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  • 特許-混繊追撚糸及び織編物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-08
(45)【発行日】2023-06-16
(54)【発明の名称】混繊追撚糸及び織編物
(51)【国際特許分類】
   D02G 3/04 20060101AFI20230609BHJP
   D02G 3/26 20060101ALI20230609BHJP
   D03D 15/37 20210101ALI20230609BHJP
   D03D 15/292 20210101ALI20230609BHJP
   D03D 15/47 20210101ALI20230609BHJP
   D03D 15/547 20210101ALI20230609BHJP
【FI】
D02G3/04
D02G3/26
D03D15/37
D03D15/292
D03D15/47
D03D15/547
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019045807
(22)【出願日】2019-03-13
(65)【公開番号】P2020147865
(43)【公開日】2020-09-17
【審査請求日】2021-10-21
(73)【特許権者】
【識別番号】592197315
【氏名又は名称】ユニチカトレーディング株式会社
(72)【発明者】
【氏名】八木澤 凌一
(72)【発明者】
【氏名】篠田 啓司
【審査官】斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-179810(JP,A)
【文献】特開2005-307395(JP,A)
【文献】国際公開第2016/133196(WO,A1)
【文献】特開平03-124807(JP,A)
【文献】特開平04-272215(JP,A)
【文献】特開2005-179886(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D02G1/00-3/48
D02J1/00-13/00
D01F1/00-9/04
D03D1/00-27/18
D04B1/00-1/28
D04B21/00-21/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(i)に示すフィラメントを50~80質量%含み、下記(ii)に示すフィラメントを20~50質量%含む混繊追撚糸:
(i)単繊維における繊維軸に垂直な方向の断面形状が角を4~8個有し、かつこの繊維断面内に単一の円形状の中空部を有し、かつ酸化チタンを含まない多角中空ポリエステルマルチフィラメントA;
(ii)サイドバイサイド型コンジュゲートポリエステルマルチフィラメントB。
【請求項2】
撚り係数が8000~17000である、請求項に記載の混繊追撚糸。
【請求項3】
請求項1または2に記載の混繊追撚糸を50質量%以上含む織編物。
【請求項4】
経方向及び緯方向それぞれの伸長率が5%以上、経方向及び緯方向それぞれの伸長回復率が85%以上である、請求項に記載の織編物。
【請求項5】
UPFが40以上である、請求項またはに記載の織編物。
【請求項6】
防透け指数が87以上、紫外線遮蔽率が93%以上である、請求項のいずれか一項に記載の織編物。
【請求項7】
目付が130~200g/mである、請求項のいずれか一項に記載の織編物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、混繊追撚糸、および、該混繊追撚糸を含む織編物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル薄地織編物は、スポーツウエア、婦人服などの分野で広く使用されている。さらに、近年、スポーツの分野では、一枚で着た時に透けにくい機能性のあるストレッチ性の衣服が求められてきている。
【0003】
織編物に透けにくい機能性を付与する方法としては、例えば、フルダルポリエステルマルチフィラメントを用いる方法や、生地の目付を厚くする方法がある。
【0004】
しかし、前者の方法で織編物を作製すると、薄手では、フルダルポリエステルマルチフィラメントを使用しても十分な防透性を得られない場合がある。また、後者の方法を用いると、生地の目付が増加し、重い生地になり、必要な糸量も増加する。
【0005】
特許文献1では、密度を小さくあるいは目付を軽くしても、防透性に優れる織編物を提供するために、特定のマルチフィラメントに仮撚加工を行うことにより得られる、繊維断面が扁平形状で、捲縮率CCに優れた捲縮糸を提案している。
【0006】
一方、特許文献2では、ストレッチ性に優れた織編物を提供するために、一方がポリトリメチレンテレフタレートを主体としたポリエステルである2種類のポリエステル系重合体を繊維長さ方向に沿って貼り合わせたサイドバイサイド型複合繊維マルチフィラメントを用いたポリエステル系ストレッチ織物を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開第2017/221934号
【文献】特開2001-271248号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の捲縮糸を用いた織編物は、十分な仮撚係数が取れずストレッチ性に劣ることがあった。また、この捲縮糸を通常の仮撚係数で仮撚加工した場合、マルチフィラメントが有する中空部断面の変形や潰れが発生することがあり、当該中空部に起因する織編物の軽量性が損なわれる場合があった。従って、特許文献1に記載の捲縮糸を用いた織編物には、更なる改良が求められた。また、特許文献2に記載の織編物は、十分なストレッチ性を有するが、防透性、UVカット性及び生地の軽量性に乏しい場合があり、更なる改良が求められた。
【0009】
従って、本発明の目的は、防透性、UVカット性及びストレッチ性に優れ、更に軽量性にも優れる織編物、並びに、該織編物に用いることができる混繊追撚糸を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、以下の[1]~[]に係る発明である。
[1]下記(i)に示すフィラメントを50~80質量%含み、下記(ii)に示すフィラメントを20~50質量%含む混繊追撚糸:
(i)単繊維における繊維軸に垂直な方向の断面形状が角を4~8個有し、かつこの繊維断面内に単一の円形状の中空部を有し、かつ酸化チタンを含まない多角中空ポリエステルマルチフィラメントA;
(ii)サイドバイサイド型コンジュゲートポリエステルマルチフィラメントB。
[2]撚り係数が8000~17000である、[]に記載の混繊追撚糸。
[3][1]または[2]に記載の混繊追撚糸を50質量%以上含む織編物。
[4]経方向及び緯方向それぞれの伸長率が5%以上、経方向及び緯方向それぞれの伸長回復率が85%以上である、[]に記載の織編物。
[5]UPFが40以上である、[]または[]に記載の織編物。
[6]防透け指数が87以上、紫外線遮蔽率93%以上である、[]~[]のいずれかに記載の織編物。
[7]目付が130~200g/mである、[]~[]のいずれかに記載の織編物。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、防透性、UVカット性及びストレッチ性に優れ、更に軽量性にも優れる織編物、並びに、該織編物に用いることができる混繊追撚糸を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】光学顕微鏡により撮影された、実施例1で得られた混繊追撚糸の繊維断面写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
通常、ポリエステルを含むフィラメント(例えば、ポリエステル高配向未延伸糸)は、特許文献1のように仮撚加工を施すことによって、沸水収縮が小さくなったり、伸度が小さくなったりする等、糸の物性を安定化することができ、工程通過性を良好にすることができる。しかしながら、上述したように、仮撚加工を施すとフィラメント内の中空部が潰れてしまい、軽量性が損なわれる場合がある。
一方、本発明の混繊追撚糸は、仮撚加工を行わないため、捲縮を有しておらず、上記フィラメントAが有する特定の中空部を含む断面形状がそのまま維持されている。通常、ポリエステルを含むフィラメントに対して仮撚加工を行わずに織編物を作製すると、フィラメントが伸ばされスジ状の欠点が生じたり、仕上げ加工の際にフィラメントが縮み生地の寸法が安定しなかったり、染色の調整が困難になったりする等、工程通過性に課題が生じ易い。しかしながら、本発明では、特定の2種類のフィラメントを含む混繊追撚糸とすることで、仮撚加工を行わなくても工程通過性を良好にすることができ、更に、防透性、UVカット性、ストレッチ性及び軽量性に優れる織編物を得ることができる。
【0014】
<混繊追撚糸>
本発明の混繊追撚糸は、下記(i)に示すフィラメントを50質量%以上、並びに、下記(ii)に示すフィラメントを50質量%以下含む。なお、当該要件を満たす本発明の混繊追撚糸は、上記特許文献1に記載の捲縮糸において課題であったストレッチ性(及び軽量性)を有しつつ、上記特許文献2に記載の織編物において課題であった防透性、UVカット性及び軽量性の全てを満たすものである。
(i)単繊維における繊維軸に垂直な方向の断面形状が角を4~8個有し、かつ、この繊維断面内に単一の円形状の中空部を有する多角中空ポリエステルマルチフィラメントA(以降、フィラメントAと称することがある)。
(ii)サイドバイサイド型コンジュゲートポリエステルマルチフィラメントB(以降、フィラメントBと称することがある)。
【0015】
混繊追撚糸中の上記フィラメントAの含有率が50質量%以上であれば、UPF(紫外線保護指数)や紫外線遮蔽率が高くなりやすい。同様の観点から、混繊追撚糸中の上記フィラメントAの含有率は60質量%以上が好ましく、65質量%以上がより好ましい。また、伸縮性の観点から、混繊追撚糸中の上記フィラメントAの含有率は80質量%以下が好ましく、75質量%以下がより好ましく、72質量%以下が更に好ましい。
【0016】
また、混繊追撚糸中の上記フィラメントBの含有率が50質量%以下であれば、十分なストレッチ性を有する。また、同様の観点から、上記フィラメントBの含有率は、40質量以下が好ましく、35質量%以下がより好ましい。また、伸縮性の観点から、混繊追撚糸中の上記フィラメントBの含有率は、20質量%以上が好ましく、25質量%以上がより好ましく、28質量%以上が更に好ましい。
以下に本発明の混繊追撚糸を構成する各フィラメントについて詳しく説明する。
【0017】
(多角中空ポリエステルマルチフィラメントA)
多角中空ポリエステルマルチフィラメントAは、該フィラメントAの単繊維における、繊維軸方向に垂直な方向の繊維断面形状が、角を4~8個有する形状(例えば、四角形~八角形等の多角形)である。繊維断面形状がこのような形状であることにより、繊維束の状態で各単繊維同士が隙間なく並びやすく、最密充填性が高まる。なお、該フィラメントAの繊維断面形状は、角を6個有する形状(例えば、六角形)であることが好ましい。フィラメントAの繊維断面形状が角を6個有すると、最密充填構造となり、UPFや紫外線遮蔽率を一層高めることができる。
なお、4~8個の角を有する上記断面形状は、角部が丸みを帯びていてもよいし、断面形状を構成する各辺が直線からなっていてもよいし、曲線を含んでいてもよい。
【0018】
また、上記フィラメントAは、上記繊維断面内において、単一の円形状の中空部を有する。フィラメントAが円形状の中空部を有することにより、フィラメント内に空気の層ができ屈折率が高くなり、光の屈折がランダムになることで、紫外線遮蔽率、UPF及び防透性が高くなりやすい。フィラメントAの断面形状及び中空部形状は、光学顕微鏡により繊維断面を撮影することにより特定することができる。
なお、フィラメントA中の上記中空部の中空率は、軽量性の観点から15%以上、仮撚り加工時の中空部保持の観点から40%以下とすることが好ましい。
上記中空率は、繊維断面の光学顕微鏡写真から中空繊維の繊維断面積(中空部を含む)と中空部断面積を測定し、繊維断面積に対する中空部断面積の百分率で算出することができる。
中空率(%)=(中空部断面積)/(繊維断面積)×100
【0019】
フィラメントAは、ポリエステルの単一重合体、又は、ポリエステルを含む複数成分で構成される共重合体からなるマルチフィラメントであれば特に限定されないが、例えば、以下の構成とすることが好ましい。即ち、エチレンテレフタレートを主たる構成単位とするポリエステル、言い換えると、フィラメントAを構成する成分のうち最も多く含まれる成分が(ポリ)エチレンテレフタレートであるフィラメントが挙げられる。なお、当該フィラメントには、エチレンテレフタレート以外の共重合成分が含まれていても良い。共重合成分には、イソフタル酸成分、スルホン酸金属塩基含有イソフタル酸成分、アジピン酸成分等のテレフタル酸成分以外の芳香族、脂肪族のジカルボン酸成分、エチレングリコール成分以外の脂肪族ジオール成分等が挙げられる。
フィラメントAとしては、例えば、商品名:ポリエステル高配向六角中空未延伸糸(135dtex/36f、三菱ケミカル社製)を用いることができる。
【0020】
(サイドバイサイド型コンジュゲートポリエステルマルチフィラメントB)
本発明の混繊追撚糸において、上記フィラメントAに、フィラメントBを混繊し追撚することによって、仮撚加工を行わなくても工程通過性を良好にすることができ、さらに、混繊追撚糸に適度なストレッチ性を付与することができる。
【0021】
フィラメントBは、少なくともポリエチレンテレフタレートを主体とした2種類のポリエステル系重合体を繊維長さ方向に沿ってサイドバイサイド型に貼り合わせた複合繊維のマルチフィラメントであれば特に限定されない。
フィラメントBとしては、例えば、商品名:Z110(56dtex/12f、ユニチカトレーディング社製)を用いることができる。
【0022】
本発明の混繊追撚糸は、上述したフィラメントA及びフィラメントBを混繊し、追撚することにより作製することができるが、当該混繊追撚糸の撚り係数は、8000~17000であることが好ましい。
撚り係数が8000以上であると、フィラメントAと、フィラメントBとの収束性を容易に良好にすることができ、織物にした際、織物表面にシボ欠点や風合いのフカツキがより生じにくい。また、撚り係数が17000以下であると、膨らみ感のある織物となり易く、また、糸が細くなり過ぎることを容易に防ぎ、防透性や紫外線遮蔽率、UPFの性能がより低下し難くなる。同様の観点から、混繊追撚糸の撚り係数は、9000~16000がより好ましく、11000~14000がさらに好ましい。
なお、混繊追撚糸の撚り係数は、後述する計算式により特定することができる。
【0023】
<織編物>
本発明の織編物は、上述した混繊追撚糸を用いて作製され、当該混繊追撚糸を50質量%以上含む。前記混繊追撚糸を50質量%以上含むと、良好な防透性、紫外線遮蔽率及びUPFを得られ易い。同様の観点から、本発明の織編物は、前記混繊追撚糸を60質量%以上含むことが好ましく、70質量%以上含むことがより好ましい。
【0024】
本発明の織編物は、経方向及び緯方向それぞれの伸長率が5%以上、経方向及び緯方向それぞれの伸長回復率が85%以上であることが好ましい。織編物の経方向及び緯方向それぞれの伸長率が5%以上であると、人の運動時に関節の動きに追随し易いため、より着心地の良い衣服となる。また、織編物の経方向及び緯方向それぞれの伸長回復率が85%以上であると、伸長率と同様に、人体の関節の動きに追随し易いため、より着心地の良い衣服となる。
同様の観点から、織編物の伸長率は、経方向及び緯方向共に7%以上がより好ましく、織編物の伸長回復率は、経方向及び緯方向共に90%以上がより好ましい。さらに、同様の観点から、織編物の伸長率は、経方向及び緯方向共に9%以上がさらに好ましく、織編物の伸長回復率は、経方向及び緯方向共に92%以上がさらに好ましい。なお、織編物の各方向における伸長率及び伸長回復率は後述する方法により特定することができる。
【0025】
本発明の織編物は、UPFが40以上であることが好ましい。UPFが40以上あることで、衣服とした際に紫外線による肌の日焼けを容易に防止することができる。同様の観点から、織編物のUPFは45以上がより好ましく、50以上がさらに好ましい。なお、織編物のUPFは後述する方法により特定することができる。
【0026】
本発明の織編物は、防透け指数が87以上、紫外線遮蔽率が93%以上であることが好ましい。
織編物の防透け指数が87以上であれば、着用したときにインナーシャツ、下着等が容易に透けにくいレベルとなり好ましい。織編物の防透け指数は、同様の観点から、89以上がより好ましく、91以上が更に好ましい。
また、織編物の紫外線遮蔽率が93%以上あることで、衣服とした際に紫外線による肌の日焼けを容易に防止することができる。織編物の紫外線遮蔽率は、同様の観点から、94%以上がより好ましく、95%以上が更に好ましい。織編物の防透け指数及び紫外線遮蔽率は、後述する方法によりそれぞれ特定することができる。
【0027】
本発明の織編物は、目付が130~200g/mであることが好ましい。織編物の目付が130g/m以上であると、より透けにくくなり、紫外線によって肌が焼けにくくなる効果がより得られる。また、織編物の目付が200g/m以下であれば、生地が重すぎることなく、防透け性やUPF、紫外線遮蔽効果を最大限発揮することができる。
なお、目付が軽い生地はスポーツや婦人衣料の分野で軽量の素材として取り扱うことができる。同様の観点から、織編物の目付けは、130g/m以上、185g/m以下がより好ましく、130g/m以上、150g/m以下がさらに好ましい。
【0028】
<混繊追撚糸の製造方法及び織編物の製造方法>
本発明の混繊追撚糸及び織編物を製造する方法は特に限定されず、織編物の分野で公知な方法を適宜用いることができるが、例えば、以下の工程を有する製造方法により作製することができる。
・上述したフィラメントAと、フィラメントBとを用意する(フィラメント用意工程)。
・用意した2種類のフィラメントを用いて、混繊加工を行い、混繊糸を製造する工程(混繊工程)。
・得られた混繊糸に、S撚り又はZ撚りの追撚を行い、混繊追撚糸を製造する工程(追撚工程)。
・得られた混繊追撚糸を用いて、製織する工程(製織工程)。
・得られた生成りの織物を仕上げ加工する工程(加工工程)。
以下に、各工程について説明する。
【0029】
(フィラメント用意工程)
まず、上述したフィラメントAと、フィラメントBを用意する。各フィラメントの作製方法は、織編物の分野で従来公知の方法を適宜用いることができる。
【0030】
(混繊工程)
次に、これらのフィラメントを用いて、混繊加工を行い、混繊糸を作製する。その際、作製する混繊糸中の上記フィラメントAの含有割合が50質量%以上、上記フィラメントBの含有割合が50質量%以下となるようにする。混繊加工方法は、織編物の分野で従来公知な方法を適宜用いることができる。
【0031】
(追撚工程)
得られた混繊糸に対して追撚を行い、混繊追撚糸を作製する。その際、撚り回数及び撚り方向(S撚り及びZ撚り)は特に限定されないが、上述した撚り係数(8000~17000)を満たすように設定することが好ましい。
【0032】
(製織工程)
得られた混繊追撚糸を経糸及び/又は緯糸の少なくとも一部として用いて、生成り織物を製織する。その際、例えば、経糸及び緯糸として、撚り方向がS撚り及びZ撚りの混繊追撚糸をそれぞれ、交互に配列させて用いることができる。
【0033】
(加工工程)
得られた生成りの織物に対して、従来公知の仕上げ加工を行うことができる。加工方法としては特に限定されないが、例えば、得られた生成りの織物を従来公知の染色機を用いて染色加工することができる。
【0034】
上述したような製造方法により、本発明の混繊追撚糸及び織編物を得ることができる。
【実施例
【0035】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施形態により限定されるものではない。なお、各例における各項目の測定は次の方法に拠った。
【0036】
(伸長率の測定方法)
織編物の経方向及び緯方向の伸長率は、JIS L 1096 B法(定荷重法)に規定される方法で測定した。その際、荷重は14.7N、標線間は200mmとした。
【0037】
(伸長回復率の測定方法)
織編物の経方向及び緯方向の伸長回復率は、JIS L 1096 B-1法(定荷重法)に規定される方法で測定した。その際、上記と同様の条件設定で、荷重を取り除いて1時間後に初荷重を加えた時の標線間の長さから求めた。
【0038】
(防透け指数の測定方法)
織編物の防透け指数は、JIS L 1923 B法(計器法)に規定される方法で測定した。その際、乾燥状態にて測定した。
【0039】
(UPF、紫外線遮蔽率の測定方法)
織編物のUPFは、AS/NZS 4399に規定される方法で測定した。また、織編物の紫外線遮蔽率は、紫外線カット素材の加工効果統一評価方法(アパレル製品等品質性能対策協議会(アパ対協)法)に規定される方法で測定した。
【0040】
(撚り係数の算出方法)
混繊追撚糸の撚り係数は、以下の式で特定することができる。
K=T×√(X)
K:撚り係数、T:撚り数(回/m)、X:繊度(dtex)。
【0041】
[実施例1]
フィラメントAとして、内角120度の中折れスリットが6ヶ環状に配置されてなるノズル孔を1組として、前記ノズル孔を36組有する紡糸口金を用いて、紡糸温度280℃で、ポリエチレンテレフタレート共重合体を紡糸し、ポリエステル高配向六角中空未延伸糸(135dtex/36f、三菱ケミカル社製)を用意した。当該フィラメントAは、単繊維における繊維軸に垂直な方向の断面形状が角を6個有しかつこの繊維断面内に単一の円形状の中空部を有していた。
また、フィラメントBとして、ポリエステルコンジュゲート糸(56dtex/12f、商品名::Z110、ユニチカトレーディング社製)を用意した。当該フィラメントBは、ポリエチレンテレフタレートを主体とする2種類のポリエステル系重合体を繊維長さ方向に沿ってサイドバイサイド型に貼り合わせられていた。
【0042】
前記フィラメントAとフィラメントBとを引き揃えた後、混繊加工を行い、混繊糸(191dtex/48f)を製造した。
【0043】
次に、得られた混繊糸に撚り数Tが800回/m、撚り方向がS撚り及びZ撚りのそれぞれの追撚を行い、撚り方向が異なる2種類の混繊追撚糸を製造した。得られた2種類の混繊追撚糸の上記式より算出した撚り係数Kは、いずれも11056であった。また、得られた2種類の混繊追撚糸中のフィラメントAの含有割合はいずれも71質量%であり、フィラメントBの含有割合はいずれも29質量%であった。また、得られた混繊追撚糸の繊維断面を光学顕微鏡により撮影し、図1の繊維断面写真に示すように、当該繊維断面内に中空部の潰れが無いことを確認した。
【0044】
得られた混繊追撚糸を使用し、経糸に、S撚りとZ撚りの混繊追撚糸を1:1で交互に配列し、緯糸にS撚りとZ撚りの混繊追撚糸を1:1で交互に配列し、経糸密度が67本/2.54cm、緯糸密度が64本/2.54cmの2/2ツイルの織物生地を作製した。即ち、当該織物生地中の上記混繊追撚糸の含有割合は100質量%であった。
【0045】
得られたツイル織物生地を精練、リラックス、アルカリ減量、分散染料による染色、仕上げ処理を行い、織物を得た。
【0046】
得られた織物における経糸密度は90本/2.54cm、緯糸密度は78本/2.54cm、目付は148.9g/mであった。
また、得られた織物の伸長率は、経方向及び緯方向それぞれが、10.0%及び11.9%であり、伸長回復率は、経方向及び緯方向それぞれが、96.4%及び92.0%であり、いずれも高い値を示した。
さらに、得られた織物のUPFは45であり、紫外線遮蔽率は93.7%であり、防透け指数は89.3であり、いずれも高い値を示した。
このように、得られた織物は、目付が軽く、軽量性に富むにもかかわらず、UVカット性、防透性及びストレッチ性に優れるものであった。詳細を表1に示す。
【0047】
[実施例2]
織物組織を2/2ツイルから5枚サテンへと変更した以外は、実施例1と同様にして、経糸密度101本/2.54cm、緯糸密度64本/2.54cmの織物生地を作製した。さらに、実施例1と同様の仕上げ処理までを行い、織物を得た。
得られた織物は、経糸密度が128本/2.54cm、緯糸密度が78本/2.54cm、目付が183g/mであった。
また、得られた織物の伸長率は、経方向及び緯方向それぞれが、11.0%及び7.6%であり、伸長回復率は、経方向及び緯方向それぞれが、95.7%及び93.9%であり、いずれも高い値を示した。
さらに、得られた織物のUPFは50+であり、紫外線遮蔽率は96.8%であり、防透け指数は91.9であり、いずれも高い値を示した。
このように、得られた織物は、目付が軽いにもかかわらず、UVカット性、防透性及びストレッチ性に優れるものであった。詳細を表1に示す。
【0048】
[比較例1]
フィラメントBとして、ポリエステルコンジュゲート糸(56dtex/12f、商品名::Z110、ユニチカトレーディング社製)を用意した。他のマルチフィラメントCとして、ポリエステル高配向未延伸糸(90dtex/36f、三菱ケミカル社製)を用意した。なお、このマルチフィラメントCの単繊維における繊維軸に垂直な方向の断面形状は丸であり、この繊維断面内に中空部を含まない。
【0049】
前記フィラメントBと、前記マルチフィラメントCとを用いて、混繊加工を行い、混繊糸(147dtex/48f)を製造した。次に得られた混繊糸に撚り数Tが1800回/m、撚り方向がS撚り及びZ撚りのそれぞれの追撚を行い、撚り方向が異なる2種類の混繊追撚糸を製造した。得られた2種類の混繊追撚糸の上記式より算出した撚り係数Kは、いずれも21824であった。また、得られた2種類の混繊追撚糸中のフィラメントBの含有割合はいずれも38質量%であり、フィラメントCの含有割合はいずれも62質量%であった。
【0050】
得られた混繊追撚糸を使用し、経糸にS撚りとZ撚りの混繊追撚糸を1:1で交互に配列し、緯糸にS撚りとZ撚りの混繊追撚糸を1:1で交互に配列し、経糸密度が74本/2.54cm、緯糸密度が74本/2.54cmの2/2ツイルの織物生地を作製した。
【0051】
得られたツイル織物生地を精練、リラックス、アルカリ減量、分散染料による染色、仕上げ処理を行い、織物を得た。得られた織物における経糸密度は99本/2.54cm、緯糸密度は95本/2.54cm、目付は132.5g/mであった。
得られた織物の伸長率は、経方向及び緯方向それぞれが、15.0%及び16.8%であり、伸長回復率は、経方向及び緯方向それぞれが、90.3%及び91.3%であり、いずれも良い結果であった。
しかしながら、得られた織物のUPFは10であり、紫外線遮蔽率は91.4%であり、防透け指数は80.7であり、UVカット性及び防透性に劣るものであった。詳細を表1に示す。
【0052】
[比較例2]
織物組織を2/2ツイルから5枚サテンへと変更した以外は、比較例1と同様にして、経糸密度113本/2.54cm、緯糸密度74本/2.54cmの織物生地を作製した。さらに、実施例1と同様の仕上げ処理までを行い、織物を得た。
得られた織物は、経糸密度が154本/2.54cm、緯糸密度が97本/2.54cm、目付が180.5g/mであった。
得られた織物の伸長率は、経方向及び緯方向それぞれが、15.0%及び18.1%であり、伸長回復率は、経方向及び緯方向それぞれが、93.5%及び89.2%であり、UPFは、50+であり、いずれも良い結果であった。
しかしながら、得られた織物の紫外線遮蔽率は91.7%であり、防透け指数は86.7であり、紫外線遮蔽率と防透性に劣るものであった。詳細を表1に示す。
【0053】
[比較例3]
まず、二酸化チタンを2質量%添加した固有粘度0.676ηのポリエチレンテレフタレート(PET)を用意した。次いで、内角120度の中折れスリットが6ヶ環状に配置されてなる直径φ1.0mmのノズル孔を1組として、前記ノズル孔を36組有する紡糸口金を用いて、紡糸温度280℃で、当該PETを紡糸し、引き取り速度1400m/分で巻取り未延伸糸とした。そして、さらに、最大延伸倍率の0.69倍に延伸して、フルダルポリエステルマルチフィラメントD(84dtex/36f、三菱ケミカル社製)を製造した。当該マルチフィラメントDの単繊維における繊維軸に垂直な方向の断面形状は六角断面であり、この繊維断面内の中空部は丸であった。
得られたマルチフィラメントDを仮撚係数14000で仮撚加工を行った。仮撚加工した加工糸は、その単糸の繊維断面を観察したところ、中空部に潰れが認められないものであった。
【0054】
得られたマルチフィラメントを2本引き揃えて、S方向に300回/m合撚した。得られた仮撚り合撚糸を経糸及び緯糸に用い、経糸密度が102本/2.54cm、緯糸密度が62本/2.54cmの平の織物生地を作製した。得られた平織物生地を精練、リラックス、アルカリ減量、分散染料による染色、仕上げ処理を行い、織物を得た。
得られた織物における経糸密度は112本/2.54cm、緯糸密度は66本/2.54cm、目付は147.5g/mであった。また、得られた織物のUPFは50+であり、紫外線遮蔽率は99.7%であり、防透け指数は95.4であり、伸長回復率は経方向及び緯方向それぞれが100.0%及び100.0%であり、いずれも良い結果を示した。しかしながら、得られた織物の伸長率は、経方向及び緯方向それぞれが、2.0%及び7.5%であり、ストレッチ性(特に伸長率)に劣るものであった。詳細を表1に示す。
【0055】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の混繊追撚糸及びそれを使った織編物は、薄地でありながら着用時に優れた伸長性と伸長回復性を有し、かつUPF及び紫外線遮蔽、防透け性に優れた衣服を提供することができる。このため、これらは、スポーツ衣料、ワーキング衣料等の用途の織編物の素材として好適なものである。
図1