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特許7291424デイノコッカス属細菌由来ナノ小胞及びその用途
<図1a>
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-07
(45)【発行日】2023-06-15
(54)【発明の名称】デイノコッカス属細菌由来ナノ小胞及びその用途
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/74 20150101AFI20230608BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20230608BHJP
   A23L 33/135 20160101ALI20230608BHJP
   A61K 8/99 20170101ALI20230608BHJP
   C12Q 1/686 20180101ALI20230608BHJP
   C12Q 1/689 20180101ALI20230608BHJP
【FI】
A61K35/74 D
A61P29/00
A23L33/135
A61K8/99
C12Q1/686 Z ZNA
C12Q1/689
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021539971
(86)(22)【出願日】2020-01-08
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-03-03
(86)【国際出願番号】 KR2020000340
(87)【国際公開番号】W WO2020145661
(87)【国際公開日】2020-07-16
【審査請求日】2021-08-16
(31)【優先権主張番号】10-2019-0002608
(32)【優先日】2019-01-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2020-0002267
(32)【優先日】2020-01-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】516348577
【氏名又は名称】エムディー ヘルスケア インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】MD HEALTHCARE INC.
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】キム、ユン-クン
【審査官】大久保 元浩
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/155967(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/124617(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/153979(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/111028(WO,A1)
【文献】特表2007-515180(JP,A)
【文献】国際公開第2018/111040(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
C12Q
A61K
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTplus/JMEDplus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
デイノコッカス・ラジオデュランス(Deinococcus radiodurans)由来小胞を有効成分として含む炎症疾患予防又は治療用薬学的組成物。
【請求項2】
前記炎症疾患は、インターロイキン-6(Interleukin-6、IL-6)又は腫瘍壊死因子アルファ(Tumor necrosis factor-α、TNF-α)により媒介される疾患であることを特徴とする、請求項1に記載の薬学的組成物。
【請求項3】
前記小胞は、平均直径が10~200nmであることを特徴とする、請求項1に記載の薬学的組成物。
【請求項4】
前記小胞は、デイノコッカス・ラジオデュランスから自然的又は人工的に分泌されることを特徴とする、請求項1に記載の薬学的組成物。
【請求項5】
デイノコッカス・ラジオデュランス(Deinococcus radiodurans)由来小胞を有効成分として含む炎症疾患予防又は改善用食品組成物。
【請求項6】
前記小胞は、平均直径が10~200nmであることを特徴とする、請求項に記載の食品組成物。
【請求項7】
前記小胞は、デイノコッカス・ラジオデュランスから自然的又は人工的に分泌されることを特徴とする、請求項に記載の食品組成物。
【請求項8】
デイノコッカス・ラジオデュランス(Deinococcus radiodurans)由来小胞を有効成分として含む、炎症疾患の予防又は治療用吸入剤組成物。
【請求項9】
デイノコッカス・ラジオデュランス(Deinococcus radiodurans)由来小胞を有効成分として含む、炎症性皮膚疾患の予防又は改善用化粧料組成物。
【請求項10】
前記炎症性皮膚疾患は、アトピー皮膚炎、にきび、脱毛、及び乾癬よりなる群から選ばれた1つ以上であることを特徴とする、請求項に記載の化粧料組成物。
【請求項11】
デイノコッカス・ラジオデュランス(Deinococcus radiodurans)由来小胞の炎症疾患の治療に用いられる薬剤の生産のための使用。
【請求項12】
は認知症の診断のための情報提供方法であって
(a)正常ヒト及び被検者のサンプルから分離した小胞からDNAを抽出する段階;
(b)前記抽出したDNAに対して16S rDNAに存在する遺伝子配列に基づいて作製したプライマーペアを用いてPCR(Polymerase Chain Reaction)を行った後、それぞれのPCR産物を取得する段階;及び
(c)前記PCR産物の定量分析を通じて正常ヒトに比べてデイノコッカス(Deinococcus)属細菌由来小胞の含量が低い場合、は認知症に分類する段階
を含み、前記(a)段階でのサンプルが血液である、情報提供方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デイノコッカス属細菌由来ナノ小胞及びその用途に関し、より具体的には、デイノコッカス属細菌に由来するナノ小胞を用いた癌、炎症疾患、又は認知症等の診断方法、及び前記小胞を含む癌、炎症疾患、又は脳神経疾患に対する予防、改善、又は治療用組成物等に関する。
【0002】
本出願は、2019年1月9日に出願された韓国特許出願第10-2019-0002608号及び2020年1月7日に出願された韓国特許出願第10-2020-0002267号に基づく優先権を主張し、当該出願の明細書及び図面に開示されたすべての内容は本出願に援用される。
【背景技術】
【0003】
21世紀に入ってから過去には伝染病と認識された急性感染性疾患の重要性が低下する一方で、ヒトとマイクロバイオームとの不調和によって発生する免疫機能の異常を伴った慢性疾患が生活の質とヒトの寿命を決定する主な疾患となり疾病パターンが変わった。21世紀の難治性慢性疾患として、癌、心血管疾患、慢性炎症疾患、代謝疾患、及び神経-精神疾患がヒトの寿命と生活の質を決定する主な疾患として国民保健に大きい問題になっている。
【0004】
人体に共生する微生物は、100兆に至り、ヒト細胞より10倍多く、微生物の遺伝子数は、ヒトの遺伝子数の100倍を超えることが知られている。微生物叢(microbiotaあるいはmicrobiome)は、与えられた生息地に存在する真正細菌(bacteria)、古細菌(archaea)、真核生物(eukarya)を含む微生物群集(microbial community)を言う。
【0005】
人体に共生する細菌及び周辺環境に存在する細菌は、他の細胞への遺伝子、低分子化合物、タンパク質等の情報を交換するために、ナノメートルサイズの小胞(vesicle)を分泌する。粘膜は、200ナノメートル(nm)サイズ以上の粒子が通過できない物理的な防御膜を形成して、粘膜に共生する細菌である場合には、粘膜を通過しないが、細菌由来の小胞は、サイズが100ナノメートルサイズ以下であるので、比較的自由に粘膜を通じて上皮細胞を通過して人体に吸収される。局所的に分泌された細菌由来の小胞は、粘膜の上皮細胞を通じて吸収されて局所炎症反応を誘導すると共に、上皮細胞を通過した小胞は、リンパ管を通じて全身的に吸収されて各臓器に分布し、分布した臓器で免疫及び炎症反応を調節する。例えば、大腸菌(Eshcherichia coli)のような病原性グラム陰性細菌に由来する小胞は、局所的に炎症反応及び癌を起こし、血管に吸収された場合に、血管内皮細胞の炎症反応を通じて全身的な炎症反応及び血液凝固を促進させ、また、脳神経細胞等に吸収されて、インスリン抵抗性と糖尿病を誘発する。反面、有益な細菌に由来する小胞は、病原性小胞による免疫機能及び代謝機能の異常を調節して病気を調節することができる。
【0006】
細菌に由来する小胞等の因子に対する免疫反応は、インターロイキン(Interleukin、以下、ILという)-17サイトカインの分泌を特徴とするTh17免疫反応が発生するが、これは、細菌由来の小胞への曝露時に上皮細胞、免疫細胞等でIL-6が分泌され、これは、Th17の分泌を特徴とするTh17免疫反応を誘導する。Th17免疫反応による炎症は、好中球の浸潤を特徴とし、炎症が発生する過程で好中球、マクロファージ等のような炎症細胞から分泌される腫瘍壊死因子-アルファ(tumor necrosis factor-alpha、以下、TNF-αという)が炎症及び癌の発生に重要な役割を担う。
【0007】
脳由来神経栄養因子(Brain-derived neurotrophic factor,BDNF)は、BDNF遺伝子により生成される脳中にあるタンパク質であって、成長要素の一部である神経栄養因子集団中の1つである。この因子は、基本的な神経成長要因に関連しており、うつ病、認知症、アルツハイマー病、自閉症等で発現が減少することが知られている。
【0008】
一方、デイノコッカス(Deinococcus)属細菌は、現在まで放射能に最も抵抗性を示す菌であって、寒さ、脱水、強酸等のような生命体が最も生きにくい環境でも生存できる菌と知られている。デイノコッカス属には、現在まで47個の種が知られており、この中で、デイノコッカス・ラジオデュランス(Deinococcus radiodurans)は、ヒトに病原性のない絶対好気性細菌であり、放射能曝露時にも生存する代表的な菌として知られている。しかしながら、まだデイノコッカス属細菌に由来する小胞を応用して癌、炎症疾患、及び認知症等のような難治性疾患の診断及び治療に応用した事例は報告されていない。
【0009】
これより、本発明では、デイノコッカス属細菌由来小胞が正常ヒトに比べて癌、炎症疾患、及び認知症患者の臨床サンプルで有意に減少していることを確認して、疾患を診断することができることを確認した。また、デイノコッカス属細菌に属するデイノコッカス・ラジオデュランスから小胞を分離し、治療効果を評価した結果、癌、炎症疾患、及び脳神経疾患に対する予防又は治療用組成物として用いることができることを確認した。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明者らは、上記のような従来の問題点を解決するために、鋭意研究した結果、メタゲノム解析を通して正常ヒトに比べて癌、炎症疾患、及び認知症患者由来サンプルでデイノコッカス属細菌由来小胞の含量が有意に減少していることを確認した。また、デイノコッカス属細菌に属するデイノコッカス・ラジオデュランス菌から小胞を分離してマクロファージに処理したとき、病原性小胞によるTNF-αの分泌を顕著に抑制することを確認し、ストレスホルモンによる脳神経細胞の損傷を有意に抑制することを確認したところ、これに基づいて本発明を完成した。
【0011】
これより、本発明は、癌、炎症疾患、又は認知症の診断のための情報提供方法を提供することを目的とする。
【0012】
また、本発明は、デイノコッカス属細菌由来小胞を有効成分として含む癌、炎症疾患、及び脳神経疾患よりなる群から選ばれた1つ以上の疾患の予防、改善、又は治療用組成物を提供することを他の目的とする。
【0013】
しかしながら、本発明が解決しようとする技術的課題は、以上で言及した課題に制限されず、言及されていない他の課題は、下記の記載から当業者に明確に理解され得る。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記のような本発明の目的を達成するために、本発明は、下記の段階を含む、癌、炎症疾患、又は認知症の診断のための情報提供方法を提供する。
(a)正常ヒト及び被検者のサンプルから分離した小胞からDNAを抽出する段階;
(b)前記抽出したDNAに対して16S rDNAに存在する遺伝子配列に基づいて作製したプライマーペアを用いてPCRを行った後、それぞれのPCR産物を取得する段階;及び
(c)前記PCR産物の定量分析を通じて正常ヒトに比べてデイノコッカス属細菌由来小胞の含量が低い場合、癌、炎症疾患、又は認知症に分類する段階。
【0015】
また、本発明は、下記の段階を含む、癌、炎症疾患、又は認知症の診断方法を提供する。
(a)正常ヒト及び被検者のサンプルから分離した小胞からDNAを抽出する段階;
(b)前記抽出したDNAに対して16S rDNAに存在する遺伝子配列に基づいて作製したプライマーペアを用いてPCRを行った後、それぞれのPCR産物を取得する段階;及び
(c)前記PCR産物の定量分析を通じて正常ヒトに比べてデイノコッカス属細菌由来小胞の含量が低い場合、癌、炎症疾患、又は認知症と判定する段階。
【0016】
本発明の一具現例において、前記(a)段階のサンプルは、制限がないが、血液、尿、便、唾液又は鼻粘膜であり得、好ましくは、血液でありうる。
【0017】
本発明の他の具現例において、前記(b)段階のプライマーペアは、配列番号1及び配列番号2のプライマーでありうる。
【0018】
また、本発明は、デイノコッカス属細菌由来小胞を有効成分として含む、癌、炎症疾患、及び脳神経疾患よりなる群から選ばれた1つ以上の疾患の予防又は治療用薬学的組成物を提供する。
【0019】
また、本発明は、デイノコッカス属細菌由来小胞を有効成分として含む、癌、炎症疾患、及び脳神経疾患よりなる群から選ばれた1つ以上の疾患の予防又は改善用食品組成物を提供する。
【0020】
また、本発明は、デイノコッカス属細菌由来小胞を有効成分として含む、癌、炎症疾患、及び脳神経疾患よりなる群から選ばれた1つ以上の疾患の予防又は治療用吸入剤組成物を提供する。
【0021】
また、本発明は、デイノコッカス属細菌由来小胞を有効成分として含む薬学的組成物を個体に投与する段階を含む、癌、炎症疾患、及び脳神経疾患よりなる群から選ばれた1つ以上の疾患の予防又は治療方法を提供する。
【0022】
また、本発明は、デイノコッカス属細菌由来小胞を有効成分として含む薬学的組成物の癌、炎症疾患、及び脳神経疾患よりなる群から選ばれた1つ以上の疾患の予防又は治療用途を提供する。
【0023】
また、本発明は、デイノコッカス属細菌由来小胞の、癌、炎症疾患、及び脳神経疾患よりなる群から選ばれた1つ以上の疾患の治療に用いられる薬剤を生産するための用途を提供する。
【0024】
本発明の一具現例において、前記癌は、胃癌、肺癌、すい臓癌、胆管癌、乳癌、膀胱癌、肝臓癌、卵巣癌、腎臓癌、前立腺癌、大腸癌、頭頸部癌、及びリンパ腫よりなる群から選ばれた1つ以上でありうる。
【0025】
本発明の他の具現例において、前記炎症疾患は、歯肉炎、歯周炎、胃炎、炎症性腸炎、大腸炎、アトピー皮膚炎、にきび、脱毛、乾癬、鼻炎、鼻ポリープ、喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、退行性関節炎、及び関節リウマチよりなる群から選ばれた1つ以上でありうる。
【0026】
本発明のさらに他の具現例において、前記炎症疾患は、インターロイキン-6(Interleukin-6、IL-6)又は腫瘍壊死因子アルファ(Tumor necrosis factor-α、TNF-α)により媒介される疾患でありうる。
【0027】
本発明のさらに他の具現例において、前記脳神経疾患は、うつ病、強迫性障害、統合失調症、認知症、アルツハイマー病、てんかん、自閉症、及びパーキンソン病よりなる群から選ばれた1つ以上でありうる。
【0028】
また、本発明は、デイノコッカス属細菌由来小胞を有効成分として含む、炎症性皮膚疾患の予防又は改善用化粧料組成物を提供する。
【0029】
本発明の一具現例において、前記炎症性皮膚疾患は、アトピー皮膚炎、にきび、脱毛、及び乾癬よりなる群から選ばれた1つ以上でありうる。
【0030】
本発明の一具現例において、前記小胞は、平均直径が10~200nmであり得る。
【0031】
本発明の他の具現例において、前記小胞は、デイノコッカス属細菌から自然的又は人工的に分泌されるものでありうる。
【0032】
本発明の他の具現例において、前記デイノコッカス属細菌由来小胞は、デイノコッカス・ラジオデュランスから分泌されるものでありうる。
【発明の効果】
【0033】
本発明者らは、細菌である場合には、体内に吸収されないが、細菌由来小胞である場合には、上皮細胞を通じて体内に吸収されて、全身的に分布し、腎臓、肝、肺を通じて体外に排泄されることを確認し、患者の血液に存在する細菌由来小胞メタゲノム解析を通して癌、炎症疾患、及び認知症患者の血液に存在するデイノコッカス属細菌由来小胞が正常ヒトに比べて有意に減少していることを確認した。また、デイノコッカス属細菌の一種であるデイノコッカス・ラジオデュランスを体外で培養して小胞を分離して、体外で炎症細胞に投与したとき、病原性小胞による炎症メディエーターの分泌を有意に抑制することを観察しただけでなく、デイノコッカス・ラジオデュランス由来小胞は、ストレスホルモンによる脳神経細胞の損傷を有意に抑制させることを確認したところ、本発明によるデイノコッカス属細菌由来小胞は、癌、炎症疾患、又は認知症に対する診断方法、及び化粧品、食品、吸入剤、又は薬物など癌、炎症疾患、又は脳神経疾患に対する予防、改善、又は治療用組成物として有用に用いられると期待される。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1図1aは、マウスに細菌と細菌由来小胞(EV)を口腔内投与した後、時間別に細菌と小胞の分布様相を撮影した写真であり、図1bは、口腔内投与した後、12時間目に、血液、腎臓、肝、及び様々な臓器を摘出して、細菌と小胞の体内分布様相を評価した図である。
図2図2は、マウスに腸内に細菌と細菌由来小胞(EV)を投与した後、腸粘膜上皮細胞に細菌と細菌由来小胞の浸潤の有無を評価した図である(Lu:gut lumen;LP:gut lamina propria)
図3図3は、胃癌患者及び正常ヒトの血液に存在する細菌由来小胞メタゲノム解析を実施した後、デイノコッカス属細菌由来小胞の分布を比較した結果である。
図4図4は、喘息患者及び正常ヒトの血液に存在する細菌由来小胞メタゲノム解析を実施した後、デイノコッカス属細菌由来小胞の分布を比較した結果である。
図5図5は、認知症患者及び正常ヒトの血液に存在する細菌由来小胞メタゲノム解析を実施した後、デイノコッカス属細菌由来小胞の分布を比較した結果である。
図6図6は、デイノコッカス・ラジオデュランス由来小胞の抗炎症効果を評価するために、病原性小胞である大腸菌小胞(E.coli EV)の処理前にデイノコッカス・ラジオデュランス由来小胞を前処理して、大腸菌小胞による炎症メディエーター(TNF-α)の分泌に及ぼす影響を評価した結果である(EV:extracellular vesicle)。
図7図7は、デイノコッカス・ラジオデュランス由来小胞の神経細胞保護効果を評価するために、神経細胞にストレスホルモンである副腎皮質ホルモン(GC)を処理するとき、デイノコッカス・ラジオデュランス由来小胞を同時に処理して、神経細胞によるbrain-derived neutotrphic factor(BDNF)の発現に及ぼす影響を評価した結果である(EV:Deinococcus radiodurans extracellular vesicle)。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明は、デイノコッカス属細菌由来小胞及びその用途に関する。
【0036】
本発明者らは、メタゲノム解析を通して正常ヒトに比べて癌、炎症疾患、及び認知症患者由来サンプルでデイノコッカス属細菌由来小胞の含量が顕著に減少していることを確認したところ、これに基づいて本発明を完成した。
【0037】
これより、本発明は、下記の段階を含む癌、炎症疾患、又は認知症の診断のための情報提供方法を提供する。
(a)正常ヒト及び被検者のサンプルから分離した小胞からDNAを抽出する段階;
(b)前記抽出したDNAに対して16S rDNA塩基配列に基づいて作製したプライマーペアを用いてPCRを行った後、それぞれのPCR産物を取得する段階;及び
(c)前記PCR産物の定量分析を通じてデイノコッカス属細菌由来小胞の含量が低い場合、癌、炎症疾患、又は認知症に分類する段階。
【0038】
本発明において使用される用語「診断」とは、広い意味では、患者の病の実態をすべての面にわたって判断することを意味する。判断の内容は、病名、病因、病型、軽重、病状の詳細な容態、合併症の有無、及び予後などである。本発明において診断は、癌、炎症疾患、及び/又は認知症等の発病の有無及び疾患の水準等を判断することである。
【0039】
本発明において使用される用語「ナノ小胞(Nanovesicle)」あるいは「小胞(Vesicle)」とは、多様な細菌から分泌されるナノサイズの膜からなる構造物を意味する。グラム陰性菌由来小胞、又は外膜小胞(outer membrane vesicles,OMVs)は、内毒素(リポポリサッカライド)又はスフィンゴ糖脂質、毒性タンパク質、及び細菌DNAとRNAも有しており、グラム陽性菌由来小胞は、タンパク質と核酸の他にも、細菌の細胞壁構成成分であるペプチドグリカンとリポタイコ酸も有している。本発明において、ナノ小胞あるいは小胞は、デイノコッカス属細菌から自然的に分泌されたり又は人工的に生産するもので、球状の形態であり、10~200nmの平均直径を有している。
【0040】
本発明において使用される用語「メタゲノム」とは、「群遺伝子」とも言い、土壌、動物の腸など孤立した地域内のすべてのウイルス、細菌、かび等を含む遺伝子の総和を意味するもので、主に培養にならない微生物を分析するために配列分析器を使用して一度に多くの微生物を同定することを説明する遺伝子の概念として使用される。特に、メタゲノムは、一種のゲノム、遺伝子をいうものではなく、1つの環境単位のすべての種の遺伝子であって、一種の混合遺伝子をいう。これは、オミックス的に生物学が発展する過程で一種を定義するとき、機能的に従来の一種だけでなく、多様な種が互いに相互作用して完全な種を作るという観点から出た用語である。技術的には、迅速な配列分析法を利用して、種に関係なく、すべてのDNA、RNAを分析して、1つの環境内でのすべての種を同定し、相互作用、代謝作用を解明する技法の対象である。
【0041】
前記小胞は、デイノコッカス属細菌を含む培養液を遠心分離、超高速遠心分離、高圧処理、押出、超音波分解、細胞溶解、均質化、冷凍-解凍、電気穿孔、機械的分解、化学物質処理、フィルターによる濾過、ゲル濾過クロマトグラフィー、フリーフロー電気泳動、及びキャピラリー電気泳動よりなる群から選ばれた1つ以上の方法を使用して分離することができる。また、不純物の除去のための洗浄、取得された小胞の濃縮等の過程を追加で含むことができる。
【0042】
本発明において、前記(a)段階のサンプルには、制限がないが、血液、尿、便、唾液又は鼻粘膜であり得、好ましくは、血液である。
【0043】
本発明において、前記(b)段階のプライマーペアは、配列番号1及び配列番号2のプライマーでありうるが、これに制限されるものではない。
【0044】
本発明の他の様態として、本発明は、デイノコッカス属細菌由来小胞を有効成分として含む、癌、炎症疾患、及び脳神経疾患よりなる群から選ばれた1つ以上の疾患の予防又は治療用組成物を提供する。
【0045】
本発明において、前記組成物は、薬学的組成物及び吸入剤組成物を含む。
【0046】
また、本発明は、デイノコッカス属細菌由来小胞を有効成分として含む薬学的組成物を個体に投与する段階を含む、癌、炎症疾患、及び脳神経疾患よりなる群から選ばれた1つ以上の疾患の予防又は治療方法を提供する。
【0047】
また、本発明は、デイノコッカス属細菌由来小胞を有効成分として含む薬学的組成物の癌、炎症疾患、及び脳神経疾患よりなる群から選ばれた1つ以上の疾患の予防又は治療用途を提供する。
【0048】
また、本発明は、デイノコッカス属細菌由来小胞の、癌、炎症疾患、及び脳神経疾患よりなる群から選ばれた1つ以上の疾患の治療に用いられる薬剤を生産するための用途を提供する。
【0049】
本発明において使用される用語「予防」とは、本発明による組成物の投与により癌、炎症疾患、及び/又は脳神経疾患等を抑制させたり発病を遅延させるすべての行為を意味する。
【0050】
本発明において使用される用語「治療」とは、本発明による組成物の投与により癌、炎症疾患、及び/又は脳神経疾患等に対する症状が好転したり有利に変更されるすべての行為を意味する。
【0051】
本発明において使用される用語「改善」とは、治療される状態と関連したパラメーター、例えば症状の程度を少なくとも減少させるすべての行為を意味する。
【0052】
本発明において使用される用語「個体」とは、癌、炎症疾患又は脳神経疾患の治療を必要とする対象を意味し、より具体的には、ヒト又は非ヒトである霊長類、マウス(mouse)、イヌ、ネコ、ウマ、及びウシ等の哺乳類を含む。
【0053】
本発明において使用される用語「投与」とは、任意の適切な方法で個体に所定の本発明の組成物を提供することを意味する。
【0054】
本発明において使用する用語「癌」とは、組織内で秩序を無視し、無制限増殖する未分化細胞で構成された腫塊、又は腫瘍を形成する病気を意味し、究極的には周囲の正常組織や器官を浸潤して破壊させ、原発病巣で個体のいずれの器官にも移転して新しい成長場所を作ることができる疾患群を総称するもので、本発明において、前記癌は、胃癌、肺癌、すい臓癌、胆管癌、乳癌、膀胱癌、肝臓癌、卵巣癌、腎臓癌、前立腺癌、大腸癌、頭頸部癌、及びリンパ腫よりなる群から選ばれた1つ以上でありうるが、これに制限されない。
【0055】
本発明において使用する用語「炎症疾患」とは、免疫系を成す体液性メディエーターが直接反応したり、局部的又は全身的作動系(エフェクター系)を刺激することによって起こる連鎖的な生体反応により誘発される疾患を意味し、本発明において前記炎症疾患は、歯肉炎、歯周炎、胃炎、炎症性腸炎、大腸炎、アトピー皮膚炎、にきび、脱毛、乾癬、鼻炎、鼻ポリープ、喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、退行性関節炎、及び関節リウマチよりなる群から選ばれた1つ以上でありうるが、これに制限されるものではない。
【0056】
本発明において、前記炎症疾患は、インターロイキン-6(Interleukin-6、IL-6)又は腫瘍壊死因子アルファ(Tumor necrosis factor-α、TNF-α)により媒介される疾患でありうるが、これに制限されない。
【0057】
本発明において使用する用語「脳神経疾患」とは、脳神経細胞の問題によって発生する疾患を総称し、本発明において前記脳神経疾患は、うつ病、強迫性障害、統合失調症、認知症、アルツハイマー病、てんかん、自閉症、及びパーキンソン病よりなる群から選ばれた1つ以上でありうるが、これに制限されない。
【0058】
本発明による薬学的組成物は、薬学的に許容可能な担体を含むことができる。前記薬学的に許容可能な担体は、製剤時に通常用いられるものであって、食塩水、滅菌水、リンゲル液、緩衝食塩水、シクロデキストリン、デキストロース溶液、マルトデキストリン溶液、グリセロール、エタノール、リポソーム等を含むが、これに限定されず、必要に応じて抗酸化剤、緩衝液など他の通常の添加剤をさらに含むことができる。また、希釈剤、分散剤、界面活性剤、結合剤、潤滑剤等を付加的に添加して水溶液、懸濁液、乳濁液等のような注射用剤形、丸薬、カプセル、顆粒、又は錠剤に製剤化することができる。適合した薬学的に許容される担体及び製剤化に関しては、レミントンの文献に開示されている方法を利用して各成分によって好適に製剤化することができる。本発明の薬学的組成物は、剤形に特別な制限はないが、注射剤、吸入剤、皮膚外用剤、又は経口摂取剤等に製剤化することができる。
【0059】
本発明の薬学的組成物は、目的する方法によって経口投与したり非経口投与(例えば、静脈内、皮下、皮膚に適用)することができ、投与量は、患者の状態及び体重、病気の程度、薬物形態、投与経路及び時間によって異なるが、当業者により適切に選択され得る。
【0060】
本発明による薬学的組成物は、薬学的に有効な量で投与する。本発明において、薬学的に有効な量は、医学的治療に適用可能な合理的なベネフィット/リスクの割合で疾患を治療するのに十分な量を意味し、有効用量水準は、患者の疾患の種類、重症度、薬物の活性、薬物に対する敏感度、投与時間、投与経路及び排出比率、治療期間、同時使用される薬物を含む要素及びその他医学分野によく知られた要素によって決定され得る。本発明による組成物は、個別治療剤で投与したり他の治療剤と併用して投与されることができて従来の治療剤とは、順次的又は同時に投与し、単一又は多重投与することができる。上記の要素を全部考慮して副作用なしに最小限の量で最大効果を得ることができる量を投与することが重要であり、これは、当業者により容易に決定されることができる。
【0061】
具体的に、本発明による薬学的組成物の有効量は、患者の年齢、性別、体重によって変わることができ、投与経路、肥満の重症度、性別、体重、年齢等によって増減することができる。
【0062】
本発明の他の様態として、本発明は、デイノコッカス属細菌由来小胞を有効成分として含む、癌、炎症疾患、及び脳神経疾患よりなる群から選ばれた1つ以上の疾患の予防又は改善用食品組成物を提供する。
【0063】
本発明の食品組成物は、健康機能食品組成物を含む。本発明による食品組成物は、有効成分を食品にそのまま添加したり他の食品又は食品成分と共に使用され得、通常の方法によって適切に使用され得る。有効成分の混合量は、その使用目的(予防又は改善用)によって適宜決定され得る。一般的に、食品又は飲料の製造時に、本発明の組成物は、原料に対して15重量%以下、好ましくは、10重量%以下の量で添加される。しかし、健康及び衛生を目的としたり、又は健康調節を目的とする長期間の摂取の場合には、前記量は、前記範囲以下でありうる。
【0064】
本発明の食品組成物は、指示された割合で必須成分として前記有効成分を含有すること以外に、他の成分には特別な制限がなく、通常の飲料のように様々な香味剤又は天然炭水化物等を追加成分として含有することができる。上述した天然炭水化物の例は、モノサッカライド、例えば、ブドウ糖、果糖等;ジサッカライド、例えばマルトース、スクロース等;及びポリサッカライド、例えばデキストリン、シクロデキストリン等のような通常の糖、及びキシリトール、ソルビトール、エリトリトール等の糖アルコールである。上述したもの以外の香味剤として、天然香味剤(ソーマチン、ステビア抽出物、例えばレバウディオサイドA、グリチルリチン等)及び合成香味剤(サッカリン、アスパルテーム等)を有利に使用することができる。前記天然炭水化物の割合は、当業者の選択によって適切に決定され得る。
【0065】
上記のほか、本発明の食品組成物は、様々な栄養剤、ビタミン、ミネラル(電解質)、合成風味剤及び天然風味剤等の風味剤、着色剤及び増進剤(チーズ、チョコレート等)、ペクチン酸及びその塩、アルギン酸及びその塩、有機酸、保護性コロイド増粘剤、pH調節剤、安定化剤、防腐剤、グリセリン、アルコール、炭酸飲料に使用される炭酸化剤等を含有することができる。このような成分は、独立して、又は、組み合わせて使用することができる。このような添加剤の割合も、当業者により適切に選択され得る。
【0066】
本発明の前記吸入剤組成物は、デイノコッカス属細菌由来小胞だけでなく、吸入剤組成物に通常用いられる成分を含むことができ、例えば抗酸化剤、安定化剤、溶解化剤、ビタミン、及び香料のような通常の補助剤、そして担体を含むことができる。
【0067】
本発明のさらに他の様態として、本発明は、デイノコッカス属細菌由来小胞を有効成分として含む、炎症性皮膚疾患の予防又は改善用化粧料組成物を提供する。
【0068】
本発明において、前記炎症性皮膚疾患は、アトピー皮膚炎、にきび、脱毛、及び乾癬よりなる群から選ばれた1つ以上でありうるが、これに制限されない。
【0069】
本発明の前記化粧料組成物は、デイノコッカス属細菌由来小胞だけでなく、化粧料組成物に通常用いられる成分を含むことができ、例えば抗酸化剤、安定化剤、溶解化剤、ビタミン、顔料、及び香料のような通常の補助剤、そして担体を含むことができる。
【0070】
また、本発明の組成物は、デイノコッカス属細菌由来小胞以外に、デイノコッカス属細菌由来小胞と反応して皮膚保護効果を損傷させない限度で従来から使用されてきた有機紫外線遮断剤を混合して使用することもできる。前記有機紫外線遮断剤としては、グリセリルPABA、ドロメトリゾールトリシロキサン、ドロメトリゾール、ジガロイルトリオレエート、ジソジウムフェニルジベンズイミダゾールテトラスルホネート、ジエチルヘキシルブタミドトリアゾン、ジエチルアミノヒドロキシベンゾイルヘキシルベンゾエート、DEA-メトキシシンナメート、ローソンとジヒドロキシアセトンの混合物、メチレンビス-ベンゾトリアゾリルテトラメチルブチルフェノール、4-メチルベンジリデンカンファ、メンチルアントラニレート、ベンゾフェノン-3(オキシベンゾン)、ベンゾフェノン-4、ベンゾフェノン-8(ジオキシフェニルベンゾン)、ブチルメトキシジベンゾイルメタン、ビスエチルヘキシルオキシフェノールメトキシフェニルトリアジン、シノキサート、エチルジヒドロキシプロピルPABA、オクトクリレン、エチルヘキシルジメチルPABA、エチルヘキシルメトキシシンナメート、エチルヘキシルサリシレート、エチルヘキシルトリアゾン、イソアミル-p-メトキシシンナメート、ポリシリコーン-15(マロン酸ジメチコジエチルベンザル)、テレフタリリデンジカンフルスルホン酸及びその塩類、TEA-サリシレート及びアミノ安息香酸(PABA)よりなる群から選ばれた1種以上を使用することができる。
【0071】
本発明の化粧料組成物を添加できる製品としては、例えば、収斂化粧水、柔軟化粧水、栄養化粧水、各種クリーム、エッセンス、パック、ファンデーション等のような化粧品類とクレンジング、洗顔剤、石鹸、トリートメント、美容液等がある。本発明の化粧料組成物の具体的な剤形としては、スキンローション、スキンソフトナー、スキントナー、アストリンゼント、ローション、ミルクローション、モイスチャーローション、栄養ローション、マッサージクリーム、栄養クリーム、モイスチャークリーム、ハンドクリーム、エッセンス、栄養エッセンス、パック、石鹸、シャンプー、クレンジングフォーム、クレンジングローション、クレンジングクリーム、ボディローション、ボディクレンザー、乳液、リップスティック、メイクアップベース、ファンデーション、プレスパウダー、ルースパウダー、アイシャドウ等の剤形を含む。
【0072】
本発明の一実施例では、細菌及び細菌由来小胞をマウスに経口投与して細菌及び小胞の体内吸収、分布、及び排泄様相を評価して、細菌である場合には、腸粘膜を通じて吸収されないのに対し、小胞は、投与5分以内に吸収されて全身的に分布し、腎臓、肝等を通じて排泄されることを確認した(実施例1参照)。
【0073】
本発明の他の実施例では、細菌と細菌由来小胞を腸に直接投与して粘膜の防御膜を通過するかを評価したところ、細菌である場合には、粘膜の防御膜を通過しなかったが、細菌由来小胞である場合には、粘膜の防御膜を通過することを確認した(実施例2参照)。
【0074】
本発明のさらに他の実施例では、癌、炎症疾患、及び認知症患者と年齢と性別をマッチングした正常ヒトの血液から分離した小胞を利用して細菌メタゲノム解析を実施した。その結果、正常ヒトのサンプルに比べて、癌、炎症疾患、及び認知症患者の臨床サンプルでデイノコッカス属細菌由来小胞が有意に減少していることを確認した(実施例4、5、及び6参照)。
【0075】
本発明のさらに他の実施例では、デイノコッカス・ラジオデュランス菌株由来小胞の抗炎症効果を評価したが、病原性小胞である大腸菌由来小胞を処理する前に、多様な濃度のデイノコッカス・ラジオデュランス由来小胞をマクロファージに処理した後、炎症メディエーターの分泌を評価した結果、炎症誘発大腸菌由来小胞による炎症及び癌を誘発するメディエーターであるTNF-αの分泌をデイノコッカス・ラジオデュランス由来小胞が効率的に抑制することを確認した(実施例8参照)。
【0076】
本発明のさらに他の実施例では、デイノコッカス・ラジオデュランス菌株由来小胞の神経細胞保護効果を評価したが、神経細胞にストレスをあたえる副腎皮質ホルモンを処理するとき、デイノコッカス・ラジオデュランス由来小胞を神経細胞に同時に処理してbrain-derived neurotrphic factor(BDNF)の発現を評価した結果、神経細胞の損傷を保護するメディエーターであるBDNFの発現をデイノコッカス・ラジオデュランス由来小胞が効率的に増加させることを確認した(実施例9参照)。
【0077】
以下、本発明の理解を助けるために好ましい実施例を提示する。しかしながら、下記の実施例は、本発明をより容易に理解するために提供されるものに過ぎず、下記実施例によって本発明の内容が限定されるものではない。
【実施例
【0078】
[実施例1.細菌及び細菌由来小胞の体内吸収、分布、及び排泄様相の分析]
細菌と細菌由来小胞が胃腸管を通じて全身的に吸収されるかを評価するために、下記のような方法で実験を行った。まず、マウスの胃腸に蛍光で標識した前記細菌と前記細菌由来小胞をそれぞれ50μgの用量で胃腸管に投与し、0分、5分、3時間、6時間、12時間後に蛍光を測定した。マウス全体イメージを観察した結果、図1aに示されたように、細菌の場合には、全身的に吸収されなかったが、細菌由来小胞の場合には、投与後5分に全身的に吸収され、投与3時間後には、膀胱で蛍光が濃く観察されて、小胞が泌尿器系に排泄されることが分かり、また、小胞は、投与12時間まで体内に存在することが分かった(図1a参照)。
【0079】
前記腸内細菌と細菌由来小胞が全身的に吸収された後、様々な臓器に浸潤された様相を評価するために、蛍光で標識した50μgの細菌と細菌由来小胞を上記の方法のように投与した後、投与12時間後に血液、心臓、肺、肝臓、腎臓、脾臓、脂肪、筋肉を採取した。血液及び採取した組織で蛍光を観察した結果、図1bに示されたように、細菌由来小胞は、血液、心臓、肺、肝臓、腎臓、脾臓、脂肪、筋肉に分布したが、細菌は、吸収されないことが分かった(図1b参照)。
【0080】
[実施例2.細菌及び細菌由来小胞の腸粘膜防御膜浸透有無の評価]
細菌と細菌由来小胞が粘膜防御膜を通過して組織に浸潤されるかを評価するために、細菌と細菌由来小胞を腸に直接投与した後、免疫組織化学(Immunohistochemistry)方法で粘膜防御膜を通過して腸組織への浸潤を評価した。粘膜組織で細菌と小胞存在を評価するために、細菌と小胞に対する抗体を作製してGFP(Green fluorescent protein)を付けて使用し、DAPI(4,6-diamidino 2-phenylindole)染色をした後、顕微鏡で観察した。
【0081】
その結果、細菌の場合には、粘膜防御膜を通過しなかった反面、細菌由来小胞は、粘膜を通過して腸組織に浸潤されることを確認した(図2参照)。
【0082】
[実施例3.臨床サンプルで細菌由来小胞メタゲノム解析]
血液をまず10mlチューブに入れ、遠心分離法(3,500×g、10min、4℃)で浮遊物を沈殿させ、上澄み液のみを新しい10mlチューブに移した。0.22μmフィルターを使用して細菌及び異物を除去した後、セントリプレップチューブ(遠心フィルター 50kD)に移して1500×g、4℃で15分間遠心分離して、50kDより小さい物質は捨て、10mlまで濃縮させた。さらに、0.22μmフィルターを使用してバクテリア及び異物を除去した後、Type 90tiローターで150,000×g、4℃で3時間超高速遠心分離方法を使用して上澄み液を捨て、固まったペレットを生理食塩水(PBS)で溶かした。
【0083】
前記方法で分離した小胞100μlを100℃でボイルして、内部のDNAを脂質外に出るようにし、その後、氷で5分間冷ました。そして、残った浮遊物を除去するために、10,000×g、4℃で30分間遠心分離し、上澄み液のみを集めた後、Nanodropを用いてDNA量を定量した。以後、前記抽出されたDNAに細菌由来DNAが存在するかを確認するために、下記表1に示した16s rDNAプライマーでPCRを行って、前記抽出された遺伝子に細菌由来遺伝子が存在することを確認した。
【0084】
【表1】
【0085】
前記方法で抽出したDNAを前記の16S rDNAプライマーを用いて増幅した後、シーケンシングを行い(Illumina MiSeq sequencer)、結果をStandard Flowgram Format(SFF)ファイルで出力し、GS FLX software(v2.9)を用いてSFFファイルをsequenceファイル(.fasta)とnucleotide quality scoreファイルに変換した後、リードの信用度評価を確認し、window(20bps)平均base call accuracyが99%未満(Phred score<20)である部分を除去した。Operational Taxonomy Unit(OTU)分析のために、UCLUSTとUSEARCHを用いてシーケンス類似度によってクラスタリングを行い、属(genus)は94%、科(family)は90%、目(order)は85%、綱(class)は80%、門(phylum)は75%シーケンス類似度を基準としてクラスタリングを行い、各OTUの門(phylum)、綱(class)、目(order)、科(family)、属(genus)レベルの分類を行い、BLASTNとGreenGenesの16S RNAシーケンスデータベース(108,453シーケンス)を利用して属レベルで97%以上のシーケンス類似度を有する細菌をプロファイリングした(QIIME)。
【0086】
[実施例4.胃癌患者の血液細菌由来小胞メタゲノム解析]
実施例3の方法で胃癌患者87人、そして年齢と性別をマッチングした正常ヒト91人の血液を対象として、血液内に存在する小胞から遺伝子を抽出してメタゲノム解析を行った後、デイノコッカス属細菌由来小胞の分布を評価した。その結果、正常ヒトの血液に比べて胃癌患者の血液でデイノコッカス属細菌由来小胞が有意に減少していることを確認した(図3参照)。
【0087】
[実施例5.喘息患者の血液細菌由来小胞メタゲノム解析]
実施例3の方法で喘息患者132人と年齢と性別をマッチングした正常ヒト109人の血液を対象として、血液内に存在する小胞から遺伝子を抽出してメタゲノム解析を行った後、デイノコッカス属細菌由来小胞の分布を評価した。その結果、正常ヒトの血液に比べて喘息患者の血液でデイノコッカス属細菌由来小胞が有意に減少していることを確認した(図4参照)。
【0088】
[実施例6.認知症患者の血液細菌由来小胞メタゲノム解析]
実施例3の方法で認知症患者82人と年齢と性別をマッチングした正常ヒト99人の血液を対象として、血液内に存在する小胞から遺伝子を抽出してメタゲノム解析を行った後、デイノコッカス属細菌由来小胞の分布を評価した。その結果、正常ヒトの血液に比べて認知症患者の血液でデイノコッカス属細菌由来小胞が有意に減少していることを確認した(図5参照)。
【0089】
[実施例7.デイノコッカス・ラジオデュランス培養液から小胞分離]
デイノコッカス・ラジオデュランス菌株を培養した後、その小胞を分離して、特性を分析した。デイノコッカス・ラジオデュランス菌株を37℃培養器で吸光度(OD 600)が1.0~1.5になるまでMRS(de Man-Rogosa and Sharpe)培地で培養した後、LB(Luria-Bertani)培地にサブカルチャーした。以後、菌株が含まれている培養液を回収して10,000×g、4℃で20分間遠心分離して菌体を除去し、0.22μmフィルターに濾過した。濾過した上澄み液を100kDa Pellicon 2 Cassetteフィルターメンブレン(Merck Millipore,US)でMasterFlex pump system(Cole-Parmer,US)を用いて微細濾過(microfiltration)を通じて50ml以下の体積に濃縮した。濃縮させた上澄み液をさらに0.22μmフィルターで濾過した後、BCA(Bicinchoninic acid)アッセイを用いてタンパク質を定量し、得られた小胞に対して下記実験を実施した。
【0090】
[実施例8.デイノコッカス・ラジオデュランス由来小胞の抗炎症効果]
デイノコッカス・ラジオデュランス由来小胞の抗炎症効果を評価するために、多様な濃度(0.1、1、10μg/ml)のデイノコッカス・ラジオデュランス由来小胞(D.radiodurans EV)をマウスマクロファージ細胞株に12時間前処理した後、病原性原因因子である大腸菌由来小胞1μg/mlを処理し、12時間後に炎症性サイトカインの分泌をELISAで測定した。
【0091】
その結果、デイノコッカス・ラジオデュランス由来小胞で前処理した場合、大腸菌由来小胞刺激による炎症細胞に誘導される細胞死滅、炎症、及び癌発生と密接な関係のある炎症メディエーターであるTNF-αの分泌が、デイノコッカス・ラジオデュランス由来小胞用量依存的に抑制されることを確認した(図6参照)。
【0092】
[実施例9.デイノコッカス・ラジオデュランス由来小胞の神経細胞保護効果]
脳由来神経栄養因子(Brain-derived neurotrphic factor,BDNF)は、神経細胞の損傷時に神経細胞を保護する主なメディエーターであって、認知症、うつ病、アルツハイマー病、及び自閉症等で発現が減少している。本実施例では、デイノコッカス・ラジオデュランス由来小胞の脳神経疾患に対する治療効果を評価するために、神経細胞にストレスホルモンを処理して神経細胞保護効果を評価した。すなわち、神経細胞(hippocampal neuronal cell line,HT22 cells)を副腎皮質ホルモン(GC:corticosterone 400 ng/ml)又はデイノコッカス・ラジオデュランス由来小胞(EV、20μg/ml)とともに24時間体外で培養した後、BDNF発現をPCR方法で評価した。
【0093】
その結果、副腎皮質ホルモンの処理により抑制されたBDNFの発現がデイノコッカス・ラジオデュランス由来小胞の治療により有意に回復されることを確認した(図7参照)。これは、ストレスのような脳神経細胞の損傷誘発因子により発生する脳神経疾患をデイノコッカス・ラジオデュランス由来小胞が効率的に抑制することができることを意味する。
【0094】
上述した本発明の説明は、例示のためのものであって、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者は、本発明の技術的思想や必須的な特徴を変更することなく、他の具体的な形態に容易に変形が可能であることが理解することができる。したがって、以上で記述した実施例は、全ての面において例示的なものであり、限定的でないものと理解すべきである。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明によるデイノコッカス属細菌由来小胞は、癌、炎症疾患、又は認知症に対する診断方法;及び癌、炎症疾患、又は脳神経疾患に対する予防、改善、又は治療用食品、吸入剤、化粧料、又は薬学的組成物として有用に利用できると期待される。
図1a
図1b
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【配列表】
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