(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-07
(45)【発行日】2023-06-15
(54)【発明の名称】基板配置支援治具及び基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
B24B 37/28 20120101AFI20230608BHJP
B24B 37/34 20120101ALI20230608BHJP
【FI】
B24B37/28
B24B37/34
(21)【出願番号】P 2021551426
(86)(22)【出願日】2020-09-30
(86)【国際出願番号】 JP2020037328
(87)【国際公開番号】W WO2021066075
(87)【国際公開日】2021-04-08
【審査請求日】2022-09-26
(31)【優先権主張番号】1-2019-05355
(32)【優先日】2019-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】VN
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000113263
【氏名又は名称】HOYA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000165
【氏名又は名称】弁理士法人グローバル・アイピー東京
(72)【発明者】
【氏名】シーテープ ヴッチポン
(72)【発明者】
【氏名】クナリンチップ ヴォラヴット
【審査官】山内 康明
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-076191(JP,A)
【文献】特開平10-225841(JP,A)
【文献】特開2000-135672(JP,A)
【文献】特開2014-063543(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 37/28
B24B 37/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の主表面を研磨するために、キャリアに設けられた複数の基板保持孔それぞれに基板を配置するための基板配置支援治具であって、
前記キャリアの複数の前記基板保持孔の位置に対応して、基板を配置可能な複数の待機孔が設けられた板状の治具本体と、
前記待機孔それぞれの縁の少なくとも1箇所には、前記縁から突出して、前記基板の外周端と接触して前記基板を保持する、前記治具本体に設けられた爪部と、を備え、
前記爪部を前進させて前記待機孔それぞれに前記基板を保持させ、前記治具本体を前記キャリアの上部に位置した状態で、前記爪部を後退させることにより、前記基板を前記待機孔それぞれから開放して落下させて下方にある前記キャリアの前記基板保持孔のそれぞれに配置するために、前記爪部が、前記待機孔の領域に出入り自在に前進あるいは後退するように前記爪部は構成されている、ことを特徴とする基板配置支援治具。
【請求項2】
前記待機孔それぞれの周上の2つ以上の場所に前記爪部が設けられ、
前記爪部は、前記基板の主表面と接触せず、前記基板の外周端に設けられた面取り面と接触するように設けられた傾斜面を有し、
前記傾斜面に前記面取り面が接触して前記爪部それぞれが前記基板を下方から支持することにより、前記基板は前記待機孔それぞれに保持される、請求項1に記載の基板配置支援治具。
【請求項3】
前記爪部は、前記基板の外周端に設けられた前記基板の主表面と直交する側壁面に当接する、前記待機孔それぞれの縁から内側に向かって突出する突起部を有し、
前記突起部が前記側壁面に対して直交する方向から当接して前記基板を前記待機孔それぞれの壁に押圧することにより、前記基板は前記待機孔それぞれに保持される、請求項1に記載の基板配置支援治具。
【請求項4】
前記待機孔それぞれに設けられた前記爪部は同時に後退するように構成されている、請求項1~3のいずれか1項に記載の基板配置支援治具。
【請求項5】
前記キャリアに面する前記治具本体の面には、前記待機孔の位置が前記キャリアの前記基板保持孔の位置に対応するように、前記キャリアの面に設けられた孔または突起に係止される突起または孔が設けられている、請求項1~4のいずれか1項に記載の基板配置支援治具。
【請求項6】
複数の基板保持孔が設けられたキャリアの前記基板保持孔のそれぞれに基板を保持した状態で、基板の主表面を研磨する研磨処理を含む基板の製造方法であって、
請求項1~5のいずれか1項に記載の基板配置支援治具の前記待機孔それぞれに
おいて、前記爪
部を前記待機孔の縁から突出するように前進させて前記基板を保持した状態で、
下定盤の上に配置した前記キャリアの上方の位置で、前記治具本体の前記爪
部を後退させることにより、前記基板を前記待機孔から開放して落下させて、下方にある前記キャリアの前記基板保持孔のそれぞれに前記基板を配置させるステップと、
前記キャリアに配置した前記基板を
、上定盤及び前記下定盤で挟んで相対移動させることにより研磨するステップと、
を備えることを特徴とする基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キャリアの基板保持孔に基板を保持して、基板の主表面を研磨するとき、キャリアの基板保持孔それぞれに複数の基板それぞれを配置するための基板配置支援治具、及びこの基板配置支援治具を用いて研磨を行う基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
今日、パーソナルコンピュータ、DVD(Digital Versatile Disc)記録装置等には、データ記録のためにハードディスク装置(HDD:Hard Disk Drive)が内蔵されている。
ハードディスク装置では、基板に磁性層が設けられた磁気ディスクが用いられ、磁気ディスクの面上を僅かに浮上させた磁気ヘッドで磁性層に磁気記録情報が記録され、あるいは読み取られる。ハードディスク装置では、記憶容量を増大させるために、磁気記録密度の増大が図られており、この磁気記録密度の増大を可能にするために、磁気ディスクの基板として用いる基板の主表面の表面凹凸は可能な限り小さくなっている。したがって、磁気ディスクに用いる基板の製造では、精度の高い研磨が行われる。
【0003】
研磨装置では、例えば、基板を、研磨パッドを備えた上定盤と下定盤とにより挟んで上定盤と下定盤を回転させながら研磨パッドで基板の主表面を研磨する。その際、研磨液が研磨パッドと基板の主表面の間に供給される。研磨液には、セリアやコロイダルシリカ等の粒径の細かい研磨砥粒を含む。研磨液は、基板の主表面上に供給される。上定盤と下定盤とにより挟まれた基板は、上定盤と下定盤との間で、自転しながら上定盤の回転中心軸の周りに公転運動するように移動することにより、基板の主表面が研磨される。
【0004】
研磨装置では、複数、例えば6個の保持孔が設けられた平板状のキャリアの保持孔のそれぞれに基板を保持させて、研磨パッドが表面に設けられた上定盤及び下定盤でキャリアを挟み、上定盤及び下定盤との間に研磨液を供給しながら、キャリアと、上定盤及び下定盤とを相対的に移動させることにより基板の主表面を研磨する。すなわち、1つのキャリアに複数の基板を配置し、さらに、上定盤と下定盤の間に基板を保持した数枚のキャリアを挟んで同時に研磨を行うので、すべてのキャリアの基板保持孔1つ1つに基板を配置するための準備の時間は長い。
【0005】
これに対して、両面研磨装置の上定盤と下定盤との間に配されたキャリアに保持される基板等の被研磨体を研磨する研磨工程において、複数の基板を効率良く装填作業するための被研磨体装填治具が提案されている(特許文献1)。
被研磨体装填治具は、上定盤と下定盤との間に配されたキャリアに保持される基板等の被研磨体を研磨する研磨工程で、キャリアに設けられた複数の保持孔の夫々に複数の被研磨体を同時に装填する装置である。被研磨体装填治具は、キャリアの複数の保持孔に対向するように配置された複数の挿入孔を有する第1の治具と、この第1の治具の上面に重ねられ、キャリアの複数の保持孔に装填される複数の被研磨体を待機させるための複数の待機孔を有する第2の治具と、を備える。第1の治具及び第2の治具は、夫々の接触面が互いに水平方向にスライド可能に支持されている。第1の治具と第2の治具の回転中心を互いに一致させ、待機孔と挿入孔とは円形状の回転中心に対する方位方向をずらして、第2の治具を第1の治具の上面に接するように重ねる。このとき、第2の治具の待機孔には、被研磨体を配置しておく。第2の治具を回転中心の周りにスライドさせることにより、待機孔が挿入孔と一致したとき、第2の治具に配置した複数の被研磨体のそれぞれが、挿入孔を通して第1の治具の下部にあるキャリアの保持孔に同時に落下してセットされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
この被研磨体装填治具では、第2の治具を回転中心の周りにスライドさせるとき、第2の治具の待機孔に配置された被研磨体、例えば基板の主表面は、第1の治具の表面と接触しながら擦れるので、第1の治具を基板の表面に傷を与えにくい樹脂材を用いるとしても、研磨体の表面に傷が生じることを防止することはできないといった問題が生じる。特に、磁気ディスク用基板の主表面のように、基板の主表面の表面凹凸は可能な限り小さくなることが好ましいため、研磨前に、主表面に傷を発生させることは好ましくない。
【0008】
そこで、本発明は、上記被研磨体装填治具とは異なる構成により、基板の主表面に傷を生じさせることなく、基板の外周端部に傷を発生させることなく、効率よくキャリアの保持孔に基板を配置することができる基板配置支援治具、及びこの治具を用いて基板の研磨を行う研磨処理を含む基板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様は、基板の主表面を研磨するために、キャリアに設けられた複数の基板保持孔それぞれに基板を配置するための基板配置支援治具である。当該基板配置支援治具は、 前記キャリアの複数の前記基板保持孔の位置に対応して、基板を配置可能な複数の待機孔が設けられた板状の治具本体と、
前記待機孔それぞれの縁の少なくとも1箇所には、前記縁から突出して、前記基板の外周端と接触して前記基板を保持する、前記治具本体に設けられた爪と、を備える。
前記爪部は前進して前記待機孔それぞれに前記基板を保持させ、前記治具本体を前記キャリアの上部に位置した状態で、前記爪部を後退させることにより、前記基板を前記待機孔それぞれから開放して落下させて下方にある前記キャリアの前記基板保持孔のそれぞれに配置するために、前記爪部が、前記待機孔の領域に出入り自在に前進あるいは後退する、ように前記爪部は構成されている。
【0010】
前記待機孔それぞれの周上の2つ以上の場所に前記爪部が設けられ、
前記爪部は、前記基板の主表面と接触せず、前記基板の外周端に設けられた面取り面と接触するように設けられた傾斜面を有し、
前記傾斜面に前記面取り面が接触して前記爪部それぞれが前記基板を下方から支持することにより、前記基板は前記待機孔それぞれに保持される、ことが好ましい。
【0011】
前記爪部は、前記基板の外周端に設けられた前記基板の主表面と直交する側壁面に当接する、前記待機孔それぞれの縁から内側に向かって突出する突起部を有し、
前記突起部が前記側壁面に対して直交する方向から当接して前記基板を前記待機孔それぞれの壁に押圧することにより、前記基板は前記待機孔それぞれに保持される、ことが好ましい。
【0012】
前記待機孔それぞれに設けられた前記爪部は同時に後退するように構成されている、ことが好ましい。
前記キャリアに面する前記治具本体の面には、前記待機孔の位置が前記キャリアの前記基板保持孔の位置に対応するように、前記キャリアの面に設けられた孔または突起に係止される突起または孔が設けられている、ことが好ましい。
【0013】
本発明の他の一態様は、複数の基板保持孔が設けられたキャリアの前記基板保持孔のそれぞれに基板を保持した状態で、基板の主表面を研磨する研磨処理を含む基板の製造方法である。当該製造方法は、
前記基板配置支援治具の前記待機孔それぞれに、前記爪部を前記待機孔の縁から突出するように前進させて前記基板を保持した状態で、前記下定盤の上に配置した前記キャリアの上方の位置で、前記治具本体の前記爪部を後退させることにより、前記基板を前記待機孔から開放して落下させて、下方にある前記キャリアの前記基板保持孔のそれぞれに前記基板を配置させるステップと、
前記キャリアに配置した前記基板を、上定盤及び前記下定盤で挟んで相対移動させることにより、前記基板を研磨するステップと、
を備える。
【発明の効果】
【0014】
上述の基板配置支援治具及びこの治具を用いて基板の研磨を行う基板の製造方法によれば、基板の主表面に傷を生じさせることなく、基板の外周端部に傷を発生させることなく、効率よくキャリアの基板保持孔に基板を配置することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】一実施形態の基板配置支援治具の概略の構成を示す図である。
【
図2】一実施形態である、基板を
待機孔に保持するための爪部を説明する図である。
【
図3】他の一実施形態である、基板を
待機孔に保持するための爪部を説明する図である。
【
図4】一実施形態の基板配置支援治具において、基板が
待機孔から離脱する状態を説明する図である。
【
図5】一実施形態の研磨処理に用いる研磨装置の構成を示す図である。
【
図6】一実施形態の研磨処理に用いる研磨装置の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、一実施形態の基板配置支援治具及び基板の製造方法について、図面を参照しながら説明する。
【0017】
(基板配置支援治具)
図1は、一実施形態の基板配置支援治具の概略の構成を示す図である。
基板配置支援治具10は、基板の主表面を研磨するために、キャリア12に設けられた複数の基板保持孔それぞれに基板を配置するための配置支援治具である。本明細書でいう研磨は、研削後の基板の表面粗さを小さくするために表面を磨く“研磨”の他に、基板の寸法や形状を変更するために粗く削る加工、すなわち“研削(ラッピング)”も含む。“研削”後の基板の表面粗さを小さくするために表面を磨く加工を、研削と区別して“研磨”という場合には、基板配置支援治具10は、基板の主表面を“研削”あるいは“研磨”をするために、キャリア12に設けられた複数の基板保持孔それぞれに基板を配置するための配置支援治具である。換言すれば、基板配置支援治具10は、上記のように、キャリア12を用いて基板の主表面を加工する場合であれば、加工方法によらず用いることができる。
図1に示すように、基板配置支援治具10は、板状の治具本体16を備える。治具本体16には、キャリア12の複数の基板保持孔14の位置に対応して、基板Sを配置可能な複数の待機孔18が設けられている。キャリア12には、6個の基板保持孔14が設けられ、これに対応して、治具本体16にも、待機孔18が6個、同じ位置に設けられている。
図1に示す例では、キャリア12には、6個の基板保持孔14が設けられているが、基板保持孔14の数は、6に制限されず、複数であればよい。基板保持孔14の数は5以上であることが好ましく、10以上であることがより好ましい。
なお、
図1に示すキャリア12の外周には、図示されないが、後述するように下定盤の内歯車(
図5に示す歯車62)と係合する歯部が設けられる。
【0018】
治具本体16の待機孔18それぞれの縁の少なくとも1箇所には、縁から突出して、基板Sの外周端と接触して基板Sを保持する爪部が設けられている。この爪部が前進して待機孔それぞれに基板Sを保持させ、治具本体16を、下定盤の上に載せたキャリア12の上部に移動した状態で、爪部を後退させることにより、基板Sを待機孔18それぞれから開放して落下させて下方にあるキャリア12の基板保持孔14のそれぞれに配置するために、爪部が、待機孔18の領域に出入り自在に前進あるいは後退する。爪部が基板Sを保持する場合に爪部が基板Sの外周端と接触するとは、爪部が外周端の少なくとも一部と接触することを意味する。外周端には、端面の他に、端面と主表面との境界部(面取り面が端面に形成されている場合は、面取り面と主表面との境界部)も含まれる。
爪部は、基板Sの外周端の少なくとも一部と接触することにより基板Sを保持するように突出する形状であればよく、必ずしも爪型の形状を有さなくてもよい。
【0019】
図2は、一実施形態である、基板Sを待機孔18に保持するための爪部を説明する図である。
図2に示す爪部20は、基板Sの主表面と接触せず、基板Sの外周端に設けられた面取り面22と接触するように設けられた傾斜面24を有する。
図2に示すように、傾斜面24に面取り面22(面取り面22と主表面との境界部を含む)が接触して爪部20それぞれが基板Sを下方から支持することにより、基板Sは待機孔18それぞれに保持される。爪部20は、
図1に示される操作部26を操作者が押圧するあるいは操作部26の押圧を緩めることにより、待機孔18の領域に出入り自在に前進あるいは後退する。
面取り面22は、基板Sの主表面に略直交する(略直交する角度は、89~91度をいう)側壁面25(
図3参照)と主表面の間に介在する面である。面取り面22は、主表面と滑らかに接続されて、側壁面25に向かって延びている。
【0020】
爪部20の前進、後退の機構は、特に制限されない。例えば、爪部20は、ばね部材で付勢されて待機孔18に対して通常突出状態にあり、操作部26を押圧することにより、ばね部材の付勢力に打ち勝って爪部20を後退させるばね部材を利用した機構を用いることができる。また、待機孔18それぞれの内周に沿って回転移動するギアを設け、このギアが回転移動することにより、爪部20に接続したカム機構がギアの動きによって動作することにより、爪部20が前進あるいは後退するカム機構を利用した機構を用いることができる。爪部20は、待機孔18それぞれの周上の2つ以上の場所に設けられる。これにより、基板Sを安定して待機孔18に保持させることができる。
爪部20の傾斜面24は、面取り面22を下方から支持するだけであり、基板Sと接する領域は少ないので、面取り面22を傷つけることは少ない。
なお、爪部20の数は特に限定されないが、爪部20の数が4つ以上になると装置構成が複雑になるので、爪部20の数は2つ又は3つであることが好ましい。爪部20を2つ又は3つ設ける場合は、待機孔18の周上においてそれぞれ約180度、約120度毎に爪部20設けることが好ましい。
【0021】
図3は、他の一実施形態である、基板Sを待機孔18に保持するための爪部を説明する図である。
図3に示す爪部20は、基板Sの外周端に設けられた基板Sの主表面と直交する側壁面25に当接する、待機孔18それぞれの縁から待機孔18の内側に向かって突出する突起部28を有する。この突起部28が側壁面25に対して直交する方向から当接して基板Sを待機孔18それぞれの壁(突起部28と反対側にある壁)に押圧することにより、基板Sは待機孔18それぞれに摩擦力により保持される。爪部20の突起部28は、側壁面25を側方から押さえるが、突起部28が基板Sと接する領域は少ないので、側壁面25を傷つけることは少ない。
図3における爪部20の前進、後退の機構も、上述したように特に制限されず、ばね部材を利用した機構やカム機構を利用した機構を用いることができる。
【0022】
このような爪部20は後退することにより、
図4に示すように、待機孔18に保持されていた基板Sは、待機孔18から落下して、下方の下定盤に載せられたキャリア12の基板保持孔14に配置することができる。
図4は、一実施形態の基板配置支援治具において、基板Sが待機孔18から離脱する状態を説明する図である。
この場合、待機孔18と基板保持孔14は鉛直方向に正しく位置合わせしていなければ確実に基板Sを基板保持孔14に配置することはできない。このため、一実施形態によれば、治具本体16には位置合わせ部が設けられ、キャリア12に設けられた位置合わせ部と係止することができる。これにより、治具本体16は、キャリア12に対して適切な位置に配することができる。治具本体16の位置合わせ部は、例えば、治具本体16からキャリア12に向かって突出した突起あるいは孔であり、キャリア12の位置合わせ部は、上記突起を係止することができる、例えば孔または治具本体16に向かって突出した突起である。
【0023】
このように、爪部20は、基板Sを待機孔18それぞれから開放して落下させて下方にあるキャリア12の基板保持孔14のそれぞれに配置するために、爪部20が、待機孔18の領域に出入り自在に前進あるいは後退する機構になっているので、基板Sの主表面に傷を生じさせることなく、基板Sの外周端部に傷を発生させることなく、効率よくキャリア12の基板保持孔14に基板Sを配置することができる。
【0024】
待機孔18それぞれに設けられた爪部20は同時に後退するように構成されていることが、基板Sを同時にキャリア12の基板保持孔14に配置することができるので、好ましい。
【0025】
このような基板配置支援治具10は、基板Sをキャリア12の基板保持孔14に保持した状態で研磨処理を行う場合に好適に用いることができる。特に、研磨装置による研磨処理開始前、下定盤に対して上定盤が上方に移動してできる制限された空間を作業スペースとして基板Sを基板保持孔14に配置するセット作業を行うので、制限された空間において効率よく基板Sのセット作業を行うために、基板配置支援治具10を用いることが好ましい。したがって、一実施形態では、複数の基板保持孔14が設けられたキャリア12の基板保持孔14のそれぞれに基板Sを保持した状態で基板Sの主表面を研磨する研磨処理を含む基板Sの製造方法に、基板配置支援治具10が用いられる。 すなわち、基板の製造方法では、上述した基板配置支援治具10の待機孔18それぞれに、爪部20を待機孔18の縁から突出するように前進させて基板Sを保持した状態で、下定盤の上に配置したキャリア12の上方の位置で、治具本体16の爪部20を後退させることにより、基板Sを待機孔18から開放して落下させる。これにより、下方にあるキャリア12の基板保持孔14のそれぞれに基板Sは配置される。この後、キャリア12に配置された基板Sを、上定盤及び下定盤で挟んで相対移動させることにより、基板Sを研磨する。
治具本体16を、キャリア12の上方の位置に配置する場合、例えば、キャリア12の表面(主表面)と治具本体16の表面(主表面)とが接するように治具本体16をキャリア12に重ねてもよいし、キャリア12の表面(主表面)から治具本体16の表面(主表面)が少し離れるように治具本体16を配置してもよい。
【0026】
(研磨装置)
図5及び
図6を参照して研磨装置の構成をさらに具体的に説明する。
図5,6は、一実施形態の研磨処理に用いる研磨装置の構成を示す図である。
研磨装置において、下定盤60の上面および上定盤40の下面には、研磨パッド30が貼り付けられている。
図5では、研磨パッド30はシート状に記されている。研磨パッド30には、例えば、発泡ウレタン樹脂等を用いることができる。
【0027】
研磨装置による研磨対象の基板Sの素材や製造方法は、特に制限されない。基板Sの素材は、例えばガラスやアルミニウム合金である。また、これらの表面にNiP(ニッケルリン)合金の層を有していてもよい。基板Sが磁気ディスク用基板である場合、基板Sのサイズは、例えば、公称直径3.5インチや2.5インチの磁気ディスク用基板のサイズである。基板Sが公称直径3.5インチの磁気ディスク用基板の場合、例えば、外径は、94mm~98mmであり、内径は約25mmである。基板Sが公称直径2.5インチの磁気ディスク用基板の場合、例えば、外径は、56mm~68mmであり、内径は約20mmである。基板Sの板厚は、例えば0.20mm~1.3mm、好ましくは0.30mm~0.7mmである。
基板Sは、ガラス板の場合、例えば、大きなシートガラスに対してスクライビング及びカッティングを行って円盤形状のガラス板を形成する。すなわち、スクライバを用いてガラス板に切り欠き線を形成し、加熱等によって切り欠き線に沿ってクラックを発生させて割断させる方法が用いられる。
また、基板Sがガラス板の場合、例えば、大きなガラス板からレーザー光を用いて、基板Sのサイズに比べてやや大きめの円板形状のガラス板を形成してもよい。また、フッ酸等のエッチング液を用いたウェットエッチングにより円板形状のガラス板を形成してもよい。
ガラスブランクを切り出す前の大きなシートガラスは、例えば、フローティング法あるいはダウンドロー法を用いて作製された一定の板厚のガラス板である。あるいは、ガラスの塊を、金型を用いてプレス成形した基板であってもよい。
さらに、円板状のガラスブランクに、同心円の円孔をあけるために、スクライバを用いて円孔をあける。スクライバを用いて円孔をあける代わりに、レーザー光の照射により、あるいはエッチングにより、円孔をあけてもよい。こうして得られた円盤形状の基板Sの端面(外周端部の端面及び内周端部の端面)に面取り面22を形成するために、総型砥石による形状加工が行われる。総型砥石による形状加工の代わりにレーザー光Lによる形状加工を用いてもよい。
【0028】
キャリア12は、円盤状の基板Sを上定盤40と下定盤60で挟んで基板Sの主表面を研磨処理する際に、基板Sを保持するための基板保持孔14を有する。キャリア12は、外周部に設けられて太陽歯車61及び内歯車62に噛合する歯部31と、基板Sを収容し保持するための複数の基板保持孔14とを有する。太陽歯車61、外縁に設けられた内歯車62および円盤状のキャリア12は全体として、中心軸CTR(
図6参照)を中心とする遊星歯車機構を構成する。円盤状のキャリア12は、研磨装置内側で太陽歯車61に噛合し、かつ研磨装置外側で内歯車62に噛合するとともに、基板Sを複数収容し保持する。下定盤60上では、キャリア12が遊星歯車として自転しながら公転し、基板Sと下定盤60とが相対的に移動させられる。例えば、太陽歯車61が反時計回りの方向に回転すれば、キャリア12は時計回りの方向に回転し、内歯車62は反時計回りの方向に回転する。その結果、下定盤60と基板Sの間に相対運動が生じる。同様にして、基板Sと上定盤40とを相対的に移動させる。
【0029】
上記相対運動の動作中には、上定盤40がキャリア12に保持された基板Sに対して(つまり、鉛直方向に)所定の圧力で押圧し、これにより基板Sに対して研磨パッド30が押圧される。また、
図6に示すように、ポンプ(不図示)によって研磨スラリが、供給タンク71から1または複数の配管72を経由して基板Sと研磨パッド30との間に供給される。
以上の研磨装置を用いて基板Sの主表面が研磨される。
【0030】
基板Sの研磨処理は、一実施形態によれば、第1研磨及び第2研磨を含む。
第1研磨では、基板Sの外側端面を、上述の両面研磨装置のキャリア12に設けられた基板保持孔14内に保持しながら基板Sの両側の主表面の研磨が行われる。第1研磨は、微小な表面凹凸(マイクロウェービネス、粗さ)の調整を目的とする。
第1研磨処理に用いる遊離砥粒として、例えば、酸化セリウム、あるいはジルコニア等の砥粒が用いられる。研磨砥粒の大きさは、平均粒径(D50)で例えば、0.5~3μmの範囲内である。
【0031】
基板Sがガラス板である場合、第1研磨後、化学強化してもよい。この場合、化学強化液として、例えば硝酸カリウムと硝酸ナトリウムの混合熔融液等を用い、ガラス板を化学強化液中に浸漬する。これにより、イオン交換によってガラス板の表面に圧縮応力層を形成することができる。
【0032】
次に、基板Sに第2研磨が施される。第2研磨処理は、上述の両面研磨装置のキャリア12に設けられた基板保持孔14内に保持しながら基板Sの両側の主表面の研磨が行われる。第2研磨処理では、第1研磨処理に対して、遊離砥粒の種類及び粒子サイズが異なり、樹脂ポリッシャの硬度が異なる。樹脂ポリッシャの硬度は第1研磨処理時よりも小さいことが好ましい。例えばコロイダルシリカを遊離砥粒として含む研磨液が両面研磨装置の研磨パッドとガラス板の主表面との間に供給され、ガラス板の主表面が研磨される。第2研磨に用いる研磨砥粒の大きさは、平均粒径(D50)で、例えば5~50nmの範囲内であることが好ましい。
なお、円盤状の基板Sは、第1研磨を行う前に、“研削”処理を行ってもよい。“研削”処理において研磨装置と同様のキャリアを含む構成の装置を用いる場合、基板配置支援治具10を用いることができる。また、上記の実施形態では2回の研磨処理を行ったが、研磨処理は1回としてもよい。
このようにして、基板Sに、第1研磨、第2研磨を行って目標とする表面凹凸の基板が製造される。
【0033】
上述の説明では、基板配置支援治具10に適用する基板Sとして、内孔の開いていない円板状の基板を用いて説明したが、基板Sは、円形状の基板の他に、同心円状の内孔が開いた円盤形状の基板でもよく、さらには、四角形などの多角形基板、シリコンウエハーなどの半導体基板であってもよい。
【0034】
以上、本発明の基板配置支援治具及び基板の製造方法について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよいのはもちろんである。
【符号の説明】
【0035】
10 基板配置支援治具
12 キャリア
14 基板保持孔
16 治具本体
18 待機孔
20 爪部
22 面取り面
24 傾斜面
25 側壁面
26 操作部
28 突起部
30 研磨パッド
31 歯部
40 上定盤
60 下定盤
61 太陽歯車
62 内歯車
71 タンク
72 配管