(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-08
(45)【発行日】2023-06-16
(54)【発明の名称】熱交換器用部材、熱交換器、冷却システム
(51)【国際特許分類】
F28F 19/02 20060101AFI20230609BHJP
F28F 13/02 20060101ALI20230609BHJP
F28F 13/18 20060101ALI20230609BHJP
F28F 1/40 20060101ALI20230609BHJP
F28F 21/02 20060101ALI20230609BHJP
H01L 23/427 20060101ALI20230609BHJP
【FI】
F28F19/02 501D
F28F13/02 A
F28F13/18 B
F28F1/40 Z
F28F21/02
H01L23/46 A
(21)【出願番号】P 2022508188
(86)(22)【出願日】2021-03-02
(86)【国際出願番号】 JP2021007930
(87)【国際公開番号】W WO2021187088
(87)【国際公開日】2021-09-23
【審査請求日】2022-02-02
(31)【優先権主張番号】P 2020046008
(32)【優先日】2020-03-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】512051550
【氏名又は名称】株式会社 山一ハガネ
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】弁理士法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田島 秀春
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼川 資起
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 智子
【審査官】河野 俊二
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-503432(JP,A)
【文献】特開2019-167622(JP,A)
【文献】特開2015-169411(JP,A)
【文献】特開2010-034089(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0269065(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0112379(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F28F 19/02
F28F 13/02
F28F 13/18
F28F 1/40
F28F 21/02
H01L 23/427
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属からなる金属素地と、前記金属素地上に設けられ、結晶質炭素が含有された金属酸化膜と、を備えており、熱交換器に用いられる熱交換器用部材であって、
前記金属酸化膜は、前記熱交換器が稼働する際に冷媒に接触する面に突起部が設けられており、
上記突起部の頂点の平均間隔が20nm以上80nm以下であり、
隣接する突起部の頂点の高さの平均値が10nm以上70nm以下であって、
且つ前記平均高さを平均間隔で割った値であるアスペクト比が1未満であり、
前記金属素地に対する冷媒の濡れ性よりも、前記突起部が設けられた前記金属酸化膜に対する冷媒の濡れ性が高いことを特徴とする熱交換器用部材。
【請求項2】
前記金属酸化膜の表面から3~5nmの範囲に含有されている結晶質炭素の含有比率が20at%以上40at%以下あることを特徴とする請求項1に記載の熱交換器用部材。
【請求項3】
上記金属酸化膜の厚さが100nm以上300nm以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の熱交換器用部材。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の熱交換器用部材が設けられていることを特徴とする熱交換器。
【請求項5】
請求項4の熱交換器が設けられていることを特徴とする冷却システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属表面にこの金属固有の特性以外の特性が付与されている水より冷却効果を有する冷媒を用いる熱交換器用部材及びこの部材を含む機器に関する。
【背景技術】
【0002】
冷媒を用いる冷却システムは、稼働時に冷媒がシステム内を循環しており、冷却部では対象物が熱交換器内に流れる冷媒の気化により冷却され、放熱部の熱交換器では冷媒が外気等により冷却され液化される。上記冷却システムにおいては、放熱部の熱交換器において、外部に熱を放出して冷媒を液化させる効率(以降、液化効率という)や、冷却部の熱交換器内で冷媒を気化させ熱を奪う効率(以降、気化効率という)、及び管内を流れる冷媒の圧力損失により、設置制限が生じるシステムの大きさや、冷媒を循環させるポンプの消費エネルギーが決まる。
【0003】
一方、近年においては、半導体デバイスが処理する情報量や速度は一層増しており、その対策としての高集積化は対応する冷却システムの設置の制限や消費電力の増大を生じさせる。
そのため、冷却システム設置の自由度や消費エネルギーの低減のために、液化効率や気化効率や圧力損失低減に関する技術が検討されている。このような技術は、例えば特許文献1に開示されている。
【0004】
特許文献1には、冷却システム中に気液分離部を追加することで、冷却部の気化効率や放熱部の液化効率を高める方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の技術では、冷却システムに別途に気液分離部を増設する必要があり、冷却システムの設置を制限すると共に、コストが大きく増加するという問題があった。
【0007】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、冷却部や放熱部に用いられる熱交換器の冷媒と接触する金属の表面に、熱伝導性に優れ、且つ冷媒との濡れ性に優れる被膜で金属自体にはない特性を付与し、高効率な熱交換機用部材、熱交換器、熱交換器、冷却システムを実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明の熱交換器用部材は、前記熱交換器用部材によって作られた熱交換器が稼働する際、冷媒に接触する面を持つ金属からなる熱交換器用部材であって、前記面に突起が設けられ結晶質炭素が含有された金属酸化膜を有し、前記突起部の頂点の平均間隔が20nm以上80nm以下であり、隣接する突起部の頂点の高さの平均値が10nm以上70nm以下であり、且つ前記平均高さを平均間隔で割った値であるアスペクト比が1未満である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、熱交換器用部材に熱交換器の液化及び気化効率が向上する機能を付加できる効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施形態1に係る熱交換器用部材を用いた半導体冷却システムを示す模式図である。
【
図2】本発明の実施形態1に係る熱交換器用部材を示す図である。
【
図4】本発明の実施形態1に係る熱交換器用部材の冷媒接触面のAFM観察結果である。
【
図5】本発明の実施形態1を作製するための設備を示す図である。
【
図6】本発明の実施形態1を作製するための負荷電解密度のタイムチャートを示す図である。
【
図7】本発明の実施形態1の液化試験を示す図である。
【
図9】本発明の実施形態1に対する比較例のSEM斜視図である。
【
図10】本発明の実施形態2に係る熱交換器用部材を示す図である。
【
図12】本発明の実施形態2に係る熱交換器用部材の冷媒接触面のAFM観察結果である。
【
図13】本発明の実施形態2を作製するための設備を示す図である。
【
図14】本発明の実施形態2を作製するための負荷電解密度のタイムチャートを示す図である。
【
図15】本発明の実施形態2の冷却試験を示す図である。
【
図16】本発明の実施形態2のSEM斜視図である。
【
図17】本発明の実施形態2に対する比較例のSEM斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
〔実施形態1〕
以下に、本発明の実施形態について、
図1~
図9に基づいて説明する。
【0012】
<部材が組み込まれた半導体冷却システムの構成>
図1は、半導体冷却システム100を示す模式図である。半導体冷却システム100は、冷却部(熱交換器)110、放熱部(熱交換器)120、圧縮機130、膨張弁140等からなる。
【0013】
放熱部120は熱交換器121とファン122からなり、熱交換器121の内部で冷媒が液化する際に放出される熱はファン122によってシステム外部に放出される。本発明の熱交換器用部材は、熱交換器121を構成する部材を意味する。以降の説明では、熱交換器用部材は内部で冷媒が液化する管である熱交換器121を構成する部材として説明する。
【0014】
<部材の構成>
図2及び
図2のa-a断面図である
図3は、本発明の熱交換器用部材の具体的例である熱交換器121を構成する管を示す図である。
図3に示すように、管を形成する主要材料(アルミニウム、ステンレス、銅等)からなる金属素地121A上に微細突起121Bが設けられた結晶質炭素含有酸化膜121Cを備えている。この微細突起121Bを有する結晶質炭素含有酸化膜121Cは、結晶質炭素が含有された金属酸化膜であり、熱交換器121において気体となっている冷媒と接触する管内面と冷媒の濡れ性を高めると共に、含有された結晶質炭素の高い熱伝導率により、冷媒を冷却する効率を向上する機能を付与する。
【0015】
管は、アルミニウム管やステンレス管、又は銅管等の金属管からなる。管の肉厚や長さは特に定められるものでなく、使用目的に応じて適宜決定される。
【0016】
結晶質炭素含有酸化膜121Cは、結晶質炭素が含有された金属素地材料と同じ又は同様の金属の酸化物である。この結晶質炭素含有酸化膜121Cの膜厚は10nm~300nmであれば良い。さらに、この結晶質炭素含有酸化膜121Cの膜厚は、含有される結晶質炭素類の熱伝導性を活用し、液化効率を向上させるために、100nm~300nmが好ましい。この炭素含有酸化膜121Cに含有される炭素の含有比率は、表面(金属素地121Aと接触する面の反対面)から3nm~5nmの地点で5at%~50at%であれば良い。さらに、この炭素含有酸化膜121Cに含有される結晶質炭素の含有比率は、結晶質炭素が含有されたことによって付与される特性を備えさせ、且つ皮膜の強度を保つために、表面から3nm~5nmの地点で8at%~40at%が好ましい。
【0017】
結晶質炭素含有酸化膜121Cに含有される結晶質炭素は、カーボンナノチューブやフラーレンやグラフェン等が、熱伝導を高めるために好ましい。
【0018】
微細突起121Bは、結晶質炭素含有酸化膜121Cの表面(金属素地121Aと接触する面の反対面)に設けられており、微細突起121Bの隣接する頂点の平均間隔が20nm以上80nm以下で、突起の頂点の高さの平均値が10nm以上70nm以下であって、且つ前記平均高さを平均間隔で割った値であるアスペクト比が1未満であれば良い。
さらに、この微細突起121Bは、より高い冷媒との濡れ性を付与するため、微細突起121Bの隣接する頂点の平均間隔が25nm以上65nm以下で、突起の頂点の高さの平均値が15nm以上55nm以下であって、且つ前記平均高さを平均間隔で割った値であるアスペクト比が0.83未満であることがより好ましい。
【0019】
以下に、
図5~
図8に基づき実施形態1に係る実施例を説明する。実施例における熱交換器121は、外径8mm(内径6mm)×220mmのアルミニウム管から作製される。このアルミニウム管(金属素地121A)の内面に、微細突起121Bのある結晶質炭素含有酸化膜121Cを設けるために以下の処理を行った。
【0020】
先ず、このアルミニウム管(金属素地121A)を、エタノールにて浸漬脱脂(浸漬時間:30分)する。その後、処理液301が入った浴槽300に、
図5に示すように、電気回路400に接続したアルミニウム管と、アルミニウム管の内部に、電気回路400に接続したSUS304製電極404をアルミニウム管の内面に接触しないようにして挿入した状態で浸漬する。浴槽300内の処理液301は、水酸化ナトリウムと、精製水中に分散剤により分散された0.2%のシングルウォールカーボンナノチューブ分散液を、それぞれ濃度0.85g/l、1.35ml/lとなるように精製水に添加し、液温が30℃となるように温度調整されている。
【0021】
その後、
図6に示す矢印の方向に電流が流れる場合を+方向の電流とした場合、
図6に示すようなパターンで、整流器401と整流器402と切り替えスイッチ403により、アルミ管に電圧を負荷した。
【0022】
最後に、水洗し、恒温槽内で乾燥(80℃ 30分)を行う。このようにして、アルミニウム管(金属素地121A)の表面に結晶質炭素含有酸化膜121Cを200nm設けると同時に、結晶質炭素含有酸化膜121Cの表面に隣接する微細突起121Bの頂点の平均間隔が61nmで、微細突起121Bの高さの平均値が50nmである微細突起121Bを設け(
図4)、熱交換器121とした。
【0023】
<実証試験>
ここで、放熱部における熱交換器に求められている特性について説明する。放熱部における熱交換器は、冷却部で気化し、圧縮機で高温高圧となったガス状態の冷媒から熱を奪って外部へ放熱することで冷媒を液化させる。その時、システム内を冷媒が循環できるようにすべて液化する必要がある。そのため、熱交換器の冷媒が接触する単位面積当たりの液化効率が悪ければ、当然熱交換器のサイズが大きなものとなってしまい、冷却システムの設置を制限すると共に、コストが大きく増加する。
【0024】
さらに、一般に半導体の冷却システムは冷却部より放熱部が大きいため、ユニット全体の大きさやコストに前記液化効率は影響する。そのため、放熱部の熱交換器では、液化効率を向上させることが求められていた。
【0025】
本発明の熱交換を構成する管では、冷媒(フルオロカーボンなどのいわゆるフロン類やメチルノナフルオロブチルエーテルとメチルノナフルオロイソブチルエーテルの混合物等)との濡れ性を示す接触角が非常に小さくできる。例えば、アルミの場合、本発明に係る構造にすることで、接触角を未処理の4.18°から0.67°にすることができるので冷媒が流れ回収しやすい。また、本発明に係る構造では、カーボンナノチューブ等の熱伝導性に優れる結晶質炭素が含有されているため、熱交換性に優れる。そのため、本発明の熱交換器は、液化効率に優れる。
【0026】
図2~
図4、
図8に示す本発明の熱交換器121(冷媒との接触角0.67°結晶質炭素の含有率10%(表面から5nm地点))と、内面が
図9であった比較用の本発明と同じ形状の未処理のアルミ管からなる熱交換器522(冷媒との接触角4.18°結晶質炭素の含有率0%(表面から5nm地点))を、共に
図7に示す液化特性評価機500の恒温槽510内の設置した冷媒が内封された冷媒容器531と532に接続されているシリコンチューブ541、542に、
図7に示すように恒温槽510の外部で接続し設置する。
【0027】
その後、恒温槽510内を70℃となるように稼働させることで冷媒容器531,532内の冷媒を蒸発させ、各熱交換器121,522内に気化した冷媒を導入し、室温(15℃)で冷却され液化した冷媒を、回収容器551,552で回収し、液化した重量を測定し、冷媒容器531,532に入れた冷媒の重量でそれぞれを割ることで、液化効率を導出した。
【0028】
結果、本発明の熱交換器121では、液化効率が71.1%となり、比較用の未処理熱交換器522の液化効率59.8より向上していることが確認された。
【0029】
なお、本実施例では、表面に微細突起121Bを有する結晶質炭素含有酸化膜121Cを形成するために、上記条件での湿式での電解処理を用いたが、これに限られるものではなく、他の条件や他の処理法(カーボンナノチューブを含有した金属酸化物ターゲットを用いたスパッタやゾルゲル法等)により、形成しても良い。ただし、湿式での電解処理は、他の処理法よりコストの点で優れる。
【0030】
このように、本発明の熱交換器121(熱交換器用部材でもある)は、従来の気液分離部追加等の機構の追加する機構に比べて、冷却システム全体のサイズを小さくでき、設置制限を緩和すると共に、大きな変更を伴わないため、冷却システムに関連する箇所の変更が不要となるためコスト増加を抑制できるという効果を奏する。
【0031】
また、本発明の実施形態1は、熱交換器121を構成するようなパイプ形状の部材に限られるものではなく、熱交換器内部に設けられる冷媒を冷却するための隔壁を構成する部材や内部フィン等の部材であっても良く、いずれの場合も、熱交換器121を構成する部材と同様の効果を奏する。
【0032】
また、上記熱交換器121を構成する部材や上述の熱交換器内部に設けられる冷媒を冷却するための隔壁を構成する部材や内部フィン等の部材で構成される熱交換器は、当然のことながら熱交換器121同様の効果を奏する。
【0033】
さらに、本発明の実施形態の部材で構成された熱交換器が設けられている冷却システムも、上記熱交換器121と同様の効果を奏することは明らかであるので、冷却システム全体のサイズを小さくでき、設置制限を緩和すると共に、大きな変更を伴わないため、冷却システムに関連する箇所の変更が不要となるためコスト増加を抑制できるという効果を奏する。
【0034】
〔実施形態2〕
以下に、本発明の実施形態について、
図10~
図17に基づいて説明する。
【0035】
<部材が組み込まれた半導体冷却システムの構成>
図1は、半導体冷却システム100を示す模式図である。半導体冷却システム100は、冷却部110、放熱部120、圧縮機130、膨張弁140等からなる。
【0036】
冷却部110は熱交換器111と半導体150からなり、熱交換器111の内部で冷媒が気化する際に半導体150で発生した熱が奪われ、半導体150は冷却される。本発明の熱交換器用部材は、熱交換器111を構成する部材を意味する。以降の説明では、熱交換器用部材は内部で冷媒が気化する管である熱交換器111を構成する部材として説明する。
【0037】
<部材の構成>
図10及び
図10のa-a断面図である
図11は、本発明の熱交換器用部材の具体的例である熱交換器111を構成する管を示す図である。
図11に示すように、管を形成する主要材料(銅、アルミニウム、ステンレス等)からなる金属素地111A上に微細突起111Bが設けられた結晶質炭素含有酸化膜111Cを備えている。この微細突起111Bを有する結晶質炭素含有酸化膜111Cは、結晶質炭素が含有された金属酸化膜であり、熱交換器111において、液体となっている冷媒と接触する管内面と冷媒の濡れ性を高め、冷却時に冷媒の気化が生じ始めても、冷媒との接触面積を増加させ、更に含有された高い熱伝導率を有する結晶質炭素が熱伝導率を向上させるので、冷媒に対して、半導体150から熱交換器111を通して伝わる熱を伝達する効率(気化効率)を向上する機能を付与する。
【0038】
管は、銅管やアルミニウム管、又はステンレス管等の金属管からなる。管の肉厚や長さは特に定められるものでなく、使用目的に応じて適宜決定される。
【0039】
結晶質炭素含有酸化膜111Cは、結晶質炭素が含有された金属素地材料と同じ又は同様の金属の酸化物である。この結晶質炭素含有酸化膜111Cの膜厚は10nm~300nmであれば良い。さらに、この結晶質炭素含有酸化膜111Cの膜厚は、含有される結晶質炭素類の熱伝導性を活用し、気化効率(=半導体からの熱を冷媒に伝達する効率)を向上させるために、100nm~300nmが好ましい。この炭素含有酸化膜121Cに含有される炭素の含有比率は、表面(金属素地121Aと接触する面の反対面)から3nm~5nmの地点で5at%~50at%であれば良い。さらに、この炭素含有酸化膜121Cに含有される結晶質炭素の含有比率は、結晶質炭素が含有されたことによって付与される特性を備えさせ、且つ皮膜の強度を保つために、表面から3nm~5nmの地点で8at%~40at%が好ましい。
【0040】
結晶質炭素含有酸化膜111Cに含有される結晶質炭素は、カーボンナノチューブやフラーレンやグラフェン等が、熱伝導を高めるために好ましい。
【0041】
微細突起111Bは、結晶質炭素含有酸化膜111Cの表面(金属素地111Aと接触する面の反対面)に設けられており、微細突起111Bの隣接する頂点の平均間隔が20nm以上80nm以下で、突起の頂点の高さの平均値が10nm以上70nm以下であって、且つ前記平均高さを平均間隔で割った値であるアスペクト比が1未満であれば良い。
さらに、この微細突起111Bは、より高い冷媒との濡れ性を付与するため、微細突起111Bの隣接する頂点の平均間隔が25nm以上65nm以下で、突起の頂点の高さの平均値が15nm以上55nm以下であって、且つ前記平均高さを平均間隔で割った値であるアスペクト比が0.83未満であることがより好ましい。
【0042】
以下に、
図13~
図16に基づき実施形態2に係る実施例を説明する。実施例における熱交換器111は、
図15示すような中央にφ5mmの貫通穴が空いた長さ50mmの11mm銅角棒から作製される。この銅角棒(金属素地111A)のφ5mmの穴の表面に、微細突起111Bのある結晶質炭素含有酸化膜111Cを設けるために以下の処理を行った。
【0043】
先ず、この銅角棒(金属素地111A)を、エタノールにて浸漬脱脂(浸漬時間:30分)する。その後、処理液701が入った浴槽700に、
図13に示すように、電気回路600に接続した銅角棒と、銅角棒の内部に、電気回路600に接続したSUS304製電極604を銅角棒にあけられた穴の内面に接触しないようにして挿入した状態で浸漬する。浴槽700内の処理液701は、水酸化ナトリウムと、精製水中に分散剤により分散された0.2%のシングルウォールカーボンナノチューブ分散液を、それぞれ濃度0.85g/l、1.35ml/lとなるように精製水に添加し、液温が30℃となるように温度調整されている。
【0044】
その後、
図14に示す矢印の方向に電流が流れる場合を+方向の電流とした場合、
図14に示すようなパターンで、整流器601と整流器602と切り替えスイッチ603により、アルミ管に電圧を負荷した。
【0045】
最後に、水洗し、恒温槽内で乾燥(80℃ 30分)を行う。このようにして、銅角棒(金属素地111A)の表面に結晶質炭素含有酸化膜111Cを150nm設けると同時に、結晶質炭素含有酸化膜111Cの表面に隣接する微細突起111Bの頂点の平均間隔が30.0nmで、微細突起111Bの高さの平均値が16.4nmである微細突起111Bを設け(
図12)、熱交換器111とした。
【0046】
<実証試験>
ここで、冷却部における熱交換器に求められている特性について説明する。冷却部における熱交換器は、放熱部で液化し、膨張弁を通って低温低圧となった液体状態の冷媒が冷却する対象の半導体から発生する熱を受けて気化することで冷却する。その時、半導体で発生する熱を効率的に奪えないと半導体の温度が上昇し、ついには破壊される。一方、半導体は近年益々高集積化が進んでおり、そのため、作動時に発生する熱量はますます増加している。そのため、冷媒を気化させ熱を奪う効率(以降、気化効率という)を高めるシステム内を冷媒が循環できるようにすべて液化する必要がある。そのため、熱交換器の冷媒が接触する単位面積当たりの液化効率が悪ければ、当然熱交換器のサイズが大きなものとなってしまい、冷却システムの設置を制限すると共に、コストが大きく増加する。
【0047】
さらに、一般に半導体の冷却システムは冷却部より放熱部が大きいため、ユニット全体の大きさやコストに前記気化効率は影響する。
そのため、冷却部の熱交換器では、冷媒を気化させ熱を奪う効率(気化効率)、すなわち冷媒への熱伝達率を高めることが求められていた。
また、より高集積化が進むと半導体で発生する熱により、冷媒が半導体の直前で気化してしまい冷媒をいくら流しても冷却が不可となるバーンアウトが発生するため、半導体の集積化に限界を生じさせる要因となっていた。このため、熱伝達率と共にバーンアウトが生じる限界熱流束を高めることが求められていた。
【0048】
本発明の熱交換器111を構成する角棒における穴の内面では、冷媒(フルオロカーボンなどのいわゆるフロン類やメチルノナフルオロブチルエーテルとメチルノナフルオロイソブチルエーテルの混合物等)との濡れ性を示す接触角が非常に小さくできる。例えば、銅の場合、本発明に係る構造にすることで、接触角を未処理の5.72°から1.77°にすることができるので冷媒の気化が始まってもより広い面積で冷媒と穴内面が接触するため、熱の伝達が効率的になる。また、本発明に係る構造では、カーボンナノチューブ等の熱伝導性に優れる結晶質炭素が含有されているため、更に熱交換性が高まる。そのため、本発明の熱交換器は、気化効率(熱伝達率)に優れる。
【0049】
図10~
図12、
図16に示す本発明の熱交換器111(冷媒との接触角1.77° 結晶質炭素の含有率12%(表面から5nm地点))と、内面が
図17であった比較用の本発明と同じ形状の未処理の銅角棒からなる熱交換器911(冷媒との接触角5.72° 結晶質炭素の含有率0%(表面から5nm地点))を、交互に
図15に示す気化特性評価機800の計測部に設置し、設置した熱交換器111,911の上面に半導体に見立てたセラミックヒーター151又は152を乗せる。
【0050】
その後、気化特性評価機800のポンプを稼働させ、冷媒を気化特性評価機内で循環させた上で、上記セラミックヒーターの出力を上げていき、各部の温度を測定することで、本発明の熱交換器111と比較用の未処理熱交換器911の冷媒に対する熱伝達率と限界熱流束を導出した。
【0051】
結果、本発明の熱交換器111では、熱伝達率が6.72W/(m2K)、限界熱流束が4.47W/m2となり、比較用の未処理熱交換器911の熱伝達率5.82W/(m2K)、限界熱流束4.32W/m2よりいずれも向上していることが確認された。
【0052】
なお、本実施例では、表面に微細突起111Bを有する結晶質炭素含有酸化膜111Cを形成するために、上記条件での湿式での電解処理を用いたが、これに限られるものではなく、他の条件や他の処理法(カーボンナノチューブを含有した金属酸化物ターゲットを用いたスパッタやゾルゲル法等)により、形成しても良い。ただし、湿式での電解処理は、他の処理法よりコストの点で優れる。
【0053】
このように、本発明の熱交換器111(熱交換器用部材でもある)は、従来の冷媒との接触面に処理を行っていない熱交換器911に比べて、熱伝達率(気化効率)が優れるので冷却システム全体のサイズを小さくでき、設置制限を緩和すると共に、限界熱流束も向上するので、半導体の集積化限界を更新することができるという効果を奏する。
【0054】
また、本発明の実施形態2は、熱交換器111を構成するような穴あき角棒状の部材に限られるものではなく、熱交換器内部に設けられる冷媒を気化させるための隔壁を構成する部材や内部フィン等の部材であっても良く、いずれの場合も、熱交換器111を構成する部材と同様の効果を奏する。
【0055】
また、上記熱交換器111を構成する部材や上述の熱交換器内部に設けられる冷媒を気化させるための隔壁を構成する部材や内部フィン等の部材で構成される熱交換器は、当然のことながら熱交換器111同様の効果を奏する。
【0056】
さらに、本発明の実施形態の部材で構成された熱交換器が設けられている冷却システムも、上記熱交換器111と同様の効果を奏することは明らかであるので、冷却システム全体のサイズを小さくでき、設置制限を緩和すると共に、大きな変更を伴わないため、冷却システムに関連する箇所の変更が不要となるためコスト増加を抑制できる上に、半導体の集積化限界を更新することができるという効果を奏する。
【0057】
なお、本発明の実施形態となる部材(管)の内面は、冷却システム内の液体と気体が混合した状態で冷媒が循環する場合の圧力損失を低減することができ、例えばステンレス管の内面を実施例1,2で行った処理を施すことで、圧力損失を未処理の場合に比べて、気体と液体の体積混合比が30%の時に37%低減できることを確認している。
【0058】
従い、冷媒を循環させるためのポンプの消費エネルギーを低減できるという効果を奏する。
【0059】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。さらに、各実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を組み合わせることにより、新しい技術的特徴を形成することができる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明は、液化特性及び/または気化特性向上が必要とされる熱交換器用部材に利用することができる。
【符号の説明】
【0061】
100…半導体冷却システム
121…熱交換器(放熱部)
121A…金属素地
121B…微細突起
121C…結晶質炭素含有酸化膜(金属酸化膜)
300…浴槽
400…電気回路