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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-07
(45)【発行日】2023-06-15
(54)【発明の名称】熱輸送システム
(51)【国際特許分類】
   F25B 1/00 20060101AFI20230608BHJP
   H01L 23/473 20060101ALI20230608BHJP
   H01M 10/613 20140101ALI20230608BHJP
   H01M 10/625 20140101ALI20230608BHJP
   H01M 10/6556 20140101ALI20230608BHJP
   H01M 10/6568 20140101ALI20230608BHJP
   H01M 10/663 20140101ALI20230608BHJP
   H01M 10/651 20140101ALI20230608BHJP
   C09K 5/10 20060101ALI20230608BHJP
【FI】
F25B1/00 321L
H01L23/46 Z
H01M10/613
H01M10/625
H01M10/6556
H01M10/6568
H01M10/663
H01M10/651
C09K5/10 F
F25B1/00 399Y
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019058288
(22)【出願日】2019-03-26
(65)【公開番号】P2020159611
(43)【公開日】2020-10-01
【審査請求日】2022-02-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(73)【特許権者】
【識別番号】399040313
【氏名又は名称】谷川油化興業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001472
【氏名又は名称】弁理士法人かいせい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】布施 卓哉
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 孝治
(72)【発明者】
【氏名】中村 健二
(72)【発明者】
【氏名】山田 輝
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 和参
【審査官】西山 真二
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第04928752(US,A)
【文献】特開2017-110898(JP,A)
【文献】特表2004-503657(JP,A)
【文献】特公平07-037864(JP,B2)
【文献】特開2005-015712(JP,A)
【文献】特開平10-205834(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F25B 1/00
C09K 5/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒が循環する冷凍サイクル装置(10)と、
熱輸送媒体が循環する熱輸送媒体回路(30)と、
前記冷媒と前記熱輸送媒体を熱交換し、前記熱輸送媒体を冷却する冷却用熱交換器(15)と、
前記熱輸送媒体回路に設けられ、前記熱輸送媒体に吸熱される電気機器(33~35)と、を備え、
前記熱輸送媒体は、メタノール、水および沸点上昇剤を含むメタノール水溶液であり、
前記沸点上昇剤は、水およびメタノールの双方に相溶性を有し、かつ、水およびメタノールの混合物よりも沸点が高い物質である熱輸送システム。
【請求項2】
前記沸点上昇剤は、アルコール、アミン、エーテル、カルボン酸の少なくともいずれかである請求項に記載の熱輸送システム。
【請求項3】
前記メタノール水溶液に占める前記沸点上昇剤の割合が50%未満である請求項1または2に記載の熱輸送システム。
【請求項4】
前記メタノール水溶液は、防錆剤を含む請求項1ないしのいずれか1つに記載の熱輸送システム。
【請求項5】
前記熱輸送媒体回路は密閉されている請求項1ないしのいずれか1つに記載の熱輸送システム。
【請求項6】
前記熱輸送媒体より高温の高温側熱輸送媒体が循環する高温側熱輸送媒体回路(20)と、
前記冷媒と前記高温側熱輸送媒体を熱交換し、前記高温側熱輸送媒体を加熱する加熱用熱交換器(13)と、を備え、
前記高温側熱輸送媒体は、前記メタノール水溶液である請求項1ないしのいずれか1つに記載の熱輸送システム。
【請求項7】
前記高温側熱輸送媒体回路は密閉されている請求項に記載の熱輸送システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱輸送媒体によって熱を輸送する熱輸送システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、チラーによって冷凍サイクルの冷媒と低温冷却水回路の低温冷却水とを熱交換し、低温冷却水を冷却する装置が記載されている。この装置では、低温冷却水として、エチレングリコール水溶液などが用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-110898号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、エチレングリコール水溶液は低温時に粘度が高くなるため、低温冷却水回路の圧力損失が大きくなる。このため、低温冷却水を循環させるためのポンプ動力の増大を招く。
【0005】
ところで、特許文献1の装置において、熱負荷により低温冷却水が加熱されると、低温冷却水が沸騰して、低温冷却水回路の一部に液相の低温冷却水が存在しない状態(すなわちドライアウト)が発生するおそれがある。この場合、チラーにおいて、冷媒と低温冷却水との熱交換が安定的に行われない可能性がある。
【0006】
本発明は上記点に鑑みて、熱輸送システムにおいて、熱輸送媒体の低温での粘度増大を抑制し、さらに熱輸送媒体の沸騰を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明は、冷媒が循環する冷凍サイクル装置(10)と、熱輸送媒体が循環する熱輸送媒体回路(30)と、冷媒と熱輸送媒体を熱交換し、熱輸送媒体を冷却する冷却用熱交換器(15)と、熱輸送媒体回路に設けられ、熱輸送媒体に吸熱される電気機器(33~35)と、を備え、熱輸送媒体は、メタノール、水および沸点上昇剤を含むメタノール水溶液であり、沸点上昇剤は、水およびメタノールの双方に相溶性を有し、かつ、水およびメタノールの混合物よりも沸点が高い物質である熱輸送システムである。
【0008】
このように、熱輸送媒体としてメタノール、水および沸点上昇剤を含むメタノール水溶液を用いることで、低温環境下での粘度増大を抑制でき、さらに熱輸送媒体の沸騰を抑制できる。
【0009】
なお、この欄および特許請求の範囲で記載した各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】一実施形態に係る熱輸送システムの構成を示す図である。
図2】一実施形態における第2冷却器を示す正面図である。
図3】第2冷却器内部の温度状態を示す説明図である。
図4】実施例および比較例1~3における凝固点および沸点を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の熱輸送システムを適用した最も好適な実施形態について図面に基づいて説明する。
【0012】
本実施形態の熱輸送システムは、走行用電動モータから車両走行用の駆動力を得る電気自動車に搭載されている。熱輸送システムは、エンジン(換言すれば内燃機関)および走行用電動モータから車両走行用の駆動力を得るハイブリッド自動車に搭載されていてもよい。本実施形態の熱輸送システムは、車室内空間の温度調整を行う空調装置として機能し、車両に搭載された電池33等の温度調整を行う温調装置としても機能する。
【0013】
図1に示すように、熱輸送システムは、冷凍サイクル装置10と、高温側熱輸送媒体回路である高温媒体回路20と、熱輸送媒体回路である低温媒体回路30と、を備えている。高温媒体回路20及び低温媒体回路30では、熱輸送媒体による熱の輸送が行われる。低温媒体回路30の熱輸送媒体は、高温媒体回路20の熱輸送媒体よりも低温となっている。このため、高温媒体回路20の熱輸送媒体を高温側熱輸送媒体ともいい、低温媒体回路30の熱輸送媒体を低温側熱輸送媒体ともいう。
【0014】
冷凍サイクル装置10は蒸気圧縮式冷凍機であり、冷媒が循環する冷媒循環流路11を有している。冷凍サイクル装置10は、低温媒体回路30の低温側熱輸送媒体の熱を冷媒に汲み上げるヒートポンプとして機能する。
【0015】
本実施形態の冷凍サイクル装置10では、冷媒としてフロン系冷媒を用いており、高圧側冷媒圧力が冷媒の臨界圧力を超えない亜臨界冷凍サイクルを構成している。冷媒循環流路11には、圧縮機12、加熱用熱交換器である凝縮器13、膨張弁14、および冷却用熱交換器である熱輸送媒体用蒸発器15が配置されている。
【0016】
圧縮機12は、電池33から供給される電力によって駆動される電動圧縮機であり、冷媒を吸入して圧縮して吐出する。凝縮器13は、圧縮機12から吐出された高圧側冷媒と高温媒体回路20の熱輸送媒体とを熱交換させることによって高圧側冷媒を凝縮させる高圧側熱交換器である。凝縮器13では、冷凍サイクル装置10の高圧側冷媒によって高温媒体回路20の熱輸送媒体が加熱される。
【0017】
膨張弁14は、凝縮器13から流出した液相冷媒を減圧膨張させる減圧部である。膨張弁14は、感温部を有し、ダイヤフラム等の機械的機構によって弁体を駆動する機械式の温度式膨張弁である。
【0018】
熱輸送媒体用蒸発器15は、膨張弁14を流出した低圧冷媒と低温媒体回路30の熱輸送媒体とを熱交換させることによって低圧冷媒を蒸発させる低圧側熱交換器である。熱輸送媒体用蒸発器15で蒸発した気相冷媒は、圧縮機12に吸入されて圧縮される。
【0019】
熱輸送媒体用蒸発器15は、冷凍サイクル装置10の低圧冷媒によって低温媒体回路30の熱輸送媒体を冷却するチラーである。熱輸送媒体用蒸発器15では、低温媒体回路30の熱輸送媒体の熱が冷凍サイクル装置10の冷媒に吸熱される。
【0020】
高温媒体回路20は、高温側熱輸送媒体が循環する高温側循環流路21を有している。高温側熱輸送媒体として、エチレングリコール系の不凍液(LLC)等を用いることができる。高温側熱輸送媒体は、高温側循環流路21を構成する配管内に封入されている。本実施形態の高温媒体回路20は、高温側熱輸送媒体の圧力が所定値を上回った場合に開放する圧力調整弁が設けられていない密閉式となっている。すなわち、本実施形態の高温媒体回路20は密閉されている。
【0021】
高温側循環流路21には、高温側ポンプ22、ヒータコア23および凝縮器13が配置されている。
【0022】
高温側ポンプ22は、高温側循環流路21を循環する熱輸送媒体を吸入して吐出する。高温側ポンプ22は電動式のポンプである。高温側ポンプ22は、高温媒体回路20を循環する熱輸送媒体の流量を調整する。
【0023】
ヒータコア23は、高温媒体回路20の熱輸送媒体と車室内へ送風される空気とを熱交換させて車室内へ送風される空気を加熱する空気加熱用熱交換器である。ヒータコア23では、熱輸送媒体によって車室内へ送風される空気が加熱される。
【0024】
ヒータコア23で加熱された空気は車室内に供給され、車室内の暖房が行われる。ヒータコア23による暖房は、主に冬季に行われる。本実施形態の熱輸送システムでは、低温媒体回路30の低温側熱輸送媒体に吸熱された外気の熱が冷凍サイクル装置10によって高温媒体回路20の高温側熱輸送媒体に汲み上げられ、室内の暖房に用いられる。
【0025】
低温媒体回路30は、低温側熱輸送媒体が循環する低温側循環流路31を有している。低温側熱輸送媒体は、低温側循環流路31を構成する配管内に封入されている。本実施形態の低温媒体回路30は、低温側熱輸送媒体の圧力が所定値を上回った場合に開放する圧力調整弁が設けられていない密閉式となっている。すなわち、本実施形態の低温媒体回路30は密閉されている。なお、低温側熱輸送媒体については後述する。
【0026】
低温側循環流路31には、低温側ポンプ32、熱輸送媒体用蒸発器15、電池33、インバータ34、モータジェネレータ35および室外熱交換器36が配置されている。図1に示す例では、低温側熱輸送媒体の流れ方向において、電池33、インバータ34、モータジェネレータ35、室外熱交換器36、低温側ポンプ32の順に接続されているが、この接続順序に限定されるものではない。また、図1に示す例では、電池33、インバータ34、モータジェネレータ35、室外熱交換器36、低温側ポンプ32が直列的に接続されているが、これらのうち1以上の機器を他の機器と並列的に接続してもよい。
【0027】
低温側ポンプ32は、低温側循環流路31を循環する熱輸送媒体を吸入して吐出する。低温側ポンプ32は電動式のポンプである。低温側ポンプ32は、低温媒体回路30を循環する熱輸送媒体の流量を調整する。
【0028】
電池33は、充放電可能な2次電池であり、例えばリチウムイオン電池を用いることができる。電池33としては、複数個の電池セルで構成されている組電池を用いることができる。
【0029】
電池33は、車両停車時に外部電源(換言すれば商用電源)から供給された電力を充電可能となっている。電池33に蓄えられた電力は、走行用電動モータのみならず、熱輸送システムを構成する電動式構成機器をはじめとする各種車載機器に供給される。
【0030】
インバータ34は、電池33から供給された直流電力を交流電力に変換してモータジェネレータ35に出力する。モータジェネレータ35は、インバータ34から出力された電力を利用して走行用駆動力を発生するとともに、減速中や降坂中に回生電力を発生させる。
【0031】
室外熱交換器36は、低温媒体回路30の熱輸送媒体と外気とを熱交換させる。室外熱交換器36には、図示しない室外送風機によって外気が送風される。
【0032】
電池33、インバータ34、モータジェネレータ35は、電気を使用して作動する電気機器であり、作動時に発熱する。電池33、インバータ34、モータジェネレータ35は、低温側熱輸送媒体によって冷却される冷却対象機器である。
【0033】
本実施形態の低温側循環流路31には、電気機器33~35に対応して冷却器37~39が設けられている。第1冷却器37は電池33に対応し、第2冷却器38はインバータ34に対応し、第3冷却器39はモータジェネレータ35に対応している。
【0034】
冷却器37~39には、低温側熱輸送媒体が流通する。電気機器33~35は、冷却器37~39を流れる低温側熱輸送媒体によって冷却される。
【0035】
第1冷却器37及び第2冷却器38では、他の熱輸送媒体を介さず低温側熱輸送媒体によって電池33及びインバータ34が冷却される。第3冷却器39は、低温側熱輸送媒体によってオイル回路40を循環するオイルを冷却するオイルクーラである。オイルは、モータジェネレータ35の内部を流れることで、モータジェネレータ35の潤滑と冷却を行う。
【0036】
冷却器37~39では、冷却対象機器である電池33、インバータ34およびモータジェネレータ35から低温側熱輸送媒体への吸熱が行われる。室外熱交換器36では、外気から低温側熱輸送媒体への吸熱が行われる。つまり、電池33、インバータ34、モータジェネレータ35および室外熱交換器36は、低温側熱輸送媒体への吸熱を行う被吸熱機器である。
【0037】
次に、第2冷却器38の具体的な構成について説明する。図2に示すように、本実施形態の第2冷却器38は、インバータ34を構成する複数の電子部品340を両面から冷却する積層型の熱交換器である。
【0038】
本実施形態の電子部品340は、両面から放熱が行われる両面放熱構造を有している。電子部品340としては、IGBT等の半導体素子とダイオードとを内蔵した半導体モジュールを用いることができる。
【0039】
第2冷却器38は、流路管381と、連通部382と、を備えている。流路管381は、扁平形状に形成されるとともに、低温媒体回路30の低温側熱輸送媒体を流通させる低温側熱輸送媒体流路を構成している。流路管381は、電子部品340を両面から挟持できるように複数個積層配置されている。
【0040】
連通部382は、複数の流路管381同士を連通させる。連通部382は、流路管381の長手方向の両端部にそれぞれ接続されている。
【0041】
本実施形態では、電子部品340は、流路管381における扁平面それぞれに対して2個ずつ設けられている。各扁平面に設けられた2つの電子部品340は、それぞれ低温側熱輸送媒体の流れ方向に直列に配置されている。
【0042】
ここで、複数の流路管381のうち、積層方向最外側に配置される流路管381を外側流路管3810とする。第2冷却器38における2つの外側流路管3810のうち、一方の外側流路管3810の長手方向両端部には、導入口383および排出口384がそれぞれ設けられている。
【0043】
導入口383は、低温側熱輸送媒体を第2冷却器38に導入する導入部である。排出口384は、低温側熱輸送媒体を第2冷却器38から排出する排出部である。導入口383および排出口384は、ろう付けにより一方の外側流路管3810に接合されている。本実施形態の流路管381、連通部382、導入口383および排出口384は、それぞれ、アルミニウムにより構成されている。
【0044】
導入口383から導入された低温側熱輸送媒体は、一方の連通部382を通って、流路管381の長手方向における一方の端部から各流路管381に流入し、各流路管381内を他方の端部に向かって流れる。そして、低温側熱輸送媒体は、他方の連通部382を通って排出口384から排出される。このように、低温側熱輸送媒体が流路管381内を流通する間に、低温側熱輸送媒体と電子部品340との間で熱交換が行われ、電子部品340が冷却される。
【0045】
次に、低温側熱輸送媒体について説明する。低温側熱輸送媒体は、低温での粘性が低く、沸点が高いことが望ましい。
【0046】
本実施形態では、低温側熱輸送媒体として、メタノール、水および沸点上昇剤を含むメタノール水溶液を用いている。本実施形態では、メタノール水溶液に占める沸点上昇剤の割合を50%未満としている。
【0047】
沸点上昇剤としては、水およびメタノールの双方に相溶性を有し、かつ、水およびメタノールの混合物よりも沸点が高い物質を用いることができる。具体的には、沸点上昇剤としては、アルコール、アミン、エーテル、カルボン酸の少なくともいずれかを用いることができる。
【0048】
アルコールとしては、水酸基が1個かつ炭素数が3以上のアルコール、および、水酸基が2個以上かつ炭素数が2以上のアルコールの少なくともいずれかを用いることができる。水酸基が2個以上かつ炭素数が2以上のアルコールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコールの少なくともいずれかを用いることができる。
【0049】
アミンとしては、ホルムアミンおよびメチルアミンの少なくともいずれかを用いることができる。エーテルとしては、ジメチルエーテル、エチルメチルエーテル、ジエチルエーテル、グリコールエーテルの少なくともいずれかを用いることができる。カルボン酸としては、ギ酸および酢酸の少なくともいずれかを用いることができる。
【0050】
図3に示すように、インバータ34の電子部品340で発生した熱は、流路管381の内壁面381aを介して、流路管381内を流れる低温側熱輸送媒体に伝達する。これにより、流路管381に流入した低温側熱輸送媒体の温度が上昇する。
【0051】
このとき、流路管381内の低温側熱輸送媒体流路のうち、内壁面381aに対向する部位の温度が、他の部位の温度よりも高くなる。すなわち、流路管381内の低温側熱輸送媒体流路のうち、内壁面381aに対向する部位の温度が最も高くなる。このため、流路管381の内壁面381aの温度が、事実上、低温側熱輸送媒体の最高温度となる。したがって、低温側熱輸送媒体の沸点を、流路管381の内壁面381aの温度より高くすることにより、低温側熱輸送媒体が流路管381内において沸騰することを抑制できる。
【0052】
特に、夏季のような高温環境下では、インバータ34の温度が上昇しやすく、第2冷却器38における流路管381の内壁面381aの温度が高くなる。したがって、低温側熱輸送媒体の沸点は、夏季における流路管381の内壁面381aの温度(本例では約90℃)以上であることが望ましい。また、低温側熱輸送媒体の凝固点は、冬季のような低温環境下において凍結することを抑制するために、-35℃以下であることが望ましい。
【0053】
図4に示すように、比較例1としての無水メタノールは、凝固点が-95℃であり、沸点が65℃である。比較例2としてのメタノールおよび水を含むメタノール水溶液(メタノール:水=35:65)では、凝固点が-35℃であり、沸点が82℃である。
【0054】
これに対し、実施例としてのメタノール、水および沸点上昇剤を含むメタノール水溶液(メタノール:水:沸点上昇剤=10:50:40)では、凝固点が-35℃であり、沸点が100℃である。このように、メタノール、水および沸点上昇剤を含むメタノール水溶液は、高沸点および低凝固点を確保することができる。そして、実施例としてのメタノール、水および沸点上昇剤を含むメタノール水溶液を低温媒体回路30に高圧で封入した場合、当該メタノール水溶液の沸点をさらに上昇させることができる。
【0055】
なお、比較例3としてのエチレングリコール系不凍液(エチレングリコール:水=50:50)は、凝固点が-35℃であり、沸点が107℃である。しかしながら、エチレングリコール系不凍液は、-35℃での動粘度がメタノール水溶液と比べて高いため、低温における低粘度を確保することができない。
【0056】
本実施形態の低温側熱輸送媒体は、水、メタノールおよび沸点上昇剤に加え、防錆剤を含んでいる。防錆剤は、低温側熱輸送媒体が流れる配管の腐食を防ぐためのものである。低温側熱輸送媒体における防錆剤の濃度は適宜設定可能であるが、例えば数%とすることができる。
【0057】
防錆剤としては、例えば脂肪族モノカルボン酸、芳香族モノカルボン酸、芳香族ジカルボン酸またはそれらの塩、ホウ酸塩、ケイ酸塩、ケイ酸、リン酸塩、リン酸、亜硝酸塩、硝酸塩、モリブデン酸塩、トリアゾール、及びチアゾールから選ばれる少なくとも一種を用いることができる。
【0058】
以上説明したように、本実施形態では、低温側熱輸送媒体としてメタノール、水および沸点上昇剤を含むメタノール水溶液を用いている。これにより、エチレングリコール系不凍液に比べて、低温環境下での粘度増大を抑制できる。このため、低温環境下においても、低温媒体回路30での圧力損失の増大を抑制でき、低温側ポンプ32の動力増大を抑制できる。
【0059】
また、室外熱交換器36では、低温側熱輸送媒体の流路を狭くするなどして小型化しやすくなり、設計の自由度を向上させることができる。さらに、室外熱交換器36を通過する低温側熱輸送媒体の流速が向上することから、室外熱交換器36への着霜を抑制できる。
【0060】
また、低温環境下での低温側熱輸送媒体の粘度増大を抑制できることから、エチレングリコール系不凍液に比べて、低温側熱輸送媒体の流量を増大させることができる。この結果、低温側熱輸送媒体の流速を上昇させることができ、低温側熱輸送媒体の熱伝達率をより向上させることができる。さらに、低温側熱輸送媒体の熱伝達率が向上することで、室外熱交換器36を含む機器全体の熱通過率を向上させることができる。
【0061】
また、低温側熱輸送媒体に沸点上昇剤を含有させることで、低温側熱輸送媒体の沸点を上昇させることができる。これによれば、熱負荷により低温側熱輸送媒体が加熱されたとしても、低温媒体回路30において低温側熱輸送媒体が沸騰することを抑制できる。このため、低温媒体回路30の一部に液相の低温側熱輸送媒体が存在しない状態であるドライアウトの発生を抑制できる。これにより、熱輸送媒体用蒸発器15において、低圧冷媒と低温側熱輸送媒体との熱交換を安定的に行うことができる。
【0062】
また、本実施形態では、低温媒体回路30を密閉式としている。これによれば、低温側熱輸送媒体を低温媒体回路30に高圧で封入することができるので、低温側熱輸送媒体の沸点をさらに上昇させることができる。
【0063】
また、本実施形態では、低温側熱輸送媒体に防錆剤を含有させている。これによれば、低温側熱輸送媒体が流れる配管の腐食を抑制できるので、熱輸送システムの耐久性を向上させることができる。さらに、沸点上昇効果により、低温側熱輸送媒体の沸点を上昇させることができる。
【0064】
(他の実施形態)
本発明は上述の実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で、以下のように種々変形可能である。
【0065】
例えば、上記実施形態では、メタノール、水および沸点上昇剤を含むメタノール水溶液を低温媒体回路30の低温側熱輸送媒体に用いたが、これに限らず、当該メタノール水溶液を高温媒体回路20の高温側熱輸送媒体に用いてもよい。この場合、高温媒体回路20と低温媒体回路30とで熱輸送媒体を共通化することができる。
【符号の説明】
【0066】
10 冷凍サイクル装置
15 熱輸送媒体用蒸発器(冷却用熱交換器)
30 低温媒体回路(熱輸送媒体回路)
33 電池(電気機器)
34 インバータ(電気機器)
35 モータジェネレータ(電気機器)
図1
図2
図3
図4