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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-07
(45)【発行日】2023-06-15
(54)【発明の名称】眼内レンズ度数決定装置及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   A61F 2/16 20060101AFI20230608BHJP
【FI】
A61F2/16
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2023029881
(22)【出願日】2023-02-28
【審査請求日】2023-03-02
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】500550980
【氏名又は名称】株式会社中京メディカル
(74)【代理人】
【識別番号】100131048
【弁理士】
【氏名又は名称】張川 隆司
(74)【代理人】
【識別番号】100174377
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 健吾
(74)【代理人】
【識別番号】100215038
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 友子
(72)【発明者】
【氏名】市川 一夫
(72)【発明者】
【氏名】加藤 幸仁
(72)【発明者】
【氏名】田中 芳樹
【審査官】岡▲さき▼ 潤
(56)【参考文献】
【文献】特表2022-511115(JP,A)
【文献】特開2002-119470(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
眼内レンズ度数に対する、眼内レンズ挿入後の眼全体の予測屈折値を計算する計算式に基づいて、眼内レンズ度数と前記予測屈折値との組み合わせを、異なる複数の前記計算式ごとに取得する取得部と、
互いに異なる前記計算式により得られた複数の前記組み合わせに基づいて、眼に挿入する眼内レンズの度数を決定する決定部と、
を備え、
狙い値に最も近い前記予測屈折値を示す眼内レンズ度数が、3つ以上の前記計算式のうちの第1計算式と第2計算式とで同じとなる場合のその度数を基準の度数として、
前記決定部は、前記基準の度数を維持又は前記基準の度数を1段階近視側の値に変更することで、3つ以上の前記計算式から得られる3つ以上の前記予測屈折値のうち過半数が前記狙い値よりも近視側の値を示し、かつ、前記狙い値に、より近い前記予測屈折値を示す前記度数を決定する眼内レンズ度数決定装置。
【請求項2】
前記決定部は、3つ以上の前記計算式から得られる3つ以上の前記組み合わせの態様が、複数に分類されたタイプのいずれに該当するのかに基づいて、前記度数を決定する請求項1に記載の眼内レンズ度数決定装置。
【請求項3】
前記取得部は、
前記第1計算式により得られる、前記狙い値に最も近い前記予測屈折値とその予測屈折値を与える眼内レンズ度数との第1組み合わせと、
前記第2計算式により得られる、前記狙い値に最も近い前記予測屈折値とその予測屈折値を与える眼内レンズ度数との第2組み合わせとを取得し、
前記決定部は、
前記第1組み合わせの眼内レンズ度数と、前記第2組み合わせの眼内レンズ度数とが等しいか否かを判断する度数判断部と、
前記第1組み合わせの眼内レンズ度数と前記第2組み合わせの眼内レンズ度数とが等しい場合に、前記第1組み合わせの前記予測屈折値と、前記第2組み合わせの前記予測屈折値と、前記第1組み合わせ又は前記第2組み合わせの眼内レンズ度数と同じ度数に対して、前記第1計算式及び前記第2計算式とは異なる他の前記計算式により得られる前記予測屈折値とを含む3つ以上の前記予測屈折値のうち過半数が、前記狙い値よりも近視側の値を示すか否かを判断する屈折値判断部と、
前記第1組み合わせの眼内レンズ度数と前記第2組み合わせの眼内レンズ度数とが等しく、かつ、前記過半数が前記狙い値よりも近視側の値を示す場合に、前記第1組み合わせ又は前記第2組み合わせの眼内レンズ度数を最終的な眼内レンズ度数として決定する第1決定部と、
を備える請求項に記載の眼内レンズ度数決定装置。
【請求項4】
前記決定部は、前記第1組み合わせの眼内レンズ度数と前記第2組み合わせの眼内レンズ度数とが等しく、かつ、前記過半数が前記狙い値よりも遠視側の値を示す場合に、前記第1組み合わせ又は前記第2組み合わせの眼内レンズ度数を1段階近視側の度数に変更し、変更後の度数を最終的な眼内レンズ度数として決定する第2決定部を備える請求項に記載の眼内レンズ度数決定装置。
【請求項5】
前記取得部は、前記第1計算式及び前記第2計算式とは異なる他の前記計算式により得られる、前記狙い値に最も近い前記予測屈折値とその予測屈折値を与える眼内レンズ度数との他の組み合わせを取得し、
前記決定部は、前記第1組み合わせの眼内レンズ度数と前記第2組み合わせの眼内レンズ度数とが異なる場合に、前記第1組み合わせと前記第2組み合わせと前記他の組み合わせとを含む3つ以上の前記組み合わせの前記予測屈折値のうち過半数が前記狙い値よりも近視側の値を示し、かつ、前記予測屈折値が前記狙い値よりも近視側の値を示す前記組み合わせの眼内レンズ度数のうち最小の度数を最終的な眼内レンズ度数として決定する第3決定部を備える請求項に記載の眼内レンズ度数決定装置。
【請求項6】
前記狙い値は0ディオプトリである請求項に記載の眼内レンズ度数決定装置。
【請求項7】
前記第1計算式又は前記第2計算式は、眼内レンズ挿入術中に取得された眼の屈折特性に基づいて前記予測屈折値を得る請求項に記載の眼内レンズ度数決定装置。
【請求項8】
前記決定部は、多焦点眼内レンズの度数を決定する請求項1に記載の眼内レンズ度数決定装置。
【請求項9】
眼内レンズ度数に対する、眼内レンズ挿入後の眼全体の予測屈折値を計算する計算式に基づいて、眼内レンズ度数と前記予測屈折値との組み合わせを、異なる複数の前記計算式ごとに取得する取得ステップと、
互いに異なる前記計算式により得られた複数の前記組み合わせに基づいて、眼に挿入する眼内レンズの度数を決定する決定ステップと、
をコンピュータに実行させ
狙い値に最も近い前記予測屈折値を示す眼内レンズ度数が、3つ以上の前記計算式のうちの第1計算式と第2計算式とで同じとなる場合のその度数を基準の度数として、
前記決定ステップでは、前記基準の度数を維持又は前記基準の度数を1段階近視側の値に変更することで、3つ以上の前記計算式から得られる3つ以上の前記予測屈折値のうち過半数が前記狙い値よりも近視側の値を示し、かつ、前記狙い値に、より近い前記予測屈折値を示す前記度数を決定するプログラム。
【請求項10】
前記取得ステップは、
前記第1計算式により得られる、前記狙い値に最も近い前記予測屈折値とその予測屈折値を与える眼内レンズ度数との第1組み合わせと、
前記第2計算式により得られる、前記狙い値に最も近い前記予測屈折値とその予測屈折値を与える眼内レンズ度数との第2組み合わせとを取得し、
前記決定ステップは、
前記第1組み合わせの眼内レンズ度数と、前記第2組み合わせの眼内レンズ度数とが等しいか否かを判断する度数判断ステップと、
前記第1組み合わせの眼内レンズ度数と前記第2組み合わせの眼内レンズ度数とが等しい場合に、前記第1組み合わせの前記予測屈折値と、前記第2組み合わせの前記予測屈折値と、前記第1組み合わせ又は前記第2組み合わせの眼内レンズ度数と同じ度数に対して、前記第1計算式及び前記第2計算式とは異なる他の前記計算式により得られる前記予測屈折値とを含む3つ以上の前記予測屈折値のうち過半数が、前記狙い値よりも近視側の値を示すか否かを判断する屈折値判断ステップと、
前記第1組み合わせの眼内レンズ度数と前記第2組み合わせの眼内レンズ度数とが等しく、かつ、前記過半数が前記狙い値よりも近視側の値を示す場合に、前記第1組み合わせ又は前記第2組み合わせの眼内レンズ度数を最終的な眼内レンズ度数として決定する第1決定ステップと、
前記第1組み合わせの眼内レンズ度数と前記第2組み合わせの眼内レンズ度数とが等しく、かつ、前記過半数が前記狙い値よりも遠視側の値を示す場合に、前記第1組み合わせ又は前記第2組み合わせの眼内レンズ度数を1段階近視側の度数に変更し、変更後の度数を最終的な眼内レンズ度数として決定する第2決定ステップとを含む、請求項9に記載のプログラム。
【請求項11】
前記取得ステップでは、前記第1計算式及び前記第2計算式とは異なる他の前記計算式により得られる、前記狙い値に最も近い前記予測屈折値とその予測屈折値を与える眼内レンズ度数との他の組み合わせを取得し、
前記決定ステップは、前記第1組み合わせの眼内レンズ度数と前記第2組み合わせの眼内レンズ度数とが異なる場合に、前記第1組み合わせと前記第2組み合わせと前記他の組み合わせとを含む3つ以上の前記組み合わせの前記予測屈折値のうち過半数が前記狙い値よりも近視側の値を示し、かつ、前記予測屈折値が前記狙い値よりも近視側の値を示す前記組み合わせの眼内レンズ度数のうち最小の度数を最終的な眼内レンズ度数として決定する第3決定ステップを含む、請求項10に記載のプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は眼内レンズ度数を決定する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
白内障の治療として眼に眼内レンズ(Intraocular Lens:IOL)を挿入する場合、眼軸長等の眼形状に応じた眼内レンズ度数を決定する必要がある。下記特許文献1には、眼内レンズ挿入術中に測定した眼の屈折値に基づいて、挿入すべき眼内レンズ度数を決定することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平7-431号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1等の従来技術では、眼内レンズ挿入後の眼全体の屈折値と狙い値との誤差(以下、術後屈折誤差という場合がある)が大きいという問題がある。
そこで、本開示は、術後屈折誤差を小さくできる眼内レンズ度数決定装置及びプログラムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の眼内レンズ度数決定装置は、
眼内レンズ度数に対する、眼内レンズ挿入後の眼全体の予測屈折値を計算する計算式に基づいて、眼内レンズ度数と前記予測屈折値との組み合わせを、異なる複数の前記計算式ごとに取得する取得部と、
互いに異なる前記計算式により得られた複数の前記組み合わせに基づいて、眼に挿入する眼内レンズの度数を決定する決定部と、
を備える。
【0006】
本開示のプログラムは、
眼内レンズ度数に対する、眼内レンズ挿入後の眼全体の予測屈折値を計算する計算式に基づいて、眼内レンズ度数と前記予測屈折値との組み合わせを、異なる複数の前記計算式ごとに取得する取得ステップと、
互いに異なる前記計算式により得られた複数の前記組み合わせに基づいて、眼に挿入する眼内レンズの度数を決定する決定ステップと、
をコンピュータに実行させる。
【0007】
これによれば、互いに異なる計算式により得られた、眼内レンズ度数及び予測屈折値の複数の組み合わせに基づいて、最終的な眼内レンズ度数を決定するので、1種類の計算式のみで眼内レンズ度数を決定する場合に比べて、術後屈折誤差を小さくできる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】眼内レンズ度数決定システムの構成図である。
図2】眼内レンズ度数決定処理の第1フローチャートである。
図3図2に続く処理のフローチャートであって、眼内レンズ度数決定処理の第2フローチャートである。
図4図2に続く処理のフローチャートであって、眼内レンズ度数決定処理の第3フローチャートである。
図5】術後屈折値(術後屈折誤差)の割合を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の実施形態を図面を参照しつつ説明する。図1は、本実施形態の眼内レンズ度数決定システム1(以下、単にシステムという場合がある)の構成を示す。システム1は、白内障の治療として多焦点眼内レンズを白内障患者の眼に挿入する場合に、多焦点眼内レンズの度数を決定するシステムである。
【0010】
システム1は、演算装置2と表示部8と操作部9と術前測定器10と術中波面収差計11とを備える。演算装置2は、眼内レンズ度数決定装置であり、CPU3と記憶部4とを備える。CPU3は眼内レンズ度数を決定する処理などの各種処理を実行する。
【0011】
記憶部4は、不揮発性記憶部であり、コンピュータによって読み取り可能なプログラム及びデータを非一時的に格納する非遷移的実体的記憶媒体(non-transitory tangible storage medium)である。非遷移的実体的記憶媒体は半導体メモリ又は磁気ディスクなどによって実現される。なお、記憶部4は、演算装置2に内蔵された内蔵記憶部として構成されてもよいし、演算装置2に外付けされた外付記憶部として構成されてもよい。
【0012】
記憶部4には、CPU3が実行する処理のプログラム5と、該処理で使用する各種データ6、7とが記憶されている。各種データ6、7は、互いに異なる複数の計算式6と、眼内レンズ情報7とを含む。各計算式6は、眼内レンズ度数に対する、眼内レンズ挿入後の眼全体の予測屈折値を計算する式である。各計算式6は、眼の形状パラメータ(眼軸長、角膜曲率半径、前房深度、水晶体厚、角膜径など)と、眼内レンズ度数と、眼内レンズ挿入後の眼全体の予測屈折値(術後屈折値)とを変数(パラメータ)としている。眼の形状パラメータを計算式6に入力することで、計算式6からは、予測屈折値とその予測屈折値を与える眼内レンズ度数との組み合わせが出力される。
【0013】
各計算式6は公知(既存)の式とすることができる。具体的には、複数の計算式6は、例えば、Barrett Universal II式(以下、BUII式という場合がある)と、SRK/T式とを少なくとも含む。SRK/T式は、眼軸長と角膜曲率半径とを入力パラメータとして、眼内レンズ度数と予測屈折値との組み合わせを出力する。BUII式は、SRK/T式よりも新しい世代の式である。BUII式は、眼軸長及び角膜曲率半径に加えて、角膜径と前房深度と水晶体厚とを入力パラメータとして、眼内レンズ度数と予測屈折値との組み合わせを出力する。
【0014】
眼内レンズ情報7は、既存の各種の眼内レンズ(多焦点眼内レンズを含む)に関する情報であり、眼内レンズのメーカ、眼内レンズの度数、形状などを示す情報である。
【0015】
表示部8は、演算装置2により決定された眼内レンズ度数等の各種情報を表示する。操作部9は、システム1の使用者(眼内レンズ挿入術を行う術者など)により入力操作が行われる部分であり、例えば、キーボード、マウス等である。
【0016】
術前測定器10は、眼内レンズ挿入術前に、眼内レンズを挿入しようとする眼の形状を測定する装置である。具体的には、術前測定器10は、各計算式6及び後述の術中波面収差計11の計算式15で使用する眼形状パラメータ(眼軸長、角膜曲率半径、前房深度、水晶体厚、角膜径など)を測定するOCT(光干渉断層撮影)装置などである。術前測定器10は、単独の測定器であってもよいし、互いに異なる眼形状パラメータを測定する複数の測定器から構成されてもよい。
【0017】
術中波面収差計11は、眼内レンズ挿入術中に、眼の屈折特性を測定する装置である。術中波面収差計11は、術中に、水晶体の一部又は全部を除去した後の眼の屈折特性(球面度数、乱視度数、及び乱視軸など)を測定する。具体的には、術中波面収差計11は、測定部12と演算部13と記憶部14とを含む。測定部12は、術中に眼の屈折特定を測定する部分である。測定部12は手術顕微鏡等を含んで構成される。
【0018】
演算部13は、術前測定器10で測定された眼形状パラメータと、測定部12で測定された術中の眼の屈折特性とに基づいて、眼内レンズ度数に対する術後の眼全体の予測屈折値などを演算する。記憶部14は、演算部13が実行する処理のプログラムや、予測屈折値を計算する計算式15等を記憶する不揮発性記憶部である。計算式15は、演算装置2が記憶する計算式6とは異なる式であり、術前に得られる眼形状パラメータに加えて、術中に得られる眼の屈折特性を入力パラメータとして、眼内レンズ度数と予測屈折値(術後屈折値)との組み合わせを出力する。
【0019】
なお、計算式6、15が出力する眼内レンズ度数の刻み幅は、既存の眼内レンズの度数の刻み幅(例えば0.5D(ディオプトリ))と同じとしてよい。記憶部4、14には、各計算式6、15の定数(例えばA定数、Sergeon Factor(SF)など)も記憶されている。
【0020】
術中波面収差計11として例えばAlcon社のORA SYSTEM(登録商標)が用いられる。術中波面収差計11に術後の予測屈折値を演算する機能が無い場合には、演算装置2が、計算式15に基づく予測屈折値を演算してもよい。この場合、演算装置2の記憶部4に計算式15が記憶されてよい。
【0021】
次に、図2図4を参照して、演算装置2のCPU3がプログラム5に基づいて実行する眼内レンズ度数決定処理の詳細を説明する。以下では、複数の計算式6の1つであるBUII式を第1計算式とする。術中の眼の屈折特性をパラメータとした計算式15を第2計算式とする。複数の計算式6の1つであるSRK/T式を第3計算式とする。第1、第2計算式は、例えば第3計算式よりも新しい世代の式又は高精度の式としてよい。
【0022】
図2図4の処理は、眼に多焦点眼内レンズを挿入する場合に、術後の眼全体の屈折値が、狙い値0D(つまり、眼の焦点距離が無限遠)よりも若干近視側の値(マイナスの値)となるように、多焦点眼内レンズの度数を決定する処理である。なお、多焦点眼内レンズは、2焦点眼内レンズ、3焦点眼内レンズ等、いずれの種類でもよい。狙い値を0Dとする理由は、より遠方を視認できるようにするためである。また、眼全体の屈折値をマイナスの値にする理由は、術後の近見視力が悪化しないにようにするためである。なお、屈折値の符号がマイナス(-)の場合は眼に入った光の焦点が網膜よりも前側(近視側)で結ぶことを意味する。屈折値の符号がプラス(+)の場合は眼に入った光の焦点が網膜よりも後側(遠視側)で結ぶことを意味する。また、図2図4の処理の前提として、術前測定器10によって、手術予定の眼(以下、被術眼という場合がある)の形状パラメータ(眼軸長、角膜曲率半径、前房深度、水晶体厚、角膜径など)が予め測定されているとする。
【0023】
図2の処理が開始すると、先ず、CPU3は、術前測定器10が測定した被術眼の眼形状パラメータを取得する(S1)。CPU3は、眼形状パラメータを術前測定器10から直接に取得してもよいし、使用者に、操作部9による眼形状パラメータの入力操作を行わせ、入力された眼形状パラメータを取得してもよい。
【0024】
次に、ステップS1で取得した眼形状パラメータ及び第1計算式(BUII式)に基づいて、術後の予測屈折値の絶対値が0D(狙い値)に最も近い眼内レンズ度数power1と、眼内レンズ度数power1に対する術後の予測屈折値PR1とを取得(演算)する(S2)。ステップS2の処理は、術前に行ってもよいし、術中に行ってもよい。ステップS3以降の処理は術中に行う処理である。
【0025】
次に、術中波面収差計11が、被術眼の術中(水晶体除去後)の屈折特性及び第2計算式に基づいて演算した、術後の予測屈折値の絶対値が0D(狙い値)に最も近い眼内レンズ度数power2と、眼内レンズ度数power2に対する術後の予測屈折値PR2とを取得する(S3)。
【0026】
次に、上記度数power1と度数power2とが等しいか否かを判断する(S4)。等しい場合には(S4:Yes)、以降の処理で、第1計算式の上記予測屈折値PR1と、第2計算式の上記予測屈折値PR2と、第3計算式(SRK/T式)から得られる、power1、2と同じ度数に対する予測屈折値PR3とのうちの過半数(2以上)が狙い値(0D)よりも近視側の値(つまりマイナスの値)を示しているか否かを判断する。
【0027】
具体的には、第1計算式の予測屈折値PR1が0D(狙い値)より小さいか否か、つまりマイナスの値か否かを判断する(S5)。予測屈折値PR1がマイナスの値の場合には(S5:Yes)、第2計算式の予測屈折値PR2が0D(狙い値)より小さいか否か、つまりマイナスの値か否かを判断する(S6)。予測屈折値PR2もマイナスの値の場合には(S6:Yes)、3つの計算式(第1~第3計算式)の予測屈折値のうち過半数がマイナスの値を示すこととなる。この場合には、上記度数power1、2を変更せずに最終的な眼内レンズ度数として決定する(S7)。
【0028】
第1~第3計算式から得られる眼内レンズ度数及び予測屈折値の3つの組み合わせの態様を複数に分類したときに、ステップS7の態様をAタイプとする。Aタイプは、power1とpower2とが等しく、かつ、予測屈折値PR1、PR2が共に狙い値よりも近視側の値を示す態様である。例えば、power1=18.0D、power2=18.0D、PR1=-0.1D、PR2=-0.2Dの場合に、Aタイプとなり、power1、2=18.0Dが最終的な眼内レンズ度数として決定される。
【0029】
ステップS6において予測屈折値PR2が狙い値よりも近視側の値を示していない場合、すなわち0D以上の場合には(S6:No)、ステップS1で取得した眼形状パラメータ及び第3計算式(SRK/T式)に基づいて、power1、2と同じ度数に対する術後の予測屈折値PR3を取得(演算)する(S8)。なお、予測屈折値が狙い値(0D)に完全に一致することはほとんどないので、ステップS5、S6、後述のS9が否定判断される場合は、予測屈折値が遠視側の値(プラスの値)を示すといってよい。
【0030】
次に、予測屈折値PR3が0D(狙い値)より小さいか否か、つまりマイナスの値か否かを判断する(S9)。予測屈折値PR3がマイナスの値の場合には(S9:Yes)、3つの計算式(第1~第3計算式)の予測屈折値のうち過半数がマイナスの値を示すこととなる。この場合には、上記度数power1、2を変更せずに最終的な眼内レンズ度数として決定する(S10)。
【0031】
第1~第3計算式から得られる眼内レンズ度数及び予測屈折値の3つの組み合わせの態様を複数に分類したときに、ステップS10の態様をBタイプとする。Bタイプは、power1とpower2とが等しく、かつ、予測屈折値PR1、PR3が狙い値よりも近視側の値を示し、予測屈折値PR2が狙い値より遠視側の値を示す態様である。例えば、power1=18.0D、power2=18.0D、PR1=-0.1D、PR2=+0.1D、PR3=-0.1Dの場合に、Bタイプとなり、power1、2=18.0Dが最終的な眼内レンズ度数として決定される。
【0032】
ステップS9において予測屈折値PR3が狙い値よりも近視側の値を示していない場合、すなわち0D以上の場合には(S9:No)、3つの計算式(第1~第3計算式)の予測屈折値のうち過半数がマイナスの値を示さない(換言すればプラスの値を示す)こととなる。この場合には、度数power1、2を1段階(例えば0.5D)近視側に変更し(つまり、1段階大きくし)、変更後の度数powerXを最終的な眼内レンズ度数として決定する(S11)。
【0033】
第1~第3計算式から得られる眼内レンズ度数及び予測屈折値の3つの組み合わせの態様を複数に分類したときに、ステップS11の態様をCタイプとする。Cタイプは、power1とpower2とが等しく、かつ、予測屈折値PR1が狙い値よりも近視側の値を示し、予測屈折値PR2、PR3が狙い値よりも遠視側の値を示す態様である。例えば、power1=18.0D、power2=18.0D、PR1=-0.1D、PR2=+0.1D、PR3=+0.1Dの場合に、Cタイプとなり、power1、2=18.0Dより1段階大きい18.5Dが最終的な眼内レンズ度数として決定される。
【0034】
なお、Cタイプの場合、第1計算式によって得られる、power1に対する予測屈折値PR1はマイナスの値となるため、power1より1段階大きいpowerXに対する予測屈折値PR1‘もマイナスの値となる。また、第2計算式によって得られる、power2に対する予測屈折値PR2は0Dに最も近いプラスの値となるため、power2より1段階大きいpowerXに対する予測屈折値PR2‘はマイナスの値となる。このように、最終的な眼内レンズ度数Xに対する第1~第3計算式の3つの予測屈折値の過半数は狙い値(0D)よりも近視側の値(マイナスの値)を示す。
【0035】
一方、ステップS5において予測屈折値PR1が狙い値よりも近視側の値を示していない場合、すなわち0D以上の場合には(S5:No)、図3のステップS12に移行する。ステップS12では、第2計算式の予測屈折値PR2がマイナスの値か否かを判断する(S12)。予測屈折値PR2がマイナスの値の場合には(S12:Yes)、ステップS8と同様に、第3計算式の予測屈折値PR3を取得する(S13)。そして、予測屈折値PR3がマイナスの値か否かを判断する(S14)。予測屈折値PR3がマイナスの値の場合には(S14:Yes)、3つの計算式(第1~第3計算式)の予測屈折値のうち過半数がマイナスの値を示すこととなる。この場合には、上記度数power1、2を変更せずに最終的な眼内レンズ度数として決定する(S15)。
【0036】
第1~第3計算式から得られる眼内レンズ度数及び予測屈折値の3つの組み合わせの態様を複数に分類したときに、ステップS15の態様をDタイプとする。Dタイプは、power1とpower2とが等しく、かつ、予測屈折値PR1が狙い値よりも遠視側の値を示し、予測屈折値PR2、PR3が狙い値よりも近視側の値を示す態様である。例えば、power1=18.0D、power2=18.0D、PR1=+0.1D、PR2=-0.1D、PR3=-0.1Dの場合に、Dタイプとなり、power1、2=18.0Dが最終的な眼内レンズ度数として決定される。
【0037】
ステップS14において予測屈折値PR3が狙い値よりも近視側の値を示していない場合、すなわち0D以上の場合には(S14:No)、3つの計算式(第1~第3計算式)の予測屈折値のうち過半数がマイナスの値を示さない(換言すればプラスの値を示す)こととなる。この場合には、度数power1、2を1段階大きくし、変更後の度数powerXを最終的な眼内レンズ度数として決定する(S16)。
【0038】
第1~第3計算式から得られる眼内レンズ度数及び予測屈折値の3つの組み合わせの態様を複数に分類したときに、ステップS16の態様をEタイプとする。Eタイプは、power1とpower2とが等しく、かつ、予測屈折値PR1、PR3が狙い値よりも遠視側の値を示し、予測屈折値PR2が狙い値よりも近視側の値を示す態様である。例えば、power1=18.0D、power2=18.0D、PR1=+0.1D、PR2=-0.1D、PR3=+0.1Dの場合に、Eタイプとなり、power1、2=18.0Dより1段階大きい18.5Dが最終的な眼内レンズ度数として決定される。
【0039】
なお、Eタイプの場合、第1計算式によって得られる、power1に対する予測屈折値PR1は0Dに最も近いプラスの値となるため、power1より1段階大きいpowerXに対する予測屈折値PR1‘はマイナスの値となる。また、第2計算式によって得られる、power2に対する予測屈折値PR2はマイナスの値となるため、power2より1段階大きいpowerXに対する予測屈折値PR2‘もマイナスの値となる。このように、最終的な眼内レンズ度数Xに対する第1~第3計算式の3つの予測屈折値の過半数は狙い値(0D)よりも近視側の値(マイナスの値)を示す。
【0040】
ステップS12において予測屈折値PR2が狙い値よりも近視側の値を示していない場合、すなわち0D以上の場合には(S12:No)、3つの計算式(第1~第3計算式)の予測屈折値のうち過半数がマイナスの値を示さない(換言すればプラスの値を示す)こととなる。この場合には、度数power1、2を1段階大きくし、変更後の度数powerXを最終的な眼内レンズ度数として決定する(S17)。
【0041】
第1~第3計算式から得られる眼内レンズ度数及び予測屈折値の3つの組み合わせの態様を複数に分類したときに、ステップS17の態様をFタイプとする。Fタイプは、power1とpower2とが等しく、かつ、予測屈折値PR1、PR2が共に狙い値よりも遠視側の値を示す態様である。例えば、power1=18.0D、power2=18.0D、PR1=+0.1D、PR2=+0.1Dの場合に、Fタイプとなり、power1、2=18.0Dより1段階大きい18.5Dが最終的な眼内レンズ度数として決定される。
【0042】
なお、Fタイプの場合、第1計算式によって得られる、power1に対する予測屈折値PR1は0Dに最も近いプラスの値となるため、power1より1段階大きいpowerXに対する予測屈折値PR1‘はマイナスの値となる。また、第2計算式によって得られる、power2に対する予測屈折値PR2は0Dに最も近いプラスの値となるため、power2より1段階大きいpowerXに対する予測屈折値PR2‘はマイナスの値となる。このように、最終的な眼内レンズ度数Xに対する第1~第3計算式の3つの予測屈折値の過半数は狙い値(0D)よりも近視側の値(マイナスの値)を示す。
【0043】
図2のステップS4において、第1計算式の度数power1と、第2計算式の度数power2とが異なる場合には(S4:No)、図4のステップS18に移行する。ステップS18では、ステップS1で取得した眼形状パラメータ及び第3計算式に基づいて、術後の予測屈折値の絶対値が0D(狙い値)に最も近い眼内レンズ度数power3と、眼内レンズ度数power3に対する術後の予測屈折値PR3‘とを取得(演算)する(S18)。
【0044】
次に、3つの計算式から得られた予測屈折値PR1、PR2、PR3‘の過半数(つまり2以上)が狙い値(0D)よりも近視側の値(マイナスの値)を示していることを判断する(S19)。
【0045】
次に、予測屈折値がマイナスの値を示す度数power1、2、3のうち最も小さい度数を最終的な眼内レンズ度数として決定する(S20)。
【0046】
第1~第3計算式から得られる眼内レンズ度数及び予測屈折値の3つの組み合わせの態様を複数に分類したときに、ステップS20の態様をGタイプとする。Gタイプは、power1とpower2とが異なり、かつ、予測屈折値PR1、PR2、PR3‘の過半数が狙い値よりも近視側の値を示す態様である。例えば、power1=18.0D、power2=17.5D、power3=17.5D、PR1=-0.1D、PR2=-0.1D、PR3’=-0.02Dの場合に、Gタイプとなる。この場合、PR1、2、3‘の全てがマイナスの値となるため、power1、2、3のうち最も小さい度数である17.5Dが最終的な眼内レンズ度数として決定される。
【0047】
このように、図2図4の処理では、第1~第3計算式から得られる眼内レンズ度数及び予測屈折値の3つの組み合わせの態様が、複数に分類されたタイプ(A~Gタイプ)のうちのいずれに該当するのかを判断し、該当するタイプに応じた眼内レンズ度数を決定する。また、図2図4の処理では、第1~第3計算式から得られる3つの予測屈折値が狙い値に対して近視側の値か遠視側の値かの多数決(予測屈折値の符号の多数決)をとる。そして、その多数決の結果に基づいて、第1~第3計算式のうち特定の計算式(具体的には第1、第2計算式)で得られた当初の眼内レンズ度数を維持するか変更するかを判断する。具体的には、3つの予測屈折値の符号の多数派がマイナスの値の場合には、第1~第3計算式のうち特定の計算式(具体的には第1、第2計算式)で得られた当初の眼内レンズ度数を維持する。3つの予測屈折値の符号の多数派がプラスの値の場合(言い換えれば、3つの予測屈折値の符号の少数派がマイナスの値の場合)には、第1~第3計算式のうち特定の計算式(具体的には第1、第2計算式)で得られた当初の眼内レンズ度数を1段階大きくする。これによって、術後の実際の屈折値が狙い値よりも若干近視側の値となる確率を高くできる。
【0048】
また、A~Fタイプにおいて決定される最終的な眼内レンズ度数は、第1~第3計算式のうちの特定の計算式(具体的には第1、第2計算式)から得られる度数の中で、第1~第3計算式の3つの予測屈折値のうちの過半数が狙い値よりも近視側の値であることを満たす、狙い値に最も近い度数である。Gタイプにおいて決定される最終的な眼内レンズ度数は、第1~第3計算式の過半数で、狙い値に最も近い予測屈折値がマイナスの値を示すことを条件として、その過半数の計算式(狙い値に最も近い予測屈折値がマイナスの値を示す計算式)から得られる、狙い値に最も近い予測屈折値に対する度数のうちの最小の度数である。
【0049】
また、図2のステップS4では、第1~第3計算式のうちの特定の計算式(具体的には第1計算式)の、狙い値に最も近い予測屈折値PR1に対する度数power1が、残りの計算式の少なくとも1つ(具体的には第2計算式)の、狙い値に最も近い予測屈折値PR2に対する度数power2と同じであるかを判断する。ステップS4では、狙い値に最も近い予測屈折値に対する度数が、第1~第3計算式のうちの過半数で同じとなるかを判断することと同義である。そして、ステップS7、S10、S11、S15、S16、S17では、基準の度数power1、2に基づいて最終的な度数を決定するが、その基準の度数power1、2は、第1~第3計算式のうちの特定の計算式(具体的には第1計算式)と他の少なくとも1つの計算式(具体的には第2計算式)とで、又は第1~第3計算式のうちの過半数で、狙い値に最も近い値の予測屈折値に対する度数である。これによって、術後の実際の屈折値と狙い値との誤差が大きくなるのを抑制できる(誤差を小さくできる)。
【0050】
CPU3は、ステップS7、10、11、15、16、17、20にて最終的な眼内レンズ度数を決定した後、例えばその度数を表示部8に表示させる。これによって、術者に、表示部8に表示された度数の眼内レンズを選択させて、その眼内レンズを被術眼に挿入させることができる。
【0051】
なお、図2図4の処理において、ステップS1~S3、S8、S13、S18が本開示の取得ステップに相当する。ステップS1~S3、S8、S13、S18を実行する演算装置2(CPU3)が本開示の取得部に相当する。ステップS4~S7、S9~S12、S14~17、S19、S20が決定ステップに相当する。ステップS4~S7、S9~S12、S14~17、S19、S20を実行する演算装置2(CPU3)が決定部に相当する。ステップS7、S10、S15が第1決定ステップに相当する。ステップS7、S10、S15を実行する演算装置2(CPU3)が第1決定部に相当する。ステップS11、S16、S17が第2決定ステップに相当する。ステップS11、S16、S17を実行する演算装置2(CPU3)が第2決定部に相当する。ステップS20が第3決定ステップに相当する。ステップS20を実行する演算装置2(CPU3)が第3決定部に相当する。ステップS4が度数判断ステップに相当する。ステップS4を実行する演算装置2(CPU3)が度数判断部に相当する。ステップS5、S6、S9、S12、S14が屈折値判断ステップに相当する。ステップS5、S6、S9、S12、S14を実行する演算装置2(CPU3)が屈折値判断部に相当する。
【0052】
以上説明したように、本実施形態では、3つの計算式から得られる眼内レンズ度数及び予測屈折値の3つの組み合わせに基づいて、最終的な眼内レンズ度数を決定するので、単独の計算式で度数を決定する場合に比べて、術後屈折誤差を小さくできる。また、3つの計算式の1つが、術中の眼の屈折特性に基づいて、眼内レンズ度数及び術後の予測屈折値を計算するので、より正確な眼内レンズ度数及び術後の予測屈折値を得ることができ、その結果として、術後屈折誤差を小さくできる。また、多焦点眼内レンズを挿入する場合に、術後屈折値の狙い値を0Dとしつつ、狙い値よりも若干近視側の屈折値となる眼内レンズ度数を選択するので、術後に遠方を見やすくできるとともに、近見視力が悪化するのを抑制できる。
【0053】
ここで、図5は、実際の白内障手術において、図2図4の処理にしたがって眼内レンズ度数を決定したときの、術後3か月経過時の自覚屈折値の割合を示している。ここでは、自覚屈折値として、等価球面屈折値(SE:Spherical equivalent refraction)の割合を示している。図5の横軸は、術後屈折値(等価球面屈折値)を示している。なお、術後屈折値の狙い値は0Dなので、図5の横軸は術後屈折誤差でもある。図5の縦軸は、全サンプル数Nに対する、図5の横軸で示す各術後屈折値となった数の割合(%)を示している。サンプル数Nは145である。
【0054】
図5の事例では、術後屈折値が±0.13D以内に入った割合は全体の56%、±0.25D以内に入った割合は78%、±0.50D以内に入った割合は98%、±1.00D以内に入った割合は100%であり、±1.01D以上の例はなかった。また、上記A~Fタイプとなった例は145例中80例であった。そのうち、術後屈折値が±0.5D以内の割合は98~100%であった。また、Gタイプの例では、術後屈折値が±0.5D以内の割合は95%であった。このように、図2図4の処理で度数を決定することで、術後屈折誤差を小さくできることが分かった。
【0055】
なお、本開示は上記実施形態に限定されず種々の変更が可能である。例えば、上記実施形態では、3つの計算式を用いた例を示したが、4つ以上の計算式に基づいて眼内レンズ度数を決定してもよい。この場合、各計算式から得られる4つ以上の予測屈折値のうち過半数が狙い値よりも近視側の値を示し、かつ、狙い値に、より近い予測屈折値を示す眼内レンズ度数を決定すればよい。
【0056】
また、上記実施形態では、BUII式、術中波面収差計の計算式、及びSRK/T式を用いた例を示したが、Hill-RBF式、Kane式、Binkhorst式、Holladay式、Holladay2式、HofferQ式、Olsen式、Haigis式等の他の式を用いてもよい。
【0057】
また、上記実施形態では多焦点眼内レンズの度数を決定する例を示したが、単焦点眼内レンズの度数の決定に本開示の手法を適用してもよい。また、術後屈折値の狙い値は0D以外の値としてもよい。
【符号の説明】
【0058】
1 眼内レンズ度数決定システム
2 演算装置(眼内レンズ度数決定装置)
4 記憶部
5 プログラム
6、15 計算式
10 術前測定器
11 術中波面収差計
【要約】
【課題】眼内レンズ挿入後の眼全体の屈折値と狙い値との誤差を小さくできる眼内レンズ度数決定装置を提供する。
【解決手段】眼内レンズ度数決定装置としての演算装置2は、第1計算式に基づいて、術後の予測屈折値が0D(狙い値)に最も近い眼内レンズ度数power1を取得する。術中の眼の屈折特性を入力パラメータとした第2計算式に基づいて、術後の予測屈折値が0Dに最も近い眼内レンズ度数power2を取得する。度数power1、power2が等しいか否かを判断する。等しい場合には、第1、第2、第3計算式から得られる3つの予測屈折値の過半数がマイナスの値を示す否かに基づいて、度数power1、power2を維持するか変更するかを判断する。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5