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特許7291331トレンチMOS型ショットキーダイオード
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-07
(45)【発行日】2023-06-15
(54)【発明の名称】トレンチMOS型ショットキーダイオード
(51)【国際特許分類】
   H01L 29/872 20060101AFI20230608BHJP
   H01L 29/47 20060101ALI20230608BHJP
   H01L 29/06 20060101ALI20230608BHJP
【FI】
H01L29/86 301F
H01L29/86 301D
H01L29/86 301E
H01L29/48 D
H01L29/48 F
H01L29/06 301V
H01L29/06 301F
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2022068429
(22)【出願日】2022-04-18
(62)【分割の表示】P 2017034835の分割
【原出願日】2017-02-27
(65)【公開番号】P2022087348
(43)【公開日】2022-06-09
【審査請求日】2022-04-22
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)/次世代パワーエレクトロニクス」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用をうける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】390005223
【氏名又は名称】株式会社タムラ製作所
(73)【特許権者】
【識別番号】515277942
【氏名又は名称】株式会社ノベルクリスタルテクノロジー
(73)【特許権者】
【識別番号】301022471
【氏名又は名称】国立研究開発法人情報通信研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】弁理士法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 公平
(72)【発明者】
【氏名】東脇 正高
【審査官】杉山 芳弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-227279(JP,A)
【文献】国際公開第2016/013554(WO,A1)
【文献】特開2016-031953(JP,A)
【文献】特開2008-140968(JP,A)
【文献】特表平8-512430(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 29/872
H01L 29/47
H01L 29/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
β型のGa系単結晶からなる第1の半導体層と、
前記第1の半導体層に積層される層であって、その前記第1の半導体層と反対側の面に開口する複数のトレンチを有する、β型のGa系単結晶からなる第2の半導体層と、
前記第2の半導体層の前記第1の半導体層と反対側の面上に形成されたアノード電極と、
前記第1の半導体層の前記第2の半導体層と反対側の面上に形成されたカソード電極と、
前記第2の半導体層の前記トレンチの内面を覆う絶縁膜と、
前記第2の半導体層の前記トレンチ内に前記絶縁膜に覆われるように埋め込まれ、前記アノード電極に接触するトレンチMOSゲートと、
を有し、
前記第2の半導体層が、前記第1の半導体層側の下層と、前記下層よりも高いドナー濃度を有する、前記アノード電極側の上層とから構成され、
1μAのリーク電流が流れるときの逆方向電圧が600V以上1200V以下である、
トレンチMOS型ショットキーダイオード。
【請求項2】
前記第2の半導体層と前記アノード電極との間に形成されるショットキー接合のバリアハイトが0.7eV以上であり、
前記上層のドナー濃度が4.5×1016cm-3以上、2.4×1017cm-3以下であり、
隣接する前記トレンチの間の前記第2の半導体層のメサ形状部分が、前記第2の半導体層の前記上層のドナー濃度に応じた1.4μm以下の幅を有する、
請求項1に記載のトレンチMOS型ショットキーダイオード。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トレンチMOS型ショットキーダイオードに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、Gaを半導体層に用いたショットキーバリアダイオード(ショットキーダイオード)が知られている(例えば、特許文献1)。
【0003】
特許文献1には、例えば、nGa層の電子キャリア濃度と厚さがそれぞれ9.95×1016cm-3、3.3μmのときの、ショットキーダイオードの耐圧が1000Vであることが記載されている。
【0004】
また、Siを半導体層に用いたトレンチMOS型ショットキーダイオード、及びSiCを半導体層に用いたトレンチMOS型ショットキーダイオードが知られている(例えば、非特許文献1、2)。
【0005】
非特許文献1には、nSi層のドーピング濃度と厚さがそれぞれ1×1016cm-3、9μmのときの、半導体層にSiを用いたトレンチMOS型ショットキーダイオードの耐圧が107Vであることが記載されている。
【0006】
非特許文献2に記載された逆方向電圧-逆方向電流特性からは、nSiC層のドーピング濃度と厚さがそれぞれ6×1015cm-3、4μmのときの、半導体層にSiCを用いたトレンチMOS型ショットキーダイオードの耐圧が数十V程度であることが読み取れる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2013-102081号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】T. Shimizu et al., Proceedings of 2001 International Symposium on Power Semiconductor Devices & ICs, Osaka, pp.243-246 (2001).
【文献】V. Khemka, et al., IEEE ELECTRON DEVICE LETTERS, VOL. 21, NO. 5, MAY 2000, pp.286-288
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1においては、ショットキーダイオードの耐圧がGaの絶縁破壊電界強度により定義されている。しかしながら、Ga等の絶縁破壊電界強度の大きな材料を用いたショットキーダイオードにおいては、逆方向電圧を増加させると、Ga層が絶縁破壊を起こす前にアノード電極とGa層との間のリーク電流が極めて大きくなり、ショットキーダイオードが燃え尽きてしまう。
【0010】
このため、Gaを半導体層に用いたショットキーダイオードについては、所定の大きさ(例えば1μA)のリーク電流が流れるときの逆方向電圧を耐圧として定義するのが適切といえる。なお、特許文献1のショットキーダイオードは、リーク電流を抑制するための特別な構造を有さず、nGa層のキャリア濃度が9.95×1016cm-3であるときの、1μAのリーク電流が流れるときの逆方向電圧を概算すると、およそ64Vとなる。
【0011】
本発明の目的は、高耐圧かつ低損失のトレンチMOS型ショットキーダイオードを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一態様は、上記目的を達成するために、下記[1]~[2]のトレンチMOS型ショットキーダイオードを提供する。
【0013】
[1]β型のGa系単結晶からなる第1の半導体層と、前記第1の半導体層に積層される層であって、その前記第1の半導体層と反対側の面に開口するトレンチを有する、β型のGa系単結晶からなる第2の半導体層と、前記第2の半導体層の前記第1の半導体層と反対側の面上に形成されたアノード電極と、前記第1の半導体層の前記第2の半導体層と反対側の面上に形成されたカソード電極と、前記第2の半導体層の前記トレンチの内面を覆う絶縁膜と、前記第2の半導体層の前記トレンチ内に前記絶縁膜に覆われるように埋め込まれ、前記アノード電極に接触するトレンチMOSゲートと、を有し、前記第2の半導体層が、前記第1の半導体層側の下層と、前記下層よりも高いドナー濃度を有する、前記アノード電極側の上層とから構成され、1μAのリーク電流が流れるときの逆方向電圧が600V以上1200V以下である、トレンチMOS型ショットキーダイオード。
[2]前記第2の半導体層と前記アノード電極との間に形成されるショットキー接合のバリアハイトが0.7eV以上であり、前記上層のドナー濃度が4.5×1016cm-3以上、2.4×1017cm-3以下であり、隣接する前記トレンチの間の前記第2の半導体層のメサ形状部分が、前記第2の半導体層の前記上層のドナー濃度に応じた1.4μm以下の幅を有する、上記[1]に記載のトレンチMOS型ショットキーダイオード。」
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、高耐圧かつ低損失のトレンチMOS型ショットキーダイオードを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、第1の実施の形態に係るトレンチMOS型ショットキーダイオードの垂直断面図である。
図2図2(a)、(b)は、それぞれトレンチの平面パターンの典型例を示す、第2の半導体層の上面図である。
図3図3は、第1の実施の形態に係るトレンチMOS型ショットキーダイオードの変形例の垂直断面図である。
図4図4は、第2の実施の形態に係るトレンチMOS型ショットキーダイオードの垂直断面図である。
図5図5は、2層構造の第2の半導体層を有するトレンチMOS型ショットキーダイオード(耐圧1200V)と、第2の半導体層の代わりに単層の半導体層を有する比較例としてのトレンチMOS型ショットキーダイオード(耐圧1200V)の順方向特性を示すグラフである。
図6図6は、2層構造の第2の半導体層を有するトレンチMOS型ショットキーダイオード(耐圧600V)と、第2の半導体層の代わりに単層の半導体層を有する比較例としてのトレンチMOS型ショットキーダイオード(耐圧600V)の順方向特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
〔第1の実施の形態〕
(トレンチMOS型ショットキーダイオードの構成)
図1は、第1の実施の形態に係るトレンチMOS型ショットキーダイオード1の垂直断面図である。トレンチMOS型ショットキーダイオード1は、トレンチMOS領域を有する縦型のショットキーダイオードである。
【0017】
トレンチMOS型ショットキーダイオード1は、第1の半導体層10と、第1の半導体層10に積層される層であって、その第1の半導体層10と反対側の面17に開口するトレンチ12を有する第2の半導体層11と、第2の半導体層11の面17上に形成されたアノード電極13と、第1の半導体層10の第2の半導体層11と反対側の面上に形成されたカソード電極14と、第2の半導体層11のトレンチ12の内面を覆う絶縁膜15と、第2の半導体層11のトレンチ12内に絶縁膜15に覆われるように埋め込まれ、アノード電極13に接触するトレンチMOSゲート16と、を有する。
【0018】
トレンチMOS型ショットキーダイオード1においては、アノード電極13とカソード電極14との間に順方向電圧(アノード電極13側が正電位)を印加することにより、第2の半導体層11から見たアノード電極13と第2の半導体層11との界面のエネルギー障壁が低下し、アノード電極13からカソード電極14へ電流が流れる。
【0019】
一方、アノード電極13とカソード電極14との間に逆方向電圧(アノード電極13側が負電位)を印加したときは、ショットキー障壁により、電流は流れない。アノード電極13とカソード電極14との間に逆方向電圧を印加すると、アノード電極13と第2の半導体層11との界面及び絶縁膜15と第2の半導体層11との界面から空乏層が拡がる。
【0020】
一般的に、ショットキーダイオードの逆方向リーク電流の上限は1μAとされている。本実施の形態では、1μAのリーク電流が流れるときの逆方向電圧を耐圧と定義する。
【0021】
例えば、“松波弘之、大谷昇、木本恒暢、中村孝著、「半導体SiC技術と応用」、第2版、日刊工業新聞社、2011年9月30日、p.355”に記載された、SiCを半導体層とするショットキーダイオードにおける逆方向リーク電流のショットキー界面電界強度依存性のデータによれば、逆方向リーク電流の電流密度が0.0001A/cmのときのショットキー電極直下の電界強度は、およそ0.8MV/cmである。ここで、0.0001A/cmは、サイズが1mm×1mmであるショットキー電極に1μAの電流が流れたときのショットキー電極直下の電流密度である。
【0022】
このため、半導体材料自体の絶縁破壊電界強度が数MV/cmあったとしても、ショットキー電極直下の電界強度が0.8MV/cmを超えると、1μAを超えるリーク電流が流れることになる。
【0023】
例えば、ショットキー電極直下の電界強度を抑制するための特別な構造を有さない従来のショットキーダイオードにおいて1200Vの耐圧を得るためには、ショットキー電極直下の電界強度を0.8MV/cm以下に抑えるために、半導体層のドナー濃度を1015cm-3台にまで下げ、かつ半導体層を非常に厚くする必要がある。そのため、導通損失が非常に大きくなり、高耐圧かつ低損失のショットキーバリアダイオードを作製することは困難である。
【0024】
本実施の形態に係るトレンチMOS型ショットキーダイオード1は、トレンチMOS構造を有するため、半導体層の抵抗を増加することなく、高い耐圧を得ることができる。すなわち、トレンチMOS型ショットキーダイオード1は、高耐圧かつ低損失のショットキーダイオードである。
【0025】
なお、高耐圧かつ低損失のショットキーダイオードとして、ジャンクションバリアショットキー(JBS)ダイオードが知られているが、p型のGaは製造が困難であるため、Gaはp型領域が必要なJBSダイオードの材料に向いていない。
【0026】
第1の半導体層10は、ドナーとしてのSi、Sn等のIV族元素を含むn型のGa系単結晶からなる。第1の半導体層10のドナー濃度は、例えば、1.0×1018以上かつ1.0×1020cm-3以下である。第1の半導体層10の厚さTは、例えば、10~600μmである。第1の半導体層10は、例えば、Ga系単結晶基板である。
【0027】
ここで、Ga系単結晶とは、Ga単結晶、又は、Al、In等の元素が添加されたGa単結晶をいう。例えば、Al及びInが添加されたGa単結晶である(GaAlIn(1-x-y)(0<x≦1、0≦y<1、0<x+y≦1)単結晶であってもよい。Alを添加した場合にはバンドギャップが広がり、Inを添加した場合にはバンドギャップが狭くなる。なお、上記のGa単結晶は、例えば、β型の結晶構造を有する。
【0028】
第2の半導体層11は、ドナーとしてのSi、Sn等のIV族元素を含むn型のGa系単結晶からなる。第2の半導体層11は、例えば、Ga系単結晶基板である第1の半導体層10上にエピタキシャル成長したエピタキシャル層である。
【0029】
なお、第1の半導体層10と第2の半導体層11との間に、高濃度のドナーを含む高ドナー濃度層を形成してもよい。この高ドナー濃度層は、例えば、基板である第1の半導体層10上に第2の半導体層11をエピタキシャル成長させる場合に用いられる。第2の半導体層11の成長初期は、ドーパントの取り込み量が不安定であったり、基板である第1の半導体層10からのアクセプタ不純物の拡散があったりするため、第1の半導体層10上に第2の半導体層11を直接成長させると、第2の半導体層11の第1の半導体層10との界面に近い領域が高抵抗化する場合がある。このような問題を避けるため、高ドナー濃度層が用いられる。高ドナー濃度層の濃度は、例えば、第2の半導体層11よりも高い濃度に設定され、より好ましくは、第1の半導体層10よりも高い濃度に設定される。
【0030】
第2の半導体層11は、アノード電極13側の上層11aと、第1の半導体層10側の下層11bとから構成される。上層11aは、下層11bよりも高いドナー濃度を有する。また、上層11a及び下層11bのドナー濃度は、第1の半導体層10のドナー濃度よりも低い。
【0031】
第2の半導体層11のドナー濃度が増加するほど、トレンチMOS型ショットキーダイオード1の各部の電界強度が増加する。このため、比較的小さな逆方向電圧が印加されたときでも大きなリーク電流が流れるようになる。すなわち、トレンチMOS型ショットキーダイオード1の耐圧が低下する。
【0032】
しかしながら、本発明者は、鋭意研究の結果、第2の半導体層11中のトレンチ12が形成された層のドナー濃度は、ある特定の濃度までは増加させてもアノード電極13直下の第2の半導体層11中の(ショットキー界面近傍の)電界強度にほとんど影響がないことを見出した。一方で、第2の半導体層11中のトレンチ12が形成された層のドナー濃度を増加させることにより、第2の半導体層11の電気抵抗が低下してトレンチMOS型ショットキーダイオード1の損失が低減される。
【0033】
このため、第2の半導体層11を上層11aと下層11bに分けて、上層11aのドナー濃度を下層11bのドナー濃度よりも高くすることにより、アノード電極13直下の第2の半導体層11中の(ショットキー界面近傍の)電界強度を0.8MV/cm未満に抑えつつ、トレンチMOS型ショットキーダイオード1の損失を低減することができる。
【0034】
上層11aと下層11bの界面の高さがトレンチ12の底の高さ以上である場合に、上層11aのドナー濃度の増加に伴うショットキー界面近傍の電界強度の増加を効果的に抑えることができる。さらに、上層11aと下層11bの界面の高さがトレンチMOSゲート16の最下部の高さ以上である場合には、より効果的にショットキー界面近傍の電界強度の増加を抑えることができる。
【0035】
トレンチMOS型ショットキーダイオード1の耐圧にほとんど影響を与えない第2の半導体層11の上層11aのドナー濃度の範囲の上限値は、隣接するトレンチ12の間の第2の半導体層11のメサ形状部分の幅Wに依存する。このため、幅Wを第2の半導体層11の上層11aのドナー濃度に応じて設定することが好ましい。
【0036】
第2の半導体層11中のアノード電極13直下の領域中の最大電界強度、第2の半導体層11中の最大電界強度、及び絶縁膜15中の最大電界強度を低く抑えるためには、第2の半導体層11の下層11bのドナー濃度がおよそ6.0×1016cm-3以下であることが好ましい。一方、下層11bのドナー濃度が小さくなるほど第2の半導体層11の抵抗が大きくなり、順方向損失が増加してしまうため、例えば1200V以下の耐圧を得るためには、3.0×1016cm-3以上であることが好ましい。また、より高い耐圧を得るためには、ドナー濃度を例えば1.0×1016cm-3程度まで下げることが好ましい。
【0037】
第2の半導体層11の厚さTが増加するほど、第2の半導体層11中の最大電界強度及び絶縁膜15中の最大電界強度が低減する。第2の半導体層11の厚さTをおよそ6μm以上にすることにより、第2の半導体層11中の最大電界強度及び絶縁膜15中の最大電界強度を効果的に低減することができる。これらの電界強度の低減と、トレンチMOS型ショットキーダイオード1の小型化の観点から、第2の半導体層11の厚さTはおよそ5.5μm以上かつ9μm以下であることが好ましい。
【0038】
トレンチ12の深さDによってトレンチMOS型ショットキーダイオード1の各部の電界強度が変化する。第2の半導体層11中のアノード電極13直下の領域中の最大電界強度、第2の半導体層11中の最大電界強度、及び絶縁膜15中の最大電界強度を低く抑えるためには、トレンチ12の深さDがおよそ2μm以上かつ6μm以下であることが好ましく、およそ3μm以上かつ4μm以下であることがより好ましい。また、本明細書では、トレンチ12の幅をWとする。
【0039】
絶縁膜15の誘電率が増加するほど、絶縁膜15中の最大電界強度が低減するため、絶縁膜15は誘電率が高い材料からなることが好ましい。例えば、絶縁膜15の材料としてAl(比誘電率がおよそ9.3)、HfO(比誘電率がおよそ22)を用いることができるが、誘電率の高いHfOを用いることが特に好ましい。
【0040】
また、絶縁膜15の厚さTが増加するほど、第2の半導体層11中の最大電界強度が低減するが、絶縁膜15中の最大電界強度およびアノード電極13直下の領域中の最大電界強度が増加する。製造容易性の観点からは、絶縁膜15の厚さは小さい方が好ましく、300nm以下であることがより好ましい。ただし、当然ながら、トレンチMOSゲート16と第2の半導体層11の間に直接電流がほとんど流れない程度の厚さは必要である。
【0041】
トレンチMOSゲート16の材料は、導電性を有するものであれば特に限定されず、例えば、高濃度でドーピングされた多結晶Siや、Ni、Au等の金属を用いることができる。
【0042】
トレンチMOS型ショットキーダイオード1中の電界強度は、上述のように、隣接する2つのトレンチ12の間のメサ形状部分の幅、トレンチ12の深さD、絶縁膜15の厚さT等の影響を受けるが、トレンチ12の平面パターンにはほとんど影響を受けない。このため、第2の半導体層11のトレンチ12の平面パターンは特に限定されない。
【0043】
図2(a)、(b)は、それぞれトレンチ12の平面パターンの典型例を示す、第2の半導体層11の面17の上面図である。
【0044】
図2(a)に示されるトレンチ12は、ライン状の平面パターンを有する。図2(b)に示されるトレンチ12は、隣接する2つのトレンチ12の間のメサ形状部分の平面パターンがドット状になるような平面パターンを有する。
【0045】
図1に示されるトレンチMOS型ショットキーダイオード1の断面は、図2(a)に示されるトレンチMOS型ショットキーダイオード1においては切断線A-Aに沿った切断面、及び図2(b)に示されるトレンチMOS型ショットキーダイオード1においては切断線B-Bに沿った切断面に相当する。
【0046】
アノード電極13は、第2の半導体層11とショットキー接触する。アノード電極13は、Pt、Pd、Au、Ni、Ag、Cu、Al、Mo、In、Ti、多結晶Siおよびそれらの酸化物や窒化物、合金等の材料からなる。アノード電極13と第2の半導体層11のショットキー界面の逆方向リーク電流は、アノード電極13と第2の半導体層11との界面の障壁の高さ(バリアハイト)が高いほど小さくなる。一方、バリアハイトが高い金属をアノード電極13に用いた場合、順方向の立ち上がり電圧が上昇するため、順方向損失が増加する。よって、逆方向リーク電流が最大で1μA程度となるバリアハイトを持つ材料を選択することが好ましい。例えば逆方向耐圧が600Vから1200Vの場合、バリアハイトを0.7eV程度とすることで、逆方向リーク電流を1μA程度に抑えたまま、最も順方向損失を低減できる。アノード電極13は、異なる金属膜を積層した多層構造、例えば、Pt/Au、Pt/Al、Pd/Au、Pd/Al、又はPt/Ti/AuおよびPd/Ti/Auを有してもよい。
【0047】
カソード電極14は、第1の半導体層10とオーミック接触する。カソード電極14は、Ti等の金属からなる。カソード電極14は、異なる金属膜を積層した多層構造、例えば、Ti/Au又はTi/Al、を有してもよい。カソード電極14と第1の半導体層10を確実にオーミック接触させるため、カソード電極14の第1の半導体層10と接触する層がTiからなることが好ましい。
【0048】
図3は、トレンチMOS型ショットキーダイオード1の変形例の垂直断面図である。図3に示されるように、トレンチMOS型ショットキーダイオード1は、フィールドプレート構造を有してもよい。
【0049】
図3に示される変形例においては、第2の半導体層11の面17の縁に沿って、SiO等からなる誘電体膜18が設けられ、その誘電体膜18の上にアノード電極13の縁が乗り上げている。
【0050】
このようなフィールドプレート構造を設けることにより、アノード電極13の端部への電界集中を抑制することができる。また、誘電体膜18は、第2の半導体層11の面17を流れる表面リーク電流を抑制するパッシベーション膜としても機能する。なお、フィールドプレート構造の有無は、上記のトレンチMOS型ショットキーダイオード1の構造における各パラメータ(メサ形状部分の幅W、トレンチ12の深さD、絶縁膜15の厚さT等)の最適値には影響を与えない。
【0051】
〔第2の実施の形態〕
第2の実施の形態は、絶縁膜15を構成する絶縁体とは別の絶縁体がトレンチの底部に埋め込まれる点において、第1の実施の形態と異なる。なお、第1の実施の形態と同様の点については、説明を省略又は簡略化する。
【0052】
(トレンチMOS型ショットキーダイオードの構成)
図4は、第2の実施の形態に係るトレンチMOS型ショットキーダイオード2の垂直断面図である。
【0053】
トレンチMOS型ショットキーダイオード2の第2の半導体層11は、面17に開口するトレンチ21を有する。トレンチ21の底部には絶縁体22が埋め込まれ、絶縁膜15は、絶縁体22の上面とトレンチ21の内側側面を覆う。トレンチMOSゲート16は、トレンチ21内に絶縁膜15に覆われるように埋め込まれている。
【0054】
例えば、トレンチ21の底部に絶縁体22を埋め込んだ後、エッチングにより絶縁体22の上部をラウンド状に削り、トレンチ12を形成する。そして、トレンチ12内に絶縁膜15及びトレンチMOSゲート16を形成する。トレンチ21の底面は平坦であってもよいし、トレンチ12のようにラウンドしていてもよい。
【0055】
絶縁体22は、絶縁膜15よりも誘電率の低い絶縁体からなる。このため、アノード電極13とカソード電極14の間に電圧を印加したときに、絶縁膜15に印加される電界よりも絶縁体22に印加される電界の方が大きくなる。
【0056】
第1の実施の形態に係るトレンチMOS型ショットキーダイオード1において、絶縁膜15中で最も電界強度が高くなる領域は、トレンチ12の底部近傍の領域である。また、第2の半導体層11中で最も電界強度が高くなる領域は、トレンチ12の直下の領域である。
【0057】
第2の実施の形態に係る絶縁体22を設けることにより、絶縁膜15中のトレンチ12の底部近傍の領域における電界強度、及び第2の半導体層11中のトレンチ12の直下の領域における電界強度を低減することができる。すなわち、絶縁膜15中の最大電界強度及び第2の半導体層11中の最大電界強度を低減することができる。
【0058】
絶縁体22の材料として、SiO(比誘電率がおよそ4)等の誘電率が低い材料を用いることが好ましい。絶縁膜15の最下部の直下における絶縁体22の厚さTは、およそ200nm以上であることが好ましい。絶縁体22は、トレンチ12と同じ平面パターンを有し、典型的には、トレンチ12の幅Wとほぼ等しい幅を有する。
【0059】
トレンチMOS型ショットキーダイオード2においては、上層11aと下層11bの界面の高さがトレンチ21の底の高さ以上である場合に、上層11aのドナー濃度の増加に伴うショットキー界面近傍の電界強度の増加を効果的に抑えることができる。さらに、上層11aと下層11bの界面の高さがトレンチMOSゲート16の最下部の高さ以上である場合には、より効果的にショットキー界面近傍の電界強度の増加を抑えることができる。
【0060】
(実施の形態の効果)
上記第1、2の実施の形態によれば、トレンチが形成されるGaからなる半導体層を上層と下層に分け、上層のドナー濃度を下層のドナー濃度よりも高くすることにより、高耐圧かつ低損失のトレンチMOS型ショットキーダイオードを提供することができる。
【実施例
【0061】
シミュレーションにより、第1の実施の形態に係るトレンチMOS型ショットキーダイオード1の構造において、第2の半導体層11を上層11aと下層11bに分けることによる効果を調べた。
【0062】
以下に、例として、トレンチMOS型ショットキーダイオード1の耐圧を1200Vに設定する場合と、600Vに設定する場合の評価結果を述べる。
【0063】
(耐圧を1200Vに設定する場合)
トレンチMOS型ショットキーダイオード1の耐圧を1200Vに設定する場合、第2の半導体層11とアノード電極13との間に形成されるショットキー接合のバリアハイトが0.7eVであるとすると、リーク電流を抑えるため、アノード電極13の直下の電界強度は0.4MV/cm以下であることが求められる。
【0064】
この条件を満たすために、隣接するトレンチ12の間の第2の半導体層11のメサ形状部分の幅Wを第2の半導体層11の上層11aのドナー濃度に応じて設定する。例えば、上層11aのドナー濃度が4.5×1016cm-3の場合は幅Wを1.4μm以下に設定し、上層11aのドナー濃度が6.0×1016cm-3の場合は幅Wを1.0μm以下に設定し、上層11aのドナー濃度が9.0×1016cm-3の場合は幅Wを0.7μm以下に設定し、上層11aのドナー濃度が1.2×1017cm-3の場合は幅Wを0.5μm以下に設定する。
【0065】
また、このときの第2の半導体層11の下層11bのドナー濃度及び厚さは、例えば、それぞれ3×1016cm-3、4.0μmに設定すればよい。
【0066】
図5は、上述の2層構造の第2の半導体層11を有するトレンチMOS型ショットキーダイオード1(以下、実施例1と呼ぶ)と、第2の半導体層11の代わりに単層の半導体層を有する比較例としてのトレンチMOS型ショットキーダイオード(以下、比較例1と呼ぶ)の順方向特性を示すグラフである。
【0067】
ここで、実施例1について、上層11aのドナー濃度、厚さをそれぞれ6.0×1016cm-3、3μm、下層11bのドナー濃度、厚さをそれぞれ3.0×1016cm-3、4μm、トレンチ12の幅Wを0.5μm、第2の半導体層11のメサ形状部分の幅Wを1μmと設定した。また、比較例1について、第2の半導体層11の代わりの単層の半導体層のドナー濃度、厚さをそれぞれ3.0×1016cm-3、7μm、トレンチ12の幅Wを1.0μm、第2の半導体層11のメサ形状部分の幅Wを2μmと設定した。また、実施例1、比較例1のいずれについても、ショットキー接合のバリアハイトを0.7eV、トレンチ12の深さDを3μm、絶縁膜15を厚さが50nmのHfO膜と設定した。
【0068】
図5は、実施例1の方が比較例1よりもオン抵抗が小さいことを示している。このことから、第2の半導体層11を上層11aと下層11bに分け、上層11aのドナー濃度を下層11bのドナー濃度よりも高くすることにより、オン抵抗が低減されることが確認された。
【0069】
(耐圧を600Vに設定する場合)
トレンチMOS型ショットキーダイオード1の耐圧を600Vに設定する場合、第2の半導体層11とアノード電極13との間に形成されるショットキー接合のバリアハイトが0.7eVであるとすると、耐圧を1200Vに設計する場合と同様に、アノード電極13の直下の電界強度は0.4MV/cm以下であることが求められる。
【0070】
この条件を満たすために、隣接するトレンチ12の間の第2の半導体層11のメサ形状部分の幅Wを第2の半導体層11の上層11aのドナー濃度に応じて設定する。例えば、上層11aのドナー濃度が9.0×1016cm-3の場合は幅Wを1.4μm以下に設定し、上層11aのドナー濃度が1.2×1017cm-3の場合は幅Wを1.0μm以下に設定し、上層11aのドナー濃度が1.89×1017cm-3の場合は幅Wを0.67μm以下に設定し、上層11aのドナー濃度が2.4×1017cm-3の場合は幅Wを0.5μm以下に設定する。
【0071】
また、このときの第2の半導体層11の下層11bのドナー濃度及び厚さは、例えば、それぞれ3×1016cm-3、1.5μmに設定すればよい。
【0072】
図6は、上述の2層構造の第2の半導体層11を有するトレンチMOS型ショットキーダイオード1(以下、実施例2と呼ぶ)と、第2の半導体層11の代わりに単層の半導体層を有する比較例としてのトレンチMOS型ショットキーダイオード(以下、比較例2と呼ぶ)の順方向特性を示すグラフである。
【0073】
ここで、実施例2について、上層11aのドナー濃度、厚さをそれぞれ1.2×1017cm-3、3μm、下層11bのドナー濃度、厚さをそれぞれ3.0×1016cm-3、1.5μm、トレンチ12の幅Wを0.5μm、第2の半導体層11のメサ形状部分の幅Wを1μmと設定した。また、比較例2について、第2の半導体層11の代わりの単層の半導体層のドナー濃度、厚さをそれぞれ3.0×1016cm-3、4.5μm、トレンチ12の幅Wを1.0μm、第2の半導体層11のメサ形状部分の幅Wを2μmと設定した。また、実施例2、比較例2のいずれについても、ショットキー接合のバリアハイトを0.7eV、トレンチ12の深さDを3μm、絶縁膜15を厚さが50nmのHfO膜と設定した。
【0074】
図6は、実施例2の方が比較例2よりもオン抵抗が小さいことを示している。このことから、第2の半導体層11を上層11aと下層11bに分け、上層11aのドナー濃度を下層11bのドナー濃度よりも高くすることにより、オン抵抗が低減されることが確認された。
【0075】
以上、本発明の実施の形態、実施例を説明したが、本発明は、上記実施の形態、実施例に限定されず、発明の主旨を逸脱しない範囲内において種々変形実施が可能である。
【0076】
また、上記に記載した実施の形態、実施例は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態、実施例の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【符号の説明】
【0077】
1、2…トレンチMOS型ショットキーダイオード、 10…第1の半導体層、 11…第2の半導体層、 11a…上層、 11b…下層、 12、21…トレンチ、 13…アノード電極、 14…カソード電極、 15、22…絶縁膜、 16…トレンチMOSゲート

図1
図2
図3
図4
図5
図6