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7291460放射線硬化型インク、積層物、放射線硬化型インクの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-07
(45)【発行日】2023-06-15
(54)【発明の名称】放射線硬化型インク、積層物、放射線硬化型インクの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/101 20140101AFI20230608BHJP
   C09D 11/30 20140101ALI20230608BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20230608BHJP
   B41M 5/00 20060101ALN20230608BHJP
【FI】
C09D11/101
C09D11/30
B41J2/01 501
B41J2/01 129
B41M5/00 120
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018019984
(22)【出願日】2018-02-07
(65)【公開番号】P2019137735
(43)【公開日】2019-08-22
【審査請求日】2020-09-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000137823
【氏名又は名称】株式会社ミマキエンジニアリング
(74)【代理人】
【識別番号】100104329
【弁理士】
【氏名又は名称】原田 卓治
(74)【代理人】
【識別番号】100134599
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 和之
(74)【代理人】
【識別番号】100177149
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 浩義
(72)【発明者】
【氏名】小原 一樹
(72)【発明者】
【氏名】橋詰 博徳
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 治
【審査官】川嶋 宏毅
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-069571(JP,A)
【文献】特開2005-343816(JP,A)
【文献】国際公開第2015/115600(WO,A1)
【文献】特開2017-105902(JP,A)
【文献】特開2013-163740(JP,A)
【文献】特開2017-119770(JP,A)
【文献】特開2014-218545(JP,A)
【文献】特開2005-162882(JP,A)
【文献】特開平05-287036(JP,A)
【文献】特開2005-154543(JP,A)
【文献】特開2015-014009(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/00
B41J 2/01
B41M 5/00
B32B 27/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘテロ原子が酸素原子である複素環構造を有する単官能重合性化合物(β)と、
脂環構造を有する多官能重合性化合物(γ)と、
ビシクロ以上の環状構造を有しない多官能重合性化合物(Ζ)と、
開始剤と、を含有する放射線硬化型インクであって、
前記単官能重合性化合物(β)は式(β1)で示される環状トリメチロールプロパンホルマールアクリレート(CTFA)であり
前記多官能重合性化合物(Ζ)が、アルキレンオキサイド付加物であり、且つ式(Ζ1)で示されるトリメチロールプロパントリアクリレート及び式(Z2)で示されるペンタエリスリトールトリアクリレートから選ばれる少なくとも1つであり、
前記開始剤は、式(I)で示されるアシルフォスフィンオキサイド系開始剤であり、
前記単官能重合性化合物(β)の前記放射線硬化型インク中の含有率が40質量%以上60質量%以下であり、
前記脂環構造を有する多官能重合性化合物(γ)の含有率が10質量%以上30質量%以下であり、
前記多官能重合性化合物(Ζ)の含有率が5質量%以上17質量%以下である、放射線硬化型インク。
【化1】
【化2】
(nは、1以上の整数を表す。)
【化3】
【化4】
(Ri1、Ri2、及びRi3は、それぞれ独立して、アルコキシル基、アルキル基、フェニル基又は2,4,6-トリメチルフェニル基を表す。)
【請求項2】
前記単官能重合性化合物は、単官能(メタ)アクリレートであり、前記多官能重合性化合物は、多官能(メタ)アクリレートである、請求項1に記載の放射線硬化型インク。
【請求項3】
前記多官能重合性化合物(γ)の脂環構造は、橋かけ環炭化水素構造であり、
前記多官能重合性化合物(γ)は、式(γ1)で示されるトリシクロデカンジメタノールジアクリレート(TCDDA)である、請求項1又は2に記載の放射線硬化型インク。
【化5】
【請求項4】
前記多官能重合性化合物(γ)の脂環構造は、スピロ炭化水素構造であり、
前記多官能重合性化合物(γ)は、式(γ2)で示されるスピログリコールジアクリレートである、請求項1又は2に記載の放射線硬化型インク。
【化6】
【請求項5】
更に、前記開始剤として、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニル-フォスフィンオキサイドおよび/または2,4-ジエチルチオキサンテン-9-オンを含有する、請求項1からのいずれか1項に記載の放射線硬化型インク。
【請求項6】
インクジェット用である、請求項1からのいずれか1項に記載の放射線硬化型インク。
【請求項7】
基材と、
前記基材上に、請求項1からのいずれか1項に記載の放射線硬化型インクが硬化してなるインク層と、を備える積層物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線硬化型インク、積層物、及び放射線硬化型インクの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット方式用のインクとして、放射線硬化型のインクがある。このインクを用いた印刷物の制作では、記録媒体上にインクを吐出してインク層を形成し、そのインク層に紫外線等の放射線を照射してインク層を硬化する。一般的に、インクジェット方式用放射線硬化型インクは、顔料を分散又は溶解する溶媒として揮発性溶液の代わりに硬化させる重合性化合物を用いることができるため、出力時に溶液の乾燥を要せず、印刷物の制作納期の大幅な短縮を実現できる。また、放射線硬化型インクを用いると、樹脂、ガラス、金属など非吸収性の多様なメディアにも印刷することが可能である。
【0003】
また、インクジェット方式用の放射線硬化型インクは、更に性能を向上させるため、様々な検討が行われている。
【0004】
例えば、特許文献1には、柔軟性、伸張耐久性、耐擦性および耐候性に優れることを課題とする、放射線硬化型インクとして、(A)反応成分中に20質量%以上65質量%以下のホモポリマーのガラス転移点が0℃以下のアクリレートモノマーと、(B)脂環式構造を有する単官能アクリレートと、(C)反応成分中に10質量%以上20質量%以下の脂環式構造を有する多官能アクリレートと、を含有する組成物が開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、許容できる粘着性及び硬化速度を有し、印刷段階及びエンドユーザーによって使用される際に共に低臭気であることを課題とする、放射線硬化型ジェットインクとして、少なくとも50重量%の環状トリメチロールプロパンホルマールアクリレート(CTFA)と、3重量%以下の少なくとも1つの2官能以上のモノマーと、5重量%未満の高Tgモノマーと、フリーラジカル光開始剤とを含み、揮発性有機化合物および可塑剤をほとんど含まないインクが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第5800122号公報
【文献】特開2015-14009号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1や特許文献2に記載の放射線硬化型インクは、硬度、硬化性、臭気、安全性、強靱性の特性のうち優れる点があるものの、いずれかの特性について改善の余地がある。また、これらの特性のうち、硬度と強靱性は、通常、トレードオフ関係にあり、両方の特性に優れたインクジェット方式用の放射線硬化型インクは存在していなかった。
【0008】
従って、本願発明の課題は、臭気が少なく、硬化性に優れ、硬度及び強靱性が優れた印刷物が得られうる放射線硬化型インクを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題に鑑みて検討を行い、極性があり嵩高い特定の単官能重合性化合物と、嵩高い特定の脂環構造を有する多官能重合性化合物を用いて放射線硬化型インクを調製し、インクジェット方式等の方式で印刷物を制作したところ、驚くべき事に、硬化性、安全性、印刷物の硬度、強靱性といった性能が優れつつ、更に臭気が少ないという、これまでに得られたことのない優れた特性を備えた放射線硬化型インクが得られることを見出した。本発明者らは、この知見を基に更に検討を行い、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、前述の課題を解決するため、本発明の第一の観点に係る放射線硬化型インクは、ヘテロ原子が酸素原子である複素環構造を有する単官能重合性化合物(β)と、
脂環構造を有する多官能重合性化合物(γ)と、を含有する。
【0011】
以上の構成の放射線硬化型インクは、臭気が少なく、硬化性に優れ、硬度及び強靱性が優れた印刷物が得られうる。
【0012】
前記放射線硬化型インクは、更に、ビシクロ以上の環状構造を有しない多官能重合性化合物(Ζ)を含有する、と好ましい。
【0013】
この構成により、印刷物の硬度及び強靱性がより優れる。
【0014】
前記単官能重合性化合物は、単官能(メタ)アクリレートであり、前記多官能重合性化合物は、多官能(メタ)アクリレートである、と好ましい。
【0015】
この構成により、放射線硬化型インクの硬化性がより優れる。
【0016】
前記単官能重合性化合物(β)は、式(β1)で示される環状トリメチロールプロパンホルマールアクリレート(CTFA)である、と好ましい。
【化1】
【0017】
この構成により、印刷物の臭気、安全性の点でより優れる。
【0018】
前記多官能重合性化合物(γ)の脂環構造は、橋かけ環炭化水素構造又はスピロ炭化水素構造である、と好ましい。
【0019】
この構成により、印刷物の硬度及び強靱性がより優れる。
【0020】
前記多官能重合性化合物(γ)は、式(γ1)で示されるトリシクロデカンジメタノールジアクリレート(TCDDA)、又は式(γ2)で示されるスピログリコールジアクリレートである、と好ましい。
【化2】
【化3】
【0021】
この構成により、印刷物の硬度及び強靱性がより優れる。
【0022】
前記多官能重合性化合物(Ζ)が、アルキレンオキサイド付加物である、と好ましい。
【0023】
この構成により、印刷物の硬度及び強靱性がより優れる。
【0024】
前記多官能重合性化合物(Ζ)が、式(Ζ1)で示されるトリメチロールプロパントリアクリレート及び式(Z2)で示されるペンタエリスリトールトリアクリレートから選ばれる少なくとも1つである、と好ましい。
【化4】
(nは、1以上の整数を表す。)
【化5】
【0025】
この構成により、印刷物の硬度及び強靱性がより優れる。
【0026】
前記放射線硬化型インク中の前記単官能重合性化合物(β)の含有率が20質量%以上80質量%以下であり、
前記放射線硬化型インク中の前記多官能重合性化合物(Ζ)の含有率が1質量%以上50質量%以下である、と好ましい。
【0027】
この構成により、印刷物の硬度及び強靱性がより優れる。
【0028】
前記放射線硬化型インクは、更に、開始剤を含み、前記開始剤は、式(I)で示されるアシルフォスフィンオキサイド系開始剤である、と好ましい。
【化6】
(ここで、Ri1、Ri2、及びRi3は、それぞれ独立して、アルコキシル基、又は置換基を有する若しくは有さない炭化水素基を表す。)
【0029】
この構成により、放射線硬化型インクの硬化性がより優れる。
【0030】
前記放射線硬化型インクは、インクジェット用に好適である。
【0031】
このインクジェット用放射線硬化型インクは、着色剤の分散・溶解性に優れ、粘度が適度であり、インク飛翔時における臭気が少なく、印刷環境が優れる。
【0032】
本発明の第二の観点に係る積層物は、基材と、前記基材上に、前記放射線硬化型インクが硬化してなるインク層と、を備える。
【0033】
この積層物は、硬度、強靱性といった性能が優れつつ、更に臭気が少ないという優れた特性を有する。
【0034】
本発明の第三の観点に係る放射線硬化型インクの製造方法は、
前記放射線硬化型インクは、アルキレンオキサイド付加物である重合性化合物を含有し、
アルキレンオキサイド付加物の付加数が異なる複数の放射線硬化型インク試料を調製し、
前記複数の放射線硬化型インク試料を硬化して複数の硬化試料を形成し、
前記複数の硬化試料のそれぞれの特性を測定して、アルキレンオキサイド付加物の付加数と、硬化物の特性の関係を得、
所望の特性に対応した、アルキレンオキサイド付加物の付加数を、前記関係に基づいて決定する付加数決定工程と、
前記決定した付加数のアルキレンオキサイド付加物を含む、放射線硬化型インクを調製する工程と、を含む。
【0035】
以上の構成の製造方法によれば、粘度と、得られる印刷物の硬度、強靱性等の特性が調整された、放射線硬化型インクを製造することが容易に行える。
【0036】
前記アルキレンオキサイド付加物である重合性化合物は、アルキレンオキサイド付加物である(メタ)アクリル化合物である、と好ましい。
【0037】
以上の構成の製造方法によれば、粘度と得られる印刷物の硬度及び強靱性の調整がより容易である。
【発明の効果】
【0038】
本発明によれば、臭気が少なく、硬化性に優れ、硬度及び強靱性が優れた印刷物が得られうる放射線硬化型インクが提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0039】
次に、本発明について、更に詳細に説明する。
【0040】
本発明の放射線硬化型インクは、ヘテロ原子が酸素原子である複素環構造を有する単官能重合性化合物(β)と、脂環構造を有する多官能重合性化合物(γ)と、を含有する。
【0041】
ここで、放射線硬化型インクとは、放射線などにより重合して、液体から固体化しうるインク組成物である。ここで、固体化は、柔軟性、伸縮性を有する固体への変化、ゲル化を含む。本明細書において、このような固体化を硬化と記載することがある。
【0042】
本明細書において、放射線(エネルギー線)とは、電離性を有する放射線と、非電離性の放射線とを含む広義の意味でのものである。すなわち、放射線とは、その照射によりインク中において開始種を発生させ得るエネルギーを付与することができる放射線であれば、特に制限はなく、広く、α線、β線、γ線、X線、電子線、紫外線(UV)、可視光線、赤外線などを包含するものであり、中でも、硬化感度及び装置の入手容易性の観点から紫外線及び電子線が好ましく、紫外線が特に好ましい。
【0043】
(単官能重合性化合物(β))
本発明に係る、単官能重合性化合物(β)は、ヘテロ原子が酸素原子である複素環構造を有する、重合性官能基を1つのみ有する化合物である。
【0044】
本明細書において、重合性とは、低分子化合物が高分子化合物に変化する反応性全てを意味し、ラジカル重合、アニオン重合、カチオン重合、重縮合、架橋などの反応性を含む。これらのうち、ラジカル重合、カチオン重合、架橋の反応性が好ましい。また、重合性化合物は、単量体、重縮合の原料の他、硬化性樹脂、半硬化樹脂などを包含する。具体的には、重合性化合物としては、イオン、有機ラジカルの存在下に、アニオン重合、カチオン重合、ラジカル重合の付加重合を行い得る不飽和結合を有する化合物、縮合重合し得る官能基を有する化合物などが挙げられる。
【0045】
重合性官能基としては、例えば、ビニル基、(メタ)メタクリル基、ビニルエーテル基、エポキシ基などが挙げられ、硬化速度が速い点で、特に(メタ)アクリル基が好ましい。(メタ)アクリル基は、アクリル基(アクリロイル基)又はメタクリル基(メタクリロイル基)を意味し、アクリル基が好ましい。単官能重合性化合物としては、例えば、単官能(メタ)アクリレートが挙げられ、単官能アクリレートが好ましい。ヘテロ原子が酸素原子である複素環構造としては、例えば、3~10員環に1個又はそれ以上のヘテロ原子として酸素を含む、飽和又は不飽和の複素単環化合物が挙げられる。具体的には、オキシラン、オキセタン、オキソラン、オキシナン、オキセパン、オキソカン、オキソナン、オキセカンなどのヘテロ原子として1個の酸素を含む飽和複素単環化合物、1,3-ジオキセタン、1,3-ジオキソラン、1,3-ジオキシナン、1,3-ジオキセパン、1,3-ジオキソカン、1,3-ジオキソナン、1,3-ジオキセカンなどのヘテロ原子として2個の酸素を含む飽和複素単環化合物などが挙げられる。複素環構造は、芳香族性を有していても良い。
【0046】
ヘテロ原子が酸素原子である複素環構造を有する単官能重合性化合物(β)としては、例えば、式(β1)で示される環状トリメチロールプロパンホルマールアクリレート(CTFA)が挙げられる。
【化7】
【0047】
本願発明の、放射線硬化型インク中の単官能重合性化合物(β)の含有率は特に限定されないが、20質量%以上80質量%以下であると好ましく、30質量%以上70質量%以下であるとより好ましく、40質量%以上60質量%以下であるとより特に好ましい。単官能重合性化合物(β)の含有率がこの範囲にあると、印刷物の硬度及び強靱性の点で好ましい。
【0048】
(多官能重合性化合物(γ))
本発明に係る、多官能重合性化合物(γ)は、脂環構造を有する、重合性官能基を2つ以上有する化合物である。脂環構造は、芳香族性を有しない炭化水素環構造であり、単環構造又は多環構造である。脂環構造は、多環構造であると好ましい。脂環構造は、酸素原子、窒素原子、硫黄原子などのヘテロ原子を含んだヘテロ環構造であっても良い。ヘテロ原子としては、酸素原子が好ましい。
【0049】
多官能重合性化合物(γ)の多環構造としては、2以上の、飽和又は不飽和の側鎖を有する又は有しない単環構造が直接又は間接結合している炭化水素環集合構造、2以上の飽和脂環炭化水素が2個又はそれ以上の原子を共有している橋かけ環炭化水素構造、2つの環が1つのみの炭素原子で結合しているスピロ炭化水素構造などが挙げられる。
【0050】
これらの多環構造の中でも、橋かけ環炭化水素構造及びスピロ炭化水素構造が好ましい。橋かけ環炭化水素構造としては、ジシクロペンタジエン、その水素化物であるトリシクロデカン、ビシクロ[2.1.0]ペンタン、ビシクロ[3.2.1]オクタン、ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン、トリシクロ[2.2.1.02,6]ヘプタンなどが挙げられる。スピロ炭化水素構造としては、スピロ[3.4]オクタン、スピロ[4.5]デカ-1,6-ジエン、ヘテロ原子として酸素原子を含むスピログリコールなどが挙げられる。重合性官能基としては、前述の単官能重合性化合物(β)で挙げた官能基が挙げられる。多官能重合性化合物としては、2官能重合性化合物及び3官能重合性化合物が挙げられる。具体的には、多官能(メタ)アクリレートが挙げられ、2官能(メタ)アクリレートが好ましく、2官能アクリレートがより好ましい。
【0051】
より具体的には、多官能重合性化合物(γ)としては、式(γ1)で示されるトリシクロデカンジメタノールジアクリレート(TCDDA)及び式(γ2)で示されるスピログリコールジアクリレートが挙げられる。
【化8】
【化9】
【0052】
多官能重合性化合物(γ)としては、式(γ1)で示されるTCDDAが好ましい。
【0053】
本願発明の、放射線硬化型インク中の多官能重合性化合物(γ)の含有率は特に限定されないが、1質量%以上50質量%以下であると好ましく、3質量%以上30質量%以下であるとより好ましく、5質量%以上20質量%以下であると更に好ましく、10質量%以上17質量%以下であると特に好ましい。多官能重合性化合物(γ)の含有率がこの範囲にあると、得られる印刷物の柔軟性の点で好ましい。
【0054】
(他の成分)
本発明の放射線硬化型インクは、更に、ビシクロ以上の環状構造を有しない多官能重合性化合物(Ζ)を含有すると好ましい。
【0055】
(多官能重合性化合物(Ζ))
多官能重合性化合物(Ζ)は、ビシクロ以上の環状構造を有しない、重合性官能基を2つ以上有する化合物である。例えば、鎖状構造又は単環構造を有する重合性官能基を2つ以上有する化合物である。単環構造は芳香族性を有していても良い。重合性官能基としては、前述の単官能重合性化合物(β)で挙げた官能基が挙げられる。多官能重合性化合物(Ζ)としては、2官能重合性化合物及び3官能重合性化合物が挙げられる。具体的には、多官能(メタ)アクリレートが挙げられ、より具体的には、2官能(メタ)アクリレート及び3官能(メタ)アクリレートが挙げられ、3官能アクリレートが好ましい。
【0056】
多官能重合性化合物(Ζ)は、アルキレンオキサイド付加物であると好ましい。アルキレンオキサイド付加物としては、エチレンオキサイド付加物及びプロピレンオキサイド付加物などが挙げられる。具体的には、式(Ζ1)で示されるトリメチロールプロパントリアクリレート及び式(Z2)で示されるペンタエリスリトールトリアクリレート(PETA)が好ましい。
【化10】
【化11】
ここで、nは、1以上の整数を表す。例えばnは、1、2、3、5であると好ましい。具体的には、エトキシ化3 トリメチロールプロパントリアクリラート(EO3TMPTA)、エトキシ化6 トリメチロールプロパントリアクリラート(EO6TMPTA)、エトキシ化9 トリメチロールプロパントリアクリラート(EO9TMPTA)、エトキシ化15 トリメチロールプロパントリアクリラート(EO15TMPTA)及びペンタエリスリトールトリアクリレート(PETA)が挙げられる。アルキレンオキサイド付加物の付加数(n)を調整することで、得られるインクの粘度、硬化性、硬化物、印刷物の強度、強靱性、伸び性、屈曲性、密着性、耐擦過性などの特性を調整することができる。
【0057】
本願発明の、放射線硬化型インク中の多官能重合性化合物(Ζ)の含有率は特に限定されないが、1質量%以上50質量%以下であると好ましく、3質量%以上30質量%以下であるとより好ましく、5質量%以上20質量%以下であると更に好ましく、10質量%以上17質量%以下であると特に好ましい。放射線硬化型インク中の多官能重合性化合物(Ζ)の含有率がこの範囲にあると、印刷物の硬度及び強靱性の点で好ましい。
【0058】
(鎖状単官能重合性化合物(α))
放射線硬化型インクは、任意成分として、鎖状単官能重合性化合物(α)を含有することができる。鎖状単官能重合性化合物(α)としては、鎖状単官能(メタ)アクリレート等が挙げられる。具体的には、特許文献1に記載されているような、トリデシルアクリレート(TDA)、エトキシジエチレングリコールアクリレート(EOEOEA)等の、ホモポリマーのガラス転移点が0℃以下の、脂環式構造を有しないアクリレートモノマーが挙げられる。放射線硬化型インク中の鎖状単官能重合性化合物(α)の含有率は特に限定されないが、20質量%未満が好ましく、10質量%未満がより好ましく、0質量%であると特に好ましい。鎖状単官能重合性化合物(α)の含有率がこの範囲にあると、臭気の点で好ましい。
【0059】
本発明の放射線硬化型インクは、更に、開始剤を含むと好ましい。開始剤は、放射線が照射されることによって、重合性化合物の硬化を開始させることができる限り特に限定されない。
開始剤としては、例えば、(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-ジフェニル-フォスフィンオキサイド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-(2,4,4-トリメチルペンチル)-フォスフィンオキサイド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド、エトキシ-フェニル-(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フォスフィンオキサイド等のアシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤、4,4’-ジアミノベンゾフェノン等のαアミノアルキルフェノン系開始剤、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン、キサントン、フルオレノン、ベンズアルデヒド、フルオレン、アントラキノン、トリフェニルアミン、カルバゾール、3-メチルアセトフェノン、4-クロロベンゾフェノン、4,4’-ジメトキシベンゾフェノン、ミヒラーケトン、ベンゾインプロピルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンジルジメチルケタール、1-(4-イソプロピルフェニル)-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、チオキサントン、ジエチルチオキサントン、2-イソプロピルチオキサントン、2-クロロチオキサントン、2-メチル-1-〔4-(メチルチオ)フェニル〕-2-モルホリノ-プロパン-1-オン、等が挙げられる。これらの開始剤は一種単独又は複数種を併用することができる。
【0060】
これらの開始剤のうち、式(I)で示されるアシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤を用いることが好ましい。
【化12】
(ここで、Ri1、Ri2、及びRi3は、それぞれ独立して、アルコキシル基又は置換基を有する若しくは有さない炭化水素基を表す。)
炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基などのアルキル基、フェニル基、2,4,6-トリメチルフェニル基などが挙げられる。
【0061】
また、開始剤は、αアミノアルキルフェノン系開始剤を用いずに、かつ前記の式(I)で示されるアシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤を用いることがより好ましい。
【0062】
(着色剤)
本発明の放射線硬化型インクは、更に着色剤を含有すると好ましい。着色剤としては、CMYBの各種着色剤を適宜用いることができる。着色剤は、前述の重合性化合物相に溶解又は分散させることができる。
【0063】
着色剤としては、例えば、シアンインクとする場合には、C.I.ピグメントブルー1、2、3、15:3、15:4、15:34、16、22、60などが挙げられる。
【0064】
マゼンタインクとする場合には、C.I.ピグメントレッド5、7、12、48(Ca)、48(Mn)、57(Ca)、57:1、112,122,123,168,184、202、209、C.I.ピグメントバイオレット19などが挙げられる。
【0065】
イエローインクとする場合には、C.I.ピグメントイエロー1、2、3、12、13、14C、16、17、73、74、75、83、93、95、97、98、109、110、114、120、128、129、130、138、150、151、154、155、180、185などが挙げられる。
【0066】
ブラックインクとする場合には、三菱化学社製のHCF、MCF、RCF、LFF、SCF、キャボット社製のモナーク、リーガル、デグサ・ヒュルス社製のカラーブラック、スペシャルブラック、プリンテックス、東海カーボン社製のトーカブラック、コロンビア社製のラヴェンなどが挙げられる。
【0067】
着色剤の配合量は特に限定されないが、例えば、放射線硬化型インク全量を基準として1~20質量%であることが好ましく、1~10質量%であることがより好ましい。
【0068】
(その他の成分)
本発明の放射線硬化型インクは、本発明の効果を損なわない範囲で、更にその他の成分を含有することができる。その他の成分としては、増感剤、連鎖移動剤、重合禁止剤、架橋剤、老化防止剤、酸化防止剤、防腐剤、リン酸エステル系およびその他の難燃剤、湿潤分散材、帯電防止剤、可塑剤、表面潤滑剤、レベリング剤、軟化剤、有機フィラー、無機フィラーなどが挙げられる。
【0069】
増感剤としては、例えば、トリメチルアミン、メチルジメタノールアミン、トリエタノールアミン、p-ジエチルアミノアセトフェノン、p-ジメチルアミノ安息香酸エチル、p-ジメチルアミノ安息香酸イソアミル、N,N-ジメチルベンジルアミン、4,4’-ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン等の、重合性成分と付加反応を起こさないアミン類が挙げられる。
【0070】
連鎖移動剤は、重合体の分子量を調節できる化合物であれば特に限定されない。連鎖移動剤を配合することにより、放射線硬化の際に、硬化物の分子量が過大になることを抑制できる。連鎖移動剤としては、例えば、2-メルカプトベンゾチアゾール、γ-メルカプトキシプロピルトリメトキシシラン等のチオール化合物、2,4-ジフェニル-4-メチル-ペンテンなどが挙げられる。連鎖移動剤の含有量は特に限定されないが、例えば、放射線硬化型インク中に、好ましくは0.1~5質量%、さらに好ましくは0.2~4質量%、特に好ましくは0.3~3質量%配合することができる。
【0071】
重合禁止剤としては、2,5-ジ-t-ブチルハイドロキノン、ハイドロキノン、メトキノン、p-メトキシフェノール、ブチルヒドロキシトルエン、ニトロソアミン塩などが挙げられる。重合禁止剤の含有量は特に限定されないが、例えば、放射線硬化型インク中に0.01~2質量%の範囲で添加することができる。重合禁止剤は、放射線硬化による発熱などによる重合を防止し、放射線硬化型インクの保存安定性を高めることができる。
【0072】
(放射線硬化型インクの調製)
本発明の放射線硬化型インクの調製方法は特に限定されないが、例えば、着色剤と分散剤とを重合性化合物と混合し、攪拌し、例えば20質量%程度の顔料分散体を調製する。また、ヘテロ原子が酸素原子である複素環構造を有する単官能重合性化合物(β)と、多環構造を有する多官能重合性化合物(γ)と、必要により加える開始剤、重合禁止剤、顔料分散体などを含有する混合液を、ホモジナイザー、コロイドミルなどの撹拌機、乳化機を用いて分散させる。
【0073】
本発明の放射線硬化型インクは、その用途によって特に限定されないが、着色剤の分散・溶解性に優れ、粘度調整が容易であるなど、インク自体のインクジェット特性への整合が容易であり、また、インクジェット時のインク飛翔時における臭気低減を図り、印刷環境の改善が図ることができるので、インクジェット用インクとして好適である。例えば、後述の性能試験条件における、粘度が100Pa・s以下、好ましくは50mPa・s以下、臭気評価の値が8以下などの特性のいずれか又は全てを満たす放射線硬化型インクは、特に、インクジェット用インクとして好適である。
【0074】
本発明の放射線硬化型インクは、インクジェット方式、スプレー方式、バーコート方式等により、基材上に積層し、LED光源などから放射線を照射して硬化してインク層として、積層体を得ることができる。なお、積層体は、基材にプライマーを介しても良く、インク層をオーバーコート、プライマーとして用いても良い。
【0075】
得られる積層物は、硬度、強靱性などの性能が優れつつ、更に臭気が少ないという優れた特性を有する。そのため、基材と、本発明の放射線硬化型インクが硬化してなるインク層と、を備える積層物は、印刷物、屋内調度品、玩具、樹脂成形品、装飾部材、内装材、建材、医療用品、食品パッケージ等の用途に特に好適である。
【0076】
(放射線硬化型インクの製造方法)
前述の本発明の放射線硬化型インクは、重合性化合物にアルキレンオキサイド付加物を含有させて、アルキレンオキサイド付加物の付加数によって、得られるインクの粘度、硬化性などの特性、硬化物、印刷物の強度、強靱性、伸び性、屈曲性、密着性、耐擦過性などの特性を変化させることができる。例えば、アルキレンオキサイド付加物が、前記の式(Ζ1)のように付加数がnで示される場合、付加数nを1、2、3、4等に変化させて、強度などの特性を変化させることができる。例えば、付加数nを小さくすると強度を上げることができる。
この手法は、前述の本発明の放射線硬化型インクに限定されず、他の放射線硬化型インクに適用可能である。すなわち、放射線硬化型インクの製造方法において、放射線硬化型インクをアルキレンオキサイド付加物である重合性化合物を含有したものとし、1)アルキレンオキサイド付加物の付加数が異なる複数の放射線硬化型インク試料を調製し、その複数の放射線硬化型インク試料を硬化して複数の硬化試料を形成し、その複数の硬化試料のそれぞれの特性を測定して、アルキレンオキサイド付加物の付加数と、硬化物の特性の関係を得、所望の特性に対応した、アルキレンオキサイド付加物の付加数を、前記関係に基づいて決定する付加数決定工程と、2)その決定した付加数のアルキレンオキサイド付加物を含む、放射線硬化型インクを調製する工程と、を含む、放射線硬化型インクの製造方法によって、所望の特性の放射線硬化型インクを得ることができる。
例えば、放射線硬化型インクをアルキレンオキサイド付加物である重合性化合物を含有したものとし、その放射線硬化型インクの製造方法に、1)アルキレンオキサイド付加物の付加数が異なる複数の放射線硬化型インク試料を調製し、前記複数の放射線硬化型インク試料を塗布して複数の塗膜試料を形成し、前記複数の塗膜試料の硬度を測定して、アルキレンオキサイド付加物の付加数と、塗膜試料の硬度の相関関係情報を得、所望の塗膜硬度に対応した、アルキレンオキサイド付加物の付加数を、前記相関関係情報に基づいて決定する付加数決定工程と、2)前記決定した付加数のアルキレンオキサイド付加物を含む、放射線硬化型インクを調製する工程と、を含ませることで、粘度と、得られる印刷物の硬度、強靱性等の特性が調整された、放射線硬化型インクを製造することが容易に行える。また、1)アルキレンオキサイド付加物の付加数を決定する付加数決定工程と、2)アルキレンオキサイド付加物の含有率を決定する含有率決定工程と、3)前記決定した付加数のアルキレンオキサイド付加物を前記決定した含有率で含む、放射線硬化型インクを調製する工程と、を含ませることで、粘度と、得られる印刷物の硬度、強靱性等の特性が調整された、放射線硬化型インクを製造することが容易に行える。
【0077】
また、前記アルキレンオキサイド付加物である重合性化合物は、アルキレンオキサイド付加物である(メタ)アクリル化合物である、と粘度と得られる印刷物の硬度及び強靱性の調整がより容易である。
【0078】
(実施例)
以下、本発明を実施例に基づき説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。各種溶剤インク試料の性能試験については、以下の方法で行った。ここで、特に断りの無い限り「部」は質量部である。
【0079】
(粘度)
TVE-33L(東機産業製)を用いて、測定温度:25℃、回転数:20rpmの条件で測定した。粘度が高すぎる(例えば50mPa・sを超えるもの、更に100mPa・sを超えるもの)とインクジェット用インクとしては不適切である。
【0080】
(臭気)
硬化後の印刷物を5cm×5cm角に切断し、ポリ袋に入れ室温で24時間静置後に、臭気評価を行った。以下の基準で臭気を評価し、評価者10人の平均値を算出した。評価が7以上であれば、実用上、問題ないレベルである。
10-9:臭気を感じないレベル。
8-7:わずかに臭気を感じる。
6-5:ある程度の臭気があるが、不快なレベルでない。
4-3:強い臭気がある。
2-1:非常に強い臭気がある。
【0081】
(硬化性)
印刷物に照射する紫外線量を変える。皮膜に対して、綿棒で擦り跡が付かないことで硬化しているかを確認した。
〇:600mJ/cmで硬化
△:1200mJ/cmで硬化
×:1800mJ/cm以上必要
【0082】
(タック)
白色塩化ビニルシートに印刷して得られた印刷膜を指で触り、べたつきを次の基準で評価した。
5:べたつきほぼ感じない
4:わずかにべたつきを感じる
3:ややべたつき感じる
2:べたつきを感じる
1:非常に強いべたつきを感じる
【0083】
(鉛筆硬度)
PET基材に印刷して得られた印刷膜を、各硬さの鉛筆で45度角・一定荷重で1cm引っ掻き、傷跡が付かない鉛筆硬度とする。
【0084】
(耐擦過性)
白色塩化ビニルシートに印刷して得られた印刷膜を、学振試験機RT-300(大栄科学製)にて100回往復(サンドペーパー#400)で擦過する。荷重2N、擦過速度30往復/min.。擦過後の印刷膜の跡を評価した。
〇:基材露出なし
△:基材が一部露出~10%
×:基材露出10%以上
【0085】
(伸び率)
白色塩化ビニルシートに印刷して得られた印刷膜を、引っ張り試験機オートグラフAGS-1KNJ(株式会社島津製作所製)で評価した。引っ張り速度50mm/min.で引っ張り、亀裂が入るまでの伸び率を算出した。
【0086】
(耐折り曲げ性)
白色塩化ビニルシートに印刷して得られた印刷膜の耐折り曲げ性を、JIS K5600-5-1(耐屈曲性(円筒形マンドレル))に基づいてマンドレル屈曲試験機を用いて評価した。マンドレルは、直径が2、3、4、5、6、8、10、12、16、20、25、32mmのものを用い、マンドレルによって曲げられた、白色塩化ビニルシートに印刷された印刷膜の割れや剥がれが観測できない最小のマンドレルの直径を求めた。数値が小さいほど、耐折り曲げ性が高い。
【0087】
(密着性)
基盤目(2mm角、25個)のセロハンテープによる剥離評価を実施して、25個のうち剥離した数を調べた。そして、次のように評価した。
5:基盤目試験にて剥離数が0個
4:基盤目試験にて剥離数が1個~5個
3:基盤目試験にて剥離数が6個~13個
2:基盤目試験にて剥離数が14個~19個
1:基盤目試験にて剥離数が20個以上
【0088】
(耐候性)
アトラス・ウエザオメータCi4000(東洋精機製)にて、光照射および水噴霧条件で500時間試験後に印刷物表面を確認した。
〇:クラックなし
△:微小なクラックが発生
×:クラックが全面に発生
【0089】
(実施例1)
(インクの作製)
ピグメントブルー[15:3]20部、ソルスパーズ32000(ルーブリゾール社製;顔料分散剤)4部、CTFA76部を合わせて100部として、これらを混合して撹拌して、顔料分散液E(顔料濃度20質量%)を得た。次に、表1に示すように、得られた顔料分散液E10部と、ヘテロ原子が酸素原子である複素環構造を有する単官能重合性化合物(β)としてCTFAを50.9部、多環構造を有する多官能重合性化合物(γ)としてTCDDAを15部、多官能重合性化合物(γ)としてEO3TMPTAを15部、開始剤としてTPOを5部、IRGACURE819を1部、及びDETXを3部、重合禁止剤としてalbaを0.03部、表面調整剤としてTEGO Rad2100を0.1部の混合液を横型ビーズミル(直径0.5mmのジルコニアビーズを使用)で分散させて、放射線硬化型インクE1を得た。得られた放射線硬化型インクE1の粘度及び臭気試験を行った。得られた評価結果を表1に示す。
【0090】
(印刷物の作製)
次に、インクジェットプリンタ(ミマキエンジニアリング社製、商品名:UJF3042、マルチパス方式、UV-LEDランプ搭載)を使用して、放射線硬化型インクE1で印刷物E1を作製した。720×600dpi解像度のベタパターンで100%濃度部分の印字部について、硬化性、タック、鉛筆硬度、耐擦過性、伸び率、耐折り曲げ性、密着性、耐候性の試験を行った。評価結果を表1に示す。
【0091】
(実施例2~4、参考例5~6、実施例7~8、参考例9
表1に示す配合で実施例1と同様にして放射線硬化型インクE2~E9を調整した。得られた放射線硬化型インクE2~E9を用いて、粘度及び臭気試験を行った。評価結果を1に示す。
また、放射線硬化型インクE2~E9を用いて、実施例1と同様にして、印刷物E2~E9を作製した。得られた印刷物E2~E9を用いて、硬化性、タック、鉛筆硬度、耐擦過性、伸び率、耐折り曲げ性、密着性、耐候性の試験を行った。評価結果を表1に示す。
【0092】
(比較例1、2)
(インクの作製)
ピグメントブルー[15:3]20部、ソルスパーズ32000(ルーブリゾール社製;顔料分散剤)4部、2-フェノキシエチルアクリレート76部を合わせて100部として、これらを混合して撹拌して、顔料分散液R(顔料濃度20質量%)を得た。顔料分散液Eの代わりに顔料分散液Rを用い、表1に示す配合で実施例1と同様にして放射線硬化型インクR1、R2を調整した。放射線硬化型インクR1、R2は、引用文献1に記載の放射線硬化型インクに対応する。得られた放射線硬化型インクR1、R2を用いて、粘度及び臭気試験を行った。評価結果を表1に示す。
【0093】
(印刷物の作製)
また、放射線硬化型インクR1、R2を用いて、実施例1と同様にして、印刷物R1、R2を作製した。得られた印刷物R1、R2を用いて、硬化性、タック、鉛筆硬度、耐擦過性、伸び率、耐折り曲げ性、密着性、耐候性の試験を行った。評価結果を表1に示す。
【0094】
表1から解るように、本発明の放射線硬化型インクは、粘度が適当で臭気が少なく、硬化性に優れ、得られる印刷物は、硬度及び強靱性が優れている。
【0095】
【表1】
【0096】
表1中の略号は、以下の通りである。
CTFA :環状トリメチロールプロパンホルマールアクリレート
IBXA :イソボルニルアクリレート
EOEOEA :エトキシジエチレングリコールアクリレート
TDA :トリデシルアクリレート
TCDDA :トリシクロデカンジメタノールジアクリレート
EO3TMPTA :エトキシ化3 トリメチロールプロパントリアクリラート
EO6TMPTA :エトキシ化6 トリメチロールプロパントリアクリラート
EO9TMPTA :エトキシ化9 トリメチロールプロパントリアクリラート
EO15TMPTA:エトキシ化15 トリメチロールプロパントリアクリラート
TPO :2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-フォスフィンオキサイド(BASF製)
TPO-L:エトキシ-フェニル-(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フォスフィンオキサイド
IRGACURE819 :ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニル-フォスフィンオキサイド
DETX :2,4-ジエチルチオキサンテン-9-オン(LAMBSON社製)
TEGO Rad2100 :シリコンアクリレート
alba(ノンフレックスアルバ) :2,5-ジ-t-ブチルヒドロキノン(精工化学社製)
【0097】
表1の実施例1~4、参考例5、参考例6が示すように、アルキレンオキサイド付加物の付加数、配合割合によって、鉛筆硬度、伸び率、マンドレル折り曲げ試験等の物性値が異なる。例えば、表1では、実施例2~4は、鉛筆硬度が同じ4Hであるが、アルキレンオキサイド付加物の付加数が多いほど、印刷物E1(実施例1)から印刷物E4(実施例4)の順に感触的に硬度が軟化する傾向にあった。また、実施例1と参考例5を比較するとアルキレンオキサイド付加物の含有率が多い程、硬化する傾向にあった。これらの情報を用いて、所望の特性値を備える放射線硬化型インクを調製することが可能であった。
【0098】
本発明は、本発明の広義の精神と範囲を逸脱することなく、様々な実施の形態及び変形が可能とされるものである。また、上述した実施の形態は、この発明を説明するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。すなわち、本発明の範囲は、実施の形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。そして、特許請求の範囲内及びそれと同等の発明の意義の範囲内で施される様々な変形が、この発明の範囲内とみなされる。