(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-08
(45)【発行日】2023-06-16
(54)【発明の名称】モータ及びそれを備えた電気機器
(51)【国際特許分類】
H02K 5/22 20060101AFI20230609BHJP
【FI】
H02K5/22
(21)【出願番号】P 2020500363
(86)(22)【出願日】2019-01-25
(86)【国際出願番号】 JP2019002420
(87)【国際公開番号】W WO2019159649
(87)【国際公開日】2019-08-22
【審査請求日】2021-11-05
(31)【優先権主張番号】P 2018024845
(32)【優先日】2018-02-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】荻原 貴紀
(72)【発明者】
【氏名】浅野 貴洋
(72)【発明者】
【氏名】遠矢 和雄
(72)【発明者】
【氏名】水上 裕文
(72)【発明者】
【氏名】内田 保治
【審査官】島倉 理
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-027366(JP,A)
【文献】特開2007-089388(JP,A)
【文献】特開2000-248957(JP,A)
【文献】特開2000-102227(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 5/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端が開口された有底筒状のフレームと、前記フレーム内に収容されて固定された固定子と、該固定子と所定の間隔をあけて対向して配置された回転子と、前記フレームの開口に該開口を覆うように配設され、回転軸が挿通される貫通孔が中心に設けられた樹脂製の板状部材であるエンドプレートと、該エンドプレートの貫通孔を塞ぐように設けられ、前記回転軸を回転自在に支持する軸受と、を少なくとも備えたモータであって、
前記エンドプレートの外面の外周部に、前記フレームの内周面と径方向に対向する側面を有する段差が形成され、該段差の側面と前記フレームの内周面との間に、環状の弾性体からなるシールリングを収容するための環状の収容空間が区画形成され、
前記段差の底面は、前記エンドプレートの外面の径方向外縁まで延びかつ径方向外側に向かって前記フレームの底部側に向かうように傾斜している部分を有
し、
前記段差の底面は、径方向外側に位置する第1底面と、該第1底面に連続して径方向内側に位置する第2底面とを含み、前記第1底面は、前記エンドプレートの外面の径方向外縁まで延びかつ径方向外側に向かって前記フレームの底部側に向かうように傾斜している一方、前記第2底面は前記第1底面と軸方向に関して異なる方向に傾斜していることを特徴とするモータ。
【請求項2】
請求項
1に記載のモータにおいて、
前記第2底面は前記段差の側面に直交していることを特徴とするモータ。
【請求項3】
請求項
1に記載のモータにおいて、
前記第2底面は、前記第1底面と反対側に傾斜した傾斜面であることを特徴とするモータ。
【請求項4】
請求項
1ないし
3のいずれか1項に記載のモータにおいて、
前記第1底面は、径方向外縁部から径方向内側部まで直線状に延びる傾斜面であることを特徴とするモータ。
【請求項5】
請求項
1ないし
3のいずれか1項に記載のモータにおいて、
前記第1底面の径方向外縁部は、径方向外側に向かって前記フレームの底部側に向かうように湾曲するフィレット形状であることを特徴とするモータ。
【請求項6】
請求項
1ないし
5のいずれか1項に記載のモータにおいて、
前記第1底面は、径方向の幅が前記段差の底面の径方向の幅の半分以下であることを特徴とするモータ。
【請求項7】
請求項1ないし
6のいずれか1項に記載のモータにおいて、
前記回転子は、前記回転軸に貫通連結された電機子コアと、該電機子コアに周方向で所定の間隔をあけて配設された複数の突極と、該複数の突極のそれぞれに巻回された電機子巻線と、該電機子巻線に電気的に接続された整流子とを含み、
前記回転子の回転に応じて前記整流子と周期的に接触することで前記電機子巻線に流れる電機子電流の向きを変えるブラシをさらに備え、
前記エンドプレートの内面には、前記ブラシを収容するブラシ保持部が設けられていることを特徴とするモータ。
【請求項8】
請求項1ないし
7のいずれか1項に記載のモータと、
前記モータに連結され、前記エンドプレートの外側に貫通孔から突出した前記回転軸に駆動連結されていて、該モータの回転に応じて駆動される被駆動部を有する負荷と、
前記環状の収容空間に配設された環状の弾性体からなるシールリングと、を少なくとも備え、
前記シールリングは、前記負荷の表面から前記フレームの底部側に押圧されることで、前記段差の底面と前記フレームの内周面とで構成される第1コーナー部と、前記負荷の表面と前記フレームの内周面とで構成される第2コーナー部と、前記負荷の表面と前記段差の側面とで構成される第3コーナー部とに少なくとも当接していることを特徴とする電気機器。
【請求項9】
請求項
8に記載の電気機器において、
前記シールリングの断面がX字形状であることを特徴とする電気機器。
【請求項10】
請求項
8に記載の電気機器において、
前記シールリングの断面がY字形状であることを特徴とする電気機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ及びそれを備えた電気機器に関し、特に、外部からの水分や油等の進入を防止する構造を備えたモータに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電装用機器や電動工具等、あるいは車載用途でモータが多用されており、例えば、アンチロック・ブレーキシステム(ABS)に用いられる油圧ポンプを駆動するために小型モータが用いられている。これらの用途に用いられるモータは、小型軽量化を一段と要求されながら、高い信頼性が求められている。また、ABSに用いられるモータは、車両のエンジンルームに配置されるため、雨天時などに外部からの水分がモータにかかる場合があり、十分な防水対策を行う必要がある。
【0003】
そこで、従来、モータの外郭であるフレームの開口に圧入されてこの開口を覆うエンドプレートにおいて、整流子と軸受の間で軸受に回転自在に支持される回転軸の周りに沿って一定の隙間をもった壁を形成することで、上記の課題を解決する技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。なお、モータ内の回転子や固定子等との電気的絶縁を図るために、一般に、エンドプレートは樹脂材料で形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記の水分等は、主に、エンドプレートとフレームとの連結部分からフレームの内部に進入する。そのため、この連結部分にはOリングやXリング等のシールリングが配設されて水分等がフレーム内に進入するのを防止している。一方、モータと負荷とを組み付けるときに、エンドプレートに負荷側から軸方向に圧力が加わった状態が組み付けられ、この状態が維持される。
【0006】
しかし、一般に、樹脂材料に圧力が加えられた状態で温度が上昇すると、樹脂材料が熱クリープによる変形を起こすことが知られている。エンドプレートの熱クリープ変形が生じるとエンドプレートとフレームと負荷側とのシールリングの接触圧が低下し、シールリングとそれらの接触部との間に隙間が生じ、外部からその隙間に水がかかるとモータ内部へ水が進入して、モータの信頼性や絶縁性を著しく低下させるおそれがあった。
【0007】
本発明はかかる点に鑑みてなされたもので、その目的は、エンドプレートとフレームとの連結部分のシール性を維持した高信頼性のモータ及びそれを用いた電気機器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明に係るモータは、シールリングが収容されるエンドプレートの外面の外周部に下り勾配の傾斜面を設けるようにした。
【0009】
具体的には、本発明に係るモータは、一端が開口された有底筒状のフレームと、前記フレーム内に収容されて固定された固定子と、該固定子と所定の間隔をあけて対向して配置された回転子と、前記フレームの開口に該開口を覆うように配設され、回転軸が挿通される貫通孔が中心に設けられた樹脂製の板状部材であるエンドプレートと、該エンドプレートの貫通孔を塞ぐように設けられ、前記回転軸を回転自在に支持する軸受と、を少なくとも備えたモータであって、前記エンドプレートの外面の外周部に、前記フレームの内周面と径方向に対向する側面を有する段差が形成され、該段差の側面と前記フレームの内周面との間に、環状の弾性体からなるシールリングを収容するための環状の収容空間が区画形成され、前記段差の底面は、前記エンドプレートの外面の径方向外縁まで延びかつ径方向外側に向かって前記フレームの底部側に向かうように傾斜している部分を有し、前記段差の底面は、径方向外側に位置する第1底面と、該第1底面に連続して径方向内側に位置する第2底面とを含み、前記第1底面は、前記エンドプレートの外面の径方向外縁まで延びかつ径方向外側に向かって前記フレームの底部側に向かうように傾斜している一方、前記第2底面は前記第1底面と軸方向に関して異なる方向に傾斜していることを特徴とする。
【0010】
この構成によれば、段差の底面とフレームの内周面とで構成されるコーナー部でのシールリングの接面圧力を高くすることができる。このことにより、エンドプレートが熱や圧力の影響で変形した場合にも当該コーナー部でのシール性を維持して、フレームの内部への水分等の進入を防止でき、高信頼性のモータを実現できる。
【0013】
また、この構成によれば、第1底面とフレームの内周面とで構成されるコーナー部でのシールリングの接面圧力を高くすることができる。このことにより、エンドプレートが熱や圧力の影響で変形した場合にも当該コーナー部でのシール性を維持して、フレームの内部への水分等の進入を防止でき、高信頼性のモータを実現できる。
【0014】
前記第2底面は前記段差の側面に直交していてもよいし、前記第2底面を前記第1底面と反対側に傾斜した面としてもよい。
【0015】
また、前記第1底面は、径方向外縁部から径方向内側部まで直線状に延びる傾斜面であってもよいし、前記第1底面の径方向外縁部は、径方向外側に向かって前記フレームの底部側に向かうように湾曲するフィレット形状であってもよい。
【0016】
前記1底面は、径方向の幅が前記段差の底面の径方向の幅の半分以下であることが好ましい。
【0017】
この構成によれば、第1底面とフレームの内周面とで構成されるコーナー部において、シールリングの入り込み量が径方向で小さくなるのを抑制して、フレームの内周面への接面圧力を所望の値以上に維持できる。このことにより、エンドプレートの熱クリープ変形時にも、当該コーナー部でのシール性を維持できる。
【0018】
前記回転子は、前記回転軸に貫通連結された電機子コアと、該電機子コアに周方向で所定の間隔をあけて配設された複数の突極と、該複数の突極のそれぞれに巻回された電機子巻線と該電機子巻線に電気的に接続された整流子とを含み、前記回転子の回転に応じて前記整流子と周期的に接触することで、前記電機子巻線に流れる電機子電流の向きを変えるブラシをさらに備え、前記エンドプレートの内面には、前記ブラシを収容するブラシ保持部が設けられていてもよい。
【0019】
本発明に係る電気機器は、上記のモータと、前記モータに連結され、前記エンドプレートの外側に貫通孔から突出した前記回転軸に駆動連結されていて、該モータの回転に応じて駆動される被駆動部を有する負荷と、前記環状の収容空間に配設された環状の弾性体からなるシールリングと、を少なくとも備え、前記シールリングは、前記負荷の表面から前記フレームの底部側に押圧されることで、前記段差の底面と前記フレームの内周面とで構成される第1コーナー部と、前記負荷の表面と前記フレームの内周面とで構成される第2コーナー部と、前記負荷の表面と前記段差の側面とで構成される第3コーナー部とに少なくとも当接していることを特徴とする。
【0020】
この構成によれば、外部から水分等が進入する経路にあたる第1~第3コーナー部に対して、シールリングをそれぞれ当接させることができ、フレームの内部や負荷の内部への水分等の進入を確実に防止できる。これにより、高信頼性の電気機器を実現できる。
【0021】
前記シールリングの断面がX字形状であることが好ましい。
【0022】
この構成によれば、シールリングの設置面である段差の底面に対してシールリングが2箇所で当接するため、シールリングの配設空間である環状の収容空間内でのシールリングの位置を安定にすることができる。
【0023】
前記シールリングの断面がY字形状やT字形状であってもよい。
【発明の効果】
【0024】
以上説明したように、本発明によれば、エンドプレートが熱や圧力の影響で変形した場合にも、フレームの内部への水分等の進入を防止でき、高信頼性のモータを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】
図1は、一実施形態に係るモータの外観を示す斜視図である。
【
図2】
図2は、
図1におけるII-II線での断面模式図である。
【
図3】
図3は、一実施形態に係る電気機器の要部の断面模式図である。
【
図4】
図4は、比較のためのエンドプレートとシールリングとの経時変形を説明する模式図である。
【
図5】
図5は、一実施形態に係るエンドプレートとフレームとの連結部分を示す断面模式図である。
【
図6】
図6は、一実施形態に係るエンドプレートとシールリングとの経時変形を説明する模式図である。
【
図7】
図7は、変形例1に係るエンドプレートとフレームとの連結部分を示す断面模式図である。
【
図8】
図8は、変形例1に係る別のエンドプレートとフレームとの連結部分を示す断面模式図である。
【
図9】
図9は、変形例2に係るエンドプレートとフレームとの連結部分を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものでは全くない。
【0027】
(実施形態)
[モータ及び電気機器の構成]
図1は、本実施形態に係るモータの外観の斜視図を示し、
図2は、
図1におけるII-II線での断面模式図を、
図3は、本実施形態に係る電気機器の要部の断面模式図を、それぞれ示す。
図1,2に示すように、モータ100は、フレーム20とエンドプレート30と軸受(ベアリング)40,41と回転子50と固定子60とブラシ70とシールリング80とを備えている。また、
図3に示すように、電気機器300は、負荷200とモータ100とを備えている。なお、以降の説明において、回転子50の一部をなす回転軸54の長手方向を軸方向と呼び、エンドプレート30の半径方向を径方向と呼び、エンドプレート30の円周方向を周方向と呼ぶことがある。また、軸方向において、フレーム20におけるエンドプレート30が配設された側を「上」と、その反対側である
フレーム20の底部側を「下」と呼ぶことがある。また、説明の便宜上、
図3において、負荷200の細部は図示を省略している。
【0028】
フレーム20は、上部に設けられた開口21の周りに鍔部を有する有底半筒状の金属部材である。また、フレーム20の底面には回転軸54の一端に挿通される貫通孔22が形成されており、フレーム20の内周面23のうち上側にはエンドプレート30の内面に当接してこれを支持するプレート支持部24(
図4~9参照)が周方向に間隔を開けて複数配設されている。
【0029】
エンドプレート30は、樹脂材料を成形してなる板状部材であり、略円板状の基部31と、基部31の中心に設けられた貫通孔32と、基部31の内面に形成されたブラシ保持部33と、基部31の外面に形成された軸受保持部34と、モータ100に外部から電力を供給するための電線が引き出された電線引出口35と、基部31の外面であって、その外周部に形成された段差36とを有している。エンドプレート30の形状、特に段差36の形状の詳細については後述する。なお、電線引出口35から引き出された電線については、説明の便宜上、図示を省略している。また、上記のように、フレーム20の内部に面したエンドプレート30の表面を、エンドプレート30の「内面」と呼び、内面と反対側のエンドプレート30の表面を、エンドプレート30の「外面」と呼ぶことがある。
【0030】
エンドプレート30は、フレーム20との位置決めを行った上で、フレーム20の開口21に圧入されるとともに、内面がフレーム20に設けられたプレート支持部24に当接され、また、開口21を覆うようにフレーム20に配設されている。フレーム20とエンドプレート30とで区画される空間に回転子50が収容されている。また、回転軸54はフレーム20の貫通孔22及びエンドプレートト30の貫通孔32に挿通されてエンドプレート30から外側に突出しており、貫通孔22,32を塞ぐようにそれぞれ設けられた軸受40,41によって回転自在に支持されている。
【0031】
回転子50は、電機子コア51と複数の突極52と電機子巻線53と回転軸54と整流子55とインシュレータ56とを有している。電機子コア51には径方向外側に突出する複数の突極52が周方向に所定の間隔をあけて配設されており、複数の突極52のそれぞれに絶縁性の樹脂であるインシュレータ56を介して電機子巻線53が巻回され、整流子55には電機子コア51から引き出された電機子巻線53の引出線が接続されている。回転軸54は回転子50の軸心に設けられ、電機子コア51及び整流子55の中心を貫通してこれらに連結されている。
【0032】
固定子60は、フレーム20と、周方向に所定の間隔でフレーム20の内周面23に配設された複数の永久磁石61とで構成されており、周方向に隣り合う永久磁石61は互いに極性が異なるように配設されている。フレーム20は、永久磁石61と磁気回路を構成するヨークとしても機能する。
【0033】
一対のブラシ70は、黒鉛等のカーボンブラシ材へ固体潤滑剤を含む組成で構成されており、エンドプレート30の内面に設けられたブラシ保持部33内に保持されるとともに、ブラシバネ(図示せず)によって整流子55へと押圧されている。
【0034】
シールリング80は、環状の弾性体、例えば、EPDM(エチレン・プロピレン・ジエンゴム)、または、ニトリルゴムやフッ化ゴム等からなり、断面がX字形状で4つの先端部80a~80d(
図4,5参照)を有している。また、シールリング80は、エンドプレート30の外面の外周部に形成された段差36と段差36の側面37(
図4,5参照)に対向するフレーム20の内周面23との間に区画形成された環状の収容空間Sに収容されており、フレーム20とエンドプレート30との連結部分をシールして、外部からフレーム20の内部への水分等の進入を防止している。なお、環状の収容空間Sは上方が開放された開空間である。
【0035】
なお、
図1,2に示すように、モータ100にシールリング80が予め配設されていてもよいし、
図3に示す電気機器300を組み立てるときに、モータ100に設けられた環状の収容空間Sにシールリング80を収容してから負荷200をモータ100に連結させるようにしてもよい。
【0036】
以上のように構成されたモータ100の動作について説明する。
【0037】
エンドプレート30に設けられた電線引出口35から引き出された電線を介して外部からモータ100に電力を供給する。これにより、電機子電流がブラシ70及び整流子55を介して電機子巻線53に流れる。固定子60で発生した磁束と、電機子巻線53を流れる電機子電流との間でトルクが発生し、回転軸54が軸受40,41に支持されて回転する。また、回転軸54の回転に応じて、ブラシ70と整流子55とは接触と離間とを周期的に繰り返し、この周期に対応して電機子巻線53を流れる電機子電流の向きが変更される。
【0038】
また、
図3に示すように、モータ100の上側には負荷200が配置されており、エンドプレート30の外側に貫通孔32から突出した回転軸54に対して被駆動部210が駆動連結されている。被駆動部210は、回転軸54の回転に応じて同方向または逆方向に回転するか、あるいは回転運動を直線運動に変換するかする機械要素(図示せず)を備えている。負荷200は、例えば、油圧ポンプである。ただし、これに限定されない。
【0039】
さらに、負荷200の外郭220は、その表面221がフレーム20の鍔部とシールリング80の先端部80b,80cとに当接して、モータ100に組み付けられている。なお、負荷200の表面221とエンドプレート30の外面とが所定のクリアランスを保って離間するようにモータ100と負荷200とは配置されている。外郭220は、例えば、アルミ製のブロックである。ただし、これに限定されない。
【0040】
負荷200の表面221から下側、つまり、フレーム20の底部側に押圧されることにより、シールリング80は圧縮変形して、4つの先端部80a~80dが、環状の収容空間Sと負荷200の表面221とで区画される空間の4つのコーナー部C1~C4(
図4,5参照)に当接している。先端部80aは、エンドプレート30に形成された段差36の底面38とフレーム20の内周面23とで構成される第1コーナー部C1に当接し、先端部80bは、フレーム20の内周面23と負荷200の表面221とで構成される第2コーナー部C2に当接している。なお、フレーム20の開口21は、エンドプレート30を挿入するために上部が拡がった形状となっている。よって、第2コーナー部C2において、シールリング80の先端部80bは、フレーム20の内周面23には十分に当接せずに、さらには、主に負荷200の表面221のみに当接する場合もあり得る。また、先端部80cは、負荷200の表面221とエンドプレート30に形成された段差36の側面37とで構成される第3コーナー部C3に当接し、先端部80dは、エンドプレート30に形成された段差36の側面37と段差36の底面38とで構成される第4コーナー部C4に当接している。このように、シールリング80と負荷200、フレーム20及びエンドプレート30とが当接して、接面部に圧力が加わることにより、フレーム20とエンドプレート30との間及びフレーム20と負荷200との間がシールされ、負荷200側からフレーム20の内部へ外部からの水分が進入するのを防止できる。また、エンドプレート30と負荷200との間もシールされることで、軸受41や回転軸54への水分等の付着を防止できる。
【0041】
[本願発明に至った知見]
図4は、比較のためのエンドプレートとシールリングとの経時変形を説明する模式図を示す。なお、説明の便宜上、モータ100において、フレーム20とエンドプレート30とシールリング80と軸受41以外の構成部材については図示を省略している。また、負荷200において、表面221を含む外郭220の一部のみを図示している。
【0042】
図4において、上側の図は、モータ100と負荷200とが組み付けられた直後の状態を示しており、この状態では、各部材は、組立公差の範囲内で設計通りの配置関係を保っている。ただし、この状態で負荷200側からモータ100側に圧力がかかっており、例えば、
図4に示す場合では、軸受保持部34に収容された軸受41を介してエンドプレート30の中央部に圧力が加えられている。なお、軸受41がフレーム20の内部に配置されている場合にも、負荷200側からエンドプレート30の中央部に圧力が加えられる。
【0043】
一方、電気機器300を使用し始めると、モータ100の駆動や負荷200の動作、さらに電気機器300が配設された環境の温度等に起因して、モータ100や負荷200の温度が上昇し始める。前述したように、樹脂材料に圧力が加えられた状態で温度が上昇すると、樹脂材料が熱クリープにより変形するため、樹脂材料を用いて成形されたエンドプレート30は中央側が下方に押されるように、また、それに応じて外周側は上方に持ち上げられるように変形する。
【0044】
その結果、
図4の下側に示すように、環状の収容空間Sにおいて、段差36の側面37とフレーム20の内周面23との間が開いてしまい、特に、第1コーナー部C1において、シールリング80の先端部80aがフレーム20の内周面23を押圧する接面圧力が低くなってくる。これにより、シールリング80による第1コーナー部C1でのシール性が低下し、フレーム20の内部に水分等の流体が進入しやすくなってしまうことを本願発明者等は見出した。
【0045】
そこで、本願発明者等は、環状の収容空間Sの形状、特にフレーム20の内部へ流体が進入する直接的な経路である第1コーナー部C1の形状に着目し、環状の収容空間Sを区画形成するエンドプレート30の段差36のうち、その底面38の形状を変更することで、第1コーナー部C1でのシール性を維持できることを見出した。
【0046】
[エンドプレートとフレームとの連結部分の構成]
図5は、本実施形態に係るエンドプレートとフレームとの連結部分の断面模式図を示し、
図6は、本実施形態に係るエンドプレートとシールリングとの経時変形を説明する模式図を示す。なお、
図5の(a)図では、環状の収容空間Sにシールリング80が収容されていない状態を示し、
図5の(b)図では、シールリング80が収容された状態を示す。
【0047】
図5に示すように、エンドプレート30の外面の外周部には段差36が形成されている。
図4に示したエンドプレート30では、段差36の底面38は平坦面であり、かつ側面37と互いに直交するように形成されていたのに対し、本実施形態において、段差36の底面38は、径方向外側に位置する第1底面38aと、径方向内側に位置し、段差36の側面37及び第1底面38aに連続する第2底面38bとを含んでいる。第1底面38aと第2底面38bとは軸方向に関して互いに異なる方向に傾斜している。第1底面38aは、エンドプレート30の外面の径方向外縁まで延びかつ径方向外側に向かって下側、つまりフレーム20の底部側に向かうように傾斜している。言いかえると、エンドプレート30の外面の外周部は、下側に向かう順テーパー形状となっている。また、段差36の側面37と第2底面38bとは互いに直交している。なお、「直交」とは段差36の加工公差を含んで「直交」という意味である。また、本実施形態では、軸方向での断面視において、第1底面38aが第2底面38bに対して傾斜角15°で傾斜する面となるようにしているが、特にこれに限定されない。この傾斜角は、底面38の径方向の幅や、環状の収容空間Sの軸方向の高さや、環状の収容空間Sに対するシールリング80の充填率や、シールリング80の材質あるいはシールリング80の先端部80aの曲率半径等により適宜変更されうる。
【0048】
図5に示す場合では、軸方向の断面視において、エンドプレート30の外面の径方向外縁部を直線状に切り欠いた形状とすることで、第1底面38aが形成されている。言いかえると、第1底面38aは、その径方向外縁部が径方向内側部の延長上にまで直線状に延びる傾斜面となっている。従って、軸方向での断面視において、第1コーナー部C1は鋭角をなすように構成されている。なお、実際には、エンドプレート30は金型を用いて一体成形された樹脂製の部材であり、角部の切欠き加工等は行われない。また、第1底面38aは、径方向の幅L1が底面38の径方向の幅Lの半分以下になるように形成されている。
【0049】
図5の
(b)図に示すように、負荷200が下側のモータ100を押圧していない状態では、上記の段差36と段差36の側面37に対向するフレーム20の内周面23とで構成される環状の収容空間Sに、シールリング80が収容されると、シールリング80の先端部80b,80cは、環状の収容空間Sの上面から上方、つまり、負荷200側に突出する。この場合のシールリング80の軸方向の突出量をAとすると、シールリング80は、突出量Aが、第1底面38aの軸方向の高さBよりも大きくなるように環状の収容空間Sに収容される。
【0050】
このようにシールリング80が配設されたモータ100に対して負荷200が組み付けられると、
図6の上側に示すように、負荷200の表面221がシールリング80の先端部80b,80cにそれぞれ当接して、シールリング80を下側に押圧する。また、
図6の下側に示すように、熱クリープにより、負荷200は軸受保持部34に収容された軸受41を介して、エンドプレート30の中央部をさらに下側に押圧する。このため、シールリング80は、4つの先端部80a~80dが、
図6の下側に示す4つのコーナー部C1~C4にそれぞれ当接して、フレーム20とエンドプレート30との連結部分やフレーム20と負荷200の表面221との連結部分等をシールするように圧縮変形する。
【0051】
ここで、段差36の第1底面38aが上記の傾斜面である一方、第2底面38bは第1底面38aと異なる方向に傾斜し、側面37と互いに直交している。負荷200の表面221に当接したシールリング80が下側に押圧された場合、第4コーナー部C4でのシールリング80の先端部80dの変形量及び接面圧力は
図4の下側に示す場合と同様である。一方、第1コーナー部C1は、
図4の下側に示す場合よりも下方、つまり、フレーム20の底部側に延びる空間体積が大きくなっており、かつ、シールリング80の先端部80aは傾斜面である第1底面38aに沿って変位可能である。これにより、
図6の下側に示すように、シールリング80の先端部80aが変形して第1コーナー部C1に入り込む量が、
図4の下側に示す場合よりも大きくなり、この入り込み量の増加に応じて、第1コーナー部C1でのシールリング80の接面圧力は
図4の下側に示す場合よりも高くなる。この状態から熱クリープによりエンドプレート30の外周側が上方に持ち上げられるように変形すると、第1コーナー部C1において、シールリング80の先端部80aがフレーム20の内周面23を押圧する接面圧力が低くなってくることは、
図4に示す場合と同様である。しかし、本実施形態では、上述の通り、第1コーナー部C1におけるシールリング80の接面圧力が予め高い状態になっているため、上述した第1コーナー部C1でのシールリング80の接面圧力の低下を十分にカバーして、フレーム20の内部への水分等の侵入を防止することができる。
【0052】
[効果等]
以上、説明したように、本実施形態に係るモータ100では、フレーム20の開口21を覆う樹脂製のエンドプレート30の外面の外周部に段差36を形成し、この段差36の底面38のうち、径方向外側に位置する第1底面38aは、エンドプレート30の外面の径方向外縁まで延びかつ径方向外側に向かって下側、つまりフレーム20の底部側に向かうように傾斜している。さらに、このように形成された段差36と段差36の側面37に対向したフレーム20の内周面23とで区画形成される環状の収容空間Sがシールリング80の収容空間として構成されている。
【0053】
このような構成とすることで、シールリング80を環状の収容空間Sに収容し、シールリング80に上方から下方に向かう押圧力を加えた場合に、第1コーナー部C1において、シールリング80の入り込み量が増加して、シールリング80の接面圧力を高くすることができる。このことにより、第1コーナー部C1でのシール性を維持して、フレーム20の内部への水分等の進入を防止でき、高信頼性のモータ100を実現できる。
【0054】
また、第1底面38aの径方向の幅L1を底面38の径方向の幅Lの半分以下になるようにすることで、第1コーナー部C1において、シールリング80の先端部80aの径方向での圧縮変形量が小さくなるのを抑制して、フレーム20の内周面23への接面圧力を所望の値以上に維持できる。このことにより、エンドプレート30の熱クリープ変形時にも、第1コーナー部C1でのシール性を維持できる。
【0055】
また、シールリング80を環状の収容空間Sに収容したときに、シールリング80の軸方向の突出量Aを第1底面38aの軸方向の高さBよりも大きくすることで、環状の収容空間Sに対するシールリング80の充填率の低下を抑制して、シールリング80による十分なシール性を確保できる。
【0056】
なお、
図4~6に示す4つのコーナー部C1~C4のうち、外部からの水分等の進入が最も起こりやすいのは第2コーナー部C2であるが、モータ100の信頼性を確保する上で最もシール性の維持が必要なのは、第1コーナー部C1である。また、第3コーナー部C3から水分等の進入が起こると、軸受41や回転軸54に対するダメージが大きくなり、モータ100、ひいては電気機器300の性能を低下させるおそれがある。
【0057】
<変形例1>
図7は、本変形例に係るエンドプレートとフレームとの連結部分の断面模式図を示し、
図8は、別のエンドプレートとフレームとの連結部分の断面模式図を示す。なお、説明の便宜上、
図7,8において、シールリング80の図示を省略している。
【0058】
図5,6では、軸方向の断面視において、エンドプレート30の外面の径方向外縁部を直線状に切り欠いた形状とすることで、第1底面38aが形成される例を示したが、前述のとおり、第1コーナー部C1において、下方に延びる空間体積を増加させるように、また、第1底面38aと第2底面38bとが軸方向に関して互いに異なる方向に傾斜するように第1底面38aの形状を決定すればよい。従って、
図7に示すように、エンドプレート30の外面の径方向外縁部を、径方向外側に向かってフレーム20の底部側に向かうように湾曲するフィレット形状、つまり、R面取りされた形状としてもよい。また、
図8に示すように、第2底面38bを第1底面38aと反対側に傾斜する傾斜面として、底面38に凸部が形成されるようにしてもよい。また、
図8に示す場合に、第1底面38aの形状を
図7に示す形状としてもよい。いずれの場合も、第1コーナー部C1でのシール性を維持して、フレーム20の内部への水分等の進入を防止でき、高信頼性のモータ100及び電気機器300を実現できる。
【0059】
<変形例2>
図9は、本変形例に係るエンドプレートとフレームとの連結部分の断面模式図を示す。
【0060】
実施形態に係る構成では、
図5,6に示すように、シールリング80の断面がX字形状であるのに対し、本変形例に係る構成では、シールリング81の断面がY字形状、あるいは変形したT字形状である点で異なっている。
【0061】
図3に示す4つのコーナー部C1~C4のうち、第4コーナー部C4は樹脂で一体成形された段差36の側面37及び第2底面38bで構成されており、この部分からフレーム20の内部に水分等が進入するおそれは他のコーナー部に比べてかなり小さい。従って、
図9に示すように、3つの先端部81a~81cを有するシールリング81を用いて、先端部81a~81cを第1~第3コーナー部C1~C3にそれぞれ当接させるようにしてもよい。この場合にも、モータ100におけるシール性を維持して、フレーム20の内部への水分等の進入を防止でき、高信頼性のモータ100及び電気機器300を実現できる。
【0062】
なお、
図9に示す形状のシールリング81を、
図7,8に示すような形状、つまり第1底面38aがフィレット形状である場合や、第2底面38bが第1底面38aと反対側に傾斜した面である場合にも適用できることは言うまでもない。
【0063】
また、本変形例に示す構成においても、シールリング81の収容時のねじれを少なくでき、接面圧力がシールリング81の断面全体に分散されるため、漏れが少なく良好なシール性が得られること、及びシールリング81を成形した場合に生じるバリが接触面以外、つまり、隣接する先端部間の窪みにあるため、良好なシール性が得られることは言うまでもない。
【0064】
(その他の実施形態)
なお、変形例1,2を含む上記実施形態において、エンドプレート30に形成された段差36の底面38は、段差36の側面37からエンドプレート30外面の径方向外縁まで直線状に延びる傾斜面であってもよい。また、上記実施形態において、モータ100がブラシ付きモータである場合を例示したが、特にこれに限定されず、例えば、ブラシレスモータであってもよいし、他の種類のモータであってもよい。また、上記実施形態におけるモータ100は、回転子50の径方向外側に固定子60が配置された、いわゆるインナーロータ型のモータに用いる場合について説明するものであるが、別の種類のモータ、例えば、固定子60の径方向外側に所定の間隔をあけて回転子50が配置された、いわゆるアウターロータ型のモータにも適用できることは言うまでもない。
【0065】
また、エンドプレート30の貫通孔32側に配設された軸受41は軸受保持部34内に収容されて、エンドプレート30の外面に当接しているが、エンドプレート30の内面側に配設されて、フレーム20の内部に収容されていてもよい。
【0066】
また、エンドプレート30と一体に設けられたブラシ保持部33にブラシ70を収容するようにしたが、ブラシ保持部33をエンドプレート30と別体にフレーム20の内部に設けてブラシ70を収容するようにしてもよい。
【0067】
また、上記実施形態において、固定子60はフレーム20と複数の永久磁石61とで構成されているが、他の構造、例えば、周方向に所定の間隔をあけて配設された複数の界磁磁極のそれぞれに界磁巻線が巻装されて固定子60を構成するようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明に係るモータは、外部からの水分や油等の進入を防止できるため、油圧ポンプ等の流体ポンプを含む電気機器や高温の外部環境に配設される電気機器に適用する上で有用である。
【符号の説明】
【0069】
20 フレーム
21 開口
22 貫通孔
23 内周面
24 プレート支持部
30 エンドプレート
31 基部
32 貫通孔
33 ブラシ保持部
34 軸受保持部
35 電線引出口
36 段差
37 段差36の側面
38 段差36の底面
38a 第1底面
38b 第2底面
40,41 軸受(ベアリング)
50 回転子
51 電機子コア
52 突極
53 電機子巻線
54 回転軸
55 整流子
56 インシュレータ
60 固定子
61 永久磁石
70 ブラシ
80 シールリング
80a~80d 先端部
81 シールリング
81a~81c 先端部
100 モータ
200 負荷
210 被駆動部
220 外郭
221 負荷200の表面
300 電気機器
C1~C4 第1~第4コーナー部
A シールリング80の突出量
B 第1底面38aの軸方向の高さ
S 環状の収容空間