(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-07
(45)【発行日】2023-06-15
(54)【発明の名称】ヒータユニットの製造方法
(51)【国際特許分類】
H05B 3/14 20060101AFI20230608BHJP
H05B 3/03 20060101ALI20230608BHJP
【FI】
H05B3/14 A
H05B3/03
(21)【出願番号】P 2019146270
(22)【出願日】2019-08-08
【審査請求日】2022-02-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000004606
【氏名又は名称】ニチコン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000475
【氏名又は名称】弁理士法人みのり特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】若林 健太
(72)【発明者】
【氏名】松浦 康行
(72)【発明者】
【氏名】谷口 政秀
【審査官】宮部 菜苗
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-343163(JP,A)
【文献】特開2003-053567(JP,A)
【文献】特開2001-198689(JP,A)
【文献】特開2019-067803(JP,A)
【文献】特開2012-153581(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 3/03、3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正温度係数セラミック素子を準備する素子準備工程と、
前記正温度係数セラミック素子にアルミニウムまたはアルミニウム合金の粉を用いたコールドスプレー溶射により40μm以上100μm以下の厚みの電極を形成する電極形成工程と、
前記電極に100μm以上300μm以下の厚みのアルミニウム製の放熱板をレーザ溶接により接合させる放熱板接合工程と、
を備えたことを特徴とするヒータユニットの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正温度係数(Positive Temperature Coefficient, PTC)セラミック素子を発熱源に用いたヒータユニットの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、定温ヒータや局所加熱ヒータとして、自己温度制御機能を有するPTCセラミック素子を発熱源に用いたヒータユニットが様々な分野で使用されている。その一例として、特許文献1には、板状を有するPTCセラミック素子と、PTCセラミック素子の両主面上に設けられた4層電極と、4層電極の最表面にパラレルギャップ溶接により接合された放熱板とを備えたものが開示されている。なお、4層電極は、クロム電極層、ニッケル電極層、銀電極層および錫電極層を含んでいる。
【0003】
電極および放熱板は、適量の導電性ビーズを含むシリコーン系接着剤によって接合される場合もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、パラレルギャップ溶接による電極と放熱板との接合には、電極が厚い場合にしか適用できないという問題がある。数十μmオーダーの薄い電極に対してパラレルギャップ溶接を適用すると、PTCセラミック素子が損傷するおそれがあるからである。
【0006】
一方、導電性ビーズを含むシリコーン系接着剤による接合には、パラレルギャップ溶接に比べ、電極-放熱板間の熱伝導性および電気伝導性が低いという問題がある。また、この接着剤は、耐熱性が低く、かつビーズの分散状態の管理が難しいという点においても好ましいものではなかった。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、電極が薄くても、PTCセラミック素子の損傷なしに該電極と放熱板とを熱伝導性および電気伝導性が良好な状態で接合させることができる、ヒータユニットの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明に係るヒータユニットの製造方法は、正温度係数セラミック素子を準備する素子準備工程と、正温度係数セラミック素子にアルミニウムまたはアルミニウム合金からなる電極を形成する電極形成工程と、電極に金属製の放熱板をレーザ溶接により接合させる放熱板接合工程と、を備えたことを特徴とする。
【0009】
この構成によれば、電極および放熱板の境界部分が合金化され、両者が強固かつ緻密に接合されるので、シリコーン系接着剤を使用した場合よりも熱伝導性および電気伝導性を向上させることができる。また、この構成によれば、レーザ溶接の条件を微調整することにより、正温度係数セラミック素子の損傷なしに電極および放熱板を接合させることも比較的容易である。パラレルギャップ溶接では、このような微調整は困難である。
【0010】
上記製造方法は、電極形成工程において、アルミニウムまたはアルミニウム合金の粉を用いたコールドスプレー溶射により40μm以上100μm以下の厚みの電極を形成することが好ましい。
【0011】
この構成によれば、レーザ溶接を行う際に電極と放熱板とが剥離するのを防ぐことができる。
【0012】
また、上記製造方法は、放熱板接合工程において、100μm以上300μm以下の厚みのアルミニウム製の放熱板を接合させることが好ましい。
【0013】
アルミニウム製の放熱板のレーザ溶接には、高反射材であるアルミニウムがレーザ光を吸収せず溶融がなかなか始まらない一方で、一旦溶融が始まると吸収が良くなり一気に溶融が進み被溶接部側がレーザ光の影響を受けてしまう、という難しさがある(被溶接部を構成する正温度係数セラミック素子は、アルミニウムよりレーザ吸収が良いため損傷を受け易い)。これを避けるためには、放熱板の厚みを薄くするか、被溶接部を構成するアルミニウム電極を厚くすることでレーザ溶接条件の許容範囲を広くすることが考えられるが、放熱板を薄くすると溶接強度が低下し、アルミニウム電極を厚くするとコストアップしてしまう。この点、上記の構成、すなわち、コールドスプレー溶射により形成した厚みが40μm以上100μm以下のアルミニウム(またはその合金からなる)電極と厚みが100μm以上300μm以下の放熱板とを組み合わせた構成によれば、正温度係数セラミック素子が損傷せず、かつ各部を強固に接合させることができるレーザ溶接条件を比較的容易に導き出すことができる。
【0014】
また、上記課題を解決するために、本発明に係るヒータユニットは、平板状の正温度係数セラミック素子と、正温度係数セラミック素子の両主面上に設けられたアルミニウムまたはアルミニウム合金からなる電極と、電極上にレーザ溶接により接合された金属製の放熱板と、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、電極が薄くても、PTCセラミック素子の損傷なしに該電極と放熱板とを熱伝導性および電気伝導性が良好な状態で接合させることができる、ヒータユニットの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明に係るヒータユニットの製造方法を示すフロー図である。
【
図2】本発明に係る方法によって製造されたヒータユニットを示す(A)平面図および(B)縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面を参照しながら、本発明に係るヒータユニットの製造方法について説明する。
【0018】
図1および
図2に示すように、本発明に係るヒータユニット1の製造方法は、細長い平板状のPTCセラミック素子2を準備する素子準備工程S1と、準備したPTCセラミック素子2の両主面上にアルミニウムまたはアルミニウム合金からなる電極3a,3bを形成する電極形成工程S2と、形成したアルミニウム電極3a,3bのそれぞれに金属製の放熱板4a,4bを接合させる放熱板接合工程S3とを備えている。
【0019】
PTCセラミック素子2は、キュリー温度が260℃で、寸法が35mm(縦)×7mm(横)×2mm(厚み)である。電極3a,3bは、純度99.7%のアルミニウム粉を使用したコールドスプレー溶射により形成したもので、寸法が34mm(縦)×6mm(横)である。放熱板4a,4bは、アルミニウム板からなり、寸法が34mm(縦)×6mm(横)×0.2mm(厚み)である。電極3a,3bの厚みについては、後で説明する。
【0020】
上記の構成は、以下に示す第1実施例、第2実施例、第1比較例および第2比較例において共通している。
【0021】
[第1実施例]
本発明の第1実施例では、電極形成工程S2において、平均粒径35μmのアルミニウム粉を使用して40μm厚の電極3a,3bを形成した。また、第1実施例では、TRUMPF社製レーザ溶接機「TruFiber 500」を用いたレーザ溶接により電極3a,3bと放熱板4a,4bとを接合させた。レーザ溶接の条件は以下の通りである。
・照射径: 18.7mm
・照射波形: CW(連続発振)
・出力: 500W
・走査速度: 1800mm/秒
【0022】
[第2実施例]
本発明の第2実施例では、電極形成工程S2において、平均粒径50μmのアルミニウム粉を使用して160μm厚の電極3a,3bを形成したこと以外は第1実施例と同様にして、ヒータユニット1を製造した。
【0023】
[第1比較例]
第1比較例では、電極形成工程S2において、平均粒径35μmのアルミニウム粉を使用して40μm厚の電極3a,3bを形成した。また、第1比較例では、信越化学工業株式会社社製シリコーン系接着剤「KE-1880」を用いて電極3a,3bと放熱板4a,4bとを接合させた。
【0024】
[第2比較例]
第2比較例では、電極形成工程S2において、平均粒径50μmのアルミニウム粉を使用して160μm厚の電極3a,3bを形成したこと以外は第1比較例と同様にして、ヒータユニット1を製造した。
【0025】
[特性評価試験]
上記のようにして製造した第1実施例、第2実施例、第1比較例および第2比較例に係るヒータユニット1について、電気伝導性を評価するための第1試験と、熱伝導性を評価するための第2試験とを行った。
【0026】
第1試験では、放熱板4a,4bを接合させる前に測定した電極3a,3b間の抵抗を基準とした、放熱板4a,4bを接合させた後に測定した放熱板4a,4b間の抵抗の変化率を算出した。表1に示す通り、電極3a,3bと放熱板4a,4bとをレーザ溶接で接合させた第1実施例および第2実施例では、放熱板4a,4b間の抵抗が電極3a,3b間の抵抗よりも小さかった。反対に、電極3a,3bと放熱板4a,4bとを接着剤で接合させた第1比較例および第2比較例では、放熱板4a,4b間の抵抗が電極3a,3b間の抵抗よりも大きかった。このことは、レーザ溶接を用いたことにより、電極3a-放熱板4aおよび電極3b-放熱板4b間の電気伝導性が向上したことを示している。
【表1】
【0027】
第2試験では、放熱板4a-放熱板4b間に商用交流電圧(AC100V)を印加することによりPTCセラミック素子2を昇温させたときの放熱板4aの表面温度の変化(昇温特性)を熱電対で測定し、放熱板4aの表面温度が安定温度の98%に到達するまでの時間(以下、「必要昇温時間」という)を算出した。表2に示す通り、電極3a,3bと放熱板4a,4bとをレーザ溶接で接合させた第1実施例は、電極3a,3bと放熱板4a,4bとを接着剤で接合させた第1比較例よりも必要昇温時間が短かった。同様に、第2実施例は、第2比較例よりも必要昇温時間が短かった。このことは、レーザ溶接を用いたことにより、電極3a,3b-放熱板4a,4b間の熱伝導性が向上したことを示している。
【表2】
【0028】
[変形例]
以上、本発明の第1実施例および第2実施例について説明してきたが、本発明の構成はこれらには限定されない。
【0029】
例えば、PTCセラミック素子2の寸法、電極3a,3bの厚み以外の寸法および放熱板4a,4bの厚み以外の寸法は、任意に変更することができる。
【0030】
電極3a,3bの厚みは、40μm以上の任意の厚みに変更することができる。ただし、電極3a,3bを厚くすると、電極3a,3bの材料費が高くつくとともに電極形成時間が長くなる。このため、電極3a,3bの厚みは、100μm以下であることが好ましい。また、電極3a,3bの厚みを40μm未満にすると、安定的にレーザ溶接を行うことが難しくなる。
【0031】
放熱板4a,4bの厚みは、任意に変更することができる。ただし、上記の理由により、放熱板4a,4bの厚みは、100μm以上300μm以下であることが好ましい。
【0032】
上記実施例では、電極3a,3bにアルミニウムを用いたが、アルミニウム・亜鉛などのアルミニウム合金でも、同様の効果が得られた。また、放熱板4a,4bの材料は、アルミニウム以外の他の金属材料(例えば、ステンレス)であってもよい。
【符号の説明】
【0033】
1 ヒータユニット
2 PTCセラミック素子
3a,3b 電極
4a,4b 放熱板