(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-07
(45)【発行日】2023-06-15
(54)【発明の名称】ヒトミルクオリゴ糖の噴霧乾燥混合物
(51)【国際特許分類】
A23L 33/125 20160101AFI20230608BHJP
A23L 33/135 20160101ALI20230608BHJP
A23C 9/16 20060101ALI20230608BHJP
C12P 19/00 20060101ALN20230608BHJP
【FI】
A23L33/125
A23L33/135
A23C9/16
C12P19/00
(21)【出願番号】P 2020531469
(86)(22)【出願日】2018-12-07
(86)【国際出願番号】 EP2018083968
(87)【国際公開番号】W WO2019110800
(87)【国際公開日】2019-06-13
【審査請求日】2021-12-07
(32)【優先日】2017-12-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2017-12-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2017-12-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2017-12-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2018-02-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】511297753
【氏名又は名称】クリスチャン・ハンセン・ハーエムオー・ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】Chr. Hansen HMO GmbH
【住所又は居所原語表記】Maarweg 32 53619 Rheinbreitbach Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【氏名又は名称】中西 基晴
(74)【代理人】
【識別番号】100106080
【氏名又は名称】山口 晶子
(72)【発明者】
【氏名】イェンネワイン,シュテファン
【審査官】正 知晃
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0183814(US,A1)
【文献】特表2017-533915(JP,A)
【文献】特表2016-535724(JP,A)
【文献】特表2017-506065(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第03111942(EP,A2)
【文献】国際公開第2017/103019(WO,A1)
【文献】特開2003-047402(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102154163(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
C13B
C13K
C12P
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造的に異なるヒトミルクオリゴ糖の混合物を含有する噴霧乾燥粉末
であって、
前記噴霧乾燥粉末が以下を含み:
【化1】
ここで、前記噴霧乾燥粉末が、L-フコースおよびN-アセチルノイラミン酸からなる群から選択される少なくとも1種の単糖を含み、前記混合物の全てのヒトミルクオリゴ糖が微生物発酵により生成されている。
【請求項2】
少なくとも85wt%のヒトミルクオリゴ糖を含有する、請求項1に記載の噴霧乾燥粉末。
【請求項3】
前記混合物の少なくとも1種のHMO、任意選択で少なくとも1種の単糖が、非晶質形態で存在する、請求項
1または2のいずれかに記載の噴霧乾燥粉末。
【請求項4】
前記混合物の全てのHMOが、非晶質形態で存在する、請求項3に記載の噴霧乾燥粉末。
【請求項5】
全ての単糖が、非晶質形態で存在する、請求項1から4のいずれか一項に記載の噴霧乾燥粉末。
【請求項6】
15wt%以下の水を含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の噴霧乾燥粉末。
【請求項7】
請求項1から
6のいずれか一項に記載の噴霧乾燥粉末を製造するための方法であって、
a)発酵ブロスから構造的に異なるHMOの少なくとも1種を精製する工程と;
b)工程a)の少なくとも1種のHMOを含有する水溶液を用意する工程と;
c)工程b)の溶液を噴霧乾燥に供する工程と
を含み、
工程a)が、
i)発酵ブロスから微生物細胞を除去して、プロセス流を得る工程;
ii)プロセス流を少なくとも1回の限外濾過に供する工程;
iii)プロセス流をカチオン交換樹脂で少なくとも1回、および/もしくはアニオン交換樹脂で少なくとも1回処理する工程;
iv)プロセス流を少なくとも1回のナノ濾過および/もしくは透析濾過に供する工程;
v)プロセス流を少なくとも1回の電気透析に供する工程;
vi)プロセス流を活性チャコールで少なくとも1回処理する工程;ならびに/または
vii)プロセス流を少なくとも1回結晶化および/もしくは沈殿工程に供する工程
の1つまたは複数を含む方法。
【請求項8】
工程b)の水溶液が、
前記少なくとも1種の単糖をさらに含有し、前記少なくとも1種の単糖は、L-フコースおよびN-アセチルノイラミン酸からなる群から選択される、請求項
7に記載の方法。
【請求項9】
前記水溶液が、少なくとも1種のHMO、構造的に異なるHMOの混合物、および/または少なくとも1種の単糖を、合計糖類量として
少なくとも20%(w/v)、および最大60%(w/v)の量で含有する、請求
項7から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
少なくとも1種のHMO、および任意選択で少なくとも1種の単糖を含有する水溶液が、
少なくとも110℃、および150℃未満のノズル温度で噴霧乾燥される、請求項
7から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
少なくとも1種のHMO、および任意選択で少なくとも1種の単糖を含有する水溶液が、
少なくとも60℃、および80℃未満の出口温度で噴霧乾燥される、請求項
7から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
栄養組成物を製造するための、請求項1から6のいずれか一項に記載の噴霧乾燥粉末の使用。
【請求項13】
栄養組成物が、乳児用フォーミュラである、請求項12に記載の使用。
【請求項14】
請求項1から
6のいずれか一項に記載の噴霧乾燥粉末を含有する栄養組成物。
【請求項15】
少なくとも1種のプロバイオティクス微生物をさらに含有する、請求項
14に記載の栄養組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒトミルクオリゴ糖の調製物に関する。より詳細には、本発明は、ヒトミルクオリゴ糖の固体調製物、および前記固体調製物を製造するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒト母乳は、相当量の炭水化物を含有する。ヒト母乳中に存在する炭水化物は、L-フコースおよびN-アセチルノイラミン酸等の単糖、二糖であるラクトース、ならびに最大20g/lのオリゴ糖、いわゆる「ヒトミルクオリゴ糖(HMO)」を含む。HMOは、ヒト母乳の3番目に豊富な構成成分である。ヒトミルク中には、150を超える構造的に異なるオリゴ糖が存在すると推定される。選択されたHMOを表1に示す。約10~13種のこれらのHMOがそれぞれ、ヒトミルク中に1リットル当たり数百ミリグラムから数グラムの間の濃度で存在する(Thurlら(2017)、Nutrition Reviews 75(11)920~933)。HMOのうち、中性HMO、および少なくとも1つのN-アセチルノイラミン酸(NeuAc)部分を含有する酸性HMOが知られている。これらのオリゴ糖の構造的複雑性および豊富さは、ヒトミルクに特有であり、例えば乳畜等の他の哺乳動物のミルクには見られない。
【0003】
HMOはヒトによって消化されないため、これらの糖の生理学的役割は、ここ数十年にわたり調査されている。HMOのプレバイオティクス効果は、100年以上前に発見された。消費されると、HMOは、有益な細菌の増殖を補助することにより腸内微生物叢の組成を調整することができる。
【0004】
【0005】
【0006】
HMOのいくつかの他の機能的効果、特に新生児の発育に対するそれらの効果がここ数年間で明らかとなった。HMOは、ヒト細胞の表面糖タンパク質に結合することによってヒト細胞に接着する細菌およびウイルス病原体による感染のリスクを低減するためのデコイとして機能することが知られている。さらに、様々なHMOが抗炎症効果を有し、免疫修飾物質として機能する。したがって、HMOが食品アレルギーの発生のリスクを低減することが提示された。新生児の中枢神経系の発達に対するシアリル化HMOの好ましい効果もまた激しく議論されている(「Prebiotics and Probiotics in Human Milk,Origins and functions of milk-borne oligosaccharides and bacteria」、Academic Press(2017)、編集者:McGuire M.、McGuire M.およびBode L.において考察されている)。
【0007】
HMOの有益な効果を利用するために、栄養組成物、特に乳児用フォーミュラに個々のHMOを添加する取り組みがなされている。しかしながら、栄養組成物に異なるHMOの組合せを補足するほうが良く、これは、そのような組成物が、単一種のHMOのみを含有する組成物よりも、HMOの天然源、すなわちヒトミルクにより酷似し、ヒトの健康および発育に対するより良好な効果を有する可能性がより高いためである。
【0008】
栄養組成物を補足するためのHMOの供給が限られていることから、HMOの化学合成の手順が開発された。そのような化学合成における欠点により、グリコシルトランスフェラーゼ等の精製酵素を使用してin vitroでHMOが合成される生体触媒アプローチがもたらされる。今日では、遺伝子操作微生物細胞の発酵を使用して、個々のHMOが工業規模で生成されている(WO2015/150328A1、WO2017/043382A1、WO2010/070104A1、WO2012/097950A1)。HMOは、遺伝子操作微生物細胞により合成され、発酵培地および/または細胞分解物から回収されて、実質的に純粋なHMOの調製物を得ることができる。
【0009】
発酵ブロスからのその回収の間、HMOは通常、目的のHMOを含有し、また所望のHMOの発酵生成中に生成された副生成物である望ましくないHMOを含有する液体プロセス流、例えば水溶液の形態で存在する。所望のHMO、すなわち目的のHMOの回収に従い、プロセス流中のその濃度およびその純度は増加する。しかしながら、HMOを含有する水溶液は、細菌または真菌汚染に対して脆弱である。したがって、少量の水を含有する乾燥または固体生成物として所望のHMOを提供することが好ましい。そのような固体生成物上/中では、微生物の成長はほぼ不可能である。
【0010】
典型的には、糖は、結晶化により固体形態で得られる。水溶液からの個々のHMOの結晶化は、3-フコシルラクトースに関して(WO2014/075680A)、2’-フコシルラクトースに関して(WO2011/150939A)、ジ-フコシルラクトースに関して(WO2016/086947A)、ラクト-N-テトラオースに関して(WO2017/101953A)、ラクト-N-ネオテトラオースに関して(WO2014/094783A)説明されている。HMOの結晶化は、アルコール、主にエタノールもしくはメタノール等の有機溶媒、または氷酢酸等の有機酸の使用を伴う。しかしながら、回収プロセスの最後にHMOを結晶化させるためのアルコール、特にメタノールの使用は、HMOがヒトによる消費に使用される場合には不適切である。さらに、有機溶媒は、購入および廃棄するのに費用を要する。また、有機溶媒は、環境およびそれを取り扱う人員に有害である。したがって、HMOの結晶化は、工業規模でのHMOの生成における欠点であり、特に所望のHMOの回収プロセスの最後には回避されるべきである。
【0011】
したがって、好ましくは少なくとも1種の単糖と組み合わされたHMOの混合物を固体形態で提供する方法が必要とされており、方法は、工業規模生成に適用可能であり、HMOの1種または複数種の精製の最後に、前記HMOの固体調製物を提供するための有機溶媒の使用を伴わない。
【0012】
目的は、構造的に異なるHMOの混合物を含む噴霧乾燥粉末を製造するための方法によって達成された。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0013】
第1の態様において、構造的に異なるHMOの混合物から本質的になる、またはそれを含有する噴霧乾燥粉末が提供される。
第2の態様において、構造的に異なるHMOの混合物から本質的になる、またはそれを含有する噴霧乾燥粉末を製造するための方法が提供される。
【0014】
第3の態様において、栄養組成物を製造するための構造的に異なるHMOの混合物から本質的になる、またはそれを含有する噴霧乾燥粉末の使用が提供される。
第4の態様において、構造的に異なるHMOの混合物から本質的になる、またはそれを含有する噴霧乾燥粉末を含む栄養組成物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】噴霧乾燥3-フコシルラクトースの粉末X線回折の結果を示すグラフである。
【
図2】噴霧乾燥ラクト-N-テトラオースの粉末X線回折の結果を示すグラフである。
【
図3】噴霧乾燥6’-シアリルラクトースの粉末X線回折の結果を示すグラフである。
【
図4】噴霧乾燥3’-シアリルラクトースの粉末X線回折の結果を示すグラフである。
【
図5】2’-フコシルラクトースおよびラクト-N-テトラオースの噴霧乾燥混合物の粉末X線回折の結果を示すグラフである。
【
図6】2’-フコシルラクトース、3-フコシルラクトース、ラクト-N-テトラオース、3’-シアリルラクトース、および6’-シアリルラクトースの噴霧乾燥混合物の粉末X線回折の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
第1の態様によれば、構造的に異なるHMOの混合物から本質的になる、またはそれを含有する噴霧乾燥粉末が提供される。
実施形態において、噴霧乾燥粉末は、構造的に異なるHMOの混合物から本質的になる。
【0017】
「から本質的になる」という用語は、本明細書において使用される場合、前記用語の後に特定された化合物、および任意選択で不可避の副生成物からなる組成物を指す。前記不可避の副生成物は、例えば、HMOの1種または複数種の生成のための微生物発酵中に生成された化合物、およびHMOが回収されるプロセス流に導入されたがそこから除去されていない可能性がある化合物を含む。噴霧乾燥粉末に関する「から本質的になる」という用語は、噴霧乾燥粉末の乾燥物質に関して少なくとも80wt%、少なくとも85wt%、少なくとも90wt%、少なくとも93wt%、少なくとも95wt%、または少なくとも98wt%のHMOを含有する噴霧乾燥粉末を含む。「から本質的になる」という用語は、HMOを含有する噴霧乾燥粉末、プロセス流および溶液に関して同様に使用される。
【0018】
追加および/または代替の実施形態において、構造的に異なるHMOの混合物は、2種、3種、4種、5種、6種、7種または8種以上の構造的に異なるHMOからなる。構造的に異なるHMOは、中性HMOおよびシアリル化HMOを含有する。したがって、HMOの混合物は、少なくとも1種の中性HMOおよび/または少なくとも1種の酸性HMOを含んでもよい。
【0019】
少なくとも1種の中性HMOは、2’-フコシルラクトース(2’-FL)、3-フコシルラクトース(3-FL)、ラクト-N-テトラオース(LNT)、ラクト-N-ネオテトラオース(LNnT)およびラクト-N-フコペンタオースI(LNPFI)からなる群から選択され得る。
【0020】
少なくとも1種の酸性HMOは、シアリル化HMOからなる群から、好ましくは3’-シアリルラクトース(3’-SL)、6’-シアリルラクトース(6’-SL)、シアリルラクト-N-テトラオースa(LST-a)、シアリルラクト-N-テトラオースb(LST-b)、シアリルラクト-N-テトラオースc(LST-c)およびジシアリルラクト-N-テトラオース(DSLNT)からなる群から選択され得る。
【0021】
したがって、構造的に異なるHMOの混合物の構造的に異なるHMOは、2’-FL、3-FL、LNT、LNnT、LNFPI、3’-SL、6’-SL、LST-a、LST-b、LST-cおよびDSLNTからなる群から選択され得る。
【0022】
追加および/または代替の実施形態において、構造的に異なるHMOの混合物は、5種の構造的に異なるHMOを含有する、またはそれらから本質的になる。追加の実施形態において、それらの5種の構造的に異なるHMOは、2’-FL、3-FL、LNT、3’-SLおよび6’-SLである。混合物の例示的組成において、5種の構造的に異なるHMOは、構造的に異なるHMOの混合物中に表2に指定されるような量で存在する。
【0023】
【0024】
追加および/または代替の実施形態において、構造的に異なるHMOの混合物は、7種の構造的に異なるHMOを含有する、またはそれらから本質的になる。追加の実施形態において、それらの7種の構造的に異なるHMOは、2’-FL、3-FL、LNT、LNnT、LNFPI、3’-SLおよび6’-SLである。混合物の例示的組成において、7種の構造的に異なるHMOは、混合物中に表3に指定されるような量で存在する。
【0025】
【0026】
追加および/または代替の実施形態において、噴霧乾燥粉末は、構造的に異なるHMOの混合物および少なくとも1種の単糖を含有する、またはそれらから本質的になる。好ましくは、前記少なくとも1種の単糖は、L-フコースおよびN-アセチルノイラミン酸(NeuAc)からなる群から選択される。追加および/または代替の実施形態において、噴霧乾燥粉末は、単糖であるL-フコースおよびN-アセチルノイラミン酸を含有する。
【0027】
特定の実施形態において、噴霧乾燥粉末は、HMOである2’-FL、3-FL、LNT、LNnT、LNFPI、3’-SLおよび6’-SL、ならびに単糖であるL-フコースおよびN-アセチルノイラミン酸から本質的になる。
【0028】
例示的組成において、7種の構造的に異なるHMOおよび2種の単糖は、表4に指定されるような量で存在する。
【0029】
【0030】
追加および/または代替の実施形態において、噴霧乾燥粉末は、表5に示される組成を含む、またはそれらから本質的になる。
【0031】
【0032】
追加および/または代替の実施形態において、構造的に異なるHMOの混合物および/または噴霧乾燥粉末のHMOの少なくとも1種は、微生物発酵により生成されたものである。具体的実施形態において、構造的に異なるHMOの混合物および/または噴霧乾燥粉末の全てのHMOが、微生物発酵により生成されたものである。
【0033】
噴霧乾燥粉末が少なくとも1種の単糖を含有する追加および/または代替の実施形態において、前記少なくとも1種の単糖は、微生物発酵により生成されたものである。噴霧乾燥粉末がL-フコースおよびN-アセチルノイラミン酸を含有する別の実施形態において、両方の単糖が、微生物発酵により生成されたものである。
【0034】
したがって、特定の実施形態において、噴霧乾燥粉末中に存在する全ての糖類(saccharides)、すなわちHMO、またはHMOおよび単糖が、微生物発酵により生成されたものである。
追加および/または代替の実施形態において、噴霧乾燥粉末中のHMOの少なくとも1種、好ましくは噴霧乾燥粉末中の全てのHMOが、非晶質形態で存在する。噴霧乾燥粉末が単糖であるL-フコースおよび/またはN-アセチルノイラミン酸を含有するそれらの実施形態において、単糖の少なくとも1種、または両方の単糖が、非晶質形態で存在する。
【0035】
追加および/または代替の実施形態において、噴霧乾燥粉末は、少量の水を含有する。「少量の水」という用語は、15wt%以下の水、好ましくは10wt%以下の水、より好ましくは7wt%以下の水、最も好ましくは5wt%以下の水の量を指す。
【0036】
追加および/または代替の実施形態において、噴霧乾燥粉末は、遺伝子操作微生物を含まず、遺伝子操作微生物由来の核酸分子を含まない。
任意選択で少なくとも1種の単糖と組み合わされた構造的に異なるHMOの混合物から本質的になる噴霧乾燥粉末は、前記噴霧乾燥粉末が微生物汚染に対してより脆弱でないという点で、液体組成物より有利である。前記噴霧乾燥粉末はまた、噴霧乾燥粉末がより低い吸湿性を有し、はるかに長く流動性を維持するという点で、フリーズドライまたは凍結乾燥により得られた同じ成分の組成を有する粉末より有利である。
【0037】
第2の態様によれば、構造的に異なるHMOの混合物から本質的になる、またはそれを含む噴霧乾燥粉末を製造するための方法が提供され、構造的に異なるHMOの少なくとも1種、好ましくは構造的に異なるHMOの全てが、微生物発酵により生成されたものである。方法は、
a)発酵ブロスから構造的に異なるHMOの少なくとも1種を回収する工程と;
b)工程a)の少なくとも1種のHMOの水溶液を用意する工程と;
c)工程b)の溶液を噴霧乾燥に供する工程と
を含む。
【0038】
追加および/または代替の実施形態において、発酵ブロスからの少なくとも1種のHMOの精製(ステップa)は、
i)発酵ブロスから微生物細胞を除去して、プロセス流を得る工程;
ii)プロセス流を少なくとも1回の限外濾過に供する工程;
iii)プロセス流をカチオン交換樹脂で少なくとも1回、および/もしくはアニオン交換樹脂で少なくとも1回処理する工程;
iv)プロセス流を少なくとも1回のナノ濾過に供する工程;
v)プロセス流を少なくとも1回の電気透析に供する工程;
vi)プロセス流を活性チャコールで少なくとも1回処理する工程;ならびに/または
vii)プロセス流を少なくとも1回結晶化および/もしくは沈殿工程に供する工程
の1つまたは複数を含む。
【0039】
混合物の少なくとも1種のHMO、または構造的に異なるHMOのいずれか1種は、微生物発酵により生成され得、HMOを合成することができる遺伝子操作微生物が、培養培地(発酵ブロス)中で、および前記遺伝子操作微生物による前記HMOの合成を許容する条件下で培養される。遺伝子操作微生物の細胞により合成されたHMOの精製は、発酵ブロスから微生物細胞を分離して、プロセス流を得る工程を含む。プロセス流は、細胞を本質的に含まず、前記HMOを含有する。この工程は、所望のHMOを精製する方法の第1の工程である。
【0040】
発酵ブロスから微生物細胞を分離するための好適な方法は遠心分離を含み、微生物細胞はペレットとして得られ、発酵ブロスは上清として得られる。追加および/または代替の実施形態において、微生物細胞は、濾過を用いることにより発酵ブロスから分離される。発酵ブロスから細胞を分離するための好適な濾過方法は、精密濾過および限外濾過を含む。
【0041】
そのような精密濾過は、粒子含有流体が特殊な細孔サイズの膜に通されて流体から粒子が分離される、物理的濾過プロセスである。「精密濾過」という用語は、本明細書において使用される場合、発酵ブロスから細胞が分離される物理的濾過プロセスを指す。
【0042】
限外濾過は膜濾過の1種であり、根本的な違いはない。限外濾過では、圧力または濃度勾配等の力が、半透膜を介した分離をもたらす。細胞、懸濁固体および高分子量の溶質は、いわゆる保持物中に保持され、一方水および低分子量溶質、例えば所望のシアリル化オリゴ糖は、膜を通過して透過液(濾液)中に入る。
【0043】
限外濾過膜は、使用される膜の分子量カットオフ(MWCO)により定義される。限外濾過は、クロスフローまたはデッドエンドモードで適用される。
典型的には、微生物細胞は、細胞内でHMOを合成する。HMOの構造に依存して、HMOは、発酵ブロス中に送達されるか、または微生物細胞内に残留する。前者の場合、そのようにして生成されたHMOは、発酵の最後に発酵ブロス中に存在し、発酵ブロスから取り出され得、したがってこれがプロセス流となる。後者の場合、HMOを保有する微生物細胞が発酵ブロスから分離され、溶解されて、HMOを放出する。したがって、細胞溶解物はHMOを含有しており、本明細書で以降に記載されるようにHMOの精製のためのプロセス流となる。
【0044】
方法は、微生物発酵により生成されたHMOの精製に使用されるが、前記方法はまた、in-vitroでの酵素触媒により生成されたHMOを精製するために使用されてもよい。次いで、HMOは、生体触媒反応の最後に反応混合物から精製され得る。前記反応混合物は、プロセス流として精製のプロセスに供される。
【0045】
プロセス流は、所望のHMO、ならびに副生成物および望ましくない不純物、例えば単糖、二糖、望ましくないオリゴ糖副生成物、イオン、アミノ酸、ポリペプチド、タンパク質および/または核酸分子を含有する。
【0046】
追加および/または代替の実施形態において、HMOを精製するための方法は、清澄化プロセス流から正電荷を有する化合物を除去するために、少なくとも1回のカチオン交換処理の工程を含む。
【0047】
プロセス流から正電荷を有する化合物を除去するための好適なカチオン交換樹脂は、H+形態のLewatit(登録商標)S6368A(Lanxess AG、ケルン、DE);Lewatit(登録商標)S2568(H+)(Lanxess AG、ケルン、DE)を含む。
【0048】
追加および/または代替の実施形態において、HMOを精製するための方法は、清澄化プロセス流から望ましくない負電荷を有する化合物を除去するために、アニオン交換処理の工程を含む。
【0049】
好適なアニオン交換樹脂は、Lewatit(登録商標)S2568(Cl-)(Lanxess AG、ケルン、DE)、Lewatit(登録商標)S6368A(Lanxess AG、ケルン、DE)、Lewatit(登録商標)S4268(Lanxess AG、ケルン、DE)、Lewatit(登録商標)S5528(Lanxess AG、ケルン、DE)、Dowex(登録商標)AG1x2(メッシュ200~400)、Dowex(登録商標)1x8(メッシュ100~200)、Purolite(登録商標)Chromalite(登録商標)CGA100x4(Purolite GmbH、ラーティンゲン、DE)、Dow(登録商標)Amberlite(商標)FPA51(Dow Chemicals、MI、USA)を含む。
【0050】
追加および/または代替の実施形態において、HMOを精製するための方法は、より低分子量の不純物を除去し、所望のHMOを濃縮するために、ナノ濾過および/または透析濾過工程を含む。
【0051】
透析濾過は、膜透過性成分を除去(洗浄)するために溶液に新鮮な水を添加することを含む。透析濾過は、1つまたは複数の種が効率的に保持され、他の種は膜透過性である適切な膜を使用することによって、その分子サイズおよび電荷に基づいて成分を分離するために使用され得る。特に、ナノ濾過膜を使用した透析濾過は、小分子および塩等の低分子量化合物の分離に効果的である。ナノ濾過膜は通常、150~1000ダルトンの範囲内の分子量カットオフを有する。ナノ濾過は、酪農業において乳清の濃縮および脱ミネラル化のために広く使用される。
【0052】
ナノ濾過および/または透析濾過のための好適な膜は、Dow(登録商標)Filmtec(商標)NF270-4040、Trisep(登録商標)4040-XN45-TSF(Microdyn-Nadir GmbH、ヴィースバーデン、DE)、GE4040F30およびGH4040F50(GE Water & Process Technologies、ラーティンゲン、DE)を含む。
【0053】
ナノ濾過膜を使用した透析濾過は、オリゴ糖含有溶液の電気透析処理の前に著しい量の夾雑物を除去するための前処理として効率的であることが判明した。HMOの精製中の濃縮および透析濾過のためのナノ濾過膜の使用は、より低いエネルギーおよび処理コスト、ならびに低減された熱曝露に起因するより良好な製品品質をもたらし、メイラード反応およびアルドール反応の低減につながる。
【0054】
追加および/または代替の実施形態において、HMOを精製するための方法は、少なくとも1回の電気透析工程を含む。
電気透析(ED)は、透析および電気分解を組み合わせたものであり、半透膜を通したその選択的エレクトロマイグレーションに基づく溶液中のイオンの分離または濃縮に使用され得る。
【0055】
電気透析の基本原理は、直流発電機に接続された、イオン伝導のために電解質に浸漬された電極の対を備える電解槽からなる。直流発電機の陽極に接続された電極はアノードであり、陰極に接続された電極はカソードである。次いで電解液は電流の流れを担うが、これは、それぞれアノードおよびカソードに向かう陰イオンおよび陽イオンの移動から生じる。電気透析に使用される膜は、本質的に、負電荷基または正電荷基を有する多孔質イオン交換樹脂のシートであり、したがってそれぞれカチオン膜またはアニオン膜と記述される。イオン交換膜は、通常、ジビニルベンゼンと架橋された好適な官能基(例えばカチオン膜の場合スルホン酸基、またはアニオン膜の場合四級アンモニウム基)を保持するポリスチレンで作製される。電解質は、例えば、塩化ナトリウム、酢酸ナトリウム、プロピオン酸ナトリウムまたはスルファミン酸であってもよい。次いで、イオンが枯渇している流れが、イオンが高濃度化されている流れから十分に分離される(2つの溶液はまた、希釈物(イオンが枯渇している)および濃縮物(イオンが高濃度化されている)と呼ばれる)ように、アニオン膜およびカチオン膜が2つの電極ブロック間のフィルタプレスのように平行となる様式で電気透析積層体が組み立てられる。電気透析プロセスの中心は膜積層体であり、これは、2つの電極間に設置されるスペーサーで隔てられたいくつかのアニオン交換膜およびカチオン交換膜からなる。直流電流を印加することにより、アニオンおよびカチオンは、膜を介して電極に移動する。
【0056】
追加および/または代替の実施形態において、HMOを精製するための方法は、疑似床移動(SMB)クロマトグラフィー等の連続クロマトグラフィーの工程をさらに含む。
疑似移動床(SMB)クロマトグラフィーは、石油化学工業および鉱業で始まった。今日では、SMBクロマトグラフィーは、製薬産業によりラセミ混合物から鏡像異性体を単離するために使用されている。大規模SMBクロマトグラフィーは、フルクトース-グルコース溶液からの単糖フルクトースの分離に、およびテンサイまたはサトウキビシロップからの二糖スクロースの分離にすでに使用されている。
【0057】
糖類を分離するために使用されるSMBクロマトグラフィープロセスは、例えば、カルシウム充填架橋ポリスチレン樹脂、重亜硫酸塩形態のアニオン樹脂(Bechthold M.ら、Chemie Ingenieur Technik、2010、82、65~75)、または水素形態のポリスチレンゲル強酸カチオン樹脂(Purolite(登録商標)PCR833H)(Purolite、Bala Cynwyd、USA)を使用する。
【0058】
連続動作モード、移動相のリサイクル、および大型カラムサイズを使用する可能性を考慮して、SMBクロマトグラフィーシステムは、原則的に、数百トンの生産量を達成するように拡張され得る。
【0059】
疑似移動床クロマトグラフィーのプロセス工程は、このプロセス工程により所望のオリゴ糖に構造的に密接に関連したオリゴ糖のさらなる除去が可能になるという点で有利である。
【0060】
追加および/または代替の実施形態において、少なくとも1種のHMOを精製するための方法は、プロセス流から着色剤等の汚染物質を除去するために、プロセス流の活性チャコールでの処理を含む。
【0061】
追加および/または代替の実施形態において、少なくとも1種のHMOを精製するための方法は、プロセス流からのHMOの結晶化または沈殿の少なくとも1つの工程を含む。プロセス流からの少なくとも1種のHMOの結晶化または沈殿は、少なくとも1種のHMOを含有するプロセス流に、水と混和性の好適な量の有機溶媒を添加することにより行うことができる。有機溶媒は、C1-~C6-アルコールおよびC1-~C4-カルボン酸からなる群から選択され得る。少なくとも1種のHMOの結晶化または沈殿の工程は、残留量の有機溶媒またはカルボン酸が後続のプロセス工程により除去され得るように、回収工程の最後には行われない。
【0062】
追加および/または代替の実施形態において、少なくとも1種のHMOを精製するための方法は、好ましくは3kDaフィルタまたは6kDaフィルタを通したプロセス流の濾過による、無菌濾過および/またはエンドトキシン除去の工程を含む。
【0063】
追加および/または代替の実施形態において、少なくとも1種のHMOを精製するための方法は、プロセス流中の少なくとも1種のHMOの濃度を増加させる工程を含む。プロセス流中の少なくとも1種のHMOの濃度は、プロセス流を真空蒸発、逆浸透またはナノ濾過(例えば20Å以下のサイズ排除限界を有するナノ濾過膜によるナノ濾過)に供することにより増加され得る。代替として、結晶化または沈殿したHMOを水に溶解し、少なくとも1種のHMOの水溶液を得るが、水溶液は、所望の濃度の前記少なくとも1種のHMOを有する。
【0064】
追加および/または代替の実施形態において、得られるプロセス流は、20g/l以上、25g/l以上、30g/l以上、40g/l以上、60g/l以上、100g/l以上、200g/l以上、またはさらに300g/l以上の濃度の少なくとも1種のHMOを含有する水溶液である。
【0065】
追加および/または代替の実施形態において、水溶液は、溶液中の乾燥物質/溶質の重量に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも93%、少なくとも95%、または少なくとも98%の純度の少なくとも1種のHMOを含有する。
【0066】
「純度」という用語は、本明細書において使用される場合、化学的純度、すなわち物質が異物で希釈されていない、または異物と混合されていない程度を指す。したがって、化学的純度は、少なくとも1種のHMOと副生成物/不純物との間の関係の指標である。化学的純度は、パーセンテージ(%)として表現され、以下の式を用いて計算される。
【0067】
【0068】
調製物中のHMOの純度は、当業者に知られている任意の好適な方法によって、例えば、HPLCを使用し、同じクロマトグラムにおけるHMOおよびそのHMO以外の全ての化合物を表すピーク下面積の合計に対する、そのHMOの量を表すピーク下面積の比を計算することによって決定され得る。
【0069】
少なくとも1種のHMOを含有する水溶液は、適切な条件下で保存されてもよく、例えば、前記水溶液は凍結されてもよい。
少なくとも1種のHMOを精製するための方法は、コスト効率的であり、拡張が容易であり、数トン規模の製造方法の基礎として好適である。
【0070】
少なくとも1種のHMOを精製するための方法はまた、水溶液が遺伝子操作微生物、および遺伝子操作微生物由来の核酸分子を含まないという点で有利である。さらに、水溶液は、タンパク質を含まない。タンパク質を完全に除去すると、潜在的消費者にアレルギーをもたらすリスクが排除される。
【0071】
噴霧乾燥粉末を製造するための方法は、少なくとも1種のHMOまたは構造的に異なるHMOの混合物、および任意選択で少なくとも1種の単糖を含有する水溶液を用意する工程を含む。
【0072】
追加および/または代替の実施形態において、少なくとも1種のHMOは、2’-FL、3-FL、LNT、LNnT、LNFPI、3’-SL、6’-SL、LST-a、LST-b、LST-cおよびDSLNTからなる群から選択される。
【0073】
追加および/または代替の実施形態において、構造的に異なるHMOの混合物は、5種の構造的に異なるHMO、好ましくは2’-FL、3-FL、LNT、3’-SLおよび6’-SLからなる。別の実施形態において、構造的に異なるHMOの混合物は、7種の構造的に異なるHMO、好ましくは2’-FL、3-FL、LNT、LNnT、LNFPI、3’-SLおよび6’-SLからなる。
【0074】
追加および/または代替の実施形態において、水溶液は、好ましくはL-フコースおよびN-アセチルノイラミン酸からなる群から選択される少なくとも1種の単糖をさらに含有する。別の実施形態において、水溶液は、L-フコースおよびN-アセチルノイラミン酸をさらに含有する。
【0075】
追加および/または代替の実施形態において、水溶液は、少なくとも1種のHMOもしくはHMOの混合物、および/または少なくとも1種の単糖を、合計糖類量として少なくとも20%(w/v)、30%(w/v)、35%(w/v)、および最大45%(w/v)、50%(w/v)、60%(w/v)の量で含有する。
【0076】
追加および/または代替の実施形態において、水溶液は、溶液中の乾燥物質/溶質の重量に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも93%、少なくとも95%、または少なくとも98%の純度の少なくとも1種のHMOまたはHMOの混合物を含有する。
【0077】
追加および/または代替の実施形態において、水溶液は、遺伝子操作微生物、遺伝子操作微生物由来の核酸分子、およびタンパク質を含まない。
噴霧乾燥粉末を製造するための方法において、少なくとも1種のHMOまたは構造的に異なるHMOの混合物を含有する水溶液は、噴霧乾燥に供される。
【0078】
噴霧乾燥は、乾燥粉末を得るための方法であり、目的の物質を含む溶液は、まず液滴として噴霧され、これが高温空気により急速に乾燥される。噴霧乾燥は非常に速く、乾燥させる物質の高温への曝露は極めて短期間である。
【0079】
追加および/または代替の実施形態において、少なくとも1種のHMOまたは構造的に異なるHMOの混合物を含有する水溶液は、少なくとも110℃、好ましくは少なくとも120℃、より好ましくは少なくとも125℃、および150℃未満、好ましくは140℃未満、より好ましくは135℃未満のノズル温度で噴霧乾燥される。
【0080】
追加および/または代替の実施形態において、少なくとも1種のHMOまたは構造的に異なるHMOの混合物を含有する水溶液は、少なくとも60℃、好ましくは少なくとも65℃、および80℃未満、好ましくは70℃未満の出口温度で噴霧乾燥される。特に好ましい実施形態において、HMO含有水溶液は、約68℃~約70℃のノズル温度で噴霧乾燥される。
【0081】
任意選択で少なくとも1種の単糖と組み合わされた構造的に異なるHMOのそれぞれの種は、個々に精製および噴霧乾燥されてもよいこと、また得られた噴霧乾燥粉末は任意の所望の比率で混合されてもよいことが理解される。代替の実施形態において、水溶液は、全ての構造的に異なるHMOを含み、構造的に異なるHMOの混合物を所望の比率で含有する得られる水溶液は、噴霧乾燥に供される。
【0082】
追加および/または代替の実施形態において、少なくとも1種のHMOまたは実質的に異なるHMOの混合物を含有する水溶液は、少なくとも1種の単糖、例えばL-フコースおよび/またはN-アセチルノイラミン酸等をさらに含有する。少なくとも1種のHMOまたは構造的に異なるHMOの混合物、および少なくとも1種の単糖を含有する水溶液は、次いで噴霧乾燥に供され、少なくとも1種のHMOおよび少なくとも1種の単糖、または構造的に異なるHMOの混合物および少なくとも1種の単糖から本質的になる噴霧乾燥粉末が得られる。
【0083】
得られた噴霧乾燥粉末中の糖類(HMOおよび単糖)の比率は、水溶液中のこれらの糖類の比率に対応する。
後者の手順は、個々に噴霧乾燥され得ない単糖が、1種または複数種のHMOの存在下で噴霧乾燥可能となる点で有利である。
【0084】
少なくとも1種のHMOまたは構造的に異なるHMOの混合物を含有する水溶液の噴霧乾燥は、低吸湿性の粉末を提供し、HMOは非晶質形態で存在し、粒子サイズは均一である。少なくとも1種のHMOまたは構造的に異なるHMOの混合物から本質的になる噴霧乾燥粉末は、フリーズドライにより得られた同一組成の粉末より吸湿性が低い。したがって、本明細書に記載の噴霧乾燥粉末は、そのさらなる使用および加工に関して有利である。
【0085】
第3の態様によれば、栄養組成物を製造するための、構造的に異なるHMOの混合物、ならびに少なくとも1種の単糖、好ましくはL-フコースおよび/もしくはN-アセチルノイラミン酸から本質的になる、または構造的に異なるHMOの混合物、ならびに少なくとも1種の単糖、好ましくはL-フコースおよび/もしくはN-アセチルノイラミン酸を含有する噴霧乾燥粉末の使用が提供される。構造的に異なるHMOの混合物、ならびに任意選択で好ましくはL-フコースおよびN-アセチルノイラミン酸からなる群から選択される少なくとも1種の単糖から本質的になる噴霧乾燥粉末は、ヒトによる消費に好適であり、したがって、医薬製剤、乳児用フォーミュラ、乳飲料または健康補助食品等のヒトによる消費用の調製物中に含めることができる。
【0086】
第4の態様によれば、第1の態様に記載の、および/または第2の態様に従って製造された噴霧乾燥粉末を含有する栄養組成物が提供される。
追加および/または代替の実施形態において、栄養組成物は、Neu5Ac、2’-FL、3-FL、LNT、LNnT、LNFPI、3’-SL、6’-SLおよびL-フコースから本質的になる混合物を含む。好ましい量の上記化合物のそれぞれを含む組成物を、表6に示す。
【0087】
表6の2列目による組成は、
【0088】
【0089】
直接消費のための最終的乳児用フォーミュラが、表6の3列目に指定された濃度の混合物の化合物を含有し得るように、乳児用フォーミュラを補足するのに特に有利である。
追加および/または代替の実施形態において、栄養組成物は、1つまたは複数の追加の成分を含有する。前記1つまたは複数の追加の成分は、油、脂肪および脂肪酸(例えばオリーブ油、ヒマワリ油、ココナッツ油、ナッツ油、菜種油、パーム油、アマニ油、魚油、リノレン酸、大豆油等)、炭水化物(例えばグルコース、フルクトース、ラクトース、マルトデキストリン、デンプン、スクロース、イノシトール等)、タンパク質(無脂肪乳、乳清、カゼイン(任意の乳畜由来)、または大豆からのもの)、ビタミン(A、B1、B2、B5、B6、B12、C、D、E、K、ビオチン、葉酸、ナイアシン、コリン)、ミネラルおよび微量元素(ナトリウム、カリウム、塩化物、カルシウム、リン、マグネシウム、鉄、亜鉛、マンガン、フッ化物、セレン、ヨウ素、銅)からなる群から選択される。
【0090】
好ましい実施形態において、少なくとも1種のヒトミルクオリゴ糖またはヒトミルクオリゴ糖の混合物または少なくとも1種のヒトミルクオリゴ糖と少なくとも1種の単糖との混合物または構造的に異なるヒトミルクオリゴ糖と他の繊維との混合物を含有する/それらから本質的になる噴霧乾燥粉末を含有する栄養組成物は、規則(EU)2016/127および/または連邦規制基準(USA) Title 21 107.100(栄養物仕様)に記載の組成要件に適合する乳児用フォーミュラである。乳児用フォーミュラの代表的組成を、表7および8に示す。
【0091】
【0092】
【0093】
【0094】
追加および/または代替の実施形態において、栄養組成物はまた、微生物、好ましくはプロバイオティクス微生物を含む。乳児用食品用途では、好ましい微生物は、健康なヒトの微生物叢から得られる、またはそれに見出すことができる。好ましくは、これらに限定されないが、微生物は、ビフィドバクテリウム属、ラクトバチルス属、エンテロコッカス属、ストレプトコッカス属、スタフィロコッカス属、ペプトストレプトコッカス属、ロイコノストック属、クロストリジウム属、ユーバクテリウム属、ベイロネラ属、フソバクテリウム属、バクテロイデス属、プレボテラ属、エシェリキア属、プロピオニバクテリウム属およびサッカロミセス属から選択される。追加および/または代替の実施形態において、微生物は、ビフィドバクテリウム・アドレッセンティス、B.アニマリス、B.ビフィダム、B.ブレーベ、B.インファンティス、B.ラクティス、B.ロンガム;エンテロコッカス・フェシウム;大腸菌;クリベロマイセス・マルキシアヌス;ラクトバチルス・アシドフィルス、L.ブルガリカス、L.カゼイ、L.クリスパタス、L.ファーメンタム、L.ガセリ、L.ヘルヴェティクス、L.ジョンソニイ、L.パラカゼイ、L.プランタラム、L.ロイテリ、L.ラムノサス、L.サリバリウス、L.サケイ;ラクトコッカス・ラクティス(亜種であるラクティス、クレモリスおよびジアセチラクティスを含むがこれらに限定されない);ロイコノストック・メセンテロイデス(亜種であるメセンテロイデスを含むがこれに限定されない);ペディオコッカス・アシディラクティシ、P.ペントサス;プロピオニバクテリウム・アシディプロピオニシ、P.フロイデンライヒssp.シェルマニー;スタフィロコッカス・カルノーサス;ならびにストレプトコッカス・サーモフィルスからなる群から選択される。
【0095】
生体の組合せに加えて、栄養組成物はまた、死細胞培養物を含んでもよい。プロバイオティクスの分野において、死滅細胞培養物が使用される場合がある(例えば間欠滅菌された(tyndalized)細菌)。これらの死滅培養物は、タンパク質、ペプチド、オリゴ糖、細胞外壁断片および天然生成物を提供し、免疫系の短期刺激をもたらし得る。
【0096】
特にHMOの存在下で栄養組成物中にプロバイオティクス微生物を含めることは、健康な腸内微生物叢の確立も促進するという点で特に有利である。
追加および/または代替の実施形態において、栄養組成物はまた、ガラクト-オリゴ糖(GOS)、フラクトオリゴ糖(FOS)、イヌリンまたはそれらの組合せ等のプレバイオティクスを含む。
【0097】
栄養組成物は、液体形態で、または、これらに限定されないが、粉末、顆粒、フレークおよびペレットを含む固体形態で存在してもよい。
追加の実施形態において、栄養組成物は、医薬製剤、乳児用フォーミュラおよび健康補助食品からなる群から選択される。
【0098】
本発明の態様には、以下も含まれる。
態様1
構造的に異なるヒトミルクオリゴ糖の混合物を含有する噴霧乾燥粉末。
態様2
前記混合物の構造的に異なるHMOが、2’-FL、3-FL、LNT、LNnT、LNFPI、3’-SL、6’-SL、LST-a、LST-b、LST-cおよびDSLNTからなる群から選択される、態様1に記載の噴霧乾燥粉末。
態様3
前記噴霧乾燥粉末が、少なくとも1種の単糖をさらに含有し、前記少なくとも1種の単糖は、好ましくはL-フコースおよびN-アセチルノイラミン酸からなる群から選択される、態様1または2に記載の噴霧乾燥粉末。
態様4
少なくとも80wt%、少なくとも85wt%、少なくとも90wt%、少なくとも93wt%、少なくとも95wt%、または少なくとも98wt%のヒトミルクオリゴ糖を含有する、態様1から3のいずれかに記載の噴霧乾燥粉末。
態様5
前記混合物の少なくとも1種のHMO、好ましくは前記混合物の全てのHMO、任意選択で少なくとも1種の単糖が、非晶質形態で存在する、態様1から4のいずれかに記載の噴霧乾燥粉末。
態様6
少なくとも1種の単糖、好ましくは全ての単糖が、非晶質形態で存在する、態様3から5のいずれかに記載の噴霧乾燥粉末。
態様7
15wt%以下の水、好ましくは10wt%以下の水、より好ましくは7wt%以下の水、最も好ましくは5wt%以下の水を含む、態様1から6のいずれかに記載の噴霧乾燥粉末。
態様8
態様1から7のいずれかに記載の噴霧乾燥粉末を製造するための方法であって、
a)発酵ブロスから構造的に異なるHMOの少なくとも1種を精製する工程と;
b)工程a)の少なくとも1種のHMOを含有する水溶液を用意する工程と;
c)工程b)の溶液を噴霧乾燥に供する工程と
を含む方法。
態様9
工程b)の水溶液が、少なくとも5種、好ましくは7種の構造的に異なるHMOを含有し、前記構造的に異なるHMOは、好ましくは2’-FL、3-FL、LNT、LNnT、LNFPI、3’-SL、6’-SL、LST-a、LST-b、LST-cおよびDSLNTからなる群から選択される、態様8に記載の方法。
態様10
工程b)の水溶液が、少なくとも1種の単糖をさらに含有し、前記少なくとも1種の単糖は、好ましくはL-フコースおよびN-アセチルノイラミン酸からなる群から選択される、態様8または9に記載の方法。
態様11
発酵ブロスから少なくとも1種のHMOおよび/または少なくとも1種の単糖を精製する工程(工程a))が、
i)発酵ブロスから微生物細胞を除去して、プロセス流を得る工程;
ii)プロセス流を少なくとも1回の限外濾過に供する工程;
iii)プロセス流をカチオン交換樹脂で少なくとも1回、および/もしくはアニオン交換樹脂で少なくとも1回処理する工程;
iv)プロセス流を少なくとも1回のナノ濾過および/もしくは透析濾過に供する工程;
v)プロセス流を少なくとも1回の電気透析に供する工程;
vi)プロセス流を活性チャコールで少なくとも1回処理する工程;ならびに/または
vii)プロセス流を少なくとも1回結晶化および/もしくは沈殿工程に供する工程
の1つまたは複数を含む、態様8から10のいずれかに記載の方法。
態様12
前記水溶液が、少なくとも1種のHMO、構造的に異なるHMOの混合物、および/または少なくとも1種の単糖を、合計糖類量として少なくとも20%(w/v)、30%(w/v)、35%(w/v)、および最大45%(w/v)、50%(w/v)、60%(w/v)の量で含有する、態様8から11のいずれかに記載の方法。
態様13
少なくとも1種のHMO、および任意選択で少なくとも1種の単糖を含有する水溶液が、少なくとも110℃、好ましくは少なくとも120℃、より好ましくは少なくとも125℃、および150℃未満、好ましくは140℃未満、より好ましくは135℃未満のノズル温度で噴霧乾燥される、態様8から12のいずれかに記載の方法。
態様14
少なくとも1種のHMO、および任意選択で少なくとも1種の単糖を含有する水溶液が、少なくとも60℃、好ましくは少なくとも65℃、および80℃未満、好ましくは70℃未満の出口温度で噴霧乾燥される、態様8から13のいずれかに記載の方法。
態様15
栄養組成物、好ましくは乳児用フォーミュラを製造するための、態様1から7のいずれかに記載の噴霧乾燥粉末の使用。
態様16
態様1から7のいずれかに記載の噴霧乾燥粉末を含有する栄養組成物。
態様17
少なくとも1種のプロバイオティクス微生物をさらに含有する、態様16に記載の栄養組成物。
特定の実施形態に関して、および図面を参照しながら本発明を説明するが、本発明はそれに限定されず、特許請求の範囲によってのみ限定される。さらに、明細書および特許請求の範囲における第1、第2等の用語は、類似の要素間を区別するために使用され、必ずしも、時間的、空間的、ランク付けまたは任意の他の様式での順序を説明するものではない。そのように使用される用語は、適切な状況下で互換的であること、および本明細書に記載の本発明の実施形態は、本明細書に記載または例示されるもの以外の順序で機能し得ることを理解されたい。
【0099】
「含む」という用語は、特許請求の範囲において使用される場合、その後に列挙される手段に制限されるものとして解釈されるべきではなく、他の要素または工程を除外しないことに留意されたい。したがってこれは、参照されるような述べられた特徴、整数、工程または構成要素の存在を指定するものであるが、1つまたは複数の他の特徴、整数、工程もしくは構成要素、またはそれらの群の存在または追加を除外しないものとして解釈されるべきである。したがって、「手段AおよびBを含むデバイス」という表現の範囲は、構成要素AおよびBのみからなるデバイスに限定されるべきではない。これは、本発明に関して、デバイスの唯一の関連する構成要素がAおよびBであることを意味する。
【0100】
本明細書全体にわたる「一実施形態」または「実施形態」という言及は、実施形態に関連して説明される特定の特徴、構造または特性が、本発明の少なくとも1つの実施形態に含まれることを意味する。したがって、本明細書全体の様々な箇所での「一実施形態において」または「実施形態において」という語句の出現は、必ずしも常に同じ実施形態を指すわけではない。さらに、本開示から当業者に明らかであるように、特定の特徴、構造または特性は、1つ以上の実施形態において任意の好適な様式で組み合わされてもよい。
【0101】
同様に、本発明の代表的な実施形態の説明において、本発明の様々な特徴が、単一の実施形態、図、またはその説明において、開示の簡素化、および様々な本発明の態様の1つまたは複数の理解の容易化のために、一緒にまとめられる場合があることを理解されたい。この開示の方法は、請求される発明が各請求項において明示的に列挙されるものより多くの特徴を必要とすることの意図を反映するものとして解釈されるべきではない。むしろ、以下の特許請求の範囲が反映するように、本発明の態様は、任意の上記の開示された実施形態の全ての特徴より少ない特徴を必要とし得る。したがって、詳細な説明に続く特許請求の範囲はこの詳細な説明に明示的に組み込まれ、各請求項は、本発明の別個の実施形態として独立している。
【0102】
さらに、本明細書に記載のいくつかの実施形態は、他の実施形態に含まれるいくつかの特徴を含み、他の特徴は含まないが、異なる実施形態の特徴の組合せは、本発明の範囲内であることを意図し、当業者に理解されるように、異なる実施形態を形成する。例えば、以下の特許請求の範囲において、請求される実施形態のいずれも、任意の組合せとして使用され得る。
【0103】
さらに、実施形態のいくつかは、本明細書において、コンピュータシステムのプロセッサによって、または機能を実行する他の手段によって実装され得る方法または方法の要素の組合せとして説明される。したがって、そのような方法または方法の要素を実行するために必要な命令を有するプロセッサは、方法または方法の要素を実行するための手段を形成する。さらに、装置実施形態の本明細書に記載の要素は、本発明を実行するための要素によって行われる機能を実行するための手段の例である。
【0104】
本明細書に記載の説明および図面において、数多くの具体的な詳細が記載される。しかしながら、本発明の実施形態は、これらの具体的な詳細なしで実践されてもよい。他の場合において、周知の方法、構造および技術は、説明および図面の理解を容易にするために詳細には示されていない。
【0105】
ここで、本発明のいくつかの実施形態の詳細な説明により本発明を説明する。本発明の精神または技術的利点から逸脱せずに、本発明の他の実施形態が当業者の知識に従って構成され得るが、本発明は添付の特許請求の範囲の用語によってのみ制限されることは明白である。
【実施例】
【0106】
実施例1
発酵ブロスからの2’-フコシルラクトースの精製
欧州特許出願第16196486.1号に記載のように、遺伝子修飾大腸菌株を使用した発酵による2’-フコシルラクトースの生成を行った。WO2015/106943A1に記載のように、濾過、イオン交換クロマトグラフィー、ナノ濾過、透析濾過または電気透析、およびチャコールでの処理によって2’-フコシルラクトースを発酵ブロスから精製した。得られた2’-フコシルラクトース含有溶液を噴霧乾燥に供すると、安定な固体生成物が得られた。
【0107】
実施例2
発酵ブロスからの3-フコシルラクトースの精製
欧州特許出願第16196486.1号に記載のように、遺伝子修飾大腸菌株を使用した発酵により3-フコシルラクトースを生成した。
【0108】
限外濾過(0.05μmカットオフ)(CUT membrane technology、エルクラート、ドイツ)に続いて150kDaのMWCOを有するクロスフローフィルタ(Microdyn-Nadir、ヴィースバーデン、ドイツ)で濾過することにより、培養培地から細胞を分離した。約30g/Lの3-フコシルラクトースを含有する無細胞発酵培地を、H+形態の強カチオン性イオン交換体(Lewatit S2568(Lanxess、ケルン、ドイツ))に通過させ、正電荷を有する夾雑物を除去した。その後、水酸化ナトリウムを使用して溶液をpH7.0に設定し、塩化物形態のアニオン性イオン交換体(Lewatit S6368A、Lanxess)に適用した。イオン交換体は共に、200Lの体積で使用した。第2の濾過(150kDa;Microdyn-Nadir、ヴィースバーデン、ドイツ)の後、粒子を含まない溶液を、Filmtech NF270膜(Dow、ミッドランド、USA)を使用したナノ濾過により5倍、および真空蒸発により2.5倍濃縮した。約15mScm-1の導電率を有する濃縮溶液を濾過し(10kDa;Microdyn-Nadir、ヴィースバーデン、ドイツ)、活性炭チャコール(CAS:7440-44-0、Carl Roth、カールスルーエ、ドイツ)で浄化し、電気透析により脱イオン化した。そのために、以下の膜を含むPC-Cell E200膜積層体を有するPC-Cell BED 1-3電気透析装置(PC-Cell、ホイスヴァイラー、ドイツ)を使用した:カチオン交換膜CEM:PC SKおよびアニオン膜AEM:PCAcid60。0.25Mのスルファミン酸をプロセスの電解質として使用した。メイラード反応により生じた褐色変色、および発酵プロセス由来のアルドール生成物を低減するために、Na+およびCl-形態の上述と同じイオン交換材料を使用して、ただし50Lの体積で2回目のイオン交換クロマトグラフィーを行った。蒸発により糖溶液を濃縮した後、前述のPC-Cell BED 1-3を使用した電気透析により導電率は再び4mScm-1から0.4mScm-1以下に低減した。さらなる脱色のために、溶液を活性チャコール(CAS:7440-44-0、Carl Roth、カールスルーエ、ドイツ)と混合し、濾過によりほぼ無色の溶液を得た。
【0109】
実施例3
発酵ブロスからのラクト-N-テトラオースの精製
ラクト-N-テトラオースのin vivo合成に必須であるゲノムに組み込まれた遺伝子、すなわちN-アセチルグルコサミングリコシルトランスフェラーゼ(髄膜炎菌MC58からのlgtA)、β-1,3-ガラクトシルトランスフェラーゼ(サルモネラ菌Salmonella enterica亜種サラメ血清型GreensideからのwbdO)、大腸菌K12からのlacY、共に大腸菌K12からのUDP-グルコース-4-エピメラーゼgalEおよびUTP-グルコース-1-ホスフェートウリジルトランスフェラーゼgalUを有する遺伝子修飾大腸菌BL21(DE3)ΔlacZ株を使用して、ラクト-N-テトラオースの発酵生成を行った。ラクト-N-テトラオースの発酵生成のために、7gl-1のNH4H2PO4、7gl-1のK2HPO4、2gl-1のKOH、0.3gl-1のクエン酸、5g/l-1のNH4Cl、0.1mMのCaCl2、8mMのMgSO4、微量元素(0.101gl-1のニトリロ三酢酸、pH6.5、0.056gl-1のクエン酸第二鉄アンモニウム、0.01gl-1のMnCl2×4H2O、0.002gl-1のCoCl2×6H2O、0.001gl-1のCuCl2×2H2O、0.002gl-1のホウ酸、0.009gl-1のZnSO4×7H2O、0.001gl-1のNa2MoO4×2H2O、0.002gl-1のNa2SeO3、0.002gl-1のNiSO4×6H2O)および炭素源として2%グルコースを含む規定無機塩培地中で、株を増殖させた。必要に応じて消泡剤(Struktol J673、Schill+Seilacher)を添加した。25%アンモニア溶液を使用してpHを制御した。216gl-1のラクトース原液から15mMの最終濃度までラクトースを段階的に添加し、培養培地中のラクトース濃度を発酵プロセスの間一定に保持した。副生成物としてのプロセス中の残留ラクトースおよびラクト-N-トリオースIIの蓄積は、発酵槽に添加された第2の大腸菌株により加水分解された。この株は、機能性ベータ-ラクタマーゼ、ベータ-N-アセチルヘキソサミニダーゼ(ビフィドバクテリウム・ビフィダムJCM1254からのbbhI)、および単糖の分解のための機能性gal-オペロンを発現した(EP2845905A)。
【0110】
細胞を発酵ブロスから分離し、ラクト-N-テトラオース含有流体を、実施例2に記載の手順に従って、質量収支により決定される75~80%の純度まで精製した。
非効率的な酵素分解および代謝により生じる汚染炭水化物副生成物を、WO2015/049331に従い、疑似移動床(SMB)クロマトグラフィーを使用したクロマトグラフィーにより除去した。あるいは、イソプロパノールを用いた結晶化によりラクト-N-テトラオースを精製した。結晶化のために、ラクト-N-テトラオース含有溶液を蒸発により20%の濃度まで濃縮し、噴霧乾燥した。NUBILOSA LTC-GMP噴霧乾燥機(NUBILOSA、コンスタンツ、ドイツ)を使用して、溶液を窒素流下で130℃の入口温度の噴霧乾燥機ノズルに通過させながら、生成物流を67℃~68℃の出口温度を維持するように制御した。
【0111】
固体材料を、イソプロパノールおよび水の混合物(3:1(vol/vol))に、12Lのイソプロパノール/水中に1kgの粉末の比率で添加した。懸濁液を激しく撹拌し、次いで不溶性ラクト-N-テトラオースを濾過し、40℃で乾燥させた。73~89%の純度の材料で開始して、結晶化ラクト-N-テトラオースは、約95%まで、85%の回収率で精製された。糖を水中に25%の濃度まで溶解し、6kDaフィルタ(Pall Microza限外濾過モジュールSIP-2013、Pall Corporation、ドライアイヒ、ドイツ)および0.2μm無菌フィルタに順次通した。上述の条件下で無菌材料を噴霧乾燥することにより、固体材料が得られた。
【0112】
実施例4
発酵ブロスからの3’-および6’-シアリルラクトースの精製
3’-および6’-シアリルラクトースの生成のために、組換え大腸菌BL21(DE3)ΔlacZ株を使用した。株は、共通の遺伝子修飾を有していた:大腸菌からのグルコサミン-6-ホスフェートシンターゼGlmS、シネコシスティスsp.からのN-アセチルグルコサミン2-エピメラーゼSlr1975、サッカロミセス・セレビシエからのグルコサミン6-ホスフェートN-アセチルトランスフェラーゼGna1、大腸菌からのホスホエノールピルベートシンターゼPpsA、共にカンピロバクター・ジェジュニからのN-アセチルノイラミネートシンターゼNeuBおよびCMP-シアル酸シンテターゼNeuAの染色体構成的発現。さらに、大腸菌からのラクトースパーミアーゼLacY、大腸菌WからのcscB(スクロースパーミアーゼ)、cscK(フルクトキナーゼ)、cscA(スクロースヒドロラーゼ)、およびcscR(転写制御因子)をコードする遺伝子、ならびに大腸菌K12からの遺伝子galE(UDP-グルコース-4-エピメラーゼ)、galT(ガラクトース-1-ホスフェートウリジリルトランスフェラーゼ)、galK(ガラクトキナーゼ)、およびgalM(ガラクトース-1-エピメラーゼ)からなる機能性gal-オペロンを、BL21株のゲノム内に組み込み、構成的に発現させた。
【0113】
3’-シアリルラクトースを合成する株は、ビブリオsp.JT-FAJ-16からの3’-シアリルトランスフェラーゼ遺伝子を保有し、一方6’-シアリルラクトース生成株は、フォトバクテリウム・レイオグナチJT-SHIZ-119からのアルファ-2,6-シアリルトランスフェラーゼplsT6を含む。
【0114】
7gl-1のNH4H2PO4、7gl-1のK2HPO4、2gl-1のKOH、0.3gl-1のクエン酸、5gl-1のNH4Cl、1mll-1の消泡剤(Struktol J673、Schill+Seilacher)、0.1mMのCaCl2、8mMのMgSO4、微量元素および炭素源としての2%スクロースを含む規定無機塩培地中で、シアリルラクトース生成株を増殖させた。供給回分段階で供給されるスクロース供給物(500gl-1)に、8mMのMgSO4、0.1mMのCaCl2、微量元素、および5gl-1のNH4Clを補足した。
【0115】
微量元素は、0.101gl-1のニトリロ三酢酸、pH6.5、0.056gl-1のクエン酸第二鉄アンモニウム、0.01gl-1のMnCl2×4H2O、0.002gl-1のCoCl2×6H2O、0.001gl-1のCuCl2×2H2O、0.002gl-1のホウ酸、0.009gl-1のZnSO4×7H2O、0.001gl-1のNa2MoO4×2H2O、0.002gl-1のNa2SeO3、0.002gl-1のNiSO4×6H2Oからなっていた。
【0116】
シアリルラクトース形成のために、216gl-1のラクトース供給物を使用した。アンモニア溶液(25%v/v)を使用することによりpHを制御した。供給回分発酵は、一定の通気および撹拌下で30℃で行った。発酵の最後に残留ラクトースを除去するために、β-ガラクトシダーゼを発酵槽に添加した。得られた単糖を、生成株により代謝させた。
【0117】
次いで、細胞を含まない液体をイオン交換クロマトグラフィーにより脱イオン化した。まず、H+形態の200Lの体積の強カチオン交換体(Lewatit(登録商標)S2568(Lanxess、ケルン、ドイツ))でカチオン性夾雑物を除去した。NaOHを使用して、得られた溶液のpHを7.0に設定した。第2の工程において、塩化物形態の強アニオン交換体Lewatit(登録商標)S6368S(Lanxess、ケルン、ドイツ)を使用して、アニオン性イオンおよび望ましくない着色剤を溶液から除去した。イオン交換体は、200Lの床容積を有していた。クロスフローフィルタ(150kDaカットオフ)(Microdyn-Nadir、ヴィースバーデン、ドイツ)での第2の濾過工程を使用して、溶液の酸性化に由来する沈殿物を除去した。糖の濃縮のために、Dow FILMTECH NF270-4040(Inaqua、メンヒェングラートバッハ、ドイツ)で、または代替としてTrisep 4040-XN45-TSF Membrane(0.5kDaカットオフ)(Microdyn-Nadir、ヴィースバーデン、ドイツ)で溶液をナノ濾過した。後者を使用して、発酵プロセスに由来し、シアリルラクトース溶液を汚染する単糖N-アセチルグルコサミンを生成物から分離した。次いで、濃縮シアリルラクトース溶液を活性チャコール(CAS:7440-44-0、Carl Roth、カールスルーエ、ドイツ)で処理して、メイラード反応生成物およびアルドール反応生成物等の着色剤を除去した。シアル酸およびN-アセチルグルコサミン等の発酵プロセスに由来する副生成物からシアリルラクトースを分離するために、1kDaカットオフ膜GE4040F30(GE water & process technologies、ラーティンゲン、ドイツ)により溶液を濾過し、0.6~0.8mScm-1の導電率まで透析濾過した。希釈溶液をロータリーエバポレーターで約300gL-1の濃度まで濃縮した。最後のクロマトグラフィー分離において、他の汚染糖、例えばジ-シアリルラクトースを除去した。そのために、濃縮溶液をアセテート形態の弱アニオンイオン交換樹脂(Amberlite FPA51、Dow Chemical、ミシガン、USA)に適用した。シアリルラクトースが樹脂に結合するのは稀であり、ジ-シアリルラクトースが吸着される。したがって、シアリルラクトースは10mMの酢酸アンモニウムで溶出され、ジ-シアリルラクトースは1Mの酢酸アンモニウムで溶出される。酢酸アンモニウムの除去のために、シアリルラクトースを10倍過剰のエタノールで沈殿させた。固体分画を濾過し、乾燥させた。
【0118】
20%のシアリルラクトース溶液を6kDaフィルタ(Pall Microza限外濾過モジュールSIP-2013、Pall Corporation、ドライアイヒ、ドイツ)および0.2μm無菌フィルタに順次通すことにより、生成物を最終処理した。
【0119】
Buchi噴霧乾燥機(Buchi Mini Spray Dryer B-290)(Buchi、エッセン、ドイツ)を使用し、以下のパラメータを適用して溶液の一部を噴霧乾燥した:入口温度130℃、出口温度67℃~71℃、ガス流量670L/時、アスピレータ100%。
【0120】
噴霧乾燥した6’-シアリルラクトースは91%の純度を有し、一方3’-シアリルラクトース材料は93%の純度を有していた。
実施例5
HMO混合物の調製
異なるHMOの混合物を、固体生成物から調製した。したがって、個々のHMOを噴霧乾燥し、得られた粉末を混合した。HMO混合物Iは、2’-フコシルラクトースおよびラクト-N-テトラオースを70wt%対30wt%の比率で含み、HMO混合物IIは、2’-フコシルラクトース(52wt%)、3-フコシルラクトース(13wt%)、ラクト-N-テトラオース(26wt%)、3’-シアリルラクトース(4wt%)および6’-シアリルラクトース(5wt%)を含んでいた。混合粉末を20wt%のHMOを含有する溶液まで水に溶解し、再び実施例4に記載のようにBuchi噴霧乾燥機を使用して噴霧乾燥した。
【0121】
得られた噴霧乾燥粉末を分析すると、粉末は、異なるHMOの比率に関して噴霧乾燥に供された溶液と同じ組成を有していることが明らかとなった。
実施例6
糖類混合物の調製
8gの2’-FLおよび1gのL-フコースを、50mlの蒸留水に溶解した。実施例4に記載のように、得られた溶液をBuchi噴霧乾燥機を使用して噴霧乾燥した。2’-FLおよびL-フコースから本質的になる噴霧乾燥粉末が得られ、噴霧乾燥粉末中の2’-FLおよびL-フコースの比率は、噴霧乾燥に供された溶液中の2’-FLおよびL-フコースの比率と同一であった。したがって、L-フコースは、HMOの存在下で噴霧乾燥され得る。
【0122】
実施例7
噴霧乾燥ヒトミルクオリゴ糖の特性決定
1. 示差走査熱量測定(DSC)
Mettler Toledo 821e(Mettler Toledo、ギーセン、ドイツ)で示差走査熱量測定(DSC)を使用して、噴霧乾燥ヒトミルクオリゴ糖、すなわち3-フコシルラクトース、6’-シアリルラクトース、3’-シアリルラクトース、ラクト-N-テトラオース、およびヒトミルクオリゴ糖の噴霧乾燥混合物、2’-フコシルラクトース/ラクト-N-テトラオースの混合物(HMO混合物I)、および2’-フコシルラクトース、3-フコシルラクトース、ラクト-N-テトラオース、6’-シアリルラクトース、3’-シアリルラクトースの混合物(HMO混合物II)のそれぞれの熱イベントを決定した。
【0123】
Mettler Toledo 821e(Mettler Toledo、ギーセン、ドイツ)を使用して、噴霧乾燥生成物の熱イベント(ガラス転移温度(Tg)、さらなる発熱および吸熱イベント)を決定した。
【0124】
約25mgの噴霧乾燥ヒトミルクオリゴ糖を、クリンプされたAlるつぼ(Mettler Toledo、ギーセン、ドイツ)内で分析した。試料を10K/分で0℃に冷却し、10K/分の走査速度で100℃に再加熱した。第2の加熱サイクルで試料を0℃に冷却した後、試料を150℃に再加熱した。加熱走査中のベースラインの吸熱シフトの中点が、ガラス転移温度(Tg)とみなされた。発熱および吸熱ピークは、イベントのピーク温度および正規化エネルギーを用いて報告される。
【0125】
全試料の第1の加熱走査では、約48~58℃の範囲内の主な段階的転移により明らかである、全熱流量における主要なガラス転移イベントが示され、試料のほとんどにおいて、第1の加熱走査において観察された主要なガラス転移イベントは、第2の加熱走査で再び発生した。DSC分析の結果を表9に要約する。
【0126】
【0127】
3-フコシルラクトースの場合、第1の加熱走査におけるTg後に吸熱緩和ピークが検出された。ラクト-N-テトラオースの場合、他の試料と比較して、第2の加熱走査においてはるかに高い約79℃のTgが検出された。これは、約89℃(-6.04J/g)での第1の加熱走査中の吸熱イベントにより引き起こされ得る。3-フコシルラクトースの場合と同様、6’-シアリルラクトースの場合も、Tgの後に吸熱緩和ピークが検出されたが、この試料ではさらに77℃(-0.22J/g)で吸熱イベントが生じた。3’-シアリルラクトースおよびHMO混合物Iでは吸熱イベントは検出されなかったが、HMO混合物IIの場合、第1の加熱走査中の吸熱イベントは79℃(0.34J/g)であった。
【0128】
2. 粉末X線回折(XRD)
広角粉末X線回折(XRD)を使用して、凍結乾燥生成物の形態を精査した。銅アノード(45kV、40mA、0.154nmの波長でKα1発光)およびPIXcel3D検出器を備えたX線回折計Empyrean(Panalytical、アルメロ、オランダ)を使用した。約100mgの噴霧乾燥試料を、反射モードで、5~45°の2θ角範囲内、0.04°の2θステップサイズ、およびステップ当たり100秒のカウント時間で分析した。
【0129】
全ての単一オリゴ糖ならびにHMO混合物IおよびIIは、完全に非晶質の状態を示した(
図1~6)。ラクト-N-テトラオースの場合、第2の(非晶質)信号が9~10°付近に検出された。
【0130】
3. レーザ回折
レーザ回折により粉末粒子サイズを評価した。システムは、同心円状に配置されたセンサ素子のアレイによって散乱光および回折光を検出する。次いで、ソフトウェアアルゴリズムが、異なるセンサ素子に到達する光強度値のz値を計算することによって粒子カウントを近似する。分析は、SALD-7500 Aggregate Sizer (株式会社島津製作所、京都、日本)定量レーザ回折システム(qLD)を使用して実行された。
【0131】
少量(スパチュラ先端)の各試料を2mlのイソオクタンに分散させ、超音波処理により5分間均質化した。分散液をイソオクタンで満たされたバッチセル内に移し、手動モードで分析した。
【0132】
データ取得設定は以下の通りであった:測定毎の信号平均化カウント:128、信号蓄積カウント:3、および間隔:2秒。
測定前に、システムをイソオクタンでゼロ調整した。各試料分散液を3回測定したが、平均値および標準偏差が報告される。ソフトウェアWING SALD IIバージョンV3.1を使用してデータを評価した。試料の屈折率は未知であったため、糖(二糖)粒子の屈折率(1.530)をサイズ分布プロファイルの決定に使用した。平均および中央直径のサイズ値が報告される。
【0133】
全ての試料の平均粒子サイズは非常に類似していたが、HMO混合物IIについては若干低い値が測定された。粒子サイズ特性を表10に要約する。さらに、粒子サイズ分布は、試料の全てに対して単一主要サイズの集団の存在を示した。
【0134】