IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 信越ポリマー株式会社の特許一覧

特許7291555導電性高分子含有液、並びに導電性フィルム及びその製造方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-07
(45)【発行日】2023-06-15
(54)【発明の名称】導電性高分子含有液、並びに導電性フィルム及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 65/00 20060101AFI20230608BHJP
   C08L 25/18 20060101ALI20230608BHJP
   C08K 5/3435 20060101ALI20230608BHJP
   C08K 5/13 20060101ALI20230608BHJP
   C08K 5/05 20060101ALI20230608BHJP
   H01B 1/20 20060101ALI20230608BHJP
   H01B 5/14 20060101ALN20230608BHJP
【FI】
C08L65/00
C08L25/18
C08K5/3435
C08K5/13
C08K5/05
H01B1/20 Z
H01B1/20 B
H01B5/14 A
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2019118360
(22)【出願日】2019-06-26
(65)【公開番号】P2021004300
(43)【公開日】2021-01-14
【審査請求日】2022-01-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000190116
【氏名又は名称】信越ポリマー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【弁理士】
【氏名又は名称】伏見 俊介
(72)【発明者】
【氏名】神戸 康平
(72)【発明者】
【氏名】松林 総
【審査官】佐藤 貴浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-024304(JP,A)
【文献】特開2012-243460(JP,A)
【文献】特開2009-235127(JP,A)
【文献】特開2011-216468(JP,A)
【文献】特開2015-110745(JP,A)
【文献】特開2010-168445(JP,A)
【文献】特開平05-059311(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
H01B 1/20
H01B 5/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体と、下記化学式(A)で表される含窒素環式化合物の1種以上とを含有する、導電性高分子含有液。
【化1】
[式(A)中、 が水素原子、水酸基、炭素数1~3のアルキル基又は炭素数1~2のアルコキシ基であり、前記アルキル基の水素原子の1つ以上が水酸基に置換されていてもよく、R ~R11は、それぞれ独立に、水素原子又は任意の置換基を表す。]
【請求項2】
前記化学式(A)において、前記任意の置換基が、炭素数1~14のアルキル基、炭素数1~14のアルコキシ基、水酸基、アミノ基、又はカルボキシ基であり、これらの置換基が有する水素原子は別の置換基に置換されていてもよい、請求項1に記載の導電性高分子含有液。
【請求項3】
前記含窒素環式化合物が、4-ヒドロキシ-1,2,2,6,6-ペンタメチルピペリジン、1-メチルピペリジン、ピペリジン、4-ヒドロキシピペリジン、4-ヒドロキシ-1-メチルピペリジン及び4-ヒドロキシ-1-(2-ヒドロキシエチル)-2,2,6,6-テトラメチルピペリジンから選択される1種以上を含む、請求項1又は2に記載の導電性高分子含有液。
【請求項4】
前記含窒素環式化合物の含有量G1と、前記ポリアニオンのモノマー単位の含有量G2とのモル比が、G2=1に対して、G1≧0.25である、請求項1~3の何れか一項に記載の導電性高分子含有液。
【請求項5】
前記π共役系導電性高分子がポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)である、請求項1~4の何れか一項に記載の導電性高分子含有液。
【請求項6】
前記ポリアニオンがポリスチレンスルホン酸である、請求項1~5の何れか一項に記載の導電性高分子含有液。
【請求項7】
フェノール系酸化防止剤の1種以上をさらに含む、請求項1~6の何れか一項に記載の導電性高分子含有液。
【請求項8】
前記フェノール系酸化防止剤が、ガリック酸、ガリック酸メチル、ガリック酸エチル及びガリック酸プロピルから選択される1種以上を含む、請求項7に記載の導電性高分子含有液。
【請求項9】
バインダ成分をさらに含有する、請求項1~8の何れか一項に記載の導電性高分子含有液。
【請求項10】
前記バインダ成分が、エポキシ基及びオキセタン基のうち少なくとも一方を有する硬化性モノマー又はオリゴマーを含む、請求項9記載の導電性高分子含有液。
【請求項11】
前記バインダ成分が、アクリル樹脂又はポリエステル樹脂を含む、請求項9に記載の導電性高分子含有液。
【請求項12】
水及びアルコール系溶剤の少なくとも一方をさらに含む、請求項1~11の何れか一項に記載の導電性高分子含有液。
【請求項13】
1気圧における沸点が150℃以上である高沸点溶剤をさらに含む、請求項1~12の何れか一項に記載の導電性高分子含有液。
【請求項14】
フィルム基材の少なくとも一方の面に、請求項1~13の何れか一項に記載の導電性高分子含有液を塗工し、塗膜を形成することを含む、導電性フィルムの製造方法。
【請求項15】
フィルム基材の少なくとも一方の面に、π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体と、下記化学式(A)で表される含窒素環式化合物の1種以上とを含む導電層が備えられた、導電性フィルム。
【化2】
[式(A)中、 が水素原子、水酸基、炭素数1~3のアルキル基又は炭素数1~2のアルコキシ基であり、前記アルキル基の水素原子の1つ以上が水酸基に置換されていてもよく、R ~R11は、それぞれ独立に、水素原子又は任意の置換基を表す。]
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性高分子含有液、並びに導電性フィルム及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
主鎖がπ共役系で構成されているπ共役系導電性高分子は、アニオン基を有するポリアニオンがドープすることによって導電性複合体を形成し、水に対する分散性が生じる。導電性複合体を含有する導電性高分子含有液(導電性高分子分散液ということもある。)をフィルム基材等に塗工することにより、導電層を備えた導電性フィルムを製造することができる。しかし、導電性複合体を含む導電層は、大気暴露によって導電性が経時的に低下する問題がある。この問題を軽減する方法として、導電層に酸化防止剤を含有させる方法が開示されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5509462号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
また、導電層には、大気暴露だけでなく紫外線等の光に対する耐光性の向上も求められているが、特許文献1に記載の酸化防止剤を添加する方法では必ずしも充分な耐光性は得られない。
【0005】
本発明は、耐光性が優れる導電性フィルムと、これを容易に製造できる製造方法、並びに、その製造方法において使用する導電性高分子含有液を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
[1] π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体と、下記化学式(A)で表される含窒素環式化合物の1種以上とを含有する、導電性高分子含有液。
[2] 下記化学式(A)において、Rが水素原子、オキシル基、水酸基、炭素数1~3のアルキル基又は炭素数1~2のアルコキシ基であり、前記アルキル基の水素原子の1つ以上が水酸基に置換されていてもよく、R~R11がそれぞれ独立に炭素数1~3のアルキル基、炭素数1~2のアルコキシ基又は水酸基であり、前記アルキル基の水素原子の1つ以上が水酸基に置換されていてもよい、[1]に記載の導電性高分子含有液。
[3] 前記含窒素環式化合物が、4-ヒドロキシ-1,2,2,6,6-ペンタメチルピペリジン、1-メチルピペリジン、ピペリジン、4-ヒドロキシピペリジン、4-ヒドロキシ-1-メチルピペリジン、4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル、及び4-ヒドロキシ-1-(2-ヒドロキシエチル)-2,2,6,6-テトラメチルピペリジンから選択される1種以上を含む、[1]又は[2]に記載の導電性高分子含有液。
[4] 前記含窒素環式化合物の含有量G1と、前記ポリアニオンのモノマー単位の含有量G2とのモル比が、G2=1に対して、G1≧0.25である、[1]~[3]の何れか一項に記載の導電性高分子含有液。
[5] 前記π共役系導電性高分子がポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)である、[1]~[4]の何れか一項に記載の導電性高分子含有液。
[6] 前記ポリアニオンがポリスチレンスルホン酸である、[1]~[5]の何れか一項に記載の導電性高分子含有液。
[7] フェノール系酸化防止剤の1種以上をさらに含む、[1]~[6]の何れか一項に記載の導電性高分子含有液。
[8] 前記フェノール系酸化防止剤が、ガリック酸、ガリック酸メチル、ガリック酸エチル及びガリック酸プロピルから選択される1種以上を含む、[7]に記載の導電性高分子含有液。
[9] バインダ成分をさらに含有する、[1]~[8]の何れか一項に記載の導電性高分子含有液。
[10] 前記バインダ成分が、エポキシ基及びオキセタン基のうち少なくとも一方を有する硬化性モノマー又はオリゴマーを含む、[9]の何れか一項に記載の導電性高分子含有液。
[11] 前記バインダ成分が、アクリル樹脂又はポリエステル樹脂を含む、[9]に記載の導電性高分子含有液。
[12] 水及びアルコール系溶剤の少なくとも一方をさらに含む、[1]~[11]の何れか一項に記載の導電性高分子含有液。
[13] 1気圧における沸点が150℃以上である高沸点溶剤をさらに含む、[1]~[12]の何れか一項に記載の導電性高分子含有液。
[14] フィルム基材の少なくとも一方の面に、[1]~[13]の何れか一項に記載の導電性高分子含有液を塗工し、塗膜を形成することを含む、導電性フィルムの製造方法。
[15] フィルム基材の少なくとも一方の面に、π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体と、下記化学式(A)で表される含窒素環式化合物の1種以上とを含む導電層が備えられた、導電性フィルム。
【0007】
【化1】
[式(A)中、R~R11は、それぞれ独立に、水素原子又は任意の置換基を表す。]
【発明の効果】
【0008】
本発明の導電性高分子含有液及びこれを用いた導電性フィルムの製造方法によれば、耐光性が優れる導電層を備えた導電性フィルムを容易に製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
≪導電性高分子含有液≫
本発明の第一態様の導電性高分子含有液は、π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体と、後述する化学式(A)で表される含窒素環式化合物の1種以上と、を含有する。また、塗工に適した粘度に希釈する等の目的に応じて、水や有機溶剤等の溶媒を含んでいてもよい。
本発明の導電性高分子含有液において、導電性複合体は、分散状態であってもよいし、溶解状態であってもよい。
【0010】
[導電性複合体]
本態様における導電性複合体は、π共役系導電性高分子とポリアニオンとを含む。導電性複合体中のポリアニオンはπ共役系導電性高分子にドープして、導電性を有する導電性複合体を形成している。
【0011】
(π共役系導電性高分子)
π共役系導電性高分子としては、主鎖がπ共役系で構成されている有機高分子であればよく、例えば、ポリピロール系導電性高分子、ポリチオフェン系導電性高分子、ポリアセチレン系導電性高分子、ポリフェニレン系導電性高分子、ポリフェニレンビニレン系導電性高分子、ポリアニリン系導電性高分子、ポリアセン系導電性高分子、ポリチオフェンビニレン系導電性高分子、及びこれらの共重合体等が挙げられる。空気中での安定性の点からは、ポリピロール系導電性高分子、ポリチオフェン類及びポリアニリン系導電性高分子が好ましく、透明性の面から、ポリチオフェン系導電性高分子がより好ましい。
【0012】
ポリチオフェン系導電性高分子としては、ポリチオフェン、ポリ(3-メチルチオフェン)、ポリ(3-エチルチオフェン)、ポリ(3-プロピルチオフェン)、ポリ(3-ブチルチオフェン)、ポリ(3-ヘキシルチオフェン)、ポリ(3-ヘプチルチオフェン)、ポリ(3-オクチルチオフェン)、ポリ(3-デシルチオフェン)、ポリ(3-ドデシルチオフェン)、ポリ(3-オクタデシルチオフェン)、ポリ(3-ブロモチオフェン)、ポリ(3-クロロチオフェン)、ポリ(3-ヨードチオフェン)、ポリ(3-シアノチオフェン)、ポリ(3-フェニルチオフェン)、ポリ(3,4-ジメチルチオフェン)、ポリ(3,4-ジブチルチオフェン)、ポリ(3-ヒドロキシチオフェン)、ポリ(3-メトキシチオフェン)、ポリ(3-エトキシチオフェン)、ポリ(3-ブトキシチオフェン)、ポリ(3-ヘキシルオキシチオフェン)、ポリ(3-ヘプチルオキシチオフェン)、ポリ(3-オクチルオキシチオフェン)、ポリ(3-デシルオキシチオフェン)、ポリ(3-ドデシルオキシチオフェン)、ポリ(3-オクタデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジヒドロキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジメトキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジエトキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジプロポキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジブトキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジヘキシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジヘプチルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジオクチルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジドデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4-プロピレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ブチレンジオキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-メトキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-エトキシチオフェン)、ポリ(3-カルボキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシエチルチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシブチルチオフェン)が挙げられる。
ポリピロール系導電性高分子としては、ポリピロール、ポリ(N-メチルピロール)、ポリ(3-メチルピロール)、ポリ(3-エチルピロール)、ポリ(3-n-プロピルピロール)、ポリ(3-ブチルピロール)、ポリ(3-オクチルピロール)、ポリ(3-デシルピロール)、ポリ(3-ドデシルピロール)、ポリ(3,4-ジメチルピロール)、ポリ(3,4-ジブチルピロール)、ポリ(3-カルボキシピロール)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシピロール)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシエチルピロール)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシブチルピロール)、ポリ(3-ヒドロキシピロール)、ポリ(3-メトキシピロール)、ポリ(3-エトキシピロール)、ポリ(3-ブトキシピロール)、ポリ(3-ヘキシルオキシピロール)、ポリ(3-メチル-4-ヘキシルオキシピロール)が挙げられる。
ポリアニリン系導電性高分子としては、ポリアニリン、ポリ(2-メチルアニリン)、ポリ(3-イソブチルアニリン)、ポリ(2-アニリンスルホン酸)、ポリ(3-アニリンスルホン酸)が挙げられる。
これらのπ共役系導電性高分子のなかでも、導電性、透明性、耐熱性の点から、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)が特に好ましい。
導電性複合体に含まれるπ共役系導電性高分子は、1種類でもよいし、2種類以上でもよい。
【0013】
(ポリアニオン)
ポリアニオンは、アニオン基を有するモノマー単位を、分子内に2つ以上有する重合体である。このポリアニオンのアニオン基は、π共役系導電性高分子に対するドーパントとして機能して、π共役系導電性高分子の導電性を向上させる。
ポリアニオンのアニオン基としては、スルホ基、またはカルボキシ基であることが好ましい。
このようなポリアニオンの具体例としては、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、ポリアリルスルホン酸、スルホ基を有するポリアクリル酸エステル、スルホ基を有するポリメタクリル酸エステル(例えば、ポリ(4-スルホブチルメタクリレート、ポリスルホエチルメタクリレート、ポリメタクリロイルオキシベンゼンスルホン酸)、ポリ(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸)、ポリイソプレンスルホン酸等のスルホ基を有する高分子や、ポリビニルカルボン酸、ポリスチレンカルボン酸、ポリアリルカルボン酸、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリ(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンカルボン酸)、ポリイソプレンカルボン酸等のカルボキシ基を有する高分子が挙げられる。ポリアニオンは、単一のモノマーが重合した単独重合体であってもよいし、2種以上のモノマーが重合した共重合体であってもよい。
これらポリアニオンのなかでも、導電性をより高くできることから、スルホ基を有する高分子が好ましく、ポリスチレンスルホン酸がより好ましい。
前記ポリアニオンは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
ポリアニオンの質量平均分子量は2万以上100万以下であることが好ましく、10万以上50万以下であることがより好ましい。質量平均分子量は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィを用いて測定し、ポリスチレン換算で求めた質量基準の平均分子量である。
【0014】
導電性複合体中の、ポリアニオンの含有割合は、π共役系導電性高分子100質量部に対して1質量部以上1000質量部以下の範囲であることが好ましく、10質量部以上700質量部以下であることがより好ましく、100質量部以上500質量部以下の範囲であることがさらに好ましい。ポリアニオンの含有割合が前記下限値以上であれば、π共役系導電性高分子へのドーピング効果が強くなる傾向にあり、導電性がより高くなる。一方、ポリアニオンの含有量が前記上限値以下であれば、π共役系導電性高分子を充分に含有させることができるから、充分な導電性を確保できる。
【0015】
導電性複合体中のポリアニオンにおいては、アニオン基の全てがπ共役系導電性高分子にドープしてはおらず、ドープに関与しない余剰のアニオン基がある。この余剰のアニオン基は親水基であり、アニオン基が修飾されていない導電性複合体の分散性は、水系分散媒においては高く、有機溶剤においては低い。
【0016】
(導電性複合体の含有量)
導電性高分子含有液の総質量に対する、導電性複合体の含有量は、分散性を高める観点から、例えば、0.01質量%以上10質量%以下が好ましく、0.1質量%以上5質量%以下がより好ましく、0.2質量%以上2質量%以下がさらに好ましい。
【0017】
[含窒素環式化合物]
本実施形態の導電性高分子含有液は、下記化学式(A)で表される含窒素環式化合物(以下、含窒素環式化合物(A)という。)を含む。含窒素環式化合物(A)を含むことにより、導電層に耐光性を付与することができる。
【0018】
【化2】
【0019】
前記化学式(A)におけるR~R11は、各々独立して、水素原子又は任意の置換基である。
任意の置換基としては、例えば、炭素数1~14のアルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等)、炭素数1~14のアルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等)、水酸基、アミノ基、カルボキシ基等が挙げられる。これらの置換基が有する水素原子は、さらに別の置換基(例えば、(メタ)アクリロイルオキシ基、カルボキシ基、水酸基、エポキシ基、アミノ基、トリアルコキシシリル基、ハロゲン(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子)等)に置換されていてもよい。
【0020】
含窒素環式化合物(A)を含むことによる効果を高める観点から、前記化学式(A)において、Rが水素原子、オキシル基(即ち、水酸基からプロトンを除いた基、オキシラジカル基)、水酸基、炭素数1~3のアルキル基又は炭素数1~2のアルコキシ基であり、前記アルキル基の水素原子の1つ以上が水酸基に置換されていてもよく、R~R11がそれぞれ独立に炭素数1~3のアルキル基、炭素数1~2のアルコキシ基又は水酸基であり、前記アルキル基の水素原子の1つ以上が水酸基に置換されていてもよい、ことが好ましい。
また、Rが水素原子、1つ以上の水素原子が水酸基によって置換されていてもよい炭素数1~3のアルキル基又はオキシル基であり、R~R11がそれぞれ独立に炭素数1~3のアルキル基又は水酸基であることがより好ましい。
さらに、Rが水素原子、炭素数1のアルキル基又はオキシル基であり、R~R及びR10~R11がそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1~3のアルキル基であり、R~R及びR~Rが水素原子であり、R~Rのうち一方が水素原子であり、他方が水素原子又は水酸基であることがさらに好ましい。
【0021】
上記のような好適な含窒素環式化合物(A)として、例えば、4-ヒドロキシ-1,2,2,6,6-ペンタメチルピペリジン、1-メチルピペリジン、ピペリジン、4-ヒドロキシピペリジン、4-ヒドロキシ-1-メチルピペリジン、4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル、4-ヒドロキシ-1-(2-ヒドロキシエチル)-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン等が挙げられる。
【0022】
本態様の導電性高分子含有液に含まれるが含窒素環式化合物(A)は、1種類でもよいし、2種類以上でもよい。
本態様に含まれる含窒素環式化合物(A)の含有量G1と、前記ポリアニオンのモノマー単位の含有量G2とのモル比が、G2=1に対して、G1≧0.25が好ましく、G1≧0.5がより好ましく、G1≧0.75がさらに好ましく、G1≧1.0が特に好ましい。G1の含有比が高まるほど、耐光性が向上する傾向がある。
前記含有量G1の上限値は特に制限されず、形成される導電層における導電性複合体の含有比をなるべく高め、良好な導電性を得る観点から、例えば、G1≦10が好ましく、G1≦5がより好ましく、G1≦3がさらに好ましい。
【0023】
本態様に含まれる含窒素環式化合物(A)の合計の含有量は、導電性複合体100質量部に対して、1質量部以上1000質量部以下であることが好ましく、10質量部以上500質量部以下であることがより好ましく、50質量部以上300質量部以下であることがさらに好ましい。含窒素環式化合物(A)の含有量が前記下限値以上であれば、導電層の耐光性をより向上させることができる。一方、含窒素環式化合物(A)の含有量が前記上限値以下であれば、導電性複合体の含有割合低下による導電性低下を抑制できる。
【0024】
[分散媒]
導電性高分子含有液は、水及び有機溶剤のうちの少なくとも一方の溶媒をさらに含んでいることが好ましい。ここで、分散媒は、含窒素環式化合物(A)以外の化合物である。
水又は有機溶剤は、含窒素環式化合物(A)を溶解し、導電性複合体を分散又は溶解することができるので、分散媒又は溶媒ということができる。本明細書において、分散と溶解とを区別せずに単に分散ということがあり、分散媒と溶媒とを区別せずに単に分散媒ということがある。
本態様の導電性高分子含有液が分散媒を含むと、導電性複合体の分散性を向上させることができるので好ましい。
【0025】
(有機溶剤)
本態様における有機溶剤は、水溶性有機溶剤でもよいし、非水溶性有機溶剤でもよいし、水溶性有機溶剤及び非水溶性有機溶剤の混合溶剤でもよい。ここで、水溶性有機溶剤は、20℃の水100gに対する溶解量が1g以上の有機溶剤であり、非水溶性有機溶剤は、20℃の水100gに対する溶解量が1g未満の有機溶剤である。
導電性複合体の分散性を向上させる観点から、水溶性有機溶剤が好ましい。
【0026】
水溶性有機溶剤としては、例えば、アルコール系溶剤、エーテル系溶剤、ケトン系溶剤、窒素原子含有溶剤等が挙げられる。
アルコール系溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール(イソプロパノール)、2-メチル-2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、2-メチル-1-プロパノール、アリルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル等が挙げられる。
エーテル系溶剤としては、例えば、ジエチルエーテル、ジメチルエーテル、プロピレングリコールジアルキルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル等が挙げられる。
ケトン系溶剤としては、例えば、ジエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルブチルケトン、メチルイソプロピルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルアミルケトン、ジイソプロピルケトン、メチルエチルケトン、アセトン、ジアセトンアルコール等が挙げられる。
窒素原子含有溶剤としては、例えば、N-メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド等が挙げられる。ここで、窒素原子含有溶剤は、前記含窒素環式化合物(A)とは異なる化合物である。
【0027】
水溶性有機溶剤は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
導電性高分子含有液のフィルム基材に対する塗工性が良好になることから、水溶性有機溶剤としてはアルコール系溶剤又はケトン系溶剤が好ましい。
【0028】
フィルム基材に塗工した導電性高分子含有液の塗膜の乾燥が比較的緩やかに進み、均一な導電層の形成が容易になる観点から、前記分散媒は、1気圧(101325パスカル)における沸点が150℃以上である高沸点溶剤を含むことが好ましい。
【0029】
高沸点溶剤の具体例と、その1気圧における沸点を以下に示す。なお、沸点は小数点以下を四捨五入して示す。
高沸点のアルコール系溶剤としては、例えば、エチレングリコール(沸点198℃)、プロピレングリコール(沸点188℃)、1,3-プロパンジオール(沸点214℃)、1,4-ブタンジオール(沸点230℃)等の多価アルコールが挙げられる。
高沸点のエーテル系溶剤としては、例えば、プロピレングリコールジメチルエーテル(沸点175℃)、ジエチレングリコールジエチルエーテル(沸点188℃)等が挙げられる。
高沸点のケトン系溶剤としては、例えば、メチルアミルケトン(沸点151℃)、ジアセトンアルコール(沸点168℃)等が挙げられる。
高沸点の窒素原子含有溶剤としては、例えば、N-メチルピロリドン(沸点202℃)、ジメチルアセトアミド(沸点165℃)、N,N-ジメチルホルムアミド(沸点153℃)等が挙げられる。
高沸点の硫黄原子含有溶剤としては、例えば、ジメチルスルホキシド(沸点189℃)等が挙げられる。
【0030】
以上で例示した高沸点溶剤の中でも、前記塗膜の基材に対する優れた接着性と導電性が得られることから、ジメチルスルホキシド(沸点189℃)、N,N-ジメチルホルムアミド(沸点153℃)、エチレングリコール(沸点198℃)、プロピレングリコール(沸点188℃)、1,3-プロパンジオール(沸点214℃)、又は1,4-ブタンジオール(沸点230℃)が好ましく、プロピレングリコールがより好ましい。
【0031】
高沸点溶剤の含有割合は導電性複合体100質量部に対して、10質量部以上10000質量部以下であることが好ましく、100質量部以上5000質量部以下であることがより好ましく、200質量部以上2500質量部以下であることがさらに好ましい。高沸点溶剤の含有割合が前記下限値以上であれば、高沸点溶剤の添加による上記効果が充分に発揮され、前記上限値以下であれば、π共役系導電性高分子濃度の低下に起因する導電性の低下を防止できる。
【0032】
(水系分散媒)
本態様における導電性複合体の分散性を向上させる観点から、水系分散媒を含むことが好ましい。
水系分散媒は、水、又は水と水溶性有機溶剤との混合液である。水溶性有機溶剤としては、アルコール系溶剤、ケトン系溶剤、エステル系溶剤が挙げられる。水溶性有機溶剤は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
水系分散媒の総質量に対する水の含有量は、50質量%超であり、60質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、100質量%であってもよい。
【0033】
(バインダ成分)
導電性高分子含有液は、バインダ成分を含んでいてもよい。バインダ成分は、含窒素環式化合物(A)、前記π共役系導電性高分子及び前記ポリアニオン以外の樹脂又はその前駆体であり、熱可塑性樹脂、又は、導電層形成時に硬化する硬化性のモノマー又はオリゴマーである。熱可塑性樹脂はそのままバインダ樹脂となり、硬化性のモノマー又はオリゴマーは硬化により形成した樹脂がバインダ樹脂となる。
バインダ成分は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0034】
バインダ成分由来のバインダ樹脂の具体例としては、例えば、エポキシ樹脂、アクリル樹脂(アクリル化合物)、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテル樹脂、メラミン樹脂、シリコーン等が挙げられる。
【0035】
硬化性のモノマー又はオリゴマーは、熱硬化性のモノマー又はオリゴマーであってもよいし、光硬化性のモノマー又はオリゴマーであってもよい。ここで、オリゴマーは、質量平均分子量が1万未満の重合体のことである。
硬化性のモノマーとしては、例えば、アクリルモノマー(アクリル化合物)、エポキシモノマー、オルガノシロキサン等が挙げられる。硬化性のオリゴマーとしては、例えば、アクリルオリゴマー(アクリル化合物)、エポキシオリゴマー、シリコーンオリゴマー(硬化型シリコーン)等が挙げられる。
バインダ成分としてアクリルモノマー又はアクリルオリゴマーを用いた場合には、加熱又は光照射により容易に硬化させることができる。
【0036】
硬化性のモノマー又はオリゴマーを含む場合には、さらに硬化触媒を含むことが好ましい。例えば、熱硬化性のモノマー又はオリゴマーを含む場合には、加熱によりラジカルを発生させる熱重合開始剤を含むことが好ましく、光硬化性のモノマー又はオリゴマーを含む場合には、光照射によりラジカルを発生させる光重合開始剤を含むことが好ましい。
【0037】
バインダ成分として硬化性のモノマー又はオリゴマーを含む場合、バインダ成分の硬化性を高める観点から、前記モノマー又はオリゴマーは、エポキシ基及びオキセタン基のうち少なくとも一方の官能基を有することが好ましい。エポキシ基又はオキセタン基を有するモノマー又はオリゴマー(プレポリマー)が硬化することにより、エポキシ樹脂が形成される。
【0038】
導電性高分子含有液の分散媒が水系分散媒である場合、含有するバインダ樹脂としては、水分散性樹脂が好ましく、水分散性エマルション樹脂がより好ましい。水分散性樹脂は、エマルション樹脂又は水溶性樹脂である。
【0039】
水分散性エマルション樹脂の具体例としては、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリイミド樹脂、メラミン樹脂等であって、乳化剤によってエマルションにされたものが挙げられる。なかでも、導電性高分子含有液をフィルム基材に塗工した塗膜の強度が高くなり、塗膜のフィルム基材に対する密着性が高くなることから、ポリエステルエマルションが好ましい。
【0040】
水溶性樹脂の具体例としては、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリイミド樹脂、メラミン樹脂であって、カルボキシ基やスルホ基等の酸基又はその塩を有するものが挙げられる。ここで、水溶性樹脂は、25℃の蒸留水100gに、1g以上、好ましくは5g以上、より好ましくは10g以上溶解するものが好ましい。
【0041】
水分散性樹脂が有するカルボキシ基、スルホ基等の酸基は、ナトリウムイオンやカリウムイオン等のカチオンと塩を形成していてもよい。
【0042】
導電性高分子含有液におけるバインダ成分の含有割合は、導電性複合体100質量部に対して、10質量部以上10000質量部以下であることが好ましく、50質量部以上1000質量部以下であることがより好ましい。バインダ成分の含有割合が前記下限値以上であれば、導電性高分子含有液をフィルム基材に塗工する際の製膜性と膜強度を向上させることができる。バインダ成分の含有割合が前記上限値以下であれば、導電性複合体の含有割合の低下による導電性の低下を抑制することができる。
【0043】
(高導電化剤)
導電性高分子含有液は、導電性をより向上させるために、高導電化剤を含んでもよい。
高導電化剤は、糖類、窒素含有芳香族性環式化合物、2個以上のヒドロキシ基を有する化合物、2個以上のカルボキシル基を有する化合物、1個以上のヒドロキシ基および1個以上のカルボキシ基を有する化合物、アミド基を有する化合物、イミド基を有する化合物、ラクタム化合物、グリシジル基を有する化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物であることが好ましい。
ただし、高導電化剤は、前述したπ共役系導電性高分子、ポリアニオン、分散媒、含窒素環式化合物(A)、及びバインダ成分以外の化合物である。
高導電化剤のなかでも、導電性向上の効果が高いことから、ヒドロキシ基を2つ有する直鎖状化合物であるグリコールが好ましく、プロピレングリコールがより好ましい。
導電性高分子含有液に含まれる高導電化剤は1種でもよいし、2種以上でもよい。
【0044】
高導電化剤の含有割合は導電性複合体100質量部に対して、10質量部以上10000質量部以下であることが好ましく、100質量部以上5000質量部以下であることがより好ましく、200質量部以上2500質量部以下であることがさらに好ましい。高導電化剤の含有割合が前記下限値以上であれば、高導電化剤の添加による導電性向上効果が充分に発揮され、前記上限値以下であれば、π共役系導電性高分子濃度の低下に起因する導電性の低下を防止できる。
【0045】
[その他の添加剤]
導電性高分子含有液には、その他の添加剤が含まれてもよい。
添加剤としては、本発明の効果が得られる限り特に制限されず、例えば、界面活性剤、無機導電剤、消泡剤、カップリング剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤などを使用できる。
ただし、添加剤は、前述したπ共役系導電性高分子、ポリアニオン、分散媒、含窒素環式化合物(A)、バインダ成分、及び高導電化剤以外のものである。
界面活性剤としては、ノニオン系、アニオン系、カチオン系の界面活性剤が挙げられるが、保存安定性の面からノニオン系が好ましい。また、ポリビニルピロリドンなどのポリマー系界面活性剤を添加してもよい。
無機導電剤としては、金属イオン類、導電性カーボン等が挙げられる。なお、金属イオンは、金属塩を水に溶解させることにより生成させることができる。
消泡剤としては、シリコーン樹脂、ポリジメチルシロキサン、シリコーンオイル等が挙げられる。
カップリング剤としては、エポキシ基、ビニル基又はアミノ基を有するシランカップリング剤等が挙げられる。
酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、糖類等が挙げられる。
紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、サリシレート系紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤、オキサニリド系紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系紫外線吸収剤、ベンゾエート系紫外線吸収剤等が挙げられる。
【0046】
導電性高分子含有液が前記添加剤を含有する場合、その含有割合は、添加剤の種類に応じて適宜決められるが、例えば、導電性複合体100質量部に対して、0.001質量部以上5質量部以下の範囲とすることができる。
【0047】
(酸化防止剤)
本態様の導電性高分子含有液から形成される導電層の酸化劣化を防ぐために、導電性高分子含有液には酸化防止剤が含まれていてもよい。
前述した酸化防止剤の例のなかでも、導電層の酸化防止性が高いことから、フェノール系酸化防止剤が好ましい。フェノール系酸化防止剤のなかでは、ガリック酸(没食子酸)及びガリック酸のエステルのうち少なくとも一方が好ましい。ガリック酸及びガリック酸のエステルは、高い酸化防止性能を発揮すると共に導電性を向上させる効果も有する。
ガリック酸のエステルとしては、例えば、ガリック酸メチル、ガリック酸エチル、ガリック酸プロピルが挙げられる。
【0048】
本態様の導電性高分子含有液において、酸化防止剤の含有量は導電性複合体100質量部に対して10質量部以上10000質量部以下であることが好ましく、20質量部以上1000質量部以下であることがより好ましい。酸化防止剤の含有量が前記下限値以上であれば、導電性高分子含有液から形成される導電層の酸化防止性がより高くなり、前記上限値以下であれば、導電性高分子含有液から形成される導電層の導電性低下を防ぐことができる。
【0049】
≪導電性高分子含有液の製造方法≫
本発明の導電性高分子含有液は、例えば、下記(a)~(b)のいずれかの方法により容易に製造することができる。
(a)π共役系導電性高分子及びポリアニオンと、水及び有機溶剤のうち少なくとも水を含む導電性高分子水系分散液に、含窒素環式化合物(A)を添加することを含む方法。
(b)π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体と、水及び有機溶剤のうち少なくとも水を含む導電性高分子水系分散液を乾燥させ、導電性複合体の乾燥体を得る工程と、前記乾燥体に、含窒素環式化合物(A)及び分散媒のうち、少なくとも含窒素環式化合物(A)を添加する工程とを含む方法。
【0050】
(a)~(b)の材料として用いる導電性高分子水系分散液は、導電性複合体が水系分散媒に分散された導電性高分子含有液である。導電性高分子水系分散液は、例えば、ポリアニオンの水系分散液に、π共役系導電性高分子を構成するモノマーを添加し、酸化重合させることによって得られる。また、導電性高分子水系分散液は、市販のものを用いてもよい。
【0051】
(b)における導電性高分子水系分散液の乾燥方法としては、凍結乾燥又は噴霧乾燥が好ましい。凍結乾燥又は噴霧乾燥して得た乾燥体は、表面積が広いので、分散媒に分散させやすい。
【0052】
含窒素環式化合物(A)を添加して得た導電性高分子含有液について、高圧ホモジナイザーを用いて、高い剪断力を付与しながら攪拌し、導電性複合体を充分に分散させる分散処理を施すことが好ましい。
【0053】
<導電性フィルムの製造方法>
本発明の第二態様の導電性フィルムの製造方法は、フィルム基材の少なくとも一方の面に、第一態様の導電性高分子含有液を塗工して、塗膜を形成することを含む。
【0054】
(フィルム基材)
フィルム基材としては、例えば、プラスチックフィルムが挙げられる。
プラスチックフィルムを構成するフィルム基材用樹脂としては、例えば、エチレン-メチルメタクリレート共重合樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアクリレート、ポリカーボネート、ポリフッ化ビニリデン、ポリアリレート、スチレン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィド、ポリイミド、セルローストリアセテート、セルロースアセテートプロピオネートなどが挙げられる。これらのフィルム基材用樹脂のなかでも、安価で機械的強度に優れる点から、ポリエチレンテレフタレートが好ましい。
【0055】
フィルム基材用の樹脂は、非晶性でもよいし、結晶性でもよい。
フィルム基材は、未延伸のものでもよいし、延伸されたものでもよい。
フィルム基材には、導電性高分子含有液から形成される導電層の密着性をさらに向上させるために、コロナ放電処理、プラズマ処理、火炎処理等の表面処理が施されてもよい。
【0056】
フィルム基材の平均厚みとしては、5μm以上500μm以下であることが好ましく、20μm以上200μm以下であることがより好ましい。フィルム基材の平均厚みが前記下限値以上であれば、破断しにくくなり、前記上限値以下であれば、フィルムとして充分な可撓性を確保できる。
本明細書における部材の厚さは、任意の10箇所について厚さを測定し、その測定値を平均した値である。
【0057】
前記フィルム基材として、公知の偏光フィルムを使用することもできる。
偏光フィルムとしては、例えば、一対の透明フィルムと、これらの間に配置された偏光層とを備えたものが知られている。
透明フィルムを構成する透明樹脂としては、例えば、トリアセチルセルロース、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリシクロオレフィン、ポリスチレン、ポリビニルアルコール、アクリル樹脂等が挙げられる。
透明フィルムの厚さは、例えば、10μm以上500μm以下とすることができ、薄型化と強度の両立の点では、20μm以上300μm以下であることが好ましい。
偏光層としては、例えば、親水性フィルムに二色性物質を付着させ、一軸延伸して二色性物質を配向させたものが挙げられる。親水性フィルムとしては、例えば、ポリビニルアルコールフィルム、エチレン・酢酸ビニル共重合体の部分ケン化フィルム等が挙げられる。二色性物質としては、例えば、ヨウ素、二色性染料等が挙げられる。
偏光層の厚さは、例えば、10μm以上500μm以下とすることができ、薄型化と偏光性の両立の点では、20μm以上300μm以下であることが好ましい。
【0058】
導電性フィルムを光学用途に使用する場合には、フィルム基材が透明であることが好ましい。具体的には、フィルム基材の全光線透過率が65%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましく、80%以上であることがさらに好ましい。全光線透過率は、JIS K7136に従って測定した値である。
【0059】
導電性高分子含有液をフィルム基材に塗工(塗布)する方法としては、例えば、グラビアコーター、ロールコーター、カーテンフローコーター、スピンコーター、バーコーター、リバースコーター、キスコーター、ファウンテンコーター、ロッドコーター、エアドクターコーター、ナイフコーター、ブレードコーター、キャストコーター、スクリーンコーター等のコーターを用いた方法、エアスプレー、エアレススプレー、ローターダンプニング等の噴霧器を用いた方法、ディップ等の浸漬方法等を適用することができる。
市販のバーコーターには、塗工厚に応じた番号が付されており、その番号が大きい程、厚く塗工できる。
導電性高分子含有液のフィルム基材への塗布量は特に制限されないが、導電性と膜強度を勘案して、固形分として、0.01g/m以上10.0g/m以下の範囲であることが好ましい。
【0060】
塗工した導電性高分子含有液からなる塗膜に任意に含まれる分散媒を乾燥させて除去し、前記塗膜に前述した硬化性のバインダ成分が含まれる場合にはこれを硬化させることにより、目的の導電層が形成された導電性フィルムを得ることができる。
塗工した導電性高分子含有液を乾燥する方法としては、加熱乾燥、真空乾燥等が挙げられる。加熱乾燥としては、例えば、熱風加熱や、赤外線加熱などの通常の方法を採用できる。加熱乾燥を適用する場合、加熱温度は、使用する分散媒に応じて適宜設定されるが、通常は、50℃以上150℃以下の範囲内である。ここで、加熱温度は、乾燥装置の設定温度である。
【0061】
前記導電性高分子含有液に含まれるバインダ成分が熱硬化性である場合、前記塗膜の乾燥の際に加熱乾燥を適用することにより、塗膜を熱硬化させることが好ましい。
前記導電性高分子含有液に含まれるバインダ成分が活性エネルギー線硬化性である場合、前記塗膜を乾燥した後に活性エネルギー線を照射することが好ましい。
活性エネルギー線としては、紫外線、電子線、可視光線等が挙げられる。紫外線の光源としては、例えば、超高圧水銀灯、高圧水銀灯、低圧水銀灯、カーボンアーク、キセノンアーク、メタルハライドランプ等が挙げられる。
紫外線照射における照度は100mW/cm以上が好ましい。照度が100mW/cm以上であると、充分に重合して硬化させることができる。照度の上限値の目安としては、例えば、1000mW/cm以下が挙げられる。
紫外線照射の積算光量は50mJ/cm以上が好ましい。積算光量が50mJ/cm以上であると、充分に重合して硬化させることができる。積算光量の上限値の目安としては、例えば、1000mJ/cm以下が挙げられる。
上記の照度及び積算光量は、例えば、トプコン社製UVR-T1(工業用UVチェッカー、受光器;UD-T36、測定波長範囲;300nm以上390nm以下、ピーク感度波長;約355nm)を用いて測定することができる。
【0062】
≪導電性フィルム≫
本発明の第三態様は、フィルム基材の少なくとも一方の面に、π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体と、含窒素環式化合物(A)の1種以上とを含む導電層が備えられた、導電性フィルムである。
本態様の導電性フィルムは、第二態様の製造方法によって製造することができる。
本態様の導電性フィルムのフィルム基材の説明は、第二態様のフィルム基材の説明と同じである。
【0063】
(導電層)
フィルム基材の少なくとも一方の面に備えられた前記導電層の平均厚みとしては、10nm以上50000nm以下であることが好ましく、50nm以上25000nm以下であることがより好ましく、100nm以上10000nm以下であることがさらに好ましい。
前記導電層の平均厚さが前記下限値以上であれば、充分に高い導電性を発揮でき、前記上限値以下であれば、均一な導電層を容易に形成できる。
【0064】
本態様の導電性フィルムの導電層は、良好な導電性と耐光性を有する目安として、後述する耐光性試験後において、例えば、1×10Ω/□以上1×10Ω/□以下の表面抵抗値を有することが好ましく、1×10Ω/□以上1×10Ω/□以下の表面抵抗値を有することがより好ましく、1×10Ω/□以上1×10Ω/□以下の表面抵抗値を有することがさらに好ましい。
【0065】
<作用効果>
本発明の第三態様の導電性フィルムの導電層には、含窒素環式化合物(A)が含まれており、光に曝されたことによる導電性の低下が抑制されている。
含窒素環式化合物(A)が耐光性に寄与するメカニズムは未解明である。
一般に、高分子が紫外線等の光を吸収すると、一部の炭素原子がラジカル化し、大気中の酸素分子と反応することにより自動酸化が起こるといわれている。含窒素環式化合物(A)は、芳香族含窒素化合物と異なり、紫外線の吸収性が極めて低い。このため、本発明にかかる導電層が光及び大気に曝された場合、「導電性複合体が光を吸収して自動酸化する代わりに、含窒素環式化合物(A)が光を吸収することにより、導電性複合体の自動酸化を抑制する」というメカニズムは働かないと考えられる。
通常、含窒素環式化合物(A)中の窒素原子の塩基性は、含窒素芳香族化合物中の窒素原子の塩基性よりも強い。この塩基性が耐光性に寄与している可能性はあるが、強塩基性であるトリエチルアミンは耐光性に寄与しない(後述の比較例参照)。含窒素環式化合物(A)の窒素原子は環構造内にあるので、トリエチルアミンの窒素原子よりも、立体化学的に、耐光性に寄与する反応に寄与しやすい可能性がある。
【0066】
本発明の第一態様の導電性高分子含有液には、含窒素環式化合物(A)及び導電性複合体が安定に分散されているので、第二態様の導電性フィルムの製造方法に適している。
本発明の第二態様の導電性フィルムの製造方法は、第一態様の導電性高分子含有液を用いるので、第三態様の導電性フィルムを容易に製造することができる。
【実施例
【0067】
(製造例1)ポリスチレンスルホン酸の製造
1000mlのイオン交換水に206gのスチレンスルホン酸ナトリウムを溶解し、80℃で攪拌しながら、予め10mlの水に溶解した1.14gの過硫酸アンモニウム酸化剤溶液を20分間滴下し、この溶液を12時間攪拌した。得られたポリスチレンスルホン酸ナトリウム含有溶液に、10質量%に希釈した硫酸を1000ml添加し、限外ろ過法を用いてポリスチレンスルホン酸含有溶液の約1000mlの溶媒を除去した。次いで、残液に2000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法により約2000mlの溶媒を除去して、ポリスチレンスルホン酸を水洗した。この水洗操作を3回繰り返した。
得られた溶液中の水を減圧除去して、無色の固形状のポリスチレンスルホン酸を得た。その重量平均分子量を測定した結果、分子量は30万であった。重量平均分子量の測定は、GPC(ゲル濾過クロマトグラフィー)カラムを用いたHPLC(高速液体クロマトグラフィー)システムを用いて、昭和電工株式会社製プルランを標準物質として実施した。
【0068】
(製造例2)PEDOT-PSS水系分散液の製造
14.2gの3,4-エチレンジオキシチオフェンと、製造例1で得た44.0gのポリスチレンスルホン酸を2000mlのイオン交換水に溶かした溶液とを20℃で混合した。得られた混合溶液を20℃に保ち、攪拌しながら、200mlのイオン交換水に溶かした29.64gの過硫酸アンモニウムと8.0gの硫酸第二鉄の酸化触媒溶液とをゆっくり添加し、3時間攪拌して反応させた。得られた反応液に2000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法により約2000mlの溶媒を除去した。この操作を3回繰り返した。次に、得られた溶液に200mlの10質量%に希釈した硫酸と2000mlのイオン交換水とを加え、限外ろ過法により約2000mlの溶媒を除去し、残液に2000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法により約2000mlの溶媒を除去した。この操作を3回繰り返した。さらに、得られた溶液に2000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法により約2000mlの溶媒を除去した。この操作を5回繰り返し、固形分濃度1.2質量%、PEDOT:PSS=1:3(質量比)の青色のPEDOT-PSS水系分散液を得た。
【0069】
(製造例3)予備調製1
製造例2で得たPEDOT-PSS水系分散液34.53g(固形分0.414g)に、エポキシ基及びオキセタン基を有する熱硬化性樹脂であるアロンオキセタン121(東亜合成株式会社製)を0.34g、プロピレングリコールを2.4g、エタノールを46g、イオン交換水を16.73g添加し、導電性複合体を含む予備分散液Xを得た。
【0070】
(製造例4)予備調製2
製造例2で得たPEDOT-PSS水系分散液34.53g(固形分0.414g)に、プロピレングリコールを2.4g、エタノールを46g、イオン交換水を17.07g添加し、導電性複合体を含む予備分散液Yを得た。
【0071】
(製造例5)予備調製3
製造例2で得たPEDOT-PSS水系分散液34.53g(固形分0.414g)に、エポキシ基及びオキセタン基を有する熱硬化性樹脂であるアロンオキセタン121(東亜合成株式会社製)を0.34g、エタノールを46g、イオン交換水を19.13g添加し、導電性複合体を含む予備分散液Zを得た。
【0072】
[実施例1]
予備分散液X100gに対し、0.072gの4-ヒドロキシ-1,2,2,6,6-ペンタメチルピペリジン(4HpMP)を添加し、導電性高分子含有液を得た。PSS:4HpMPのモル比は1:0.25である。
【0073】
[実施例2]
予備分散液X100gに対し、0.144gの4-ヒドロキシ-1,2,2,6,6-ペンタメチルピペリジンを添加し、導電性高分子含有液を得た。PSS:4HpMPのモル比は1:0.5である。
【0074】
[実施例3]
予備分散液X100gに対し、0.217gの4-ヒドロキシ-1,2,2,6,6-ペンタメチルピペリジンを添加し、導電性高分子含有液を得た。PSS:4HpMPのモル比は1:0.75である。
【0075】
[実施例4]
予備分散液X100gに対し、0.289gの4-ヒドロキシ-1,2,2,6,6-ペンタメチルピペリジンを添加し、導電性高分子含有液を得た。PSS:4HpMPのモル比は1:1である。
【0076】
[実施例5]
予備分散液X100gに対し、0.126gの1-メチルピペリジンを添加し、導電性高分子含有液を得た。PSS:1-メチルピペリジンのモル比は1:0.75である。
【0077】
[実施例6]
予備分散液X100gに対し、0.108gのピペリジンを添加し、導電性高分子含有液を得た。PSS:ピペリジンのモル比は1:0.75である。
【0078】
[実施例7]
予備分散液X100gに対し、0.128gの4-ヒドロキシピペリジンを添加し、導電性高分子含有液を得た。PSS:4-ヒドロキシピペリジンのモル比は1:0.75である。
【0079】
[実施例8]
予備分散液X100gに対し、0.146gの4-ヒドロキシ-1-メチルピペリジンを添加し、導電性高分子含有液を得た。PSS:4-ヒドロキシ-1-メチルピペリジンのモル比は1:0.75である。
【0080】
[実施例9]
予備分散液X100gに対し、0.291gの4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシルを添加し、導電性高分子含有液を得た。PSS:4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシルのモル比は1:1である。なお、実施例9は比較例である。
【0081】
[実施例10]
予備分散液X100gに対し、0.171gの4-ヒドロキシ-1-(2-ヒドロキシエチル)-2,2,6,6-テトラメチルピペリジンを添加し、導電性高分子含有液を得た。PSS:4-ヒドロキシ-1-(2-ヒドロキシエチル)-2,2,6,6-テトラメチルピペリジンのモル比は1:0.5である。
【0082】
[実施例11]
予備分散液X100gに対し、0.289gの4-ヒドロキシ-1,2,2,6,6-ペンタメチルピペリジン、及び0.144gのガリック酸を添加し、導電性高分子含有液を得た。PSS:4HpMPのモル比は1:1である。
【0083】
[比較例1]
含窒素環式化合物(A)を添加せずに、予備分散液Xを混合分散液として導電性フィルムの製造に使用した。
【0084】
[比較例2]
予備分散液X100gに対し、0.144gのガリック酸を添加し、混合分散液を得た。PSS:ガリック酸のモル比は1:0.5である。
【0085】
[比較例3]
予備分散液X100gに対し、0.043gのトリエチルアミン(TEA)を添加し、混合分散液を得た。PSS:TEAのmol比は1:0.25である。
【0086】
[比較例4]
予備分散液X100gに対し、0.086gのトリエチルアミンを添加し、混合分散液を得た。PSS:TEAのmol比は1:0.5である。
【0087】
[比較例5]
予備分散液X100gに対し、0.128gのトリエチルアミンを添加し、混合分散液を得た。PSS:TEAのmol比は1:0.75である。
【0088】
[比較例6]
予備分散液X100gに対し、0.171gのトリエチルアミンを添加し、混合分散液を得た。PSS:TEAのmol比は1:1である。
【0089】
[実施例12]
前記熱硬化性樹脂のアロンオキセタン121を含まない予備分散液Y100gに対し、0.289gの4-ヒドロキシ-1,2,2,6,6-ペンタメチルピペリジンを添加し、導電性高分子含有液を得た。PSS:4HpMPのモル比は1:1である。
【0090】
[比較例7]
含窒素環式化合物(A)を添加せずに、予備分散液Yを混合分散液として導電性フィルムの製造に使用した。
【0091】
[実施例13]
プロピレングリコールを含まない予備分散液Z100gに対し、0.289gの4-ヒドロキシ-1,2,2,6,6-ペンタメチルピペリジンを添加し、導電性高分子含有液を得た。PSS:4HpMPのモル比は1:1である。
【0092】
[比較例8]
含窒素環式化合物(A)を添加せずに、予備分散液Zを混合分散液として導電性フィルムの製造に使用した。
【0093】
<導電性フィルムの製造>
バーコーターNo.20を使用して、各実施例で得た導電性高分子含有液、及び各比較例で得た混合分散液を、PETフィルム(東洋紡株式会社製、コスモシャインA4300)の一方の面にそれぞれ塗工し、120℃で2分間乾燥し、導電層が表面に形成された導電性フィルムを得た。
【0094】
<耐光性試験>
製造した導電性フィルムについて、まず、製造直後の初期表面抵抗値R0を測定した。
次いで、キセノンアークウェザーメータCi4000を用いて、放射波長:340nm、放射照度:0.86W/m、放射時間:100時間、槽内温度:55℃の条件で、導電性フィルムの導電層に紫外線を照射した。その後、導電性フィルムの表面抵抗値R1を測定した。表面抵抗値の測定には、低抵抗率計ロレスタGP(三菱ケミカルアナテリック株式会社製)を用いた。各測定結果を表1~3に示す。
測定結果における表面抵抗値(単位:Ω/□(オームパースクエア))が小さい程、導電性が高いことを示す。また、R1/R0で表される表面抵抗値の比(変化倍率)の値が小さい程、耐光性が優れることを示している。
【0095】
【表1】
【0096】
【表2】
【0097】
【表3】
【0098】
各例で用いた化合物の化学式を次に示す。
【0099】
【化3】
【0100】
【化4】
【0101】
表1~3の結果から、含窒素環式化合物(A)を含む導電層は優れた耐光性と良好な導電性を示すことが明らかである。
表1の結果はバインダ成分及び高沸点溶剤を含有している際の比較である。バインダ成分を含むことにより、導電層の基材に対する密着性を向上させ、膜強度を向上させることができるので好ましい。
また、高沸点溶剤を含むことにより、導電層の表面抵抗値を大きく低減することができるので好ましい。
実施例1~4の結果から、含窒素環式化合物(A)の含有量がPSSのモノマー単位1モルに対して、0.25モル以上のときに充分な耐光性が発揮され、1モルに近くなるほど耐光性が向上し、徐々に耐光性の向上率が頭打ちになる傾向がみられる。
表2の結果はバインダ成分を含有しない場合の結果である。バインダ成分を含有しなくとも、含窒素環式化合物(A)を添加したことにより、導電層の耐光性向上の効果が見られる。
表3の結果は高導電化剤を含有しない場合の結果である。含窒素環式化合物(A)を添加したことにより、導電層の耐光性向上の効果が見られる。
【0102】
比較例1、比較例7、及び比較例8の結果から、低抵抗化や導電層の密着性を向上させるために、高沸点溶剤(プロピレングリコール)とバインダ成分(エポキシ基及びオキセタン基を有する熱硬化性樹脂)とを組み合わせて含有させると、耐光性が著しく悪化することが理解される。ところが、実施例1~13で示したように、含窒素環式化合物(A)を添加することにより、上記の耐光性悪化を格段に低減することが可能である。
以上から、含窒素環式化合物(A)を含む本願発明の導電性高分子含有液は、高沸点溶剤及びバインダ成分を含む場合においても、耐光性に優れた導電層を形成できることが明らかである。