(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-08
(45)【発行日】2023-06-16
(54)【発明の名称】グラファイトシート用ポリイミドフィルム、これを用いて製造されたグラファイトシート及びグラファイトシートの製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 5/18 20060101AFI20230609BHJP
C08G 73/10 20060101ALI20230609BHJP
C01B 32/205 20170101ALI20230609BHJP
【FI】
C08J5/18 CFG
C08G73/10
C01B32/205
(21)【出願番号】P 2019040079
(22)【出願日】2019-03-06
(62)【分割の表示】P 2018091130の分割
【原出願日】2018-05-10
【審査請求日】2021-05-06
(31)【優先権主張番号】10-2018-0011176
(32)【優先日】2018-01-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】514225065
【氏名又は名称】ピーアイ アドヴァンスド マテリアルズ カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】PI Advanced Materials CO., Ltd.
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ウォン、トン ヨン
(72)【発明者】
【氏名】キム、キョン ス
(72)【発明者】
【氏名】チョ、ソン イル
(72)【発明者】
【氏名】チェ、チョン ヨル
【審査官】石塚 寛和
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-136721(JP,A)
【文献】特開2014-093317(JP,A)
【文献】特開2014-012827(JP,A)
【文献】特開2010-168281(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/00-5/02、5/12-5/22
C08L 1/00-101/14
C08G 73/00-73/26
C01B 32/00-32/991
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミック酸及び有機溶媒を含む前駆体組成物から製造され、下記数式1の値が
0.01以上~0.37以下であり、上記ポリアミック酸が上記前駆体組成物の総重量を基準に15重量%~20重量%含まれる、グラファイトシート用ポリイミドフィルム:
(第1の半値幅-第2の半値幅)/(第1の半値幅+第2の半値幅)(1)
ここで、上記第1の半値幅は、上記ポリイミドフィルムのXRD分析による(010)面の回折ピークにおいて、前記(010)面の回折ピークが単一ピーク形態の場合、上記単一ピークの半値幅であり、前記(010)面の回折ピークが複数の単一ピーク形態又は複数の単一ピークが重畳された形態の場合、それぞれの単一ピークの半値幅の平均であり、
上記第2の半値幅は、上記ポリイミドフィルムのXRD分析による(102)面の回折ピークにおいて、前記(102)面の回折ピークが単一ピーク形態の場合、上記単一ピークの半値幅であり、前記(102)面の回折ピークが複数の単一ピーク形態又は複数の単一ピークが重畳された形態の場合、それぞれの単一ピークの半値幅の平均である。
【請求項2】
上記前駆体組成物より由来したフィルム中間体が機械搬送方向(MD)及び機械搬送方向に対する横方向(TD)の中少なくとも1つの方向に延伸される、請求項1に記載のグラファイトシート用ポリイミドフィルム。
【請求項3】
上記フィルム中間体が摂氏20度~40度で延伸される、請求項2に記載のグラファイトシート用ポリイミドフィルム。
【請求項4】
20μm以上~125μmの厚さを有するよう延伸される、請求項2に記載のグラファイトシート用ポリイミドフィルム。
【請求項5】
上記MD及びTDの中少なくとも1つの延伸比が+3%以上~+25%以下である、請求項2に記載のグラファイトシート用ポリイミドフィルム。
【請求項6】
上記第1の半値幅が35°以上~80°以下であり、上記第2の半値幅が上記第1の半値幅に対して43%以上~92%以下である、請求項1に記載のグラファイトシート用ポリイミドフィルム。
【請求項7】
請求項1に記載のポリイミドフィルムより由来し、熱伝導度が1,400W/m・K以上である、グラファイトシート。
【請求項8】
ポリアミック酸及び有機溶媒を含む前駆体組成物から下記数式1の値
が0.01以上~0.37以下であるポリイミドフィルムを製造する段階;
上記ポリイミドフィルムを炭化する段階;及び
上記炭化されたポリイミドフィルムを黒鉛化してグラファイトシートを収得する段階;
を含み、
上記前駆体組成物が総重量を基準に15重量%~20重量%の上記ポリアミック酸を含み、
上記グラファイトシートの熱伝導度が1,400W/m・K以上である、グラファイトシートの製造方法:
(第1の半値幅-第2の半値幅)/(第1の半値幅+第2の半値幅)(1)
ここで、前記第1の半値幅は、上記ポリイミドフィルムのXRD分析による(010)面の回折ピークにおいて、前記(010)面の回折ピークが単一ピーク形態の場合、上記単一ピークの半値幅であり、前記(010)面の回折ピークが複数の単一ピーク形態又は複数の単一ピークが重畳された形態の場合、それぞれの単一ピークの半値幅の平均であり、
上記第2の半値幅は、上記ポリイミドフィルムのXRD分析による(102)面の回折ピークにおいて、前記(102)面の回折ピークが単一ピーク形態の場合、上記単一ピークの半値幅であり、前記(102)面の回折ピークが複数の単一ピーク形態又は複数の単一ピークが重畳された形態の場合、それぞれの単一ピークの半値幅の平均である。
【請求項9】
上記前駆体組成物より由来したフィルム中間体を少なくとも1回延伸する、請求項
8に記載のグラファイトシートの製造方法。
【請求項10】
上記フィルム中間体を機械搬送方向(MD)及び機械搬送方向に対する横方向(TD)の中少なくとも1つの方向に延伸する段階を含む、請求項
9に記載のグラファイトシートの製造方法。
【請求項11】
上記延伸する段階において、ポリイミドフィルムが20μm以上~125μmの厚さを有するようフィルム中間体を延伸する、請求項
10記載のグラファイトシートの製造方法。
【請求項12】
上記延伸する段階が摂氏20度~40度で遂行される、請求項
10に記載のグラファイトシートの製造方法。
【請求項13】
上記延伸する段階において、MD及びTDの中少なくとも1つの延伸比が+3%以上~+25%以下である、請求項
10に記載のグラファイトシートの製造方法。
【請求項14】
上記第1の半値幅が35°以上~80°以下であり、上記第2の半値幅が第1の半値幅に対して43%以上~92%以下である、請求項
8に記載のグラファイトシートの製造方法。
【請求項15】
上記炭化段階が、ポリイミドフィルムを摂氏1,000℃以上~1,500℃以下で熱処理する、請求項
8に記載のグラファイトシートの製造方法。
【請求項16】
上記黒鉛化の段階がポリイミドフィルムを摂氏2,500℃以上~3,000℃以下で熱処理する、請求項
8に記載のグラファイトシートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラファイトシート用ポリイミドフィルム、これを用いて製造されたグラファイトシート及びグラファイトシートの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
最近の電子機器は、徐々にその構造が軽量化、小型化、薄型化及び高集積化されているため、単位体積当りの発熱量が増加しつつ、熱負荷による多くの問題等が発生しており、代表的な問題としては、電子機器の熱負荷による半導体の演算速度の低下と、バッテリーの劣化による寿命の短縮など、電子機器の性能に直接的な影響を与えるもの等が挙げられる。
【0003】
このような理由で、電子機器の効果的な放熱は非常に重要な課題の一つとして台頭している。
【0004】
上記電子機器に使用される放熱手段として熱伝導度に優れたグラファイトが注目を浴びており、その中でもシート形態に加工が容易で、銅やアルミニウムの熱伝導度と比べて約2倍~7倍優れた熱伝導度を有する人造グラファイトシートが脚光を浴びている。
【0005】
このような人造グラファイトシートは、高分子の炭化工程と黒鉛化工程を通じて得られるもので、高分子の中でも約400℃以上の温度を耐えられる耐熱性高分子がグラファイトの前駆体として使用され得る。このような耐熱性高分子の代表的な例としては、ポリイミド(polyimide、PI)が挙げられる。
【0006】
ポリイミドは、剛直な芳香族主鎖と共に、化学的安定性が非常に優れたイミド環を基礎として、有機材料の中でも最高レベルの耐熱性、耐薬品性、電気絶縁性、耐化学性、耐候性を有する高分子材料であり、人造グラファイトシートの製造の際に優れた収率、結晶化度及び熱伝導度を可能にするため、最適のグラファイト前駆体として知られている。
【0007】
一般的に人造グラファイトシートの物性は、上記グラファイト前駆体であるポリイミドの物性に大きな影響を受けるものと知られているため、人造グラファイトシートの物性向上のためのポリイミドの改良が活発に行われており、特に人造グラファイトシートの熱伝導度向上のために多くの研究がなされている。
【0008】
例えば、ポリイミドの原料であるポリアミック酸溶液の粘度と固形分の含有量の調節を通じて重量平均分子量を増加してグラファイト化の際に再配列される炭素鎖の長さを増やすことにより、熱伝導性に優れたグラファイトシートを具現するグラファイト用ポリイミドフィルムの製造方法が提案されている(特許文献1参照)。また、ポリアミック酸フィルムの延伸順序や方向、及び程度の制御を基にラファイト化を促進するグラファイトシートの製造方法が提案されている(特許文献2参照)。
【0009】
しかし、特許文献1及び2に記載の製造方法を使用してもグラファイトシートの熱伝導性の向上には一定の限界が有った。特に、ポリイミドフィルムの多様な物性及び製造工程条件等によって、これより製造されたグラファイトシートの熱伝導度が大きく変化し得るが、特許文献1及び2には高い熱伝導度のグラファイトシートの具現に必需的に要求される因子及びその作用原理の提示がなかったため、結局グラファイトシートの熱伝導性が所望のレベルに改善されない限界が見られた。
【0010】
即ち、放熱による電子機器の性能向上を顕著に引き出せる至って高い熱伝導度を有する人造グラファイトシートと、その具現を可能にするポリイミドの開発に明らかな結果は不在な状況である。従って、所望の熱伝導度を有する人造グラファイトシートと、その具現を可能にするポリイミドの開発が必要な実情である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】韓国公開特許公報第10-2017-0049912号
【文献】欧州特許出願公開公報第0449312号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、新規なポリイミドフィルムと、これより製造されたグラファイトシートを提供することである。
【0013】
本発明の一側面によると、ポリイミドフィルムの結晶面の中、XRD分析による(010)面と(102)面の回折ピークが、高い熱伝導度のグラファイトシートの具現に必須的に要求される因子として開示される。
【0014】
特に、ポリイミドフィルムは、(010)面と(102)面の回折ピークにおいて、これらの半値幅の関係を、優れた熱伝導度のグラファイトシート具現の重要因子として含み得る。具体的に、ポリイミドフィルムは、半値幅の関係を定量的な数値で算出するため定立された数式1を上記重要因子として含んでもよく、これを通じて算出された値が本発明で特定した数値範囲を満たす場合、上記ポリイミドフィルムは顕著に優れた熱伝導度のグラファイトシートの具現に好ましいものになり得る。
【0015】
本発明の他の側面によると、グラファイトシートの製造方法は、前述した数式1を重要因子として含んでもよく、これを通じて算出された値が上記数値範囲に属するポリイミドフィルムを用いて所望のレベルの高い熱伝導度を有するグラファイトシートを製造し得る。
【0016】
そこで、本発明はその具体的な実施例を提供することに実質的な目的がある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、半値幅等の関係に対する下記数式1の値が、0.4未満のポリイミドフィルムに注目し、このようなポリイミドフィルムとこれを用いたグラファイト製造方法は、1,400W/m・K以上の極めて高い熱伝導度を有するグラファイトシートの具現を可能にし得る。
【0018】
そこで、本発明はポリアミック酸及び有機溶媒を含む前駆体組成物から製造され、下記数式1の値が0.4未満のポリイミドフィルム及びこれより由来したグラファイトシートを提供する。
(第1の半値幅-第2の半値幅)/(第1の半値幅+第2の半値幅)(1)
【0019】
本発明はまた、グラファイトシートの製造方法を提供する。上記製造方法は、具体的に上記と同様の数式1を通じて算出された値が0.4未満のポリイミドフィルムを製造する段階、上記ポリイミドフィルムを炭化する段階、及び上記炭化されたポリイミドフィルムを黒鉛化してグラファイトシートを収得する段階を含み得る。
【0020】
以下では、本発明による「ポリイミドフィルム」、「グラファイトシートの製造方法」及び「グラファイトシート」の手順で発明の実施形態をより詳細に説明する。
【0021】
これに先たって、本明細書及び請求範囲に使用された用語や単語は、通常的且つ辞典的な意味に限定して解釈されてはならず、発明者は自身の発明を最も最善の方法で説明するため用語の概念を適切に定義することができるとの原則に即して、本発明の技術的思想に符合する意味と概念で解釈されるべきである。
【0022】
従って、本明細書に記載された実施例の構成は、本発明の最も望ましい一つの実施例に過ぎず、本発明の技術的思想の全てを代弁するものではないため、本出願時点においてこれらを代替し得る多様な均等物と変形例などが存在し得ることを理解するべきである。
【0023】
本明細書において単数の表現は、文脈上明らかに異なる意味にならない限り、複数の表現を含む。本明細書において、「含む」、「備える」又は「有する」などの用語は、実施された特徴、数字、段階、構成要素又はそれらを組み合わせたものが存在することを指定しようとするものであり、1つ又はそれ以上の他の特徴や数字、段階、構成要素、又はこれらを組み合わせたものなどの存在又は付加可能性を予め排除しないものと理解されるべきである。
【0024】
本明細書において、「ジアンヒドリド(二無水物; dianhydride)」は、その前駆体又は誘導体を含むものと意図されるが、これらは技術的にはジアンヒドリドではないが、それにもかかわらず、ジアミンと反応してポリアミック酸を形成するものであり、このポリアミック酸はさらにポリイミドに変換され得る。
【0025】
本明細書において、「ジアミン」は、その前駆体又は誘導体を含むものと意図されるが、これらは技術的にはジアミンではないが、それにもかかわらず、ジアンヒドリドと反応してポリアミック酸を形成するものであり、このポリアミック酸はさらにポリイミドに変換され得る。
【0026】
本明細書において、量、濃度、又は他の値又はパラメータが範囲、好ましい範囲又は好ましい上限値及び好ましい下限値の列挙として与えられる場合、範囲が別個に開示されているかに関係なく、任意の一対の任意の上限値又は好ましい値、及び任意の下限値又は好ましい値で形成された全ての範囲を具体的に開示するものと理解されるべきである。数値の範囲が本明細書において言及される場合、特に記述されない限り、その範囲はその終点及びその範囲内の全ての整数と分数を含むものと意図される。本発明の範疇は、範囲を定義する際に言及される特定値に限定されないものと意図される。
【0027】
(ポリイミドフィルム)
本発明によるポリイミドフィルムは、ポリアミック酸及び有機溶媒を含む前駆体組成物から製造され得る。上記ポリイミドフィルムに関する詳細な説明は、以下の非制限的実施例を通じて詳細に説明する。
【0028】
<ポリイミドフィルムの特徴>
1つの具体的な例において、上記ポリイミドフィルムは、下記のような数式1の値が0.4未満、詳細には0.01以上~0.37以下、より詳細には、0.02以上~0.16以下、特に詳細には、0.03以上~0.09以下の数値範囲に属し得る。このような本発明のポリイミドフィルムの場合、これを用いて製造するグラファイトシートが高い熱伝導度を発現させ得る。
(第1の半値幅-第2の半値幅)/(第1の半値幅+第2の半値幅)(1)
【0029】
ここで、上記第1の半値幅は、上記ポリイミドフィルムのXRD分析による(010)面の回折ピークにおいて、前記(010)面の回折ピークが単一ピーク形態の場合、上記単一ピークの半値幅であり、前記(010)面の回折ピークが複数の単一ピーク形態又は複数の単一ピークが重畳された形態の場合、それぞれの単一ピークの半値幅の平均であり得る。
【0030】
上記第2の半値幅は、上記ポリイミドフィルムのXRD分析による(102)面の回折ピークにおいて、前記(102)面の回折ピークが単一ピーク形態の場合、上記単一ピークの半値幅であり、前記(102)面の回折ピークが複数の単一ピーク形態又は複数の単一ピークが重畳された形態の場合、それぞれの単一ピークの半値幅の平均であり得る。
【0031】
本発明は、ポリイミドフィルムの結晶面の中でも、特に(010)面の回折ピークと(102)面の回折ピークが、フィルム全般の配向性に密接に関係されるものであると確信し、ポリイミドフィルムの配向性が優れれば、ポリイミドフィルムから由来するグラファイトシートにおいて高い熱伝導度の発現が可能になり得る。
【0032】
通常、上記回折ピークの幅が広いほど結晶化度(又は配向性)が良くないことがあり、回折ピークの幅が狭いほど結晶化度(又は配向性)が優れることがあり、上記回折ピーク幅の定量解析をピークの半値幅(Full Width at Half Maximum)を基準に判断し得る。
【0033】
しかし、(010)面の回折ピークと(102)面の回折ピークに対する上記第1の半値幅と第2の半値幅それぞれが相対的に小さいとしても、上記第1の半値幅と上記第2の半値幅間の差が過度に大きい場合、又は過度に小さい場合は、上記数式1に関する本発明の数値範囲から外れることがある。この場合に該当する通常のポリイミドフィルムを用いてグラファイトシートを製造する場合、高い熱伝導度が発現されないことがある。
【0034】
逆に、(010)面の回折ピークと(102)面の回折ピークに対する上記第1の半値幅と第2の半値幅それぞれが相対的に大きいとしても、上記数式1で算出された値が前述した数値範囲に属することができ、この場合に該当する本発明によるポリイミドフィルムは、これより製造されたグラファイトシートが相対的に高い熱伝導度を有し得る。
【0035】
言い換えれば、グラファイトシートの高い熱伝導度の達成のためには、上記第1の半値幅と第2の半値幅が適度な値を有しつつも、上記数式1で算出された値が、本発明の数値範囲を満たすことが重要であると理解することができ、これについては以下で明確に立証するが、本発明のポリイミドフィルムは、上記数式1で算出された値が本発明の数値範囲を満たし、これによりグラファイトに製造した際に、1,400W/m・K以上の高い熱伝導度を有するグラファイトシートの具現を可能にし得る。
【0036】
一方、ポリイミドフィルムの配向性は、単量体の種類、前駆体組成物の固形分含量、粘度、ポリイミドフィルムの製膜温度及びフィルム中間体の延伸程度など、様々な条件に関係されるものと判断され、その中で特定の一部の条件を満たすとしても配向性が特に向上されるや、グラファイトシート製造の際に高い熱伝導度を発現し得るものではない。しかし、驚くべきことに、上記配向性に関連する条件に一部の差があるとしても、数式1で算出された値が本発明の数値範囲を満たすポリイミドフィルムの場合、これより由来するグラファイトシートは高い熱伝導度が発現され得る。これを通じて、特に(010)面の回折ピークと(102)面の回折ピークが配向性に密接に関係されたものであると判断し得る。
【0037】
また、このような密接な関係について上記数式1が(010)面と(102)面の回折ピークに対する第1の半値幅及び第2の半値幅の関係を定量的に算出することができ、算出値が本発明の数値範囲に属する場合、又は属しない場合を基準として、グラファイトシートの熱伝導度に対する定性的予測を可能にする点も注目するべきである。
【0038】
以上の利点は、上記数式1で算出された値が本発明の特定の数値範囲に属する場合、ポリイミドフィルムの炭化と黒鉛化の際に、炭素再配列に相対的に有利である点に起因するものと推測される。
【0039】
また、ポリイミドフィルムの表面層と内部でほぼ同時にグラファイト化が行われると仮定すると、上記特定の数値範囲を満たす本発明によるポリイミドフィルムは、グラファイトシートへの変換に適合な配向特性を有しているため、それ自体のみでも高いレベルの熱伝導度を有するグラファイト構造を上記表面層と内部の両方に形成すると同時に、内部から発生するガスが表面層に形成されたグラファイト構造を破壊する現象を抑制するに役立つ適切な配向性を有するものと予想される。
【0040】
これに対する1つの例において、上記第1の半値幅は35°以上~80°以下であり得る。上記第2の半値幅は上記第1の半値幅に対して43%以上~92%以下の値であってもよく、詳細には49%以上~92%以下の値であり得る。
【0041】
<前駆体組成物>
1つの具体的な例において、上記ポリアミック酸は少なくとも1種のジアミン単量体と、少なくとも1種のジアンヒドリド単量体(「酸二無水物」)の重合反応から製造され得る。
【0042】
上記ポリアミック酸の製造に用いられるジアンヒドリド単量体は、ピロメリット酸二無水物、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,2',3,3'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3',4,4'-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、3,4,9,10-ペリレンテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、1,1-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、オキシジフタル酸無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、p-フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、エチレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、及びビスフェノールAビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)及びこれらの類似物を含み、これらを単独又は任意の割合で混合した混合物で利用し得る。
【0043】
上記ポリアミック酸の製造に利用され得るジアミンは、4,4'-ジアミノジフェニルプロパン、4,4'-ジアミノジフェニルメタン、ベンジジン、3,3'-ジクロロベンジジン、4,4'-ジアミノジフェニルスルフィド、3,3-ジアミノジフェニルスルホン、4,4'-ジアミノジフェニルスルホン、4,4'-ジアミノジフェニルエーテル(4,4'-オキシジアニリン)、3,3'-ジアミノジフェニルエーテル(3,3'-オキシジアニリン)、3,4'-ジアミノジフェニルエーテル(3,4'-オキシジアニリン)、1,5-ジアミノナフタレン、4,4'-ジアミノジフェニルジエチルシラン、4,4'-ジアミノジフェニルシラン、4,4'-ジアミノジフェニルエチルホスフィンオキシド、4,4'-ジアミノジフェニルN-メチルアミン、4,4'-ジアミノジフェニルN-フェニルアミン、1,4-ジアミノベンゼン(p-フェニレンジアミン)、1,3-ジアミノベンゼン、1,2-ジアミノベンゼン及びこれらの類似物を含み、これらを単独又は任意の割合で混合した混合物で利用し得る。
【0044】
上記有機溶媒は、特に限定されるものではなく、ポリアミック酸を溶解させる溶媒であれば、如何なる溶媒も使用し得るが、アミド系溶媒であることが好ましい。具体的には、上記溶媒は、有機極性溶媒であってもよく、詳細には非陽性子性極性溶媒(aprotic polar solvent)であってもよく、例えば、N、N'-ジメチルホルムアミド(DMF)、N、N'-ジメチルアセトアミド、N-メチル-ピロリドン(NMP)、ガンマブチロラクトン(GBL)、ジグリム(Diglyme)からなる群から選択される1つ以上であってもよいが、これに限られるものではなく、必要に応じて単独又は2種以上を組み合わせて使用し得る。1つの例において、上記溶媒は、N、N-ジメチルホルムアミド及びN、N-ジメチルアセトアミドが特に好ましく使用し得る。
【0045】
場合により、前駆体組成物は炭酸カルシウム、第二リン酸カルシウム、硫酸バリウムなどのフィラーをさらに含み得る。
【0046】
<ポリイミドフィルムの製造>
1つの具体的な例において、上記ポリイミドフィルムの具現のための上記前駆体組成物は下記条件(a)~条件(c)を満たし得る。
(a)23℃で粘度が55,000cP以上~900,000cPを成し;
(b)キャスティング後、加熱及び乾燥する熱処理温度が摂氏150度~200度以下であり;
(c)上記前駆体組成物より由来したフィルム中間体が機械搬送方向(MD)及び機械搬送方向に対する横方向(TD)の中少なくとも1つの方向に延伸した。
【0047】
上記条件により、上記ポリイミドフィルムの物性が変化することができ、上記第1の半値幅と上記第2の半値幅それぞれが変動もされ得る。そこで、上記条件(a)~条件(c)に対する意義を以下でより詳細に説明する。
【0048】
i)条件(a)
上記前駆体組成物に含まれるポリアミック酸の重量平均分子量は、240,000以上、詳細には260,000以上、さらに詳細には、280,000以上であり得る。上記前駆体組成物から製造されたポリイミドフィルムを用いると、240,000未満の低い重量平均分子量の場合より、さらに長くて多い炭素鎖が重合されて熱伝導度が優れたグラファイトシートの製造に有利であり得る。
【0049】
上記範囲の重量平均分子量は、前駆体組成物の粘度を調節して制御し得る。具体的に、上記重量平均分子量は、粘度に比例して増加する。しかし、上記重量平均分子量が粘度に対して一次元の線形的な比例関係を示すものではなく、対数関数の形態で比例する。
【0050】
即ち、より高い重量平均分子量のポリアミック酸を得るため粘度を増加させても重量平均分子量が増加できる範囲が制限的であり、また、粘度を過度に高める場合、ポリイミドフィルムの製膜工程においてダイを通じたワニス吐出の際に、ダイ内部の圧力上昇などによる工程性の問題を惹起し得る。
【0051】
そこで、本発明では、上記ポリアミック酸が上記前駆体組成物の総重量を基準に、15重量%~20重量%含まれてもよく、このような範囲内で粘度調整を通じて上記範囲の重量平均分子量が達成され得る。
【0052】
この場合、前記ポリアミック酸の含量は、反応に使用されたジアンヒドリド単量体とジアミン単量体の総量に対応し、言い換えれば、上記前駆体組成物中に存在する「ポリアミック酸の固形分含量」と表現し得る。
【0053】
上記粘度のさらに好ましい範囲は90,000cP以上~300,000cPであってもよく、その中でも100,000cP以上~250,000cPであり得る。
【0054】
ii)条件(b)
上記前駆体組成物を製膜した後、上記条件(b)に符合する所定の温度で熱処理することにより、一部のポリアミック酸が閉環脱水され、イミド環が形成されてフィルム中間体が形成され得る。
【0055】
上記前駆体組成物をイミド化する方法については、従来公知の方法を使用し得る。具体的には、熱イミド化法、化学イミド化法、又は熱イミド化法と化学イミド化法を併用した複合イミド化法が挙げられる。
【0056】
熱イミド化法は、脱水閉環剤などを作用させず、加熱のみでイミド化反応を進行させる方法として、ポリアミック酸を支持体上に製膜した後、所定の温度範囲で徐々に昇温させて、上記ポリアミック酸がイミド化されたポリイミドフィルムを収得する方法である。
【0057】
化学イミド化法は、前駆体組成物に化学転換剤及び/又はイミド化触媒を作用させてイミド化を促進する方法である。
【0058】
複合イミド化法は、前駆体組成物に脱水剤及びイミド化触媒を投入して支持体上に製膜した後、所定の温度で加熱して脱水剤及びイミド化触媒を活性化し、部分的に硬化及び乾燥した後、さらに加熱することによってポリイミドフィルムを得られる。
【0059】
本発明では、上記イミド化法を適切に選択して製造し得るが、最も一般的に用いられる化学イミド化法を用いる場合を仮定して以下に説明する。
【0060】
ポリイミドフィルムを製造するためには、まず化学転換剤及び/又はイミド化触媒を低温で前駆体組成物中に混合し得る。
【0061】
上記化学転換剤及びイミド化触媒は、特に限られるものではなく、例えば、ベータピコリン、酢酸無水物、第2リン酸カルシウムなどを使用し得る。
【0062】
一方、前記前駆体組成物をガラス板、アルミ箔、無端(endless)ステンレスベルト、又はステンレスドラムなどの支持体上にフィルム型にキャスティングする。その後、支持体上で前駆体組成物を150℃~200℃の温度領域で加熱する。このようにすることで、化学転換剤及びイミド化触媒が活性化され、部分的に硬化及び/又は乾燥が生じることにより、フィルム化の前段階である中間体が形成される。その後、支持体から剥離してフィルム中間体を得る。
【0063】
このように収得されたフィルム中間体は、相対的に低温でイミド化されるため、磁気支持性を有し、延伸に有利なゲル形態であり得る。
【0064】
iii)条件(c)
上記フィルム中間体は、これより製造されるポリイミドフィルムの厚さ及びサイズを調節して配向性を向上させるため、延伸を遂行し得る。この場合、延伸は、機械搬送方向(MD)及び機械搬送方向に対する横方向(TD)の中少なくとも1つの方向に遂行され得る。
【0065】
MDに上記フィルム中間体を延伸する場合、分子配向がMDを沿うことになり、ポリイミドフィルムの配向性が向上され得る。ただし、いずれか一方の配向、例えばMDの配向を目的に上記フィルム中間体の延伸を遂行する際に、他方のTD方向への収縮が随伴され得るため、延伸方向と延伸比は慎重に選択されるべきである。
【0066】
そこで本発明では、上記MD及びTDの中少なくとも1つの延伸比が+3%以上~+25%以下であってもよく、詳細には上記MD及びTD両方それぞれの延伸比が+3%以上~+25%以下であり得る。
【0067】
また、ポリイミドフィルムが20μm以上~125μmの厚さを有するように、上記フィルム中間体を延伸し得る。
【0068】
上記厚さの範囲を下回る場合、過度に薄いグラファイトシートが収得され得る点で好ましくなく、上記厚さの範囲を上回る場合、グラファイト製造のための熱エネルギーが過度に消費され得て、フィルムの表面と内部の黒鉛化の形態が相違し得るため、好ましくない。
【0069】
一方、前記延伸と共に、部分的にイミド化された上記フィルム中間体を完全にイミド化するため、さらに熱処理をし得る。上記完全イミド化のための熱処理は、250℃~850℃で5~25分間遂行し得る。
【0070】
(グラファイトシートの製造方法)
本発明によるグラファイトシートの製造方法は、
下記数式1の値が0.4未満のポリイミドフィルムを製造する段階;及び
上記ポリイミドフィルムを炭化する段階;及び
上記炭化されたポリイミドフィルムを黒鉛化してグラファイトシートを収得する段階を含み、
上記グラファイトシートの熱伝導度が、1,400W/m・K以上のグラファイトシート製造方法であり得る。
(第1の半値幅-第2の半値幅)/(第1の半値幅+第2の半値幅)(1)
【0071】
ここで、前記第1の半値幅と上記第2の半値幅の定義は、上記のポリイミドフィルムの実施例で説明したものと同様である。
【0072】
本発明のグラファイトシート製造方法は、製造原料であるポリイミドフィルムの結晶面の中でも、特に(010)面の回折ピークと(102)面の回折ピークが、フィルムの配向性に関係していることに注目した。
【0073】
上記ポリイミドフィルムは、上記回折ピークの半値幅関係に対する数式1で算出された特定の値を有する場合、これより製造されたグラファイトシートは1,400W/m・K以上、詳細には1,500W/m・K以上の相当高い熱伝導度が発現され得る。
【0074】
これは、既に説明したとおり、上記数式1で算出された値が、本発明の特定の数値範囲、詳細には0.4未満に属する場合、ポリイミドフィルムの炭化過程において炭素再配列が相対的に有利な点に起因するものと推測され、ポリイミドフィルムの表面層と内部でほぼ同時に黒鉛化が行われると仮定すると、上記数値範囲を満たす本発明によるポリイミドフィルムは、グラファイトシートへの変換に適合な配向特性を有しているため、それ自体のみでも高いレベルの熱伝導度を有するグラファイト構造を上記表面層と内部の両方に形成すると同時に、内部から発生するガスが表面層に形成されたグラファイト構造を破壊する現象を抑制するに役立つ適切な配向性を有するものと予想される。
【0075】
1つの具体的な例において、上記数式1の値が0.01以上~0.37以下、さらに詳細には、0.02以上~0.16以下、特に詳細には、0.03以上~0.09以下の数値範囲に属し得る。
【0076】
これに対する1つの例において、上記第1の半値幅は35°以上~80°以下であり得る。上記第2の半値幅は、上記第1の半値幅に対して43%以上~92%以下の値であってもよく、詳細には49%以上~92%以下の値であり得る。
【0077】
上記グラファイトを収得する段階は、上記ポリイミドフィルムの炭化段階と炭化されたフィルムの黒鉛化段階を含み得る。
【0078】
炭化段階は、減圧又は窒素ガス中でホットプレス及び/又は電気炉を用いて遂行され得る。本発明において炭化は1,000℃以上~1,500℃程度の温度下で約1時間~5時間ほど遂行され得る。
【0079】
場合によっては、所望の形態への炭素配向のためホットプレスを用いて垂直方向に圧力を加え得る。この場合、炭化過程中に5kg/cm2以上、又は、15kg/cm2以上、又は、25kg/cm2以上の圧力を加えてもよいが、これは発明を実施するための例示であって、上記の圧力条件により本発明の範疇が限定されるものではない。
【0080】
これに続いて、炭化されたポリイミドフィルムの黒鉛化段階が進行され得る。
【0081】
上記黒鉛化段階もまたホットプレス及び/又は電気炉が用いられる。黒鉛化段階はまた、不活性ガス中で行われてもよく、不活性ガスの好ましい例としては、アルゴンと少量のヘリウムを含む混合気体が挙げられる。
【0082】
上記黒鉛化段階の熱処理温度は最低2,500℃以上が必要であり、経済性を考慮すれと、3000℃以下が好ましい。
【0083】
場合によっては、上記黒鉛化段階で100kg/cm2以上、又は200kg/cm2以上、又は300kg/cm2以上の圧力を加えてもよいが、これは発明を実施するための例示であって、上記の圧力条件により本発明の範疇が限定されるものではない。
【0084】
本発明によるグラファイトシートの製造方法において、上記ポリイミドフィルムを製造する段階は、下記工程条件(a)~(c)を満たし得る。
(a)ポリアミック酸及び有機溶媒を含む前駆体組成物の粘度が55,000cP以上~900,000であり;
(b)上記前駆体組成物のキャスティング後、加熱及び乾燥する熱処理温度が摂氏150度~200度以下であり;
(c)上記熱処理より由来したフィルム中間体を少なくとも1回延伸させて上記ポリイミドフィルムを製造する。
【0085】
上記工程条件(a)~(c)の意義は、上述した本発明によるポリイミドフィルムの条件(a)~(c)と同様であり得る。
【0086】
上記ポリイミドフィルムを製造する段階は具体的に、
上記工程条件(a)を含み、上記前駆体組成物を製造する段階;
上記工程条件(b)を含み、上記前駆体組成物を熱処理して上記フィルム中間体を形成する段階;及び
上記工程条件(c)を含み、上記フィルム中間体を機械搬送方向(MD)及び機械搬送方向に対する横方向(TD)の中少なくとも1つの方向に延伸する段階を含み得る。
【0087】
上記前駆体組成物を製造して重合する方法は、例えば、
(1)ジアミン単量体全量を溶媒中に入れて、その後にジアンヒドリド単量体をジアミン単量体と実質的に等モルになるように添加して重合する方法;
(2)ジアンヒドリド単量体全量を溶媒中に入れて、その後にジアミン単量体をジアンヒドリド単量体と実質的に等モルになるように添加して重合する方法;
(3)ジアミン単量体中の一部の成分を溶媒中に入れた後、反応成分に対してジアンヒドリド単量体の一部の成分を約95~105モル%の割合で混合した後、残りのジアミン単量体成分を添加し、これに続いて残りのジアンヒドリド単量体成分をジアミン単量体及びジアンヒドリド単量体の全体のモルが実質的に等モルになるように添加して重合する方法;
(4)ジアンヒドリド単量体を溶媒中に入れた後、反応成分に対してジアミン化合物中の一部の成分を95~105モル%の割合で混合した後、他のジアンヒドリド単量体成分を添加し、これに続いて残りのジアミン単量体成分をジアミン単量体及びジアンヒドリド単量体の全体のモルが実質的に等モルになるように添加して重合する方法;
(5)溶媒中において、一部のジアミン単量体の成分と一部のジアンヒドリド単量体の成分のいずれかが過量になるように反応させて第1の前駆体組成物を形成し、その他の溶媒において、一部のジアミン単量体の成分と一部のジアンヒドリド単量体の成分のいずれかが過量になるように反応させて第2の前駆体組成物を形成した後、第1、第2の前駆体組成物を混合して重合を完結する方法として、この際、第1の前駆体組成物を形成する際にジアミン単量体の成分が過剰である場合、第2の前駆体組成物ではジアンヒドリド単量体成分を過量にして、第1の前駆体組成物でジアンヒドリド単量体の成分が過剰である場合、第2の前駆体組成物ではジアミン単量体の成分を過量にして、第1、第2の前駆体組成物を混合し、これらの反応に使用される全体のジアミン単量体の成分とジアンヒドリド単量体の成分が実質的に等モルになるように重合する方法などが挙げられる。
【0088】
ただし、上記前駆体組成物の重合方法が以上のみに限定されるものではなく、公知の如何なる方法を使用し得ることは勿論である。
【0089】
一方、上記重合の際に、上記の前駆体組成物に含まれたポリアミック酸の重量平均分子量は240,000以上、詳細には260,000以上、さらに詳細には280,000以上であり得る。上記前駆体組成物から製造されたポリイミドフィルムを用いると、240,000未満の低い重量平均分子量の場合よりも、さらに長くて多い炭素鎖が重合されて熱伝導度が優れたグラファイトシートを製造するに有利であり得る。
【0090】
上記範囲の重量平均分子量は、前駆体組成物の粘度を調節して制御し得る。具体的には、上記の重量平均分子量は粘度に比例して増加する。しかし、上記重量平均分子量が粘度に対して一次元の線形的な比例関係を示すものではなく、対数関数の形態で比例する。
【0091】
つまり、より高い重量平均分子量のポリアミック酸を得るため粘度を増加させても重量平均分子量が増加できる範囲が制限的であり、また、粘度を過度に高める場合、ポリイミドフィルムの製膜工程においてダイを通じたワニス吐出の際に、ダイ内部の圧力上昇などによる工程性の問題を惹起し得る。
【0092】
そこで、上記前駆体組成物を製造する段階では、上記前駆体組成物の総重量を基準に、15重量%~20重量%のポリアミック酸及び80重量%~85重量%の有機溶媒を混合して前駆体組成物を製造してもよく、このような範囲で粘度の調節を通じて上記範囲の重量平均分子量が達成され得る。
【0093】
この際に、上記ポリアミック酸の含量は、反応に使用されたジアンヒドリド単量体とジアミン単量体の総量に対応し、上記前駆体組成物中に存在する「ポリアミック酸の固形分含量」であると理解し得る。
【0094】
上記粘度のさらに好ましい範囲は90,000cP以上~300,000cPであってもよく、その中でも100,000cP以上~250,000cPであり得る。
【0095】
上記ジアンヒドリド単量体、上記ジアミン単量体、及び上記有機溶媒は、前述の例等から選択的に使用され得る。
【0096】
上記前駆体組成物を熱処理して、上記フィルム中間体を形成する段階は、上記前駆体組成物を支持体に製膜した後、上記工程条件(b)に符合する所定の温度で熱処理することによって、一部のポリアミック酸が閉環脱水され、イミド環が形成されてフィルムの中間体が形成され得る。
【0097】
その方法としては、従来公知された方法、例えば、前述した熱イミド化法、化学イミド化法又は熱イミド化法と化学イミド化法を併用した複合イミド化法が挙げられる。これらに対する詳細な説明は、上記と同様であるため省略する。
【0098】
上記延伸する段階は、フィルム中間体を延伸したポリイミドフィルムの厚さ及びサイズを調節し、配向性を向上させるための段階であり、上記フィルム中間体を摂氏20度~40度で20μm以上~125μm以下の厚さを有するように延伸してもよく、この際、上記MD及びTDの中少なくとも1つの延伸比は+3%以上~+25%以下であってもよく、詳細には、上記MD及びTDの両方それぞれの延伸比が+3%以上~+25%以下であり得る。
【0099】
(グラファイトシート)
本発明は、上記ポリイミドフィルムより由来のグラファイトシート、又は上記の製造方法で製造されたグラファイトシートを提供する。
【0100】
上記グラファイトシートは、熱伝導度が1,400W/m・K以上、詳細には1,500W/m・K以上であってもよく、これによって上記グラファイトシートが電子機器の放熱手段として使用される場合、放熱を促進して上記電子機器の性能向上に著しく寄与し得る。
【0101】
上記グラファイトシートは、15μm~60μmの厚さを有し得る。
【0102】
仮に、上記グラファイトシートの厚さが上記範囲から外れて過度に薄いか厚い場合には、所望の範囲の熱伝導度を発揮できないことがあり、所望の電子装置などにグラファイトシートを適用するため加工する過程においてその取り扱い及び成形が容易でないことがある。
【0103】
本発明は、また、上記高性能グラファイトシートを含む電子装置を提供するもので、上記電子装置の具体的な種類、構成及び構造は当業界で公知されているため、これに対する詳細な説明は省略する。
【発明の効果】
【0104】
本発明は、ポリイミドフィルムのXRD分析による回折ピークの半値幅の関係と、上記ポリイミドフィルムより由来のグラファイトシートの熱伝導度が相当関連されていることを以上で具体的に説明した。
【0105】
整理すると、グラファイトシートの熱伝導度向上のため、ポリイミドフィルムの(010)面と(102)面におけるピーク半値幅の関係を定量的に定立できる数式1を用いられる。そこで、本発明のポリイミドフィルムは、上記の数式1で算出された値を0.4未満に有してもよく、詳細には0.01以上~0.37以下、より詳細には0.02以上~0.16以下、さらに詳細には0.03以上~0.09以下の数値範囲に属する値を有し得る。
【0106】
これによって、上記ポリイミドフィルムとこれを用いたグラファイトシートの製造方法は高い熱伝導度を有するグラファイトシートの具現を可能にし得る。
【0107】
また、本発明の製造方法により製造されたグラファイトシートは、熱伝導度が1,400W/m・K以上、詳細には1,500W/m・K以上で、至って高い熱伝導度に基盤して電子機器の性能向上を著しく誘導し得る。
【図面の簡単な説明】
【0108】
【
図1】
図1は、実施例1に係るポリイミドフィルムの(010)面に対するXRD結果のグラフである。
【
図2】
図2は、実施例1に係るポリイミドフィルムの(102)面に対するXRD結果のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0109】
以下、発明の具体的な実施例を通じて、発明の作用及び効果をより詳述する。ただし、このような実施例は、発明の例示として提示されたものに過ぎず、これによって発明の権利範囲が定められるものではない。
【0110】
(前駆体組成物の製造例)
<製造例1>
0.5L反応器にジメチルホルムアミド400gを入れ、温度を20℃に設定し、4,4-ジアミノジフェニルエーテル33.79gを投入して溶解させた後、ピロメリット酸二無水物を35.33g投入して溶解させた。溶解が終わると、上記溶液にピロメリット酸二無水物を少しずつ投入しながら粘度を測定して約100,000cPのワニスを得た。この時、ポリアミック酸固形分の含量は、前駆体組成物の総量において15%である。
【0111】
<製造例2>
約250,000cPのワニスを得たこと以外は、製造例1の方法と同様に遂行して前駆体組成物を得た。この時、ポリアミック酸固形分の含量は、前駆体組成物の総量において15%である。
【0112】
<製造例3>
約400,000cPのワニスを得たこと以外は、製造例1の方法と同様に遂行して前駆体組成物を得た。この時、ポリアミック酸固形分の含量は、前駆体組成物の総量において15%である。
【0113】
<製造例4>
約500,000cPのワニスを得たこと以外は、製造例1の方法と同様に遂行して、前駆体組成物を得た。この時、ポリアミック酸固形分の含量は、前駆体組成物の総量において15%である。
【0114】
<製造例5>
約500,000cPのワニスであり、ポリアミック酸固形分の含量が前駆体組成物の総量において20%になるよう重合したこと以外は、製造例1と同様の方法で前駆体組成物を得た。
【0115】
<製造例6>
約900,000cPのワニスであり、ポリアミック酸固形分の含量が前駆体組成物の総量において15%になるよう重合したこと以外は、製造例1と同様の方法で前駆体組成物を得た。
【0116】
<製造例7>
約30,000cPのワニスであり、ポリアミック酸固形分の含量が前駆体組成物の総量において15%になるよう重合したこと以外は、製造例1と同様の方法で前駆体組成物を得た。
【0117】
<製造例8>
約30,000cPのワニスであり、ポリアミック酸固形分の含量が前駆体組成物の総量において10%になるよう重合したこと以外は、製造例1と同様の方法で前駆体組成物を得た。
【0118】
<製造例9>
約30,000cPのワニスであり、ポリアミック酸固形分の含量が前駆体組成物の総量において25%になるよう重合したこと以外は、製造例1と同様の方法で前駆体組成物を得た。
【実施例】
【0119】
<実施例1>
製造例1で得た前駆体組成物100gにイミド硬化用触媒としてベータピコリン(沸点144℃)4.5g、脱水剤として酢酸無水物17.0g及び極性有機溶媒としてジメチルホルムアミド23.5gを混ぜて攪拌してイミド変換液45gを混合した後、ステンレス板に塗布し、150℃のオーブンで熱風に4分間乾燥した後、フィルムを20℃の温度でMDとTD方向の順にそれぞれ+3%延伸してポリイミドフィルムを得た。
【0120】
<実施例2>
製造例2で得た前駆体組成物を使用したこと以外は、実施例1と同様の方法でポリイミドフィルムを得た。
【0121】
<実施例3>
製造例3で得た前駆体組成物を使用したこと以外は、実施例1と同様の方法でポリイミドフィルムを得た。
【0122】
<実施例4>
製造例4で得た前駆体組成物を使用したこと以外は、実施例1と同様の方法でポリイミドフィルムを得た。
【0123】
<実施例5>
製造例5で得た前駆体組成物を使用したこと以外は、実施例1と同様の方法でポリイミドフィルムを得た。
【0124】
<実施例6>
製造例2で得た前駆体組成物を使用し、MDとTD方向にそれぞれ+25%延伸したこと以外は、実施例1と同様の方法でポリイミドフィルムを得た。
【0125】
<実施例7>
製造例6で得た前駆体組成物を使用したこと以外は、実施例1と同様の方法でポリイミドフィルムを得た。
【0126】
<比較例1>
製造例7で得た前駆体組成物を使用したこと以外は、実施例1と同様の方法でポリイミドフィルムを得た。
【0127】
<比較例2>
製造例8で得た前駆体組成物を使用したこと以外は、実施例1と同様の方法でポリイミドフィルムを得た。
【0128】
<比較例3>
製造例9で得た前駆体組成物を使用したこと以外は、実施例1と同様の方法でポリイミドフィルムを得た。
【0129】
<比較例4>
MDとTD方向にそれぞれ+50%延伸したこと以外は、実施例1と同様の方法でポリイミドフィルムを得た。
【0130】
(実験例1:ポリイミドフィルムの形態安定性評価)
実施例1と比較例4で得られたポリイミドフィルムにおいて、MD方向に延伸する時に発生するTD方向の収縮程度を評価した。
【0131】
評価方法は、延伸前のフィルムの幅を測定し、延伸後フィルムの幅を測定した後、収縮率を計算してその結果であるTD方向収縮率を下記の表1に示した。また、フィルムの破損を目視で確認し、その結果も表1に示した。
【0132】
【0133】
表1を参考すると、実施例1によるポリイミドフィルムは、MD延伸により発生するTD方向への収縮率が少ないことが分かる。これによって、MD延伸後に進行されるTD延伸で破れなどの問題が発生しないことが分かる。
【0134】
したがって、実施例1によるポリイミドフィルムは、適切な延伸による配向性向上に関する利点を占有しつつ、外観上の破損が全くないため、グラファイトシートの製造に使用され得るものであり、結果的に優れた物性のグラファイトシートの製造が可能であることを予想し得る。
【0135】
その反面、MD延伸比を過度に遂行した比較例4の場合は、MD延伸の際にTD収縮率が大きくなり、再度TD延伸をする時にフィルムが破れる現象が発生することが分かる。
【0136】
これは、本発明の延伸範囲から外れてポリイミドフィルムを過度に延伸すると、外観に深刻な破損が発生され得るため、グラファイトシートの製造が不可能であることを示唆する。
【0137】
(実験例2:ポリイミドフィルムの物性評価)
実施例1~実施例6及び比較例1~比較例3で得られたポリイミドフィルムに対し、XRD(X-Ray Diffraction)分析をして、結晶面(010)、(102)において方位角に対する回折強度を測定した。XRD分析に関連する詳細条件は次の通りである。
-光源:曲げ磁石放射光/6D UNIST-PALビームライン(浦項放射光加速器)
-使用エネルギー:18.986keV(波長:0.653A)
-光源サイズ:100(H)×40(V)μm2
-X-線露出時間:60~240秒
-検出器:Rayonix MX225-HS(2880×2880 pixels、pixel size:78μm)
【0138】
これを基に(010)面に対する第1の半値幅と(102)面に対する第2の半値幅を測定し、これらの半値幅を下記の数式1に代入した後その値を算出し、これに関する結果を下記の表2に示した。
(第1の半値幅-第2の半値幅)/(第1の半値幅+第2の半値幅)(1)
【0139】
【0140】
XRD分析の結果、実施例1~実施例6によるポリイミドフィルムは、数式1で算出された値が、本発明で特定した数値範囲、すなわち0.4未満に属する一方、比較例によるポリイミドフィルムは、上記の数値範囲から外れていることを確認し得る。
【0141】
一方、
図1には、実施例1によるポリイミドフィルムの(010)面のXRD分析グラフが示されている。
図1を参照すると、(010)面の回折強度が50%における最大方位角と最小方位角の差を半値幅として算定し得る。上記回折ピークの半値幅が(010)面に対する第1の半値幅であってもよく、その値は78.9°である。
【0142】
図2には、実施例1によるポリイミドフィルムの(102)面のXRD分析グラフが示されている。
【0143】
(102)面の回折ピークもまた複数のピークが重畳されている形態であることが分かり、計算を通じてこれらをそれぞれのピークに分離し得る。
【0144】
分離された回折ピークそれぞれから、回折強度が50%における最大方位角と最小方位角の差を半値幅として算定してもよく、上記回折ピークの半価幅の平均が(102)面に対する第2の半値幅であってもよく、その値は36.6°である。
【0145】
(実験例3:グラファイトシートの物性評価)
実施例1~実施例6及び比較例1~比較例3で得られたポリイミドフィルムを炭化が可能な電気炉を使用して、窒素気体下で1℃/分の速度で1,200℃まで昇温し約2時間維持した(炭化)。続いて、電気炉を使用してアルゴン気体下で20℃/分の昇温速度で2,800℃まで昇温し8時間維持させた後冷却してグラファイトシートを得た。
【0146】
熱拡散率測定装備(モデル名LFA447、Netsch社)を使用してlaser flash法でグラファイトシートの熱拡散率を測定して、上記熱拡散率の測定値に密度(重量/体積)及び比熱(理論値:0.85kJ/(kg・K))を乗じて熱伝導度を算出し、その結果を下記の表3に示した。
【0147】
【0148】
上記表3の結果から、実施例のポリイミドフィルムから製造されたグラファイトシートの場合、比較例そのものと比較して顕著に高い熱伝導度と熱拡散率を有することが分かる。
【0149】
これは、数式1で算出された値が本発明の数値範囲に属するポリイミドフィルムは、優れた熱伝導度の具現が可能であることを明らかに示唆し、上記の数値範囲に属しないポリイミドフィルムは所望の熱伝導度を有するグラファイトシートを具現できないことを証明する。
【0150】
その他の側面において、本発明に開示された数式1は、第1の半値幅及び第2の半値幅の関係を定量的に算出し得るもので、結果的に表2と表3の結果は、半値幅関係に関する定量的な値を用いてグラファイトシートの熱伝導度に関する予測にも有用であることを立証すると同時に示唆する。
【0151】
以上、本発明の実施例を参照して説明したが、本発明が属する分野における通常の知識を有する者であれば、上記内容を基に本発明の範疇内で様々な応用及び変形を行うことが可能である。