(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-07
(45)【発行日】2023-06-15
(54)【発明の名称】骨髄液分析方法、試料分析装置及びコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
G01N 33/48 20060101AFI20230608BHJP
G01N 33/92 20060101ALI20230608BHJP
G01N 33/483 20060101ALI20230608BHJP
G01N 15/14 20060101ALI20230608BHJP
G01N 21/64 20060101ALI20230608BHJP
G01N 21/49 20060101ALI20230608BHJP
G01N 21/05 20060101ALI20230608BHJP
【FI】
G01N33/48 M
G01N33/92
G01N33/483 C
G01N15/14 C
G01N15/14 A
G01N21/64 F
G01N21/49 Z
G01N21/05
(21)【出願番号】P 2018213864
(22)【出願日】2018-11-14
【審査請求日】2021-08-19
(73)【特許権者】
【識別番号】502285457
【氏名又は名称】学校法人順天堂
(73)【特許権者】
【識別番号】390014960
【氏名又は名称】シスメックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100065248
【氏名又は名称】野河 信太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100159385
【氏名又は名称】甲斐 伸二
(74)【代理人】
【識別番号】100163407
【氏名又は名称】金子 裕輔
(74)【代理人】
【識別番号】100166936
【氏名又は名称】稲本 潔
(72)【発明者】
【氏名】大坂 顯通
(72)【発明者】
【氏名】田部 陽子
(72)【発明者】
【氏名】土屋 浩二
(72)【発明者】
【氏名】木村 考伸
【審査官】小澤 理
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-223791(JP,A)
【文献】特開2003-329668(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0254588(US,A1)
【文献】BENTLEY S.A. et al.,Correction of Bone Marrow Nucleated Cell Counts for the Presence of Fat Particles,American Journal of Clinical Pathology,1995年,Vol.104, No.1,p.60-64
【文献】KIM, M. et al.,Use of an Automated Hematology Analyzer and Flow Cytometry to Assess Bone Marrow Cellularity and Differential Cell Count,Ann Clin Lab Sci,2004年,Vol.34, No.3,p.307-313
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48
G01N 33/92
G01N 33/483
G01N 15/14
G01N 21/64
G01N 21/49
G01N 21/05
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
骨髄液中の有核細胞数及び脂質粒子数を計数する工程と、
前記有核細胞数及び前記脂質粒子数に基づいて、骨髄有核細胞密度に関する指標を取得する工程と、
を備え、前記有核細胞数が、白血球系細胞の数及び赤芽球系細胞の数の合計である、
骨髄液分析方法。
【請求項2】
前記骨髄有核細胞密度に関する指標が、前記有核細胞数と前記脂質粒子数との比に関する値である、請求項1に記載の骨髄液分析方法。
【請求項3】
前記骨髄有核細胞密度に関する指標が、有核細胞数に対する脂質粒子数の比の値である、請求項1又は2に記載の骨髄液分析方法。
【請求項4】
前記骨髄有核細胞密度に関する指標を、表示する工程をさらに備える、請求項1~3のいずれか1項に記載の骨髄液分析方法。
【請求項5】
前記有核細胞数及び前記脂質粒子数に基づいて、骨髄の状態の判定を補助する情報を提供する工程をさらに備える、請求項1~4のいずれか1項に記載の骨髄液分析方法。
【請求項6】
前記骨髄有核細胞密度に関する指標に基づいて、骨髄の状態の判定を補助する情報を提供する工程をさらに備える、請求項1~5のいずれか1項に記載の骨髄液分析方法。
【請求項7】
前記骨髄の状態の判定を補助する情報を提供する工程において、低形成、正形成、及び過形成の少なくとも1つの判定を補助する情報を提供する、請求項5又は6に記載の骨髄液分析方法。
【請求項8】
前記骨髄の状態の判定を補助する情報を提供する工程において、前記骨髄有核細胞密度に関する指標と、所定の閾値とを比較して前記骨髄の状態の判定を補助する情報を提供する、請求項6又は7に記載の骨髄液分析方法。
【請求項9】
前記骨髄の状態の判定を補助する情報を提供する工程において、
前記有核細胞数に対する脂質粒子数の比の値が第1の閾値より高いとき、低形成であるとの判定結果を提供し、
前記有核細胞数に対する脂質粒子数の比の値が第1の閾値より低く且つ第2の閾値より高いとき、正形成であるとの判定結果を提供し、
前記有核細胞数に対する脂質粒子数の比の値が第2の閾値より低いとき、過形成であるとの判定結果を提供する、請求項6~8のいずれか1項に記載の骨髄液分析方法。
【請求項10】
提供した前記情報を、表示する工程をさらに備える、請求項5~9のいずれか1項に記載の骨髄液分析方法。
【請求項11】
前記有核細胞数及び脂質粒子数を計数する工程において、測定試料をフローサイトメトリ法で測定する、請求項1~10のいずれか1項に記載の骨髄液分析方法。
【請求項12】
前記フローサイトメトリ法により取得した、蛍光信号情報、前方散乱光情報及び側方散乱光情報に基づいて、前記脂質粒子数を計数する、請求項11に記載の骨髄液分析方法。
【請求項13】
前記骨髄液及び試薬を混合して測定試料を調製する工程をさらに備える、請求項1~12のいずれか1項に記載の骨髄液分析方法。
【請求項14】
前記測定試料を調製する工程において、少なくとも前記骨髄液及び溶血剤を混合して前記測定試料を調製する、請求項13に記載の骨髄液分析方法。
【請求項15】
前記測定試料を調製する工程において、さらに蛍光色素を混合して前記測定試料を調製する、請求項14に記載の骨髄液分析方法。
【請求項16】
前記有核細胞数及び脂質粒子数を計数する工程は、
前記骨髄液と、第1試薬とを含む第1測定試料を測定し、前記第1測定試料中の有核細胞数を計数する工程と、
前記骨髄液と、前記第1試薬とは異なる第2試薬とを含む第2測定試料を測定し、前記第2測定試料中の脂質粒子数を計数する工程と、
を備える、請求項1~15のいずれか1項に記載の骨髄液分析方法。
【請求項17】
前記第1試薬は、pH 2.0以上4.5以下の溶解試薬を含み、前記第2試薬は、pHが5.5以上7.0以下である溶解試薬を含む、請求項16に記載の骨髄液分析方法。
【請求項18】
骨髄液から測定試料を調製する試料調製部と、
前記測定試料に含まれる粒子を検出する検出部と、
前記検出部により得られた情報に基づいて、前記測定試料中の有核細胞数及び脂質粒子数を計数する制御部と、を備え、
前記制御部が、前記有核細胞数及び前記脂質粒子数に基づいて、骨髄有核細胞密度に関する指標を取得し、前記有核細胞数が、白血球系細胞の数及び赤芽球系細胞の数の合計である、
試料分析装置。
【請求項19】
前記検出部は、
前記試料調製部によって調製された前記測定試料を流すよう構成されたフローセルと、
前記フローセル内を流れる前記測定試料に光を照射する光源部と、
前記測定試料に光が照射されたときに得られる光学的情報を取得する受光部と、
を備える、請求項18に記載の試料分析装置。
【請求項20】
前記受光部により取得した、蛍光信号情報、前方散乱光情報及び側方散乱光情報に基づいて、前記脂質粒子数を取得する、請求項19に記載の試料分析装置。
【請求項21】
出力部をさらに備え、
前記制御部は、前記骨髄有核細胞密度に関する指標を前記出力部に出力する、請求項18~20のいずれか1項に記載の試料分析装置。
【請求項22】
前記骨髄有核細胞密度に関する指標が、前記有核細胞数と前記脂質粒子数との比に関する値である、請求項18~21のいずれか1項に記載の試料分析装置。
【請求項23】
前記制御部が、前記有核細胞数及び前記脂質粒子数に基づいて
、骨髄の状態を判定する請求項18~22のいずれか1項に記載の装置。
【請求項24】
出力部をさらに備え、
前記制御部は、判定した前記骨髄の状態に関する情報を、前記出力部に出力する、請求項23に記載の試料分析装置。
【請求項25】
骨髄液を分析するためのコンピュータプログラムであって、
前記骨髄液に含まれる粒子を検出する検出部により得られた情報に基づいて、骨髄液中の有核細胞数及び脂質粒子数を計数するステップと、
前記有核細胞数及び前記脂質粒子数に基づいて、骨髄有核細胞密度に関する指標を取得するステップと、
をコンピュータに実行させ、前記有核細胞数が、白血球系細胞の数及び赤芽球系細胞の数の合計である、コンピュータプログラム。
【請求項26】
請求項25に記載のコンピュータプログラムが記録されている記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨髄液分析方法、試料分析装置及びコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
骨髄検査は、造血障害、造血器腫瘍などの血液疾患の診断及び治療効果の判定に重要な検査である。骨髄検査の中でも骨髄像検査は、結果を迅速に得ることができ、費用対効果にも優れた有用な検査である。骨髄像検査では、骨髄穿刺により得た骨髄液をスライドグラスに塗抹して染色し、顕微鏡観察により細胞の分類、計数及び形態学的評価を行う。骨髄からの塗抹標本の作製及び細胞形態の観察には専門知識と経験を要するので、骨髄像検査は、高度な訓練を受けた専門家によって行われる。例えば、日本では、審査に合格した骨髄認定技師により骨髄像検査が行われ、海外では、血液病理医などの血液病理学の専門家により骨髄像検査が行われる。特許文献1には、骨髄像検査の標本作製の前処理方法及び装置が開示されている。
【0003】
骨髄像検査で得られる情報の一つに、骨髄有核細胞密度がある。骨髄有核細胞密度は、顕微鏡を用いて骨髄液中の細胞を観察し、塗抹標本における有核細胞と脂肪細胞との面積比(脂肪細胞の面積/有核細胞の面積)により求める。正常な骨髄液では、有核細胞と脂肪細胞の割合はおおむね一定である。しかし、血液疾患患者の骨髄液では、有核細胞数に異常な変化が認められる。例えば、急性白血病などの疾患では、骨髄中の有核細胞数が増加し、再生不良性貧血などの疾患では、骨髄中の有核細胞数が減少する。臨床現場では、上記の面積比により求めた骨髄有核細胞密度に応じて、骨髄の状態を、過形成、正形成及び低形成に分類し、血液疾患の鑑別に用いている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
骨髄検査に用いる骨髄液は、骨髄穿刺により患者から採取される。骨髄穿刺では、局所麻酔を行い骨髄に向け穿刺針を挿入し、骨髄液を吸引する。骨髄穿刺には痛みを感じることも多く、患者への負担も大きいので、骨髄検査は頻繁に行うことはできない。よって、骨髄検査を行う以上は、精度の高い情報を得ることが求められる。一方、骨髄像検査では、顕微鏡観察を行い、細胞の形態に基づく計数及び分類を用手法で行うので、骨髄有核細胞密度などの検査の精度は、検査者の技量及び経験に依存し、主観的要素も影響する。
【0006】
そこで本発明は、骨髄有核細胞密度に関し、検査者の技量や経験によらない客観的な指標を提供することができる骨髄液の分析方法、分析装置及びコンピュータプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、有核細胞数及び脂質粒子数に基づく指標が、驚くべきことに骨髄塗抹標本の顕微鏡観察に基づく骨髄有核細胞密度と良好に相関することを見出して、本発明を完成した。
【0008】
本発明の一態様は、骨髄液中の有核細胞数及び脂質粒子数を計数する工程と、有核細胞数及び脂質粒子数に基づいて、骨髄有核細胞密度に関する指標を取得する工程とを備える、骨髄液分析方法を提供する。
【0009】
ここで、「骨髄液」とは、骨髄穿刺又は骨髄生検により被検者から採取した骨髄液、及びその骨髄液を含む試料をいう。
【0010】
また、「有核細胞数」とは、白血球系細胞の数及び赤芽球系細胞の数の合計をいう。ここで、白血球系細胞とは、例えば、骨髄芽球、前骨髄球、骨髄球、後骨髄球、桿状核球、分葉核球、好酸球、好塩基球、リンパ球及び単球を含んでいる。赤芽球系細胞とは、有核赤血球とも呼ばれ、例えば、前赤芽球、好塩基性赤芽球、多染性赤芽球及び正染性赤芽球を含んでいる。
【0011】
「脂質粒子数」とは、脂肪細胞、及び脂肪細胞に由来する有形成分の合計をいう。
【0012】
骨髄有核細胞密度は、一般的に、骨髄の塗抹標本の顕微鏡観察により取得した有核細胞の面積及び脂肪細胞の面積から算出される面積比(脂肪細胞の面積/有核細胞の面積)として定義されている。ここで、「骨髄有核細胞密度に関する指標」とは、本発明において見出した骨髄有核細胞密度に関連する新規の情報であって、有核細胞数及び脂質粒子数を用いて取得される情報をいう。
【0013】
この態様において、骨髄有核細胞密度に関する指標は、有核細胞数と脂質粒子数との比に関する値であってもよい。また、この態様において、骨髄有核細胞密度に関する指標は、有核細胞数に対する脂質粒子数の比の値であってもよい。
【0014】
この態様において、骨髄有核細胞密度に関する指標を表示してもよい。
【0015】
この態様において、有核細胞数及び脂質粒子数に基づいて、骨髄の状態を判定する工程をさらに備えてもよい。
【0016】
また、この態様において、骨髄有核細胞密度に関する指標に基づいて、骨髄の状態を判定する工程をさらに備えてもよい。骨髄の状態の判定として、低形成、正形成、及び過形成の少なくとも1つを判定してもよい。
【0017】
上記の態様において、骨髄有核細胞密度に関する指標と、所定の閾値とを比較して骨髄の状態を判定してもよい。上記の態様において、骨髄の状態の判定では、有核細胞数に対する脂質粒子数の比の値が第1の閾値より高いとき、低形成であると判定し、有核細胞数に対する脂質粒子数の比の値が第1の閾値より低く且つ第2の閾値より高いとき、正形成であると判定し、有核細胞数に対する脂質粒子数の比の値が第2の閾値より低いとき、過形成であると判定してもよい。「第1の閾値」は、低形成と、正形成及び過形成とを区別する閾値である。「第2の閾値」は、過形成と、正形成及び低形成とを区別する閾値である。上記の態様において、判定した骨髄の状態に関する情報を表示してもよい。
【0018】
この態様において、有核細胞数及び脂質粒子数を計数する工程において、測定試料をフローサイトメトリ法で測定してもよい。
【0019】
この態様において、骨髄液及び試薬を混合して測定試料を調製する工程をさらに備えてもよい。この態様において、少なくとも骨髄液及び溶血剤を混合して測定試料を調製してもよい。また、この態様において、さらに蛍光色素を混合して測定試料を調製してもよい。ここで、「溶血剤」とは、赤血球を溶解できる物質を指している。また、「蛍光色素」とは、核酸を染色可能な蛍光物質である。
【0020】
この態様において、フローサイトメトリ法により取得した、蛍光信号情報、前方散乱光情報及び側方散乱光情報に基づいて、脂質粒子数を計数してもよい。これにより、脂質粒子数を精度よく取得することができる。
【0021】
この態様において、有核細胞数及び脂質粒子数を取得する工程は、骨髄液と、第1試薬とを含む第1測定試料を測定し、第1測定試料中の有核細胞数を計数する工程と、骨髄液と、第1試薬とは異なる第2試薬とを含む第2測定試料を測定し、第2測定試料中の脂質粒子数を計数する工程とを備えてもよい。
【0022】
この態様において、第1試薬は、pH2.0以上4.5以下の溶解試薬を含み、第2試薬は、pHが5.5以上7.0以下である溶解試薬を含んでもよい。
【0023】
本発明の一態様は、骨髄液から測定試料を調製する試料調製部と、測定試料に含まれる粒子を検出する検出部と、検出部により得られた情報に基づいて、測定試料中の有核細胞数及び脂質粒子数を取得する制御部とを備え、制御部が、有核細胞数及び脂質粒子数に基づいて、骨髄有核細胞密度に関する指標を取得する、試料分析装置を提供する。
【0024】
この態様において、検出部は、試料調製部によって調製された測定試料を流すよう構成されたフローセルと、フローセル内を流れる測定試料に光を照射する光源部と、測定試料に光が照射されたときに得られる光学的情報を取得する光学検出部とを備えてもよい。
【0025】
この態様において、受光部により取得した、蛍光信号情報、前方散乱光情報及び側方散乱光情報に基づいて、脂質粒子数を取得してもよい。
【0026】
この態様において、試料分析装置は、出力部をさらに備え、制御部は、骨髄有核細胞密度に関する指標を出力部に出力してもよい。ここで、「出力部」とは、文字、画像などを表示可能な画面を有する表示装置、プリンタ、音声出力装置などを含む。
【0027】
この態様において、骨髄有核細胞密度に関する指標は、有核細胞数と脂質粒子数との比に関する値であってもよい。
【0028】
この態様において、制御部が、有核細胞数及び脂質粒子数に基づいて、骨髄の状態を判定してもよい。この態様において、試料分析装置は、出力部をさらに備え、制御部は、判定した骨髄の状態に関する情報を、出力部に出力してもよい。
【0029】
本発明の一態様は、骨髄液を分析するためのコンピュータプログラムであって、骨髄液に含まれる粒子を検出する検出部により得られた情報に基づいて、骨髄液中の有核細胞数及び脂質粒子数を取得するステップと、有核細胞数及び脂質粒子数に基づいて、骨髄有核細胞密度に関する指標を取得するステップとをコンピュータに実行させる、コンピュータプログラムを提供する。この態様において、コンピュータプログラムは、記録媒体に記録されていてもよい。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、骨髄有核細胞密度に関し、検査者の技量や経験によらない客観的な指標を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1A】有核赤血球及び白血球計数用試薬を用いたフローサイトメータ(FCM)測定で得られるスキャッタグラムの模式図である。
【
図1B】白血球分類用試薬を用いたFCM測定で得られるスキャッタグラムの模式図である。
【
図1C】共通試薬を用いたFCM測定で得られるスキャッタグラムの模式図である。
【
図2A】本実施形態の試料分析装置の構成を示す模式図である。
【
図2B】本実施形態の試料分析装置の構成を示す模式図である。
【
図5】本実施形態の試料分析装置の動作の流れを示すフローチャートである。
【
図6】測定試料調製処理の手順を示すフローチャートである。
【
図7】測定データ解析処理の手順を示すフローチャートである。
【
図8A】骨髄有核細胞密度に基づく判定処理の手順のフローチャートである。
【
図8B】骨髄有核細胞密度に基づく判定処理の手順のフローチャートである。
【
図8C】骨髄有核細胞密度に基づく判定処理の手順のフローチャートである。
【
図10A】有核赤血球及び白血球計数用試薬を用いて調製した測定試料中の粒子の分布を示すスキャッタグラムの例である。
【
図10B】白血球分類用試薬を用いて調製した測定試料中の粒子の分布を示すスキャッタグラムの第1の例である。
【
図10C】白血球分類用試薬を用いて調製した測定試料中の粒子の分布を示すスキャッタグラムの第2の例である。
【
図11】顕微鏡観察に基づく骨髄有核細胞密度により分類された各被検者について、有核細胞数に対する脂質粒子数の比の分布を示すグラフである。
【
図12A】有核細胞数に対する脂質粒子数の比に基づいて、骨髄有核細胞密度が低形成であるかの判定を行ったときのROC曲線である。
【
図12B】有核細胞数に対する脂質粒子数の比に基づいて、骨髄有核細胞密度が過形成であるかの判定を行ったときのROC曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
[1.骨髄液分析方法]
本実施形態の骨髄液分析方法では、まず、骨髄液及び試薬を含む測定試料中の有核細胞数及び脂質粒子数を取得する。以下、骨髄液中の有核細胞数及び脂質粒子数の取得方法について説明する。
【0033】
(骨髄液)
被検者から採取した骨髄液に、例えば、骨片、血球細胞の凝集などの細胞測定の障害となり得る固形の夾雑物があるときは、メッシュなどを用いて骨髄液をろ過してもよい。骨髄液には、必要に応じて、キレート剤及び/又は抗凝固剤が添加されてもよい。キレート剤としては、例えばEDTA(ethylene diamine tetraacetic acid)塩が挙げられる。抗凝固剤としては、例えばヘパリン、クエン酸又はクエン酸塩などが挙げられる。
【0034】
骨髄液には、通常、有核細胞及び脂質粒子が含まれる。骨髄像検査では通常、有核細胞として、赤芽球系細胞、白血球系細胞、形質細胞(プラズマ細胞)、細網細胞(マクロファージ)及び巨核球が計数される。白血球系細胞のうち、前骨髄球、骨髄球及び後骨髄球はまとめて、顆粒球系幼若球とも呼ばれる。桿状核球は、成熟した好中球であり、分葉核球は、桿状核球からさらに成熟した好中球である。好酸球には、未成熟好酸球及び成熟好酸球が含まれる。好塩基球には、未成熟好塩基球及び成熟好塩基球が含まれる。
【0035】
白血球系細胞及び赤芽球系細胞には、各種の白血病、悪性リンパ腫などの造血器腫瘍により出現及び増加する腫瘍化した細胞が含まれてもよい。例えば急性リンパ性白血病では、リンパ芽球が増加する。リンパ球には、異型リンパ球が含まれてもよい。異型リンパ球とは、抗原刺激により活性化したリンパ球であり、ウイルス感染などにより出現する。
【0036】
本実施形態では、脂質粒子としては、例えば、脂肪細胞、破損した脂肪細胞の全部又は一部、破損した脂肪細胞から放出された脂肪塊などが挙げられる。なお、脂肪細胞は核を有しているが、脂質粒子に含めている。
【0037】
正常骨髄においては、白血球系細胞及び赤芽球系細胞の合計が、全有核細胞の95%~99%を占めることが知られている。本実施形態では、有核細胞として、白血球系細胞及び赤芽球系細胞を測定対象とする。すなわち、本実施形態の分析方法では、骨髄液から調製した測定試料を測定して、有核細胞数として、白血球系細胞の数及び赤芽球系細胞の数の合計を取得する。
【0038】
(試薬)
本実施形態の分析方法に用いられる試薬は、有核細胞及び/又は脂質粒子の測定を可能にする試薬であれば、特に限定されない。試薬は、溶血剤及び蛍光色素の少なくとも1種を含むことが好ましい。好ましい実施形態では、試薬は、溶血剤及び蛍光色素を含む。この場合、試薬は、溶血剤及び蛍光色素の両方を含む一つの試薬であってもよい。また、個別に用意した、溶血剤を含む溶解試薬と、蛍光色素を含む染色試薬との組み合わせであってもよい。蛍光色素は、水溶液中では保存安定性がよくない場合があるので、試薬は、溶血剤を含む溶解試薬と、蛍光色素を含む染色試薬との二試薬で構成されることが好ましい。
【0039】
有核細胞の計数及び脂質粒子の計数に用いる試薬は、1種であってもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。好ましい実施形態では、個別に用意した、有核細胞を測定可能な試薬と、脂質粒子を測定可能な試薬との組み合わせである。つまり、有核細胞を測定するための溶解試薬及び染色試薬と、脂質粒子を測定するための溶解試薬及び染色試薬とをそれぞれ別に用いている。本実施形態の分析方法では、有核細胞の測定には、有核赤血球及び白血球計数用試薬を用いている。また、脂質粒子の測定には、白血球分類用試薬を用いている。しかし、これはあくまで一例であり、有核細胞の測定及び脂質粒子の測定に用いる試薬はこれに限られない。
【0040】
(有核赤血球及び白血球計数用試薬)
1.骨髄液中の有核細胞の測定に用いる溶血剤
有核赤血球及び白血球計数用試薬は、試料中の有核赤血球、及び白血球(好塩基球、及び好塩基球以外の白血球)の計数を可能にする。有核赤血球及び白血球計数用試薬は、溶血剤を含む溶解試薬と、蛍光色素を含む染色試薬との二試薬で構成される。上記の第1試薬としては、有核赤血球及び白血球計数用試薬が好適であるが、これに限定されない。
【0041】
有核赤血球及び白血球計数用試薬の溶血剤としては、例えば、下記の式(1)で表される四級アンモニウム塩型のカチオン性界面活性剤、及び下記の式(2)で表されるピリジニウム型のカチオン界面活性剤から選択できる。カチオン性界面活性剤は1種でもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0042】
【0043】
式(1)中、R1、R2及びR3は、同一又は異なって、水素原子、炭素数1~8のアルキル基又は炭素数6~8のアラルキル基であり;R4は、炭素数8~18のアルキル基、炭素数8~18のアルケニル基又は炭素数6~18のアラルキル基であり;X-はアニオンである。
【0044】
【0045】
式(2)中、R5は炭素数8~18のアルキル基であり;X-はアニオンである。
【0046】
上記の式(1)及び(2)において、炭素数1~8のアルキル基としては、メチル、エチル、プロピル、t-ブチル、n-ブチル、イソペンチル、ネオペンチル、t-ペンチル、イソヘキシル、ヘプチル、オクチルなどが挙げられる。好ましくは、炭素数1~3のアルキル基である。炭素数6~8のアラルキル基としては、ベンジル、フェネチルなどが挙げられる。
【0047】
炭素数8~18のアルキル基としては、オクチル、デシル、ドデシル、テトラデシル、ヘキサデシル、オクタデシルなどが挙げられる。好ましくはデシル、ドデシル、テトラデシルなどの炭素数10~14の直鎖のアルキル基である。炭素数8~18のアルケニル基としては、オクテニル、デセニル、ドデセニル、テトラデセニル、ヘキサデセニル、オクタデセニルなどが挙げられる。炭素数6~18のアラルキル基としては、フェニルプロピレン、フェニルブテン、ナフチルメチレン、ナフチルエチレン、ナフチルプロピレン、ビフェニルメチレン、ビフェニルエチレンなどが挙げられる。
【0048】
アニオンは、ハロゲンイオン(F-、Cl-、Br-又はI-)、ハロゲン化ホウ素イオン(BF4
-、BCl4
-、BBr 4
-など)、リン化合物イオン、ハロゲン酸素酸イオン、フルオロ硫酸イオン、メチル硫酸イオン、芳香環にハロゲン又はハロゲンをもつアルキル基を置換基として有するテトラフェニルホウ素化合物イオンなどが挙げられる。それらの中でもBr-又はBF4
-が好ましい。
【0049】
上記の式(1)又は(2)で表される界面活性剤の例として、オクチルトリメチルアンモニウムブロミド、オクチルトリメチルアンモニウムクロライド、デシルトリメチルアンモニウムブロミド、デシルトリメチルアンモニウムクロライド、ドデシルトリメチルアンモニウムブロミド、ドデシルトリメチルアンモニウムクロライド、ミリスチルトリメチルアンモニウムブロミド、ミリスチルトリメチルアンモニウムクロライド、ドデシルピリジニウムクロライドなどが挙げられる。
【0050】
有核赤血球及び白血球計数用試薬では、溶血剤として、上記のカチオン性界面活性剤と共にノニオン性界面活性剤を用いることが好ましい。カチオン性界面活性剤とノニオン性界面活性剤とを混合して用いることにより、カチオン性界面活性剤による有核赤血球及び白血球系細胞への過度の損傷を抑えることができる。ノニオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンステロール、及びポリオキシエチレン水素添加ステロールが挙げられる。ノニオン性界面活性剤は1種でもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0051】
上記のノニオン性界面活性剤の例として、ポリオキシエチレン(16)オレイルエーテル、ポリオキシエチレン(20)セチルエーテル、ポリオキシエチレン(20)ポリオキシプロピレン(8)セチルエーテル、ポリオキシエチレン(30)ポリオキシプロピレン(6)デシルテトラデシルエーテル、ポリオキシエチレン(20)ヒマシ油、ポリオキシエチレン(20)硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレン(50)硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレン(25)フィトスタノールなどが挙げられる。これらの中でも、ポリオキシエチレン(16)オレイルエーテル、ポリオキシエチレン(20)ポリオキシプロピレン(8)セチルエーテルが特に好ましい。
【0052】
有核赤血球及び白血球計数用試薬では、溶解試薬中のカチオン性界面活性剤の濃度は、通常300~9000 ppmであり、好ましくは400~8000 ppmであり、より好ましくは500~7000 ppmである。また、溶解試薬中のノニオン性界面活性剤の濃度は、通常500~7000 ppmであり、好ましくは800~6000 ppmであり、より好ましくは1000~5000 ppmである。
【0053】
上記の溶血剤を含む溶解試薬の浸透圧は、通常150 mOsm/kg以下であり、好ましくは120 mOsm/kg以下であり、より好ましくは100 mOsm/kg以下である。浸透圧の下限は特に限定されないが、例えば20 mOsm/kg以上、好ましくは30 mOsm/kg以上、より好ましくは40 mOsm/kg以上である。上記の溶血剤を含む溶解試薬のpHは、好ましくは2.0以上4.5以下であり、より好ましくは2.5以上3.5以下である。
【0054】
上記の溶血剤を含む溶解試薬の浸透圧及びpHを上記の範囲内にするために、溶解試薬は、例えば、電解質、糖類、緩衝剤、芳香族の有機酸などを含むことが好ましい。本明細書において「芳香族の有機酸」とは、分子内に少なくとも1つの芳香環を有する酸及びその塩をいう。電解質としては、無機塩類が好ましく、例えば塩化ナトリウム、塩化カリウムなどが挙げられる。糖質は、単糖類、二糖類、多糖類及びオリゴ糖のいずれであってもよく、例えばグルコース、ラクトース、スクロースなどが挙げられる。緩衝剤としては、設定するpH±2.0の付近にpKaを有する緩衝剤であればよく、例えばリンゴ酸、クエン酸、マレイン酸、酒石酸、ジグリコール酸、マロン酸などが挙げられる。芳香族の有機酸としては、例えばフタル酸、サリチル酸、安息香酸、ヒドロキシ安息香酸、アミノ安息香酸、馬尿酸、p-アミノベンゼンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、及びそれらのアルカリ金属塩(例えばナトリウム塩及びカリウム塩)などが挙げられる。これらの濃度は、例えば0.1~100 mM程度が適当であり、1~30 mM程度が好ましい。
【0055】
2.骨髄液中の有核細胞の測定に用いる蛍光色素
有核赤血球及び白血球計数用試薬の蛍光色素としては、例えば、以下の式(3)及び(4)のいずれか1つで表される化合物が挙げられる。蛍光色素は1種でもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0056】
【0057】
式(3)中、R
6及びR
7は、同一又は異なってアルキル基であり;
【化4】
であり;
【0058】
【化5】
であり;R
8、R
9、R
10及びR
11は、同一又は異なって水素原子又はアルキル基であり;X
-はアニオンである。
【0059】
【0060】
式(4)中、R
12及びR
13は、同一又は異なって、酸性基を有していてもよいアルキル基であり;
【化7】
であり;
【0061】
【化8】
であり;R
14、R
15、R
16及びR
17は、同一又は異なって水素原子又は酸性基であるが、ただし、R
12~R
17のいずれか1つには酸性基が存在し;R
12~R
17に存在し得る酸性基は、塩を形成していてもよいが、ただし、R
12~R
17に存在し得る酸性基のうちのいずれか1つは、プロトンを放出した基である。
【0062】
上記の式(3)又は(4)におけるアルキル基は、直鎖状又は分枝鎖状のいずれであってもよい。アルキル基の炭素数は、通常1~20であり、好ましくは1~10であり、より好ましくは1~6である。アルキル基としては、例えばメチル、エチル、プロピル、t-ブチル、n-ブチル、n-ペンチル、n-ヘキシルなどが挙げられる。
【0063】
式(3)におけるアニオンとしては、F-、Cl-、Br-、I-などのハロゲンイオン、及びCF3SO3
-、BF4
-、ClO4
-などが挙げられる。式(4)において存在し得る酸性基は、プロトンを放出し得る基、及びプロトンを放出し得る基がプロトンを放出した基の両方を含む。プロトンを放出し得る基としては、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基などが挙げられ、スルホン酸基が特に好ましい。酸性基は、塩を形成していてもよい。このような塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩のようなアルカリ金属塩などが挙げられる。より好ましくは、ナトリウム塩である。
【0064】
上記の式(3)又は(4)で表される蛍光色素の例として、NK-529、NK-2670、NK-3750、NK-3383、NK-1840、NK-9001、NK-9003、NK-2929、NK-3375、NK-5056、NK-3266、NK-3620などが挙げられる。これらの蛍光色素は、株式会社林原から入手できる。
【0065】
試薬における蛍光色素の濃度は、蛍光色素の種類に応じて適宜決定できるが、通常0.01 mg/L以上100 mg/L以下であり、好ましくは0.1 mg/L以上90 mg/L以下であり、より好ましくは0.2 mg/L以上80 mg/L以下である。試薬が、蛍光色素及び溶血剤の両方を含む1つの試薬である場合、蛍光色素は、溶血剤を含む溶解試薬中に溶解すればよい。試薬が、溶血剤を含む溶解試薬と、蛍光色素を含む染色試薬との組み合わせである場合、蛍光色素は、適切な有機溶媒に溶解すればよい。そのような有機溶媒は、蛍光色素を溶解できれば特に限定されず、例えば炭素数1~6のアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ジメチルスルホキシド(DMSO)などが挙げられる。
【0066】
(白血球分類用試薬)
1.骨髄液中の脂質粒子の測定に用いる溶血剤
白血球分類用試薬は、試料中の白血球を、3種類(顆粒球、リンパ球及び単球)、4種類(好中球及び好塩基球、好酸球、リンパ球、及び単球)、5種類(好中球、好塩基球、好酸球、リンパ球、及び単球)又は6種類(好中球、好塩基球、好酸球、リンパ球、単球、及び顆粒球形幼若球)に分類し計数するための試薬であるが、脂質粒子も計数できる。白血球分類用試薬は、溶血剤を含む溶解試薬と、蛍光色素を含む染色試薬との二試薬で構成される。上記の第2試薬としては、白血球分類用試薬が好適であるが、これに限定されない。
【0067】
白血球分類用試薬の溶血剤としては、例えば、カチオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤及び芳香族の有機酸の組み合わせが挙げられる。好ましい実施形態では、溶血剤を含む溶解試薬として、カチオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、及び20 mM以上50 mM以下の濃度で芳香族の有機酸を含む試薬であって、芳香族の有機酸の濃度が20 mM以上30 mM未満の場合、試薬のpHが5.5以上6.4以下であり、芳香族の有機酸の濃度が30 mM以上50 mM以下の場合、試薬のpHが5.5以上7.0以下である試薬を用いる。
【0068】
芳香族の有機酸は、例えばフタル酸、サリチル酸、安息香酸、ヒドロキシ安息香酸、アミノ安息香酸、馬尿酸、p-アミノベンゼンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、及びそれらのアルカリ金属塩(例えばナトリウム塩及びカリウム塩)などが挙げられる。芳香族の有機酸は1種でもよいし、2種以上を用いてもよい。溶解試薬が芳香族の有機酸を2種以上含む場合、それらの濃度の合計が20 mM以上50 mM以下であればよい。
【0069】
溶解試薬中の芳香族の有機酸の濃度が20 mM以上30 mM未満の場合、試薬のpHは5.5以上6.4以下が好ましく、5.5以上6.2以下がより好ましい。また、溶解試薬中の芳香族の有機酸の濃度が30 mM以上50 mM以下、好ましくは40 mM以上50 mM以下である場合、試薬のpHが5.5以上7.0以下である。さらに好ましくは、溶血剤を含む試薬中の芳香族の有機酸の濃度が40 mM以上50 mM以下である場合、試薬のpHが5.5以上6.2以下である。
【0070】
白血球分類用試薬のカチオン性界面活性剤は、下記の式(5)で表される四級アンモニウム塩型のカチオン性界面活性剤、及び下記の式(6)で表されるピリジニウム型のカチオン界面活性剤が好ましい。カチオン性界面活性剤は1種でもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0071】
【0072】
式(5)中、R18は、炭素数6~18のアルキル基又はアルケニル基であり;R19及びR20は、同一又は異なって、炭素数1~4のアルキル基又はアルケニル基であり;R21は、炭素数1~4のアルキル基もしくはアルケニル基、又はベンジル基であり;X-はハロゲンイオンである。
【0073】
式(5)中、R18としては、炭素数が6、8、10、12及び14のアルキル基又はアルケニル基が好ましく、特に直鎖のアルキル基が好ましい。具体的には、オクチル基、デシル基及びドデシル基が挙げられる。R19及びR20としては、メチル基、エチル基及びプロピル基が好ましい。R21としては、メチル基、エチル基及びプロピル基が好ましい。ハロゲンイオンとしては、F-、Cl-、Br-及びI-が挙げられる。
【0074】
【0075】
式(6)中、R22は炭素数6~18のアルキル基であり;X-はハロゲンイオンである。R22としては、炭素数が6、8、10、12及び14のアルキル基又はアルケニル基が好ましく、特に直鎖のアルキル基が好ましい。具体的には、はオクチル基、デシル基及びドデシル基が挙げられる。ハロゲンイオンとしては、F-、Cl-、Br-及びI-が挙げられる。
【0076】
白血球分類用試薬のノニオン性界面活性剤は、下記の式(7)で表されるポリオキシエチレン系ノニオン界面活性剤が好ましい。
【0077】
R23-R24-(CH2CH2O)n-H (7)
式(7)中、R23は、炭素数8~25のアルキル基、アルケニル基又はアルキニル基であり;R24は、酸素原子、-COO-又は
【0078】
【0079】
上記のノニオン系界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンステロール、ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテルなどが挙げられる。
【0080】
白血球分類用試薬では、溶解試薬中のノニオン性界面活性剤の濃度は、10~100000 ppm、好ましくは100~10000 ppm、より好ましくは1000~5000 ppm。また、試薬中のカチオン性界面活性剤の濃度は、通常10~10000 ppm、好ましくは100~1000 ppmである。
【0081】
白血球分類用試薬の溶解試薬は、pHを上記の範囲内に保つために緩衝剤を含んでいてもよい。そのような緩衝剤としては、例えばクエン酸塩及びリン酸塩、HEPESなどのグッドの緩衝剤が挙げられる。なお、緩衝作用を有する芳香族の有機酸を溶解試薬に添加する場合は、緩衝剤の添加は任意である。溶解試薬の浸透圧は、特に限定されないが、赤血球を効率よく溶血させる観点から20 mOsm/kg以上150 mOsm/kg以下であることが好ましい。
【0082】
2.骨髄液中の有核細胞の測定に用いる蛍光色素
白血球分類用試薬の蛍光色素は、例えば、プロピジウムアイオダイド、エチジウムブロマイド、エチジウム-アクリジンヘテロダイマー、エチジウムジアジド、エチジウムホモダイマー-1、エチジウムホモダイマー-2、エチジウムモノアジド、トリメチレンビス[[3-[[4-[[(3-メチルベンゾチアゾール-3-イウム)-2-イル]メチレン]-1,4-ジヒドロキノリン]-1-イル]プロピル]ジメチルアミニウム]・テトラヨージド(TOTO-1)、4-[(3-メチルベンゾチアゾール-2(3H)-イリデン)メチル]-1-[3-(トリメチルアミニオ)プロピル]キノリニウム・ジヨージド(TO-PRO-1)、N,N,N',N'-テトラメチル-N,N'-ビス[3-[4-[3-[(3-メチルベンゾチアゾール-3-イウム)-2-イル]-2-プロペニリデン]-1,4-ジヒドロキノリン-1-イル]プロピル]-1,3-プロパンジアミニウム・テトラヨージド(TOTO-3)、2-[3-[[1-[3-(トリメチルアミニオ)プロピル]-1,4-ジヒドロキノリン]-4-イリデン]-1-プロペニル]-3-メチルベンゾチアゾール-3-イウム・ジヨージド(TO-PRO-3)、及び以下の式(8)で表される蛍光色素からなる群より選択できる。蛍光色素は1種でもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0083】
【0084】
式(8)中、R25及びR28は、同一又は異なって、水素原子、アルキル基、ヒドロキシ基を有するアルキル鎖、エーテル基を有するアルキル鎖、エステル基を有するアルキル鎖、又は置換基を有していてもよいベンジル基であり;R26及びR27は、同一又は異なって、水素原子、ヒドロキシル基、ハロゲン、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アルキルスルホニル基又はフェニル基であり;Zは、硫黄原子、酸素原子、又はメチル基を有する炭素原子であり;nは0、1、2又は3であり;X-はアニオンである。
【0085】
式(8)におけるアルキル基は、直鎖又は分枝のいずれであってもよい。式(8)中、R25及びR28のいずれか一方が炭素数6~18のアルキル基である場合、他方は水素原子又は炭素数6未満のアルキル基であることが好ましい。炭素数6~18のアルキル基の中でも、炭素数が6、8又は10のアルキル基が好ましい。R25及び/又はR28が、置換基を有していてもよいベンジル基であるとき、該置換基としては、例えば、炭素数1~20のアルキル基、炭素数2~20のアルケニル基又は炭素数2~20のアルキニル基が挙げられる。それらの中でも、メチル基又はエチル基が好ましい。
【0086】
式(8)中、R26及びR27のアルケニル基として、例えば炭素数2~20のアルケニル基が挙げられる。また、R26及びR27のアルコキシ基としては、例えば炭素数1~20のアルコキシ基が挙げられる。それらの中でも、メトキシ基又はエトキシ基が好ましい。式(8)におけるアニオンとしては、F-、Cl-、Br-、I-などのハロゲンイオン、及びCF3SO3
-、BF4
-、ClO4
-などが挙げられる。
【0087】
白血球分類用試薬における蛍光色素の濃度及び溶媒は、有核赤血球及び白血球計数用試薬について述べたことと同様である。
【0088】
(その他の試薬)
本実施形態では、有核細胞及び脂質粒子の測定にそれぞれ異なる溶解試薬及び染色試薬を用いている。しかし、これに限られず、有核細胞及び脂質粒子の測定を、共通の溶解試薬及び染色試薬を用いて行ってもよい。例えば、特許第4212827号に開示されている溶血剤を含む溶解試薬と、蛍光色素を含む染色試薬との二試薬で構成される試薬を用いることで、共通の溶解試薬及び染色試薬で、有核細胞及び脂質粒子の測定を行うことができる。
【0089】
この共通試薬の溶血剤としては、例えば、上記の式(1)、(2)又は(7)で表される界面活性剤、並びにMEGA-8、シュクロースモノカプレート、デオキシ-BIGCHAP、n-オクチル-β-D-チオグルコシド、n-ノニル-β-D-チオマルトシド、n-ヘプチル-β-D-チオグルコシド、n-オクチル-β-D-チオグルコシド、CHAPS及びCHAPSOなどが挙げられる。溶解剤は1種でもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0090】
この共通試薬の蛍光色素としては、例えばNK-2825、NK-1836、NK-1954、オキサジン750、クリプトシアニン、NK-376、NK-382、NK-2711、NK-138、オキサジン720、LDS730、LD700、ナイルブルーA、ブリリアントグリーン、アイオダイドグリーン及びマラカイトグリーンなどが挙げられる。蛍光色素は1種でもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0091】
(測定試料の調製及び測定)
本実施形態では、測定試料は、骨髄液と試薬とを混合することにより調製できる。試薬が溶血剤を含む場合、少なくとも骨髄液と溶血剤とが混合されて、測定試料が調製される。試薬中の溶血剤の作用により、骨髄液中の有核細胞は、蛍光色素で染色可能な状態となる。蛍光色素で染色可能な状態とは、細胞の細胞膜に、蛍光色素が透過できる程度の損傷を与えた状態をいう。骨髄液に赤血球が混入していた場合は、溶血剤の作用により、赤血球を溶解できる。溶血剤の作用により、赤血球と同様に、赤芽球系細胞の細胞膜も破壊されるが、赤芽球系細胞の細胞核は保たれる。そのため、赤芽球系細胞は、染色可能な状態となり、FCMにより分類及び計数され得る。
【0092】
好ましい実施形態では、測定試料の調製において、さらに蛍光色素を混合する。骨髄液が溶血剤で処理されている場合、蛍光色素は、有核細胞の損傷した細胞膜から細胞内に入り、細胞核内の核酸を染色できる。この場合、白血球系細胞は、強く染色されて強い蛍光を発する。赤芽球系細胞は、白血球系細胞より弱く染色されて、弱い蛍光を発する。白血球系細胞と赤芽球系細胞との間で蛍光強度の差異が生じる作用機序は明確ではないが、おそらく、赤芽球系細胞の核(DNA)は凝縮しているので、蛍光色素の細胞核への取り込みが阻害されるからと考えられる。また、脂質粒子も、蛍光色素により弱く染色されて、弱い蛍光を発する。一方、赤血球、赤血球ゴーストなどの核を有なさい細胞及び粒子は、ほとんど染色されない。
【0093】
試薬が、溶血剤を含む一つの試薬であるか、又は溶血剤及び蛍光色素を含む一つの試薬である場合、骨髄液と試薬との混合比は、体積比で表して、通常1:5~500であり、好ましくは1:10~100である。試薬が、溶血剤を含む溶解試薬と、蛍光色素を含む染色試薬との組み合わせである場合、骨髄液と溶解試薬と染色試薬の混合比は、体積比で表して、通常1:5~500:1~10であり、好ましくは1:10~100:2~5である。骨髄液と試薬とを混合した後、混合物を所定の条件下でインキュベートすることが好ましい。所定の条件としては、例えば、15~50℃、好ましくは30~45℃の温度で、5~120秒間、好ましくは5~30秒間インキュベートする条件が挙げられる。測定試料の調製は、用手法で行ってもよいし、自動血球分析装置により行ってもよい。
【0094】
本実施形態では、測定試料中の有核細胞及び脂質粒子の測定は、FCMにより行うことが好ましい。FCMによる測定では、調製した測定試料に光を照射して、光学的情報を取得する。具体的には、まず、測定試料をFCMのフローセルに導入し、該試料中の一つ一つの粒子がフローセルを通過するときに該粒子に光を照射する。そして、該粒子から発せられる散乱光及び蛍光を測定して、光学的情報を取得する。ここで、粒子とは、測定試料中に存在する有形成分であり、例えば、細胞、脂質粒子、溶血した赤血球の残骸(赤血球ゴースト)などのデブリスなどが挙げられる。試薬が蛍光色素を含まない場合、光学的情報として、散乱光情報を取得することが好ましい。試薬が蛍光色素を含む場合、光学的情報として、散乱光情報及び蛍光信号情報を取得することが好ましい。
【0095】
脂質粒子は、蛍光信号情報、前方散乱光情報及び側方散乱光情報のうちのいずれか2つの情報だけでは、他の血球と良好に区別できない場合があり得る。よって、本実施形態では、フローサイトメータにより取得した、蛍光信号情報、前方散乱光情報及び側方散乱光情報に基づいて、脂質粒子数を取得することが好ましい。
【0096】
散乱光情報としては、前方散乱光情報及び側方散乱光情報が好ましい。これらの散乱光情報としては、前方散乱光(例えば、受光角度0~20度付近)及び側方散乱光(例えば、受光角度80~100度付近)のパルスのピーク、パルス幅、及びパルス面積などが挙げられる。前方散乱光は、細胞の大きさを反映し、側方散乱光は、細胞内の核及び顆粒などの内部情報を反映することが知られている。本実施形態では、散乱光情報として、前方散乱光強度及び/又は側方散乱光強度を取得することが好ましい。蛍光信号情報としては、例えば、蛍光強度、蛍光パルス幅、及び蛍光パルス面積などが挙げられる。それらの中でも、蛍光強度が好ましい。照射する励起光の波長は、蛍光色素に応じて適宜選択できる。
【0097】
FCMは特に限定されず、市販の自動血球分析装置を用いてもよい。そのような装置としては、例えばシスメックス株式会社のXNシリーズなどが挙げられる。FCMの光源は特に限定されず、蛍光色素の励起に好適な波長の光源を適宜選択できる。光源としては、例えば、青色半導体レーザ、赤色半導体レーザ、アルゴンレーザ、He-Neレーザ、水銀アークランプなどが使用される。
【0098】
測定試料中の有核細胞数及び脂質粒子数は、FCMによる測定で得た光学的情報に基づいて取得できる。本実施形態では、前方散乱光情報、側方散乱光情報及び蛍光信号情報から選択される2つをX軸及Y縦軸にとったスキャッタグラムを作成し、得られたスキャッタグラムを適当な解析ソフトで解析することにより、有核細胞数及び脂質粒子数を取得することが好ましい。FCMで測定された個々の粒子は、スキャッタグラム上にドットで示される。
【0099】
例えば、有核赤血球及び白血球計数用試薬を用いて測定を行い、蛍光強度をX軸にとり、前方散乱光強度をY軸に取ったスキャッタグラムを作成した場合、
図1Aに示すにように、白血球及び有核赤血球が、集団を形成して分布する。白血球分類用試薬を用いて測定を行い、側方散乱光強度をX軸にとり、蛍光強度をY軸に取ったスキャッタグラムを作成した場合、
図1Bに示すにように、白血球が、リンパ球、単球、好中球、好酸球及び好塩基球の5種類の集団を形成して分布する。また、脂質粒子も、蛍光強度がほとんどない領域に集団を形成する。共通試薬を用いて測定を行い、蛍光強度をX軸にとり、側方散乱光強度をY軸に取ったスキャッタグラムを作成した場合、
図1Cに示すにように、有核細胞及び脂質粒子が、集団を形成して分布する。各集団における細胞数は、例えば、FCMに搭載された解析ソフトによって、スキャッタグラム上の各集団中のドットを計数することにより取得できる。なお、
図1A~Cはスキャッタグラムの例であり、本発明はこれらに限定されない。
【0100】
(骨髄有核細胞密度に関する指標の取得)
本実施形態の分析方法では、有核細胞数及び脂質粒子数に基づいて、骨髄有核細胞密度に関する指標を取得する。好ましい実施形態では、骨髄有核細胞密度に関する指標は、FCM測定により取得した有核細胞数及び脂質粒子数を用いて取得される、骨髄有核細胞密度に関連する情報である。また、骨髄有核細胞密度に関する指標は、有核細胞数及び脂質粒子数を用いて取得される値そのものに限られず、その値を用いて判定を行った結果、例えば、過形成、正形成、低形成などを示す情報であってもよい。
【0101】
本実施形態では、骨髄有核細胞密度に関する指標は、有核細胞数と脂質粒子数との比に関する値であることが好ましい。有核細胞数(NC)と脂質粒子数(LP)との比に関する値として、例えば、有核細胞数に対する脂質粒子数の比(LP/NC)、脂質粒子数に対する有核細胞数の比(NC/LP)、脂質粒子数及び有核細胞数の和に対する脂質粒子数の比(LP/(NC+LP))、脂質粒子数及び有核細胞数の和に対する有核細胞数の比(NC/(NC+LP))、これらの比から算出される値などが挙げられる。これらの比から算出される値とは、例えば、上記の比の算出において、任意の係数及び/又は定数を用いて得られた値が挙げられる。例えば、LP/NCの値が、塗抹標本の顕微鏡観察による骨髄有核細胞密度の値と同程度のオーダーとなるように、任意の係数及び/又は定数を用いることができる。また、有核細胞数と脂質粒子数との比の値に100を掛けて、比をパーセンテージで表してもよい。また、骨髄有核細胞密度に関する指標は、上記の比の値に対して、必要に応じ、任意の値を足したり引いたりしてもよい。好ましい実施形態では、有核細胞数と脂質粒子数との比に関する値は、有核細胞数と脂質粒子数との比の値が好ましく、特にLP/NCが好ましい。
【0102】
骨髄有核細胞密度に関する指標は、試料分析装置の出力部に出力してもよい。出力部は、例えば、FCMに搭載されている液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、CRT (Cathode Ray Tube)ディスプレイなどのディスプレイにより構成されることが好ましい。骨髄有核細胞密度に関する指標は、塗抹標本の顕微鏡観察による骨髄有核細胞密度と同等の価値を有する情報として用いられ得る。医師などの医療従事者は、骨髄有核細胞密度に関する指標を血液疾患の鑑別などに用いてもよい。また、骨髄有核細胞密度に関する指標は、その他の検査結果及び医学的所見と組み合わせて用いることが好ましい。
【0103】
(骨髄有核細胞密度の判定)
当該技術分野では、塗抹標本の顕微鏡観察による骨髄有核細胞密度が、低形成、正形成又は過形成であるかを判定する。実施例に示されるように、本実施形態の分析方法で得られる骨髄有核細胞密度に関する指標は、塗抹標本の顕微鏡観察による骨髄有核細胞密度と良好に相関する。本実施形態の分析方法においては、有核細胞数及び脂質粒子数に基づいて、骨髄の状態を判定してもよい。あるいは、骨髄有核細胞密度に関する指標に基づいて、骨髄の状態を判定してもよい。例えば、骨髄有核細胞密度に関する指標に基づいて、「骨髄の状態が低形成であるか」、「骨髄の状態が正形成であるか」及び「骨髄の状態が過形成であるか」から選択される少なくとも1つの判定を行ってもよい。
【0104】
上記の判定は、骨髄有核細胞密度に関する指標と、該指標に対応する所定の閾値との比較結果に基づいて行うことが好ましい。例えば、骨髄有核細胞密度に関する指標としてLP/NCを用いて低形成の判定を行う場合、LP/NCの値と第1の閾値とを比較する。本実施形態において、LP/NCの値が第1の閾値より高いとき、骨髄の状態は低形成であると判定する。LP/NCの値が第1の閾値より低いとき、骨髄の状態は正形成又は過形成であると判定する。
【0105】
本実施形態では、LP/NCの値が第1の閾値と同じであるとき、骨髄の状態は低形成であると判定してもよいし、骨髄の状態は正形成又は過形成であると判定してもよい。すなわち、LP/NCの値が第1の閾値以上であるとき、骨髄の状態は低形成であると判定してもよい。あるいは、LP/NCの値が第1の閾値以下であるとき、骨髄の状態は正形成又は過形成であると判定してもよい。
【0106】
例えば、骨髄有核細胞密度に関する指標としてLP/NCを用いて過形成の判定を行う場合、LP/NCの値と第2の閾値とを比較する。本実施形態において、骨髄有核細胞密度に関する指標としてLP/NCを用いる場合、第2の閾値は、第1の閾値よりも低い値である。LP/NCの値が第2の閾値より低いとき、骨髄の状態は過形成であると判定する。LP/NCの値が第2の閾値より高いとき、骨髄の状態は正形成又は低形成であると判定する。
【0107】
本実施形態では、LP/NCの値が第2の閾値と同じであるとき、骨髄の状態は過形成であると判定してもよいし、骨髄の状態は正形成又は低形成であると判定してもよい。すなわち、LP/NCの値が第2の閾値以下であるとき、骨髄の状態は過形成であると判定してもよい。あるいは、LP/NCの値が第2の閾値以上であるとき、骨髄の状態は正形成又は低形成であると判定してもよい。
【0108】
例えば、骨髄有核細胞密度に関する指標としてLP/NCを用いて正形成の判定を行う場合、LP/NCの値と、第1閾値及び第2の閾値とを比較する。LP/NCの値が第1の閾値より低く且つ第2の閾値より高いとき、骨髄の状態は正形成であると判定する。
【0109】
本実施形態では、LP/NCの値が第1の閾値と同じであるとき、骨髄の状態は正形成であると判定してもよい。また、LP/NCの値が第2の閾値と同じであるとき、骨髄の状態は正形成であると判定してもよい。すなわち、LP/NCの値が第1の閾値以下であり且つ第2の閾値より高いとき、骨髄の状態は正形成であると判定してもよい。あるいは、LP/NCの値が第1の閾値より低く且つ第2の閾値以上であるとき、骨髄の状態は、正形成であると判定してもよい。あるいは、LP/NCの値が第1の閾値以下であり且つ第2の閾値以上であるとき、骨髄の状態は正形成であると判定してもよい。
【0110】
骨髄の状態の判定結果は、上記の出力部に出力してもよい。このように、本実施形態の分析方法は、医師などの医療従事者に対して、骨髄の状態の判定を補助する情報の提供を可能にする。
【0111】
所定の閾値は特に限定されず、適宜設定できる。例えば、健常者及び種々の血液疾患の患者の骨髄液における有核細胞数及び脂質粒子数を測定し、データを蓄積することにより、所定の閾値を経験的に設定してもよい。具体的には、次のようにして所定の閾値を設定してもよい。
【0112】
まず、複数の健常者及び種々の血液疾患の患者を含む被検者から骨髄液を採取し、塗抹標本の顕微鏡観察による骨髄有核細胞密度と、FCM測定による骨髄有核細胞密度に関する指標を取得する。次いで、被検者を、塗抹標本の顕微鏡観察による骨髄有核細胞密度に基づいて、低形成群、正形成群及び過形成群に分類する。そして、FCM測定による骨髄有核細胞密度に関する指標について、各群を最も精度よく区別可能な値を求め、その値を所定の閾値として設定する。閾値の設定においては、感度、特異度、陽性的中率、陰性的中率などを考慮することが好ましい。
【0113】
第1の閾値としては、例えば0.3より高く且つ0.75以下、好ましくは0.4以上0.5以下の範囲から設定してもよい。また、第2の閾値としては、例えば0.05以上且つ0.3以下、好ましくは0.08以上0.25以下の範囲から設定してもよい。
【0114】
[2.試料分析装置]
以下、本実施形態に係る試料分析装置の一例を、図面を参照して説明する。
【0115】
(試料分析装置の構成)
図2Aに示されるように、試料分析装置1は、測定部2と、解析部3とを備える。測定部2は、骨髄液を取り込み、骨髄液から測定試料を調製し、測定試料を光学測定する。解析部3は、測定部2の測定により得られた測定データを処理し、骨髄液の分析結果を出力する。しかし、本実施形態はこの例のみに限定されず、例えば、測定部2及び解析部3が一体的に構成された装置であってもよい。
【0116】
測定部2は、吸引部4と、試料調製部5と、検出部6と、信号処理回路81と、マイクロコンピュータ82と、通信インターフェース83とを備える。吸引部4は、吸引管42を有する。吸引部4は、試験管41に収容された骨髄液を吸引管42によって吸引する。
【0117】
試料調製部5は、反応槽54を有し、試薬容器51、52及び53に接続されている。試験管41は、骨髄液を収容する。試薬容器51は、希釈液を収容する。試薬容器51に収容される希釈液は、フローサイトメトリ法による測定においてシース液として利用される。試薬容器52は、溶血剤を含む溶解試薬を収容する。試薬容器53は、蛍光色素を含む染色試薬を収容する。吸引部4は、吸引管42を反応槽54の上方へ移動させ、試験管41から吸引された骨髄液を反応槽54に吐出する。骨髄液と溶解試薬と染色試薬とが反応槽54で混合され、測定試料が調製される。本実施形態では、溶血剤及び蛍光色素の両方を含む1つの試薬を、骨髄液と混合して測定試料を調製してもよい。測定試料は、フローサイトメトリ法による光学的測定に供される。なお、本実施形態では、骨髄液中の有核細胞数及び脂質粒子数をフローサイトメトリ法により取得しているがこれに限られない。例えば、骨髄液の塗抹標本を撮像し、撮像した粒子画像に対して画像解析を行い、有核細胞数及び脂質粒子数を取得してもよい。また、曲線状の流路に細胞を流し、粒子にかかる外力の大きさの違いを利用して、有核細胞及び脂質粒子ごとに流れる位置を変えて粒子を分離し、分離した有核細胞及び脂質粒子をそれぞれ計数して有核細胞数及び脂質粒子数を取得してもよい。
【0118】
図2Bに示されるように、本実施形態の試料分析装置は、2つ以上の試料調製部を備えてもよい。
図2Bの試料分析装置1は、測定部2が試料調製部5a及び5bを備えること以外は、
図2Aの試料分析装置1と同じである。試料調製部5aは、反応槽54aを有し、試薬容器51a、52a及び53aに接続されている。試験管41は、骨髄液を収容する。試料調製部5bは、反応槽54bを有し、試薬容器51b、52b及び53bに接続されている。試薬容器51a及び51bは、希釈液を収容する。試薬容器52a及び52bは、溶血剤を含む溶解試薬を収容する。試薬容器52a及び52bにおいて、溶血剤の種類は異なっていてもよい。試薬容器53a及び53bは、蛍光色素を含む染色試薬を収容する。試薬容器53a及び53bにおいて、蛍光色素の種類は異なっていてもよい。例えば、試薬容器52a及び53aのそれぞれに、第1試薬としての有核赤血球及び白血球計数用試薬の溶解試薬及び染色試薬が収容されてもよい。また、試薬容器52b及び53bのそれぞれに、第2試薬としての白血球分類用試薬の溶解試薬及び染色試薬が収容されてもよい。吸引部4は、試験管41から吸引された骨髄液を反応槽54a及び54bのそれぞれに吐出する。反応槽54aに吐出された骨髄液を第1骨髄液と呼び、反応槽54bに吐出された骨髄液を第2骨髄液と呼ぶ。反応槽54aでは、第1測定試料が調製され、反応槽54bでは、第2測定試料が調製される。
【0119】
本実施形態では、検出部6は、フローサイトメトリ法による粒子の光学的測定に用いられる。検出部6は、フローセル61と、光源部62と、受光部63及び64とを備える。フローセル61は、試薬容器51に収容された希釈液及び試料調製部5により調製された測定試料が供給される。以下、フローサイトメトリ法により検出部6において粒子の検出を行い、有核細胞数及び脂質粒子数を取得する方法を説明するが、これに限られない。検出部6を骨髄液の塗抹標本を撮像する撮像部を備える構成とし、撮像部において撮像した粒子画像に基づいて、有核細胞数及び脂質粒子数を取得してもよい。
【0120】
フローセル61は、透光性を有する石英、ガラス、合成樹脂などの材料によって管状に構成される。フローセル61の内部は、測定試料及びシース液が流れる流路となっている。
図3を参照して、フローセル61には、内部空間が他の部分よりも細く絞り込まれたオリフィス61aが設けられている。また、オリフィス61aの入口付近は二重管構造となっており、その内側管部分は試料ノズル61bとなっており、これを介して、試料調製部5により調製された測定試料が供給される。試料ノズル61bの外側の空間は、シース液が流れる流路61cである。シース液は、流路61cを通って、オリフィス61aに導入される。このように、フローセル61に供給されたシース液は、試料ノズル61bから吐出された測定試料を包むように流れる。そして、オリフィス61aによって測定試料の流れが細く絞り込まれ、シース液で包まれた測定試料中の粒子が1つずつオリフィス61aを通過する。
【0121】
光源部62は、半導体レーザ光源であり、例えば波長633 nmの赤色レーザ光をフローセル61のオリフィス61aへ照射する。受光部63、64及び65は、フローセル61中の測定試料の流れに光が照射されたときに、測定試料中の個々の粒子から発せられる光を検出する。受光部63、64及び65には、アバランシェフォトダイオード、フォトダイオード又は光電子倍増管を採用できる。以下、光源部62とフローセル61とを結ぶ方向を「X方向」といい、X方向に対して直交する方向を「Y方向」という。フローセル61からY方向側には、ダイクロイックミラー66が配置されている。ダイクロイックミラー66は、測定試料の個々の粒子から発せられる蛍光を透過し、測定試料の個々の粒子から発せられる側方散乱光を反射する。受光部63は、フローセル61からY方向側に配置され、ダイクロイックミラー66を透過した蛍光を検出できる。受光部65は、ダイクロイックミラー66から反射した側方散乱光を検出できる。受光部64は、フローセル61からX方向側に配置される。さらに具体的には、受光部64は、フローセル61を挟んで光源部62の反対側に配置される。受光部64は、測定試料の個々の粒子から発せられる前方散乱光を検出できる。
【0122】
側方散乱光は、光源部62の光軸方向(X方向)に対して90°の方向(Y方向)に散乱する光に限定されない。側方散乱光は、例えば、X方向に対して80°以上100°以下の方向に散乱する光であってもよい。前方散乱光は、光源部62の光軸方向(X方向)に散乱する光に限定されない。前方散乱光は、例えば、X方向に対して-10°以上10°以下の方向に散乱する光であってもよい。
【0123】
本実施形態では、光源部62とフローセル61との間に、図示しない複数のレンズからなる照射レンズ系を配置してもよい。照射レンズ系によって、半導体レーザ光源から射出された平行ビームがビームスポットに集束できる。
【0124】
受光部63、64及び65のそれぞれは、検出した蛍光、前方散乱光及び側方散乱光を光電変換して、受光強度を示すアナログ信号を出力する。以下、受光部63から出力されるアナログ信号を「蛍光信号」といい、受光部64から出力されるアナログ信号を「前方散乱光信号」といい、受光部65から出力されるアナログ信号を「側方散乱光信号」という。
【0125】
信号処理回路81は、受光部63、64、65が出力するアナログ信号に対して信号処理を行う。信号処理回路81は、蛍光信号、前方散乱光信号及び側方散乱光信号に含まれるパルスのピーク値を特徴パラメータとして抽出する。以下、蛍光信号のピーク値を「蛍光強度」といい、前方散乱光信号のピーク値を「前方散乱光強度」といい、側方散乱光信号のピーク値を「側方散乱光強度」という。
【0126】
マイクロコンピュータ82は、吸引部4、試料調製部5、検出部6、信号処理回路81、及び通信インターフェース83を制御する。通信インターフェース83は、通信ケーブルによって解析部3に接続される。測定部2は、通信インターフェース83によって、解析部3とデータ通信を行う。通信インターフェース83は、各特徴パラメータを含む測定データを解析部3へ送信する。
【0127】
図4を参照し、解析部3の構成について説明する。解析部3は、本体300と、入力部309と、出力部310とを備えている。本体300は、CPU(Central Processing Unit)301と、ROM(Read Only Memory)302と、RAM(Random Access Memory)303と、ハードディスク304と、読出装置305と、入出力インターフェース306と、画像出力インターフェース307と、通信インターフェース308とを有する。本実施の形態においては、出力部310として画像を表示するディスプレイを用いている。
【0128】
CPU301は、ROM302に記憶されているコンピュータプログラム322及びRAM303にロードされたコンピュータプログラムを実行する。RAM303は、ROM302及びハードディスク304に記録されている各コンピュータプログラムの読み出しに用いられる。RAM303は、各コンピュータプログラムを実行するときに、CPU301の作業領域としても利用される。ハードディスク304には、測定部2から与えられた測定データを解析して解析結果を出力するためのコンピュータプログラムであるアプリケーションプログラム320がインストールされている。コンピュータプログラム322には、BIOS(Basic Input Output System)が含まれる。アプリケーションプログラム320には、OS(Operating System)、骨髄液分析用プログラム及び骨髄の状態の判定用プログラムが含まれる。骨髄液分析用プログラムは、骨髄液中の有核細胞数及び脂質粒子数を取得し、有核細胞数及び脂質粒子数に基づいて、骨髄有核細胞密度に関する指標を取得するためのプログラムをいう。骨髄の状態の判定用プログラムは、骨髄有核細胞密度に関する指標に基づいて、骨髄の状態を判定するためのプログラムをいう。
【0129】
読出装置305は、CD-ROMドライブ、DVD-ROMドライブ、USBポート、SDカードリーダ、CFカードリーダ、メモリースティックリーダ、ソリッドステートドライブ、フレキシブルディスクドライブなどであり、可搬型記録媒体321に記録されたコンピュータプログラム又はデータを読み出すことができる。また、可搬型記録媒体321には、コンピュータを解析部3として機能させるためのコンピュータプログラム320が格納されている。可搬型記録媒体321から読み出されたコンピュータプログラム320は、ハードディスク304にインストールされる。
【0130】
入力部309は、入出力インターフェース306に接続される。出力部310は、画像出力インターフェース307に接続される。通信インターフェース308は、測定部2の通信インターフェース83に接続される。
【0131】
(試料分析装置の動作)
図5を参照して、試料分析装置1の動作について説明する。まず、解析部3のCPU301が、ユーザからの測定実行の指示を、入力部309を介して受け付ける(ステップS101)。
【0132】
測定実行指示の入力受付は、試料分析装置1の出力部310に表示される検体種選択画面に基づいて行うことが好ましい。例えば、試料分析装置1が試料として、血液試料及び骨髄液を含む体液試料の両方の測定を行うことができる場合、新規の分析オーダーの入力画面に検体種を指定する検体種選択画面を表示し、血液及び体液からユーザに検体種を選択させることができる。検体種や測定項目等の設定後、画面に表示される測定開始をユーザがクリックすることで測定実行指示が行われる。なお、検体種の選択はこの例に限られず、例えば、骨髄液、脳脊髄液、胸水、腹水等、体液の具体的な体液の種類を指定する構成であってもよい。
【0133】
前述したとおり、被検者から採取した骨髄液には、骨片、血球細胞の凝集などの細胞測定の障害となり得る固形の夾雑物が含まれている場合がある。また、骨髄液と血液では含まれる血球の濃度も異なっている。このため、試料分析装置1が、血液及び骨髄液の両方の測定を行うことができる場合、血液及び骨髄液の検体間のキャリーオーバー等の影響を抑制するため、測定実行指示の入力受付時に設定された検体種に応じて、吸引部4やフローセル61に対し、通常の洗浄動作に加えて追加の洗浄動作を行ってもよい。具体的には、検体種として骨髄液が設定された場合には、吸引部4による骨髄液の吸引前に、前述の追加の洗浄を行う。
【0134】
解析部3が測定実行の指示を受け付けると、CPU301は、測定部2に測定開始を指示する指示データを送信し(ステップS102)、測定部2が指示データを受信する(ステップS103)。測定部2のマイクロコンピュータ82は、測定試料調製処理を実行し(ステップS104)、測定処理を実行する(ステップS105)。
【0135】
図6を参照して、測定試料調製処理について説明する。マイクロコンピュータ82が吸引部4を制御して、反応槽54に所定量の骨髄液を供給する(ステップS201)。次に、マイクロコンピュータ82が試料調製部5を制御して、試薬容器52から反応槽54に所定量の第1試薬を供給し、試薬容器53から反応槽54に所定量の第2試薬を供給する(ステップS202)。反応槽54は、ヒータによって所定温度になるように加温されている。加温された状態で、反応槽54内の混合物の撹拌が行われる(ステップS203)。ステップS201~S203の動作により、反応槽54において測定試料が調製される。マイクロコンピュータ82が試料調製部5を制御して、測定試料を反応槽54から検出部6へ導出する(ステップS204)。複数の反応槽を有する測定部により、例えば、有核細胞測定用の第1測定試料と脂質粒子測定用の第2測定試料等の複数の測定試料を調製する場合は、上記のステップを繰り返す。ステップS204の処理が終了すると、マイクロコンピュータ82は、メインルーチンへ処理をリターンする。
【0136】
再び
図5を参照して、測定試料調製後の測定処理では、検出部6による測定試料の測定が行われる。試料調製部5が、シース液と共に測定試料をフローセル61に供給する。測定試料がフローセル61内を流れると、粒子が1つずつ、フローセル61のオリフィス61aを順次通過する。光源部62が、フローセル61内を流れる測定試料に光を照射する。より具体的には、光源部62は、フローセル61のオリフィス61aを通過する個々の粒子に光を照射する。粒子に光が照射されるたびに、該粒子から蛍光、前方散乱光及び側方散乱光が発せられる。
【0137】
粒子から発せられた蛍光は、受光部63によって検出される。粒子から発せられた前方散乱光は、受光部64によって検出される。粒子から発せられた側方散乱光は、受光部65によって検出される。受光部63、64及び65のそれぞれは、受光レベルに応じた電気信号を、蛍光信号、前方散乱光信号及び側方散乱光信号として出力する。信号処理回路81は、蛍光信号から蛍光強度を抽出し、前方散乱光信号から前方散乱光強度を抽出し、側方散乱光信号から側方散乱光強度を抽出する。測定処理の後、マイクロコンピュータ82は、各特徴パラメータを含む測定データを解析部3へ送信し(ステップS106)、処理を終了する。
【0138】
解析部3は、測定データを受信する(ステップS107)。その後、CPU301は、測定データ解析処理を実行し、骨髄液の分析結果を生成して、分析結果をハードディスク304に格納する(ステップS108)。
【0139】
図7を参照し、測定データ解析処理について説明する。測定データ解析処理を開始すると、解析部3のCPU301は、測定データに含まれる蛍光強度、前方散乱光強度及び側方散乱光強度に基づいて、有核細胞及び脂質粒子を分類する(ステップS301)。CPU301は、蛍光強度、前方散乱光強度及び側方散乱光強度のデータを用いて、スキャッタグラムを作成してもよい。複数の測定試料を測定した場合は、各測定試料のデータに基づいて、測定試料ごとにスキャッタグラムを作成してもよい。
【0140】
上記の溶解試薬及び染色試薬として、共通試薬を用いた場合を例として、ステップS301の処理を説明する。しかし、本発明はこの例に限定されない。ステップS301において、CPU301は、側方散乱光強度の粒度分布と、蛍光強度の粒度分布とを組み合わせて、白血球系細胞を含む群、赤芽球系細胞を含む群、脂質粒子を含む群、及び赤血球ゴーストを含む集団を特定する。より具体的には、例えば
図1Cに示すとおり、CPU301は、白血球系細胞を含む群として、蛍光強度及び側方散乱光強度の両方が大きい粒子群を特定する。CPU301は、赤芽球系細胞を含む群として、側方散乱光強度が白血球系細胞を含む群と同程度であり、且つ、蛍光強度が白血球系細胞を含む群よりも小さい群を特定する。CPU301は、脂質粒子を含む群として、側方散乱光強度が白血球系細胞を含む群と同程度又は大きく、且つ蛍光強度が赤芽球系細胞を含む群より小さい群を特定する。CPU301は、赤血球ゴーストを含む群として、側方散乱光強度及び蛍光強度が赤芽球系細胞を含む群より小さい群を特定する。
【0141】
ステップS302において、CPU301は、ステップS301で分類した白血球系細胞を含む群及び赤芽球系細胞を含む群の粒子数を有核細胞数として計数し、また脂質粒子を含む群の粒子数を計数する。そして、CPU301は、有核細胞数及び脂質粒子数をハードディスク304に記憶する。ステップS303において、CPU301は、計数した有核細胞数及び脂質粒子数に基づいて、骨髄有核細胞密度に関する指標を取得する。該指標として、有核細胞数に対する脂質粒子数の比を取得する場合、CPU301は、脂質粒子数を有核細胞数で割って、有核細胞数に対する脂質粒子数の比を取得する。CPU301は、取得した骨髄有核細胞密度に関する指標をハードディスク304に記憶する。
【0142】
ステップS304において、CPU301が、ユーザからの判定開始実行の指示を、入力部309を介して受け付けた場合、CPU301は、ステップS303で取得した骨髄有核細胞密度に関する指標に基づいて、骨髄の状態を判定する。CPU301が、ユーザからの判定開始実行の指示を受け付けていなかった場合、CPU301は、測定データ解析処理を終了し、メインルーチンへ処理をリターンする。
図5を参照して、上記のような測定データ解析処理を終了すると、CPU301は、分析結果を出力部310に出力して(ステップS109)、処理を終了する。なお、本実施形態では骨髄の状態の判定をユーザからの判定開始実行の指示に基づいて行っているがこれに限られず、特にユーザからの指示がなくとも自動的に判定を行う構成であってもよい。
【0143】
[3.コンピュータプログラム]
図8Aを参照して、骨髄の状態が低形成であるかの判定処理について説明する。ここでは、骨髄有核細胞密度に関する指標として、有核細胞数に対する脂質粒子数の比(LP/NC)の値を取得した場合を例として説明する。しかし、本発明はこの例に限定されない。ステップS401において、CPU301は、取得したLP/NCの値と、ハードディスク304に記憶された第1の閾値とを比較する。測定値が所定の閾値より高いとき、処理は、ステップS402に進行する。CPU301は、骨髄の状態が低形成であるとの判定結果を取得し、ハードディスク304に記憶する。LP/NCの値が第1の閾値以下であるとき、処理は、ステップS403に進行する。CPU301は、骨髄の状態が正形成又は過形成であるとの判定結果を取得し、ハードディスク304に記憶する。以上で、CPU301は、判定処理を終了し、メインルーチンへ処理をリターンする。
図5を参照して、CPU301は、判定結果を出力部310に出力して(ステップS110)、処理を終了する。
【0144】
図8Bを参照して、骨髄の状態が過形成であるかの判定処理について説明する。ここでは、骨髄有核細胞密度に関する指標として、LP/NCの値を取得した場合を例として説明する。しかし、本発明はこの例に限定されない。ステップS501において、CPU301は、取得したLP/NCの値と、ハードディスク304に記憶された第2の閾値とを比較する。測定値が所定の閾値より低いとき、処理は、ステップS502に進行する。CPU301は、骨髄の状態が過形成であるとの判定結果を取得し、ハードディスク304に記憶する。LP/NCの値が第2の閾値以上であるとき、処理は、ステップS503に進行する。CPU301は、骨髄の状態が正形成又は低形成であるとの判定結果を取得し、ハードディスク304に記憶する。以上で、CPU301は、判定処理を終了し、メインルーチンへ処理をリターンする。
図5を参照して、CPU301は、判定結果を出力部310に出力して(ステップS110)、処理を終了する。
【0145】
図8Cを参照して、骨髄の状態が低形成、正形成及び過形成のいずれであるかの判定処理について説明する。ここでは、骨髄有核細胞密度に関する指標として、LP/NCの値を取得した場合を例として説明する。しかし、本発明はこの例に限定されない。ステップS601において、CPU301は、取得したLP/NCの値と、ハードディスク304に記憶された第1の閾値とを比較する。測定値が所定の閾値より高いとき、処理は、ステップS602に進行する。CPU301は、骨髄の状態が低形成であるとの判定結果を取得し、ハードディスク304に記憶する。LP/NC値が第1の閾値以下であるとき、処理は、ステップS603に進行する。
【0146】
ステップS603において、CPU301は、取得したLP/NCの値と、ハードディスク304に記憶された第2の閾値とを比較する。測定値が所定の閾値より低いとき、処理は、ステップS604に進行する。CPU301は、骨髄の状態が過形成であるとの判定結果を取得し、ハードディスク304に記憶する。LP/NCの値が第2の閾値以上であるとき、処理は、ステップS605に進行する。CPU301は、骨髄の状態が正形成であるとの判定結果を取得し、ハードディスク304に記憶する。以上で、CPU301は、判定処理を終了し、メインルーチンへ処理をリターンする。
図5を参照して、CPU301は、判定結果を出力部310に出力して(ステップS110)、処理を終了する。
【0147】
本実施形態では、
図8A~Cを用いて、「低形成であるかの判定処理」、「過形成であるかの判定処理」及び「低形成、正形成及び過形成のいずれであるかの判定処理」をそれぞれ個別に説明したが、骨髄の状態の判定処理(S305)はこれらの一部でも実施していればよく、また全ての判定処理を行ってもよい。
【0148】
図9を参照して、出力部310に表示される分析結果の例について説明する。しかし、本発明はこの例に限定されない。出力部310には、分析結果画面500が表示される。分析結果画面500は、試料情報表示領域510と、患者情報表示領域520と、測定結果表示領域530と、参考情報表示領域540とを有する。
【0149】
試料情報表示領域510には、測定した骨髄液の情報が表示される。患者情報表示領域520には、骨髄液を採取された被検者の情報が表示される。測定結果表示領域530には、測定データ解析処理によって得られた各項目の測定値が表示される。測定結果表示領域530に表示される測定値は、白血球数(WBC)と、有核赤血球数(NRBC)と、脂質粒子数(LIPID)の測定値を含む。また、骨髄有核細胞密度に関する指標として、LP/NCの値が表示される。骨髄有核細胞密度に関する指標はLP/NCの値に限定されず、他の値を表示してもよい。また、白血球数(WBC)及び有核赤血球数(NRBC)の和を有核細胞数として表示してもよい。測定結果表示領域530には、脂質粒子数の計数に用いた、側方散乱光強度及び蛍光強度を座標軸とする座標空間における粒子の分布を示すスキャッタグラム531と、側方散乱光強度及び前方散乱光強度を座標軸とする座標空間における粒子の分布を示すスキャッタグラム532を表示している。また、測定結果表示領域530には、有核細胞数の計数に用いた、蛍光強度及び前方散乱光強度を座標軸とする座標空間における粒子の分布を示すスキャッタグラム533を表示している。
【0150】
骨髄有核細胞密度に関する指標に基づいて、骨髄の状態の判定を行った場合、参考情報表示領域540には、判定結果が表示される。
図9では、被検者の骨髄の状態が正形成であるとの判定結果として「Normocellular」とのフラグが出力部310に表示される。さらに、骨髄の状態が過形成であるときには、例えば、「Hypercellular」のフラグを出力部310に表示してもよい。また、低形成であるときには、例えば、「Hypocellular」のフラグを出力部310に表示してもよい。しかし、判定結果を示す情報は、これに限定されない。
【0151】
このように本実施形態の試料分析装置及びコンピュータプログラムは、骨髄有核細胞密度に関する指標及びそれに基づく判定結果を医師などに提供することにより、血液疾患の診断及び鑑別を補助することができる。
【0152】
以下に、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0153】
実施例1
(1) 試薬
実施例1では、有核細胞を測定するための第1試薬と、脂質粒子を測定するための第2試薬とを用いた。第1試薬は、溶血剤を含む溶解試薬と、蛍光色素を含む染色試薬との二試薬で構成される、有核赤血球及び白血球計数用試薬であった。第2試薬は、溶血剤を含む溶解試薬と、蛍光色素を含む染色試薬との二試薬で構成される白血球分類用試薬であった。各試薬は、以下のようにして調製した。
【0154】
(1.1) 第1試薬
・溶解試薬
ドデシルトリメチルアンモニウムクロライド(LTAC:東京化成工業株式会社)、ポリオキシエチレン(20)ポリオキシプロピレン(8)セチルエーテル(PBC-44:日光ケミカルズ株式会社)、フタル酸水素カリウム(富士フイルム和光純薬株式会社)、DL-リンゴ酸及びEDTA-2K(中部キレスト株式会社)を、以下の組成となるように混合した。溶媒には精製水を用いた。水酸化ナトリウムを用いて、試薬のpHを3.0に調整した。
【0155】
[溶解試薬の組成]
2000 ppm LTAC
1000 ppm PBC-44
2 mM フタル酸水素カリウム
10 mM DL-リンゴ酸
0.2 g/L EDTA-2K
0.0324 g/L NaOH
【0156】
・染色試薬
蛍光色素のNK-3383(株式会社林原)をエチレングリコールに溶解した。染色試薬におけるNK-3383の濃度は、51.1 mg/Lであった。
【0157】
(1.2) 第2試薬
・溶解試薬
LTAC(東京化成工業株式会社)、ポリオキシエチレン(30)セチルエーテル(BC30TX:日光ケミカルズ株式会社)、フタル酸水素カリウム(富士フイルム和光純薬株式会社)及びEDTA-2K(中部キレスト株式会社)を、以下の組成となるように混合した。溶媒には精製水を用いた。水酸化ナトリウムを用いて、試薬のpHを6.0に調整した。
【0158】
[溶解試薬の組成]
685 ppm LTAC
1750 ppm BC30TX
40 mM フタル酸水素カリウム
0.2 g/L EDTA-2K
1.431 g/L NaOH
【0159】
・染色試薬
第2試薬の染色試薬として、ストマトライザー4DS(シスメックス株式会社)を用いた。
【0160】
(2) 測定
(2.1) 測定試料の調製
18名の被検者から採取した骨髄液(EDTA-2K添加骨髄液)を用いた。各被検者の骨髄液から一部を取り、常法にしたがって染色して塗抹標本を作製した。残りの骨髄液を孔径40μmのナイロンメッシュでろ過することにより、骨片を除いた。FCMを備えた自動血球分析装置XN-2000(シスメックス株式会社)により、骨髄液を次のようにして測定した。まず、骨髄液を第1骨髄液及び第2骨髄液に分けた。第一骨髄液(1μL)に第1試薬の溶解試薬(50μL)及び染色試薬(1μL)を添加し、40℃で20秒間インキュベートして、第1測定試料を調製した。第2骨髄液(1μL)に第2試薬の溶解試薬(50μL)及び染色試薬(1μL)を添加し、40℃で20秒間インキュベートして、第2測定試料を調製した。
【0161】
(2.2) 測定試料の測定
第1測定試料に光を照射して、該試料中の個々の粒子から発せられる光学的シグナルを取得した。また、第2測定試料に光を照射して、該試料中の個々の粒子から発せられる光学的情報を取得した。実施例1では、光学的情報として、蛍光強度、側方散乱光強度及び前方散乱光強度を取得した。また、各測定試料の測定で取得した光学的シグナルに基づいて、スキャッタグラムを作成した。なお、骨髄液の分配、測定試料の調製及び測定は、XN-2000により自動的に行われた。
【0162】
作成したスキャッタグラムの一例を、
図10A、B及びCに示す。
図10Aは、第1試薬(有核赤血球及び白血球計数用試薬)を用いた測定のスキャッタグラムであり、
図10B及びCは、第2試薬(白血球分類用試薬)を用いた測定のスキャッタグラムである。
図10Aでは、X軸に蛍光強度をとり、Y軸に前方散乱光強度をとった。
図10Bでは、X軸に側方散乱光強度をとり、Y軸に蛍光強度をとった。
図10Cでは、X軸に側方散乱光強度をとり、Y軸に前方散乱光強度をとった。
図10Aにおいて、楕円で囲んだ領域で示すように、有核赤血球の集団、好塩基球の集団、及び好塩基球以外の白血球の集団が、有核細胞の集団としてとして出現した。
図10Bにおいて、楕円で囲んだ領域で示すように、白血球が、リンパ球の集団、単球の集団、好中球及び好塩基球の集団、好酸球の集団、及び顆粒球系幼若球の集団の5つに分類された。また、脂質粒子の集団が、蛍光強度がほとんどない領域における集団として、X軸に沿うように出現した。
図10Cでは、白血球が、リンパ球の集団、単球の集団、好中球及び好塩基球の集団、及び好酸球の集団の4つに分類された。また、脂質粒子の集団が、スキャッタグラム中を蛇行するような領域に出現した。実施例1では、有核赤血球及び白血球計数用試薬を用いた測定で得た蛍光強度及び前方散乱光強度に基づいて、有核細胞数を取得した。また、白血球分類用試薬を用いた測定で得た蛍光強度、側方散乱光強度及び前方散乱光強度に基づいて、脂質粒子数を取得した。
【0163】
(3) 分析及び結果
塗抹標本を顕微鏡で観察して、各被検者の骨髄有核細胞密度を取得し、骨髄の状態を判定した。その結果、低形成が7名、正形成が5名、過形成が6名であった。各被検者の骨髄液について、XN-2000により取得した有核細胞数及び脂質粒子数から、有核細胞数に対する脂質粒子数の比(脂質粒子数/有核細胞数)を算出した。顕微鏡観察に基づく骨髄有核細胞密度により分類された各被検者について、有核細胞数に対する脂質粒子数の比の分布を調べた。結果を
図11に示す。
【0164】
有核細胞数に対する脂質粒子数の比の値について、ROC解析により、低形成の被検者と、残りの被検者(正形成及び過形成)とを判別する最適なカットオフ値を求めた。その結果、比の値のカットオフ値が0.45であるとき、感度が100.0%、特異度が85.7%であった。また、過形成の被検者と、残りの被検者(正形成及び低形成)とを判別する最適なカットオフ値も求めた。その結果、有核細胞数に対する脂質粒子数の比のカットオフ値が0.17であるとき、感度が94.1%、特異度が90.9%であった。得られたROC曲線を
図12A及びBに示す。
【0165】
(4) 考察
図11から分かるように、顕微鏡観察に基づく骨髄有核細胞密度と、自動血球分析装置による有核細胞数に対する脂質粒子数の比との相関は良好であった。上記の結果より、骨髄液をFCMで測定することにより、骨髄有核細胞密度に関連する情報として、有核細胞数に対する脂質粒子数の比を取得できることが示された。また、有核細胞数に対する脂質粒子数の比に基づいて、骨髄の状態を精度よく判定できることが示された。
【符号の説明】
【0166】
1 試料分析装置
2 測定部
3 解析部
5 試料調製部
6 検出部
61 フローセル
62 光源部
63 受光部
64 受光部
65 受光部
301 CPU
310 出力部
320 アプリケーションプログラム
321 可搬型記録媒体