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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-08
(45)【発行日】2023-06-16
(54)【発明の名称】炭化珪素膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/36 20060101AFI20230609BHJP
   C30B 23/06 20060101ALI20230609BHJP
【FI】
C30B29/36 A
C30B23/06
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019081355
(22)【出願日】2019-04-22
(65)【公開番号】P2020176040
(43)【公開日】2020-10-29
【審査請求日】2022-03-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000173522
【氏名又は名称】一般財団法人ファインセラミックスセンター
(74)【代理人】
【識別番号】100094190
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 清路
(74)【代理人】
【識別番号】100151644
【弁理士】
【氏名又は名称】平岩 康幸
(74)【代理人】
【識別番号】100151127
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 勝雅
(72)【発明者】
【氏名】末廣 智
(72)【発明者】
【氏名】木村 禎一
(72)【発明者】
【氏名】姚 永昭
【審査官】山本 一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-095796(JP,A)
【文献】特開2009-215116(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 29/36
C30B 23/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属珪素及び炭素を含む原料体に、波長が500nm以上10μm以下、且つ、出力250W/cm以上のレーザーを照射して、炭化珪素の合成及び該炭化珪素の昇華を行って、昇華物を基材に接触させて、炭化珪素結晶を前記基材の表面に堆積させることを特徴とする、炭化珪素膜の製造方法。
【請求項2】
炭化珪素に、波長が500nm以上10μm以下、且つ、出力250W/cm以上のレーザーを照射して該炭化珪素を昇華させ、昇華物を基材に接触させて、炭化珪素結晶を前記基材の表面に堆積させることを特徴とする、炭化珪素膜の製造方法。
【請求項3】
前記レーザーが照射される前記炭化珪素は、金属珪素及び炭素を含む原料体に、波長が500nm以上10μm以下、且つ、出力250W/cm未満のレーザーを照射して得られたものである請求項に記載の炭化珪素膜の製造方法。
【請求項4】
前記レーザーの波長が800nm以上1500nm以下である請求項1乃至3のいずれか一項に記載の炭化珪素膜の製造方法。
【請求項5】
前記基材が予熱されている請求項1乃至のいずれか一項に記載の炭化珪素膜の製造方法。
【請求項6】
前記レーザーが、不活性ガスの雰囲気下で照射される請求項1乃至のいずれか一項に記載の炭化珪素膜の製造方法。
【請求項7】
前記基材が炭化珪素単結晶からなる請求項1乃至のいずれか一項に記載の炭化珪素膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化珪素結晶からなる膜を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化珪素(SiC)は、耐熱性、耐食性等を有し、熱伝導性、機械的強度等に優れることから、高温部材として用いられており、また、半導体用基板の表面に、炭化珪素からなる膜を形成して半導体部品等に応用されている。
基板の表面に炭化珪素の膜を形成する方法としては、CVD法、加熱昇華法、金属珪素基板の表面を炭化させる方法等が知られている。
CVD法は、例えば、特許文献1に記載されており、基板を加熱しながら、原料となるシラン化合物及び炭化水素を交互に基板上に供給し、基板の表面に炭化珪素薄膜を形成する方法が開示されている。また、加熱昇華法は、例えば、特許文献2に記載されており、第1の炭化珪素結晶基板上に予め炭化珪素薄膜を成長させ、当該炭化珪素薄膜を第2の炭化珪素結晶基板表面に接触させた状態で炭化珪素坩堝内に配置し、第1の炭化珪素結晶基板が低温側、第2の炭化珪素結晶基板が高温側となるように温度勾配を設け、第2の炭化珪素結晶基板を炭化珪素の昇華温度以上に加熱し、第2の炭化珪素結晶基板側から昇華した炭化珪素を第1の炭化珪素結晶基板上の炭化珪素薄膜上に再結晶化させて成長させる、炭化珪素薄膜の形成方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平9-52797号公報
【文献】特開2004-91228号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
CVD法の場合、原料ガスが高価であり、経済的でなく、また、原料ガスの供給装置や、加熱装置だけでなく、減圧装置が必要であり、トータルの電力消費量が大きくなるという問題があった。また、加熱昇華法の場合、炭化珪素を2400℃以上にまで加熱する必要があり、経済的ではなかった。
本発明の目的は、炭化珪素結晶からなる膜を効率よく形成する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、炭化珪素又はレーザーの照射により炭化珪素が生成される原料体(前駆体含有原料体)に、特定の出力のレーザーを照射することにより、炭化珪素が昇華するという知見を得た。そして、炭化珪素の昇華物が基材に接触すると、基材の表面に炭化珪素からなる結晶膜が形成されるという知見を得た。
本発明は、以下に示される。
(1)炭化珪素に出力250W/cm以上のレーザーを照射して該炭化珪素を昇華させ、昇華物を基材に接触させて、炭化珪素結晶を上記基材の表面に堆積させることを特徴とする、炭化珪素膜の製造方法(以下、「第1の観点の炭化珪素膜製造方法」という)。
(2)上記レーザーが照射される上記炭化珪素は、金属珪素及び炭素を含む原料体に出力250W/cm未満のレーザーを照射して得られたものである(1)に記載の炭化珪素膜の製造方法。
(3)金属珪素及び炭素を含む原料体に出力250W/cm以上のレーザーを照射して、炭化珪素の合成及び該炭化珪素の昇華を行って、昇華物を基材に接触させて、炭化珪素結晶を上記基材の表面に堆積させることを特徴とする、炭化珪素膜の製造方法(以下、「第2の観点の炭化珪素膜製造方法」という)。
(4)上記基材が予熱されている(1)乃至(3)のいずれか一項に記載の炭化珪素膜の製造方法。
(5)上記レーザーが、不活性ガスの雰囲気下で照射される(1)乃至(4)のいずれか一項に記載の炭化珪素膜の製造方法。
(6)上記基材が炭化珪素単結晶からなる(1)乃至(5)のいずれか一項に記載の炭化珪素膜の製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明において、炭化珪素に出力250W/cm以上のレーザーを照射する方法によれば、基材の表面に炭化珪素結晶膜を効率よく形成することができる。
基材が予熱されている場合には、炭化珪素結晶膜を更に効率よく形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明により得られた、基材の表面に形成された炭化珪素結晶膜を示す概略断面図である。
図2】本発明の製造方法で用いるレーザー照射用試料(金属珪素及び炭素を含む原料体)の一例を示す概略断面図である。
図3】本発明の製造方法で用いるレーザー照射用試料(金属珪素及び炭素を含む原料体)の他例を示す概略断面図である。
図4】本発明の製造方法の一例(実施例1)を示す概略説明図である。
図5】本発明の製造方法の他例を示す概略図である。
図6】実施例1で得られた炭化珪素結晶膜の表面を示すSEM画像である。
図7】実施例1で得られた炭化珪素結晶膜及び基材を含む断面全体を示すSEM画像である。
図8】実施例1で得られた炭化珪素結晶膜及び基材の界面を示すSEMの拡大画像である。
図9】実施例2で得られた炭化珪素結晶膜及び基材を含む断面全体を示すSEM画像である。
図10図9の実線で囲んだ部分のEBSD法によるIQマッピング画像である。
図11図10における結晶相のマッピング画像である。
図12図10における結晶の面垂直方向のマッピング画像である。
図13図10における結晶の面内方向のマッピング画像である。
図14】実施例3で得られた炭化珪素結晶膜及び基材を含む断面全体を示すSEM画像である。
図15】実施例4で得られた炭化珪素結晶膜及び基材を含む断面全体を示すSEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明により得られる炭化珪素膜は、炭化珪素へのレーザー照射によって得られた、炭化珪素の昇華物が基材30の表面に接触し、結晶が堆積して形成された膜25である(図1参照)。
基材30の構成材料は、特に限定されないが、昇華物の温度が2000℃以上であることから、好ましくは無機材料であり、特に好ましくは金属、合金、セラミックス又はこれらの混合物である。
【0009】
本発明において、第1の観点の炭化珪素膜製造方法、及び、第2の観点の炭化珪素膜製造方法で用いられるレーザーは、特に限定されず、固体レーザー、気体レーザー、半導体レーザー、ファイバーレーザー等を用いることができる。これらのうち、ファイバーレーザーが好ましい。
ファイバーレーザーは、光ファイバー中で希土類元素等をドープしたコア中で誘導放電を起こさせ、レーザーをファイバー中に閉じ込めた状態で伝送するものである。ファイバーレーザーを発振する装置は、固体レーザー等の他のレーザーを発振する装置と連結して、より高い出力を有するレーザー発振装置としてもよい。
【0010】
本発明において、第1の観点の炭化珪素膜製造方法、及び、第2の観点の炭化珪素膜製造方法で用いられるレーザーの出力は、炭化珪素昇華物の生成性の観点から、250W/cm以上であり、好ましくは280W/cm以上である。尚、上限は、通常、500W/cmである。
上記レーザーの波長は、特に限定されないが、好ましくは500nm以上10μm以下、より好ましくは800nm以上1500nm以下である。
上記レーザーは、連続的に照射してよいし、分割(間欠等)して照射してもよい。
また、上記レーザーの照射時間は、特に限定されず、目的、用途等に応じて、適宜、選択すればよいが、例えば、厚さ5μmの膜を形成する場合、照射時間は、少なくとも1分間である。
【0011】
第1の観点の炭化珪素膜製造方法では、炭化珪素にレーザーを照射して該炭化珪素を昇華させ、昇華物を基材に接触させて、炭化珪素結晶を上記基材の表面に堆積させる。原料である炭化珪素の形状は、板状、線状、粒状、塊状及び不定形状のいずれでもよい。
また、原料である炭化珪素は、特に限定されず、結晶質及び非晶質のいずれでもよく、その調製方法も特に限定されない。第1の観点の炭化珪素膜製造方法で用いられる好ましい炭化珪素は、金属珪素及び炭素を含む原料体に出力250W/cm未満(下限は、通常、150W/cm)のレーザーを照射して得られたものである。この方法によれば、炭素がレーザーのエネルギーを吸収して発熱すると同時に、金属珪素と反応して炭化珪素が容易に形成される。但し、レーザーの出力が250W/cm未満であるので、形成された炭化珪素が昇華することはない。
【0012】
上記「金属珪素及び炭素を含む原料体」(以下、「レーザー照射用試料」ともいう)は、第2の観点の炭化珪素膜製造方法においても同じものを用いることができるが、具体例は、以下に示される。
(1)金属珪素粉末及び炭素粉末の混合物
(2)金属珪素の上面側に炭素が堆積したもの(炭素堆積物)
【0013】
上記(1)の態様は、金属珪素粉末及び炭素粉末の混合物である限りにおいて、加圧物及び非加圧物のいずれでもよく、また、金属珪素粉末及び炭素粉末の混合比は特に限定されない。上記(1)の態様の一例は、図2に示されるレーザー照射用試料20であり、金属珪素粉末11及び炭素粉末13が均一に混合され、板状を有する混合原料である。
上記(2)の態様は、レーザーを上方から照射する場合に少なくとも炭素に照射されることを考慮した構成であり、金属珪素及び炭素は、粉末でも、大面積の膜又は板でもよい。図3は、好ましい炭素堆積物を示すものであり、金属珪素からなる板15の表面に炭素粉末13が堆積したレーザー照射用試料22を示す。
【0014】
第2の観点の炭化珪素膜製造方法では、金属珪素及び炭素を含む原料体にレーザーを照射して、炭化珪素の合成及びその昇華を行って、昇華物を基材に接触させて、炭化珪素結晶を基材の表面に堆積させる。金属珪素及び炭素を含む原料体(レーザー照射用試料)としては、上記(1)の態様で例示した図2のレーザー照射用試料20が好ましく用いられる。
【0015】
第2の観点の炭化珪素膜製造方法であって、レーザー照射用試料20を用いて、基材30の表面に炭化珪素膜を形成する方法について、図4及び図5を用いて説明する。
【0016】
図4は、レーザーのエネルギーを吸収しない又は吸収しにくい材料(単結晶炭化珪素等の単結晶セラミックス、石英、サファイア等)からなる基材30に成膜する好ましい方法の例であり、基材30を、レーザー照射用試料20とレーザー光源40との間に配置した状態で、レーザー光源40から、レーザー照射用試料20にレーザーを照射し、炭化珪素が合成されるとともに瞬時に昇華物18となって、基材30の下面側に接触し、炭化珪素結晶が堆積し成膜される方法を示す。また、この図4では、台座50の上に載置したレーザー照射用試料20の上方に基材30を配置し、レーザー照射用試料20及び基材30を密閉空間に位置させるために、レーザーを透過する材料からなる部材を備える包囲体60を被せている。レーザー光源40を含むレーザー照射装置は、生成した炭化珪素昇華物18により汚染されないように、包囲体60の外部に配置することが好ましい。
図4に示していないが、密閉空間において、生成した炭化珪素昇華物18を流動させる手段を備えることができる。
【0017】
レーザーがレーザー照射用試料20に向かって照射されると、レーザーのエネルギーを吸収しない又は吸収しにくい材料からなる基材30の温度は変化し、その構成材料にもよるが、通常、1000℃以上に予熱された基材30となる。予熱状態の基材30は、炭化珪素結晶からなる膜の形成に好適であるため、図4において、基材30が、レーザーのエネルギーを吸収しない又は吸収しにくく、且つ、レーザーの照射により加熱される材料からなる場合には、炭化珪素昇華物18が連続的に接触すると厚さ方向に結晶が成長し、厚膜化に好適である。
【0018】
図5は、構成材料が限定されない基材30に成膜する好ましい方法の例であり、基材30をレーザーの光路に配置せず、基材30の表面に炭化珪素結晶を堆積させ成膜する方法を示す。即ち、レーザー光源40から、レーザー照射用試料20にレーザーを照射し、炭化珪素が合成されるとともに瞬時に昇華物18となって、基材30の下面側に接触し、炭化珪素結晶が堆積し成膜される方法である。また、この図5においても、レーザー照射用試料20及び基材30を密閉空間に位置させるために、レーザーを透過する材料からなる部材を備える包囲体60を被せている。
図4では、基材30がレーザーの光路に位置したため、レーザー照射により基材30が予熱されることとなったが、図5は、基材30をレーザーの光路に配置しない方法であるため、別途、基材30を予熱する手段(図示せず)を備えることが特に好ましい。
【0019】
レーザーがレーザー照射用試料20に照射されると、予熱状態の基材30に、炭化珪素昇華物18が連続的に接触し、炭化珪素結晶からなる膜が効率よく形成される。
【0020】
本発明において、炭化珪素膜が形成されることとなる基材が炭化珪素単結晶である場合には、成膜後の積層体を半導体ウエハとして好適に用いることができる。従って、基材がレーザー透過性を有し、半導体用基板の構成材料として好適な炭化珪素であれば、従来、公知の成膜方法よりも低コストで効率よく半導体ウエハを得ることができる。
【実施例
【0021】
以下、実施例を挙げて、本発明の実施の形態を更に具体的に説明する。但し、本発明は、これらの実施例に何ら制約されるものではない。
【0022】
実施例1
シグマ・アルドリッチ社製金属珪素粉末(平均粒径:~40μm)と、高純度化学研究所社製グラファイト粉末(平均粒径:~5μm)とを、Si:C=1:1(モル比)となるように秤量し、ボールミルを用いて混合した。次いで、得られた混合原料を、ペレット成形器を用いて、圧力10MPaで仮成形に供した。そして、静水圧プレスにより、圧力245MPaで加圧し、直径10mm及び厚さ約1mmの円板状圧縮成形物(以下、「レーザー照射用試料」という)を得た。このレーザー照射用試料は、ボールミルを用いて得られた混合原料を加圧して得られたものであるため、特に、金属珪素粉末は、最大粒径が30μmの微細粉末となって含まれている。
その後、図4に示す構成で、台座50の上に載置した、金属珪素粉末11及び炭素粉末13の混合物成形体からなるレーザー照射用試料20に、ファイバーレーザー照射装置の光源40からレーザーを照射し、炭化珪素を生成及び昇華させて昇華物18を基材30の下面側に接触させて基材30の表面に炭化珪素結晶膜を形成させた。尚、レーザー照射用試料20及び基材30の間隔は10mmである。レーザー照射用試料20及び基材30は、るつぼからなる包囲体60で覆い、台座50及び包囲体60により形成される密閉空間に昇華物18が滞留するようにした。基材30及び包囲体60は、いずれも、レーザーを透過する材料からなるものを用い、基材30は、平滑な板であり、その構成材料は、炭化珪素の単結晶である。包囲体60の構成材料は、石英である。また、基材30及び光源40は、レーザー照射用試料20の真上に位置するように配置し、光源40の先端に光拡散レンズ(図示せず)を配設し、光源40からのレーザーが、レーザー照射用試料20の表面に広く照射されるようにした。
レーザー照射装置の光源40から、波長1064nm、出力300W/cmのファイバーレーザーを、基材30を介して、レーザー照射用試料20の表面0.7cmに対し、180秒間照射することにより、基材30の下面(レーザー照射用試料20側の表面)に炭化珪素結晶膜を形成した。基材30の構成材料である炭化珪素は、レーザーを透過する作用を有するだけでなく、レーザーにより予熱されるため、炭化珪素昇華物18が基材30に接触すると炭化珪素結晶膜が形成されたことが確認された。
【0023】
基材30に形成された炭化珪素結晶膜の電子顕微鏡観察を行った。図6は、炭化珪素結晶膜の表面の画像であり、図7及び図8は、それぞれ、炭化珪素結晶膜の断面の画像であって、図7は断面全体(研磨面)を表し、図8は、炭化珪素結晶膜と基材30との界面を拡大した画像である。図8によれば、基材30の最表面では、炭化珪素結晶がグラニュラー状となっているものの、図7によれば、膜全体として、炭化珪素結晶は、基材30に対して垂直に成長した柱状であることが分かる。また、レーザーの照射時間と炭化珪素結晶膜の厚さとから算出される成膜速度は10μm/分であった。
【0024】
比較例1
ファイバーレーザーの出力を200W/cmとした以外は、実施例1と同様の操作を行った。レーザー照射用試料20の表面が焼結されただけで、炭化珪素の昇華は確認されず、炭化珪素結晶膜も形成されなかった。
【0025】
実施例2
基材30として、六方晶炭化珪素(4H-SiC)からなる板を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行い、炭化珪素結晶膜を得た(図9参照)。その後、図9において実線で囲んだ部分(図10)に対するEBSD法により、結晶の同定及び方位解析を行った。測定条件は、加速電圧:20kV、測定領域:150×70μm、測定点間隔:0.2μm、倍率:500倍である。その結果、結晶膜は、図11に示すように、大部分が立方晶炭化珪素(3C-SiC)であることが分かった。また、結晶方位は、面に垂直な方向では111配向であり(図12参照)、面内方向では101配向である(図13参照)ことが分かった。
【0026】
実施例3
レーザー照射装置の光源40から、波長1064nm、出力80W/cmのファイバーレーザーを、基材30を介して、レーザー照射用試料20の表面0.7cmに対し、60秒間照射することにより、炭化珪素焼結体を得た。
次いで、レーザー照射装置の光源40から、波長1064nm、出力300W/cmのファイバーレーザーを、基材30を介して、炭化珪素焼結体の表面0.7cmに対し、60秒間照射することにより、基材30の下面に炭化珪素結晶膜を形成させた(図14参照)。また、レーザーの照射時間と炭化珪素結晶膜の厚さとから算出される成膜速度は5μm/分であった。
【0027】
実施例4
レーザー照射用試料を、実施例1の混合物成形体に代えて、シリコンウエハの表面に日本船舶工具有限会社製エアゾール乾性黒鉛皮膜形成潤滑剤「DGFスプレー」(商品名)を吹き付けて黒鉛堆積膜を形成させたレーザー照射用試料(炭素粉末堆積物)22(図3参照)とし、黒鉛堆積膜にレーザーを照射した以外は、実施例1と同様の操作を行った。その結果、基材30の下面(レーザー照射用試料22側の表面)に炭化珪素結晶膜を形成させた(図15参照)。また、レーザーの照射時間と炭化珪素結晶膜の厚さとから算出される成膜速度は10μm/分であった。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明により得られる炭化珪素膜は、強化ガラス等の補強された部材の構成材料、半導体部品の構成材料等に好適である。
【符号の説明】
【0029】
11:金属珪素粉末、13:炭素粉末、15:金属珪素板、18:炭化珪素昇華物、20:レーザー照射用試料(混合原料)、22:レーザー照射用試料(炭素粉末堆積物)、25:炭化珪素結晶膜、30:基材、40:レーザー光源、50:台座、60:包囲体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15