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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-07
(45)【発行日】2023-06-15
(54)【発明の名称】鉛蓄電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/543 20210101AFI20230608BHJP
   H01M 50/15 20210101ALI20230608BHJP
   H01M 50/114 20210101ALI20230608BHJP
   H01M 10/06 20060101ALI20230608BHJP
【FI】
H01M50/543
H01M50/15 101
H01M50/114
H01M10/06 Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020168319
(22)【出願日】2020-10-05
(62)【分割の表示】P 2020518242の分割
【原出願日】2019-04-23
(65)【公開番号】P2021007106
(43)【公開日】2021-01-21
【審査請求日】2022-03-25
(31)【優先権主張番号】P 2018090860
(32)【優先日】2018-05-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】322013937
【氏名又は名称】エナジーウィズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【弁理士】
【氏名又は名称】平野 裕之
(74)【代理人】
【識別番号】100211018
【弁理士】
【氏名又は名称】財部 俊正
(72)【発明者】
【氏名】瀬和 格
【審査官】冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/120768(WO,A1)
【文献】特開2003-007281(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/50
H01M 50/10
H01M 10/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セル室を有し、上面が開口している電槽と、
前記開口を閉じる蓋と、
複数の電極板を有し、前記セル室に収容された極板群と、
極柱と、を備え、
前記極柱の最小径に対する前記極板群の質量の比が220g/mm以下であり、
前記極柱の根本径が10.0mm以上であり、
前記極柱の最小径が7.2mm以下である、鉛蓄電池。
【請求項2】
セル室を有し、上面が開口している電槽と、
前記開口を閉じる蓋と、
複数の電極板を有し、前記セル室に収容された極板群と、
極柱と、を備え、
前記極柱の最小径に対する前記極板群の質量の比が220g/mm以下であり、
前記極柱の根本径が10.0mm以上であり、
前記極板群の質量が1400~1550gである、鉛蓄電池。
【請求項3】
前記極柱の体積が5723mm以上である、請求項1又は2に記載の鉛蓄電池。
【請求項4】
前記極柱の高さが85mm以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載の鉛蓄電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は鉛蓄電池に関する。
【背景技術】
【0002】
鉛蓄電池は車両のエンジン始動用及びバックアップ電源用といった様々な用途に用いられている。特に車両のエンジン始動用鉛蓄電池は、エンジン始動用セルモータへの電力供給と共に、車両に搭載された各種電気及び電子機器へ電力を供給する。近年、環境保護及び燃費改善の取り組みとして、例えば、エンジンの動作時間を少なくするアイドリングストップ車(以下、「ISS車」という)、エンジンの動力によるオルタネータの発電を低減する発電制御車等のマイクロハイブリッド車への鉛蓄電池の応用が検討されている。
【0003】
ところで、鉛蓄電池を車両に搭載して用いる場合、車両の振動に伴い、鉛蓄電池に強い振動が加わることがある。この場合、鉛蓄電池の構成物品の一つである極柱に直接応力が加わり、極柱が破損するおそれがある。これに対し、特許文献1は、鉛合金よりなる極柱の内部に、極柱母材よりも電気抵抗の低い筒状体を存在させることで、上記振動に伴う極柱の破損の発生を抑制することを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2009-252625号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の技術は、極柱の材料の変更を必要とするものであり、製造コストの上昇につながるため、極柱の材料を変更することなく、極柱の破損の発生を抑制し得る新たな技術の開発が求められる。また、本発明者らの検討の結果明らかになったことであるが、鉛蓄電池に対して電極板の積層方向に振動が加わった場合、極柱の破損が発生しやすくなり、特許文献1の技術では極柱の破損の発生を充分に抑制し得ない。
【0006】
そこで、本発明は、鉛蓄電池に対して振動が加わることによる極柱の破損の発生を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面の鉛蓄電池は、セル室を有し、上面が開口している電槽と、開口を閉じる蓋と、複数の電極板を有し、セル室に収容された極板群と、極柱と、を備える。この鉛蓄電池において、極柱の最小径に対する極板群の質量の比は220g/mm以下である。
【0008】
上記鉛蓄電池によれば、鉛蓄電池に対して振動が加わることによる極柱の破損の発生を抑制することができる。
【0009】
極柱の最小径に対する極板群の質量の比は、200g/mm以上であってよい。この場合、極柱の破損の発生が抑制されると共に放電容量(放電持続時間)が増加する傾向がある。
【0010】
極柱の根本径は、10.0mm以上であってよい。鉛蓄電池では、大電流放電時等に極柱でジュール熱が発生する場合がある。極柱の根本径が10.0mm以上である場合、ジュール熱が発生したとしても、極柱の溶断が起こりがたい。
【0011】
極柱の体積は、5723mm以上であってよい。この場合、極柱の抵抗を充分に小さくすることができ、極柱におけるジュール熱の発生を抑制することができる。その結果として、ジュール熱による極柱の溶断を防止しやすくなる。
【0012】
極柱の高さは、85mm以下であってよい。この場合、ジュール熱による極柱の溶断を防止しやすくなる。
【0013】
極柱の電槽側の先端面の面積は、100mm以上であってよい。この場合、ジュール熱による極柱の溶断を防止しやすくなる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、鉛蓄電池に対して振動が加わることによる極柱の破損の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、一実施形態に係る鉛蓄電池の全体構成及び内部構造を示す斜視図である。
図2図2は、図1の鉛蓄電池に用いられる電槽を示す斜視図である。
図3図3は、図2のIII-III線に沿った断面図である。
図4図4は、図1の鉛蓄電池が備える極板群を説明するための分解斜視図である。
図5図5(a)及び図5(b)は、集電体(正極集電体又は負極集電体)の一例を示す正面図である。
図6図6は、図1のV-V線に沿った部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<鉛蓄電池>
図1は、一実施形態の鉛蓄電池の全体構成及び内部構造を示す斜視図である。図1に示すように、一実施形態に係る鉛蓄電池1は、上面が開口している電槽2と、電槽2の開口を閉じる蓋3と、電槽2に収容された極板群4及び希硫酸等の電解液(図示せず)と、正極柱(図示せず)及び負極柱5(以下、これらをまとめて「極柱6」ともいう)と、を備える液式鉛蓄電池である。一実施形態の鉛蓄電池は、電解液が注液される前の状態であってもよい。すなわち、鉛蓄電池は、電解液を備えていなくてもよい。
【0017】
蓋3は、正極端子7及び負極端子8(以下、これらをまとめて「電極端子9」ともいう)と、蓋3に設けられた複数の注液口をそれぞれ閉塞する複数の液口栓10とを備えている。蓋3は、例えば、ポリプロピレンで形成されている。正極端子7は、正極柱の一端に接続されている。同様に、負極端子8は、負極柱5の一端に接続されている。
【0018】
図2は、図1の鉛蓄電池1が備える電槽2を示す斜視図である。図2に示すように、電槽2は、中空の略直方体状を呈しており、長方形の平面形状を有する底壁と、底壁の短辺部に立設された一対の側壁(第1の側壁)21と、底壁の長辺部に立設された一対の側壁(第2の側壁)22とから構成されている。電槽2は、例えばポリプロピレンで形成されている。
【0019】
電槽2の内部は、第1の側壁21と略平行に設けられた5枚の隔壁23を備えている。5枚の隔壁23が所定の間隔で配置されていることによって、電槽2の内部には、第1~第6の6個のセル室24a~24f(以下、これらをまとめて「セル室24」ともいう)がこの順で第2の側壁22に沿って形成されている。セル室24のそれぞれには、極板群4が収容されている。極板群4は、単電池とも呼ばれており、例えば2Vの起電力を有する。
【0020】
第1の側壁21の内面21a及び隔壁23の両面23aには、底壁(電槽2の開口面)に垂直な方向に延びる複数のリブ25が設けられている。リブ25は、各セル室24に収容された極板群4を適切に加圧(圧縮)する機能を有する。他の一実施形態では、第1の側壁21の内面21a及び隔壁23の両面23aには、リブが設けられていなくてもよい。
【0021】
図3は、図2のIII-III線に沿った断面図である。セル室24の幅X(電極板の積層方向における長さ)は、特に限定されず、リブ25の高さ等によって調整することができる。各セル室の幅は同一でも異なっていてもよい。なお、本明細書において、セル室24の幅Xは、第1の側壁21及び隔壁23がリブ25を有しない場合、第1の側壁21と隔壁23との間の最短距離、又は、対向する隔壁23間の最短距離(以下、「壁間距離Xa」という。)と定義される。第1の側壁21及び/又は隔壁23がリブを有する場合、セル室の幅Xは、壁間距離Xaから、最も高いリブの高さHaを引いた値と定義される(図3参照。)。例えば、対向する2つの隔壁23のリブの高さHaが同一である場合、セル室の幅Xは、[壁間距離Xa]-(2×[リブの高さHa])となる。
【0022】
図4は、図1の鉛蓄電池が備える極板群を説明するための分解斜視図である。図4に示すように、極板群4は、複数の正極板11、負極板12及びセパレータ13が、電槽2の第1の側壁21と略垂直な方向に積層されてなる。
【0023】
正極板11は、正極集電体14と、正極集電体14に保持された正極活物質15とを備えている。負極板12は、負極集電体16と、負極集電体16に保持された負極活物質17とを備えている。本明細書では、「正極活物質」は正極板から正極集電体を除いたものを意味し、「負極活物質」は負極板から負極集電体を除いたものを意味する。
【0024】
図5(a)及び図5(b)は、集電体(正極集電体14又は負極集電体16)を示す正面図である。図5(a)及び図5(b)において、カッコ書きした符号は負極集電体の構成を示している。図5(a)に示すように、正極集電体14は、正極活物質が充填される正極活物質支持部14aと、正極活物質支持部14aの上側に帯状に形成された上側フレーム部(上部周縁部)14bと、上側フレーム部14bから部分的に上方に突出するように設けられた正極耳部14cと、を有している。正極耳部14cは、正極板11の積層方向から視て正極板11の中央寄りに位置している。正極活物質支持部14aの外形は例えば矩形(長方形又は正方形)であり、格子状に形成されている。正極活物質支持部14aは、図5(b)に示すように、下方の隅部が切り落とされた形状であってもよい。同様に、負極集電体16は、負極活物質が充填される負極活物質支持部16aと、負極活物質支持部16aの上側に帯状に形成された上側フレーム部(上部周縁部)16bと、上側フレーム部16bから部分的に上方に突出するように設けられた負極耳部16cとを有している。負極耳部16cは、負極板12の積層方向から視て負極板12の中央寄りに位置している。負極活物質支持部16aの外形は例えば矩形(長方形又は正方形)であり、格子状に形成されている。負極活物質支持部16aは、図5(b)に示すように、下方の隅部が切り落とされた形状であってもよい。
【0025】
正極集電体14及び負極集電体16は、それぞれ、例えば、鉛-カルシウム-錫合金、鉛-カルシウム合金、鉛-アンチモン合金等で形成されている。これらの鉛合金を重力鋳造法、エキスパンド法、打ち抜き法等で格子状に形成することにより、正極耳部14cを有する正極集電体14及び負極耳部16cを有する負極集電体16がそれぞれ得られる。
【0026】
正極活物質15は、Pb成分としてPbOを含み、必要に応じて、PbO以外のPb成分(例えばPbSO)及び添加剤を更に含む。負極活物質17は、Pb成分としてPb単体を含み、必要に応じてPb単体以外のPb成分(例えばPbSO)及び添加剤を更に含む。
【0027】
図4では図示を省略しているが、図1に示すように、正極耳部14c同士は正極ストラップ18で集合溶接されている。同様に、負極耳部16c同士は負極ストラップ19で集合溶接されている。第1のセル室24aに収容された極板群4における負極ストラップ19は、接続部材20を介して、負極端子8から電槽2内に延びる負極柱5と接続されている。図示していないが、第1のセル室24aに収容された極板群4における負極ストラップ19と同様に、第6のセル室24fに収容された極板群4における正極ストラップ18は、接続部材を介して、正極端子7から電槽2内に延びる正極柱と接続されている。ストラップ(正極ストラップ18及び負極ストラップ19)並びに接続部材20は、それぞれ鉛、鉛合金(例えばPb、Sb、As等を含む合金)などで形成されている。他の一実施形態では、接続部材20は設けられていなくてよい。すなわち、正極柱が直接正極ストラップ18に接続(例えば溶接)されていてよく、負極柱5が直接負極ストラップ19に接続(例えば溶接)されていてよい。
【0028】
図4に示す極板群4における電極板(正極板11及び負極板12)の枚数は、正極板7枚に対して負極板8枚であるが、これに限定されない。例えば、電極板の枚数は、正極板5枚に対し負極板6枚であってもよく、正極板6枚に対し負極板7枚であってもよい。
【0029】
極板群4の厚さYは、特に限定されず、電極板の厚さ、セパレータ13の厚さ、スペーサの厚さ等によって調整することができる。なお、本明細書において、極板群4の厚さYとは、極板群4に対して電槽2からの圧縮力が加わっていない状態での極板群の厚さを意味し、化成後の極板群の厚さを意味する。
【0030】
極板群4の厚さYは、極板群4の最も外側にある電極板(図4においては負極板12)の集電体における上側フレーム部の下端(電極活物質が充填されている領域と、集電体の上側フレーム部との境界)より短手方向(積層方向に垂直な方向のうち、耳部が延びる方向)に±3mmの範囲において、極板群4の長手方向の中央で1点、中央より右側の任意の位置で1点、中央より左側の任意の位置で1点の計3点で測定した極板群4の厚さの平均値と定義される。ここで、図4のように、極板群4の最も外側にセパレータ13が配置された構成の場合、該セパレータ13のリブ13bの高さは極板群4の厚さには含めない。すなわち、極板群4の最も外側にセパレータ13が配置された構成の場合、該セパレータ13におけるリブ13bを支持する部分(ベース部)13aの位置で極板群4の厚さを測定する。ただし、電槽2の第1の側壁21がリブ25を有しない場合等、極板群の最も外側に配置されたセパレータのリブ13bが電槽2の第1の側壁21又は隔壁23に接触する場合には、当該リブ13bの高さを極板群の厚さに含めるものとする。化成後の鉛蓄電池における極板群4の厚さYは、例えば、化成後の極板群4を取り出し1時間水洗をし、硫酸の取り除かれた極板群4を酸素の存在しない系において充分に乾燥させた後に測定することができる。
【0031】
電槽2におけるセル室24の幅X(単位:mm)と極板群4の厚さY(単位:mm)の差(クリアランス:X-Y)は、2.0mm以下、1.8mm以下、1.7mm以下又は1.6mm以下であってよく、1.2mm以上、1.4mm以上、1.5mm以上又は1.6mm以上であってよい。上述の上限値及び下限値は、任意に組み合わせることができる。すなわち、クリアランス(X-Y)は、例えば、1.2~2.0mm、1.4~1.8mm又は1.5~1.7mmであってよい。なお、以下の同様の記載においても、個別に記載した上限値及び下限値は任意に組み合わせ可能である。
【0032】
次に、図6を参照して極柱6の詳細を説明する。図6は、図1のV-V線に沿った部分断面図である。なお、図6に示す極柱6は負極柱5であるが、正極柱は負極柱と同様(例えば同一)の構造である。負極柱5(極柱6)は、蓋3から電槽2内に延びている。より詳細には、負極柱5は、蓋3に設けられた負極端子8から延びる円錐台状に形成されている。負極柱5は、上底5a(6a)及び下底5b(6b)を有している。負極柱5の上底5a側の端部は負極端子8と溶接されており、負極柱5と負極端子8との接続部分には溶接部30が形成されている。一方、負極柱5の下底5b側の端部は接続部材20に溶接されている。以上の構成により、負極柱5は極板群4を負極端子8に電気的に接続している。他の一実施形態では、負極柱5は円柱状であってよい。また、他の一実施形態では、負極柱5の延在方向に垂直な断面の形状は円形状でなくてもよく、例えば矩形状であってもよい。また、他の一実施形態では、正極柱と負極柱の構造が互いに異なっていてもよい。
【0033】
極柱6の高さ(極柱6の延在方向の長さ)hは、極柱の破損の発生が更に抑制される観点から、好ましくは85mm以下であり、より好ましくは84mm以下である。極柱6の高さhは、電解液の液面を高くした場合であっても電解液の溢液を抑制しやすく、極板群4と電極端子9とを電気的に接続できる観点から、46mm以上又は63mm以上であってよい。これらの観点から、極柱6の高さhは、46~85mm、63~85mm又は63~84mmであってよい。なお、極柱6の高さhとは、図6に示すように、極柱6の電槽2側の先端から、極柱6の蓋3側の先端までの最短距離である。極柱6の高さhは、例えば、鉛蓄電池の電極端子9部分を図6のように切断して観察される、接続部材20と極柱6との溶接部分の境界(極柱6の電槽2側の先端)から、溶接部30と極柱6との溶接部分の境界(極柱6の蓋3側の先端)までの最短距離を測定することにより得られる。
【0034】
極柱6の根本径(電槽2側の端部の径)Rは、9.5mm以上、9.6mm以上又は9.8mm以上であってよい。極柱6の根本径Rは、極柱の溶断を抑制しやすい観点から、好ましくは10.0mm以上であり、より好ましくは11.2mm以上であり、更に好ましくは12.5mm以上である。根本径Rは、鉛蓄電池の軽量化に有利となる観点から、13.0mm以下又は12.5mm以下であってよい。これらの観点から、根本径Rは、9.5~13.0mm、9.6~13.0mm、9.8~13.0mm、10.0~13.0mm、10.0~12.5mm、11.2~13.0mm、11.2~12.5mm又は12.5~13.0mmであってよい。なお、極柱6の根本径Rとは、図6に示すように、極柱6の電槽2側の先端(例えば接続部材20と極柱6との溶接の境界)における極柱6の高さ方向に垂直な方向の長さを意味する。なお、極柱6の高さ方向に垂直な断面の形状が円形である場合、極柱6の根本径Rとは、その円の直径を意味し、極柱6の高さ方向に垂直な断面の形状が円形以外の形状(例えば多角形)である場合、極柱6の根本径Rとは、その内接円の直径を意味する。
【0035】
極柱6の最小径rは、極柱の破損の発生が更に抑制される観点から、好ましくは6.8mm以上であり、より好ましくは7.0mm以上である。最小径rは、鉛蓄電池の軽量化に有利となる観点から、7.2mm以下又は7.1mm以下であってよい。これらの観点から、最小径rは、6.8~7.2mm、6.8~7.1mm、7.0~7.2mm、又は7.0~7.1mmであってよい。なお、極柱6の最小径rとは、極柱6の高さ方向に垂直な方向の長さの最小値である。本実施形態では、図6に示すように、極柱6の蓋3側の先端(溶接部30と極柱6との溶接の境界)における極柱6の高さ方向に垂直な方向の長さが最小径rとなる。
【0036】
極柱6の電槽2側の先端面(例えば極柱6と接続部材20とが接する面)の面積Sは、71mm以上、72mm以上又は75mm以上であってよい。面積Sは、極柱の溶断を抑制しやすい観点から、好ましくは100mm以上であり、より好ましくは123mm以上である。面積Sは、鉛蓄電池の軽量化に有利となる観点から、133mm以下又は123mm以下であってよい。これらの観点から、面積Sは、71~133mm、72~133mm、75~133mm、100~133mm、100~123mm又は123~133mmであってよい。
【0037】
極柱6の体積Vは、鉛蓄電池の軽量化に有利となる観点から、6855mm以下又は6831mm以下であってよい。極柱6の体積Vは、4400mm以上又は4610mm以上であってよい。極柱6の体積Vは、極柱の抵抗を充分に小さくすることができ、極柱でのジュール熱の発生を抑制して極柱の溶断を抑制しやすい観点から、好ましくは5723mm以上であり、より好ましくは6276mm以上であり、更に好ましくは6831mm以上である。これらの観点から、極柱6の体積Vは、4400~6855mm、4610~6855mm、5723~6855mm、6276~6855mm、6276~6831mm又は6831~6855mmであってよい。極柱6の体積Vは、極柱の寸法を測定し算出することができる。
【0038】
極柱6(正極柱及び負極柱5)の組成は、ストラップ(正極ストラップ18及び負極ストラップ19)並びに接続部材20と同じ組成であってよい。例えば、極柱6は、Pb-Sb系合金で構成されていてよい。
【0039】
セパレータ13は、平板(シート)状のベース部13a、ベース部13aの外側面上に形成された複数のリブ13b及び複数のミニリブ13cとを備えている。セパレータ13は、袋状に形成されており、負極板12を収容している。具体的には、ベース部13a、複数のリブ13b及び複数のミニリブ13cを備える長尺状のシートが、リブ13b及びミニリブ13cが外側になるように折り返され、長辺に沿って閉じられることにより袋状となっている。他の一実施形態では、セパレータ13が正極板11を収容していてよい。
また、セパレータ13は袋状に形成されていなくてもよい。
【0040】
セパレータ13は、例えば、ガラス、パルプ、及び合成樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の材料を含む。セパレータ13は、可撓性を有するセパレータであってよく、短絡をより抑制できる観点及び可撓性を有することにより極板群4の圧縮が容易である観点から、合成樹脂で形成されたセパレータであってよい。合成樹脂の中でも特に、ポリオレフィン(例えばポリエチレン及びポリプロピレン)が好ましく用いられる。
【0041】
図4では図示を省略しているが、正極板11と負極板12との間にはスペーサが設けられていてよい。スペーサは、正極板11とセパレータ13との間に設けられていてよく、負極板12とセパレータ13との間に設けられていてもよい。本実施形態では、極板群4がスペーサを備えるため、鉛蓄電池を振動させたときの極柱の最大加速度を低減することができ、極柱の破損の発生を更に抑制することができる。スペーサは、例えば、シート状に形成されている。スペーサは、例えば多孔性の膜(多孔膜)であり、例えば不織布である。
【0042】
スペーサの構成材料は、電解液に対して耐性を有する材料であれば、特に制限されるものではない。スペーサの構成材料としては、具体的には、有機繊維、無機繊維、パルプ、無機酸化物粉末等が挙げられる。スペーサの構成材料として、無機繊維及びパルプを含む混合繊維を用いてもよく、有機繊維及び無機繊維を含む有機無機混合繊維を用いてもよい。有機繊維としては、ポリオレフィン繊維(ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維等)、ポリエチレンテレフタレート繊維などが挙げられる。無機繊維としては、ガラス繊維等が挙げられる。
【0043】
極柱の最大加速度を低減し、極柱の破損の発生を更に抑制する観点から、スペーサは、好ましくは、ガラス繊維をフェルト状に加工することにより形成されるガラスマットである。ガラス繊維としては、例えば、チョップドストランド、ミルドファイバー等が挙げられる。なお、ガラスマットはガラス繊維のみからなっていてよく、ガラス繊維以外の他の材料(例えば上述の有機繊維等)を含んでいてもよい。
【0044】
本実施形態では、極柱6の最小径r(単位:mm)に対する極板群4の質量M(単位:g)の比(M/r)が220g/mm以下である。比(M/r)が220g/mm以下であることにより、鉛蓄電池に対して振動が加わることによる極柱の破損の発生が抑制される。比(M/r)は、215g/mm以下又は212g/mm以下であってもよい。比(M/r)は、極柱の破損の発生が抑制されると共に放電容量(放電持続時間)が増加する観点から、200g/mm以上であってよい。これらの観点から、比(M/r)は、200~220g/mm、200~215g/mm又は200~212g/mmであってよい。なお、本実施形態では、正極柱の最小径r1(単位:mm)に対する極板群4の質量M(単位:g)の比(M/r1)及び負極柱5の最小径r2(単位:mm)に対する極板群4の質量M(単位:g)の比(M/r2)の少なくとも一方が上記比(M/r)の範囲を満たせばよく、比(M/r1)及び比(M/r2)の両方が上記比(M/r)の範囲を満たすことが好ましい。
【0045】
極板群4の質量Mは、化成後の質量である。ストラップ(正極ストラップ18又は負極ストラップ19)及び接続部材20の質量は、極板群4の質量Mには含まれない。化成後の鉛蓄電池における極板群4の質量Mは、例えば以下の方法により測定することができる。まず、化成後の鉛蓄電池1の、極柱が位置するセル室(例えば第1のセル室24a又は第6のセル室24f)に収容された極板群4を電槽2から取り出す。次いで、極板群4とストラップとを、極板群4の電極板の耳部とストラップとの境界部分において切り離す。
得られた極板群4を1時間水洗し、洗浄後の極板群4を酸素の存在しない系において充分に乾燥させる(例えば、50℃で24時間乾燥させる)。次いで、極板群4の質量を測定する(水洗及び乾燥過程で極板群4から脱落した電極活物質がある場合は、それらを回収し、極板群4の質量に含めた上で極板群4の質量を測定する)。これにより極板群4の質量Mが得られる。
【0046】
極板群4の質量Mは、極柱の破損の発生を更に抑制する観点から、好ましくは1550g以下であり、より好ましくは1530g以下であり、更に好ましくは1510g以下である。極板群4の質量Mは、極柱の破損の発生が抑制されると共に放電容量(放電持続時間)が増加する観点から、1000g以上、1200g以上又は1400g以上であってよい。これらの観点から、極板群4の質量Mは、1000~1550g、1200~1530g又は1400~1510gであってよい。
【0047】
以上の構成を備える鉛蓄電池1によれば、振動時における極柱の破損の発生を抑制することができる。特に、従来の鉛蓄電池と比較して、電極板の積層方向に振動が加わった場合の極柱の破損の発生が抑制される傾向がある。
【0048】
以上説明した鉛蓄電池の製造方法は、例えば、電槽2のセル室24に極板群4を収容する工程(収容工程)と、極柱6(正極柱及び負極柱5)を介して極板群4のストラップ(正極ストラップ18及び負極ストラップ19)を電極端子9(正極端子7及び負極端子8)に電気的に接続する工程(接続工程)と、電槽2内に電解液を供給する工程(供給工程)と、電解液を供給した後の未化成電池を化成する工程(化成工程)と、を備える。
【0049】
極板群4は、例えば、未化成の電極板(未化成の正極板及び未化成の負極板)を得る電極板製造工程と、電極板製造工程で得られた未化成の負極板を内部に配置した袋状のセパレータ13、スペーサ及び未化成の正極板をこの順に積層させ、同極性の電極板の耳部をストラップ(正極ストラップ18又は負極ストラップ19)で連結(溶接等)させて極板群4を得る工程と、により得てよい。電極板製造工程では、例えば、電極活物質ペースト(正極活物質ペースト及び負極活物質ペースト)を集電体(例えば、鋳造格子体、エキスパンド格子体等の集電体格子)に充填した後に、熟成及び乾燥を行うことにより未化成の電極板を得る。
【0050】
電極活物質ペーストは、例えば、電極活物質の原料(鉛粉等)を含有しており、他の添加剤を更に含有していてもよい。電極活物質ペーストは、例えば、電極活物質の原料に添加剤(補強用短繊維等)及び水を加えた後、希硫酸を加え、混練することで得られる。
【0051】
接続工程では、極柱6と、該極柱6が接続される電極端子9と同極性の耳部を連結するストラップと、を接続部材20を介して電気的に接続する。
【0052】
供給工程では、上記収容工程及び接続工程を経て得られた未化成電池の電槽2の開口を蓋3で閉じた後、電槽2内に電解液を供給(注入)する。
【0053】
化成工程は、例えば、電解液を供給した後、直流電流を通電して電槽化成する工程であってよい。化成後は、電解液の比重を適切な比重に調整してよい。これにより、化成された鉛蓄電池(液式鉛蓄電池)1が得られる。
【0054】
化成条件及び硫酸の比重は電極活物質の性状に応じて調整することができる。また、化成処理は、未化成電池を得た後に実施されることに限られず、電極板製造工程における熟成及び乾燥後に実施されてもよい(タンク化成)。
【0055】
以上、本発明の鉛蓄電池及びその製造方法の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されない。
【0056】
上記実施形態では、鉛蓄電池1は液式鉛蓄電池であるが、他の一実施形態では、鉛蓄電池は、例えば、制御弁式鉛蓄電池、密閉式鉛蓄電池等であってもよい。上記実施形態では、鉛蓄電池1は例えば自動車用鉛蓄電池であり、直流電圧12Vを昇圧又は降圧して駆動するため、6個の極板群4を直列に接続している。すなわち、セル室の数が6個であり、2V×6=12Vとしている。鉛蓄電池1を他の用途で用いる場合は、セル室の数は6個でなくてもよい。
【実施例
【0057】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。ただし、本発明は下記の実施例のみに限定されるものではない。
【0058】
(実施例1)
鉛合金からなる圧延シートにエキスパンド加工を施すことによりエキスパンド格子体(集電体)を作製した。続いて、鉛粉及び鉛丹(Pb)と、添加剤と、水とを混合して混練し、希硫酸を少量ずつ添加しながら更に混練して、正極活物質ペーストを作製した。同様に、鉛粉と、添加剤と、水とを混合して混練し、希硫酸を少量ずつ添加しながら更に混練して、負極活物質ペーストを作製した。次いで、集電体にこの正極活物質ペースト及び負極活物質ペーストをそれぞれ充填し、温度50℃、湿度98%の雰囲気で24時間熟成した。その後、乾燥して未化成の正極板及び未化成の負極板を得た。
【0059】
微多孔性のポリエチレンからなり、厚さ0.25mmのベース部と、高さ0.70mmのリブ部を有する袋状のセパレータを用意した。このセパレータに未化成の負極板を収容し、未化成の正極板5枚と袋状のセパレータにそれぞれ収容された未化成の負極板6枚とを交互に積層した。続いて、キャストオンストラップ(COS)方式で同極性の極板の耳部同士を溶接して極板群を作製した。
【0060】
6個のセル室を有する電槽の各セル室に極板群を収容して、12V電池を組み立てた。
この際、両端のセル室(第1及び第6のセル室)においては、極板群をセル室に収容すると共に、ストラップと極柱(正極柱又は負極柱)とを接続部材を介して電気的に接続した。クリアランス(セル室の幅X-極板群の厚さY)は、1.6mmとなるように調整した。極板群をセル室に収容する際に極板群に対して電槽の開口に垂直な方向に加えた圧力Fは3.5Nであった。極柱(正極柱及び負極柱)としては、高さhが84mmであり、最小径rが7.0mmであり、極柱の根本径Rが9.6mmであり、体積Vが4449.8mmであり、下端の面積S(接続部材と接する面の面積)が72mmである、鉛合金製の極柱を用いた。鉛合金は、鉛と、アンチモン(Sb)との合金であり、鉛合金中のアンチモンの含有量は、鉛合金の全質量基準で、2.9質量%であった。
【0061】
次いで、電槽に電解液(希硫酸)を注入した。その後、35℃の水槽中、通電電流18.6Aで18時間の条件で化成して液式鉛蓄電池を得た。化成後の極板群の質量Mは1476gであった。
【0062】
(実施例2)
極柱の構成を表1に示すように変更したこと、及び、極板群の質量Mが表1に示す値となるように極板群の構成を変更したこと以外は、実施例1と同様にして鉛蓄電池を作製した。なお、極板群の質量Mは、電極活物質の充填量を変更すると共に、未化成の正極板6枚と袋状のセパレータにそれぞれ収容された未化成の負極板7枚とを交互に積層して極板群を構成することにより調整した。
【0063】
(実施例3)
極柱の構成を表1に示すように変更したこと、及び、極板群の質量Mが表1に示す値となるように極板群の構成を変更したこと以外は、実施例1と同様にして鉛蓄電池を作製した。なお、極板群の質量Mは、電極活物質の充填量を変更すると共に、未化成の正極板7枚と袋状のセパレータにそれぞれ収容された未化成の負極板8枚とを交互に積層して極板群を構成することにより調整した。
【0064】
(実施例4)
極板群の質量Mが表1に示す値となるように極板群の構成を変更したこと以外は、実施例3と同様にして鉛蓄電池を作製した。なお、極板群の質量Mは、電極活物質の充填量により調整した。
【0065】
(比較例1)
極板群の質量Mが表1に示す値となるように極板群の構成を変更したこと以外は、実施例3と同様にして鉛蓄電池を作製した。なお、極板群の質量Mは、電極活物質の充填量により調整した。
【0066】
<振動試験>
実施例及び比較例の鉛蓄電池に対し、振動試験を行った。具体的には、以下の条件で鉛蓄電池を電極板の積層方向に振動させた。なお、振動試験は振動数を変更して複数回行った。
[条件]
試験装置:ランダム振動制御システム(i230/SA2M)(商品名、IMV株式会社製)
振動数:24.0Hz、37.5Hz、39.5Hz、45.5Hz、51.0Hz
各振動数での振動時間:1200分
【0067】
試験後の鉛蓄電池の蓋を取り外し、目視により試験後の鉛蓄電池における極柱の破損の発生の有無を確認した。いずれの振動数でも極柱に破損が発生しなかった場合をAとし、いずれかの振動数で極柱に亀裂が発生した場合をBとし、いずれかの振動数で極柱が破断した場合をCとした。結果を表1に示す。
【0068】
<溶断試験>
実施例及び比較例の鉛蓄電池に対し、溶断試験を行った。具体的には、まず、鉛蓄電池を40℃の水槽中に16時間以上放置した後、完全充電状態とし、400Aの定電流で放電を1分間継続して行った。この際、電解液の液面高さはストラップの上部が電解液に浸かる高さ(Lower Level)となるようにした。1分以内に電圧が6Vに達した場合には試験終了とした。
【0069】
試験後の鉛蓄電池の蓋を取り外し、目視により試験後の鉛蓄電池における極柱の溶断の有無を確認した。極柱が溶断しなかった場合をAとし、極柱が溶断した場合をBとした。
結果を表1に示す。
【0070】
【表1】
【符号の説明】
【0071】
1…鉛蓄電池、2…電槽、3…蓋、4…極板群、5…負極柱、6…極柱、7…正極端子、8…負極端子、9…電極端子、10…液口栓、11…正極板、12…負極板、13…セパレータ、14…正極集電体、14c…正極耳部、15…正極活物質、16…負極集電体、16c…負極耳部、17…負極活物質、18…正極ストラップ、19…負極ストラップ、20…接続部材、24…セル室、30…溶接部、r…最小径、R…根本径。

図1
図2
図3
図4
図5
図6