(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-07
(45)【発行日】2023-06-15
(54)【発明の名称】動力工具
(51)【国際特許分類】
B25F 5/00 20060101AFI20230608BHJP
B25B 21/00 20060101ALI20230608BHJP
B25B 23/157 20060101ALN20230608BHJP
【FI】
B25F5/00 C
B25B21/00 510A
B25B23/157 B
(21)【出願番号】P 2019195444
(22)【出願日】2019-10-28
【審査請求日】2022-08-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000227386
【氏名又は名称】日東工器株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083895
【氏名又は名称】伊藤 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100175983
【氏名又は名称】海老 裕介
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 翔太
(72)【発明者】
【氏名】榊原 隼人
【審査官】マキロイ 寛済
(56)【参考文献】
【文献】実開昭59-151669(JP,U)
【文献】特開2011-110668(JP,A)
【文献】国際公開第2017/038846(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25F 5/00
B25B 21/00
B25B 23/157
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転駆動軸を有する駆動部と、
加工工具が取り付けられる工具取付部を有し、該駆動部の駆動に伴って回転軸線の周りで回転駆動される出力軸と、
該回転駆動軸と該出力軸とのうちの一方に駆動連結されて回転軸線の周りで回転される第1クラッチ係合部材、該回転駆動軸と該出力軸とのうちの他方に駆動連結されて該回転軸線の周りで回転される第2クラッチ係合部材、及び該第2クラッチ係合部材に当接した変位部材を有し、該第1クラッチ係合部材と該第2クラッチ係合部材とが回転方向で係合して該回転駆動軸から該出力軸に回転トルクを伝達し、所定の最大回転トルク以上の負荷が作用したときには第1クラッチ係合部材によって該第2クラッチ係合部材が該変位部材とともに回転軸線の方向で変位されて該第1クラッチ係合部材と該第2クラッチ係合部材との該回転方向での係合が解除されて該回転トルクの伝達が解除されるようにされた、クラッチ機構と、
該変位部材の該回転軸線の方向での位置を検出する位置センサと、
該クラッチ機構が該回転トルクの伝達を解除したときの該位置センサの出力値に基づいて、該クラッチ機構の摩耗状態を判定するようにされた演算部と、
を備える動力工具。
【請求項2】
該演算部が、該クラッチ機構が該回転トルクの伝達を解除したときの該位置センサの出力値を所定の摩耗判定基準値と比較して、該出力値が該摩耗判定基準値にまで至らなかった場合にはエラー信号を発するようにされた、請求項1に記載の動力工具。
【請求項3】
該演算部が、該位置センサの出力値が所定の解除判定基準値を超えて変化してから該解除判定基準値の範囲内に戻ったときに、該クラッチ機構が該回転トルクの伝達を解除したと判断して該駆動部の駆動を停止させるとともに、該位置センサの出力値が該解除判定基準値を超えてから該解除判定基準値内に戻るまでの間の該位置センサの出力値のうちで該解除判定基準値からの差が最も大きい出力値を記憶し、該駆動部の駆動が停止された後に該駆動部の駆動開始を指示する信号を受信したときに、記憶している出力値を該摩耗判定基準値と比較して、該記憶している出力値が該摩耗判定基準値にまで至っていなかった場合には該駆動部の駆動を開始せず、該記憶している出力値が該摩耗判定基準値にまで至っていた場合には該駆動部の駆動を開始するようにされた、請求項2に記載の動力工具。
【請求項4】
該クラッチ機構が、該変位部材を介して該第2クラッチ係合部材を該回転軸線の方向で該第1クラッチ係合部材の側に付勢するクラッチスプリングをさらに有する、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の動力工具。
【請求項5】
該位置センサが対向する投光部と受光部を有する光電センサであり、該第2クラッチ係合部材が変位したときに該変位部材の一部が該光電センサの該投光部と該受光部との間に進入して、該投光部から該受光部に向かって投光された光を部分的に遮るようにされ、該光電センサは該受光部で受光した光量に応じて出力値が変化するようにされた、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の動力工具。
【請求項6】
該クラッチ機構が、該回転駆動軸に駆動連結されて該回転軸線の周りで回転される第1クラッチプレートと、該第1クラッチプレートに対して該回転軸線の方向で対向して配置され、該出力軸に駆動連結されて該回転軸線の周りで該出力軸と共に回転する第2クラッチプレートと、を備え、該第1クラッチプレートが該第2クラッチプレートに対向する面に保持凹部を有し、該第2クラッチプレートが該回転軸線の方向で貫通した保持孔を有し、該第1クラッチ係合部材が該保持凹部に保持されて該第1クラッチプレートとともに回転するようにされ、該第2クラッチ係合部材が該保持孔内において該回転軸線の方向で変位可能に保持されて該第2クラッチプレートとともに回転するようにされた、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の動力工具。
【請求項7】
該第1クラッチ係合部材が該回転軸線の放射方向に延びる円柱状係合部材であり、該第2クラッチ係合部材が球状係合部材である、請求項6に記載の動力工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クラッチ機構を備える動力工具に関する。
【背景技術】
【0002】
電動モータを駆動部とする電動ドライバやエアモータを駆動部とするエアドリルなどの動力工具において、駆動部の回転駆動軸とドライバビットやドリルビットなどの加工工具が取り付けられる出力軸との間にクラッチ機構を設けて、駆動部から出力軸に加わる最大の回転トルクを制限するようにしたものがある(特許文献1、2)。例えば電動ドライバにクラッチ機構を設けることにより、ドライバビットを介してネジに加わる回転トルクを制限してネジが破損することを防止できる。また、ネジが着座して急激に回転トルクが大きくなることによりクラッチ機構が駆動連結を解除したときに、ねじ締めが完了したと判断してモータの駆動を停止させたりねじ締め本数をカウントしたりするようにすることもできる。
【0003】
例えば上述の電動ドライバに設けられたクラッチ機構は、出力軸側に配置したクラッチボールが回転駆動軸側のクラッチ部材に回転方向で係合するように配置され、クラッチボールをスプリングによってクラッチ部材の側に付勢してクラッチボールがクラッチ部材に係合する状態を維持するようになっている。クラッチボールがクラッチ部材に回転方向で係合している間は回転駆動軸から出力軸に回転トルクが伝達され、過大な回転トルクが作用するとクラッチボールがスプリングの付勢力に抗して回転軸線の方向に変位してクラッチボールとクラッチ部材との回転方向での係合が解除され、回転トルクの伝達が解除されるようになっている。また、クラッチボールが回転軸線の方向で変位したことをセンサで検知することによりクラッチ機構が解除されたことを検出して、モータの駆動を停止させるなどの制御を行うようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開2017/038846号公報
【文献】特開2017-42878号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
クラッチ機構は、上述のように各部品が機械的に接触しながら動作し、またクラッチ機構が解除される際には係合部材同士が強い力で擦れ合う。したがって、クラッチ機構は動作を続けるうちに各部品が摩耗していく。しかしながら、クラッチ機構を構成する部品の摩耗が進行していくと、一方の係合部材が他方の係合部材を乗り上げるときの回転軸線の方向での変位量が低下して、伝達される最大トルクが小さくなったりクラッチ機構が解除されたことを検知できなくなったりする虞がある。上述の動力工具においては、クラッチ機構の摩耗状態を確認するためには、動力工具を分解してクラッチ機構を構成する部品を直接確認する必要があるが、そのような作業は非常に煩雑である。
【0006】
そこで本発明は、動力工具を分解することなくクラッチ機構の摩耗状態を監視できるようにした動力工具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち本発明は、
回転駆動軸を有する駆動部と、
加工工具が取り付けられる工具取付部を有し、該駆動部の駆動に伴って回転軸線の周りで回転駆動される出力軸と、
該回転駆動軸と該出力軸とのうちの一方に駆動連結されて回転軸線の周りで回転される第1クラッチ係合部材、該回転駆動軸と該出力軸とのうちの他方に駆動連結されて該回転軸線の周りで回転される第2クラッチ係合部材、及び該第2クラッチ係合部材に当接した変位部材を有し、該第1クラッチ係合部材と該第2クラッチ係合部材とが回転方向で係合して該回転駆動軸から該出力軸に回転トルクを伝達し、所定の最大回転トルク以上の負荷が作用したときには第1クラッチ係合部材によって該第2クラッチ係合部材が該変位部材とともに回転軸線の方向で変位されて該第1クラッチ係合部材と該第2クラッチ係合部材との該回転方向での係合が解除されて該回転トルクの伝達が解除されるようにされた、クラッチ機構と、
該変位部材の該回転軸線の方向での位置を検出する位置センサと、
該クラッチ機構が該回転トルクの伝達を解除したときの該位置センサの出力値に基づいて、該クラッチ機構の摩耗状態を判定するようにされた演算部と、
を備える動力工具を提供する。
【0008】
当該動力工具においては、クラッチ機構が回転トルクの伝達を解除したときの位置センサの出力値に基づいてクラッチ機構の摩耗状態を判定するようになっている。そのため、動力工具を分解することなくクラッチ機構の摩耗状態を監視することが可能となり、この判定結果に基づいて、クラッチ機構が解除される回転トルクの大きさを再調整したり、クラッチ機構の交換やメンテナンスの必要性を判断したりすることも可能となる。
【0009】
また、該演算部が、該クラッチ機構が該回転トルクの伝達を解除したときの該位置センサの出力値を所定の摩耗判定基準値と比較して、該出力値が該摩耗判定基準値にまで至らなかった場合にはエラー信号を発するようにすることもできる。
【0010】
このような構成により、エラー信号に基づいて駆動部の駆動を停止させたり、エラー表示部にエラーを表示したりするなどの対応を取ることが可能となる。
【0011】
具体的には、該位置センサの出力値が所定の解除判定基準値を超えて変化してから該解除判定基準値の範囲内に戻ったときに、該クラッチ機構が該回転トルクの伝達を解除したと判断して該駆動部の駆動を停止させるとともに、該位置センサの出力値が該解除判定基準値を超えてから該解除判定基準値内に戻るまでの間の該位置センサの出力値のうちで該解除判定基準値からの差が最も大きい出力値を記憶し、該駆動部の駆動が停止された後に該駆動部の駆動開始を指示する信号を受信したときに、記憶している出力値を該摩耗判定基準値と比較して、該記憶している出力値が該摩耗判定基準値にまで至っていなかった場合には該駆動部の駆動を開始せず、該記憶している出力値が該摩耗判定基準値にまで至っていた場合には該駆動部の駆動を開始するようにすることができる。
【0012】
また、該クラッチ機構が、該変位部材を介して該第2クラッチ係合部材を該回転軸線の方向で該第1クラッチ係合部材の側に付勢するクラッチスプリングをさらに有するようにすることができる。
【0013】
さらに、該位置センサが対向する投光部と受光部を有する光電センサであり、該第2クラッチ係合部材が変位したときに該変位部材の一部が該光電センサの該投光部と該受光部との間に進入して、該投光部から該受光部に向かって投光された光を部分的に遮るようにされ、該光電センサは該受光部で受光した光量に応じて出力値が変化するようにすることができる。
【0014】
また、該クラッチ機構が、該回転駆動軸に駆動連結されて該回転軸線の周りで回転される第1クラッチプレートと、該第1クラッチプレートに対して該回転軸線の方向で対向して配置され、該出力軸に駆動連結されて該回転軸線の周りで該出力軸と共に回転する第2クラッチプレートと、を備え、該第1クラッチプレートが該第2クラッチプレートに対向する面に保持凹部を有し、該第2クラッチプレートが該回転軸線の方向で貫通した保持孔を有し、該第1クラッチ係合部材が該保持凹部に保持されて該第1クラッチプレートとともに回転するようにされ、該第2クラッチ係合部材が該保持孔内において該回転軸線の方向で変位可能に保持されて該第2クラッチプレートとともに回転するようにすることができる。
【0015】
この場合には、該第1クラッチ係合部材が該回転軸線の放射方向に延びる円柱状係合部材であり、該第2クラッチ係合部材が球状係合部材であるようにすることができる。
【0016】
以下、本発明に係る動力工具の実施形態を添付図面に基づき説明する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施形態に係る電動ドライバの断面図である。
【
図2】
図1の電動ドライバの機能ブロック図である。
【
図3】
図1の電動ドライバのクラッチ機構の周囲の拡大図である。
【
図4】出力軸の筒状軸部が押込まれた状態を示す、クラッチ機構の周囲の拡大図である。
【
図5】クラッチ機構を構成する部品の上方から見た分解斜視図である。
【
図6】クラッチ機構を構成する部品の下方から見た分解斜視図である。
【
図7】クラッチ機構が回転トルクの伝達を解除した状態と示す、クラッチ機構の周囲の拡大図である。
【
図8】摩耗状態を判定する際の動作を示すフローチャートである。
【
図9】内側保持孔に小径の球状係合部材を配置したときの、クラッチ機構の周囲の拡大図である。
【
図10】
図9のクラッチ機構においてクラッチが回転トルクの伝達を解除した状態を示す、クラッチ機構の周囲の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の一実施形態に係る電動ドライバ(動力工具)1は、
図1に示すように、工具ハウジング10と、工具ハウジング10内に配置された電動モータ(駆動部)12と、ドライバビット(加工工具)が着脱可能に取り付けられる工具取付部14を有する出力軸16と、電動モータ12の回転駆動軸18の回転を減速して伝達する遊星歯車機構20と、遊星歯車機構20と出力軸16との間に配置されたクラッチ機構22とを備える。電動モータ12の回転トルクは、遊星歯車機構20及びクラッチ機構22を介して出力軸16に伝達される。工具ハウジング10内にはさらに、電動モータ12の駆動を開始させるためのスタート用光電センサ24と、電動モータ12の駆動を停止させるためのブレーキ用光電センサ(位置センサ)26とが設けられており、後述するようにこれらの光電センサ24、26の出力値に基づいて電動モータ12の駆動と停止を制御するようになっている。
【0019】
工具ハウジング10内に配置された制御回路28には、
図2に示すように、演算部30と、電動モータ12の駆動制御を行うためのモータ制御部32と、制御プログラムや制御パラメータ等を記憶するためのメモリ34が設けられている。スタート用光電センサ24及びブレーキ用光電センサ26は演算部30に接続され、演算部30がスタート用光電センサ24及びブレーキ用光電センサ26の出力値に基づいて、電動モータ12の駆動の開始と停止を制御する。また、当該電動ドライバ1は、LEDの発光で何らかのエラーが生じたことを表示するように作業者から見やすい位置に配置されたエラー表示部36も備える。なお、スタート用光電センサ24は、互いに対向する投光部(図示しない)と受光部24aを有し、投光部から出射された光を受光部24aで受けて、受光部24aが受光した光量に応じた出力値を出力するようになっている。ブレーキ用光電センサ26も同様に、互いに対向する投光部(図示しない)と受光部26aを有し、投光部から出射された光を受光部26aで受けて、受光部26aが受光した光量に応じた出力値を出力するようになっている。当該実施形態においては、スタート用光電センサ24及びブレーキ用光電センサ26は、受光部24a、26aで受光する光量が低下するとそれに応じて出力値が上昇するように構成されている。
【0020】
図3に示すように、出力軸16は、クラッチ機構22に連結された中実軸部38と、中実軸部38の外周面38a上を摺動するように配置された筒状軸部40とからなる。中実軸部38と筒状軸部40とは回転方向では固定されている。筒状軸部40に形成された施錠子保持孔42内には球状の施錠子44が配置され、筒状軸部40の外周面40a上にはスリーブ46が配置されている。スリーブ46が図示の位置から先端側(図で見て下側)に変位すると施錠子44が径方向外側に変位可能となる。この状態でドライバビットを筒状軸部40の挿入孔48内に挿入してスリーブ46を元の位置に戻すと、ドライバビットが出力軸16に固定される。このように、出力軸16の工具取付部14は、筒状軸部40、施錠子44、及びスリーブ46によって構成されている。ドライバビットが工具取付部14に取り付けられた状態で工具ハウジング10を把持してドライバビットをネジに押し付けるように操作すると、
図4に示すように、出力軸16の筒状軸部40が工具ハウジング10内に押込まれる。筒状軸部40が押込まれると、筒状軸部40の後端部50に配置されたスイッチプレート52も筒状軸部40を一緒に変位する。そうすると、スイッチプレート52がスタート用光電センサ24の投光部と受光部24aとの間に進入して、投光部から受光部24aに向かって投光された光を部分的に遮るようになる。スイッチプレート52の進入量が大きくなるに従い受光部24aが受光する光量が小さくなり、そうするとスタート用光電センサの出力値は上昇していく。演算部30は、所定のスタート閾値よりも大きい出力値(駆動開始を指示する信号)をスタート用光電センサ24から受信したときに電動モータ12の駆動を開始する。
【0021】
クラッチ機構22は、遊星歯車機構20を介して電動モータ12の回転駆動軸18に駆動連結された第1クラッチプレート54と、出力軸16の中実軸部38に固定して駆動連結された第2クラッチプレート56とを備える。第1クラッチプレート54と第2クラッチプレート56とは、それぞれ回転軸線Rの周りで回転可能に配置されている。また第2クラッチプレート56は第1クラッチプレート54に対して対向するように配置されている。
図5及び
図6に示すように、第2クラッチプレート56に対向する第1クラッチプレート54の対向面55には、径方向に延びる保持溝(保持凹部)58が形成されており、保持溝58内において回転軸線Rの放射方向に延びる円柱状係合部材(第1クラッチ係合部材)60が回転可能に保持されるようになっている。第2クラッチプレート56には、回転軸線Rの方向で貫通した2つの内側保持孔62と、内側保持孔62よりも径方向外側の位置で回転軸線Rの方向で貫通した2つの外側保持孔64が形成されている。外側保持孔64は、内側保持孔62よりも大径となっている。内側保持孔62には小径の球状係合部材(第2クラッチ係合部材)66が保持されるようになっており、外側保持孔64には小径の球状係合部材66よりも大径とされた大径の球状係合部材(第2クラッチ係合部材)68が保持されるようになっている。ただし、使用されるのは一方の係合部材だけであり、当該電動ドライバ1を組み立てる際に、内側保持孔62に対応した小径の球状係合部材66と外側保持孔64に対応した大径の球状係合部材68とのうちの一方の係合部材を選択して、選択された係合部材のみを対応した保持孔内に配置する。
図1及び
図3においては、外側保持孔64に大径の球状係合部材68が選択的に配置されている。
図6に示すように、第1クラッチプレート54の対向面55には、内側保持孔62内に小径の球状係合部材66が配置されたときに小径の球状係合部材66と係合する内側係合面55aと、外側保持孔64内に大径の球状係合部材68が配置されたときに大径の球状係合部材68と係合する外側係合面55bとが形成されている。内側係合面55aは、小径の球状係合部材66と大径の球状係合部材68との直径の差の分だけ、外側係合面55bよりも第2クラッチプレート56の側に突出している。これにより、内側保持孔62内に小径の球状係合部材66を配置したときに小径の球状係合部材66が第2クラッチプレート56から突出する高さと、外側保持孔64内に大径の球状係合部材68を配置したときに大径の球状係合部材68が第2クラッチプレート56から突出する高さとが同じになる。
【0022】
図3に示すように、クラッチ機構22はさらに、第2クラッチプレート56及び出力軸16の中実軸部38に対して回転軸線Rの方向で変位可能に配置された変位部材70を備える。変位部材70は、中実軸部38の外周面38a上を回転軸線Rの方向に摺動するスライド部材72と、ベアリング74によってスライド部材72に対して回転可能とされたスラスト受け部材76と、スプリング78によってスラスト受け部材76に押圧されてスライド部材72及びスラスト受け部材76と共に回転軸線Rの方向で変位するように配置されたセンサピン80とを有する。変位部材70のスラスト受け部材76は、クラッチスプリング82によって伝達ピン84を介して第2クラッチプレート56の側に押圧されている。大径の球状係合部材68は、スライド部材72の係合面72aに当接しているため、スラスト受け部材76及びスライド部材72を介して第1クラッチプレート54及び円柱状係合部材60の側に付勢されている。
【0023】
図4に示すように出力軸16の筒状軸部40が押込まれて電動モータ12の駆動が開始されると、電動モータ12の回転駆動軸18に遊星歯車機構20を介して駆動連結された第1クラッチプレート54及び円柱状係合部材60が回転軸線Rの周りで回転される。そうすると、円柱状係合部材60が球状係合部材68と回転方向で係合して、球状係合部材68を介して回転トルクが第2クラッチプレート56に伝達される。第2クラッチプレート56は、出力軸16の中実軸部38に固定されているため、回転トルクは出力軸16に伝達される。円柱状係合部材60と球状係合部材68は曲面で係合しており、回転トルクが伝達されている状態では、球状係合部材68は円柱状係合部材60から回転軸線Rの方向で円柱状係合部材60から離れる向きに力を受ける。一方で、球状係合部材68はクラッチスプリング82によって第1クラッチプレート54の側に付勢されている。そのため、円柱状係合部材60から受ける力がクラッチスプリング82の付勢力の範囲内である間は球状係合部材68は回転軸線Rの方向に変位せず、円柱状係合部材60と球状係合部材68とが回転方向で係合して回転トルクが伝達される状態が維持される。
【0024】
クラッチ機構22に所定の最大回転トルク以上の負荷が作用すると、球状係合部材68は円柱状係合部材60によって回転軸線Rの方向に押されて、クラッチスプリング82を圧縮しながら変位部材70とともに第1クラッチプレート54から離れる向き(図で見て下向き)に変位する。
図7に示すように、球状係合部材68が円柱状係合部材60に完全に乗り上げた状態にまで変位すると、円柱状係合部材60と球状係合部材68との回転方向での係合が解除され、第1クラッチプレート54から第2クラッチプレート56への回転トルクの伝達も一時的に解除される。このとき、変位部材70のセンサピン80がブレーキ用光電センサ26の投光部と受光部26aとの間に進入する。これにより、投光部から受光部26aに向かって投光された光をセンサピン80が部分的に遮るようになる。当該実施形態においては、受光部26aで受光される光量が低下すると、その低下した光量に応じてブレーキ用光電センサ26の出力値が上昇するようになっている。そのため、演算部30は、ブレーキ用光電センサ26の出力値に基づいて、投光部と受光部26aとの間におけるセンサピン80の位置を検出することができる。演算部30は、ブレーキ用光電センサ26の出力値が所定の解除判定基準値を超えたときに、クラッチ機構22が回転トルクの伝達を解除したと判断し、電動モータ12の駆動を停止する。
【0025】
クラッチ機構22において、特に円柱状係合部材60と球状係合部材68とは比較的に大きな力を受けながら擦れ合う。そのため、当該電動ドライバ1を繰り返し使用していくと、円柱状係合部材60及び球状係合部材68が徐々に摩耗していく。また、球状係合部材68とスライド部材72との間や、スライド部材72とスラスト受け部材76との間でも互いに擦れ合う動きが生じ得るため、これら部材も摩耗していく虞がある。このようにしてクラッチ機構22を構成する部材が摩耗していくと、円柱状係合部材60に球状係合部材68が乗り上げてクラッチ機構22による回転トルクの伝達が解除されたときにセンサピン80がブレーキ用光電センサ26の投光部と受光部26aとの間に進入する量が小さくなっていく。当該電動ドライバ1においては、演算部30がブレーキ用光電センサ26の出力値を監視しており、ブレーキ用光電センサ26の出力値に基づいて投光部と受光部26aとの間でセンサピン80の位置を検出して、クラッチ機構22の摩耗状態を判定するようになっている。
【0026】
当該電動ドライバ1における摩耗状態の判定は、具体的には
図8のフローチャートに示す動作により行われる。当該電動ドライバ1を電源に接続すると演算部30が起動する(S10)。演算部30は、スタート用光電センサ24の出力値を監視し、スタート用光電センサ24の出力値が所定のスタート閾値よりも大きくなったら(S12)、工具取付部14に取り付けられたドライバビットが押し込まれたと判断して電動モータ12の回転駆動を開始する(S14)。次に演算部30は、ブレーキ用光電センサ26の出力値を監視して、ブレーキ用光電センサ26の出力値が所定の解除判定基準値よりも大きくなり(S16)その後に解除判定基準値以下の値に戻ったときに(S17)、その間の出力値のうちの解除判定基準値からの差が最も大きい最大出力値をメモリ34に記憶して(S18)、電動モータ12の駆動を停止させる(S20)。演算部30は、再びスタート用光電センサ24の出力値を監視し、スタート用光電センサ24の出力値がスタート閾値よりも大きい値にまで変化したら(S22)、メモリ34に記憶されているブレーキ用光電センサ26の最大出力値を所定の摩耗判定基準値と比較する(S24)。最大出力値が摩耗判定基準値にまで上昇して摩耗判定基準値以上となっていた場合には、センサピン80は十分に大きく変位していてクラッチ機構22はそれほど摩耗していないと判断して、電動モータ12の駆動を再び開始する(S14)。一方で、最大出力値が摩耗判定基準値にまで至っておらず、よって摩耗判定基準値よりも小さい場合には、センサピン80が十分に変位しておらずクラッチ機構22が摩耗していると判断して、エラー信号を発する(S26)。エラー信号が発せられると、クラッチ機構22の摩耗が一定以上進行していることを示すようにエラー表示部36が発光する。またこの場合には電動モータ12の駆動は開始されない。なお、スタート用光電センサ24及びブレーキ用光電センサ26は、受光部26aで受光する光量が低下したときに出力値が低下するようになっていてもよい。この場合には、スタート用光電センサ24の出力値がスタート閾値よりも小さな値にまで変化したときに電動モータ12の駆動が開始される。またブレーキ用光電センサ26の出力値が、解除判定基準値よりも小さな値にまで変化してから解除判定基準値以上の値に戻ったときにクラッチ機構22が解除されたと判断し、その間の出力値のうちの解除判定基準値からの差が最も大きい最小出力値が摩耗判定基準値以下にまで至らず摩耗判定基準値よりも大きい値であった場合にはエラー信号が発せられる。
【0027】
図9及び
図10に示すように、大径の球状係合部材68に代えて、小径の球状係合部材66を内側保持孔62内に選択的に配置して組み立てることもできる。上述のように、内側保持孔62内に配置された小径の球状係合部材66は、第1クラッチプレート54の対向面55において、外側係合面55bよりも突出した内側係合面55aと係合する。これにより、クラッチ機構22が解除されていない
図9の状態において、クラッチ機構22の変位部材70は、大径の球状係合部材68を配置した
図3の状態と同じ位置となる。よって、ブレーキ用光電センサ26に対するセンサピン80の位置も同じになる。一方で、クラッチ機構22が解除された
図10の状態においては、大径の球状係合部材68を配置した
図7の状態よりも変位部材70の変位量が小さい。よって、センサピン80がブレーキ用光電センサ26の投光部と受光部26aとの間に進入する量は、
図7の場合よりも小さい。そのため、小径の球状係合部材66を選択的に配置した場合には、解除判定基準値と摩耗判定基準値は大径の球状係合部材68を選択的に配置したときに比べて、大きな値に設定される。
【0028】
クラッチ機構22が解除されるときの変位部材70の変位量が小さい方がより小さい回転トルクでクラッチ機構22が解除されることになる。また円柱状係合部材60に対して球状係合部材66、68が係合する位置が、回転軸線Rに対してより径方向内側にある方がより小さい回転トルクでクラッチ機構22が解除されることになる。したがって、小径の球状係合部材66を内側保持孔62に選択的に配置した場合には、大径の球状係合部材68を外側保持孔64に選択的に配置した場合に比べて、より小さな回転トルクでクラッチ機構22が解除されることになる。すなわち、大径の球状係合部材68を外側保持孔64に配置するか、小径の球状係合部材66を内側保持孔62に配置するかで、クラッチ機構22が伝達可能な最大回転トルクの大きさを変更することが可能となる。
【0029】
当該電動ドライバ1においては、クラッチ機構22が回転トルクの伝達を解除したときのブレーキ用光電センサ26の出力値に基づいてクラッチ機構22の摩耗状態を判定するようになっている。この判定結果に基づいて、クラッチスプリング82の圧縮量を大きくしてクラッチ機構22が解除される際の回転トルクの大きさを調整したり、クラッチ機構22の交換やメンテナンスの必要性を判断したりすることが可能となる。なお、摩耗状態の判定は、摩耗が一定量を超えたか否かの2つの状態だけを示すのではなく、ブレーキ用光電センサ26の出力値に基づいて摩耗の進行具合を3段階以上またはアナログ的に無段階で示すようにしてもよい。
【0030】
以上に本発明の実施形態について説明をしたが、本発明はこれら実施形態に限定されるものではない。例えば、第1クラッチ係合部材としての円柱状係合部材は、円柱形状ではなく例えば球状とするなど他の形状の部材としてもよいし、第1クラッチプレートと一体に形成して第1クラッチプレートから突出した突部としてもよい。第2クラッチ係合部材としての球状係合部材も同様に、他の形状としたり変位部材と一体に形成したりしてもよい。また、第1クラッチ部材を出力軸に駆動連結し、第2クラッチ係合部材を電動モータの回転駆動軸に駆動連結して、クラッチ機構が解除されるときに変位部材が回転駆動軸側に変位するように構成することもできる。さらには、変位部材の位置を検出するための位置センサとして、磁気センサやメカニカルスイッチなどの他の形態のセンサを使用することもできる。さらには、上記実施形態においては本発明にかかる動力工具を、電動モータを駆動部とする電動ドライバを例として説明をしているが、例えば電動ドリルや電動研磨機などの電動ドライバ以外の電動工具とすることもできるし、エアモータを駆動部とするエアー工具のような他の動力工具とすることもできる。
【符号の説明】
【0031】
1 電動ドライバ(動力工具)
10 工具ハウジング
12 電動モータ(駆動部)
14 工具取付部
16 出力軸
18 回転駆動軸
20 遊星歯車機構
22 クラッチ機構
24 スタート用光電センサ
24a 受光部
26 ブレーキ用光電センサ(位置センサ)
26a 受光部
28 制御回路
30 演算部
32 モータ制御部
34 メモリ
36 エラー表示部
38 中実軸部
38a 外周面
40 筒状軸部
40a 外周面
42 施錠子保持孔
44 施錠子
46 スリーブ
48 挿入孔
50 後端部
52 スイッチプレート
54 第1クラッチプレート
55 対向面
55a 内側係合面
55b 外側係合面
56 第2クラッチプレート
58 保持溝(保持凹部)
60 円柱状係合部材(第1クラッチ係合部材)
62 内側保持孔
64 外側保持孔
66 小径の球状係合部材(第2クラッチ係合部材)
68 大径の球状係合部材(第2クラッチ係合部材)
70 変位部材
72 スライド部材
72a 係合面
74 ベアリング
76 スラスト受け部材
78 スプリング
80 センサピン
82 クラッチスプリング
84 伝達ピン
R 回転軸線