IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ バイオアプリケーションズ インコーポレイテッドの特許一覧

特許7291973豚流行性下痢ウイルスワクチン組成物およびその製造方法
<>
  • 特許-豚流行性下痢ウイルスワクチン組成物およびその製造方法 図1
  • 特許-豚流行性下痢ウイルスワクチン組成物およびその製造方法 図2
  • 特許-豚流行性下痢ウイルスワクチン組成物およびその製造方法 図3
  • 特許-豚流行性下痢ウイルスワクチン組成物およびその製造方法 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-08
(45)【発行日】2023-06-16
(54)【発明の名称】豚流行性下痢ウイルスワクチン組成物およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/215 20060101AFI20230609BHJP
   A61P 31/14 20060101ALI20230609BHJP
   A23K 20/147 20160101ALI20230609BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20230609BHJP
   A01H 5/00 20180101ALI20230609BHJP
   C12P 21/02 20060101ALI20230609BHJP
   C12N 15/50 20060101ALI20230609BHJP
   C07K 14/17 20060101ALI20230609BHJP
【FI】
A61K39/215
A61P31/14
A23K20/147
C12N15/63 Z
A01H5/00 A
C12P21/02 C
C12N15/50 ZNA
C07K14/17
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2021551520
(86)(22)【出願日】2020-04-13
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-04-20
(86)【国際出願番号】 KR2020004954
(87)【国際公開番号】W WO2020213898
(87)【国際公開日】2020-10-22
【審査請求日】2021-08-30
(31)【優先権主張番号】10-2019-0044008
(32)【優先日】2019-04-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】519142114
【氏名又は名称】バイオアプリケーションズ インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】BIOAPPLICATIONS INC.
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ソン、ウン-ジュ
(72)【発明者】
【氏名】イ、ヨン ジク
【審査官】川合 理恵
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2007-0045817(KR,A)
【文献】韓国特許第10-1570453(KR,B1)
【文献】国際公開第2018/135860(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/208099(WO,A2)
【文献】国際公開第2018/140766(WO,A2)
【文献】特表2017-524339(JP,A)
【文献】Porcine epidemic diarrhea virus strain K13JA12-1 spike protein gene, compkete cds,https://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/KJ539151.1
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号5で表されるアミノ酸配列からなる豚流行性下痢ウイルスタンパク質を有効成分として含む、豚流行性下痢ウイルスワクチン組成物。
【請求項2】
配列番号5で表されるアミノ酸配列からなる豚流行性下痢ウイルスタンパク質を有効成分として含む、豚流行性下痢の予防または治療用飼料組成物。
【請求項3】
請求項1に記載のワクチン組成物をヒトを除いた動物に投与することによって、豚流行性下痢を予防または治療する方法。
【請求項4】
配列番号1で表されるポリヌクレオチド配列を含む、配列番号5で表されるアミノ酸配列からなる豚流行性下痢ウイルスタンパク質発現用ベクター。
【請求項5】
前記ベクターは、図1に記載された構造を有することを特徴とする請求項4に記載のベクター。
【請求項6】
前記ベクターは、小胞体信号ペプチド、Fc断片およびBiP(Chaperone binding protein)よりなる群から選ばれた1つ以上をコードする遺伝子をさらに含むことを特徴とする請求項5に記載のベクター。
【請求項7】
前記小胞体信号ペプチドは、KDEL、HDEL、SEKDEL、KHEDL、KEEL、およびSEHEDLで表されるペプチド配列よりなる群から選ばれた1つであることを特徴とする請求項6に記載のベクター。
【請求項8】
請求項4~7のいずれか一項に記載のベクターで形質転換された、形質転換体。
【請求項9】
前記形質転換体は、植物であることを特徴とする請求項8に記載の形質転換体。
【請求項10】
(a)請求項8に記載の形質転換体を培養する段階と、
(b)前記形質転換体または培養液から豚流行性下痢ウイルスタンパク質を分離および精製する段階と、を含む、配列番号5で表されるアミノ酸配列からなる豚流行性下痢ウイルスタンパク質の生産方法。
【請求項11】
前記段階(b)の精製は、水溶性分画を使用して精製することを特徴とする請求項10に記載のタンパク質の生産方法。
【請求項12】
配列番号5で表されるアミノ酸配列からなる豚流行性下痢ウイルスタンパク質を有効成分として含む組成物を用いることを含む、豚流行性下痢の予防または治療方法(ヒトを対象とするものを除く)
【請求項13】
配列番号5で表されるアミノ酸配列からなる豚流行性下痢ウイルスタンパク質の豚流行性下痢ワクチンまたは薬剤の製造のための使用
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配列番号5で表されるアミノ酸配列を含む豚流行性下痢ウイルスS1タンパク質を有効成分として含む豚流行性下痢ウイルスワクチン組成物などに関する。
【0002】
本出願は、2019年4月16日に出願された韓国特許出願第10-2019-0044008号に基づく優先権を主張し、当該出願の明細書および図面に開示されたすべての内容は本出願に援用される。
【背景技術】
【0003】
豚流行性下痢ウイルス(PED,Porcine epidemic diarrhea)は、致命的であり、伝染性の高い豚の腸疾患であり、急性下痢/嘔吐および脱水を特徴とし、新生子豚で高い致死率を招く。前記疾患は、1971年に英国で最初報告され、ヨーロッパ全域に急速に広がっていき、1980年代にアジア大陸へ渡ってきたと推定される。1978年に初期にCV777と命名されたコロナウイルス類似体をベルギーで原因病原体として同定したことがある。
【0004】
このようなPEDを予防するために、より安全でかつ経済的であり、病気が発生した時、より迅速に対応できる戦略として、サブユニットワクチン(Subunit vaccine)開発の必要性が台頭している。サブユニットワクチンは、病原性微生物を構成している抗原性が知られた構造または非構造タンパク質を組み換え微生物で(大腸菌または他の発現システム)大量生産してワクチンの抗原タンパク質として使用することをいう。
【0005】
韓国内では、一般的に弱毒化PED生ワクチンを使用しているが、このようなワクチンの最も大きな問題点は、弱毒化したとしても、ウイルスが生きているので、毒性が回復しすることで病原性を帯びることになるので、安全性に問題が発生することがある。また、ワクチンを開発するに際して、弱毒化する段階で動物細胞で100回継代培養をするのに比較的長い時間が必要とされるので、変異速度が速いウイルスに対する迅速な対応が難しく、動物細胞培養を利用するので、ワクチンの開発費用も、比較的高いほうである。
【0006】
なお、このような病気を予防するためのワクチンは、タンパク質のフォールディング(folding)、糖化過程(glycosylation)等の問題によってバクテリアを利用せず、主に動物細胞を用いて生産されている。しかしながら、動物細胞を用いたワクチン生産方法は、大量生産のための設備拡充に大きな費用が必要とされるので、製造が容易でなく、ワクチンの価格が高価な場合が大部分である。また、動物細胞を用いて製造された不活性ウイルスワクチンは、保存が容易でないだけでなく、動物に感染可能なウイルスに汚染される可能性が高いという短所を有している。しかしながら、植物の場合には、動物細胞とは異なって、動物に感染可能なウイルスに汚染される可能性が非常に低く、耕作面積のみが確保されると、いつでも大量生産が可能なだけでなく、植物体を通じて長期保管が可能なので、安定して低コストのワクチンの生産が可能であることが期待される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前述のような従来技術上の問題点を解決するためになされたもので、植物体を用いて効率的な生産が可能なだけでなく、高い免疫原性およびウイルス中和能を示す組み換え豚流行性下痢ウイルスタンパク質、これを含むワクチン組成物、前記タンパク質の製造方法などを提供することをその目的とする。
【0008】
しかしながら、本発明が達成しようとする技術的課題は、以上で言及した課題に制限されず、言及されていない他の課題は、下記の記載から本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が明確に理解できる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、配列番号5で表されるアミノ酸配列を含む豚流行性下痢ウイルスタンパク質を有効成分として含む豚流行性下痢ウイルスワクチン組成物を提供する。前記豚流行性下痢ウイルスタンパク質は、配列番号5で表されるアミノ酸配列の機能性同等物も、本発明の権利範囲に含まれ、前記機能的同等物とは、アミノ酸の付加、置換、または欠失の結果、前記アミノ酸配列と少なくとも60%以上、好ましくは、70%以上、より好ましくは、80%以上、最も好ましくは、90%以上の配列相同性を有するものであり、前記配列番号5で表されるアミノ酸配列と実質的に同質の活性を示すポリペプチドを意味し、植物体を用いて安定して生産され得る豚流行性下痢ウイルスタンパク質のアミノ酸配列であれば、これらに制限されない。
【0010】
また、本発明は、前記豚流行性下痢ウイルスタンパク質を有効成分として含む豚流行性下痢の予防または治療用飼料組成物を提供する。
【0011】
また、本発明は、前記豚流行性下痢ウイルスタンパク質を個体に投与することによって豚流行性下痢を予防または治療する方法を提供する。
【0012】
また、本発明は、前記豚流行性下痢ウイルスタンパク質の豚流行性下痢の予防または治療用途を提供する。
【0013】
また、本発明は、前記豚流行性下痢ウイルスタンパク質の豚流行性下痢ワクチンまたは薬剤の製造のための用途を提供する。
【0014】
また、本発明は、配列番号5で表されるアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドを含む豚流行性下痢ウイルスタンパク質発現用ベクターを提供する。前記ポリヌクレオチドは、好ましくは、配列番号1で表されるポリヌクレオチド配列である。
【0015】
本発明の一具体例において、前記ベクターは、プロモーター遺伝子および配列番号5で表されるアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドの順序で作動可能に順次に連結され得る。
【0016】
本発明の他の具体例において、前記ベクターは、図1に記載された構造 を有するものでありうるが、これに制限されるものではない。
【0017】
本発明のさらに他の具体例において、前記ベクターは、小胞体信号ペプチド、Fc断片およびBiP(Chaperone binding protein)よりなる群から選ばれた1つ以上をコードする遺伝子をさらに含むものでありうるが、これらに制限されるものではない。
【0018】
本発明のさらに他の具体例において、前記小胞体信号ペプチドは、KDEL、HDEL、SEKDEL、KHEDL、KEEL、およびSEHEDLで表されるペプチド配列よりなる群から選ばれた1つでありうるが、これらに制限されるものではない。
【0019】
本発明のさらに他の具体例において、前記プロモーターは、カリフラワーモザイクウイルス(cauliflower mosaic virus)由来35Sプロモーター、カリフラワーモザイクウイルス(cauliflower mosaic virus)由来19S RNAプロモーター、植物のアクチンタンパク質プロモーター、ユビキチンタンパク質プロモーター、CMV(Cytomegalovirus)プロモーター、SV40(Simian virus 40)プロモーター、RSV(Respiratory syncytial virus)プロモーター、EF-1α(Elongation factor-1 alpha)プロモーター、pEMUプロモーター、MASプロモーター、ヒストン プロモーター、Clpプロモーターなどであるが、これらに制限されない。
【0020】
本発明のさらに他の具体例において、前記組み換え発現ベクターは、BiP(Chaperone binding protein)をコードするポリヌクレオチド、HDEL(His-Asp-Glu-Leu)ペプチドをコードする遺伝子、豚の免疫グロブリンFc断片をコードする遺伝子などをさらに含むことができる。
【0021】
また、本発明は、前記ベクターで形質転換された形質転換体を提供する。
【0022】
本発明の一具体例において、前記形質転換体は、好ましくは、大腸菌、バシラス、サルモネラ、酵母などのような微生物、昆虫細胞、ヒトを含む動物細胞、マウス、ラット、犬、猿、豚、馬、牛などのような動物、アグロバクテリウムツメファシエンス、植物などであり得、より好ましくは、稲、小麦、麦、とうもろこし、豆、ジャガイモ、小豆、エンバク、およびモロコシを含む食糧作物類;シロイヌナズナ、ハクサイ、ダイコン、唐辛子、イチゴ、トマト、スイカ、キュウリ、キャベツ、マクワウリ、カボチャ、ネギ、タマネギ、およびニンジンを含む野菜作物類;高麗人参、タバコ、木花、ゴマ、サトウキビ、テンサイ、エゴマ、ピーナッツ、およびアブラナを含む特用作物類;およびリンゴの木、梨の木、ナツメの木、桃、ブドウ、ミカン、柿、スモモ、アンズ、およびバナナを含む果樹類;およびバラ、カーネーション、菊、ユリ、およびチューリップを含む草花類などでありうるが、本発明のベクターで形質転換され得る生命体であれば、これらに制限されない。
【0023】
また、本発明は、(a)前記形質転換体を培養する段階と、(b)前記形質転換体または培養液から豚流行性下痢ウイルスタンパク質を分離および精製する段階と、を含む豚流行性下痢ウイルスタンパク質の生産方法を提供する。前記形質転換体は、好ましくは、細胞自体、植物体、または細胞を含む培養物であり得、前記培養液は、好ましくは、細胞を培養した後、細胞を除去した培養液でありうるが、本発明の組み換え抗原を含んでいると、これに制限されない。
【0024】
本発明の一具体例において、前記段階(b)の精製は、水溶性分画を使用して精製するものでありうるが、これに制限されるものではない。
【発明の効果】
【0025】
本発明の組み換え豚流行性下痢ウイルスS1タンパク質は、植物体でも効果的に発現するだけでなく、高い水溶解性を有していて、分離および精製が容易であり、また、体内で抗原として作用して高い免疫原性およびウイルス中和能を示すので、多様な分野において幅広く使用可能なものと期待される。また、体内で顕著な免疫原性およびウイルス中和能を示すので、新規の豚流行性下痢ワクチン組成物として使用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の一実施例による植物体において豚流行性下痢ウイルスS1タンパク質(PEDV-S1)の発現のための遺伝子の配列を示す図である。
図2】本発明の一実施例による植物体において豚流行性下痢ウイルスS1タンパク質の発現をウェスタンブロッティングで確認した結果を示す図である。
図3】本発明の一実施例による豚流行性下痢ウイルスS1タンパク質の分離精製結果を示す図である。
図4】本発明の一実施例による組み換え豚流行性下痢ウイルスS1タンパク質抗原を2回投与し、免疫原性を確認した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明では、配列番号1で表される豚流行性下痢ウイルスタンパク質遺伝子を用いると、植物体でも高い免疫原性を有する豚流行性下痢ウイルスタンパク質を効率的に生産および分離が可能であることを確認した。したがって、本発明の豚流行性下痢ウイルスタンパク質は、安定的かつ効率的な大量生産が可能なので、低コストであり、安定した豚流行性下痢ワクチンを提供できることが期待される。
【0028】
本明細書において、「抗原(antigen)」とは、体内で免疫反応を起こすすべての物質を総称し、好ましくは、ウイルス、化合物質、細菌、花粉、癌細胞、エビなどまたはこれらの一部のペプチドまたはタンパク質や、体内で免疫反応を起こすことができる物質であれば、これらに制限されない。
【0029】
本明細書において、「豚流行性下痢(PED,porcine epidemic diarrhea)ウイルス」は、コロナウイルス科(coronaviridae)に属し、一本鎖RNAをゲノム(genome)として有し、長さは約28Kbであり、3個の主な構成タンパク質であるspikeタンパク質、膜タンパク質または外皮タンパク質、そしてヌクレオカプシドタンパク質を暗号化している。本発明において用語、「スパイク(Spike)タンパク質」は、PEDウイルスの主な構成タンパク質であり、目標細胞を認識し、ウイルスと細胞膜(cellular membrane)を融合させる生物学的に重要な機能を有している。スパイク(Spike)タンパク質の一部の遺伝子を弱毒化抗原決定基(neutralization epitope)として用いることができ、成熟過程でスパイクタンパク質は、受容体結合サブユニットS1と膜結合サブユニットS2に切断されることがある。特にSタンパク質のS1ドメインは、細胞受容体に特異的な結合を媒介する受容体結合ドメイン(receptor binding domain:RBD)を含んでいる。
【0030】
本明細書において、「ワクチン(vaccine)」とは、生体に免疫反応を起こす抗原を含有する生物学的な製剤であり、感染症の予防のためにヒトや動物に注射したり経口投与することによって、生体に免疫を生じさせる免疫原をいう。前記動物は、ヒトまたは非ヒト動物であり、前記非ヒト動物は、豚、牛、馬、犬、ヤギ、羊などを称すが、これらに制限されない。
【0031】
本明細書において、「発現用ベクター(expression vector)」とは、ベクター内に挿入された異種の核酸によりコードされるペプチドまたはタンパク質を発現できるベクターを称するものであり、好ましくは、豚のFc断片が融合した目的抗原(本発明では、豚流行性下痢ウイルスタンパク質)を発現できるように製造されたベクターを意味する。前記「ベクター」は、試験管内、生体外または生体内で宿主細胞へ塩基の導入および/または転移のための任意の媒介物をいい、他のDNA断片が結合して結合された断片の複製をもたらすことができる複製単位(replicon)であり得、「複製単位」とは、生体内でDNA複製の自己ユニットとして機能する、すなわち、自らの調節により複製可能な、任意の遺伝的単位(例えば、プラスミド、ファージ、コスミド、染色体、ウイルスなど)をいう。本発明の組み換え発現ベクターは、好ましくは、RNA重合酵素が結合する転写開始因子であるプロモーター(promoter)、転写を調節するための任意のオペレーター配列、適合なmRNAリボソーム結合部位をコードする配列と転写および翻訳の終結を調節する配列、ターミネーターなどを含むことができ、より好ましくは、タンパク質の合成量を増加させるためのM17の5’UTR部位遺伝子、目的タンパク質を小胞体に移動させるためのBiP遺伝子、目的タンパク質の発現量および溶解性を増加させるFc断片、タンパク質が小胞体内で安定的に維持され得るようにタンパク質の分解を最小化するための小胞体信号ペプチド(endoplasmic reticulum signal peptide、小胞体標的化配列と同じ意味)遺伝子、クローニングサイト(cloning site)等をさらに含むことができ、より好ましくは、組み換えタンパク質を容易に分離するためのタグ用遺伝子、形質転換体を選別するための抗生剤耐性遺伝子などの選別用マーカー遺伝子などをさらに含むことができる。
【0032】
本発明の「豚流行性下痢ウイルスタンパク質」は、配列番号5のアミノ酸配列を含み、好ましくは、配列番号5のアミノ酸配列で表される。本発明の一実施例によれば、本発明の豚流行性下痢ウイルスタンパク質は、高い溶解性(solubility)を有しているので、分離精製が容易であり、組み換えタンパク質の凝集が抑制されて、組み換えタンパク質の生理活性または薬理的な活性を維持するのに効果的である。
【0033】
また、本発明のタンパク質は、配列番号1で表される遺伝子塩基配列で暗号化されるものでありうる。また、前記遺伝子変異体が本発明の範囲に含まれる。具体的に、前記遺伝子は、配列番号1の塩基配列と70%以上、より好ましくは、80%以上、最も好ましくは、90%以上の配列相同性を有する塩基配列を含むことができる。例えば、70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、100%の配列相同性を有するポリヌクレオチドを含む。
【0034】
前記「BiP遺伝子」は、発現した組み換えタンパク質を小胞体に移動させるために使用されたBiP配列のうち一部であり、好ましくは、配列番号2の塩基配列を含む遺伝子であり、最も好ましくは、配列番号2で表される遺伝子であるが、配列番号2の塩基配列と80%以上、より好ましくは、90%以上、より好ましくは、95%以上の配列相同性を有する塩基配列を含むことができる。ポリヌクレオチドに対する「配列相同性の%」は、最適に配列された配列と比較領域を比較することによって確認され、比較領域でポリヌクレオチド配列の一部は、さらに配列の最適配列に対する参考配列(追加または削除を含まない)に比べて追加または削除(すなわちギャップ)を含むことができる。前記「BIP遺伝子」は、発現組み換えタンパク質を小胞体に移動させるために使用されるものであり、発現するとき、配列の一部が切られて、一部のアミノ酸のみが残ることもできる。
【0035】
前記「小胞体信号ペプチド」(ER信号配列)は、細胞質細網上の信号認識粒子によりタンパク質が認識されることを許容して、タンパク質がER内腔内に転位されるようにするアミノ酸配列を意味する。本発明において前記小胞体信号ペプチドは、当業者に知られた植物小胞体信号ペプチドであれば、その種類およびアミノ酸配列が制限されず、例えばUS20130295065、WO2009158716等の文献を参考にすることができる。本発明において前記「小胞体信号ペプチド」は、好ましくは、KDEL(配列番号6)、HDEL(配列番号7)、SEKDEL(配列番号8)、KHEDL(配列番号9)、KEEL(配列番号10)、SEHEDL(配列番号11)よりなる群から選ばれたいずれか1つのポリペプチドであり得、最も好ましくは、HDEL(His-Asp-Glu-Leu、配列番号7)で表示されるポリペプチドであり得、配列番号4で暗号化されるものであり得る。また、本発明の小胞体信号ペプチドは、配列番号4の変異体が本発明の範囲に含まれる。具体的に、前記遺伝子は、配列番号4の塩基配列と90%以上、より好ましくは、95%以上、最も好ましくは、98%以上の配列相同性を有する塩基配列を含むことができる。ポリヌクレオチドに対する「配列相同性の%」は、最適に配列された配列と比較領域を比較することによって確認され、比較領域でポリヌクレオチド配列の一部は、さらに配列の最適配列に対する参考配列(追加または削除を含まない)に比べて追加または削除(すなわちギャップ)を含むことができる。前記小胞体信号ペプチドの結合位置は、植物細胞内で発現または合成を目的とするタンパク質のC末端に追加(または連結)されることを特徴とする。
【0036】
前記「Fc断片(Fc fragment)」とは、免疫グロブリンがパパイン(papain)により消化されたとき、重鎖(heavy chain;H chain)部分のみがS-S結合で連結され、抗原結合部位を有しない部分をFc断片といい、本発明のFc断片は、好ましくは、豚のFc断片であり、より好ましくは、配列番号3で表される豚のFc断片であるが、目的タンパク質と融合したとき、目的タンパク質の発現量および溶解性を増加させるFc断片であれば、これに制限されない。また、本発明のFc断片は、配列番号3の変異体が本発明の範囲に含まれる。具体的に、前記遺伝子は、配列番号3の塩基配列と90%以上、より好ましくは、95%以上、最も好ましくは、98%以上の配列相同性を有する塩基配列を含むことができる。ポリヌクレオチドに対する「配列相同性の%」は、最適に配列された配列と比較領域を比較することによって確認され、比較領域でポリヌクレオチド配列の一部は、さらに配列の最適配列に対する参考配列(追加または削除を含まない)に比べて追加または削除(すなわちギャップ)を含むことができる。
【0037】
前記「クローニングサイト」とは、ベクター内で各遺伝子を連結/区分することを目的で挿入されたものを総称し、好ましくは、配列番号12内で「ggatcctg」、「ccccgggca」で表される部分、配列番号13の8番目~10番目に位置する「RIL、Arg Ile Leu」、727番目~729番目に位置する「PRA、Pro Arg Ala」で表される部分でありうるが、これらに限定されない。
【0038】
本発明において前記ウイルスタンパク質は、好ましくはFc断片と融合(fusion)した形態で提供され得る。前記用語「融合(fusion)」は、化学的または遺伝的融合を全部含む意味であり、本発明では、好ましくは遺伝的融合を称する。前記「遺伝的融合」とは、タンパク質をコードするDNA配列の遺伝的発現を通じて形成された線形(linear)の共有結合からなる連結(link)を意味する。
【0039】
前記タグ用遺伝子は、一例としてAviタグ、Calmodulinタグ、polyglutamateタグ、Eタグ、FLAGタグ、HAタグ、Hisタグ、Mycタグ、Sタグ、SBPタグ、IgG-Fcタグ、CTBタグ、Softag 1タグ、Softag 3タグ、Strepタグ、TCタグ、V5タグ、VSVタグ、Xpressタグなどが含まれ得、前記IgG-Fcタグは、ヒト、マウス、ウサギまたは豚に由来したものでありうる。
【0040】
前記選別用マーカー遺伝子には、一例としてグリホサート(glyphosate)またはホスフィノスリシン(phosphinothricin)のような除草剤抵抗性遺伝子、カナマイシン(kanamycin)、G418、ブレオマイシン(Bleomycin)、ハイグロマイシン(hygromycin)、クロラムフェニコール(chloramphenicol)のような抗生剤耐性遺伝子、aadA遺伝子などが含まれ得、前記プロモーターには、一例としてpEMUプロモーター、MASプロモーター、ヒストンプロモーター、Clpプロモーター、カリフラワーモザイクウイルス(cauliflower mosaic virus)由来35Sプロモーター、カリフラワーモザイクウイルス(cauliflower mosaic virus)由来19S RNAプロモーター、植物のアクチンタンパク質プロモーター、ユビキチンタンパク質プロモーター、CMV(Cytomegalovirus)プロモーター、SV40(Simian virus 40)プロモーター、RSV(Respiratory syncytial virus)プロモーター、EF-1α(Elongation factor-1 alpha)プロモーターなどが含まれ得、前記ターミネーターは、一例としてノパリンシンターゼ(NOS)、稲アミラーゼRAmy1 Aターミネーター、パセオリンターミネーター、アグロバクテリウムツメファシエンスのオクトパイン(Octopine)遺伝子のターミネーター、大腸菌のrrnB1/B2ターミネーターなどであるが、前記例は、例示に過ぎず、これらに制限されない。
【0041】
本明細書において、前記「ベクター」は、図1に開示された構造 を有することができるが、これに制限されるものではない。
【0042】
本明細書において、前記「ベクター」は、好ましくは、配列番号13のアミノ酸配列を含む遺伝子であり、最も好ましくは、配列番号13で表されるアミノ酸配列からなるが、配列番号13の配列と80%以上、より好ましくは、90%以上、より好ましくは、95%以上の配列相同性を有するアミノ酸配列を含むことができる。
【0043】
また、前記アミノ酸配列は、配列番号12で表される遺伝子配列で暗号化されるものでありうるが、これに制限されるものではない。具体的に、前記遺伝子は、配列番号12の塩基配列と90%以上、より好ましくは、95%以上、最も好ましくは、98%以上の配列相同性を有する塩基配列を含むことができる。ポリヌクレオチドに対する「配列相同性の%」は、最適に配列された配列と比較領域を比較することによって確認され、比較領域でポリヌクレオチド配列の一部は、さらに配列の最適配列に対する参考配列(追加または削除を含まない)に比べて追加または削除(すなわち、ギャップ)を含むことができる。
【0044】
本明細書において、「形質転換(transformation)」とは、注入されたDNAにより生物の遺伝的な性質が変わることを総称し、「形質転換体(transgenic organism)」とは、分子遺伝学的方法で外部の遺伝子を注入して製造された生命体であり、好ましくは、本発明の組み換え発現ベクターにより形質転換された生命体であり、前記生命体は、微生物、真核細胞、昆虫、動物、植物など生命がある生物であれば、制限がなく、好ましくは、大腸菌、サルモネラ、バシラス、酵母、動物細胞、マウス、ラット、犬、猿、豚、馬、牛、アクロバクテリウムツメファシエンス、植物などであるか、これらに制限されない。
【0045】
本明細書において、「植物」は、タンパク質を大量生産できる植物であれば、制限なく使用できるが、より具体的には、タバコ、シロイヌナズナ、とうもろこし、稲、大豆、カノーラ、アルファルファ、ヒマワリ、モロコシ、小麦、木花、ピーナッツ、トマト、ジャガイモ、レタスおよび唐辛子よりなる群から選ばれるものであり得、好ましくは、タバコでありうる。本発明においてのタバコは、タバコ属(Nicotiana genus)植物であり、タンパク質を過発現できるものであれば、特にその種類が制限されず、形質転換方法とタンパク質大量生産の目的に合うように適切な品種を選択して本発明を実施することができる。例えばNicotiana benthamiana L.やNicotiana tabacum cv.xanthiなどの品種を用いることができる。
【0046】
前記形質転換体は、形質転換(transformation)、形質感染(transfection)、アグロバクテリウム(Agrobacterium)媒介形質転換方法、パーティクルガン衝撃法(particle gun bombardment)、超音波処理法(sonication)、電気穿孔法(electroporation)およびPEG(Polyethylen glycol)媒介形質転換方法などの方法で製造できるが、本発明のベクターを注入できる方法であれば制限がない。
【0047】
本明細書において、「溶解性(solubility)」とは、目的タンパク質またはペプチドが人体に投与するに適した溶媒に溶解できる程度を意味する。具体的には、特定の温度で与えられた溶媒に対して溶質が飽和した程度を示すものでありうる。溶解性は、溶質の飽和濃度を決定することによって測定することができ、例えば溶媒に溶質を過量で添加し、これを撹拌し、濾過した後、濃度をUV分光器またはHPLCなどを使用して測定することができるが、これに制限されるものではなく、高い溶解性は、組み換えタンパク質の分離精製に有利であり、組み換えタンパク質の凝集が抑制されて、組み換えタンパク質の生理活性または薬理的な活性を維持する長所を有する。
【0048】
本明細書において、「予防(prevention)」とは、本発明による組み換え豚流行性下痢ウイルスタンパク質の投与によって豚流行性下痢を抑制させたり発病を遅延させるすべての行為を意味する。
【0049】
本明細書において、「治療(treatment)」とは、本発明によるタンパク質の投与によって豚流行性下痢の症状が好転したり有益に変更されるすべての行為を意味する。
【0050】
本明細書において、「個体(individual)」とは、本発明の組み換え豚流行性下痢ウイルスタンパク質が投与され得る対象をいい、その対象には制限がない。
【0051】
本発明の「ワクチン組成物」は、それぞれ通常の方法によって散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、懸濁液、エマルジョン、シロップ、エアロゾルなどの経口型剤形および滅菌注射溶液の形態で剤形化して使用することができる。製剤化する場合には、通常使用する充填剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩解剤、界面活性剤などの希釈剤または賦形剤を使用して調製することができる。経口投与のための固形製剤には、錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤などが含まれ、このような固形製剤は、前記レシチン類似乳化剤に少なくとも1つ以上の賦形剤、例えば、デンプン、カルシウムカーボネート(calcium carbonate)、スクロース(sucrose)またはラクトース(lactose)、ゼラチンなどを混ぜて調製することができる。また、単純な賦形剤以外に、マグネシウムステアレート、タルクのような潤滑剤も使用できる。経口投与のための液状製剤としては、懸濁剤、内用液剤、乳剤、シロップ剤などを使用でき、頻繁に使用される単純希釈剤である水、リキッドパラフィン以外に、色々な賦形剤、例えば湿潤剤、甘味剤、芳香剤、保存剤などが含まれ得る。非経口投与のための製剤には、滅菌された水溶液、非水溶性製剤、懸濁剤、乳剤、凍結乾燥製剤が含まれる。非水溶性製剤、懸濁剤としては、プロピレングリコール(propylene glycol)、ポリエチレングリコール、オリーブオイルのような植物油、エチルオレートのような注射可能なエステルなどが使用できる。
【0052】
また、本明細書において、「免疫抗原補強剤(adjuvant)」とは、一般的に抗原に対する体液および/または細胞免疫反応を増加させる任意の物質を称する。これより、本発明のワクチン用組成物は、「免疫抗原補強剤(adjuvant)」をさらに含むことができる。前記免疫抗原補強剤としては、例えば、完全フロイントアジュバント(Complete Freund’s adjuvant,CFA)、不完全フロイントアジュバント(Incomplete Freund’s adjuvant,IFA)、ミョウバン、オイル、Lipid A、モノホスホリルリピドA、BCG(Bacillus-Calmette-Guerrin)等の細菌製剤、CpG-DNA、dsRNAなどの核酸、ツベルクリンなどの細菌成分製剤、キーホールリンペットヘモシアニンや酵母マンナンなどの天然高分子物質、ムラミルトリペプチドまたはムラミルジペプチドまたはそれらの誘導体、ミョウバン(alum)、非イオン性ブロックコポリマー、インターロイキン2(IL-2)や顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(Granulocyte Macrophage colony stimulating Factor,GM-CSF)、インターフェロン-α(IFN-α)、インターフェロン-β(IFN-β)等のサイトカインなどが挙げられ、これらの1種または2種以上を組み合わせて使用でき、本発明の一実施例では、IMS1313オイルアジュバントを使用した。
【0053】
本発明のワクチン組成物または薬学的組成物は、それぞれ通常の方法によって散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、懸濁液、エマルジョン、シロップ、エアロゾルなどの経口型剤形、外用剤、坐剤または滅菌注射溶液の形態で剤形化して使用できる。
【0054】
本発明によるワクチン組成物の投与経路は、これらに限定されるものではないが、口腔、静脈内、筋肉内、動脈内、骨髄内、硬膜内、心臓内、経皮、皮下、腹腔内、鼻腔内、腸管、局所、舌下または直腸が含まれる。経口または非経口投下が好ましい。本願に使用された用語「非経口」は、皮下、皮内、静脈内、筋肉内、関節内、滑液嚢内、胸骨内、硬膜内、病巣内および頭蓋骨内注射または注入技術を含む。本発明のワクチン組成物は、また、直腸投与のための坐剤の形態で投与され得る。
【0055】
本発明によるワクチン組成物または薬学的組成物の投与量は、個体の年齢、体重、性別、身体状態などを考慮して選択される。特別な副作用なく個体に免疫保護反応を誘導するのに必要な量は、免疫原として使用された組み換えタンパク質および賦形剤の任意存在によって多様になり得る。一般的に、それぞれの用量は、本発明の組み換えタンパク質の滅菌溶液ml当たり0.1~1000μgのタンパク質、好ましくは、0.1~100μgを含有する。ワクチン組成物の場合には、必要に応じて初期用量に引き続いて任意に繰り返された抗原刺激を行うことができる。
【0056】
本明細書において、「飼料組成物」は、本発明の組み換え豚流行性下痢ウイルスS1タンパク質を含む飼料であり、前記飼料としては、豚肉、牛肉、鶏肉などの副産物をはじめとして、とうもろこし、米、一般わら、野草、牧草、エンシレージ、乾草、山野草などがあるが、これらに制限されるものではなく、家畜の飼育に使用される飼料であれば制限がない。このような飼料に本発明の組み換え豚流行性下痢ウイルスS1タンパク質を添加して配合する方法としては、機械的混合、吸着、吸蔵などの方法があるが、これらに制限されるものではない。
【0057】
以下、本発明の理解を助けるために好ましい実施例を提示する。しかしながら、下記の実施例は、本発明をより容易に理解するために提供されるものに過ぎず、下記実施例によって本発明の内容が限定されるものではない。
【実施例
【0058】
実施例1:組み換え豚流行性下痢ウイルスS1タンパク質(PEDV-S1)植物発現ベクターの製造
図1のように植物体で豚流行性下痢ウイルスS1タンパク質を発現させることができるように、組換え植物発現ベクターを製作した。より詳しくは、豚流行性下痢ウイルスS1タンパク質に関する遺伝子情報を確保し、ニコチアナ・ベンサミアナ(Nicotiana benthamiana)での発現に最適化した配列で遺伝子(配列番号1)を合成した。pCAMBIA1300ベクターのCaMV 35Sプロモーター遺伝子とNOSターミネーター(terminator)との間にBiP(chaperone binding protein)信号ペプチド(signal peptide)をコードするポリヌクレオチド(配列番号2)、豚流行性下痢ウイルスS1タンパク質をコードするポリヌクレオチド(配列番号1)、豚の免疫グロブリンFc断片(porcine Fc fragment;pFc)のpFc2をコードするポリヌクレオチド(配列番号3)およびHDEL(His-Asp-Glu-Leu)ペプチドをコードするポリヌクレオチド(配列番号4)を順に連結して、豚流行性下痢ウイルスS1タンパク質植物発現ベクターを製作した。
【0059】
実施例2:組み換え豚流行性下痢ウイルスS1タンパク質の発現確認
2.1.植物発現ベクター一過性発現(transient expression)
前記の実施例1で準備した植物発現ベクターをアグロバクテリア菌株LBA4404に電気穿孔法(Electroporation)を用いて形質転換させた。形質転換されたアグロバクテリアを5mlのYEP(Yeast Extract Peptone)液体培地(酵母抽出物10g、ペプトン10g、NaCl 5g、カナマイシン50mg/L、リファンピシン25mg/L)で28℃の条件で16時間振とう培養した後、1次培養液1mlを50mlの新しいYEP培地に接種して28℃の条件で6時間振とう培養した。このように培養されたアグロバクテリアは、遠心分離(7,000rpm、4℃5分)して収集した後、インフィルトレーション(Infiltration)バッファー(10mMのMES(pH5.7)、10mMのMgCl、200μMのアセトシリンゴン)に600nmの波長でO.D.1.0の濃度でさらに懸濁させた。アグロバクテリア懸濁液は、注射針を除去した注射器を用いてニコチアナ・ベンサミアナ葉の裏面に注入する方法でアグロインフィルトレーション(Agro-infiltration)を行った。
【0060】
2.2.植物体で組み換え豚流行性下痢ウイルスS1タンパク質の発現確認
前記の実施例2.1で準備した植物葉からタンパク質を抽出して遠心分離した後に、溶液に含まれている水溶性分画(S)にあるタンパク質とペレット(pellet;P)分画にあるタンパク質をウェスタンブロットで確認した。より詳しくは、各分画30μLをSDS試料バッファーと混合した後に加熱した。そして、10%SDS-PAGEゲルに電気泳動してサイズ別にタンパク質を分離し、分離したタンパク質をPVDF膜に移動させた後に、5%スキムミルク(skim milk)を用いてブロッキング段階を経た後に、pFc2を認識するanti-pig secondary antibodyを結合させ、ECL溶液を製造社で提供する方法によって処理して、組み換え豚流行性下痢ウイルスS1タンパク質の発現を確認した。その結果は図2に示した。
【0061】
図2に示されたように、発現した組み換え豚流行性下痢ウイルスS1タンパク質の大部分が水溶性分画に存在することを確認した。
【0062】
前記結果を通じて、本発明の組み換え豚流行性下痢ウイルスS1タンパク質発現用ベクターは、植物体で組み換え豚流行性下痢ウイルスS1タンパク質を効果的に発現させることができ、前記ベクターを用いて製造された組み換え豚流行性下痢ウイルスS1タンパク質は、高い溶解性(solubility)を有しているので、分離精製が容易であり、組み換えタンパク質の凝集が抑制されて、組み換えタンパク質の生理活性または薬理的な活性を維持するのに効果的であることを確認することができた。
【0063】
実施例3:組み換え豚流行性下痢ウイルスS1タンパク質の分離精製
前記の実施例2.1で準備したニコチアナ・ベンサミアナ40gにタンパク質抽出溶液(50mMのTris(pH7.2)、150mMのNaCl、0.1%Triton X-100、1Xタンパク質加水分解酵素阻害剤(protease inhibitor))200mLを添加し、ブレンダで組織を破砕した後、13,000rpmで20分間4℃で遠心分離してタンパク質抽出液を回収した。発現した組み換え豚流行性下痢ウイルスタンパク質の分離精製のために、protein A-sepharoseレジンが充填されたカラムで親和クロマトグラフィーを実施した。カラムにレジンを5mL充填した後、洗浄溶液(50mMのTris(pH7.2)、150mMのNaCl)50mLで平衡化させた。回収したタンパク質抽出液をカラムに適用した後、洗浄溶液100mLを流してレジンを洗浄し、溶出溶液(0.1Mのsodium citrate(pH 3.0)、150mMのNaCl)で組み換えタンパク質を溶出し、中和溶液(1MのTris(pH9.0))を添加してタンパク質溶出液を中和させた。組み換えタンパク質が含まれた溶出溶液は、30kDの大きさのフィルターを使用して生理食塩水(PBS)溶液に交換および濃縮を実施して、分離精製された組み換え豚流行性下痢ウイルスタンパク質を獲得した。分離精製されたタンパク質は、タンパク質電気泳動(SDS-PAGE)後、クマシー染色法(coomassie staining)を通じて確認した(図3)。
【0064】
図3に示されたように、約120Kdの大きさを有する組み換えタンパク質が精製されたことを確認した。
【0065】
本発明の組み換えタンパク質は、従来のタンパク質との大きな差異なしに良好に精製された。このような結果は、タンパク質を植物で発現させる場合、糖構造が変異されて生産効率が低下する問題点が発見されていないことを確認したのであり、本発明によるタンパク質が植物で良好に生産されることを確認した結果である。
【0066】
実施例4:植物発現豚流行性下痢ウイルスS1タンパク質の免疫原性の確認
組み換え豚流行性下痢ウイルスS1タンパク質抗原が生体内で抗体を誘導して免疫原性を有するかを確認するために、各グループ当たり5匹ずつの6週齢の雌ギニアピッグを用いて実験を進めた。より詳しくは、陰性対照群は、生理食塩水を投与し、陽性対照群は、市販の豚流行性下痢ワクチン(中央ワクチン)を投与し、実験群は、組み換え豚流行性下痢ウイルスS1タンパク質を1回当たり150μgずつ3週間隔で2回皮下で投与した。抗原の投与時には、同量のIMS1313 adjuvant(SEPPIC)を混ぜて注射した。血液は、抗原の投与前と2次投与後2週目後に頚静脈または心臓から採取後、血清を分離して、-20℃に冷凍保管した。各血清で豚流行性下痢ウイルスS1タンパク質に対する特異抗体の生成は、His tagが融合したPEDV-S1組み換えタンパク質がコートされたエライザ(ELISA)プレートを用いて確認し、その結果は、図4に示した。
【0067】
図4に示されたように、抗原非投与群の血清では、組み換え豚流行性下痢ウイルスS1タンパク質に対する反応性が全く観察されなかったが、市販のワクチンまたは組み換え抗原タンパク質を2回投与した群の血清では、豚流行性下痢ウイルスS1タンパク質に対して反応性を示すことを確認し、市販のワクチン投与群に比べて組み換え抗原タンパク質を投与した群が相対的にさらに高い特異抗体生成率を示すことを確認した。
【0068】
実施例5:血中の中和抗体価の確認
前記の実施例4で準備した血清で組み換え抗原タンパク質の投与で形成された血中抗体が豚流行性下痢ウイルス中和能を有するかを確認した。より詳しくは、中和抗体の試験には、PEDV QIAP1401 strainウイルスとVero cellを感染宿主として使用した。採血された血液の血清を分離して57℃で30分間不活性化した後、10ug/mlのtrypsinが含有されたMEM(Minimum Essential Media Eagle)培地で2倍希釈した。各希釈血清に316 TCID50/0.1mlのPEDVウイルスを同量混合して、37℃で90分間中和させた。培養が終わる直前に、96ウェルプレートにモノレイヤ状態で準備したVero cellをPBSで3回洗浄後、血清-ウイルス混合液100μlを添加後、37℃で2時間培養した。培養が終わった後、2μg/mlのトリプシンが添加された培地を100μl添加後、37℃で細胞変性効果(CPE)が現れるまで3日~5日間培養した。中和抗体の力価は、CPEが現れる直前にウェルの血清希釈倍数を顕微鏡下で観察して測定した(表1)。
【0069】
その結果、組み換えPEDV-S1抗原タンパク質による中和抗体価が、平均16.0(Log2)、市販ワクチンによる中和抗体価が、7.2(Log2)であって、組み換えPEDV-S1抗原タンパク質による中和抗体価の形成がさらに高いことが分かった。
【0070】
【表1】
【0071】
前記結果を通じて、本発明の組み換え豚流行性下痢ウイルスS1タンパク質は、植物体でも効果的に発現するだけでなく、高い水溶解性を有していて、分離および精製が容易であり、また、体内で抗原として作用して高い免疫原性およびウイルス中和能を示すので、新規の豚流行性下痢のワクチン組成物として使用可能であることを確認することができた。
【0072】
以下、本発明の薬学的組成物および飼料組成物の製剤例を説明するが、これは、本発明を限定しようとするものでなく、単に具体的に説明しようとするものである。
【0073】
製剤例1.薬学的組成物の製造
1.1.散剤の製造
【0074】
【表2】
【0075】
前記の成分を混合し、気密袋に充填して、散剤を製造する。
【0076】
1.2.錠剤の製造
【0077】
【表3】
【0078】
前記の成分を混合した後、通常の錠剤の製造方法によって打錠して、錠剤を製造する。
【0079】
1.3.カプセル剤の製造
【0080】
【表4】
【0081】
通常のカプセル剤の製造方法によって前記の成分を混合し、ゼラチンカプセルに充填して、カプセル剤を製造する。
【0082】
1.4.注射剤の製造
【0083】
【表5】
【0084】
通常の注射剤の製造方法によって1アンプル当たり(2ml)前記の成分含量で製造する。
【0085】
1.5.液剤の製造
【0086】
【表6】
【0087】
通常の液剤の製造方法によって精製水にそれぞれの成分を加えて溶解させ、レモン香を適正量加えた後、前記の成分を混合した後、精製水を加えて全体を100mLに調節した後、茶色瓶に充填して滅菌させて、液剤を製造する。
【0088】
製剤例2.飼料組成物の製造
【0089】
【表7】
【0090】
通常の飼料の製造方法によって前記成分を混合して、飼料を製造する。
【0091】
上述した本発明の説明は例示のためのもので、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者は、本発明の技術的思想や必須的な特徴を変更することなく、他の具体的な形態に容易に変形が可能であることが理解できる。したがって、以上で記述した実施例は、全ての面において例示的なものであり、限定的ではないものと理解すべきである。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明の組み換え豚流行性下痢ウイルスS1タンパク質は、植物体でも効果的に発現するだけでなく、高い水溶解性を有していて、分離および精製が容易であり、また、体内で抗原として作用して高い免疫原性およびウイルス中和能を示すので、多様な分野において幅広く使用可能なもものと期待される。また、体内で顕著な免疫原性およびウイルス中和能を示すので、新規の豚流行性下痢ワクチン組成物として使用可能なものと期待されるところ、産業上の利用可能性がある。
図1
図2
図3
図4
【配列表】
0007291973000001.app