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特許7291395IgG結合ペプチド、及び該ペプチドによる抗体の特異的修飾
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  • 特許-IgG結合ペプチド、及び該ペプチドによる抗体の特異的修飾 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-07
(45)【発行日】2023-06-15
(54)【発明の名称】IgG結合ペプチド、及び該ペプチドによる抗体の特異的修飾
(51)【国際特許分類】
   C07K 14/00 20060101AFI20230608BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20230608BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20230608BHJP
   A61K 47/68 20170101ALI20230608BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20230608BHJP
   C07K 16/00 20060101ALN20230608BHJP
【FI】
C07K14/00
A61K39/395 Z
A61K45/00
A61K47/68
C07K19/00 ZNA
C07K16/00
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2019525241
(86)(22)【出願日】2018-05-18
(86)【国際出願番号】 JP2018019287
(87)【国際公開番号】W WO2018230257
(87)【国際公開日】2018-12-20
【審査請求日】2021-05-10
(31)【優先権主張番号】P 2017118735
(32)【優先日】2017-06-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、革新的バイオ医薬品創出基盤技術開発事業「ヒトIgG特異的修飾技術による多様な機能性抗体医薬の創出」委託研究開発、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504258527
【氏名又は名称】国立大学法人 鹿児島大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊東 祐二
【審査官】長谷川 強
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第06013763(US,A)
【文献】国際公開第2016/186206(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 14/00
A61K 39/395
A61K 45/00
A61K 47/68
C07K 19/00
C07K 16/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の(A)又は(B)のアミノ酸配列からなるIgG結合ペプチド;
(A)下記の(1)~(7)からなる群から選択されるいずれか1のアミノ酸配列:
(1)FNMQCQRRFYEALHDPNLNEEQRNARIRSIRDDC(配列番号9)、
(2)GFNMQCQRRFYEALHDPNLNEEQRNARIRSIRDDC(配列番号7)、
(3)KNMQCQRRFYEALHDPNLNEEQRNARIRSIRDDC(配列番号4)、
(4)GFNMQCQKRFYEALHDPNLNEEQRNARIRSIRDDC(配列番号5)、
(5)KNMQCQKRFYEALHDPNLNEEQRNARIRSIRDDC(配列番号6)、
(6)FNMQQQRRFYEALHDPNLNEEQRNARIRSIRDD(配列番号10)、及び
(7)GKNMQCQRRFYEALHDPNLNEEQRNARIRSIRDDC(配列番号11)、
(B)上記(A)のアミノ酸配列において、C末端における1~5個の任意のアミノ酸残基の付加、及びその付加されたC末端におけるさらなる1個のリシン残基の付加を有するアミノ酸配列。
【請求項2】
前記アミノ酸配列が
FNMQCQRRFYEALHDPNLNEEQRNARIRSIRDDC(配列番号9)、
GFNMQCQRRFYEALHDPNLNEEQRNARIRSIRDDC(配列番号7)、
KNMQCQRRFYEALHDPNLNEEQRNARIRSIRDDC(配列番号4)、
GFNMQCQKRFYEALHDPNLNEEQRNARIRSIRDDC(配列番号5)、又は
FNMQQQRRFYEALHDPNLNEEQRNARIRSIRDD(配列番号10)
である、請求項1に記載のペプチド。
【請求項3】
配列番号4、6、9の5位のシステイン残基と34位のシステイン残基、又は配列番号5、7、11の6位のシステイン残基と35位のシステイン残基がジスルフィド結合又はリンカーを介して連結されている、請求項1に記載のペプチド。
【請求項4】
標識物質又は薬剤が結合している、請求項1~3のいずれか一項に記載のペプチド。
【請求項5】
標識物質又は薬剤が、配列番号5の8位若しくは配列番号6の7位のリシン残基又はC末端のリシン残基に結合している、請求項4に記載のペプチド。
【請求項6】
N末端のアミノ酸残基がアセチル化又はアミノ化されている、請求項1~5のいずれか一項に記載のペプチド。
【請求項7】
C末端のアミノ酸残基がアミド化されている、請求項1~6のいずれか一項に記載のペプチド。
【請求項8】
前記アミノ酸配列の1位のアミノ酸残基が架橋剤で修飾されている、請求項1~7のいずれか一項に記載のペプチド。
【請求項9】
前記架橋剤が、DSG(ジスクシンイミジルグルタレート)、DSS(ジスクシンイミジルスベレート)、DMA(アジプイミド酸ジメチル二塩酸塩)、DMP(ピメルイミド酸ジメチル二塩酸塩)、DMS(スベルイミド酸ジメチル二塩酸塩)、DTBP(3,3'-ジチオビスプロピオンイミド酸ジメチル二塩酸塩)、及びDSP(ジチオビススクシンイミジルプロピオン酸)からなる群より選択される、請求項8に記載のペプチド。
【請求項10】
前記架橋剤がDSG(ジスクシンイミジルグルタレート)又はDSS(ジスクシンイミジルスベレート)である、請求項9に記載のペプチド。
【請求項11】
請求項8~10のいずれか一項に記載のペプチドとIgGとの架橋複合体。
【請求項12】
請求項8~10のいずれか一項に記載のペプチドとIgGを混合し、架橋剤で修飾されているペプチドとIgGをin vitroで架橋反応させる工程を含む、ペプチドとIgGの複合体を生産する方法。
【請求項13】
請求項1~10のいずれか一項に記載のペプチド、又は請求項11に記載の架橋複合体を含む、医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、IgG結合ペプチド、架橋剤で修飾されたIgG結合ペプチド、該架橋剤で修飾されたIgG結合ペプチドとIgGの複合体、及び該複合体を生産する方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
抗体は、従来から種々の研究・開発において、標的分子の検出に多く利用されており、検出試薬や診断薬として産業面でも、極めて重要なものとなっている。また、抗体は、その標的分子に対する特異性から、疾患の治療のための医薬品としても注目されている。
【0003】
抗体の機能付加のための化学修飾として、アルカリフォスファターゼ(AP)やパーオキシダーゼ(HRP)等の酵素(非特許文献1~2)、さらには放射性同位体のためのヨウ素化やキレート化合物の付加(非特許文献3)、ビオチン等といった低分子化合物による修飾がなされてきた(非特許文献4)。これらの修飾は、主にリシンのアミノ基やシステインのチオール基、及び活性化されたカルボキシル基等を介して行われており、これらは官能基について特異的だが、部位特異的ではないため、抗体の抗原結合部位への修飾等により抗体の活性を低下させるといった問題があった。また、検出の感度又は治療効果を高めるため、導入するリガンドの数を上げると、修飾されるアミノ酸残基数の増加とともに抗体の物性や構造が変化し、抗体の活性の低下又は非特異的な結合を引き起こして、治療効果や検出感度及び特異性の低下につながる。
【0004】
このような問題を克服するため、特定の官能基を部位特異的に導入した抗体を使って、抗体を修飾することが行われている。例えば、非天然アミノ酸(非特許文献5~7)又はフリーのシステイン(非特許文献8~9)を導入して、特定の部位に遺伝子工学的改変により導入することで、特定の部位での修飾が可能になった。またトランスグルタミナーゼ(TG)を利用して、抗体中の天然のもしくは人工的に導入された特定のグルタミンを標的にして修飾を行うことが報告されているが(非特許文献10~11)、導入する化合物の構造や、標的とするグルタミン残基の空間的な環境によってその反応収率が大きく影響を受けることが知られている。このように部位特異的な抗体修飾技術は開発されつつあるが、多くの場合、抗体そのものを抗体工学的に改変する必要があり、その改変に伴う抗体の機能低下や開発のコスト高を考えると必ずしも有利な方法とはいえない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Imagawa, M. et al., Journal of Applied Biochemistry, 1982, 4, pp. 41-57
【文献】Hashida, S et al., Journal of Applied Biochemistry, 1984, 6, pp. 56-63
【文献】Rodwell, J. D. et al., Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, 1986, 83, pp.2632-2636
【文献】Hermanson, G. T., Bioconjugate Techniques, The third edition, Elsevier, USA, 2013
【文献】Axup, J. Y. et al., Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, 2012, 109, pp. 16101-16106
【文献】Tian, F. et al., Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, 2014, 111, pp. 1766-1771
【文献】Zimmerman, E. S. et al., Bioconjugate chemistry, 2014, 25, pp. 351-361
【文献】Shen, B. Q. et al., Nature Biotechnology, 2012, 30, pp. 184-189
【文献】Bernardes, G. J. et al., Nature Protocols, 2013, 8, pp. 2079-2089
【文献】Dennler, P. et al., Bioconjugate Chemistry, 2014, 25, pp. 569-578
【文献】Jeger, S. et al., Angewandte Chemie 2010, 49, pp. 9995-9997
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、特異的かつ簡便に抗体を修飾することができる方法が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、IgG結合ペプチドを作製し、本ペプチドによってIgG抗体の活性を低下させることなく、IgG抗体を修飾できることを見出し、本願発明を完成させた。
【0008】
したがって、本発明は以下の態様を包含する。
(1)(Xaa1)NMQCQRRFYEALHDPNLNEEQRNA(Xaa2)I(Xaa3)SIRDDC(配列番号1)、
(Xaa4)FNMQCQRRFYEALHDPNLNEEQRNA(Xaa2)I(Xaa3)SIRDDC(配列番号2)、又は配列番号1若しくは2のアミノ酸配列において、Xaa1~Xaa4以外の位置で1若しくは数個のアミノ酸が付加、欠失、及び/又は置換されたアミノ酸配列を含み、
Xaa1は、リシン残基、オルニチン残基、システイン残基、アスパラギン酸残基、グルタミン酸残基、2-アミノスベリン酸残基、及びジアミノプロピオン酸残基からなる群から選択され、
Xaa2及びXaa3は、それぞれ独立に、アルギニン残基、ヒスチジン残基、アスパラギン酸残基、グルタミン酸残基、セリン残基、トレオニン残基、アスパラギン残基、グルタミン残基、チロシン残基、及びシステイン残基からなる群から選択され、
Xaa4は、グリシン残基、アラニン残基、バリン残基、ロイシン残基、イソロイシン残基、メチオニン残基、プロリン残基、フェニルアラニン残基、トリプトファン残基、リシン残基、オルニチン残基、システイン残基、アスパラギン酸残基、グルタミン酸残基、βアラニン残基、2-アミノスベリン酸残基、ジアミノプロピオン酸残基、及びNH2-(PEG)n-CO(n=1~50)からなる群から選択されるか、又は存在しない、
ペプチド、IgG結合ペプチド、又はIgG結合用ペプチド。
(2)Xaa1がリシン残基、オルニチン残基、システイン残基、及びジアミノプロピオン酸残基からなる群から選択される、(1)に記載のペプチド。
(3)Xaa1がリシン残基である、(2)に記載のペプチド。
(4)Xaa4がグリシン残基、アラニン残基、βアラニン残基、及びNH2-(PEG)n-CO(n=1~50)からなる群から選択されるか、又は存在しない、(1)~(3)のいずれかに記載のペプチド。
(5)Xaa4がグリシン残基であるか、又は存在しない、(4)に記載のペプチド。
(6)Xaa2及びXaa3が、それぞれ独立に、アルギニン残基、ヒスチジン残基、及びグルタミン酸残基からなる群から選択される、(1)~(5)のいずれかに記載のペプチド。
(7)Xaa2及びXaa3がアルギニン残基である、(6)に記載のペプチド。
(8)配列番号1の5位のシステイン残基と34位のシステイン残基、及び配列番号2の6位のシステイン残基と35位のシステイン残基がジスルフィド結合又はリンカーを介して連結されている、(1)~(7)のいずれかに記載のペプチド。
(9)FNMQCQRRFYEALHDPNLNEEQRNARIRSIRDDC(配列番号9)、
GFNMQCQRRFYEALHDPNLNEEQRNARIRSIRDDC(配列番号7)、
KNMQCQRRFYEALHDPNLNEEQRNARIRSIRDDC(配列番号4)、
GFNMQCQKRFYEALHDPNLNEEQRNARIRSIRDDC(配列番号5)、
KNMQCQKRFYEALHDPNLNEEQRNARIRSIRDDC(配列番号6)、
FNMQQQRRFYEALHDPNLNEEQRNARIRSIRDD(配列番号10)、又は
GKNMQCQRRFYEALHDPNLNEEQRNARIRSIRDDC(配列番号11)のアミノ酸配列を含む、(1)~(8)のいずれかに記載のペプチド。
(10)標識物質又は薬剤が結合している、(1)~(9)のいずれかに記載のペプチド。
(11)配列番号1の7位のR若しくは配列番号2の8位のRがリシン残基に置換されているか、配列番号1若しくは配列番号2のC末端にリシン残基をさらに含む、(1)~(10)のいずれかに記載のペプチド。
(12)標識物質又は薬剤が、置換リシン残基又はC末端のリシン残基に結合している、(11)に記載のペプチド。
(13)N末端のアミノ酸がアセチル化又はアミノ化されている、(1)~(11)のいずれかに記載のペプチド。
(14)C末端のアミノ酸がアミド化されている、(1)~(13)のいずれかに記載のペプチド。
(15)Xaa1及びXaa4が、架橋剤で修飾されているか、又はXaa4が存在しない場合には、配列番号2の1位のフェニルアラニンが架橋剤で修飾されている、(1)~(14)のいずれかに記載のペプチド。
(16)前記架橋剤が、DSG(ジスクシンイミジルグルタレート)、DSS(ジスクシンイミジルスベレート)、DMA(アジプイミド酸ジメチル二塩酸塩)、DMP(ピメルイミド酸ジメチル二塩酸塩)、DMS(スベルイミド酸ジメチル二塩酸塩)、DTBP(3,3'-ジチオビスプロピオンイミド酸ジメチル二塩酸塩)、及びDSP(ジチオビススクシンイミジルプロピオン酸)からなる群より選択される、(15)に記載のペプチド。
(17)前記架橋剤がDSG(ジスクシンイミジルグルタレート)又はDSS(ジスクシンイミジルスベレート)である、(16)に記載のペプチド。
(18)(15)~(17)のいずれかに記載のペプチドとIgGとの架橋複合体。
(19)(15)~(17)のいずれかに記載のペプチドとIgGを混合し、架橋剤で修飾されているペプチドとIgGを架橋反応させる工程を含む、ペプチドとIgGの複合体を生産する方法。
(20)(1)~(17)のいずれかに記載のペプチド、又は(18)に記載の複合体を含む、医薬組成物。
【0009】
本明細書は本願の優先権の基礎となる日本国特許出願番号2017-118735号の開示内容を包含する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の架橋剤により修飾されたIgG結合ペプチドは、短時間で、しかもほとんど副反応なくIgGに付加することができるため、該IgG結合ペプチドに種々の化合物を結合させることで、種々の化合物によってIgGを特異的かつ簡便に修飾することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1Aは、抗体の標識の従来法であるアミンカップリング法等のランダム標識の模式図を示す。図1Aに示す通り、従来法では標識物質又は薬剤等の機能性リガンドが、抗体のランダムな部位に結合する。図1Bは、本発明の一実施形態の方法による部位特異的標識を示す。図1Bに示す通り、本発明の一実施形態の方法では、標識物質又は薬剤等の機能性リガンドが、IgG結合ペプチドを介して抗体に部位特異的に結合する。
図2図2は、Z34CペプチドとヒトIgGの結合のモデル構造(A)、並びにZ34C誘導ペプチド(εz34C)とヒトIgGの結合のモデル構造(B)を示す。
図3図3は、SG化εZ34CペプチドとヒトIgGの反応物のSDS-PAGEの結果を示す。レーン1はヒトIgG1(Trastuzumab)の、レーン2はヒトIgG1とεZ34Cの反応物の、レーン3はヒトIgG2の、レーン4はヒトIgG2とεZ34Cの反応物の、レーン5はヒトIgG3の、レーン6はヒトIgG3とεZ34Cの反応物の、レーン7はヒトIgG4の、レーン8はヒトIgG4とεZ34Cの反応物のSDS-PAGEの結果を示す。
図4図4は、SG化αZ34C 7Kペプチドと、ヒトIgG、マウスIgG、並びにウサギ及びラットIgGとの反応物のSDS-PAGEの結果(それぞれA、C、D)、及びSG化αZ34C 7KペプチドとヒトIgGの反応物のウエスタンブロッティング(B)の結果を示す。図4Aにおいて、レーン1はヒトIgG1(Trastuzumab)の、レーン2はヒトIgG1とαZ34C 7Kの反応物の、レーン3はヒトIgG2の、レーン4はヒトIgG2とαZ34C 7Kの反応物の、レーン5はヒトIgG3の、レーン6はヒトIgG3とαZ34C 7Kの反応物の、レーン7はヒトIgG4の、レーン8はヒトIgG4とαZ34C 7Kの反応物のSDS-PAGEの結果を示す。図4Bにおけるレーン1~8は図4Aのレーン1~8に対応する。図4Cにおいて、レーン1はマウスIgG1の、レーン2はマウスIgG1とαZ34C 7Kの反応物の、レーン3はマウスIgG2bの、レーン4はマウスIgG2bとαZ34C 7Kの反応物の、レーン5はマウスIgG3の、レーン6はマウスIgG3とαZ34C 7Kの反応物のSDS-PAGEの結果を示す。図4Dにおいて、レーン1はウサギIgGの、レーン2はウサギIgGとαZ34C 7Kの反応物の、レーン3はラットIgG1の、レーン4はラットIgG1とαZ34C 7Kの反応物の、レーン5はラットIgG2bの、レーン6はラットIgG2bとαZ34C 7Kの反応物の、レーン7はラットIgG2cの、レーン8はラットIgG2cとαZ34C 7Kの反応物のSDS-PAGEの結果を示す。
図5図5は、SG化εZ34C 7Kペプチドと、ヒトIgG、マウスIgG、並びにウサギ及びラットIgGとの反応物のSDS-PAGEの結果(それぞれA、B、C)を示す。図5Aにおいて、レーン1はヒトIgG1(Trastuzumab)の、レーン2はヒトIgG1とεZ34C 7Kの反応物の、レーン3はヒトIgG2の、レーン4はヒトIgG2とεZ34C 7Kの反応物の、レーン5はヒトIgG3の、レーン6はヒトIgG3とεZ34C 7Kの反応物の、レーン7はヒトIgG4の、レーン8はヒトIgG4とεZ34C 7Kの反応物のSDS-PAGEの結果を示す。図5Bにおいて、レーン1はマウスIgG1の、レーン2はマウスIgG1とεZ34C 7Kの反応物の、レーン3はマウスIgG2bの、レーン4はマウスIgG2bとεZ34C 7Kの反応物の、レーン5はマウスIgG3の、レーン6はマウスIgG3とεZ34C 7Kの反応物のSDS-PAGEの結果を示す。図5Cにおいて、レーン1はウサギIgGの、レーン2はウサギIgGとεZ34C 7Kの反応物の、レーン3はラットIgG1の、レーン4はラットIgG1とεZ34C 7Kの反応物の、レーン5はラットIgG2bの、レーン6はラットIgG2bとεZ34C 7Kの反応物の、レーン7はラットIgG2cの、レーン8はラットIgG2cとεZ34C 7Kの反応物のSDS-PAGEの結果を示す。
図6図6は、αZ34C 7K、εZ34C 7Kを用いて修飾したマウスIgG1、2b、及びヒトIgG3(いずれも抗原はニワトリ卵白リゾチーム)、並びにTrastuzumab(抗HER2ヒトIgG1抗体)のニワトリ卵白リゾチームに対するELISAによる結合活性評価を示す。
図7図7は、各種SG化ポリペプチドの、IgG1との反応の10分、30分、1時間、及び3時間後のサンプルのSDS-PAGEの結果、及びその結果から推定されるIgG1の修飾効率を示す。
図8図8は、SG化ペプチド試薬(Z34C 26 28R、αZ34C、及びεZ34Cの3種のペプチド試薬)の、pH7.4における各種抗体との反応後のサンプルのSDS-PAGEの結果、及びその結果から推定される各種抗体の修飾効率を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<IgG結合ペプチド>
本明細書中で使用する「IgG」は、哺乳動物、例えばヒト及びチンパンジーなどの霊長類、ラット、マウス、及びウサギ等の実験動物、ブタ、ウシ、ウマ、ヒツジ、及びヤギ等の家畜動物、並びにイヌ及びネコ等の愛玩動物のIgG、好ましくはヒト、マウス、ラット、又はウサギ、さらに好ましくはラット又はマウスのIgGを指すものとする。IgGのサブクラスは限定しないが、例えばヒトIgG1、IgG2、IgG3、IgG4(好ましくはヒトIgG1、IgG2、又はIgG4)、マウスIgG1、マウスIgG2a、マウスIgG2b、マウスIgG3(好ましくはマウスIgG2a、マウスIgG2b、マウスIgG3)、ラットIgG1、ラットIgG2a、ラットIgG2b、ラットIgG3(好ましくはラットIgG1又はラットIgG2c)、及びウサギIgGが挙げられる。
【0013】
一態様において、本発明は、(Xaa1)NMQCQRRFYEALHDPNLNEEQRNA(Xaa2)I(Xaa3)SIRDDC(配列番号1)、若しくは(Xaa4)FNMQCQRRFYEALHDPNLNEEQRNA(Xaa2)I(Xaa3)SIRDDC(配列番号2)のアミノ酸配列、又は配列番号1若しくは2のアミノ酸配列において、Xaa1~Xaa4以外の位置で1若しくは数個のアミノ酸が付加、欠失、及び/又は置換されたアミノ酸配列を含む、ペプチドに関する。本発明のペプチドは好ましくはIgG結合ペプチド、又はIgG結合用ペプチドである。配列番号1又は配列番号2のアミノ酸配列は、プロテインAのIgG結合ドメイン(B-ドメイン)を最小化し、変異等を行うことによって親和性を最適化したZ34Cペプチド(Braisted AC. and Wells JA., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 93, pp. 5688-5692, 1996)をXaa1~Xaa4について変異させたものであり得る。
【0014】
上記アミノ酸配列において、Xaa1は、リシン残基、オルニチン残基、システイン残基、アスパラギン酸残基、グルタミン酸残基、2-アミノスベリン酸残基、及びジアミノプロピオン酸残基、好ましくはリシン残基、オルニチン残基、システイン残基、及びジアミノプロピオン酸残基からなる群から選択され、さらに好ましくはリシン残基である。また、上記アミノ酸配列において、Xaa2及びXaa3は、それぞれ独立に、アルギニン残基、ヒスチジン残基、アスパラギン酸残基、グルタミン酸残基、セリン残基、トレオニン残基、アスパラギン残基、グルタミン残基、チロシン残基、及びシステイン残基、好ましくはアルギニン残基、ヒスチジン残基、及びグルタミン酸残基からなる群から選択され、さらに好ましくはアルギニン残基である。一実施形態において、Xaa2及びXaa3は、以下で記載する架橋剤に対して反応性を有さない。また、上記アミノ酸配列において、Xaa4は、グリシン残基、アラニン残基、バリン残基、ロイシン残基、イソロイシン残基、メチオニン残基、プロリン残基、フェニルアラニン残基、トリプトファン残基、リシン残基、オルニチン残基、システイン残基、アスパラギン酸残基、グルタミン酸残基、βアラニン残基、2-アミノスベリン酸残基、ジアミノプロピオン酸残基、及びNH2-(PEG)n-CO(n=1~50、1~20、1~10、好ましくはn=1~7)からなる群から選択されるか、又は存在しない。Xaa4は、好ましくはグリシン残基、アラニン残基、βアラニン残基、及びNH2-(PEG)n-CO(n=1~50)からなる群から選択されるか、又は存在せず、さらに好ましくはグリシン残基であるか、又は存在しない。
【0015】
配列番号1のアミノ酸配列の具体例として、KNMQCQRRFYEALHDPNLNEEQRNARIRSIRDDC(配列番号4)のアミノ酸配列が挙げられ、配列番号2のアミノ酸配列の具体例として、GFNMQCQRRFYEALHDPNLNEEQRNARIRSIRDDC(配列番号7)のアミノ酸配列が挙げられる。また、配列番号1のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が付加、欠失、及び/又は置換されたアミノ酸配列の具体例として、配列番号4のアミノ酸配列の7位のアルギニン残基がリシン残基に置換されたKNMQCQKRFYEALHDPNLNEEQRNARIRSIRDDC(配列番号6)のアミノ酸配列が挙げられ、配列番号2のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が付加、欠失、及び/又は置換されたアミノ酸配列の具体例として、配列番号7のアミノ酸配列の8位のアルギニン残基がリシン残基に置換されたGFNMQCQKRFYEALHDPNLNEEQRNARIRSIRDDC(配列番号5)のアミノ酸配列が挙げられる。
【0016】
本明細書において、配列番号1若しくは2のアミノ酸配列において付加、欠失、及び/又は置換がなされ得る「1若しくは数個」の範囲は、例えば1から5個、1から4個、好ましくは1から3個、1から2個、さらに好ましくは1個である。
【0017】
配列番号1又は配列番号2のアミノ酸に対して付加又は置換がなされる場合、付加又は置換により挿入されるアミノ酸はシステイン残基でないことが好ましい。また、付加又は置換により挿入されるアミノ酸がリシン残基である場合、リシン残基のεアミノ基は修飾され、以下で記載する架橋剤に対して反応性を有さないことが好ましい。また、配列番号1又は配列番号2のアミノ酸に対して欠失又は置換がなされる場合、欠失又は置換されるアミノ酸はシステイン残基でないことが好ましい。
【0018】
配列番号1又は2のアミノ酸配列に対する付加、欠失、及び/又は置換は、ペプチドのIgGとの結合に大きな影響を与えないようなアミノ酸について行うことができる。そのようなアミノ酸に対する付加、欠失、及び/又は置換の例として、配列番号1のアミノ酸配列の7位のアルギニン残基、及び配列番号2のアミノ酸配列の8位のアルギニン残基の欠失又は置換、及び配列番号1又は配列番号2のC末端へのリシン残基の付加が挙げられる。置換に適したアミノ酸は、側鎖の性質を考慮して、例えば保存的アミノ酸置換に基づいて、適宜定めることができる。
【0019】
配列番号1又は2のアミノ酸配列の例として、限定するものではないが、FNMQCQRRFYEALHDPNLNEEQRNARIRSIRDDC(配列番号9)、GFNMQCQRRFYEALHDPNLNEEQRNARIRSIRDDC(配列番号7)、KNMQCQRRFYEALHDPNLNEEQRNARIRSIRDDC(配列番号4)、GFNMQCQKRFYEALHDPNLNEEQRNARIRSIRDDC(配列番号5)、KNMQCQKRFYEALHDPNLNEEQRNARIRSIRDDC(配列番号6)、FNMQQQRRFYEALHDPNLNEEQRNARIRSIRDD(配列番号10)、又はGKNMQCQRRFYEALHDPNLNEEQRNARIRSIRDDC(配列番号11)のアミノ酸配列が挙げられる。
【0020】
配列番号1又は2のアミノ酸配列の2つのシステイン残基、すなわち配列番号1の5位のシステイン残基と34位のシステイン残基、及び配列番号2の6位のシステイン残基と35位のシステイン残基は、ジスルフィド結合又はリンカーを介して連結されて、環状ペプチドを形成することができる。好ましくは、配列番号1又は2のアミノ酸配列において、2つのシステイン残基はジスルフィド結合している。配列番号1又は2のアミノ酸配列の2つのシステイン残基が、リンカーにより連結される場合、リンカーの種類は特に限定しないが、例えば、
以下の式:
【0021】
【化1】
からなる群から選択される式で表されるリンカーが挙げられる。リンカーは、好ましくは、
【0022】
【化2】
で表されるリンカー、さらに好ましくは
【0023】
【化3】
で表されるリンカーである。
【0024】
上記IgG結合ペプチドにおけるリンカー中のRは、置換された又は置換されていないアルキル、好ましくは置換された又は置換されていないC1~C6アルキル、即ちメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、又はヘキシル基である。Rの置換基は特に限定しないが、例えば、ヒドロキシ基、(モノ若しくはポリ)エチレンオキシド基、カルボキシル基、アルコキシ基、アシル基、アルキル基、アミド基、エステル基、ハロゲン基(F、Cl、Br、又はI)、又はこれらの組み合わせであってよい。また、式中の波線部分は、スルフィド基との結合部分を意味する。当該リンカーは、通常のジスルフィド結合よりも、安定性、例えばアルカリ耐性又は還元反応等耐性、好ましくはアルカリ耐性に優れる。
【0025】
上記リンカーを有するペプチドを調製する方法は特に限定しない。例えば、以下の式:
【0026】
【化4】
で表されるリンカーを有するペプチドは、例えば以下の方法:
システイン残基を2つ含むペプチドと、上記リンカーの波線部分に架橋反応に関与する反応性の官能基(例えば、ハロゲン基、イミダゾール基等)を有する化合物を、例えば酸性条件下で混合する工程を含む方法により得ることができる。
【0027】
さらに、上記カルボニル基を有するペプチドを、一級アミン(RNH2)と反応させることにより、
【0028】
【化5】
で表されるリンカーにより連結されたペプチドを得ることができる(Rは上記と同じ意味である)。
【0029】
前記化合物において、ハロゲン基は、好ましくはF、Cl、Br、及びI、さらに好ましくはCl、Br、及びIからなる群から選択される。ハロゲン基は好ましくは同一であり、さらに好ましくは、ハロゲン基はいずれもClである。
【0030】
上記の通り、配列番号1のアミノ酸配列を有するペプチドにおいて、Xaa1は、リシン残基、オルニチン残基、システイン残基、アスパラギン酸残基、グルタミン酸残基等のタンパク質構成アミノ酸、並びにジアミノプロピオン酸残基及び2-アミノスベリン酸残基等の非タンパク質構成アミノ酸のいずれであってもよく、好ましくはリシン残基、オルニチン残基、システイン残基、又はジアミノプロピオン酸残基、さらに好ましくはリシン残基である。Xaa1は、後述する架橋剤によって修飾可能であることが好ましい。本明細書において「非タンパク質構成アミノ酸」とは、生体においてタンパク質を構成するのに用いられないアミノ酸を指す。本発明のペプチドを架橋剤によって修飾する際の部位特異性を高めるため、配列番号1のアミノ酸配列中のXaa1のαアミノ基はアセチル基又はプロピニル基等のアシル基(本明細書において、「アシル基」は、一般式:R-CO-で表され、式中、Rは炭化水素、好ましくは炭素数1~6のアルキル基である)、又はアミノ基等で修飾されていることが好ましい。また、本発明のペプチドを架橋剤によって修飾する際の部位特異性を高めるため、本発明のペプチドは、その配列中にXaa1と同じアミノ酸残基を、全く有さないか、ほとんど有さない(例えば、1個又は2個しか有さない)ことが好ましく、Xaa1と同じアミノ酸残基を有する場合にはそのアミノ酸残基が架橋剤が反応しないように修飾されていることが好ましい。この場合、Xaa1と同じアミノ酸残基の修飾は、限定するものではないが、例えば以下で詳細に記載する標識物質又は薬剤の連結であってよい。例えば、Xaa1がリシン残基である場合には、本発明のペプチドは、その配列中にXaa1以外の場所にリシン残基を全く有さないか、ほとんど有さないことが好ましく、リシン残基を有する場合にはリシン残基のεアミノ基が修飾されていることが好ましい。
【0031】
また、上記の通り、配列番号2のアミノ酸配列を有するペプチドにおいて、Xaa4は、グリシン残基、アラニン残基、バリン残基、ロイシン残基、イソロイシン残基、メチオニン残基、プロリン残基、フェニルアラニン残基、トリプトファン残基、リシン残基、オルニチン残基、システイン残基、アスパラギン酸残基、及びグルタミン酸残基等のタンパク質構成アミノ酸、βアラニン残基、2-アミノスベリン酸残基、ジアミノプロピオン酸残基、及びNH2-(PEG)n-CO(n=1~50、1~20、1~10、好ましくはn=1~7)等の非タンパク質構成アミノ酸のいずれであってもよく、又は存在しなくてもよい。Xaa4は、好ましくはグリシン残基、アラニン残基、βアラニン残基、又はNH2-(PEG)n-CO(n=1~50、1~20、1~10、好ましくはn=1~7)さらに好ましくはグリシン残基であるか、存在しない。Xaa4、又はXaa4が存在しない場合には1位のフェニルアラニン等のN末端アミノ酸は、後述する架橋剤によって修飾可能であることが好ましい。本発明のペプチドを架橋剤によって修飾する際の部位特異性を高めるため、配列番号2のアミノ酸配列中のXaa4(又はXaa4が存在しない場合には1位のフェニルアラニン等のN末端アミノ酸)のαアミノ基は非修飾であり、このαアミノ基が架橋剤によって修飾されることが好ましい。また、本発明のペプチドを架橋剤によって修飾する際の部位特異性を高めるため、配列番号2のアミノ酸配列は、架橋剤によって修飾され得るアミノ酸を、全く有さないか、ほとんど有さない(例えば、1個又は2個しか有さない)ことが好ましく、架橋剤によって修飾され得るアミノ酸を有する場合にはそのアミノ酸残基が架橋剤が反応しないように修飾されていることが好ましい。この場合、アミノ酸の修飾は、限定するものではないが、例えば以下で詳細に記載する標識物質又は薬剤の連結であってよい。例えば、配列番号2のアミノ酸配列は、リシン残基を全く有さないか、ほとんど有さない(例えば、1個又は2個しか有さない)ことが好ましく、リシン残基を有する場合にはリシン残基のεアミノ基が修飾されていることが好ましい。
【0032】
また、本明細書に記載のIgG結合ペプチドは、その安定性の向上等のため、例えば、N末端のアシル化(例えばアセチル化)、アミノ化、及び/又はPEG化(ポリエチレングリコール付加)、及びC末端のアミド化等により修飾されていても良い。PEG化を行う場合のPEGの分子数は特に限定されず、例えば、1~50分子、1~20分子、2~10分子、2~6分子、又は4分子のPEGを付加することができる。
【0033】
本発明のペプチドは、IgGとの結合親和性が、他の免疫グロブリン(例えば、IgA、IgE、IgM)と比較して例えば約10倍以上、好ましくは約50倍以上、より好ましくは約200倍以上高い。本発明のペプチドとヒトIgGとの結合に関する解離定数(Kd)は、表面プラズモン共鳴スペクトル解析(例えばBIACOREシステム使用)により決定可能であり、例えば1×10-1M~1×10-3M未満、好ましくは1×10-4M未満、より好ましくは1×10-5M未満である。
【0034】
本発明のIgG結合ペプチドは、IgGのFcドメインに結合する。本発明のIgG結合ペプチドは、後述する実施例において示す通り、上記Xaa1又はXaa4において、IgG Fcの特定の領域、すなわち、ヒトIgG FcにおけるEu numberingに従うLys248(以下、本明細書では単に「Lys248」とも表記し、ヒトIgG CH2(配列番号8)の18番目のアミノ酸残基に相当する)と近接し得る。
【0035】
本発明のペプチドは、慣用の液相合成法、固相合成法等のペプチド合成法、自動ペプチド合成機によるペプチド合成等(Kelley et al., Genetics Engineering Principles and Methods, Setlow, J.K. eds., Plenum Press NY. (1990) Vol.12, p.1-19;Stewart et al., Solid-Phase Peptide Synthesis (1989) W.H. Freeman Co.; Houghten, Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1985) 82: p.5132、「新生化学実験講座1 タンパク質IV」(1992)日本生化学会編,東京化学同人)によって製造することができる。あるいは、本発明のペプチドをコードする核酸を用いた遺伝子組換え法やファージディスプレイ法等によって、ペプチドを製造してもよい。例えば本発明のペプチドのアミノ酸配列をコードするDNAを発現ベクター中に組み込み、宿主細胞中に導入し培養することにより、目的のペプチドを製造することができる。製造されたペプチドは、常法により、例えば、ゲルろ過クロマトグラフィー、イオン交換カラムクロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、逆相カラムクロマトグラフィー、HPLC等のクロマトグラフィー、硫安分画、限外ろ過、及び免疫吸着法等により、回収又は精製することができる。
【0036】
ペプチド合成では、例えば、各アミノ酸(天然であるか非天然であるかを問わない)の、結合しようとするα-アミノ基とα-カルボキシル基以外の官能基を保護したアミノ酸類を用意し、それぞれのアミノ酸のα-アミノ基とα-カルボキシル基との間でペプチド結合形成反応を行う。通常、ペプチドのC末端に位置するアミノ酸残基のカルボキシル基を適当なスペーサー又はリンカーを介して固相に結合しておく。このようにして得られたジペプチドのアミノ末端の保護基を選択的に除去し、次のアミノ酸のα-カルボキシル基との間でペプチド結合を形成する。このような操作を連続して行い側基が保護されたペプチドを製造し、最後に、すべての保護基を除去し、固相から分離する。保護基の種類や保護方法、ペプチド結合法の詳細は、上記の文献に詳しく記載されている。
【0037】
遺伝子組換え法による製造は、例えば、本発明のペプチドをコードするDNAを適当な発現ベクター中に挿入し、適当な宿主細胞にベクターを導入し、細胞を培養し、細胞内から又は細胞外液から目的のペプチドを回収することを含む方法によりなされ得る。ベクターは、限定されないが、例えば、プラスミド、ファージ、コスミド、ファージミド、及びウイルス等のベクターである。
【0038】
プラスミドベクターとしては、限定するものではないが、大腸菌由来のプラスミド(例えばpET22b(+)、pBR322、pBR325、pUC118、pUC119、pUC18、pUC19、pBluescript等)、枯草菌由来のプラスミド(例えばpUB110、pTP5等)、及び酵母由来のプラスミド(例えばYEp13、YCp50等)等が挙げられる。
【0039】
ファージベクターとしては、限定するものではないが、T7ファージディスプレイベクター(T7Select10-3b、T7Select1-1b、T7Select1-2a、T7Select1-2b、T7Select1-2c等(Novagen))、及びλファージベクター(Charon4A、 Charon21A、EMBL3、EMBL4、λgt10、λgt11、λZAP、λZAPII等)が挙げられる。ウイルスベクターとしては、限定するものではないが、例えばレトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ワクシニアウイルス、及びセンダイウイルス等の動物ウイルス、並びにバキュロウイルス等の昆虫ウイルス等が挙げられる。コスミドベクターとしては、限定するものではないが、Lorist 6、Charomid9-20、及びCharomid9-42等が挙げられる。
【0040】
ファージミドベクターとしては、限定するものではないが、例えばpSKAN、pBluescript、pBK、及びpComb3H等が知られている。ベクターには、目的のDNAが発現可能なように調節配列や、目的DNAを含むベクターを選別するための選択マーカー、目的DNAを挿入するためのマルチクローニングサイト等が含まれ得る。そのような調節配列には、プロモーター、エンハンサー、ターミネーター、S-D配列又はリボソーム結合部位、複製開始点、及びポリAサイト等が含まれる。また、選択マーカーには、例えばアンピシリン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子、及びジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子、等が用いられ得る。ベクターを導入するための宿主細胞は、大腸菌や枯草菌等の細菌、酵母細胞、昆虫細胞、動物細胞(例えば、哺乳動物細胞)、及び植物細胞等であり、これらの細胞への形質転換又はトランスフェクションは、例えば、リン酸カルシウム法、エレクトロポレーション法、リポフェクション法、パーテイクルガン法、及びPEG法等を含む。形質転換細胞の培養は、宿主生物の培養に用いられる通常の方法に従って行われる。例えば、大腸菌や酵母細胞等の微生物の培養液は、宿主微生物が資化し得る炭素源、窒素源、及び無機塩類等を含有する。
【0041】
本発明のペプチドの回収を容易にするために、発現によって生成したペプチドを細胞外に分泌させることが好ましい。これは、その細胞からのペプチドの分泌を可能にするペプチド配列をコードするDNAを、目的ペプチドをコードするDNAの5'末端側に結合することにより行うことができる。細胞膜に移行した融合ペプチドがシグナルペプチダーゼによって切断されて、目的のペプチドが培地に分泌放出される。あるいは、細胞内に蓄積された目的ペプチドを回収することもできる。この場合、細胞を物理的又は化学的に破壊し、タンパク質精製技術を使用して目的ペプチドを回収する。
【0042】
本発明のIgG結合ペプチドと他のタンパク質を融合させる場合、IgG結合ペプチドと他のタンパク質を別々に調製した後に、必要に応じてリンカーを用いてIgG結合ペプチドとタンパク質を融合させても良いし、遺伝子組換え法によって、必要に応じて適当なリンカーを加えて融合タンパク質として作製してもよい。この場合、本発明のIgG結合ペプチドがIgGとの結合性を損なわないように融合タンパク質を作製することが好ましい。
【0043】
<修飾されたIgG結合ペプチド>
一態様において、本発明における上記IgG結合ペプチドは、架橋剤により修飾されていることが好ましい。
【0044】
上記の通り、本発明のIgG結合ペプチドは、後述する実施例において示す通り、上記Xaa1又はXaa4において、IgG Fcの特定の領域、すなわち、ヒトIgG FcにおけるEu numberingに従うLys248と近接し得る。したがって、本発明のIgG結合ペプチドのXaa1又はXaa4(又はXaa4が存在しない場合には1位のフェニルアラニン等のN末端アミノ酸)を架橋剤で修飾し、IgGと架橋反応させることによって、IgG結合ペプチドのXaa1又はXaa4(又はXaa4が存在しない場合にはN末端アミノ酸)とIgG FcのLys248の間で部位特異的に架橋構造を形成させ得る。したがって、本発明のIgG結合ペプチドを種々の化合物で修飾し、Xaa1又はXaa4(又はXaa4が存在しない場合にはN末端アミノ酸)を架橋剤で修飾し、これをIgGと架橋反応させることによって、種々の化合物を特異的かつ簡便にIgGに導入することができる。また、本発明によれば、IgG結合ペプチドを介して化合物を導入することができるため、様々な構造の化合物を副反応なくIgGに導入し得る。さらに本発明の方法は、得られる産物の収率が高く、また、抗体そのもの改変を伴わないため、抗体の機能を低下させる可能性が低いという利点も有する。
【0045】
本発明のIgG結合ペプチドは、ヒト以外の動物、好ましくは哺乳動物、例えばラット、マウス、及びウサギのIgGに対して用いることもできる。この場合、本発明のIgG結合ペプチドが結合するIgG中の部位は、本明細書を読んだ当業者であれば、例えばヒトIgGの配列と他の動物のIgGの配列をアライメントすることにより、容易に特定することができる。
【0046】
本発明において、「架橋剤」とは、本発明のIgG結合ペプチドと、IgG Fcを、共有結合により連結させるための化学物質である。本発明の架橋剤は、当業者であれば適宜選択することが可能であり、所望のアミノ酸、例えば、Xaa1であれば、リシン残基、オルニチン残基、システイン残基、アスパラギン酸残基、グルタミン酸残基、2-アミノスベリン酸残基、又はジアミノプロピオン酸残基等、Xaa4であればグリシン残基、アラニン残基、バリン残基、ロイシン残基、イソロイシン残基、メチオニン残基、プロリン残基、フェニルアラニン残基、トリプトファン残基、リシン残基、オルニチン残基、システイン残基、アスパラギン酸残基、グルタミン酸残基、βアラニン残基、2-アミノスベリン酸残基、ジアミノプロピオン酸残基、及びNH2-(PEG)n-CO(n=1~50、1~20、1~10、好ましくはn=1-7)と結合可能な部位を少なくとも2箇有する化合物とすることができる。その例として、限定するものではないが、DSG(disuccinimidyl glutarate、ジスクシンイミジルグルタレート)、DSS(disuccinimidyl suberate、ジスクシンイミジルスベレート)等のスクシンイミジル基を好ましくは2以上含む架橋剤、DMA(dimethyl adipimidate・2HCl、アジプイミド酸ジメチル二塩酸塩)、DMP(dimethyl pimelimidate・2HCl、ピメルイミド酸ジメチル二塩酸塩)、及びDMS(dimethyl suberimidate・2HCl、スベルイミド酸ジメチル二塩酸塩)等のイミド酸部分を好ましくは2以上含む架橋剤、並びにDTBP(dimethyl 3,3’-dithiobispropionimidate・2HCl、3,3'-ジチオビスプロピオンイミド酸ジメチル二塩酸塩)及びDSP(dithiobis(succinimidyl propionate)、ジチオビススクシンイミジルプロピオン酸)等のSS結合を有する架橋剤が挙げられる。
【0047】
本発明のIgG結合ペプチドは、他の機能性リガンド、例えば、標識物質及び/又は他の薬剤(例えばIgA又はVHH等の抗体)により修飾されていてもよい。一実施形態において、本発明のIgG結合ペプチドは、配列番号1の7位のアルギニン残基若しくは配列番号2の8位のアルギニン残基がリシン残基に置換されているか、配列番号1若しくは配列番号2のC末端にリシン残基をさらに含み、この置換リシン残基又はC末端のリシン残基に機能性リガンド、例えば、標識物質及び/又は他の薬剤が連結している。標識物質及び/又は他の薬剤は、直接IgG結合ペプチドに連結してもよいし、PEG(ポリエチレングリコール)等の分子を付して連結してもよい。PEGを付す場合のPEGの分子数は特に限定されず、例えば、1~50分子、1~20分子、2~10分子、2~6分子、又は4分子のPEGを付加することができる。
【0048】
IgG結合ペプチドと他の機能性物質の連結は、当業者に公知の方法、例えばアジド基とdibenzocyclooctyneとの反応、又はマレイミド基とスルフヒドリル基の反応等により行うことができる。標識物質により標識されている場合、本発明のIgG結合ペプチドがIgGと複合体を形成することで、該標識物質を介してIgGの検出又は定量を行うことが可能となる。標識物質は、限定されないが、例えば蛍光色素、化学発光色素、放射性同位元素(例えば、放射性ヨウ素又は放射性同位体金属イオンのキレート錯体、例えばDOTA又はデスフェリオキサミンのキレート錯体)、並びにビオチン及びGFP(緑色蛍光タンパク質)等の蛍光タンパク質、発光タンパク質、並びにペルオキシダーゼ等の酵素を含み、好ましい標識物質の例は、フルオレセイン及びFITC等のフルオレセイン誘導体、ローダミン及びテトラメチルローダミン等のローダミン誘導体、並びにテキサスレッド等の蛍光色素である。本発明のペプチドを他の薬剤によって修飾する場合、薬剤として、限定するものではないが、例えば、オーリスタチンE等のオーリスタチン、メイタンシン、エムタンシン、ドキソルビシン、ブレオマイシン、又はこれらの誘導体等の抗がん剤;並びに、血液脳関門上のレセプターに結合して中枢神経への移行を可能とする薬剤、又はがん細胞等に結合して抗体の細胞内への移行を可能にする薬剤等の標的化剤が挙げられる。薬剤を連結している場合、本発明のIgG結合ペプチドは、例えば医薬抗体として用いられるIgGと複合体を形成することで、疾患の治療効果を高めることができる。
【0049】
本発明の架橋剤により修飾されたIgG結合ペプチドは、例えば上記<IgG結合ペプチド>の項目で記載した方法に従って得られたIgG結合ペプチドを架橋剤と反応させることにより製造することができる。この場合、IgG結合ペプチド中の上記Xaa1又はXaa4のアミノ酸残基の側鎖を特異的に修飾することが必要であり、これは、例えば、Xaa1又はXaa4の種類と架橋剤の組み合わせを選択することによりなされ得る。例えば、DSS又はDSG等のスクシンイミジル基を含む架橋剤は、リシン残基の側鎖のアミン(εアミノ基)及びポリペプチドのN末端に存在する一級アミン(αアミノ基)と反応するため、IgG結合ペプチドのN末端をブロッキングした上でDSS又はDSGと反応させることで、リシン残基の側鎖のみをDSS又はDSGで特異的に修飾することができる。このようなアミノ酸残基と架橋剤の組み合わせは、当業者であれば適宜選択することができる。また、DSS又はDSGを用いる場合は、リシン残基を含まないようなペプチドにおいて、ポリペプチドのN末端に存在する一級アミン(αアミノ基)を非修飾とすることで、αアミノ基を特異的に修飾することもできる。
【0050】
本発明の架橋剤により修飾されたIgG結合ペプチドは、例えば、架橋剤により修飾されたアミノ酸残基を用いてペプチド合成を行うことによって製造することもできる。同様に、IgG結合ペプチドを標識物質及び/又は他の薬剤で修飾する場合には、これらの修飾を加えたアミノ酸残基を用いてペプチド合成することにより標識物質及び/又は他の薬剤で修飾されたIgG結合ペプチドを調製してもよい。
【0051】
<架橋反応>
一態様において、本発明は、本発明の架橋剤で修飾されているIgG結合ペプチドとIgGを混合する工程を含む、IgG結合ペプチドとIgGの複合体を生産する方法に関する。本工程により、架橋剤で修飾されているIgG結合ペプチドとIgGの間で架橋反応が生じ得る。架橋反応は、特にIgG結合ペプチドの上記Xaa1又はXaa4のアミノ酸残基とIgG FcのLys248の間で部位特異的に生じ得る。
【0052】
該混合工程の条件は、本発明のIgG結合ペプチドとIgGの間で架橋反応が生じる条件で行うものであれば特に限定しない。例えば、本発明のIgG結合ペプチドとIgGを、適当なバッファー中において、室温(例えば約15℃~30℃)で混合することにより反応を行うことができる。該混合工程は、必要に応じて架橋反応を促進する触媒を適量加えて行ってもよい。
【0053】
IgG結合ペプチドとIgGの結合性を高めるため、反応条件を調整してもよい。例えば、Z34Cペプチドの由来となるプロテインAは、pHが8以上の条件でヒトIgG3との結合性が増すことが知られており、またNaCl等の塩濃度を高めることによってマウスIgG1との結合性が増すことが知られている。このような知見を参照して、本発明の架橋反応の条件を設定することができる。
【0054】
IgG結合ペプチドとIgGの反応条件は、IgG結合ペプチド及びIgGの種類などを考慮して適宜定めることができ、限定しないが、pH4.5~6.5(例えばpH5.0~6.0、pH5.2~5.8、pH5.4~5.6、又はpH約5.5)、又はpH6.5~8.5(例えばpH6.9~7.9、pH7.2~7.7、pH7.3~7.5、又はpH約7.4)であってよい。
【0055】
該混合工程における本発明のIgG結合ペプチドとIgGの混合比率は、特に限定しない。本発明のIgG結合ペプチドとIgGのモル比率は、例えば1:1~20:1、好ましくは2:1~20:1又は5:1~10:1とすることができる。
【0056】
該混合工程における混合時間(反応時間)は、本発明のIgG結合ペプチドとIgGの間で架橋反応が生じる限り限定するものではないが、例えば、1分~5時間、好ましくは10分~2時間又は15分~1時間とすることができる。
【0057】
本発明のIgG結合ペプチドとIgGの複合体を生産する方法は、必要に応じて、上記工程を行った後の混合物から、不純物、例えば、未反応のIgG結合ペプチド、IgG、及び試薬等を分離し、該複合体を精製する工程をさらに含んでよい。該工程は、本分野で公知の方法、例えば、ゲルろ過クロマトグラフィー、イオン交換カラムクロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、逆相カラムクロマトグラフィー、及びHPLC等のクロマトグラフィー等により行うことができる。
【0058】
<複合体>
一態様において、本発明は、本発明のIgG結合ペプチドとIgGとの架橋複合体に関する。該複合体は、上記架橋反応によって形成され得る。よって、本発明は、好ましくは、IgG結合ペプチドの上記Xaa1又はXaa4のアミノ酸残基とIgG FcのLys248との間が部位特異的に架橋剤を介して結合したIgG結合ペプチドとIgGとの複合体に関する。
【0059】
本発明の複合体は、部位特異的な架橋反応によって形成されることから、該架橋反応が、IgGの活性に負の影響を与える可能性が少ない。また、修飾したIgG結合ペプチドをIgGに連結することによって、IgGに新たな機能性を付加することができる。例えば、標識物質により修飾したIgG結合ペプチドをIgGに結合させれば、該標識物質を介してIgGの検出又は定量を行うことが可能となる。標識物質の例は、上記の通りであるからここでは記載を省略する。また、例えば、薬剤により修飾したIgG結合ペプチドを、医薬抗体であるIgGに結合させれば、IgGの疾患の治療効果を高めることができる。薬剤の例は、上記の通りであるからここでは記載を省略する。
【0060】
<医薬組成物又は診断剤>
一態様において、本発明は上記IgG結合ペプチド、上記架橋剤で修飾されたIgG結合ペプチド、又は上記架橋剤で修飾されたIgG結合ペプチドとIgGの複合体を含む医薬組成物又は診断剤に関する。医薬組成物に含まれる場合、IgG結合ペプチドは、例えば上記の薬剤により修飾されていることが好ましく、診断剤に含まれる場合、IgG結合ペプチドは、例えば上記の標識物質により修飾されていることが好ましい。
【0061】
本発明の医薬組成物及び診断剤の対象となる疾患として、限定するものではないが、例えば、抗体により標的化可能な疾患又は障害、好ましくは、がん、炎症性疾患、感染症、及び神経変性疾患が挙げられる。
【0062】
本発明の医薬組成物は、経口投与又は非経口投与(例えば、静脈注射、筋肉注射、皮下投与、腹腔内投与、直腸投与、又は経粘膜投与等)で、投与することができる。また、本発明の医薬組成物は、投与経路に応じて適当な剤形とすることができる。具体的には顆粒剤、錠剤、丸剤、カプセル剤、シロップ剤、乳剤、懸濁剤、静脈注射、動脈注射、若しくは筋肉注射用の注射剤、点滴剤、外用剤、又は坐剤等の各種製剤形態に調製することができる。投与方法及び剤型は、患者の性別、年齢、体重、症状等により、当業者であれば適宜選択することができる。
【0063】
本発明の医薬組成物は、常法に従って製剤化することができ(例えば、Remington's Pharmaceutical Science, latest edition, Mark Publishing Company, Easton,米国を参照されたい)、医薬的に許容される担体や添加物を共に含むものであってもよい。
【0064】
本発明の医薬組成物に含まれ得る担体及び医薬添加物の例としては、水、医薬的に許容される有機溶剤、コラーゲン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウム、アルギン酸ナトリウム、水溶性デキストラン、カルボキシメチルスターチナトリウム、ペクチン、メチルセルロース、エチルセルロース、キサンタンガム、アラビアゴム、カゼイン、寒天、ポリエチレングリコール、ジグリセリン、グリセリン、プロピレングリコール、ワセリン、パラフィン、ステアリルアルコール、ステアリン酸、ヒト血清アルブミン(HSA)、マンニトール、ソルビトール、ラクトース、及び医薬添加物として許容される界面活性剤等が挙げられる。
【0065】
実際の添加物は、本発明の医薬組成物の剤型に応じて上記の中から単独で又は適宜組み合わせて選ばれるが、これらに限定するものではない。例えば、注射用製剤として使用する場合、本発明のIgG結合タンパク質又はIgG結合タンパク質とIgGの複合体を溶液、例えば生理食塩水、緩衝液、ブドウ糖溶液等に溶解し、これに容器吸着防止剤、例えばTween 80、Tween 20、ゼラチン、ヒト血清アルブミン等を加えたものを使用することができる。あるいは、使用前に溶解して再構成する剤形とするために凍結乾燥したものであってもよく、凍結乾燥のため安定化剤としては、例えば、マンニトール、ブドウ糖等の糖アルコール及び/又は糖類を使用することができる。
【0066】
本発明の医薬組成物の有効投与量及び投与間隔は、患者の性別、年齢、体重、及び症状等に応じて適宜選択することができる。
【0067】
本発明の医薬組成物を投与する時期は、上記疾患の臨床症状が生ずる前後を問わず、予防的投与であっても治療的投与であってもよい。
【実施例
【0068】
(材料と方法)
抗体
Trasutumab(Human IgG1)は中外製薬より、Human IgG2 kappa Isotype Control、Human IgG3 kappa Isotype Control、Human IgG4 kappa Isotype Control、Mouse IgG1 kappa Isotype Control、Mouse IgG2b kappa Isotype Control、Mouse IgG3 kappa Isotype Controlは、Crown Bioscience社より購入した。また、Rabbit IgG Isotype ControlはThermo fisherより、Rat IgG1 Isotype Control, Rat IgG2b Isotype Controlは、R&D Systems社より、Rat IgG2c Isotype Control Antibodyは、LifeSpan BioSciencesより、それぞれ入手した。各抗体は、パウダーを、0.5M NaClで2.0mg/mLに希釈し、使用まで、凍結して保存した。
【0069】
Z34Cペプチド変異体の調製
Z34Cペプチド変異体は、F-moc法による固相合成により調製した。合成後のZ34C誘導ペプチド5.5mg(1.29μmol)を、10μLのジメチルスルホキシド(DMSO)(Wako)に溶解させ、これに190μLの0.1M NaHCO3水溶液を加え、室温で一晩放置し、分子内SS結合を形成させた。その後、サンプルを0.1%TFAを含む1%アセトニトリル3mLに希釈し、全量を分取用クロマトグラフLC-forte/R(YMC)にアプライした。0.1%TFAを含む10-60%アセトニトリル/水のグラジエントで溶出を行い、その後、有機溶媒を減圧下で除去後、凍結乾燥した。
【0070】
生成物同定のためのLC-MSによる分子量解析
反応生成物の構造確認は、反応液0.1μLを4000倍に0.1%ギ酸水溶液で希釈し、そのうち18μLを、kinetex(登録商標)LCカラム(1.7μm、EVO C18 100オングストローム、Phenomenex)を接続したLCMS-8030(Shimadzu)上にアプライした。流速は0.2mL/minにて0.1%ギ酸を含む10-50%アセトニトリル/水のグラジエント溶出を行い、得られたピークの質量を解析することにより確認した。
【0071】
分子構造モデリング
Z34C変異体のモデリング並びに修飾部位のデザインは、分子構造計算ソフトウェアMOE(The Molecular Operating Environment、CCG)を用いて行った。ヒトIgG1-FcとZ34Cペプチドの結晶構造(PDB ID :1OQO)をベースに、ペプチド上の変異部位の探索を行い、モデリングはProtein Builderのツールを用いて行った。
【0072】
Z34Cペプチド変異体のDSGによる修飾
Z34Cペプチド変異体のN末αアミノ基もしくはLysのεアミノ基のDSG(N,N’-Disuccimidyl glutarate)による修飾は、以下の方法で行った。1-2mgのペプチドを40μLのDMSOに溶解後、0.1%ピリジンを加え、アセトニトリルに溶解した500mMのDSGを20μL加え、50℃にて4.5時間反応した。反応物は、0.1%TFAを含む1%アセトニトリル3mLに希釈し、全量を分取用クロマトグラフLC-forte/R(YMC)にアプライした。0.1%TFAを含む10-60%アセトニトリル/水のグラジエントで溶出を行い、その後、有機溶媒を減圧下で除去後、凍結乾燥し、サクシイミジルグルタル(SG)化したZ34Cペプチド変異体を得た。
【0073】
ペプチドの親和性解析
Z34Cペプチド変異体親和性解析は、25℃にてBIAcore T-200(GE-Healthcare)上にて行った。すなわち、CM5センサーチップ上に、Trastuzumab(ヒトIgG1抗体)又はその他の抗体を、アミンカップリングのプロトコールに従い、RU値で約2000程度固定化した。HBS-EP緩衝液中、流速50μL/minの条件で、アナライトとして1μMから0.015μMまで計7点の異なる濃度のペプチドをインジェクトすることでセンサーグラム(会合時間: 180 sec、解離時間: 600sec)を得、付属のBIA evaluation softwareを用いて、平衡値解析から解離定数(Kd)を算出した。
【0074】
SG化Z34C変異体ペプチド試薬による抗体の標識とSDS-PAGEによる標識の確認
10mM酢酸緩衝液(pH.5.5)14μLに溶解した各種抗体3.0μg(0.2nmol)に、DMSOに1.5mMになるように溶解したSG化Z34Cペプチド変異体ペプチドを1.33μL(10倍モル等量、2nmol)加え、室温で30分静置した。このサンプル14.4μLに2-メルカプトエタノール0.6μL(Wako)およびSDS-PAGEサンプルバッファー(4×)5μLを加え、全量で20μL(3% 2-メルカプトエタノール)とした。95℃にて10分間加熱して還元後、Super Sep TM Ace(5-20%、13well、Wako 197-15011)にて、200V,20mAで約90分間電気泳動を行った。得られたゲルの蛋白質は、CBB(Coomassie Brilliant Blue)染色を行い、検出した。
【0075】
ELISA
マウスIgG1、IgG2b、及びヒトIgG3(いずれもニワトリ卵白リゾチームを抗原として認識)、並びに抗HER2抗体であるTrastuzumab(ヒトIgG1)を10mM酢酸緩衝液(pH5.5)中に溶解し(最終濃度2.5μM)、DMSOに溶解したペプチド試薬αZ34C 7K、εZ34C 7Kを10倍等量加え、室温にて30分反応させた。1/10体積の1M Tris-HCl(pH8.0)を加え反応を停止させ、0.5%BSAを含むPBSにて5000倍に希釈後、ELISAに使用した。抗原であるリゾチームをPBSにて200μg/L、100μg/L、50μg/Lとなるように希釈し、各ウェルをコートした(2時間)。次に、0.5%BSAを含むPBS溶液でブロックし、洗浄後、各ウェルに、希釈した抗体溶液50μLを加え、1時間反応させた。洗浄後、ウェルに0.5%BSAを含むPBS溶液で5000倍に希釈したSA-HRP(Vector)を加え、反応後、洗浄し、TMB試薬を加え発色させた。
【0076】
(結果)
<実施例1:Z34Cペプチドをベースにした置換ペプチドの調製>
ヒトIgG1-FcとZ34CペプチドのX線結晶構造(PDB ID:1OQO、10)をベースに、ヒトIgG1-Fc中のLys248と近位のZ34Cペプチド上のアミノ酸残基を探したところ、N末端のフェニルアラニンの側鎖が、IgG1-Fc中のLys248と最も接近していることが分かった(図2A)。次に、Z34CペプチドのN末端のフェニルアラニンをリシンに置換し、FcのLys248と置換したZ34CペプチドのLys1のεアミノ基の距離を測定したところ、最も近い距離で6.57Åまで接近できることが分かった(図2B)ため、実際にこの2つのアミノ基間の架橋が可能であるかどうか、変異ペプチドを合成し確認を試みた。
【0077】
まず、DSGとの反応にて修飾され得るアミノ基を除くため、Z34Cペプチドの26位及び28位のリシンをアルギニンに置換し、さらにSG化するために1位のフェニルアラニンをリシンに置換したεZ34C(Z34C(F1K,K26R,K28R))ペプチドを調製した。Z34Cペプチド、及びεZ34Cペプチドのアミノ酸配列を以下の表1に示す(ただし、各ペプチドのN末端とC末端はそれぞれ、アセチル化とアミド化を行った)。
【0078】
【表1】
【0079】
εZ34Cペプチドの分子内ジスルフィド結合を形成後、BIAcore T-200(GE-Healthcare)によりヒトIgG1との親和性を評価したところ、Kd値は17(±1.9)nMであった。元のZ34CのペプチドのKd値は、20nMであるとの報告があるため、変異の影響はほとんどないことがわかった。
【0080】
次に、このペプチドをDSG(ジスクシンイミジルグルタレート)と反応させて、1位のリシンの側鎖のSG(スクシンイミジルグルタレート)化を行い、得られたSG化εZ34CペプチドとヒトIgGの各サブクラスとの反応性を評価した。具体的には、pH5.5にて約14μMに調製したIgG溶液に、10倍量のモル比で、SG化εZ34Cペプチドを反応させた後、還元状態で、SDS-PAGEを行った結果を図3に示す。
【0081】
図3に示したように、SG化εZ34CペプチドとヒトIgGの反応では、IgG1-4の軽鎖のバンドの位置は、全く変化していないのに対し、IgG1(Trastuzumab)、IgG2、及びIgG4の重鎖のバンド(約50kDa)の約半分程度に約3000程度の分子量の増加が見られた。これは、SG化εZ34Cペプチドが、少なくとも、IgG3を除くIgGの重鎖に特異的に共有結合にて付加していることを示している。
【0082】
<実施例2:Z34Cペプチドをベースにした置換ペプチドの調製2>
Phe1Lysの置換を行わずに、Z34CのN末端にグリシンを1つ付加した置換ペプチドαZ34Cペプチド(Z34C(-1G,K26R,K28R))を設計した。αZ34Cのモデル構造では、N末端のグリシンのαアミノ基とIgGのFc中のLys248のεアミノ基の距離は、8.0オングストロームとなり、十分に、DSG等の架橋剤で架橋できることが示唆された。
【0083】
また、αZ34C、及び実施例1で調製したεZ34Cペプチドのビオチン標識部位として、溶媒に露出し、抗体との結合部位とは反対側に側鎖が伸びている7位のアルギニンをリシンに変換し、そのεアミノ基をPEG4-biotin修飾した(それぞれ、εZ34C 7K及びαZ34C 7Kとする)。ビオチン化した2種類の標識ペプチドの構造を以下の表2に示す(ただし、Z34C及びεZ34C 7KのN末端とC末端はそれぞれ、アセチル化とアミド化を行い、αZ34C 7KペプチドはN末端の修飾は行わず、C末端のアミド化のみ行った)。
【0084】
【表2】
【0085】
これらのペプチドを実施例1と同様の方法でSG化を行い、抗体との反応性を評価した。すなわち、αZ34C 7KペプチドはN末端のαアミノ基に、εZ34C 7KペプチドではLys1のεアミノ基にSG基を導入し、ヒト、マウス、及びラットの抗体に対する標識能をSDS-PAGEで検討した。
【0086】
図4Aに示したように、SG化αZ34C 7Kペプチドでは、図3で見た際と同様に、ヒトIgG1、2、及び4では、明らかに重鎖(約50kDaのバンド)の約半分程度に、3000程度の分子量の増加が見られた。一方で、IgG1~4の軽鎖及びIgG3の重鎖では、分子量の変化は見られなかった。この点をさらに確認するため、泳動後のゲルからタンパク質をPVDF膜に転写し、SA-HRPを使って染色したところ、ヒトIgG1,2,4において分子量が増加した重鎖のバンドのみが強く染色されたことから(図4B)、シフトしたバンドは、ビオチン化ペプチド試薬が含まれていることがわかった。一方、マウスのIgG1、2b、及び3の重鎖にも、同様なシフトが見られ(図4B)、またウサギIgGとラットIgG1とIgG2cにもシフトが見られた(図4C)ため、反応が起こっていることが分かった。一方、ラットIgG2bの重鎖にはバンドの変化は見られなかった(図4C)。
【0087】
同様に、SG化εZ34C 7Kペプチドについて、ヒト、マウス、ウサギ、及びラットIgGとの反応性を検討した。図5Aに示したように、ペプチドとの反応後、ヒトIgG1、2、及び4の重鎖は、分子量が3000ほどシフトしたバンドが得られ、IgG3は変化しなかった。この結果は、図3のSG化εZ34Cの結果とほぼ同様であることから、ビオチン化に伴う大きな影響はないと考えられた。一方、このペプチドとマウスIgGとの反応では、IgG2b、IgG3に、分子量が増大した重鎖のバンドが見られ(図5B)、ウサギならびにラットIgGとの反応では、ウサギIgG、ラットIgG2cに、分子量が増加した重鎖のバンドが見られた(図5C)。
【0088】
これらの2種類のビオチン化ペプチドの各種IgG抗体に対する反応性の違いを詳しく調べるため、反応後のSDS-PAGEの重鎖のバンド(X)とペプチドが結合した重鎖のバンド(Y)の染色ヒストグラムの面積から、修飾効率(Y/(X+Y)×100%)を算出した結果を、表3に示す。
【0089】
【表3】
【0090】
このようなペプチドのアミノ酸配列の違いによる各IgGとの反応性の違いは、ペプチドとIgG抗体の親和性並びに、修飾標的部位であるIgG FcのLys248近傍の構造の違いに由来すると考えられる。
【0091】
<実施例3:ビオチン化ペプチド標識抗体の各種抗体に対する親和性評価>
次に、使用したビオチン化ペプチド(DSG化無)と抗体との親和性を評価した。表4に、使用したペプチドと各種IgG抗体との、BIAcore T200を使った親和性解析の結果を示す。この表3の各種ペプチドによる標識効率と表4の親和性の関係をプロットしたが、抗体とペプチドの親和性と標識効率には、明確な相関は見られないように見受けられた(データ示さず)。
【0092】
これは、標識反応には、ある程度の抗体のFcとの親和性が必要だが、共有結合による架橋反応の形成のためには、おそらくLysの側鎖から伸びる架橋剤の構造、特にペプチドとFcが結合した際の末端に存在するNHS基と反応を受けるLys248のεアミノ基との位置関係といった構造的要因が重要であることが推測された。
【0093】
【表4】
【0094】
<実施例4:ビオチン化ペプチド標識抗体によるELISA>
マウスIgG1、IgG2b、及びヒトIgG3(いずれもニワトリ卵白リゾチームを抗原として認識)、並びに抗HER2抗体であるTrastuzumab(ヒトIgG1)について、αZ34C 7K、εZ34C 7Kを反応させ、ELISAを行った。結果を図6に示す。予想されたように、マウスIgG1、IgG2bは、結合反応性が高く、ヒトIgG3についても、結合活性が見られた。一方、標的抗原が異なるヒトIgG1(抗原はHER2)では、結合活性は全く見られなかった。
【0095】
このように、本ペプチドを使うと、標識抗体を抗体溶液とペプチド溶液を混合するだけで標識反応が終了し、余分な精製単離操作なしで、そのまま反応溶液をELISA等のアッセイに用いることができることが示された。
【0096】
<実施例5:各種ペプチドのIgG1に対する反応性>
以下のペプチドをF-moc法により合成し、pH5.5でのIgG1との反応性を評価した(ただしC末端はいずれもアミド化を行い、N末端はεZ34Cのみメトキシ化し、その他はアミノ化した)。
【0097】
【表5】
【0098】
10mMの酢酸緩衝液(pH5.5)に溶解したTrastuzumab(ヒトIgG1抗体)99μLに、DMSOに溶解した5mMの各SG化ペプチドを1μL加え、室温で反応させた(ただし、Trastuzumabとペプチド試薬の最終濃度は、10μMと200μM)。反応後、10分、30分、1時間、及び3時間後に、17μL(25μg)を取り、5%の2-mercaptoethanol(2-ME)を含む4×SDSサンプル溶液50μLを加え、蒸留水を163μLを加え、全量を200μLにした後、95℃にて10分インキュベートを行うことにより還元した。反応液のうち20μLを、5~20%ゲルにてSDS-PAGEを行い、CBB染色を行った。
【0099】
結果を図7に示す。Z34C 26 28Rが最も反応性が優れており、30分で100%のIgG1が修飾されていた。一方、αZ34C及びεZ34Cの30分後の収率は、49%と55%で、Z34C 26 28Rに比べ、約半分程度の修飾効率であった。さらに、Z33においても、Z34Cよりも効率は低いものの、αZ34C及びεZ34Cとほぼ同程度の効率で修飾されていた。
【0100】
<実施例6:pHの影響の検討>
10mMのPBS(pH7.4)に溶解した各種のIgG(99μL)に、DMSOに溶解した0.5mMのSG化ペプチド試薬(Z34C 26 28R、αZ34C、及びεZ34Cの3種のペプチド試薬)を1μL加え、室温で反応させた(ただし、抗体とペプチド試薬の最終濃度は、1μMと5μM)。3時間反応後、実施例5と同様の方法で、SDS-PAGE後、CBB染色を行った。
【0101】
結果を図8に示し、表5に値をまとめた(αZ34C及びεZ34Cのカッコ内の値は、表3におけるαZ34C 7K及びεZ34C 7Kペプチドを使ったpH5.5での抗体に対するペプチドの修飾効率(ただし、ペプチド試薬は、抗体の10倍モル比を加えた)を示す)。
【0102】
【表6】
【0103】
αZ34CでのpH5.5とpH7.4では、pH7.4でpH5.5に対し反応性向上が確認された(特に、マウスIgG1(30→56%)、マウスIgG2b(60→100%)、及びラットIgG1(5→59%))。一方で、ヒトIgG4(100→50%)及びラットIgG2c(100→43%)では、pH5.5のときに比べ、pH7.4では半分にまで反応収率が低下した。εZ34Cでは、比較したヒトIgG1-4の反応性は、pH5.5と7.4では大きな違いは見られなかった。Z34Cについては、pH5.5との比較データは示していないが、マウスIgG1、IgG2b、及びIgG 3並びにラットIgG1及びIgG 2cにおいて、100%の修飾効率を達成した。さらに、ラットZ34C(pH7.4)では、IgG2bに対して54%の修飾体が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0104】
本発明の架橋剤により修飾されたIgG結合ペプチドは、短時間で、しかもほとんど副反応なくIgGに付加することができるため、該IgG結合ペプチドに種々の化合物を結合させることで、種々の化合物によってIgGを特異的かつ簡便に修飾することができる。種々の化合物を付与したIgGは治療薬又は診断剤として用い得るため、本発明の産業上の利用可能性は大きい。
【0105】
本明細書で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願はそのまま引用により本明細書に組み入れられるものとする。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【配列表】
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