(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-07
(45)【発行日】2023-06-15
(54)【発明の名称】ヒト化抗体およびその使用方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/13 20060101AFI20230608BHJP
C07K 16/18 20060101ALI20230608BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20230608BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20230608BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20230608BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20230608BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20230608BHJP
C12P 21/08 20060101ALI20230608BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20230608BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230608BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20230608BHJP
G01N 33/574 20060101ALI20230608BHJP
【FI】
C12N15/13 ZNA
C07K16/18
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12P21/08
A61K39/395 N
A61P35/00
G01N33/53 V
G01N33/574 B
(21)【出願番号】P 2021552463
(86)(22)【出願日】2020-10-16
(86)【国際出願番号】 JP2020039075
(87)【国際公開番号】W WO2021075545
(87)【国際公開日】2021-04-22
【審査請求日】2022-04-15
(31)【優先権主張番号】P 2019191560
(32)【優先日】2019-10-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002912
【氏名又は名称】住友ファーマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【氏名又は名称】當麻 博文
(72)【発明者】
【氏名】的野 光洋
(72)【発明者】
【氏名】左海 順
(72)【発明者】
【氏名】長井 徹
(72)【発明者】
【氏名】田沼 直樹
(72)【発明者】
【氏名】ビューイック リチャード
【審査官】中野 あい
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/157102(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/157105(WO,A1)
【文献】特表2012-532846(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ムチンサブタイプ5ACとの結合能を有するヒト化抗体であって、
(1)配列番号1で示されるアミノ酸配列と95%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列
からなる重鎖可変領域と、
(7)配列番号7で示されるアミノ酸配列と95%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列
からなる軽鎖可変領域と、
を有し、安定な物性および腫瘍集積性を有するヒト化抗体、またはその抗原結合断片。
【請求項2】
ムチンサブタイプ5ACとの結合能を有するヒト化抗体であって、
(1)配列番号1で示されるアミノ酸配列と98%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列、
(3)配列番号3で示されるアミノ酸配列と98%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列、もしくは
(4)配列番号4で示されるアミノ酸配列と98%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列、
からなる重鎖可変領域と、
(5)配列番号5で示されるアミノ酸配列と98%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列、
(6)配列番号6で示されるアミノ酸配列と98%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列、
(7)配列番号7で示されるアミノ酸配列と98%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列、もしくは、
(8)配列番号8で示されるアミノ酸配列と98%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列、
からなる軽鎖可変領域と、
を有し、安定な物性および腫瘍集積性を有するヒト化抗体、またはその抗原結合断片。
【請求項3】
(1)配列番号1で示されるアミノ酸配列と99%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列、
(3)配列番号3で示されるアミノ酸配列と99%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列、もしくは
(4)配列番号4で示されるアミノ酸配列と99%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列、
からなる重鎖可変領域と、
(5)配列番号5で示されるアミノ酸配列と99%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列、
(6)配列番号6で示されるアミノ酸配列と99%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列、
(7)配列番号7で示されるアミノ酸配列と99%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列、もしくは、
(8)配列番号8で示されるアミノ酸配列と99%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列、
からなる軽鎖可変領域と、
を有する請求項2に記載のヒト化抗体、またはその抗原結合断片。
【請求項4】
(1)配列番号1で示されるアミノ酸配列、
(3)配列番号3で示されるアミノ酸配列、もしくは
(4)配列番号4で示されるアミノ酸配列、
からなる重鎖可変領域と、
(5)配列番号5で示されるアミノ酸配列、
(6)配列番号6で示されるアミノ酸配列、
(7)配列番号7で示されるアミノ酸配列、もしくは、
(8)配列番号8で示されるアミノ酸配列、
からなる軽鎖可変領域と、
を有する請求項2または3に記載のヒト化抗体、またはその抗原結合断片。
【請求項5】
配列番号1で示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域、および配列番号7で示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を有する請求項1から4のいずれか1項に記載のヒト化抗体、またはその抗原結合断片。
【請求項6】
ムチンサブタイプ5ACとの結合能を有するヒト化抗体であって、
(1)配列番号1で示されるアミノ酸配列、
(3)配列番号3で示されるアミノ酸配列、もしくは
(4)配列番号4で示されるアミノ酸配列、
からなる重鎖可変領域と、
(5)配列番号5で示されるアミノ酸配列、
(6)配列番号6で示されるアミノ酸配列、
(7)配列番号7で示されるアミノ酸配列、もしくは、
(8)配列番号8で示されるアミノ酸配列、
からなる軽鎖可変領域と、
を有するヒト化抗体、またはその抗原結合断片。
【請求項7】
ムチンサブタイプ5ACとの結合能を有するヒト化抗体であって、
配列番号1で示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域、および配列番号7で示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を有するヒト化抗体、またはその抗原結合断片。
【請求項8】
モノクローナル抗体である、請求項1から7のいずれか1項に記載のヒト化抗体、またはその抗原結合断片。
【請求項9】
前記安定な物性が、
(1)変性中点温度が50℃以上、および
(2)凝集開始温度が50℃以上
から選択される1以上からなる請求項1から
5および
8のいずれか1項に記載のヒト化抗体、またはその抗原結合断片。
【請求項10】
前記抗体のインビトロ結合活性が、キメラ抗体と同程度またはそれ以上である、請求項1から
9のいずれか1項に記載のヒト化抗体。
【請求項11】
請求項1から
10のいずれか1項に記載のヒト化抗体またはその抗原結合断片を含む組成物。
【請求項12】
請求項1から
10のいずれか1項に記載のヒト化抗体またはその抗原結合断片、および薬学的に許容される担体を含む医薬組成物。
【請求項13】
請求項1から
10のいずれか1項に記載のヒト化抗体またはその抗原結合断片、および薬学的に許容される担体を含む、ムチンサブタイプ5ACが過剰発現しているがんを治療するための医薬組成物。
【請求項14】
前記がんが、膵がん、甲状腺がん、肝臓がん、大腸がん、胃がん、尿路上皮がん、乳がん、子宮頸がん、卵巣がん、子宮内膜がん、または胆管がんである請求項
13に記載の医薬組成物。
【請求項15】
請求項1から
10のいずれか1項に記載のヒト化抗体をコードする核酸。
【請求項16】
請求項
15に記載の核酸を含む発現ベクター。
【請求項17】
請求項
16に記載の発現ベクターを含む宿主細胞。
【請求項18】
請求項
17に記載の宿主細胞におけるヒト化抗体またはその抗原結合断片の製造方法であって、
(1)請求項1から
10のいずれか1項に記載のヒト化抗体またはその抗原結合断片をコードする核酸を発現ベクターに挿入する工程、
(2)前記核酸を含む発現ベクターにより宿主細胞に上記核酸を導入する工程、
(3)前記発現ベクターを含む宿主細胞を培養する工程、および
(4)前記宿主細胞の培養上清から前記ヒト化抗体またはその抗原結合断片を、クロマトグラフィーで精製することにより単離する工程
を含む、ヒト化抗体またはその抗原結合断片の製造方法。
【請求項19】
請求項
11に記載の組成物、または請求項
12から
14のいずれか1項に記載の医薬組成物の製造のための請求項1から
10のいずれか1項に記載のヒト化抗体またはその抗原結合断片の使用。
【請求項20】
インビトロにおいて細胞または組織におけるムチンサブタイプ5ACの発現量を評価する方法であって、
(1)請求項1から
10のいずれか1項に記載のヒト化抗体またはその抗原結合断片にそれの検出を可能とする標識を付し、標識を付したヒト化抗体またはその抗原結合断片を得る工程、
(2)前記細胞または組織を、前記標識を付したヒト化抗体またはその抗原結合断片と接触させる工程、および
(3)前記細胞または組織に結合した前記標識の量を測定し、それによって該細胞または組織中に発現しているムチンサブタイプ5ACの発現量を評価する工程、を含む方法。
【請求項21】
請求項1から
10のいずれか1項に記載のヒト化抗体またはその抗原結合断片および薬学的に許容される担体を含む医薬組成物の有効量を含有する、ムチンサブタイプ5ACが過剰発現しているがんの治療薬。
【請求項22】
インビトロにおいて対象におけるムチンサブタイプ5ACが過剰発現しているがんの体積を測定する方法であって、
(1)請求項1から
10のいずれか1項に記載のヒト化抗体またはその抗原結合断片にそれの検出を可能とする標識を付し、標識を付したヒト化抗体またはその抗原結合断片を得る工程、
(2)対象の組織および健常な対象の組織を、前記標識を付したヒト化抗体またはその抗原結合断片と接触させる工程、
(3)前記対象の組織および健常な対象の組織における前記標識の量を測定する工程、および
(4)前記対象の組織において測定された前記標識の量と、前記健常な対象の組織において測定された前記標識の量である基準量とを比較する工程を含み、前記対象で測定された量が前記基準量よりも多い部分が、がん組織であるとしてその体積を測定する工程。
【請求項23】
抗体またはその抗原結合抗体断片の検出を可能とする標識を付した、請求項1から
10のいずれか1項に記載のヒト化抗体またはその抗原結合断片を含む、ムチンサブタイプ5ACが過剰発現しているがんの治療および/または診断をするためのキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ムチンサブタイプ5AC(MUC5AC)に特異的に結合するヒト化抗体またはその抗原結合断片、およびその使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ムチンは動物の上皮細胞などから分泌される粘液の主成分であり分子量100万~1000万の糖を多量に含む糖タンパク質である。ムチンには上皮細胞などが産生する分泌型ムチンと、疎水性の膜貫通部位を持ち細胞膜に結合した状態で存在する膜結合型ムチンがある。ムチンのコアタンパクは総称してMUCと呼ばれており、コアタンパクをコードする遺伝子は少なくとも20種類あることがわかっている。その内の1種であるMUC5ACは分泌型ムチンに属する。
【0003】
MUC5ACは、正常組織では胃や気管において発現しているが、膵がんでの過剰発現が報告されており、その他にも甲状腺がん、肝臓がん、大腸がん、胃がん、尿路上皮がん、乳がん、子宮頸がん、卵巣がん、子宮内膜がん、または胆管がんでも過剰発現が報告されている。MUC5ACに対する抗体については、ヒト膵がん細胞株SW1990のxenograftより精製した膵がんムチン分画を抗原として作製したマウス抗体や、それを元に作製されたキメラ抗体(特許文献1、2、非特許文献1、2)、ヒト化抗体(特許文献3)の報告がある。
【0004】
近年、抗腫瘍効果のある薬物を、がん細胞へのターゲッティング能を有する抗体にコンジュゲートさせた、抗体薬物複合体の開発が盛んに行われている。例えば抗体薬物複合体用のデリバリーツールとして抗体を使用することを想定した場合には、抗体をさらに製造工程(例えばコンジュゲート工程)に供する必要があるため、製造工程中での抗体の変性や凝集が懸念される。したがって、製造に用いる抗体には、通常の抗体医薬品よりも、抗体として安定な物性が求められる。また、別の観点からは、抗体薬物複合体用のデリバリーツールとして抗体を使用することを想定した場合には、非常に高い殺細胞効果を有する薬物が正常組織に分布すると甚大な副作用に繋がることから、抗体薬物複合体に用いる抗体には、通常の抗体医薬品よりも、抗体として安定な物性、腫瘍組織への高い集積性が求められる。
【0005】
非特許文献1、2に開示されているキメラ抗体は、in vivoでの腫瘍集積性、さらには膵がん患者においても腫瘍集積性が確認されているが、肝臓や腎臓への集積も見られているため、医薬品への適用には腫瘍集積性をさらに向上させることが必要である。また非特許文献1、2には、抗体の物性(変性、凝集性)についての情報は全く開示されていない。
【0006】
さらに、非特許文献1、2で開示されているキメラ抗体について種々の物性を評価したところ、熱をかけた際に抗体が変性、凝集しやすく(変性中点温度および凝集開始温度が低く)、例えば抗体薬物複合体用のデリバリーツールとして使用することを想定した場合には実用性が低いことが明らかとなった。抗体をその後の製造工程(例えばコンジュゲート工程)に供する場合は、出来得る限り物性の良好な抗体(変性、凝集を起こしにくい抗体)を使用した方がよいことはいうまでもない。
【0007】
特許文献3にはヒト化抗体が開示されているが、そのヒト化抗体はMUC5ACに対して結合活性の高いヒト化抗体を取得することに主眼を置いており、抗体の安定性に関しては何ら開示、示唆がない。さらに、特許文献3で開示されているヒト化抗体について種々の物性を評価したところ、熱をかけた際に抗体が凝集しやすく(凝集開始温度が低く)、例えば抗体薬物複合体用のデリバリーツールとして使用することを想定した場合には実用性が低いことが明らかとなった。抗体の変性や凝集は、化合物の有効性低下や副作用発生に繋がるリスクが考えられるため、出来得る限り避けることが望ましい。また、後述する変性中点温度や凝集開始温度は、冷蔵等での長期的な保存安定性とも相関することが知られており、製造工程中だけではなく保存中の安定性という観点でも、抗体の変性や凝集を起こしにくい、良好な物性を有した抗体の開発が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平7-203974号公報
【文献】特開平11-5749号公報
【文献】WO 2013/157102
【非特許文献】
【0009】
【文献】日本臨牀64巻 増刊号1,2006,p274-278
【文献】Japanese Journal of Cancer Research, 90, 1179-1186, 1999
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
よって本発明の課題は、安定な物性を有し、腫瘍集積性に優れ、かつムチンサブタイプ5ACとの結合能を有するヒト化抗体またはその抗原結合断片を提供することにある。より具体的には、熱をかけた際に変性や凝集を起こしにくく、かつムチンサブタイプ5ACとの結合能を有するヒト化抗体またはその抗原結合断片、また、正常組織よりも腫瘍組織への集積性が高く、かつムチンサブタイプ5ACとの結合能を有するヒト化抗体またはその抗原結合断片を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討したところ、以下の手段により当該課題を解決することを見出すに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、以下の通りである。
[1]
ムチンサブタイプ5ACとの結合能を有するヒト化抗体であって、
(1)配列番号1で示されるアミノ酸配列、配列番号1で示されるアミノ酸配列と90%以上もしくは95%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列、もしくは配列番号1で示されるアミノ酸配列において10個以下もしくは5個以下のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加したアミノ酸配列、
(2)配列番号2で示されるアミノ酸配列、配列番号2で示されるアミノ酸配列と90%以上もしくは95%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列、もしくは配列番号2で示されるアミノ酸配列において10個以下もしくは5個以下のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加したアミノ酸配列、
(3)配列番号3で示されるアミノ酸配列、配列番号3で示されるアミノ酸配列と90%以上もしくは95%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列、もしくは配列番号3で示されるアミノ酸配列において10個以下もしくは5個以下のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加したアミノ酸配列、もしくは
(4)配列番号4で示されるアミノ酸配列、配列番号4で示されるアミノ酸配列と90%以上もしくは95%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列、もしくは配列番号4で示されるアミノ酸配列において10個以下もしくは5個以下のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加したアミノ酸配列、
からなる重鎖可変領域と、
(5)配列番号5で示されるアミノ酸配列、配列番号5で示されるアミノ酸配列と90%以上もしくは95%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列、もしくは配列番号5で示されるアミノ酸配列において10個以下もしくは5個以下のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加したアミノ酸配列、
(6)配列番号6で示されるアミノ酸配列、配列番号6で示されるアミノ酸配列と90%以上もしくは95%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列、もしくは配列番号6で示されるアミノ酸配列において10個以下もしくは5個以下のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加したアミノ酸配列、
(7)配列番号7で示されるアミノ酸配列、配列番号7で示されるアミノ酸配列と90%以上もしくは95%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列、もしくは配列番号7で示されるアミノ酸配列において10個以下もしくは5個以下のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加したアミノ酸配列、もしくは、
(8)配列番号8で示されるアミノ酸配列、配列番号8で示されるアミノ酸配列と90%以上もしくは95%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列、もしくは配列番号8で示されるアミノ酸配列において10個以下もしくは5個以下のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加したアミノ酸配列、
からなる軽鎖可変領域と、
を有するもしくはからなるヒト化抗体、またはその抗原結合断片。
【0013】
[2]
前記重鎖可変領域が、
(1)配列番号1で示されるアミノ酸配列、配列番号1で示されるアミノ酸配列と90%以上もしくは95%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列、もしくは配列番号1で示されるアミノ酸配列において10個以下もしくは5個以下のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加したアミノ酸配列、
(3)配列番号3で示されるアミノ酸配列、配列番号3で示されるアミノ酸配列と90%以上もしくは95%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列、もしくは配列番号3で示されるアミノ酸配列において10個以下もしくは5個以下のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加したアミノ酸配列、もしくは
(4)配列番号4で示されるアミノ酸配列、配列番号4で示されるアミノ酸配列と90%以上もしくは95%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列、もしくは配列番号4で示されるアミノ酸配列において10個以下もしくは5個以下のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加したアミノ酸配列、
からなる[1]に記載のヒト化抗体、またはその抗原結合断片。
【0014】
[3]
(1)配列番号1で示されるアミノ酸配列、配列番号1で示されるアミノ酸配列と90%以上もしくは95%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列、もしくは配列番号1で示されるアミノ酸配列において10個以下もしくは5個以下のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加したアミノ酸配列、からなる重鎖可変領域、および
(7)配列番号7で示されるアミノ酸配列、配列番号7で示されるアミノ酸配列と90%以上もしくは95%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列、もしくは配列番号7で示されるアミノ酸配列において10個以下もしくは5個以下のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加したアミノ酸配列、からなる軽鎖可変領域、を有するもしくはからなる[1]もしくは[2]に記載のヒト化抗体、またはその抗原結合断片。
【0015】
[4]
配列番号1で示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域、および、配列番号5で示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を有するもしくはからなる[1]又は[2]に記載のヒト化抗体、またはその抗原結合断片。
【0016】
[5]
配列番号1で示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域、および、配列番号6で示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を有するもしくはからなる[1]又は[2]に記載のヒト化抗体、またはその抗原結合断片。
【0017】
[6]
配列番号1で示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域、および、配列番号7で示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を有するもしくはからなる[1]から[3]のいずれか1つに記載のヒト化抗体、またはその抗原結合断片。
【0018】
[7]
配列番号1で示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域、および、配列番号8で示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を有するもしくはからなる[1]又は[2]に記載のヒト化抗体、またはその抗原結合断片。
【0019】
[8]
配列番号3で示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域、および、配列番号5で示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を有するもしくはからなる[1]又は[2]に記載のヒト化抗体、またはその抗原結合断片。
【0020】
[9]
配列番号3で示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域、および、配列番号6で示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を有するもしくはからなる[1]又は[2]に記載のヒト化抗体、またはその抗原結合断片。
【0021】
[10]
配列番号3で示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域、および、配列番号7で示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を有するもしくはからなる[1]又は[2]に記載のヒト化抗体、またはその抗原結合断片。
【0022】
[11]
配列番号3で示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域、および、配列番号8で示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を有するもしくはからなる[1]又は[2]に記載のヒト化抗体、またはその抗原結合断片。
【0023】
[12]
配列番号4で示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域、および、配列番号5で示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を有するもしくはからなる[1]又は[2]に記載のヒト化抗体、またはその抗原結合断片。
【0024】
[13]
配列番号4で示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域、および、配列番号6で示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を有するもしくはからなる[1]又は[2]に記載のヒト化抗体、またはその抗原結合断片。
【0025】
[14]
配列番号4で示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域、および、配列番号7で示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を有するもしくはからなる[1]又は[2]に記載のヒト化抗体、またはその抗原結合断片。
【0026】
[15]
配列番号4で示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域、および、配列番号8で示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を有するもしくはからなる[1]又は[2]に記載のヒト化抗体、またはその抗原結合断片。
【0027】
[16]
前記抗体または抗原結合断片が、単離抗体または単離抗原結合断片である、[1]から[15]のいずれか1つに記載のヒト化抗体、またはその抗原結合断片。
【0028】
[17]
前記抗体が、ポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体である、[1]から[16]のいずれか1つに記載のヒト化抗体、またはその抗原結合断片。
【0029】
[18]
前記抗体の最頻出粒子径(Pk1 Mode Dia.)が、20nm以下、15nm以下、12nm以下、11nm以下または10nm以下である、[1]から[17]のいずれか1つに記載のヒト化抗体。
【0030】
[19]
前記抗体の変性中点温度(Tm1)が、50℃以上、55℃以上、56℃以上、57℃以上、58℃以上、59℃以上または60℃以上である、[1]から[18]のいずれか1つに記載のヒト化抗体。
【0031】
[20]
前記抗体の凝集開始温度(Tagg)が、50℃以上、55℃以上、60℃以上、61℃以上、62℃以上、63℃以上、64℃以上または65℃以上である、[1]から[19]のいずれか1つに記載のヒト化抗体。
【0032】
[21]
前記抗体のムチンサブタイプ5ACへのインビトロ結合活性が、キメラ抗体と同程度またはそれ以上である、[1]から[20]のいずれか1つに記載のヒト化抗体。
【0033】
[22]
前記抗体の投与7日後における、肝臓組織への集積性に対する、ムチンサブタイプ5ACが発現している腫瘍組織への集積性が、10倍以上、11倍以上、12倍以上、13倍以上、14倍以上、15倍以上、16倍以上、17倍以上、18倍以上、19倍以上または20倍以上である、[1]から[21]のいずれか1つに記載のヒト化抗体。
【0034】
[23]
前記抗体の投与7日後における、腎臓組織への集積性に対する、ムチンサブタイプ5ACが発現している腫瘍組織への集積性が、10倍以上、11倍以上、12倍以上、13倍以上、14倍以上、15倍以上、16倍以上または17倍以上である、[1]から[22]のいずれか1つに記載のヒト化抗体。
【0035】
[24]
[1]から[23]のいずれか1つに記載のヒト化抗体またはその抗原結合断片を含む組成物。
【0036】
[25]
[1]から[23]のいずれか1つに記載のヒト化抗体またはその抗原結合断片、および薬学的に許容される担体を含む医薬組成物。
【0037】
[26]
[1]から[23]のいずれか1つに記載のヒト化抗体またはその抗原結合断片、および薬学的に許容される担体を含む、ムチンサブタイプ5ACが過剰発現しているがんを治療するための医薬組成物。
【0038】
[27]
前記がんが、膵がん、甲状腺がん、肝臓がん、大腸がん、胃がん、尿路上皮がん、乳がん、子宮頸がん、卵巣がん、子宮内膜がん、または胆管がんである[26]に記載の医薬組成物。
【0039】
[28]
前記がんが膵がんである[27]に記載の医薬組成物。
【0040】
[29]
[1]から[23]のいずれか1つに記載のヒト化抗体またはその抗原結合断片に診断および/または治療に用いる薬剤が連結している、抗体-薬剤連結体。
【0041】
[30]
前記薬剤が、毒素、蛍光標識用物質、核酸医薬、ウイルスベクター、ナノパーティクル、低分子薬剤またはサイトカインである、[29]に記載の抗体-薬剤連結体。
【0042】
[31]
前記ヒト化抗体または抗原結合断片と薬剤がリンカーにより連結している、[29]または[30]に記載の抗体-薬剤連結体。
【0043】
[32]
前記リンカーが、PEGリンカー、マレイミドリンカー、PAS化(PASylation)リンカー、HES化(HESylation)リンカー、ビス(スルホスクシンイミジル)スベラートリンカー、核酸リンカー、ペプチドリンカー、シランリンカー、多糖リンカー、温度感受性もしくは照射(IR, 近IR, UV)感受性の結合であるリンカー、pH感受性の結合であるリンカー、加水分解性リンカー、ならびに共有結合、アミド結合、炭素-炭素多重結合への付加、アジドアルキンへのヒュスゲン環化付加、ディールス・アルダー反応、ジスルフィド結合、マイケル付加、シラン結合、ウレタン、エポキシドの求核開環反応、非アルドールカルボニル化学作用、および1,3-双極子付加反応もしくはトシル化等の環化付加反応により作成されるリンカー、からなる群より選択される1個から数個のリンカーである[31]に記載の抗体-薬剤連結体。
【0044】
[33]
[29]から[32]のいずれか1つに記載の抗体-薬剤連結体、および薬学的に許容される担体を含む医薬組成物。
【0045】
[34]
[1]から[23]のいずれか1つに記載のヒト化抗体をコードする核酸。
【0046】
[35]
[34]に記載の核酸を含む発現ベクター。
【0047】
[36]
[35]に記載の発現ベクターを含む宿主細胞。
【0048】
[37]
[1]から[23]のいずれか1つに記載のヒト化抗体またはその抗原結合断片の製造方法であって、
(1)前記ヒト化抗体またはその抗原結合断片をコードする核酸を発現ベクターに挿入する工程、
(2)前記核酸を含む発現ベクターにより宿主細胞に上記核酸を導入する工程、
(3)前記発現ベクターを含む宿主細胞を培養する工程、および
(4)前記宿主細胞の培養上清から前記ヒト化抗体またはその抗原結合断片を、クロマトグラフィーで精製することにより単離する工程
を含む、ヒト化抗体またはその抗原結合断片の製造方法。
【0049】
[38]
[24]に記載の組成物、[25]から[28]および[33]のいずれか1つに記載の医薬組成物、または[29]から[32]のいずれか1つに記載の抗体-薬剤連結体の製造のための[1]から[23]のいずれか1つに記載のヒト化抗体またはその抗原結合断片の使用。
【0050】
[39]
細胞または組織におけるムチンサブタイプ5ACの発現量を評価する方法であって、
(1)[1]から[23]のいずれか一つに記載のヒト化抗体またはその抗原結断片にそれの検出を可能とする標識を付し、標識を付したヒト化抗体またはその抗原結合断片を得る工程、
(2)前記細胞または組織を、前記標識を付したヒト化抗体またはその抗原結合断片と接触させる工程、および
(3)前記細胞または組織に結合した前記標識の量を測定し、それによって該細胞または組織中に発現しているムチンサブタイプ5ACの発現量を評価する工程、を含む方法。
【0051】
[40]
[1]から[23]のいずれか1つに記載のヒト化抗体もしくはその抗原結合断片、または[29]から[32]のいずれか1つに記載の抗体-薬剤連結体、および薬学的に許容される担体を含む医薬組成物の有効量を含有する、ムチンサブタイプ5ACが過剰発現しているがんの治療薬。
【0052】
[41]
がん細胞の数を減少させる、および/または、腫瘍の大きさを縮小させる、[40]に記載のがんの治療薬。
【0053】
[42]
対象におけるムチンサブタイプ5ACが過剰発現しているがんの体積を測定する方法であって、
(1)[1]から[23]のいずれか1つに記載のヒト化抗体またはその抗原結合断片にそれの検出を可能とする標識を付し、標識を付したヒト化抗体またはその抗原結合断片を得る工程、
(2)対象の組織および正常な組織を、前記標識を付したヒト化抗体またはその抗原結合断片と接触させる工程、
(3)前記対象の組織および正常な組織における前記標識の量を測定する工程、および
(4)前記対象の組織において測定された前記標識の量と、前記正常な組織において測定された前記標識の量である基準量とを比較する工程を含み、前記対象の組織で測定された量が前記基準量よりも多い部分が、がん組織であるとしてその体積を測定する工程。
【0054】
[43]
対象が、ムチンサブタイプ5ACが過剰発現しているがんに罹患しているか否かを診断する方法であって、
(1)[1]から[23]のいずれか1つに記載のヒト化抗体またはその抗原結合断片にそれの検出を可能とする標識を付し、標識を付したヒト化抗体またはその抗原結合断片を得る工程、
(2)対象の細胞または組織、および正常な細胞または組織を、前記標識を付したヒト化抗体またはその抗原結合断片と接触させる工程、
(3)前記対象の細胞または組織、および前記正常な細胞または組織における前記標識の量を測定する工程、および
(4)前記対象の細胞または組織において測定された前記標識の量と、前記正常な細胞または組織において測定された前記標識の量である基準量とを比較し、前記対象の細胞または組織で測定された量が前記基準量よりも有意に多い場合には、前記対象はムチンサブタイプ5ACが過剰発現しているがんに罹患していると診断する工程、
を含む方法。
【0055】
[44]
前記接触させる工程をインビトロで行う、[42]または[43]に記載の方法。
【0056】
[45]
対象におけるムチンサブタイプ5ACが過剰発現しているがんの体積を測定する方法であって、
(1)[1]から[23]のいずれか1つに記載のヒト化抗体またはその抗原結合断片にそれの検出を可能とする標識を付し、標識を付したヒト化抗体またはその抗原結合断片を得る工程、
(2)前記標識を付したヒト化抗体またはその抗原結合断片が投与された前記対象の組織において前記標識を検出する工程、および
(3)上記(2)の工程で、標識を付したヒト化抗体またはその抗原結合断片の集積が認められる部分の体積を測定する工程、
を含む方法。
【0057】
[46]
対象が、ムチンサブタイプ5ACが過剰発現しているがんに罹患しているか否かを診断する方法であって、
(1)[1]から[23]のいずれか1つに記載のヒト化抗体またはその抗原結合断片にそれの検出を可能とする標識を付し、標識を付したヒト化抗体またはその抗原結合断片を得る工程、
(2)前記標識を付したヒト化抗体またはその抗原結合断片が投与された前記対象の組織において前記標識を検出する工程、および
(3)上記(2)の工程で、標識を付したヒト化抗体またはその抗原結合断片の集積が、前記対象の組織において認められた場合には、前記対象はムチンサブタイプ5ACが過剰発現しているがんに罹患していると診断する工程、
を含む方法。
【0058】
[47]
前記検出する工程をインビトロで行う、[45]または[46]に記載の方法。
【0059】
[48]
[1]から[23]のいずれか1つに記載のヒト化抗体またはその抗原結合断片および薬学的に許容される担体を含む医薬組成物の有効量を、がんに罹患している対象に投与することを含む、ムチンサブタイプ5ACが過剰発現しているがんを治療する方法。
【0060】
[49]
がん細胞の数を減少させる、および/または、腫瘍の大きさを縮小させる、[48]に記載の方法。
【0061】
[50]
対象が、ムチンサブタイプ5ACが過剰発現しているがんに罹患しているか否かを診断する方法であって、
(1)[1]から[23]のいずれか1つに記載のヒト化抗体またはその抗原結合断片にそれの検出を可能とする標識を付し、標識を付したヒト化抗体またはその抗原結合断片を得る工程、
(2)前記対象および健常な対象から細胞または組織を採取する工程、
(3)前記細胞または組織を、前記標識を付したヒト化抗体またはその抗原結合断片と接触させる工程、
(4)前記細胞または組織における前記標識の量を測定する工程、および
(5)前記対象から採取された前記細胞または組織において測定された前記標識の量が、前記健常な対象から採取された前記細胞または組織において測定された前記標識の量よりも有意に多い場合には、前記対象はムチンサブタイプ5ACが過剰発現しているがんに罹患していると診断する工程、
を含む方法。
【0062】
[51]
対象が、ムチンサブタイプ5ACが過剰発現しているがんに罹患しているか否かを診断する方法であって、
(1)[1]から[23]のいずれか1つに記載のヒト化抗体またはその抗原結合断片にそれの検出を可能とする標識を付し、標識を付したヒト化抗体またはその抗原結合断片を得る工程、
(2)前記対象に、前記標識を付したヒト化抗体またはその抗原結合断片を投与する工程、
(3)前記対象の組織において前記標識を検出する工程、および
(4)上記(3)の工程で、標識を付したヒト化抗体またはその抗原結合断片の集積が、前記対象の組織において認められた場合には、前記対象はムチンサブタイプ5ACが過剰発現しているがんに罹患していると診断する工程、
を含む方法。
【0063】
[52]
[50]または[51]に記載の方法において、ムチンサブタイプ5ACが過剰発現しているがんに罹患していると診断された対象に対して、[1]から[23]のいずれか1つに記載のヒト化抗体またはその抗原結合断片および薬学的に許容される担体を含む医薬組成物の有効量を投与する工程を含む、前記対象のがんを治療する方法。
【0064】
[53]
抗体またはその抗原結合抗体断片の検出を可能とする標識を付した、[1]から[23]のいずれか1つに記載のヒト化抗体またはその抗原結合断片を含む、ムチンサブタイプ5ACが過剰発現しているがんの治療および/または診断をするためのキット。
【発明の効果】
【0065】
本発明者らは課題を解決するために鋭意検討した結果、ムチンサブタイプ5ACとの結合能を有し、かつ、熱をかけた際にも変性、凝集を起こしにくいヒト化抗体、すなわち上記結合活性を有すると共に、変性中点温度および凝集開始温度が高く、正常組織よりも腫瘍組織への集積性が非常に高いヒト化抗体を見出すことに成功し、本発明を完成した。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【
図1】
図1は本発明のヒト化抗体の重鎖可変領域1~4(H01~H04)のアミノ酸配列を示す図である。
【
図2】
図2は本発明のヒト化抗体の軽鎖可変領域1~4(L01~L04)のアミノ酸配列を示す図である。
【
図3】
図3は特許文献3のヒト化抗体の重鎖可変領域5~6(H05~H06)と、軽鎖可変領域5~7(L05~L07)のアミノ酸配列を示す図である。
【
図4】
図4は特許文献1のキメラ抗体の重鎖可変領域7(H07)と、軽鎖可変領域8(L08)のアミノ酸配列を示す図である。
【
図5】
図5は実施例3-1(抗体3)の経時的なIn vivo腫瘍集積性を示す写真である。
図5の上段は1匹目のマウスの写真であり、下段は2匹目のマウスの写真である。また左から順に投与前、投与1日後、投与2日後、投与3日後、および投与7日後のマウスの写真である。
【発明を実施するための形態】
【0067】
(1)本発明のヒト化抗体
本発明は、特定の重鎖可変領域と軽鎖可変領域とを有し、ムチンサブタイプ5ACとの結合能を有するヒト化抗体、またはその抗原結合断片を提供する。本発明のヒト化抗体は安定な物性を有し、かつ、腫瘍集積性に優れていることを特徴とする。なお本発明のヒト化抗体は更に、特定の重鎖可変領域と軽鎖可変領域に加えて、適切な重鎖定常領域と軽鎖定常領域を有することができる。
【0068】
本明細書において「ヒト化抗体」とは、相補性決定領域(CDR)が非ヒト由来であり、CDR以外の重鎖可変領域および/または軽鎖可変領域の少なくとも一部が、より「ヒト様」、即ち、ヒト生殖系列可変配列とより類似するように変更されている抗体をいう。抗体の重鎖と軽鎖のそれぞれの可変領域に相補性決定領域が存在し、N末端側から相補性決定領域1(CDR1)、相補性決定領域2(CDR2)、相補性決定領域3(CDR3)と称される。フレームワーク領域は可変領域において相補性決定領域に隣接する領域であり、N末端側からフレームワーク領域1(FR1)、フレームワーク領域2(FR2)、フレームワーク領域3(FR3)、フレームワーク領域4(FR4)と称される。
【0069】
本明細書において「抗原結合断片」とは本発明のヒト化抗体の一部からなる抗体断片であって、かつムチンサブタイプ5ACとの結合能を有するものを意味する。ムチンサブタイプ5ACとの結合能を有する限り、抗原結合断片を構成するポリペプチドに含まれるアミノ酸の数は特に限定されるものではない。
【0070】
図1に本発明の重鎖可変領域のアミノ酸配列を示す。
図1の重鎖可変領域1(H01)、重鎖可変領域2(H02)、重鎖可変領域3(H03)、および重鎖可変領域4(H04)は、本明細書に添付した配列表の配列番号1~4に、それぞれ相当する。
図1において下線を付した部位はCDR部位である。
【0071】
図2に本発明の軽鎖可変領域のアミノ酸配列を示す。
図2の軽鎖可変領域1(L01)、軽鎖可変領域2(L02)、軽鎖可変領域3(L03)、および軽鎖可変領域4(L04)は、本明細書に添付した配列表の配列番号5~8に、それぞれ相当する。
図2において下線を付した部位はCDR部位である。
【0072】
言い換えれば本発明のヒト化抗体の重鎖可変領域は配列番号1から配列番号4のいずれか1つで示されるアミノ酸配列からなり、軽鎖可変領域は配列番号5から配列番号8のいずれか1つで示されるアミノ酸配列からなる。すなわち本発明のヒト化抗体は、上記で述べた4つの重鎖可変領域(H01~H04)と4つの軽鎖可変領域(L01~L04)の組み合わせからなる。
【0073】
本発明の4つの重鎖可変領域(H01~H04)と4つの軽鎖可変領域(L01~L04)は、キメラ抗体を基にして、ムチンサブタイプ5AC特異的抗体の可変領域をヒト化し、かつ、抗体の熱安定性、凝集性、腫瘍集積性が改善するように設計することにより得られたものである。なお抗原との結合に必要なCDR部位は変更していない。なお本明細書中における「キメラ抗体」とは、特段の記載がない限り、特許文献1に開示されたキメラ抗体を意味するものである。
【0074】
本発明において好適なヒト化抗体は重鎖可変領域がH01、H03、又はH04であり、かつ軽鎖可変領域がL01~L04のいずれか1つであるヒト化抗体である。
【0075】
本発明において最も好適なヒト化抗体は重鎖可変領域がH01であり軽鎖可変領域がL03であるヒト化抗体である。
【0076】
しかしながら本発明のヒト化抗体の重鎖可変領域は、配列番号1から配列番号4で示されるアミノ酸配列によって規定されるものに限定されず、機能を保持している変異体も含む。すなわち配列番号1から配列番号4で示されるアミノ酸配列と90%以上、好ましくは95%以上、更に好ましくは98%以上、最も好ましくは99%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなる変異した重鎖可変領域も、本発明の軽鎖可変領域と組み合わされたときにムチンサブタイプ5ACとの結合能を有する限り本発明の重鎖可変領域に包含される。
【0077】
本明細書においてアミノ酸配列の同一性とは、対象とする2つのタンパク質間のアミノ酸配列の同一性をいい、当該技術分野において公知の数学的アルゴリズムを用いて作成されたアミノ酸配列の最適なアラインメントにおいて一致するアミノ酸残基の割合(%)によって表される。アミノ酸配列の同一性は、視覚的検査及び数学的計算により決定することができ、当業者に周知のホモロジー検索プログラム(例えば、BLAST、FASTA)や配列整列プログラム(例えば、ClustalW)、あるいは遺伝情報処理ソフトウェア(例えば、GENETYX[登録商標])などを用いて算出することができる。本明細書におけるアミノ酸配列の同一性は、具体的には、DDBJ(DNA DataBank of Japan)のウェブサイトで公開されている系統解析プログラムClustalW(http://clustalw.ddbj.nig.ac.jp/index.php?lang=ja)を用い、初期設定の条件(Version2.1、Alignment type:slow、DNA Weight Matrix: Gonnet、GAP OPEN: 10、GAP EXTENSION: 0.1)で求めることができる。
【0078】
加えて、本発明のヒト化抗体の重鎖可変領域として、配列番号1から配列番号4で示されるアミノ酸配列において、10個以下、好ましくは8個以下、更に好ましくは5個以下、最も好ましくは3個以下のアミノ酸が欠失、置換、または付加したアミノ酸配列からなる変異した重鎖可変領域も、本発明の軽鎖可変領域と組み合わされたときにムチンサブタイプ5ACとの結合能を有する限り、本発明の重鎖可変領域に包含される。
【0079】
本発明のヒト化抗体の軽鎖可変領域は、配列番号5から配列番号8で示されるアミノ酸配列に限定されず、機能を保持している変異体も含む。すなわち配列番号5から配列番号8で示されるアミノ酸配列と90%以上、好ましくは95%以上、更に好ましくは98%以上、最も好ましくは99%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなる変異した軽鎖可変領域も、本発明の重鎖可変領域と組み合わされたときにムチンサブタイプ5ACとの結合能を有する限り本発明の軽鎖可変領域に包含される。
【0080】
加えて、本発明のヒト化抗体の軽鎖可変領域として、配列番号5から配列番号8で示されるアミノ酸配列において10個以下、好ましくは8個以下、更に好ましくは5個以下、最も好ましくは3個以下のアミノ酸が欠失、置換、または付加したアミノ酸配列からなる変異した軽鎖可変領域も、本発明の重鎖可変領域と組み合わされたときにムチンサブタイプ5ACとの結合能を有する限り、本発明の軽鎖可変領域に包含される。
【0081】
本発明のヒト化抗体または抗原結合断片は、単離抗体または単離抗原結合断片でああってもよい。すなわち本発明のヒト化抗体は、例えば本発明のヒト化抗体または抗原結合断片をコードする核酸を導入した宿主細胞の培養上清から単離されたものである。そのような核酸や宿主細胞については後に詳細に述べる。
【0082】
また本発明のヒト化抗体はポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体であってもよい。
【0083】
更に本発明のヒト化抗体は物性が安定であって凝集を起こしにくい。本発明のヒト化抗体の最頻出粒子径は小さな値となり、具体的には20nm以下、15nm以下、12nm以下、11nm以下または10nm以下である。抗体の凝集が生じた場合には、100nmを超える粒子径のものが数多く検出される。本明細書において最頻出粒子径とは、本発明のヒト化抗体の粒度分布を測定した際に、最も頻繁に検出される粒度の大きさをいう。
【0084】
本発明のヒト化抗体は、熱をかけた際に変性を起こしにくいことを1つの特徴とする。具体的には本発明のヒト化抗体の変性中点温度は50℃以上、55℃以上、56℃以上、57℃以上、58℃以上、59℃以上または60℃以上である。本発明のヒト化抗体を加熱して抗体が変性すると、抗体に内在するアミノ酸の蛍光スペクトルのピーク重心がシフトするが、本明細書において変性中点温度とは、このピーク重心のシフトの中点の温度(通常状態と変性状態が1:1になる温度)をいう。
【0085】
本発明のヒト化抗体は、熱をかけた際に凝集を起こしにくいことを1つの特徴とする。具体的には本発明のヒト化抗体の凝集開始温度(Tagg)は、50℃以上、55℃以上、60℃以上、61℃以上、62℃以上、63℃以上、64℃以上または65℃以上である。本発明のヒト化抗体を加熱して抗体が凝集すると、静的光散乱を測定した際の散乱強度が強くなるが、本明細書においては凝集開始温度とは、散乱光が強くなり始める温度をいう。なお下記の実施例では266nmで散乱光を測定している。
【0086】
更に本発明のヒト化抗体はムチンサブタイプ5ACへのインビトロ結合活性が高いことを特徴とする。具体的には本発明のヒト化抗体のムチンサブタイプ5ACへのインビトロ結合活性は、特許文献1に開示されたキメラ抗体と同程度またはそれ以上である。ここで、「同程度」とは、同じであることを意味することができるが、およそ2.0倍以下、1.9倍以下、1.8倍以下、1.7倍以下、1.6倍以下、1.5倍以下、1.4倍以下、1.3倍以下、1.2倍以下もしくは1.1倍以下、またはおよそ1.0倍以上、0.9倍以上、0.8倍以上、0.7倍以上、0.6倍以上もしくは0.5倍以上の差異を意味することもできる。
【0087】
更に本発明のヒト化抗体はムチンサブタイプ5ACへの高い結合活性を有するために、生体に投与した際にインビボで、ムチンサブタイプ5ACが発現している腫瘍組織への高い集積性を示す。本明細書において「ムチンサブタイプ5ACが発現している腫瘍組織への集積性」とは、正常な組織と比較して、ムチンサブタイプ5ACが発現している腫瘍組織に対して、本発明のヒト化抗体が何倍集積するかをいう。
【0088】
本発明のヒト化抗体を投与して7日後における、肝臓組織への集積性に対する、ムチンサブタイプ5ACが発現している腫瘍組織への集積性は、10倍以上、11倍以上、12倍以上、13倍以上、14倍以上、15倍以上、16倍以上または17倍以上、18倍以上、19倍以上または20倍以上である。また本発明のヒト化抗体を投与して7日後における、腎臓組織への集積性に対する、ムチンサブタイプ5ACが発現している腫瘍組織への集積性は、10倍以上、11倍以上、12倍以上、13倍以上、14倍以上、15倍以上、16倍以上または17倍以上である。
【0089】
(2)本発明のヒト化抗体を含む組成物
本発明は、(1)で述べた本発明のヒト化抗体またはその抗原結合断片を含む組成物を提供する。本発明のヒト化抗体を含む組成物は、ムチンサブタイプ5ACが過剰発現しているがんの治療および/または診断に有用である。
【0090】
すなわち本発明は、本発明のヒト化抗体、および薬学的に許容される担体を含む医薬組成物である。本発明のヒト化抗体またはその抗原結合断片は、ムチンサブタイプ5ACに対して特異的に結合し、それを発現しているがん細胞の増殖を抑制する。よって本発明の医薬組成物はムチンサブタイプ5ACが過剰発現しているがんの治療に有用である。
【0091】
本発明の治療の対象となるがんの例として、膵がん、甲状腺がん、肝臓がん、大腸がん、胃がん、尿路上皮がん、乳がん、子宮頸がん、卵巣がん、または子宮内膜がんを挙げることができ、特に膵がんを効率よく治療することができる。
【0092】
本発明の治療の対象となるがんの例として、胆管がんも挙げることができる。
【0093】
また、ムチンサブタイプ5ACは、CA19-9の抗原キャリアであることが複数報告されている(PLоS ONE(December 2011, Volume6, Issue12, e29180, p1-10))。したがって、本発明の治療の対象となるがんの例として、CA19-9を過剰発現する、胆道がん、子宮体がん、肺がん、または食道がんも挙げることができ、効率良く治療することができる。
【0094】
本発明の医薬組成物の剤形は特に限定されるものではなく、例えば錠剤、散剤、顆粒剤、懸濁剤、乳剤、もしくはカプセル剤などの経口剤、または、注射剤、坐剤、外用液剤などの非経口剤とすることができる、本発明において使用される薬学的に許容される担体は本技術分野で使用される通常のものでよく、剤形と投与経路を考慮して当業者は適切に選択することができる。
【0095】
本発明において使用される薬学的に許容される担体は、錠剤などの経口剤の場合には、例えば、賦形剤、結合剤、滑沢剤、界面活性剤、希釈剤、保存剤、安定化剤、矯味剤、保湿剤、防腐剤、または酸化防止剤等を用いることができ、常法に従って製剤を調製することができる。その際に任意に、例えば界面活性剤、希釈剤、保存剤、安定化剤、矯味剤、保湿剤、防腐剤、酸化防止剤についても、当業者は本分野の技術常識に基づいて適切なものを選択することができる。
【0096】
非経口投与の場合には、代表的なのは注射剤である。本発明において使用される薬学的に許容される担体は、注射剤の場合には、例えば生理食塩水もしくはリンゲル液等の水溶性溶剤、または植物油や脂肪酸エステルなどの非水溶性溶剤を用いることができ、その中に溶解して調製することができる。その際に任意に、例えば、等張化剤、溶解補助剤、安定化剤、防腐剤、懸濁化剤、または乳化剤などを添加して製剤を調製することができる。
【0097】
(3)本発明のヒト化抗体に薬剤が連結している抗体-薬剤連結体
本発明は(1)で述べたヒト化抗体またはその抗原結合断片に、診断および/または治療に用いる薬剤が連結している、抗体-薬剤連結体を提供する。その薬剤の具体例として、毒素、蛍光標識用物質、核酸医薬、ウイルスベクター、ナノパーティクル、低分子薬剤またはサイトカインを挙げることができる。本発明のヒト化抗体またはその抗原結合断片はムチンサブタイプ5ACに結合するので、薬剤との連結体とすることにより、ムチンサブタイプ5ACを過剰発現しているがんの診断や治療に資することができる。
【0098】
上記薬剤が本発明の抗体の検出を可能とする標識、例えば蛍光標識用物質である場合には、本発明の抗体とその標識との結合体をムチンサブタイプ5ACの検出するためのツールとして使用することができる。例えば蛍光標識用物質と結合した本発明の抗体を生体に投与した後に、ムチンサブタイプ5ACが過剰発現している臓器を標識を基にして検出することができ、がんの診断に資することができる。また生体に投与しなくても、生体から採取した組織または細胞と蛍光標識用物質と結合した本発明の抗体をインビトロで接触させることにより、その組織または細胞におけるムチンサブタイプ5ACの発現を検出することもできる。本発明の抗体を用いたがんの診断方法については後に詳細に述べる。
【0099】
本発明の抗体と結合させる蛍光標識用物質としては、これに限られないが、例えば、蛍光タンパク質や蛍光色素などが挙げられる。蛍光タンパク質の具体例としては、これに限られないが、緑色蛍光タンパク質、赤色蛍光タンパク質、黄色蛍光タンパク質が挙げられる。蛍光色素の具体例としては、これに限られないが、fluorescein、rhodamine 、Cy dye、Alexa Fluor(登録商標)、HiLyte FluorTM、phycoerythrin(PE)またはallophycocyanin(APC)が挙げられる。
【0100】
上記薬剤が治療薬の場合には連結体とすることにより、その治療薬と本発明のヒト化抗体の効果を併せ持つ薬剤を作製することができる。本発明のヒト化抗体に、例えば抗がん作用を有する毒素、核酸医薬、ウイルスベクター、ナノパーティクル、低分子薬剤、またはサイトカインを連結させることにより、薬効の相乗的な増大を図ることができる。
【0101】
本明細書で使用される「毒素」とは、「細胞毒素」または「細胞毒性剤」を含む概念であり、細胞の成長および増殖にとって有害であり、細胞または悪性腫瘍を減少させる、阻害する、または破壊するように作用することができる任意の薬剤を示す。具体例としては、これに限定されないが、リシン、サポリン、ジフテリア毒素およびシュードモナス毒素などが挙げられる。
【0102】
本明細書で使用される「核酸医薬」とは、天然型ヌクレオチドまたは化学修飾型ヌクレオチドを基本骨格とする薬物であり、遺伝子発現を介さずに直接生体に作用することができる任意の薬剤を示す。具体例としては、これに限定されないが、siRNA、miRNA、アンチセンス核酸、デコイ核酸、アプタマー、CpGオリゴヌクレオチドが挙げられる。
【0103】
本明細書で使用される「ウイルスベクター」とは、遺伝子操作により複製および増殖能を欠損させたウイルスや、複製・増殖能の一部を保持したウイルスに外来遺伝子を組み込み、効率的に目的の遺伝子を細胞へ導入し発現させる能力を有する任意のベクターを示す。具体例としては、これに限定されないが、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、レトロウイルス、レンチウイルス、センダイウイルス、単純ヘルペスウイルスが挙げられる。
【0104】
本明細書で使用される「ナノパーティクル」とは、薬物を所定の細胞あるいは組織に輸送できる任意のナノメートルサイズのデリバリー担体を示す。具体例としては、これに限定されないが、リポソーム、ナノミセル、PLGAナノパーティクルが挙げられる。
【0105】
本明細書で使用される「低分子薬剤」とは、「細胞毒性剤」、「化学療法剤」、「標的化抗癌剤」または「免疫治療剤」を含む概念であり、がんなどの細胞増殖障害を処置するために使用することができる任意の薬剤を示す。具体例としては、これに限定されないが、MMAE、MMAF、DM-1、DM-4、5-フルオロウラシル、ドキソルビシン、イリノテカンまたはカリケアマイシンなどが挙げられる。
【0106】
本明細書で使用される「サイトカイン」とは、細胞から分泌される低分子のタンパク質で細胞間相互作用に関与し、周囲の細胞に影響を与える任意の生理活性物質を示す。具体例としては、これに限定されないが、TNF-α、インターフェロン-α、インターフェロン-β、またはインターフェロン-γ、インターロイキンー2などが挙げられる。
【0107】
更にこの抗体-薬剤連結体と薬学的に許容可能な担体とを配合して、ムチンサブタイプ5ACが過剰発現しているがんの治療のための医薬組成物、またはムチンサブタイプ5ACが過剰発現しているがんの治療薬とすることができる。このような医薬組成物と治療薬の実施態様は(2)の医薬組成物の項で述べた通りである。そのような医薬組成物または治療薬は、がん細胞の数を減少させる、および/または、腫瘍の大きさを縮小させることができる。
【0108】
本発明の好ましい態様において、前記ヒト化抗体または抗原結合断片と薬剤がリンカーにより連結している。ここで用いるリンカーは、効率良くかつ穏和な条件で、本発明の抗体と薬剤を連結できるものであることが好ましい。本発明で使用することができるリンカーの具体例として、前記リンカーが、PEGリンカー、マレイミドリンカー、PAS化(PASylation)リンカー、HES化(HESylation)リンカー、ビス(スルホスクシンイミジル)スベラートリンカー、核酸リンカー、ペプチドリンカー、シランリンカー、多糖リンカー、温度感受性もしくは照射(IR, 近IR, UV)感受性の結合であるリンカー、pH感受性の結合であるリンカー、加水分解性リンカー、ならびに共有結合、アミド結合、炭素-炭素多重結合への付加、アジドアルキンへのヒュスゲン環化付加、ディールス・アルダー反応、ジスルフィド結合、マイケル付加、シラン結合、ウレタン、エポキシドの求核開環反応、非アルドールカルボニル化学作用、および1,3-双極子付加反応もしくはトシル化等の環化付加反応により作成されるリンカーを挙げることができるが、それらに限定されるものではない。
【0109】
(4)本発明のヒト化抗体をコードする核酸、その核酸を含むベクター、そのベクターを含む宿主細胞
本発明は(1)で述べたヒト化抗体またはその抗原結合断片をコードする核酸を提供する。本発明のヒト化抗体の重鎖可変領域と軽鎖可変領域のアミノ酸配列が配列番号1から配列番号8に開示されているので、それらのアミノ酸配列を有するヒト化抗体をコードする核酸を当業者は得ることができる。後に述べるように宿主細胞を用いて本発明のヒト化抗体を発現させることを意図する場合には、それをコードする核酸のコドンは、上記宿主において発現させるのに最適化したものを選択することが好ましい。
【0110】
なお(1)で述べた変異した重鎖可変領域は、配列番号1~4で示される重鎖可変領域をコードする核酸に、例えば周知技術である部位特異的変異誘発(例えば、Nucleic Acid Research,Vol.10,No.20,p.6487-6500,1982参照、引用によりその全体を本明細書に援用する)を施すことにより作成することができる。変異した軽鎖可変領域も同様に、配列番号5~8で示される軽鎖可変領域をコードする核酸に、例えば部位特異的変異誘発を施すことにより作成することができる。
【0111】
そしてそのような核酸を組み込んだ発現ベクターを作製することができる。ベクターは、本発明のヒト化抗体をコードする核酸に加えて、任意に、翻訳効率を上げるためのコザック配列、宿主に導入された際に本発明のヒト化抗体が培地中に分泌されることを促進するシグナル配列、およびプロモーター配列などを含むことができる。本発明で使用することができるベクターは、本技術分野で一般的に使用されているものから選択することができるが、プラスミドベクター、特に下記の実施例で使用しているpcDNA3.4は好ましい。
【0112】
更に本発明は、上記の発現ベクターを含む宿主細胞を提供する。このようにして得られた宿主細胞は(1)で述べたヒト化抗体またはその抗原結合断片をコードする核酸を含んでいるので、下記の(5)で述べるヒト化抗体を製造する方法において使用することができる。細胞内に遺伝子を導入する方法としては本技術分野で従来から使用されている方法、例えば、リン酸カルシウム法、エレクトロポレーション法、リポフェクション法、DEAE-デキストラン法の当業者に公知の方法を用いることができる。下記の実施例で行なっているように、リポフェクション法を用いた導入方法は特に好適である。
【0113】
なおこの目的に使用される宿主細胞も、本技術分野で従来から使用されているものを使用することができる。そのような宿主細胞の例として、CHO細胞、293細胞、大腸菌、ピキア酵母、Sf9細胞などを挙げることができる。なお現在は目的とするタンパク質を発現させるための発現システムのキットも市販されており、下記の実施例で使用しているExpiCHO System(サーモフィッシャーサイエンティフィック社)は、迅速かつ確実な目的タンパク質の発現のために、特に好ましい。
【0114】
(5)本発明のヒト化抗体の製造方法
本発明は、(1)で述べたヒト化抗体またはその抗原結合断片の製造方法も提供する。この製造方法は上記(4)で述べた本発明のヒト化抗体またはその抗原結合断片をコードする核酸を発現ベクターに挿入し、その核酸を含む発現ベクターにより宿主細胞にその核酸を導入し、核酸が導入された宿主細胞を培養し、その培養上清から、クロマトグラフィーなどの精製手段により、本発明のヒト化抗体を得ることを含む。
【0115】
宿主細胞を培養することによって培養上清に本発明のヒト化抗体またはその抗原結合断片を分泌させることが簡便であり好ましく、よって(4)の項で述べたように、宿主細胞が効率的に培養上清中に本発明の抗体を分泌するように、ベクターの設計と宿主細胞の選択を行うことが望ましい。
【0116】
培養上清から、クロマトグラフィーなどの精製手段を用いて、本発明のヒト化抗体またはその抗原結合断片を得ることができる。クロマトグラフィーの手段として、アフィニティークロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィーなど本技術分野で知られた種々の手段を用いることができる。下記の実施例で使用しているプロテインAカラムを用いたアフィニティークロマトグラフィーは、特に好ましい。
【0117】
(6)がんを治療する方法
本発明は、(1)で述べたヒト化抗体もしくはその抗原結合断片、または抗体-薬剤連結体を用いて、がんを治療する方法を提供する。すなわち本発明のヒト化抗体またはその抗原結合断片および薬学的に許容される担体を含む医薬組成物の有効量を、ムチンサブタイプ5ACが過剰発現しているがんに罹患している対象に投与することにより、がんを治療することができる。本発明のヒト化抗体もしくはその抗原結合断片、または抗体-薬剤連結体は、ムチンサブタイプ5ACと結合し、ムチンサブタイプ5ACが過剰発現しているがん細胞の増殖を抑制するので、がんの治療を期待することができる。ここで投与される医薬組成物の剤形や投与経路は、(2)の医薬組成物の項で述べた通りである。
【0118】
本発明で治療されるがんは、膵がん、甲状腺がん、肝臓がん、大腸がん、胃がん、尿路上皮がん、乳がん、子宮頸がん、卵巣がん、または子宮内膜がんを挙げることができ、特に膵がんを効率よく治療することができる。
【0119】
本発明で治療されるがんの例として、胆管がんも挙げることができる。
【0120】
また、ムチンサブタイプ5ACは、CA19-9の抗原キャリアであることが複数報告されている(PLоS ONE(December 2011, Volume6, Issue12, e29180, p1-10))。したがって、本発明で治療されるがん例としては、CA19-9を過剰発現する、胆道がん、子宮体がん、肺がん、または食道がんも挙げることができ、効率良く治療することができる。
【0121】
ここで「対象」とはヒト、またはマウス、ラット、サル、モルモット、チンパンジ-、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ネコ、ブタ、ウシもしくはウマなどの動物であり、好ましくはヒトであるが、特に限定されるものではない。
【0122】
ここでの「有効量」とは、対象においてがん治療の有効な効果を得ることができる量である。対象に投与するべき有効量は、対象の種類、対象の体重、投与する剤形(錠剤、注射剤など)および経路(経口投与、非経口投与など)、およびがんの重篤度などにより異なる。医師や獣医師はそれらの因子を考慮して、適切な有効量を決定することができる。
【0123】
本発明のヒト化抗体もしくはその抗原結合断片、または抗体-薬剤連結体を投与してがんを治療することにより、がん細胞の数の減少し、および/または、腫瘍の大きさが減少する。
【0124】
(7)がんを診断する方法
本発明は(1)で述べたヒト化抗体もしくはその抗原結合断片、または抗体-薬剤連結体を用いて、がんを診断する方法を提供する。
【0125】
1態様として、本発明のヒト化抗体もしくはその抗原結合断片、または抗体-薬剤連結体に、それを検出することを可能とする標識を付し、対象および健常な対象から細胞または組織を採取し、採取した細胞または組織を、標識を付した本発明のヒト化抗体と接触させ、採取した細胞または組織における標識の量を測定し、対象から採取された細胞または組織に結合した標識抗体の量を、健常な対象から採取された細胞または組織に結合した標識抗体の量と比較することにより、がんの診断を行うことができる。対象から採取された細胞または組織において検出される標識の量が、健常な対象から採取された細胞または組織において検出される標識の量よりも多い場合には、その対象はムチンサブタイプ5ACが過剰発現しているがんに罹患していると診断することができる。
【0126】
ここで「健常な対象」とは本発明でがんを診断しようとしている対象とは異なり、がんに罹患していないことが明らかである健常な個体である。このような健常な対象においては、ムチンサブタイプ5ACは過剰発現しておらず、コントロールとして使用できる。
【0127】
ここで「標識」とは本発明のヒト化抗体またはその抗原結合断片に結合してその検出を可能とする任意のものを意味する。標識の具体的な例としては、蛍光標識用物質を挙げることができる。
【0128】
他の態様として、本発明のヒト化抗体またはその抗原結合断片に、それを検出することを可能とする標識を付し、対象の細胞または組織、および健常な対象の細胞または組織を、標識を付した本発明のヒト化抗体またはその抗原結合断片と接触させ、対象の細胞または組織、および健常な対象の細胞または組織における標識の量を測定し、対象の細胞または前記組織において測定された標識の量と、健常な対象の細胞または組織において測定された標識の量である基準量とを比較する。対象の組織または細胞で測定された量が基準量よりも有意に多い場合には、その対象はムチンサブタイプ5ACが過剰発現しているがんに罹患していると診断することができる。
【0129】
ここで「基準量」とは健常な対象で測定された標識の量であり、がんでない個体におけるムチンサブタイプ5ACの発現量と非特異的に細胞に結合あるいは組織に集積した標識の量の合計を示している。よってがんの診断をしようとしている対象で測定された標識の量が基準量よりも多いことは、ムチンサブタイプ5ACが過剰発現していることを示唆し、よってそのような場合には対象はがんに罹患していると診断することができる。またこの方法において、対象の細胞または組織と標識を付した本発明の抗体との接触は、対象から取り出した細胞または組織を用いたインビトロの態様で行うことができる。また対象の細胞または組織と標識を付した本発明の抗体との接触を、対象から細胞または組織を取り出さずにインビボの態様で行うこともできる。
【0130】
他の態様として、本発明のヒト化抗体またはその抗原結合断片に、それを検出することを可能とする標識を付し、対象から細胞または組織を採取し、採取した細胞または組織を標識を付した本発明のヒト化抗体と接触させ、採取した細胞または組織における標識の量を測定し、対象から採取された細胞または組織に結合した標識抗体の量を、正常な細胞または組織に結合した標識抗体の量と比較することにより、がんの診断を行うことができる。対象から採取された細胞または組織において検出される標識の量が、正常な細胞または組織において検出される標識の量よりも多い場合には、その細胞または組織はムチンサブタイプ5ACが過剰発現しているがんに罹患していると診断することができる。
【0131】
ここで「正常な細胞または組織」とは、本発明でがんを診断しようとしている対象または健常な対象から採取された、あらかじめ正常な細胞または組織と診断された細胞または組織をいう。このような正常な細胞または組織においては、ムチンサブタイプ5ACは過剰発現しておらず、コントロールとして使用できる。
【0132】
他の態様として、本発明のヒト化抗体またはその抗原結合断片に、それを検出することを可能とする標識を付し、標識を付したヒト化抗体またはその抗原結合断片を対象に投与し、対象の組織においてその標識を検出し、標識を付した抗体の集積を検出することにより、がんの診断を行うことができる。対象の組織において、標識を付したヒト化抗体またはその抗原結合断片の集積が認められた場合には、その対象はムチンサブタイプ5ACが過剰発現しているがんに罹患していると診断される。この方法において組織の標識の検出は、対象から取り出した組織を用いてインビトロの態様で行うことができる。また対象における組織の標識の検出を、対象から組織を取り出さずにインビボの態様で行うことも可能である。
【0133】
他の態様として、本発明のヒト化抗体またはその抗原結合断片に、それを検出することを可能とする標識を付し、標識を付したヒト化抗体またはその抗原結合断片が投与された対象の組織において標識を検出する。標識を付したヒト化抗体またはその抗原結合断片の集積が、前記対象の組織において認められた場合には、対象はがんに罹患していると診断することができる。
【0134】
上記で述べた方法によりムチンサブタイプ5ACが過剰発現しているがんに罹患していると診断された場合には、その対象に対して(1)で述べたヒト化抗体またはその抗原結合断片および薬学的に許容される担体を含む医薬組成物を投与して、がんの治療を行うことができる。
【0135】
ここでの標識の具体例として、蛍光標識用物質による標識を挙げることができるが、本発明のヒト化抗体またはその抗原結合断片を検出することができる限り特に限定されるものではない。また抗体と標識の結合は、(3)の抗体-薬剤連結体の項で述べたリンカーを介して行われていてもよい。
【0136】
(8)がんの体積を測定する方法
本発明は(1)で述べたヒト化抗体またはその抗原結合断片を用いて、対象におけるムチンサブタイプ5ACが過剰発現しているがんの体積を測定する方法を提供する。本明細書においてがんの体積とは、対象の組織においてがん化している細胞により構成されている部分の体積をいうものであり、がん化していない正常な細胞により構成されている部分の体積を除外するものである。
【0137】
1態様として、本発明のヒト化抗体またはその抗原結合断片にそれの検出を可能とする標識を付し、対象の組織および健常な対象の組織を、標識を付したヒト化抗体またはその抗原結合断片と接触させ、対象の組織および健常な対象の組織における標識の量を測定する。対象の組織において測定された標識の量と、健常な対象の組織において測定された標識の量である基準量とを比較し、対象で測定された量が基準量よりも多い部分が、がん組織であるとしてその体積を測定することにより、がんの体積を測定することができる。
【0138】
ここで「基準量」とは健常な対象において測定された標識の量であり、がんでない個体におけるムチンサブタイプ5ACの発現量と非特異的に細胞に結合あるいは組織に集積した標識の量の合計を示している。よって対象の組織において基準量よりも多い標識の量を示す部分はがん組織である判断することができ、その部分の体積を測定することによりがんの体積を求めることができる。
【0139】
更に他の態様において、本発明のヒト化抗体またはその抗原結合断片にそれの検出を可能とする標識を付し、標識を付した抗体またはその抗原結合断片が投与された対象の組織において標識を検出し、標識を付したヒト化抗体またはその抗原結合断片の集積が認められる部分の体積を測定することにより、がんの体積を測定することができる。
【0140】
がんの体積の測定は、蛍光標識用物質などの標識を検出できる機器を用いて、対象においてその標識を画像として検出し、その画像において標識が検出されるがんの組織の大きさから、必要ならば適切な計算式を用いて算出することができる。また対象から切除した試料において組織を摘出し、標識が検出される部分の体積を直接測定することにより求めることもできる。
【0141】
対象におけるがんの体積を測定することは、その対象のがんの重篤度などの診断に有用である。更にはその対象が治療を受けている場合には治療の効果を判定するためにも、対象におけるがんの体積を測定することは有用である。
【0142】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0143】
以下、実施例と比較例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。本実施例、比較例における実験方法、試験方法は以下の通りである。
【0144】
実験例1:各種抗体の調製
【0145】
シグナル配列を付加した各種可変領域のアミノ酸配列、および各種定常領域のアミノ酸配列を、CHO細胞における発現に適したコドンユーセージになるように考慮しながら塩基配列に変換した。シグナル配列の開始コドン部位にコザック配列を付加し、定常領域のC末端側には停止コドンを付加した。さらにコザック配列の上流と停止コドンの下流に制限酵素サイトを付加し、哺乳類細胞発現用プラスミド(pcDNA3.4)の発現用遺伝子導入サイトに導入できるようにした。このように設計した各DNA断片は、化学合成により作製した。目的のH鎖と目的のL鎖となるように、可変領域を含むDNA断片と、定常領域を含むDNA断片を融合PCRを用いて連結した。
【0146】
作製した各種抗体遺伝子を制限処理したのち精製した。同様に哺乳類細胞一過性発現用プラスミド(pcDNA3.4)も同じ制限酵素で処理したのち精製した。両断片を適切な混合比で混合しライゲーションを行った。ライゲーション反応液を大腸菌DH5αコンピテントセルと混合しトランスフォーメーションを行った。生じたトランスフォーマントから、コロニーPCR、シングルコロニーアイソレーション、小スケール培養液からのプラスミド抽出、インサート部分の塩基配列決定を行い、設計した抗体遺伝子全長が設計した通りの配列で意図した方向に正しく挿入されているプラスミド(大腸菌クローン)を選抜した。選抜した大腸菌クローンについて大スケール培養を実施し、エンドトキシン除去工程を含むプラスミド抽出・精製を行った。精製したプラスミドは260nmの吸光度を測定し濃度を算出した。
【0147】
ExpiCHO System (サーモフィッシャーサイエンティフィック社)を使用し、CHO細胞による一過性発現を実施した。作製した各H鎖発現用プラスミドと各L鎖発現用プラスミドより、H鎖1種、L鎖1種を目的の組み合わせになるように選び、リポフェクション法にてトランスフェクションを行い、培養、フィードを行った。トランスフェクションから7日~13日後、培養液を回収した。遠心分離およびフィルター濾過した培養上清をProteinAカラムに添加して通常のアフィニティカラムクロマトグラフィー(吸着後洗浄、酸性緩衝液による溶出、溶出液の中和)によって抗体を精製した。精製した抗体は280nmの吸光度を測定し濃度を算出した。
【0148】
上記で述べた方法を用いて作製したのが、抗体1から抗体20である。以下に重鎖可変領域と軽鎖可変領域の組み合わせに対して付した抗体の番号を示す。
抗体1: H01L01
抗体2: H01L02
抗体3: H01L03
抗体4: H01L04
抗体5: H02L01
抗体6: H02L02
抗体7: H02L03
抗体8: H02L04
抗体9: H03L01
抗体10:H03L02
抗体11:H03L03
抗体12:H03L04
抗体13:H04L01
抗体14:H04L02
抗体15:H04L03
抗体16:H04L04
抗体17:H05L05
抗体18:H06L06
抗体19:H05L07
抗体20:H07L08
【0149】
ここでH01、H02、H03、およびH04はそれぞれ、配列番号1、配列番号2、配列番号3、および配列番号4に示す重鎖可変領域であり、L01、L02、L03、およびL04はそれぞれ、配列番号5、配列番号6、配列番号7、および配列番号8に示す軽鎖可変領域である。実施例1-1から1-16で使用された本発明の抗体は、重鎖定常領域1と軽鎖定常領域1、および上記の抗体1から抗体16の重鎖可変領域と軽鎖可変領域との組み合わせからなる。
【0150】
一方H05およびH06は、特許文献3に開示されているヒト化抗体の重鎖可変領域であり、L05、L06、およびL07は特許文献3に開示されているヒト化抗体の軽鎖可変領域である。比較例1-1から1-3で使用された特許文献3のヒト化抗体は、重鎖定常領域1と軽鎖定常領域1、及び上記の抗体17から抗体19の重鎖可変領域と軽鎖可変領域との組み合わせからなる、先行技術のヒト化抗体である。H05とH06のアミノ酸配列を配列番号9と配列番号10に、L05、L06、およびL07のアミノ酸配列を配列番号11、配列番号12、および配列番号13に示す。さらにH05とH06、およびL05~L07のアミノ酸配列を
図3に示す。
【0151】
さらにH07は、特許文献1に開示されているキメラ抗体の重鎖可変領域であり、L08は特許文献1に開示されているキメラ抗体の軽鎖可変領域である。比較例1-4で使用されたキメラ抗体は、重鎖定常領域1と軽鎖定常領域1、及び上記の抗体20の重鎖可変領域と軽鎖可変領域との組み合わせからなる、先行技術のヒト化抗体である。H07のアミノ酸配列を配列番号14に、L08のアミノ酸配列を配列番号15に示す。さらにH07とL08のアミノ酸配列を
図4に示す。
【0152】
試験例1:抗体物性の評価
調製した各種抗体を、抗体濃度が約1mg/mLになるように150mM酢酸緩衝液(pH4.7)で希釈した。ただし、比較例1-2の抗体濃度は約0.5mg/mLであったため希釈せずにそのまま用いた。これらの各種抗体溶液について、タンパク質物性評価装置であるUNcle(UNchained Labs株式会社製)を用いて変性中点温度、凝集開始温度、粒度分布を求めた。具体的には、変性中点温度および凝集開始温度の測定では、各種抗体を室温付近から75℃まで1分毎に1℃昇温させて30秒保持し、蛍光スペクトル測定と静的光散乱測定を経時的に同時に行った。蛍光スペクトル測定の結果から、抗体が変性すると抗体内在アミノ酸の蛍光スペクトルのピーク重心がシフトする現象を利用し、ピーク重心のシフトの中点温度、すなわち変性中点温度を求めた。また、静的光散乱測定の結果から、凝集すると散乱強度が強くなることを利用し、266nmの散乱光の強くなり始める温度、すなわち凝集開始温度を求めた。粒度分布は、室温付近での各種抗体の動的光散乱測定により求めた。
【0153】
抗体1~20について、試験例1に従って各種抗体の物性評価を行った。結果を表1に示す。上記で述べたように実施例1-1から1-16は本発明のヒト化抗体であり、比較例1-1から1-3は特許文献3のヒト化抗体であり、比較例1-4は特許文献1のキメラ抗体である。
【0154】
【0155】
変性中点温度については、キメラ抗体では49.5℃と低かったのに対し、本発明のヒト化抗体では58.5℃~63.5℃と高く、本発明のヒト化抗体はキメラ抗体と比較して安定な物性を有することが明らかとなった。
【0156】
凝集開始温度については、キメラ抗体では45.4℃と最も低く、また特許文献3のヒト化抗体では55.9~61.1℃と中程度であったのに対し、本発明のヒト化抗体では64.3℃~70.4℃と最も高く、キメラ抗体や特許文献3のヒト化抗体と比較して本発明のヒト化抗体は安定な物性を有することが明らかとなった。
【0157】
粒子径については、キメラ抗体では約203nmと明らかな凝集が認められたが、本発明のヒト化抗体では約10nmであり、単分散の粒子として安定に存在することが明らかとなった。
【0158】
以上の結果より、本発明のヒト化抗体は、特許文献1のキメラ抗体や特許文献3のヒト化抗体よりも安定な物性を有することが明らかとなった。すなわち、本発明の抗体ではさらなる製造工程(例えば蛍光標識用物質などと結合させるコンジュゲート工程)に供しても、凝集等を起こさずに目的の化合物が安定的に得られることが期待できる。
【0159】
・BR>詞ア例2:In vitro結合活性の評価
各種抗原をコートした96穴プレートに各種抗体を加え、1時間室温で放置した。プレートを洗浄後、ブロッキング溶液を加え、30分間室温で放置した。プレートを洗浄後、HRP結合抗ヒトIgGを加え、さらに1時間以上室温で放置した。プレートを洗浄後、発色試薬(Bethyl Laboratories, Inc.)を加え、発色の程度をマイクロプレートリーダー(VersaMax, モレキュラーデバイスジャパン(株))にて測定した。
【0160】
そのようにして抗体と抗原とのIn vitro結合活性を評価した結果を、表2~表4に示す。表2と表3においては、ヒト膵がん細胞株SW1990を移植した担がんモデルマウスより採取した腫瘍塊をホモジナイズし、遠心分離後の上清(粗抽出抗原液)を抗原として用い、表4においては粗抽出抗原液から塩化セシウムを用いた等密度遠心法により得られたムチン分画を抗原として用いた。
【0161】
抗体1~20について、試験例2に従って各種抗体のIn vitro結合活性の評価を行った。結果を表2、表3、および表4に示す。
【0162】
表2は抗体2~8の抗体1(実施例2-1)に対するIn vitro結合活性比を、表3は抗体10~16の抗体9(実施例2-9)に対するIn vitro結合活性比を、表4は抗体3、4、8、16~19の抗体20(比較例2-4)に対するIn vitro結合活性比を示す。
【0163】
これらの結果からわかるように、本発明のヒト化抗体は特許文献1のキメラ抗体である比較例2-4と同程度のIn vitro結合活性能を有していることが明らかとなった。一般的にはキメラ抗体をヒト化することで抗原に対する結合活性が低下することが多いが、本発明のヒト化抗体はキメラ抗体と同程度の結合活性を維持していたことは驚くべきことである。また、本発明のヒト化抗体は特許文献3のヒト化抗体と比較して同等以上のIn vitro結合活性能を有していることが明らかとなった。
【0164】
【0165】
【0166】
【0167】
試験例3:In vivo腫瘍集積性の評価
ヒト膵臓がん細胞株SW1990を1×107個を、Balb/cヌードマウスの脇腹から背部にかけて皮下投与した。SW1990を移植13-16日後の、腫瘍の大きさがおよそ100-200mm2となった時点で、蛍光標識した各種抗体2mg/kgをマウス尾静脈より投与した(n=2)。CF(商標) Dye SE Protein Labeling Kits(Biotium社製)を用いて抗体を蛍光標識した。腫瘍の体積は以下の計算式より算出した。
腫瘍の体積=(腫瘍の短径2×腫瘍の長径)/2
【0168】
(経時的な腫瘍集積性評価)
In vivo腫瘍集積性の経時的な評価として、各種蛍光標識抗体の投与前、投与1日後、2日後、3日後、7日後にIVIS LuminaIII(Perkin Elmer Inc.)を用いて、抗体を投与されたマウスが発する蛍光を撮影した。
【0169】
(最終時点の腫瘍集積性評価)
また、各種蛍光標識抗体投与7日後に腫瘍、肝臓、腎臓を摘出し、IVIS LuminaIII(Perkin Elmer Inc.)を用いて撮影した。解析用コンピュータ(Living Imageソフトウェア)を用いて撮影したイメージデータを解析し、数値データを取得した。数値はイメージ内で指定した領域内における平均輝度([p/s/cm2/sr]/[μW/cm2])として算出した。
【0170】
腫瘍集積性は以下の計算より算出した。ここでの腫瘍集積量は、上記の式を用いて計算した腫瘍の領域内における平均輝度であり、肝臓と腎臓の集積量は上記の式を用いて計算した肝臓の領域と腎臓の領域における平均輝度である。
腫瘍肝臓比=蛍光標識抗体投与7日後の腫瘍集積量/蛍光標識抗体投与7日後の肝臓集積量
腫瘍腎臓比=蛍光標識抗体投与7日後の腫瘍集積量/蛍光標識抗体投与7日後の腎臓集積量
【0171】
抗体3、4、8、9、10、16~20について、試験例3に従って各種抗体のIn vivo腫瘍集積性の評価を行った。結果を表5と
図5に示す。表5は各種抗体のIn vivo腫瘍集積性(n=2の平均値)を示す。
【0172】
【0173】
表5の結果より、本発明のヒト化抗体(抗体3、4、8、9、10、16)は、特許文献1のキメラ抗体(抗体20)よりも腫瘍肝臓比、腫瘍腎臓比が高く、すなわち腫瘍集積性が高いヒト化抗体が得られたことが明らかとなった。
図5では、表5で最も腫瘍肝臓比の高かった実施例3-1(抗体3)の経時的な集積性を示す。マウス背中の右下にある腫瘍に集積することが明らかとなった。
【0174】
前述した通り、一般的にはキメラ抗体をヒト化することで抗原に対する結合活性が低下することが多いため、In vivoにおける腫瘍集積性も低下することが多くなる。しかしながら、本発明のヒト化抗体はキメラ抗体よりもはるかに高い腫瘍集積性を有していることが明らかとなったことは驚くべきことである。
【0175】
非常に高い殺細胞効果を有する薬物をコンジュゲートさせた抗体-薬剤連結体を製造することを想定した場合、そのデリバリーツールである抗体(すなわち本発明のヒト化抗体)の腫瘍集積性が高いことは、抗腫瘍効果を高めるだけでなく正常組織に対する副作用を低減できる可能性があることから、大変有用なものである。
【産業上の利用可能性】
【0176】
本発明において、ムチンサブタイプ5ACとの結合能を有するヒト化抗体またはその抗原結合断片が提供された。本発明のヒト化抗体は、ムチンサブタイプ5ACとの結合能と共に、安定な物性を有し、腫瘍集積性に優れている。よって本発明のヒト化抗体またはその抗原結合断片は、ムチンサブタイプ5ACが過剰発現しているがんの治療および/または診断、さらにはムチンサブタイプ5ACが過剰発現しているがんの治療および/または診断するための抗体-薬剤連結体の製造にきわめて有用である。
【0177】
本出願は日本で出願された特願2019-191560(出願日:2019年10月18日)を基礎としており、その内容は本明細書に全て包含されるものである。
【配列表】