IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 有機米デザイン株式会社の特許一覧

特許7291425水田用除草装置およびこれを用いた水田の除草方法、栽培作物の作成方法、並びに航行プログラム
<>
  • 特許-水田用除草装置およびこれを用いた水田の除草方法、栽培作物の作成方法、並びに航行プログラム 図1
  • 特許-水田用除草装置およびこれを用いた水田の除草方法、栽培作物の作成方法、並びに航行プログラム 図2
  • 特許-水田用除草装置およびこれを用いた水田の除草方法、栽培作物の作成方法、並びに航行プログラム 図3
  • 特許-水田用除草装置およびこれを用いた水田の除草方法、栽培作物の作成方法、並びに航行プログラム 図4
  • 特許-水田用除草装置およびこれを用いた水田の除草方法、栽培作物の作成方法、並びに航行プログラム 図5
  • 特許-水田用除草装置およびこれを用いた水田の除草方法、栽培作物の作成方法、並びに航行プログラム 図6
  • 特許-水田用除草装置およびこれを用いた水田の除草方法、栽培作物の作成方法、並びに航行プログラム 図7
  • 特許-水田用除草装置およびこれを用いた水田の除草方法、栽培作物の作成方法、並びに航行プログラム 図8
  • 特許-水田用除草装置およびこれを用いた水田の除草方法、栽培作物の作成方法、並びに航行プログラム 図9
  • 特許-水田用除草装置およびこれを用いた水田の除草方法、栽培作物の作成方法、並びに航行プログラム 図10
  • 特許-水田用除草装置およびこれを用いた水田の除草方法、栽培作物の作成方法、並びに航行プログラム 図11
  • 特許-水田用除草装置およびこれを用いた水田の除草方法、栽培作物の作成方法、並びに航行プログラム 図12
  • 特許-水田用除草装置およびこれを用いた水田の除草方法、栽培作物の作成方法、並びに航行プログラム 図13
  • 特許-水田用除草装置およびこれを用いた水田の除草方法、栽培作物の作成方法、並びに航行プログラム 図14
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-07
(45)【発行日】2023-06-15
(54)【発明の名称】水田用除草装置およびこれを用いた水田の除草方法、栽培作物の作成方法、並びに航行プログラム
(51)【国際特許分類】
   A01M 21/02 20060101AFI20230608BHJP
   A01B 39/18 20060101ALI20230608BHJP
   A01B 69/00 20060101ALI20230608BHJP
   A01G 7/00 20060101ALI20230608BHJP
   A01G 22/22 20180101ALI20230608BHJP
【FI】
A01M21/02
A01B39/18 C
A01B69/00 303Z
A01G7/00 601Z
A01G22/22 Z
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2021540939
(86)(22)【出願日】2020-08-17
(86)【国際出願番号】 JP2020031021
(87)【国際公開番号】W WO2021033668
(87)【国際公開日】2021-02-25
【審査請求日】2021-11-19
(31)【優先権主張番号】P 2019151124
(32)【優先日】2019-08-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】520307067
【氏名又は名称】有機米デザイン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】塩路 義行
(72)【発明者】
【氏名】中村 哲也
【審査官】吉田 英一
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-083708(JP,A)
【文献】特開2016-152775(JP,A)
【文献】特開平06-233631(JP,A)
【文献】特開2016-052276(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2016-0003538(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01M 21/02
A01B 39/18
A01B 69/00
A01G 7/00
A01G 22/22
B63H 1/12
B63H 21/17
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水に浮いた状態で水中のスクリュー推進機構により推進する水田用除草装置であって、
前記スクリュー推進機構は、スクリューと、該スクリューを駆動する駆動機構と、該駆動機構を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、当該水田用除草装置の通過ルートを管理する通過ルート管理処理を実行可能に構成され、
前記通過ルート管理処理は、所定の間隔を開けて移動するように前記通過ルートを設定するとともに、前記通過ルートの設定に際し、前記スクリューで水田の泥を攪拌した泥幕が広がる間隔に係る泥幕拡散情報を取得し、その取得された泥幕拡散情報に基づいて、前記通過ルートの隣り合うルート相互の間隔を設定することを特徴とする水田用除草装置。
【請求項2】
水に浮いた状態で水中のスクリュー推進機構により推進する水田用除草装置であって、
前記スクリュー推進機構は、スクリューと、該スクリューを駆動する駆動機構と、該駆動機構を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、当該水田用除草装置の通過ルートを管理する通過ルート管理処理を実行可能に構成され、
前記通過ルート管理処理は、所定の間隔を開けて移動するように前記通過ルートを設定するとともに、雑草の生えやすいエリアおよび生えにくいエリアに係るエリア情報を取得し、雑草の生えやすいエリアと生えにくいエリアとで、生えにくいエリアの通過頻度よりも生えやすいエリアの通過頻度が多くなるように、通過頻度を変化させるように前記通過ルートを設定することを特徴とする水田用除草装置。
【請求項3】
水に浮いた状態で水中のスクリュー推進機構により推進する水田用除草装置であって、
前記スクリュー推進機構は、スクリューと、該スクリューを駆動する駆動機構と、該駆動機構を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、当該水田用除草装置の通過ルートを管理する通過ルート管理処理を実行可能に構成され、
前記通過ルート管理処理は、所定の間隔を開けて移動するように前記通過ルートを設定するとともに、風向きの情報を取得し、該風向きの情報に基づいて、風上側のエリアと風下側のエリアとで、風下側のエリアの通過頻度よりも風上側のエリアの通過頻度が多くなるように前記通過ルートを設定することを特徴とする水田用除草装置。
【請求項4】
前記通過ルート管理処理は、
水田の周縁部に係る複数の座標データを読み込んで水田の位置情報を取得し、
その取得された水田の位置情報に基づいて、当該水田内を通過する通過ルートを設定する請求項1~3のいずれか一項に記載の水田用除草装置。
【請求項5】
前記通過ルート管理処理は、
当該水田内を格子状に折り返して縦横に繰り返し通る通過ルート、若しくは縦方向のみを通る通過ルート、または横方向のみを通る通過ルートを設定する請求項1~4のいずれか一項に記載の水田用除草装置。
【請求項6】
前記通過ルート管理処理は、
障害物等の外乱により当該水田用除草装置が同じ位置に止まっていることを認識したときには、後進動作若しくは旋回動作を含む回避動作により障害物等の外乱を回避して元の通過ルートに復帰する回避処理を実行する請求項1~5のいずれか一項に記載の水田用除草装置。
【請求項7】
前記通過ルート管理処理は、
当該水田用除草装置が通過していない非通過エリアを確認する非通過エリア確認処理を実行し、非通過エリアに向かうように移動するように前記通過ルートを設定する請求項1~6のいずれか一項に記載の水田用除草装置。
【請求項8】
前記通過ルート管理処理は、
前記通過ルートの設定に係る制御パラメータを変更可能に構成されたアプリケーションプログラムにより、管理者のスマートフォンから前記制御パラメータを入力可能に構成されている請求項1~7のいずれか一項に記載の水田用除草装置。
【請求項9】
前記通過ルート管理処理は、
前記水田を含む圃場の区画を分割管理して、その分割された区画のうち、自身に担当が割り当てられた区画を限って前記通過ルートを設定する請求項1~8のいずれか一項に記載の水田用除草装置。
【請求項10】
前記制御部は、
日の出および日の出前の時間若しくは日の出後の時間を含む早朝から日の入または日の入よりも前の時間を含む夕方までの間の時間を限って稼動する稼動時間帯管理処理を併せて実行する請求項1~9のいずれか一項に記載の水田用除草装置。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載の水田用除草装置を用いて水田の除草をすることを特徴とする水田の除草方法。
【請求項12】
作物の苗が植えられ且つ水が張られた水田において栽培作物を作成する方法であって、
請求項1~10のいずれか一項に記載の水田用除草装置を稼働して除草をする除草工程を含むことを特徴とする栽培作物の作成方法。
【請求項13】
作物の苗が植えられ且つ水が張られた水田において栽培作物を作成する方法であって、
水に浮いた状態で水中のスクリュー推進機構により推進する水田用除草装置を用い、
日の出および日の出前の時間若しくは日の出後の時間を含む早朝の稼働開始時間と、前記スクリュー推進機構で水田の泥を攪拌した泥幕が残存している時間だけ日の入からさかのぼった稼働終了時間と、の間を稼動時間帯に設定し、該稼動時間帯を限って前記水田用除草装置を稼動して除草をする除草工程を含むことを特徴とする栽培作物の作成方法。
【請求項14】
水に浮いた状態で水中のスクリュー推進機構により推進する水田用除草装置を航行させるための航行プログラムであって、
請求項1~10のいずれか一項に記載の水田用除草装置における前記制御部での管理処理を実行可能に構成されていることを特徴とする航行プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水田の除草技術に関する。
【背景技術】
【0002】
水田の泥を攪拌して泥幕を生じさせることにより、水面下の雑草の光合成を阻害して雑草の生育を防止または抑制するために、アイガモロボット等の水田用除草装置が開発されている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-52276号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1記載の装置は、条間方向に依存せずに作物間を走行可能とされるものの、水田全面をくまなく走行しようとすると、泥を攪拌するための走行時間がかかりすぎて水田全体に泥幕を生じさせて濁らせることが困難である(=除草効果が低減してしまう)という問題がある。
また、走行速度を速くしようとすると、より多くの出力向上が必要となり電力が足りなくなるという問題がある。そのため、水田の除草効果をより向上させる上で未だ改善の余地がある。
【0005】
そこで、本発明は、このような問題点に着目してなされたものであって、水田の除草効果をより向上させ得る水田用除草技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の一態様に係る水田用除草装置は、水に浮いた状態で水中のスクリュー推進機構により推進する水田用除草装置であって、前記スクリュー推進機構は、スクリューと、該スクリューを駆動する駆動機構と、該駆動機構を制御する制御部と、を備え、前記制御部は、当該水田用除草装置の通過ルートを管理する通過ルート管理処理を実行可能に構成され、前記通過ルート管理処理は、例えば泥幕が広がる程度の、所定の間隔を開けて移動するように前記通過ルートを設定することを特徴とする。
【0007】
本発明の一態様に係る水田用除草装置によれば、制御部は、例えば泥幕が広がる程度の、所定の間隔を開けて移動するように通過ルートを管理する通過ルート管理処理を実行する。これにより、可及的に通過ルートを少なくして撹拌効率を向上させることができる。そのため、除草効果をより向上させることができる。
【0008】
また、上記課題を解決するために、本発明の他の一態様に係る水田用除草装置は、水に浮いた状態で水中のスクリュー推進機構により推進する水田用除草装置であって、前記スクリュー推進機構は、推進スクリューと、該推進スクリューを駆動する駆動機構と、該駆動機構を制御する制御部と、を備え、前記制御部は、日の出および日の出前の時間若しくは日の出後の時間を含む早朝から日の入または日の入よりも前の時間を含む夕方までの間の時間を限って稼動するように航行プログラムを設定する稼動時間帯管理処理を実行することを特徴とする。
【0009】
本発明の一態様に係る水田用除草装置によれば、制御部は、早朝から夕方までの間の時間に限って稼動するように航行プログラムが設定される稼動時間帯管理処理を実行する。これにより、消費エネルギーを効果的に節約しつつ、雑草が光合成可能な時間帯を確実に捉えて水田の泥を撹拌できる。そのため、除草効果をより向上させることができる。
【0010】
また、本発明の一態様に係る水田の除草方法は、本発明のいずれか一の態様に係る水田用除草装置を用いて水田の除草をすることを特徴とする。
本発明の一態様に係る水田の除草方法によれば、本発明のいずれか一の態様に係る水田用除草装置を用いて水田の除草をするので、水田の除草効果をより向上させることができる。
【0011】
また、本発明の一態様に係る栽培作物の作成方法は、作物の苗が植えられ且つ水が張られた水田において栽培作物を作成する方法であって、本発明のいずれか一の態様に係る水田用除草装置を稼働して除草をする除草工程を含むことを特徴とする。
本発明の一態様に係る栽培作物の作成方法によれば、本発明のいずれか一の態様に係る水田用除草装置を稼働して除草をする除草工程を含むので、水田の除草効果をより向上させることができる。
【0012】
また、本発明の一態様に係る航行プログラムは、水に浮いた状態で水中のスクリュー推進機構により推進する水田用除草装置を航行させるための航行プログラムであって、本発明のいずれか一の態様に係る水田用除草装置における前記制御部での管理処理を実行可能に構成されていることを特徴とする。
本発明の一態様に係る航行プログラムによれば、本発明のいずれか一の態様に係る水田用除草装置における前記制御部での管理処理を実行可能に構成されているので、水田の除草効果をより向上させることができる。
【発明の効果】
【0013】
上述のように、本発明によれば、水田の除草効果をより向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一態様に係る水田用除草装置の一実施形態を説明する斜視図であり、同図(a)は正面側の左側面上方から見た図、同図(b)は(a)の太陽光パネルを取り外した状態の図、同図(c)は(b)を背面側の左側面上方から見た図である。
図2】本発明の一態様に係る水田用除草装置の一実施形態の説明図であり、同図(a)は平面図、(b)は左側面図、(c)は底面図、(d)は正面図、(e)は背面図である。
図3】本発明の一態様に係る水田用除草装置の一実施形態を説明する分解斜視図であり、同図(a)は正面側の左側面上方から見た図、(b)は背面側の左側面上方から見た図である。
図4】本発明の一態様に係る水田用除草装置の一実施形態を説明する構成ブロック図である。
図5】一の圃場(水田)に対して設定される通過ルートの一例を示す模式的説明図((a)、(b))である。
図6】一の圃場(水田)に対して設定される通過ルートの一例を示す模式的説明図((a)~(c))である。
図7】通過ルート設定装置としての、制御基板のシングルボードコンピュータが実行する通過ルート管理処理(稼動時間帯管理処理を含む)を説明するフローチャートである。
図8】稼動時間帯管理処理において稼動時間を設定するために参照される一日の日射量に対する発電量の関係等を説明するグラフである。
図9】稼動時間設定装置としての、制御基板のシングルボードコンピュータが実行する稼動時間帯管理処理を説明するフローチャートである。
図10】本実施形態に係る水田用除草装置が装備する、盗難防止装置の一実施形態を説明する構成ブロック図である。
図11】盗難防止装置としての、制御基板のシングルボードコンピュータが実行する盗難防止処理を説明するフローチャートである。
図12】通過ルート設定装置としての、制御基板のシングルボードコンピュータが実行する通過ルート設定処理を説明するフローチャートである。
図13】圃場(水田)に対して、本実施形態に係る水田用除草装置が複数台配置されるイメージを示す図である。
図14】本発明の一態様に係る水田用除草装置の管理に用いられる水田の除草管理システムを説明する構成ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について、図面を適宜参照しつつ説明する。なお、図面は模式的なものである。そのため、厚みと平面寸法との関係、比率等は現実のものとは異なることに留意すべきであり、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている。
また、以下に示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の材質、形状、構造、配置等を下記の実施形態に特定するものではない。
【0016】
本実施形態の水田用除草装置は、例えば、代掻きから田植え後の1カ月程度の期間使用される装置である。図1および図2に示すように、この水田用除草装置100は、水に浮くことができる略矩形枠状のフロートボディ10と、フロートボディ10の上面に設けられた樹脂製のベース板20と、ベース板20の上方に、四隅のポスト22を介して離隔配置された太陽光パネル80と、ベース板20の上面中央部に設けられた機械室30と、機械室30の下部に設けられたスクリュー推進機構40と、ベース板20の上面に設けられたGPS等の測位/方位センサ装置90と、を備える。
【0017】
図3および図4に示すように、機械室30には、制御基板50と、一対の駆動モータ48L、48Rと、バッテリ60と、チャージコントローラ70と、が必要な回線を介して接続された状態で配置される。機械室30の周囲は、4枚の支持パネル32によって覆われ、内部が保護されている。
【0018】
スクリュー推進機構40は、図2(c)に示すように、一対のスクリュー41L、41Rを備える。図1ないし図3に示すように、一対のスクリュー41L、41Rを駆動する駆動機構が、駆動モータ48L、48Rおよびチェーン47L、47Rを含んで構成される。
【0019】
本実施形態の水田用除草装置100は、図4にブロック図を示すように、太陽光パネル80で発電した電力がチャージコントローラ70を介してバッテリ60、制御基板50および駆動モータ48L、48R供給可能に構成される。
【0020】
これにより、本実施形態の水田用除草装置100は、制御基板50による通過ルート管理処理の実行下で、左右一対のスクリュー41L、41Rそれぞれの駆動モータ48L、48Rを回転させる。駆動モータ48L、48Rの回転は、上記チェーン47L、47Rを介して左右一対のスクリュー41L、41Rに伝達される。
【0021】
水田用除草装置100の航行プログラムに基づき設定された通過ルートの進行方向は、制御基板50に実装されたシングルボードコンピュータ(例えばRaspberry Pi)から指令される。その指令値は、測位/方位センサ装置90で計測した水田用除草装置100自身の位置、方向の情報からシングルボードコンピュータが演算している。
【0022】
本実施形態の水田用除草装置100は、測位/方位センサ装置90で自身の位置情報を取得し、制御基板50のシングルボードコンピュータは、左右一対のスクリュー41L、41Rで水田の泥を攪拌した泥幕が広がる間隔を開けつつ水田全面を移動する航行プログラムに基づき航行を制御する。本実施形態の水田用除草装置100では、シングルボードコンピュータは、自身の現在位置等の動作情報を無線通信によって管理者のスマートフォン300に通知する。
【0023】
本実施形態の水田用除草装置100では、予め、水田の4隅等の所定の位置情報(例えば緯度/経度)を、シングルボードコンピュータが実行する所定の航行プログラムに入力しておくことで、水田用除草装置100が圃場を満遍なく動くように設定された通過ルートを自動航行可能に構成されている。
【0024】
左右一対のスクリュー41L、41Rは、シングルボードコンピュータが実行する所定の航行プログラムに基づき、一対のスクリュー41L、41R相互の回転量制御および回転方向が制御される。これにより、本実施形態の水田用除草装置100は、2個のスクリュー41L、41Rの回転量制御および回転方向制御により、直進、左右回転、後進が可能になっている。
【0025】
以上説明したように、本実施形態の水田用除草装置100は、太陽光パネル80で発電しつつ、水田に浮いて自動航行する。本実施形態の水田用除草装置100によれば、浮いて推進するので、稲を避けなくても稲にダメージを与えずに航行できる。本実施形態の水田用除草装置100は、水田に浮いていることで、電力の消費量が少なく、電池容量を小さく抑えることができる。
【0026】
以下、本実施形態の水田用除草装置100に採用されている技術について、より詳しく説明する。
【0027】
[技術1] 水田用除草装置の通過ルート管理処理(通過ルート設定方法および通過ルート設定装置)
上述したように、本実施形態の水田用除草装置100では、制御基板50のシングルボードコンピュータは、一対のスクリュー41L、41Rで水田の泥を攪拌した泥幕が広がる間隔を開けつつ水田全面を移動するように航行を制御する。
制御基板50のシングルボードコンピュータは、GPS等の測位/方位センサ装置90によって取得された位置情報を用い、所定の通過ルートに従い水田全面を自動航行する。
【0028】
しかし、水田全面をくまなく走行しようとすると、一対のスクリュー41L、41Rで泥を攪拌するための走行時間がかかりすぎて、水田全体に泥幕を生じさせて濁らせることができない(=除草効果が低減してしまう)という問題がある。また、水田用除草装置100の走行速度を速くしようとすると、より多くの出力向上が必要となり、電力が足りなくなるという問題がある。
【0029】
そこで、本実施形態の水田用除草装置100では、通過ルート管理処理において、通過ルート設定処理を実行する通過ルート設定装置(本実施形態では、シングルボードコンピュータおよびこれが実行する所定の航行プログラム)を併せて備える。
つまり、本実施形態の水田用除草装置100では、図4から図7に示すように、通過ルート設定処理によって設定された通過ルートに従い、水田の泥を攪拌して広がる泥幕の間隔(例えば、約0.3~10m幅)を開けて移動する通過ルート管理処理を実行する。
【0030】
詳しくは、本実施形態の水田用除草装置100では、図4に示すように、通過ルート設定装置は、上記設定される通過ルートRの制御パラメータを、簡易に変更可能に構成されたアプリケーションプログラムにより管理者のスマートフォン300から入力可能に構成されている。
【0031】
図7に示すように、通過ルート管理処理が実行されると、ステップS1に移行して、実験によって予め確認されており、制御基板50の記憶領域に格納されている泥幕拡散情報(通過ルートRに係る第一の制御パラメータ)を参照し、当該圃場に対応する泥幕拡散情報を取得する。あるいは、圃場管理者が水田除草装置を圃場に投入する際に泥幕の広がりを目視確認し泥幕拡散情報を取得する。
次いでステップS2に移行して、取得された泥幕拡散情報に基づき、当該圃場に応じた泥幕が広がる離隔間隔を設定する。
【0032】
次いで、続くステップS3に移行して、当該圃場に対応する周縁部情報(通過ルートRに係る第二の制御パラメータ)を取得する。
本実施形態の水田用除草装置100では、図5に設定される周縁部情報の一例を示すように、水田Fの全面に泥幕が広がるように間隔を開けて自動航行をするに際し、例えば同図(a)に示すように、まず、矩形状の水田Fであれば、その水田Fの周辺部自体の複数(この例では4か所)の座標a,b,c,dの座標データを読み込んで水田Fの位置情報を取得し、この取得された水田Fの位置情報に基づいて、水田内を航行する通過ルートを自動的に生成する。
【0033】
例えば、通過ルート設定装置は、通過ルートRの折り返し数(=余分な時間)が少なくなるように、水田Fの長い辺Lに沿っては直進し、水田の短い辺WにおいてUターンするように通過ルートRを設定する。
この際、同図に示すように、隣接する折り返しルートとの対向距離Tを例えば5mとし、水田の畔との対向距離Hを例えば2.5m等として、水田Fの全面に泥幕が広がるように間隔を開けて航行し得る通過ルートを自動計算する。
【0034】
なお、圃場に対応する周縁部情報は、同図(a)のような、矩形状に限定されないことは勿論、水田Fの周辺部自体の座標に限定されない。例えば、同図(b)に示すように、水田Fの畔との対向距離Hについて、水田Fの周辺部から内側に所定のオフセット値Hだけ予めオフセットした座標(同図での符号aからh)を取得してこれを用いて水田Fの位置情報としてもよい。また、自動計算で生成する通過ルートについても、図5に示したような千鳥状のジグザグルートに限らす、圃場Fに応じた泥幕が広がる離隔間隔を設定すれば、種々の通過ルートを設定できる。
【0035】
例えば、図6(a)に示すように、圃場Fの長手方向に沿って所定の離隔間隔を隔てて短手方向で並行する複数の縦方向のみを繰り替えし通る通過ルートを基本ルートとして設定できる。また、同図(b)に示すように、圃場Fの短手方向に沿って所定の離隔間隔を隔てて長手方向で並行する複数の横方向のみを繰り替えし通る通過ルートを基本ルートとして設定できる。同図(a)、(b)の場合、基本ルートを通過後、終点から始点に戻る場合に、終点と始点とを繋ぐ直線により戻る最短ルートを採用できる。
また、同図(c)に示すように、所定の離隔間隔を隔てて碁盤の目状の折り返しを繰り返して縦横に通る通過ルートを設定することもできる。
【0036】
また、本実施形態の水田用除草装置100では、種々の通過ルートを圃場Fや環境パラメータ(例えば風向き、高低差、雑草量等)に応じて適宜設定できる。つまり、通過ルート設定装置は、図7に通過ルート管理処理のフローチャートを示すように、通過ルートRを設定するに際し、ステップS4からステップS7に示すような、通過ルートRに係る制御パラメータとしてのオプションを適宜に追加したり組み合わせたりして通過ルートを設定できる。
【0037】
具体的には、同図に示す例では、ステップS4に移行して、雑草の生えやすいエリアと生えにくいエリアとのエリア情報を取得し(通過ルートRに係る第三の制御パラメータ)、雑草の生えやすいエリアと生えにくいエリアとで、生えにくいエリアの通過頻度よりも生えやすいエリアの通過頻度が多くなるように、通過頻度を変化させるように通過ルートRを設定できる。
【0038】
また、同図に示す例では、ステップS5に移行して、風向を認識または風向きの情報を他から取得し(通過ルートRに係る第四の制御パラメータ)、風上側のエリアと風下側のエリアとで、風下側のエリアの通過頻度よりも風上側のエリアの通過頻度が多くなるように、通過頻度を変化させるように通過ルートRを設定する。また、同図に示す例では、ステップS6に移行して、通過の頻度を変化させるように通過ルートRを設定する。
【0039】
次いで、本実施形態の水田用除草装置100は、ステップS7に移行して航行時間を設定する(なお、航行時間の設定処理については、後述の[技術2]にて詳述する。)。そして、続くステップS8に移行して、上記取得された種々のデータに基づき、当該圃場での最適な通過ルートを自動計算して航行コースとして設定する。航行コースが設定されたら、航行が開始される。つまり、ステップS9に移行して、設定された航行時間内であればステップS10に移行して航行を継続し、そうでなければ処理を戻して航行を終了する。
【0040】
ここで、本実施形態の水田用除草装置100では、図7のステップS11に示すように、水田の畦や泥が盛り上がった箇所など障害物に引っ掛かり、水田用除草装置100が同じ位置に止まっていることを制御基板50が認識した際には、ステップS12に移行し、図12に示す回避処理を実行する。回避処理では、ステップS121からステップS123の回避動作、つまり、後進や旋回を行い、障害物を回避して元の通過ルートに復帰する。
また、同図に示す例では、ステップS13では、水田用除草装置100は、自身の通れていないエリアを認識し、制御基板50は、そこへ向かうように移動するように、通過ルートRを設定(修正)して航行を続行する。
【0041】
このように、本実施形態の水田用除草装置100によれば、制御基板50に、通過ルート設定装置を備え、通過ルート設定装置は、圃場および当該圃場に関連する環境パラメータ(例えば風向き、高低差、雑草量等)に応じて、効率の良い通過ルートRを設定可能なので、消費電力を抑えた上で、除草効果をより向上させることができる。
【0042】
[技術2] 水田用除草装置の稼動方法
上述したように、本実施形態の水田用除草装置100は、自身に装備された太陽光パネル80で発電した電力で推進する。しかし、自身に装備された太陽光パネル80で発電した電力で推進するため、発電量が限られるので、1日中動くことは困難となる場合がある。
【0043】
これに対し、本実施形態の水田用除草装置100は、図7のステップS7において航行時間を設定するに際し、図8および図9に示す稼動時間帯管理処理が実行され、早朝(日の出およびその前後)から夕方(日の入またはその前)までの時間帯を限って稼動するように上記航行プログラムが設定される。
【0044】
つまり、生成された泥幕は暫くの間残存することから、夕方以降は、水田用除草装置100の稼働を止めても、暗くなる時間帯までは泥幕によるにごり状態を残らせることができる。そのため、本実施形態の水田用除草装置100の制御基板50は、日の出および日の出前の時間若しくは日の出後の時間を含む早朝から日の入または日の入よりも前の時間を含む夕方までの間の時間を限って稼動するように航行プログラムを設定する稼動時間帯管理処理を併せて実行する。
【0045】
すなわち、図9に稼動時間帯管理処理を示すように、制御基板50のシングルボードコンピュータによる所定の航行プログラムにおける稼動時間帯管理処理が実行されると、早朝から夕方までの間の時間に限って稼動するように航行プログラムが設定されるので、水田用除草装置100を止めて電力を貯めておき、その貯めた電力を使って、翌日の早朝の発電量が少ない時間帯から水田用除草装置100を稼働させることができる。
これにより、消費エネルギーを効果的に節約しつつ、雑草が光合成可能な時間帯を確実に捉えて水田の泥を撹拌できる。そのため、除草効果をより向上させることができる。
【0046】
[技術3] 水田用除草装置の盗難防止装置および盗難防止方法
本実施形態の水田用除草装置100は、稼動に際しては自身に搭載されている太陽光パネル80を使うので、管理者は、充電のために水田用除草装置100を毎日持ち帰らずに済む。
【0047】
しかし、夜間、水田用除草装置100を水田に置いておくので、盗難されるおそれがあるという問題がある。そこで、本実施形態の水田用除草装置100では、盗難を防止するために、雑草の生育を防止または抑制する1日の作業の終わりには、水田の真ん中またはその近傍で止まる通過ルートを上記航行プログラムに加えることが可能になっている。
【0048】
また、本実施形態の水田用除草装置100は、盗難防止装置(本実施形態では、制御基板50に実装された3軸加速度センサ、シングルボードコンピュータおよびこれが実行する所定の航行プログラム)を備えて構成される。なお、測位/方位センサ装置90によっても高度や水平位置の情報を取得できるため、3軸加速度センサに替えて、測位/方位センサ装置90によって盗難防止装置を構成してもよい。
【0049】
すなわち、盗難防止装置は、図10および図11に示すように、制御基板50のシングルボードコンピュータによる航行プログラムの、夜間における盗難防止処理の実行により、夜間に水田用除草装置100が持ち上げられたり(高さ方向の変化)、持ち去られたり(水平方向の変化)する姿勢変化を3軸加速度センサで感知してアラートを発するように構成されている。これにより、本実施形態の水田用除草装置100によれば盗難を防止できる。
【0050】
以上説明したように、本実施形態の水田用除草装置100によれば、水田の除草効果をより向上させることができる。なお、本発明に係る水田用除草装置は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しなければ種々の変形が可能であることは勿論である。
【0051】
例えば、上記実施形態の水田用除草装置100では、図7に示す通過ルート管理処理において、測位/方位センサ装置90によって取得された位置情報を用いて水田全面を自動航行する例を示したが、これに限らず、例えば、本発明に係る水田用除草装置は、GPSとwifi用いない若しくは搭載しないで簡易プログラムで動くように構成してもよい。
【0052】
そして、例えば、測位/方位センサ装置90を用いない若しくは搭載しない場合であっても、図12に示した回避処理の実行により、直進、旋回を繰り返したり、スタックの回避のために後進も織り交ぜたりすることで、障害やスタックを回避して、5畝程度までの水田で稼働するようにしてもよい。
【0053】
なお、GPSの有無の基準としては、GPSの精度は2~3m程度であるところ、1辺がGPS精度の10倍=1辺25m程度=面積600m^2程度として判断できる。よって、GPS有りとする場合、600m^2以上、GPS無しとする場合、600m^2未満の圃場(水田)に適用することが望ましい。
【0054】
[技術4] 水田の除草管理システム(面積)
上述したように、本実施形態の水田用除草装置100は、水田に投入され、水に浮いた状態で水田全面を自動航行する。しかし、1台の水田用除草装置100での稼働可能範囲は例えば約3000~6000m^2程度である。そのため、より広い圃場Fでは除草効果が低下するという問題がある。
【0055】
これに対し、図13に示すように、例えば、約3000~6000m^2以上の圃場Fに対しては、本実施形態の水田用除草装置100を複数台(同図の例では100A、100B、100Cの三台)導入して、圃場Fの区画を分割(同図の例ではF1、F2、F3の三分割)して稼働させることが望ましい。これにより、除草効果をより向上させることができる。
【0056】
[技術5] 水田の除草管理システム
上述したように、本実施形態の水田用除草装置100は、測位/方位センサ装置90による位置情報を用いて水田全面を自動航行する。水田用除草装置100は、無人により自動航行するので、水田用除草装置100の故障に備えて、水田用除草装置100の状態を遠隔で認識することが望まれる。しかし、水田用除草装置100の状態を遠隔で認識するために、Wifi等の無線システムを別個に採用すればコスト増となるという問題がある。
【0057】
これに対し、図14に示す、本実施形態の水田の除草管理システム200は、圃場Fの自動制御機械(水管理装置、ドローン、自動稲刈り機等)を用い、圃場Fの自動制御機械と水田用除草装置100のWifi機能とを共有化することを特徴とする。
本実施形態に係る水田の除草管理システム200によれば、圃場Fの自動制御機械と水田用除草装置100のWifi機能とを共有化して、水田用除草装置100の状態を遠隔で認識するので、コストを低減できる。
【0058】
[技術6] 水田の除草管理システム(水位)
本実施形態の水田用除草装置100は、水田に投入されて、水に浮いた状態で水中のスクリュー41L、41Rにより推進する。しかし、水田の水深が深い場合は、水田用除草装置を投入しても、土壌表面の土を十分に攪拌できないという問題がある。
一方、水深が浅い場合は、水田用除草装置100の推進・撹拌機構部に対する土の抵抗が大きくなり、水田用除草装置100が水に浮いた状態で推進できなくなるおそれがある。
【0059】
そこで、本実施形態の水田水位管理システム200は、圃場Fに、水位調整機能を設けて水田用除草装置100の稼動に最適な水位に管理する。本実施形態に係る水田水位管理システム200によれば、水田用除草装置100の稼動に最適な水位に管理されるので、水田用除草装置100の駆動効率を高めることができる。
【符号の説明】
【0060】
10 フロートボディ
20 ベース板(ヒートシンク)
22 ポスト
30 機械室
32 支持パネル
40 スクリュー推進機構
41L、41R スクリュー
42L、42R 本体部
43 フィン
44 発泡材
45 チェーンカバー
46 チェーンカバーキャップ
47L、47R チェーン
48L、48R 駆動モータ
49 カバー
50 制御基板(制御部)
60 バッテリ
70 チャージコントローラ
80 太陽光パネル
82 電力取り出し口
90 測位/方位センサ装置
92A~92E 喫水調整構造
100 水田用除草装置
200 除草管理システム
F 圃場(水田)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14