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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-07
(45)【発行日】2023-06-15
(54)【発明の名称】夜間頻尿治療剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/519 20060101AFI20230608BHJP
   A61P 13/10 20060101ALI20230608BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230608BHJP
【FI】
A61K31/519
A61P13/10
A61P43/00 111
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019560567
(86)(22)【出願日】2018-12-20
(86)【国際出願番号】 JP2018047038
(87)【国際公開番号】W WO2019124507
(87)【国際公開日】2019-06-27
【審査請求日】2021-11-25
(31)【優先権主張番号】P 2017244910
(32)【優先日】2017-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018212256
(32)【優先日】2018-11-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001395
【氏名又は名称】杏林製薬株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000104560
【氏名又は名称】キッセイ薬品工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100128783
【弁理士】
【氏名又は名称】井出 真
(74)【代理人】
【識別番号】100128473
【弁理士】
【氏名又は名称】須澤 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100160886
【弁理士】
【氏名又は名称】久松 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】瀬川 勝也
(72)【発明者】
【氏名】黒瀬 隆史
【審査官】梅田 隆志
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-510023(JP,A)
【文献】Nitti V et al,,Results of a Randomized Phase III Trial of Mirabegron in Patients with Overactive Bladder,J Urol.,2013年04月01日,Vol. 189, Issue 4,p. 1388-1395
【文献】日本老年医学会雑誌,2013年,Vol. 50, No. 4,p. 434-439
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/519
A61P 13/10
A61P 43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(6S)-N-[4-({(2S,5R)-5-[(R)-ヒドロキシ(フェニル)メチル]ピロリジン-2-イル}メチル)フェニル]-4-オキソ-4,6,7,8-テトラヒドロピロロ[1,2-a]ピリミジン-6-カルボキサミドを有効成分として含有し、
日本人の夜間頻尿患者に対して投与される、夜間頻尿の治療剤。
【請求項2】
前記夜間頻尿の治療剤が、夜間排尿回数の平均値が1.0以上1.8以下の患者群に属する対象に対して投与される、請求項1に記載の治療剤。
【請求項3】
前記夜間頻尿が、夜間多尿を伴わない夜間頻尿である、請求項1又は2に記載の治療剤。
【請求項4】
前記有効成分の1日あたりの投与量が50mg以上100mg以下であり、1日1回経口投与される、請求項1からのいずれか一つに記載の治療剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、夜間頻尿の治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
夜間頻尿とは、夜間排尿のために1回以上起きなければならないという訴えであり、過活動膀胱(OAB;overactive bladder)により生じる症状(尿意切迫感、頻尿、夜間頻尿、切迫性尿失禁)の1つである。夜間頻尿は夜間覚醒を引き起こし、睡眠障害と密接に関連して著しくQOLを低下させる(非特許文献1)。
現在までに、夜間頻尿治療薬としては、バソプレシンV2受容体作動薬であるデスモプレシンが知られているが、水中毒(低ナトリウム血症)等の重篤な副作用リスクがあり、投与可能な患者群は制限されている(非特許文献2)。
また、β3アドレナリン受容体作動薬であるミラベグロンは、生殖可能な年齢の患者への投与を避ける必要があるなど投与可能な患者群が制限されており(非特許文献3)、夜間頻尿治療作用については、プラセボと比較して日本人について有意な差が認められたとの報告はない(非特許文献4~9)。
ミラベグロンと同様にβ3アドレナリン受容体作動薬である化合物として、ビベグロン(一般式(1)に記載の化合物、又は(6S)-N-[4-({(2S,5R)-5-[(R)-ヒドロキシ(フェニル)メチル]ピロリジン-2-イル}メチル)フェニル]-4-オキソ-4,6,7,8-テトラヒドロピロロ[1,2-a]ピリミジン-6-カルボキサミドと称す。)が知られている(特許文献1)。
【0003】
【化1】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】WO2009/124167
【非特許文献】
【0005】
【文献】日本排尿機能学会夜間頻尿診療ガイドライン作成委員会(2009),夜間頻尿診療ガイドライン 第1版
【文献】Neurourol Urodyn 2004;23:302-305、ミニリンメルトOD錠60μg/ミニリンメルトOD錠120μg/ミニリンメルトOD錠240μg 添付文書 2017年3月改訂(第4版)
【文献】ベタニス(登録商標)25mg/ベタニス(登録商標)錠50mg 添付文書 2016年3月改訂(第9版)
【文献】ベタニス(登録商標)錠25mg、ベタニス錠(登録商標)50mgインタビューフォーム、2016年改訂版
【文献】Neurourology and Urodynamics(2015),34(7),685-692.
【文献】BJU International(2014),113(6),951-960.
【文献】International Journal of Urology(2014),21(10),960-967.
【文献】Neurourology and Urodynamics(2013),32(8),1116-1122.
【文献】Journal of Urology (New York, NY, United States)(2013),189(4),1388-1395.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は新規な夜間頻尿の治療剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、有効性及び安全性のより高い夜間頻尿治療剤について鋭意検討を行った。その結果、一般式(1)に記載の化合物、すなわち(6S)-N-[4-({(2S,5R)-5-[(R)-ヒドロキシ(フェニル)メチル]ピロリジン-2-イル}メチル)フェニル]-4-オキソ-4,6,7,8-テトラヒドロピロロ[1,2-a]ピリミジン-6-カルボキサミドが夜間頻尿の治療剤として極めて有効であることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
本発明には以下の発明が含まれる。
[1](6S)-N-[4-({(2S,5R)-5-[(R)-ヒドロキシ(フェニル)メチル]ピロリジン-2-イル}メチル)フェニル]-4-オキソ-4,6,7,8-テトラヒドロピロロ[1,2-a]ピリミジン-6-カルボキサミドを有効成分として含有する夜間頻尿の治療剤。
[2]前記夜間頻尿の治療剤が、夜間排尿回数の平均値が1.0以上1.8以下の患者群に属する対象に対して投与される、[1]に記載の治療剤。
[3]前記有効成分の1日あたりの投与量が50mg以上100mg以下であり、1日1回経口投与される、[1]又は[2]に記載の治療剤。
[4]アジア人に対して投与される、(6S)-N-[4-({(2S,5R)-5-[(R)-ヒドロキシ(フェニル)メチル]ピロリジン-2-イル}メチル)フェニル]-4-オキソ-4,6,7,8-テトラヒドロピロロ[1,2-a]ピリミジン-6-カルボキサミドを有効成分として含有する夜間頻尿の治療剤。
[5]日本人に対して投与される、(6S)-N-[4-({(2S,5R)-5-[(R)-ヒドロキシ(フェニル)メチル]ピロリジン-2-イル}メチル)フェニル]-4-オキソ-4,6,7,8-テトラヒドロピロロ[1,2-a]ピリミジン-6-カルボキサミドを有効成分として含有する夜間頻尿の治療剤。
[6](6S)-N-[4-({(2S,5R)-5-[(R)-ヒドロキシ(フェニル)メチル]ピロリジン-2-イル}メチル)フェニル]-4-オキソ-4,6,7,8-テトラヒドロピロロ[1,2-a]ピリミジン-6-カルボキサミドを有効成分として含有する夜間頻尿に伴う睡眠障害の治療剤。
[7]前記夜間頻尿が、夜間多尿を伴わない夜間頻尿である、[1]から[6]のいずれか一つに記載の治療剤。
[8]夜間頻尿を治療する方法であって、それを必要とする対象に、夜間頻尿を治療するのに有効な量の(6S)-N-[4-({(2S,5R)-5-[(R)-ヒドロキシ(フェニル)メチル]ピロリジン-2-イル}メチル)フェニル]-4-オキソ-4,6,7,8-テトラヒドロピロロ[1,2-a]ピリミジン-6-カルボキサミドを投与することを含む方法。
[9]夜間排尿回数の平均値が1.0以上1.8以下の患者群に属する対象に対して投与される、[8]に記載の方法。
[10](6S)-N-[4-({(2S,5R)-5-[(R)-ヒドロキシ(フェニル)メチル]ピロリジン-2-イル}メチル)フェニル]-4-オキソ-4,6,7,8-テトラヒドロピロロ[1,2-a]ピリミジン-6-カルボキサミドの1日あたりの投与量が50mg以上100mg以下であり、1日1回経口投与される、[8]又は[9]に記載の方法。
[11]夜間頻尿を治療するための医薬の製造における、(6S)-N-[4-({(2S,5R)-5-[(R)-ヒドロキシ(フェニル)メチル]ピロリジン-2-イル}メチル)フェニル]-4-オキソ-4,6,7,8-テトラヒドロピロロ[1,2-a]ピリミジン-6-カルボキサミドの使用。
[12]夜間排尿回数の平均値が1.0以上1.8以下の患者群に属する対象に対して投与される、[11]に記載の使用。
[13](6S)-N-[4-({(2S,5R)-5-[(R)-ヒドロキシ(フェニル)メチル]ピロリジン-2-イル}メチル)フェニル]-4-オキソ-4,6,7,8-テトラヒドロピロロ[1,2-a]ピリミジン-6-カルボキサミドの1日あたりの投与量が50mg以上100mg以下であり、1日1回経口投与される、[11]又は[12]に記載の使用。
[14]夜間頻尿を治療するための、(6S)-N-[4-({(2S,5R)-5-[(R)-ヒドロキシ(フェニル)メチル]ピロリジン-2-イル}メチル)フェニル]-4-オキソ-4,6,7,8-テトラヒドロピロロ[1,2-a]ピリミジン-6-カルボキサミド。
[15]夜間排尿回数の平均値が1.0以上1.8以下の患者群に属する対象に対して投与される、[14]に記載の夜間頻尿を治療するための化合物。
[16]1日あたりの投与量が50mg以上100mg以下であり、1日1回経口投与される、[14]又は[15]に記載の夜間頻尿を治療するための化合物。
【発明の効果】
【0009】
本発明の治療剤は、優れた夜間排尿回数の低減効果を有するので、夜間頻尿の治療剤として有利に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】投与12週時におけるベースラインからの夜間排尿回数の変化量の最小二乗平均(ΔLsmean)を表したグラフである。
図2】ベースラインの夜間排尿回数が1回/日以上の患者群における、投与12週時におけるベースラインからの夜間一回排尿量の変化量の最小二乗平均(ΔLSmean)を表したグラフである。
図3】ベースラインの夜間排尿回数が1回/日以上の患者群における、投与12週時におけるベースラインからの第一覚醒時間(HUS;Hours of Undisturbed Sleep)の変化量の最小二乗平均(ΔLSmean)を表したグラフである。
図4】ベースラインの夜間排尿回数が1回/日以上の患者群における、投与12週時におけるベースラインからの夜間1回目の排尿量の変化量の最小二乗平均(ΔLSmean)を表したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一つの実施形態について詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
本明細書において、「夜間頻尿」とは、夜間排尿のために1回以上起きなければならない症状を意味する。また、「夜間」とは、睡眠を目的として床に入り、目覚めて床から出るまでの時間を意味する。
夜間頻尿の程度を表すパラメーターとして、「夜間頻尿の回数」と「夜間排尿回数」が存在する。前者は夜間睡眠中に記録された排尿回数であり、排尿の前後では睡眠していることが必要である。従って、床に入っても眠れずにトイレへ行った回数は「夜間頻尿の回数」には入らない。一方、後者は、寝ようと思い床に入った時点から、起きようと思い起床(床を離れる)した時点までの排尿回数を意味する。従って、床に入り入眠するまでの排尿や、早朝に覚醒し排尿した後、再び寝付くまでの排尿を含む。本明細書においては、夜間排尿回数を用いて、夜間頻尿の程度を評価している。
本明細書において、「治療」とは、対象の疾病又は病状のうち少なくとも1つを緩和又は軽減することを意味する。
【0012】
本発明の夜間頻尿治療剤は膀胱を弛緩させることで蓄尿機能を亢進させるため、「膀胱容量の減少に伴う夜間頻尿」に対して用いられるのが好ましく、「過活動膀胱に伴う夜間頻尿」に対して用いられるのが更に好ましい。
【0013】
本発明の夜間頻尿治療剤は、好ましくはヒトに対して投与される。本明細書において、ヒトとは、アジア人、白人、黒人、アフリカ系アメリカ人、ヒスパニックを含み、本発明の夜間頻尿治療剤は、アジア人に対して投与されるのが好ましく、日本人に対して投与されるのが更に好ましい(本発明の夜間頻尿治療剤を日本人に投与したとき、プラセボと比較して有意な差が認められた)。
【0014】
本明細書における「アジア人」は、臨床試験において通常用いられる用語と同義であり、例えば、台湾人、韓国人、中国人、日本人が挙げられる。
【0015】
本明細書における「日本人」は、臨床試験において通常用いられる用語と同義であり、一般に用いられる、国籍に基づく日本人の定義よりも狭義である。より具体的にいえば、本明細書における「日本人」とは、両親及び両祖父母が外国人でない者を意味する。よって、父又は母の少なくともいずれか一方が外国人である者、祖父又は祖母の少なくとも一名が外国人である者については、本明細書における「日本人」の定義からは除外される。
【0016】
本明細書における「夜間排尿回数の平均値」とは、睡眠を目的として床に入り、目覚めて床から出るまでの間の排尿回数の平均値を意味する。当該平均値は、健常人の集合では0以上1未満を示し、夜間頻尿患者の集合では、1.0以上を示す。数値が高い患者群ほど重症の夜間頻尿患者群である。本発明の夜間頻尿治療剤は、軽症~重症の夜間頻尿患者群にさらに有効であり、好ましくは夜間排尿回数の平均値が1.0以上の患者群に属する対象に対して投与される。より好ましくは当該平均値が1.0以上1.8以下、さらに好ましくは1.2以上1.8以下、特に好ましくは1.3以上1.7以下の患者群に属する対象への投与が挙げられる。なお、「夜間排尿回数の平均値」は「夜間平均排尿回数」と表すこともある。
【0017】
本明細書における「夜間一回排尿量」とは、夜間排尿一回あたりの排尿量を意味する。
【0018】
本明細書における「第一覚醒時間」とは、HUS(Hours of Undisturbed Sleep)と称することもあり、就寝後排尿のために最初に覚醒するまでの時間を意味する。
【0019】
本明細書における「夜間1回目の排尿量」とは、1回目の夜間排尿の排尿量を意味する。
【0020】
(6S)-N-[4-({(2S,5R)-5-[(R)-ヒドロキシ(フェニル)メチル]ピロリジン-2-イル}メチル)フェニル]-4-オキソ-4,6,7,8-テトラヒドロピロロ[1,2-a]ピリミジン-6-カルボキサミドを有効成分として含有する夜間頻尿の治療剤として、薬学的に許容される添加剤を含有した医薬組成物を用いても良い。薬学的に許容される添加剤とは、例えば、賦形剤、滑沢剤、結合剤、崩壊剤、安定剤、矯味矯臭剤、希釈剤が挙げられる。これらの添加剤としては、医薬品製剤の製造に使用可能なものであれば特に限定はなく、例えば、医薬品添加物事典「日本医薬品添加剤協会、薬事日報社(2016年)」に記載されているものを適宜使用できる。
なお、「(6S)-N-[4-({(2S,5R)-5-[(R)-ヒドロキシ(フェニル)メチル]ピロリジン-2-イル}メチル)フェニル]-4-オキソ-4,6,7,8-テトラヒドロピロロ[1,2-a]ピリミジン-6-カルボキサミドを有効成分として含有する」とは、有効成分として(6S)-N-[4-({(2S,5R)-5-[(R)-ヒドロキシ(フェニル)メチル]ピロリジン-2-イル}メチル)フェニル]-4-オキソ-4,6,7,8-テトラヒドロピロロ[1,2-a]ピリミジン-6-カルボキサミドが含まれていればよく、対象に投与する際にはその薬学的に許容される塩又は共結晶が投与されてもよい。
(6S)-N-[4-({(2S,5R)-5-[(R)-ヒドロキシ(フェニル)メチル]ピロリジン-2-イル}メチル)フェニル]-4-オキソ-4,6,7,8-テトラヒドロピロロ[1,2-a]ピリミジン-6-カルボキサミドの薬学的に許容される塩とは、薬学上許容される非毒性酸(例えば有機酸又は無機酸)との塩を意味する。薬学上許容される非毒性酸との塩としては、例えば、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸等の鉱酸との酸付加塩、ギ酸、酢酸、マレイン酸、フマル酸、コハク酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、メタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、サリチル酸、ステアリン酸、パルミチン酸等の有機酸との酸付加塩が挙げられる。
(6S)-N-[4-({(2S,5R)-5-[(R)-ヒドロキシ(フェニル)メチル]ピロリジン-2-イル}メチル)フェニル]-4-オキソ-4,6,7,8-テトラヒドロピロロ[1,2-a]ピリミジン-6-カルボキサミドの薬学的に許容される共結晶とは、一般に用いられる共結晶形成物との共結晶を意味する。一般に用いられる共結晶形成物としては、例えば、WO2004/078163に記載されているものが挙げられる。
さらに、(6S)-N-[4-({(2S,5R)-5-[(R)-ヒドロキシ(フェニル)メチル]ピロリジン-2-イル}メチル)フェニル]-4-オキソ-4,6,7,8-テトラヒドロピロロ[1,2-a]ピリミジン-6-カルボキサミド又はその薬学的に許容される塩は、水和物として存在する場合もある。
また、(6S)-N-[4-({(2S,5R)-5-[(R)-ヒドロキシ(フェニル)メチル]ピロリジン-2-イル}メチル)フェニル]-4-オキソ-4,6,7,8-テトラヒドロピロロ[1,2-a]ピリミジン-6-カルボキサミド又はその薬学的に許容される塩には、複数の結晶形又は非結晶(アモルファス)が存在することがあるが、いずれの結晶形又は非結晶が投与されてもよい。
【0021】
本実施形態の治療剤は、従来薬学的によく知られた形態及び投与経路を適用してヒトなどの対象に投与することができ、例えば、散剤、錠剤、カプセル剤、細粒剤、顆粒剤、シロップ剤、注射剤、眼科用液剤、水性点鼻剤、水性点耳剤、吸入液剤等の製剤として経口的又は非経口的に投与することができる。すなわち本実施形態の治療剤は、有効成分を生理学的に許容されうる担体、賦形剤、結合剤、希釈剤などと混合し、例えば上述したような剤形で製造することができる。
【0022】
本実施形態の治療剤においては、薬効を発揮し、かつ、副作用が低減できるという点で、(6S)-N-[4-({(2S,5R)-5-[(R)-ヒドロキシ(フェニル)メチル]ピロリジン-2-イル}メチル)フェニル]-4-オキソ-4,6,7,8-テトラヒドロピロロ[1,2-a]ピリミジン-6-カルボキサミドの1日あたりの投与量は、例えば経口投与の場合、10mg以上250mg以下であることが好ましい。より好ましくは30mg以上160mg以下、さらに好ましくは40mg以上150mg以下、より好ましくは50mg以上100mg以下が挙げられる。1日あたりの投与量として、さらに具体的には、50mg、62.5mg、75mg、87.5mg又は100mgが挙げられるが、より好ましくは、50mgが挙げられ症状に応じて100mgまで増量してもよい。1日あたりの投与量は、1回で投与しても、2~3回に分けて投与してもよいが、1日1回投与が好ましい。
なお、上記の1日あたりの投与量は、(6S)-N-[4-({(2S,5R)-5-[(R)-ヒドロキシ(フェニル)メチル]ピロリジン-2-イル}メチル)フェニル]-4-オキソ-4,6,7,8-テトラヒドロピロロ[1,2-a]ピリミジン-6-カルボキサミドの薬学的に許容される塩、共結晶又は水和物を用いる場合は、フリー体に換算した値を用いる。
なお、「フリー体」とは、塩、共結晶及び水和物のいずれの形態でもない、(6S)-N-[4-({(2S,5R)-5-[(R)-ヒドロキシ(フェニル)メチル]ピロリジン-2-イル}メチル)フェニル]-4-オキソ-4,6,7,8-テトラヒドロピロロ[1,2-a]ピリミジン-6-カルボキサミドを意味し、分子式はC2628、分子量は444.53の化合物である。
【0023】
本実施形態によれば、有効性及び安全性に優れた夜間頻尿治療剤の提供が可能となる。
また、本発明の一態様は、夜間頻尿を治療する方法であって、それを必要とする対象に、夜間頻尿を治療するのに有効な量の(6S)-N-[4-({(2S,5R)-5-[(R)-ヒドロキシ(フェニル)メチル]ピロリジン-2-イル}メチル)フェニル]-4-オキソ-4,6,7,8-テトラヒドロピロロ[1,2-a]ピリミジン-6-カルボキサミドを投与することを含む方法に関する。
また、本発明の一態様は、夜間頻尿を治療するための医薬の製造における、(6S)-N-[4-({(2S,5R)-5-[(R)-ヒドロキシ(フェニル)メチル]ピロリジン-2-イル}メチル)フェニル]-4-オキソ-4,6,7,8-テトラヒドロピロロ[1,2-a]ピリミジン-6-カルボキサミドの使用に関する。
また、本発明の一態様は、夜間頻尿を治療するための、(6S)-N-[4-({(2S,5R)-5-[(R)-ヒドロキシ(フェニル)メチル]ピロリジン-2-イル}メチル)フェニル]-4-オキソ-4,6,7,8-テトラヒドロピロロ[1,2-a]ピリミジン-6-カルボキサミドに関する。
これらの態様においても(6S)-N-[4-({(2S,5R)-5-[(R)-ヒドロキシ(フェニル)メチル]ピロリジン-2-イル}メチル)フェニル]-4-オキソ-4,6,7,8-テトラヒドロピロロ[1,2-a]ピリミジン-6-カルボキサミドが有効成分として使用されていればよく、対象に投与する際にはその薬学的に許容される塩又は共結晶が投与されてもよい。
【実施例
【0024】
以下に実施例を示して本発明を更に詳細に説明するが、これら実施例によって本発明の範囲を限定するものではない。
ビベグロン(一般式(1)に記載の化合物、又は(6S)-N-[4-({(2S,5R)-5-[(R)-ヒドロキシ(フェニル)メチル]ピロリジン-2-イル}メチル)フェニル]-4-オキソ-4,6,7,8-テトラヒドロピロロ[1,2-a]ピリミジン-6-カルボキサミド)は、WO2009/124167に開示されている方法に準じて製造した。また、患者に経口投与する製剤は、通常用いられる添加剤と製造方法により製造した。
【0025】
12週間の無作為化、二重盲検、プラセボ対照、並行群間比較試験において、OAB患者の夜間頻尿に対するビベグロンの効能を評価した。
【0026】
日本人のOAB患者を対象に、ビベグロン(50mg/日又は100mg/日)又はプラセボのいずれかを12週間投与した。なお、ビベグロン50mg/日又は100mg/日は、いずれも1日1回朝食後に錠剤の形態で経口投与した。被験者の人口統計学的特性を表1に示す。性別、年齢、BMI等、被験者背景は各投与群の間で差が無かった。
【0027】
OAB患者におけるビベグロンの夜間頻尿に対する治療効果は、排尿日誌を用いて来院前の3日間の排尿回数を調査し、睡眠を目的として床に入り、目覚めて床から出るまでを夜間として、夜間平均排尿回数を評価した。評価結果を表2及び図1に示す。統計解析はconstrained Longitudinal Data Analysis model(cLDA)を用いて各群の最小二乗平均及び両側95%信頼区間を推定した。更に、cLDA法を用い各評価時期でのビベグロン50mg群及び100mg群のプラセボ群に対する最小二乗平均の差及び両側95%信頼区間を推定し、プラセボ群に対する最小二乗平均の差の検定を実施した。
【0028】
表2中の数値は、ベースライン(薬物投与前)の夜間排尿回数の平均、投与12週時のベースラインからの夜間平均排尿回数の変化量の最小二乗平均、ビベグロン群のプラセボ群との変化量の差の最小二乗平均、p値を表す。なお、変化量が0よりも小さいほど、治療効果が高いことを表す。また、p値が0.05よりも小さいと、ビベグロン群とプラセボ群との間に有意な差があることを表す。夜間平均排尿回数のベースラインが「0でない患者」を主要な被験者集団とし、その他「1以上の患者」及び「2以上の患者」を夜間頻尿の症状がより顕著な集団として示す。また、図1中の数値は、投与12週時におけるベースラインからの夜間排尿回数の変化量の最小二乗平均(ΔLsmean)を表したグラフである。
【0029】
【表1】
【0030】
【表2】
【0031】
表2及び図1から分かる通り、夜間排尿がある(ベースラインが0でない)患者において、ビベグロン50mg群及び100mg群はプラセボ群と比較して夜間頻尿に対する有意な治療効果を示した。さらに、夜間排尿回数が1回以上及び2回以上(ベースラインが1以上)である、夜間頻尿の症状がより顕著な集団においても、ビベグロン群は夜間頻尿に対する優れた治療効果を示した。以上より、ビベグロンは夜間頻尿に対して、極めて有効な治療剤となることが見出された。
【0032】
図2に示す通り、夜間排尿回数が1回/日以上(ベースラインが1以上)の患者群における夜間一回排尿量は、プラセボ群(+19.42mL)と比較して、ビベグロン50mg群(+47.85mL)及び100mg群(+58.14mL)の方が有意に増加した。夜間一回排尿量の増加が、夜間排尿回数の減少に寄与した可能性が示唆される。
【0033】
また、図3に示す通り、夜間排尿回数が1回/日以上(ベースラインが1以上)の患者群における第一覚醒時間は、プラセボ群(65.08分)と比較して、ビベグロン50mg群(81.79分)の方が長くなり、ビベグロン100mg群(90.95分)の方が有意に延長した。さらに、図4に示す通り、夜間排尿回数が1回/日以上(ベースラインが1以上)の患者群における夜間1回目の排尿量は、プラセボ群(24.80mL)と比較して、ビベグロン50mg群(48.71mL)及び100mg群(71.42mL)の方が有意に増加した。
【0034】
【表3】
【0035】
表3から、第一覚醒時間と夜間1回目の排尿量との間には正の相関が認められることがわかる(ビベグロン50mg群:ρ=0.419、ビベグロン100mg群:ρ=0.423)。また、第一覚醒時間と夜間排尿回数との間には負の相関が認められることもわかる(ビベグロン50mg群:ρ=-0.670、ビベグロン100mg群:ρ=-0.622)。第一覚醒時間は睡眠の質を確保するために重要であることが報告されており(Eur. Urol. Suppl. 2006; 5: 3-11)、また、睡眠の最初の3時間は睡眠の質に寄与することも示唆されている(Sleep 1991; 14: 294-306)。先述の通り、夜間頻尿は睡眠に大きな影響を与え、患者のQOLを低下させることを考慮すると、夜間排尿回数を減少させ、また、夜間1回目の排尿量を増加させることにより第一覚醒時間を延長させるビベグロンは、夜間排尿に起因する睡眠障害の治療剤としても有望である。
【0036】
ベースラインの夜間排尿回数が1回/日以上の患者群を夜間多尿の有無によって比較した。
夜間多尿を伴わない夜間頻尿患者群における夜間排尿回数は、プラセボ群と比較して、ビベグロン50mg群及び100mg群の方が有意に減少し、また、夜間一回排尿量は、プラセボ群と比較して、ビベグロン50mg群及び100mg群の方が有意に増加した。一方、夜間多尿を伴う夜間頻尿患者群における夜間排尿回数は、プラセボ群と比較して、ビベグロン50mg群及び100mg群の方が減少したものの有意差はなかった。しかしながら、夜間一回排尿量は、プラセボ群と比較して、ビベグロン50mg群及び100mg群の方が有意に増加した。
【0037】
現在までに、夜間頻尿治療薬としては、バソプレシンV2受容体作動薬であるデスモプレシンが知られているが、水中毒(低ナトリウム血症)等の重篤な副作用リスクがあり、投与可能な患者群は制限されている(Neurourol Urodyn 2004;23:302-305、ミニリンメルトOD錠60μg/ミニリンメルトOD錠120μg/ミニリンメルトOD錠240μg
添付文書 2017年3月改訂(第4版))。一方で、ビベグロンは安全性が高い化合物であるため、より多くの夜間頻尿患者に投与可能なものであり、優れた夜間頻尿治療剤である。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本実施形態によれば、(6S)-N-[4-({(2S,5R)-5-[(R)-ヒドロキシ(フェニル)メチル]ピロリジン-2-イル}メチル)フェニル]-4-オキソ-4,6,7,8-テトラヒドロピロロ[1,2-a]ピリミジン-6-カルボキサミドを含有する新規の夜間頻尿治療剤を提供することが可能であり、産業上有用である。
図1
図2
図3
図4