(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-07
(45)【発行日】2023-06-15
(54)【発明の名称】グリース付着方法
(51)【国際特許分類】
F16J 15/3232 20160101AFI20230608BHJP
F16J 15/324 20160101ALI20230608BHJP
F16C 33/78 20060101ALI20230608BHJP
F16C 19/18 20060101ALI20230608BHJP
F16C 33/66 20060101ALI20230608BHJP
【FI】
F16J15/3232
F16J15/324
F16C33/78 D
F16C19/18
F16C33/66 Z
(21)【出願番号】P 2020556069
(86)(22)【出願日】2019-11-05
(86)【国際出願番号】 JP2019043234
(87)【国際公開番号】W WO2020100651
(87)【国際公開日】2020-05-22
【審査請求日】2021-03-30
(31)【優先権主張番号】P 2018212077
(32)【優先日】2018-11-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000165
【氏名又は名称】弁理士法人グローバル・アイピー東京
(72)【発明者】
【氏名】菅原 信太郎
(72)【発明者】
【氏名】積 誠大
(72)【発明者】
【氏名】樽川 雄一
【審査官】久米 伸一
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-100826(JP,A)
【文献】特開2003-314698(JP,A)
【文献】特開2007-100882(JP,A)
【文献】特開2009-287651(JP,A)
【文献】特開平06-300140(JP,A)
【文献】特開2015-124785(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/3232
F16J 15/324
F16C 33/78
F16C 19/18
F16C 33/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
相対的に回転する内側部材と外側部材のうち、前記外側部材に取り付けられる円筒部分と、前記円筒部分から前記内側部材に向けて径方向内側に広がる環状部分を有する第1のシール部材と、
前記内側部材に取り付けられるスリーブと、前記スリーブから径方向外側に広がるフランジを有しており、前記フランジが前記第1のシール部材の前記環状部分と対向する、第2のシール部材とを有し、
前記第1のシール部材は、前記環状部分から前記第2のシール部材の前記フランジに向けて延びる、弾性材料で形成された少なくとも3つのアキシャルリップを有し、
径方向外側に配置された前記アキシャルリップの締め代は、径方向内側に配置された前記アキシャルリップの締め代よりも大きく、
前記内側部材と前記外側部材との間に配置され、前記内側部材と前記外側部材との間の間隙を封止する密封装置の各アキシャルリップの内周面にグリースを付着させる方法であって、
径方向の最も内側に配置された前記アキシャルリップの径方向内側の位置からグリースの滴を噴射して、各アキシャルリップの内周面に同時にグリースを付着させることを有する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、密封装置およびグリース付着方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば玉軸受のような転がり軸受は周知であり、例えば自動車のハブに使用されている。転がり軸受の内部を密封する密封装置としては、特許文献1に記載されたものがある。この密封装置は、転がり軸受の内輪に固定されるスリンガーと、転がり軸受の外方部材に固定されるシールとを有し、シールはスリンガーに摺動可能に接触する複数のリップを有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような密封装置は、外部から水(泥水または塩水を含む)やダスト等の異物が軸受内部へ侵入しないように封止する機能を有する。特に、水の多い環境で使用される場合には、水が密封対象(例えば軸受)の内部に侵入しないように保護する機能を高めることが要求される。
【0005】
また、密封装置のリップの数が増えても、リップに潤滑剤としてのグリースを付着させることが容易であることが望ましい。
【0006】
そこで、本発明は、密封対象への水からの保護性能が高く、リップにグリースを付着させることが容易である密封装置、およびリップにグリースを付着させることが容易であるグリース付着方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある態様に係る密封装置は、相対的に回転する内側部材と外側部材との間に配置され、前記内側部材と前記外側部材との間の間隙を封止する密封装置であって、前記外側部材に取り付けられる円筒部分と、前記円筒部分から前記内側部材に向けて径方向内側に広がる環状部分を有する第1のシール部材と、前記内側部材に取り付けられるスリーブと、前記スリーブから径方向外側に広がるフランジを有しており、前記フランジが前記第1のシール部材の前記環状部分と対向する、第2のシール部材とを有する。前記第1のシール部材は、前記環状部分から前記第2のシール部材の前記フランジに向けて延びる、弾性材料で形成された少なくとも3つのアキシャルリップを有する。径方向外側に配置された前記アキシャルリップの締め代は、径方向内側に配置された前記アキシャルリップの締め代よりも大きい。
【0008】
この態様においては、第1のシール部材が少なくとも3つのアキシャルリップを有するので、密封対象への水からの保護性能が高い。径方向外側に配置されたアキシャルリップの締め代は、径方向内側に配置されたアキシャルリップの締め代よりも大きいため、径方向外側に配置されたアキシャルリップは径方向内側に配置されたアキシャルリップよりも大きく湾曲させられる。したがって、逆の場合に比べて、狭い領域に多くのアキシャルリップを配置することができる。径方向外側に配置されたアキシャルリップの締め代は、径方向内側に配置されたアキシャルリップの締め代よりも大きいため、各アキシャルリップの径方向内側からグリースを各アキシャルリップの内周面に供給することにより、各アキシャルリップにグリースを付着させることが容易である。
【0009】
本発明のある態様に係るグリース付着方法は、前記密封装置の各アキシャルリップの内周面にグリースを付着させる方法であって、各アキシャルリップの径方向内側からグリースを前記内周面に供給することを有する。
【0010】
この方法によれば、径方向外側に配置されたアキシャルリップの締め代は、径方向内側に配置されたアキシャルリップの締め代よりも大きいため、各アキシャルリップの径方向内側からグリースを各アキシャルリップの内周面に供給することにより、各アキシャルリップにグリースを付着させることが容易である。
【0011】
好ましくは、前記グリースを前記内周面に供給することは、径方向の最も内側に配置された前記アキシャルリップの径方向内側の位置からグリースの滴を噴射して、各アキシャルリップの内周面に同時にグリースを付着させることを有する。この場合には、各アキシャルリップの内周面に同時にグリースを付着させることができるので作業効率が高い。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施形態に係る密封装置が使用される転がり軸受の一例の部分断面図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る密封装置の部分断面図である。
【
図3】
図2の密封装置の第1のシール部材の部分断面図である。
【
図4】本発明の実施形態に係るグリース付着方法の一例を示す図である。
【
図5】本発明の実施形態に係るグリース付着方法の他の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付の図面を参照しながら本発明に係る実施の形態を説明する。図面において縮尺は、必ずしも実施形態の製品を正確に表してはおらず、一部の寸法を誇張して表現している場合もある。
【0014】
図1は、本発明の実施形態に係る密封装置が使用される転がり軸受の一例である自動車用のハブ軸受を示す。但し、本発明の用途はハブ軸受には限定されず、他の転がり軸受にも本発明は適用可能である。また、以下の説明では、ハブ軸受は、玉軸受であるが、本発明の用途は玉軸受には限定されず、他の種類の転動体を有する、ころ軸受、針軸受などの他の転がり軸受にも本発明は適用可能である。また、自動車以外の機械に使用される転がり軸受にも本発明は適用可能である。
【0015】
このハブ軸受1は、スピンドル(図示せず)が内部に挿入される孔2を有するハブ(内側部材)4と、ハブ4に取り付けられた内輪(内側部材)6と、これらの外側に配置された外輪(外側部材)8と、ハブ4と外輪8の間に1列に配置された複数の玉10と、内輪6と外輪8の間に1列に配置された複数の玉12と、これらの玉を定位置に保持する複数の保持器14,15とを有する。
【0016】
外輪8が固定されている一方で、ハブ4および内輪6は、スピンドルの回転に伴って回転する。
【0017】
スピンドルおよびハブ軸受1の共通の中心軸線Axは、
図1の上下方向に延びている。
図1においては、中心軸線Axに対する左側部分のみが示されている。詳細には図示しないが、
図1の上側は自動車の車輪が配置される外側(アウトボード側)であり、下側は差動歯車などが配置される内側(インボード側)である。
図1に示した外側、内側は、それぞれ径方向の外側、内側を意味する。
【0018】
ハブ軸受1の外輪8は、ハブナックル16に固定される。ハブ4は、外輪8よりも半径方向外側に張り出したアウトボード側フランジ18を有する。アウトボード側フランジ18には、ハブボルト19によって、車輪を取り付けることができる。
【0019】
外輪8のアウトボード側の端部の付近には、外輪8とハブ4との間の間隙を封止する密封装置20が配置されており、外輪8のインボード側の端部の内側には、外輪8と内輪6との間の間隙を封止する密封装置21が配置されている。これらの密封装置20,21の作用により、ハブ軸受1の内部からのグリース、すなわち潤滑剤の流出が防止されるとともに、外部からハブ軸受1の内部への異物(水(泥水または塩水を含む)およびダストを含む)の流入が防止される。
図1において、矢印Fは、外部からの異物の流れの方向の例を示す。
【0020】
密封装置20は、ハブ軸受1の回転するハブ4と固定された外輪8のアウトボード側の円筒状の端部8Aとの間に配置され、ハブ4と外輪8との間の間隙を封止する。密封装置21は、ハブ軸受1の回転する内輪6と固定された外輪8のインボード側の端部8Bとの間に配置され、内輪6と外輪8との間の間隙を封止する。
【0021】
図2に示すように、密封装置21は、ハブ軸受1の外輪8のインボード側の端部8Bと、ハブ軸受1の内輪6との間隙内に配置される。密封装置21は環状であるが、
図2においては、その左側部分のみが示されてい
る。
【0022】
密封装置21は、第1のシール部材24と第2のシール部材26を備える複合構造を有する。
【0023】
第1のシール部材24は、外輪8に取り付けられ、回転しない固定シール部材である。第1のシール部材24は、弾性環28および剛性環30を有する複合構造である。弾性環28は、弾性材料、例えばエラストマーで形成されている。剛性環30は、剛性材料、例えば金属から形成されており、弾性環28を補強する。剛性環30は、ほぼL字形の断面形状を有する。剛性環30の一部は、弾性環28に埋設されており、弾性環28に密着している。
【0024】
第1のシール部材24は、円筒部分24A、環状部分24B、ラジアルリップ24C、およびアキシャルリップ24D,24E,24Fを有する。円筒部分24Aは、外輪8に取り付けられる取付け部を構成する。具体的には、円筒部分24Aは、外輪8の端部8Bに締まり嵌め方式で嵌め入れられる(すなわち圧入される)。環状部分24Bは、円環状であって、円筒部分24Aの径方向内側に配置され、内輪6に向けて径方向内側に広がる。円筒部分24Aと環状部分24Bは、剛性環30と弾性環28から構成されている。
【0025】
ラジアルリップ24Cおよびアキシャルリップ24D,24E,24Fは、環状部分24Bから第2のシール部材26に向けて延び、これらのリップの先端は第2のシール部材26に接触する。これらのリップは、弾性環28から構成されている。
【0026】
第2のシール部材26は、スリンガーすなわち回転シール部材とも呼ぶことができる。第2のシール部材26は、内輪6に取り付けられており、内輪6の回転時に、第2のシール部材26は内輪6とともに回転し、外部から飛散して来る異物を跳ね飛ばす。
【0027】
この実施形態では、第2のシール部材26も、弾性環32および剛性環34を有する複合構造である。剛性環34は、剛性材料、例えば金属から形成されている。
【0028】
剛性環34は、ほぼL字形の断面形状を有する。具体的には、円筒状のスリーブ34Aと、スリーブ34Aから径方向外側に広がる円環状のフランジ34Bを備える。スリーブ34Aは、内輪6に取り付けられる取付け部を構成する。具体的には、スリーブ34Aには、内輪6の端部が締まり嵌め方式で嵌め入れられる(すなわち圧入される)。
【0029】
フランジ34Bは、スリーブ34Aの径方向外側に配置され、径方向外側に広がっており、第1のシール部材24の環状部分24Bと対向する。この実施形態では、フランジ34Bは平板であり、スリーブ34Aの軸線に対して垂直な平面内にある。この実施形態では、第2のシール部材26のフランジ34Bの環状部分24Bに対向する面34Cは、第1のシール部材24の環状部分24Bのフランジ34Bに対向する面24Gと平行である。
【0030】
弾性環32は、剛性環34のフランジ34Bに密着している。この実施形態では、弾性環32は、内輪6の回転速度を計測するために設けられている。具体的には、弾性環32は、磁性金属粉を含有するエラストマー材料で形成されており、磁性金属粉によって多数のS極とN極を有する。弾性環32においては、円周方向に等角間隔をおいて多数のS極とN極が交互に配置されている。図示しない磁気式ロータリーエンコーダーによって、弾性環32の回転角度を測定することができる。但し、弾性環32は必ずしも不可欠ではない。
【0031】
第1のシール部材24のラジアルリップ(グリースリップ)24Cは、環状部分24Bの内側端から半径方向内側に延びる。ラジアルリップ24Cは、第2のシール部材26のスリーブ34Aに向けて延び、ラジアルリップ24Cの先端は、スリーブ34Aに接触する。ラジアルリップ24Cは、半径方向内側かつアウトボード側に向けて延び、主にハブ軸受1の内部からの潤滑剤の流出を阻止する役割を担う。
【0032】
第1のシール部材24のアキシャルリップ(サイドリップ)24D,24E,24Fは、環状部分24Bから側方に延びる。アキシャルリップ24D,24E,24Fの先端は、半径方向外側かつインボード側に向けて延び、第2のシール部材26のフランジ34Bの面34Cに接触する。アキシャルリップ24D,24E,24Fは、主に外部からハブ軸受1の内部への異物の流入を阻止する役割を担う。第1のシール部材24が3つのアキシャルリップ24D,24E,24Fを有するので、密封対象(ハブ軸受1の内部)への水からの保護性能が高い。
【0033】
第1のシール部材24が固定された外輪8に取り付けられている一方、内輪6および第2のシール部材26は回転するので、ラジアルリップ24Cおよびアキシャルリップ24D,24E,24Fは第2のシール部材26に対して摺動する。
【0034】
アキシャルリップ24D,24E,24Fは、ラジアルリップ24Cに比較して、内輪6に与えるトルクが小さく、内輪6と外輪8が偏心していても封止性能の変動が小さい。
【0035】
アキシャルリップ24D,24E,24Fの内周面には、潤滑剤としてグリース38が付着されている。
【0036】
図3は、第1のシール部材24の部分断面図である。
図3において、第2のシール部材26に接触しておらず変形していないラジアルリップ24Cおよびアキシャルリップ24D,24E,24Fが実線で示されている。また、第2のシール部材26に接触して変形したラジアルリップ24Cおよびアキシャルリップ24D,24E,24Fが仮想線で示されている。
【0037】
径方向の最も外側に配置されたアキシャルリップ24Fの締め代Ifは、中間に配置されたアキシャルリップ24Eの締め代Ieよりも大きい。また、アキシャルリップ24Eの締め代Ieは、径方向の最も内側に配置されたアキシャルリップ24Dの締め代Idよりも大きい。
【0038】
アキシャルリップ24D,24E,24Fの基部に相当する面24Gは、アキシャルリップ24D,24E,24Fの先端部が接触するフランジ34Bの面34Cに平行である。したがって、径方向の最も外側に配置されたアキシャルリップ24Fの高さ(根元から先端までの軸線方向での距離)Hfは、中間に配置されたアキシャルリップ24Eの高さHeよりも大きい。また、アキシャルリップ24Eの高さHeは、径方向の最も内側に配置されたアキシャルリップ24Dの高さHdよりも大きい。
【0039】
径方向外側に配置されたアキシャルリップの締め代は、径方向内側に配置されたアキシャルリップの締め代よりも大きいため、径方向外側に配置されたアキシャルリップは径方向内側に配置されたアキシャルリップよりも大きく湾曲させられる。したがって、逆の場合に比べて、狭い領域に多くのアキシャルリップを配置することができる。具体的には、3つのアキシャルリップ24D,24E,24Fをより狭い領域に配置することができる。あるいは、同じ領域により多くのアキシャルリップを配置することもできる。
【0040】
また、径方向外側に配置されたアキシャルリップの締め代は、径方向内側に配置されたアキシャルリップの締め代よりも大きいため、各アキシャルリップ24D,24E,24Fの径方向内側からグリース38を各アキシャルリップ24D,24E,24Fの内周面に供給することにより、各アキシャルリップ24D,24E,24Fにグリース38を付着させることが容易である。
【0041】
図4は、実施形態に係るグリース付着方法の一例を示す。この方法では、径方向の最も内側に配置されたアキシャルリップ24Dの径方向内側の位置に液滴噴射装置の噴射ノズル40を配置する。そして、噴射ノズル40は、グリース38の滴38dを噴射して、アキシャルリップ24D,24E,24Fの内周面に同時にグリース38を付着させる。
【0042】
Hf>He>Hdであるため、噴射ノズル40がほぼ水平に滴38dを噴射したとしても、滴38dはすべてのアキシャルリップ24D,24E,24Fの内周面の先端に到達する。この場合には、単一の噴射ノズル40によって、アキシャルリップ24D,24E,24Fの内周面に同時にグリース38を付着させることができるので作業効率が高い。噴射ノズル40を仮想線で示すように旋回させてもよい。
【0043】
噴射ノズル40の配置の前に、
図4に示すように、アキシャルリップ24D,24E,24Fを上方に向け、環状部分24Bを下方に向けることが好ましい。この場合、アキシャルリップ24D,24E,24Fの先端に到達したグリース38が重力によってリップの下方にわずかに流れて広範囲にグリース38が付着する。
【0044】
図5は、実施形態に係るグリース付着方法の他の一例を示す。この方法では、アキシャルリップ24D,24E,24Fを上方に向け、環状部分24Bを下方に向ける。そして、グリース供給用のノズルまたはピペット42でグリース38をアキシャルリップ24D,24E,24Fの径方向内側からグリース38を内周面に供給することにより、アキシャルリップ24D,24E,24Fの内周面にグリース38を付着させる。
【0045】
Hf>He>Hdであるため、逆の場合またはHf=He=Hdである場合に比較して、アキシャルリップ24D,24E,24Fの重なる部分が小さく、ノズルまたはピペット42の先端をアキシャルリップ24E,24Fにアクセスさせやすい。したがって、アキシャルリップ24D,24E,24Fにグリース38を付着させることが容易である。
【0046】
図5に示す方法では、3つのノズルまたはピペット42で同時にアキシャルリップ24D,24E,24Fにグリース38を付着させる。しかし単一のノズルまたはピペット42で、異なる時にアキシャルリップ24D,24E,24Fにグリース38を付着させてもよい。ノズルまたはピペット42の代わりに、ブラシまたは棒でアキシャルリップ24D,24E,24Fにグリース38を塗り付けてもよい。
【0047】
上記のいずれの方法においても、噴射ノズル40、ノズルもしくはピペット42、または第1のシール部材24を旋回させて、アキシャルリップ24D,24E,24Fの内周面に、全周にわたってグリース38を付着させてよい。
【0048】
但し、アキシャルリップ24D,24E,24Fの内周面の1箇所にグリース38を付着させてもよい。密封装置21の使用時には、アキシャルリップ24D,24E,24Fが第2のシール部材26のフランジ34Bに摺動するので、1箇所に付着されたグリース38は周方向全体に広がるためである。
【0049】
以上、本発明の実施形態を説明したが、上記の説明は本発明を限定するものではなく、本発明の技術的範囲において、構成要素の削除、追加、置換を含む様々な変形例が考えられる。
【0050】
例えば、上記の実施形態においては、内側部材であるハブ4および内輪6が回転部材であり、外側部材である外輪8が静止部材である。しかし、本発明は、上記実施形態に限定されず、互いに相対回転する複数の部材の密封に適用されうる。例えば、内側部材が静止し、外側部材が回転してもよいし、これらの部材のすべてが回転してもよい。
【0051】
本発明の用途は、ハブ軸受1の密封に限定されない。例えば、自動車の差動歯車機構またはその他の動力伝達機構、自動車の駆動シャフトの軸受またはその他の支持機構、ポンプの回転軸の軸受またはその他の支持機構などにも本発明に係る密封装置または密封構造を使用することができる。
【0052】
実施形態に係る密封装置21の剛性環30は、単一の部品であるが、剛性環30を径方向に互いに分離した複数の剛性環に置換してもよい。
【0053】
実施形態に係る密封装置21は、3つのアキシャルリップ24D,24E,24Fを有するが、4つ以上のアキシャルリップを有してもよい。
【符号の説明】
【0054】
1 ハブ軸受(転がり軸受)
4 ハブ(内側部材)
6 内輪(内側部材)
8 外輪(外側部材)
21 密封装置
24 第1のシール部材
26 第2のシール部材
28 弾性環
30 剛性環
24A 円筒部分
24B 環状部分
24C ラジアルリップ
24D,24E,24F アキシャルリップ
34A スリーブ
34B フランジ
38 グリース
38d 滴
40 噴射ノズル
42 ノズルまたはピペット