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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-08
(45)【発行日】2023-06-16
(54)【発明の名称】漏洩検査システムおよび漏洩検査方法
(51)【国際特許分類】
   G01M 3/38 20060101AFI20230609BHJP
【FI】
G01M3/38 K
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2019052152
(22)【出願日】2019-03-20
(65)【公開番号】P2020153802
(43)【公開日】2020-09-24
【審査請求日】2022-03-14
(73)【特許権者】
【識別番号】503063168
【氏名又は名称】東京ガスエンジニアリングソリューションズ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000129231
【氏名又は名称】株式会社ガスター
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(72)【発明者】
【氏名】安部 健
(72)【発明者】
【氏名】原 毅
(72)【発明者】
【氏名】福吉 憲三
【審査官】岡村 典子
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-337437(JP,A)
【文献】国際公開第2018/016447(WO,A1)
【文献】特表2005-521876(JP,A)
【文献】特開昭62-273436(JP,A)
【文献】特開2000-346796(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0284891(US,A1)
【文献】特開2013-072758(JP,A)
【文献】特開2002-196075(JP,A)
【文献】国際公開第2017/126384(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 3/00-3/40
G01N 21/00-21/01
G01N 21/17-21/61
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査対象物に検出光を放射し、前記検査対象物からの反射光を受光し、受光した光の強度に応じた信号を出力し、前記信号に基づき被検出ガスの濃度を計算するガス検知器と、
前記検出光の方向を制御する方向制御機構と、
前記方向制御機構と連動して前記ガス検知器から前記被検出ガスの濃度を取得し、前記濃度が所定値以上であるかを判断する漏洩判断部と、
を有し、
前記検査対象物の近傍に配置される識別コードを読み取り、読み取った識別コードから前記検査対象物の種別を判定する種別判定手段、または、前記検査対象物の画像を取得し、取得した画像から前記検査対象物の種別を判定する種別判定手段、をさらに有し、
前記方向制御機構が、前記種別判定手段で判定した種別に特有の照射領域に前記検出光が照射されるよう前記方向を制御する、
漏洩検査システム。
【請求項2】
前記漏洩判断部の判断結果を報知する報知部、をさらに有する
請求項1に記載の漏洩検査システム。
【請求項3】
前記方向制御機構が、前記検査対象物の全領域に渡って前記検出光が走査されるよう前記方向を制御する
請求項1または請求項2に記載の漏洩検査システム。
【請求項4】
前記方向制御機構が、前記検査対象物の所定のルートに沿って前記検出光が走査されるよう前記方向を制御する
請求項1または請求項2に記載の漏洩検査システム。
【請求項5】
前記方向制御機構が、前記検査対象物の単一の所定領域に前記検出光が照射されるよう前記方向を制御する
請求項1または請求項2に記載の漏洩検査システム。
【請求項6】
前記方向制御機構が、前記検査対象物の複数の所定領域に前記検出光が順次照射されるよう前記方向を制御する
請求項1または請求項2に記載の漏洩検査システム。
【請求項7】
前記ガス検知器が背景濃度を超える漏洩推定濃度を検出したとき、前記方向制御機構が、前記漏洩推定濃度を検知した時点における前記検出光の照射位置近傍での前記検出光の方向変位速度を、通常の方向変位速度より遅く制御する
請求項1から請求項の何れか一項に記載の漏洩検査システム。
【請求項8】
前記ガス検知器が背景濃度を超える漏洩推定濃度を検出したとき、前記ガス検知器が、通常の測定積分時間より長い測定積分時間で前記被検出ガスを検出する
請求項1から請求項の何れか一項に記載の漏洩検査システム。
【請求項9】
漏洩検査システムを用いた漏洩検査方法であって、
前記漏洩検査システムは、
検査対象物に検出光を放射し、前記検査対象物からの反射光を受光し、受光した光の強度に応じた信号を出力し、前記信号に基づき被検出ガスの濃度を計算するガス検知器と、
前記検出光の方向を制御する方向制御機構と、
前記方向制御機構と連動して前記ガス検知器から前記被検出ガスの濃度を取得し、前記濃度が所定値以上であるかを判断する漏洩判断部と、
を有し、
前記漏洩検査方法は、
前記被検出ガスを含む検査用ガスを前記検査対象物の内部に導入するステップと、
前記検査用ガスを導入した検査対象物に対し、前記検出光の方向を制御しつつ前記検出光を照射し、前記被検出ガスの濃度を測定するステップと、
測定した前記濃度が所定値以上であるかを判断するステップと、
を有し、
前記検査用ガスを導入するステップの前に、前記被検出ガスを実質的に含まない背景測定用ガスを前記検査対象物の内部に導入するステップと、
前記背景測定用ガスを導入した前記検査対象物に前記検出光を照射し、前記被検出ガスの背景濃度を測定するステップと、を有し、
前記濃度を測定するステップにおいて、前記被検出ガスの濃度測定値と前記背景濃度との差分を計算し、当該差分を前記被検出ガスの濃度として補正する
漏洩検査方法。
【請求項10】
前記濃度を測定するステップにおいて、前記被検出ガスの濃度測定値が前記背景濃度を超える所定の値以上である場合、前記検出光の方向変位速度を小さくする、または、前記ガス検知器の測定積分時間を長くする
請求項に記載の漏洩検査方法。
【請求項11】
前記被検出ガスが可燃性ガスであり、前記検査用ガスに含まれる前記可燃性ガスの濃度が爆発下限界未満である
請求項9又は請求項10に記載の漏洩検査方法。
【請求項12】
前記被検出ガスがメタンであり、前記検査用ガスに含まれるメタンの濃度が5vol%未満である
請求項11に記載の漏洩検査方法。
【請求項13】
前記判断するステップにおいて前記濃度が所定値以上であると判断された場合、ガス漏洩がある旨の報知を行う
請求項から請求項12の何れか一項に記載の漏洩検査方法。
【請求項14】
被検出ガスを含む検査用ガスを検査対象物の内部に導入する第1ステップと、
前記検査対象物の近傍に配置される識別コードを読み取り、読み取った識別コードから前記検査対象物の種別を判定する、または、前記検査対象物の画像を取得し、取得した画像から前記検査対象物の種別を判定する、第2ステップと、
前記検査用ガスを導入した前記検査対象物に対し、方向制御機構によって検出光の方向を制御しつつ前記検出光を照射し、前記検査対象物からの反射光を受光し、受光した光の強度に応じた信号を出力し、ガス検知器によって前記信号に基づき被検出ガスの濃度を計算する、第3ステップと、
前記方向制御機構と連動して前記ガス検知器から前記被検出ガスの濃度を取得し、前記濃度が所定値以上であるかを判断する、第4ステップと、
を有し、
前記第3ステップにおいて、前記方向制御機構が、前記第2ステップで判定した種別に特有の照射領域に前記検出光が照射されるよう前記方向を制御する、
漏洩検査方法。
【請求項15】
検査対象物に検出光を放射し、前記検査対象物からの反射光を受光し、受光した光の強度に応じた信号を出力し、前記信号に基づき被検出ガスの濃度を計算するガス検知器と、
前記検出光の方向を制御する方向制御機構と、
前記方向制御機構と連動して前記ガス検知器から前記被検出ガスの濃度を取得し、前記濃度が所定値以上であるかを判断する漏洩判断部と、
を有し、
前記被検出ガスを実質的に含まない背景測定用ガスを導入した前記検査対象物に前記検出光を照射し、前記被検出ガスの背景濃度を測定する第1モードと、
前記被検出ガスを含む検査用ガスを導入した前記検査対象物に対し、前記検出光の方向を制御しつつ前記検出光を照射し、前記被検出ガスの濃度を測定する第2モードと、
測定した前記濃度が所定値以上であるかを判断する第3モードであり、前記被検出ガスの濃度測定値と前記背景濃度との差分を計算し、当該差分を前記被検出ガスの濃度として補正する、前記第3モードと、
を有する、
漏洩検査システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、漏洩検査システムおよび漏洩検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガス湯沸かし器等のガス器具は、保安上の観点から、出荷時点においてガス漏れ等の不良がないことを厳重に管理する必要がある。ガス器具においてガス漏れが無いことを確認する方法として、たとえば、ガス器具内のガス配管に空気等の気体を封入し、液槽内に沈め、気泡の発生が無いことを確かめる方法や、漏れが発生しそうな箇所に漏れ検査用の液体(発泡性液体)を降りかけて、発泡が無いことを確かめる方法等が知られている。
【0003】
また、特許文献1は、既存の配管形態を変更することなく、配管接続作業の容易化とともに、製造、出荷時の気密漏れ検査の容易化を実現したガス燃焼機器及びその気密漏れ検査方法の発明を開示する。当該発明は、1又は2以上のバーナが設けられた機器本体、外部のガス供給管が連結可能な第1及び第2の連結部、バーナ側への燃料ガスの供給、その遮断又は供給量を調節する調節弁、第1の連結部と調節弁との間に第2の連結部を介在させて設けられた管路を備え、第1及び2の連結部の選択的な閉止を可能にし、第1又は第2の連結部への気密漏れ検査手段(リークテスタ及び圧搾ポンプ)を連結して管路を加圧し、気密漏れを検査可能にしたものであり、既設の配管設備を利用でき、製造出荷時での気密漏れ検査の容易化が実現できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2000-291943号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記した漏れ検査方法によって、確実に漏れが無いことを確認することはできる。しかし、ガス器具全体を液槽に沈める方法は、検査用の設備が大きくなる問題があり、液槽への沈降、引揚げ、乾燥等の操作が必要であり、検査のスループットを大きくできない問題がある。また、漏れの可能性がある箇所に検査用液体を降りかける方法は、降りかけなかった部分に漏れがあった場合には検出できない問題があり、検査後に検査用液体を拭き取る等の後処理が必要になる場合がある。
【0006】
本発明の目的は、ガス器具の漏れ検査を、確実かつ高いスループットで実現できる漏れ検査システムおよび漏れ検査方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の第1の態様においては、検査対象物に検出光を放射し、前記検査対象物からの反射光を受光し、受光した光の強度に応じた信号を出力し、前記信号に基づき被検出ガスの濃度を計算するガス検知器と、前記検出光の方向を制御する方向制御機構と、前記方向制御機構と連動して前記ガス検知器から前記被検出ガスの濃度を取得し、前記濃度が所定値以上であるかを判断する漏洩判断部と、を有する漏洩検査システムを提供する。前記漏洩判断部の判断結果を報知する報知部、をさらに有してもよい。
【0008】
なお、被検出ガスの濃度はコラム密度であってもよい。コラム密度は、検出光の光路上に当該検出光を吸収するガスが存在した場合に当該ガスによる光吸収の度合いから算出される当該ガスの密度であり、光路の長さに依存する。コラム密度を光路の長さで割れば当該ガスの光路上における平均濃度が算出される。よって、光路長が一定である限り、ガス濃度に代えてコラム密度を用いることができる。以下、本明細書において、光路長が一定の条件を満たす限り「濃度」の概念には「コラム密度」の概念を含むものとする。
【0009】
前記した漏洩検査システムにおいて、前記方向制御機構が、前記検査対象物の全領域に渡って前記検出光が走査されるよう前記方向を制御するものであってもよい。あるいは、前記方向制御機構が、前記検査対象物の所定のルートに沿って前記検出光が走査されるよう前記方向を制御するものであってもよい。あるいは、前記方向制御機構が、前記検査対象物の単一の所定領域に前記検出光が照射されるよう前記方向を制御するものであってもよい。あるいは、前記方向制御機構が、前記検査対象物の複数の所定領域に前記検出光が順次照射されるよう前記方向を制御するものであってもよい。さらに、前記検査対象物の近傍に配置される識別コードを読み取り、読み取った識別コードから前記検査対象物の種別を判定する種別判定手段、または、前記検査対象物の画像を取得し、取得した画像から前記検査対象物の種別を判定する種別判定手段、をさらに有し、前記方向制御機構が、前記種別判定手段で判定した種別に特有の照射領域に前記検出光が照射されるよう前記方向を制御するものであってもよい。
【0010】
前記した漏洩検査システムにおいて、前記ガス検知器が背景濃度を超える漏洩推定濃度を検出したとき、前記方向制御機構が、前記漏洩推定濃度を検知した時点における前記検出光の照射位置近傍での前記検出光の方向変位速度を、通常の方向変位速度より遅く制御するものであってもよい。前記ガス検知器が背景濃度を超える漏洩推定濃度を検出したとき、前記ガス検知器が、通常の測定積分時間より長い測定積分時間で前記被検出ガスを検出するものであってもよい。
【0011】
本発明の第2の態様においては、前記した漏洩検査システムを用いた漏洩検査方法であって、前記被検出ガスを含む検査用ガスを前記検査対象物の内部に導入するステップと、前記検査用ガスを導入した検査対象物に対し、前記検出光の方向を制御しつつ前記検出光を照射し、前記被検出ガスの濃度を測定するステップと、測定した前記濃度が所定値以上であるかを判断するステップと、を有する漏洩検査方法を提供する。
【0012】
前記した漏洩検査方法において、前記検査用ガスを導入するステップの前に、前記被検出ガスを実質的に含まない背景測定用ガスを前記検査対象物の内部に導入するステップと、前記背景測定用ガスを導入した前記検査対象物に前記検出光を照射し、前記被検出ガスの背景濃度を測定するステップと、をさらに有し、前記濃度を測定するステップにおいて、前記被検出ガスの濃度測定値と前記背景濃度との差分を計算し、当該差分を前記検出ガスの濃度として補正するものであってもよい。この場合、前記濃度を測定するステップにおいて、前記被検出ガスの濃度測定値が前記背景濃度を超える所定の値以上である場合、前記検出光の方向変位速度を小さくする、または、前記ガス検知器の測定積分時間を長くするものであってもよい。
【0013】
前記した漏洩検査方法において、前記被検出ガスが可燃性ガスであり、前記検査用ガスに含まれる前記可燃性ガスの濃度が爆発下限界未満であってもよい。たとえば前記被検出ガスがメタンであり、前記検査用ガスに含まれるメタンの濃度が5vol%未満であってもよい。前記判断するステップにおいて前記濃度が所定値以上であると判断された場合、ガス漏洩がある旨の報知を行ってもよい。なお、上記した「導入」の概念には、「封入」および「流しながら」の何れの概念も含むものとする。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】漏洩検査システム10の概要を示した構成図である。
図2】ガス検知器100、方向制御機構200および制御部300の概要を示したブロック図である。
図3】方向制御機構200における検出光120の方向制御の一例を示した概念図である。
図4】方向制御機構200における検出光120の方向制御の一例を示した概念図である。
図5】方向制御機構200における検出光120の方向制御の一例を示した概念図である。
図6】漏洩検査方法の一例を示したフロー図である。
図7】漏洩検査方法の一例を示したフロー図である。
図8】漏洩検査方法の一例を示したフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(実施の形態)
図1は、漏洩検査システム10の概要を示した構成図である。本実施の形態の漏洩検査システム10は、検査対象物500の漏洩検査を行うものであり、ガス検知器100、方向制御機構200、制御部300およびガス供給系400を有する。図2は、ガス検知器100、方向制御機構200および制御部300の概要を示したブロック図である。
【0016】
検査対象物500は、漏洩検査システム10における検査対象物であり、たとえばガス湯沸かし器等のガス器具である。漏洩検査システム10は、ガス器具等を出荷する前に、当該製品にガス漏洩等がないことを確かめるための出荷前検査に用いることができる。以下の説明において、主にガス漏れ検査について説明するが、漏洩検査システム10は、水導管における液漏れ検査やラジエータ、排気マフラーまたは貯湯タンクなどの気密性検査などにも適用することが可能である。
【0017】
検査対象物500は、筐体502の内部に、熱交換部504、燃焼部506、コントローラ部508を有し、ガス接続ポート510を有する。なお、検査対象物500の一例であるガス器具には通常全面がパネルで覆われているが、ここでは、内部の漏れ検査を実施する関係で、前面パネルを外した状態を示している。
【0018】
燃焼部506は、ガス導管(図示せず)から供給される都市ガスやプロパンガス等の可燃性ガスを安全に燃焼させる構造体であり、熱交換部504は、燃焼部506で得られた熱を水導管(図示せず)に導かれた水に熱交換する機能を有する。コントローラ部508は、燃焼部506を制御するとともに、水導管およびガス導管に導かれた水および可燃性ガスを制御する。ガス導管はガス接続ポート510に接続され、ガス接続ポート510を介して外部から燃焼ガスの供給を受ける。なお、水導管に接続される水接続ポートは図示を省略している。
【0019】
ガス検知器100は、光源部102、受光部104、信号検出部106、濃度計算部108および表示部110を有する。ガス検知器100は、検査対象物500に光源部102が放射した検出光120を照射し、検査対象物500からの反射光122を受光部104が受光し、受光した光の強度に応じた信号を信号検出部106が出力し、信号に基づき被検出ガスの濃度を濃度計算部108が計算する。
【0020】
光源部102は、検出光120を放射する。光源部102は、たとえば周波数変調されたレーザ光を検出光120として放射する。レーザ光を周波数変調することでガス濃度に応じた2倍波信号が生じる。検出光120の波長(周波数)は、被検出ガスに吸収されるが背景ガスには吸収されない波長が好ましい。被検出ガスがメタンである場合、検出光120として発振波長が1.65μm帯の赤外レーザ光を用いることができる。被検出ガスが硫化水素である場合、検出光120として発振波長が1.57μm帯の赤外レーザ光を用いることができる。なお、光源部102に半導体レーザ発振器を用いる場合、被検出ガスが封入された標準セルを準備し、当該標準セルでの光吸収を参照して、検出光120の発振波長が被検出ガスの吸収線の中心に一致するよう半導体レーザ発振器の動作温度等を調整することが好ましい。
【0021】
受光部104は、検査対象物500からの反射光122を受光し、受光した光の強度に応じた信号を出力する。受光部104として、たとえばフォトダイオード、フォトマルチプライヤー等の光電変換素子とその駆動検出回路を例示することができる。受光部104には、たとえばバンドパスフィルタ等の光学フィルタ、スリット、分光機構等を備えてもよい。
【0022】
信号検出部106は、受光部104が出力した受光信号を受け、当該受光信号から、検出光120の変調周波数に等しい周波数の基本波信号、および変調周波数の2倍に等しい周波数の2倍波信号を検出する。基本波信号および2倍波信号の検出には同期検波を用いることができる。
【0023】
濃度計算部108は、受光部104が出力する信号に基づき被検出ガスの濃度を計算し、表示部110は、濃度計算部108が計算した被検出ガスの濃度を表示する。また、濃度計算部108は、計算した濃度値を有線または無線により出力する出力手段を有する。測定された濃度値は出力手段を介して制御部300に送信される。
【0024】
方向制御機構200、検出光120の方向を制御する。方向制御機構200は、ベースステージ202、垂直方向制御ステージ204、水平方向制御ステージ206および方向制御部208を有する。ガス検知器100は水平方向制御ステージ206に固定される。垂直方向制御ステージ204は、ベースステージ202に対して矢印a1の方向に円弧状にスライドされ、ガス検知器100を矢印a2の方向に揺動し、検査対象物500における検出光120の照射点を矢印a3に示すように垂直方向に変位させる。水平方向制御ステージ206は、垂直方向制御ステージ204に対して矢印b1の方向に回転してスライドされ、ガス検知器100を矢印b2の方向に揺動し、検査対象物500における検出光120の照射点を矢印b3に示すように水平方向に変位させる。方向制御部208は、垂直方向制御ステージ204および水平方向制御ステージ206の動きを制御する。
【0025】
制御部300は、漏洩判断部302および報知部304を有する。漏洩判断部302は、方向制御機構200と連動してガス検知器100から被検出ガスの濃度を取得し、濃度が所定値以上であるかを判断する。方向制御機構200との連動は、方向制御部208に方向制御信号を送信し、あるいは方向制御部208から測定のタイミング信号を受信し、これら方向制御信号あるいはタイミング信号と連動してガス検知器100から濃度値を取得することで前記連動を実現できる。報知部304は、漏洩判断部302の判断結果を報知する。
【0026】
ガス供給系400は、ガス接続ポート510を経由して検査対象物500に検査用ガスおよび背景測定用ガスを供給する。ガス供給系400は、検査用ガスが充填された検査用ガスボンベ402、検査用ガスボンベ402用のストップバルブ404、背景測定用ガスが充填された背景測定用ガスボンベ406、背景測定用ガスボンベ406用のストップバルブ408を有する。ストップバルブ404,408の下流側はガス接続ポート510に接続される。なお、各ガスボンベの出口には、圧力調整用のレギュレータやミスト除去用のフィルタ等が設置されても良く、各ボンベやバルブ間は、高いガス圧力に耐え得る程度のシール性能を有したコネクタにより接続されるが、ここでは詳細な説明を省略する。
【0027】
検査用ガスには被検出ガスを含み、背景測定用ガスには被検出ガスを実質的に含まない。ここで実質的に含まないとは、被検出ガスを全く含まない場合の他、ごく微量の被検出ガスを含むこともあり得るが、その場合、検出限度以下の被検出ガスを含む場合に限られる主旨である。被検出ガスは可燃性ガスであってよく、この場合、検査用ガスに含まれる可燃性ガスの濃度は爆発下限界未満であってよい。被検出ガスとしてメタンが例示でき、この場合、検査用ガスに含まれるメタンの濃度は5vol%未満とすることができる。
【0028】
上記したガス検知器100は、検査対象物500に検出光120を照射し、漏洩があった場合に検出される被検出ガスの濃度を測定する。漏洩があった場合には、当該漏洩箇所で被検出ガスの濃度が最も高くなるはずなので、最も高い濃度値を示す検出光120の照射位置を漏洩箇所と推定することができる。すなわち、本実施の形態の漏洩検査システム10によれば、漏洩箇所を容易に特定することができる。
【0029】
図3から図5は、方向制御機構200における検出光120の方向制御の一例を示した概念図である。なお、図3から図5において、検査対象物500の筐体502内にある熱交換部504等の部材については破線で示している。
【0030】
方向制御機構200は、図3に示すように、検査対象物500の全領域に渡って検出光120が走査されるよう方向を制御することができる。すなわち、前記した方向制御機構200を操作して検出光120の方向を制御し、図3に示すライン512に沿って検出光120を走査することで検査対象物500の全領域に渡り漏れ検査を実施することができる。これにより、検査対象物500の全領域に渡り遺漏なく漏れ検査を実施できる。
【0031】
また、方向制御機構200は、図4に示すように、検査対象物500の所定のルート514に沿って検出光120が走査されるよう方向を制御することができる。上記同様、方向制御機構200を操作して検出光120の方向を制御し、図4に示すルート514に沿って検出光120を走査する。漏れが発生し得ない、あるいは実質的に漏れの可能性がない領域をパスし、漏れ検査が必要な領域(ルート514)に絞って検査を実施することができ、検査の効率を高めることができる。
【0032】
また、方向制御機構200は、図5に示すように、検査対象物500の複数の所定領域516a~516dに検出光120が順次照射されるよう方向を制御することができる。上記同様、方向制御機構200を操作して検出光120の方向を制御できる。図4の場合と同様、漏れ検査が必要な領域(所定領域516a~516d)に絞って検査を実施することができ、検査の効率を高めることができる。
【0033】
なお、方向制御機構200は、検査対象物500の単一の所定領域に検出光120が照射されるよう方向を制御することも可能である。また、図5に示すように、検査対象物500の近傍に識別コード520が配置されてもよく、この場合、識別コード520を読み取り、読み取った識別コード520から検査対象物500の種別を判定し、方向制御機構200が、判定した種別に特有の照射領域に検出光120が照射されるよう方向を制御してもよい。種別の判定は、検査対象物500の画像を取得し、取得した画像から検査対象物500の種別を判定してもよい。
【0034】
ガス検知器100が背景濃度を超える漏洩推定濃度を検出したとき、方向制御機構200は、漏洩推定濃度を検知した時点における検出光120の照射位置近傍での検出光120の方向変位速度を、通常の方向変位速度より遅く制御してもよい。あるいは、ガス検知器100が背景濃度を超える漏洩推定濃度を検出したとき、ガス検知器100は、通常の測定積分時間より長い測定積分時間で被検出ガスを検出してもよい。通常の方向変位速度より遅く、あるいは、通常の測定積分時間より長く測定すること、すなわち詳細測定を行うことで、微量な漏洩を精度よく検知することが可能になる。
【0035】
図6は、漏洩検査方法の一例を示したフロー図である。まず、ガス供給系400のストップバルブ408を開操作し、被検出ガスを実質的に含まない背景測定用ガスを検査対象物500の内部のガス導管に導入し、ストップバルブ408を閉操作して背景測定用ガスを封止する(ステップ602)。なお、背景測定用ガスの導入前にガス導管内のガスを排気しておくことが好ましく、封止された背景測定用ガスは大気圧以上の加圧状態であることが好ましい。
【0036】
次に、背景測定用ガスを導入した検査対象物500に検出光120を照射し、被検出ガスの背景濃度を測定し(ステップ604)、背景測定用ガスを排気する(ステップ606)。
【0037】
次に、ガス供給系400のストップバルブ404を開操作し、被検出ガスを含む検査用ガスを検査対象物500の内部のガス導管に導入し、ストップバルブ404を閉操作して検査用ガスを封止する(ステップ608)。なお、封止された検査用ガスは大気圧以上の加圧状態であることが好ましい。
【0038】
次に、検査用ガスを導入した検査対象物500に対し、検出光120の方向を制御しつつ検出光120を照射し、被検出ガスの濃度を測定する(ステップ610)。被検出ガスの濃度測定値とステップ604で測定した背景濃度との差分を計算し、当該差分を検出ガスの濃度として補正する(ステップ612)。その後、測定(補正)した濃度が所定値以上であるかを判断し(ステップ614)、濃度が所定値以上であると判断された場合、ガス漏洩がある旨の報知を行う(ステップ616)。
【0039】
以上のように漏洩検査を行うことができる。図6に示す方法によれば、被検出ガスの背景濃度を用いて濃度測定値を補正するので、被検出ガス濃度の測定精度を高めることができ、正確な漏洩検査を実施することができる。なお、図6に示す方法において、背景濃度の測定は必須ではなく、背景濃度を測定するためのステップおよび背景濃度により補正するステップはなくてもよい。
【0040】
図7は、漏洩検査方法の一例を示したフロー図である。図7に示す漏洩検査方法は、図5に示すような識別コード520が配置されている場合の検査方法であり、図6に示す方法と同様の構成については説明を省略する。
【0041】
まず、識別コード520を読み取り、検査対象物500の種別を判定する(ステップ702)。その後、種別に特有の照射領域を選択し(ステップ704)、上記したステップ602からステップ616に従って漏洩検査を実施する。ただし、前記したステップ610の被検出ガスの濃度測定においては、検出光120の制御を、ステップ704で選択した照射領域に制御して測定を行う(ステップ706)。
【0042】
図7に示す漏洩検査方法においては、被検査対象となるガス製品が複数種類あったとしても、識別コード520で種別が特定されるので、種別に応じた検査領域を検査することができ、多数種類が混在した検査を適切に制御して検査を実施できる。
【0043】
図8は、漏洩検査方法の一例を示したフロー図である。図8に示す漏洩検査方法は、微細な漏洩を感度よく検出できる方法であり、図7に示す方法と同様の構成については説明を省略する。
【0044】
図8に示す漏洩検査方法では、ステップ612の差分計算の後、ステップ614の漏洩判定の前に、漏洩推定判定を行う(ステップ802)。漏洩推定判定は、漏洩判定には至らないものの、微細な漏洩を検知した場合の高精度な測定を可能とするためのステップであり、被検出ガスの濃度測定値が背景濃度を超える所定の値(漏洩判定には至らないものの微細な漏洩があるとみなせる値)以上である場合に、ステップ804およびステップ806を実施する。なお、ステップ802で漏洩と判定できる程度の被検出ガス濃度が検出された場合には、ステップ616に進んで漏洩有の報知を行ってもよい。
【0045】
ステップ804では、漏洩が推定される同照射領域の被検出ガス濃度を詳細に再測定する。ここで詳細な再測定として、検出光120の方向変位速度を小さくする、または、ガス検知器100の測定積分時間を長くする、ことが挙げられる。検出光120の方向変位速度を小さくすること、または、ガス検知器100の測定積分時間を長くすることで、測定精度を高くすることができる。
【0046】
その後、背景濃度測定値と再測定した被検出ガス濃度測定値の差分を計算し(ステップ806)、当該差分を被検出ガスの濃度測定値として、ステップ614の漏洩判定を行う。
【0047】
上記した図8の漏洩検査方法によれば、漏洩のありそうな領域についてのみ高い精度で漏洩判定を行い、その他の領域では通常の精度で測定を行う。一般に高い精度での濃度測定は時間がかかるものであることから、本検査方法は、検査の精度を高めつつも検査時間の増加を極小化するものと言える。すなわち本検査方法によれば、検査時間を短縮しつつ検査精度を高めることができる。
【0048】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。たとえば、上記した実施の形態では、検出光120の方向制御を、ベースステージ202、垂直方向制御ステージ204、水平方向制御ステージ206および方向制御部208を有する方向制御機構200により行ったが、光源部102を出射した検出光120を単一または複数のミラーで反射し、当該ミラーの反射角を制御することで方向制御を行ってもよい。また、上記した実施の形態では、検査対象物500の種別の判定・選択を識別コード520により行ったが、検査対象物500を撮像した画像を画像認識させ、当該画像認識の結果から種別を判定・選択してもよい。
【0049】
上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【0050】
たとえば、上記した実施の形態では、背景測定用ガスあるいは検査用ガスを封止して漏洩判定する例を説明したが、背景測定用ガスあるいは検査用ガスを流した状態で漏洩判定を行ってもよい。
【符号の説明】
【0051】
10…漏洩検査システム、100…ガス検知器、102…光源部、104…受光部、106…信号検出部、108…濃度計算部、110…表示部、120…検出光、122…反射光、200…方向制御機構、202…ベースステージ、204…垂直方向制御ステージ、206…水平方向制御ステージ、208…方向制御部、300…制御部、302…漏洩判断部、304…報知部、400…ガス供給系、402…検査用ガスボンベ、404…ストップバルブ、406…背景測定用ガスボンベ、408…ストップバルブ、500…検査対象物、502…筐体、504…熱交換部、506…燃焼部、508…コントローラ部、510…ガス接続ポート、512…ライン、514…ルート、516a~516d…所定領域、520…識別コード。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8