(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-08
(45)【発行日】2023-06-16
(54)【発明の名称】空調の還気口構造およびこれを備えた空調システム
(51)【国際特許分類】
F24F 5/00 20060101AFI20230609BHJP
F24F 7/10 20060101ALI20230609BHJP
F24F 13/10 20060101ALI20230609BHJP
【FI】
F24F5/00 K
F24F7/10 101Z
F24F13/10 E
(21)【出願番号】P 2019179243
(22)【出願日】2019-09-30
【審査請求日】2022-07-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000001834
【氏名又は名称】三機工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000512
【氏名又は名称】弁理士法人山田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小川 卓巳
(72)【発明者】
【氏名】狩野 慎
【審査官】安島 智也
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-054606(JP,A)
【文献】特開2014-078118(JP,A)
【文献】実開昭60-050738(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F24F 5/00
F24F 7/10
F24F 13/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
山型に形成され、斜面に固定側通気口を設けた固定板と、
山型に形成され、前記固定板に折目同士が離間しつつ平行に重なり、且つ裾部が前記固定板の斜面に接するよう重ねられると共に、前記固定板における固定側通気口と対応する斜面上の位置に可動側通気口を設けた可動板と、
前記固定板の折目に沿って設けられたスライド孔と、
前記可動板の折目における前記スライド孔に対向する位置に設けられた取付孔と、
前記スライド孔と前記取付孔を貫通し、前記可動板を前記固定板に対して締め込む締結具と
を具備する開閉機構を備え、
対象室の天井構成のために上階床スラブ又は屋根から吊られて設置される天井構造材に固定板の斜面裾の端部を載置して対象室に設置されたこと
を特徴とする空調の還気口構造。
【請求項2】
前記締結具は、前記開閉機構の下側に突出する操作つまみを備え、該操作つまみにより前記可動板の締め込みおよびスライドを、前記天井構成の下面から対象室側から操作できるよう構成されていること
を特徴とする請求項1に記載の空調の還気口構造。
【請求項3】
前記固定板の折目に沿った方向における端面を塞ぐ止め板を備えたこと
を特徴とする請求項1または2に記載の空調の還気口構造。
【請求項4】
前記固定板の斜面裾の端部を載置する天井構造材は、平行な2本であること、
を特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の空調の還気口構造。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の空調の還気口構造を備えたこと
を特徴とする空調システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天井の構造体を下から見えるよう吊ったシステム天井を有する室を空調する場合においての還気を取り込む還気口の構造、およびこれを備えた空調システムに関する。
【背景技術】
【0002】
図7は、室内を温調するために空調機からの給気を室内へ導入後、再び空調機へ戻す還気を天井から吸い込む空調システムの一例を示しており、最近の電算室の空調やサーバ室の空調の例では、床吹出し空調機の還気となるように、天井を張って還気チャンバとして天井懐を利用し、空調機に戻す形式がよく見られる。
図7ではさらに、サーバ室等で高密度サーバラックを列にして室内に設置する場合によく適用されるホットアイル・コールドアイル式と呼ばれる型式の空調システムを例示している。機器室1(対象室)内には、ブレード型サーバなどの機器2を収めた複数のラック3が紙面と直交する方向に列をなして設置され、該複数のラック3のなす列(ラック列4と称する)同士の間には通路5が形成されている。ここでは、ラック3の列が機器室1内に計4列形成され(ラック列4a~4d)、該ラック列4a~4dの前後及び間に通路5が計5本(通路5a~通路5e)形成されている場合を例示している。
【0003】
各ラック列4に収容された機器2は、互いに前面または背面同士が向かい合うよう、各ラック3に設置される。すなわち、ラック列4a,4cに収容された機器2は図中右側に前面を向ける一方、ラック列4b,4dに収容された機器2は図中左側に前面を向けて配置される。これにより、通路5a,5c,5eには機器2の背面が面し、通路5b,5dには機器2の前面が面している。
【0004】
機器室1の床6は上げ床として構成され、床6の下方には床下空間7が形成されている。上記ラック列4や通路5は、床6上に設置されている。また、機器室1内には、さらに空調機8が設置されており、ここから床下空間7へ空調空気である冷気A1が送り込まれるようになっている。床6のうち、通路5b,5dに面する位置には冷気A1の給気口としての床開口9が設けられている。そして、空調機8から床下空間7へ送り込まれた冷気A1は、床開口9から通路5b,5dへ送り出されるようになっている。
【0005】
一方、機器室1内の天井10には、通路5a,5c,5eに面する位置に還気口としての天井開口11が設けられている。床開口9を通って通路5b,5dに空調機8内蔵ファンの静圧で送り込まれた冷気A1は、各ラック3に備えたファン(図示せず)、あるいは各機器2に内蔵されたファン(図示せず)の駆動により、各通路5b,5dに面する各ラック3へ吸い込まれ、該各ラック3に配置された各機器2の内部を通過する間に機器2内のCPUなどから発生する熱を受け取って暖気A2となり、通路5a,5c,5eへ流れる。通路5a,5c,5e内の暖気A2は、上方に設けられた天井開口11から、天井10の上の天井上空間12へ還気として吸い込まれる。天井上空間12内の暖気A2は、天井上空間12を還気チャンバとして空調機8内蔵のファンの吸込み圧により空調機8へ送られて冷却され、再び冷気A1として空調機8内蔵のファンにて送り出される。
【0006】
このように、機器室1では、暖気A2の流通するホットアイルとして設定された通路5a,5c,5eと、冷気A1の流通するコールドアイルとして設定された通路5b,5dとを、各ラック列4を挟んで隣接するよう交互に配置し、ホットアイル5a,5c,5eとコールドアイル5b,5dの間に位置する各ラック3を通してコールドアイル5b,5dからホットアイル5a,5c,5eへ空気を流通させ、各ラック3に収容された機器2の排熱を回収するようにしている。
【0007】
尚、ここでは床6上にフロアマウント式の空調機8を備え、ここから床下空間7を通してコールドアイル5b,5dに冷気A1を供給する場合を例に説明したが、ホットアイル・コールドアイル式の空調システムとしては、この他にも種々の型式が存在する。例えば、床を上げ床としない型式や、空調機を別の位置に備える型式等がある。
【0008】
この種の空調システムに関する技術を記載した文献としては、例えば、下記の特許文献1等がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述の如き空調システムでは、機器2の冷却効率を調整するために天井開口11における還気(暖気A2)の吸込量を操作する場合がある。特に室内に分布して配置されている機器2毎の熱発生量の違いによる室内熱発生分布の偏りについて、熱の発生量の多い箇所により多い冷気A1を送り届けるためには、その上方の還気の吸込み量の分布を調整する必要がある。ラック3に収容された機器2から発生する熱は必ずしも一様ではないので、効率的な冷却を行うためには、発熱量の大きい機器2に対し冷気A1を多めに供給する必要がある。そして、
図7に示したような空調システムにおいて、ある機器2に対する冷気A1の供給量は、その近傍に位置する天井開口11からの暖気A2の吸込量によって左右される。コールドアイルに冷気A1が概ね均等に分布している場合、ある機器2に対して供給される冷気A1の量は、その機器2を挟んで反対側のホットアイルにおける暖気A2の吸込量に応じて変化するからである。
【0011】
暖気A2の吸込量は、各ホットアイル5a,5c,5eに設けられた天井開口11の開口面積によって調整することができる。すなわち、開口面積を調整可能な機構を各天井開口11に設置しておき、発熱量の大きい機器2の近傍では天井開口11の開口面積を大きくし、発熱量の小さい機器2の近傍では開口面積を小さく設定すればよい。
【0012】
従来、このような開口面積の調整のための機構としては、例えば格子状の羽根を有するユニバーサル型グリル制気口がよく用いられ、その中でも制気口の長手を水平に短手を鉛直に立てた場合羽根が水平に向くH型(ホリゾンタル)ユニバーサル型グリルと称される製品が一般的に用いられている。平たい箱状の筐体の下面を開口(還気口)とし、該還気口の位置にルーバを備えるほか、還気口から見て奥側にあたる上面に開閉可能なシャッタを設けた機構である。しかしながら、こうした器具は鋼板の折り曲げ加工に費用を要するため高価である。特に、冷却のための要求風量が大きいサーバルーム等では多数のH型ユニバーサル型グリルが必要で、設置に莫大な費用が発生する。また、H型ユニバーサル型グリルは重量が大きく、天井10への設置に制気口のための単独吊り構造等が必要となって工費や工期が嵩む一方、耐荷重を満たすだけの台数しか設置できないため、天井10の構造によっては空調システム全体としての還気口の開口面積を稼ぐことが難しいという問題を有していた。また、奥側にあるシャッタを開閉する操作も面倒である。
【0013】
本発明は、斯かる実情に鑑み、軽量の開閉機構により、開度の調整を簡便に行い得る空調の還気口構造およびこれを備えた空調システムを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、山型に形成され、斜面に固定側通気口を設けた固定板と、山型に形成され、前記固定板に折目同士が離間しつつ平行に重なり、且つ裾部が前記固定板の斜面に接するよう重ねられると共に、前記固定板における固定側通気口と対応する斜面上の位置に可動側通気口を設けた可動板と、前記固定板の折目に沿って設けられたスライド孔と、前記可動板の折目における前記スライド孔に対向する位置に設けられた取付孔と、前記スライド孔と前記取付孔を貫通し、前記可動板を前記固定板に対して締め込む締結具とを具備する開閉機構を備え、対象室の天井構成のために上階床スラブ又は屋根から吊られて設置される天井構造材体に固定板の斜面裾の端部を載置して対象室に設置されたことを特徴とする空調の還気口構造にかかるものである。
【0015】
本発明の空調の還気口構造において、前記締結具は、前記開閉機構の下側に突出する操作つまみを備え、該操作つまみにより前記可動板の締め込みおよびスライドを、前記天井構成の下面から対象室側から操作できるよう構成されていることが好ましい。
【0016】
本発明の空調の還気口構造は、前記固定板の折目に沿った方向における端面を塞ぐ止め板を備えていてもよい。
【0017】
本発明の空調の還気口構造は、前記固定板の斜面裾の端部を載置する天井構造材は、平行な2本であってもよい。
【0018】
また、本発明は、上述の空調の還気口構造を備えたことを特徴とする空調システムにかかるものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明の空調の還気口構造およびこれを備えた空調システムによれば、軽量の開閉機構により、開度の調整を簡便に行い得るという優れた効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の実施に用いる開閉機構の形態の一例を示す斜視図である。
【
図2】本発明の実施に用いる開閉機構の形態の一例を示す分解斜視図である。
【
図3】本発明の実施に用いる開閉機構の形態の一例を示す正断面図である。
【
図4】本発明の実施による空調の還気口構造を適用した天井の形態の一例を示す斜視図である。
【
図5】本発明の実施による空調の還気口構造を適用した天井の形態の別の一例(第二実施例)を示す斜視図である。
【
図6】本発明の実施による空調の還気口構造を適用した天井の形態の別の一例(第三実施例)を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照して説明する。
【0022】
図1~
図3は、本発明の実施に用いる開閉機構の形態の一例を示している。ここに示す開閉機構13は、例えば
図7に示したような空調システムの天井開口11に適用することができる。尚、以下では
図7に示す空調システムに本発明を適用した場合を具体例の一つとして想定し、必要に応じて
図7をも参照しながら説明するが、このほかに、天井の還気口において開度の調整を要する空調システムであれば本発明を適用することが可能である。
【0023】
開閉機構13は、二枚の板状の金属製の部材である固定板14、可動板15を備えている。固定板14は、鈍角をなして山型に折れ曲がった形に形成された板状の部材であり、折目を上側とし、両斜面の下辺にあたる部分(以下、この部分を固定板14の裾部14aと称する)を天井開口11(
図3および
図7参照)の縁に載置する形で該天井開口11に支持されるようになっている。
【0024】
固定板14の斜面には、複数の通気口(固定側通気口)14bが開口している。また、固定板14の上端をなす折目に沿って、長孔状のスライド孔14cが開口している。
【0025】
可動板15は、鈍角をなして山型に折れ曲がった形に形成された板状の部材であり、両斜面のなす角は固定板14より小さく設定され、また、前後方向(折目に沿った方向)および左右方向(折目に直交する水平方向)の寸法は固定板14より小さく設定されている。そして、可動板15は、折目が固定板14の折目と平行に重なるように、且つ両斜面の下辺にあたる裾部15aが固定板14の斜面に接する形で、固定板14の上側に重ねられる。可動板15の斜面には、固定板14の斜面に設けられた固定側通気口14bに対応する位置に、複数の通気口(可動側通気口)15bが開口している。
【0026】
可動板15の折目には、固定板14のスライド孔14cと対向する位置に取付孔15cが開口しており、
図3に示すように、上下に重ねられた可動板15の取付孔15cと、固定板14のスライド孔14cとを貫通するようにロックナット等である締結具16が取り付けられ、この締結具16を上下に締め込むことにより、可動板15が固定板14に対し締め込まれつつ支持されるようになっている。可動板15の両斜面のなす角度は、上述の如く固定板14の両斜面のなす角度より小さく設定されており、且つ左右方向の寸法は固定板14より小さく設定されているので、固定板14の上に可動板15を重ねると、
図3に示すように可動板15の裾部15aが固定板14の斜面に接し、且つ可動板15の折目は固定板14の折目より上方に位置する。そして、可動板15の取付孔15cと、固定板14のスライド孔14cを貫通する締結具16を上下に締め込むと、可動板15の裾部15aを支点として、可動板15の折目が固定板14の折目に近づく向きに、可動板15の折目に対して力が加えられる。これにより、可動板15は両斜面が互いに広がる向きに変形させられ、元の形状に戻る向き(両斜面が互いに近づく向き)の弾発力が発生する。この弾発力により、可動板15は固定板14に対し押さえ付けられるように接触する。
【0027】
締結具16の下部には、固定板14の折目から開閉機構13の下側へ突出するように操作つまみ16aが設けられており、この操作つまみ16aを天井構成の下面の室内側から把持し、スライド孔14cに沿ってスライドさせることで、可動板15を固定板14に対し折目方向に沿って動かすことができるようになっている。こうして固定板14と可動板15の相互間の位置を動かすと、固定側通気口14bに対する可動側通気口15bの位置が変動し、これにより、開閉機構13全体としての開口面積を調整することができる。すなわち、固定側通気口14bと可動側通気口15bの重なりが大きければ開口面積は大きく、固定側通気口14bと可動側通気口15bの重なりが小さければ開口面積は小さくなる。このような開閉機構13を、
図7に示す如き空調システムの天井開口11に設ければ、操作つまみ16aをスライドさせるだけで簡単に天井開口11の開口面積を変更し、近傍に位置する機器2の冷却量を調整することができる。
【0028】
ここで、締結具16の締め込み量は、この操作つまみ16aによっても操作できるようになっている。よって、締結具16を一旦締め込んで可動板15を固定板14に対し固定した後、開口面積を変更したい場合には、固定板14の下側から操作つまみ16aを操作して締め込みを緩めたうえで可動板15をスライドさせて開口面積を調整し、その後、操作つまみ16aを再び操作して締め込めばよい。
【0029】
また、ここに示した開閉機構13においては、可動板15を固定板14に対し弾発力を利用して押し付けるようにしているが、これには可動板15の振動を抑制する作用がある。空調システムの運転においては、システムを構成する機器の稼働によりしばしば振動が生じる場合があるが、ここで仮に、可動板15が固定板14に対し単に重ねられたような構造を採用した場合、振動によって可動板15と固定板14の間に異音が発生したり、両者の接続が緩んだり、両者に位置ずれが生じて開口面積が変わってしまうといった事態が生じ得る。しかしながら、上に説明したように可動板15を弾発力を利用して固定板14に押しつけるようにすれば、振動が抑え込まれ、異音や緩み、位置ずれといった問題の発生は未然に防止される。一方、可動板15が固定板14に対し完全に固定されるわけではなく、操作つまみ16aを用いて締結具16による締め込みを適時に操作できるので、開度調整の操作が困難になることもない。
【0030】
尚、図示は省略するが、固定板と可動板の重なり順は逆とし、可動板を固定板の下側に設けることも可能である。その場合、固定板の両斜面のなす角度より、可動板の両斜面のなす角度を大きくすればよい。固定板の折目と可動板の折目を締結具により上下に締め込むと、可動板の両斜面が互いに近づく向きに可動板が変形させられ、元の形状に戻る向き(両斜面が互いに離れる向き)の弾発力が発生する。
【0031】
以上のような開閉機構13が設けられる天井10および天井開口11の形態の一例を
図4に示す。ここに示した例の場合、天井10はグリッド式のシステム天井として構成されており、野縁である天井構造材10aを縦横にあるいは縦に組んでグリッド10bを形成し(縦横の場合は天井構造材10aでグリッドを、縦の場合は天井構造材10aと天井パネル側辺とで囲われるグリッドをそれぞれ示し)、該グリッド10b毎に、天井パネルやその他の天井設備機器を嵌め込むように設置できるようになっている。天井構造材10aは、例えばTバー等の名称でシステム天井用の部材として販売されている建築材であり、吊具10cにより上階床スラブ又は屋根から吊られて天井下地を構成し、グリッド10bに設置された天井パネルやその他の器具類ごと天井10全体を支持するようになっている。
【0032】
そして、開閉機構13における固定板14の裾部(斜面裾)14aの端部を、平行な2本(複数本)の天井構造材10aに載置し、機器室(対象室)1に設置するようになっている。また
図1~
図3に示したような開閉機構13の前後左右の寸法を、グリッド10bにちょうど収まるように設定することで、開口面積の調整機能を備えた開閉機構13を、
図4に示す如き構造の天井10に簡便に設置することができる。
【0033】
ここで、開閉機構13を天井10に設置するにあたり、追加の吊具等は不要である。グリッド10bに何らかの器具類を設置する場合、該器具類の重量を含めた天井10の重量が吊具10cの耐荷重を越えるようであれば、前記器具類を直接吊り下げる吊具等(図示せず)を別途備える必要があるが、
図1~
図3に示したような開閉機構13の場合、金属板を2枚重ねただけの軽量な器具であるため、吊具等の追加が必要となるような心配はない。また、耐荷重の小さい構造の天井10であっても多数の開閉機構13を設置することができるので、空調システム全体としての還気口の開口面積を容易に確保することができる。
【0034】
また、上述の如き開閉機構13は、2枚の板材を山型に形成し、通気口やスライド孔、取付孔を設けるだけで安価且つ簡単に製造でき、設置に要するコストが非常に小さい。さらに、複数の開閉機構13を運搬するにあたっては、固定板14同士、可動板15同士を重ねて梱包すればコンパクトにまとめることができるので、搬送時の体積を小さくし、運搬にかかる手間や費用をも低減できる。
【0035】
尚、山型の形状をなす固定板14や可動板15を、
図4に示す如く天井構造材10aにより構成されるグリッド10bに設置する場合、固定板14の裾部14aの端部は天井構造材10aに隙間なく接触させることができるが、折目と直交する2辺に関しては天井構造材10aに対して浮き上がってしまう。ここで、
図3に示すように、天井構造材10aの裾部14aの端部を載置する面から上端までの高さが十分あれば、天井構造材10a自体によって前記端面が塞がれるが、天井構造材10aの高さが十分でない場合には、前記端面に空気の流通可能な隙間が生じてしまい、固定板14と可動板15の重なりによる開度調整がうまく機能しない可能性が考えられる。このような場合、例えば
図1、
図2に一点鎖線にて示すように、固定板14の折目と直交する辺に沿って位置する端面を塞ぐ止め板17を別途設けると良い。
【0036】
止め板17は、固定板14の折目に沿った方向における両端面を塞ぐ部材である。止め板17は、少なくとも固定板14の前記端面における両斜面に挟まれた鈍角三角形状の部分を覆えば十分であるが、両斜面より上方まで伸びていてもかまわない。前記端面に、このような止め板17を設けておけば、前記端面を通じた空気の流通を確実に塞いで良好な開度調整を実現することができる。
【0037】
尚、固定板14および可動板15の斜面の傾斜角は、説明の都合により、
図1~
図3では大きめ(斜面同士のなす角度は小さめ)に図示しているが、実際には可動板15の適当な弾発力が得られる範囲で、傾斜角をなるべく小さめに(斜面同士のなす角度を180°に近く)設定することが好適である。傾斜角が小さければ、それだけ開閉機構13全体の高さが小さく、折目に直交する端面の面積が小さくなり、外端面を通じた空気の流通を抑えることができる。また、固定板14の斜面と、可動板15の斜面がなす角度の差も、可動板15の適当な弾発力が得られる範囲で、なるべく小さく設定すべきである。固定板14と可動板15を近接させて固定板14と可動板15の間の隙間をなるべく狭くし、この間における空気の流通を抑え、開口面積による流量の調整をうまく機能させるためである。
【0038】
図5は本発明の第二実施例として、
図4とは異なる構造の天井10に開閉機構13を設けた場合を示している。ここに示した例では、天井構造材10aはグリッドを構成せず、平行に渡された天井構造材10aの間に天井パネルや、その他の機器類が設置される。このような構造の天井10に開閉機構13を設ける場合、長手方向(天井構造材10aの延びる方向)に固定板14や可動板15の折目が沿うように開閉機構13を配列すれば、
図1、
図2に示すような止め板17は不要である。
【0039】
また、
図6は本発明の第三実施例として、さらに別の構造の天井10に開閉機構13を設けた場合を示している。ここに示した天井10の場合、天井構造材10aが縦横に配されているが、縦向きの天井構造材10aがなす平面と、横向きの天井構造材10aがなす平面が一致しておらず、下側にあたる天井構造材10aの間に天井パネル等が嵌め込まれている。このような構造の天井10の場合、例えばここに示すように、下側にあたる天井構造材10aに直交するように補助構造材10dを張り渡して天井構造材10aと共に矩形の枠を形成し、ここに適当な寸法に設定した開閉機構13を設置することができる。また、必要に応じて止め板17(
図1、
図2参照)を備えてもよい。尚、吊下強度に不安がある場合には、補助構造材10dや付近の天井構造材10aに、図示しない吊具等を別途追加してもよい。このように、開閉機構13は種々の構造の天井10に設置することができる。
【0040】
以上のように、上記した実施例の空調の還気口構造は、山型に形成され、斜面に固定側通気口14bを設けた固定板14と、山型に形成され、固定板14に折目同士が離間しつつ平行に重なり、且つ裾部15aが固定板14の斜面に接するよう重ねられると共に、固定板14における固定側通気口14bと対応する斜面上の位置に可動側通気口15bを設けた可動板15と、固定板14の折目に沿って設けられたスライド孔14cと、可動板15の折目におけるスライド孔14cに対向する位置に設けられた取付孔15cと、スライド孔14cと取付孔15cを貫通し、可動板15を固定板14に対して締め込む締結具16とを具備する開閉機構13を備え、機器室(対象室)1の天井構成のために上階床スラブ又は屋根から吊られて設置される天井構造材10aに固定板14の裾部(斜面裾)14aの端部を載置して機械室(対象室)1に設置されている。このようにすれば、固定板14と可動板15の相互間の位置を動かすことで、固定側通気口14bに対する可動側通気口15bの位置が変動し、これにより、開閉機構13全体としての開口面積を調整することができる。また、可動板15を固定板14に対し弾発力を利用して押し付けることにより、振動を抑え、異音や緩み、位置ずれといった問題を防止することができる。また、開閉機構13を軽量とし、空調システム全体としての還気口の開口面積を容易に確保することができる。また、開閉機構13は、安価且つ簡単に製造でき、設置に要するコストが小さいうえ、コンパクトに梱包することができるので、搬送時の体積を小さくし、運搬にかかる手間や費用をも低減できる。
【0041】
また、実施例の空調の還気口構造において、締結具16は、開閉機構13の下側に突出する操作つまみ16aを備え、該操作つまみ16aにより可動板15の締め込みおよびスライドを、天井構成の下面から機械室側(対象室側)から操作できるよう構成されている。このようにすれば、開閉機構13の下側から操作つまみ16aを操作することで、開閉機構13全体としての開口面積を簡便に調整することができる。
【0042】
また、実施例の空調の還気口構造は、固定板14の折目に沿った方向における端面を塞ぐ止め板17を備えてもよく、このようにすれば、前記端面を通じた空気の流通を確実に塞いで良好な開度調整を実現することができる。
【0043】
また、実施例の空調の還気口構造は、固定板14の裾部(斜面裾)14aの端部を載置する天井構造材10aは、平行な2本であってもよく、このようにすれば、開閉機構13を簡便に設置することができるので、設置に要するコストを小さくできる。
【0044】
また、上記実施例は、上述の空調の還気口構造を備えている。
【0045】
したがって、上記各実施例によれば、軽量の開閉機構により、開度の調整を簡便に行い得る。
【0046】
尚、本発明の空調の還気口構造およびこれを備えた空調システムは、上述の実施例にのみ限定されるものではない。例えば、上述の実施例では、ホットアイル・コールドアイル式の空調システムに対して本発明を適用した場合を例示したが、天井の還気口において開度調整を要する空調システムであれば、空調システムの型式あるいは空間の種類を問わず本発明を適用することができる。例えば、オフィスの天井に上述の如き還気口構造を設けてもよい。対象室は機械室に限定されるものでなく、他の室内でもよい。その他、本発明を実施するにあたっては、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0047】
1 機械室(対象室)
13 開閉機構
14 固定板
14a 裾部(斜面裾)
14b 固定側通気口
14c スライド孔
15 可動板
15a 裾部
15b 可動側通気口
15c 取付孔
16 締結具
16a 操作つまみ
17 止め板