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特許7291459動体視力および高次収差を改善するためのPRG4の使用
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  • 特許-動体視力および高次収差を改善するためのPRG4の使用 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-07
(45)【発行日】2023-06-15
(54)【発明の名称】動体視力および高次収差を改善するためのPRG4の使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/17 20060101AFI20230608BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20230608BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20230608BHJP
   A61K 47/04 20060101ALI20230608BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20230608BHJP
   A61K 47/24 20060101ALI20230608BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20230608BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20230608BHJP
【FI】
A61K38/17
A61K9/08
A61K47/02
A61K47/04
A61K47/12
A61K47/24
A61K47/36
A61P27/02
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2017559312
(86)(22)【出願日】2016-05-19
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2018-06-14
(86)【国際出願番号】 US2016033248
(87)【国際公開番号】W WO2016187414
(87)【国際公開日】2016-11-24
【審査請求日】2019-05-17
【審判番号】
【審判請求日】2021-06-16
(31)【優先権主張番号】62/163,753
(32)【優先日】2015-05-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】511282830
【氏名又は名称】ルブリス,エルエルシー.
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】サリヴァン,ベンジャミン,ディー.
(72)【発明者】
【氏名】トゥルイット,エドワード,アール.
【合議体】
【審判長】岡崎 美穂
【審判官】冨永 みどり
【審判官】原口 美和
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-519933(JP,A)
【文献】Frontiers in Dry Eye,2011,6,[1],p.22-29
【文献】社団法人日本眼科医会監修, 「点眼剤の適正使用 ハンドブック-Q&A-」,初版,(2011),p.1-20(https://www.rad-ar.or.jp/use/basis/pdf/megusuri02.pdf)
【文献】眼科,2011,Vol.53,No.11,p.1567-1574
【文献】JAMA OPTHALMOL,2013,Vol.131,No.6,p.766-776
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K38/00-38/58
A61P27/00
CAplus/REGISTRY(STN)
BIOSIS/MEDLINE/EMBASE(STN)
JSTPlus/JMEDPLus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト患者の片眼または両眼の角膜表面の不規則性に起因する視覚収差であって、視覚的ハロー、視覚的スターバースト、視覚的グレア、静止視力もしくは動体視力の損失、夜間視覚の低下、又は高次視覚収差からなる群から選択される視覚収差を処置するためのラブリシンを含む眼科的に許容可能な溶液であって、前記患者の片眼または両眼の表面上に、前記片眼または両眼の角膜表面全体にラブリシンの水和ゲル層を形成し、かつ前記視覚収差を軽減するのに十分な量の、前記眼科的に許容可能な溶液が付着される、溶液。
【請求項2】
前記視覚収差が、前記患者の片眼または両眼における視覚的ハローである、請求項1に記載の溶液。
【請求項3】
前記視覚収差が、前記患者の片眼または両眼における静止視力または動体視力の損失であり、前記患者の片眼または両眼の表面上に、前記片眼または両眼の角膜表面全体にラブリシンの膜を形成するのに十分な量の、前記眼科的に許容可能な溶液が付着される、請求項1に記載の溶液。
【請求項4】
前記視覚収差が、前記患者の片眼または両眼における視覚的スターバーストである、請求項1に記載の溶液。
【請求項5】
前記視覚収差が、前記患者の片眼または両眼における視覚的グレアまたは夜間視覚である、請求項1に記載の溶液。
【請求項6】
前記視覚収差が、前記患者の片眼または両眼における垂直プリズム、水平プリズム、乱視、焦点ぼけ、トレフォイル、垂直コマ、水平コマ、クアドラフォイル、2次乱視、球面収差、他のゼルニケ多項式により表現される収差、ミクロ収差、またはマクロ収差から選択される高次視覚収差である、請求項1に記載の溶液。
【請求項7】
白内障手術、生体内レーザー屈折矯正術(LASIK)、レーザー屈折矯正角膜切除術(PRK)、レーザー上皮細胞屈折矯正術(LASEK)、屈折レンズ交換(RLE)および老視レンズ交換(PRELEX)からなる群から選択される眼科手術を以前に受けたことがある患者の眼の表面に前記溶液が付着される、請求項1~6のいずれか一項に記載の溶液。
【請求項8】
ラブリシンが溶液滴として10~100マイクロリットルの体積を有する、請求項1~7のいずれか一項に記載の溶液。
【請求項9】
ラブリシンが溶液滴として15~30マイクロリットルの体積を有する、請求項1~7のいずれか一項に記載の溶液。
【請求項10】
ラブリシンが溶液として5μg/mL~5,000μg/mLの範囲内の濃度を有する、請求項1~7のいずれか一項に記載の溶液。
【請求項11】
ラブリシンが溶液として10μg/mL~300μg/mLの範囲内の濃度を有する、請求項1~7のいずれか一項に記載の溶液。
【請求項12】
ラブリシンが溶液として50μg/mL~200μg/mLの範囲内の濃度を有する、請求項1~7のいずれか一項に記載の溶液。
【請求項13】
溶液中のラブリシンがL-α-ジパルミトイルホスファチジルコリン、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミンおよびスフィンゴミエリンからなる群から選択される、眼科的に許容可能な界面活性リン脂質を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の溶液。
【請求項14】
溶液中のラブリシンが少なくともリン酸ナトリウムおよび塩化ナトリウムを含むリン酸緩衝生理食塩水を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の溶液。
【請求項15】
溶液中のラブリシンが塩化カリウム、重炭酸ナトリウム、重炭酸塩カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、クエン酸ナトリウム、塩酸、および水酸化ナトリウムからなる群から選択される1つまたは複数の電解質を含む眼科的に許容可能な平衡塩類溶液を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の溶液。
【請求項16】
眼科的に許容可能な溶液中のラブリシンがヒアルロン酸塩またはヒアルロン酸を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の溶液。
【請求項17】
前記溶液がドライアイ疾患と診断されていない患者の眼の表面上に付着される、請求項1~7のいずれか一項に記載の溶液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2015年5月19日に出願された米国仮特許出願第62/163,753号(その内容は参照によって本明細書中に援用される)への優先権およびその利益を主張する。
【0002】
発明の背景
本発明は、ラブリシンまたはPRG4の溶液を利用する新規の視覚治療に関する。より具体的には、本発明は、静止視力および動体視力を改善し、視覚ハローおよびスターバーストを低減し、グレアを低下させ、コマ、球面、またはトレフォイル(trefoil)収差を低下させ、夜間視覚を改善し、そして/あるいは涙膜を安定化して、まばたきの合間のその光学的レンズ機能の低下を防止または制限するための、ラブリシン含有点眼薬の使用に関する。
【背景技術】
【0003】
プロテオグリカン4(PRG4)遺伝子は、ラブリシンとして現在知られている高度にグリコシル化されたタンパク質をコードする。ラブリシンはJayらにより最初に滑膜線維芽細胞の発現産物として同定され、境界潤滑能力を有することが示された。その後、PRG4遺伝子のエクソン6によりコードされる940アミノ酸の大きい中心ムチン様ドメインからのO結合ベータ(1-3)Gal-GalNAcオリゴ糖ペンダントが、分子の境界潤滑能力に不可欠であるであることが示された。ラブリシンは、並列する関節軟骨表面の境界潤滑に寄与することが示されている。さらに最近、ラブリシンは、ドライアイ疾患の処置のために、その抗接着効果を利用して快適さを改善すると共に汚染されていない状態を保持するためのコンタクトレンズまたは眼内レンズのコーティングとして、そしてコンタクトレンズの洗浄または保存用の溶液の成分として、眼において有用であることが発見された。PRG4の機能は、これまでほぼ完全に、接合関節間の摩耗の防止と、例えば眼の表面と眼瞼の間など、相互作用をする組織の潤滑とに関連している。例えば、米国特許出願公開第2009/0068247号、米国特許出願公開第2010/0092452号、米国特許出願公開第2011/0059902号、米国特許出願公開第2011/0070222号、米国特許出願公開第2011/0142908号、および米国特許出願公開第2012/0321611号を参照されたい。
【0004】
視覚の低下または障害は、老化、外傷、刺激、および遺伝的特徴に関連する多数の未知の因子によって起こる。当然ながら、補正レンズの使用により日常的に非常に多くの視覚の改善が達成されており、ここ40年程の間は、種々の外科手技によってますます達成されている。生体内レーザー屈折矯正術(LASIK手術)は、角膜の中心部分にわたって外科的にフラップを作り、この上皮フラップの真下でレーザーを用いて角膜を再形成して、光が眼を通過する道を改善することを含む。再形成が完了したら、フラップを下ろして治癒させる。LASIKは下側の角膜実質を再形成するが、フラップからの任意の残存隆起が治癒と相互作用をすることを除いて上皮を変化させない。レーザー屈折矯正角膜切除術(PRK)は、軽度~中程度の近視、遠視、および/または乱視を補正するために使用される。PRK手術の間、角膜実質のエキシマーレーザーアブレーションの前に上皮は完全に削られて除去され、その後、再形成された角膜実質表面全体に上皮を成長させて元に戻す治癒期間が置かれる。レーザー上皮細胞屈折矯正術(LASEK)では、上皮フラップはアルコール溶液を用いて上皮細胞を緩めることによって作られ、角膜実質のエキシマー再形成の前にフラップを後方に引っ張り、次に治癒する間、ソフトコンタクトレンズを用いてフラップを再配置および固定する。白内障手術は、患者の濁った天然レンズを合成レンズで置き換えてレンズの透明度を回復させることを含む。屈折レンズ交換(RLE)は白内障手術と類似しており、角膜の縁部を小さく切開して眼の天然レンズを除去し、それをシリコーンまたはプラスチックレンズに取り換えることを含む。老視レンズ交換(PRELEX)は、老眼(眼のレンズがその柔軟性を失った状態である)を補正するために多焦点レンズが埋め込まれる手順である。
【0005】
上皮に起因する視覚障害もしくは収差、または涙膜によって起こる任意の光学的機能不全を補正するためのこれらの解決法はどれも視覚を完全に補正することは保証されない。むしろ、これらの手順はそれぞれ、上皮および涙膜が手術後に危険にさらされるという無視できないリスクを伴う。これらの外科的アプローチは全て限界がある、あるいは様々な頻度で有害な副作用がある。例えば、補正コンタクトレンズの着用者らは、1日のコンタクトレンズ着用後に、刺激ならびに視力および明瞭さの低下を報告することが多い。眼科手術の患者は、スターバースト、過剰なグレア、ならびに微光、低コントラスト、および特に夜間視覚の問題に悩まされ得る。1つの報告では、患者5人に1人の視力は、眼鏡で補正した手術前の視力よりもLASIK後に悪くなることが示唆される。ハローは、光の不明瞭な部分、または発光物体もしくは明るい物体の周囲に見える輪である。ハローは、光それ自体の周囲、またはその周囲と比べて明るい何らかの物体(例えば、夜間の譲れ標識または停止標識など)の周囲に存在し得る。ハローは、眼科手術の後に直面され得る他の収差(例えば、グレアおよびスターバーストなど)とは異なるが、これらは全て相関する傾向がある。1つの大規模なLASIK患者の遡及研究により、ハローは30%により、グレアは27%により、そしてスターバーストは25%によって報告されたことが分かった(Baileyら、2003年)。2000年~2012年にレーザー眼科手術を経験した医師の調査により、医師回答者が報告した手術後の有害作用:「グレア(43%)、ハロー(41%)、およびうす暗い所で見えにくい(35.2%)」が明らかにされた。Mamalis N., Laser vision correction among physicians: “the proof of the pudding is in the eating”. J Cataract Refract Surg. 2014 Mar;40(3):343-4。最新技術を用いたLASIKのFDA臨床試験に登録された患者の実に19%が、手術の6か月後に「夜間運転の困難」がより悪いまたは著しく悪いと報告した。患者は、白内障手術後の異常光視症(dysphotopsia)、および波面最適化LASIK後のコマ、球面、またはトレフォイル収差(まばたき間の期間の終わり頃に多い)に悩まされることが分かっている。一般的な高次収差には、垂直プリズム、水平プリズム、乱視、焦点ぼけ、トレフォイル、垂直コマ、水平コマ、クアドラフォイル(quadrafoil)、2次乱視、球面収差、または高次ゼルニケ多項式により表現される他の収差、ならびに全般的なミクロまたはマクロ収差が含まれる。これらの収差は一般的に、眼の点拡がり関数(point spread function)の広がりによって説明される。
【0006】
このような視覚障害は、角膜にわたって一貫性のない視覚補正、不安定な涙膜、種々の角膜上皮症、ドライアイ疾患、および角膜の膨張に一部は起因すると考えられる。瞳孔が開くにつれて、眼球表面の不規則さが眼球の開口部と重なると眼の光学的品質が悪化する。大きい瞳孔により、補正されない任意の屈折異常がより明らかになり、様々な収差が導入される。これは、ヘッドライトおよび街灯の周囲のグレアおよびハローの認知をもたらす。夜間のグレアおよびハローは、瞳孔が低光条件下でレーザー処置の領域を越えて開く場合、またはレーザーアブレーションが眼の上に不適切に集中される場合にも起こり得る。これらのいずれかが存在する場合、光は、処置された角膜と未処置の角膜との間の接合部で不規則に曲がり得る。ハローおよびコマ様効果ならびに他の収差は、特に、暗条件下で大きい瞳孔を有する患者において、夜間運転、コントラスト感度の低下、複視および不十分な読み能力に影響を与え、かつ妨害し得る。視力は、通常、一定の標準に従って所与の距離で文字または数を識別する能力によって測定される視覚の鮮明さとして定義される。動体視力は、特にまばたき間の期間にわたって像の安定性に関連する際に、これらの細部を経時的に識別する能力を指す。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明の概要
ラブリシンは、眼の最初のレンズ表面である涙膜の屈折率を平滑化および均一化することによって、そしてまばたきの合間の涙膜を安定化することよって、視覚の品質を改善できることが今発見された。ラブリシンと眼球表面との相互作用は、視覚の改善に寄与することができ、ラブリシンの機能をその周知の境界潤滑および機械特性を超えて拡大し、それを利用することができる新規の機構である。従って、ラブリシンは、角膜表面に対するその効果および涙膜の安定性の改善により視覚を改善するために治療に関連していくつかの新規の方法で使用され得る。ラブリシン点眼剤は、患者の視覚の品質に対して、静止視力および動体視力の改善、ハローおよびスターバーストの低減、グレアの低下、夜間視覚の改善、ならびに種々の高次収差(例えば、垂直プリズム、水平プリズム、乱視、焦点ぼけ、トレフォイル、垂直コマ、水平コマ、クアドラフォイル、2次乱視、球面収差、ならびにミクロおよびマクロ収差など)の低減または除去を含む多数の有益な効果を有する。ラブリシン点眼剤は、外科手技、眼外傷、眼刺激により生じたものであるか、視覚パラメータの自然劣化の結果であるかにかかわらず、これらの視覚収差のいずれかを患っている人によって使用され得る。この効果は、角膜表面の屈折率を均一化するため、かつ涙膜を安定化してまばたきの合間の期間におけるその光学的レンズ機能の低下を防止または制限するために十分な量で、ラブリシンを眼の表面に局所投与することによって達成される。
【0008】
従って、一実施形態では、本発明は、視覚的ハロー、視覚的スターバースト、視覚的グレア、静止視力もしくは動体視力の損失、または夜間視覚の低下などの視覚収差を患っている患者の処置方法を提供する。本方法は、患者の片眼または両眼の表面上に、片眼または両眼の角膜表面全体にラブリシンの膜を形成し、かつ視覚収差を軽減するのに十分な量のラブリシンを含む眼科的に許容可能な溶液を付着させるステップを含む。涙膜は、涙膜を安定化するため、その光学的レンズ機能の低下を防止または制限するため、あるいはその屈折率を安定化および均一化するために十分な厚さおよび質量であり得る。また本方法は、垂直プリズム、水平プリズム、乱視、焦点ぼけ、トレフォイル、垂直コマ、水平コマ、クアドラフォイル、2次乱視、球面収差、ミクロおよびマクロ収差、またはゼルニケ多項式により表現される他の収差などの高次視覚収差を患っている患者を処置するためにも使用され得る。また本方法は、片眼または両眼の角膜表面全体にラブリシンの膜を形成するため、かつ時間的に変化する視覚収差を軽減するために十分な量の眼科的に許容可能なラブリシン溶液を片方または両方の表面上に付着させることによって、この場合、不安定な視覚、特に、まばたきの合間に時間と共に高次収差が増大する不安定な視覚を処置することもできる。本発明は、これらの収差を患っており、白内障手術、生体内レーザー屈折矯正(LASIK)、レーザー屈折矯正角膜切除術(PRK)、レーザー上皮細胞屈折矯正術(LASEK)、屈折レンズ交換(RLE)および老視レンズ交換(PRELEX)などの眼科手術を以前に受けたことがある患者の処置を可能にする。
【0009】
好ましい実施形態では、本方法は、10~100マイクロリットル、好ましくは15~30マイクロリットルの体積を有する1滴または複数滴の溶液としてラブリシンを付着させることを含む。
【0010】
好ましい実施形態では、本方法は、5μg/mL~5,000μg/mL、10μg/mL~300μg/mL、または50μg/mL~200μg/mLの範囲内の濃度を有する溶液としてラブリシンを付着させることを含む。またラブリシン溶液は、眼科的に許容可能な界面活性リン脂質、例えば、L-α-ジパルミトイルホスファチジルコリン、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミンおよびスフィンゴミエリンなど、少なくともリン酸ナトリウムおよび塩化ナトリウムを含むリン酸緩衝生理食塩水、1つまたは複数の電解質(例えば、塩化カリウム、重炭酸ナトリウム、重炭酸塩カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、クエン酸ナトリウム、塩酸、および水酸化ナトリウムなど)を含む眼科的に許容可能な平衡塩類溶液も含み得る。またラブリシン溶液は、ヒアルロン酸塩またはヒアルロン酸も含み得る。
【0011】
1つの態様では、本方法は、ドライアイ疾患と診断されていない患者において実施される。
【0012】
別の態様では、本発明は、視覚的ハロー、視覚的スターバースト、視覚的グレア、静止視力もしくは動体視力の損失、夜間視覚の低下、または全体的もしくは部分的に涙膜の欠損によって生じる高次視覚収差を患っている患者のヒトの眼に局所適用するための薬剤を調製するためのラブリシン糖タンパク質を提供する。
【0013】
ラブリシンの抗接着特性は適切な治癒を妨げ得るので、ラブリシン点眼剤は、まだ開いているか治癒していない角膜または他の創傷(例えば、新しいLASIK切開またはPRK研削(abradement)など)を抱えている眼科手術患者には禁忌であり得る。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図面の簡単な説明
図1図1A~Cは不規則かつ不安定な眼球表面膜が視覚に与える効果の説明であり、入ってくる平行光線の焦点に対する可変涙膜の影響によって表される。図1Aは、第1のまばたきの後の焦点を表す。図1Bは、不安定な涙膜の変化によって生じる、第2のまばたき後の異なる焦点を表す。図1Cは、視覚を改善し、かつ高次収差を除去するために、眼球表面の涙膜の屈折率を均一化し、かつそれを経時的に安定化する、局所適用されたラブリシンの効果を表す。
図2】分泌シグナル(翻訳後プロセシングの間に除去される最初の24のアミノ酸)を示す、全長ラブリシンアミノ酸配列である。
図3-1】ラブリシンをコードする全長ヒトDNAである。
図3-2】ラブリシンをコードする全長ヒトDNAである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
発明の詳細な説明
ヒトの眼の上の膜、すなわち涙膜は、露出された眼球表面を被覆する流体を含む。涙膜は、眼および視覚系の健康および正常機能に不可欠である。最近の研究では、涙膜は、脂質で被覆された涙の水性本体内に配置されたムチンのネットワークを含むことが示唆される。涙系の種々の成分は高度に相互に依存しており、従って、量または質の任意の異常は系内の不均衡を引き起こして、視覚に影響を与え得る。光は角膜およびより深部の後方眼構造に到達する前に涙膜を通過しなければならないので、涙膜が眼の「第1のレンズ」の役割を果たすことは認識され得る。
【0016】
本発明は、ラブリシンを眼の表面に付着させて涙膜の光透過特性に良い影響を与えることによって、患者が患っている視覚異常を軽減する方法を提供する。束縛されることは望まないが、要約すると、ラブリシンは、可視光(数百nm)の回折限界を超えて水和層を拡張する親水性ポリマーブラシのネットワークを形成することにより、涙膜を安定化し(レンズに経時的一貫性を提供する)、眼球表面の屈折率を均一化する(レンズに空間的一貫性を提供する)ことによって視覚を改善する働きをすることが仮定される。
【0017】
ラブリシンおよび眼球表面
涙膜は、眼における空気と水の間の第1の屈折界面である。涙膜は、一般に、厚さおよそ50nmの外側脂質層と、およそ1~8μmの時間依存性の様々な推定値を有する中間水層と、約129ナノメートルと推定される高さで角膜表面上にある(細胞間の表面高さの差異を含む、約500ナノメートルの95%信頼区間範囲を有する)、グリコカリックスが豊富な微皺襞(microplicae)および微絨毛(microvilli)を含む上皮界面層とを含むと考えられる(King-Smith et al., Invest Ophthalmol Vis Sci., 2014, Apr 21; 55(4):2614-8)。垂直入射光の場合、Harvey JEら(Optical Engineering 2012, 51(1): 013402; 1-11)により記載される全反射放射べき関数(total reflected radiant power function)は1-exp(-(4πσ/λ)^2)であり、式中、σは表面のRMS粗さであり、λは光の波長である。付加的な近似である平滑さのレイリー基準は、粗さの標準偏差がh<λ/(8cosθ)(式中、シータは入射角)であれば、表面が平滑であると考え得ることを示唆する。角膜の表面粗さがおよそ可視光の波長であると、グリコカリックスの損失または表面上皮細胞の損失(真下にある未熟な疎水性のグリコカリックス欠乏性基底細胞を露出させる)は、不規則な眼球表面、およびこれらの近似の両方における散乱の著しい増大の一因になるであろう。
【0018】
束縛されることは望まないが、以下は、本発明者らがラブリシンの視覚改善特性の説明であると提唱するものである。直接は測定されないが、グリコカリックスは角膜上皮よりも高い屈折率を有し、他の層と比較して優先的に光を曲げることができるという推測がある。注目すべきは、レンズの焦点距離(f)がその屈折率(n)および曲率によって決定されることであり、ここで、1/f=(n-1)(1/R1-1/R2)であり、R1およびR2は曲率の長半径および短半径を表す。半径または屈折率の局所的な変化は焦点距離を変化させ、準最適な焦点の変更を起こすであろう。さらに、涙膜は、特に危険にさらされる場合は動的システムである。蒸発は涙膜の動力学への一定入力なので、まばたきの合間に眼が開かれたままであると厚さが変化する。薄膜の崩壊および臨界蒸発が不快に高いオスモル濃度を引き起こし、それが回復性のまばたきを引き起こす前に、健常者は、通常10秒間をはるかに超えて20秒間までその眼を開いたままにすることができる。まばたきの後、上眼瞼は、下側涙メニスカスから親水性角膜表面上に十分な流体を引き出し、恒常的な濃度で明白な平滑光学レンズを再形成する。涙膜が不安定になっている、または角膜表面が危険にさらされている条件下では、時にはまばたき後に瞬時に、涙膜の厚さおよび連続性は急速に低下する。これは、眼疾患の自然な進行(炎症または摩擦がグリコカリックス欠乏性の高浸透圧性角膜上皮症を引き起こす)として、あるいは屈折矯正手術または白内障手術(眼球表面への切開が眼球表面に瘢痕または不規則な治癒パターンを誘導する)の後に起こり得る。これらの状況では、通常は安定している頑強な涙膜は準安定系またはカオス系になり、空間的および時間的に予測できない光学レンズがもたらされる。これらの状態にある人は、その網膜上に投影される像がまばたきごとに異なって見えることになり、苛立たしい可変焦点が引き起こされる。補償するために、これらの人は安定した像を探すので、多くの場合まばたき率を増大させる。また崩壊は眼球表面にわたって異方性であることがあり、その結果起こる不規則性は動的に変化する著しい収差をもたらす。さらに、特定の持続性高次収差(HOA)は手術後の不完全または不規則な治癒の後に現れ、これは、角膜表面上のわずかに隆起した特徴または小さい欠陥に起因する。これらの収差は、瞳孔が開いてより多くの光が眼の中に入れるようになる夜間に悪化されることが多く、任意の手術後の角膜の粗さはレンズ系の一部になる。さらに、ゼルニケ固有ベクトルにより分類されない多くのミクロ収差(約0.5~1mm未満のサイズ)も不十分な光学的品質の一因となり得る。
【0019】
本明細書で開示される本発明の現在の方法は、涙膜から生じるか角膜表面の不規則性から生じるかにかかわらず、低次収差(LOA)、高次収差(HOA)および超高次収差、ならびにマクロおよびミクロ収差と、その時間依存性の構成要素とに、ある程度まで対処する。本方法によると、眼球表面はラブリシンにさらされ、ラブリシンは角膜および結膜に非共有結合して、比較的安定した焦点距離を有する規則的で平滑な光学レンズを形成する。
【0020】
従って、本発明は視覚の安定性を改善するための方法を提供する。本方法によると、機能不全の涙膜を有する眼球表面はラブリシンにさらされ、ラブリシンは角膜に結合して、規則的で平滑な親水性表面を形成し、これにより、涙膜の菲薄化率が著しく改善されると共に、崩壊時間が増大され、従って、被験者はまばたき率を低減し、まばたき間の期間中に高品質の網膜像を保持することができる。ラブリシンは眼球表面の疎水性の基底細胞および剥離した成熟上皮細胞に結合し、連続した均一の屈折率を有する水和ゲル層を形成し、それにより、散乱および他の収差が低減されると考えられる。ラブリシンの付着はアンカーの役割を果たし、上皮の表面から涙膜の水層内へ延在するムチンおよび糖タンパク質の拡散ネットワークを形成し、その深さは、まばたきの合間のせん断応力およびネットワーク内の付着力の平衡によって大きく支配される。従って、このプロテオグリカンマトリックスは眼球表面上の欠損を埋めて、脱水した基底上皮よりもはるかに優れた平滑性を有する均一な光学レンズを形成し得る。より深い支持がある部分、例えば、アポトーシス表面細胞の剥離によって露出される未熟な基底上皮細胞上では、まばたきのせん断応力が半径方向に最も遠位の分子をネットワークから引き出し、それが他の場所の孔を再建および補充することが可能になるまで、十分なラブリシンおよび他の糖タンパク質が蓄積してバルク涙膜内に到達することができる。せん断力は眼瞼から角膜表面まで徐々に拡張するはずなので、より深い層は、これらの深さにおけるせん断の相対的な欠如のためにより多くのラブリシンを蓄積するであろう。
【0021】
いずれにしても、眼の表面への十分なラブリシンの適用は、眼球表面および涙膜の一時的または長期的な破壊に帰することができる異常な光学的効果を本質的に即時に改善するという効果を有することが観察された。これらの効果には、静止視力および動体視力(または空間および時間に関する視覚の明瞭さ)の改善、夜間視覚の改善、視野内の相対的に明るい物体周囲のハローおよびスターバーストのサイズや強度の低下またはこれらの除去、グレアの認知の低減、ならびに種々の高次収差(例えば、垂直プリズム、水平プリズム、乱視、焦点ぼけ、トレフォイル、垂直コマ、水平コマ、クアドラフォイル、2次乱視、および球面収差など)の低減または除去が含まれる。これらの有益な効果は、単に、眼の膜を修復または補充するのに十分なラブリシン糖タンパク質を眼の表面に付着させる(通常、溶液を広げるためにその後にまばたきを行なう)ことによって、これらを患っている適切な患者において達成される。これは、患者に応じて、片眼当たりわずか約200ngのラブリシン、恐らく最大で片眼当たり3μgのラブリシンを必要とすると考えられる。ただ1滴の溶液、恐らく15~30μLの約150μg/mL濃度のラブリシンを付着させると優れた結果が達成された(溶液中のタンパク質が少なくとも90%の組換えヒトラブリシンである場合に、A280nmにおけるUV吸光度アッセイにより測定)。一般に、約15~25μg/mLのラブリシンを含むただ1滴の溶液により有益な効果は明らかであり、恐らく200μg/mLのラブリシン濃度を含む1滴により有益な効果は飽和すると考えられる。
【0022】
簡単な試験により、人は本発明の特徴である視覚の改善を容易に検出することができる。一例の手順は、志願者がハローまたはスターバースト、過剰なグレア、または他の眼の膜に関する視覚障害を有するシーンを見る場合である。1滴のラブリシンが片方の裸眼に入れられ、患者は5回まばたきをしてから、処置した眼と未処置の眼の間で視覚を比較する。これらの障害を患っているほとんどの人は、視覚的なアーチファクトの低減、あるいは時には消失を即時に気付くことができる。
【0023】
視力について、簡単な試験では、印刷された文字がエッジにおいて明確であるかまたはその人にとって読みやすいように眼から十分に離れた場所:言い換えると、シートを少し近くに動かすと試験患者が印刷を読むことができ、シートを少し遠くに動かすと印刷が不明瞭で読めない、または辛うじて読めるような位置に、任意の印刷物シートを置く(眼鏡の有無にかかわらず、通常は日光の下、または人工光の下の室内)。次に、患者は、ラブリシンを含有する点眼薬を裸眼に適用し、5回まばたきをしてから、この「明確なエッジ」位置に保持されたシートを再度見つめる。この試験を受ける本質的に全ての志願者は、即時に、印刷が読みやすくなること、およびラブリシンの適用後にその視覚が鋭くなることを報告する。多くの場合、ラブリシンで処置した眼から未処置の眼へ視覚を比較することによって、効果をより気付きやすくすることができる。同様に、例えば眼科手術(例えば、LASIK、白内障手術など)の副作用としてハロー効果を患っている人は、1滴または複数滴のラブリシンを片眼または両眼に自己投与した後、ハローの低減または消失を報告する。実際に、志願者は、ラブリシンの局所滴下の後、標準解像度テレビから高解像度のテレビへの変化に匹敵する視覚の改善を報告する。
【0024】
従って、疲れた眼、炎症のある眼を有する患者、例えば、長期間コンタクトレンズを着用し、不安定な涙膜および短くなった崩壊時間を患っている患者、不十分な夜間視覚、スターバースト、またはハロー、または高次異常を患っている患者は、本発明に従って、適切なラブリシン点眼薬のアプリケータを携行し、症状を緩和するために必要に応じていずれかの眼に1滴を適用することができる。
【0025】
ラブリシン
ラブリシンは現在よく知られている。その全長アミノ酸配列(太字は分泌シグナル)は、図2に示される(NCBI受入番号AK131434およびU70136)。これをコードするヒト遺伝子は、図3に示される。ラブリシンは、PRG4としても知られている巨核球刺激因子(MSF)遺伝子から発現される、表面潤滑特性を有するポリペプチドである。調査した全ての哺乳類におけるその天然型は、配列KEPAPTT(配列番号3)と少なくとも50%同一のアミノ酸配列の多数の繰り返しを含有する。天然ラブリシンは通常この繰り返しの多数の重複型を含むが、通常プロリンおよびスレオニン残基を常に含み、一部、殆ど、または全ての繰り返しにおいて少なくとも1つのスレオニンがグリコシル化されている。スレオニンに固定されたO結合糖側鎖は、ラブリシンの境界潤滑機能のために不可欠である。側鎖部分は通常、β-(1-3)-Gal-GalNac部分である。任意選択的に、β-(1-3)-Gal-GalNacは、シアル酸またはN-アセチルノイラミン酸またはNeuAcによりキャッピングされる。またポリペプチドは通常N結合オリゴ糖も含む。そのグリコシル化の程度およびパターンが個々のラブリシン分子で異なるという点で、ラブリシンは多分散系である。
【0026】
ラブリシンのタンパク質骨格のアミノ酸配列は、ヒトMSF遺伝子のエクソンの選択的スプライシングに応じて異なり得る。不均一性に対するこの頑強性は、研究者らが中心ムチンドメインから474アミノ酸がなくなったラブリシンの組換え型を作り、またさらに妥当な(弱められたが)潤滑を達成したときに例証された(Flannery et al., Arthritis Rheum 2009; 60(3):840-7)。PRG4は、モノマーとしてだけでなく、システインが豊富な保存ドメインを通してN末端およびC末端の両方でジスルフィド結合されたダイマーおよびマルチマーとしても存在することが示されている。Lubris, LLCは、ヒトラブリシンの全長組換え型を開発した。分子はSelexisチャイニーズハムスター卵巣細胞株(CHO-M)を用いて発現され、最終的な見かけの分子量は450~600kDaであり、多分散系マルチマーは2,000kDa以上で測定することが多い(全て、SDSにおける分子量標準のトリス酢酸3~8%ポリアクリルアミドゲルと比較して推定)。全部のグリコシル化のうち、分子の約半分は2つの糖単位(GalNAc-Gal)を含有し、半分は3つの糖単位(GalNAc-Gal-シアル酸)を含有する。この組換えヒトPRG4の産生方法は国際公開第2015/061488号において提供され、その開示は、参照によって本明細書中に援用される。
【0027】
全ての有用な分子は、エクソン6によりコードされる配列、またはその相同体もしくは切断型、例えば、O結合グリコシル化と共にこの中心ムチン様KEPAPTT繰り返しドメイン(配列番号3)内のより少ない繰り返しを有する型を含む。また全ての有用な分子は、エクソン1~5および7~12によりコードされる配列、すなわち細胞外マトリックスおよび内皮表面に対するその親和性を分子に付与することに関与する配列の少なくとも生物学的に活性な部分を含む。特定の実施形態では、ラブリシンタンパク質は50kDa~500kDa、好ましくは224~467kDaの平均モル質量を有し、PRG4タンパク質の1つまたは複数の生物学的活性部分、またはその機能性断片(例えば、潤滑断片など)、またはその相同体を含む。より好ましい実施形態では、PRG4タンパク質は、220kDa~約280kDaの平均モル質量のモノマーを含む。
【0028】
天然源からのラブリシンの単離、その精製、およびその組換え発現のための方法は当該技術分野においてよく知られている。国際公開第2015/061488号において開示されるように、組換え産生方法は、PCRまたはRT-PCRなどの標準的な分子生物学技術を用いて、PRG4タンパク質またはアイソフォームをコードするmRNAおよびcDNAのクローニングおよび単離することから始まる。PRG4タンパク質またはアイソフォームをコードする単離されたcDNAは次に、発現ベクター、好ましくはCHO-Mにクローニングされ、組換えPRG4タンパク質を産生するために宿主細胞においてさらに形質転換および発現される。精製は、宿主細胞タンパク質を効果的に除去し、凝集を阻害し、ウィルスおよび他の汚染物質を除去する最も効率的なプロトコルを開発するために経験的な実験を含む。
【0029】
種々の天然および組換えPRG4タンパク質およびアイソフォームの任意の1つまたは複数が本明細書中に記載される方法において使用され得る。例えば、米国特許第6,433,142号、米国特許第6,743,774号、米国特許第6,960,562号、米国特許第7,030,223号、および米国特許第7,361,738号は、ヒトPRG4発現産物の種々の形態の作り方を開示する(これらはそれぞれ、参照によって本明細書中に援用される)。本発明の実施において使用するのに好ましいのは、上記のPCT出願で開示されるように、CHO-M細胞から発現される全長の頑強にグリコシル化された組換えラブリシンである。このタンパク質は、O結合β(1-3)Gal-GalNAcオリゴ糖で様々にグリコシル化された配列KEPAPTT(配列番号3)の繰り返しを含む中心エクソンを含むと共に、ビトロネクチンに対する相同性を有するN末端およびC末端配列を含む1404のアミノ酸を含む。その配列は図2に開示される。分子は、個々の分子のグリコシル化パターンが様々である多分散系であり、モノマー、ダイマー、およびマルチマー種を含むことができる。
【0030】
ラブリシン点眼製剤
眼球表面への局所適用に適した点眼薬は、眼科的に許容可能な平衡塩類溶液、例えばリン酸緩衝生理食塩水中に配置された治療的に有効な濃度のPRG4タンパク質を含む。眼科的に許容可能な組成物は、適用したときに許容できない眼毒性、焼けるような感覚(burning)、かゆみ、粘度などがなければ、眼球表面への局所適用に適していると考えられる。ラブリシンの濃度は、数マイクログラム/ミリリットルから200または300マイクログラム/ミリリットルまで大きく異なり得る。より薄い溶液によって、患者は、複数の液滴を添加することにより彼または彼女の視覚異常に適合するように治療用量を設定できるようになる。
【0031】
特定の実施形態では、本発明で使用される点眼薬は、眼科的に許容可能な粘滑剤、賦形剤、収斂剤、血管収縮剤、または皮膚軟化剤などの1つまたは複数の任意選択的な成分も含み得る。本発明の方法で使用される水性ラブリシン糖タンパク質溶液は任意選択的にさらに、治療的に有効な濃度の1つまたは複数の付加的な治療薬(例えば、ヒアルロン酸ナトリウム、ヒアルロン酸、および/またはリン脂質を含む)を含み得る。例示的なリン脂質には、L-α-ジパルミトイルホスファチジルコリン、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミンおよびスフィンゴミエリンが含まれる。ラブリシンは通常、例えば、塩化ナトリウム(NaCl)0.64%、塩化カリウム(KCl)0.075%、塩化カルシウム二水和物(CaCl.2HO)0.048%、塩化マグネシウム六水和物(MgCl.6HO)0.03%、酢酸ナトリウム三水和物(CNaO.3H2O)0.39%、クエン酸ナトリウム二水和物(CNa.2HO)0.17%、および水酸化ナトリウムを含む少なくとも3つの電解質、ならびに/または塩酸(pHを約7.5に調整するため)を含み、約300mOsms/Lのオスモル濃度を有する眼科的に許容可能な平衡塩類溶液中に溶解される。他の実施形態では、水性媒体は、128mMのナトリウム、24mMのカリウム、約113mMの塩化物、約0.4mMのカルシウム、約0.3mMのマグネシウム、約5mMのHCO3、約1mMのクエン酸塩、約14mMのリン酸塩、約15mMの酢酸塩、ならびにpHを約7.5に調整するのに十分な水酸化ナトリウムおよび/または塩酸を含むことができ、オスモル濃度は約200~300mOsm/Lである。
【0032】
他の実施形態は以下の特許請求の範囲に含まれる。
図1
図2
図3-1】
図3-2】
【配列表】
0007291459000001.app