(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-08
(45)【発行日】2023-06-16
(54)【発明の名称】感熱孔版原紙用支持体及び感熱孔版原紙
(51)【国際特許分類】
B41N 1/24 20060101AFI20230609BHJP
B32B 27/02 20060101ALI20230609BHJP
B32B 27/12 20060101ALI20230609BHJP
【FI】
B41N1/24 102
B32B27/02
B32B27/12
(21)【出願番号】P 2019152556
(22)【出願日】2019-08-23
【審査請求日】2022-07-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000250502
【氏名又は名称】理想科学工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000176637
【氏名又は名称】日本製紙パピリア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【氏名又は名称】伊藤 正和
(72)【発明者】
【氏名】荒井 正勝
(72)【発明者】
【氏名】松浦 宏和
(72)【発明者】
【氏名】山本 光保
【審査官】中村 博之
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-241631(JP,A)
【文献】特開平07-276840(JP,A)
【文献】国際公開第01/090481(WO,A1)
【文献】特開平02-030593(JP,A)
【文献】特開2001-315458(JP,A)
【文献】米国特許第05875711(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41N 1/24
B32B 27/02
B32B 27/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
麻パルプ及び合成繊維を含み、
縦方向のJAPAN TAPPI No.71に規定される引張破断伸びに対する横方向のJAPAN TAPPI No.71に規定される引張破断伸びの比が1.00~1.40である、
感熱孔版原紙用支持体。
【請求項2】
前記感熱孔版原紙用支持体を10枚重ねた状態で測定した圧縮仕事量が1.200~1.460gf・cm/cm
2である、請求項1に記載の感熱孔版原紙用支持体。
【請求項3】
縦方向のJAPAN TAPPI No.71に規定される引張強さに対する横方向のJAPAN TAPPI No.71に規定される引張強さの比が0.20~0.40である、請求項1又は2に記載の感熱孔版原紙用支持体。
【請求項4】
前記麻パルプと前記合成繊維との質量比(麻パルプ:合成繊維)が30:70~45:55である、請求項1~3のいずれか1項に記載の感熱孔版原紙用支持体。
【請求項5】
縦方向のJAPAN TAPPI No.71に規定される引張破断伸びに対する横方向のJAPAN TAPPI No.71に規定される引張破断伸びの比が1.20~1.40である、請求項1~4のいずれか1項に記載の感熱孔版原紙用支持体。
【請求項6】
縦方向のJAPAN TAPPI No.71に規定される引張破断伸びが4.5%以下である、請求項1~5のいずれか1項に記載の感熱孔版原紙用支持体。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の感熱孔版原紙用支持体と、熱可塑性樹脂フィルムとを含む、感熱孔版原紙。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、感熱孔版原紙用支持体及び感熱孔版原紙に関する。
【背景技術】
【0002】
感熱孔版原紙(以下、「孔版原紙」という場合もある。)は、一般的に、多孔性支持体と、多孔性支持体上に積層された熱可塑性樹脂フィルムとを含む。
【0003】
孔版原紙の製版には一般的にサーマルプリンティングヘッド(TPH)が用いられているが、孔版原紙の表面に凹凸が存在すると、製版時にTPHとフィルムとの密着性が悪くなり、穿孔されやすいところと、穿孔され難いところが発生する場合がある。そのため、原稿通りの穿孔が出来ず、この孔版原紙を用いて良好な印刷画像が得られない場合がある。
【0004】
特許文献1は、引張強伸度特性を所定のものとすることとした感熱孔版印刷用原紙を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の実施形態は、感熱孔版原紙を保管後に用いても良好な画質の印刷画像を得ることができる感熱孔版原紙用支持体、およびそれを使用した感熱孔版原紙を提供することを一目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の実施形態は、麻パルプ及び合成繊維を含み、縦方向のJAPAN TAPPI No.71に規定される引張破断伸びに対する横方向のJAPAN TAPPI No.71に規定される引張破断伸びの比が1.00~1.40である、感熱孔版原紙用支持体に関する。
本発明の他の実施形態は、上記の感熱孔版原紙用支持体と、熱可塑性樹脂フィルムとを含む感熱孔版原紙に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の実施形態により、感熱孔版原紙を保管後に用いても良好な画質の印刷画像を得ることができる感熱孔版原紙用支持体、およびそれを使用した感熱孔版原紙を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を詳しく説明するが、本発明がこれらの実施形態に限定される
ことはなく、様々な修正や変更を加えてもよいことはいうまでもない。
【0011】
<感熱孔版原紙用支持体>
実施形態の感熱孔版原紙用支持体は、麻パルプ及び合成繊維を含み、縦方向のJAPAN TAPPI No.71に規定される引張破断伸びに対する横方向のJAPAN TAPPI No.71に規定される引張破断伸びの比が1.00~1.40である。本明細書において、長手方向を縦方向とし、長手方向と直交する方向を横方向とする。
【0012】
孔版原紙の表面、特にフィルムに凹凸が存在すると、サーマルプリンティングヘッド(TPH)を用いた製版時に、TPHとフィルムとの密着性が悪くなり、穿孔されやすいところと、穿孔され難いところが発生し、原稿通りの穿孔が出来ず、良好な印刷画像が得られない場合がある。
また、シート状態での孔版原紙の表面平滑性が優れていても、ロール状に巻き取った場合には、経時的に表面平滑性が低下して、シート状態と同様の表面平滑性が維持できない場合がある。そのため、保管後のロール状に巻かれた孔版原紙を用いて製版及び印刷を行った場合、良好な印刷画像が得られない場合がある。この理由として、ロール状に巻かれた孔版原紙では、ラミネート工程及び/又は孔版原紙をロール状に巻き取るロール加工工程で圧力を受けて圧縮された支持体の繊維が厚みを回復しようとすることで、フィルムを押し、その結果フィルムに凹凸が発生して表面平滑性の低下が起きていると推測される。特にロールの芯近傍では、巻き圧力が高く、また、厚み回復により発生した応力が芯に向かって集中するため、この現象が顕著となり、時間の経過とともに悪化する傾向がある。一方、これを避けるために、ロールの巻き圧を低くすると、製品としての取扱性が低下する。
【0013】
上述の感熱孔版原紙用支持体を用いた場合、感熱孔版原紙の保管中の経時的な表面平滑性の低下を抑制し、保管後に用いても良好な画質の印刷画像を形成することができる感熱孔版原紙を得ることができる。
【0014】
感熱孔版原紙用支持体(以下「支持体」という場合がある)は、麻パルプ及び合成繊維を含むことが好ましい。支持体は好ましくは多孔性支持体である。
支持体は、好ましくは長尺状である。支持体は、長尺の長手方向(縦方向)を搬送方向として用いることが好ましい。
【0015】
支持体の形態としては、例えば、薄葉紙、不織布、織物またはスクリーン紗等を用いることができる。
【0016】
麻パルプは、天然繊維であり、原料を蒸解及び叩解処理して得ることができる。麻パルプは、強度が高く、伸びにくいといった特徴がある。
麻パルプの原料としては、例えば、マニラ麻、ケナフ(洋麻)、サイザル麻、エクアドル麻、ジュート麻等が挙げられる。支持体には、麻パルプを1種のみ、又は2種以上を組み合わせて用いてよい。
【0017】
支持体は、麻パルプに加えて、例えば、こうぞ、みつまた等の天然繊維をさらに含んでよい。支持体には、これら麻パルプ以外の天然繊維を、1種のみ、または2種以上を組み合わせて用いてよい。
【0018】
合成繊維としては、例えばポリエステル、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリアクリロニトリル、ポリプロピレン、ポリエチレンまたはそれらの共重合体などが用いられる。これらの合成繊維は、単体で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0019】
これらの中では、強度およびもしくは耐水性の点で、ポリエステル、ポリアクリロニトリルが好ましく、例えば、ポリエステルとポリアクリルニトリルとを併用することも好ましい。ポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート、エチレンテレフタレートとエチレンイソフタレートとの共重合体、ポリエチレンナフタレート、ポリヘキサメチレンテレフタレート、ヘキサメチレンテレフタレートと1,4-シクロヘキサンジメチレンテレフタレートとの共重合体等が挙げられる。ポリエステル繊維としては、一般にポリエチレンテレフタレート系延伸ポリエステル繊維や未延伸ポリエステル繊維、ポリエチレンテレフタレート系ポリエステルを芯成分とし、テレフタル酸、イソフタル酸、エチレングリコール、ジエチレングリコールなどから構成させる非晶性共重合ポリエステルを鞘成分とするポリエステル系複合繊維などが挙げられる。
【0020】
支持体に用いられる合成繊維としては、原紙に求められる品質に応じて各種の繊維径のものを適宜使用することができ、単一の繊維径の合成繊維を用いてもよいが、2種以上の繊維径の合成繊維を併用することができる。たとえば、太繊維を配合して剛性や耐刷性能を向上させ、また、細繊維を配合して画像性を向上させてもよい。
【0021】
支持体に含まれる繊維の平均繊維径及び繊維長は、特に限定されない。
麻パルプの平均繊維径は0.1μm~60μmが好ましく、1μm~30μmがより好ましい。麻パルプの繊維長は0.1mm~15mmが好ましい。
合成繊維の平均繊維径は40μm以下が好ましく、20μm以下がより好ましく、15μm以下がさらに好ましい。合成繊維の平均繊維径は、0.1μm~40μmが好ましく、1μm~20μmがより好ましく、1μm~15μmがさらに好ましい。合成繊維の繊維長は0.1mm~5mmが好ましい。
【0022】
支持体中の麻パルプ及び合成繊維の含有量の質量比(麻パルプ:合成繊維)は、いわゆる和紙目とよばれる繊維に起因する画像のかすれの低減、及び圧力を受けてつぶれた後に厚みを回復しにくい支持体を得る観点から、25:75~50:50が好ましく、30:70~45:55がより好ましい。
【0023】
支持体には、難燃剤、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、顔料、染料、脂肪酸エステル、ワックス等の有機滑材、ポリシロキサン等の消泡剤、紙力増強剤、湿潤紙力増強剤、サイズ剤等を配合することができる。
【0024】
支持体の、縦方向のJAPAN TAPPI No.71に規定される引張破断伸び(ED1)に対する、横方向のJAPAN TAPPI No.71に規定される引張破断伸び(ED2)の比(ED2/ED1)(以下、「引張破断伸びのED2/ED1比」という場合もある。)は、製造直後の感熱孔版原紙を用いて得られた印刷物の画質、及び、保管後の感熱孔版原紙を用いて得られた印刷物の画質の向上の観点から、1.00~1.40が好ましく、1.10~1.40がより好ましく、1.20~1.40がさらに好ましく、1.20~1.35がさらに好ましい。
【0025】
支持体の引張破断伸びのED2/ED1比が1.40以下であると、縦方向に対する横方向の伸びが大きくなりすぎないため、例えば、支持体と熱可塑性樹脂フィルムを貼り合わせるラミネート工程、孔版原紙をロール状に巻き取るロール加工工程等で伸ばされたとき、ひずみを生じにくい。このため、保管後の感熱孔版原紙を用いて得られた印刷物の画質を良好にすることができる。
支持体の引張破断伸びのED2/ED1比は、1.40以下が好ましく、1.35以下がより好ましい。
【0026】
支持体の引張破断伸びのED2/ED1比が1.00以上であると、横方向に対する縦方向の伸びが大きくなりすぎないため、ひずみを生じにくく、保管後の感熱孔版原紙を用いて得られた印刷物の画質を良好にすることができる。
支持体の引張破断伸びのED2/ED1比は、1.00以上が好ましく、製造直後の感熱孔版原紙を用いて得られた印刷物の画質の向上の観点から、1.10以上がより好ましく、1.20以上がさらに好ましい。
【0027】
支持体の縦方向のJAPAN TAPPI No.71に規定される引張破断伸び(ED1)は、5.0%以下が好ましく、4.8%以下がより好ましい。支持体の縦方向のJAPAN TAPPI No.71に規定される引張破断伸び(ED1)は、保管後の感熱孔版原紙を用いて得られた印刷物の画質をさらに向上させる観点から、4.5%以下であることがさらに好ましい。
【0028】
一方、支持体の縦方向のJAPAN TAPPI No.71に規定される引張破断伸び(ED1)は、3.8%以上が好ましく、4.0%以上がより好ましい。
【0029】
支持体の縦方向のJAPAN TAPPI No.71に規定される引張破断伸び(ED1)は、例えば、3.8~5.0%が好ましく、3.8~4.8%がより好ましく、4.0~4.5%がさらに好ましい。
【0030】
支持体の横方向のJAPAN TAPPI No.71に規定される引張破断伸び(ED2)は、6.8%以下が好ましく、6.5%以下がより好ましい。
【0031】
支持体の横方向のJAPAN TAPPI No.71に規定される引張破断伸び(ED2)は、4.8%以上が好ましく、5.0%以上がより好ましい。
【0032】
支持体の横方向のJAPAN TAPPI No.71に規定される引張破断伸び(ED2)は、例えば、4.8~6.8%が好ましく、5.0~6.5%がより好ましい。
【0033】
支持体を10枚重ねた状態で測定した圧縮仕事量(以下、単に「圧縮仕事量」という場合もある。)は、1.200~1.460gf・cm/cm2であることが好ましい。
支持体は、圧縮仕事量の値が大きいほど、圧縮されやすい。支持体の圧縮仕事量を上記の範囲にすることで、インク通過性を確保しつつ、より圧縮されにくい支持体にすることができる。このため、製造直後の感熱孔版原紙を用いて得られた印刷物の画質、及び、保管後の感熱孔版原紙を用いて得られた印刷物の画質をさらに向上させやすい。
【0034】
支持体の圧縮仕事量は、1.200gf・cm/cm2以上が好ましく、1.300gf・cm/cm2以上がより好ましい。支持体の圧縮仕事量が1.200gf・cm/cm2以上であると、インク通過性がより良好に確保されて、良好な画像濃度が得られ、製造直後の感熱孔版原紙を用いて得られた印刷物の画質を向上させることができる。
【0035】
支持体の圧縮仕事量は、支持体の圧縮されにくさと、それによる、保管後の感熱孔版原紙を用いて得られた印刷物の画質の向上の観点から、1.460gf・cm/cm2以下が好ましい。
【0036】
支持体の圧縮仕事量は以下の方法により測定できるが、圧縮仕事量の測定は、例えば「風合いと衣服 要点のやさしい解説 川端季雄 繊維機械学会誌(繊維工学)Vol.33 No.2(1980年)」を参照することができる。
【0037】
支持体の圧縮仕事量の測定に用いる測定機器は、例えばカトーテック株式会社製 KES-G5圧縮試験機を用いることができるが、これ以外の測定機器であって、上記の「風合いと衣服 要点のやさしい解説 川端季雄 繊維機械学会誌(繊維工学)Vol.33 No.2(1980年)」に記載された測定方法を実現できる測定機器を用いてもよい。KES-G5圧縮試験機を用いる場合、支持体を10枚重ねた状態で、加圧板の面積2.0cm2、圧縮変形速度(加圧板下降(上昇)速度)0.02mm/sec、最大圧縮荷重300gf/cm2の条件で測定を行う。測定温度及び測定湿度は、20~30℃、50~70%RHとする。
【0038】
図1に、圧縮仕事量を求めるためのグラフを示す。
図1中、y軸方向(縦軸方向)は支持体への圧力P(gf/cm
2)を示し、図中x軸方向(横軸方向)は支持体10枚当たりの厚み(支持体10枚を重ねた厚み)T(mm)を示す。
図1中、T
0は圧力Pが50gf/cm
2である場合の支持体10枚を重ねた厚みを示し、T
Mは圧力Pが最大圧縮荷重である300gf/cm
2である場合の支持体10枚を重ねた厚みを示す。圧縮仕事量は、TがT
0からT
MにおけるPの積分値、即ち図中のaの部分の面積として算出される。
【0039】
支持体の、縦方向のJAPAN TAPPI No.71に規定される引張強さ(SD1)に対する、横方向のJAPAN TAPPI No.71に規定される引張強さ(SD2)の比(SD2/SD1)(以下、「引張強さのSD2/SD1比」という場合もある。)は、0.10~0.40が好ましく、0.20~0.40がより好ましく、0.25~0.40がさらに好ましい。
【0040】
支持体の引張強さのSD2/SD1比が大きくなると、横方向の繊維の配向が増える傾向があり、支持体の引張強さのSD2/SD1比が小さくなると、縦方向の繊維の配向が増える傾向がある。繊維の配向がどちらか一方に揃うと、インク通過性が低下する傾向がある。支持体の引張強さのSD2/SD1比が0.10~0.40の範囲では、繊維の縦方向の配向が多いため、その範囲内で引張強さのSD2/SD1比が大きくなるほど、インク通過性は向上する傾向がある。
【0041】
支持体の引張強さのSD2/SD1比は、保管後の感熱孔版原紙を用いて得られた印刷物の画質の向上の観点から、0.40以下が好ましい。支持体の引張強さのSD2/SD1比が0.40以下であると、縦方向の繊維と横方向の繊維の重なりが少ない傾向となり、厚み方向の弾性が低い傾向がある。このため、ラミネート加工やロール加工工程で支持体が一旦圧縮され、その後、感熱孔版原紙がロール状に巻かれた状態で保管された場合にも、支持体の引張強さのSD2/SD1比が0.40以下であると、厚み回復による画質劣化をさらに低減することができる。
【0042】
支持体の引張強さのSD2/SD1比は、0.10以上が好ましく、0.20以上がより好ましく、0.25以上がさらに好ましい。支持体の引張強さのSD2/SD1比が0.10以上であると、製造直後の感熱孔版原紙を用いて得られた印刷物の画質を向上させやすく、そのため、保管後の感熱孔版原紙を用いて得られた印刷物の画質も向上させやすい。
【0043】
支持体の縦方向のJAPAN TAPPI No.71に規定される引張強さ(SD1)は、0.7kN/m以上が好ましく、0.8kN/m以上がより好ましい。一方、支持体の縦方向のJAPAN TAPPI No.71に規定される引張強さ(SD1)は、1.2kN/m以下が好ましく、1.1kN/m以下がより好ましい。
例えば、支持体の縦方向のJAPAN TAPPI No.71に規定される引張強さ(SD1)は、0.7~1.2kN/m以上が好ましく、0.8~1.1kN/mがより好ましい。
【0044】
支持体の横方向のJAPAN TAPPI No.71に規定される引張強さ(SD2)は、0.1kN/m以上が好ましい。一方、支持体の横方向のJAPAN TAPPI No.71に規定される引張強さ(SD2)は、0.4kN/m以下が好ましい。
例えば、支持体の横方向のJAPAN TAPPI No.71に規定される引張強さ(SD2)は、0.1~0.4kN/mが好ましい。
【0045】
支持体を32枚重ねた状態でJIS P8117(2009)のガーレー試験機法に準じて測定した透気抵抗度(以下、単に「透気抵抗度」という場合もある。)は、0.47秒/100mL以下が好ましく、0.45秒/100mL以下がより好ましい。
支持体の透気抵抗度は、支持体を32枚重ねた状態で、測定する空気の体積を100mLとして、JIS P8117(2009)のガーレー試験機法に準じて測定した値である。
支持体の透気抵抗度が0.47秒/100mL以下であると、インク通過性がより良好に確保されて、良好な画像濃度が得られ、製造直後の感熱孔版原紙を用いて得られた印刷物の画質を向上させることができる。
一方、支持体の透気抵抗度は、好ましい強度を得る観点から、0.20秒/100mL以上であることが好ましく、0.35秒/100mL以上がより好ましい。
支持体の透気抵抗度は、例えば、0.20秒/100mL~0.47秒/100mLが好ましく、0.35秒/100mL~0.45秒/100mLがより好ましい。
【0046】
支持体の坪量は20g/m2以下が好ましく、より好ましくは5g/m2~20g/m2、さらに好ましくは5g/m2~15g/m2である。坪量が20g/m2以下であるとき、より良好なインクの通過性及び画像鮮明性が得られやすく、坪量が5g/m2以上であるとき、支持体として好ましい強度を得やすい。
【0047】
支持体の密度は、0.05~1g/cm3が好ましく、0.1~0.5g/cm3がより好ましい。
【0048】
支持体の厚さは、10μm~100μmが好ましく、20μm~75μmがより好ましい。
【0049】
支持体は、例えば、湿式抄紙法等の抄紙法で、製造することができる。湿式抄紙法では、例えば、繊維を分散およびフィルタリングした後にワイヤ(すき網)上にすくい取り、脱水、及び乾燥させて、支持体を製造することができる。支持体は、好ましくは、円網式、短網式、又は長網式抄紙機を用いて抄造される。
【0050】
また、湿式抄紙法等の抄紙法によって得られた支持体に、強度、耐刷性、寸法安定性、及び剛度付与の観点から、水溶性合成樹脂および/または水分散性樹脂を塗工することが好ましい。塗工方法については、ロールコーター、グラビアコーター、リバースコーター、バーコーター等を用いることができるが、特に限定はされない。水溶性合成樹脂または水分散性樹脂に関しては、ビスコース、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、塩化ビニル樹脂、SBR,NBR等の天然ゴム、PVA等が挙げられるが、好ましくはビスコース、またはウレタン樹脂、またはウレタン樹脂とその他樹脂との混合物が挙げられる。水溶性合成樹脂は例えば水溶液の形態で用いることができ、水分散性樹脂は例えば水分散体の形態で用いることができる。水溶性合成樹脂および/または水分散性樹脂の塗工量は、固形分で、0.01~3.0g/m2が好ましい。
水溶性合成樹脂および/または水分散性樹脂は、塗布後、加熱することが好ましい。
【0051】
このようにして得られた支持体は、好ましくは、ロール状に巻き取られる。
支持体の坪量は、抄紙時にワイヤへの繊維原料の供給量を調整することにより制御できる。
支持体の引張破断伸びのED2/ED1比及び引張強さのSD2/SD1比は、例えば、天然繊維と合成繊維の比率、叩解度合い、抄紙時の速度等を調整することにより、制御できる。
【0052】
<感熱孔版原紙>
実施形態の感熱孔版原紙は、上述の感熱孔版原紙用支持体(支持体)と、熱可塑性樹脂フィルムとを含む。この感熱孔版原紙を用いた場合、感熱孔版原紙の保管中の経時的な表面平滑性の低下を防止して、保管後に用いても良好な画質の印刷画像を形成することができる感熱孔版原紙を得ることができる。
【0053】
感熱孔版原紙は、感熱孔版原紙用支持体(支持体)と、熱可塑性樹脂フィルムとを含むが、好ましくは、感熱孔版原紙用支持体の上に熱可塑性樹脂フィルムが設けられている。
【0054】
熱可塑性樹脂フィルムに用いられる熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエステル、ポリアミド、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデンまたはその共重合体等を用いることができ、これらのうち穿孔性の点で、ポリエステル、ポリ塩化ビニリデンが好ましく、より好ましくはポリエステルである。ポリエステルとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、エチレンテレフタレートとエチレンイソフタレートとの共重合体、ポリエチレンナフタレート、ポリヘキサメチレンテレフタレート、ヘキサメチレンテレフタレートと1,4-シクロヘキサンジメチレンテレフタレートとの共重合体等が挙げられる。
【0055】
熱可塑性樹脂フィルムは、本発明の効果を阻害しない量で、難燃剤、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、顔料、染料、脂肪酸エステル、ワックス等の有機滑材あるいはポリシロキサン等の消泡剤等を含んでよい。また、熱可塑性樹脂フィルムの厚さは、原紙に要求される感度等によって適宜決定されるが、通常0.1~10μmとされ、好ましくは0.1~5μm、より好ましくは0.1~3μmである。厚さが10μm以下であるとき、より良好な穿孔性を得やすく、0.1μm以上であるとき、より良好なフィルムの製膜安定性が得られる。
【0056】
感熱孔版原紙の製造方法はとくに限定されないが、例えば、支持体と熱可塑性樹脂フィルムとを、貼り合わせる工程を含む方法等で製造することができる。支持体と熱可塑性樹脂フィルムとを貼り合わせる方法にはとくに制限はなく、例えば接着剤等を用いてもよい。支持体と熱可塑性樹脂フィルムとを接着する接着剤としては、例えば、酢酸ビニル系(酢酸ビニル樹脂等)、(メタ)アクリル系、塩化ビニル酢酸ビニル共重合系、ポリエステル系、ウレタン系などの加熱型接着剤、(メタ)アクリレート系、ポリエステル(メタ)アクリレート系、ウレタン(メタ)アクリレート系、エポキシ(メタ)アクリレート系、ポリオール(メタ)アクリレート系等の光硬化型(好ましくは紫外線硬化型)の接着剤が挙げられる。
このようにして得られた感熱孔版原紙は、好ましくはロール状に巻き取られる。
【実施例】
【0057】
以下、本発明を実施例及び比較例に基づき詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例
のみに限定されるものではない。特に断らない限り、「%」は「質量%」である。表中の
各成分の配合量も「質量%」で示す。
【0058】
<感熱孔版原紙用支持体の作製>
表1に、実施例1~5及び比較例1~2の感熱孔版原紙用支持体(支持体)の原料、及び各支持体の特性値を示す。各支持体は、表1に示される割合の原料(麻パルプ、ポリエステル繊維及びポリアクリロニトリル繊維)を含む。
各支持体は、表1に示される割合の原料を用いて、円網抄紙機で所定の坪量、引張破断伸び及び引張強さの比になるように抄造し、含浸塗工機で水分散性ウレタン樹脂の水分散体を、塗工量(固形分)1.3g/m2で、塗工して作製しロール状に巻き取った。
表1に記載の原料の詳細を下記に示す。
麻パルプ:マニラ麻パルプを適宜叩解して使用した。
ポリエステル繊維:平均繊維径7μm、繊維長3mm
ポリアクリロニトリル繊維:平均繊維径4μm、繊維長3mm
【0059】
表1に示される、支持体の引張強さ、引張破断伸び、透気抵抗度及び圧縮仕事量は次のようにして求めた。
【0060】
(標準状態)
支持体の試験用の標準状態は、JIS P8111(1998)に基づき、23±1℃、50±2%RHとした。
【0061】
(引張強さ、引張破断伸び)
引張強さ、及び引張破断伸びは、それぞれ、JAPAN TAPPI No.71に基づき測定された。より詳細には、JAPAN TAPPI No.71に基づき、支持体の縦方向の引張強さ(SD1)、及び、支持体の横方向の引張強さ(SD2)をそれぞれ測定した。表中に、支持体の引張強さのSD2/SD1比(SD2/SD1)も記載する。
また、JAPAN TAPPI No.71に基づき、支持体の縦方向の引張破断伸び(ED1)、及び、支持体の横方向の引張破断伸び(ED2)をそれぞれ測定した。表中に、支持体の引張破断伸びのED2/ED1比(ED2/ED1)も記載する。
【0062】
(透気抵抗度)
支持体の透気抵抗度は、支持体を32枚重ねた状態で、測定する空気の体積を100mLとして、JIS P8117(2009)のガーレー試験機法に準じて測定した値とした。
【0063】
(圧縮仕事量)
支持体の圧縮仕事量は、次のようにして求めた。
測定機器として、カトーテック株式会社製 KES-G5圧縮試験機を用いて、支持体を10枚重ねた状態で、加圧板の面積2.0cm
2、圧縮変形速度(加圧板下降速度)0.02mm/sec(0.002cm/sec)、最大圧縮荷重300gf/cm
2の測定条件で測定を行い、
図1に示すグラフを作製した。
図1中、y軸方向(縦軸方向)は支持体への圧力P(gf/cm
2)を示し、図中x軸方向(横軸方向)は支持体10枚当たりの厚み(支持体10枚を重ねた厚み)T(mm)を示す。
図1中、T
0は圧力Pが50gf/cm
2である場合の支持体10枚を重ねた厚みを示し、T
Mは圧力Pが最大圧縮荷重である300gf/cm
2である場合の支持体10枚を重ねた厚みを示す。圧縮仕事量は、TがT
0からT
MにおけるPの積分値、即ち図中のaの部分の面積として算出した。
【0064】
<感熱孔版原紙の製造及び画質の評価>
各実施例及び比較例の感熱孔版原紙を以下のように作製した。
ポリエステルフィルム(二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム、厚み2μm)の片面にUV硬化型接着剤(ウレタン(メタ)アクリレート系)を、0.45g/m2の量で塗布し、その上に、上記で作製した支持体を積層した後、ポリエステルフィルム側から紫外線照射装置(オーク製作所製OHD-320M)を用いて紫外線を照射して、UV硬化型接着剤を硬化させ、得られた孔版原紙をロール状に巻き取った。このようにして、長さ108m、幅320mmのロール状に巻かれた孔版原紙を作製した。
作製直後の感熱孔版原紙、及び、製造後6か月保管後の感熱孔版原紙のそれぞれについて、製版印刷機(「リソグラフMD6650W」、理想科学工業株式会社製)により製版及び印刷を行い、得られた印刷物の画質を、目視により下記の評価基準で評価した。表1中、製造直後の感熱孔版原紙の画質評価結果を「初期画質」として示す。また、製造後6か月保管後の感熱孔版原紙の画質評価結果を「保管後画質」として示す。
【0065】
AA:かすれも白点もほとんどない
A:かすれ及び/又は白点が僅かにある
B:かすれ及び/又は白点が少しある
C:かすれ及び/又は白点が多くある
【0066】
【0067】
表1に示すように、縦方向のJAPAN TAPPI No.71に規定される引張破断伸び(ED1)に対する横方向のJAPAN TAPPI No.71に規定される引張破断伸び(ED2)の比(ED2/ED1)(引張破断伸びのED2/ED1比)が1.00~1.40の範囲にある支持体を用いた実施例1~5において、製造後6か月保管後の感熱孔版原紙を用いて製版及び印刷を行った場合、比較例に対して優れた画質の印刷画像を得ることができた。