(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-07
(45)【発行日】2023-06-15
(54)【発明の名称】膣断端縫合補助具
(51)【国際特許分類】
A61B 17/42 20060101AFI20230608BHJP
A61B 17/04 20060101ALI20230608BHJP
【FI】
A61B17/42
A61B17/04
(21)【出願番号】P 2018211432
(22)【出願日】2018-11-09
【審査請求日】2021-04-06
【審判番号】
【審判請求日】2022-08-31
(73)【特許権者】
【識別番号】504444658
【氏名又は名称】ケン・メディカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100155457
【氏名又は名称】野口 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 則仁
(72)【発明者】
【氏名】米谷 研一
【合議体】
【審判長】村上 聡
【審判官】佐々木 正章
【審判官】村上 哲
(56)【参考文献】
【文献】特開平5-344978(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0247481(US,A1)
【文献】特開2004-41395(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 17/42 17/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
膣の開口部から挿入され、先端で膣断端を内側から支持する略円筒状の本体と、前記本体の基端に設けられたグリップとを備えた膣断端縫合補助具であって、
前記本体の外周面に、前記先端よりも大径な環状突起が設けられ、
前記環状突起が、前記本体の軸心と直交する面に対して傾斜した
面上に形成され、
前記本体の外周面に対する前記環状突起の半径方向の突出量が、基端側に行くほど徐々に大きくなっている膣断端縫合補助具。
【請求項2】
前記本体の外周面に、基端へ向けて徐々に拡径したテーパ面が設けられた請求項1に記載の膣断端縫合補助具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、子宮摘出後の膣断端を縫合する際の補助具に関する。
【背景技術】
【0002】
腹腔鏡下子宮摘出手術は、例えば下記の特許文献1に示された子宮マニピュレータを用いて行われる。具体的には、膣に子宮マニピュレータを挿入して子宮を所定の姿勢で保持した状態で、腹腔鏡を用いてレーザメス等で膣円蓋を切開することにより子宮を切離し、切離した子宮を腹腔内から摘出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
子宮を摘出した後、膣の切断開口部(膣断端)が閉鎖縫合されるが、膣断端の場所を確認しながら縫合する作業は容易ではない。また、膣断端の縫合は、気腹ガスで腹腔を膨らませた状態で行われるため、この気腹ガスの膣からの漏れだしを防止する措置を講じる必要がある。例えば、上記の子宮マニピュレータからバルーンを取り外し、このバルーンを膣内に挿入して膨らませることで膣からの気腹ガスの漏れ出しを防止することもある。しかし、子宮マニピュレータからバルーンを取り外す手間がかかる上、縫合用の針がバルーンに刺さらないように気を付けながら縫合する必要があるため、縫合がしにくい。
【0005】
そこで、本発明は、子宮摘出後の膣断端の縫合を容易化すると共に、縫合時の膣からの気腹ガスの漏れ出しを防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために、本発明は、膣の開口部から挿入され、先端で膣断端を内側から支持する略円筒状の本体と、前記本体の基端に設けられたグリップとを備えた膣断端縫合補助具であって、前記本体の外周面に、前記先端よりも大径なガス漏れ防止部が設けられた膣断端縫合補助具を提供する。
【0007】
子宮を摘出した後、膣断端を縫合する際、上記の膣断端縫合補助具のグリップを持って略円筒状の本体を膣の開口部から挿入し、本体の先端で膣断端を支持することにより、膣断端の場所が分かりやすくなり、縫合が容易化される。また、本体の外周面に、先端より大径なガス漏れ防止部を設け、このガス漏れ防止部を膣の内壁に密着させることで、膣からの気腹ガスの漏れ出しを防止することができる。
【0008】
ガス漏れ防止部としては、例えば、本体の外周面に環状突起を設けることができる。このとき、環状突起を本体の周方向(すなわち、本体の軸心と直交する円形)に設けると、本体を膣に挿入する際、環状突起が膣の内壁に引っかかって挿入が阻害される恐れがある。そこで、環状突起を、本体の軸心と直交する面に対して傾斜した楕円形とすれば、環状突起が膣の内壁に引っかかりにくくなるため、本体の挿入がしやすくなる。
【0009】
また、ガス漏れ防止部として、本体の外周面に、基端へ向けて徐々に拡径したテーパ面を設けることができる。このテーパ面を膣の内周に挿入することにより、先端よりも大径な部分が膣の内周面と密着するため、膣の内周面と本体の外周面との間からのガス漏れを規制することができる。
【発明の効果】
【0010】
以上のように、本発明の膣断端縫合補助具を用いれば、子宮摘出後の膣断端の縫合が容易化されると共に、縫合時の膣からの気腹ガスの漏れ出しを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態に係る膣断端縫合補助具の斜視図である。
【
図5】上記の膣断端縫合補助具の使用状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の一実施形態に係る膣断端縫合補助具1は、
図1に示すように、先端10aが開口した略円筒状の本体10を有する。本体10の先端10aは、例えば
図2に示すように、本体10の軸心と直交する面に対して傾斜した面上に形成される。本体10の基端には、グリップ3が設けられる。本体10は樹脂で一体成形され、本実施形態では、本体10及びグリップ20が樹脂で一体成形されている。尚、以下の説明では、本体10の軸心方向(
図2の左右方向)を「軸方向」と言う。
【0013】
本体10は、先端10aを含む領域に設けられた円筒状の小径部11と、基端を含む領域に設けられ、小径部11よりも大径な円筒状の大径部12と、これらを連続する円すい状のテーパ部13とを備える。本体10の外径は、患者の膣の大きさに合わせて設定される。換言すると、径が異なる複数種の膣断端縫合補助具1を用意しておき、患者の膣の大きさに合った外径の膣断端縫合補助具1を使用する。本体10のうち、グリップ20よりも先端側の領域が、膣内に挿入され得る有効領域Lとなる(
図2参照)。
【0014】
本体10には、
図3に示すように、軸方向に貫通する内孔15が設けられる。図示例では、本体10の基端に設けられた内孔15の開口部を閉塞する蓋部材16が設けられる。蓋部材16は、例えば樹脂で形成され、ねじ締結や圧入等の適宜の手段で本体10に固定される。尚、蓋部材16は、上記のように本体10と別体に形成する他、本体10と一体成形してもよい。
【0015】
本体10には、
図1に示すように、円筒状の外周面から外径に突出した環状突起14が設けられる。この環状突起14が、気腹ガスの外部への漏れだしを防止する第1のガス漏れ防止部として機能する。図示例では、小径部11の外周面の軸方向に離隔した複数箇所に環状突起14が設けられる。各環状突起14は、本体10の外周全周に連続して設けられる。各環状突起14は、軸方向に直交する面に対して傾斜した楕円形を成している。図示例では、複数の環状突起14が平行に設けられ、特に、先端10aと平行な面上に設けられている。
図4に示すように、小径部11の円筒状外周面に対する環状突起14の半径方向の突出量H1~H4は、基端側に行くほど徐々に大きくなっている(H1<H2<H3<H4)。
【0016】
本体10のテーパ部13の外周面(テーパ面13a)は、気腹ガスの外部への漏れだしを防止する第2のガス漏れ防止部として機能する。テーパ面13aは、基端側へ行くにつれて徐々に大径となっている。テーパ面13aの最大径(すなわち、大径部12の外径)は、例えば小径部11の外径の110~130%の範囲に設定される。図示例では、テーパ面13aの最大径が、複数の環状突起14のうちの最小径の環状突起14(突出量H1)よりも大径に設定され、具体的には、複数の環状突起14のうちの最大径の環状突起14(突出量H4)と同程度に設定される。テーパ面13aは、環状突起14とグリップ20との間の軸方向領域に設けられる。テーパ面13aの軸方向寸法は、比較的大きく設定され、例えば本体10の有効領域Lの軸方向寸法の20%以上に設定される。これにより、テーパ面13aの母線の軸方向に対する傾斜角度が小さくなり、基端へ向けて外径が緩やかに大きくなる形状が得られる。
【0017】
図5は、子宮101(点線で示す)を摘出した後の腹腔内の断面図であり、図中上側が腹部側、図中下側が背部側である。子宮101を摘出した後、膣102の切断開口部(膣断端102a)を腹腔鏡下手術により腹部側から縫合する。
【0018】
具体的には、まず、施術者が、膣断端縫合補助具1のグリップ20を掴んで、膣102の自然開口部に本体10の先端10aを挿入する。このとき、膣断端縫合補助具1の本体10の外周面に環状突起14が設けられているため、本体10の膣102内への挿入が阻害されることが懸念される。本実施形態では、環状突起14が軸方向(すなわち本体10の挿入方向)と直交する面に対して傾斜しているため、環状突起14が膣102の内壁に引っかかりにくくなる。さらに、複数の環状突起14の外径(突出量H1~H4:
図4参照)が基端側ほど大きくなっているため、先に外径の小さな環状突起14が挿入された後、少しずつ外径の大きな環状突起14が順に挿入され、これにより環状突起14が膣102の内壁にさらに引っかかりにくくなる。以上により、環状突起14を有する本体10を膣102内にスムーズに挿入することができる。
【0019】
こうして膣102に挿入された本体10の先端10aで、膣断端102aが膣102の内側から支持される。この状態で、腹腔内に気腹ガスを充填する。このとき、本体10の外周面は膣102の内壁に密着しているが、これらの間から気腹ガスが外部へ漏れ出すことが懸念される。本実施形態では、本体10の外周面に、先端10aの外径(すなわち、小径部11の円筒状外周面の外径)よりも大径な環状突起14が設けられ、この環状突起14が膣102の内壁に密着することで、気腹ガスの外部への漏れ出しが規制される。特に、図示例では、本体10の外周面に複数の環状突起14が設けられるため、ガス漏れ防止効果が高められる。さらに、本体10の外周面に、小径部11の外周面から徐々に拡径したテーパ面13aが設けられ、このテーパ面13aが膣102の内壁に密着することで、気腹ガスの外部への漏れ出しがより確実に規制される。
【0020】
上記の環状突起14(第1のガス漏れ防止部)及びテーパ面13a(第2のガス漏れ防止部)は、何れか一方のみを設けた場合でも効果はあるが、本実施形態のように両方設けた方が効果が高い。本実施形態では、本体10の外周面が、膣102の膣断端102aから自然開口部に至る略全域に密着しているため、この外周面に、複数の楕円形の環状突起14とテーパ面13aとを軸方向に並べて設けることができる。
【0021】
そして、施術者が、腹腔鏡を用いて腹部側から膣断端102aを縫合する。このとき、膣断端102aが、膣断端縫合補助具1の本体10の先端10aで内側から支持されているため、膣断端102aの場所を確認しやすい。特に、
図5に示すように、本体10の先端10aのうち、基端側に後退した部分が上側(腹部側)となるように、本体10を配置することで、膣断端102a(特に背部側部分)が腹部側から見えやすくなる。また、本体10の先端10aで膣断端102aを支持することで、膣断端102aの組織が引っ張られるため、膣断端102aに縫合針を刺しやすくなる。以上により、腹部側からの膣断端102aの縫合が容易化される。
【0022】
本発明は上記の実施形態に限られない。例えば、上記の実施形態では、環状突起14が4箇所に設けられた場合を示したが、これに限らず、環状突起14を3箇所以下、あるいは5箇所以上に設けてもよい。また、上記の実施形態では、小径部11の外周面に環状突起14を設けているが、これに代えてあるいはこれに加えて、テーパ面13aや大径部12の外周面に環状突起を設けてもよい。
【符号の説明】
【0023】
1 膣断端縫合補助具
3 グリップ
10 本体
10a 先端
11 小径部
12 大径部
13 テーパ部
13a テーパ面(第2のガス漏れ防止部)
14 環状突起(第1のガス漏れ防止部)
15 内孔
16 蓋部材
20 グリップ
101 子宮
102 膣
102a 膣断端
L 有効領域