【0006】
また、本願発明者らは内周側にカットパイルの織編物を配し、円筒状の支持部材が外周から支持する円筒状軸シール材を提案している(特許文献2、3参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2017-57891号公報
【文献】特開2008-26728号公報
【文献】特許5255168号公報
【文献】実用新案登録第3139136号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
もっとも、ゴム系及びエラストマーのシール部材は、粘弾性を有しており摩擦係数が高い。そこで、摺動部のシール部材として用いると、回転体との摺動による温度上昇が高くなる点と高負荷で長期間使用するとゴムのクリープ変形が生じ軸への圧縮力が低下し、シール性が低下する問題がある。
【0009】
スポンジ系の軸シール部材は、シール部材中に気泡の孔を有しており、軸孔を有した形状で圧縮させて使用することが一般的である。軸長手方向にはシール部材を取付けるための壁などがあり圧縮が容易である対し軸中心部へのシールに必要な圧縮を生じさせることが難しく無理に圧縮させようとするとスポンジが歪んでしまい逆にシール性能が低下する問題がある。さらに、切断された軸孔の内面での軸中心部への圧縮が十分に得られないため気泡の孔の中に塵埃や粉体が取り込まれ目詰まりを発生させ、シール性能を低下させてしまう。
【0010】
フェルト系のシール部材では、ファイバーを圧縮して製作したフェルトが使用されている。そして、一般的な不織布系のシール部材は繊維自体が緻密に構成され伸縮性を有していないため軸に挿入する孔は軸とのシールに必要な軸中心への圧縮が十分に得られ難い。また、打ち抜き加工で所望する形状を得られるものの、フェルトの切断面は方向性の無いばらけた状態の繊維であるため、繊維の隙間から塵埃や粉体が侵入し、シール性能が低下しやすいという問題がある。さらにはフェルト材を用いた場合には、回転軸に対し当接が強いので、シール材が供回りしてしまう。
【0011】
このように、従来のシール材であるゴム系では摺動性の問題があり、その対応として繊維とゴム系が一体化されたシール材、摺動部材であるフッ素系の素材を使用したシール材などの種々の対応が検討されているものの、結果としてコストアップとなってしまっている。また、スポンジ系やフェルト系ではシールに必要な軸中心方向への荷重が得られ難くシール性に難がある。
【0012】
また、パイル系のシール材では侵入を阻止するにはパイルの斜毛方向性を正しく制御することが必要となることから、パイルの向きを好ましく保つための製造方法やその使用方法には、さらに調整が必要であり、十分なシール性を得るためにはさらなる工夫が待たれている。
【0013】
そこで、本発明は、回転軸の円筒部材におけるシール以外にも、直動ガイドのレールのような異形断面の表面をスライドさせる機器のシールにも適用する構造とすることができ、粉体や塵埃の侵入あるいは漏出を防止できるシール材であること、また、省資源のシール材であって、部材の交換のみで繰り返し再利用できるといったリサイクル性にも優れた新規なシール構造を提供すること、を目的としている。
また、パイルとは異なり、毛羽立ちというシール材の素材に内在されたリスクを避けつつも、パイルと同等以上のシール性を備えることである。
また、過熱や摩耗、破損を避けて長期に安定したシール性を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の課題を解決するための第1の手段は、筒状ファブリックと、筒状ファブリックを支持する剛性の支持部材とを少なくとも有したシール材であって、筒状ファブリックは、伸縮性とその厚みによる反発弾性とを備えており、筒状ファブリックは、被シール部材との当接によって圧縮されうるように、被シール材と当接する部位の裏面に配された支持部材を被覆しながら、支持部材に固定されていることを特徴とする、シール材である。
【0015】
前記シール材は、環状のシール材であり、筒状ファブリックの伸縮性は、支持部材の孔の内周から外周に該ファブリックを伸長しうる伸縮性を有するものであって、支持部材には、筒状ファブリックが内周に配される孔を有し、筒状ファブリックは、非伸長時の外周長OLが支持部材の孔の内周長ILと同等もしくはそれ以下であって、筒状ファブリックは、支持部材の内周面と被シール部材との当接箇所を被覆するように支持部材の孔の内周面に筒状ファブリックの外周面が配されていること、を特徴とする、第1の手段に記載の環状のシール材である。
【0016】
なお、本発明にいう環状には、円、楕円、以外いも、異形断面でリングとなったものが含まれてる。すなわち、支部部材の内部に孔が空いていることで環状となるものであって、孔には回転軸や直動ガイドのレールなどが挿通されることから、その空洞としての内周面が備わっている支持部材を用いたシール材は、ここでいう環状のシール材である。
【0017】
筒状ファブリックは、反発弾性及び伸縮性を有する不織布、マルチフィラメントからなる糸を用い反発弾性及び伸縮性を有する筒状織編物、短繊維の紡績糸を用い反発弾性及び伸縮性を有する筒状織編物のいずれかを用いた筒状ファブリックであり、支持部材は、被シール部材との当接によって反発弾性を有する筒状ファブリックが圧縮されるときに、筒状ファブリックの圧縮力により支持部材が塑性変形しないだけの剛性を有していること、を特徴とする第1又は第2の手段に記載のシール材である。
【0018】
固体粒子の侵入もしくは漏出を抑止するためのシール材であって、筒状ファブリックは、その繊維径φsが、固体粒子の平均粒子径φrに対し4×φr>φsの関係を満たす繊維を少なくとも含み、支持部材の孔の内周面に接した時の伸び率Frと、被シール部材の当接もしくは圧接によりファブリックが圧縮される圧縮率Crとの関係が、Fr≦Crとなること、を特徴とする第1~第3のいずれか1の手段に記載のシール材である。
【0019】
筒状ファブリックは、支持部材の内周部との当接部位からはみ出した箇所で粘着剤、接着剤、熱融着、熱溶着により支持部材と固定しているものであることを特徴とする、第2~第4のいずれか1の手段に記載のシール材である。
【0020】
筒状ファブリックは、支持部材の内周部との当接部位からはみ出した部位が支持部材に巻きつけられるようにして支持部材の外周部まで伸長させた状態で、支持部材の外周部に嵌合するリング状固定部材によって挟持されることによって、支持部材と固定されていること、を特徴とする、第2~第4のいずれか1の手段に記載のシール材である。
【0021】
筒状ファブリックは、織編物であって、その構成糸が複数の長繊維からなるマルチフィラメント糸あるいは複数の短繊維からなる紡績糸のいずれかの糸であって、かつ、これらの糸がウーリー加工された糸もしくは甘撚りされた糸のいずれかであること、を特徴とする、第1~第6のいずれか1の手段に記載のシール材である。
【0022】
支持部材は環状で内部に空洞を備え、環状の一部に外周から内周まで達するスリット(割り)が設けられていること、を特徴とする第2~第7のいずれか1の手段に記載のシール材である。
【0023】
支持部材に、スリットの幅を拡縮させる調整機構を備えた、第8の手段に記載のシール材である。
【0024】
筒状ファブリックをスリットを備えた支持部材の一端から挿通し、支持部材の環状部を挿通させた筒状ファブリックで被覆すること、を特徴とする第2~第9のいずれか1の手段に記載のシール材である。
【0025】
筒状ファブリックを支持部材上に多層に重ね配したものであること、を特徴とする第1~第10のいずれか1の手段に記載の環状シール材である。
【0026】
筒状ファブリックには、摺動性滑剤が含浸もしくは塗布されていること、を特徴とする第1~第11のいずれか1の手段に記載のシール材である。
【0027】
冷却用の流体を供給するポンプを備え、オイル、水、空気、ガスなどのいずれかの流体を筒状ファブリックに向けて供給できること、を特徴とする第1~第12のいずれか1の手段に記載のシール材である。
【0028】
ポンプの作動量は、温度センサの検知信号に基づいて制御されるものであること、を特徴とする第13の手段に記載のシール材である。
【0029】
その第15の手段は、第1~14のいずれか1の手段に記載のシール材を用いた輸送機器である。
【0030】
その第16の手段は、第1~14のいずれか1の手段に記載のシール材を用いた搬送機器である。
【0031】
その第17の手段は、第1~14のいずれか1の手段に記載のシール材を用いた工作機器である。なお、ここでいう工作機器とは、金属加工機械、非金属加工機等の産業機器として使用される物を加工する機器をいう。
【発明の効果】
【0032】
本発明の手段を用いることにより粉体や塵埃の侵入を防止でき、異形断面の表面の軸部材においても粉体や塵埃の侵入を防止できる。シール材の構成部材がシンプルで省資源であるから、コストもアップせずにシール材を適用できる。また、種々の場面で適用しやすいシール構造を簡易に実現できる。
【0033】
筒状ファブリックのみを脱着して交換することが可能であることから、シール材全体を交換するのではなく、消耗部品のみを交換することができ、経済的であり、環境負荷も低減することができる。さらに、接着剤を使用せずとも、支持部材の外周部で固定部材と挟持することによって筒状ファブリックの端部を固定することができるので、分解も容易く、リサイクルも容易にできる。
【0034】
シール材の筒状ファブリックに摺動性滑剤を付与すると、これにより筒状ファブリックの発熱や摩耗が低減されるので、筒状ファブリックの寿命が伸びることから、シール材の耐久性が向上し、シール性を長期に保持しやすくなる。また、シール性を高めることも容易となる。また、筒状ファブリックの交換寿命も伸ばすことができる。
【0035】
筒状ファブリックに冷却用の流体を供給することで、高速回転する部位であるシール部材の当接箇所を冷却することができるので、過熱によるトラブルを低減することができる。流体が空気であっても、筒状ファブリックは隙間を通過させることができるので、水やオイルに限らず、送風によっても冷却ができる。また、温度センサによってポンプの作動量をフィードバック的に制御しうるので、効率化、最適化を図ることができる。
【0036】
輸送機器、搬送機器、工作機器では、一般的に内部に直動ガイドや高速回転する回転軸を備えることから、発熱も多く、外部からの異物の侵入が起こりやすい。そこで、異物侵入を阻止するように本発明のシール材を適用することによって、これらの機器の内部を清浄に保ち、安定的な操業を維持しやすくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図1】
図1に本発明の軸シールの構成例を示す。
図1(a)は、円筒状の支持部材の内周壁に配した伸縮性の筒状ファブリックを折り曲げて、支持部材の両円筒面へ両面テープで貼付けた例である。左から順に、A-A断面図、左側面図、正面図、右側面図である。
図1(b)は、円筒状の支持部材の内周壁に配した伸縮性の筒状ファブリックを、支持部材の周囲に外周部まで巻きつけて、支持部材の外周にはめ込む2つのリング状固定部材で外周部の筒状ファブリックの折り返し部分を挟持した例である。左から順に、B-B断面図、左側面図、正面図、右側面図である。
図1(c)は鍔を有する円筒状の支持部材の内周壁に配した伸縮性の筒状ファブリックを、支持部材を被覆するように外周部まで巻きつけ、支持部材の外周部に嵌め合わせされるリング状の固定部材で、外周部の筒状ファブリックを挟持した例である。左から順に、C-C断面図、左側面図、正面図、右側面図である。
図1(d)はスリット状の割りが設けられた支持部材を筒状ファブリックを被覆した形態の例である。左から順にD-D断面図、左側面図、正面図である。
【
図2】本シール材による粉体等の侵入防止の原理についての模式図である。
図2(a)は、断面円形のマルチフィラメント糸でできた筒状ファブリックの非伸長、非圧縮時の形状を示す。
図2(b)は、軸シールと当接することで上下方向に加圧されて、筒状フィラメントが楕円に押し拡がり、各構成糸間の隙間が埋まっている様子を示した図である。
図2(c)は(b)の状態でフィラメントが隙間なく並ぶ様子を示す
図2(b)の破線で囲ったaの部分を拡大した図である。
図2(d)は、侵入する粒子径と、繊維径と被シール部材の面の関係性から、シールするために必要な繊維径を求めるための原理を説明するための図である。
【
図3】
図3(a)はトリコット編みの筒状ファブリックの組織の例である。
図3(b)は(a)の断面を示す。
図3(c)は、筒状ファブリックを伸長させながら支持部材に取り付けた際の厚みt1を示す図である。
図3(d)は、筒状ファブリックが支持部材と被シール部材に挟持されて圧縮された状態のときの、厚みt2を示す図である。
【
図4】
図1(a)の本発明の軸シール材の製造方法の例を示している。
【
図5】
図1(b)の、左右の固定部材のリングをシール材の製造方法の例を示す。
【
図6】
図1(c)のフランジを備えた軸シール材の製造方法の例を示す。
【
図7】異形断面形状のレール軸に適用する例を示す。
図7(a)はレール状の断面形状の軸に適用する軸シール材の例であり、
図7(b)は六角形の断面形状の軸に適用する軸シール材の例であり、
図7(c)は四角形の断面形状の軸に適用する軸シール材の例であり、
図7(d)は軸が段差を有した軸の断面図で凹み部の軸に対応した軸シール材の例である。
【
図8】
図8は本軸シール材を用いた粉体の漏れ防止用とした、回転軸への軸シール材の組付例例である。
図8(a)は支持部材が平板からなる軸シール材で軸受けと併用して使用される粉体の漏れ防止用の構成の例であり、
図8(b)は2つの固定部材で支持部材に筒状ファブリックが支持される軸シール材の例であり、
図8(c)は鍔を有する軸シール材の使用例である。
【
図9】粉体漏れ試験に用いた加振器の説明図である。
【
図10】各ファブリックでの所定面積での圧縮率と反発荷重の関係である反発荷重曲線図である。
【
図11】軸を回転させて評価する評価装置の説明図である。
【
図12】筒状ファブリックの外周長の測定方法の説明図である。
【
図13】流体の漏洩試験に用いた試験機器の説明図である。
【
図14】本発明の軸シール材の他の適用例である。
図14(a)はファブリックに液体を供給するシステムの構成例である。
図14(b)は、軸シール材が軸受けを支持する保持部材などに着脱可能な構成の例である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
本発明の実施の形態について、適宜図面及び表を参照しつつ以下に説明する。
図1の(a)~(d)の態様のシール材1は、いずれも、円筒状の支持部材3の内周に配される軸とのシールのために、円筒状支持部材3の内周から両側面(側面とは軸方向からみた面のことであり、円筒形状の面である。)上に、反発弾性と伸縮性のある筒状ファブリック2を折り返しながら配したものである。
【0039】
図1(a)の態様は、円筒状の支持部材3の内周壁に配した伸縮性の筒状ファブリック2を折り曲げて、支持部材3の両側面上にへ両面テープで貼付けたシール材1の例である。
【0040】
図1(b)の態様は、円筒状の支持部材3の内周壁に配した伸縮性の筒状ファブリック2を、支持部材3の周囲に外周部まで巻きつけて、支持部材3の外周にはめ込む2つのリング状固定部材4で外周部の筒状ファブリック2の折り返し部分を挟持したシール材1の例である。筒状ファブリック2の両側の折り返された端部をそれぞれの固定部材4のリングで挟む態様である。
【0041】
支持部材3の内周部分から左右にはみ出したファブリック2を支持部材3に巻きつけるように左右で折り返して支持部材3の外周部まで巻きつけた場合には、2つのリングをそ左右の外周からそれぞれ挿し入れて、外周の抑えとする。すると、接着剤を使わずとも、抑えることで、リサイクルや交換が簡単にでき、双方からリングで押し込むので、折り返したファブリックの向きに逆らうことなく左右のリングで抑えることができる。
【0042】
図1(c)の態様は鍔5を有する円筒状の支持部材3の内周壁に配した伸縮性の筒状ファブリック2を、支持部材3をフランジ状の鍔5も含めて被覆するように外周部まで巻きつけ、支持部材3の外周部に嵌め合わせされるリング状の固定部材4で、外周部の筒状ファブリックを挟持したシール材1の例である。固定部材4は、鍔5により軸方向に抜け出さないようになっている。
【0043】
図1(d)の態様はスリット状の割りが設けられた支持部材3を筒状ファブリック2で被覆した形態のシール材1の例である。支持部材3に割り6が設けられており、支持部材3を拡径させることができるので、この割れ6から筒状のファブリック2を服の袖を通すように挿し通すものである。
剛性体の支持部材3を広げて取り付けると、その反力が生じるので、回転体の溝部に接するように取付けられることとなる。すなわち、支持部材3の反力で接している筒状ファブリック2が軸と当接するように圧縮させることとなるので、内周側に付勢されたファブリック2が、支持部材3が割れているにもかかわらず、軸に当接されることとなる。従来は、割れた支持部材では拡径されるように力が逃げてしまうので、シール材と軸との当接が困難だったが、この態様であれば、割れる支持部材構造という簡易な取り付けの便宜性に配慮しつつも、シール材1による清掃や粉体等の侵入を抑止することができる。そこで、軸の溝や直動システム用のボールネジの溝などにも好適に適用できる。
【0044】
次に、マルチフィラメント7からなる筒状ファブリック2を用いたシール材1での粉体の侵入抑止の原理について説明する。
図2(a)の断面円形のマルチフィラメントが、
図2(b)では、軸シールと当接する際に上下方向に加圧されて楕円に押し拡がって隙間が埋まる様子を示している。
【0045】
複数の繊維8からなるマルチフィラメント糸7は、非伸長時は隣接の糸同士で接しているも、フィラメントとフィラメントの間には隙間がある。マルチフィラメン糸7は、シール材使用時には、被シール部材に向かって加圧圧縮される。すると、フィラメントが楕円に押しつぶされて、各繊維8が加圧方向に対し直交する方向の空隙に押し広がる。ある程度広がると、今度は、近接もしくは接している糸により広がりが阻害され、糸を構成している繊維同士が細密になるように繊維8が互いに配列され、繊維間及び被シール部材との空隙が小さくなる。
【0046】
そして、
図2(d)に示すように、所定の荷重が加えられた時には繊維同士が密の状態となり、繊維と粒子及び被シール部材の面との関係において、繊維半径:Rsと、侵入しようとする粒子半径Rr、及び被シール部材の面で三平方根の定理が成り立つ条件が形成される。すなわち、(Rs+Rr)
2=Rs
2+(Rs-Rr)
2となるから、粒子半径と繊維半径の関係は4Rr=Rsとなる。これより粒子半径Rsの粒子の侵入を防止するための繊維径はRs<4Rrといえる。
【0047】
すると、漏れもしくは侵入を防止するための繊維径は侵入しようとする粒子径:φrの4倍以下の繊維径:φsを有する繊維、もしくは含んだファブリックに構成することが必要であり、ファブリック素材(繊維部材)に荷重を加え繊維が密になる条件で粒子の侵入を防止することができることとなる。本発明はこうした原理に基づいて発明を成したシール材及び軸シール材である。
【0048】
上述の原理に基づき本発明のシール材1は、筒状ファブリック2としてマルチフィラメント糸7や複数の繊維からなる糸を用いたファブリック、複数の繊維を有するファブリックを用い繊維の広がりを規制する構成や構造の手段で達成することができる。
【0049】
そして、広がりが規制されるシール部材1の構造としては筒状織物、筒状編物の織編物からなる筒状ファブリック2、もしくは複数の繊維の絡みからなる筒状不織布を用い筒状ファブリック2の外周を規制する手段として、筒状ファブリック2を支持部材3の表面に固定するための固定部材4を適宜備えることで達成することができる。
【0050】
織編物からなる筒状ファブリック2では、使用する糸が、複数の繊維8から成る糸7であって、さらに繊維が密に配列し易いように、甘撚された糸やウーリー加工が施された糸を用いることが好適である。
【0051】
そして、圧接荷重により糸を構成する繊維が密になりやすく、空隙を小さくすることができるので、侵入あるいは漏出する粉体、塵埃などを的確にシールすることができる。
【0052】
さらに、撥水性の繊維や撥水加工を用いることで、通気性を有しつつも、液の侵入を防止でき、さらには、防水加工、オイル、グリスなどの筒状ファブリック表面への処理や滑剤の塗布を行うことで摺動性を有して繊維への液の浸入を防止しすることもできる。
【0053】
編物からなる筒状ファブリック2においては、ループの伸縮にてループ同士が接するように構成されていることが好ましく、さらにはループの伸縮にて糸が盛り上がった状態がより好ましい。
【0054】
織物の筒状ファブリック2においても経糸が少なくとも糸同士が接する領域を形成することが好ましく、さらには伸縮性を有する緯糸の収縮力で経糸同士の密着部で膨らんだ状態がより好ましい。
【0055】
このように糸が密着した構成の織編物の筒状ファブリック2を本シール材1のシール部材として用いることが好ましい。
【0056】
本シール材1を軸シール材として構成する場合は、剛性を有する支持部材3の孔10の周面をシール部材である筒状ファブリック2で被覆する。すると、筒状ファブリック2は、外周へ一方的に拡がっていかず、支持部材3の内周に規制されて伸長されることとなる。この状態で、支持部材3の孔10の中に被シール部材(たとえば回転軸。)を挿入すると、筒状ファブリック2が被シール部材と支持部材3の間で圧縮される。筒状ファブリックに圧接荷重が加わるので、
図2(b)のように、繊維が密に形成されることとなる。そこで、粉体の侵入や漏れを防止することができることとなる。
【0057】
また、筒状ファブリック2は支持部材3の孔10の内部で皺やファブリックの重なりにより段差が生じないように形成することが重要である。そこで、筒状ファブリック2は支持部材3の孔10に均一に接するようにするため、筒状ファブリックの外周長:OLと筒状ファブリックが設けられる支持部材の孔内周長:ILの関係は、OL≦ILの関係を満たすようにするとよい。
【0058】
すなわち、支持部材の径より筒状ファブリックの径が過度に大きいと、ファブリックが皺になってしまい、シールするはずが、隙間がかえって生じてしまうこととなる。両者がほぼ同等な径であれば、皺にならないかぎり、圧縮が適切にできる。皺にならない範囲であれば、同等に適用できるので、材質にもよるが、たとえば、同等とは3%程度までの外径の前後を含んだ場合であっても、皺ができないならば合理的に適用しうる。
【0059】
さらに、筒状ファブリック2を伸張させ支持部材3の孔10の周面に接するように伸張させた時の筒状ファブリックの伸び率:Frと、圧縮率:Crの関係について、Fr≦Crとすることが好ましい。Fr≦Crとすると、圧縮率Crが高いために、伸びによって生じた空隙は、圧縮により糸が扁平に、即ち繊維が広がることで、密な繊維配列状態を形成し直すことから、粉体の漏れ、侵入防止を達成することができることとなる。
【0060】
なお、非伸長時の筒状ファブリックの外周長は、
図12に示す方法にて折巾Wfを所定荷重の下で測定し、且つ、厚みt0を測定して筒状ファブリック外周長O
L=2×(Wf-2t0)+(2×t0×π)より算出している。
【0061】
本発明に用いる織編物からなる筒状ファブリックの反発弾性は織編物に用いる糸が捲縮性繊維からなる甘撚された糸を使用する手段、糸にウーリー加工が施された糸を用いる手段、糸に弾性繊維を含ませた手段、織編物の組織によって形成される糸の絡みや糸の重なり部で形成される糸(繊維)の湾曲部の膨らみを大きく形成する手段で反発弾性を得ることができる。
【0062】
さらに反発の圧縮量を大きく得る手段としては筒状ファブリックを複層に積層して使用することで圧縮量を大きく得ることができる。筒状ファブリックを重ねたり、折り返して厚みを得ることで圧縮量を大きくしてもよい。
【0063】
また、本発明に用いる織編物からなる筒状ファブリックの伸縮性は、編物のループ形成によるループの伸縮によって、形成することができる。
【0064】
また、織物からなる筒状ファブリックの伸縮性については緯糸に捲縮性を有する繊維から成る糸、緯糸に弾性繊維を含んだ糸を用いることで内側から外側に伸縮性を有する筒状ファブリックを形成することができる。
【0065】
不織布からなる筒状ファブリックは加熱、溶融で不織布を形成できるスパンボンド方式、メルトブロー方式が良く、素材として熱可塑性エラストマーが使用でき、不織布にゴム弾性を有する熱可塑性エラストマーの不織布に混在させることで反発弾性と伸縮性を得ることができる。
【0066】
図3には経編み組織からなる筒状ファブリックの組織及び厚みの例について示す。
図3(a)はトリコット編みの筒状ファブリックの組織の例である。
図3(b)は(a)の断面を示す。
図3(c)は、筒状ファブリックを伸長させながら支持部材に取り付けた際の厚みt1を示す図である。
図3(d)は、筒状ファブリックが支持部材と被シール部材に挟持されて圧縮された状態のときの、厚みt2を示す図である。
【0067】
図3(a)示すように経編からなる筒状ファブリックはループ同士が隣接するように構成される。このような構成は糸が密接するように編まれ荷重が加えられた時に繊維が密になるようになる構成の例であり、かつ、糸によるループが構成され少なくとも筒の外側に伸びを有する構成で被シール部材の軸方向のループピッチ:Psと周方向のループピッチ:Pgで形成された編物の例でもある。
【0068】
図3(b)には経編の断面の例を示し、荷重が加えられていない状態のファブリックの厚みをt0とし、糸の絡み部が膨らみを有し反発弾性を有する状態の例でもある。この筒状ファブリックを支持部材の孔の内周に沿うように筒状ファブリックを伸長させ支持部材に取付けた時のファブリックの厚みをt1として示している図を
図3(c)に示している。
【0069】
また、t0とt1が同じ厚みであることは表1に示している。表1に示すようにポリエステル繊維からなるウーリー加工糸を用いダブルトリコットからなる筒状ファブリックを製作し筒状ファブリックを伸長させた時の厚みを測定した結果を表1に示す。表1に示すように筒状ファブリックを36%まで伸長しても筒状ファブリックの厚みはほぼ変化しないことより荷重を付与しない場合はt0=t1であり、糸の絡み部の厚みは36%程度に筒状ファブリックを伸ばしても厚みが変化しないことがわかる。
【0070】
【0071】
図3(d)には支持部材に支持されたファブリックが支持部材と被シール部材に挟持されt2の厚みに圧縮された状態の図を示す。支持部材の内側に配置支持された筒状ファブリックが被シール部材である軸の挿入により筒状ファブリックが圧縮されt2の厚みになる状態の例であり、支持部材と被シール部材によって筒状ファブリックのファブリックが圧縮され挟持された状態が形成され、繊維が密となり三平方の定理の状態を形成し漏れや侵入を防止する例でもある。ファブリックの圧縮量:t3はt0-t2=t1-t2で支持部材の孔の大きさと被シール部材の外径の大きさで簡単に設定ができき、圧縮率はt3/t0×100=t3/t1×100で求められる。
【0072】
図4に、本発明の本軸シール材の製造方法の例として
図1(a)の態様を示す。
支持部材3の板厚よりも全長が長い筒状ファブリック2を、圧入させる円柱器具の周囲に被せた後、孔10を備えたリング状の支持部材3の内部に円柱器具ごと挿通させる。その際、筒状ファブリック2の真ん中に支持部材3の孔10が位置するよう挿通させる。支持部材3からはみ出た部位を支持部材に向けて折り曲げる。支持部材の環状面に両面テープなどの粘着剤や接着剤を予め付与しておき、折り曲げられた筒状ファブリクの両端のはみ出た部分をこれに張り合わせて、シール材を得る。
【0073】
筒状ファブリックの外周長:OLから計算される円筒状における筒状ファブリック外径をDf0、厚みt0、支持部材の孔が円形である場合の孔の内径:Dhとすると組立て治具の筒状ファブリックが被せられる軸径Djは(Df0-(2×t0))≦Dj<Dhの関係であり、(Dj+(2×t1))>Dhの条件にすることで筒状ファブリックを圧縮して支持部材を挿入でき、組立治具の軸断面形状に沿って筒状ファブリックが支持部材内面に接した状態を形成できる。
【0074】
そして、支持部材厚みWh、支持部材取付外径Dt、支持部材孔径:Dhからなる支持部材の孔からはみ出させた筒状ファブリックを折り返して支持部材の側面の(Dt-Dh)/2の面に粘着部材や接着部材で支持部材に貼り付けることで支持ができる。
【0075】
さらに支持部材の孔から折り返すことで筒状ファブリックの厚みにより曲率:Rが少なくとも形成され被シール部材である軸の挿入がファブリックを圧縮しての軸挿入が容易となり、従来はシール部材をトムソン刃などによって切断して孔形状を製作していたため切断部のエッジがシャープ過ぎるため軸の挿入時に噛みこみが生じ易く問題を発生させていたが本シール材は筒状ファブリック支持部材の孔の外で折り返すためにファブリックの厚みによるR(曲率)が形成され軸挿入時による噛みこみ無くシール材の変形なく装置に取り付けることができる。尚、シール材の幅:W1の実質のシール幅は筒状ファブリックを折り返して支持するためファブリックの厚みt1によるRが形成されるので実質のシール幅:W0はW1-(2×t1)となり、軸シール材の孔径:DfはDf=Dh-(2×t1)となる。
【0076】
また、支持部材の厚みは織編物で構成し筒状ファブリックを用いた場合にシール性の余裕度の点から編物の場合は軸方向であるステッチ方向のループピッチ以上、織物の場合は周方向に伸びる緯糸の緯糸ピッチ以上の支持部材厚みにすることが好ましく、このように構成することでより粉体の侵入をより防止することができ、シール幅の狭いシール材を容易に製作できる。
【0077】
シール材の支持部材の材質として平板の板金、樹脂板からなる材質を使用でき、抜き加工方法で支持部材を製作することが可能となりコストに有利なシール材を提供することができる。また、成形金型で製作しても良い。
【0078】
回り止めなどの外形については図示はしないないが支持部材の外周をDカット形状などの必要な回り止めの形状も容易に形成できる。
【0079】
平板の支持部材に筒状ファブリックを支持するための支持手段としては粘着剤からなる両面テープ、接着としては接着剤、ホットメルト、熱融着であっても良い。
【0080】
さらに本シール材はシールに必要なファブリックの圧縮量:hが決定させることにより支持部材の内径が決定され設計上においても簡単に設計が可能であり優位性の高いシール材である。
【0081】
例えば適用する軸径:Dとするとき、支持部材の孔径Dhは、Dh=D+(2×t1)-2hで決定される。つまりDh=D+2(t1-h)でt1≒t0なので支持部材の孔径はDh=D+2(t0-h)となり適用軸径D、ファブリック厚みt0、圧縮量hによって支持部材の孔径は容易に決定される。
【0082】
尚、圧縮量hは筒状ファブリック外周が支持部材の孔の内周面に接する時の伸び率Frとファブリックの圧縮率Crの関係がFr≦Crの条件を満たした条件から設定することができる。
【0083】
図5に
図1(b)の、左右の固定部材のリングをシール材の製造方法の例を示す。このシール材は、2つの固定部材にて筒状ファブリックを支持部材に支持するものであって、接着剤、粘着剤などの化学物質を使用せずに、または、支持部材とファブリックを熱融着や熱溶着することなく、簡便に固定するものであり、リサイクルに適している。
【0084】
図5の例に示すように筒状ファブリック2の組立治具の筒状ファブリックの内径よりも大きい軸部に筒状ファブリック2を伸長して取り付ける。筒状ファブリックは組立治具の軸よりはみ出した状態で折り返しが可能なはみ出し長さとする。
【0085】
次に筒状ファブリック2を支持する孔10を有する支持部材3を組立治具の軸に支持されている筒状ファブリック2の外側に支持部材3を挿入する。この時、支持部材3の孔はファブリック2を軽圧縮する状態で支持部材3を挿入する。このようにすることで支持部材の孔内径とファブリックが接した状態が形成される。
【0086】
その後に筒状ファブリックを支持部材の外側に折り返し、ファブリックを介して固定部材にて圧入して片側を固定する。
【0087】
次に、逆方向にはみ出させた筒状ファブリックも同じく支持部材の外側に折り返し固定部材にて圧入して固定する。このように支持部材両端部にはみ出させた筒状ファブリックを各々折り返し、支持部材表面に筒状ファブリックを折り返し、ファブリックを介して2つの固定部材4にて強圧縮の圧入にて筒状ファブリックを固定することで粘着剤及び接着剤を使用しない方法で製作可能な製造方法の例である。
【0088】
ファブリックを折り返した向きに逆らわずに左右から固定部材4のリングを押し込むので、ファブリックが皺になったり、めくれることがなく、作業が安定して簡単にできる。
【0089】
このように本シール材はファブリックを機械的な固定方法でも可能であり、筒状ファブリックの材質に耐熱材質の繊維を及び耐熱性の高い樹脂の支持部材や固定部材、さらには金属の支持部材、固定部材を用いることで耐熱性を有する軸シール材を容易に製作することができる。
【0090】
さらにはファブリックの素材に耐薬品性の素材を用いることで不純物の含有を必要としない医療関係の装置に用いる軸シール材、漏れ防止材として使用ができる。
さらに2つの固定部材より筒状ファブリックの両端部を折り返して固定部材で支持固定することでシール幅の長いシール材も容易に製作ができる。
【0091】
そして、本ファブリックの支持及び固定方法は粘着剤、接着剤を用いることが無く、消耗する部材は筒状ファブリックのみであり支持部材と固定部材は再利用が可能で環境にも良いシール材である。
【0092】
図6に
図1(c)のフランジを備えた軸シール材の製造方法の例を示す。支持部材3に鍔部(フランジ部)5を有する軸シール材1の製造方法であり、鍔部5を有する環状体の支持部材3を用い、固定部材1つで筒状ファブリック2を固定し鍔部5を有する軸シール材の製造する。
【0093】
鍔部を有する支持部材の孔(インナー部)に筒状ファブリックを設けるように筒状ファブリックの伸縮性を使用し鍔部に筒状ファブリックを巻き付け、鍔の無い片側には筒状ファブリックを折り返し可能な長さをはみ出させる。その後に組立治具である軸に筒状ファブリックを巻き付けた支持部材でファブリックを介して軸に挿入する。組立治具の軸はファブリックを軽圧縮できる外径とする。これは支持部材の孔内径にファブリックを接するよう形成するための組立治具の軸径としている。はみ出させた筒状ファブリックを折り返し固定部材で圧縮圧入する。固定部材は支持部材の鍔部に巻き付けたファブリックを押し付ける位置まで圧入する。このように構成することで1つの固定部材で支持部材に筒状ファブリックを固定できる製造方法の例である。
【0094】
そして、
図5の製造方法の例と同じくファブリックの支持及び固定方法は粘着剤、接着剤を用いることが無く、消耗する部材は筒状ファブリックのみであり支持部材と固定部材は再利用が可能で環境にも良いシール材である。以上のように種々の製造方法により必要とするシール材を製作することができる例である。
【0095】
そして、組立治具である軸に筒状ファブリックを被せ、支持部材の孔の内周面とファブリックが接するように組立治具の軸を構成することで種々の異形断面のシール材を製作することができる。
【0096】
図7は、異形断面形状のレール軸に適用する例を示す。
図7(a)はレール状の断面形状の軸に適用する軸シール材の例であり、
図7(b)は六角形の断面形状の軸に適用する軸シール材の例であり、
図7(c)は四角形の断面形状の軸に適用する軸シール材の例であり、
図7(d)は軸が段差を有した軸の断面図で凹み部の軸に対応した軸シール材の例である。
【0097】
図7(d)に示すように支持部材が2つに分かれた形態で一体的に構成され、一体的に構成された支持部材を全体的に被覆する構成とし支持部材の開閉が可能で段差のある軸にも対応したシール材の例を示している。支持部材が積極的に割れるものであるが、この割れ10は、支持部材の上部を互いに締結して一体的にしているので、実質的には支持部材3には剛性が維持されるため、圧力が逃げることなく、筒状ファブリック2が圧縮されることとなる。
【0098】
このように組立治具の軸形状および伸縮性を有する筒状ファブリックを用いることで従来困難であった異形断面形状や段差のある軸に適用できる軸シール材を製作、提供することができる。
【0099】
図8は本軸シール材を用いた粉体の漏れ防止用とした、回転軸への軸シール材の組付例例である。
図8(a)は支持部材が平板からなる軸シール材で軸受けと併用して使用される粉体の漏れ防止用の構成の例であり、
図8(b)は2つの固定部材で支持部材に筒状ファブリックが支持される軸シール材の例であり、
図8(c)は鍔を有する軸シール材の使用例である。
【0100】
図8(a)は支持部材が平板からなる軸シール材で軸受12と併用して使用される粉体の漏れ防止用の構成の例である。
【0101】
図8(b)は2つの固定部材4で支持部材に筒状ファブリックが支持され支持部材中央部では支持部材によるファブリックの圧縮が無く、軸方向の粉体側で粉体の漏れ防止を行い、軸方向の外側で軸受けとして機能させ接触面積を低減し軸受けとシール性を一体的にできる軸シール材の例を示す。
【0102】
さらに、被シール部材の表面が凹凸を有する構成の部材の場合でも支持部材の内側を凹凸のある構造に形成することができ、伸縮性を有する筒状ファブリックによって凹凸に追従することが可能であり凹凸のある被シール部材にも対応できるシール材の例でもある。
図8(c)には鍔を有する軸シール材の使用例を示す。
図8(c)に示すように
図8(b)と同じくシールと軸受けを兼ね、使用できる構成の例である。しかし、精度が必要な場合は軸受けを兼ねるよりもシール材として使用することが好ましい形状である。
【0103】
また、回転軸のシール材と使用する場合は摺擦による摩耗が生じることが多く、ファブリックの表面には摺動剤のコーティング、グリス塗布、オイル塗布、摺動剤などの滑剤を塗布及び供給を行うことで寿命を延ばすことができ、滑剤などを塗布することが好ましい。
また、本軸シール材は繊維からなる筒状ファブリックの構成であり毛細管現象によって液を筒状ファブリックに含侵及び外部からの供給が可能であり、オイルの含侵及び支持部材の外側に露出しているファブリックに外からのオイル供給などで寿命を向上させることが可能なシール材で種々の産業設備の装置のシール材としても使用が可能である。
【0104】
筒状ファブリックに用いる繊維は基本原理に基づいた線径を使用することを前提とするため材質は適宜に選定することが好ましい。例えば、高温耐熱を必要とする場合は金属繊維を使用し、事務機などの装置には一般的な樹脂からなる繊維素材を用いることでコスト的に有利な材質で対応することが好ましい。
【0105】
図14(a)はファブリックシール部材を用い、液を供給するシステムの構成例で、本ファブリックシール部材は細い繊維からなるシール部材で毛細管現象を利用することができ、筒状ファブリックシール部材に液を供給することで毛細管現象により液が浸透しファブリックシール材に液を含浸させ軸との摩擦係数の低減及び摺擦による摩擦熱の低減を行うシステムの例であり、軸受けの表面又は軸受けを支持している保持部材の温度を温度センサによって温度検知し、その温度検知信号により液体ポンプの動作と動作停止を制御基板により制御を行い、液体ポンプを動作させることにより液体タンク内の液を吸引し液をファブリックに供給せしめ摺擦部の温度上昇の抑制及び摺擦部のファブリックへの液体供給による繊維への液の被膜による寿命の向上を行う応用例である。
【0106】
本軸シール材は筒状ファブリックを使用していることより通気性を有しているためポンプによる送風やエアーの吸引もできる。
【0107】
尚、筒状ファブリックに供給する液体は水、オイル、液状摺動剤などの液体ポンプによる供給が可能な液であればよく、水などを用いることで冷却効果があり摺擦部の温度上昇を抑えることができる。また、オイルや液状摺動剤などを用いることで繊維表面にオイルや摺動剤が被膜され摺動性が向上しより高寿命化することができる。
【0108】
次に、
図14bでは筒状ファブリックと支持部材そして固定部材からなる軸シール材が軸受けを支持する保持部材などに着脱可能な構成の例でもある。
【0109】
さらに金属繊維から成る筒状ファブリックと金属からなる支持部材と固定部材から軸シール材を構成することで耐熱性の軸シール材とすることもできる。
【0110】
次に本シール材の実施例と比較例を表2に示す。また、振動試験での漏れを評価した。試験結果を表3に示す。
【0111】
【0112】
【0113】
振動試験における漏れ評価には、粉体漏れ試験装置を用いた。
図9に、用いた粉体漏れ試験装置の例を示す。粉体漏れ試験装置は、加振器、加速度ピックアップセンサーと振動計(図示なし)、粉体ボックス、粉体ボックスを支持するアングル、そして、粉体ボックスに取り付けられる軸および軸シール材から構成されている。この粉体漏れ試験装置を用いて、加速度を周波数50Hzで50m/s
2(5.1G)と70m/s
2(7.14G)に設定して試験を行った(表3)。
【0114】
表1には、粉体漏れ試験条件が厳しい、すなわち加速度が高い70m/s2(7.14G)の条件時の試験結果を示した。各実施例および比較例においては、電子写真用の球形トナーにおける平均粒径6μmの粒子を用いた試験粒子は、の用いた。ここでは、粉体の漏れを防止するための条件である前記の記載の粒子径φrの4倍以下の繊維径φsを有する繊維(4×φr>φs)の関係を満たすものをOKとし、また、筒状ファブリックの外周方向への伸び率:Frとファブリックの圧縮率:Crの関係がFr≦Crを満たすものをOKとして評価した。
【0115】
上記の条件下で、実施例1は、筒状ファブリックがポリエステル繊維からなる素材で86デシテックス/144本=86T/144Fからなる糸でウーリー加工された糸を使用し、経編からなる筒編物で編物の糸とループによって収縮し糸が密になった筒状編物であり、筒状ファブリックの外周長が53.72mmに構成された筒状ファブリックあり、繊維径は糸構成が86T/144Fとポリエステルの比重から算出した繊維径を記載している。そして、実施例1は、4φr>φsの関係を満たし、筒状編物をほとんど伸長させない条件でFr≦Crの関係を満たした条件の実施例である。
【0116】
実施例2は、実施例1で用いた筒状ファブリックを用い、筒状ファブリックの伸び率Frを32.41%に伸ばす支持部材に組付けられた状態で、被シール部材の挿入にてファブリックの圧縮率Crが48.39%になる組合わせであり、Fr≦Crの関係を満たす実施例である。
【0117】
実施例3は、ファブリックの繊維材質がコットン(綿)からなる紡績糸を用いた実施例である。コットンを用いることでコットンの特性である縮れ空隙を有しているため、ウーリー加工を施していない糸でこのコットンの紡績糸を用いて筒編みを形成している。繊維径は、実施例1,2と同じく糸の構成と比重より算出している。そして、4φr>φsの関係を満たし、筒状ファブリック(筒編み)の伸び率Frとファブリックの圧縮率Crの関係がFr≦Crの関係を満たした条件の実施例である。
【0118】
実施例4は、筒状ファブリックが不織布であり、該不織布がメルトブロー方式からなる不織布であり、その材質がエラストマー繊維(ポリウレタン繊維など)とポリオレフィン繊維(ポリエチレンなど)の素材で伸縮性を有するように構成されたものであり、不織布を構成する繊維径は15μm~24μmで4φr>φsの関係を満たす繊維径を含んだ不織布素材で厚みが0.78mmのファブリック素材であり、これを筒状に構成して筒状ファブリック(筒編み)の伸び率Frとファブリックの圧縮率Crの関係がFr≦Crの関係を満たした条件の実施例である。
【0119】
実施例5は、実施例1の筒状ファブリックを使用し、4φr>φsの関係を満たし、筒状ファブリック(筒編み)の伸び率Frとファブリックの圧縮率Crの関係がFr≦Crの関係を満たした条件でファブリックの圧縮率とファブリックの伸び率をほぼ近似させた条件の実施例である。実施例6は、実施例5における筒状ファブリックが積層(2層)した状態に形成した実施例である。実施例7は、実施例5のシール巾7mmに対しシール巾が1mmで実施した場合の実施例である。
【0120】
実施例8は、実施例1で用いた筒状ファブリックを用い、それを四角形の孔を有した支持部材に所定の伸び率Frになるように支持部材に支持させ、被シール部材が14mm角の四角棒をシール材に挿入した時にファブリックの圧縮量が設定された圧縮率Crになるように構成され、Fr≦Crの関係を満たした条件の実施例である。
【0121】
実施例9は、実施例1で用いた筒状ファブリックを用い、それを六角形の孔を有した支持部材に所定の伸び率Frになるように支持部材に支持させ、被シール部材が16mm角の六角棒をシール材に挿入した時にファブリックの圧縮量が設定された圧縮率Crになるように構成され、Fr≦Crの関係を満たした条件の実施例である。
【0122】
実施例1から実施例9は、いずれも4φr>φsの関係を満たし、かつ、Fr≦Crの関係を満たす条件である。この条件下において、実施例1から実施例9のものは、いずれも粉体の漏れは無く、シール性はOKであった(表3参照。)。
【0123】
一方、比較例1は、筒状ファブリックを構成する繊維径が172μmのモノフィラメントを用いて経編からなる筒編みの筒状ファブリックで4φr>φsの関係を満たさない条件で、且つ、筒状ファブリックを円形の孔を有した支持部材に所定の伸び率Frになるように支持部材に支持させ被シール部材の軸を挿入した時に筒状ファブリック(筒編み)の伸び率Frとファブリックの圧縮率Crの関係がFr≦Crの関係を満たし、繊維径と粒子径の関係の条件を満たしていない例である。比較例1の場合には、粉体粒子が漏れる結果となり、シール性の評価はNGであった。
【0124】
比較例2および比較例3は、使用する繊維径φsと粒子径φrの関係である4φr>φsの関係を満たし、筒状ファブリックを円形の孔を有した支持部材に所定の伸び率Frで支持部材に支持させ被シール部材の軸を挿入した時に筒状ファブリック(筒編み)の伸び率Frとファブリックの圧縮率Crの関係がFr≦Crの関係を満たしていない条件の例である。比較例2および比較例3の場合には、粉体粒子が漏れる結果となり、シール性の評価はNGであった。
【0125】
表1の実施例と比較例に示すように、複数の繊維からなるマルチフィラメントの糸及び複数の繊維からなる紡績糸を用いて径方向に少なくとも伸縮性を有する筒状ファブリック及び伸縮性を有する筒状の不織布のファブリックにおいて漏れを防止すべき粉体粒子径φrと筒状ファブリックに用いる繊維径φsの関係を4φr>φsの関係を満たすように構成し、且つ、孔を有する支持部材の孔に筒状ファブリックを伸長して支持する筒状ファブリックの伸び率Frと軸の挿入によりファブリックが圧縮される圧縮率の関係がFr≦Crの関係を満たすように構成することで、粒子の漏れを防止することができる。
【0126】
そして、軸シール材の幅も従来にない狭い幅でシールすることができる。
【0127】
上記に記載したように少なくとも粒子径と繊維径の関係とファブリックの伸び率とファブリックの圧縮率の2つの関係の条件を満たすことが好ましい。
【0128】
次に、表4に、実施例1に用いた筒状ファブリックを用い各種の試験を行った結果を示す。
【0129】
【0130】
表4は、加速度を変化させた時のシール性、シール幅を変化させた時のシール性、被シール部材と接するファブリックの面に滑剤(グリス)の塗布の有無によるシール性の結果を示す。
【0131】
表2に示すように、加速度50m/sec2と70m/sec2を比較すると、加速度が高い70m/sec2の方が筒状ファブリックの伸び率Frとファブリックの圧縮率Crの相関が明確となっている。支持部材の孔の内周面に接するように筒状ファブリックを伸長させ、筒状ファブリックの伸び率Frとファブリックの圧縮率Crの関係がFr≦Crの関係を満たすことで、粉体粒子の漏れは無く、シール性の評価結果はOK(〇)であった。
【0132】
経編からなる筒編みのファブリックを用いたシール幅については、0.5mm、1.0mm、7mmと比較すると、1.0mm以上のシール幅を用いることで粉体粒子の漏れが無く、シール性の評価結果はOK(〇)であった。
【0133】
これは試験で製作した経編からなる筒編みのファブリックで軸方向となるステッチ方向のピッチが0.7mm前後で粉体が漏れ出る方向に直交する方向に糸(繊維)が配置されている構成となり、ループによって粉体をせき止めている状態となっていることからシール性に寄与していることになる。
【0134】
この点から筒状ファブリックが経糸と緯糸からなる径方向に伸縮する筒状織物においても軸方向に平行となる糸が経糸とすれば、経糸に直交する伸縮性を有する緯糸でせき止める効果が得られることなり、径方向に伸縮性を有する筒状織物にも適用できる。上記の点より繊維や糸が粉体の漏れ出る方向に対しせき止める方向にあることが好ましく、そのピッチが狭いことでシール幅を狭くできる。シール幅を狭くすることで軸回転時の負荷トルクを低減できる。
【0135】
また、滑剤塗布については、今回使用したシリコン系のプラスチック用グリスを用いて確認した結果、グリスによる隙間を埋める効果もしくはグリスの粘性により粉体粒子を保持する効果で隙間を少なくする効果、もしくはその両方の効果で、Fr≦Crの関係を満たさない条件でも、粉体粒子の漏れが無く、シール性の評価結果はOK(〇)であった。但し、滑剤の消耗の点を考慮するとFr≦Crの関係を満たすことがより好ましい条件である。
【0136】
表5には、実施例1に用いた筒状ファブリックを用いて2枚重ねた積層タイプ(積層ファブリック)のシール性の結果を示す。
【0137】
【0138】
表3に示すように、グリスが無い条件でFr≦Crの関係を満たさない条件下では、単層と同じく粉体粒子の漏れが発生し、シール性の評価結果はNG(×)であった。積層の場合においてもFr≦Crの関係を満たすことがより好ましいことが理解される。
【0139】
尚、滑剤であるグリス塗布により、シール性の評価結果がNGであった条件でも表2の結果と同じく滑剤であるグリスの効果により、シール性の評価結果はOK(〇)であった。グリスの粘性により粒子が捕集されることとグリスによって空隙を埋めたことによる効果で漏れを止めている。
【0140】
さらに、ファブリックの反発荷重については実施例1で用いたウーリー加工糸(ポリエステル)のファブリック、実施例6のウーリー加工糸(ポリエステル)のファブリックの積層、実施例3に用いたコットン(紡績糸)のファブリック、コットン(紡績糸)のファブリックの積層、そして、実施例4に用いた不織布のファブリックで各々のファブリックでの所定面積での圧縮率と反発荷重の関係である反発荷重曲線の図を
図10に示す。
【0141】
図10に示すように、単層のファブリック及び積層されたファブリックの圧縮率と反発荷重の関係である反発荷重曲線は、ほぼ近似する。
【0142】
よって、圧縮量を大きくする必要がある場合は、積層にして使用することが好ましい。
【0143】
また、
図10の反発荷重曲線に示すように、各々のファブリックにおいて荷重が著しく変化する変曲点を有し、回転軸のシール材もしくは軸に対しスライドさせて使用する場合は、トルク負荷の点から反発荷重の変曲点前の圧縮率で使用することが好ましい。
【0144】
また、スパンボンド方式やメルトブロー方式などのメルト方式で製作した不織布においても、織編物で形成したファブリックよりも空隙が大きいことより織編物で形成したファブリックの圧縮率よりも高い圧縮率が必要とする傾向を有し、糸で構成したファブリックと同じく回転軸のシール材もしくは軸に対しスライドさせて使用する場合は、負荷トルクの点から反発荷重曲線の変曲点前の圧縮率で使用することが好ましい。そして、反発荷重の変曲点は、圧縮荷重によって糸もしくは繊維が圧縮され空隙が小さくなり、且つ、隣接する糸もしくは繊維の広がりが強く規制され繊維がより密になる点であり、摺動を必要とする場合の設定や摺動を必要としない場合の設定の目安となる重要な点でもある。
【0145】
表6には回転軸のシール材として使用した実施例を示す。
【0146】
【0147】
また、軸を回転させての評価装置の例を、
図11に示す。実施例では
図11の評価装置を用い、軸がSUS材の金属軸で、軸の表面速度が210mm/secで回転させ、試験に用いた粉体は振動試験の漏れ試験で使用した樹脂粒子からなる平均粉体粒径6μmを用い、100時間の耐久とシール性(漏れ)について評価した。
【0148】
実施例10は、実施例1に用いた筒状ファブリック(ポリエステル)を用い、支持部材に2つの固定部材で支持し、ファブリックの伸び率Frが21.8%で軸による圧縮率Crが33.1%でFr≦Crの関係を満たし、ファブリックへのグリス塗布が無く、シール巾が7mmの条件のものである。
【0149】
実施例11は、実施例1に用いた筒状ファブリック(ポリエステル)を用い、支持部材に2つの固定部材で支持し、ファブリックの伸び率Frが21.8%で軸による圧縮率Crが33.1%でFr≦Crの関係を満たし、ファブリックへのグリス塗布を有し、シール巾が7mmの条件のものである。
【0150】
実施例12は、実施例1に用いた筒状ファブリック(ポリエステル)を用い、支持部材に2つの固定部材で支持し、ファブリックの伸び率Frが22.4%で軸による圧縮率Crが25.8%でFr≦Crの関係を満たし、ファブリックへのグリス塗布が無く、シール巾が1mmの条件のものである。
【0151】
実施例13は、実施例1に用いた筒状ファブリック(ポリエステル)を用い、支持部材に2つの固定部材で支持し、ファブリックの伸び率Frが22.4%で軸による圧縮率Crが25.8%でFr≦Crの関係を満たし、ファブリックへのグリス塗布を有し、シール巾が1mmの条件のものである。
【0152】
実施例14は、実施例3に用いた筒状ファブリック(コットン)を用い、支持部材に2つの固定部材で支持し、ファブリックの伸び率Frが22.35%で軸による圧縮率Crが45.24%でFr≦Crの関係を満たし、ファブリックへのグリス塗布が無く、シール巾が1mmの条件のものである。
【0153】
実施例15は、実施例3に用いた筒状ファブリック(コットン)を用い、支持部材に2つの固定部材で支持し、ファブリックの伸び率Frが22.35%で軸による圧縮率Crが45.24%でFr≦Crの関係を満たし、ファブリックへのグリス塗布を有し、シール巾が1mmの条件のものである。
【0154】
そして、評価試験の結果、実施例10~実施例11に示すように100時間の連続回転においてもシールからの漏れは見られなく良好な結果でOKであった(表4)。
【0155】
また、表には記載していないが、金属粉などを含んだ条件においては、繊維が樹脂系の場合などは当接部の摺擦により樹脂繊維を摩耗させ繊維を切断させる可能性を有している。そのため、金属粉などを含んだ条件においては、耐摩耗性の良好な繊維、もしくは繊維に被膜を設けることができるオイルやグリスなどの滑剤を塗布することが好ましい。
【0156】
さらには耐熱、耐久を必要とする場合は、金属繊維を用いたファブリックを用い金属支持部材と金属固定部材でシール材を構成し、その後にファブリック面に耐熱の摺動部材を充填や耐熱コーティング材をコーティングすることもできる。
【0157】
表5には、実施例1に用いた筒状ファブリックをファブリックの表面にグリスを塗布し、テストポンプを用いて所定の水圧における1分間で液(水)がシール材と軸の間から流れ出た量を確認した結果を示す。
【0158】
【0159】
表7に示すように、ファブリックの圧縮率を変化させ、水圧0.05Mps、0.1Mpsで各々確認した結果、ファブリックの圧縮率を高めることで水の漏れを抑止するように制御することができる。尚、評価用に用いた治具の例を
図13に示す。
【0160】
本シール材は、このようにファブリックへの表面処理や構造によって若干の液を漏れさせるグランドパッキンなどにも使用が可能なシール材である。
【0161】
以上のように、本発明のシール材は、筒状ファブリックと、筒状ファブリックを支持する剛性の支持部材とを少なくとも有したシール材であって、筒状ファブリックは、伸縮性とその厚みによる反発弾性とを備えており、筒状ファブリックは、被シール部材との当接によって圧縮されうるように、被シール材と当接する部位の裏面に配された支持部材を被覆しながら、支持部材に固定されていることを特徴とする、シール材である。
【0162】
そして、本発明のシール材は、筒状ファブリックを用いて剛性を有する支持部材の内面がファブリックにより被覆され、ファブリックはパイルを有していなことより毛羽が発生し難い構成でファブリックを構成する繊維径φsが漏れ防止を行いたい粒子径φrとの関係をφs<4φrの関係となる繊維径φsの繊維を少なくとも含み、軸径方向に伸びを有し、ファブリックは反発弾性を有し、被シール材(軸)と接するファブリックの伸び率Frがファブリックの圧縮率Crよりも小さくなるように支持部材に組付けられ、被シール部材(軸)との圧縮により繊維を密にできる構成でファブリックを圧縮せしめて粉体、塵埃などの侵入を防止することができるシール材である。
【0163】
さらに、本発明のシール材は、φs<4φrの関係とFr≦Crの関係及びファブリックの組織により、シール巾を狭くすることが可能であり、軸などに設けてある溝部の清掃も可能とするシール材である。
【0164】
そして、本発明のシール材は、ファブリックが密な繊維より構成されており、毛細管現象を利用した含油シール材としても使用が可能なシール材である。さらには、本発明のシール材は、オイルやグリスなどの滑剤をファブリックの表層に設けることで摺動性が確保され、繊維間の空隙を滑剤で充填することなどで低荷重でも使用が可能になるシール材である。
【0165】
また、本発明のシール材は、剛性を有する支持部材に筒状ファブリックを支持させることより寸法安定性を持たせることができ、さらには、機械的構造が容易に構成でき設計的にも簡単にできるシール材である。
【0166】
そして、本発明のシール材は、直動システムなどの異形の軸への対応が可能である。さらには、本発明のシール材は、ボールネジなど溝を有する軸にも巾の狭いシールでの適用も可能であり、従来にないシール材である。
【0167】
本発明のシール材は、剛性のある支持部材に支持して支持部材を被覆するように構成されシール材で消耗するものは被覆された筒状のファブリックであり、支持部材を損傷させなければ支持部材を再利用ができ、かつ、環境にやさしいシール材でもある。
【0168】
そして、本発明のシール材は、構造が簡単にできるシール材でコストにも有利なシール材である。
【0169】
加えて、本発明のシール材は、筒状ファブリックに極細繊維や撥水性繊維、ファブリックへの表面処理を施すことでグランドパッキンなどへの応用ができるシール材でもある。
【0170】
そして、本発明のシール材は、筒状ファブリックを構成する素材は天然繊維、人造繊維、合成繊維、金属繊維と筒状に構成できる繊維で用途に合わせて適用すれば良く、本シール材は種々の産業に適用できるシール材である。
【符号の説明】
【0171】
1 シール材
2 筒状ファブリック
3 支持部材
4 固定部材
5 鍔(フランジ)
6 スリット(割り)
7 マルチフィラメント
8 構成糸(繊維)
9 固体粒子(異物)
10 孔
11 回転軸
12 軸受
13 ポンプ
14 ガラス板
15 測定台
16 紛体
17 上カバー
18 下カバー
19 紛体ボックス
20 水
【要約】
【課題】 異形断面にも適用可能な、粉体や塵埃の侵入あるいは漏出を防止できるシール材で、省資源でリサイクル性にも優れ、過熱や摩耗、破損を避けて長期に安定したシール性を提供できるシール材の提供。
【解決手段】 筒状ファブリックと、筒状ファブリックを支持する剛性の支持部材とを少なくとも有したシール材であって、筒状ファブリックは、伸縮性とその厚みによる反発弾性とを備えており、筒状ファブリックは、被シール部材との当接によって圧縮されうるように、被シール材と当接する部位の裏面に配された支持部材を被覆しながら、支持部材に固定されていることを特徴とする、シール材。
【選択図】
図1