(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-07
(45)【発行日】2023-06-15
(54)【発明の名称】大型ユニフロー掃気式2サイクルガス燃料エンジン及び大型ユニフロー掃気式2サイクルガス燃料エンジンの動作方法
(51)【国際特許分類】
F02D 21/08 20060101AFI20230608BHJP
F02D 19/02 20060101ALI20230608BHJP
F02M 21/02 20060101ALI20230608BHJP
【FI】
F02D21/08 L
F02D19/02 E
F02M21/02 S
F02M21/02 301
(21)【出願番号】P 2020075440
(22)【出願日】2020-04-21
(62)【分割の表示】P 2018174493の分割
【原出願日】2018-09-19
【審査請求日】2021-08-27
(32)【優先日】2017-09-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DK
(73)【特許権者】
【識別番号】516330468
【氏名又は名称】マン エナジー ソリューションズ フィリアル ア マン エナジー ソリューションズ エスイー チュスクラン
【氏名又は名称原語表記】MAN Energy Solutions, filial af MAN Energy Solutions SE, Tyskland
【住所又は居所原語表記】Teglholmsgade 41,DK-2450 Copenhagen SV,Danmark
(74)【代理人】
【識別番号】100127188
【氏名又は名称】川守田 光紀
(74)【代理人】
【識別番号】100101340
【氏名又は名称】丸山 英一
(74)【代理人】
【識別番号】100205730
【氏名又は名称】丸山 重輝
(74)【代理人】
【識別番号】100213551
【氏名又は名称】丸山 智貴
(72)【発明者】
【氏名】ニルス ケムトロプ
【審査官】家喜 健太
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-154188(JP,A)
【文献】特開2012-233471(JP,A)
【文献】特開2013-007320(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0030654(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0017845(US,A1)
【文献】特開平08-158927(JP,A)
【文献】特開2004-263666(JP,A)
【文献】特開2014-074342(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 13/00 - 28/00
F02D 43/00 - 45/00
F02B 25/00 - 25/08
F02B 43/00 - 45/10
F02M 21/00 - 21/12
F02M 39/00 - 71/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダライナ(1)と、ピストン(10)と、シリンダカバー(22)とで区切られた燃焼室と、
シリンダライナ(1)に配置された掃気口(18)と、
シリンダカバー(22)に配置された少なくとも1つの排気弁(4)と、
ガス燃料を燃焼室内に噴射する、シリンダライナ(1)に配置された少なくとも1つの燃料弁(30)と、
前記シリンダライナ(1)の前記少なくとも1つの燃料弁(30)への加圧ガス燃料の供給部(40)と、
前記シリンダライナ(1)の前記少なくとも1つの燃料弁(30)への加圧排ガスの供給部(44)と、
を備えた、ガス燃料で動く大型ターボチャージャ付きユニフロー掃気式2サイクル内燃エンジンであって、
前記エンジンは、前記少なくとも1つの燃料弁(30)によって前記燃焼室内に噴射される物質の運動量を高めるために、前記加圧ガス燃料及び前記加圧排ガスの両方を、前記ピストンが前記シリンダカバーに向かう行程の間に、前記少なくとも1つの燃料弁(30)を介して高速で同時に前記燃焼室内に噴射するように構成され、
前記エンジンは、ノッキングを検出するためのノッキングセンサを有し、前記加圧ガス燃料と同時に噴射される前記加圧排ガスの質量を前記ノッキングセンサからの信号に応じて調整するように構成され、
前記エンジンは、前記ノッキングセンサによってノッキングが検出されると、前記加圧ガス燃料と同時に噴射される前記加圧排ガスの質量を増加するように構成され、
前記エンジンは、所定の時間または所定のエンジン回転数の間、前記ノッキングセンサによってノッキングが検出されないと、
前記加圧ガス燃料と同時に噴射される
前記加圧排ガスの質量を減少するように構成される
、
エンジン。
【請求項2】
前記加圧ガス燃料及び前記加圧排ガスが混合ガスとして、前記少なくとも1つの燃料弁(30)から前記燃焼室内に同時に噴射される、
請求項1に記載のエンジン。
【請求項3】
前記加圧ガス燃料及び前記加圧排ガスが前記少なくとも1つの燃料弁(30)の内部で混合される、
請求項2に記載のエンジン。
【請求項4】
前記加圧ガス燃料及び前記加圧排ガスが前記少なくとも1つの燃料弁(30)の上流で混合される、
請求項2に記載のエンジン。
【請求項5】
前記少なくとも1つの燃料弁(30)への、前記加圧ガス燃料及び前記加圧排ガスの共通の供給ライン(42)を備える、
請求項1,2,4のいずれか1つに記載のエンジン。
【請求項6】
前記加圧ガス燃料及び前記加圧排ガスが前記少なくとも1つの燃料弁(30)のノズルのノズル孔から同時に噴射される、
請求項1に記載のエンジン。
【請求項7】
前記加圧排ガスの供給部(44)から前記少なくとも1つの燃料弁(30)への供給ライン(45)と、前記加圧ガス燃料の供給部(40)から前記少なくとも1つの燃料弁(30)への供給ライン(41)とを別々に備える、
請求項1乃至3または6のいずれか1つに記載のエンジン。
【請求項8】
前記加圧ガス燃料と同時に噴射される前記加圧排ガスの量を調整するように構成された制御装置を備える、
請求項1乃至7のいずれか1つに記載のエンジン。
【請求項9】
シリンダライナ(1)の外周に周方向に分散された前記少なくとも1つの燃料弁(30)を複数備える
請求項1乃至8のいずれか1つに記載のエンジン。
【請求項10】
前記少なくとも1つの燃料弁(30)は1つ以上の噴射ノズル(39)を有する、
請求項1乃至9のいずれか1つに記載のエンジン。
【請求項11】
前記少なくとも1つの燃料弁(30)は、前記加圧ガス燃料の供給部(40)に接続された第1の吸気口と、前記加圧排ガスの供給部(44)に接続された第2の吸気口とを備える、
請求項10に記載のエンジン。
【請求項12】
前記少なくとも1つの燃料弁(30)は、内部に、前記加圧ガス燃料及び前記加圧排ガスを混合する機構(33)を備える、
請求項4を引用しない請求項11に記載のエンジン。
【請求項13】
前記加圧ガス燃料及び前記加圧排ガスの両方の同時噴射は、前記ピストン(10)が前記シリンダカバー(22)に向かう行程の間で、前記ピストンが前記掃気口を通過した後であって前記排気弁(4)が完全に閉じる前に開始される、
請求項1乃至12のいずれか1つに記載のエンジン。
【請求項14】
上死点または上死点の近傍で、点火を開始する点火システムを有する、
請求項1乃至13のいずれか1つに記載のエンジン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、大型ターボチャージャ付き2サイクル内燃エンジンに関し、特にガス燃料で動くクロスヘッドを備えた大型ユニフロー(単流)掃気式2サイクル内燃エンジン(A LARGE TWO-STROKE UNIFLOW SCAVENGED GASEOUS FUELED ENGINE)に関する。
【背景技術】
【0002】
クロスヘッドを備えた大型ターボチャージャ付きユニフローチャージ式2サイクル内燃エンジンは、例えば、大型外航船の推進用や発電所の一次発動機として使われている。大きさの違いだけでなく、これら2サイクルディーゼルエンジンは、他の内燃エンジンとは異なる構成を有している。排気バルブの重量は最大400kgで、ピストンの直径は最大100cmであり、燃焼室の最大動作圧は通常数百バールである。このような高い圧力レベルやピストンサイズに対しては著しく大きい力が必要になる。
【0003】
シリンダライナの長さ方向の中央に配置された燃料弁により噴射されるガス燃料によって動作する大型ターボチャージャ付き2サイクル内燃エンジン、すなわち排気弁が閉じる頃に始まるピストンの上り行程の間にガス燃料を噴射するエンジンは、燃焼室内でガス燃料と掃気との混合ガスを圧縮して、例えば、パイロットオイル噴射などの時限点火手段によって点火を行う。このように、ピストンがガス燃料と掃気との混合ガスを圧縮する結果、ノッキングのおそれが生じる。当業界では、この種のノッキングを「ディーゼル」ノッキングと呼んでいる。
【0004】
ディーゼルノッキングに伴う問題は、燃焼室に導入したガスをできるだけ均質にすることによって低減できる。しかし、均質な導入ガスを得る上で非常に短いエンジンサイクルの時間帯しか利用できないので、掃気とガス燃料との均質な導入を行うことは難しい。これは、排気弁が閉じる時から上死点(top dead center:TDC)までのエンジンサイクルの時間帯が比較的短い(通常は20度~40度のクランクシャフト角の期間)ことによるものであり、例えば、4サイクルエンジンでガス燃料と給気とを実際に吸気システム内で混合することのできる利用可能なエンジンサイクルの期間、すなわち吸気弁の開弁位相の少なくとも大半の期間(通常は40度~160度のクランクシャフト角の期間)と比較して、上記時間帯は短いことによる。
【0005】
均質な導入ガスを得る上で利用可能なエンジンサイクルの時間帯が比較的短いことは、大型2サイクルディーゼルエンジンにおいてディーゼルノッキングを避けることをより難しくしている。
【0006】
燃焼室内へのガス燃料と給気との不均質な導入はディーゼルノッキングのおそれを高め、エンジンに重大なダメージを与える可能性がある。
【0007】
これまでに以下の方法でエンジンのノッキングの問題の解決が図られてきた。
【0008】
デンマーク特許第1,779,361号(DK1779361)には、シリンダライナ内を動くピストン、排気弁を備えたシリンダヘッド、およびシリンダライナ内に周方向に配置された掃気口を有する大型ユニフロー掃気式2サイクルエンジンが開示されている。数個の燃料噴射弁が、掃気口の上方でシリンダライナの周囲に周方向に分散されている。燃料はTDCより少なくとも90度前のクランク角の位置で噴射される。
【0009】
デンマーク特許第1,766,118 B1号(DK1766118 B1)には別の大型ユニフロー掃気式2サイクルエンジンが開示されている。このエンジンでは、ガス燃料が掃気口から噴射されて、燃焼室に流入する空気に混入される。また、水噴射ノズルがシリンダヘッドに設けられている。燃料と空気との混合物の温度を下げるために圧縮時に水が燃焼室内に噴射されて、ノッキングを防ぐようになっている。
【0010】
しかし、上記の解決策では、大型2サイクル圧縮点火内燃エンジンのノッキングを効果的に防ぐには機能が十分でないことが明らかになっている。
【0011】
したがって、このような大型エンジンにおいてノッキングによる損傷からエンジンを効果的に保護するために燃料噴射を改善する必要がある。
【発明の概要】
【0012】
したがって、ノッキングを防止できる、または少なくとも低減できる、ガス燃料で動く大型ユニフロー掃気式2サイクルエンジンを提供することを目的とする。
【0013】
上記およびその他の目的は、独立請求項の特徴により達成される。さらなる実施様式が、従属請求項、本明細書、および図面により明らかにされる。
【0014】
第1態様により大型ターボチャージャ付きユニフロー掃気式2サイクル内燃エンジンが提供される。このエンジンは、シリンダライナと、ピストンと、シリンダカバーと、で区切られた燃焼室と、シリンダライナに配置された掃気口と、シリンダカバーに配置された少なくとも1つの排気弁と、ガス燃料を燃焼室内に噴射する、シリンダライナに配置された少なくとも1つの燃料弁と、圧縮ガス燃料の燃料弁への供給部と、圧縮排ガスの燃料弁への供給部の両方と、を備え、前記少なくとも1つの燃料弁によって前記燃焼室内に噴射される物質の運動量を高めるために、前記ガス燃料、および、前記排ガスの両方を前記少なくとも燃料弁を介して同時に前記燃焼室内に噴射するように構成される。
【0015】
排ガスを噴射する目的は、燃焼室内に噴射される物質の発熱量を変化させない反応性物質を噴射することによって燃焼室内に噴射される物質の運動量を高めることである。運動量を高めることによってガス燃料と掃気との混合が促進され、さらにそれによって導入ガスがより均質になると共にノッキングのおそれが低下する。
【0016】
このように、噴射される排ガスは反応性物質であるが、燃焼室内に噴射される物質(ガス燃料、および、噴射される排ガス)の発熱量を変化させない。しかし、排ガスの噴射によって運動量が付加され、噴射される物質全体の運動量が増える。これによりノッキングすなわち早期燃焼のおそれが低下する。
【0017】
運動量は、質量m(kg)と速度v(m/s)との積(m.v)である。
【0018】
したがって、燃焼室内に噴射される物質の全運動量は、噴射される燃料の質量と速度との積と、噴射される排ガスの質量と速度との積との和になる。
【0019】
噴射されるガス燃料の速度は音速が上限である。1エンジンサイクルにおける1回の噴射の間に噴射される燃料の質量は、エンジン負荷により規定される。ガス燃料が音速に達した後さらに運動量を高めることは通常不可能である。
【0020】
しかし、本発明者らは、運動量は、ガス燃料の噴射に加えて排ガスを噴射し、それによって噴射される質量を増やして運動量を増すことにより高めることができるという知見を得た。すなわち、運動量は付加されたガスを高速噴射することによって高められる。
【0021】
また、本発明者らは、排ガスを付加することによって圧縮の間に燃焼室内の導入ガスの温度が下がり、それによりノッキングのおそれがさらに低下するという知見を得た。
【0022】
第1態様の第1の可能な実施様式によれば、ガス燃料、および、排ガスが混合ガスとして、少なくとも1つの燃料弁から燃焼室内に同時に噴射される。
【0023】
第1態様の第2の可能な実施様式によれば、ガス燃料と、排ガスとが少なくとも1つの燃料弁の内部で混合される。
【0024】
第1態様の第3の可能な実施様式によれば、ガス燃料、および、排ガスが少なくとも1つの燃料弁の上流で混合される。
【0025】
第1態様の第4の可能な実施様式によれば、エンジンが、少なくとも1つの燃料弁への、排ガス用とガス燃料用との共通の供給ラインを備える。
【0026】
第1態様の第5の可能な実施様式によれば、ガス燃料、および、排ガスが少なくとも1つの燃料弁のノズルのノズル孔から同時に噴射される。
【0027】
第1態様の第6の可能な実施様式によれば、エンジンは、排ガス用の、圧縮排ガスの供給源から少なくとも1つの燃料弁への供給ラインと、ガス燃料用の、圧縮ガス燃料の供給源から少なくとも1つの燃料弁への供給ラインとを別々に備える。
【0028】
第1態様の第7の可能な実施様式によれば、エンジンは、ガス燃料と同時に噴射される排ガスの量を調整するように構成された制御装置を備える。
【0029】
第1態様の第8の可能な実施様式によれば、エンジンは、シリンダライナの外周に周方向に分散された少なくとも1つの燃料弁を複数備える。
【0030】
第1態様の第9の可能な実施様式によれば、少なくとも1つの燃料弁は1つ以上の噴射ノズルを有する。
【0031】
第1態様の第10の可能な実施様式によれば、少なくとも1つの燃料弁は、圧縮ガス燃料の供給源に接続された第1の吸気口と、圧縮排ガスの供給源に接続された第2の吸気口とを備える。
【0032】
第1態様の第11の可能な実施様式によれば、少なくとも1つの燃料弁は、燃料弁の内部にガス燃料、および、排ガスを混合する機構を備える。
【0033】
第1態様の第12の可能な実施様式によれば、ガス燃料、および、排ガスの両方の同時噴射は、ピストンがシリンダカバーに向かう行程の間で、好ましくはピストンが掃気口を通過した後、さらに好ましくは排気弁が閉じる時またはその直前に開始される。
【0034】
第1態様の第13の可能な実施様式によれば、エンジンは、好ましくはTDCまたはTDCの近傍で、点火を開始する点火システムを備える。
【0035】
第1態様の第14の可能な実施様式によれば、エンジンは、ピストンがシリンダカバーに向かう行程の間にガス燃料、および、排ガスの両方を同時に噴射するように構成される。
【0036】
第2態様によれば、大型ターボチャージャ付きユニフロー掃気式2サイクル内燃エンジンにおいて、燃焼室内でガス燃料と掃気との混合を促進することによってノッキングを低減する方法が提供される。前記エンジンは、シリンダライナと、ピストンと、シリンダカバーとで区切られた燃焼室と、シリンダライナに配置された掃気口と、シリンダカバーに配置された排気弁と、ガス燃料、および、排ガスを燃焼室内に噴射する、シリンダライナに配置された少なくとも1つの燃料弁と、を備える。前記方法は、圧縮ガス燃料、および、圧縮排ガスを燃料弁に供給する工程と、燃焼室内に噴射される物質の運動量を高めるためにピストンがシリンダカバーに向かう行程の間に圧縮ガス燃料、および、圧縮排ガスを燃料弁を介して同時に燃焼室内に噴射する工程と、を含む。
【0037】
第2の態様の第1の可能な実施様式によれば、排ガスが、エンジン負荷が高い場合のみ、好ましくはエンジン負荷がエンジンの最大連続定格の60%を超える場合のみ、さらに好ましくはエンジン負荷がエンジンの最大連続定格の70%を超える場合のみに噴射される。
【0038】
上記およびその他の態様は以下に述べる実施形態により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
以下の本開示の明細部分について、態様、実施形態、および実施様式を各図に示す実施形態例を参照してより詳細に説明する。
【
図1】一実施形態例に係る大型2サイクルディーゼルエンジンの正面図である。
【
図2】
図1の大型2サイクルエンジンの側面図である。
【
図3】
図1の大型2サイクルエンジンを図式的に表す図である。
【
図4】一実施形態例に係るシリンダフレームとシリンダライナとを、シリンダカバーと、シリンダカバーに適合した排気弁と、TDCと下死点(bottomed dead center:BDC)との両方の位置におけるピストンと共に示す断面図である。
【
図6】ガス燃料、および、噴射される排ガスが同一の燃料弁を介して燃焼室に送給される実施形態での燃料弁構成が設けられた、
図5のシリンダライナのVI-VI線における断面図である。
【
図7】ガス燃料、および、噴射される排ガスが燃料弁に送給される前に混合される実施形態での燃料供給構成と燃料弁機構とを示す図である。
【
図8】ガス燃料、および、噴射される排ガスが燃料弁内部で混合される実施形態での燃料供給構成と燃料弁機構とを示す図である。
【
図9】ガス交換と燃料噴射サイクルとを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下の詳細な説明では、各実施形態例における大型低速ターボチャージャ付き2サイクル内燃クロスヘッドエンジンを参照して内燃エンジンの説明を行う。
図1,2,3は、クランクシャフト8とクロスヘッド9とを備えた、大型低速ターボチャージャ付き2サイクルディーゼルエンジンを示す。
図3は、大型低速ターボチャージャ付き2サイクルディーゼルエンジンを、その吸排気システムと共に図式的に示す図である。本実施形態例のエンジンは4つの並列シリンダを有する。通常、大型低速ターボチャージャ付き2サイクルディーゼルエンジンは4~14の並列シリンダを有しており、これらシリンダはエンジンフレーム11に支えられている。このエンジンは、例えば、船舶の主エンジンや発電所の発電機を作動する定置エンジンとして使用される。このエンジンの総出力は、例えば1,000~110,000kWの範囲にある。
【0041】
本実施形態例のエンジンは、シリンダライナ1の下部に掃気口18と、シリンダライナ1の頂部に中央排気弁4とを備えたユニフロー型2サイクルエンジンである。掃気は、掃気受け2から個々のシリンダ1の掃気口18を介して送られる。ガス燃料、および、噴射される排ガスがシリンダライナ1内の燃料噴射弁30から噴射され、シリンダライナ1内のピストン10が、導入されたガス燃料と、噴射される排ガスと、掃気とを圧縮して、圧縮が起きた状態で、TDCまたはTDCの近傍で、例えば、パイロットオイル燃料弁33からパイロットオイル(または任意の他の適当な点火用液体)を噴射することにより点火がトリガされ、燃焼が起きて排ガスが生じる。他の方式の点火システム(例えば、レーザ点火やグロープラグなど)を用いて点火を開始することもできる。
【0042】
排気弁4が開いていると、排ガスはシリンダ1に付随した排気ダクトを通じて排ガス受け3に流入し、さらにその先で第1の排気路19を通じてターボチャージャ5のタービン6に流入する。タービン6から排ガスは第2の排気路を通じてエコノマイザ20を介して排気口21に流れ、大気中に流出する。タービン6はシャフトを介してコンプレッサ7を駆動し、コンプレッサ7には吸気口12から外気が供給される。コンプレッサ7は、圧縮掃気を掃気受け2に通じる掃気路13に送給する。掃気路13内の掃気は掃気冷却用の中間冷却器14を通過する。
【0043】
冷却された掃気は電動モータ17に駆動される補助ブロア16を通る。補助ブロア16は、ターボチャージャ5のコンプレッサ7から掃気受け2に十分な圧力が送られない時、すなわちエンジンが低負荷または部分負荷状態の時に掃気を加圧する。エンジン負荷が高くなると、コンプレッサ7は十分な圧縮掃気を送給し、補助ブロア16は逆止弁15を経て迂回される。
【0044】
図9は、掃気口18と、排気弁4と、燃料弁30との開放期間と閉止期間とを、それぞれクランク角の関数として示すグラフである。このグラフが示すように、ガス燃料を噴射する時間帯は非常に短く、そのためにガス燃料が燃焼室内で掃気と混合される時間も非常に短い。ガス燃料、および、噴射される排ガスは、この非常に短い時間帯に噴射される。
【0045】
比較的高速で噴射される比較的大きい質量を得るために、また噴射される排ガスの大きい運動量を得るために、相当量の排ガスが噴射されると共に、排ガスが高圧で噴射される。
【0046】
噴射される排ガスの運動量が噴射されるガス燃料の運動量と合わさって、ガス燃料単独の運動量よりも著しく大きい運動量が生じる。
【0047】
噴射される排ガスは反応性物質であるが、発熱量を増加させない。このため燃焼室内に噴射される物質の発熱量は、燃焼室内に単独で噴射される燃料の発熱量と差がない。
【0048】
1回のエンジンサイクルで噴射されるガス燃料の量はエンジン負荷によって規定される。1回のエンジンサイクルで噴射される噴射排ガスの量は噴射速度に依存し、また特殊な種類のガス燃料で動く特殊なエンジンのノッキングを防ぐ必要の有無にも依存するが、簡単な試行錯誤により決定することができる。
【0049】
好ましくは、排ガスはエンジンサイクル毎に噴射される。エンジン負荷が低い場合は、通常ノッキングのおそれはきわめて小さい。このため、一実施形態では、排ガスは、エンジン負荷が高い場合のみ、例えば、エンジンの最大連続定格の60~70%より高いエンジン負荷の場合に燃焼室内に噴射される。
【0050】
一実施形態において、エンジンは図示しないノッキングセンサを有し、付加される排ガスの量はノッキングセンサからの信号に応じて調整される。すなわち、噴射される排ガスの量(質量)は、ノッキングが検出されると増加され、しばらくしてノッキングが検出されなくなると減少される。
【0051】
一実施形態において、噴射される排ガスはガス燃料との混合ガスとしてガス燃料と同時に噴射されるか、またはガス燃料とは別に噴射される。
【0052】
図4,5,6は、総括的に符号1で表した、大型2サイクルクロスヘッドエンジン用のシリンダライナを示す。エンジンの大きさに応じて、シリンダライナ1は異なるサイズで製造される。シリンダ内径は通常250mm~1000mmの範囲で異なり、対応するシリンダ長は通常1000mm~4500mmの範囲で異なる。
【0053】
図4に示すシリンダライナ1はシリンダフレーム23に取り付けられている。シリンダライナ1の上にはシリンダカバー22が載置されており、両者の間には気密性の接続部が介在している。
図4では、ピストン10は、下死点(BDC)と上死点(TDC)との両方を破線によって示しているので、図式的に示されていないが、これら2つの位置は同時には発生せず、クランクシャフト8の180度回転分の隔たりがあることはいうまでもない。シリンダライナ1は、シリンダ潤滑孔25とシリンダ潤滑ライン24とを備え、これにより、ピストン10が潤滑ライン24を通過する際にシリンダ潤滑油が供給され、次いで、図示しないピストンリングによってシリンダライナ1の滑り面にシリンダ潤滑油が分散される。
【0054】
図4に示した実施形態では、壁部29のもっとも薄い部分はシリンダライナ1の底部、すなわち掃気口18より下方の部分である。シリンダライナ1の壁部29のもっとも厚い部分は、シリンダライナ1の軸方向上方の部分である。シリンダライナ1の軸方向中央部の周囲でシリンダライナ1の厚さが急激に変化しており、この部分が肩部の役割を果たして、シリンダフレーム23にシリンダを載置できるようになっている。シリンダカバー22は、テンションボルトにより加えられる強い力によってシリンダライナ1の上面に押圧されている。
【0055】
パイロットオイル弁33(通常はシリンダ1つにつき2つ以上)がシリンダカバー22に取り付けられて図示しないパイロットオイル供給源に接続されている。一実施形態において、パイロットオイル噴射のタイミングは図示しない電子制御装置により制御される。
【0056】
燃料弁30は、そのノズルがシリンダライナ1の内面にほぼ面一で、かつその後端がシリンダライナ1の外壁から比例配分した状態で、シリンダライナ1に取り付けられている。一般に、各シリンダに対して3個または4個の燃料弁30が、シリンダの周囲に周方向に等間隔に分散して設けられている。一実施形態において、燃料弁30はシリンダライナ1の長さ方向の中央に配置されている。
【0057】
図5,6は、シリンダライナ1と燃料弁30とをより詳細に示した図である。本実施形態では、シリンダライナ1は4つの燃料弁30を備えている。
図6では燃料弁30は径方向を指向しているが、燃料弁30をシリンダライナ1に対して他の角度で配置することもできることは明らかである。
【0058】
一実施形態において、燃料弁30はガス燃料、および、噴射される排ガスの共通(混合)供給源に接続される。
図7に示す燃料弁30は、1本の供給ライン42を介して圧縮燃料の供給源(供給部)40と噴射される圧縮排ガスの供給源(供給部)44の両方に接続されている。図示しない弁が設けられて、燃料弁30に送給されるガス燃料、および、噴射される排ガスの所望の比率が保たれている。共通路32を通じて上記混合ガスがノズル39に移送される。混合ガスはノズル39のノズル孔から燃焼室内に噴射される。燃料弁30は、例えば、電子制御装置の制御下で混合ガスを燃焼室に時限噴射する手段を備えている。
【0059】
図7の実施形態の一変形において、ガス燃料、および、噴射される排ガスは混合されず、代わりにガス燃料か噴射される排ガスのいずれかを先にして順次燃料弁30に供給され、順次噴射される。
【0060】
他の実施形態では、
図8に示すように、ガス燃料の供給源40が専用の供給ライン41によって燃料弁30の専用ポートに接続される。ガス燃料は、専用路31によって燃料弁30内部の混合部33に導かれる。圧縮排ガスの供給源44が専用の供給ライン45によって燃料弁30の専用ポートに接続される。排ガスは、専用路35によって燃料弁30内部の混合部33に導かれる。混合部33においてガス燃料、および、排ガスが混合され、生じた混合ガスは共通路32を通って混合部33からノズル39に移送される。ノズル39はノズル孔を備えており、このノズル孔から混合ガスが燃焼室内に噴射される。燃料弁30は、例えば、電子制御装置の制御下で混合ガスを燃焼室に時限噴射する手段を備えている。
【0061】
様々な態様と実施様式とを、上記の種々の実施形態との関連で説明した。しかし、添付図面と、本明細書と、添付の特許請求の範囲とを検討することで、本請求の内容を実施する当業者が本開示の実施形態の他の変形を実現可能なことは明らかである。特許請求の範囲において、「備える」という言葉は他の構成要素や工程を排除するものではない。また、「1つの」という言葉は複数を排除するものではない。1個のプロセッサまたは他の装置によって、特許請求の範囲で列挙された複数の項目の機能を果たすことが可能である。複数の方策が互に異なる独立請求項で列挙されることは、それらの方策の組み合わせを有効に利用することはできないことを意味するものではない。
【0062】
特許請求の範囲で用いた参照符号はその範囲を限定することを意味するものではない。