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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-08
(45)【発行日】2023-06-16
(54)【発明の名称】歯石を除去する方法及びキット
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/22 20060101AFI20230609BHJP
   A61C 19/06 20060101ALI20230609BHJP
   A61K 8/66 20060101ALI20230609BHJP
   A61Q 11/00 20060101ALI20230609BHJP
【FI】
A61K8/22
A61C19/06 Z
A61K8/66
A61Q11/00
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018565010
(86)(22)【出願日】2017-06-21
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-07-18
(86)【国際出願番号】 US2017038471
(87)【国際公開番号】W WO2017223161
(87)【国際公開日】2017-12-28
【審査請求日】2020-06-18
(31)【優先権主張番号】62/353,407
(32)【優先日】2016-06-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】505005049
【氏名又は名称】スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100130339
【弁理士】
【氏名又は名称】藤井 憲
(74)【代理人】
【識別番号】100110803
【弁理士】
【氏名又は名称】赤澤 太朗
(74)【代理人】
【識別番号】100135909
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 和歌子
(74)【代理人】
【識別番号】100133042
【弁理士】
【氏名又は名称】佃 誠玄
(74)【代理人】
【識別番号】100171701
【弁理士】
【氏名又は名称】浅村 敬一
(72)【発明者】
【氏名】ゴング タオ
(72)【発明者】
【氏名】ペトラ エル.コーラーリエディ
(72)【発明者】
【氏名】スティーブン スワンソン
(72)【発明者】
【氏名】エバン クーン ルン ユウジ ハジメ
【審査官】山田 陸翠
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-226349(JP,A)
【文献】特開2015-113338(JP,A)
【文献】特開2003-040754(JP,A)
【文献】米国特許第06331291(US,B1)
【文献】特表2009-510061(JP,A)
【文献】特開2004-091404(JP,A)
【文献】特開2004-107231(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00- 8/99
A61Q 1/00-90/00
A61C 19/00-19/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯から歯石を除去するためのキットであって、
- 過酸化水素又はその前駆体を含む成分A、及び
- カタラーゼを含む成分B
を含み、
前記成分A及び前記成分Bが、それぞれ独立に、液体又はゲルであり、
前記成分A及び前記成分Bのうちの少なくとも1つが、25℃で、剪断速度1/sにて、26Pa・s未満の粘度を有し、並びに
前記成分A及び前記成分Bを、歯に適用することによって酸素を発生させた後に、前記歯から歯石の少なくとも一部を除去するように用いられる、キット。
【請求項2】
成分A及び成分Bを、歯に同時に適用する、請求項1に記載のキット。
【請求項3】
成分A及び成分Bの混合物を、歯の上に形成させる、請求項1又は2に記載のキット。
【請求項4】
成分A及び成分Bを歯に適用する前に混合して混合物を形成し、前記混合物を歯に適用する、請求項1又は2に記載のキット。
【請求項5】
成分A及び成分Bを、歯石を除去する前に、1時間未満の間、歯に適用する、請求項1~4のいずれか一項に記載のキット。
【請求項6】
前記成分Aが、0.03M~12Mの過酸化水素を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載のキット。
【請求項7】
前記成分Bが、3単位/mL超のカタラーゼを含
1単位のカタラーゼは、25℃、pH7.0で毎分1.0μmolの過酸化水素を分解し、過酸化水素の濃度は、A 240 の減少率により測定して10.3mMから9.2mMに低下する単位である、請求項1~6のいずれか一項に記載のキット。
【請求項8】
前記成分A及び前記成分Bがそれぞれ、25℃で、剪断速度1/sにて、26Pa・s未満の粘度を有する、請求項1~7のいずれか一項に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
歯石は、歯肉炎及び歯周炎を含めた歯周疾患をもたらし得る。歯石を除去する既存の方法は、熟練した歯科従事者によるスケーリング等の機械的手段に頼ったものである。このような既存の除去処置は、患者にとって苦痛かつ不快であり得る。加えて、既存の除去処置は、かなりの物理的な負担を衛生士に与える場合があり、しばしば、筋肉及び反復運動疾患(例えば、手根管症候群)につながる。その上、歯石除去には、歯科予防処置中のかなりの時間が割り当てられる。歯石除去の様々な方法が、2015年12月2日出願のPCT特許出願第PCT/US2015/063335号、「Methods and Kits of Removing Calculus」に開示されているが、歯石除去のより良好な解決法を生み出し続けることが常に望まれている。
【発明の概要】
【0002】
本開示のいくつかの態様は、歯から歯石を除去する方法を提供する。この方法は、過酸化水素又はその前駆体を含む成分Aを準備することと、カタラーゼを含む成分Bを準備することと、成分A及び成分Bを歯に適用することによって酸素を発生させることと、歯から歯石の少なくとも一部を除去することとを含むことができ、成分A及び成分Bは、それぞれ独立に、液体又はゲルであり、成分A及び成分Bのうちの少なくとも1つは、25℃で、剪断速度1/sにて、26Pa・s未満の粘度を有する。
【0003】
本開示のいくつかの態様は、歯から歯石を除去するための部品キットを提供する。キットは、過酸化水素又はその前駆体を含む成分Aと、カタラーゼを含む成分Bとを含むことができ、成分A及び成分Bが、それぞれ独立に、液体又はゲルであり、成分A及び成分Bのうちの少なくとも1つは、25℃で、剪断速度1/sにて、26Pa・s未満の粘度を有する。
【図面の簡単な説明】
【0004】
図1】本開示の一実施形態による歯から歯石を除去する本開示の工程を例示するブロック図である。
図2】本開示の別の実施形態による歯から歯石を除去する本開示の工程を例示するブロック図である。
図3】本開示の更に別の実施形態による歯から歯石を除去する本開示の工程を例示するブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0005】
本開示の任意の実施形態が詳細に説明される前に、本発明が、その適用において、以下の記載で示される、使用、構造、及び成分の構成の詳細に限定されないことが理解される。本発明は、他の実施形態が可能であり、かつ、本開示を読み取れば、当業者にとって明らかになる様々な方法において、実施されること又は実行されることが可能である。また、本明細書で使用される専門用語及び用語は、説明目的のためであり、限定するものとみなされるべきではないことが理解される。本明細書における「含む(including)」、「含む(comprising)」、又は「有する(having)」、及びこれらの変化形の使用は、その後に列記される項目及びこれらの同等物、並びに追加的な項目を包含することを意味する。他の実施形態が活用されてもよく、かつ、本開示の範囲から逸脱することなく、構造的又は論理的な変更がなされてもよいことが理解される。
【0006】
歯石(dental calculus)(歯石(dental tartar)とも呼ぶ)は、種々のリン酸カルシウム又は部分的又は完全に石灰化された歯垢の結晶で充填された石化した歯のバイオフィルムとして定義される。これは、歯の歯垢上に、口腔環境内の流体由来のミネラルが持続的に蓄積されていることによって生じ得る。歯石は、ヒト及び様々な動物種を悩ます一般的な口腔状態であり、歯石の存在は、歯周疾患をもたらし得る。スケーリング等の機械的手段に依存した、歯石を除去する既存の方法は、時間がかかり、歯科従事者にとって困難であり、患者にとっても苦痛かつ不快な経験となり得る。
【0007】
本開示は、一般に、歯から歯石を除去する方法及びキットに関する。一般に、この方法は、過酸化水素又は過酸化水素前駆体を含む成分Aを準備することと、カタラーゼを含む成分Bを準備することと、成分A及び成分Bを歯に適用することによって酸素を発生させることと、歯から歯石の少なくとも一部を除去することとを含むことができる。好ましい実施形態において、成分A及び成分Bは、それぞれ独立に、液体又はゲルであり、成分A及び成分Bのうちの少なくとも1つは、25℃で、剪断速度1/sにて、26Pa・s未満の粘度を有する。特に、驚くべきことに、以下で更に詳述し、実施例で説明するように、カタラーゼ及び過酸化水素のゲル粘度は範囲が狭く、両方のゲルを同時に適用したときの歯石の除去を容易にする。
【0008】
典型的には、一般に歯の表面への歯石の付着は強力であり、歯石と歯の組織の無機組成が類似しているため、歯石の除去は困難である。しかし、本発明の方法で、歯に付いている歯石の表面上に又は歯に付いている歯石の孔の中に酸素の泡を作ることによって、この泡が歯石の物理的な分解を助け、歯からの除去を容易にする。本開示の方法は、例えば、歯石のより容易な除去を提供することができる。加えて、本開示の方法は、歯石除去の時間を短縮することができる。例えば、成分A及び成分Bの適用後、歯石の除去はより容易かつ迅速となる。したがって、本開示の方法は、処置効率を改善することができ、歯石除去の歯科予防処置に費やす時間の短縮に役立つ。これは、歯石除去のプロセス中の患者の快適さを高め、より多くの患者に機会を与え、他の処置に追加の時間を与え、歯科従事者の休憩時間を増やし、手根管症候群等の筋肉及び反復運動疾患を低減するであろう。
【0009】
いくつかの実施形態において、成分Aは、過酸化水素を含むことができる。過酸化水素は、過酸化物発生酵素を対応する基質と組み合わせて、例えばグルコースオキシダーゼ及びスーパーオキシドジスムターゼ(SOD)によって生成することができる。例えば、グルコースオキシダーゼは、グルコースの酸化に触媒作用を及ぼして過酸化水素を発生させることができる。いくつかの実施形態では、過酸化水素は、カルバミド過酸化物、過炭酸塩又は酸、ポリビニルピロリドン(PVP)過酸化物、及びこれらの組合せ等の過酸化水素付加物の形態であってもよい。好適な過炭酸塩又は酸としては、過炭酸、過炭酸ナトリウム、過炭酸カリウム、過炭酸マグネシウム、過炭酸カルシウム、過炭酸亜鉛が挙げられるが、これらに限定されない。
【0010】
いくつかの実施形態において、成分Aは、過ホウ酸塩又は酸、金属過酸化物、有機過酸化物、無機ペルオキシ酸又は塩、及びこれらの組合せ等の過酸化水素前駆体を含むことができる。好適な過ホウ酸塩又は酸としては、過ホウ酸、過ホウ酸ナトリウム、過ホウ酸カリウム、過ホウ酸マグネシウム、過ホウ酸カルシウム、及び過ホウ酸亜鉛を挙げることができるが、これらに限定されない。好適な金属過酸化物としては、過酸化カルシウム及び過酸化マグネシウムを挙げることができるが、これらに限定されない。好適な有機過酸化物としては、過酢酸又はその塩、過マロン酸又はその塩、過酒石酸又はその塩、及び過クエン酸又はその塩等のペルオキシカルボン酸を挙げることができるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、有機過酸化物は、過酢酸塩又は酸とすることができる。好適な無機ペルオキシ酸又は塩としては、過硫酸、過リン酸、及び過硫酸カリウム塩を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0011】
いくつかの実施形態において、成分Aは、少なくとも約0.003Mの過酸化水素を含むことができる。これらの実施形態のうちのいくつかにおいて、成分Aは、約0.03M~約12Mの過酸化水素を含むことができる。これらの実施形態のうちのいくつかにおいて、成分Aは、約0.1M~約3Mの過酸化水素を含むことができる。いくつかの実施形態において、成分Aは、約0.01重量%、約0.1重量%、約1重量%、約5重量%、約10重量%、約30重量%、約35重量%、又はこれらの値のうちのいずれか2つの間の範囲及びこれらの値のうちのいずれか2つを含む範囲の量で過酸化水素を含むことができる。他の実施形態では、成分Aは、同様の濃度の過酸化水素、例えば、少なくとも約0.003Mの過酸化水素を生成することができる過酸化水素前駆体又は過酸化水素付加物を含むことができる。例えば、15重量%のカルバミド過酸化物溶液は、約5重量%の過酸化水素を含む溶液を生成することができる。
【0012】
いくつかの実施形態では、成分Bはペルオキシダーゼを含み得る。いくつかの実施形態では、成分Bはカタラーゼを含み得る。カタラーゼは、アグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)、アリイビブリオ・サルモニシダ(Aliivibrio salmonicida)、ガンビエハマダラカ(Anopheles gambiae)、アスペルギルス・ニデュランス(Aspergillus nidulans)、及びアスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)を含むが、これらに限定されない様々な真核生物及び原核生物に見出すことができる。本開示において使用できる好適なカタラーゼは、当技術分野において周知であり、国際公開WO2012/072777に記載されているものを含むことができる。例えば、好適なカタラーゼは、ウシ肝臓、アスペルギルス・ニガー及びミクロコッカス・リゾデイクティカス(Micrococcus lysodeikticus)に由来する/から単離されるカタラーゼを含むことができる。いくつかの実施形態では、カタラーゼは、真核及び原核生物の一部又は全部のような非単離形態であり得る。カタラーゼは、2分子の過酸化水素を2分子の水及び1分子の酸素にする不均化に触媒作用を及ぼすことができる。
【0013】
いくつかの実施形態において、成分Bは、約3単位/mL超のカタラーゼを含むことができる。いくつかの実施形態において、成分Bは、約17単位/mL超のカタラーゼを含むことができる。本明細書では、1単位のカタラーゼは、25℃、pH7.0で毎分1.0μmolの過酸化水素を分解し、過酸化水素の濃度は、A240の減少率により測定して10.3mMから9.2mMに低下する。これらの実施形態のうちのいくつかにおいて、成分Bは、カタラーゼを、約30単位/mL、約300単位/mL、約3,000単位/mL、約5,500単位/mL、約30,000単位/mL、約300,000単位/mL、又はこれらの値のうちのいずれか2つの間の範囲及びこれらの値のうちのいずれか2つを含む範囲、例えば約30単位/mL~約3,000単位/mLの量で含むことができる。いくつかの実施形態において、成分Bは、約1,000単位/mL~約20,000単位/mLのカタラーゼを含むことができる。
【0014】
いくつかの実施形態において、成分Bを歯の表面に適用した後、口腔内のカタラーゼの濃度は、少なくとも約5単位/唾液1mL、約10単位/唾液1mL、約20単位/唾液1mL、約30単位/唾液1mL、約100単位/唾液1mL、約300単位/唾液1mL、約3,000単位/唾液1mL、約5,500単位/唾液1mL、約30,000単位/唾液1mL、又はこれらの値のうちのいずれか2つの間の範囲及びこれらの値のうちのいずれか2つを含む範囲で増加し、成分Bを適用する前の口腔内に存在するカタラーゼの天然濃度より高くなる。
【0015】
本発明の方法の一実施形態を、図1に示す。上記の通り、過酸化水素又は水素前駆体を含む成分Aを準備する。上記の通り、カタラーゼを含む成分Bも準備する。次いで、成分A及び成分Bの両方を、歯に同時に適用して、上記のように、歯の歯石中に酸素を発生させる。例えば、成分A又は成分Bを、ほぼ同じときに、一緒に、又は更には同時に歯に適用してもよい。典型的には、成分A及び成分Bを同時に適用したとき、使用者は、歯石の表面に沿って発生した酸素の泡を見る(すなわち、このような泡は、ヒトの肉眼で見ることができる)。
【0016】
成分A及び成分Bを同時に歯の歯石の表面に適用し、所望の酸素を歯石中に生成させて歯石の分解を助けた後、機械的方法又はプロセスによって、例えば、手若しくは超音波スケーリングによって又はプロフィ粉末若しくは歯磨き粉によって、歯から歯石を除去する。好適な歯科用ハンドスケーラーの一例は、OSUNG MND CO.,LTD.(韓国)又はHu-Friedy(オランダ)のいずれかからユニバーサル(すなわち、コロンビア型)キュレットとして市販されている。歯科用超音波スケーラーの一例は、Sirona Dental(米国)からSIROSONIC超音波スケーラー(Cシリーズ)として市販されている。
【0017】
より具体的な実施形態では、図2に示すように、成分A及び成分Bは、同時に適用されると、歯の上に混合物を形成することができる。例えば、成分A及び成分Bは、双筒シリンジによって歯の表面に適用することができ、片方のノズル開口部は成分A、他方のノズル開口部は成分Bを歯の表面に送達する。ノズル開口部は、成分A及び成分Bが、歯石の同じ全体面に適用され、次いで必然的に混合し入り交じって混合物を形成し、歯石中に所望の酸素発生をもたらすように、配置され得る。あるいは、ノズル開口部は、成分A及び成分Bの少なくとも特定の部分が重なり、次いで必然的に混合し入り交じって混合物を形成し、歯石中に所望の酸素発生をもたらすように、配置され得る。更に別の代替として、成分A及び成分Bが重ならない場合、歯の表面に適用したとき、これらはシリンジのノズルで又はスケーラー等の他の器具によって混合されて、成分A及び成分Bの混合物を歯の表面上に形成することができ、それによって、歯石中に所望の酸素発生がもたらされる。典型的には、成分A及び成分Bを混合すると、使用者は、歯石の表面に沿って生成された酸素の泡を見る。具体的にどのように混合物が歯の表面上に形成されたかにかかわらず、その後、上記のように、機械的手段又はプロセス、手又は超音波スケーリングによって、歯石を歯から除去する。
【0018】
別の特定の実施形態において、図3に示すように、成分A及び成分Bの混合物を、歯の表面にこの混合物を適用する直前に形成して、歯の上の歯石中に所望の酸素生成をもたらすことができる。例えば、静的ミキサーを有する双筒シリンジによって、成分A及び成分Bを歯の表面に適用することができる。各筒は成分を送達し、静的ミキサーは、静的ミキサーのノズルを出る直前に成分A及び成分Bを混合し、混合物を歯の表面に送達する。成分A及び成分Bを静的ミキサー内で混合しながら、所望の酸素発生を開始した後、歯の上の歯石に適用することができる。典型的には、成分A及び成分Bの混合物を歯石に適用すると、使用者は、歯石の表面に沿って発生した酸素の泡を見る。好適な双筒静的ミキサーシリンジの一例は、参照により本明細書に組み込まれる、表題が「A Cartridge,A Piston and A Syringe Comprising the Cartridge and the Piston」のPCT公開特許出願第2015/073246号に開示されている。別の好適な双筒静的ミキサーシリンジは、Sulzer Mixpac(USA)から市販されている。
【0019】
一実施形態において、成分A及び成分Bの混合物を、個々の歯の上に少なくとも5~10秒間、同時に適用した後、機械的方法によって歯石を除去する。別の実施形態において、除去工程の前に、成分A及び成分Bの混合物を、約1時間未満の間、歯に同時に適用する。更に別の実施形態において、除去工程は、適用工程の後、24時間以内に行われる。更に別の実施形態において、適用工程及び除去工程は、全て24時間未満で完了する。別の実施形態において、適用工程及び除去工程は、1時間未満、理想的には、このプロセスを典型的な歯科患者に対して完了させるために20~35分未満で完了する。しかし、本発明の方法を完了するまでの時間の長さは、患者の歯の上の歯石の量、面積、靭性、深さ、並びに処置される歯の総数及び位置(例えば、後方又は前方)を含むが、これに限定されない様々な因子に基づいて変化し得るものであり、変化する。方法は、歯科衛生士又は歯科医等の歯科従事者によって実施されることが期待され、その方法は、個々の患者のためにカスタマイズされると考えられる。例えば、成分A及び成分Bは、歯石を有する患者の個々の歯に同時に適用することができ、その後、特定の歯から歯石を除去する。別の例として、成分A及び成分Bを静的ミキサー中で混合し、次いで患者の歯列弓全体に適用することができる。
【0020】
いくつかの実施形態では、成分A又は成分Bを、約1時間未満、約30分未満、約10分未満、約5分未満、約2分未満、又は約1分未満の間、同時に適用する。これらの実施形態のいくつかにおいて、成分A又は成分Bは、約10分間、約5分間、約2分間、約1分間、約30秒間、約15秒間、又はこれらの値のいずれか2つの間の範囲及びこれらの値のいずれか2つを含む範囲の間、同時に適用される。いくつかの実施形態では、成分A及び成分Bの両方をそれぞれ、約1時間未満、約30分未満、約10分未満、約5分未満、約2分未満、又は約1分未満の間、同時に適用する。
【0021】
図1~3に示し、上述した方法のいずれの実施形態を用いるかにかかわらず、成分Aが過酸化水素付加物を含む場合、過酸化水素が口腔内の環境下で付加物から解離して、過酸化水素を生成する。いくつかの実施形態において、ペルオキシダーゼ、例えばカタラーゼの存在下で、過酸化水素は、酸素の放出を引き起こすことができ、それによって歯から歯石を緩めることができる。発生した酸素は、例えば、歯石と歯の表面との間の接着を弱めることができ、したがって成分A及び成分Bの混合物に比較的短時間曝露した後に、歯石を容易に除去できる。いくつかの実施形態において、発生した酸素は、歯石を軟化及び/又は弛緩させることができ、したがって、例えばハンドスケーリングによる歯石の除去がかなり容易になる。例えば、より短時間で又はより少ない力で歯石を除去することができる。典型的にヒト唾液又は口腔内に存在するカタラーゼ濃度は、これらの効果をもたらすのに十分ではない。
【0022】
成分A及び成分Bを同時に適用した後、任意の好適な機械的手段、例えば、スケーリング(歯科用スケーラーを使用したもの等)、ブラッシング、スワッビング、ワイピング、超音波、エアーポリッシング又は噴射水によって、少なくとも一部の歯石を歯から除去することができる。いくつかの実施形態では、一部の歯石は、歯磨き以外の機械的手段によって、例えば歯科用スケーラーによって、除去されてもよい。いくつかの実施形態において、除去工程は、適用工程の後、1日、12時間、6時間、3時間、1時間、30分、10分、5分、2分、1分、30秒、又は15秒以内に行われる。いくつかの実施形態では、除去工程は、約10分未満、約5分未満、約2分未満、又は約1分未満の間続く。他の実施形態において、除去工程は、約10分、約5分、約2分、約1分、約30秒、又はこれらの値のいずれか2つの間及びこれらの値のいずれか2つを含む範囲の間続く。したがって、本開示の方法は、例えば、より容易かつ/又は迅速な歯石の除去をもたらすことができる。いくつかの実施形態では、適用工程及び除去工程は全て、約1日、約12時間、約6時間、約3時間、約1時間、約30分、約10分、約5分、約2分、又は約1分未満で完了する。典型的には、本発明の方法は、一回の歯科検診の過程で完了する。
【0023】
成分A又は成分Bのいずれかは、(独立に)任意の形態、口腔送達に好適な液体又はゲル形態、例えば水溶液(例えば、リンス)、ペースト、又はゲルの形態であってもよい。例えば、成分A及び成分Bを、両方ともリンスとして同時に適用してもよい。いくつかの実施形態において、成分Aをゲルとして同時に適用し、成分Bをリンスとして適用してもよい。他の実施形態において、成分A及び成分Bを、両方ともゲルとして同時に適用することができる。
【0024】
上述したように、好ましくは、少なくとも成分A又は成分Bは、25℃で、剪断速度1/sにて、26Pa・s未満の粘度を有する。代替の実施形態において、成分A及び成分Bはそれぞれ、25℃、剪断速度1/sで、26Pa・s未満の粘度を有する。他の実施形態では、成分A及び成分Bはそれぞれ、25℃、剪断速度1/sで、16Pa・s未満の粘度を有する。他の実施形態では、成分A及び成分Bのうちの少なくとも1つは、25℃、剪断速度1/sで、2Pa・s超の粘度を有する。いくつかの実施形態において、成分A及び成分Bはそれぞれ、25℃、剪断速度1/sで、2Pa・s超の粘度を有する。いくつかの実施形態において、成分A及び成分Bの粘度は類似しており、例えば、粘度は、5、4、3又は2Pa・s未満異なり得る。これは、成分A及びBを、静的ミキサーを使用して混合物として送達して、確実に成分が効果的に無くなった場合に、望ましいことがある。
【0025】
いくつかの実施形態では、本開示の方法は、成分A及び成分Bの組合せの比較的短い曝露時間を含み、したがって、例えば、一回の過程において、場合によっては、複数回の過程にわたって、方法を完了したときに、顕著な漂白又は歯のホワイトニングが肉眼では確認されない。
【0026】
いくつかの実施形態において、添加剤を歯の表面に適用することができる。これらの実施形態のいくつかにおいて、添加剤を成分A及び/又は成分Bと共に適用することができる。この方法において使用される添加剤としては、防腐剤及び保存剤、抗生物質、香味材料、界面活性剤、研磨剤、増粘剤及びバインダー、噴射剤、担体、歯石抑制剤(tartar control agent)、カルシウムイオン封鎖剤、フッ化物塩、及び染料を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0027】
好適な防腐剤及び保存剤としてはクロルヘキシジン及びその塩、ポリヘキサメチレンビグアニド、オクテニジン、第四級アンモニウム塩及びそれらのポリマー、有機酸、キレート剤、例えばカルシウムキレート剤(例えばエチレンジアミン四酢酸(EDTA))、精油及びパラベンを挙げることができるが、これらに限定されない。防腐剤及び保存剤の例としては、米国特許第8,647,608号に記載のものが挙げられる。抗生物質の非限定的な例としては、ペニシリン、テトラサイクリン、ミノサイクリン等を挙げることができる。抗生物質の例として、米国特許第6,685,921号に記載のものも挙げられる。香味材料の例としては、人工甘味料、植物油、及び合成香料を挙げることができる。研磨剤の例としては、シリカ粒子、合成無機粒子、及び合成又は植物由来の有機粒子を挙げることができる。好適な界面活性剤としては、米国特許出願第2006/0051385号に記載のものを挙げることができる。このような界面活性剤の例としては、カチオン性界面活性剤、両性イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、及びアニオン性界面活性剤が挙げられる。
【0028】
増粘剤の例としては、グリセロール、シリカ、多糖(セルロース系ポリマー及び誘導体を含む)、植物ガム(例えばグアーガム及びキサンタンガム)、ペトロラタム等の石油由来の材料、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン及びそのコポリマー、ポリ乳酸、長鎖脂肪酸アルコール、アクリレートポリマー、並びにポリアクリル酸ゼラチン、又はこれらの組合せを挙げることができる。好適なポリアクリル酸の一例としては、Lubrizol Corporations(Wickliffe,OH)から商品名CARBOPOL(例えば、Carbopol971)で市販されている架橋ポリアクリル酸がある。増粘剤は、1種以上の無機又は天然若しくは合成の増粘剤又はゲル化剤を含んでよい。任意の経口で許容可能な増粘剤を使用することができる。好適な増粘剤又はゲル化剤には、非晶質シリカ(例えば、Huber Corporationから商品名ZEODENT 165で入手可能なもの)、ヒュームドシリカ、沈降シリカ、コロイド状シリカ、天然及び合成ガム及びコロイド、ポロキサマー、カルボマー(カルボキシビニルポリマーとしても知られる)、カラギーナン、アイルランドコケ、イオタカラギーナン、ヒドロキシエチルセルロースやカルボキシメチルセルロース(カルメロース、セルロースガム)等のセルロース系ポリマー、及びその塩、例えば、カルメロースナトリウム、天然ゴム(カラヤ、キサンタンゴム、アラビアゴム、トラガントゴム等)、ポリビニルピロリドン、寒天、コロイド状ケイ酸マグネシウムアルミニウム、及びこれらの組合せが挙げられる。増粘剤又はゲル化剤は、独立に、成分A、成分B、又は両方に溶解、分散、懸濁、又は乳化することができる。いくつかの実施形態において、増粘剤又はゲル化剤を、担体中に溶解、分散、懸濁、又は乳化することができる。
【0029】
好適な担体としては、米国特許第8,647,608号に記載のものを挙げることができる。担体には、エタノール及びイソプロパノール及びグリセロールを含めた、対象の口腔内での使用に好適な任意のアルコールを挙げることができる。
【0030】
様々な実施形態において、成分A及び成分Bのうちの少なくとも1つは、担体を含む。担体は、存在する場合には、液体、ゲル、又は両方を含むことができる。いくつかの実施形態では、担体は、およそ室温で液体であってよい。いくつかの実施形態では、担体は、およそヒトの口腔内の温度、すなわち、約37℃で液体であってよい。複数の担体を使用することができることを理解されたい。液体担体の例としては、水、グリセリン、プロピレングリコール、ポリアルキレングリコール(例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等)、ポリグリセロール、及びこれらの組合せが挙げられるが、これらに限定されない。
【0031】
好適な担体の更なる例としては、それぞれ、参照により全内容が本明細書に組み込まれる、米国特許第6,669,929号(Boydら)、同第6,379,654号(Gebreselassieら)、及び同第4,894,220号(Nabiら)に記載のものが挙げられる。
【0032】
好適な染料としては、米国特許第8,647,608号に記載のものが挙げられる。歯石抑制剤の例としては、米国特許第6,685,921号に記載のものが挙げられる。デンタルケア製品における使用で既知の抗歯石剤には、リン酸塩を挙げることができるが、これに限定されない。リン酸塩としては、ピロリン酸塩、ポリリン酸塩、ポリホスホン酸塩、及びこれらの混合物を挙げることができる。ピロリン酸塩としては、ジアルカリ金属ピロリン酸塩、テトラアルカリ金属ピロリン酸塩及びこれらの混合物を挙げることができる。フッ化物塩の例としては、米国特許第6,685,921号、米国特許第3,535,421号、及び米国特許第3,678,154号に記載のものを挙げることができる。
【0033】
本開示の歯から歯石を除去するキットは、過酸化水素又はその前駆体を含む成分A及びカタラーゼを含む成分Bを含むことができる。キットの成分Aは、キットの成分Bを歯に適用する前又は後に歯に適用される。
【0034】
以下の実施形態は、本開示を例示することを意図するものであり、限定することを意図するものではない。
【0035】
実施形態
実施形態1は、歯から歯石を除去する方法であって、
過酸化水素又はその前駆体を含む成分Aを準備することと、
カタラーゼを含む成分Bを準備することと、
成分A及び成分Bを歯に適用することによって酸素を発生させることと、
歯から歯石の少なくとも一部を除去することとを含み、
成分A及び成分Bが、それぞれ独立に、液体又はゲルであり、
成分A及び成分Bのうちの少なくとも1つが、25℃で、剪断速度1/sにて、26Pa・s未満の粘度を有する、方法である。
【0036】
実施形態2は、適用工程において、歯に成分A及び成分Bを同時に適用する、実施形態1に記載の方法である。
【0037】
実施形態3は、適用工程において、成分A及び成分Bが歯の上に混合物を形成する、実施形態1又は2に記載の方法である。
【0038】
実施形態4は、適用工程の前に、成分A及び成分Bを混合して混合物を形成し、適用工程において、混合物を歯に適用する、実施形態1又は2に記載の方法である。
【0039】
実施形態5は、適用工程において、成分A及び成分Bの混合物を、除去工程の前に、約1時間未満の間、歯に適用する、実施形態1~4のいずれか一項に記載の方法である。
【0040】
実施形態6は、適用工程において、成分A及び成分Bを、除去工程の前に、約1時間未満の間、歯に適用する、実施形態1~5のいずれか一項に記載の方法である。
【0041】
実施形態7は、除去工程が、適用工程の後、24時間以内に行われる、実施形態1~6のいずれか一項に記載の方法である。
【0042】
実施形態8は、適用工程及び除去工程が、全て、24時間未満のうちに完了する、実施形態1~7のいずれか一項に記載の方法である。
【0043】
実施形態9は、適用工程及び除去工程が、1時間未満のうちに完了する、実施形態1~8のいずれか一項に記載の方法である。
【0044】
実施形態10は、成分Aが、少なくとも約0.003Mの過酸化水素を含む、実施形態1~9のいずれか一項に記載の方法である。
【0045】
実施形態11は、成分Aが、約0.03M~約12Mの過酸化水素を含む、実施形態1~10のいずれか一項に記載の方法である。
【0046】
実施形態12は、成分Aが、約0.1M~約3Mの過酸化水素を含む、実施形態1~11のいずれか一項に記載の方法である。
【0047】
実施形態13は、成分Bが、約3単位/mL超のカタラーゼを含む、実施形態1~12のいずれか一項に記載の方法である。
【0048】
実施形態14は、成分Bが、約30単位/mL~約300,000単位/mLのカタラーゼを含む、実施形態1~13のいずれか一項に記載の方法である。
【0049】
実施形態15は、成分Bが、約1,000単位/mL~約20,000単位/mLのカタラーゼを含む、実施形態1~14のいずれか一項に記載の方法である。
【0050】
実施形態16は、成分A及び成分Bがそれぞれ、25℃で、剪断速度1/sにて、26Pa・s未満の粘度を有する、実施形態1~15のいずれか一項に記載の方法である。
【0051】
実施形態17は、成分A及び成分Bがそれぞれ、25℃で、剪断速度1/sにて、16Pa・s未満の粘度を有する、実施形態1~16のいずれか一項に記載の方法である。
【0052】
実施形態18は、成分A及び成分Bのうちの少なくとも1つが、25℃で、剪断速度1/sにて、2Pa・s超の粘度を有する、実施形態1~17のいずれか一項に記載の方法である。
【0053】
実施形態19は、成分A及び成分Bがそれぞれ、25℃で、剪断速度1/sにて、2Pa・s超の粘度を有する、実施形態1~18のいずれか一項に記載の方法である。
【0054】
実施形態20は、過酸化水素が、過酸化水素付加物である、実施形態1~19のいずれか一項に記載の方法である。
【0055】
実施形態21は、過酸化水素付加物が、過酸化カルバミド、過炭酸塩又は酸、過酸化ポリビニルピロリドン(PVP)、及びこれらの組合せからなる群から選択される、実施形態1~20のいずれか一項に記載の方法である。
【0056】
実施形態22は、過酸化水素前駆体が、過ホウ酸塩又は酸、金属過酸化物、有機過酸化物、無機ペルオキシ酸又は塩、及びこれらの組合せからなる群から選択される、実施形態1~21のいずれか一項に記載の方法である。
【0057】
実施形態23は、前駆体が有機過酸化物であり、この有機過酸化物が、過酢酸塩又は酸である、実施形態1~22のいずれか一項に記載の方法である。
【0058】
実施形態24は、過酸化水素が、過酸化物発生酵素によって発生する、実施形態1~23のいずれか一項に記載の方法である。
【0059】
実施形態25は、成分A及び成分Bのうちの少なくとも1つが担体を含む、実施形態1~24のいずれか一項に記載の方法である。
【0060】
実施形態26は、担体が、水、グリセロール、ポリエチレングリコール、ポリグリセロール、又はこれらの組合せを含む、実施形態25に記載の方法である。
【0061】
実施形態27は、成分A及び成分Bのうちの少なくとも1つが、増粘剤を含む、実施形態1~26のいずれか一項に記載の方法である。
【0062】
実施形態28は、増粘剤が、ポリアクリル酸、ゼラチン、多糖、シリカ、又はこれらの組合せである、実施形態27に記載の方法である。
【0063】
実施形態29は、除去工程が、機械的手段によって除去することを含む、実施形態1~27のいずれか一項に記載の方法である。
【0064】
実施形態30は、除去工程が、歯磨き以外の機械的手段によって除去することを含む、実施形態1~29のいずれか一項に記載の方法である。
【0065】
実施形態31は、除去工程が、歯科用スケーラーを用いて歯から歯石の少なくとも一部を除去することを含む、実施形態1~30のいずれか一項に記載の方法である。
【0066】
実施形態32は、適用工程又は除去工程の後、ヒトの肉眼で歯のホワイトニングが観察できない、実施形態1~31のいずれか一項に記載の方法である。
【0067】
実施形態33は、歯から歯石を除去するための部品キットであって、
過酸化水素又はその前駆体を含む成分Aと、
カタラーゼを含む成分Bとを含み、
成分A及び成分Bが、それぞれ独立に、液体又はゲルであり、
成分A及び成分Bのうちの少なくとも1つが、25℃で、剪断速度1/sにて、26Pa・s未満の粘度を有する、キットである。
【実施例
【0068】
以下の実施例は本発明の範囲を例示するために示すものであり、本発明の範囲を限定するものではない。本明細書では、全ての部及びパーセンテージは、別段の指定がない限り、重量によるものとする。全ての市販材料は、販売元から入手したまま使用した。別段の指定がない限り、材料は、Sigma-Aldrich Corp.(St.Louis,MO)から入手することができる。
【0069】
材料及び方法
グラム(g)当たり967,500単位(U)の活性を有するアスペルギルス・ニガーカタラーゼ酵素を、American Laboratories(Omaha,NE)から入手した。この酵素1単位は、25℃、pH7.0で、毎分1.0μmolの過酸化水素(H)を分解する。本明細書では、1単位のカタラーゼは、25℃、pH7.0で毎分1.0μmolの過酸化水素を分解し、過酸化水素の濃度は、A240の減少率により測定して10.3mMから9.2mMに低下する。Carbopol971P NF(架橋ポリアクリル酸ポリマー)は、Lubrizol Corporation(Wickliffe,OH)から入手した。Hは、Avantor Performance Materials(Center Valley,PA)から、30重量%の水溶液の形態で入手した。脱イオン水を用いて希釈された過酸化水素水溶液を調製した。室温(約23℃)での過酸化水素水溶液のモル濃度は、溶液の重量パーセント及び近似密度から計算した(密度は25℃で、Easton,M.F.,Mitchell,A.G.,Wynne-Jones,W.F.K.,「The Behaviour of Mixtures of Hydrogen Peroxide and Water.Part I.Determination of the Densities of Mixtures of Hydrogen Peroxide and Water」,Trans.Faraday Soc.,48,796(1952)の式(3)を用いて計算した)。
【0070】
試験配合物(過酸化水素及びカタラーゼ成分)の調製
それぞれ3.0重量%(約0.88M)の過酸化水素を有する、粘度が様々な過酸化水素含有ゲルを、脱イオン水を用いて濃(30重量%)過酸化水素水溶液を希釈し、十分なCarbopol971P NF(Lubrizol Corporation(Wickliffe,OH,USA))を添加して所望の量のCarbopol971P NFを有する過酸化水素含有ゲル(すなわち、3重量%の過酸化水素及び0.5重量%、1.0重量%又は2.0重量%のCarbopol971P NFを含有するゲル)に達し、次いで少量の40重量%の水酸化カリウム水溶液を添加することによってpHを7.4に調節して調製した。30重量%の過酸化水素を脱イオン水で希釈することによって、3重量%の過酸化水素を含有する低粘度の溶液を調製した。
【0071】
それぞれゲル1グラム当たり5,000Uのカタラーゼを有する(ゲル1mL当たり約5,500Uのカタラーゼ)、粘度が様々なアスペルギルス・ニガーカタラーゼ含有ゲルを、以下のように調製した。カタラーゼを、リン酸緩衝生理食塩水中に溶解し、最終的にゲルが35重量%のグリセロールを含むように、十分なグリセロールを添加した。十分なCarbopol971P NFを添加して、所望の量のCarbopol971P NFを有するカタラーゼ含有ゲル(すなわち、35重量%のグリセロール及びゲル1グラム当たり5,000Uのカタラーゼ、並びに0.5重量%、1.0重量%、又は2.0重量%のCarbopol971P NFを含有するゲル)を得た。少量の40重量%の水酸化カリウム水溶液を添加することによって、pHを7.4に調節した。適当な量のカタラーゼをリン酸緩衝生理食塩水中に溶解することによって、溶液1グラム当たり3,000U(溶液1mL当たり約3,300U)のアスペルギルス・ニガーカタラーゼを含有する低粘度の溶液を作製した。
【0072】
粘度測定
25℃で、約1/sの剪断速度にて、1mmギャップを使用したARG2レオメーター(TA Instruments(New Castle,DE))上の平らな20mmのステンレス鋼プレートを使用して、粘度を測定した。成分の粘度測定は、Pa・sで記録する。
【0073】
一般的な試験配合物の評価
歯石沈着を有する複数の領域を含むヒト抜去歯(enretec GmbH(Velten,Germany)等の様々な供給業者から入手可能)を入手し、使用前に0.5~1.0重量%のクロラミン-T水溶液中に保存した。歯石除去試験用の抜去歯を準備するために、歯を脱イオン水で濯いだ。以下の実施例に記載の歯石沈着のハンドスケーリングを、OSUNG MND CO.,LTD.(韓国)又はHu-Friedy(オランダ)のいずれかから市販されているユニバーサル(すなわち、コロンビア型)キュレットを使用して実施した。
【0074】
ヒト抜去歯の歯石被覆領域を、水(対照)又は試験配合物のいずれかで処置した。処置の有効性は、水を歯石に適用した後の各歯石被覆領域の半分のハンドスケーリングによる歯石除去の容易さと、同一の歯の各歯石被覆領域の残り半分に配合物を適用した後のハンドスケーリングの容易さとを比較することによって決定した。配合物が、ハンドスケーラーによる歯石の除去の容易さを改善した場合、配合物を有効(+)として採点した。歯石の除去の容易さに改善が見られなかった場合、配合物を有効ではない(-)として採点した。
【実施例1】
【0075】
(EX-1)
成分A:3重量%の過酸化水素及び0.5重量%のCarbopol971P NFを有する、pHを7.4に調節した、25℃で剪断速度1/sにて2.05Pa・sの粘度を有する、過酸化水素含有ゲル。
【0076】
成分B:ゲル1グラム当たり5,000U(5,500U/ゲル1mL)のアスペルギルス・ニガーカタラーゼ、35重量%のグリセロール、及び0.5重量%のCarbopol971P NFを有する、pHを7.4に調節した、25℃で剪断速度1/sにて3.14Pa・sの粘度を有する、カタラーゼ含有ゲル。
【0077】
3本の別個の歯に、水又は処置用配合物のいずれかを各歯の歯石被覆領域に適用した後、ハンドスケーリングを施した。処置の有効性は、歯石に水を適用した後に行う各歯石被覆領域の半分のハンドスケーリングによる歯石除去の容易さと、同じ歯の各歯石被覆領域の残り半分に処置用配合物を適用した後に行うハンドスケーリングの容易さとを比較することによって決定した。成分A及び成分Bを、静的混合先端部を備えた双筒シリンジ(1:1容量比)に充填した。双筒シリンジのプランジャーへの手の圧力を利用して成分を静的ミキサーに通して押し出すことにより、歯石沈着を覆うのに十分な量の混合物としての成分を、歯石で被覆された歯の表面に適用した。混合物を適用した後、操作者は5~20秒待ち、次いでスケーリングを開始した。3本の歯のうち2本において、操作者による歯石除去の容易さに改善が見られた。
【実施例2】
【0078】
(EX-2)
成分A:3重量%の過酸化水素及び1.0重量%のCarbopol971P NFを有する、pHを7.4に調節した、25℃で剪断速度1/sにて11.53Pa・sの粘度を有する、過酸化水素含有ゲル。
【0079】
成分B:ゲル1グラム当たり5,000U(5,500U/ゲル1mL)のアスペルギルス・ニガーカタラーゼ、35重量%のグリセロール、及び1.0重量%のCarbopol971P NFを有する、pHを7.4に調節した、25℃で剪断速度1/sにて15.24Pa・sの粘度を有する、カタラーゼ含有ゲル。
【0080】
3本の別個の歯に、水又は処置用配合物のいずれかを各歯の歯石被覆領域に適用した後、ハンドスケーリングを施した。処置の有効性は、歯石に水を適用した後に行う各歯石被覆領域の半分のハンドスケーリングによる歯石除去の容易さと、同じ歯の各歯石被覆領域の残り半分に処置用配合物を適用した後に行うハンドスケーリングの容易さとを比較することによって決定した。成分A及び成分Bを、静的混合先端部を備えた双筒シリンジ(1:1容量比)に充填した。双筒シリンジのプランジャーへの手の圧力を利用して成分を静的ミキサーに通して押し出すことにより、歯石沈着を覆うのに十分な量の混合物としての成分を、歯石で被覆された歯の表面に適用した。混合物を適用した後、操作者は5~20秒待ち、次いでスケーリングを開始した。3本の歯のうち2本において、操作者による歯石除去の容易さに改善が見られた。
【実施例3】
【0081】
(EX-3)
成分A:水と同様の粘度(約0.001Pa・s)を有する、3重量%の過酸化水素溶液。
【0082】
成分B:溶液1グラム当たり3,000U(3,300U/溶液1mL)のアスペルギルス・ニガーカタラーゼを有する、水と同様の粘度を有する、カタラーゼ含有リン酸緩衝生理食塩水。
【0083】
合計3本の別個の歯の4つの別個の歯石被覆領域(すなわち、3本のうち1本の歯は、同じ歯に2つの歯石被覆領域を含有していた)に、水又は処置用配合物のいずれかを各歯の歯石被覆領域に適用した後、ハンドスケーリングを施した。処置の有効性は、歯石に水を適用した後に行う各歯石被覆領域の半分のハンドスケーリングによる歯石除去の容易さと、同じ歯の各歯石被覆領域の残り半分に処置用配合物を適用した後に行うハンドスケーリングの容易さとを比較することによって決定した。成分A及び成分Bを、静的混合先端部を備えた双筒シリンジ(1:1容量比)に充填した。双筒シリンジのプランジャーへの手の圧力を利用して成分を静的ミキサーに通して押し出すことにより、歯石沈着を覆うのに十分な量の混合物としての成分を、歯石で被覆された歯の表面に適用した。混合物を適用した後、操作者は5~20秒待ち、次いでスケーリングを開始した。合計3本の歯の4つの歯石被覆領域のうち2つにおいて、操作者による歯石除去の容易さに改善が見られた。
【0084】
比較例1(CE-1)
成分A:3重量%の過酸化水素及び0.5重量%のCarbopol971P NFを有する、pHを7.4に調節した、25℃で剪断速度1/sにて2.05Pa・sの粘度を有する、過酸化水素含有ゲル。
【0085】
成分B:乾燥アスペルギルス・ニガーカタラーゼ粉末。
【0086】
3本の別個の歯に、水又は処置用配合物のいずれかを各歯の歯石被覆領域に適用した後、ハンドスケーリングを施した。処置の有効性は、歯石の第1の領域に水を適用した後のハンドスケーリングによる歯石除去の容易さと、同じ歯の歯石の第2の領域に処置用配合物を適用した後の歯石除去の容易さとを比較することによって決定した。1~2mgの乾燥カタラーゼ粉末(成分B)を綿棒の先端部に適用し、次いで1枚の秤量紙の上の成分Aに、カタラーゼを付けた綿棒の先端部を転がすことによって、綿棒を成分Aで被覆した。20~30秒後、綿棒を使用して、歯石沈着を被覆するのに十分な量で混合物を歯石に適用した。混合物を適用した後、操作者は5~20秒待ち、次いでスケーリングを開始した。3本の歯のうち3本とも、操作者による歯石除去の容易さに改善が見られなかった。
【0087】
比較例2(CE-2)
成分A:3重量%の過酸化水素及び2.0重量%のCarbopol971P NFを有する、pHを7.4に調節した、25℃で剪断速度1/sにて26.22Pa・sの粘度を有する、過酸化水素含有ゲル。
【0088】
成分B:ゲル1グラム当たり5,000U(5,500U/ゲル1mL)のアスペルギルス・ニガーカタラーゼ、35重量%のグリセロール、及び2.0重量%のCarbopol971P NFを有する、pHを7.4に調節した、25℃で剪断速度1/sにて39.53Pa・sの粘度を有する、カタラーゼ含有ゲル。
【0089】
合計3本の別個の歯の6つの別個の歯石被覆領域に、水又は処置用配合物のいずれかを各歯の歯石被覆領域に適用した後、ハンドスケーリングを施した。処置の有効性は、歯石に水を適用した後に行う各歯石被覆領域の半分のハンドスケーリングによる歯石除去の容易さを、同じ歯の各歯石被覆領域の残り半分に処置用配合物を適用した場合と比較することによって決定した。成分A及び成分Bを、静的混合先端部を備えた双筒シリンジ(1:1容量比)に充填した。双筒シリンジのプランジャーへの手の圧力を利用して成分を静的ミキサーに通して押し出すことにより、歯石沈着を覆うのに十分な量の混合物としての成分を、歯石で被覆された歯の表面に適用した。ゲルを適用した後、操作者は5~20秒待ち、次いでスケーリングを開始した。3本の歯の6つの歯石被覆領域のうち6つとも、操作者による歯石除去の容易さに改善が見られなかった。
【0090】
表1に示すように、25℃、剪断速度1/sで26Pa・s未満の粘度を有する液体及びゲルは、歯の表面上に同時に送達されたとき、ハンドスケーリングによる歯石除去を容易にした。
【表1】
【実施例4】
【0091】
(EX-4)
成分A:3重量%の過酸化水素及び0.5重量%のCarbopol971P NFを有する、pHを7.4に調節した、25℃で剪断速度1/sにて2.05Pa・sの粘度を有する、過酸化水素含有ゲル。
【0092】
成分B:ゲル1グラム当たり5,000U(5,500U/ゲル1mL)のアスペルギルス・ニガーカタラーゼ、35重量%のグリセロール、及び0.5重量%のCarbopol971P NFを有する、pHを7.4に調節した、25℃で剪断速度1/sにて3.14Pa・sの粘度を有する、カタラーゼ含有ゲル。
【0093】
実験1を繰り返すが、例外として、成分A及び成分Bを、同時であるが別々に、混合せずに、1本の歯の歯石被覆領域に適用する。成分A及び成分Bの歯石被覆領域への適用は、成分がシリンジ先端部で混合するのを防止する隔壁を含む先端部を備えた双筒シリンジ(1:1容量比)に成分を充填することによって実施することができる。適用した後、成分A及び成分B(歯の歯石被覆領域上の隣接ゲル滴の形態)を、シリンジ先端部を使用して、歯石被覆領域で数秒間混合する。混合した後、操作者は5~20秒待ち、次いでスケーリングを開始する。操作者による歯石除去の容易さにおける改善が期待される(水の使用と比較して)。
【0094】
本発明に対する様々な改変及び変更が、本発明の範囲及び趣旨から逸脱することなく、当業者には明らかとなるであろう。本発明が、本明細書で説明された例示的実施形態及び実施例により過度に限定されるよう意図するものではないこと、並びに、このような実施例及び実施形態が、本開示に記載の特許請求の範囲によってのみ限定されるように意図する本発明の範囲で、例示としてのみ提示されていることを理解されるべきである。
【0095】
本明細書に引用した特許、特許文献、及び刊行物の全開示は、それぞれが個別に組み込まれたかのごとく、それらの全体が参照により組み込まれる。例えば、他の様々な歯石除去の方法が、参照により本明細書に組み込まれる、2015年12月2日出願のPCT特許出願第PCT/US2015/063335、「Methods and Kits of Removing Calculus」に開示されている。
図1
図2
図3