(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-07
(45)【発行日】2023-06-15
(54)【発明の名称】圧縮機制御装置の設定値決定支援装置及び設定値決定支援方法、並びに圧縮機運転制御システム
(51)【国際特許分類】
F04B 49/06 20060101AFI20230608BHJP
F04B 49/02 20060101ALI20230608BHJP
G05B 23/02 20060101ALI20230608BHJP
【FI】
F04B49/06 341L
F04B49/02 331E
G05B23/02 F
(21)【出願番号】P 2020000423
(22)【出願日】2020-01-06
【審査請求日】2022-07-05
(73)【特許権者】
【識別番号】502129933
【氏名又は名称】株式会社日立産機システム
(74)【代理人】
【識別番号】110001689
【氏名又は名称】青稜弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】金 恩敬
(72)【発明者】
【氏名】矢敷 達朗
(72)【発明者】
【氏名】鳥取 伸宏
【審査官】松浦 久夫
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-513563(JP,A)
【文献】国際公開第2012/127783(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/092866(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0187640(US,A1)
【文献】特開2017-115730(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04B 49/06
F04B 49/02
G05B 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つ以上の圧縮機の起動または停止を行い、該圧縮機の吐出空気を空気槽にまとめ、所定圧力範囲の圧縮空気源として供給するための圧縮機運転制御装置の設定値の決定を支援する装置であって、
圧縮機から制御装置の圧力制御位置までの配管流れの圧力損失の要素である配管網情報と、圧縮機の吐出圧力と起動停止回数の上限値である圧縮機仕様と、制御装置の圧力制御位置から流出する流量の時間変化データである供給流量条件と、制御装置の圧力制御位置における供給圧力の下限値である供給圧力条件とを入力する入力部と、
制御装置設定値の組合せを生成してシミュレータへ与える制御装置設定値生成部と、
配管網の圧力と流量を模擬する配管網モデルと制御装置の信号を模擬する制御装置モデルを組合せて供給圧力の時系列データと圧縮機の運転状態の時系列データを計算するシミュレータと、
前記シミュレータが出力した計算結果から供給圧力の予測値及び圧縮機の起動停止回数を計算する出力項目計算部と、
複数の前記制御装置設定値の組合せと、制御装置設定値の組合せに対する前記供給圧力の予測値及び前記圧縮機の起動停止回数を出力する出力部と、
を備えたことを特徴する圧縮機制御装置の設定値決定支援装置。
【請求項2】
請求項1に記載の圧縮機制御装置の設定値決定支援装置において、
前記制御装置設定値の組合せは、圧力の目標値、上限値、下限値の圧力に関する設定値を含み、圧力が圧力に関する設定値を超えてから、圧縮機を起動、またはロード、またはアンロード、または停止を実行するまでの時間に関する設定値を含むことを特徴とする圧縮機制御装置の設定値決定支援装置。
【請求項3】
請求項2に記載の圧縮機制御装置の設定値決定支援装置において、
前記シミュレータ内の制御装置モデルは、圧力の時間変化率を計算し、その時間変化率で一定時間ΔT変化した場合の圧力を予測し、予測した圧力が下限値または上限値を超えると判断した場合、圧縮機を起動または停止する信号を出力し、
前記制御装置設定値の組合せは該一定時間ΔTを含み、また、圧力の時間変化率を計算する単位時間Δtを含むことを特徴とする圧縮機制御装置の設定値決定支援装置。
【請求項4】
請求項1に記載の圧縮機制御装置の設定値決定支援装置において、
前記出力部は、前記複数の制御装置設定値の組合せと、制御装置設定値の組合せに対する前記シミュレータが出力した計算結果から求めた供給圧力の最小値および圧縮機の起動停止回数を含む表を出力することを特徴とする圧縮機制御装置の設定値決定支援装置。
【請求項5】
請求項1に記載の圧縮機制御装置の設定値決定支援装置において、
前記出力部は、前記シミュレータが出力した計算結果から求めた供給圧力の最小値および圧縮機の起動停止回数を軸とするグラフを出力することを特徴とする圧縮機制御装置の設定値決定支援装置。
【請求項6】
請求項5に記載の圧縮機制御装置の設定値決定支援装置において、
前記グラフには、前記入力部より入力された供給圧力の下限値と圧縮機の起動停止回数の上限値を表示することを特徴とする圧縮機制御装置の設定値決定支援装置。
【請求項7】
請求項1に記載の圧縮機制御装置の設定値決定支援装置において、
外部のネットワークとデータをやり取りする通信部を備え、入出力可能であることを特徴とする圧縮機制御装置の設定値決定支援装置。
【請求項8】
1つ以上の圧縮機の起動または停止を行い、該圧縮機の吐出空気を空気槽にまとめ、所定圧力範囲の圧縮空気源として供給する圧縮機運転制御装置と、請求項1に記載の圧縮機制御装置の設定値決定支援装置とを備える圧縮機運転制御システム。
【請求項9】
請求項8に記載の圧縮機運転制御システムにおいて、
前記圧縮機運転制御装置と前記設定値決定支援装置とが通信可能であり、
前記設定値決定支援装置が出力する制御装置設定値の組合せを前記圧縮機運転制御装置に設定するように構成した圧縮機運転制御システム。
【請求項10】
1つ以上の圧縮機の起動または停止を行い、該圧縮機の吐出空気を空気槽にまとめ、所定圧力範囲の圧縮空気源として供給するための圧縮機運転制御装置の設定値の決定を支援する方法であって、
入力部が、圧縮機から制御装置の圧力制御位置までの配管流れの圧力損失の要素である配管網情報と、圧縮機の吐出圧力と起動停止回数の上限値である圧縮機仕様と、制御装置の圧力制御位置から流出する流量の時間変化データである供給流量条件と、制御装置の圧力制御位置における供給圧力の下限値である供給圧力条件とを入力するステップと、
制御装置設定値生成部が、制御装置設定値の組合せを生成してシミュレータへ与えるステップと、
前記シミュレータが、配管網の圧力と流量を模擬する配管網モデルと制御装置の信号を模擬する制御装置モデルを組合せて供給圧力の時系列データと圧縮機の運転状態の時系列データを計算するステップと、
出力項目計算部が、前記シミュレータが出力した計算結果から供給圧力の予測値及び圧縮機の起動停止回数を計算して前記制御装置設定値の組合せと合わせて出力部へ出力するステップと、
出力部が、複数の制御装置設定値の組合せと、制御装置設定値の組合せに対する供給圧力の予測値及び圧縮機の起動停止回数を出力するステップと、
を備えた圧縮機制御装置の設定値決定支援方法。
【請求項11】
請求項10に記載の圧縮機制御装置の設定値決定支援方法において、
前記制御装置設定値の組合せは、圧力の目標値、上限値、下限値の圧力に関する設定値を含み、圧力が圧力に関する設定値を超えてから、圧縮機を起動、またはロード、またはアンロード、または停止を実行するまでの時間に関する設定値を含むことを特徴とする圧縮機制御装置の設定値決定支援方法。
【請求項12】
請求項11に記載の圧縮機制御装置の設定値決定支援方法において、
前記シミュレータ内の制御装置モデルは、圧力の時間変化率を計算し、その時間変化率で一定時間ΔT変化した場合の圧力を予測し、予測した圧力が下限値または上限値を超えると判断した場合、圧縮機を起動または停止する信号を出力し、
前記制御装置設定値の組合せは該一定時間ΔTを含み、また、圧力の時間変化率を計算する単位時間Δtを含むことを特徴とする圧縮機制御装置の設定値決定支援方法。
【請求項13】
請求項10に記載の圧縮機制御装置の設定値決定支援方法において、
前記出力部が出力するステップは、前記複数の制御装置設定値の組合せと、制御装置設定値の組合せに対する前記シミュレータが出力した計算結果から求めた供給圧力の最小値および圧縮機の起動停止回数を含む表を出力することを特徴とする圧縮機制御装置の設定値決定支援方法。
【請求項14】
請求項10に記載の圧縮機制御装置の設定値決定支援方法において、
前記出力部が出力するステップは、前記シミュレータが出力した計算結果から求めた供給圧力の最小値および圧縮機の起動停止回数を軸とするグラフを出力することを特徴とする圧縮機制御装置の設定値決定支援方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気圧縮機等の圧縮機を制御する制御装置の、設定値の決定を支援する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
多数の工場やプラントは、空気を消費して駆動する製造機器(以降、空気消費機器)を有し、空気消費機器へ空気を供給する設備を設けている。圧縮空気供給設備は、空気圧縮機(以降、圧縮機)、タンク、フィルタ、バルブなどの構成機器と、これらの構成機器と空気消費機器を連結して空気消費機器へ圧縮空気を送る配管とからなり、圧縮機の負荷を変化させることにより、空気消費機器への空気供給量及び供給圧力を制御する。
【0003】
圧縮機には、負荷を連続的に変化させる機種と、負荷100%(ロード)と負荷0%(アンロード)にスイッチングする機種がある。負荷をロードまたはアンロード(以降、ロード/アンロード)にスイッチングする圧縮機では、短時間で多数にスイッチングすると、圧縮機本体が高温になって故障に至る場合がある。一方、圧縮機のロード/アンロードが遅れると、供給圧力が下限値を下回ったり上限値を上回ったりする場合がある。
【0004】
ロード/アンロードにスイッチングする圧縮機を用いて供給圧力を制御する方法として、供給圧力の目標値、下限値、上限値、圧縮機のロード/アンロードによる供給圧力の急激な変化を回避するための時間に関する値(以降、タイマー)などを予め制御装置に設定し、これらの設定値に基づいて複数のケースに分けて、圧縮機を起動、またはロード、またはアンロード、または停止させる方法が考案されている。
【0005】
また、供給圧力をより安定的に提供するために、特許文献1に記載されている制御方法が考案されている。特許文献1の制御方法では、現時刻における供給圧力の圧力変化率を計算し、圧力がその圧力変化率で変化するとして、ΔT秒後の圧力を推定する。圧力推定値が下限値または上限値を超えると予測された場合、圧縮機を起動または停止する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平11-287188号公報
【文献】特表2012-513563号公報
【文献】国際公開第2017/119306号
【文献】特開2016-162343号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記に述べた制御方法では、制御装置設定値の適切な組合せを決定することが課題である。制御装置設定値の組合せとは、供給圧力の目標値、下限値、上限値、複数のタイマーの組合せである。特許文献1の制御方法の場合は、制御装置設定値の組合せとして圧力を推定する時間間隔ΔTと、圧力変化率を計算する単位時間Δtが含まれる。ΔTが小さいと頻繁に圧縮機が起動または停止(以降、起動/停止)し、省エネ性低下、圧縮機のヒートアップにつながる。一方、ΔTが大きいと圧縮機の起動、ロード、アンロード、停止などの動作が遅れ、供給圧力が下限値または上限値(以降、下限値/上限値)を超える場合がある。このように、ΔTは選定が難しい設定値である。
【0008】
従来は、設備導入の際に制御装置メーカーの熟練技術者がノーハウで制御装置の設定値の組合せを決定していた。このため、熟練技術者以外の人、例えば、経験の少ない技術者や、工場の運転員が制御装置の設定値組合せを決定することは難しく、工場の生産計画変更等による空気使用量の変化、または、要求される供給圧力の変化、空気供給設備のリプレースなどがあっても、制御装置の設定値を変更することは難しかった。
【0009】
多数の設定値入力を不要とする方法として、特許文献2に記載されている制御方法がある。特許文献2に記載されている技術より、ロード/アンロードへのスイッチングにおける圧力の時間的な変化をシミュレーションで捉えることで、多数の制御装置設定値入力を不要とすることができる。しかしながら、特許文献2の技術では、シミュレーションのために、制御装置に多数の演算処理を実行する計算機を含める必要がある。
【0010】
本発明は上記事情を考慮したものであり、適切な制御装置設定値の組合せを求めて制御装置に入力でき、圧縮空気の安定供給、省エネ性向上、圧縮機の起動停止によるヒートアップ回避を図ることができる圧縮機制御装置の設定値決定支援装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するための「圧縮機制御装置の設定値決定支援装置」の一例を挙げるならば、
1つ以上の圧縮機の起動または停止を行い、該圧縮機の吐出空気を空気槽にまとめ、所定圧力範囲の圧縮空気源として供給するための圧縮機運転制御装置の設定値の決定を支援する装置であって、圧縮機から制御装置の圧力制御位置までの配管流れの圧力損失の要素である配管網情報と、圧縮機の吐出圧力と起動停止回数の上限値である圧縮機仕様と、制御装置の圧力制御位置から流出する流量の時間変化データである供給流量条件と、制御装置の圧力制御位置における供給圧力の下限値である供給圧力条件とを入力する入力部と、制御装置設定値の組合せを生成してシミュレータへ与える制御装置設定値生成部と、配管網の圧力と流量を模擬する配管網モデルと制御装置の信号を模擬する制御装置モデルを組合せて供給圧力の時系列データと圧縮機の運転状態の時系列データを計算するシミュレータと、前記シミュレータが出力した計算結果から供給圧力の予測値及び圧縮機の起動停止回数を計算する出力項目計算部と、複数の前記制御装置設定値の組合せと、制御装置設定値の組合せに対する前記供給圧力の予測値及び前記圧縮機の起動停止回数を出力する出力部と、を備えたものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、適切な制御装置設定値の組合せを求めて制御装置に入力でき、圧縮空気の安定供給、省エネ性向上、圧縮機の起動停止によるヒートアップ回避を図ることができる。
【0013】
上記した以外の課題、構成および効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施例1に係る圧縮機制御装置の設定値決定支援装置の概略構成図。
【
図2】実施例1に係る圧縮機制御装置の設定値決定支援装置の機能ブロック構成図。
【
図3】実施例1の設定値決定支援装置の処理フローを示す図。
【
図4】実施例1の制御装置設定値の組合せの表の一例を示す図。
【
図5】シミュレータからの供給圧力の時系列データの一例を示す図。
【
図6】シミュレータからの圧縮機の運転状態の時系列データの一例を示す図。
【
図7】実施例1のモニター画面に表示される表の例を示す図。
【
図8】実施例1のモニター画面に表示されるグラフの例を示す図。
【
図9】実施例2の圧縮機運転制御システムの概略構成を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を、図面を用いて詳細に説明する。
【実施例1】
【0016】
圧縮空気供給設備では、1つ以上の圧縮機の吐出空気を空気槽(タンク)にまとめ、運転制御装置により圧縮機の起動または停止を行い、所定圧力範囲の圧縮空気源として供給している。圧縮空気供給設備を適切に動作させるためには、運転制御装置に適切な設定値の組合せを設定し、これらの設定値に基づいて圧縮機を起動または停止させる必要がある。
【0017】
図1は、本発明の実施例1に係る空気圧縮機(以降、圧縮機)制御装置の設定値決定支援装置の概略構成図である。実施例1の制御装置の設定値決定支援装置1は、パソコン等のコンピュータで構成され、表示手段であるモニター2と、キーボードやマウスなどのユーザー入力を受ける入力装置3とが接続されている。また、設定値決定支援装置1は、プログラムやデータなどが保存されるハードディスク等の記憶部10と、演算処理をするCPU12と、演算処理中にデータを一時的に保存するRAM等のメモリー13を有する。また、外部のネットワークとデータをやり取りする通信部14を有し、空気供給設備に設置されているセンサー5から信号を受ける通信装置4と接続され、通信ネットワークを介して圧力等のデータを受けることも可能である。さらに、記憶部10には、制御装置設定値の組合せを算出するプログラム11が保存されている。
【0018】
なお、
図1では、モニター2や入力装置3を設定値決定支援装置1と別体に示したが、設定値決定支援装置1はタブレット等で構成してもよく、その場合は、モニター2や入力装置3と一体に構成される。また、設定値決定支援装置1は、センタやクラウド上に構成し、タブレット等の端末からインターネット等の通信回線を介してデータの入力或いは結果の出力を行う様にしてもよい。
【0019】
図2に、圧縮機制御装置の設定値決定支援装置1の機能ブロック構成図を示す。設定値決定支援装置1は、機能として入力部110と、出力部120と、制御装置設定値生成部130と、シミュレータ140と、出力項目計算部150を備える。
【0020】
なお、
図2に示す設定値決定支援装置1は、コンピュータにおいて、CPU12が所定のプログラム11をメモリー上にロードし、また、CPU12がメモリー上にロードした所定のプラグラム11を実行することにより実現できる。この所定のプログラムは、プログラムが記憶されたハードディスク等の記憶部10から、または、通信部14を介してネットワークから入力して、メモリー上にロードすれば良い。
【0021】
入力部110では、ユーザーより入力装置3を通して入力される配管網情報111、圧縮機仕様112、供給流量条件113、供給圧力条件114を受け入れて、これらの入力項目を制御装置設定値生成部130に出力する。なお、配管網情報などは、センタのデータベースに蓄積された情報を通信回線を介して入力するようにしてもよい。
【0022】
出力部120では、出力項目計算部150から制御装置設定値121、供給圧力最小値122、圧縮機起動停止回数123を受けて、モニター2に出力して画面表示させる。
【0023】
制御装置設定値生成部130は、制御装置設定値の組合せを生成し、制御装置設定値の組合せと、入力部110から受けた入力項目をシミュレータ140に与える。
【0024】
シミュレータ140は、配管網モデル141と制御装置モデル142を有し、両モデルの間で信号をやり取りしながら空気供給設備の挙動を模擬する。
【0025】
配管網モデル141は、制御装置設定値生成部130から受けた配管網情報111と、圧縮機仕様112の吐出圧力に基づいて構築され、配管網内の圧力や流量などの物理量を質量や運動量やエネルギーの保存の法則などの物理式と計算条件に基づいて計算する。モデル構築方法及び計算方法は公知の方法であればよく、例えば特許文献3に開示されている。配管網モデル141の計算条件は、制御装置設定値生成部130から受けた供給流量条件113と、圧縮機の吐出圧力である。ここで、圧縮機の吐出圧力は、制御装置モデル142から受けた圧縮機への制御信号と、圧縮機仕様112の吐出圧力に基づいて計算される。また、配管網モデル141は配管網上の制御装置が供給圧力として制御する位置(以降、圧力制御位置)の圧力(以降、供給圧力)を制御装置モデル142に与える。
【0026】
制御装置モデル142は、制御装置の信号処理フローを模擬したものである。制御装置設定値生成部130から制御装置設定値を受け、配管網モデル141から供給圧力を受ける。これらを用いて、制御装置と同様な信号処理をし、圧縮機への制御信号を算出し、配管網モデル141内の圧縮機を模擬する要素モデルへ出力する。
【0027】
シミュレータ140は、このように両モデルを組合せて、供給圧力の時系列データと、圧縮機の運転状態の時系列データを計算し、出力項目計算部150に与える。
【0028】
出力項目計算部150は、シミュレータ140より供給圧力の時系列データと、圧縮機の起動、ロード、アンロード、停止などの運転状態の時系列データを受けて、供給圧力最小値122及び圧縮機起動停止回数123を計算する。
【0029】
次に、入力部110、制御装置設定値生成部130、処理フロー、出力部120の詳細について説明する。
【0030】
<入力部>
最初に、入力部110の詳細を述べる。
配管網情報111は、圧縮機から、圧力制御位置に至る、空気の配管流れの圧力損失計算に必要となる要素の情報である。具体的には、配管の長さや口径、管内表面粗さなどの配管の仕様、エルボやドライヤ、フィルタ、タンクなどの構成機器の仕様である。圧力制御位置は、空気槽(タンク)の場合が多い。配管網情報111の入力方法は、公知の方法であればよく、例えば特許文献4に記載されている方法がある。
【0031】
圧縮機仕様112は、具体的には、吐出圧力、吐出空気量、圧縮機本体のヒートアップなどの損傷を避ける、許容可能な単位時間当たりに起動と停止を繰り返す回数(以降、起動停止許容回数)である。
【0032】
供給流量条件113は、具体的には、圧力制御位置における流量(以降、供給流量)の時間変化データである。供給流量条件113は、計測値が望ましいが、設備が新規であり計測値が存在しない場合は計画値でもよい。
【0033】
供給圧力条件114は、具体的に、供給圧力の下限値である。供給圧力下限値は空気消費機器の仕様より決められる場合が多い。
【0034】
なお、入力部110の入力項目は、通信部14を通して外部の通信装置4よりデータを受けても良い。
【0035】
<制御装置設定値生成部>
次に、制御装置設定値生成部130の詳細を述べる。
制御装置設定値の組合せの生成方法として、本実施例1では、予め決められたルールに沿って、組合せパターンを生成する方法について説明する。
【0036】
制御装置設定値には、圧力目標値、複数の圧力下限値、複数の圧力上限値、下限値と上限値で分けた各ケースにおける、圧縮機のロード/アンロードと起動/停止の動作に関するタイマーなどがある。また、特許文献1の制御方法の場合は、制御装置設定値の組合せに、圧力を推定する時間間隔ΔTと、圧力変化率を計算する単位時間Δtが含まれる。
【0037】
制御装置設定値と制御信号の関係を簡単に述べる。供給圧力が圧力下限値を下回ると、一定時間(Ta)経過してから圧縮機をロードさせる。供給圧力が圧力上限値を上回ると、一定時間(Tb)経過してから圧縮機をアンロードさせる。ここで、一定時間TaとTbは、上述したタイマーであり、制御の安定性に影響を及ぼす設定値である。ここで供給圧力は、センサーからの計測値でもよく、何らかの処理、例えばシミュレーションによる予測値でもよい。
【0038】
このように、制御装置設定値は多数あるが、本実施例1では圧力目標値、圧力下限幅(=圧力目標値-圧力下限値。以降、圧力L)、圧力上限幅(=圧力上限値-圧力目標値。以降、圧力H)の3個の設定値を対象として述べる。タイマーを含む場合でも、制御装置設定値生成部130の処理フローは同様である。また、複数の圧縮機を用いて圧力を制御する形態(台数制御)では、一定時間(Tc,Td)経過してから他の圧縮機を起動/停止する挙動が含まれてもよい。
【0039】
<処理フロー>
図3を用いて、圧縮機制御装置の設定値決定支援装置1の処理フローを説明する。
入力項目取得工程S11として、入力部110が入力項目を取得する。
次に、設定値組合せ生成工程S12として、予め決められたルールに沿って制御装置設定値の組合せを生成する。例えば、下記のように、圧力目標値を6パターン、圧力Lを3パターン、圧力Hを3パターン生成し、
図4に示すように、54パターンの組合せC(n)を生成する。ここで、nは組合せに割り振られたインデックスであり、nの取り得る範囲は、1以上54以下となる。
・圧力目標値:0.61,0.62,0.63,0.64,0.65,0.66
・圧力H:0.01,0.03,0.05
・圧力L:0.01,0.03,0.05
【0040】
次に、シミュレーション工程S13として、入力項目取得工程S11で取得した入力項目と、設定値組合せ生成工程S12で生成した制御装置設定値の組合せに基づいてシミュレータ140がシミュレーションを行い、供給圧力の時系列データと圧縮機の運転状態の時系列データを計算する。
次に、出力項目計算工程S15として、出力項目計算部150が、出力部120に与える出力項目を計算して出力する。シミュレータ140から受けた供給圧力の時系列データから供給圧力の最小値を計算する。例えば、
図5に示す供給圧力の時系列データであった場合、圧力P1が最小値である。また、シミュレータ140から受けた圧縮機の起動、ロード、アンロード、停止の運転状態の時系列データから、圧縮機の単位時間当たりの起動停止回数の最大値(以降、圧縮機起動停止回数)を求める。例えば、
図6に示す圧縮機運転状態の時系列データであった場合、時刻T1~T6において圧縮機が起動/停止しており、起動停止回数は6となる。
次に、出力工程S15として、出力部120が制御装置設定値121と、それに対する供給圧力最小値122及び圧縮機起動停止回数123を出力する。
【0041】
このように、制御装置設定値生成部130が、設定値組合せ生成工程S12で生成された制御装置設定値の組合せを1組ずつ順番に、シミュレータ140に与え、出力項目計算部150がそれに対する予測値を受けることを繰り返す。最終的に、制御装置設定値の組合せと、供給圧力最小値と、圧縮機起動停止回数のデータセットが54個生成される。このデータセットを出力部120に出力する。
【0042】
本実施例1では、制御装置設定値の組合せを生成する方法として、予め決められたルールに沿って、組合せパターンを生成する方法について説明した。本発明で用いるルールとしてはこれに限る必要はなく、例えば、入力部110から受けた供給圧力条件114と、圧縮機仕様112の吐出圧力と、配管網情報111より計算される空気流れの体積に基づいたルールを用いてもよい。
【0043】
また、本実施例1では、予め全ての制御装置設定値の組合せを生成し、順番にシミュレータ140に出力する方法を説明した。これに限る必要はなく、予め全ての制御装置設定値の組合せを生成せずに、シミュレータ140の予測値に応じて次にシミュレータ140へ出力する制御装置設定値の組合せを生成しても良い。例えば、シミュレータ140の予測値に基づいて計算した供給圧力最小値が供給圧力条件113の圧力下限値を下回る場合は、次に出力する制御装置設定値の圧力目標値を大きくする。この場合、シミュレータ140の予測値が予め定められた条件を満たした場合、制御装置設定値の組合せを生成する処理を中止する。ここで、予め定められた条件としては、下記が考えられる。
・シミュレータ140に制御装置設定値の組合せを出力する回数が予め定められた回数を超える。
・シミュレータ140が予測した供給圧力最小値が供給圧力条件113の圧力下限値より大きい。
・シミュレータ140が予測した圧縮機起動停止回数が圧縮機起動停止回数123の上限値より小さい。
つまり、制御装置設定値生成部130で生成した1つの制御装置設定値の組合せに基づいてシミュレータ140でシミュレーションを行い、出力項目計算部150で得られた予測値を制御装置設定値生成部130に戻して、次の制御装置設定値の組合せを生成することにより、最適化を図るようにしてもよい。
【0044】
<出力部>
次に、出力部120の詳細を説明する。
制御装置設定値121は、制御装置設定値生成部130の設定値組合せ生成過程S12で生成された制御装置設定値の組合せである。
【0045】
供給圧力最小値122は、出力項目計算部150の出力項目計算過程S15で計算された供給圧力最小値であり、制御装置設定値121と入力項目に基づいてシミュレータ140が計算した供給圧力の時系列データの最小値である。
【0046】
圧縮機起動停止回数123は、出力項目計算部150の出力項目計算過程S15で計算された圧縮機起動停止回数であり、制御装置設定値121と入力項目に基づいてシミュレータ140が計算した圧縮機の起動、ロード、アンロード、停止の運転状態の時系列データから求めた、単位時間当たりの起動停止回数の最大値である。
【0047】
<表示画面>
次に、出力部120よりモニター2に表示される表示画面について説明する。
表示画面には、上記に述べた制御装置設定値121と、供給圧力最小値122と、圧縮機起動停止回数123のデータセットが表示される。その表示形態の一例を
図7と
図8に示す。
【0048】
図7は、設定値組合せである圧力目標値、圧力L、圧力Hと、予測値である供給圧力最小値、圧縮機起動停止回数を表で表示した例である。ユーザーは供給圧力条件と、圧縮機仕様の起動停止許容回数を満たす制御装置設定値の組合せを選択できる。
【0049】
また、
図8は、縦軸に供給圧力最小値122を、横軸に圧縮機起動停止回数123をとったグラフである。グラフの各点は、一つの制御装置設定値の組合せに対する供給圧力最小値122と圧縮機起動停止回数123を示している。データセットの数が54である場合、点の数は54になる。水平線L1は入力部110に入力された供給圧力条件114(供給圧力下限値)であり、この線より上にある点が供給圧力条件114を満たす制御装置設定値の組合せである。また、垂直線L2は入力部110に入力された圧縮機仕様112の起動停止許容回数であり、この線より左にある点が起動停止許容回数を超えない制御装置設定値の組合せである。つまり、一点鎖線で示す枠内の領域にある点が要求条件を満たす、制御装置設定値の適切な組合せである。
【0050】
ここで、グラフの各点の制御装置設定値の組合せを表示するために、例えば公知の方法を用いて、下記とすれば良い。
・各点付近に制御装置設定値の組合せのインデックスを表示する。
・各点をクリックすると、制御装置設定値の組合せが表示される機能を有する。
また、一点鎖線で示す枠内の領域にある点の色を変えて表示してもよい。
さらに、一点鎖線で示す枠内の領域にある点の中で1点を最も望ましい点として色を変えて表示しても良い。最も望ましい点の条件は、水平線L1に最も近く、かつ、垂直線L2から最も離れていることである。
【0051】
このように本実施例によれば、ユーザーは、空気供給設備の情報(配管網情報、圧縮機仕様)と、要求される空気条件(供給流量条件、供給圧力条件)を入力し、この入力条件に対して、適切な制御装置設定値の組合せを取得できる。ここでユーザーは、制御装置メーカーの技術者、設備の運転員などが考えられる。本実施例では、ユーザーの経験が少なくノーハウを持っていなくても適切な制御装置設定値の組合せを取得できる。本実施例により得られた制御装置設定値の組合せを制御装置に入力することにより、空気安定供給、省エネ性向上、圧縮機の多数の起動停止によるヒートアップ回避などが図れる。このように、圧縮機制御装置に不適切な設定値を入力することによる供給圧力の不安定化、圧縮機のヒートアップによる故障を事前に防ぐことができる。
【0052】
また、制御装置設定値の組合せの決定が容易になるため、工場の生産計画の変更により消費空気量や供給圧力などの空気使用条件が変化した場合、この状況に応じて制御装置設定値の組合せを変更することが容易にできる。例えば、空気使用条件の変化で、要求圧力が減少した場合、供給圧力の目標圧力設定値を低い値に設定できることにより、さらなる省エネ性向上が図れる。
【0053】
本実施例では、制御装置設定値として、圧力目標値、圧力下限幅(=圧力目標値-圧力下限値)、圧力上限幅(=圧力上限値-圧力目標値)の3個の設定値を対象とした。しかしながら、本発明の制御装置設定値の対象は、これに限る必要はなく、圧縮機のロード/アンロードにより圧力を制御する制御装置に用いられる、複数の圧力下限値、複数の圧力上限値、下限値と上限値で分けた各ケースにおける、ロード/アンロードと起動/停止の動作に関するタイマーを対象にしても良い。
【0054】
圧力に関する設定値は、整定状態の圧縮機の出力に影響度が高く、圧力目標値は低いほど省エネ性能向上が図れる。一方、タイマーは、圧力が変化する際、圧縮機の起動/停止、ロード/アンロードの動作タイミングに影響度が高く、供給圧力の応答性及び制御の安定性にも影響度が高い。しかし、タイマーの選定は特に難しいとされていた。本実施例で述べた方法で、タイマーに対しても適切な値を決定できる。これにより、望ましい供給圧力の応答性が得られる。
【0055】
また、特許文献1に記載されている圧力予測制御の制御装置設定値、圧力を推定する時間間隔ΔTと、圧力変化率を計算する単位時間Δtに関しても、本実施例で述べた方法で適切な値を決定できる。
【実施例2】
【0056】
図9に、本発明の実施例2に係る圧縮機運転制御システムを示す。
圧縮機運転制御システム20は、1つまたは複数の圧縮機40の運転を制御する圧縮機制御装置30と、実施例1で説明した圧縮機制御装置の設定値決定支援装置1から構成され、圧縮機制御装置30と設定値決定支援装置1とが通信可能に、或いは一体に構成されている。
【0057】
圧縮機制御装置30の設定値決定支援装置1は、適切な制御装置設定値の組合せを求めて、この制御装置設定値を圧縮機制御装置30に設定する。制御装置設定値の設定は、
図7や
図8に示すような設定値の組合せをモニター2に画面表示して、操作者が選択するようにしてもよいし、或いは、最適な制御装置設定値を機械が自動で設定するようにしてもよい。
【0058】
本実施例の圧縮機運転制御システムによれば、設定値決定支援装置1で求めた制御装置設定値を圧縮機制御装置30に容易に設定することができる。
【符号の説明】
【0059】
1:設定値決定支援装置
2:モニター
3:入力装置
4:通信装置
5:センサー
10:記憶部
11:プログラム
12:CPU
13:メモリー
14:通信部
20:圧縮機運転制御システム
30:圧縮機制御装置
40:圧縮機
110:入力部
111:配管網情報
112:圧縮器仕様
113:供給流量条件
114:供給圧力条件
120:出力部
121:制御装置設定値
122:供給圧力最小値
123:圧縮器起動停止回数
130:制御装置設定値生成部
140:シミュレータ
150:出力項目計算部