(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-07
(45)【発行日】2023-06-15
(54)【発明の名称】粘結剤組成物用キット、硬化剤組成物、砂組成物および鋳型の製造方法
(51)【国際特許分類】
B22C 1/22 20060101AFI20230608BHJP
B22C 1/00 20060101ALI20230608BHJP
B22C 9/12 20060101ALI20230608BHJP
【FI】
B22C1/22 M
B22C1/00 G
B22C9/12 C
(21)【出願番号】P 2019146812
(22)【出願日】2019-08-08
【審査請求日】2022-07-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000165000
【氏名又は名称】群栄化学工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】592246381
【氏名又は名称】株式会社ミズホケミカル
(73)【特許権者】
【識別番号】518143576
【氏名又は名称】株式会社摩生企画
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100106057
【氏名又は名称】柳井 則子
(72)【発明者】
【氏名】原澤 大
(72)【発明者】
【氏名】君島 康之
(72)【発明者】
【氏名】山本 誠
(72)【発明者】
【氏名】羽鳥 東一郎
【審査官】岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】特開平5-192737(JP,A)
【文献】特開2012-170996(JP,A)
【文献】特開2011-148003(JP,A)
【文献】特開2004-331784(JP,A)
【文献】特開昭60-052262(JP,A)
【文献】国際公開第2007/058254(WO,A1)
【文献】特開2003-020262(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22C1/00-1/22
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリフェノール樹脂と、下記一般式(1)で表される界面活性剤とを各々独立して有する、粘結剤組成物用キット。
{RO-(AO)
n-X-COO
-}
mM
m+ ・・・(1)
(式(1)中、Rは炭素数4~20の炭化水素基であり、AOは炭素数2~4のオキシアルキレン基であり、Xは単結合または炭素数1~3のアルキレン基であり、M
m+は陽イオンであり、nは0~100の数であり、mはMの価数である。)
【請求項2】
さらに、有機エステルおよび炭酸ガスからなる群より選ばれる1種の硬化剤を独立して有する、請求項1に記載の粘結剤組成物用キット。
【請求項3】
有機エステルと、下記一般式(1)で表される界面活性剤とを含む、硬化剤組成物。
{RO-(AO)
n-X-COO
-}
mM
m+ ・・・(1)
(式(1)中、Rは炭素数4~20の炭化水素基であり、AOは炭素数2~4のオキシアルキレン基であり、Xは単結合または炭素数1~3のアルキレン基であり、M
m+は陽イオンであり、nは0~100の数であり、mはMの価数である。)
【請求項4】
耐火性粒状材料と、アルカリフェノール樹脂と、下記一般式(1)で表される界面活性剤とを含む、砂組成物。
{RO-(AO)
n-X-COO
-}
mM
m+ ・・・(1)
(式(1)中、Rは炭素数4~20の炭化水素基であり、AOは炭素数2~4のオキシアルキレン基であり、Xは単結合または炭素数1~3のアルキレン基であり、M
m+は陽イオンであり、nは0~100の数であり、mはMの価数である。)
【請求項5】
さらに、有機エステルを含む、請求項4に記載の砂組成物。
【請求項6】
請求項5に記載の砂組成物を鋳型製造用の型に充填し、前記アルカリフェノール樹脂を硬化させる、鋳型の製造方法。
【請求項7】
請求項4に記載の砂組成物を鋳型製造用の型に充填し、有機エステルまたは炭酸ガスを通気させて前記アルカリフェノール樹脂を硬化させる、鋳型の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘結剤組成物用キット、硬化剤組成物、砂組成物および鋳型の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋳型造型プロセスの1種に、アルカリフェノール樹脂を粘結剤として用いたアルカリフェノール樹脂プロセスがある。アルカリフェノール樹脂プロセスの代表的なものとして、珪砂等の耐火性粒状材料にアルカリフェノール樹脂と、硬化剤である有機エステルとを加えて混練して砂組成物(混練砂)とし、得られた砂組成物を木型、樹脂型、金型等(以下、これらを総称して「鋳型造型用型」ともいう。)に充填して造型し、アルカリフェノール樹脂を硬化させて耐火性粒状材料を粘結して固化させて鋳型(自硬性鋳型)とする方法(自硬性鋳型造型法)が知られている。また、耐火性粒状材料にアルカリフェノール樹脂を加えて砂組成物とし、得られた砂組成物を鋳型造型用型に充填して造型し、これに硬化剤である有機エステルまたは炭酸ガスを通気してアルカリフェノール樹脂を硬化させて砂を粘結して固化させて鋳型(ガス硬化鋳型)とする方法(ガス硬化鋳型造型法)も知られている。
【0003】
このようなアルカリフェノール樹脂プロセスは、熱間強度や柔軟性が高い鋳型が得られるなどの利点があり広く使用されている。
しかし、アルカリフェノール樹脂を含む砂組成物は流動性が悪いという欠点がある。砂組成物の流動性が悪いと、鋳型造型用型への砂組成物の充填が不充分となる。充填が不充分な状態で得られた鋳型を用いると、砂カミ、焼き付き、鋳肌不良などの鋳造欠陥が発生することがある。そのため、砂組成物を鋳型造型用型へ充填した後、さらに物理的に上から砂組成物を押し込んで隙間を埋める工程が必要となり、鋳型の生産性が低下しやすい。
【0004】
そこで、砂組成物に界面活性剤を添加して流動性を改善する方法が提案されている。
例えば特許文献1には、水溶性フェノール樹脂、およびポリオキシエチレンラウリルエーテル等の界面活性剤を含む粘結剤組成物と、再生砂とを含む砂組成物が開示されている。
特許文献2には、アルカリフェノール樹脂用硬化剤、およびポリオキシエチレンラウリルエーテル等の界面活性剤を含む硬化剤組成物と、鋳物砂と、アルカリフェノール樹脂とを混合した砂組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平10-216895号公報
【文献】特開2009-40896号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1、2に記載の砂組成物を用いて製造された鋳型は、常温時の強度(常温強度)が必ずしも充分ではない。
そこで、本発明は、アルカリフェノール樹脂を利用して、常温強度の高い鋳型を製造でき、かつ流動性に優れる砂組成物が得られる粘結剤組成物用キットおよび硬化剤組成物を目的とする。
また、本発明は、アルカリフェノール樹脂を利用して、常温強度の高い鋳型を製造でき、かつ流動性に優れる砂組成物を目的とする。
また、本発明は、アルカリフェノール樹脂を利用して、常温強度の高い鋳型を高い生産性で製造できる鋳型の製造方法を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は以下の態様を有する。
[1] アルカリフェノール樹脂と、下記一般式(1)で表される界面活性剤とを各々独立して有する、粘結剤組成物用キット。
{RO-(AO)n-X-COO-}mMm+ ・・・(1)
(式(1)中、Rは炭素数4~20の炭化水素基であり、AOは炭素数2~4のオキシアルキレン基であり、Xは単結合または炭素数1~3のアルキレン基であり、Mm+は陽イオンであり、nは0~100の数であり、mはMの価数である。)
[2] さらに、有機エステルおよび炭酸ガスからなる群より選ばれる1種の硬化剤を独立して有する、[1]の粘結剤組成物用キット。
[3] 有機エステルと、下記一般式(1)で表される界面活性剤とを含む、硬化剤組成物。
{RO-(AO)n-X-COO-}mMm+ ・・・(1)
(式(1)中、Rは炭素数4~20の炭化水素基であり、AOは炭素数2~4のオキシアルキレン基であり、Xは単結合または炭素数1~3のアルキレン基であり、Mm+は陽イオンであり、nは0~100の数であり、mはMの価数である。)
[4] 耐火性粒状材料と、アルカリフェノール樹脂と、下記一般式(1)で表される界面活性剤とを含む、砂組成物。
{RO-(AO)n-X-COO-}mMm+ ・・・(1)
(式(1)中、Rは炭素数4~20の炭化水素基であり、AOは炭素数2~4のオキシアルキレン基であり、Xは単結合または炭素数1~3のアルキレン基であり、Mm+は陽イオンであり、nは0~100の数であり、mはMの価数である。)
[5] さらに、有機エステルを含む、[4]の砂組成物。
[6] [5]の砂組成物を鋳型製造用の型に充填し、前記アルカリフェノール樹脂を硬化させる、鋳型の製造方法。
[7] [4]の砂組成物を鋳型製造用の型に充填し、有機エステルまたは炭酸ガスを通気させて前記アルカリフェノール樹脂を硬化させる、鋳型の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の粘結剤組成物用キットおよび硬化剤組成物は、アルカリフェノール樹脂を利用して、常温強度の高い鋳型を製造でき、かつ流動性に優れる砂組成物が得られる。
また、本発明の砂組成物は、アルカリフェノール樹脂を利用して、常温強度の高い鋳型を製造でき、かつ流動性に優れる。
また、本発明の鋳型の製造方法は、アルカリフェノール樹脂を利用して、常温強度の高い鋳型を高い生産性で製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下の明細書において、「鋳型」とは、本発明の硬化剤組成物、粘結剤組成物用キットまたは砂組成物を用いて造型してなるものである。
【0010】
[粘結剤組成物用キット]
本発明の第一の態様の粘結剤組成物用キットは、アルカリフェノール樹脂と、界面活性剤とを各々独立して有する。粘結剤組成物用キットは、さらに硬化剤を独立して有していてもよい。
ここで、「独立して有する」とは、各々の成分が互いに混合、接触しない状態で存在していることを意味する。各成分は、粘結剤組成物用キットを使用するときに初めて混合、接触される。
粘結剤組成物用キットとしては、例えば各成分を別々に収容した容器の集合体であってもよい。
【0011】
本発明の第一の態様の粘結剤組成物用キットに含まれるアルカリフェノール樹脂は、粘結剤の役割を果たす。
アルカリフェノール樹脂の25℃におけるpHは9~14が好ましく、10~13がより好ましく、11~13がさらに好ましい。
【0012】
アルカリフェノール樹脂は、アルカリ金属の水酸化物の存在下、常法により、フェノール類およびビスフェノール類からなる群より選ばれる1種以上(以下、「フェノール系化合物」という。)と、アルデヒド類とを水系で反応させることで得られる。アルカリフェノール樹脂は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0013】
フェノール類としては、例えばフェノール、o-クレゾール、m-クレゾール、p-クレゾール、2,3-キシレノール、3,5-キシレノール、m-エチルフェノール、m-プロピルフェノール、m-ブチルフェノール、p-ブチルフェノール、o-ブチルフェノール、レゾルシノール、ハイドロキノン、カテコール、3-メトキシフェノール、4-メトキシフェノール、3-メチルカテコール、4-メチルカテコール、メチルハイドロキノン、2-メチルレゾルシノール、2,3-ジメチルハイドロキノン、2,5-ジメチルレゾルシノール、2-エトキシフェノール、4-エトキシフェノール、4-エチルレゾルシノール、3-エトキシ-4-メトキシフェノール、2-プロペニルフェノール、2-イソプロピルフェノール、3-イソプロピルフェノール、4-イソプロピルフェノール、3,4,5-トリメチルフェノール、2-イソプロポキシフェノール、4-ピロポキシフェノール、2-アリルフェノール、3,4,5-トリメトキシフェノール、4-イソプロピル-3-メチルフェノール、ピロガロール、フロログリシノール、1,2,4-ベンゼントリオール、5-イソプロピル-3-メチルフェノール、4-ブトキシフェノール、4-t-ブチルカテコール、t-ブチルハイドロキノン、4-t-ペンチルフェノール、2-t-ブチル-5-メチルフェノール、2-フェニルフェノール、3-フェニルフェノール、4-フェニルフェノール、3-フェノキシフェノール、4-フェノキシフェノール、4-へキシルオキシフェノール、4-ヘキサノイルレゾルシノール、3,5-ジイソプロピルカテコール、4-ヘキシルレゾルシノール、4-ヘプチルオキシフェノール、3,5-ジ-t-ブチルフェノール、3,5-ジ-t-ブチルカテコール、2,5-ジ-t-ブチルハイドロキノン、ジ-sec-ブチルフェノール、4-クミルフェノール、ノニルフェノール、2-シクロペンチルフェノール、4-シクロペンチルフェノール、ビスフェノールA、ビスフェノールFなどが挙げられる。これらフェノール類は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0014】
ビスフェノール類としては、例えばビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールC、ビスフェノールS、ビスフェノールZなどが挙げられる。これらビスフェノール類は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0015】
アルデヒド類としては、例えばホルムアルデヒド、トリオキサン、フルフラール、パラホルムアルデヒド、ベンズアルデヒド、メチルヘミホルマール、エチルへミホルマール、プロピルへミホルマール、サリチルアルデヒド、グリオキザール、ブチルヘミホルマール、フェニルへミホルマール、アセトアルデヒド、プロピルアルデヒド、フェニルアセトアルデヒド、α-フェニルプロピルアルデヒド、β-フェニルプロピルアルデヒド、o-ヒドロキシベンズアルデヒド、m-ヒドロキシベンズアルデヒド、p-ヒドロキシベンズアルデヒド、o-クロロベンズアルデヒド、o-ニトロベンズアルデヒド、m-ニトロベンズアルデヒド、p-ニトロベンズアルデヒド、o―メチルベンズアルデヒド、m-メチルベンズアルデヒド、p-メチルベンズアルデヒド、p-エチルベンズアルデヒド、p-n-ブチルベンズアルデヒドなどが挙げられる。これらアルデヒド類は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0016】
フェノール系化合物としては、フェノール類およびビスフェノール類のいずれか一方を単独で用いてもよいし、フェノール類およびビスフェノール類を混合して用いてもよい。
【0017】
アルカリ金属の水酸化物としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムなどが挙げられる。これらの中でも、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが好ましい。これらアルカリ金属の水酸化物は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0018】
なお、フェノール系化合物とアルデヒド類とを反応させる際に、反応系中にアルデヒドと縮合可能なモノマー(例えば尿素、シクロヘキサノン、メラミン等)を加えてもよい。また、得られたアルカリフェノール樹脂を水または1価のアルコール類(例えばメタノール、エタノール、プロパノール等)で所望の濃度となるように希釈してもよい。
【0019】
アルカリフェノール樹脂は、水を含んだ状態で用いることができる。
アルカリフェノール樹脂の総質量に対する水の含有量(水分量)については特に制限されないが、30~80質量%が好ましく、40~70質量%がより好ましい。水の含有量が30質量%以上であれば、高粘性による混練ムラが起こりにくい。水の含有量が80質量%以下であれば、強度の高い鋳型が得られやすい。
【0020】
本発明の第一の態様の粘結剤組成物用キットに含まれる界面活性剤は、下記一般式(1)で表される化合物である。これら界面活性剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
{RO-(AO)n-X-COO-}mMm+ ・・・(1)
(式(1)中、Rは炭素数4~20の炭化水素基であり、AOは炭素数2~4のオキシアルキレン基であり、Xは単結合または炭素数1~3のアルキレン基であり、Mm+は陽イオンであり、nは0~100の数であり、mはMの価数である。)
【0021】
式(1)中、Rの炭素数は、4~20であり、8~18が好ましく、10~14がより好ましく、12~14がさらに好ましい。
Rは直鎖状であっても分岐鎖状であってもよく、環状の構造を含んでもよい。Rは飽和炭化水素基でもよく、不飽和結合を有していてもよい。
炭化水素基としては、アルキル基、アルケニル基などが挙げられる。
界面活性剤は、Rの異なる分子の集合体であってもよい。
【0022】
AOは炭素数2~4のオキシアルキレン基である。
炭素数が3以上のオキシアルキレン基は、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよい。
オキシアルキレン基としては、オキシエチレン基、オキシプロピレン基、オキシブチレン基などが挙げられ、2種以上のオキシアルキレン基が混在していてもよい。2種以上のオキシアルキレン基が混在している場合、それらはブロック状に混在していてもよく、ランダム状に混在していてもよい。
AOは少なくともオキシエチレン基を含むことが好ましく、オキシエチレン基のみであることがより好ましい。
【0023】
界面活性剤は、AOの平均付加モル数(平均繰り返し数)が異なる分子の集合体であってもよい。
AOの平均付加モル数であるnは、0~100の数であり、1~100の数が好ましく、1~50の数がより好ましく、3~10の数がさらに好ましい。
nが0超の数の場合、一般式(1)で表される化合物は、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルカルボン酸またはその塩である。nが0の場合、一般式(1)で表される化合物は、アルキルカルボン酸エステルまたはその塩である。
【0024】
Xは単結合または炭素数1~3のアルキレン基である。
炭素数が3のアルキレン基は、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよい。
アルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基などが挙げられる。
Xとしては、単結合、メチレン基、エチレン基が好ましく、メチレン基がより好ましい。
【0025】
Mm+は陽イオンである。
陽イオンとしては、例えば水素イオン;ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属イオン;カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属イオン;アンモニウムイオン;モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアルカノールアミンイオンなどが挙げられる。
Mm+が水素イオンの場合、界面活性剤はポリオキシアルキレンアルキルエーテルカルボン酸またはアルキルカルボン酸エステルである。Mm+が水素イオン以外の陽イオンの場合、界面活性剤はポリオキシアルキレンアルキルエーテルカルボン酸の塩またはアルキルカルボン酸エステルの塩である。
後述する有機エステルに対する界面活性剤の溶解性が高まる観点では、Mm+は水素イオンが好ましい。
Mの価数であるmは、1~2の整数が好ましく、1がより好ましい。
【0026】
界面活性剤としては、ポリオキシエチレン(3)ラウリルエーテル酢酸またはその塩、ポリオキシエチレン(4~5)ラウリルエーテル酢酸またはその塩、ポリオキシエチレン(9)ラウリルエーテル酢酸またはその塩などが挙げられる。
ここで、ポリオキシエチレンの後のカッコ内に記載された数値は、オキシエチレン基の平均付加モル数、すなわち式(1)中のnである。例えば「ポリオキシエチレン(3)」とは、オキシエチレン基の平均付加モル数が3(エチレンオキシドの平均付加モル数が3)であることを意味する。
【0027】
本発明の第一の態様の粘結剤組成物用キットが硬化剤として液状の有機エステルを独立して有する場合、界面活性剤と有機エステルとは、使用直前まで互いに接触していない。そのため、界面活性剤が水を含んでいても、使用前において界面活性剤に含まれる水によって有機エステルが加水分解するおそれはない。よって、界面活性剤の総質量に対する水の含有量については特に制限されないが、20質量%以下が好ましく、15質量%以下がより好ましく、10質量%以下がさらに好ましく、5質量%以下が特に好ましい。界面活性剤中の水の含有量は少ないほど好ましい。すなわち、界面活性剤の総質量に対する水の含有量の下限値は、0質量%である。
【0028】
界面活性剤の含有量は、アルカリフェノール樹脂100質量部に対して、0.1~10質量部が好ましく、0.5~5質量部がより好ましく、1~5質量部がさらに好ましい。界面活性剤の含有量が0.1質量部以上であれば、後述の耐火性粒状材料と併用したときに、流動性により優れる砂組成物が得られる。界面活性剤の含有量が10質量部を超えても、流動性は頭打ちとなるため、コストを高めるだけである。
なお、アルカリフェノール樹脂の含有量には、アルカリフェノール樹脂中の水分量も含まれる。界面活性剤の含有量は、水を除く純分換算である。
【0029】
本発明の第一の態様の粘結剤組成物用キットに含まれる硬化剤は、有機エステルおよび炭酸ガスからなる群より選ばれる1種である。
本発明の第一の態様の粘結剤組成物用キットに含まれる有機エステルは、液状またはガス状である。
液状の有機エステルとしては、アルカリフェノール樹脂の硬化剤として用いられているものを使用することができ、例えばギ酸メチル、ギ酸エチル、プロピレンカーボネート、モノアセチン、ジアセチン、トリアセチン、エチレングリコールモノアセテート、エチレングリコールジアセテート、γ-ブチロラクトン、プロピオラクトン、ε-カプロラクトンなどが挙げられる。これら液状の有機エステルは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
ガス状の有機エステルとしては、液状の有機エステルをガス化したものが挙げられる。中でも、ギ酸メチルをガス化したギ酸メチルガス、ギ酸エチルをガス化したギ酸エチルガスが好ましい。これらガス状の有機エステルは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0030】
硬化剤が液状の有機エステルの場合、その有機エステルの含有量は、アルカリフェノール樹脂100質量部に対して、5~50質量部が好ましく、10~40質量部がより好ましく、15~30質量部がさらに好ましい。有機エステルの含有量が5質量部以上であれば、アルカリフェノール樹脂を充分に硬化させることができる。有機エステルの含有量が50質量部以下であれば、過剰含有による注湯時のガスの発生量を抑制できる。
なお、アルカリフェノール樹脂の含有量には、アルカリフェノール樹脂中の水分量も含まれる。
【0031】
なお、粘結剤組成物用キットが、各成分を別々に収容した容器の集合体である場合、アルカリフェノール樹脂を収容した容器および界面活性剤を収容した容器の少なくとも一方には、その他の成分として、シランカップリング剤、水、尿素、レゾルシノールなどが含まれていてもよい。
粘結剤組成物用キットが液状の有機エステルを収容した容器を有する場合、有機エステルを収容した容器には、その他の成分として、レゾルシノールなどが含まれていてもよい。
シランカップリング剤としては、N-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルメチルジメトキシシランなどが挙げられる。
粘結剤組成物用キットにおいては、硫黄原子およびリン原子の含有量が少ないことが好ましく、硫黄原子およびリン原子を有さないことがより好ましい。
【0032】
以上説明した本発明の第一の態様の粘結剤組成物用キットは、アルカリフェノール樹脂と特定の界面活性剤とを各々独立して有するので、後述の耐火性粒状材料とアルカリフェノール樹脂を利用して、常温強度の高い鋳型を製造でき、流動性に優れる砂組成物が得られる。
【0033】
ところで、例えばアルキルベンゼンスルホン酸等のように、界面活性剤が硫黄原子を含んでいると、得られる鋳型にも硫黄原子が含まれることとなる。そのような鋳型を用いて鋳物を製造する場合、得られる鋳物の表面、すなわち鋳型と接する面において鋳型中の硫黄の影響を受けやすくなる。例えば、鋳鉄は黒鉛を含んでおり、鋳物が冷える際に黒鉛が晶出する。硫黄の影響を受けると鋳物表面の黒鉛形状が崩れ、金属の延伸性や鋳物の強度が低下する傾向にある。
また、例えばポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸等のように、界面活性剤がリン原子を含んでいると、得られる鋳型にもリン原子が含まれることとなる。そのような鋳型を用いて鋳物を製造すると、ピンホールと呼ばれるガス欠陥を誘発することがある。
このように、鋳型中の硫黄原子やリン原子は鋳物欠陥の原因となりうる。
しかし、本発明の第一の態様の粘結剤組成物用キットを構成する界面活性剤は、硫黄原子およびリン原子を含まない。よって、硫黄原子やリン原子に起因した鋳物欠陥を抑制できる。
なお、鋳型中の窒素原子もガス欠陥の原因となり得るが、前記一般式(1)で表される界面活性剤として窒素原子を含まない化合物を用いれば、窒素原子に起因したガス欠陥も抑制できる。
【0034】
また、アルキルベンゼンスルホン酸やポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸等のアニオン系界面活性剤は、親水基であるスルホン酸やリン酸が強酸である。そのため、これらスルホン酸やリン酸を含むアニオン系界面活性剤とアルカリフェノール樹脂とを併用すると、アルカリフェノール樹脂が中和されやすく、鋳型の常温強度が低下しやすい。しかも、スルホン酸やリン酸を含むアニオン系界面活性剤を有機エステルと混合すると、有機エステルの加水分解物由来の臭気が発生しやすい。
しかし、本発明の第一の態様の粘結剤組成物用キットを構成する界面活性剤は、親水基がカルボン酸またはその塩であり、リン酸やスルホン酸に比べて弱酸である。よって、アルカリフェノール樹脂と併用してもアルカリフェノール樹脂が中和されにくく、鋳型の常温強度が低下しにくい。しかも、本発明の第一の態様の粘結剤組成物用キットを構成する界面活性剤であれば、有機エステルと混合したときに有機エステルの加水分解物由来の臭気が発生しにくい。特に、水分量の少ない界面活性剤を用いれば、有機エステルの加水分解物由来の臭気の発生をより抑制できる。
【0035】
[硬化剤組成物]
本発明の第二の態様の硬化剤組成物は、有機エステルと、界面活性剤とを含む。硬化剤組成物は、有機エステルおよび界面活性剤以外の成分(その他の成分)を含んでいてもよい。
【0036】
本発明の第二の態様の硬化剤組成物に含まれる有機エステルは、液状である。
有機エステルは、アルカリフェノール樹脂の硬化剤の役割を果たす。
有機エステルとしては、本発明の第一の態様の説明において先に例示した液状の有機エステルが挙げられる。これら有機エステルは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0037】
本発明の第二の態様の硬化剤組成物に含まれる界面活性剤は、前記一般式(1)で表される化合物である。このような界面活性剤としては、本発明の第一の態様の説明において先に例示した界面活性剤が挙げられる。界面活性剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0038】
硬化剤組成物中での有機エステルの加水分解を抑制する観点から、界面活性剤としては、水分の少ないものを用いることが好ましい。硬化剤組成物中で有機エステルの加水分解が進行すると、硬化剤としての効果が低減したり、有機エステルの加水分解物由来の臭気が発生したりする場合がある。
界面活性剤の総質量に対する水の含有量(水分量)は、15質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましく、5質量%以下がさらに好ましい。水の含有量が15質量%以下であれば、硬化剤組成物中での有機エステルの加水分解を抑制できる。加えて、有機エステルの加水分解物由来の臭気の発生を抑制できる。界面活性剤中の水の含有量は少ないほど好ましい。すなわち、界面活性剤の総質量に対する水の含有量の下限値は、0質量%である。
【0039】
有機エステルと界面活性剤の質量比(有機エステル:界面活性剤)は、100:0.1~100:100が好ましく、100:0.1~100:30がより好ましい。前記質量比が100:0.1以上であれば、すなわち有機エステルの含有量に対する界面活性剤の含有量が多くなるほど、後述の耐火性粒状材料と併用したときに、流動性により優れる砂組成物が得られる。前記質量比が100:100を超えても、流動性は頭打ちとなるため、コストを高めるだけである。
なお、界面活性剤の含有量は、水を除く純分換算である。
【0040】
その他の成分としては、シランカップリング剤、水、尿素、レゾルシノールなどが挙げられる。
シランカップリング剤としては、本発明の第一の態様の説明において先に例示したシランカップリング剤が挙げられる。
【0041】
水には、界面活性剤に含まれる水、必要に応じて別途添加される水の全てが含まれる。
硬化剤組成物の総質量に対する水の含有量は、5質量%以下が好ましく、2質量%以下がより好ましい。水の含有量が5質量%以下であれば、有機エステルの加水分解を抑制できる。
【0042】
硬化剤組成物は、有機エステルおよび界面活性剤と、必要に応じてその他の成分とを混合することで得られる。
硬化剤組成物においては、硫黄原子およびリン原子の含有量が少ないことが好ましく、硫黄原子およびリン原子を含まないことがより好ましい。
【0043】
以上説明した本発明の第二の態様の硬化剤組成物は、有機エステルと特定の界面活性剤とを含むので、後述の耐火性粒状材料とアルカリフェノール樹脂を利用して、常温強度の高い鋳型を製造でき、流動性に優れる砂組成物が得られる。
【0044】
また、本発明の第二の態様の硬化剤組成物に含まれる界面活性剤は、硫黄原子およびリン原子を含まない。よって、硫黄原子やリン原子に起因した鋳物欠陥を抑制できる。
前記一般式(1)で表される界面活性剤として窒素原子を含まない化合物を用いれば、窒素原子に起因したガス欠陥も抑制できる。
【0045】
また、本発明の第二の態様の硬化剤組成物に含まれる界面活性剤は、親水基がカルボン酸またはその塩であり、リン酸やスルホン酸に比べて弱酸である。よって、アルカリフェノール樹脂と併用してもアルカリフェノール樹脂が中和されにくく、鋳型の常温強度が低下しにくい。しかも、本発明の第二の態様の硬化剤組成物に含まれる界面活性剤であれば、有機エステルと混合したときに有機エステルの加水分解物由来の臭気が発生しにくい。特に、水分量の少ない界面活性剤を用いれば、有機エステルの加水分解物由来の臭気の発生をより抑制できる。
【0046】
本発明の第二の態様の硬化剤組成物は、アルカリフェノール樹脂を粘結剤とするアルカリフェノール樹脂プロセス用として好適である。
【0047】
[砂組成物]
本発明の第三の態様の砂組成物は、耐火性粒状材料と、アルカリフェノール樹脂と、界面活性剤とを含む。砂組成物は、有機エステルを含んでいてもよい。砂組成物は、耐火性粒状材料、アルカリフェノール樹脂、界面活性剤および有機エステル以外の成分(その他の成分)を含んでいてもよい。
【0048】
本発明の第三の態様の砂組成物に含まれる耐火性粒状材料としては、珪砂、クロマイト砂、ジルコン砂、オリビン砂、非晶質シリカ、アルミナ砂、ムライト砂等の天然砂;人工砂などの従来公知のものを使用できる。また、使用済みの耐火性粒状材料を回収したもの(回収砂)や再生処理したもの(再生砂)なども使用できる。これら耐火性粒状材料は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
製造コストの観点では天然砂が好ましく、その中でも珪砂がより好ましい。熱により膨張しにくい観点では人工砂が好ましい。製造コストと耐熱性とのバランスを考慮し、天然砂と人工砂とを混合して用いてもよい。
【0049】
本発明の第三の態様の砂組成物に含まれるアルカリフェノール樹脂としては、本発明の第一の態様の説明において先に例示したアルカリフェノール樹脂が挙げられる。アルカリフェノール樹脂は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0050】
アルカリフェノール樹脂の含有量は、耐火性粒状材料100質量部に対して、0.1~7質量部が好ましく、0.3~4質量部がより好ましく、0.5~3質量部がさらに好ましい。アルカリフェノール樹脂の含有量が0.1質量部以上であれば、強度がより高い鋳型が得られやすい。アルカリフェノール樹脂の含有量が7質量部以下であれば、混練ムラが起きにくい。
なお、アルカリフェノール樹脂の含有量には、アルカリフェノール樹脂中の水分量も含まれる。
【0051】
本発明の第三の態様の砂組成物に含まれる界面活性剤は、前記一般式(1)で表される化合物である。このような界面活性剤としては、本発明の第一の態様の説明において先に例示した界面活性剤が挙げられる。界面活性剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
なお、界面活性剤の総質量に対する水の含有量については特に制限されないが、20質量%以下が好ましく、15質量%以下がより好ましく、10質量%以下がさらに好ましく、5質量%以下が特に好ましい。界面活性剤中の水の含有量は少ないほど好ましい。すなわち、界面活性剤の総質量に対する水の含有量の下限値は、0質量%である。
【0052】
界面活性剤の含有量は、アルカリフェノール樹脂100質量部に対して、0.1~10質量部が好ましく、0.5~5質量部がより好ましく、1~5質量部がさらに好ましい。界面活性剤の含有量が0.1質量部以上であれば、砂組成物の流動性がより向上する。界面活性剤の含有量が10質量部を超えても、流動性は頭打ちとなるため、コストを高めるだけである。
なお、アルカリフェノール樹脂の含有量には、アルカリフェノール樹脂中の水分量も含まれる。界面活性剤の含有量は、水を除く純分換算である。
【0053】
本発明の第三の態様の砂組成物に含まれる有機エステルは、液状である。このような有機エステルとしては、本発明の第一の態様の説明において先に例示した液状の有機エステルが挙げられる。有機エステルは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0054】
有機エステルの含有量は、アルカリフェノール樹脂100質量部に対して、5~50質量部が好ましく、10~40質量部がより好ましく、15~30質量部がさらに好ましい。有機エステルの含有量が5質量部以上であれば、アルカリフェノール樹脂を充分に硬化させることができる。有機エステルの含有量が50質量部以下であれば、過剰含有による注湯時のガスの発生量を抑制できる。
なお、アルカリフェノール樹脂の含有量には、アルカリフェノール樹脂中の水分量も含まれる。
【0055】
その他の成分としては、シランカップリング剤、水、尿素、レゾルシノールなどが挙げられる。
シランカップリング剤としては、本発明の第一の態様の説明において先に例示したシランカップリング剤が挙げられる。
【0056】
水には、アルカリフェノール樹脂に含まれる水、界面活性剤に含まれる水、必要に応じて別途添加される水の全てが含まれる。
【0057】
砂組成物は、耐火性粒状材料、アルカリフェノール樹脂および界面活性剤と、必要に応じて有機エステルおよびその他の成分の1つ以上とを混合することで得られる。
砂組成物は、耐火性粒状材料と、本発明の第一の態様の硬化剤組成物と、アルカリフェノール樹脂と、必要に応じてその他の成分とを混合して製造してもよい。
砂組成物は、耐火性粒状材料と、本発明の第二の態様の粘結剤組成物用キットを構成するアルカリフェノール樹脂および界面活性剤と、必要に応じて有機エステルおよびその他の成分の1つ以上とを混合して製造してもよい。本発明の第二の態様の粘結剤組成物用キットが液状の有機エステルを独立して有する場合は、有機エステルとして粘結剤組成物用キットを構成する有機エステルを用いてもよい。
砂組成物においては、硫黄原子およびリン原子の含有量が少ないことが好ましく、硫黄原子およびリン原子を含まないことがより好ましい。
【0058】
以上説明した本発明の第三の態様の砂組成物は、耐火性粒状材料とアルカリフェノール樹脂と特定の界面活性剤とを含むので、アルカリフェノール樹脂を利用して、常温強度の高い鋳型を製造でき、流動性に優れる砂組成物が得られる。
【0059】
また、本発明の第三の態様の砂組成物に含まれる界面活性剤は、硫黄原子およびリン原子を含まない。よって、硫黄原子やリン原子に起因した鋳物欠陥を抑制できる。
前記一般式(1)で表される界面活性剤として窒素原子を含まない化合物を用いれば、窒素原子に起因したガス欠陥も抑制できる。
【0060】
また、本発明の第三の態様の砂組成物に含まれる界面活性剤は、親水基がカルボン酸またはその塩であり、リン酸やスルホン酸に比べて弱酸である。よって、アルカリフェノール樹脂が中和されにくく、鋳型の常温強度が低下しにくい。しかも、本発明の第三の態様の砂組成物に含まれる界面活性剤であれば、有機エステルと混合したときに有機エステルの加水分解物由来の臭気が発生しにくい。特に、水分量の少ない界面活性剤を用いれば、有機エステルの加水分解物由来の臭気の発生をより抑制できる。
【0061】
[鋳型の製造方法]
本発明の第四の態様の鋳型の製造方法は、自硬性鋳型造型法により鋳型を製造する方法である。
本発明の第五の態様の鋳型の製造方法は、ガス硬化鋳型造型法により鋳型を製造する方法である。
【0062】
本発明の第四の態様の鋳型の製造方法では、本発明の第三の態様の砂組成物のうち有機エステルを含むものを鋳型製造用の型(鋳型造型用型)に充填し、砂組成物に含まれる有機エステルの硬化作用によりアルカリフェノール樹脂を硬化させて、鋳型を製造する。
また、本発明の第一の態様の粘結剤組成物用キットを用いて鋳型を製造してもよい。その場合は、耐火性粒状材料と、本発明の第一の態様の粘結剤組成物用キットを構成するアルカリフェノール樹脂および界面活性剤と、有機エステルと、必要に応じてその他の成分とを混合して砂組成物とし、得られた砂組成物を鋳型造型用型に充填すればよい。本発明の第一の態様の粘結剤組成物用キットが液状の有機エステルを独立して有する場合、その粘結剤組成物用キットを構成する有機エステルを用いて砂組成物を調製すればよい。
また、本発明の第二の態様の硬化剤組成物を用いて鋳型を製造してもよい。その場合は、耐火性粒状材料と、本発明の第二の態様の硬化剤組成物と、アルカリフェノール樹脂と、必要に応じてその他の成分とを混合して砂組成物とし、得られた砂組成物を鋳型造型用型に充填すればよい。
【0063】
本発明の第五の態様の鋳型の製造方法では、本発明の第三の態様の砂組成物のうち有機エステルを含まないものを鋳型造型用型に充填し、有機エステルまたは炭酸ガスを通気させて、有機エステルまたは炭酸ガスの硬化作用により砂組成物に含まれるアルカリフェノール樹脂を硬化させて、鋳型を製造する。
また、本発明の第一の態様の粘結剤組成物用キットを用いて鋳型を製造してもよい。その場合は、耐火性粒状材料と、本発明の第一の態様の粘結剤組成物用キットを構成するアルカリフェノール樹脂および界面活性剤と、必要に応じてその他の成分とを混合して砂組成物とし、得られた砂組成物を鋳型造型用型に充填すればよい。本発明の第一の態様の粘結剤組成物用キットがガス状の有機エステルまたは炭酸ガスを独立して有する場合は、その粘結剤組成物用キットを構成する有機エステルまたは炭酸ガスを用いて、鋳型造型用型中の砂組成物に通気させてもよい。
【0064】
有機エステルまたは炭酸ガスの通気流量は1分間あたり5~30Lが好ましく、10~20Lがより好ましい。通気流量が5L/分以上であれば、アルカリフェノール樹脂が充分に硬化する。通気流量が30L/分以下であれば、鋳型の常温強度を良好に維持できる。
有機エステルまたは炭酸ガスを通気させる時間(通気時間)は、30~180秒が好ましく、60~180秒がより好ましい。通気時間が30秒以上であれば、アルカリフェノール樹脂が充分に硬化するが、180秒を超えてもアルカリフェノール樹脂の硬化は頭打ちとなるため、コストを高めるだけである。
【0065】
以上説明した本発明の第四の態様および第五の態様の鋳型の製造方法によれば、耐火性粒状材料とアルカリフェノール樹脂と特定の界面活性剤とを含む砂組成物を用いているので、アルカリフェノール樹脂を利用して、常温強度の高い鋳型を製造できる。また、特定の界面活性剤を含む砂組成物は流動性に優れるので、鋳型造型用型に充分に充填できる。よって、砂カミ、焼き付き、鋳肌不良などの鋳造欠陥が発生しにくい鋳型を製造できる。しかも、砂組成物を鋳型造型用型へ充填した後、さらに物理的に上から砂組成物を押し込む必要がなく、鋳型を高い生産性で製造できる。
【0066】
また、砂組成物に含まれる界面活性剤は、硫黄原子およびリン原子を含まない。よって、本発明の第四の態様および第五の態様の鋳型の製造方法によれば、硫黄原子やリン原子に起因した鋳物欠陥を抑制できる。
前記一般式(1)で表される界面活性剤として窒素原子を含まない化合物を用いれば、窒素原子に起因したガス欠陥も抑制できる。
【0067】
また、砂組成物に含まれる界面活性剤は、親水基がカルボン酸またはその塩であり、リン酸やスルホン酸に比べて弱酸である。よって、本発明の第四の態様および第五の態様の鋳型の製造方法によれば、アルカリフェノール樹脂が中和されにくく、鋳型の常温強度が低下しにくい。しかも、砂組成物に含まれる界面活性剤であれば、有機エステルと混合したときに有機エステルの加水分解物由来の臭気が発生しにくい。特に、水分量の少ない界面活性剤を用いれば、有機エステルの加水分解物由来の臭気の発生をより抑制できる。
【実施例】
【0068】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。各例で用いた耐火性粒状材料、アルカリフェノール樹脂、有機エステルおよび界面活性剤を以下に示す。また、各種測定方法および評価方法は以下の通りである。
【0069】
<耐火性粒状材料>
耐火性粒状材料として、珪砂(三菱商事建材株式会社製、フリーマントル新砂)を用いた。
【0070】
<アルカリフェノール樹脂>
アルカリフェノール樹脂として、レゾール型フェノール樹脂(群栄化学工業株式会社製、アルファシステム用樹脂「AR-170」、25℃におけるpH:12、固形分(純分)45質量%、水分量55質量%)を用いた。
なお、アルカリフェノール樹脂の固形分は、以下のようにして測定した。
スレンレス製皿にアルカリフェノール樹脂を約2g精秤して、100℃に保持した恒温器で180分間乾燥し、放冷後に再び精秤した。下記式よりアルカリフェノール樹脂の固形分を求めた。
固形分[%]=(乾燥後のアルカリフェノール樹脂の重量/乾燥前のアルカリフェノール樹脂の重量)×100
【0071】
<有機エステル>
有機エステルとして、アルカリフェノール樹脂用硬化剤(群栄化学工業株式会社製、アルファシステム硬化剤「AH-530」、トリアセチンおよびエチレングリコールジアセテートの混合物)を用いた。
【0072】
<界面活性剤>
界面活性剤として、以下に示すものを用いた。
・界面活性剤(i):ポリオキシエチレン(3)ラウリルエーテル酢酸(前記一般式(1)中、Rは炭素数12の直鎖のアルキル基(ドデシル基)であり、AOはオキシエチレン基であり、Xはエチレン基であり、Mm+は水素イオンであり、nは3であり、mは1である化合物)、水分量5質量%。
・界面活性剤(ii):ポリオキシエチレン(4~5)ラウリルエーテル酢酸(前記一般式(1)中、Rは炭素数12の直鎖のアルキル基(ドデシル基)であり、AOはオキシエチレン基であり、Xはエチレン基であり、Mm+は水素イオンであり、nは4~5であり、mは1である化合物)、水分量4質量%。
・界面活性剤(iii):ポリオキシエチレン(9)ラウリルエーテル酢酸(前記一般式(1)中、Rは炭素数12の直鎖のアルキル基(ドデシル基)であり、AOはオキシエチレン基であり、Xはエチレン基であり、Mm+は水素イオンであり、nは9であり、mは1である化合物)、水分量10質量%。
・界面活性剤(iv):ポリオキシエチレン(3)ラウリルエーテル酢酸ナトリウム(前記一般式(1)中、Rは炭素数12の直鎖のアルキル基(ドデシル基)であり、AOはオキシエチレン基であり、Xはエチレン基であり、Mm+はナトリウムイオンであり、nは3であり、mは1である化合物)、水分量7質量%。
・界面活性剤(v):ポリオキシエチレン(4)ラウリルエーテル(C12H25O-(C2H4O)4-OHで表される化合物)、水分量0質量%。
・界面活性剤(vi):ジアルキルジメチルアンモニウムクロライド、水分量0質量%。
・界面活性剤(vii):ポリアクリル酸、水分量50質量%。
・界面活性剤(viii):アセチレン系ノニオン界面活性剤、水分量0質量%。
・界面活性剤(ix):ポリアクリル酸ナトリウム、水分量0質量%。
・界面活性剤(x):ポリカルボン酸、水分量50質量%。
【0073】
<測定・評価>
(圧縮強度の測定)
各実施例および比較例で得られたテストピースの圧縮強度(鋳型の常温強度)は、JACT試験法HM-1に記載の方法により測定した。ただし、圧縮強度はN/mm2で表示する。
【0074】
(流動度の測定)
各実施例および比較例で得られた砂組成物の流動度は、JACT試験法HM-4に記載の方法により評価した。ただし、篩は14メッシュのものを用いた。
【0075】
[実施例1、実施例2-1、実施例3、実施例4、比較例1-1]
<砂組成物の製造>
表1に示す配合組成に従って各成分を混合し、1分間撹拌して砂組成物を得た。
得られた砂組成物について、流動度を測定した。結果を表1に示す。
また、比較例1-1で得られた砂組成物の流動度を100としたときの、他の例で得られた砂組成物の流動度の相対値を算出した。結果を表1に示す。
【0076】
<テストピースの製造>
得られた砂組成物を、直ちに温度25℃、湿度60%の条件下、内径50mm、高さ50mmの円柱状の型が形成されたテストピース作製用木型に充填して硬化させ、硬化開始から1時間経過後にテストピースを取り出した(抜型時間1時間)。
得られたテストピースを温度25℃、湿度60%の条件下、硬化開始から24時間放置した後、圧縮強度を測定した。結果を表1に示す。
また、比較例1-1で得られたテストピースの圧縮強度を100としたときの、他の例で得られたテストピースの圧縮強度の相対値を算出した。結果を表1に示す。
【0077】
[実施例2-2、比較例1-2、比較例2、比較例3]
<砂組成物の製造>
表2に示す配合組成に従って各成分を混合し、1分間撹拌して砂組成物を得た。
得られた砂組成物について、流動度を測定した。結果を表2に示す。
また、比較例1-2で得られた砂組成物の流動度を100としたときの、他の例で得られた砂組成物の流動度の相対値を算出した。結果を表2に示す。
【0078】
<テストピースの製造>
得られた砂組成物を、直ちに温度26℃、湿度65%の条件下、内径50mm、高さ50mmの円柱状の型が形成されたテストピース作製用木型に充填して硬化させ、硬化開始から1時間経過後にテストピースを取り出した(抜型時間1時間)。
得られたテストピースを温度26℃、湿度65%の条件下、硬化開始から24時間放置した後、圧縮強度を測定した。結果を表2に示す。
また、比較例1-2で得られたテストピースの圧縮強度を100としたときの、他の例で得られたテストピースの圧縮強度の相対値を算出した。結果を表2に示す。
【0079】
[実施例2-3、比較例1-3、比較例4]
<砂組成物の製造>
表3に示す配合組成に従って各成分を混合し、1分間撹拌して砂組成物を得た。
得られた砂組成物について、流動度を測定した。結果を表3に示す。
また、比較例1-3で得られた砂組成物の流動度を100としたときの、他の例で得られた砂組成物の流動度の相対値を算出した。結果を表3に示す。
【0080】
<テストピースの製造>
得られた砂組成物を、直ちに温度27℃、湿度52%の条件下、内径50mm、高さ50mmの円柱状の型が形成されたテストピース作製用木型に充填して硬化させ、硬化開始から1時間経過後にテストピースを取り出した(抜型時間1時間)。
得られたテストピースを温度27℃、湿度52%の条件下、硬化開始から24時間放置した後、圧縮強度を測定した。結果を表3に示す。
また、比較例1-3で得られたテストピースの圧縮強度を100としたときの、他の例で得られたテストピースの圧縮強度の相対値を算出した。結果を表3に示す。
【0081】
[比較例1-4、比較例5、比較例6]
<砂組成物の製造>
表4に示す配合組成に従って各成分を混合し、1分間撹拌して砂組成物を得た。
得られた砂組成物について、流動度を測定した。結果を表4に示す。
また、比較例1-4で得られた砂組成物の流動度を100としたときの、他の例で得られた砂組成物の流動度の相対値を算出した。結果を表4に示す。
【0082】
<テストピースの製造>
得られた砂組成物を、直ちに温度25℃、湿度65%の条件下、内径50mm、高さ50mmの円柱状の型が形成されたテストピース作製用木型に充填して硬化させ、硬化開始から1時間経過後にテストピースを取り出した(抜型時間1時間)。
得られたテストピースを温度25℃、湿度65%の条件下、硬化開始から24時間放置した後、圧縮強度を測定した。結果を表4に示す。
また、比較例1-4で得られたテストピースの圧縮強度を100としたときの、他の例で得られたテストピースの圧縮強度の相対値を算出した。結果を表4に示す。
【0083】
[比較例1-5、比較例7]
<砂組成物の製造>
表5に示す配合組成に従って各成分を混合し、1分間撹拌して砂組成物を得た。
得られた砂組成物について、流動度を測定した。結果を表5に示す。
また、比較例1-5で得られた砂組成物の流動度を100としたときの、他の例で得られた砂組成物の流動度の相対値を算出した。結果を表5に示す。
【0084】
<テストピースの製造>
得られた砂組成物を、直ちに温度24℃、湿度54%の条件下、内径50mm、高さ50mmの円柱状の型が形成されたテストピース作製用木型に充填して硬化させ、硬化開始から1時間経過後にテストピースを取り出した(抜型時間1時間)。
得られたテストピースを温度24℃、湿度54%の条件下、硬化開始から24時間放置した後、圧縮強度を測定した。結果を表5に示す。
また、比較例1-5で得られたテストピースの圧縮強度を100としたときの、他の例で得られたテストピースの圧縮強度の相対値を算出した。結果を表5に示す。
【0085】
【0086】
【0087】
【0088】
【0089】
【0090】
表1~5中の「対砂」は、耐火性粒状材料100質量部に対するアルカリフェノール樹脂、有機エステルまたは界面活性剤の量(質量部)である。「対樹脂」は、アルカリフェノール樹脂100質量部に対する有機エステルまたは界面活性剤の量(質量部)である。ただし、アルカリフェノール樹脂の量には、アルカリフェノール樹脂中の水分量も含まれる。界面活性剤の量は、水を除く純分換算である。
表1~5において、各々1つの表に記載された例は、同日に実験された例である。
表1~5における結果のうち、相対値を表6、7にまとめた。
【0091】
【0092】
【0093】
表6、7の結果より、各実施例で得られた砂組成物は流動性に優れていた。また、各実施例で得られた砂組成物からは、圧縮強度の高いテストピースが得られた。
対して、前記一般式(1)で表される界面活性剤以外の界面活性剤を用いた比較例2~7の場合、流動性と圧縮強度の両方の結果を満足しなかった。