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特許7291688重篤患者における腎置換療法のための指標としてのアドレノメズリン前駆体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-07
(45)【発行日】2023-06-15
(54)【発明の名称】重篤患者における腎置換療法のための指標としてのアドレノメズリン前駆体
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/68 20060101AFI20230608BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20230608BHJP
   G01N 33/542 20060101ALI20230608BHJP
   G01N 33/543 20060101ALI20230608BHJP
   C07K 14/575 20060101ALN20230608BHJP
【FI】
G01N33/68
G01N33/53 D
G01N33/542
G01N33/543 515A
C07K14/575 ZNA
【請求項の数】 25
(21)【出願番号】P 2020514277
(86)(22)【出願日】2018-09-13
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-11-19
(86)【国際出願番号】 EP2018074735
(87)【国際公開番号】W WO2019053124
(87)【国際公開日】2019-03-21
【審査請求日】2021-04-27
(31)【優先権主張番号】17190912.0
(32)【優先日】2017-09-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】17208949.2
(32)【優先日】2017-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】508093584
【氏名又は名称】ベー.エル.アー.ハー.エム.エス ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】ウィルソン ダリウス
【審査官】大瀧 真理
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-506546(JP,A)
【文献】特表2016-521351(JP,A)
【文献】特表2012-526271(JP,A)
【文献】DIEPLINGER,B. et al.,Pro-A type natriuretic peptide and pro-adrenomedullin predict progression of chronic kidney disease: the MMKD study,Kidney International,2009年,Vol.75,pp.408-414
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48 - 33/98
C07K 14/575
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重篤対象が腎置換療法を必要とするかどうかを評価するための方法であって、前記方法は、前記対象から取得された試料中でアドレノメズリン前駆体(proADM)またはその断片レベルを測定することを含み、proADMまたはその断片の前記レベルが、腎置換療法を前記対象が受ける必要性を示し、前記重篤対象が、集中治療を受けている対象、または集中治療室(ICU)にいる患者であり、前記試料が血液、血漿または血清である、方法。
【請求項2】
前記重篤対象が急性腎不全を有する対象である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
proADMまたはその断片の前記レベルが参照レベルと比較され、前記療法を前記対象が受ける必要性が、proADMまたはその断片の前記レベルと参照レベルとの比較に基づいて識別され、
(a)前記試料中の参照レベルを上回るproADMまたはその断片のレベルが、前記対象の前記腎置換療法の必要性を示し、かつ
(b)前記対象が腎置換療法を受けている最中である場合、参照レベル以下のproADMまたはその断片のレベルが、腎置換療法の終了を示す、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
請求項3(a)において前記参照レベルが、腎置換療法を必要としない健常対象の集団のあらかじめ決められたレベルであるか、または、前記参照レベルが、腎置換療法を必要としない重篤対象の集団のあらかじめ決められたレベルである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記参照レベルが、1nmol/L~12nmol/Lの範囲で選択される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記参照レベルが、2nmol/L~11nmol/Lの範囲で選択される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記参照レベルが、2.5nmol/L~11nmol/Lの範囲で選択される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記参照レベルが、9nmol/L~11nmol/Lの範囲で選択される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記参照レベルが、2.7nmol/L、2.8nmol/L、9.5nmol/Lおよび10.9nmol/Lからなる群から選択される、請求項5に記載の方法。
【請求項10】
請求項3(b)において2.0nmol/L以下のアドレノメズリン前駆体(proADM)またはその断片のレベルが、前記腎置換療法の終了を示す、請求項3に記載の方法。
【請求項11】
請求項3(b)において2.5nmol/L以下のアドレノメズリン前駆体(proADM)またはその断片のレベルが、前記腎置換療法の終了を示す、請求項3に記載の方法。
【請求項12】
請求項3(b)において2.7nmol/L以下のアドレノメズリン前駆体(proADM)またはその断片のレベルが、前記腎置換療法の終了を示す、請求項3に記載の方法。
【請求項13】
前記重篤対象が、敗血症もしくは敗血症性ショックに罹患しているか、または敗血症もしくは敗血症性ショックに罹患していると疑われる、請求項1~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記試料が、体液の試料である、請求項1~13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記試料が、血漿または血清である、請求項1~14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記proADMの断片が、MR-proADM、PAMP、アドレノテンシンおよび成熟アドレノメズリンからなる群から選択される、請求項1~15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記断片が、MR-proADMである、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記方法が、
(a)前記対象の試料中の、カルシトニン前駆体(PCT)、C反応性タンパク質(CRP)、乳酸、エンドセリン1、プロアルギニンバソプレッシン、コペプチン、好中球ゲラチナーゼ関連リポカリン(NGAL)、インターロイキン6およびクレアチニンからなる群から選択されるさらなるマーカーのレベルの測定、ならびに/または
(b)前記対象の尿量の測定、ならびに/または
(c)SOFAスコア、SAPS IIおよびAPACHE IIの群から選択される前記対象の少なくとも1つの臨床スコアの測定をさらに含む、請求項1~17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
工程(b)において前記対象の24時間尿量が測定される、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記proADMまたはその断片のレベルが、発光免疫検定(LIA)、放射性免疫検定(RIA)、化学発光および蛍光免疫検定、酵素免疫検定法(EIA)、酵素結合免疫検定(ELISA)、発光系ビーズアレイ、磁気ビーズ系アレイ、タンパク質マイクロアレイ検定、迅速検査フォーマット、および希クリプタート検定からなる群から選択される方法を用いて測定される、請求項1~19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
前記方法が、
a)前記試料を
(i)proADMまたはその断片の第1のエピトープに特異的な第1の抗体またはその抗原結合断片もしくは誘導体、および
(ii)proADMまたはその断片の第2のエピトープに特異的な第2の抗体またはその抗原結合断片もしくは誘導体と接触させるステップと、
b)proADMまたはその断片に対する前記第1および第2の抗体またはそれらの抗原結合断片もしくは誘導体の結合を検出するステップと、を含む免疫検定である、
請求項1~20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
前記第1の抗体および前記第2の抗体が、液体反応混合物中に分散して存在し、かつ蛍光または化学発光の消滅または増幅に基づく標識系の一部である第1の標識構成要素が、前記第1の抗体に結合しており、かつ前記標識系の第2の標識構成要素が、前記第2の抗体に結合しており、それにより、proADMまたはその断片に対する両抗体の結合後に、測定中の溶液中で結果として得られるサンドイッチ複合体の検出を可能にする測定可能なシグナルを発生させる、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
重篤対象が腎置換療法を必要とするかどうかを評価するためのキットの使用であって、前記キットが、前記対象の試料中のアドレノメズリン前駆体(proADM)またはその断片のレベルを決定するための1つ以上の検出試薬を含み、前記重篤対象が、集中治療を受けている対象、または集中治療室(ICU)にいる患者である、キットの使用。
【請求項24】
proADMの断片が、MR-proADMである、請求項23に記載の使用。
【請求項25】
前記検出試薬が少なくとも2つの抗体を含み、前記抗体のうちの1つが標識されており、かつもう1つの抗体が固相へ結合しているかまたは固相へ選択的に結合することができる、請求項23または24に記載のキットの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重篤対象が腎置換療法を必要とするかどうかを評価するための方法に関する。この評価は、対象の試料中のアドレノメズリン前駆体(proADM)またはMR-proADMなどのその断片のレベルに基づいている。
【背景技術】
【0002】
集中治療の専門医は、最もしばしば多臓器障害症候群(MODS)に起因して死亡するリスクが高い重篤患者に最高品質の医療を提供することを日々求められている(Mayr,V.D.,M.W.Dunser,et al.(2006),Crit Care 10(6):R154)。腎機能障害は、MODSにおける実質的な構成要素を成し、腎補助は、集中治療室(ICU)においてますます日常的に適用されるようになっている。敗血症は、重篤患者における急性腎不全の主要因である(Bagshaw,S.M.,S.Uchino,et al.(2007),Clin J AM Soc Nephrol 2(3):431-439)。敗血症性ショックを有する患者全員の約半分は、60%超の高い死亡率と関係している腎不全を併発しおり、通常、腎置換療法(RRT)を必要とする(Schrier,R.W.and W.Wang(2004),N Engl J Med 351(2):159-169、Uchino,S.,J.A.Kellum,et al.(2005),JAMA 294(7):813-818)。急性腎不全は、広範な範囲の腎機能低下を含む臨床的な症候群である。いくつかの分類系(RIFLE、AKINおよびKDIGO)が、血清クレアチニン、糸球体濾過量および尿量に基づく腎不全の重症度を分類するために存在する(Thomas,M.E.,C.Blaine,et al.(2015),Kidney Int 87(1):62-73)。腎置換療法は、腎機能障害がカルシウム平衡または酸塩基平衡に影響を及ぼし、肺水腫、中毒、および心膜炎、脳症または出血などの合併症を発症するときに一般的に必要性が示される(Pannu,N.and R.N.Gibney(2005),Ther Clin Risk Manag 1(2):141-150、Fleming,G.M.(2011),Organogenesis 7(1):2-12、Ricci,Z.,S.Romagnoli,et al.(2016),F1000Res 5)。RRTのタイミングに関する明確な指針はないが、RRTを早期に開始することは、療法の指示が遅れるかまたは療法の指示後に遅れて開始することと比較して患者の転帰を改善する(Pannu 2005,上述、Palevsky,P.M.(2008),Crit Care Med 36(4 Suppl):S224-228、Ricci 2016,上述)。RRTについての様式には、間欠的技術(3~12時間)、連続的技術(24時間)および複合技術が含まれる(Pannu 2005,上述、Fleming 2011,上述、Ricci 2016,上述)。連続的RRTは、血行力学的に不安定な患者に適用可能であるので、最も一般的に投与されおよび推奨される(Bagshaw,S.M.,R.Bellomo,et al.(2010),Can J Anaesth 57(11):999-1013、Fleming 2011,上述)。RRTのすべてのモードは、拡散(血液透析)、対流(血液濾過)、または両者の併用(血液濾過透析)の機序を適用する半透膜を使用する(Pannu 2005,上述、Ricci 2016,上述)。腎置換療法は、患者の臨床像に応じてこれらの技術を、急性期に通常適用される連続的モードおよび安定した後に続く間欠的モードを組み合わせることを含んでもよい。判断は、患者の容態、RRTモードの便益および副作用、他の治療介入との適合性、経済的および組織的局面、ならびに専門的技術レベルを含む重要な因子があるので非常に複雑である(Pannu 2005,上述、Palevsky 2008,上述、Ricci 2016,上述)。
【0003】
救急部門(ED)および集中治療室(ICU)において利用可能な現行のツールを使用する場合、患者が短期および中期における腎合併症を発症しそうであり、それゆえ腎置換療法(RRT)の必要性があると正確に判断することが困難な場合がある。いったん腎合併症または腎機能障害/腎不全が処置中の医師にとって明らかになると、数多くの処置が利用可能である。しかしながら、処置のより早期の開始または腎置換療法を保留するかもしくは終了することに鍵がある。RRTの早期開始およびRRTの必要条件の除外はいずれも、臨床上の有意な目的である。
【0004】
それゆえ、本発明の根底にある技術的な問題は、重篤患者の単純かつ改善された療法を提供する手段および方法の提供である。
【0005】
技術的な問題は、本明細書で以下に提供されかつ添付の特許請求の範囲において特徴付けられるような実施形態の提供によって解決される。
【発明の概要】
【0006】
本発明は、重篤対象の試料中のアドレノメズリン前駆体(proADM)またはその断片、特にアドレノメズリン前駆体中間部(MR-proADM)のレベルが、腎機能障害を予防することおよび/または処置することに向けられた療法を対象が受ける必要性を示すという驚くべき発見に基づいている。添付の例において、臨床試験の結果が記録されている。本臨床試験は、検査されたすべてのバイオマーカーのうちでもとりわけ、MR-pro-ADMによって反映されるアドレノメズリン前駆体は、腎置換療法(RRT)を受けることを重篤対象が必要としていること(特に、敗血症または敗血症性ショックに罹患している対象)と、予期せぬ強い統計的な関連性を有していることを実証している。その上、本試験の結果は、RRTの早期開始が、全体的な死亡率を低下させる役割を担っていることを示している。本発明は、とりわけ、従来の方法を上回る次の利点を有している。すなわち、本発明は、重篤対象が腎置換療法を受ける必要性を判断するのが迅速で、判断を行うのが容易で、かつ判断が正確である。
【0007】
本発明の目的は、特に救急部門(ED)または集中治療室(ICU)における医療従事者に信頼性のある情報を提供する、対象および/または患者におけるリスク評価、リスク層別化および/または療法制御のためのインビトロ法を提供することである。本発明は、したがって、重篤対象の療法制御、療法指導、監視、リスク評価、および/またはリスク層別化のための方法に関し、この方法は、対象の試料中のアドレノメズリン前駆体(proADM)またはその断片、好ましくはMR-proADMのレベルを測定することを含み、proADMまたはその断片、好ましくはMR-proADMのレベルは、療法、特に腎置換療法を対象が受ける必要性を示す。
【0008】
本発明の文脈における「療法制御」という用語は、患者の治療処置(本明細書では特に腎置換療法)の監視および/または調整を指す。「監視すること」は、すでに診断された疾患、障害、合併症またはリスクを記録することに関し、例えば、疾患の進行、または疾患もしくは障害の進行について、特定の処置の影響を分析する。本発明において、「リスク評価」および「リスク層別化」という用語は、対象のさらなる予後によって異なるリスク群へと対象をグループ分けすることに関する。リスク評価はまた、予防手段および/または治療手段を適用するための層別化に関する。
【0009】
より具体的には、本発明は、重篤対象が腎置換療法を必要とするかどうかを評価するための方法に関し、この方法は、対象から取得された試料中でアドレノメズリン前駆体(proADM)またはその断片、好ましくはMR-proADMのレベルを測定することを含み、proADMまたはその断片のレベルは、腎置換療法を対象が受ける必要性を示す。この故に、本発明の方法は、
(i)RRTを現に受けていない対象がRRTを受けるべきかどうか、および
(ii)RRTを現に受けている対象がRRTを受け続けるべきかどうか、またはRRTを中止すべきかどうか、の評価を提供することができる。
【0010】
したがって、一態様において、本発明はまた、重篤対象が腎置換療法を必要としないかどうかを評価するための方法に関し、この方法は、対象から取得された試料中でアドレノメズリン前駆体(proADM)またはその断片、好ましくはMR-proADMのレベルを測定することを含み、proADMまたはその断片のレベルは、腎置換療法を対象が受ける必要性がないことを示す。
【0011】
典型的には、proADMまたはその断片のレベルは、参照レベルと比較され、療法を対象が受ける必要性は、proADMまたはその断片のレベルと参照レベルとの比較に基づいて識別される。このような参照レベルは、例えば、腎置換療法を必要としない健常者の集団、または腎置換療法を必要としない重篤対象の集団に基づいて測定されたあらかじめ決められたレベルであってもよい。
【0012】
本明細書で、試料中の参照レベルを上回るproADMまたはその断片、好ましくはMR-proADMのレベルは、療法、特に腎置換療法の必要性を示す。
【0013】
参照レベル(すなわち、閾値)は、本明細書で後により詳細に考察されることになるような検定の特異性および/または選択性に関する個々の必要条件に基づいて選択することができる。典型的には、proADMまたはその断片、好ましくはMR-proADMについての参照レベルは、1nmol/L~12nmol/L、好ましくは2nmol/L~11nmol/Lの範囲であり、より好ましくは2.5nmol/L~11nmol/Lの範囲であり、さらにより好ましくは9nmol/L~11nmol/Lの範囲の間で選択される。好ましくは、参照レベルは、2.7nmol/L、2.8nmol/L、9.5nmol/Lおよび10.9nmol/Lからなる群から選択され、より好ましくは本明細書において参照レベルは2.7nmol/Lである。
【0014】
本発明による方法の一態様において、重篤対象は、腎置換療法を(すでに)受けている最中であり、アドレノメズリン前駆体(proADM)またはその断片のレベルは、実施されている腎置換療法を終了することを示す。特に、RRTは、アドレノメズリン前駆体(proADM)のレベルが、2.0nmol/Lの参照レベル以下、好ましくは2.5nmol/L以下、より好ましくは2.7nmol/L以下であるときに終了することができる.
【0015】
この故に、本方法は、このような場合において、対象から取得された試料中のアドレノメズリン前駆体(proADM)またはその断片、好ましくはMR-proADMのレベルを測定することを含むことができ、proADMまたはその断片のレベルは、腎置換療法を対象が受ける必要性がないことを示す。したがって、腎置換療法は、アドレノメズリン前駆体のレベルに基づいて患者において保留することができる。さらに、すでに実施された腎置換療法は、アドレノメズリン前駆体のレベルに基づいて、好ましくは、アドレノメズリン前駆体のレベルが2.0nmol/L以下または2.5nmol/L以下または2.7nmol/L以下である場合、中止することができる。
【0016】
逆に、アドレノメズリン前駆体(proADM)のレベルが2.7nmol/L~9.0nmol/Lの範囲で選択される参照レベルを上回る、好ましくは2.7nmol/Lを上回る、より好ましくは9.0nmol/Lを上回る、より好ましくは10nmol/Lを上回る、最も好ましくは10.9nmol/Lまたは11nmol/Lを上回る場合、対象は、RRTを必要としないか、および/またはRRTは、場合によっては中止することができる。
【0017】
本明細書で開示するアドレノメズリン前駆体または他のバイオマーカーのタンパク質レベルのカットオフ値は、好ましくは、患者から取得された試料中でのThermo Scientific BRAHMS KRYPTOR検定による測定値を指す。したがって、本明細書で開示する値は、採用される検出/測定方法に応じてある程度変動することがあるか、または異なる自動システムによって変動することがあり、本明細書で開示する具体的な値は、他の方法によって測定された対応する値を示すことが企図されている。
【0018】
本発明の方法としての診断方法または予後方法の感度および特異性は、単なる検査の分析の質以上のものによって決まり、異常なまたは正常な結果を構成するものが何であるかという定義によっても決まる。RRTを必要とする対象および必要としない対象のproADMまたはその断片のレベル、好ましくはMR-proADMのレベルの分布は重複し得る。このような条件下で、検査は、RRTを必要とする対象から正常を100%の正確さで完全に区別することはない。言い換えれば、偽陰性結果と偽陽性結果の混在の間の平衡を見出す必要がある。当業者は、対象の容態自体または対象の少なくとも1つのさらなるメーカーおよび/もしくはパラメータが、データの解釈を助けることができ、かつこのさらなる情報によって、重複領域におけるより信頼性のある予後が可能となるという事実を認識している。
【0019】
本明細書で使用する場合、「重篤患者」または「重篤対象」は、対象または患者が生命を脅かす状況にあることを意味する。
【0020】
本明細書の重篤対象(重篤患者とも称される)は典型的には、集中治療を受けている対象または集中治療室(ICU)もしくは救急部門(ED)における、特に集中治療室(ICU)における患者である対象である。特定の態様において、重篤患者は、敗血症もしくは敗血症性ショックに罹患しているか、または敗血症もしくは敗血症性ショックに罹患していると疑われる。
【0021】
「重篤」であると診断された本明細書に説明する患者は、集中治療室(ICU)患者、健康状態の継続的なおよび/または集中的な看護を必要とする患者、敗血症、重度敗血症、または敗血性ショックと診断された患者、感染性疾患および1つ以上の既存の臓器不全(複数可)と診断された患者、術前または術後の患者、外傷後の患者、事故患者、熱傷患者、1つ以上の開放創を有する患者などの外傷患者と診断される可能性がある。本明細書に説明する対象は、救急部門もしくは集中治療室に、または救急車などの緊急輸送車内などの他のポイントオブケア状況に、または症状を有する患者に対処している一般開業医のもとにいる可能性がある。SIRSに罹患していると疑われる患者は、重篤であるとは必ずしもみなされない。
【0022】
「ICU患者」という用語は、集中治療室に入院した患者に関するが、これに限定しない。集中治療室はまた、集中療法室または集中処置室(ITU)または救命治療室(CCU)と呼ぶこともでき、集中処置医療を提供する病院または医療施設の特別部門である。ICU患者は通常、正常な身体機能を確保するために専門医の装置および投薬からの継続的で、厳重な監視および支援を必要とする重度のかつ生命を脅かす疾病および損傷に罹患している。ICU内で処置される一般的な容態には、急性または成人呼吸促迫症候群(ARDS)、外傷、臓器不全および敗血症が含まれるが、これらに限定されない。
【0023】
本発明のある特定の態様において、重篤患者は、2以上のSOFAスコアを有する。
【0024】
本発明の文脈における「敗血症」は、感染に対する全身性の反応を指す。敗血症は、感染および全身性炎症反応の両方の存在によって定義される臨床的な症候群として特徴付けられ得る(Levy MM et al.2001 SCCM/ESICM/ACCP/ATS/SIS International Sepsis Definitions Conference.Crit Care Med.2003 Apr;31(4):1250-6)。本明細書で使用する「敗血症」という用語は、敗血症、重度敗血症、および敗血症性ショックを含むが、これらに限定されない。この文脈における重度敗血症は、臓器障害と関係した敗血症、低灌流性異常、または敗血症誘発性低血圧を意味する。低灌流性異常は、乳酸アシドーシス、乏尿および精神状態の急性変化を含む。敗血症誘発性低血圧は、低血圧についての他の原因がない状況(例えば、心原性ショック)での約90mmHg未満の収縮期血圧またはベースラインからの約40mmHg以上の収縮期血圧の低減の存在によって定義される。敗血症性ショックは、低灌流性異常または臓器障害の存在を伴う、十分な輸液蘇生にもかかわらず持続する敗血症誘発性低血圧性重度敗血症と定義される(Bone et al.,CHEST 101(6):1644-55,1992)。本明細書で使用する「敗血症」という用語は、敗血症の発症において起こり得る全ての期に関する。本明細書で使用する場合、本発明の範囲内での「感染」は、病原性のまたは潜在的に病原性の微生物による、通常無菌の組織または体液への侵入に起因する病理学的過程を意味しており、細菌、ウイルス、真菌、および/または寄生虫による感染(複数可)に関する。したがって、感染は、細菌感染、ウイルス感染、および/または真菌感染であり得る。感染は、局所性または全身性の感染であり得る。さらに、感染に罹患している対象は、1つを超える感染源(複数可)に同時に罹患している可能性がある。例えば、感染に罹患している対象は、細菌感染およびウイルス感染に、ウイルス感染および真菌感染に、細菌感染および真菌感染に、ならびに細菌感染、真菌感染およびウイルス感染に罹患している可能性がある。
【0025】
本明細書で、試料は、体液、好ましくは血液、血漿、血清、より好ましくは血漿または血清の試料である。試料は、例えば、ICUへの入院の際に採取される場合があり、それにより本方法は、対象が翌1~7日間に腎置換療法を受ける必要性を評価する。しかしながら、典型的には、対象が腎置換療法を受ける必要性が本発明の方法によっていったん決定されると、対象は、できるだけ速やかに腎置換療法を受けることになる。
【0026】
本発明の目的のために、「対象」(または「患者」)は哺乳類動物であり得る。本発明の文脈において、「対象」という用語は、ヒトおよび他の哺乳類動物の両方を含む。したがって、本明細書で提供される方法は、ヒトおよび動物の両対象へ適用可能であり、すなわち、本方法は、医学および獣医学の目的のために使用することができる。したがって、対象は、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、モルモット、フェレット、ネコ、イヌ、ヒツジ、ウシ属の種、ウマ、ラクダ、または霊長類などの動物であり得る。最も好ましくは、対象はヒトである。
【0027】
アドレノメズリン(ADM)は、本明細書では配列番号1に付与される、185のアミノ酸を含む前駆体ペプチド(「プレプロアドレノメズリン」または「プレプロADM」)としてコード化される。ADMは、プレプロADMアミノ酸配列の位置95~146を含み、そのスプライシング産物である。
【0028】
「アドレノメズリン前駆体」(「Pro-ADM」)は、シグナル配列(アミノ酸1~21)を有さないプレプロADM、すなわち、プレプロADMのアミノ酸残基22~185を指す。「アドレノメズリン前駆体中間部」(「MR-proADM」)は、プレプロADMのアミノ酸42~92を指す。MR-proADMのアミノ酸配列を配列番号2に付与する。また、プレプロADMまたはMR-proADMのペプチドおよびその断片が、本明細書に説明する方法に使用することができることが想定される。例えば、ペプチドおよびその断片は、プレプロADMのアミノ酸22~41(PAMPペプチド)またはプレプロADMのアミノ酸95~146(成熟アドレノメズリン)を含むことができる。proADMのC末端断片(プレプロADMのアミノ酸153~185)は、アドレノテンシンと呼ばれる。proADMペプチドまたはMR-proADMの断片は、例えば、5個以上のアミノ酸を含む。したがって、proADMの断片は、例えば、MR-proADM、PAMP、アドレノテンシンおよび成熟アドレノメズリンからなる群から選択されてもよく、好ましくは本明細書では、断片はMR-proADMである。
【0029】
この故に、proADMの断片は、本発明の文脈において、好ましくは、MR-proADM、PAMP、アドレノテンシンおよび成熟アドレノメズリンからなる群から選択することができ、最も好ましくは、本明細書では断片はMR-proADMである。
【0030】
proADMなどのタンパク質またはペプチドの文脈において本明細書で言及する場合、「断片」という用語は、大きめのタンパク質またはペプチドから誘導可能な小さめのタンパク質またはペプチドを指し、小さめのタンパク質またはペプチドは、大きめのタンパク質またはペプチドの部分配列をこの故に含む。断片は、大きめのタンパク質またはペプチドのアミノ酸のうちの1つ以上の欠失によって、大きめのタンパク質またはペプチドから誘導可能である。
【0031】
また、配列番号2に示すような少なくとも75%の配列同一性、例えば、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性を有するMR-proADMポリペプチドのレベルが測定されることは、本明細書で想定されており、より高い値の配列同一性が好ましい。本発明に従って、2つ以上のアミノ酸配列の脈絡における「配列同一性」、「相同性」または「%相同性」または「同一の」または「%同一性」または「同一性百分率」という用語は、当技術分野で既知の配列比較アルゴリズムを用いて測定される場合、または手動整列および視認によって測定される場合に、比較ウィンドウにわたって(好ましくは全長にわたって)、もしくは指定した領域にわたって、最大対応について比較しおよび整列させたときに同じである、または同じであるアミノ酸の指定した百分率を有する2つ以上の配列もしくは部分配列を指す。例えば、70%~90%以上の配列同一性を有する配列は、実質的に同一であるとみなしてもよい。また、このような定義は、検査配列の相補体に適用される。好ましくは、説明される同一性は、少なくとも約15~約20のアミノ酸の長さである領域にわたって、より好ましくは少なくとも約25~約45のアミノ酸の長さである領域にわたって、最も好ましくは、全長にわたって存在する。当業者は、当技術分野で既知のように、例えば、CLUSTALW計算機プログラム(Thompson Nucl.Acids Res.2(1994),4673-4680)またはFASTDB(Brutlag Comp.App.Biosci.6(1990),237-245)に基づいたものなどのアルゴリズムを用いて配列間の%同一性を決定する方法がわかるであろう。
【0032】
本明細書で使用する場合、「アドレノメズリン前駆体またはその断片のレベル」という用語は、対象から取得された試料中のマーカーであるアドレノメズリン前駆体またはその断片の分子実体の量を指す。言い換えれば、このマーカーの濃度は、試料中で測定される。この故に、「マーカーであるアドレノメズリン前駆体中間部(MR-proADM)のレベル」という用語は、対象から取得された試料中のマーカーであるアドレノメズリン前駆体中間部(MR-proADM)の分子実体の量を指す。先に説明したとおり、アドレノメズリン前駆体(proADM)の断片、好ましくはMR-proADMは、検出かつ定量化することができることも本明細書で想定される。また、proADMの断片も、検出かつ定量化することができる。proADMまたはその断片(好ましくはMR-proADM)のレベルを測定する適切な方法は、本明細書で以下に詳述される。例えば、サンドイッチ、酵素結合免疫吸着検定、発光免疫検定、迅速検査フォーマット、ポイントオブケア検査に適した検定、および例えば、Kriptorシステム(BRAHMS/Thermo Fisher Scientific)などの均質な検定などの種々のフォーマットにおける免疫検定を採用することができる。その上、質量分析アプローチを使用して、proADMまたはその断片、好ましくはMR-proADMまたはその断片を検出および定量化することができる。当業者は、本明細書に説明するマーカーを測定/定量化するのに適している検定を認識している。この故に、本発明の好ましい態様において、proADMまたはその断片、好ましくはMR-proADMのレベルは、試料中で測定され、試料は、血液、血清または血漿試料である。最も好ましい態様において、メーカーは血漿試料中で測定される。
【0033】
本発明の文脈における「血漿」は、遠心分離後に取得される抗凝固剤含有血液の実質的に無細胞の上清である。例示的な抗凝固剤としては、EDTAまたはクエン酸塩などのカルシウムイオン結合化合物、およびヘパリン酸塩またはヒルジンなどのトロンビン阻害剤が挙げられる。無細胞血漿は、抗凝固血(例えば、クエン酸塩処理、EDTAまたはヘパリン処理した血液)の遠心分離、例えば、2000~3000gで少なくとも15分間の遠心分離によって取得することができる。本発明の文脈における「血清」とは、血液を凝固させた後に収集される全血の液状画分である。凝固した血液(凝固血)を遠心分離すると、血清を上清として取得することができる。
【0034】
proADMまたはその断片、MR-proADMのような、のレベルに加えて、さらなるマーカー、臨床スコアおよび/またはさらなる臨床パラメータなど、対象のさらなるパラメータを測定してもよい。この故に、proADMまたはその断片、MR-proADMのような、は、マーカーパネルの一部であることができる。
【0035】
本明細書で使用する場合、「マーカー」、「代理物質」、「予後マーカー」、「因子」または「バイオマーカー」または「生物学的マーカー」などの用語は、交換可能に使用されており、疾患/障害/臨床状態のリスクなど、健康関連および生理学関連の評価のための指標として機能する測定可能かつ定量化可能な生物学的マーカー(例えば、特異的な酵素濃度またはその断片、特異的なホルモン濃度またはその断片、または生物学的物質もしくはその断片の存在)に関する。さらに、バイオマーカーは、正常な生物学的過程、病原性過程、または治療介入に対する薬理学的応答の指標として客観的に測定および査定される特徴として定義される。バイオマーカーは、生物学的試料に関して(血液、血漿、尿、または組織検査として)測定することができる。
【0036】
本明細書で使用する場合、パラメータとは、特定の系を規定する上で役に立つことができる特徴、特色、または測定可能な因子である。パラメータとは、疾患/障害/臨床容態のリスクなど、健康関連および生理学関連の評価についての重要な要素である。さらに、パラメータは、正常な生物学的過程、病原性過程、または治療介入に対する薬理学的応答の指標として客観的に測定および査定される特徴として定義される。
【0037】
例示的なパラメータは、ボディマス指数、体重、年齢、性別、IGS II、液体摂取量、簡略型短期生理学スコア(SAPSIIスコア)、短期生理学および長期健康査定II(APACHE II)、世界脳外科学会連盟(WFNS)分類、グラスゴー昏睡尺度(GCS)および連続臓器不全評価スコア(SOFAスコア)、ボディマス指数、体重、年齢、性別、液体摂取量、白血球数、ナトリウム濃度、カリウム濃度、クレアチニン濃度、尿量、24時間尿量、体温、血圧、ドーパミン、ビリルビン、呼吸数、酸素分圧、世界脳外科学会連盟(WFNS)分類、ならびにグラスゴー昏睡尺度(GCS)からなる群から選択することができる。
【0038】
本明細書で使用する場合、「連続臓器不全評価スコア」または「SOFAスコア」とは、集中治療室(ICU)に滞在中に患者の状態を追跡するために使用する1つのスコアである(Vincent JL et al.The SOFA(Sepsis-related Organ Failure Assessment) score to describe organ dysfunction/failure.Intensive Care Med.1996;22:707-710)。SOFAスコアとは、対象の臓器機能または臓器不全率の程度を判定するための評点システムである。このスコアは、6つの異なるスコアに基づいており、呼吸器系、心血管系、肝臓系、凝固系、腎臓系および神経学系について各1スコアとする。このスコアは、敗血症による罹病および死亡のリスクを推定する上で、患者の医療チームの医師、看護師、および他のメンバーを支援する。SOFAスコアはまた、いわゆるQuick SOFAスコアであってもよい。
【0039】
本明細書で使用する場合、クイックSOFAスコア(qSOFA)とは、患者の臓器障害または死亡のリスクを示す評点システムである。このスコアは3つの基準に基づいている。すなわち、1)精神状態の変化、2)100mmHg未満への収縮期血圧の低下、3)1分間あたり22回を超える呼吸数、である。これらの条件のうちの2つ以上を有する患者は、臓器障害を有するリスクが高めであるかまたは死亡することになる。
【0040】
「短期生理学および長期健康査定II」スコア(APACHE II)とは、疾患重症度分類システムであり(Knaus et al.,“APACHE II: a severity of disease classification system“.In:Crit Care Med.13(10),1985,S.818-829)いくつかのICU評点システムのうちの1つである。APACHE IIは、患者が集中治療室(ICU)に入院してから24時間以内に適用され、0~71の整数スコアをいくつかの測定値に基づいて計算し、スコアが高ければ高いほど、より重症の疾患およびより高い死亡リスクに相当する。
【0041】
「簡略型短期生理学(SAPS)IIスコア」とは、さらなる疾患重症度分類システムである(Le Gall,“A New Simplified Acute Physiology Score(SAPS II)Based on a European/North American Multicenter Study”.JAMA.1993;270:2957-2963)。
【0042】
対象の少なくとも1つのさらなるマーカーおよび/またはパラメータは、試料中の乳酸のレベル、試料中のカルシトニン前駆体(PCT)のレベル、対象の連続的臓器不全評価スコア(SOFAスコア)、対象の簡略型短期生理学スコア(SAPSII)、対象の短期生理学および長期健康査定II(APACHE II)スコア、ならびに可溶性fms様チロシンキナーゼ1(sFlt-1)、ヒストンH2A、ヒストンH2B、ヒストンH3、ヒストンH4、カルシトニン、エンドセリン1(ET-1)、プロアルギニンバソプレッシンもしくはアルギニンバソプレッシン(proAVP、AVP)、コペプチン心房性ナトリウム利尿性ペプチド(ANP)、好中球ゲラチナーゼ関連リポカリン(NGAL)、トロポニン、脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)、C反応性タンパク質(CRP)、膵石タンパク質(PSP)、骨髄系細胞発現性トリガー受容体(Triggering Receptor Expressed on Myeloid Cells)1(TREM1)、インターロイキン6(IL-6)、インターロイキン1、インターロイキン24(IL-24)、インターロイキン22(IL-22)、インターロイキン(IL-20)他のIL、プレセプシン(sCD14-ST)、リポ多糖結合タンパク質(LBP)、アルファ1-抗トリプシン、マトリックスメタロプロテイナーゼ2(MMP2)、メタロプロテイナーゼ8(MMP8)、マトリックスメタロプロテイナーゼ9(MMP9)、マトリックスメタロプロテイナーゼ7(MMP7)、胎盤成長因子(PlGF)、クロモグラニンA、S100Aタンパク質、S100Bタンパク質および腫瘍壊死因子α(TNFα)、ネオプテリン、心房性ナトリウム利尿性ペプチド(ANP、プロANP)、細胞間接着分子1(ICAM-1)、可溶性細胞間接着分子1(sICAM-1)、CCL1/TCA3、CCL11、CCL12/MCP-5、CCL13/MCP-4、CCL14、CCL15、CCL16、CCL17/TARC、CCL18、CCL19、CCL2/MCP-1、CCL20、CCL21、CCL22/MDC、CCL23、CCL24、CCL25、CCL26、CCL27、CCL28、CCL3、CCL3L3、CCL4、CCL4L1/LAG-1、CCL5、CCL6、CCL7、CCL8、CCL9、CX3CL1、CXCL1、CXCL10、CXCL11、CXCL12、CXCL13、CXCL14、CXCL15、CXCL16、CXCL17、CXCL2/MIP-2、CXCL3、CXCL4、CXCL5、CXCL6、CXCL7/Ppbp、CXCL9、IL8/CXCL8、XCL1、XCL2、FAM19A1、FAM19A2、FAM19A3、FAM19A4、FAM19A5、CLCF1、CNTF、IL11、IL31、IL6、レプチン、LIF、OSM、IFNA1、IFNA10、IFNA13、1FNA14、LFNA2、LFNA4、IFNA7、IFNB1、IFNE、IFNG、IFNZ、IFNA8、IFNA5/IFNaG、IFNω/IFNWl、BAFF、4-1BBL、TNFSF8、CD40LG、CD70、CD95L/CD178、EDA-A1、TNFSF14、LTA/TNFB、LTB、TNFα、TNFSF10、TNFSF11、TNFSF12、TNFSF13、TNFSF15、TNFSF4、IL18、IL18BP、ILIA、IL1B、IL1F10、IL1F3/IL1RA、IL1F5、IL1F6、IL1F7、IL1F8、IL1RL2、IL1F9、IL33またはこれらの断片からなる群から選択することができる。
【0043】
本発明の方法は従って、一態様において、対象の試料中のカルシトニン前駆体(PCT)、C反応性タンパク質(CRP)、乳酸およびクレアチニンからなる群から選択されるさらなるマーカーのレベルの測定をさらに含んでもよい。この試料は、proADMまたはその断片のレベルが測定される同じ試料であってもよく、または異なる試料であってもよい。
【0044】
本明細書で使用する場合、「乳酸」は、血中で測定される最大乳酸濃度を指す。通常、乳酸濃度は、毎日またはさらにより頻繁に評価される。血中乳酸濃度は、例えば、乳酸オキシダーゼ分光定量法によって測定することができる。
【0045】
クレアチニンは、骨格筋収縮において使用されるクレアチンリン酸の非タンパク質性最終産物であるので、クレアチンの毎日の産生、および後続の生成物であるクレアチニンは、筋量に依存しており、ほとんど変動しない。クレアチニンは、完全に腎臓によって分泌され、それゆえ、腎機能に直接関連している。腎臓が正常に機能しているとき、血清クレアチニンレベルは定常かつ正常なままのはずである。
【0046】
proADM(またはその断片)のレベルに加えて、SOFAスコア、SAPSIIおよびAPACHEIIの群から選択される対象の少なくとも1つの臨床スコアが測定される。また、対象の尿量に加えて、例えば、24時間にわたる尿量を測定することができる。
【0047】
しかしながら、驚くべきことに、本発明の方法は、さらなるパラメータおよびマーカーに頼る必要がなく、特に扱いにくい尿量の測定は必ずしも要しない。
【0048】
本発明の文脈において、proADMまたはその断片、
好ましくはMR-proADMのレベルは、発光免疫検定(LIA)、放射性免疫検定(RIA)、化学発光および蛍光免疫検定、酵素免疫検定(EIA)、酵素結合免疫検定(ELISA)、発光系ビーズアレイ、磁気ビーズ系アレイ、タンパク質マイクロアレイ検定、迅速検査フォーマット、および希クリプタート検定からなる群から選択される方法を用いて測定される。この検定は、本明細書で以下にさらに概略されるように、均質な相においてまたは異質な相において実施することができる。
【0049】
proADMもしくはその断片、好ましくはMR-proADMのレベル、および/またはさらなるマーカーのレベルは、免疫検定によって測定することができる。本明細書で使用する場合、「検定」または診断検定は、診断の分野において適用される任意の検定の種類であることができる。好ましい検出方法は、例えば、放射免疫検定、化学発光および蛍光免疫検定、酵素結合免疫検定(ELISA)、Luminex系ビーズアレイ、タンパク質マイクロアレイ検定、ポイントオブケア検査に適した検定、および例えば、免疫クロマトグラフィー試験紙検査などの迅速な検査フォーマットなどの種々のフォーマットにおける免疫検定を含む。このような検定は、ある特定の親和性を有する1つ以上の捕捉プローブに対する、検出されることになっている分析物の結合に基づくことができる。本明細書で使用する場合、免疫検定とは、抗体または免疫グロブリンの使用によって、溶液中の巨大分子/ポリペプチドの存在または濃度を測定する生化学検査である。本発明によると、抗体は、モノクローナル抗体およびポリクローナル抗体であってもよい。したがって、少なくとも1つの抗体は、モノクローナル抗体またはポリクローナル抗体である。本発明による方法は特に好ましく、プレプロADMのアミノ酸42~95にわたる中間部部分ペプチドまたは配列番号2に付与されるようなアミノ酸を、試料中のMR-proADMまたはその部分的なペプチドの測定に採用する。ある特定の態様において、マーカーのレベルは、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によって測定される。ある特定の態様において、HPLCは、免疫検定に連関することができる。本発明のある特定の態様において、proADMまたはその断片、好ましくはMR-proADMまたはその断片。このサンドイッチ免疫検定において、2つの抗体を例えば、試料中のproADMまたはその断片、好ましくはMR-proADMなどの1つのマーカーに適用する。特に、このことは、proADMまたはその断片、好ましくは、MR-proADMまたはその断片が、proADMまたはその断片、好ましくはMR-proADMまたはその断片の異なる部分配列に特異的に結合する2つの抗体の使用によって測定される場合、好ましい。
【0050】
本発明によるインビトロ法の好ましい態様において、抗体のうちの1つを標識し、第2の抗体を固相へ結合させるか、または固相へ選択的に結合させてもよい。
【0051】
この検定の特に好ましい態様において、抗体のうちの1つを標識するのに対し、もう1つを固相へ結合させるか、または固相へ選択的に結合させることができる。好ましい実施形態において、この方法は、異種性サンドイッチ免疫検定として実行され、そこで、抗体のうちの1つは、任意選択された固相、例えば、被覆した試験管(例えば、ポリスチロール試験管、被覆したチューブ、CT)もしくは例えば、ポリスチロールから構成されたマイクロタイタープレートの壁に、または例えば磁気粒子などの粒子へ固定され、それにより、もう1つの抗体が、検出可能な標識に似た基または標識への選択的付着を可能にする基を有し、このことが、形成されたサンドイッチ構造の検出を供する。適切な固相を用いて、一時的に固定を遅らせるかまたは後で固定することも可能である。
【0052】
本発明による方法はさらに、均質な方法として実施することができ、そこで、抗体/抗体および検出されることになっているマーカー、例えば、proADMまたはその断片、好ましくはMR-proADMまたはその断片によって形成されるサンドイッチ複合体は、液相中に懸濁されたままである。この場合、2つの抗体を使用するとき、いずれの抗体も検出系のパーツで標識されており、このことが、いずれの抗体も単一のサンドイッチへと組み込まれた場合、シグナルの発生またはシグナルの誘起をもたらすことは好ましい。このような技術は、特に蛍光増強検出法または蛍光消光検出法として実施されることになる。特に好ましい態様は、例えば、US4882733A、EP-B1 0 180 492またはEP-B1 0 539 477において説明されるものおよびそれらに引用される従来技術など、対で使用されることになっている検出試薬の使用に関する。このように、直接反応混合物中で単一の免疫複合体にいずれの標識構成要素も含む反応生成物のみが検出される測定が可能となる。例えば、このような技術は、商標名TRACE(登録商標)(時間解像増幅クリプタート放射)またはKRYPTORの下で提供されており、先に引用した出願の教示を実実施している。それゆえ、特に好ましい態様において、診断装置を使用して、本明細書で提供される方法を実施する。例えば、proADMまたはその断片、好ましくはMR-proADMのレベルおよび/または本明細書で提供される方法の何らかのさらなるマーカーのレベルが測定される。特に好ましい態様において、診断装置は、KRYPTOR(登録商標)である。
【0053】
好ましい態様において、第1および第2の抗体はいずれも、液体反応媒体中に分散しており、それにより、蛍光または化学発光の消光または増強に基づいた標識系の一部である第1の標識構成要素を第1の抗体へ結合させ、それにより、この標識系の第2の標識構成要素を第2の抗体へ結合させ、それにより、proADMまたはその断片、好ましくはMR-proADMに対する両抗体の結合後に、検出可能なシグナルが生じ、測定中の溶液中で形成されるサンドイッチ複合体の検出が可能となる。この代替物の一態様は、蛍光色素または化学発光色素との組み合わせにおける希土類クリプタートまたはキレートなどの標識系を含む。特に好ましい態様において、標識系は、特にシアニン型の蛍光色素または化学発光色素と組み合わせた希土類クリプタートを含む。さらに好ましい態様において、検出は、競合的免疫検定を用いて実施される。好ましい態様において、放射免疫検定が使用される。また、マーカーのレベルが、例えば、質量分析法によって、または免疫検定もしくは質量分析系アプローチに連関することができる高速液体クロマトグラフィー(HPLC)法によって測定できることを本明細書で想定した。当業者は、いかなる利用可能な検定も、マーカーのレベルが信頼可能に測定できる限り使用することができることを理解している。
【0054】
一態様において、本方法は、
a)試料を
(i)proADMまたはその断片、好ましくはMR-proADMの第1のエピトープに特異的な第1の抗体またはその抗原結合断片もしくは誘導体、および
(ii)proADMまたはその断片、好ましくはMR-proADMの第2のエピトープに特異的な第2の抗体またはその抗原結合断片もしくは誘導体と接触させるステップと、
b)proADMまたはその断片、好ましくはMR-proADMに対する、第1および第2の抗体またはその抗原結合断片もしくは誘導体の結合を検出するステップと、を含む、免疫検定である。
【0055】
典型的には、この文脈において、抗体のうちの1つを標識し、もう1つの抗体を固相に結合させるか、または固相に選択的に結合させることができる。例えば、第1の抗体および第2の抗体は、液体反応混合物中に分散して存在し、蛍光または化学発光の消滅または増幅に基づいた標識系の一部である第1の標識構成要素が、第1の抗体に結合しており、かつ標識系の第2の標識構成要素が第2の抗体に結合しており、それにより、proADMまたはその断片、好ましくはMR-proADMに対する両抗体の結合後に、測定中の溶液中で結果として得られるサンドイッチ複合体の検出を可能にする測定可能なシグナルが生じる。
【0056】
本明細書で先に示したように、標識系は、特にシアニン型の蛍光色素または化学発光色素と組み合わせた、希土類クリプタートまたはキレートを含んでもよい。
【0057】
原理上、放射性同位体、酵素、蛍光標識、化学発光標識または生物発光標識、ならびに金原子および色素粒子など、直接的に光学的に検出可能な色彩標識を用いた標識など、上記のタイプの検定において適用することができるすべての標識技術を使用することができ、これらは、特にポイントオブケア(POC)または迅速な検査において使用される。異種性サンドイッチ免疫検定の場合、両抗体は、均質な検定の文脈において本明細書で説明される種類による検出系の一部を呈することができる。
【0058】
本明細書で使用する場合、「療法」または「処置」とは、特に腎置換療法である。本明細書で使用する場合、「腎置換療法」または「RRT」とは、腎臓(複数可)の正常な血液濾過機能を置き換えるかまたは支援するために採用される療法である。特に、腎置換療法は、持続的腎置換療法および/または間欠的腎置換療法であることができる。本明細書で使用する場合、間欠的腎置換療法は、例えば、血液と透析物との間の濃度勾配によって駆動される膜全体の核酸に基づいた血液の浄化/溶質の除去の過程に関する。本明細書で使用する場合、持続的腎置換療法とは、1日あたり24時間、すなわち持続的に適用されるよう企図された任意の腎置換療法である。腎置換療法は、透析(例えば、血液透析または腹膜透析)、血液濾過、および血液透析濾過を指すことができる。このような技術は、血液を機械へと流れさせて、血液を浄化し、次いで血液を体へ戻す種々の方法である。また、腎置換療法は、古い腎臓を提供腎によって置き換える置き換えの究極的な形態である腎移植を指す場合もある。また、腎置換療法は、透析、血液濾過、血液透析濾過および腎移植からなる群から選択されることができる。血液透析、血液濾過、および血液透析濾過は、持続的であるかまたは間欠的であることができ、動静脈経路(血液が動脈から出て静脈を介して戻る)または静脈静脈経路(血液が静脈から出て静脈を介して戻る)を使用することができる。このことは結果として種々の種類のRRTをもたらす。例えば、腎置換療法は、持続的腎置換療法(CRRT)、持続的血液透析(CHD)、持続的動静脈血液透析(CAVHD)、持続的静脈静脈血液透析(CVVHD)、持続的血液濾過(CHF)、持続的動静脈血液濾過(CAVHまたはCAVHF)、持続的静脈静脈稀有的濾過(CVVHまたはCVVHF)、持続的血液透析濾過(CHDF),持続的動脈静脈血液透析濾過(CAVHDF)、持続的静脈静脈血液透析濾過(CVVHDF)、間欠的腎置換療法(IRRT)、間欠的血液透析(IHD)、間欠的静脈静脈血液透析(IVVHD)、間欠的血液濾過(IHF)、間欠的静脈静脈血液濾過(IVVHまたはIVVHF)、間欠的血液透析濾過(IHDF)および間欠的静脈静脈血液透析濾過(IVVHDF)の群から選択することができる。
【0059】
本明細書で先に示したように、本発明の方法などの診断検査および/または予後検査の感度および特異性は、単なる検査の分析の「質」以上のものによって決まり、また、異常な結果を構成するものが何であるのかという定義によっても決まる。実際、受信者動作特性曲線(ROC曲線)は、「正常」な集団(すなわち、産前障害または産前症状を有していない明らかに健常な個体)および「疾患」集団において変数の値とその相対的な頻度とをプロットすることによって典型的に計算される。任意の特定のマーカー(MR-proADMのような)について、疾患/症状を有するおよび有さない対象についてのマーカーレベルの分布は、おそらく重複することになる。このような条件下で、検査は、正常を100%の正確さで疾患と完全に区別せず、重複領域は、検査が正常を疾患と区別することができない箇所を示し得る。閾値を選択し、それを下回ると検査を異常と見なし、それを上回ると検査を正常と見なし、またはそれを下回るかもしくは上回ると検査が具体的な容態を示す。ROC曲線下面積は、知覚された測定が容態の正確な特定を可能にする確率の尺度である。ROC曲線は、検査結果が正確な数を必ずしも与えないときでも使用することができる。結果を位置づけることができる限り、ROC曲線を作成することができる。例えば、「疾患」試料に関する検査結果は、程度(例えば、1=低、2=正常、および3=高)によって位置づけられ得る。この位置づけは、「正常」な集団における結果と相関することができ、ROC曲線を作成することができる。これらの方法は、当技術分野で周知であり、例えば、Hanley et al.1982.Radiology 143:29-36を参照されたい。好ましくは、閾値は、約0.5を超える、より好ましくは約0.7を超える、なおもより好ましくは約0.8を超える、さらにより好ましくは約0.85を超える、および最も好ましくは約0.9を超えるROC曲線面積を提供するよう選択される。この文脈における「約」という用語は、所与の測定値の±5%を指す。
【0060】
ROC曲線の横軸は、(1特異性)を表し、これは、偽陽性の割合とともに上昇する。曲線の縦軸は、感度を表し、これは、真の陽性の割合とともに上昇する。したがって、選択された特定のカットオフについて、(1特異性)の値を測定することができ、対応する感度を取得することができる。ROC曲線下面積は、測定されたマーカーレベルが疾患または容態の正確な特定を可能にする確率の尺度である。したがって、ROC曲線下面積(AUC)は、この検査の有効性を判断するために使用することができる。
【0061】
他の実施形態において、陽性の確度、陰性の確度、オッズ比、またはハザード比は、リスクを予測しまたは障害もしくは容態(「罹患群」)を診断する検査能力の尺度として使用される。陽性の確度の場合、1の値は、陽性の結果が「罹患」群および「対照」群の両方において対象間で等しく可能性が高いことを示し、1を超える値は、陽性の結果が罹患群においてより可能性が高いことを示し、かつ1未満の値は、陽性の結果が対照群においてより可能性が高いことを示す。陰性の確度の場合、1の値は、陰性の結果が「罹患」群および「対照」群の両方において対象間で等しく可能性が高いことを示しており、1を超える値は、陰性の結果が検査群においてより可能性が高いことを示し、かつ1未満の値は、陰性の結果が対照群においてより可能性が高いことを示す。
【0062】
オッズ比の場合、1の値は、陽性の結果が「罹患」群および「対照」群の両方において対象間で等しく可能性が高いことを示し、1を超える値は、陽性の結果が罹患群においてより可能性が高いことを示し、かつ1未満の値は、陽性の結果が対照群においてより可能性が高いことを示す。
【0063】
ハザード比の場合、1の値は、エンドポイント(例えば、死亡)の相対的なリスクが「罹患」群および「対照」群の両方において等しいことを示し、1を超える値は、リスクが罹患群においてより高いことを示し、かつ1未満の値は、リスクが対照群においてより高いことを示す。本明細書の「罹患」群および「対照」群は、2つの異なる容態群(例えば、「RRTの必要性あり」および「RRTの必要性なし」)を代表している。
【0064】
当業者は、診断指標または予後指標を将来の臨床結果の診断リスクまたは予後リスクと関係づけることが統計解析であることを理解するであろう。例えば、Xよりも低いマーカーレベルは、統計的有意性のレベルによって決定されるように、患者が、X以上のレベルの患者よりも有害転帰を患う可能性が高いことを示す場合がある。加えて、ベースラインレベルからのマーカー濃度の変化は、患者の予後を反映することができ、マーカーレベルの変化の程度は、有害事象の重症度と関連付けることができる。統計的有意性はしばしば、2つ以上の集団を比較すること、ならびに信頼区間および/またはp値を決定することによって決定され、例えば、Dowdy and Wearden,Statistics for Research,John Wiley & Sons,New York,1983を参照されたい。本発明の好ましい信頼区間は、90%、95%、97.5%、98%、99%、99.5%、99.9%および99.99%であるのに対し、好ましいp値は、0.1、0.05、0.025、0.02、0.01、0.005、0.001、および0.0001である。
【0065】
また、本発明は、重篤対象が腎置換療法を必要とするかどうかを評価するためのキットの使用に関しており、キットは、対象の試料中のproADMまたはその断片、好ましくはMR-proADMのレベルを測定するための1つ以上の検出試薬を含み、場合により、検出試薬は、少なくとも2つの抗体を含み、抗体のうちの1つは標識されており、もう1つの抗体は固相へ結合しているか、または固相へ選択的に結合することができる。
【0066】
この使用の文脈において、第1および第2の抗体は、液体反応混合物中で分散して存在することができ、蛍光または化学発光の消滅または増幅に基づいた標識系の一部である第1の標識構成要素は、第1の抗体に結合しており、標識系の第2の標識構成要素は、第2の抗体に結合しており、それによりproADMまたはその断片、好ましくはMR-proADMに対する両抗体の結合後、測定中の溶液中で結果として得られるサンドイッチ複合体の検出を可能にする測定可能なシグナルが生じ、場合により、標識系は、特にシアニン型の蛍光色素または化学発光色素と組み合わせて希土類クリプタートまたはキレートを含む。
【0067】
また、本発明は、重篤対象が腎置換療法を必要とするかどうかを評価することを含む、重篤対象を腎置換療法で処置するための方法に関しており、方法は、対象から取得された試料中でアドレノメズリン前駆体(proADM)またはその断片、好ましくはMR-proADMのレベルを測定することを含み、proADMまたはその断片のレベルは、対象が腎置換療法を受ける必要性を示す。
【0068】
本明細書に説明する方法の一実施形態において、方法は、proADMまたはその断片の測定されたレベルを、重篤と診断されかつ医学的処置の下にある患者におけるproADMまたはその断片に対応する参照レベル、閾値および/または集団平均と比較することをさらに含み、比較は、計算機で実行可能なコードを使用して計算機プロセッサで実行する。
【0069】
本発明の方法は、計算機で一部実施されてもよい。例えば、マーカー、例えば、proADMまたはその断片、の検出されたレベルを参照レベルと比較するステップは、計算機システムにおいて実施することができる。計算機システムにおいて、マーカー(複数可)の測定されたレベルは、対象の他のマーカーレベルおよび/またはパラメータと組み合わせて、診断、予後、リスク評価および/またはリスク層別化を示すスコアを計算することができる。例えば、測定値は、計算機システムへと(医療専門家によって手動でまたは個々のマーカーレベル(複数可)が測定された装置(複数可)から自動的に)入力することができる。計算機システムは、ポイントオブケア(例えば、プライマリケア、ICUまたはED)に直接あってもよく、または計算機ネットワークを介して(例えば、インターネット、または特化型医療用クラウドシステムを介して、場合により、他のIT系または病院情報システム(HIS)などのプラットフォームと組み合わせ可能)接続された遠隔位置にあってもよい。典型的には、計算機システムは、計算機可読媒体上に値(例えば、年齢、血液、体重、性別などのマーカーレベルもしくはパラメータ、またはSOFA、qSOFA、BMIなどの臨床評点システム)を保存して、あらかじめ定義したおよび/またはあらかじめ保存した参照レベルまたは参照値に基づいてスコアを計算する。結果として得られるスコアは、ユーザ(典型的には、内科医などの医療専門医)向けに表示されおよび/または印刷される。代替的にまたは追加的に、関係づけられた予後、診断、評価、処置指導、患者管理指導または層別化は、ユーザ(典型的には内科医などの健常な専門医)向けに表示されおよび/または印刷されることになる。
【0070】
本発明の一実施形態において、機械学習アルゴリズムが明白であるソフトウェアシステムを採用して、好ましくは電子健康記録(EHR)からのデータを用いて敗血症、重度敗血症および敗血症性ショックについてリスクのある入院患者を特定することができる。機械学習アプローチは、患者からのEHRデータ(実験室、バイオマーカー発現、バイタルサイン、およびデモグラフィックなど)を用いてランダムフォレスト分類指標に関して訓練することができる。機械学習は、より単純な規則に基づいたシステムとは異なり、明白にプログラムされることなく、データにおける複雑なパターンを学習する能力を計算機に提供する一種の人工知能である。より初期の研究は、電子健康記録データを使用して警告を出し、概して臨床的悪化を検出してきた。本発明の一実施形態において、proADMレベルの処理は、既存のデータセットとの比較について適切なソフトウェアへと組み込むことができ、例えば、proADMレベルを機械学習ソフトウェアにおいて処理して、有害事象の発生または対象の腎置換療法の必要性を診断または予測を支援することもできる。
【0071】
本明細書で引用される参考文献はすべて、参照により完全に援用される。
【0072】
次の非結合的な実施例は、本発明を例示する。
【実施例
【0073】
本実施例は、MR-proADMを検出することによって実施された。しかしながら、本明細書で先に概略したように、本発明はまた、proADMまたはその別のペプチド断片を検出することによって実施することもできる。
試験設計
【0074】
合計1089名の集中治療室(ICU)患者を本試験に登録し、142名(13.0%)の患者が重度敗血症に罹患しており、かつ947名(87.0%)の患者が敗血症性ショックに罹患している。28日目の死亡率は26.9%であり、病院死亡率は33.4%であった。ICU療法の最初の28日以内で、321名(29.8%)の患者は腎置換療法(RRT)を必要とし、大多数の患者(N=296、92.2%)は、処置の最初の7日以内でRRTを初めて必要とした。
- ベースライン:178名(16.6%)
- 1日目:59名(6.7%)
- 2日目:25名(3.2%)
- 3日目:11名(1.6%)
【0075】
RRTを開始したときの時点に基づく28日目の死亡率または90日目の死亡率における上昇傾向は、以下に見出すことができた。
- ベースラインの28日目の死亡率および90日目の死亡率:52.2%および63.2%、
- 1日目の28日目の死亡率および90日目の死亡率:57.6%および72.9%、
- 2日目の28日目の死亡率および90日目の死亡率:44.0%および56.0%、
- 3日目の28日目の死亡率および90日目の死亡率:63.6%および72.7%。
【0076】
バイオマーカーおよび臨床的重傷スコアを(i)ベースラインでRRTを必要とする患者を特定すること、(ii)1日目にRRT必要条件を予測すること、(iii)2日目にRRT必要条件を予測すること、および(iii)3日目にRRT必要条件を予測すること、についてベースラインでの挙動について評価した。
【0077】
バイオマーカーの測定
PCTを血清試料中で、0.02~5000ng/mlの測定範囲、ならびにそれぞれ少なくとも0.06ng/mlおよび0.02ng/mlの機能的検定感度および検出下限値を有する装置で測定した(Kryptor(登録商標),Thermo Fisher Scientific,ドイツ、のためのBRAHMS PCT検定)。患者全員からの追加の血液試料を収集し、-80℃で保存した。MR-proADM血漿濃度を遡及的に(Kryptor(登録商標),Thermo Fisher Scientific、ドイツ)、検出限界0.05nmol/Lで測定した。連続臓器不全評価(SOFA)、短期生理学的性質および長期健康査定(APACHE)IIおよび簡略型短期生理学的性質(SAPS)IIスコアを含む臨床的重症度スコアを試験登録に採用した。クレアチニンを、標準的な市販の検定キットを用いて尿中で測定した。血漿c反応性タンパク質(CRP)は、標準的な市販の検定キットを用いて測定した。血漿乳酸は、標準的な市販の検定キットを用いて測定した。
【0078】
結果
結果を表1に要約する。
【表1】
【0079】
MR-proADMは、他のすべてのバイオマーカー、スコアまたは実験値と比較した最大予測値を有していた。24時間尿量のみがMR-proADMよりもベースラインで正確に患者を特定することができたが、この変数は、入院時の単回バイオマーカー測定とは対照的に、24時間にわたる定常測定を必要とする。さらに、値は1日目および2日目の予測について高いままであったが、特に3日目の予測と比較したとき、MR-proADMについてより低かった。
【0080】
第2のステップにおいて、ベースラインおよび1日目のPCTおよびMR-proADM動態を研究した(表2を参照されたい)。患者をまず、この24時間にわたってPCT値を上昇させたか低下させたかに分け、次に、さらなる下位群を、MR-proADM濃度を用いて研究した(ベースライン:低感度2.7nmol/L以下、中間的な重症度2.7nmol/L~10.9nmol/L、高い重症度10.9nmol/L超、1日目:低い重症度2.8nmol/L以下、中間的な重症度2.8nmol/L~9.5nmol/L、高い重症度9.5nmol/L超)。合計165名の患者は、ベースラインから1日目までPCT濃度を低下させ、かつ定常的に低いMR-proADM濃度を有していた。これらの患者のうち、4名(2.4%)の患者のみが、RRTを必要とした。残りの161名の患者のうち、最長7日目まで、RRTについてのさらなる必要条件はなかった。対照的に、51名(7.9%)の患者は、PCT濃度が低下したが、MR-proADM濃度は高いままであることが見出された。ここで、23名(45.1%)の患者は、ベースラインでRRTを必要とした。残りの23名の患者のうち、12名(52.2%)が、その後7日間にわたるある地点でRRTを必要とした。
【0081】
同様の結果は、PCT値がベースラインから1日目まで上昇していた時に見出すことができた。この場合、66名(19.2%)の患者は、PCT濃度が上昇したが、MR-proADMの重症度値は定常的に低かった。ベースラインでRRTを必要とする患者はいなかったが、これらの患者のうち、3名(4.5%)は、ICU療法のその後の7日間にわたるある地点でRRTを必要とした。対照的に、53名(15.4%)の患者では、PCT濃度が上昇しており、MR-proADM重症度値は定常的に高かった。これらの患者のうちの22名(41.5%)は、ベースラインにおいてすぐにRRTを必要としていたのに対し、RRTをすぐに装着しなかった31名の患者のうち、さらなる23名(74.2%)は、その後の7日間にわたってRRTを必要とした。
【表2】
【配列表】
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