(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-08
(45)【発行日】2023-06-16
(54)【発明の名称】ギヤドモータ及び電子機器
(51)【国際特許分類】
H02K 7/116 20060101AFI20230609BHJP
H02K 5/167 20060101ALI20230609BHJP
H02K 7/08 20060101ALI20230609BHJP
F16H 1/28 20060101ALI20230609BHJP
【FI】
H02K7/116
H02K5/167 B
H02K7/08 Z
F16H1/28
(21)【出願番号】P 2019031944
(22)【出願日】2019-02-25
【審査請求日】2022-02-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000001225
【氏名又は名称】ニデックプレシジョン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137947
【氏名又は名称】石井 貴文
(72)【発明者】
【氏名】百瀬 陽介
【審査官】稲葉 礼子
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-066454(JP,A)
【文献】特開2017-011976(JP,A)
【文献】特開2014-214830(JP,A)
【文献】実開平03-124053(JP,U)
【文献】国際公開第2019/198272(WO,A1)
【文献】特開2004-176728(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102015206933(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 7/116
H02K 5/167
H02K 7/08
F16H 1/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸を有するモータ部と、
出力軸を有する遊星歯車機構を備えたギヤ部と、を備え、
前記モータ部は、
前記回転軸における前記ギヤ部側の端部を軸支する軸受部材と、
前記軸受部材を前記モータ部の枠体に固定する固定部材と、を備え、
前記軸受部材は、前記回転軸の軸
対称位置に複数設けられた係合部を備え、
前記ギヤ部は、遊星歯車機構を内包するギヤケースを備え、
前記ギヤケースは、前記係合部に係合される被係合部を備え、
前記軸受部材は、前記遊星歯車機構と対向
し、前記遊星歯車機構を支持する摺動面が湾曲している、
ギヤドモータ。
【請求項2】
前記ギヤ部は、前記摺動面上を線摺動する遊星歯車を備える、
請求項1に記載のギヤドモータ。
【請求項3】
前記軸受部材は樹脂で形成されている、
請求項1または請求項2に記載のギヤドモータ。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のギヤドモータを備える電子機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータの回転を、歯車伝動機構を介して出力するギヤドモータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
各種装置の電動機構には、モータの回転出力を歯車伝動機構により減速して出力するギヤドモータが用いられることがある。ギヤドモータは、モータの回転軸と同軸の出力軸を有するものがあり、このようなギヤドモータは、モータの外径と同径のギヤケース内に遊星歯車減速機構を配備する構成とすることがある。このようなギヤドモータにおいて、軸方向の長さを短くして省スペース化した構成のものがある(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来のギヤドモータでは、作動時に、歯車伝達機構と、歯車伝動機構に対向する部分との摺動により、歯車伝動機構及び対向部分が摩耗したり、摩擦による音が発生したりする課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記の課題などを解決するために次のような手段を採る。なお、以下の説明において、発明の理解を容易にするために図面中の符号等を括弧書きで付記するが、本発明の各構成要素はこれらの付記したものに限定されるものではなく、当業者が技術的に理解しうる範囲にまで広く解釈されるべきものである。
【0006】
本発明の一の手段は、
回転軸を有するモータ部(10)と、
出力軸を有する遊星歯車機構(20A)を備えたギヤ部(20)と、を備え、
前記モータ部(10)は、
前記回転軸における前記ギヤ部側の端部を軸支する軸受部材(13)と、
前記軸受部材(13)を前記モータ部の枠体(12)に固定する固定部材(14)と、を備え、
前記軸受部材(13)は、前記回転軸の軸対象位置に複数設けられた係合部(13C)を備え、
前記ギヤ部は、遊星歯車機構を内包するギヤケース(28)を備え、
前記ギヤケースは、前記係合部に係合される被係合部(28A)を備え、
前記軸受部材(13)は、前記遊星歯車機構と対向する摺動面(13D)が湾曲している、
ギヤドモータである。
【0007】
上記構成のギヤドモータによれば、遊星歯車機構が軸受部材の湾曲した摺動面と点接触で摺動する構成となるため、摺動時の摩擦抵抗を軽減し、摩擦時の騒音を軽減することなどが可能となる。また、当該摺動部分における潤滑油の使用量を減少させることなどが可能となる。
【0008】
上記ギヤドモータにおいて、好ましくは、
前記ギヤ部(20)は、前記摺動面上を線摺動する遊星歯車(23)を備える。
【0009】
上記構成のギヤドモータによれば、遊星歯車機構と軸受部材とが面接触ではなく線接触しながら摺動するため、摺動時の摩擦抵抗を効果的に軽減する構成にすることができる。
【0010】
上記ギヤドモータにおいて、好ましくは、
前記軸受部材(13)は樹脂で形成されている。
【0011】
上記構成のギヤドモータによれば、遊星歯車機構の摩耗を効果的に軽減させるとともに、軸受部材を加工しやすい形状で構成することなどが可能となる。
【0012】
本発明は、上記いずれかのギヤドモータを備える電子機器を含む。
【0013】
このような電子機器によれば、遊星歯車機構と軸受部材との間の摩擦を軽減可能な構成となり、摩擦により摩耗、振動、及び騒音を軽減した構成にすることなどが可能となる。これにより、静音、高耐久の、ギヤドモータを備える電子機器を構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施形態のギヤドモータの外観斜視図である。
【
図2】実施形態のギヤドモータの分解斜視図である。
【
図4】実施形態のギヤドモータのモータ部の外観斜視図である。
【
図5】固定部材を取り除いた状態のモータ部の外観斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のギヤドモータは、遊星歯車機構を有する構成において、軸受部材の遊星歯車機構と対向する摺動面を、遊星歯車機構の遊星歯車との摺動を線接触とする腕曲面とし、摩擦を低減する構成としている点を特徴のひとつとする。
【0016】
本発明に係る実施形態について、以下の構成に従って説明する。ただし、以下で説明する実施形態はあくまで本発明の一例にすぎず、本発明の技術的範囲を限定的に解釈させるものではない。なお、各図面において、同一の構成要素には同一の符号を付しており、その説明を省略する場合がある。
1.実施形態
2.本発明の特徴
3.補足事項
【0017】
<1.実施形態>
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
図1~
図5は、本実施形態に係るギヤドモータ1の全体構成を示している。
図1はギヤドモータ1の全体の外観斜視図である。
図2はギヤドモータ1の全体の分解斜視図である。
図3はギヤドモータ1の全体の断面図である。
図4はモータ部10の外観斜視図である。
図5は、固定部材14を取り外した状態のモータ部10の外観斜視図である。
【0018】
ギヤドモータ1は、モータ部10とギヤ部20とを含んで構成される。ギヤ部20は、遊星歯車機構20Aを含む。モータ部10の回転軸11と、ギヤ部20の出力軸21とは同軸になっている。
【0019】
<モータ部10>
モータ部10は、回転軸11を含むロータ(図示省略)と、当該ロータの周囲に配置されるステータ(図示省略)及び枠体12と、軸受部材13と、固定部材14とを含むステッピングモータである。モータ部10の回転軸11のギヤ部20側端部近傍は、軸受部材13によって軸支されている。モータ部10は、枠体12の側面に、外側に向かって突出した入力端子15を備えている。入力端子15に電圧が印加されると、モータ部10の回転軸11が回転する。モータ部10の回転軸11の軸方向におけるギヤ部20側端部11Aは、遊星歯車機構20Aの入力太陽歯車22と同軸に連結している。
【0020】
<枠体12>
枠体12は金属で形成され、モータ部10の外周を形成する。
【0021】
<軸受部材13>
軸受部材13は、樹脂で形成され、回転軸11を軸支する。軸受部材13は、回転軸11を中心として軸方向に円筒状に延びるよう形成された円筒部13Aを有する。円筒部13Aの遊星歯車機構20A側には、摺動面13Dが形成される(
図3参照)。摺動面13Dは、断面が円弧状に湾曲しており、対向する遊星歯車23と点接触で摺動する。
【0022】
軸受部材13は、円筒部13Aの外側に位置する2つの壁部13Bを有する。壁部13Bは、それぞれ回転軸11の軸心を中心とする円弧状に形成され、軸方向に延びた壁状に形成される。2つの壁部13Bの外周には、それぞれ径方向外側に突出した2つの係合部13Cが形成される。すなわち、軸受部材13は4つの係合部13Cを有する。軸受部材13は樹脂で形成されているため、係合部13Cは弾性的に変形する。係合部13Cは、弾性変形により被係合部28Aに嵌合し、これによってギヤケース28とモータ部10とが連結される。つまり、係合部13Cと被係合部28Aとはスナップフィット構造で係合する。
【0023】
<固定部材14>
固定部材14は、金属で形成され、軸受部材13を枠体12に固定する。固定部材14は、回転軸11の軸心を中心とする円環状に形成された円環部14Bと、円環部14Bの径方向の端部から枠体12側に向かって延び、端部が径方向外側に広がるよう軸対称に形成された2つの脚部14Aを有する。脚部14Aは、軸受部材13の壁部13Bの間に配置され、その先端が枠体12に溶着等で固着される。これにより、枠体12と固定部材14との間に配置された軸受部材13が固定される。
【0024】
固定部材14の円環部14Bは、軸受部材13の円筒部13Aの摺動面13Dよりも枠体12側に位置しており、遊星歯車機構20Aの構成とは摺動しない。
【0025】
<ギヤ部20>
ギヤ部20は、
図2及び
図3に示されるように、遊星歯車機構20Aと、ギヤケース28をと含む。
【0026】
<遊星歯車機構20A>
遊星歯車機構20Aは、入力太陽歯車(サンギヤ)22、遊星歯車(プラネタリギヤ)23、キャリア(プラネタリキャリア)24、及びギヤケース28の内周に設けられる固定内歯車28C(
図3参照)を含んで構成される。遊星歯車機構20Aは、ギヤケース28に内包される。
【0027】
入力太陽歯車22は、モータ部10の回転軸11に連結されており、回転軸11と同軸である。入力太陽歯車22の枠体12側には凹部が形成されており、この凹部に回転軸11の端部11Aが挿入されることで入力太陽歯車22と回転軸11とが連結する。入力太陽歯車22は、3つの遊星歯車23と噛み合う。遊星歯車23は、それぞれ固定内歯車28Cに噛み合う。遊星歯車23のそれぞれの軸部分には、キャリア24から枠体12側に向かって軸方向に円筒状に延びるキャリアピン24Aが挿入される。キャリアピン24Aに対して、遊星歯車23は回転自在である。キャリア24は、出力軸21の端部近傍に形成された出力歯車21Aから動力を出力する。
【0028】
モータ部10の回転軸11が回転すると、入力太陽歯車22が回転し、これに伴って遊星歯車23が入力太陽歯車22の周りを公転し、その公転によってキャリア24が回転軸11と同軸に回転する。これによって、回転軸11の回転が減速されて出力軸21の出力歯車21Aに伝動される。
【0029】
<ギヤケース28>
ギヤケース28は、回転軸11を軸心とする円筒状に形成され、モータ部10側の面が開放され、その逆側の面には円状の開口部28Bを有する。開口部28Bには、遊星歯車機構20Aの出力軸21が挿入され、ギヤケース28から出力歯車21Aが露出した状態となる。ギヤケース28は、遊星歯車機構20Aを内包するよう形成される。ギヤケース28は、モータ部10の枠体12の外形と略同径である。ギヤケース28は、軸受部材13の係合部13Cに対応する位置に、貫通孔である被係合部28Aを有する。被係合部28Aは、係合部13Cとスナップフィット構造で係合する。
【0030】
<2.本発明の特徴>
以上、一実施形態を例示して説明した本発明は、以下のような特徴を有する。
【0031】
上記実施形態のギヤドモータ1では、遊星歯車機構20Aと摺動する軸受部材13の摺動面13Dが、湾曲した構成としている。この構成により、遊星歯車機構20Aが軸受部材13の湾曲した摺動面と点接触で摺動する構成となるため、摺動時の摩擦抵抗を軽減し、摩擦時の騒音を軽減することなどが可能となる。また、当該摺動部分における潤滑油の使用量を減少させることなどが可能となる。
【0032】
上記実施形態のギヤドモータ1では、軸受部材13が樹脂で形成された構成としている。この構成により、遊星歯車機構20Aの摩耗を効果的に軽減させるとともに、軸受部材13を加工しやすい形状で構成することなどが可能となる。
【0033】
本発明のギヤドモータ1は、スマートフォン、タブレット機器、またはノートPCなどの携帯型電子機器に特に有用に適用される。このような電子機器では、ギヤドモータ1の遊星歯車機構20Aと軸受部材13との間の摩擦を軽減可能な構成となり、摩擦により摩耗、振動、及び騒音を軽減した構成にすることなどが可能となる。これにより、静音、高耐久の、ギヤドモータ1を備える電子機器を構成することができる。
【0034】
<3.補足事項>
以上、本発明の実施形態についての具体的な説明を行った。上記説明では、あくまで一実施形態としての説明であって、本発明の範囲はこの一実施形態に留まらず、当業者が把握可能な範囲にまで広く解釈されるものである。
【0035】
実施形態のギヤドモータ1では、モータ部10がステッピングモータである構成例について説明したが、モータ部10はステッピングモータ以外のモータであってもよい。
【0036】
実施形態のギヤドモータ1では、遊星歯車機構20Aが1段で構成されていたが、2段以上の遊星歯車機構を有する構成としてもよい。
【符号の説明】
【0037】
1…ギヤドモータ
10…モータ部
11…回転軸
12…枠体
13…軸受部材
13A…円筒部
13B…壁部
13C…係合部
13D…摺動面
14…固定部材
14A…脚部
14B…円環部
15…入力端子
20…ギヤ部
20A…遊星歯車機構
21…出力軸
21A…出力歯車
22…入力太陽歯車
23…遊星歯車
24…キャリア
24A…キャリアピン
28…ギヤケース
28A…被係合部
28B…開口部
28C…固定内歯車