(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-07
(45)【発行日】2023-06-15
(54)【発明の名称】カーボンナノチューブ分散液およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 32/174 20170101AFI20230608BHJP
C01B 32/159 20170101ALI20230608BHJP
C08L 79/02 20060101ALI20230608BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20230608BHJP
B82Y 30/00 20110101ALI20230608BHJP
B82Y 40/00 20110101ALI20230608BHJP
【FI】
C01B32/174
C01B32/159
C08L79/02
C08K3/04
B82Y30/00
B82Y40/00
(21)【出願番号】P 2020093286
(22)【出願日】2020-05-28
【審査請求日】2022-02-08
(73)【特許権者】
【識別番号】504143441
【氏名又は名称】国立大学法人 奈良先端科学技術大学院大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000108742
【氏名又は名称】タツタ電線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】野々口 斐之
(72)【発明者】
【氏名】河合 壯
(72)【発明者】
【氏名】飯原 友
【審査官】青木 千歌子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/022229(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/133226(WO,A1)
【文献】特開2008-177143(JP,A)
【文献】国際公開第2020/129872(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/159-32/174
C09K 23/00- 23/56
C08L 79/02
C08K 3/04
B82Y 30/00
B82Y 40/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
単層カーボンナノチューブと、ポリアリルアミン誘導体と、有機溶媒と、を含み、
上記単層カーボンナノチューブ100質量部に対し、上記ポリアリルアミン誘導体を400~40000質量部含
み、
上記有機溶媒は、1,4-ジオキサン、シクロヘキサノン、γ-ブチロラクトン、炭酸ジメチル、N-シクロヘキシルピロリドン、N,N’-ジメチルプロピレン尿素、プロピルアミン、酢酸メチル、酢酸プロピル、プロピオニトリル、1-メチルイミダゾール、2-メチルテトラヒドロフラン、3-ジメチルアミノプロピオニトリル、ブチルアミン、イソブチルアミン、3-メトキシプロピルアミン、3-エトキシプロピルアミン、1,2-ジメトキシエタンからなる群より選択される1種以上を含む、カーボンナノチューブ分散液。
【請求項2】
上記ポリアリルアミン誘導体が下記式(1)で表される構造を有する、請求項1に記載のカーボンナノチューブ分散液。
【化1】
(式中、l+m+nは1以上の整数であり、かつ、l、mおよびnのうち、少なくとも1つは1以上の整数であり、Rはそれぞれ独立して、-[CO(CH
2)
bO]
aHであり、aは1以上の整数であり、bは2~20の整数である。)
【請求項3】
単層カーボンナノチューブおよびポリアリルアミン誘導体を有機溶媒に分散させる工程を含み、
上記工程において、上記単層カーボンナノチューブ100質量部に対し、上記ポリアリルアミン誘導体を400~40000質量部用
い、
上記有機溶媒は、1,4-ジオキサン、シクロヘキサノン、γ-ブチロラクトン、炭酸ジメチル、N-シクロヘキシルピロリドン、N,N’-ジメチルプロピレン尿素、プロピルアミン、酢酸メチル、酢酸プロピル、プロピオニトリル、1-メチルイミダゾール、2-メチルテトラヒドロフラン、3-ジメチルアミノプロピオニトリル、ブチルアミン、イソブチルアミン、3-メトキシプロピルアミン、3-エトキシプロピルアミン、1,2-ジメトキシエタンからなる群より選択される1種以上を含む、カーボンナノチューブ分散液の製造方法。
【請求項4】
上記ポリアリルアミン誘導体が下記式(1)で表される構造を有する、請求項
3に記載のカーボンナノチューブ分散液の製造方法。
【化2】
(式中、l+m+nは1以上の整数であり、かつ、l、mおよびnのうち、少なくとも1つは1以上の整数であり、Rはそれぞれ独立して、-[CO(CH
2)
bO]
aHであり、aは1以上の整数であり、bは2~20の整数である。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はカーボンナノチューブ分散液およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブは、熱的、電気的、力学的に優れた特性を有している。しかしながら、カーボンナノチューブを有機溶媒中に分散させることが困難であるため、カーボンナノチューブの実用化に向けたプロセスは発展途上にある。
【0003】
ところで、特許文献1には、層数が単層から5層であるカーボンナノチューブを含有する層を形成してなる透明導電性フィルムであって、透明基材の少なくとも片面の面積の50%以上がカーボンナノチューブで被覆されており、かつ特定の性質をもつことを特徴とする透明導電性フィルムを製造することができる、カーボンナノチューブを含有してなる液が開示されている。
【0004】
また、例えば、特許文献2には、特定のポリマー構造で表される構造単位を10~450個有する、ポリアリルアミン誘導体を含有する分散剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2008-177143号公報
【文献】特開2017-203143号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1には、主に多層カーボンナノチューブを分散できることが開示されているにすぎない。また、特許文献2には、ポリアリルアミン誘導体を含有する分散剤が開示されているにすぎない。このような従来技術には、単層カーボンナノチューブを安定したコロイドとして効率的に分散させる観点から改善の余地があった。
【0007】
本発明の一態様は、単層カーボンナノチューブを安定したコロイドとして効率的に分散させたカーボンナノチューブ分散液を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、単層カーボンナノチューブと、ポリアリルアミン誘導体とを特定の割合にて含むカーボンナノチューブ分散液において、単層カーボンナノチューブを安定したコロイドとして効率的に分散できることを見出し、本発明を完成させるに至った。すなわち、本発明は以下の態様を含む。
<1>単層カーボンナノチューブと、ポリアリルアミン誘導体と、有機溶媒と、を含み、上記単層カーボンナノチューブ100質量部に対し、上記ポリアリルアミン誘導体を400~40000質量部含む、カーボンナノチューブ分散液。
<2>上記ポリアリルアミン誘導体が下記式(1)で表される構造を有する、<1>に記載のカーボンナノチューブ分散液。
【0009】
【0010】
(式中、l+m+nは1以上の整数であり、かつ、l、mおよびnのうち、少なくとも1つは1以上の整数であり、Rはそれぞれ独立して、-[CO(CH2)bO]aHであり、aは1以上の整数であり、bは2~20の整数である。)
<3>上記有機溶媒が、エーテル、エステル、ケトン、アミンおよびニトリルからなる群より選択される少なくとも1種である、<1>または<2>に記載のカーボンナノチューブ分散液。
<4>単層カーボンナノチューブおよびポリアリルアミン誘導体を有機溶媒に分散させる工程を含み、上記工程において、上記単層カーボンナノチューブ100質量部に対し、上記ポリアリルアミン誘導体を400~40000質量部用いる、カーボンナノチューブ分散液の製造方法。
<5>上記ポリアリルアミン誘導体が下記式(1)で表される構造を有する、<4>に記載のカーボンナノチューブ分散液の製造方法。
【0011】
【0012】
(式中、l+m+nは1以上の整数であり、かつ、l、mおよびnのうち、少なくとも1つは1以上の整数であり、Rはそれぞれ独立して、-[CO(CH2)bO]aHであり、aは1以上の整数であり、bは2~20の整数である。)
<6>上記有機溶媒が、エーテル、エステル、ケトン、アミンおよびニトリルからなる群より選択される少なくとも1種である、<4>または<5>に記載のカーボンナノチューブ分散液の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の一態様によれば、単層カーボンナノチューブを安定したコロイドとして効率的に分散させたカーボンナノチューブ分散液を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施例におけるカーボンナノチューブ分散液の第2バンド間遷移の吸光度を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態について、詳細に説明する。ただし、本発明はこれに限定されるものではなく、記述した範囲内で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。なお、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上、B以下」を意味する。
【0016】
〔1.カーボンナノチューブ分散液〕
本発明の一実施形態に係るカーボンナノチューブ分散液は、単層カーボンナノチューブと、ポリアリルアミン誘導体と、有機溶媒と、を含み、上記単層カーボンナノチューブ100質量部に対し、上記ポリアリルアミン誘導体を400~40000質量部含む。
【0017】
例えば、上述した特許文献1では、溶媒中で分散するカーボンナノチューブの大半は、2~5層からなる多層カーボンナノチューブであると考えられる。また、上述した特許文献1には、ポリアリルアミン誘導体を含有する分散剤、および軽質流動パラフィンを用いてカーボンブラックを分散したことが開示されている。しかしながら、単層カーボンナノチューブの分散性は、カーボンブラック、および多層カーボンナノチューブと異なる。
【0018】
そこで、本発明者らは、様々な検討を行った結果、単層カーボンナノチューブと、ポリアリルアミン誘導体とを特定の割合にて含むカーボンナノチューブ分散液において、単層カーボンナノチューブを安定したコロイドとして効率的に分散できることを見出した。
【0019】
本発明の一実施形態に係るカーボンナノチューブ分散液は、単層カーボンナノチューブと、ポリアリルアミン誘導体とを分散質として含み、有機溶媒を分散媒として含む混合物である。以下では、「本発明の一実施形態に係るカーボンナノチューブ分散液」を単に「分散液」とも称する。
【0020】
本発明の一実施形態にかかる分散液は、単層カーボンナノチューブ100質量部に対し、ポリアリルアミン誘導体を400~40000質量部含む。単層カーボンナノチューブ100質量部に対してポリアリルアミン誘導体を400質量部以上含んでいれば、単層カーボンナノチューブを安定したコロイドとして効率的に分散できる。ポリアリルアミン誘導体の含有量の下限値は、単層カーボンナノチューブ100質量部に対して、好ましくは、500質量部以上であり、より好ましくは1000質量部以上である。また、上記分散液が単層カーボンナノチューブ100質量部に対してポリアリルアミン誘導体を40000質量部以下含んでいれば、分散液の粘性を抑制し、成形に適した分散液を得ることができる。ポリアリルアミン誘導体の上限値は、単層カーボンナノチューブ100質量部に対して、好ましくは、30000質量部以下であり、より好ましくは20000質量部以下である。
【0021】
上記分散液はインクまたはペースト等として使用できる。上記分散液は、例えば、基板上に塗布されることにより使用される。基板としては、ガラス、透明セラミックス、金属、プラスチックフィルム等の基板を用いることができる。基板の厚さは、特に限定されないが、1~1000μmが好ましい。
【0022】
上記分散液を基板上に塗布する方法としては、特に限定されないが、スピンコート、エクストルージョンダイコート、ブレードコート、バーコート、スクリーン印刷、ステンシル印刷、ロールコート、カーテンコート、スプレーコート、ディップコート、インクジェット印刷、ディスペンス等の公知の塗布方法を用いることができる。また、上記分散液を基板上に塗布する装置としては、塗布に適した各種装置を用いることができ、特に限定されない。
【0023】
<1-1.単層カーボンナノチューブ>
単層カーボンナノチューブの直径は、特に限定されないが、分散性の観点から、0.5~250nmであることが好ましく、0.5~10nmであることがより好ましく、0.5~5nmであることがさらに好ましい。
【0024】
上記単層カーボンナノチューブを得る方法は、特に限定されず、公知の技術に基づいて合成されたものであってもよく、市販されているものであってもよい。
【0025】
有機溶媒中の単層カーボンナノチューブの濃度は、1~10000mMであることが好ましく、10~1000mMであることがより好ましい。なお、インク中の単層カーボンナノチューブの濃度は、例えば、炭素の原子量を12として、有機溶媒中の単層カーボンナノチューブの質量から算出できる。
【0026】
<1-2.ポリアリルアミン誘導体>
上記ポリアリルアミン誘導体は、下記式(2)で表される構造を有する化合物であることが好ましい。
-(CH2CH(CH2A))n-・・・(2)
式中、nは繰り返し数を表す。n=1~1000であり、好ましくは2~500であり、より好ましくは10~200である。
【0027】
上記式(2)中、Aはアミノ基である。上記アミノ基は置換基を1つ以上有していてもよい。上記置換基としては、本発明の効果を奏するものであれば、特に限定されず、例えば、アミノ基、アミド基、アミド共役酸等が挙げられる。
【0028】
上記式(2)で表される構造を有するポリアリルアミン誘導体としては、ポリアリルアミンポリエステル等が挙げられる。
【0029】
上記ポリアリルアミン誘導体は、下記式(1)で表される構造を有することが好ましい。
【0030】
【0031】
式中、l+m+nは1以上の整数であり、かつ、l、mおよびnのうち、少なくとも1つは1以上の整数であり、Rはそれぞれ独立して、-[CO(CH2)bO]aHであり、aは1以上の整数であり、bは2~20の整数である。
【0032】
上記式(1)中、l+m+nは、特に限定されないが、例えば、好ましくは1~1000であり、より好ましくは2~500である。また、aは、特に限定されないが、例えば、好ましくは1~100であり、より好ましくは2~50である。
【0033】
上記式(1)で表される構造を有するポリアリルアミン誘導体としては、ポリアリルアミンポリエステルが挙げられる。単層カーボンナノチューブを効率的に分散できるという観点から、上記ポリアリルアミンエステルとしては、味の素ファインテクノ社製アジスパーPB821が好ましい。
【0034】
<1-2.有機溶媒>
有機溶媒は、極性溶媒であっても非極性溶媒であってもよいが、好ましくは極性溶媒である。また、有機溶媒は、単層カーボンナノチューブを効率的に分散できるという観点から、好ましくは、エーテル、エステル、ケトン、アミン、ニトリル、アミド結合を含む溶媒等である。
【0035】
エーテルとしては、例えば、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタン、ビス(2-メトキシエチル)エーテル、エチルカルビトールアセテート、ブチルカルビトールアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、シクロペンチルメチルエーテル等が挙げられる。
【0036】
エステルとしては、例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸2-エトキシエチル、炭酸ジメチル、乳酸エチル、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジブチル、γ-ブチロラクトン、1-アセトキシ-2-メトキシエタン、メタクリル酸-2(ジエチルアミノ)エチル、メタクリル酸ベンジル等が挙げられる。
【0037】
ケトンとしては、例えば、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、アセトン、メチルイソブチルケトン、イソホロン等が挙げられる。
【0038】
アミンとしては、プロピルアミン、イソプロピルアミン、ブチルアミン、イソブチルアミン、tert-ブチルアミン、3-メトキシプロピルアミン、3-エトキシプロピルアミン、2-ジメチルアミノエタノール、アニリン、エチレンジアミン等が挙げられる。
【0039】
ニトリルとしては、ベンゾニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリル、3-ジメチルアミノプロピオニトリル等が挙げられる。
【0040】
その他の有機溶媒としては、アミド結合を含む溶媒(ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン、N-シクロヘキシルピロリドン、N,N’-ジメチルプロピレン尿素、1-メチルイミダゾール等)、硫黄原子を含む溶媒(ジメチルスルホキシド等)、炭酸プロピレン等が挙げられる。
【0041】
また、上記有機溶媒は、1種類の有機溶媒のみを用いてもよく、2種類以上の有機溶媒を任意に組み合わせた混合物を用いてもよい。
【0042】
本発明の一実施形態に係るカーボンナノチューブ分散液は、単層カーボンナノチューブを効率的に分散できるという観点から、上記有機溶媒が、エーテル、エステル、ケトン、アミンおよびニトリルからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0043】
ここで、有機溶媒の分散性を表す指標として、ハンセン溶解度パラメータおよびヒルデブラント溶解度パラメータを用いる。ハンセン溶解度パラメータは、ある物質の他の物質に対する溶解度を予測するヒルデブラント溶解度パラメータδTを、(δD、δP、δH)の3次元のパラメータで定義して用いられるパラメータの一種であり、下記式(3)により表される。
δT
2=(δD)2+(δP)2+(δH)2・・・(3)
式中、δDは分散項を、δPは極性項を、δHは水素結合項をそれぞれ表す。
【0044】
上記有機溶媒において、例えば、分散項は15~20MPa1/2であることが好ましく、17~19MPa1/2であることがより好ましい。極性項は1.5~14MPa1/2であることが好ましく、1.5~10MPa1/2であることがより好ましい。水素結合項は4~12MPa1/2であることが好ましく、6~8MPa1/2であることがより好ましい。
【0045】
有機溶媒のハンセン各溶解度パラメータおよびヒルデブラント溶解度パラメータが上記範囲内であれば、単層カーボンナノチューブを効率的に分散できる分散液を提供できるため、好ましい。また、上記有機溶媒が混合物である場合、混合物に含まれる少なくとも1種の有機溶媒が上記パラメータを満たしていればよい。
【0046】
<1-3.その他>
本発明の一実施形態に係るカーボンナノチューブ分散液は、中心直径1.8nmのカーボンナノチューブを用い、仕込み濃度0.25g/Lの上記分散液を13200×gで10分遠心分離することにより得られる上澄み液の吸収スペクトルを波長1200nmかつ光路長2mmにて測定したとき、当該吸収スペクトルにおける第2バンド間遷移の吸光度が0.03以上であることが好ましい。本明細書中、「第2バンド間遷移」とは、カーボンナノチューブにおけるナノ構造を反映したバンド構造の間に見られる複数のバンドギャップのうち、2番目に小さいバンドギャップを指す。上記吸光度は、波長1200nmかつ光路長2mmにて測定された第2バンド間遷移に対応する吸収スペクトルを指標とする。なお、ランベルトの法則により、有機溶媒中のカーボンナノチューブの濃度が一定であれば、吸光度は光路長に比例する。分散液の第2バンド間遷移の吸光度が0.03以上であれば、分散質が有機溶媒中で沈殿せずにカーボンナノチューブを効率的に分散できたことを意味する。上記分散液の第2バンド間遷移の吸光度は、例えば、0.05以上であることがより好ましく、0.1以上であることがさらに好ましく、0.5以上であることが特に好ましく、1.0以上であることが最も好ましい。なお、上記分散液の第2バンド間遷移の吸光度の上限値は特に限定されないが、中心直径1.8nmのカーボンナノチューブを用いて波長1200nmかつ光路長2mmにて測定したときの第2バンド間遷移の吸光度が2.0以下であることが好ましい。
【0047】
〔2.カーボンナノチューブ分散液の製造方法〕
本発明の一実施形態に係る分散液の製造方法は、単層カーボンナノチューブおよびポリアリルアミン誘導体を有機溶媒に分散させる工程を含み、上記工程において、上記単層カーボンナノチューブ100質量部に対し、上記ポリアリルアミン誘導体を400~40000質量部用いる。
【0048】
〔1.カーボンナノチューブ分散液〕にて既に説明した事項については、以下では説明を省略する。
【0049】
分散質を有機溶媒中に分散させる方法としては、例えば、均質化装置を用いる方法が挙げられる。均質化装置としては、例えば、撹拌ホモジナイザーおよび超音波ホモジナイザー等が挙げられる。より均一に分散させる観点から、超音波ホモジナイザーを用いて分散質を有機溶媒中に分散させることが好ましい。
【0050】
分散を行う時間は特に限定されないが、例えば5~60分間、好ましくは10~30分間である。分散を行う温度も特に限定されないが、例えば5℃である。
【0051】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0052】
以下、実施例および比較例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0053】
〔分散液A〕
ポリアリルアミンポリエステル(味の素ファインテクノ社製、アジスパーPB821)に、有機溶媒として1,4-ジオキサンを加え、濃度0.0001質量%のポリアリルアミンポリエステル溶液20mLを調製した。次いで、上記ポリアリルアミンポリエステル溶液にカーボンナノチューブ(OCSiAl社Tuball、純度75%)5mgを加え、超音波破砕機(QSonica社、Q125、1/4インチプローブ、約12W出力)により30分間、分散処理を施し、分散液Aを得た。得られた分散液におけるカーボンナノチューブ100質量部に対するポリアリルアミンポリエステルの含有量は0.4質量部であった。
【0054】
〔分散液B~F〕
ポリアリルアミンポリエステル溶液を以下の表1に記載の各濃度に変更したこと以外は、分散液Aと同様の方法により、分散液B~Fを得た。
【0055】
〔分散性の評価1〕
得られた分散液を遠心分離機(久保田商事、テーブルトップ冷却遠心機 Model 5500)で遠心分離(13200×g、10分)し、得られた上澄み液75体積%を回収した。さらに、得られた上澄み液の吸収スペクトルを吸光光度計(島津製作所、UV3600Plus)で測定し、波長1200nmかつ光路長2mmのときの第2バンド間遷移の吸光度を記録した。実施例の分散条件においては、波長1200nmかつ光路長2mmのときに第2バンド間遷移の吸光度がおよそ1.85であれば投入したカーボンナノチューブが全量分散したことに相当する。また、波長1200nmかつ光路長2mmのときに第2バンド間遷移の吸光度が0.1以上であれば、約5%以上の分散収率が得られることに相当する。なお、「分散収率」とは、有機溶媒に加えたカーボンナノチューブの量に対して、有機溶媒中に単層カーボンナノチューブがどの程度分散しているかを表す割合である。具体的には、有機溶媒中で単層カーボンナノチューブが完全に分散しているときの第2バンド間遷移の吸光度を100%とした際の、各有機溶媒の第2バンド間遷移の吸光度の割合から算出される。
【0056】
結果を
図1および表1に示す。
図1の縦軸はカーボンナノチューブ分散液の吸光度、横軸はポリアリルアミンポリエステル溶液の濃度を示している。
【0057】
【0058】
図1および表1より、ポリアリルアミンポリエステル溶液の濃度が0.1質量%(カーボンナノチューブ100質量部に対してポリアリルアミンポリエステル400質量部)以上である場合において、第2バンド間遷移の吸光度が向上していることから、有機溶媒中で単層カーボンナノチューブを安定したコロイドとして効率的に分散できることが示唆された。
【0059】
〔分散液1〕
分散液Eと同様に、ポリアリルアミンポリエステル(味の素ファインテクノ社製、アジスパーPB821)および1,4-ジオキサンを用いて、濃度0.25質量%のポリアリルアミンポリエステル溶液20mLを調製し、カーボンナノチューブ分散液を作製した。得られた分散液におけるカーボンナノチューブ100質量部に対するポリアリルアミンポリエステルの含有量は1000質量部であった。
【0060】
〔分散液2~49〕
1,4-ジオキサンを以下の表2~3に記載の各有機溶媒に変更したこと以外は、分散液1と同様の方法により、分散液2~49を得た。
【0061】
〔分散性の評価2〕
上記カーボンナノチューブ分散液を〔分散性の評価1〕と同じ条件にて遠心分離することにより得られた上澄み液75体積%の吸収スペクトルを吸光光度計(島津製作所、UV3600Plus)で測定し、波長1200nmかつ光路長2mmのときの第2バンド間遷移の吸光度を記録した。
【0062】
分散液1~49で用いた有機溶媒のハンセン溶解度パラメータおよびヒルデブラント溶解度パラメータ、ならびに分散液1~49の第2バンド間遷移の吸光度を下記表2~3に示す。有機溶媒のハンセン溶解度パラメータとしては、文献:Grulke, E. A. Solubility Parameter Values. In Polymer Handbook, 4th ed.; Brandrup, J.; Immergut, E. H.; Grulke, E. A., Eds.; Wiley: New York, 1999; Chapter VII, p 675に記載のハンセン溶解度パラメータを引用した。また、当該ハンセン溶解度パラメータからヒルデブラント溶解度パラメータを算出した。
【0063】
【0064】
【0065】
表2~3より、ポリアリルアミンポリエステル溶液と、様々な有機溶媒を用いた場合においても、安定したコロイドとして単層カーボンナノチューブを効率的に分散できることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明の一態様は、カーボンナノチューブ分散液の製造に好適に利用することができる。