(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-08
(45)【発行日】2023-06-16
(54)【発明の名称】特定の波長域を有する光を照射して栽培したベニバナの抽出物を含有する皮膚外用剤や内用剤
(51)【国際特許分類】
A61K 8/9789 20170101AFI20230609BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20230609BHJP
A61P 17/18 20060101ALI20230609BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230609BHJP
A61K 36/286 20060101ALI20230609BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20230609BHJP
A61Q 1/02 20060101ALI20230609BHJP
A61Q 19/10 20060101ALI20230609BHJP
A61Q 19/08 20060101ALI20230609BHJP
A23L 33/105 20160101ALI20230609BHJP
C07K 14/47 20060101ALI20230609BHJP
A23L 2/52 20060101ALN20230609BHJP
【FI】
A61K8/9789
A61P17/00
A61P17/18
A61P43/00 111
A61K36/286
A61Q19/00
A61Q1/02
A61Q19/10
A61P43/00 107
A61Q19/08
A23L33/105
C07K14/47
A23L2/00 F
(21)【出願番号】P 2018162316
(22)【出願日】2018-08-31
【審査請求日】2021-06-24
(73)【特許権者】
【識別番号】592262543
【氏名又は名称】日本メナード化粧品株式会社
(72)【発明者】
【氏名】大隅 和寿
(72)【発明者】
【氏名】足立 浩章
(72)【発明者】
【氏名】深田 紘介
(72)【発明者】
【氏名】坂井田 勉
【審査官】駒木 亮一
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-229956(JP,A)
【文献】特開2000-169359(JP,A)
【文献】特開2003-261435(JP,A)
【文献】特開2002-275079(JP,A)
【文献】特開2005-060334(JP,A)
【文献】特開2015-134756(JP,A)
【文献】特開2015-221791(JP,A)
【文献】特開2015-178489(JP,A)
【文献】特開2015-199714(JP,A)
【文献】特開2015-178490(JP,A)
【文献】特開2015-199713(JP,A)
【文献】生物環境調節,2002年,Vol.40, No.2,pp.207-213
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00- 8/99
A61Q 1/00-90/00
A61P 1/00-43/00
A61K36/00-36/05
A61K36/07-36/9068
A23L31/00-33/29
A23L 2/00- 2/84
C07K 1/00-19/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
Japio-GPG/FX
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
波長域570~730nmと400~515nmとの光合成光量子束密度(PPFD)比が4:1~2:1の光を照射して栽培し
たベニバナの水、低級アルコール及び液状多価アルコールから選ばれる一種又は二種以上の溶媒による抽出物を含有することを特徴とする
フィラグリン産生促進用皮膚外用剤。
【請求項2】
波長域570~730nmと400~515nmとの光合成光量子束密度(PPFD)比が4:1~2:1の光を照射して栽培し
たベニバナの
エタノール抽出物を含有することを特徴とする
抗酸化用皮膚外用剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗酸化効果、フィラグリン産生促進効果及びセラミド産生促進効果等に優れた新規な皮膚外用剤又は内用剤に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚は生体の最外層に位置し、紫外線等の影響により活性酸素が発生しやすい臓器であり、絶えずその酸素ストレスに曝されている。一方、皮膚細胞内には活性酸素消去酵素が存在しており、その能力を超える活性酸素が発生しないかぎり活性酸素の傷害から皮膚細胞を防衛している。ところが、皮膚細胞内の活性酸素消去酵素の活性は加齢とともに低下することが知られており、活性酸素による傷害がその防御反応を凌駕したとき、皮膚は酸化され、細胞機能が劣化して老化してゆくと考えられる。また、皮膚以外の臓器においても、その活性酸素消去能を越える活性酸素に曝されたとき、機能低下が起こり老化したり、ガンや心筋梗塞等様々な生活習慣病が発症したりすると考えられる。そこで、活性酸素による傷害からの防御を目的として活性酸素消去剤や抗酸化剤が検討され、SODやカタラーゼ等の活性酸素消去酵素、SOD様活性物質等の活性酸素消去剤や抗酸化剤を含有した食品、化粧品、医薬部外品及び医薬品等が開発されている(特許文献1,2参照)。
【0003】
角質層の保湿性に重要な役割を果たしているのが天然保湿因子(NMF)であることは古くから知られており、これまでNMF成分は保湿剤の開発に応用されてきた。角質層におけるNMFの減少は、その保湿性を低下させ乾燥を招く。その結果として乾燥性のカユミが引き起こされる。近年、NMFの主体をなすアミノ酸は、ケラトヒアリン顆粒の主成分であるフィラグリンというタンパク質の分解により産生されることが明らかとなった(非特許文献1)。すなわち、表皮顆粒層において合成されたプロフィラグリンはケラトヒアリン顆粒に蓄積された後、顆粒層上層から角質層に至る過程で脱リン酸化、加水分解を経てフィラグリンに分解される。さらにフィラグリンは角質層上層に至る過程でアミノ酸に分解されNMFの主体となる。一方、乾燥肌を呈する病態とフィラグリンに関する研究が進められ、老人性乾皮症やアトピー性皮膚炎等の角質層中ではアミノ酸が減少していることが知られているが、それらの皮膚ではフィラグリンの発現が低下していることが明らかにされている(非特許文献2)。したがって、角質層の保湿性維持の目的でNMFの産生を高めるためにはケラチノサイトにおけるフィラグリンあるいはプロフィラグリンの生成促進が重要であると考えられるようになり、特許文献3、4等の植物成分を用いたフィラグリンあるいはプロフィラグリンの生成促進剤が報告されている。
【0004】
セラミドは、スフィンゴ脂質の一種であり、スフィンゴシンと脂肪酸がアミド結合した化合物群の総称である。セラミドは、細胞膜において高濃度で存在することが知られている。又、セラミドは、角質細胞間脂質の構成成分の一種であり、角化の過程において細胞外に分泌され、皮膚のバリア機能や水分保持能に重要な役割を果たしている。さらに、セラミドは、シグナル伝達物質として、細胞の増殖、分化及びアポトーシス等を制御することが知られている。これらのことから、セラミドの産生を促進する物質には、細胞の増殖抑制、分化誘導及びアポトーシスの誘導効果等が期待でき、これらの異常に起因する疾患に対する治療効果が期待できると考えられる。
セラミドとの関連性が高い皮膚疾患として、例えば、扁平上皮癌、乾癬及びアトピー性皮膚炎等が挙げられる。これらのことから、皮膚におけるセラミドの産生を促進することによって、扁平上皮癌、乾癬及びアトピー性皮膚炎等の皮膚疾患を治療及び予防することが可能である。
【0005】
ヒト皮膚には、7系統のセラミドが存在することが確認されており、全種類のセラミドが角質層に存在する比率で補うことが理想的である。従来、この様な肌荒れ、乾燥肌の予防改善に有効な化粧料として、セラミドが種々の皮膚外用剤に配合されているが、ヒトの皮膚に存在する全種類のセラミドを適正な比率で補充することは技術的に困難であった。したがって、生体内におけるセラミド産生を促進する事が重要であると考えられる。セラミド産生促進剤としては、特許文献5や特許文献6が報告されている。
【0006】
ベニバナの抽出物としては、細胞賦活剤(特許文献7)として利用されることが知られていた。
【0007】
一方で、植物の栽培方法によって植物の薬効を高める方法として、植物体内のビタミンやポリフェノール、ルチン等の機能性物質を特徴的に増加させる方法は、すでに特許文献で報告されている。特許文献8には、大豆もやしに近紫外~青色領域波長の光を照射することにより、含有ビタミンA、ビタミンEを増量させる方法が開示されており、特許文献9には、小松菜に対して、人工紫外線照射を1日5分間行うことで、機能性物質であるα-トコフェロールやビタミンCを増加させる栽培方法が開示され、特許文献10には、人工光源の青色光、赤色光及び遠赤色光の強度を調整することにより、小松菜、レタスのビタミンCやビタミンAを増加させる方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平9-118630号公報
【文献】特開平9-208484号公報
【文献】特開2001-261568号公報
【文献】特開2002-201125号公報
【文献】特開平8-217658号公報
【文献】特開2001-220345号公報
【文献】特開2002-356435号公報
【文献】特開平11-103680号公報
【文献】特開2004-305040号公報
【文献】特開平8-205677号公報
【非特許文献】
【0009】
【文献】Scott I.R., Biochem Biophys Acta, Vol.719, pp110-117, 1982
【文献】Seguchi T., Arch Dermatol Res, Vol.288, pp442-446, 1996
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、抗酸化効果、フィラグリン産生促進効果及びセラミド産生促進効果等に優れた新規な皮膚外用剤又は内用剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、この問題点を解決すべく、鋭意研究を重ねた結果、ベニバナの抽出物は、フィラグリン産生促進効果が優れており、さらに特定の波長域を有する2種の光を照射して栽培したベニバナの抽出物は、抗酸化効果、フィラグリン産生促進効果及びセラミド産生促進効果が優れていることを発見し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、以下の(1)~(6)からなる。
【0013】
(1)波長域570~730nmと400~515nmとの光合成光量子束密度(PPFD)比が4:1~1:1の光を照射して栽培したベニバナ、又は、そのベニバナの水、低級アルコール及び液状多価アルコールから選ばれる一種又は二種以上の溶媒による抽出物を含有することを特徴とする皮膚外用剤。
(2)波長域570~730nmと400~515nmとの光合成光量子束密度(PPFD)比が、4:1~2:1であることを特徴とする(1)に記載の皮膚外用剤。
(3)波長域570~730nmと400~515nmとの光合成光量子束密度(PPFD)比が4:1~1:1の光を照射して栽培することによって、蛍光灯又は太陽光で栽培したベニバナと比較して、抗酸化効果、フィラグリン産生促進効果及びセラミド産生促進効果から選ばれる一種又は二種以上の効果を高めることを特徴とするベニバナ。
(4)波長域570~730nmと400~515nmとの光合成光量子束密度(PPFD)比が4:1~1:1の光を照射して栽培することによって、蛍光灯又は太陽光で栽培したベニバナと比較して、抗酸化効果、フィラグリン産生促進効果及びセラミド産生促進効果から選ばれる一種又は二種以上の効果を高めたベニバナ、又は、そのベニバナの水、低級アルコール及び液状多価アルコールから選ばれる一種又は二種以上の溶媒による抽出物を含有することを特徴とする医薬品。
(5)波長域570~730nmと400~515nmとの光合成光量子束密度(PPFD)比が4:1~1:1の光を照射して栽培することによって、蛍光灯又は太陽光で栽培したベニバナと比較して、抗酸化効果、フィラグリン産生促進効果及びセラミド産生促進効果から選ばれる一種又は二種以上の効果を高めたベニバナ、又は、そのベニバナの水、低級アルコール及び液状多価アルコールから選ばれる一種又は二種以上の溶媒による抽出物を含有することを特徴とする食品。
(6)ベニバナの抽出物を含有することを特徴とするフィラグリン産生促進剤。
【発明の効果】
【0014】
本発明のベニバナ、又はその抽出物は、優れた抗酸化効果、フィラグリン産生促進効果及びセラミド産生促進効果を有しており、医薬品、医薬部外品、化粧品、食品の分野において貢献できるものである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明について詳細に述べる。
【0016】
本発明に用いるベニバナの抽出物とは、キク科ベニバナ属のベニバナ(学名:Carthamus tinctorius)の花、実、種子、茎、葉、根等の植物体の一部又は全草から抽出したものである。その抽出方法は特に限定されず、例えば、加熱抽出したものであっても良いし、常温抽出や低温抽出したものであっても良い。また、本発明においては、抽出物の代わりに、植物体のまま使用することもでき、生のままでも、乾燥して用いることもでき、目的によって使い分けることができる。さらには、抽出物と植物体を併用することもできる。
【0017】
栽培方法としては、土を用いた栽培や水耕栽培で行うことができる。水耕栽培で行う場合には、種子を播種後、出根した状態で、水耕栽培に供することができ、市販苗を用いることもできる。栽培は、温度、光、二酸化炭素濃度が制御された施設で栽培することが好ましい。栽培温度は、15~30℃、好ましくは20~25℃である。栽培期間は、照射する条件によって異なるが、概ね10~40日で収穫でき、これ未満や、これより多くの期間栽培することも可能である。
【0018】
光源は、植物の栽培施設で用いる光源等を使用することができ、発光ダイオード(LED)、レーザーダイオード等の光半導体素子が挙げられるが、特定の範囲の波長域が選択的に照射できる光源であれば光半導体素子に限らない。
【0019】
ベニバナの栽培において、照射する波長としては、波長域570~730nmの赤色光、400~515nmの青色光であることが好ましく、波長域630~680nmの赤色光、430~460nmの青色光がさらに好ましい。これらの光は、同時に照射することが最も好ましい。このときの波長は、照射スペクトルの極大波長(ピーク波長)のことをいう。このような波長のピークを有する光源であれば、独自に作成したものや市販のものを使用することもできる。また、上記波長を選択的に照射できるように、光学フィルタを用いても良い。上記の2種の範囲の光に加え、太陽光や蛍光灯等の光源を使用することもできる。
【0020】
照射する光量としては、光合成光量子束密度(PPFD)として表される。発光体を2種組み合わせて照射する場合には、その合計の光量を意味する。その光量は、発芽後は10~300μmol・m-2s-1が好ましく、50~200μmol・m-2s-1がさらに好ましい。この範囲外の光強度の場合は、生育障害、生育不良になる場合がある。照射は、ベニバナの上部10~50cmの位置から照射することが好ましい。照射時間は、植物の特性や目的に応じて適宜変更できるが、6時間以上が好ましく、12~24時間がより好ましい。
【0021】
赤色と青色の光量比においては、それぞれのPPFDの比を意味しており、収量や有効性等目的に応じて選択が可能である。
【0022】
中でも、植物体の収量を高めるには、赤色と青色の光量比が4:1~1:1が好ましく、4:1~3:1がより好ましい。
【0023】
活性酸素消去作用(フリーラジカル捕捉除去作用)を高めるには、赤色と青色の光量比が4:1~1:1のいずれの組み合わせでも好ましく、4:1~2:1がより好ましい。
【0024】
フィラグリン産生促進作用を高めるには、赤色と青色の光量比が4:1~1:1が効果の面で好ましく、4:1~2:1がより好ましい。その中でも特に、4:1~3:1が最も好ましい。
【0025】
セラミド産生促進作用を高めるには、赤色と青色の光量比が4:1~1:1が効果の面で好ましく、4:1~2:1がより好ましい。その中でも特に、4:1~3:1が最も好ましい。
【0026】
以上のことを総じていえば、赤色と青色の光量比が4:1~1:1が好ましく、4:1~2:1がより好ましく、4:1~3:1が最も好ましい。
【0027】
抽出溶媒としては、例えば、水、低級アルコール(メタノール、エタノール、1‐プロパノール、2‐プロパノール、1‐ブタノール、2‐ブタノール)、液状多価アルコール(1,3‐ブチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン等)、アセトニトリル、エステル類(酢酸エチル、酢酸ブチル等)、炭化水素類(ヘキサン、ヘプタン、流動パラフィン等)、エーテル類(エチルエーテル、テトラヒドロフラン、プロピルエーテル等)が挙げられる。好ましくは、水、低級アルコール及び液状多価アルコール等の極性溶媒が良く、特に好ましくは、水、エタノール、1,3‐ブチレングリコール及びプロピレングリコールが良い。これらの溶媒は一種でも二種以上を混合して用いても良い。
【0028】
上記抽出物は、抽出した溶液のまま用いても良く、必要に応じて、濃縮、希釈及び濾過処理、活性炭等による脱色、脱臭処理等をして用いても良い。さらには、抽出した溶液を濃縮乾固、噴霧乾燥、凍結乾燥等の処理を行い、乾燥物として用いても良い。また、サラダ等、生で食することもできる。
【0029】
本発明の外用剤又は内用剤には、食品も含むものとし、これには、上記植物体及び/又は抽出物をそのまま使用しても良く、これらの効果を損なわない範囲内で、化粧品、医薬部外品、医薬品又は食品等に用いられる成分である油脂類、ロウ類、炭化水素類、脂肪酸類、アルコール類、エステル類、界面活性剤、金属石鹸、pH調整剤、防腐剤、香料、保湿剤、粉体、紫外線吸収剤、増粘剤、色素、酸化防止剤、美白剤、キレート剤、賦形剤、皮膜剤、甘味料、酸味料等の成分を含有することもできる。
【0030】
本発明は、その剤型としては、例えば、化粧水、クリーム、マッサージクリーム、乳液、ゲル剤、エアゾール剤、パック、洗浄剤、浴用剤、ファンデーション、打粉、口紅、軟膏、パップ剤、ペースト剤、プラスター剤、エッセンス、散剤、丸剤、錠剤、注射剤、坐剤、乳剤、カプセル剤、顆粒剤、液剤(チンキ剤、流エキス剤、酒精剤、懸濁剤、リモナーデ剤等を含む)、錠菓、飲料、ティーバッグ、スパイス等が挙げられる。
【0031】
本発明に用いる上記抽出物の含有量は、外用の場合、全量に対し、固形物に換算して0.0001重量%以上が好ましく、0.001~10重量%がより好ましい。さらに、0.01~5重量%が最も好ましい。0.0001重量%未満では十分な効果は望みにくい。10重量%を越えて含有した場合、効果の増強は認められにくく不経済である。一方、内用の場合、投与量は年齢、体重、症状、治療効果、投与方法、処理時間等により異なるが、通常、成人1人当たりの1日の量としては、5mg以上が好ましく、10mg~5gがより好ましい。さらに、100mg~1gが最も好ましい。
【0032】
次に本発明を詳細に説明するため、実施例として本発明に用いるベニバナの栽培例、ベニバナ抽出物の製造例、実験例及び処方例を挙げるが、本発明はこれに限定されるものではない。実施例に示す%とは重量%を示す。また、処方例に示す混合抽出物または混合乾燥物とは、各抽出物または混合乾燥物を等量混合したものである。
【実施例1】
【0033】
(1)実験材料及び生育条件
水分を含んだバーミキュライトにベニバナの種子を播種し、温度22~24℃・暗所で発芽させ、これをスポンジに包み、22~24℃で、12時間白色蛍光灯下で栽培し、育苗した。その後、水耕栽培装置を用いて、室温21~23℃で12時間、植物の真上30cmの位置から、赤色LED(ピーク波長660nm)及び青色LED(ピーク波長450nm)を同時に照射し、赤色と青色LEDの合計光合成光量子束密度100μmol・m-2s-1となるように、赤色と青色の光量比を4:1~1:1にして、栽培を行った。また、比較栽培例1として光合成光量子束密度100μmol・m-2s-1となるように白色蛍光灯下で栽培を行い、比較栽培例2として太陽光下で栽培を行った。なお、栽培中は光量比を変えなかった。4週間栽培した後、収穫し、生ベニバナを得た。これを約60℃で温風乾燥させることで、ベニバナの乾燥物を得た(表1)。
【0034】
【0035】
(2)抽出
製造例1A 熱水抽出物
栽培例1の乾燥物10gに精製水200mLを加え、95~100℃で2時間抽出した後、濾過し、その濾液を濃縮し、凍結乾燥して熱水抽出物を得た(表2)。
【0036】
製造例1B 25%エタノール抽出物
栽培例1の乾燥物10gに25%エタノール200mLを加え、常温で7日間抽出した後、濾過し、その濾液を濃縮乾固して、25%エタノール抽出物を得た(表2)。
【0037】
製造例1C エタノール抽出物
栽培例1の乾燥物10gにエタノール200mLを加え、常温で7日間抽出した後、濾過し、その濾液を濃縮乾固して、エタノール抽出物を得た(表2)。
【0038】
栽培例2~4、比較栽培例1及び2のベニバナを用いて、上記の製造例1A~1Cと同様に抽出し、製造例2A~4C、比較製造例1A~2Cとした(表2)。
【0039】
【実施例2】
【0040】
実験例1 活性酸素消去作用
各種光照射条件で栽培したベニバナの各試料について、フリーラジカルの一種であるα,α-ジフェニル-β-ピクリルヒドラジル(以下DPPHとする)を用い、DPPHラジカルの消去作用を測定した。
各試料を、最終濃度100μg/mLとなるように加えた0.1M酢酸緩衝液(pH5.5)0.4mLに無水エタノール0.4mL及び0.5mM DPPH無水エタノール溶液0.2mLを加えて反応液とした。また、油溶性の試料の場合は無水エタノール0.4mLに試料を加えて反応液とした。その後、37℃で30分間反応させ、水を対照として波長517nmの吸光度(A)を測定した。また、ブランクとして試料の代わりに精製水を用いて吸光度(B)を測定した。DPPHラジカル消去率は、以下に示す式より算出した。
DPPHラジカル消去率(%)=(1-A/B)×100
【0041】
これらの試験結果を表3に示した。本発明の抽出物は、いずれの赤色と青色の光量比においても安定で優れたDPPHラジカル消去作用を有していることが認められた。特に、赤色と青色の光量比が4:1~2:1に高い効果が認められた。
【0042】
【0043】
実験例2 フィラグリン産生促進試験
NMFの前駆物質であるフィラグリン産生への影響をフィラグリン遺伝子(FLG)のmRNA発現量を指標として評価した。すなわち、ケラチノサイト由来HaCaT細胞を6cmシャーレに1×105個播種し、10%FBSを含むDMEM培養液にて、37℃、5%CO2条件下で4日間培養した。次に、各試料(最終濃度100μg/mL)を添加したDMEM培養液にて、24時間培養した後、総RNAの抽出を行った。細胞からの総RNAの抽出はRNAiso Plus(タカラバイオ)を用いて行い、総RNA量は分光光度計(NanoDrop)を用いて260nmにおける吸光度により求めた。mRNA発現量の測定は、細胞から抽出した総RNAを基にしてリアルタイムRT-PCR法により行った。リアルタイムRT-PCR法には、PrimeScript RT Master Mix(タカラバイオ)及びSYBR Select Master Mix(ライフテクノロジーズ)を用いた。すなわち、500ngの総RNAを逆転写反応後、PCR反応(95℃:15秒間、60℃:30秒間、40cycles)を行った。その他の操作は定められた方法に従い、FLG mRNAの発現量を、内部標準であるGAPDH mRNAの発現量に対する割合として求めた。FLG発現量は、コントロールのFLG mRNAの発現量に対する試料添加群のFLG mRNAの発現量の比率として算出した。なお、FLG用のプライマーは、以下に示したものを使用した。
【0044】
FLG用のプライマーセット
GGCACTGAAAGGCAAAAAGG(配列番号1)
AAACCCGGATTCACCATAATCA(配列番号2)
GAPDH用のプライマーセット
TGCACCACCAACTGCTTAGC(配列番号3)
TCTTCTGGGTGGCAGTGATG(配列番号4)
【0045】
これらの試験結果を表4に示した。その結果、本発明の抽出物にはフィラグリン産生促進効果が認められた。
【0046】
【0047】
実験例3 セラミド産生促進試験
セラミド合成における律速酵素遺伝子であるserine palmitoyltransferase long chain base subunit 1 (SPTLC1)のmRNA発現量を指標として評価した。すなわち、ケラチノサイト由来HaCaT細胞を6cmシャーレに1×105個播種し、10%FBSを含むDMEM培養液にて、37℃、5%CO2条件下で4日間培養した。次に、各試料(最終濃度10μg/mL)を添加したDMEM培養液にて、24時間培養した後、総RNAの抽出を行った。細胞からの総RNAの抽出はRNAiso Plus(タカラバイオ)を用いて行い、総RNA量は分光光度計(NanoDrop)を用いて260nmにおける吸光度により求めた。mRNA発現量の測定は、細胞から抽出した総RNAを基にしてリアルタイムRT-PCR法により行った。リアルタイムRT-PCR法には、PrimeScript RT Master Mix(タカラバイオ)及びSYBR Select Master Mix(ライフテクノロジーズ)を用いた。すなわち、500ngの総RNAを逆転写反応後、PCR反応(95℃:15秒間、60℃:30秒間、40cycles)を行った。その他の操作は定められた方法に従い、SPTLC1 mRNAの発現量を、内部標準であるGAPDH mRNAの発現量に対する割合として求めた。SPTLC1発現量は、コントロールのSPTLC1 mRNAの発現量に対する試料添加群のSPTLC1 mRNAの発現量の比率として算出した。なお、各遺伝子の発現量の測定に使用したプライマーは次の通りである。
【0048】
SPTLC1用のプライマーセット
TGGTCACGGTGGAACAAACA(配列番号5)
GCCTGGGCTACCTCCTTGA(配列番号6)
GAPDH用のプライマーセット
TGCACCACCAACTGCTTAGC(配列番号3)
TCTTCTGGGTGGCAGTGATG(配列番号4)
【0049】
これらの試験結果を表5に示した。その結果、本発明の抽出物にはセラミド産生促進効果が認められた。
【0050】
【実施例3】
【0051】
処方例1 化粧水
処方 含有量(%)
1.製造例2Bの抽出物 1.0
2.1,3‐ブチレングリコール 8.0
3.グリセリン 2.0
4.キサンタンガム 0.02
5.クエン酸 0.01
6.クエン酸ナトリウム 0.1
7.エタノール 5.0
8.パラオキシ安息香酸メチル 0.1
9.ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(40E.O.) 0.1
10.香料 適量
11.精製水にて全量を100とする
[製造方法]成分1~6及び11と、成分7~10をそれぞれ均一に溶解し、両者を混合し濾過して製品とする。
【0052】
処方例2 クリーム
処方 含有量(%)
1.製造例1Bの抽出物 0.5
2.スクワラン 5.5
3.オリーブ油 3.0
4.ステアリン酸 2.0
5.ミツロウ 2.0
6.ミリスチン酸オクチルドデシル 3.5
7.ポリオキシエチレンセチルエーテル(20E.O.) 3.0
8.ベヘニルアルコール 1.5
9.モノステアリン酸グリセリン 2.5
10.香料 0.1
11.パラオキシ安息香酸メチル 0.25
12.1,3‐ブチレングリコール 8.5
13.精製水にて全量を100とする
[製造方法]成分2~9を加熱溶解して混合し、70℃に保ち油相とする。成分1及び11~13を加熱溶解して混合し、75℃に保ち水相とする。油相に水相を加えて乳化して、かき混ぜながら冷却し、45℃で成分10を加え、さらに30℃まで冷却して製品とする。
【0053】
処方例2において、製造例1Bの抽出物を製造例1Aの抽出物、製造例2Aの抽出物及び製造例3Aの抽出物に置き換えたものを処方例3、4及び5とした。
【0054】
処方例6 乳液
処方 含有量(%)
1.製造例1A、2A、3Aの混合抽出物 1.0
2.スクワラン 5.0
3.オリーブ油 5.0
4.ホホバ油 5.0
5.セタノール 1.5
6.モノステアリン酸グリセリン 2.0
7.ポリオキシエチレンセチルエーテル(20E.O.) 3.0
8.ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート(20E.O.) 2.0
9.香料 0.1
10.プロピレングリコール 1.0
11.グリセリン 2.0
12.パラオキシ安息香酸メチル 0.2
13.精製水にて全量を100とする
[製造方法]成分2~8を加熱溶解して混合し、70℃に保ち油相とする。成分1及び10~13を加熱溶解して混合し、75℃に保ち水相とする。油相に水相を加えて乳化して、かき混ぜながら冷却し、45℃で成分9を加え、さらに30℃まで冷却して製品とする。
【0055】
処方例7 ゲル剤
処方 含有量(%)
1.製造例1C、2Cの混合抽出物 0.01
2.エタノール 5.0
3.パラオキシ安息香酸メチル 0.1
4.ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(60E.O.) 0.1
5.香料 適量
6.1,3‐ブチレングリコール 5.0
7.グリセリン 5.0
8.キサンタンガム 0.1
9.カルボキシビニルポリマー 0.2
10.水酸化カリウム 0.2
11.精製水にて全量を100とする
[製造方法]成分1~5と、成分6~11をそれぞれ均一に溶解し、両者を混合して製品とする。
【0056】
処方例8 パック
処方 含有量(%)
1.製造例2Aの抽出物 0.1
2.製造例2Bの抽出物 0.1
3.ポリビニルアルコール 12.0
4.エタノール 5.0
5.1,3‐ブチレングリコール 8.0
6.パラオキシ安息香酸メチル 0.2
7.ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(20E.O.) 0.5
8.クエン酸 0.1
9.クエン酸ナトリウム 0.3
10.香料 適量
11.精製水にて全量を100とする
[製造方法]成分1~11を均一に溶解し製品とする。
【0057】
処方例9 ファンデーション
処方 含有量(%)
1.製造例2Aの抽出物 1.0
2.ステアリン酸 2.4
3.ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート(20E.O.) 1.0
4.ポリオキシエチレンセチルエーテル(20E.O.) 2.0
5.セタノール 1.0
6.液状ラノリン 2.0
7.流動パラフィン 3.0
8.ミリスチン酸イソプロピル 6.5
9.カルボキシメチルセルロースナトリウム 0.1
10.ベントナイト 0.5
11.プロピレングリコール 4.0
12.トリエタノールアミン 1.1
13.パラオキシ安息香酸メチル 0.2
14.二酸化チタン 8.0
15.タルク 4.0
16.ベンガラ 1.0
17.黄酸化鉄 2.0
18.香料 適量
19.精製水にて全量を100とする
[製造方法]成分2~8を加熱溶解し、80℃に保ち油相とする。成分19に成分9をよく膨潤させ、続いて、成分1及び10~13を加えて均一に混合する。これに粉砕機で粉砕混合した成分14~17を加え、ホモミキサーで撹拌し75℃に保ち水相とする。この油相に水相をかき混ぜながら加え、乳化する。その後冷却し、45℃で成分18を加え、かき混ぜながら30℃まで冷却して製品とする。
【0058】
処方例10 浴用剤1
処方 含有量(%)
1.製造例2Aの抽出物 5.0
2.製造例2Bの抽出物 1.0
3.炭酸水素ナトリウム 50.0
4.黄色202号(1) 適量
5.香料 適量
6.硫酸ナトリウムにて全量を100とする
[製造方法]成分1~6を均一に混合し製品とする。
【0059】
処方例11 軟膏
処方 含有量(%)
1.製造例1B、2Bの混合抽出物 0.5
2.ポリオキシエチレンセチルエーテル(30E.O.) 2.0
3.モノステアリン酸グリセリン 10.0
4.流動パラフィン 5.0
5.セタノール 6.0
6.パラオキシ安息香酸メチル 0.1
7.プロピレングリコール 10.0
8.精製水にて全量を100とする
[製造方法]成分2~5を加熱溶解して混合し、70℃に保ち油相とする。成分1及び6~8を加熱溶解して混合し、75℃に保ち水相とする。油相に水相を加えて乳化して、かき混ぜながら30℃まで冷却して製品とする。
【0060】
処方例12 散剤
処方 含有量(%)
1.製造例1A、2Aの混合抽出物 20.0
2.乾燥コーンスターチ 30.0
3.微結晶セルロース 50.0
[製造方法]成分1~3を混合し、散剤とする。
【0061】
処方例13 錠剤
処方 含有量(%)
1.製造例2Aの抽出物 3.0
2.乾燥コーンスターチ 27.0
3.カルボキシメチルセルロースカルシウム 20.0
4.微結晶セルロース 40.0
5.ポリビニルピロリドン 7.0
6.タルク 3.0
[製造方法]成分1~4を混合し、次いで成分5の水溶液を結合剤として加えて顆粒成形する。成形した顆粒に成分6を加えて打錠する。1錠0.52gとする。
【0062】
処方例14 錠菓
処方 含有量(%)
1.製造例1A、2A、3Aの混合抽出物 0.5
2.乾燥コーンスターチ 50.0
3.エリスリトール 40.0
4.クエン酸 5.0
5.ショ糖脂肪酸エステル 3.0
6.香料 適量
7.精製水にて全量を100とする
[製造方法]成分1~4及び7を混合し、顆粒成形する。成形した顆粒に成分5及び6を加えて打錠する。1粒1.0gとする。
【0063】
処方例15 飲料
処方 含有量(%)
1.製造例2Aの抽出物 2.0
2.果糖ブドウ糖液糖 12.5
3.クエン酸 0.1
4.香料 0.05
5.精製水にて全量を100とする
[製造方法]成分1~5を混合し、飲料とする。
【0064】
処方例16 粉末飲料
処方 含有量(%)
1.製造例1A、2Aの混合抽出物 10.0
2.粉糖 65.0
3.粉末ピーチ果汁 15.0
4.L-アスコルビン酸 8.0
5.結晶クエン酸 1.2
6.クエン酸ナトリウム 0.75
7.アスパルテーム 0.02
8.粉末ピーチ香料 0.03
[製造方法]成分1~8を混合し、粉末飲料とする。
【0065】
処方例17 ハーブティー
処方 含有量(%)
1.栽培例1、2の混合乾燥物 50.0
2.ペパーミント 25.0
3.ローズヒップ 25.0
[製造方法]成分1~3を混合し、ティーバッグに2gを封入してハーブティーとする。
【0066】
処方例18 浴用剤2
処方 含有量(%)
1.栽培例2の乾燥粉砕物の42メッシュ篩過品 1.0
2.炭酸水素ナトリウム 50.0
3.黄色202号(1) 適量
4.香料 適量
5.硫酸ナトリウムにて全量を100とする
[製造方法]成分1~5を均一に混合し製品とする。
【産業上の利用可能性】
【0067】
以上のことから、ベニバナの抽出物は、フィラグリン産生促進効果及びセラミド産生促進効果が優れており、さらに特定の波長域を有する光を照射して栽培したベニバナやその抽出物は、優れた抗酸化効果、フィラグリン産生促進効果及びセラミド産生促進効果を示し、これらを含有する皮膚外用剤又は内用剤は特に有効である。
【配列表】