(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-08
(45)【発行日】2023-06-16
(54)【発明の名称】レシピ出力方法、レシピ出力システム
(51)【国際特許分類】
G06Q 50/10 20120101AFI20230609BHJP
【FI】
G06Q50/10
(21)【出願番号】P 2021548445
(86)(22)【出願日】2020-08-27
(86)【国際出願番号】 JP2020032303
(87)【国際公開番号】W WO2021059844
(87)【国際公開日】2021-04-01
【審査請求日】2021-09-17
(31)【優先権主張番号】P 2019173194
(32)【優先日】2019-09-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109210
【氏名又は名称】新居 広守
(74)【代理人】
【識別番号】100137235
【氏名又は名称】寺谷 英作
(74)【代理人】
【識別番号】100131417
【氏名又は名称】道坂 伸一
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 絢子
(72)【発明者】
【氏名】石丸 雅司
(72)【発明者】
【氏名】清崎 若正
(72)【発明者】
【氏名】松村 吉浩
【審査官】阿部 陽
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-227602(JP,A)
【文献】特開2006-268642(JP,A)
【文献】特開2019-061366(JP,A)
【文献】国際公開第2003/107233(WO,A1)
【文献】中屋隆 外1名,Kinectセンサを用いた嚥下体操支援システム,情報処理学会 研究報告 ヒューマンコンピュータインタラクション(HCI) 2015-HCI-162,日本,情報処理学会,2015年03月06日,p.1-8
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータによって実行されるレシピ出力方法であって、
複数の料理が含まれる料理リストの中から一の料理の選択を受け付け、
対象者の発した音声に基づいて
、摂食嚥下機能が低下している被評価者が発話した音声にみられる特定の特徴を特徴量として算出し、算出した前記特徴量の種類と準備期、口腔期および咽頭期の少なくとも1つの段階における摂食嚥下機能との対応関係を含む参照データを参照して、準備期、口腔期および咽頭期のいずれの段階における摂食嚥下機能であるかを区別した上で評価された前記対象者の噛む力、舌の動き、飲みこみの動き、食べ物をまとめる力、顎の動き、及びムセを防ぐ力の少なくとも二つの能力を含む摂食嚥下機能を示す能力情報を取得し、
選択が受け付けられた前記一の料理を調理するためのレシピであって、取得された前記能力情報に示される前記対象者の摂食嚥下機能に適合したレシピを出力
し、
前記レシピの出力では、取得された前記能力情報に示される前記対象者の摂食嚥下機能とレシピにおける変更箇所とを対応付ける変更テーブルを参照することにより、標準レシピに対し、摂食嚥下機能のうち、異常がみられる項目に対する変更箇所を変更したレシピを出力する
レシピ出力方法。
【請求項2】
さらに、前記対象者の発した音声を集音し、
集音された前記対象者の発した音声に基づいて前記対象者の摂食嚥下機能を評価して前記能力情報を出力し、
前記能力情報の取得では、出力された前記能力情報を取得する
請求項1に記載のレシピ出力方法。
【請求項3】
前記レシピの出力では、前記対象者の摂食嚥下機能が所定の閾値以下であった場合に、前記対象者の摂食嚥下機能に適合した加熱方法、加水量、食材の切り方、下処理の方法、及び食べ方の少なくとも一つが含まれる前記レシピを出力する
請求項1又は2に記載のレシピ出力方法。
【請求項4】
前記レシピの出力では、前記対象者の摂食嚥下機能が所定の閾値以下であった場合に、前記対象者の摂食嚥下機能に適合した食材を用いて前記一の料理を調理する前記レシピを出力する
請求項1又は2に記載のレシピ出力方法。
【請求項5】
前記レシピの出力では、摂食嚥下機能と前記レシピの出力において変更される変更箇所とを対応付ける変更テーブルを参照することにより、前記一の料理を標準的に調理するための標準レシピに対し、前記変更箇所を変更して前記対象者の摂食嚥下機能に適合した前記レシピを出力する
請求項
1~4のいずれか一項に記載のレシピ出力方法。
【請求項6】
前記レシピの出力では、さらに、
前記対象者の摂食嚥下機能が所定の閾値以下であった場合に、前記一の料理に代えて推奨される複数の推奨料理のリストを提示し、
前記複数の推奨料理のリストの中から選択を受け付けた推奨料理を調理するためのレシピであって、取得された前記能力情報に示される前記対象者の摂食嚥下機能に適合したレシピを出力する
請求項1又は2に記載のレシピ出力方法。
【請求項7】
複数の料理リストの中から一の料理の選択を受け付ける受付部と、
対象者の
発した音声に基づいて
、摂食嚥下機能が低下している被評価者が発話した音声にみられる特定の特徴を特徴量として算出し、算出した前記特徴量の種類と準備期、口腔期および咽頭期の少なくとも1つの段階における摂食嚥下機能との対応関係を含む参照データを参照して、準備期、口腔期および咽頭期のいずれの段階における摂食嚥下機能であるかを区別した上で評価された前記対象者の噛む力、舌の動き、飲みこみの動き、食べ物をまとめる力、顎の動き、及びムセを防ぐ力の少なくとも二つの能力を含む摂食嚥下機能を示す能力情報を取得する取得部と、
選択が受け付けられた前記一の料理を調理するためのレシピであって、取得された前記能力情報に示される前記対象者の摂食嚥下機能に適合したレシピを出力する出力部と、を備え
、
前記出力部は、取得された前記能力情報に示される前記対象者の摂食嚥下機能とレシピにおける変更箇所とを対応付ける変更テーブルを参照することにより、標準レシピに対し、摂食嚥下機能のうち、異常がみられる項目に対する変更箇所を変更したレシピを出力する
レシピ出力システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レシピを出力するレシピ出力方法及びレシピ出力システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、メニュ(つまり料理)受給者による食材の購入履歴を用いて、当該購入履歴における食材とメニュを構成する(調理する)ための食材とが共通するメニュを提案するメニュ提案システムが知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、一様なレシピに基づいて調理された料理では、人によっては、摂食が困難である場合があり、また、摂食が危険である場合さえある。
【0005】
そこで、本発明は、料理を調理するための、対象者に適合したレシピを出力するレシピ出力方法等の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係るレシピ出力方法では、複数の料理が含まれる料理リストの中から一の料理の選択を受け付け、対象者の発した音声に基づいて評価された前記対象者の摂食嚥下機能を示す能力情報を取得し、選択が受け付けられた前記一の料理を調理するためのレシピであって、取得された前記能力情報に示される前記対象者の摂食嚥下機能に適合したレシピを出力する。
【0007】
また、本発明の一態様に係るレシピ出力システムは、複数の料理リストの中から一の料理の選択を受け付ける受付部と、対象者の発声した音声に基づいて評価された前記対象者の摂食嚥下機能を示す能力情報を取得する取得部と、選択が受け付けられた前記一の料理を調理するためのレシピであって、取得された前記能力情報に示される前記対象者の摂食嚥下機能に適合したレシピを出力する出力部と、を備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明のレシピ出力方法等によれば、料理を調理するための、対象者に適合したレシピの出力が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、実施の形態に係るレシピ出力システムの構成を示す概略図である。
【
図2】
図2は、実施の形態に係るレシピ出力システムの特徴的な機能構成を示すブロック図である。
【
図3A】
図3Aは、対象者が発話した音声を示す音声データの一例を示す図である。
【
図3B】
図3Bは、フォルマント周波数を説明するための周波数スペクトル図である。
【
図3C】
図3Cは、フォルマント周波数の時間変化の一例を示す図である。
【
図3D】
図3Dは、準備期、口腔期および咽頭期における摂食嚥下機能の具体例と、各機能が低下したときの症状を示す図である。
【
図5】
図5は、実施の形態に係るレシピの出力の処理手順を示すフローチャートである。
【
図6】
図6は、摂食嚥下機能と、出力されるレシピにおいて変更される変更箇所とを対応付ける第1の変更テーブルである。
【
図7】
図7は、摂食嚥下機能と、出力されるレシピにおいて変更される変更箇所とを対応付ける第2の変更テーブルである。
【
図8A】
図8Aは、実施例に係る出力されるレシピの一例を示す第1図である。
【
図8B】
図8Bは、比較例に係る出力されるレシピの一例を示す第1図である。
【
図9A】
図9Aは、実施例に係る出力されるレシピの一例を示す第2図である。
【
図9B】
図9Bは、比較例に係る出力されるレシピの一例を示す第2図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、以下で説明する実施の形態は、いずれも包括的または具体的な例を示すものである。以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置および接続形態、ステップ、ステップの順序等は、一例であり、本発明を限定する主旨ではない。また、以下の実施の形態における構成要素のうち、最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。
【0011】
なお、各図は模式図であり、必ずしも厳密に図示されたものではない。また、各図において、実質的に同一の構成に対しては同一の符号を付しており、重複する説明は省略または簡略化される場合がある。
【0012】
(実施の形態)
[摂食嚥下機能]
本発明は、評価された対象者の摂食嚥下機能に適合したレシピを出力するものであり、まず摂食嚥下機能について説明する。
【0013】
摂食嚥下機能とは、食物を認識して口に取り込みそして胃に至るまでの一連の過程を達成するのに必要な人体の機能である。摂食嚥下機能は、先行期、準備期、口腔期、咽頭期および食道期の5つの段階からなる。
【0014】
摂食嚥下における先行期(認知期とも呼ばれる)では、食物の形、硬さおよび温度等が判断される。先行期における摂食嚥下機能は、例えば、目の視認機能等である。先行期において、食物の性質および状態が認知され、食べ方、唾液分泌および姿勢といった摂食に必要な準備が整えられる。
【0015】
摂食嚥下における準備期(咀嚼期とも呼ばれる)では、口腔内に取り込まれた食物が歯で噛み砕かれ、すり潰され(つまり咀嚼され)、そして、咀嚼された食物が舌によって唾液と混ぜ合わせられて食塊にまとめられる。準備期における摂食嚥下機能は、例えば、食物をこぼさずに口腔内に取り込むための表情筋(口唇の筋肉および頬の筋肉等)の運動機能、食物の味を認識したり硬さを認識したりするための舌の認識機能、食物を歯に押し当てたり細かくなった食物を唾液と混ぜ合わせてまとめたりするための舌の運動機能、食物を噛み砕きすり潰すための歯の咬合状態、歯と頬の間に食物が入り込むのを防ぐ頬の運動機能、咀嚼するための筋肉の総称である咀嚼筋(咬筋および側頭筋等)の運動機能(咀嚼機能)、ならびに、細かくなった食物をまとめるための唾液の分泌機能等である。咀嚼機能は、歯の咬合状態、咀嚼筋の運動機能、舌の機能などに影響される。準備期におけるこれらの摂食嚥下機能によって、食塊は飲み込みやすい物性(サイズ、塊、粘度、付着性)となるため、食塊が口腔内から咽頭を通って胃までスムーズに移動しやすくなる。
【0016】
摂食嚥下における口腔期では、舌(舌の先端)が持ち上がり、食塊が口腔内から咽頭に移動させられる。口腔期における摂食嚥下機能は、例えば、食塊を咽頭へ移動させるための舌の運動機能、咽頭と鼻腔との間を閉鎖する軟口蓋の上昇機能等である。
【0017】
摂食嚥下における咽頭期では、食塊が咽頭に達すると嚥下反射が生じて短時間(約1秒)の間に食塊が食道へ送られる。具体的には、軟口蓋が挙上して鼻腔と咽頭との間が塞がれ、舌の根元(具体的には舌の根元を支持する舌骨)および喉頭が挙上して食塊が咽頭を通過し、その際に喉頭蓋が下方に反転し気管の入口が塞がれ、誤嚥が生じないように食塊が食道へ送られる。咽頭期における摂食嚥下機能は、例えば、鼻腔と咽頭との間を塞ぐための咽頭の運動機能(具体的には、軟口蓋を挙上する運動機能)、食塊を咽頭へ送るための舌(具体的には舌の根元)の運動機能、食塊を咽頭から食道へ送ったり、食塊が咽頭へ流れ込んできた際に、声門が閉じて気管を塞ぎ、その上から喉頭蓋が気管の入り口に垂れ下がることで蓋をしたりする喉頭の運動機能等である。
【0018】
摂食嚥下における食道期では、食道壁の蠕動運動が誘発され、食塊が食道から胃へと送り込まれる。食道期における摂食嚥下機能は、例えば、食塊を胃へ移動させるための食道の蠕動機能等である。
【0019】
本発明によれば、対象者が発した音声から評価された対象者の摂食嚥下機能に基づき、料理を調理するための、対象者の摂食嚥下機能に適合したレシピの出力を行うことができる。
【0020】
摂食嚥下機能が低下している被評価者が発話した音声には特定の特徴がみられ、これを特徴量として算出することで、被評価者の摂食嚥下機能を評価することができる。以下では、準備期、口腔期および咽頭期における摂食嚥下機能の評価について説明する。本発明は、レシピ出力方法、および、当該レシピ出力方法を実施するためのレシピ出力システムによって実現される。以下では、レシピ出力システムを示しながら、レシピ出力方法について説明する。
【0021】
[レシピ出力システムの構成]
実施の形態に係るレシピ出力システムの構成に関して説明する。
【0022】
図1は、実施の形態に係るレシピ出力システムの構成を示す概略図である。
【0023】
レシピ出力システム100は、対象者の音声を解析することで評価された対象者の摂食嚥下機能に基づき、料理を調理するためのレシピを出力するシステムであり、
図1に示されるように、サーバ装置20と、情報端末30とを備える。
【0024】
サーバ装置20は、当該摂食嚥下機能に応じ、対象者によって選択された料理の料理情報を受信して、当該料理情報に示された料理を調理するためのレシピを出力し、レシピ情報として情報端末30へと送信する装置である。また、サーバ装置20は、情報端末30によって、対象者が発した音声を示す音声データを受信し、受信した音声データから対象者の摂食嚥下機能を評価する装置でもある。なお、レシピ出力システム100は、対象者の摂食嚥下機能を評価するための摂食嚥下機能評価装置をサーバ装置20とは別に備えてもよい。また、あらかじめ評価された対象者の摂食嚥下機能を取得可能な構成であれば、レシピ出力システム100は、対象者の摂食嚥下機能を評価するための装置等を備えなくてもよい。
【0025】
情報端末30は、対象者による料理の選択を受け付け、料理情報としてサーバ装置20に送信し、結果として受信したレシピ情報を提示する装置である。また、情報端末30は、対象者が所定の音節または所定の文を発話した音声を非接触により集音する集音部35(後述する
図2参照)を備え、集音した音声を示す音声データをサーバ装置20へ送信する。
【0026】
例えば、情報端末30は、集音部35の一例であるマイクを有するスマートフォンまたはタブレット端末等である。なお、情報端末30は、スマートフォンまたはタブレット端末に限らず、例えば、ノートPC等であってもよい。また、レシピ出力システム100は、情報端末30の代わりに、集音部としてマイク等の集音装置を備えていてもよく、このような集音部を備えなくてもよい。対象者の発した音声に基づきあらかじめ出力された摂食嚥下機能を示す能力情報を取得できれば、新たに対象者の摂食嚥下機能を評価しなくてもよいためである。
【0027】
また、情報端末30は、ディスプレイ等の、サーバ装置20から出力される画像データに基づいた画像等を表示する表示装置を備えてもよい。なお、表示装置は情報端末30に備えられなくてもよく、液晶パネルまたは有機ELパネルなどによって構成される別のモニタ装置であってもよい。
【0028】
サーバ装置20と情報端末30とは、有線又は無線で接続されていてもよく、インターネット等の広域通信網を介して接続されていてもよい。つまり、対象者は、サーバ装置20に接続された広域通信網に接続されたスマートフォン等の情報端末30を保有していれば、本実施の形態における料理の選択とレシピの提示を実施できる。
【0029】
サーバ装置20は、情報端末30によって集音された音声データに基づいて対象者の音声を分析し、分析した結果から対象者の摂食嚥下機能を評価し、評価結果として能力情報を出力する。サーバ装置20によるレシピの出力及び摂食嚥下機能の評価の機能は、サーバ装置20ではなくパーソナルコンピュータとして実現されてもよい。また、サーバ装置20によるレシピの出力及び摂食嚥下機能の評価の機能は、情報端末30に統合されていてもよい。このような場合は、レシピ出力システム100を情報端末30のみによって実現することができる。
【0030】
図2は、実施の形態に係るレシピ出力システムの特徴的な機能構成を示すブロック図である。サーバ装置20は、サーバ制御部21、サーバ通信部22、及びサーバ記憶部23を備える。
【0031】
サーバ制御部21は、取得部24と出力部25とを備える。
【0032】
取得部24は、対象者の摂食嚥下機能を示す能力情報を取得する処理部である。また、取得部24は、対象者が発話した音声を情報端末30が非接触により集音することで得られる音声データを取得する処理部でもある。当該音声は、対象者が所定の音節または所定の文を発話した音声であってもよく、対象者が普段発する会話の音声の中から、摂食嚥下機能の評価に必要な一部の音声がトリミングされた音声であってもよい。取得部24の処理部は、プロセッサ及び当該プロセッサに接続されたメモリによって実現される。処理部は、プロセッサによってメモリに格納された各種処理のためのプログラムを実行することで、取得部24における上記の機能を実現する。
【0033】
出力部25は、選択が受け付けられた料理を調理するための、対象者の摂食嚥下機能に適合したレシピを出力する処理部である。また、出力部25は、対象者が発した音声に基づいて対象者の摂食嚥下機能を評価して、評価結果として能力情報を出力する処理部でもある。出力部25の処理部は、プロセッサ及び当該プロセッサに接続されたメモリによって実現される。処理部は、プロセッサによってメモリに格納された各種処理のためのプログラムを実行することで、出力部25における上記の機能を実現する。
【0034】
サーバ通信部22は、サーバ装置20と情報端末30とを通信可能に接続するための通信モジュールである。
【0035】
サーバ記憶部23は、サーバ装置20において使用される情報を格納するための記憶装置である。サーバ記憶部23は、例えば、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、半導体メモリ、HDD(Hard Disk Drive)等によって実現される。また、サーバ記憶部23には、各処理部において実行されるプログラム、料理を調理するためのレシピ情報の出力、及び、対象者の摂食嚥下機能の評価結果の出力の際に用いられる当該評価結果を示す画像データを示す画像、動画、音声またはテキスト等のデータも記憶されている。
【0036】
図示していないが、サーバ装置20は、所定の音節または所定の文を発音することを対象者に指示するための指示部を備えていてもよい。指示部は、具体的には、サーバ記憶部23に記憶された、所定の音節または所定の文を発音することを指示するための指示用の画像の画像データ、および、音声データを取得し、当該画像データおよび当該音声データを情報端末30に出力する。
【0037】
情報端末30は、端末制御部31、入力受付部32、端末通信部33、端末記憶部34、集音部35を備える。
【0038】
端末制御部31は、情報端末30の各種機能を実現するための処理部である。端末制御部31の処理部は、プロセッサ及び当該プロセッサに接続されたメモリによって実現される。処理部は、プロセッサによってメモリに格納された各種処理のためのプログラムを実行することで、端末制御部31における上記の機能を実現する。
【0039】
入力受付部32は、受付部の一例であり、対象者による情報端末30に対する操作を受け付けるユーザインタフェースである。入力受付部32は、例えば、上記のディスプレイと兼用されるタッチパネル等の入力装置によって実現される。
【0040】
端末通信部33は、サーバ装置20と情報端末30とを通信可能に接続するための通信モジュールである。
【0041】
端末記憶部34は、情報端末30において使用される情報を格納するための記憶装置である。端末記憶部34は、例えば、ROM、半導体メモリ、HDD等によって実現される。
【0042】
集音部35は、対象者の発した音声を集音するための、マイク等の情報端末30に搭載された集音モジュールである。集音部35は、対象者の発した音声を音声データとして集音する。
【0043】
[摂食嚥下機能評価の処理手順]
続いて、サーバ装置20が実行する摂食嚥下機能評価における具体的な処理手順について説明する。
【0044】
まず、対象者によって発された所定の音節または所定の文(特定の音を含む文章)を含む音声を集音する。例えば、指示部によって取得された対象者への指示用の画像の画像データを、情報端末30に出力する。情報端末30のディスプレイには、対象者への指示用の画像が表示される。指示される所定の文は、「きたからきたかたたたきき」、「えをかくことにきめた」、「きたかぜとたいよう」、「あいうえお」、「ぱぱぱぱぱ・・」、「たたたたた・・」、「かかかかか・・」、「ららららら・・」、「ぱんだのかたたたき」等であってもよい。また、発音の指示は、所定の文で行われなくてもよく、「き」、「た」、「か」、「ら」、「ぜ」または「ぱ」等の一文字の所定の音節で行われてもよい。また、発音の指示は、「えお」及び「いえあ」などの二音節以上の母音のみからなる無意味なフレーズを発声させる指示であってもよい。発音の指示は、このような無意味なフレーズを繰り返し発声させる指示であってもよい。
【0045】
また、指示部は、サーバ記憶部23に記憶された、対象者への指示用の音声の音声データを取得し、当該音声データを、情報端末30に出力することで、発音することを指示する指示用の画像を用いずに発音することを指示する指示用の音声を用いて上記指示を行ってもよい。さらに、発音することを指示する指示用の画像および音声を用いずに、対象者の摂食嚥下機能を評価したい評価者(家族、医師等)が自身の声で対象者に上記指示を行ってもよい。
【0046】
例えば、所定の音節は、子音および当該子音に後続した母音によって構成されてもよい。例えば、日本語においては、このような所定の音節は、「き」、「た」、「か」、「ぜ」等である。「き」は、子音「k」および当該子音に後続した母音「i」によって構成される。「た」は、子音「t」および当該子音に後続した母音「a」によって構成される。「か」は、子音「k」および当該子音に後続した母音「a」によって構成される。「ぜ」は、子音「z」および当該子音に後続した母音「e」によって構成される。
【0047】
また、例えば、所定の文は、子音、当該子音に後続した母音および当該母音に後続した子音からなる音節部分を含んでいてもよい。例えば、日本語においては、このような音節部分は、「かぜ」における「kaz」部分である。具体的には、当該音節部分は、子音「k」、当該子音に後続した母音「a」および当該母音に後続した子音「z」からなる。
【0048】
また、例えば、所定の文は、母音を含む音節が連続した文字列を含んでいてもよい。例えば、日本語においては、このような文字列は、「あいうえお」等である。
【0049】
また、例えば、所定の文は、所定の単語を含んでいてもよい。例えば、日本語においては、このような単語は、「たいよう:太陽」、「きたかぜ:北風」等である。
【0050】
また、例えば、所定の文は、子音、および、当該子音に続く母音によって構成される音節が繰り返されるフレーズを含んでいてもよい。例えば、日本語においては、このようなフレーズは、「ぱぱぱぱぱ・・」、「たたたたた・・」、「かかかかか・・」、または「ららららら・・」等である。「ぱ」は、子音「p」および当該子音に後続した母音「a」によって構成される。「た」は、子音「t」および当該子音に後続した母音「a」によって構成される。「か」は、子音「k」および当該子音に後続した母音「a」によって構成される。「ら」は、子音「r」および当該子音に後続した母音「a」によって構成される。
【0051】
集音部35は、指示を受けた対象者の音声データを集音する。例えば、対象者は、「きたからきたかたたたきき」等の所定の文等を情報端末30の集音部35に向けて発する。集音部35は、対象者が発した所定の文または所定の音節等の音声を、音声データとして集音する。
【0052】
次に、サーバ制御部21の出力部25は、集音部35において集音された音声データから特徴量を算出し、算出した特徴量から、対象者の摂食嚥下機能を評価する。
【0053】
例えば、集音部35が集音した音声データが、子音および当該子音に後続した母音によって構成される所定の音節を発話した音声から得られる音声データの場合、出力部25は、当該子音と当該母音との音圧差を特徴量として算出する。これについて、
図3Aを用いて説明する。
【0054】
図3Aは、対象者が発話した音声を示す音声データの一例を示す図である。具体的には、
図3Aは、対象者が「きたからきたかたたたきき」と発話した場合の音声データを示すグラフである。
図3Aに示すグラフの横軸は時間であり、縦軸はパワー(音圧)である。なお、
図3Aのグラフの縦軸に示すパワーの単位は、デシベル(dB)である。
【0055】
図3Aに示すグラフには、「き」、「た」、「か」、「ら」、「き」、「た」、「か」、「た」、「た」、「た」、「き」、「き」に対応する音圧の変化が確認される。集音部35は、対象者から音声データとして、
図3Aに示すデータを集音する。出力部25は、例えば、既知の方法により、
図3Aに示す音声データに含まれる「き(ki)」における「k」および「i」の各音圧、「た(ta)」における「t」および「a」の各音圧、および「か(ka)」における「k」および「a」の各音圧を算出する。また、対象者が「きたかぜとたいよう」と発話した場合には、出力部25は、「ぜ(ze)」における「z」および「e」の各音圧を算出する。出力部25は、算出した「t」および「a」の各音圧から、「t」および「a」の音圧差ΔP1、ΔP4、ΔP6、ΔP7、及びΔP8を特徴量として算出する。同じように、出力部25は、「k」および「i」の音圧差ΔP3およびΔP9、「k」および「a」の音圧差ΔP2およびΔP5、「z」および「e」の音圧差(図示せず)を特徴量として算出する。
【0056】
例えば、出力部25は、サーバ記憶部23に格納された各音圧差に対応する閾値を含む参照データを参照することにより、各音圧差が当該閾値以上であるか否かに応じて摂食嚥下機能を評価する。
【0057】
例えば、「き(ki)」及び「か(ka)」を発するためには、舌の根元を軟口蓋へ接触させる必要がある。舌の根元を軟口蓋へ接触させる機能(「k」および「i」の音圧差ならびに「k」および「a」の音圧差)を評価することで、準備期、口腔期、及び咽頭期における舌の運動機能(舌圧等も含む)を評価することができる。
【0058】
例えば、「た(ta)」を発するためには、舌の先端を前歯後方の上顎へ接触させる必要がある。舌の先端を前歯後方の上顎へ接触させる機能(「t」および「a」の音圧差)を評価することで、準備期と口腔期とにおける舌の運動機能を評価することができる。
【0059】
例えば、「ぜ(ze)」を発するためには、舌の先端を上前歯へ接触または接近させる必要がある。舌の側面は、歯列で支えるなど、歯の存在が重要となる。上前歯を含む歯列の存在(「z」および「e」の音圧差)を評価することで、残存歯の多いか少ないかの推定や、少ない場合には咀嚼能力に影響するなど、準備期における歯の咬合状態を評価することができる。
【0060】
また、例えば、集音部35が集音した音声データが、子音、当該子音に後続した母音および当該母音に後続した子音からなる音節部分を含む所定の文を発話した音声から得られる音声データの場合、出力部25は、当該音節部分を発するのに要した時間を特徴量として算出する。
【0061】
例えば、対象者が「かぜ」を含む所定の文を発話した場合、当該所定の文は、子音「k」、当該子音に後続した母音「a」および当該母音に後続した子音「z」からなる音節部分を含む。出力部25は、このような「k-a-z」からなる音節部分を発するのに要した時間を特徴量として算出する。
【0062】
例えば、出力部25は、当該音節部分を発するのに要した時間に対応する閾値を含む参照データを参照することにより、当該音節部分を発するのに要した時間が当該閾値以上であるか否かに応じて摂食嚥下機能を評価する。
【0063】
例えば、「子音-母音-子音」からなる音節部分を発するのに要する時間は、舌の運動機能(舌の巧緻性または舌圧等)に応じて変わってくる。当該音節部分を発するのに要した時間を評価することで、準備期における舌の運動機能を評価することができる。
【0064】
また、例えば、集音部35が集音した音声データが、母音を含む音節が連続した文字列を含む所定の文を発話した音声から得られる音声データの場合、出力部25は、母音部分のスペクトルから得られる第一フォルマント周波数もしくは第二フォルマント周波数等の変化量を特徴量として算出し、また、母音部分のスペクトルから得られる第一フォルマント周波数もしくは第二フォルマント周波数等のばらつきを特徴量として算出する。
【0065】
第一フォルマント周波数は、人の音声の低周波数側から数えて1番目に見られる振幅のピーク周波数であり、舌の動き(特に上下運動)に関する特徴が反映されやすいことが知られている。加えて、顎の開きに関する特徴が反映されやすいことも知られている。
【0066】
第二フォルマント周波数は、人の音声の低周波数側から数えて2番目に見られる振幅のピーク周波数であり、声帯音源が声道、口唇や舌等の口腔、鼻腔等で生じる共鳴のうち、舌の位置(特に前後位置)に関する影響が反映されやすいことが知られている。また、例えば、歯が存在しない場合に正しく発話できないことから、準備期における歯の咬合状態(歯の数)は、第二フォルマント周波数に影響があると考えられる。また、例えば、唾液が少ない場合に正しく発話できないことから、準備期における唾液の分泌機能は、第二フォルマント周波数に影響があると考えられる。なお、舌の運動機能、唾液の分泌機能または歯の咬合状態(歯の数)は、第一フォルマント周波数から得られる特徴量および第二フォルマント周波数から得られる特徴量のうちのいずれの特徴量から算出してもよい。
【0067】
図3Bは、フォルマント周波数を説明するための周波数スペクトル図である。なお、
図3Bに示すグラフの横軸は周波数[Hz]であり、縦軸は振幅である。
【0068】
図3Bに破線で示すように、音声データの横軸を周波数に変換して得られるデータには、複数のピークが確認される。複数のピークのうち、周波数の最も低いピークの周波数は、第一フォルマント周波数F1である。また、第一フォルマント周波数F1の次に周波数の低いピークの周波数は、第二フォルマント周波数F2である。また、第二フォルマント周波数F2の次に周波数の低いピークの周波数は、第三フォルマント周波数F3である。このように、出力部25は、集音部35が集音した音声データから既知の方法により母音部分を抽出して、抽出した母音の部分の音声データを、周波数に対する振幅にデータ変換することにより母音部分のスペクトルを算出して、母音部分のスペクトルから得られるフォルマント周波数を算出する。
【0069】
なお、
図3Bに示すグラフは、対象者から収音された音声データを、周波数に対する振幅のデータに変換し、その包絡線を求めることにより算出される。包絡線の計算には、例えば、ケプストラム分析、線形予測分析(Linear Predictive Coding:LPC)等が採用される。
【0070】
図3Cは、フォルマント周波数の時間変化の一例を示す図である。具体的には、
図3Cは、第一フォルマント周波数F1と、第二フォルマント周波数F2と、第三フォルマント周波数F3との周波数の時間変化の一例を説明するためのグラフである。
【0071】
例えば、対象者に、「あいうえお」等の連続した複数の母音を含む音節を発話させる。出力部25は、対象者が発話した音声を示す音声データから、複数の母音それぞれの第一フォルマント周波数F1および第二フォルマント周波数F2を算出する。さらに、出力部25は、母音が連続した文字列の第一フォルマント周波数F1の変化量(時間変化量)と第二フォルマント周波数F2の変化量(時間変化量)を特徴量として算出する。
【0072】
例えば、出力部25は、当該変化量に対応する閾値を含む参照データを参照することにより、当該変化量が当該閾値以上であるか否かに応じて摂食嚥下機能を評価する。
【0073】
第一フォルマント周波数F1をみると、例えば、顎の開きを示している。つまり、顎の動きが影響する準備期、口腔期、 咽頭期において当該顎の動きが低下していることを示している。第二フォルマント周波数F2をみると、舌の前後の位置に関する影響があり、その動きが影響する準備期、口腔期、および咽頭期における舌の動きが低下していることを示す。第二フォルマント周波数F2をみると、例えば、歯がなく正しく発話できないことを示しており、つまりは、準備期における歯の咬合状態が劣化していることを示す。また、第二フォルマント周波数F2をみると、例えば、唾液が少なく正しく発話できないことを示しており、つまりは、準備期における唾液の分泌機能が低下していることを示す。すなわち、第二フォルマント周波数F2の変化量を評価することで、準備期における唾液の分泌機能を評価することができる。
【0074】
また、出力部25は、母音が連続した文字列の第一フォルマント周波数F1のばらつきを特徴量として算出する。例えば、音声データに母音がn個(nは自然数)含まれる場合には、n個の第一フォルマント周波数F1が得られ、これらの全部または一部を用いて第一フォルマント周波数F1のばらつきが算出される。特徴量として算出されるばらつきの度合いは、例えば、標準偏差である。
【0075】
例えば、出力部25は、当該ばらつきに対応する閾値を含む参照データを参照することにより、当該ばらつきが当該閾値以上であるか否かに応じて摂食嚥下機能を評価する。
【0076】
第一フォルマント周波数F1のばらつきが大きいこと(閾値以上であること)は、例えば、舌の上下運動が鈍いことを示しており、つまりは、口腔期における、舌の先端を上顎に押し当てて食塊を咽頭へ送り込む舌の運動機能が低下していることを示す。すなわち、第一フォルマント周波数F1のばらつきを評価することで、口腔期における舌の運動機能を評価することができる。
【0077】
また、例えば、出力部25は、対象者が所定の音節または所定の文を発話した音声のピッチ(高さ)を特徴量として算出する。
【0078】
例えば、出力部25は、当該ピッチに対応する閾値を含む参照データを参照することにより、当該ピッチが当該閾値以上であるか否かに応じて摂食嚥下機能を評価する。
【0079】
また、例えば、集音部35が集音した音声データが、所定の単語を含む所定の文を発話した音声から得られる音声データの場合、出力部25は、所定の単語を発するのに要した時間を特徴量として算出する。
【0080】
例えば、対象者が「たいよう」を含む所定の文を発話する場合、対象者は、「たいよう」という文字列を「太陽」という単語であることを認識してから「たいよう」という文字列を発話する。所定の単語を発するのに時間を要する場合、対象者は、認知症のおそれがある。ここで、歯の本数は認知症に影響を与えると言われている。歯の本数は、脳活動に影響しており、歯の本数が減ることにより脳への刺激が減り、認知症を発症する危険性が高まるためである。つまり、対象者が認知症のおそれがあることは、歯の本数とは対応しており、さらには、準備期における食物を噛み砕きすり潰すための歯の咬合状態と対応している。したがって、所定の単語を発するのに要した時間が大きいこと(閾値以上であること)は、対象者が認知症のおそれがあること、言い換えると、準備期における歯の咬合状態が劣化していることを示す。すなわち、対象者が所定の単語を発するのに要した時間を評価することで、準備期における歯の咬合状態を評価することができる。
【0081】
なお、出力部25は、所定の文全体を発するのに要した時間を特徴量として算出してもよい。この場合でも、同じように、対象者が所定の文全体を発するのに要した時間を評価することで、準備期における歯の咬合状態を評価することができる。また、同じように、舌の動き(巧緻性)も評価することができる。すなわち、対象者が所定の文全体を発するのに要した時間を評価することで、準備期における舌の動きを評価することができる。
【0082】
また、例えば、集音部35が集音した音声データが、閉鎖子音、および、当該閉鎖子音に続く母音によって構成される音節が繰り返されるフレーズを含む所定の文を発話した音声から得られる音声データの場合、出力部25は、繰り返される音節を所定の時間(例えば5秒等)内に発した回数を特徴量として算出する。
【0083】
例えば、出力部25は、当該回数に対応する閾値を含む参照データを参照することにより、当該回数が当該閾値以上であるか否かに応じて摂食嚥下機能を評価する。
【0084】
例えば、対象者は、「ぱぱぱぱぱ・・」、「たたたたた・・」、「かかかかか・・」または「ららららら・・」などの子音、および、当該子音に続く母音によって構成される音節が繰り返されるフレーズを含む所定の文を発話する。
【0085】
例えば、「ぱ(pa)」を発するためには、口(口唇)を上下に開け閉めする必要がある。口唇を上下に開け閉めする機能が低下している場合、「ぱ」を所定時間内に素早く所定回数(閾値)以上発話できなくなる。口唇を上下に開け閉めする動作は、準備期における食物をこぼさずに口腔内に取り込む動作に類似している。このため、「ぱ(pa)」を素早く発する、つまり、口唇を上下に素早く繰り返し開け閉めする機能は、準備期における食物をこぼさずに口腔内に取り込むための表情筋の運動機能と対応している。すなわち、「ぱ(pa)」を所定の時間内に発した回数を評価することで、準備期における表情筋の運動機能を評価することができる。
【0086】
例えば、「た(ta)」を発するためには、上述したように、舌の先端を前歯後方の上顎へ接触させる必要がある。舌の先端を前歯後方の上顎へ接触させる動作は、準備期における食物を歯に押し当てたり細かくなった食物を唾液と混ぜ合わせてまとめたりする際に行われる動作、および、口腔期における舌(舌の先端)を持ち上げて食塊を口腔内から咽頭に移動させる際に行われる動作と類似している。このため、「た(ta)」を素早く発する、つまり、舌の先端を素早く前歯後方の上顎へ繰り返し接触させる機能は、準備期における食物を歯に押し当てたり細かくなった食物を唾液と混ぜ合わせてまとめたりするための舌の運動機能、および、口腔期における食塊を咽頭へ移動させるための舌の運動機能と対応している。すなわち、「た(ta)」を所定の時間内に発した回数を評価することで、準備期における舌の運動機能および口腔期における舌の運動機能を評価することができる。
【0087】
例えば、「か(ka)」を発するためには、上述した「き(ki)」と同じように、舌の根元を軟口蓋へ接触させる必要がある。舌の根元を軟口蓋へ接触させる動作は、口腔期と咽頭期とにおける食塊に咽頭を通過させる(飲み込む)際に行われる動作と類似している。さらに、食べ物や飲み物を口に含む際(準備期)、及び、食べ物を口の中で咀嚼し食塊形成をしている際(準備期)には、舌の根元は軟口蓋に接触し、咽頭流入を防ぐ動作、及び、ムセを防ぐ動作を行うが、これは「k」を発する時の舌の動作と類似している。すなわち、「か(ka)」を所定の時間内に発した回数を評価することで、準備期、口腔期、咽頭期における舌の運動機能を評価することができる。また、この舌の運動機能は、食べ物を咽頭流入させない機能、ムセを防ぐ機能と対応している。
【0088】
例えば、「ら(ra)」を発するためには、舌を反らせる必要がある。舌を反らせる動作は、準備期における食物を唾液と混ぜ合わせて食塊を形成する動作と類似している。このため、「ら(ra)」を素早く発する、つまり、舌を素早く繰り返し反らせる機能は、準備期における食物を唾液と混ぜ合わせて食塊を形成するための舌の運動機能と対応している。すなわち、「ら(ra)」を所定の時間内に発した回数を評価することで、準備期における舌の運動機能を評価することができる。
【0089】
このように、出力部25は、対象者の摂食嚥下機能を、例えば、「準備期における」舌の運動機能、または、「口腔期における」舌の運動機能といったように、準備期、口腔期および咽頭期のいずれの段階における摂食嚥下機能であるかを区別した上で評価する。例えば、出力部25は、特徴量の種類と準備期、口腔期および咽頭期の少なくとも1つの段階における摂食嚥下機能との対応関係を含む参照データを参照する。例えば、特徴量として「k-a-z」からなる音節部分を発するのに要した時間に着目すると、「k-a-z」からなる音節部分を発するのに要した時間と準備期における舌の運動機能とが対応付けられている。このため、出力部25は、準備期、口腔期および咽頭期のいずれの段階における摂食嚥下機能であるかを区別した上で対象者の摂食嚥下機能を評価できる。対象者の摂食嚥下機能を、準備期、口腔期および咽頭期のいずれの段階における摂食嚥下機能であるかを区別した上で評価することで、対象者にどのような症状が発生するおそれがあるかがわかる。これについて、
図3Dを用いて説明する。
【0090】
図3Dは、準備期、口腔期および咽頭期における摂食嚥下機能の具体例と、各機能が低下したときの症状を示す図である。
【0091】
準備期における表情筋の運動機能が低下することで、摂食嚥下において食べこぼしの症状がみられるようになる。準備期における舌の運動機能および歯の咬合状態が劣化することで、摂食嚥下において正しく咀嚼できない(食物を噛み砕いたり、すり潰したりできない)という症状がみられるようになる。準備期における唾液の分泌機能が低下することで、摂食嚥下において食物がばらばらのままで食塊を形成できないという症状がみられるようになる。また、口腔期および咽頭期における舌の運動機能が低下することで、摂食嚥下において食塊を咽頭そして食道へと正しく飲み込むことができずムセるという症状がみられるようになる。
【0092】
各段階における摂食嚥下機能が低下したときに、このような症状がみられることがわかっているため、対象者の摂食嚥下機能を、準備期、口腔期および咽頭期のいずれの段階における摂食嚥下機能であるかを区別した上で評価することで、以下のように、対応する摂食嚥下機能の状態に適合したレシピを出力することができる。
【0093】
出力部25は、評価した対象者の摂食嚥下機能の評価結果として能力情報を出力する。また、出力部25は、評価した対象者の能力情報を用いて料理を調理するためのレシピを出力する。なお、出力部25は、能力情報を情報端末30へ出力してもよい。この場合、出力部25は、例えば、サーバ通信部22を介して有線通信または無線通信により端末通信部33へと能力情報を出力する。このようにして情報端末30へと出力された能力情報は、ディスプレイ等を用いて、対象者等に表示される。
【0094】
したがって、能力情報によって示される摂食嚥下機能は、対象者等にとってわかりやすい情報にまとめられていることが望ましい。本実施の形態では、摂食嚥下機能は、対象者における、噛む力、舌の動き、飲みこみの動き、食べ物をまとめる力、顎の動き、及びムセを防ぐ力の6項目にまとめられる。
【0095】
具体的には、「硬いものを食べる力(言い換えると噛む力)」は、準備期における歯の咬合状態及び準備期における咀嚼筋の運動機能、表情筋の運動機能、および舌の巧緻性を主として総合的に数値化される。また、「舌の動き」は、咽頭期における舌の運動機能、準備期における舌の運動機能及び口腔期における舌の運動機能を主として総合的に数値化される。また、「飲みこみの動き」は、口腔期における軟口蓋の上昇機能及び口腔期と咽頭期とにおける舌の運動機能を主として総合的に数値化される。また、「食べ物をまとめる力」は、準備期における舌の運動機能、準備期における頬の運動機能及び準備期における唾液の分泌機能を主として総合的に数値化される。また、「顎の動き」は、準備期における顎の運動機能、及び、表情筋の運動機能、ならびに、準備期における咀嚼筋の運動機能を主として総合的に数値化される。また、「ムセを防ぐ力」は、準備期と口腔期と咽頭期とにおける舌の運動機能を主として総合的に数値化される。
【0096】
また、出力部25は、総合的に数値化された以上の6項目について、当該6項目に関する閾値を含む参照データを参照することにより、総合的な摂食嚥下機能を評価してもよい。
【0097】
図4は、能力情報の一例を示す図である。情報端末30において表示される能力情報に対応する画像の画像データは、例えば、
図4に示されるような表である。
図4では、「硬いものを食べる力」、「舌の動き」、「食べ物をまとめる力」、「顎の動き」、「飲み込みの動き」、「ムセを防ぐ力」の6項目について、対象者の摂食嚥下機能の評価結果が示されている。
【0098】
例えば、能力情報は、丸印、三角印又はクロス印の3段階の評価結果である。丸印は正常を意味し、三角印はやや難ありを意味し、クロス印は難ありを意味する。
図4に示された判定結果では、対象者は、「硬いものを食べる力」、「舌の動き」、「食べ物をまとめる力」の3項目について何らかの難がある事が示されており、いずれも、程度は3段階中の2段階目にあたる三角印が付され、やや難ありである事がわかる。
【0099】
なお、評価結果は、3段階の評価結果に限らず、評価の程度が2段階又は4段階以上に分かれた細かい評価結果であってもよい。つまり、参照データに含まれる、各項目に対応する閾値は、2つに限らず、1つ又は3つ以上の閾値であってもよい。具体的には、ある特徴量について、第1閾値以上の場合には評価結果は正常となり、第1閾値よりも小さく第2閾値よりも大きい場合には評価結果はやや難ありとなり、第2閾値よりも小さく第3閾値よりも大きい場合には評価結果は難ありとなり、第3閾値以下の場合には評価結果はかなり難ありとなってもよい。丸印及びクロス印の代わりにOK(正常)及びNG(異常)が示されてもよい。また、能力情報のディスプレイへの表示では、摂食嚥下機能の低下の疑いのある項目だけが表示されてもよい。つまり、
図4の例では、「硬いものを食べる力」、「舌の動き」、「食べ物をまとめる力」のみが表示されてもよい。
【0100】
[レシピ出力の処理手順]
続いて、レシピ出力システム100におけるレシピ出力の処理手順について説明する。
図5は、実施の形態に係るレシピの出力の処理手順を示すフローチャートである。
【0101】
図5に示すように、レシピ出力システム100は、はじめに、複数の料理が含まれる料理リストを対象者、又は対象者に対して料理を調理して提供する調理者に提示する(ステップS11)。料理リストは、例えば情報端末30を用いてサーバ装置20にアクセスすることで、サーバ記憶部23に格納された料理リストがディスプレイに表示されることで提示されればよい。
【0102】
対象者又は調理者は、提示された料理リストの中から、対象者が摂食することを所望する、又は対象者に摂食させることが所望される等の基準により一の料理を選択する。一の料理の選択は、例えば、タッチパネル式ディスプレイに表示された料理名の箇所をタップすることで、レシピ出力システム100に受け付けられる(ステップS13)。受け付けられた一の料理は、選択された料理を示す料理情報としてサーバ装置20へと送信される。なお、一の料理の選択を連続的に受け付けることで、複数の一の料理が受け付けられてもよい。つまり、対象者の一度の食事に選択される料理をまとめて受け付けてもよい。このようにまとめて受け付けた一の料理は、レシピの出力の際に当該レシピに追記される内容に利用されてもよい。
【0103】
ここで、上記に説明したように、対象者の摂食嚥下機能を評価するための音声の集音を行う(ステップS15)。音声の集音は、上記したように、情報端末30の集音部35によって、対象者が発した音声が音声データとして集音されることで実施される。情報端末30において集音された音声データは、サーバ装置20へと送信される。
【0104】
レシピ出力システム100は、続いて、音声に基づく対象者の摂食嚥下機能の評価を行う。具体的には、レシピ出力システム100では、サーバ装置20へと送信された音声データに基づき、上記に説明したように、摂食嚥下機能の評価が実施され、評価結果として能力情報が出力される(ステップS17)。
【0105】
このようにして出力された能力情報は、取得部24において取得される(ステップS19)。なお、例えば、過去に対象者が発した音声に基づく摂食嚥下機能の評価結果である能力情報がサーバ記憶部23等に格納されている場合、この能力情報を用いてもよい。具体的には、取得部24は、サーバ記憶部23に格納されている能力情報を取得する。したがって、このような場合には、ステップS15及びステップS17は省略されてもよい。
【0106】
出力部25は、取得された能力情報に示される対象者の摂食嚥下機能に基づき、当該摂食嚥下機能に適合したレシピの出力を行う(ステップS21)。出力されたレシピは、当該レシピを示すレシピ情報として情報端末30へと送信される。
【0107】
以下、ステップS21における処理手順について詳しく説明する。
【0108】
ステップS21の対象者の摂食嚥下機能に適合したレシピの出力では、摂食嚥下機能のうち、異常がみられる項目に対して、
図6及び
図7に示すような、摂食嚥下機能とレシピにおける変更箇所とを対応付ける変更テーブルを参照することにより、標準レシピに対し、変更箇所を変更して対象者の摂食嚥下機能に適合したレシピを出力する。
【0109】
図6は、摂食嚥下機能と、出力されるレシピにおいて変更される変更箇所とを対応付ける第1の変更テーブルである。
図6では、「硬いものを食べる力」、「舌の動き」、「食べ物をまとめる力」、「顎の動き」、「飲み込みの動き」、「ムセを防ぐ力」のそれぞれについて、異常がみられる場合に出力されるレシピにおいて変更される「(食材の)切り方」、「加熱方法」、「下処理(の方法)」、「特別な処理」、及び「食べ方」が示されている。
【0110】
例えば、「硬いものを食べる力」が正常ではない場合に、レシピの「切り方」について、「切込みを入れる」との記述が付加される。同様に、レシピの「加熱方法」について、「柔らかくなるまで加熱」との記述が付加される。同様に、レシピの「下処理」について、「繊維を切る」との記述が付加される。例えば、「舌の動き」が正常ではない場合に、レシピの「切り方」について、「細かくしすぎない」との記述が付加される。同様に、レシピの「加熱方法」について、「柔らかくなるまで加熱」との記述が付加される。同様に、レシピの「特別な処理」・「食べ方」について、「餡をかける」との記述が付加される。
【0111】
このように、
図6に示すような変更テーブルでは、摂食嚥下機能が正常でない場合に、変更されるべき変更点のみが当該摂食嚥下機能に対応付けられている。変更される前の標準レシピは、摂食嚥下能力に異常がない健常者において当該料理を調理するためのレシピである。標準レシピは、例えば、サーバ記憶部23にレシピデータベースとして格納された複数のレシピの中から選択された一の料理に対応するものが用いられてもよく、外部のレシピ提供サービス等から取得された一の料理に対応するものであってもよい。この場合、取得される標準レシピに含まれる「切り方」、「加熱方法」、「下処理」、「特別な処理」、及び「食べ方」の記述方法にばらつきがあるため、機械学習による言語認識等により、変更すべき箇所と変更後の記述とを整合させてもよい。
【0112】
また、例えば、「硬いものを食べる力」及び「舌の動き」の両方が正常でなかった場合、例えば、「加熱方法」がいずれも「柔らかくなるまで加熱」であるが、「硬いものを食べる力」又は「舌の動き」の一方が正常でなかった場合に比べ、加熱時間を延長するわけではない。つまり、同じ「柔らかくなるまで加熱」の「加熱方法」が変更点となっている「硬いものを食べる力」、「舌の動き」、及び「顎の動き」のうち、いずれか1つが該当した場合に、「加熱方法」を「柔らかくなるまで加熱」の処理に変更する。
【0113】
以上のようにして、出力部25は、対象者の摂食嚥下機能に適合したレシピを出力する。
【0114】
また、
図7は、摂食嚥下機能と、出力されるレシピにおいて変更される変更箇所とを対応付ける第2の変更テーブルである。
図7では、「硬いものを食べる力」、「舌の動き」、「食べ物をまとめる力」、「顎の動き」、「飲み込みの動き」、「ムセを防ぐ力」のそれぞれについて、異常がみられる場合に出力されるレシピにおいて変更される食材のリストが示されている。
【0115】
具体的には、摂食嚥下能力のいずれかが正常でない場合に、当該正常でない摂食嚥下能力に応じて、料理の調理に使用することが推奨されない非推奨食材のリストが示されている。例えば、「硬いものを食べる力」が、正常でない対象者の場合には、「ナッツ」、「生野菜」、「そぼろ」等の使用が推奨されないことがわかる。また、同様に、「舌の動き」が正常でない対象者の場合には、「わかめ」、「レタス」、「のり」等の使用が推奨されないことがわかる。標準レシピにおいて、非推奨食材の中に該当する食材が含まれる場合、当該非推奨食材を削除したレシピが出力される。また、非推奨食材に対する代替食材が提示可能な場合、標準レシピ内の非推奨食材が代替食材に置き換えられたレシピが出力される。
【0116】
また、
図7には、摂食嚥下能力のそれぞれについて非推奨食材を包括する、非推奨食材の属性(性質)が併せて示されている。これにより。リストには記載されていないが、使用が推奨されない可能性がある食材について、使用の是非を自己判断することが可能となる。つまり、このような非推奨食材の属性をレシピに注意書きとして付記することで、料理を調理する際に使用が推奨されない食材を調理者の判断により避けることができる。
【0117】
以上のようにして、出力部25は、対象者の摂食嚥下機能に適合した食材を用いて選択された一の料理を調理するためのレシピを出力する。
【0118】
なお、出力部25において、対象者の摂食嚥下機能に適合した一の料理を調理するためのレシピの出力ができない場合に、一の料理に代えて推奨される複数の推奨料理のリストを出力してもよい。推奨料理のリストは、情報端末30において表示される。出力部25は、当該推奨料理のリストの中から、対象者又は調理者等からの選択が受け付けられた推奨料理を調理するためのレシピを出力する。このとき出力部25は、上記同様に対象者の摂食嚥下機能に適合した推奨料理を調理するためのレシピの出力を行う。
【0119】
[実施例]
以下、
図8A~
図9Bを用いて、実施の形態の実施例について説明する。
図8Aは、実施例に係る出力されるレシピの一例を示す第1図である。
図8Bは、比較例に係る出力されるレシピの一例を示す第1図である。
図9Aは、実施例に係る出力されるレシピの一例を示す第2図である。
図9Bは、比較例に係る出力されるレシピの一例を示す第2図である。
【0120】
図8A及び
図8Bには、実施例及び比較例において出力されるレシピが示されている。実施例では、対象者として
図4に示す能力情報を示す対象者を想定して出力されたレシピを示している。また、比較例では、対象者として、摂食嚥下機能に異常がない健常者を想定して出力されたレシピを示している。つまり、
図8B及び
図9Bには、標準レシピが示されている。本実施例では、「肉じゃが」及び「卵スープ」が選択された料理としてレシピの出力が行われている。また、図中において、実施例と比較例とを比較して変更されている箇所に下線を付して示している。
【0121】
なお、
図4では3段階に分けて対象者の摂食嚥下機能の評価を行ったが、摂食嚥下機能が三角印のやや難あり以下の場合に、レシピの変更が行われる。例えば、このようなレシピの変更は、対象者の摂食嚥下機能の評価を行った段階数に応じて行われてもよい。つまり、対象者の摂食嚥下機能が正常、やや難あり、難ありの3段階のいずれであるかが評価される場合、例えば「切り方」は、「処理なし」、「切込みを入れる」及び「細かく刻む」等摂食嚥下機能の段階に対応する3段階にしてもよい。
【0122】
材料として示す食材の中では、標準レシピにおいて「牛肉(切り落とし)」である箇所が、実施例で出力されるレシピにおいて「牛肉(しゃぶしゃぶ用)」に変更されている。牛肉として、切り落としよりも薄いしゃぶしゃぶ用の牛肉が使用されることで、対象者における「硬いものを食べる力」に適合させるための変更が行われている。
【0123】
また、材料として示す食材の中では、標準レシピにおいて「しらたき」である箇所が、実施例で出力されるレシピにおいて削除されている。しらたきは、加熱しても柔らかくならないことに加え、かみ砕いたのちにまとまりにくい性質を持っているため、細かくかみ砕く必要があるが、弾力のある性質により、うまく咀嚼位置に舌で誘導する必要があるこんにゃくに準じる食材である。つまり、本変更は、対象者における「舌の動き」に適合させるための変更である。
【0124】
また、材料として示す食材の中では、標準レシピにおいて「長ネギ」である箇所が、実施例で出力されるレシピにおいて「たまねぎ」に変更されている。長ネギは、繊維質かつ硬い食材であり、細かくすりつぶすことが困難な食材である。つまり、本変更は、対象者における「硬いものを噛む力」に適合させるための変更である。
【0125】
また、調理方法として示す手順の中では、標準レシピにおいて「じゃがいもは一口大に」である箇所が、実施例で出力されるレシピにおいて「じゃがいもは一口大を半分~1/3に」に変更されている。標準的な大きさからさらに小さく食材を切ることで、咀嚼時の負担を軽減している。つまり、本変更は、対象者における「硬いものを食べる力」に適合させるための変更である。人参についての切り方の変更も上記同様である。
【0126】
また、調理方法として示す手順の中では、標準レシピにおいて「たまねぎはくし切りに」である箇所が、実施例で出力されるレシピにおいて「たまねぎはくし切りし繊維と直角方向に1/3に」に変更されている。標準的な大きさからさらに小さく食材を切ると同時に、さらに、繊維を切るようにして、咀嚼時の負担をより軽減している。つまり、本変更は、対象者における「硬いものを食べる力」に適合させるための変更である。牛肉についての切り方の変更も上記同様である。
【0127】
また、調理方法として示す手順の中では、標準レシピにはないが、実施例で出力されるレシピにおいて手順6の後に「さらに10分程煮て人参が十分に柔らかく、ジャガイモが少し煮崩れ始めたら出来上がりです。」が追加されている。これは、比較的硬い根菜類を柔らかくなるまで加熱するための処理である。つまり、本変更は、対象者における「硬いものを食べる力」及び「舌の動き」に適合させるための変更である。
【0128】
また、標準レシピにはないが、実施例で出力されるレシピにおいて召し上がり方として示す食べ方として「汁を多めにして召し上がるか、汁物と一緒に召し上がられることをおすすめします。」が追加されている。水分の少ない料理を摂食する際に唾液の分泌を補うため、外部から水分を追加させるための追記である。また、本実施例において、対象者によって選択された汁物(つまり卵スープ)が、片栗粉を含むものであるため、咀嚼時にとろみをつける効果も期待できる。すなわち、レシピ出力システム100では、対象者によってまとめて選択された料理に含まれる材料を考慮した追記を行ってもよい。本変更は、以上のように、対象者における「舌の動き」および「食べ物をまとめる力」に適合させるための変更である。
【0129】
このようにして、標準レシピに対して、対象者における摂食嚥下機能に適合させるための変更を適用して、対象者の摂食嚥下機能に適合したレシピが出力される。
【0130】
[効果等]
以上説明したように、本実施の形態におけるレシピ出力方法は、複数の料理が含まれる料理リストの中から一の料理の選択を受け付け、対象者の発した音声に基づいて評価された対象者の摂食嚥下機能を示す能力情報を取得し、選択が受け付けられた一の料理を調理するためのレシピであって、取得された能力情報に示される対象者の摂食嚥下機能に適合したレシピを出力する。
【0131】
このようなレシピ出力方法は、対象者の発した音声から予測される当該対象者の摂食嚥下機能の評価結果である能力情報を取得して、一の料理を調理するためのレシピを当該能力情報に応じて出力することができる。したがって、レシピは、対象者の摂食嚥下機能に応じて出力される。よって、レシピ出力方法では、対象者に適合したレシピを出力することが可能となる。
【0132】
また、例えば、さらに、対象者の発した音声を集音し、集音された対象者の発した音声に基づいて対象者の摂食嚥下機能を評価して能力情報を出力し、能力情報の取得では、出力された能力情報を取得してもよい。
【0133】
これによれば、対象者の発した音声を集音し、集音した当該音声に基づいて摂食嚥下機能の評価を行うことができる。選択された一の料理を調理するためのレシピの出力を、摂食嚥下機能の評価結果である能力情報に基づいて出力できる。したがって、レシピは、集音された対象者の音声からの予測に基づく摂食嚥下機能に応じて出力される。よって、レシピ出力方法では、対象者に適合したレシピを出力することが可能となる。
【0134】
また、例えば、対象者の摂食嚥下機能は、対象者における、噛む力、舌の動き、飲みこみの動き、食べ物をまとめる力、顎の動き、及びムセを防ぐ力の少なくとも一つの能力を含んでもよい。
【0135】
これによれば、選択された一の料理を調理するためのレシピの出力を、噛む力、舌の動き、飲みこみの動き、食べ物をまとめる力、顎の動き、及びムセを防ぐ力のうち少なくとも1つを含む摂食嚥下機能の評価結果である能力情報に基づいて出力できる。したがって、レシピは、対象者の噛む力、舌の動き、飲みこみの動き、食べ物をまとめる力、顎の動き、及びムセを防ぐ力のうち少なくとも1つを含む摂食嚥下機能に応じて出力される。よって、レシピ出力方法では、対象者に適合したレシピを出力することが可能となる。
【0136】
また、例えば、レシピの出力では、対象者の摂食嚥下機能が所定の閾値以下であった場合に、対象者の摂食嚥下機能に適合した加熱方法、加水量、食材の切り方、下処理の方法、及び食べ方の少なくとも一つが含まれるレシピを出力してもよい。
【0137】
これによれば、加熱方法、加水量、食材の切り方、下処理の方法、及び食べ方の少なくとも一つが対象者の摂食嚥下機能に適合したレシピの出力を行うことができる。したがって、具体的な調理手順に沿ったレシピが出力される。よって、レシピ出力方法では、容易に対象者の摂食嚥下機能に適合した一の料理を調理することができる。
【0138】
また、例えば、レシピの出力では、対象者の摂食嚥下機能が所定の閾値以下であった場合に、対象者の摂食嚥下機能に適合した食材を用いて一の料理を調理するレシピを出力してもよい。
【0139】
これによれば、対象者の摂食嚥下機能を、閾値を基準とした数値比較によって容易に評価できる。よって、レシピ出力方法では、摂食嚥下機能の評価の処理負荷を軽減でき、簡易なレシピ出力システムを実現できる。
【0140】
また、例えば、レシピの出力では、摂食嚥下機能とレシピの出力において変更される変更箇所とを対応付ける変更テーブルを参照することにより、一の料理を標準的に調理するための標準レシピに対し、変更箇所を変更して対象者の摂食嚥下機能に適合したレシピを出力してもよい。
【0141】
これによれば、摂食嚥下機能の評価結果に応じて、標準レシピから変更箇所を変更するのみで対象者の摂食嚥下機能に適合したレシピの出力が可能となる。よって、レシピ出力方法では、レシピの出力における処理負荷を軽減でき、簡易なレシピ出力システムを実現できる。
【0142】
また、例えば、レシピの出力では、さらに、対象者の摂食嚥下機能が所定の閾値以下であった場合に、一の料理に代えて推奨される複数の推奨料理のリストを提示し、複数の推奨料理のリストの中から選択を受け付けた推奨料理を調理するためのレシピであって、取得された能力情報に示される対象者の摂食嚥下機能に適合したレシピを出力してもよい。
【0143】
これによれば、対象者の摂食嚥下機能に応じた一の料理の他の推奨料理を提示できる。提示された推奨料理の中から再度選択を受け付けることによって、単純に代替料理を提案する場合に比べ、対象者等の嗜好に応じた料理を調理するためのレシピを出力できる。このとき出力されるレシピは、標準的に調理されるのみで対象者の摂食嚥下機能に適合するレシピであってもよく、標準レシピから対象者の摂食嚥下障害に適合させて出力されたレシピであってもよい。したがって、レシピ出力方法では、推奨料理の幅を広げることができ、より、対象者等の嗜好に応じた料理を調理するためのレシピを出力できる。
【0144】
また、本実施の形態におけるレシピ出力システム100は、複数の料理リストの中から一の料理の選択を受け付ける受付部(入力受付部32)と、対象者の発声した音声に基づいて評価された対象者の摂食嚥下機能を示す能力情報を取得する取得部24と、選択が受け付けられた一の料理を調理するためのレシピであって、取得された能力情報に示される対象者の摂食嚥下機能に適合したレシピを出力する出力部25と、を備える。
【0145】
このようなレシピ出力システム100は、対象者の発した音声から予測される当該対象者の摂食嚥下機能の評価結果である能力情報を取得して、一の料理を調理するためのレシピを当該能力情報に応じて出力することができる。したがって、レシピは、対象者の摂食嚥下機能に応じて出力される。よって、レシピ出力システム100は、対象者に適合したレシピを出力することが可能となる。
【0146】
(その他の実施の形態)
以上、実施の形態に係るレシピ出力方法等について説明したが、本発明は、上記実施の形態に限定されるものではない。
【0147】
例えば、参照データは、予め定められたデータであるが、専門家が対象者の摂食嚥下機能を実際に診断した際に得られた評価結果に基づいて、更新されてもよい。これにより、摂食嚥下機能の評価精度を高めることができ、より対象者の摂食嚥下機能に適合したレシピが出力される。なお、摂食嚥下機能の評価精度を高めるために機械学習が用いられてもよい。
【0148】
また、例えば、対象者が問題なく咀嚼をできているにもかかわらず、ある特徴量に基づいて咀嚼できない場合の摂食嚥下機能に適合したレシピが出力された場合には、対象者は、このレシピに対して間違っていると評価する。そして、この評価結果に基づいて摂食嚥下機能の評価における各種閾値が更新されることで、同じ特徴量に基づいて上記のような誤った提案がされないようになる。このように、対象者に対するレシピの出力を、より正確な摂食嚥下機能に基づくものとすることができる。なお、このような閾値の更新に機械学習が用いられてもよい。
【0149】
また、例えば、摂食嚥下機能の評価結果は、ビッグデータとして蓄積されて、機械学習に用いられてもよい。
【0150】
また、例えば、上記実施の形態では、対象者は日本語で発話するものとして説明が行われたが、対象者は、英語などの日本語以外の言語で発話してもよい。つまり、日本語の音声データが信号処理の対象とされることは必須ではなく、日本語以外の言語の音声データが信号処理の対象とされてもよい。
【0151】
また、例えば、レシピ出力方法におけるステップは、コンピュータ(コンピュータシステム)によって実行されてもよい。そして、本発明は、それらの方法に含まれるステップを、コンピュータに実行させるためのプログラムとして実現できる。さらに、本発明は、そのプログラムを記録したCD-ROM等である非一時的なコンピュータ読み取り可能な記録媒体として実現できる。
【0152】
例えば、本発明が、プログラム(ソフトウェア)で実現される場合には、コンピュータのCPU、メモリおよび入出力回路等のハードウェア資源を利用してプログラムが実行されることによって、各ステップが実行される。つまり、CPUがデータをメモリまたは入出力回路等から取得して演算したり、演算結果をメモリまたは入出力回路等に出力したりすることによって、各ステップが実行される。
【0153】
また、上記実施の形態のレシピ出力システム100に含まれる各構成要素は、専用または汎用の回路として実現されてもよい。
【0154】
また、上記実施の形態のレシピ出力システム100に含まれる各構成要素は、集積回路(IC:Integrated Circuit)であるLSI(Large Scale Integration)として実現されてもよい。
【0155】
また、集積回路はLSIに限られず、専用回路または汎用プロセッサで実現されてもよい。プログラム可能なFPGA(Field Programmable Gate Array)、または、LSI内部の回路セルの接続および設定が再構成可能なリコンフィギュラブル・プロセッサが、利用されてもよい。
【0156】
さらに、半導体技術の進歩または派生する別技術によりLSIに置き換わる集積回路化の技術が登場すれば、当然、その技術を用いて、レシピ出力システム100に含まれる各構成要素の集積回路化が行われてもよい。
【0157】
その他、実施の形態に対して当業者が思いつく各種変形を施して得られる形態や、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で各実施の形態における構成要素および機能を任意に組み合わせることで実現される形態も本発明に含まれる。
【符号の説明】
【0158】
24 取得部
25 出力部
32 入力受付部(受付部)
100 レシピ出力システム