(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-07
(45)【発行日】2023-06-15
(54)【発明の名称】アスパラギン酸-乳酸共重合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08G 73/16 20060101AFI20230608BHJP
C08G 69/44 20060101ALI20230608BHJP
C08G 69/10 20060101ALI20230608BHJP
A61K 47/34 20170101ALN20230608BHJP
A61K 9/50 20060101ALN20230608BHJP
A61K 9/52 20060101ALN20230608BHJP
【FI】
C08G73/16
C08G69/44
C08G69/10
A61K47/34
A61K9/50
A61K9/52
(21)【出願番号】P 2019063744
(22)【出願日】2019-03-28
【審査請求日】2022-02-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福入 靖
(72)【発明者】
【氏名】吉村 正史
【審査官】尾立 信広
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-159888(JP,A)
【文献】特開2000-345033(JP,A)
【文献】国際公開第2017/094763(WO,A1)
【文献】特開2006-296972(JP,A)
【文献】特開2004-012834(JP,A)
【文献】特開2001-031762(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 73/00-73/26
C08G 63/00-64/42
C08G 69/00-69/50
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アスパラギン酸とラクタイドとの混合物を加熱して、繰り返し構造単位としてコハク酸イミド単位と乳酸単位とを併せ持つアスパラギン酸-乳酸共重合体を得る重合工程を含み、
ラクタイドとともに、原料として、乳酸を含
み、乳酸を、乳酸の環状二量体であるラクタイドのモル数の2倍と乳酸のモル数の合計(以下乳酸総モル数)に対して、2~20モル%の範囲で含み、
アスパラギン酸モル数と乳酸総モル数との混合モル比は、アスパラギン酸モル数を1としたときに、乳酸総モル数が、1~50である
ことを特徴とするアスパラギン酸-乳酸共重合体の製造方法。
【請求項2】
前記重合工程が、少なくとも2段階で行い、不活性ガス下に常圧で行う前段重合工程と、
減圧下に脱水条件で行う後段重合工程とを含むことを特徴とする請求項
1に記載の製造方法。
【請求項3】
前段重合工程でアスパラギン酸の単独重合を行い、後段重合工程でラクタイドまたは乳酸とアスパラギン酸重合物との縮合およびラクタイドまたは乳酸の重合を行うことを特徴とする請求項1
または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記重合工程において、混合物を120~230℃に加熱する請求項1~
3のいずれかに記載の共重合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、徐放性薬剤の基材として有用なアスパラギン酸-乳酸共重合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アスパラギン酸とラクタイド(乳酸の環状二量体)との反応により、ポリコハク酸イミドセグメントとポリ乳酸セグメントが結合したアスパラギン酸-乳酸共重合体(PALS)は、ポリ乳酸よりも高いTgを示す非結晶性樹脂で、多くの有機溶媒に可溶である。またPALS は水中で良好に加水分解し、アスパラギン酸と乳酸との共重合体組成の調節によりその分解速度の制御が可能となるため、徐放性薬剤の基材として期待が大きい。
【0003】
このような、PALSの製造方法として、国際公開番号第2017/094763号(特許文献1)には、 アスパラギン酸と、乳酸とを、塩化錫などの触媒存在下に直接脱水縮合することにより重合する共重合体の製造方法が開示されている。
【0004】
また、特開2000-159888号公報(特許文献2)には、アスパラギン酸と環状エステル化合物であるラクタイドとの混合物を加熱して、PALSを重合する際に、反応初期にアスパラギン酸同士を重合させ、アスパラギン酸の脱水で生じた水によってラクタイドを開環させて共重合をさせることで、分子量分布の狭いアスパラギン酸-乳酸共重合体の製造方法が開示されている。さらに、特開2000-345033号公報(特許文献3)には、アスパラギン酸とラクタイドとを混合したのち、ラクタイドの融点より高い温度でアスパラギン酸の固体が浮遊した状態で反応を行い、反応系を徐々に減圧して、共重合を行うアスパラギン酸-乳酸の共重合体の製造方法が開示されている。
【0005】
化粧品や医薬品用途としては、錫などの金属触媒を含有しないアスパラギン酸-乳酸共重合体が好まれる。しかしながら、無触媒でこれらの技術により乳酸とアスパラギン酸を共重合すると、アスパラギン酸の反応性が低いために、反応時間が長くなり生産効率が低いとともに、濃く着色した共重合体が得られるため、化粧品用途としての使用が難しいという問題点があった。また、乳酸は強酸性であるため、原料として使用すると、一般的な反応機器に使用されるステンレスが腐食されるため、酸に対して耐食性があるグラスライニングされた機器で反応を行う必要がある。しかしながら、重合物が熱の変化により収縮するためグラスライニング機器が割れることもあり、ステンレス製の反応機器を用いる方法が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開番号第2017/094763号
【文献】特開2000-159888号公報
【文献】特開2000-345033号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、着色が薄く、安価にアスパラギン酸-乳酸共重合体を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、着色は反応速度と重合度に原因していることを見い出した。そして、アスパラギン酸とラクタイドとを重合させる際に、乳酸を添加することで、着色の原因となるアスパラギン酸の反応性を高めることにより、着色を抑えることができ、さらに反応速度を高め、重合度を高くできることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち本発明の構成は以下の通りである。
[1] アスパラギン酸とラクタイドとの混合物を加熱して、繰り返し構造単位としてコハク酸イミド単位と乳酸単位とを併せ持つアスパラギン酸-乳酸共重合体を得る重合工程を含み、
ラクタイドとともに、原料として、乳酸を含むことを特徴とするアスパラギン酸-乳酸共重合体の製造方法。
[2] 乳酸を、乳酸の環状二量体であるラクタイドのモル数の2倍と乳酸のモル数の合計(以下乳酸総モル数)に対して、2~20モル%の範囲で含むことを特徴とする[1]の共重合体の製造方法。
[3] 前記重合工程が、少なくとも2段階で行い、不活性ガス下に常圧で行う前段重合工程と、
減圧下に脱水条件で行う後段重合工程とを含む[1]または[2]の製造方法。
[4] 前段重合工程でアスパラギン酸の単独重合を行い、後段重合工程でラクタイドまたは乳酸とアスパラギン酸重合物との縮合およびラクタイドおよび乳酸の重合を行うことを特徴とする[1]~[3]の製造方法。
[5]アスパラギン酸モル数と乳酸総モル数との混合モル比は、アスパラギン酸モル数を1としたときに、乳酸総モル数が、1~50である[1]~[4]の共重合体の製造方法。
[6]前記重合工程において、混合物を120~230℃に加熱する[1]~[5]の共重合体の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、アスパラギン酸とラクタイドとを重合させる際に、乳酸を添加することで、反応速度が高く、目的分子量に短時間で重合することができ且つ着色の少ない、アスパラギン酸-乳酸共重合体を製造することができる上に、ラクタイドとともに使用することで、乳酸によるステンレス反応機器の腐食も抑制できる。得られた着色の少ないアスパラギン酸-乳酸共重合体は、化粧品や医薬品用途に広く用いることが可能であり、長期安定性に優れるため、徐放性薬剤の基材として用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
本発明ではアスパラギン酸とラクタイドとの混合物を加熱して、繰り返し構造単位としてコハク酸イミド単位と乳酸単位とを併せ持つアスパラギン酸-乳酸共重合体を得る重合工程を含み、ラクタイドとともに、原料として、乳酸を含むことを特徴とする。
【0012】
本発明にかかる共重合体の製造方法では、アスパラギン酸と、ラクタイドと乳酸の混合物を加熱する。
使用するアスパラギン酸は、光学活性のL-体やD-体であっても、DL-体であってもよい。高分子量の共重合体を得るためには、好ましくは、フマル酸やマレイン酸等の不純物の含有量が1質量%以下の高純度のものが好ましい。
【0013】
ラクタイドとしては、L-ラクタイド、D-ラクタイド、DL-ラクタイド、ラセミ体のラクタイドのいずれも使用することができるが、本発明ではL-ラクタイドを好ましく使用できる。
【0014】
本発明では、原料としてラクタイドとともに、乳酸が含まれる。乳酸をラクタイドと共に用いると反応速度を速めることができる上に、ステンレス反応機器への腐食も抑制できる。また比較的低温での重合も可能となり、さらに、重合体の着色を薄くできる。
【0015】
乳酸の環状二量体であるラクタイドのモル数の2倍と乳酸のモル数の合計(以下乳酸総モル数)に対して、乳酸の使用量は、2~20モル%、好ましくは4~10モル%の範囲にある。この範囲にあると、重合速度が高く、着色が少なく重合体が得られ、しかもステンレス等の反応機器が腐食されにくくなる。
【0016】
アスパラギン酸と、ラクタイドとの混合モル比は、アスパラギン酸モル数を1としたときに、乳酸総モル数が、1~50であることが好ましい。
アスパラギン酸モル数に対する、乳酸総モル数の混合モル比が高すぎると、アスパラギン酸に由来するコハク酸イミド単位がポリマー中に取り込まれにくく、PLAのみが生成しやすく、本発明の目的である共重合体を得ることが困難になる。一方、乳酸総モル数の混合モル比が低いと、乳酸単位のブロック連鎖長が伸長しにくくなる。かかる点を考慮すると、アスパラギン酸モル数と、乳酸総モル数との仕込モル組成は、およそ1:1~1:50程度が好ましい。
【0017】
本発明の製造方法では、反応時に触媒を使用せずに、十分にポリマーを得ることが可能である。ただし、反応時間の短縮や、生成ポリマーの高分子量化を目的として、触媒を用いても良いが、化粧品や医薬品に使用するため、安全性の観点から無触媒であることが望ましい。
【0018】
反応温度は、反応工程全体としては、120~230℃の範囲内で加熱することが好ましい。反応初期には、アスパラギン酸の重合による脱水を促すため、少なくとも140℃以上の高温で反応させることが好ましい。その温度は160~230℃がより好ましく、180℃~220℃が特に好ましい。反応の後半には、乳酸の重合およびアスパラギン酸重合物と乳酸重合物との共重合を促進させ、かつ生成したポリマーの分解を抑制するために、反応初期よりも温度を下げることが好ましい。また、脱水を促すために、減圧下で反応を行うことが好ましい。その温度は120℃~200℃がより好ましい。
【0019】
本発明では、重合工程を、少なくとも2段階で行い、反応初期を不活性ガス下に常圧で行う前段重合工程とし、反応後期を減圧下に脱水条件下で行う後段重合工程とを含むことが重合や温度管理の点で好ましい。さらに、本発明では、前段重合工程でアスパラギン酸の単独重合を主に行い、後段重合工程でラクタイドとアスパラギン酸重合物との縮合およびラクタイドの重合を行うことが、最終物の構造単位の組成比や、分子量の調整などの観点で好ましい。
【0020】
反応機構は必ずしも明確ではないが以下のよう進行していると考えられる。
反応を始めた初期には、まず90~100℃付近に融点をもつラクタイドが溶融し、融解しないアスパラギン酸粉末が溶融液中に浮遊しながら撹拌されている状態である。やがて、加熱とともにアスパラギン酸が脱水しながら重合し始める。これによって、コハク酸イミド単位を構成する。このとき、本発明では乳酸が適量存在しているため、アスパラギン酸の重合を促進させる。この反応初期のアスパラギン酸の重合速度を高くすると、着色を抑制できる。
【0021】
アスパラギン酸の重合により生じた水及び原料として用いた乳酸中の水及び乳酸自身が反応開始剤となり、ラクタイドを開環させ開環重合が進行する。一方で乳酸は脱水しながら縮重合も進行する。なお、市販の乳酸は一般的に90質量%乳酸で販売され、10質量%の水が含まれている。この水が乳酸由来の水となる。
【0022】
やがて、アスパラギン酸の重合体と、乳酸または乳酸重合体との共重合が起こることにより、粉末顆粒状だったアスパラギン酸又はアスパラギン酸重合体が可溶化されて透明になり、反応溶液が均一となる。また、次第に乳酸の重合が進み、乳酸単位の反応溶液の粘度が上昇する。このとき、減圧で反応を行うことで、共重合体の重合度を大きくすることができる。また、脱水を促進するため、水を共沸させる溶媒を加えて還流させ、流出液中から水分を除去する方法をとっても良い。
【0023】
アスパラギン酸と乳酸とを反応させる直接脱水縮合法では、加熱を始めた反応初期にアスパラギン酸が乳酸に溶解して、透明均一な溶液となる。このため、アスパラギン酸同士が重合することなく、乳酸と共重合してしまい、ランダム性の高い共重合体となる。
【0024】
なお、本発明では、乳酸は溶融したラクタイド中に混和されており、アスパラギン酸はラクタイド中に溶解しないので、乳酸と直接反応せずに、アスパラギン酸の重合が進むものと考えられる。
【0025】
反応時間は、反応温度、所望とするポリマーの分子量によっても適宜決定されるが、およそ2時間~100時間程度である。なお、前段重合工程の反応時間は、2~4時間であることが好ましい。長時間反応させると、重合度が上がらず、かつ着色する場合がある。
【0026】
反応終了後、反応混合物から生成ポリマーを精製単離する場合、再沈殿法、分別沈殿法等の公知の精製単離方法を用いることができる。例えば、反応混合物をジメチルホルムアミド(DMF)に溶解し、水中に投入して不溶のポリマー沈殿を濾過や遠心分離等により回収することができる。本発明の製造方法は、直接脱水縮合法に比べ、生成するポリマーの分子量が高く、分子量分布も狭い。また、再沈殿等の精製によるポリマーの回収率が高い。
【0027】
本発明で得られるアスパラギン酸-乳酸共重合体は、下記反応式により得られ、繰り返し構造単位としてコハク酸イミド単位と乳酸単位とを併せ持つ、下記式で表される。
【0028】
【化1】
式中、p、q、rは3つ同時に0になることのない0または正の整数であり、nは1以上の整数であり、(p+r+q)/(n+1)は0.5~100である。
【0029】
コハク酸イミド単位と乳酸単位とを併せ持つ共重合体の構造は、例えば、核磁気共鳴(NMR)スペクトル測定や赤外吸収(IR)スペクトル測定等の公知の分析手法によって確認することができる。
【0030】
得られた共重合体の精製方法としては、公知の方法を採用可能である。たとえば、以下の方法が例示される。得られた粗ポリマーを有機溶媒に溶解させる。有機溶媒としては、非プロトン性極性有機溶媒が使用され、特に、アセトン、テトラヒドロフランおよびN,N-ジメチルホルムアミド、アセトニトリルが好ましい。
【0031】
溶解液の濃度としては、通常3~50質量%の範囲であるが、精製の容易さ等の観点から、好ましくは5~40質量%の範囲とすることも好ましい一態様である。なお溶解時の温度は、特に制限されないが、15~35℃程度であればよく、必要に応じて加熱してもよい。
【0032】
溶解液に活性炭を添加し、着色不純物を除去したのち、加圧濾過などによって、活性炭を除去する。活性炭を除去した濾液を、水に混合し、ポリマーを沈殿させる。沈殿は必要に応じて熟成したのち、固液分離し、固形分を乾燥させる。水への濾液の添加は連続的に行っても、断続的に行ってもよい。上記添加としては0~5℃の冷却水へ滴下することが好ましく、液滴状に滴下することが特に好ましい。このように水に滴下することにより、共重合体を粉末状で析出させることができる。そのため、その後の回収、乾燥等が容易となるだけではなく、共重合体中に取り込まれているモノマー成分を水に溶出させて、除去することができる。析出時の水のpHは3~8にすると、除去効率が高くなるためで好適である。着色不純物を除く必要がない場合は活性炭処理を省略してもよい。
これらの精製工程は複数回繰り返してもよい。
【0033】
本発明の共重合体は、種々の有機溶剤に容易に溶解しうる特性を有し、比較的低温で溶融成形が容易なため、マイクロスフェアやマイクロカプセル等とすることができ、徐放性薬剤の基材用樹脂として有用である。
【0034】
すなわち、本発明の共重合体と、薬剤とから構成される徐放性薬剤を得ることができる。この徐放性薬剤は、共重合体により外相を構成し、内相として薬剤を含むカプセル状の徐放性薬剤であってもよいし、本発明の共重合体と薬剤との混合物で構成されるスフェア状の形態を有する徐放性薬剤であってもよい。
【0035】
〔実施例〕
次に、本発明を、実施例によりさらに具体的に説明する。なお、実施例中の物性値その他は以下の方法により測定した。
(1)ポリマーの重量平均分子量(Mw)
試料をクロロホルムに溶解し(濃度0.1質量%)、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)により、ポリマーの重量平均分子量(Mw)を求めた。標準物質にはポリスチレンを用いた。
(2)ポリマーの着色度
テストポリマーを1質量%となるようにアセトンに溶解させ、アセトン溶液のYI(yellow index)を、色度色彩計によって評価した。
(3)反応器の腐食
反応器から反応溶液を取り出したあと、反応器に付着した共重合体をアセトンで溶解除去したのち、洗浄し、付着したアセトンを乾燥した。反応器の内側を、反応前の状態と比較して光沢がなくなりすり状に腐食されていないか目視確認した。
【0036】
<実施例1>
撹拌装置、脱気口をつけたステンレス製反応器に富士フィルム和光純薬(株)製品のL-アスパラギン酸8.45g(0.063モル)及びピュラック社製品のL-ラクタイド88.1g(0.611モル)および富士フィルム和光純薬(株)製品の90%乳酸5.1g(乳酸総モル数に対して4モル%)を装入した。この場合、仕込みのアスパラギン酸モル数と乳酸総モル数との比は1:20になる。反応器を180℃のオイルバスに浸漬し、窒素を流しながら常圧で撹拌した。融点98℃のラクタイドが溶融し、不溶のアスパラギン酸の白色粉末が浮遊した状態で加熱を続行した。30分~1時間程度で粉末は次第に消滅し、黄色の反応液の粘度が上昇した。加熱開始から4時間経過後、窒素を止め、160℃にして反応系を徐々に減圧にし、2時間後には5mmHgに達した。減圧を始めてから160℃で31時間(重合開始から35時間)加熱を続けた後、反応器をオイルバスから取り出し、反応溶液を取り出して冷却固化させた。得られた薄黄褐色透明の固体を粉砕し、粉末状ポリマーを得た。ステンレスの反応器の状態を確認したところ、腐食は全く見られなかった。得られたポリマーの重合平均分子量(Mw)は8800、黄色度(YI)は7.9であった。各重合時間ごとの重合平均分子量(Mw)と黄色度(YI)の結果を表2に示す。
【0037】
<実施例2>
撹拌装置、脱気口をつけたステンレス製反応器に富士フィルム和光純薬(株)製品のL-アスパラギン酸8.45g(0.063モル)及びピュラック社製品のL-ラクタイド73.3g(0.509モル)および富士フィルム和光純薬(株)製品の90%乳酸25.5g(乳酸総モル数に対して20モル%)を装入した。この場合、仕込みのアスパラギン酸モル数と乳酸総モル数との比は1:20 になる。反応器を180℃のオイルバスに浸漬し、窒素を流しながら常圧で撹拌した。融点98℃のラクタイドが溶融し、不溶のアスパラギン酸の白色粉末が浮遊した状態で加熱を続行した。30分~1時間程度で粉末は次第に消滅し、黄色の反応液の粘度が上昇した。加熱開始から4時間経過後、窒素を止め、160℃にして反応系を徐々に減圧にし、2時間後には5mmHgに達した。減圧始めてから160℃で31時間(重合開始から35時間)加熱を続けた後、反応器をオイルバスから取り出し、反応溶液を取り出して冷却固化させた。得られた薄黄褐色透明の固体を粉砕し、粉末状ポリマーを得た。ステンレスの反応器の状態を確認したところ、重合液が接触しない反応器上部に反応器表面積全体の10%程度の面積に腐食が見られたが、反応器は使用できる状態であった。得られたポリマーの重合平均分子量(Mw)は11050、黄色度(YI)は9.2であった。各重合時間ごとの重合平均分子量(Mw)と黄色度(YI)の結果を表2に示す。
【0038】
<比較例1>
実施例1において、撹拌装置、脱気口をつけたステンレス製反応器に富士フィルム和光純薬(株)製品のL-アスパラギン酸8.45g(0.063モル)及びピュラック社製品のL-ラクタイド91.6g(0.636モル)を装入した。なお、90%乳酸は添加していない。 この場合、アスパラギン酸モル数と乳酸総モル数との比は1:20になる。反応器を180℃のオイルバスに浸漬し、窒素を流しながら常圧で4時間加熱した後、窒素を止め、160℃で反応系を徐々に減圧にし、2時間後には5mmHgに達した。減圧開始から41時間(重合開始から45時間)加熱を続けた後、反応器をオイルバスから取り出し、反応溶液を取り出して冷却固化させた。得られた黄褐色透明の固体を粉砕し、粉末状ポリマーを得た。ステンレスの反応器の状態を確認したところ、腐食は全く見られなかった。得られたポリマーの重合平均分子量(Mw)は9010、黄色度(YI)は16.6であった。各重合時間ごとの重合平均分子量(Mw)と黄色度(YI)の結果を表2に示す。
【0039】
<比較例2>
撹拌装置、脱気口をつけたステンレス製反応器に富士フィルム和光純薬(株)製品のL-アスパラギン酸8.45g(0.063モル)及びピュラック社製品のL-ラクタイド90.8g(0.630モル)および富士フィルム和光純薬(株)製品の90%乳酸1.33g(乳酸総モル数に対して1モル%)を装入した。この場合、仕込みのアスパラギン酸モル数と乳酸総モル数との比は1:20 になる。反応器を180℃のオイルバスに浸漬し、窒素を流しながら常圧で撹拌した。加熱開始から4時間たったのち、窒素を止め、160℃にして反応系を徐々に減圧にし、2時間後には5mmHgに達した。減圧始めてから160℃で41時間(重合開始から45時間)加熱を続けた後、反応器をオイルバスから取り出し、反応溶液を取り出して冷却固化させた。得られた黄褐色透明の固体を粉砕し、粉末状ポリマーを得た。ステンレスの反応器の状態を確認したところ、腐食は全く見られなかった。得られたポリマーの重合平均分子量(Mw)は9800、黄色度(YI)は18.1であった。各重合時間ごとの重合平均分子量(Mw)と黄色度(YI)の結果を表2に示す。
【0040】
<比較例3>
撹拌装置、脱気口をつけたステンレス製反応器に富士フィルム和光純薬(株)製品のL-アスパラギン酸8.45g(0.063モル)及びピュラック社製品のL-ラクタイド45.9g(0.318モル)および富士フィルム和光純薬(株)製品の90%乳酸63.9g(乳酸総モル数に対して50モル%)を装入した。この場合、アスパラギン酸モル数と乳酸総モル数との比は1:20になる。反応器を180℃のオイルバスに浸漬し、窒素を流しながら常圧で撹拌した。加熱開始から4時間たったのち、窒素を止め、160℃にして反応系を徐々に減圧にし、4時間後は14mmHg、9時間後には5mmHgに達した。減圧始めてから160℃で31時間(重合開始から35時間)加熱を続けた後、反応器をオイルバスから取り出し、反応溶液を取り出して冷却固化させた。得られた薄黄褐色透明の固体を粉砕し、粉末状ポリマーを得た。ステンレスの反応器の状態を確認したところ、重合液が接触する部分も含め反応器表面全体に光沢がなく、すり状に腐食されている状態がみられ使用できない状態になっていた。得られたポリマーの重合平均分子量(Mw)は10010、黄色度(YI)は8.9であった。各重合時間ごとの重合平均分子量(Mw)と黄色度(YI)の結果を表2に示す。
【0041】
<比較例4>
撹拌装置、脱気口をつけたステンレス製反応器に富士フィルム和光純薬(株)製品のL-アスパラギン酸8.45g(0.063モル)及び富士フィルム和光純薬(株)製品の90%乳酸127.3g(乳酸総モル数に対して100モル%)を装入した。なお、L-ラクタイドは使用していない。この場合、アスパラギン酸モル数と乳酸総モル数との比は1:20 になる。反応器を180℃のオイルバスに浸漬し、窒素を流しながら常圧で撹拌した。加熱開始から4時間たったのち、窒素を止め、160℃にして反応系を徐々に減圧にし、4時間後は10mmHg、8時間後には5mmHgに達した。減圧始めてから160℃で31時間(重合開始から35時間)加熱を続けた後、反応器をオイルバスから取り出し、反応溶液を取り出して冷却固化させた。得られた薄黄褐色透明の固体を粉砕し、粉末状ポリマーを得た。ステンレスの反応器の状態を確認したところ、重合液が接触する部分も含め反応器表面全体に光沢がなく、すり状に腐食されている状態がみられ使用できない状態になっていた。得られたポリマーの重合平均分子量(Mw)は8500、黄色度(YI)は8.4であった。各重合時間ごとの重合平均分子量(Mw)と黄色度(YI)の結果を表2に示す。
【0042】
【0043】
【0044】
実施例1~2及び比較例1~4について、反応開始から4時間目、8時間目、17時間、25時間、35時間、さらに比較例1~2のみ45時間経過時の共重合体の重合平均分子量(Mw)と黄色度(YI)を評価し、反応時間との関係を表2に記載した。なお、反応開始4時間目までは常圧、180℃反応で行い、4時間目以降は減圧下160℃で行っている。
【0045】
表2より、乳酸を使用していない又は量が少ない比較例1~2に対して、乳酸量が多い実施例1~2は、反応速度が高いため短時間に、高分子量の共重合体が得られている。また着色を見たYI値をみても、得られた共重合体は、着色が少ない。
【0046】
更に乳酸量を多くした比較例3~4は、反応速度やYI値については実施例1~2と同じ効果は見られているが、乳酸の酸成分によりステンレス反応器内部全体が腐食されている状態が見られている。
【0047】
乳酸量を適切な量を使用することにより、短時間で高分子量且つ着色が少ない共重合体を得ることができた。この共重合体は、触媒などを含まないために、医薬品や化粧品などの徐放性薬剤用の基材に有用である。