IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ゼブラ株式会社の特許一覧

特許7291486出没式の中綿式マーキングペン、並びにそれに用いられる中芯
<>
  • 特許-出没式の中綿式マーキングペン、並びにそれに用いられる中芯 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-07
(45)【発行日】2023-06-15
(54)【発明の名称】出没式の中綿式マーキングペン、並びにそれに用いられる中芯
(51)【国際特許分類】
   B43K 8/02 20060101AFI20230608BHJP
   B43K 8/03 20060101ALI20230608BHJP
   B43K 8/24 20060101ALI20230608BHJP
   C09D 11/17 20140101ALI20230608BHJP
   C09D 11/16 20140101ALI20230608BHJP
【FI】
B43K8/02 100
B43K8/03 100
B43K8/24
C09D11/17
C09D11/16
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019005765
(22)【出願日】2019-01-17
(65)【公開番号】P2020111036
(43)【公開日】2020-07-27
【審査請求日】2021-11-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000108328
【氏名又は名称】ゼブラ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100136722
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼木 邦夫
(72)【発明者】
【氏名】高木 悠衣
(72)【発明者】
【氏名】山口 真弓
【審査官】藤井 達也
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-278586(JP,A)
【文献】特開2002-002177(JP,A)
【文献】特開平11-193361(JP,A)
【文献】特開2010-059276(JP,A)
【文献】特開2010-106187(JP,A)
【文献】特開平11-070779(JP,A)
【文献】特開2018-202855(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B43K 1/00- 1/12
B43K 5/00- 8/24
B43K 23/00-23/12
C09D 11/00-13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チップと、インク組成物を含む中綿が収容されたインク収容部と、先端孔を有する軸筒と、を備え、前記チップと外気とを隔てるとともに開閉可能な蓋及び着脱可能なキャップをいずれも備えない、出没式の中綿式マーキングペンであって、
前記インク組成物が、着色剤及び4.0~7.0のIOB値を有する水溶性溶媒を含有し、
未使用の状態における前記インク組成物の充填率が、最大インク充填量に対して25~65質量%であり、
前記チップの先端部と、前記インク収容部における前記中綿の前記チップとは反対側の端部との距離が120mm以下である、マーキングペン。
【請求項2】
前記チップを前記先端孔から出入可能なノック機構を備える、請求項1に記載のマーキングペン。
【請求項3】
未使用時に前記先端孔を塞ぐように軸筒に装着され、使用前に離脱される保護部材を更に備える、請求項1又は2に記載のマーキングペン。
【請求項4】
前記チップの先端部が前記軸筒内に収容された状態において、前記先端部と前記先端孔との距離が2.0mm以上である、請求項1~3のいずれか一項に記載のマーキングペン。
【請求項5】
チップと、インク組成物を含む中綿が収容されたインク収容部と、を備え、
前記インク組成物が、着色剤及び4.0~7.0のIOB値を有する水溶性溶媒を含有し、
未使用の状態における前記インク組成物の充填率が、最大インク充填量に対して25~65質量%であり、
前記チップの先端部と、前記インク収容部における前記中綿の前記チップとは反対側の端部との距離が120mm以下である、請求項1~4のいずれか一項に記載のマーキングペンに用いられる、中芯。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、出没式の中綿式マーキングペン、並びに当該出没式の中綿式マーキングペンに用いられる中芯及びインク組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
インクを充填した筆記具による筆記の際、外気に長時間曝されることによりチップが乾燥し(ドライアップ)、筆記線にカスレが生じることがある。このようなチップのドライアップを容易に生じさせないように、こうした筆記具には通常チップを覆うようにキャップ等が装着される。
【0003】
こうした中、最近、ノック機構等の出没機構によって軸筒からのチップの出入を可能にした出没式タイプのマーキングペンが注目されている。出没式のマーキングペンでは、例えば、軸筒の先端孔に配置された蓋が、チップの出入と合わせて開閉する開閉機構が利用されている。当該機構によれば、チップが軸筒内に後退した際に蓋が閉鎖され、外気から遮断されることから、マーキングペンを長期保管した際にキャップがなくともドライアップを抑制することができる。また、キャップを必要としないため、片手でチップの出入ができる利便性がある。しかし、出没式マーキングペンに蓋の開閉機構を設けた場合、機構部が複雑になり、ノックストローク等が長くなる、軸部が太くなるなどの問題があった。
【0004】
一方、チップの乾燥抑制のため、インク組成物中にドライアップ遅延剤を添加する方法(下記特許文献1参照)や、蒸発抑制作用を有する物質をチップにコーティングする方法(下記特許文献2参照)などが検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2000-319570号公報
【文献】特開2002-2177号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示された方法によれば、キャップを解放した後、チップの乾燥により不書きとなるまでの時間がある程度延びるものの、長時間経過後にはやはり不書きとなり、マーキングペンからキャップや蓋をなくすまでには至っていない。また、特許文献2に開示された方法は、蒸発抑制作用を有する物質の溶液にチップをディッピング処理又は噴霧処理する二次加工が必要となり、製造コストの上昇や生産効率の低下等、量産性に問題がある。
【0007】
また、上述した従来のマーキングペンにおいては、例えば年単位でマーキングペンを長期保存する場合、チップのドライアップの抑制に加え、インク漏れ等を抑制する点で未だ改善の余地がある。
【0008】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、キャップ等の装着又は複雑な機構若しくは加工なしで、長期間チップが外気に曝されてもカスレのない筆記線を形成可能で、且つインク漏れも抑制することが可能なマーキングペン、並びに当該マーキングペンに用いられる中芯及びインク組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、インク組成に加え、中綿設計、インク収容部へのインク組成物の充填量等を鋭意総合的に検討することで、上記課題を解決するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、チップと、インク組成物を含む中綿が収容されたインク収容部と、先端孔を有する軸筒と、を備え、チップと外気とを隔てるとともに開閉可能な蓋及び着脱可能なキャップをいずれも備えない、出没式の中綿式マーキングペンを提供する。上記マーキングペンにおいて、インク組成物は、着色剤及び4.0~10.0のIOB値を有する水溶性溶媒を含有し、インク組成物の充填率は、最大インク充填量に対して25~65質量%である。また、チップの先端部と、インク収容部における中綿のチップとは反対側の端部との距離は120mm以下である。
【0011】
上記マーキングペンによれば、キャップ等の装着又は複雑な機構若しくは加工なしで、長期間チップが外気に曝されてもカスレのない筆記線を形成可能で、且つインク漏れも抑制することが可能となる。
【0012】
上記マーキングペンは、チップを先端孔から出入可能なノック機構を備えることができる。さらに、上記マーキングペンは、未使用時に先端孔を塞ぐように軸筒に装着され、使用前に離脱される保護部材を更に備えていてもよい。
【0013】
上記マーキングペンは、チップの先端部が軸筒内に収容された状態において、先端部と先端孔との距離が2.0mm以上であってよい。
【0014】
本発明はまた、上述した本発明に係るマーキングペンに用いられる中芯を提供する。上記中芯は、チップと、インク組成物を含む中綿が収容されたインク収容部と、を備え、インク組成物が、着色剤及び4.0~10.0のIOB値を有する水溶性溶媒を含有し、インク組成物の充填率が、最大インク充填量に対して25~65質量%であり、チップの先端部と、インク収容部における中綿のチップとは反対側の端部との距離が120mm以下である。
【0015】
本発明はさらに、上述した本発明に係るマーキングペンに用いられるインク組成物を提供する。上記インク組成物は、着色剤及び4.0~10.0のIOB値を有する水溶性溶媒を含有する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、キャップ等の装着又は複雑な機構若しくは加工なしで、長期間チップが外気に曝されてもカスレのない筆記線を形成可能で、且つインク漏れも抑制することが可能なマーキングペン、並びに当該マーキングペンに用いられる中芯及びインク組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施形態に係る出没式の中綿式マーキングペンを示す模式断面図であって、(a)は中芯が後退している状態を示し、(b)は中芯が前進している状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、適宜図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0019】
図1は、本発明の一実施形態に係る、出没式の中綿式マーキングペンを示す模式断面図である。図1(a)は、中芯が後退している状態を示し、図1(b)は、中芯が前進している状態を示す。
【0020】
図1(a)及び図1(b)において、マーキングペン10は、チップ6と、インク収容部4と、軸筒2と、を備える。インク収容部4は、少なくとも一端が開放された筒状の形状を有しており、インク収容部4の少なくとも一部には、インク組成物1を含む中綿が収容されている。なお、図1(a)及び図1(b)に示すように、中綿は、例えばインク組成物1を含む綿部51及び該綿部51を収容する筒状の外皮52を備えるインク吸蔵体5として、インク収容部4に収容されていてもよい。外皮52の厚みは、例えば0.6mmであってよい。さらに、チップ6がインク収容部4の開放孔に嵌挿されており、インク収容部4とチップ6とを合わせて中芯を構成している。インク収容部4におけるチップ6が嵌挿されている部分は、エア孔(ベンチレーター)を有していてもよい。中芯は、インク収容部4及びチップ6を一体として交換可能なものであってよい。
【0021】
チップ6のインク収容部4に嵌挿された部分を挿入部61と称し、インク収容部4から突出し最も離れた部分を先端部62と称する。チップ6は、例えば繊維収束体であってよく、これが挿入部61においてインク組成物1と接触する。インク組成物1は繊維間に吸蔵され、先端部62に供給される。繊維収束体の材質は特に制限されないが、例えば、ポリエステル、ナイロン、アクリル、PE、羊毛等であってよい。
【0022】
本実施形態におけるマーキングペンは、ノック機構等の出没機構を備える出没式のマーキングペンである。例えば、図1(a)及び図1(b)に示すように、マーキングペン10は、ノック部81及び回転体82を有するノック機構8を備えていてもよく、例えば、マーキングペン10を使用しないときには、図1(a)に示すように、ノック部81をノックすることによって回転体82を含むノック機構8を後退させて、中芯を軸筒2中に後退させてこれを収容する。マーキングペン10を使用するときには、図1(b)に示すように、ノック部81を再度ノックすることによって回転体82を含むノック機構8を前進させて、中芯を前進させ、軸筒2の先端孔2aを通して、チップ6(先端部62)を軸筒2から突出させる。すなわち、ノック機構8は、ノックによってチップ6(先端部62)を軸筒2の先端孔2aから出入することが可能な機構であり、当該機構を有するマーキングペンをノック式マーキングペンということもある。
【0023】
また、マーキングペン10は、チップと外気(空気)とを隔てるとともに、開閉可能な蓋及び着脱可能なキャップ等をいずれも備えていなくともよい。したがって、図1(a)に示すように、中芯が前進している際にはもちろん、軸筒2内に後退している際にも、蓋又はキャップ等を備える場合と比べて、先端部62は乾燥しやすい状態にある。上記蓋及びキャップは、例えば、マーキングペンの使用時に開き又は取り外され、使用後再度使用するまでの間(非使用時)に閉じ又は取り付けられるものである。上記蓋及びキャップが非使用時に閉じ又は取り付けられることにより、マーキングペンのチップと外気とが隔てられ、チップの乾燥が抑制されやすくなるからである。しかし、本実施形態に係るマーキングペンによれば、キャップ等の装着又は複雑な機構若しくは加工なしで、長期間チップが外気に曝されてもカスレのない筆記線を形成することができる。
【0024】
なお、一度も使用されていない(未使用の)マーキングペンにおいて、軸筒2の先端には、先端孔2aを塞ぐように、保護部材が装着されていてもよい。上記保護部材は、マーキングペンの使用前に離脱される。すなわち、上記保護部材が装着されたマーキングペンは、上記保護部材が離脱された後、使用することができる。なお、上記保護部材は一度離脱された後は、再度装着する必要がないものである。保護部材としては、ヒートシール可能な熱可塑性樹脂フィルム、粘着フィルム等のフィルム、ゴム栓、キャップなどが挙げられる。
【0025】
マーキングペン10において、チップ6の先端部62と、インク収容部4における中綿又はインク吸蔵体5の、チップ6とは反対側の端部5aとの距離(距離A)は、120mm以下である。距離Aが上記数値範囲内であれば、マーキングペンを長期保存した場合であっても、チップ6の先端部62からのインク漏れを効果的に抑制することができる。このような観点から、距離Aは115mm以下であることが好ましく、110mm以下であることがより好ましく、105mm以下であることが更に好ましい。距離Aの下限値は、特に制限されることはないが、組立性の観点から、例えば10mm以上であってよく、20mm以上であってよく、30mm以上であってよく、50mm以上であってよく、80mm以上であってよく、100mm以上であってよい。
【0026】
図1(a)に示すように、中芯が後退している状態、すなわち、チップ6の先端部62が軸筒2内に収容された状態において、先端部62と先端孔2aとの距離Bは、2.0mm以上であってよい。距離Bが上記数値範囲内であれば、マーキングペンを長期保存した場合であっても、マーキングペンの筆記線の色変化を効果的に抑制することができる。このような観点から、距離Bは2.5mm以上であることが好ましく、3.0mm以上であることがより好ましく、3.5mm以上であることが更に好ましく、4.0mm以上であることが特に好ましい。距離Bの上限値は、特に制限されることはないが、ノックストロークの簡便性の観点から、例えば25mm以下であってよく、20mm以下であってよく、15mm以下であってよく、12mm以下であってよい。
【0027】
マーキングペン10において、インク収容部4にインク吸蔵体5が収容される場合、インク吸蔵体5における外皮52の内径Cは、特に制限されず、通常のマーキングペンにおける外皮の有する内径とすることができる。内径Cは、マーキングペンの種類によって適宜調整することができ、例えば1~15mmであってよく、太軸のマーキングペンの場合10~14mmであってよく、細軸のマーキングペンの場合2~8mmであってよく、極細軸のマーキングペンの場合1.5~2mmであってよい。
【0028】
マーキングペン10において、軸筒2の先端孔2aの内径Dは、特に制限されず、通常のマーキングペンにおける先端孔の有する内径とすることができる。内径Dは、マーキングペンの種類によって適宜調整することができ、例えば1~12mmであってよく、太字のマーキングペンの場合6~10mmであってよく、細字のマーキングペンの場合2~6mmであってよく、極細字のマーキングペンの場合1.5~2mmであってよい。
【0029】
マーキングペン10において、インク収容部4に収容される中綿又は綿部51は、インク組成物1を含んでいる。この場合におけるインク組成物1の充填率は、最大インク充填量に対して25~65質量%である。インク組成物の充填率を上記範囲内とすることで、長期間チップが外気に曝されてもカスレのない筆記線を形成可能となり、且つインク漏れも抑制することができる。特に、インク消費に伴う寿命を長く設計する観点から、充填率は、最大インク充填量に対して30質量%以上であることが好ましく、35質量%以上であることがより好ましく、40質量%以上であることが更に好ましく、45質量%以上であることが特に好ましく、50質量%以上であることが極めて好ましい。また、吸湿によるインクの体積増加に耐える設計とする観点から、充填率は、最大インク充填量に対して62質量%以下であることが好ましく、58質量%以下であることがより好ましく、56質量%以下であることが更に好ましい。なお、インク充填率は、インク充填量/最大インク充填量として算出することができ、最大インク充填量とは、中綿(インク吸蔵体)を縦にした状態でインクを充填させ、下部にインクが滴るまで含ませたときのインク充填量を意味する。
【0030】
インク組成物1は、着色剤及び水溶性溶媒を含有する。
【0031】
本実施形態において用いられる水溶性溶媒は、4.0~10.0のIOB値を有する。なお、本明細書において、水溶性溶媒のIOB値(Inorganic Organic Balance)とは、当該水溶性溶媒の有機性値(Organic Value:O値)及び無機性値(Inorganic Value:I値)からI/O値として算出した値を意味し、複数種の水溶性溶媒の混合溶媒を用いる場合は、それぞれの溶媒のI値及びO値に各組成の比率を掛け合わせたのち、合算し、算出した値を意味する。水溶性溶媒のIOB値が上記数値範囲内であることにより、長期間チップが外気に曝されてもカスレのない筆記線をより効果的に形成することができる。このような観点から、水溶性有機溶媒のIOB値は、4.5以上であることが好ましく、5.0以上であることがより好ましく、5.2以上であることが更に好ましい。水溶性有機溶媒のIOB値は、例えば9.0以下であってもよく、8.0以下であってもよく、7.0以下であってもよい。
【0032】
本実施形態において用いられる水溶性溶媒としては、単独又は混合溶媒でのIOB値が上記数値範囲内であることを満たす限り特に制限されない。単独または混合溶媒でのIOB値が上記数値範囲内となるように用いられる水溶性溶剤としては、例えば、水、水以外の水溶性溶剤等であってよい。水以外の水溶性溶剤としては、アルコール、そのアルキルエーテル等が挙げられる。上記アルコールは、多価アルコールであってよく、2価アルコール又は3価アルコールであってもよい。上記水溶性溶剤としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、ポリエチレングリコール(PEG)、ジエチレングリコール、トリエタノールアミン、1,3-ブチレングリコール、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、ポリオキシアルキレンエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ジメチルトリグリコール、N-エチルジエタノールアミン、モノ-n-ブチルジエタノールアミン、ポリプロピレングリコール、トリエチレングリコール、及びコハク酸ビスエトキシジグリコール等が挙げられる。水溶性溶剤は、1種を単独で又は2種以上を任意の割合で混合することでIOB値を調整することができる。
【0033】
インク組成物においては、水以外の水溶性溶剤として、エチレングリコール等の2価アルコール及びグリセリン等の3価アルコールの混合溶媒を用いることが好ましい。この場合、2価アルコールと3価アルコールとの混合割合は特に制限されないが、例えば、2価アルコール/3価アルコールが質量比で10/1~1/1であってよく、5/1~2/1であってよい。
【0034】
インク組成物において、上記水溶性溶媒の含有量は、インク組成物全量を基準として、好ましくは40質量%以上であり、より好ましくは50質量%以上であり、更に好ましくは60質量%以上であり、特に好ましくは70質量%以上である。インク組成物が上記水溶性溶媒を40質量%以上含有することにより、チップを長時間空気中に曝された後であってもカスレのない筆記線の形成が可能なマーキングペンを得ることができる。上記水溶性溶媒の含有量は、例えば、インク組成物全量を基準として、90質量%以下であってよい。
【0035】
インク組成物が水を含む場合、当該水の含有量は、インク組成物全量を基準として、好ましくは5~60質量%であり、より好ましくは5~40質量%であり、更に好ましくは5~35質量%であり、特に更に好ましくは10~25質量%である。染料の溶解性の向上、インク組成物の粘度の低下、及び吸湿のコントロールの観点から、インク組成物は水を含むことが好ましい。
【0036】
インク組成物において、着色剤は、酸性染料、塩基性染料、直接染料、界面活性剤分散型顔料、及び自己分散型顔料からなる群より選ばれる少なくとも1種を含んでいてよい。着色剤の含有量は、インク組成物全量を基準として、例えば、0.5~5.0質量%であることができる。
【0037】
インク組成物は、本発明の効果を損なわない範囲において、上記各成分に加えて、上記水溶性溶媒以外の溶剤、防腐剤、pH調整剤、増粘剤、潤滑剤、及び界面活性剤等の添加剤を含有していてもよい。上記インク組成物は、樹脂を含有しないことが好ましい。また、不揮発分は、上記インク組成物全量を基準として、0.1~10質量%であることが好ましく、0.1~5.0質量%であることがより好ましい。インク組成物が樹脂を含有しないことにより、又は、不揮発分が10質量%以下であることにより、チップを長時間空気中に暴露した後であってもカスレのない筆記線の形成が可能な筆記具を得やすくなる。
【0038】
インク組成物は、上記各成分を、例えば、ディゾルバー、ヘンシェルミキサー及びホモミキサーなどの撹拌機を用いて混合することにより得られる。撹拌機の撹拌条件は特に制限されないが、例えば、ディゾルバー撹拌機を用いて、回転数100~1000rpmで30~180分間撹拌することにより、各成分が均一に溶解若しくは分散したインク組成物を得ることができる。
【0039】
以上、本発明に係るマーキングペンの好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、様々な変形形態をとることが可能である。例えば、本発明に係るチップは、上述したように繊維収束体に限定されず、例えばプラスチック芯、エラストマー芯、ゴム芯、焼結芯等であってもよい。また、上記図1(a)、(b)では、チップ先端部の形状として砲弾形状を有する態様を記載したが、チップ先端部の形状はこれに限定されず、例えばチゼル形状、筆ペン形状等であってもよい。
【実施例
【0040】
以下、実施例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0041】
[インク組成物の調製]
表1に示す各成分を表1に示す配合比(質量基準)で混合し、各インク組成物を得た。なお、下記表1に表記される各材料の説明は以下のとおりである。
エチレングリコール:水溶性有機溶媒
グリセリン:水溶性有機溶媒
プロピレングリコールモノメチルエーテル:水溶性有機溶媒
タートラジン:染料
C.I.Basic Blue 7:染料
C.I.Basic Violet 1:染料
C.I. Basic Yellow 28:染料
スラウト99N:防腐剤
【0042】
【表1】

*1:水のI値:100.0、O値:0のため、IOB値を算出できず。
【0043】
[マーキングペンの作製]
外皮及び綿部を有するインク吸蔵体を配置したインク収容部を準備し、得られた各インク組成物をそれぞれインク吸蔵体に充填した。ポリエステル繊維製のチップの一端をインク収容部に差し込み、チップにインク組成物を吸蔵させることにより中芯を得た。中芯を軸筒中に収容し、図1に示した構造を有するノック式マーキングペンを作製した。なお、作製の際は、インク組成物がチップの先端部にまで浸み込んでいることを確認した。得られたノック式マーキングペンにおけるインク組成物の種類、インク充填率、距離A及び距離Bを表2及び表3に示す。
【0044】
[マーキングペンの評価]
(筆記線のカスレ)
上記で作製したマーキングペンを、中芯が軸筒中に収容された状態でペン先を下に向けつつ、先端孔2aをふさがないように縦置きし、温度20℃湿度15%RHに設定した恒温恒湿槽内に2か月間放置した。その後、当該マーキングペンを用いて、普通紙(PPC用紙[中性紙])上に文字及びループを筆記した。筆記線の状態を下記基準に従って評価した。評価結果を表2及び表3に示す。評価結果がA又はBであれば、実用上問題のないレベルであると判断される。
A:文字及びループの筆記線にカスレがなかった。
B:ループの筆記線にカスレが生じたが、文字の筆記線にカスレがなかった。
C:文字及びループの両方の筆記線に著しいカスレが生じた、又は、筆記できなかった。
【0045】
(インク漏れ)
上記で作製したマーキングペンを、中芯が軸筒中に収容された状態でペン先を下に向けて縦置きし、温度35℃湿度80%RHに設定した恒温恒湿槽に4か月間放置した。その後、チップの先端部の状態を確認し、下記基準に従ってインク漏れを評価した。評価結果を表2及び表3に示す。評価結果がAであれば、実用上問題のないレベルであると判断される。
A:チップからインク漏れがなく異常がない。
B:チップからインク漏れがある。
【0046】
(筆記線の色変化)
上記で作製したマーキングペンを、中芯が軸筒中に収容された状態でペン先を上に向けて縦置きし、乾燥冬季のオフィス室内(12月から3月の気象に準じた気温、温度及び0.2m/s前後のエアコン風が当たる環境)で3か月間放置した。同様に作製した直後のマーキングペンと放置後のマーキングペンとを用いて、普通紙(PPC用紙[中性紙])上に筆記を行った。作製直後のマーキングペンの色調と、放置後のマーキングペンの色調を比較し、下記基準に従って筆記線の色調変化を評価した。結果を表2及び表3に示す。評価結果がA又はBであれば、実用上問題のないレベルであると判断される。
A:色目に著しい変化がない。
B:色目にやや変化がある。
C:色目に著しい変化がある(濃くなっている)。
【0047】
【表2】
【0048】
【表3】
【0049】
表2に示されるように、実施例1~9はいずれも、キャップ等の装着又は複雑な機構若しくは加工なしで、長期間チップが外気に曝されても、筆記線のカスレ、インク漏れ及び筆記線の色調変化の全てにおいて良好な評価結果が得られた。
【0050】
一方、インク組成物の充填率の低い比較例1、インク組成物における混合溶媒のIOB値が所定範囲外である比較例2、8及び9は、筆記線にカスレが生じた。また、インク組成物の充填率の高い比較例3及び4、並びに距離Aが大きい比較例5~7は、長期保存後のチップからインク漏れが生じた。
【符号の説明】
【0051】
1…インク組成物、2…軸筒、2a…先端孔、4…インク収容部、5…インク吸蔵体、51…綿部、52…外皮、5a…端部、6…チップ、62…先端部、10…(中綿式)マーキングペン。
図1