(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-08
(45)【発行日】2023-06-16
(54)【発明の名称】電気機械変換器および電子時計
(51)【国際特許分類】
H02N 1/00 20060101AFI20230609BHJP
【FI】
H02N1/00
(21)【出願番号】P 2019202593
(22)【出願日】2019-11-07
【審査請求日】2022-05-20
(31)【優先権主張番号】P 2018248242
(32)【優先日】2018-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001960
【氏名又は名称】シチズン時計株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100114018
【氏名又は名称】南山 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100180806
【氏名又は名称】三浦 剛
(74)【代理人】
【氏名又は名称】萩原 良一
(72)【発明者】
【氏名】北嶋 泰夫
(72)【発明者】
【氏名】下田 健次
(72)【発明者】
【氏名】坂田 新之介
(72)【発明者】
【氏名】徳永 大介
【審査官】宮崎 賢司
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/146483(WO,A1)
【文献】特開2005-328697(JP,A)
【文献】特開2000-098062(JP,A)
【文献】国際公開第2009/084132(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/146806(WO,A1)
【文献】特開2018-157663(JP,A)
【文献】特開2017-069999(JP,A)
【文献】実開昭52-011507(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02N 1/00
G04G 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子機器に対して着脱可能な電気機械変換器であって、
第1の受け板と、
第2の受け板と、
前記第1および第2の受け板の間に配置された回転軸の周りに回転する回転部材と、
前記回転部材に対向して前記第1および第2の受け板の間に配置された固定基板と、
前記回転部材の前記固定基板との対向面に、前記回転部材の回転方向に間隔を空けて配置された帯電部と、
前記固定基板の前記回転部材との対向面に配置された対向電極と、
前記第1および第2の受け板の少なくとも一方に配置された、前記回転軸の摺動性を調整するためのあがき調整部と、
前記回転軸に連結された輪列と、
前記第1および第2の受け板の間に配置された第3の受け板と、を有し、
前記輪列は、前記電子機器からの電力により前記回転部材が回転することで得られる動力を前記電子機器に伝達するか、または前記電子機器の姿勢変化により得られる動力を前記回転部材に伝達
し、
前記輪列は前記第1および第3の受け板の間に配置され、前記回転部材および前記固定基板は前記第2および第3の受け板の間に配置されている、
ことを特徴とする電気機械変換器。
【請求項2】
前記あがき調整部は、
前記回転軸の長手方向における前記回転軸の位置を調整するためのあがき調整ねじと、
前記あがき調整ねじを取り囲んで配置され、前記あがき調整ねじが組み込まれることで形成されたねじ山により前記あがき調整ねじを固定する樹脂部と、
を有する、請求項1に記載の電気機械変換器。
【請求項3】
前記あがき調整部は前記第1および第2の受け板の両方に配置されている、請求項1または2に記載の電気機械変換器。
【請求項4】
前記輪列は、前記回転軸とは異なる第2の回転軸の周りに回転し、
前記第2の回転軸は、前記第1および第3の受け板に軸支され、平面視で前記回転部材の回転領域に重なる位置に配置されている、請求項
1~3のいずれか一項に記載の電気機械変換器。
【請求項5】
前記回転部材の回転軸は、前記第3の受け板を貫通し、前記第1および第2の受け板に軸支されている、請求項
1~4のいずれか一項に記載の電気機械変換器。
【請求項6】
前記第2および第3の受け板の間において前記回転部材を挟んで前記固定基板とは反対側に配置された第2の固定基板と、
前記回転部材の前記第2の固定基板との対向面に、前記回転方向に間隔を空けて配置された第2の帯電部と、
前記第2の固定基板の前記回転部材との対向面に配置された第2の対向電極と、
をさらに有する、請求項
1~5のいずれか一項に記載の電気機械変換器。
【請求項7】
前記回転部材の周囲を取り囲みかつ前記固定基板および前記第2の固定基板の間に挟まれた少なくとも一部が透光性のスペーサをさらに有し、
前記第1および第3の受け板の側方から前記スペーサを通して前記回転部材を視認可能である、請求項
6に記載の電気機械変換器。
【請求項8】
請求項
1~7のいずれか一項に記載の電気機械変換器が組み込まれた電子時計であって、
極性が交互に切り替わる電圧を前記対向電極に印加して前記帯電部と前記対向電極との間で発生する静電気力により前記回転部材および前記輪列を回転させるための回路を含む回路基板と、
前記輪列に連結し、前記回転部材の回転による動力を受けて指針を駆動するムーブメントと、
を有することを特徴とする電子時計。
【請求項9】
請求項
1~7のいずれか一項に記載の電気機械変換器が組み込まれた電子時計であって、
重量バランスに偏りがあり、外部から働く力により回転する回転錘と、
前記回転錘の回転エネルギーにより前記回転部材を回転させたときに前記帯電部と前記対向電極との間の静電誘導により発生する電力を蓄積するための回路を含む回路基板と、
蓄積された前記電力を用いて指針を駆動するムーブメントと、を有し、
前記輪列が前記回転錘の回転軸に直接または間接に連結されていることを特徴とする電子時計。
【請求項10】
前記回路基板を前記電子時計の裏蓋に接地するための導通部材であって、
前記第3の受け板に配置された剛体部と、
前記電子時計の内部の外周側において前記剛体部から前記裏蓋に延びる腕部と、
前記剛体部から前記回路基板の導体部に延び前記回路基板を押さえる保持導通部と、
を有する導通部材をさらに有する、請求項
8または9に記載の電子時計。
【請求項11】
前記剛体部は前記第3の受け板にねじで固定され、
前記第3の受け板、ならびに前記第3の受け板の表面上で突出する前記剛体部および前記ねじの頭部は、前記電子時計の厚さ方向において、前記回路基板の前記裏蓋との対向面よりも前記裏蓋から離れた位置にある、請求項
10に記載の電子時計。
【請求項12】
前記ねじは、前記導通部材を前記電気機械変換器に固定するとともに、前記電気機械変換器を前記ムーブメントに固定している、請求項
11に記載の電子時計。
【請求項13】
電子機器に対して着脱可能な電気機械変換器であって、
第1の受け板と、
第2の受け板と、
前記第1および第2の受け板の間に配置された回転軸の周りに回転する回転部材と、
前記回転部材に対向して前記第1および第2の受け板の間に配置された固定基板と、
前記回転部材の前記固定基板との対向面に、前記回転部材の回転方向に間隔を空けて配置された帯電部と、
前記固定基板の前記回転部材との対向面に配置された対向電極と、
前記第1および第2の受け板の少なくとも一方に配置された、前記回転軸の摺動性を調整するためのあがき調整部と、
前記回転軸に連結された輪列と、
前記第1および第2の受け板の間に、前記回転部材の周囲を取り囲むように配置され、周方向の少なくとも一部が透光性を有するスペーサと、を有し、
前記輪列は、前記電子機器からの電力により前記回転部材が回転することで得られる動力を前記電子機器に伝達するか、または前記電子機器の姿勢変化により得られる動力を前記回転部材に伝達し、
側方から前記スペーサを通して前記回転部材を視認可能である、
ことを特徴とする電気機械変換器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気機械変換器および電子時計に関する。
【背景技術】
【0002】
相対移動する帯電部と対向電極との間の静電誘導により発電する発電器や、帯電部と対向電極との間で発生する静電気力により駆動力を得るモータなどの電気機械変換器が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、電池ケース内に発電部と電池部とが収納された電池装置が記載されている。発電部は、平板状の基板と、基板の平面に対面して回転する回転部材と、回転部材にその回転中心部から放射状に形成された放射部を備えた第1電極と、第1電極の放射部と対向するように平板状の基板上に形成された放射部を備えた第2電極と、第1電極と第2電極との一方に設けられた電荷保持体とを備える。電池部は、第1電極と第2電極との相対的な回転により発生する電荷を蓄電する蓄電部を備える。
【0004】
特許文献2には、ハウジングと、ハウジングに固定された第1基板と、ハウジングに回転自在に軸支された軸を有する円板状の第2基板と、帯電膜と、対向電極と、帯電膜および対向電極間で発生した電力を出力する出力部とを有する静電誘導型発電器が記載されている。この発電器では、対向電極は第1基板の第1対向面に設置され、帯電膜は第1対向面に対向する第2基板の第2対向面に設置され、第2基板の第2対向面には、所定角度毎に、帯電膜と、帯電膜が設置されていない間隔部とが交互に配置され、第1基板、帯電膜、第2基板、対向電極および出力部からなる1組の発電部が複数組設置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2010-279201号公報
【文献】特開2017-069999号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来、こうした電気機械変換器を有する電子時計などの電子機器では、電気機械変換器の固定基板や回転部材、回転軸、電子機器との間で動力を伝達する輪列などは、製造時に電子機器の筐体内で直接組み立てられている。しかしながら、これらの部材を電子機器内に直接組み立てるのでは、組立て時に、例えば基板の反りや軸振れによる回転部材と固定基板とのスレなどを確認することが難しく、作業性が悪くなる。帯電部と対向電極との間の静電的な相互作用を利用する電気機械変換器では、帯電部と対向電極が配置される回転部材と固定基板とを近接させてその隙間を高精度に調整することが重要であるため、作業性の低さは品質の低下につながるおそれがある。
【0007】
そこで、本発明は、電子機器内に組み込む際の作業性に優れ、品質確保が容易な電気機械変換器、およびそれを有する電子時計を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
電子機器に対して着脱可能な電気機械変換器であって、第1の受け板と、第2の受け板と、第1および第2の受け板の間に配置された回転軸の周りに回転する回転部材と、回転部材に対向して第1および第2の受け板の間に配置された固定基板と、回転部材の固定基板との対向面に、回転部材の回転方向に間隔を空けて配置された帯電部と、固定基板の回転部材との対向面に配置された対向電極と、第1および第2の受け板の少なくとも一方に配置された、回転軸の摺動性を調整するためのあがき調整部と、回転軸に連結された輪列とを有し、輪列は、電子機器からの電力により回転部材が回転することで得られる動力を電子機器に伝達するか、または電子機器の姿勢変化により得られる動力を回転部材に伝達することを特徴とする電気機械変換器が提供される。
【0009】
電気機械変換器は、第1および第2の受け板の間に配置された第3の受け板をさらに有し、輪列は第1および第3の受け板の間に配置され、回転部材および固定基板は第2および第3の受け板の間に配置されていることが好ましい。
【0010】
あがき調整部は、回転軸の長手方向における回転軸の位置を調整するためのあがき調整ねじと、あがき調整ねじを取り囲んで配置され、あがき調整ねじが組み込まれることで形成されたねじ山によりあがき調整ねじを固定する樹脂部とを有することが好ましい。あがき調整部は第1および第2の受け板の両方に配置されていることが好ましい。
【0011】
帯電部と対向電極との間の静電的な相互作用を利用して電力と動力の間の変換を行う電気機械変換器であって、第1の受け板と、第2の受け板と、第1および第2の受け板の間に配置された第3の受け板と、第2および第3の受け板の間に配置された固定基板と、固定基板に対向して配置され、回転軸の周りに回転する回転部材と、回転部材の固定基板との対向面に、回転部材の回転方向に間隔を空けて配置された帯電部と、固定基板の回転部材との対向面に配置された対向電極と、第1および第3の受け板の間に配置され、回転軸に連結された輪列とを有することを特徴とする電気機械変換器が提供される。
【0012】
電気機械変換器は、第2および第3の受け板の間において回転部材を挟んで固定基板とは反対側に配置された第2の固定基板と、回転部材の第2の固定基板との対向面に、回転方向に間隔を空けて配置された第2の帯電部と、第2の固定基板の回転部材との対向面に配置された第2の対向電極とをさらに有することが好ましい。
【0013】
輪列は、回転軸とは異なる第2の回転軸の周りに回転し、第2の回転軸は、第1および第3の受け板に軸支され、平面視で回転部材の回転領域に重なる位置に配置されていることが好ましい。
【0014】
回転部材の回転軸は、第3の受け板を貫通し、第1および第2の受け板に軸支されていることが好ましい。
【0015】
電気機械変換器は、回転部材の周囲を取り囲みかつ固定基板および第2の固定基板の間に挟まれた少なくとも一部が透光性のスペーサをさらに有し、第1および第3の受け板の側方からスペーサを通して回転部材を視認可能であることが好ましい。
【0016】
上記のいずれかの電気機械変換器と、極性が交互に切り替わる電圧を対向電極に印加して帯電部と対向電極との間で発生する静電気力により回転部材および輪列を回転させるための回路を含む回路基板と、輪列に連結し、回転部材の回転による動力を受けて指針を駆動するムーブメントとを有することを特徴とする電子時計が提供される。
【0017】
重量バランスに偏りがあり、外部から働く力により回転する回転錘と、輪列が回転錘の回転軸に直接または間接に連結された上記のいずれかの電気機械変換器と、回転錘の回転エネルギーにより回転部材を回転させたときに帯電部と対向電極との間の静電誘導により発生する電力を蓄積するための回路を含む回路基板と、蓄積された電力を用いて指針を駆動するムーブメントとを有することを特徴とする電子時計が提供される。
【0018】
電子時計は、回路基板を電子時計の裏蓋に接地するための導通部材であって、第3の受け板に配置された剛体部と、電子時計の内部の外周側において剛体部から裏蓋に延びる腕部と、剛体部から回路基板の導体部に延び回路基板を押さえる保持導通部とを有する導通部材をさらに有することが好ましい。
【0019】
剛体部は第3の受け板にねじで固定され、第3の受け板、ならびに第3の受け板の表面上で突出する剛体部およびねじの頭部は、電子時計の厚さ方向において、回路基板の裏蓋との対向面よりも裏蓋から離れた位置にあることが好ましい。
【0020】
ねじは、導通部材を電気機械変換器に固定するとともに、電気機械変換器をムーブメントに固定していることが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
上記の電気機械変換器は、電子機器内に組み込む際の作業性に優れ、上記の電気機械変換器およびそれを有する電子時計は、品質確保が容易である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図4】上側基板5の上面51および下面52を示す平面図である。
【
図5】ロータ6の上面61および下面62を示す平面図である。
【
図6】下側基板8の上面81および下面82を示す平面図である。
【
図7】電子時計20の内部構造を示す平面図である。
【
図8】電子時計20の内部構造を示す平面図である。
【
図9】電子時計20の内部構造を示す平面図である。
【
図10】電子時計20の模式的な平面図および断面図である。
【
図11】裏蓋21が取り除かれた電子時計20の一部を示す斜視図である。
【
図12】静電変換モジュール1と回路基板25との電気的な接続経路を説明するための斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照しつつ、電気機械変換器および電子時計について説明する。ただし、本発明は図面または以下に記載される実施形態には限定されないことを理解されたい。
【0024】
図1~
図3は、静電変換モジュール1の平面図、分解斜視図および断面図である。
図3は、
図1のIII-III線に沿った静電変換モジュール1の断面を示す。
【0025】
静電変換モジュール1は、電子機器に対して着脱可能な電気機械変換器の一例であり、互いに平行に配置された上受2、中受3および下受4を有する。静電変換モジュール1は、中受3と下受4の間に、静電気力による動力や静電誘導による電力を発生させる静電変換機構を有し、その帯電部と対向電極との間の静電的な相互作用を利用して電力と動力の間の変換(静電変換)を行う。また、静電変換モジュール1は、上受2と中受3の間に、静電変換機構と外部との間で動力を伝達する輪列機構を有する。すなわち、静電変換モジュール1は、発電器またはモータとして機能する静電変換機構と、それを外部から働く力により駆動またはそこで発生する動力を外部に伝達する輪列機構とが一体化(ユニット化)された2層構造のモジュールである。
【0026】
上受2、中受3および下受4は、第1、第3および第2の受け板の一例であり、互いに平行になるように重ねて配置された3枚の板状部材である。上受2と下受4は静電変換モジュール1の厚さ方向の上下にそれぞれ配置され、中受3は上受2と下受4の間に配置されている。3つの受け板のうちでは中受3が最も大きく、下受4はそれよりもやや小さく、上受2が最も小さい。上受2は、
図1に示すように平面視で中受3からはみ出さない位置に配置され、ねじ16で中受3の上面側の支持部17に固定されている。上受2と中受3の間には支持部17の高さ分だけ隙間が空いており、この部分に輪列機構が配置されている。下受4は、静電変換機構を間に挟んで、ねじ19で中受3の下面側に固定されている。符号18aは、静電変換モジュール1を電子時計などの電子機器内に組み込むときのねじ止め用の穴である。
【0027】
図2に示すように、静電変換モジュール1は、静電変換機構として、上側基板5、ロータ6、スペーサ7、下側基板8および回転軸11を有する。上側基板5、ロータ6および下側基板8は、中受3側からこの順序で互いに平行に配置されている。
【0028】
図4(A)および
図4(B)は、それぞれ、上側基板5の上面51および下面52を示す平面図である。上側基板5は、固定基板(第1の固定基板)の一例であり、例えばガラスエポキシ基板などの周知の基板材料で構成され、中受3と下受4の間における中受3側に配置されている。ロータ6との対向面である上側基板5の下面52には、
図4(B)に示すように、対向電極54~56が形成されている。
【0029】
対向電極54~56は、第1の対向電極の一例であり、それぞれ、略台形の同じ形状および大きさを有する複数の部分領域で構成される。これらの部分領域は、下面52におけるロータ6と平面視で重なる円形領域内に、対向電極54,55,56の順で、円周方向に交互かつ放射状に配置されている。対向電極54の部分領域同士および対向電極56の部分領域同士は、それぞれ下面52上で互いに接続され、対向電極55の部分領域同士は、個々の部分領域に設けられたスルーホールと上面51に形成された円形の配線パターン59とを介して互いに接続されている。対向電極54~56は、それぞれ、下面52側の3本の引出線58aおよび上面51側の3本の引出線58bを介して、上面51側における上側基板5の突出部53に設けられた3個の接続端子57に接続されている。接続端子57は、静電変換モジュール1が組み込まれる電子機器内の回路基板に接続される(電子時計に組み込まれる場合の例を、後述する
図12に示す)。
【0030】
第1の対向電極の個数は対向電極54~56の3個に限らず何個でもよい。図示した形態とは異なり、例えば対向電極55,56を省略し、第1の対向電極を対向電極54のみとしてもよい。
【0031】
図5(A)および
図5(B)は、それぞれ、ロータ6の上面61および下面62を示す平面図である。ロータ6は、回転部材の一例であり、例えばアルミニウムもしくはその合金などの金属か、ガラスまたはシリコンなどの材料で構成された略円板状の部材であり、上側基板5と下側基板8の間に配置されている。ロータ6は、その中心が回転軸11に固定されており、回転軸11とともに時計回りまたは反時計回りに回転する。軽量化のために、
図5(A)および
図5(B)に示すように、ロータ6の外周部には等間隔に溝部64が形成されており、溝部64を無視すれば、ロータ6は円板形状を有する。個々の溝部64はロータ6の外周部から中心(回転軸11)に向かって径方向に延びており、ロータ6の外周部には、溝部64でない部分に相当する突出部63と溝部64とが円周方向に交互に配置されている。同じ円周上では、突出部63と溝部64は互いに同じ幅を有する。
【0032】
ロータ6の上面61および下面62における突出部63の表面には、帯電部65が形成されている。溝部64があることで、帯電部65は、上側基板5および下側基板8との対向面である上面61および下面62において、円周方向に互いに間隔を空けて配置されている。帯電部65は、エレクトレット材料で構成された薄膜であり、静電荷を保持し、すべて同一の極性(例えば負)に帯電している。このエレクトレット材料としては、例えば、CYTOP(登録商標)などの樹脂材料、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリビニルクロライド(PVC)、ポリスチレン(PS)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリビニルデンジフルオライド(PVDF)もしくはポリビニルフルオライド(PVF)などの高分子材料、またはシリコン酸化物(SiO2)もしくはシリコン窒化物(SiN)などの無機材料が用いられる。
【0033】
エレクトレット材料は、突出部63のみに形成してもよいし、突出部63だけでなくロータ6上で突出部63および溝部64よりも中心側の円環部分に形成してもよい。後者の場合、突出部63のみにエレクトレット材料を形成することが不要となるため、ロータ6の製造が容易になる。この場合、ロータ6の中心側の円環部分は帯電されていてもよい。
【0034】
回転軸11は、ロータ6の回転中心となる軸であり、中受3、上側基板5、ロータ6および下側基板8を貫通し、上受2と下受4に軸支されている。ロータ6は中受3よりも下側(下受4側)で回転するが、中受3と下受4ではなく上受2と下受4で回転軸11を軸支して上下の軸支丈を長くする方が、回転軸11やロータ6の傾きを防ぐために有利であり、後述する輪列機構を構成する歯車間のかみ合わせが安定する。
【0035】
図3に示すように、回転軸11の上下のホゾ部には、回転軸11の上下方向(長手方向)の位置を調整して回転軸11の摺動性を調整するためのあがき調整部13が設けられている。あがき調整部13は、あがき調整ねじ13a、調整ケース13b、穴石13c、受石13d、受けねじ13eおよび樹脂部13fを有する。あがき調整ねじ13aは、回転軸11の上下方向の位置を調整するためのものであり、調整ケース13b内における回転軸11の延長線上に配置されている。
【0036】
調整ケース13bは、あがき調整ねじ13a、受石13d、受けねじ13eおよび樹脂部13fを収納する凹部を有し、その底部を中受3側に向けて上受2または下受4に固定されている。調整ケース13bの底部中央には開口部が設けられており、穴石13cはその開口部に嵌め込まれ、調整ケース13bに固定されている。穴石13cは、回転軸11の先端を通す中心穴を有し、回転軸11の長手方向に垂直な面内において回転軸11を位置決めする。受石13dは、あがき調整ねじ13aの下端に固定されており、回転軸11の先端面に接触することで回転軸11を上下方向に位置決めする。回転軸11の上下方向の位置は、あがき調整ねじ13aと調整ケース13bとの相対位置、すなわち、調整ケース13b内におけるあがき調整ねじ13aの組込みの深さに応じて決まる。
【0037】
受けねじ13eおよび樹脂部13fは、それぞれの外周面が調整ケース13bの内壁面に接触するように調整ケース13bに固定された環状の部材であり、あがき調整ねじ13aを調整ケース13bに対して固定する。あがき調整ねじ13a用のねじ山は、受けねじ13eには予め設けられているが、あがき調整部13の組立て前の樹脂部13fには設けられておらず、あがき調整ねじ13aを組み込むことによって樹脂部13fにねじ山が形成される。個々のあがき調整ねじ13aに合ったねじ山が樹脂部13fに設けられるので、受けねじ13eよりも樹脂部13fの方があがき調整ねじ13aの固定力が大きい。また、樹脂部13fがあることで、静電変換モジュール1を電子機器に組み込むときや、組込み後の電子機器の使用時に、衝撃によってあがき調整ねじ13aが緩んで静電変換機構の性能が低下するのを防ぐことができる。
【0038】
あがき調整ねじ13aで回転軸11の(したがってロータ6の)上下方向の位置を調整することで、上側基板5、ロータ6および下側基板8の隙間を調整して、ロータ6の回転中心を上側基板5と下側基板8との中間付近に合わせることができる。あがき調整部13が上受2と下受4にあることで、ロータ6と上側基板5および下側基板8との距離を調整でき、静電変換モジュール1の姿勢が変化してもそれらの距離が変動しないため、安定した発電またはモータ駆動を行うことができる。あがき調整部13は、上受2と下受4の両方に配置されていることが好ましいが、それらの一方のみに配置されていてもよい。あがき調整部13が一方のみの場合でも、あがき調整部13により回転軸11の摺動性を調整することで不要な摺動負荷を減らせるため、静電変換モジュール1がモータの場合には低消費電流化および高トルク化を実現でき、発電器の場合には発電効率が向上する。
【0039】
スペーサ7は、ロータ6の周囲を取り囲みかつロータ6の回転領域を除いて上側基板5と下側基板8の間を埋め尽くすように成形された樹脂製の部材である。
図2に示すように、スペーサ7は中央に開口部71を有し、この中にロータ6が配置されている。スペーサ7は、静電変換モジュール1の側方からスペーサ7を通してロータ6の位置を目視で確認できる程度の透光性を有することが好ましく、透明であることがより好ましい。ただし、スペーサ7は、周方向の少なくとも一部が透光性を有していればよく、その他の部分は非透光性であってもよい。あるいは、ロータ6の位置を確認できるようにするためには、スペーサ7の周方向の一部に切欠き部または凹部を形成してもよい。スペーサ7には、上側基板5と下側基板8との隙間が小さくなり過ぎるのを防いでその隙間を一定に保つ効果と、ロータ6の回転領域に外部からゴミが混入することを防ぐ効果もある。
【0040】
図6(A)および
図6(B)は、それぞれ、下側基板8の上面81および下面82を示す平面図である。下側基板8は、固定基板(第2の固定基板)の一例であり、上側基板5と同様に周知の基板材料で構成され、中受3と下受4の間における下受4側(すなわち、ロータ6を挟んで上側基板5とは反対側)に配置されている。ロータ6との対向面である下側基板8の上面81には、
図6(A)に示すように、対向電極84~86が形成されている。
【0041】
対向電極84~86は、第2の対向電極の一例であり、それぞれ、略台形の同じ形状および大きさを有する複数の部分領域で構成される。これらの部分領域は、上面81におけるロータ6と平面視で重なる円形領域内に、対向電極84,85,86の順で、円周方向に交互かつ放射状に配置されている。対向電極84~86を構成する部分領域同士は、それぞれ上面81上で互いに接続されている。対向電極84~86は、それぞれ、3本の引出線88を介して、上面81側における下側基板8の突出部83に設けられた3個の接続端子87に接続されている。接続端子87は、静電変換モジュール1が組み込まれる電子機器内の回路基板に接続される(
図12を参照)。
【0042】
第2の対向電極の個数も対向電極84~86の3個に限らず何個でもよい。図示した形態とは異なり、例えば対向電極85,86を省略し、第2の対向電極を対向電極84のみとしてもよい。
【0043】
静電変換モジュール1では、ロータ6の上面61に設けられた帯電部65と、上側基板5の下面52に設けられた対向電極54~56とが対向し、ロータ6の下面62に設けられた帯電部65と、下側基板8の上面81に設けられた対向電極84~86とが対向する。しかしながら、ロータ6の一方の面にのみ帯電部65を設け、帯電部65が設けられた面側にのみ対向電極が配置されるように、上側基板5または下側基板8を配置してもよい。この場合、上側基板5と下側基板8のうちの一方を省略することができる。
【0044】
図2および
図3に示すように、静電変換モジュール1は、輪列機構として、カナ12、歯車9,10および回転軸14,15を有する。カナ12は、回転軸11における上受2と中受3の間の部分に取り付けられた歯車である。歯車9,10も上受2と中受3の間に配置されており、それぞれ回転軸14,15の周りに回転する。歯車9はカナ12に連結され、歯車10は歯車9に連結されており、歯車10の一部は、
図1に示すように、上受2の端部よりも外側に位置している。回転軸14,15は、第2の回転軸の一例であり、両方とも、平面視でロータ6の回転領域に重なる位置で、上受2と中受3に軸支されている。歯車9,10は回転軸11に連結された輪列の一例である。
【0045】
発電量または発生する駆動力が大きくなるように、静電変換モジュール1では、ロータ6の直径は比較的大きい。静電変換モジュール1の輪列を組込み先の電子機器内の輪列に接続するためには、回転軸11に大きな歯車を付けることが考えられるが、それでは回転軸11の慣性モーメントが大きくなり性能低下を招く。このため、静電変換モジュール1では、ロータ6の回転領域の直上(平面視で重なる位置)に別の回転軸14,15を設けて、ロータ6よりも直径が小さいカナ12および歯車9,10を介在させることで、ロータ6の回転領域の外側まで輪列が引き出されている。
【0046】
静電変換モジュール1をモータとして使用するときには、静電変換モジュール1が組み込まれた電子機器から、接続端子57,87を介して対向電極54,84、対向電極55,85および対向電極56,86に互いに位相の異なる交流電圧が印加される。すると、帯電部65が作る電界と対向電極54~56,84~86が作る電界との相互作用により、帯電部65と対向電極54~56,84~86との間に引力または斥力が発生する。対向電極54~56,84~86に3相の交流電圧を印加することで、帯電部65と対向電極54~56,84~86との間で発生する静電気力によりロータ6が回転するので、回転軸11、カナ12および歯車9,10を介してその駆動力が取り出される。電子機器が電子時計であれば、その駆動力は指針に伝達される。
【0047】
なお、上側基板5と下側基板8のそれぞれで、3組ではなく2組の対向電極を交互に配置してもよく、この場合には、極性が交互に切り替わる交番電圧をそれらの対向電極に印加すればよい。つまり、静電変換モジュール1をモータとして使用するときには、歯車9,10は、静電変換モジュール1が組み込まれた電子機器からの電力によりロータ6が回転することで得られる動力をその電子機器に伝達する。
【0048】
静電変換モジュール1を発電器として使用するときには、静電変換モジュール1が組み込まれた電子機器内で例えば外部から働く力により動力を発生させ、それにより歯車10を駆動して、歯車10に連結されている歯車9およびカナ12を回転させる。すると、回転軸11とともにロータ6が回転し、それに伴い、帯電部65と対向電極54~56,84~86との重なり面積が増減する。例えば帯電部65に負電荷が保持されているとすると、ロータ6の回転に伴い、対向電極54~56,84~86に引き寄せられる正電荷が増減する。こうして、対向電極54~56,84~86の間に交流電流を発生させることにより、静電誘導を利用した発電が行われる。つまり、静電変換モジュール1を発電器として使用するときには、歯車9,10は、静電変換モジュール1が組み込まれた電子機器の姿勢変化などで得られる動力をロータ6に伝達する。
【0049】
静電変換モジュール1は、静電変換機構と輪列機構とが一体化(ユニット化)されているので、電子機器内に組み込む際の作業性(組立作業性)に優れており、品質確保も容易である。一般に、電気機械変換器の組立て時には回転部材と固定基板との隙間を確認し調整する作業が必要であるが、静電変換モジュール1は単体での組立てが可能であるため、電気機械変換器を電子機器内に直接組み立てる場合と比べて組立工数が少なく済む。
【0050】
仮に歯車9,10がなかったとすると、静電変換モジュールを電子機器に取り付けてからモジュール上で電子機器との間の輪列を組む必要があり、モジュールの取外しが困難になるが、静電変換モジュール1は、それ自体が小型の歯車9,10を含むため、電子機器に対する取付けと取外しも容易である。また、特に静電変換モジュール1をモータとして使用する場合には、ロータ6の回転が小型の歯車9,10で減速されることで、組込み先の電子機器内の輪列との接続ばらつきによるトルク損失が最小限になる。
【0051】
以下では、静電変換モジュール1を電子時計(腕時計)に組み込んだ場合の例を説明する。
図7~
図9は電子時計20の内部構造を示す平面図であり、
図10(A)および
図10(B)はそれぞれ電子時計20の模式的な平面図および断面図であり、
図11は、裏蓋21が取り除かれた電子時計20の一部を示す斜視図である。
図10(B)は、
図10(A)のXB-XB線に沿った電子時計20の断面を示す。
【0052】
電子時計20は、裏蓋21、回転錘22、受け板23、支持台24、回路基板25、地板26、文字板27および風防ガラス28を、厚さ方向にこの順に有する。
図7~
図9はいずれも裏蓋21側から見た電子時計20の平面図であり、
図7は裏蓋21が取り除かれた状態を、
図8はさらに回転錘22が取り除かれた状態を、
図9はさらに受け板23、支持台24および回路基板25が取り除かれた状態をそれぞれ示している。
図9では、歯車同士の連結が分かるように、静電変換モジュール1の上受2が透明であるとして図示している。
【0053】
電子時計20は、厚さ方向における回転錘22と地板26の間であって、受け板23、支持台24および回路基板25の側方(
図7~
図9における右下部分)に、静電変換モジュール1を有する。静電変換モジュール1は、上受2を裏蓋21側に、下受4を文字板27側に向けて、電子時計20内に組み込まれている。図示した例では、静電変換モジュール1は指針駆動用のモータとして使用され、歯車10は五番車31に連結され、歯車9は六番車、歯車10は五番中間車となっている。なお、図示しないが、電子時計20は、静電変換モジュール1の静電変換機構と同様のもので構成される静電発電器を有している。
【0054】
回転錘22は、円板形状を有する電子時計20の平面の半分程度を覆う略半円形の板材であり、図示しない静電発電器を駆動するために用いられる。回転錘22は、電子時計20の中央に設けられた回転軸22Cに固定され、電子時計20の円形領域の略全体を回転領域とする。回転錘22は、重心が回転軸22Cよりも外周側にずれていることで重量バランスに偏りを有し、例えば電子時計20を携帯する使用者が体を動かすことで生じる振動を動力源として、回転軸22Cの周りに時計回りまたは反時計回りに回転する。受け板23は回転錘22を、支持台24は受け板23をそれぞれ支持するための部材である。
【0055】
回路基板25は、極性が交互に切り替わる電圧を印加して静電変換モジュール1を駆動し、それにより歯車列を回転させるための回路を含む。地板26ならびにその上に組み込まれた五番車31およびそれに連結する他の歯車列30などにより、電子時計20のムーブメント(時計機構の本体部分)が構成される。静電変換モジュール1とムーブメントとは、歯車10(五番中間車)と五番車31とで連結される。電子時計20は、静電変換モジュール1からの動力を受けて五番車31や他の歯車列30を回転させることで、指針を駆動して時刻を表示する。
【0056】
図示した形態とは異なり、静電変換モジュール1を静電発電器として使用してもよい。この場合、静電変換モジュール1の歯車10は、別の歯車列(輪列)を介して(または直接)回転錘22の回転軸22Cに連結され、回転錘22の回転によって駆動される。回路基板25は、回転錘22の回転により静電変換モジュール1を駆動することで発生する交流電流を整流する回路や、得られた電力で電子時計20内の充放電可能な電池32を充電する回路、指針駆動用の図示しないモータを駆動する回路などを含む。電子時計20のムーブメントは、こうして蓄積された電力を用いて指針を駆動することで、時刻を表示する。
【0057】
以下では、電子時計20の回路基板25のアースを取るための機構を説明する。回路基板25上にはICなどの静電気に弱い回路部品が実装されているので、静電気を回路部品に伝えずに電子時計20の外装ケース(胴体)や裏蓋21から外部に逃がせるように、回路基板25を外装ケースまたは裏蓋21に電気的に接続する必要がある。ただし、一般に、時計の外装ケースと裏蓋の間には防水用のパッキンが挟まれているため、外装ケースと裏蓋の間の導通は確実ではなく、また、アース用の導通部材を外装ケースの側面に接触させると、ムーブメントを外装ケースに組み込むときの作業性が悪くなる。このため、アース(接地)する先は外装ケースよりも裏蓋21が好ましい。
【0058】
図11に示すように、電子時計20は、回路基板25を裏蓋21に接地するための導通部材として、アースばね40を有する。アースばね40は、電気を通すように金属材料で構成され、剛体部41、腕部42および保持導通部(接続部)43の3つの部分を有する。
【0059】
剛体部41は、アースばね40の本体部分であり、中受3における裏蓋21側の面に載置され中受3にねじ18で固定された平板状の部分である。剛体部41を裏蓋21側から見たときの形状は、
図9に示している。電子時計20の厚さ方向で裏蓋21側を上と定義すると、
図10(B)および
図11に示すように、中受3は回路基板25よりも低い(裏蓋21から遠い)位置にあり、剛体部41も、回路基板25よりも低い位置にある。より正確には、中受3の表面上で突出する剛体部41の上面およびねじ18の頭部は、回路基板25の上面(裏蓋21との対向面)よりも低い位置に配置されている。
【0060】
電子時計20の厚さを極力薄くするために、回転錘22は、ムーブメント上に固定された回路基板25の直上を通過する。電子時計20では裏蓋21にアースが取られるので、回転錘22にぶつからないように、回転錘22を避けてアースばね40を配置する必要がある。剛体部41を回路基板25上に配置すると、剛体部41や固定用のねじ18の頭部の厚さ分だけ、回路基板25と回転錘22とを厚さ方向に離すか、回転錘22を薄くする必要がある。しかしながら、前者の場合には電子時計20が余計に厚くなり、後者の場合には回転錘22の回転エネルギーが小さくなって発電量が不足するという不都合がある。そこで、回路基板25よりも上側(裏蓋21側)を回転錘22の通過領域にするために、剛体部41は、その厚さとその上に突出するねじ18の頭部の厚さ以上、電子時計20の厚さ方向で回路基板25よりも低い位置(文字板27側)に配置されている。
【0061】
静電変換モジュール1は、
図1に示す中受3の3か所のねじ穴18aに差し込まれたねじ18で、地板26(ムーブメント)に固定されている。この3本のねじ18のうちの1本が、アースばね40の剛体部41を固定するねじである。すなわち、ねじ18は、アースばね40を静電変換モジュール1に固定するとともに、静電変換モジュール1をムーブメントに固定している。このように、アースばね40の固定用のねじと静電変換モジュール1の固定用のねじとを共通化する(兼用にする)ことで、電子時計20の構成部品の個数を削減することができる。
【0062】
腕部42は、剛体部41における回路基板25から遠い側の端部から、電子時計20の内部の外周側を裏蓋21に向けて延びる棒状部分であり、回転錘22に当たらないように、回転錘22の回転領域の外側に配置されている。腕部42は、長さを確保して折れにくくするために、電子時計20の厚さ方向(
図10(B)や
図11における上下方向)に対して斜めに延びており、
図10(B)に示すように、その先端で裏蓋21に接触している。
【0063】
保持導通部43は、剛体部41における回路基板25に近い側の端部から、中受3と回路基板25との段差に沿って垂直に折れ曲がり、回路基板25の端部にかかるように延びる部分である。保持導通部43は、回路基板25上の部分で回路基板25の端部を押さえるとともに、その端部にある導体部25aに接触している。ただし、アースばね40が回路基板25の導体部25aに接触できれば、その接触位置は回路基板25の端部に限らずどこでもよく、この場合、保持導通部(接続部)の形状は、
図11に示したものとは異なっていてもよい。保持導通部43が導体部25aに接触し、腕部42が裏蓋21に接触することで、回路基板25は裏蓋21に接地される。
【0064】
図12は、静電変換モジュール1と回路基板25との電気的な接続経路を説明するための斜視図である。
図12に示すように、静電変換モジュール1の上側基板5および下側基板8と回路基板25とは、それぞれ3本のコイルばね45を介して電気的に接続されている。すなわち、上側基板5の対向電極54~56は突出部53における3個の接続端子57(
図4(A)を参照)から、下側基板8の対向電極84~86は突出部83における3個の接続端子87(
図6(A)を参照)から、それぞれ3本のコイルばね45で回路基板25に接続されている。電子時計20では静電変換モジュール1は指針駆動用のモータとして使用されるので、コイルばね45を介して回路基板25から対向電極54~56,84~86に駆動用のパルスが入力される。
【0065】
コイルばね45の反力により、回路基板25には裏蓋21側に浮き上がる力が働くが、アースばね40の保持導通部43が回路基板25の端部を押さえることで、上側基板5および下側基板8と回路基板25との接触が不安定になることを防ぐ効果も得られる。したがって、アースばね40には、回転錘22を避けた配置により裏蓋21へのアースを実現することや、静電変換モジュール1と同時にムーブメントに固定されることに加えて、コイルばね45の反力を押さえるという特徴もある。
【0066】
なお、静電変換モジュール1における中受3は必須の部材ではなく、中受3を省略し、上受2と下受4の間に静電変換機構と輪列機構をまとめて配置してもよい。
【符号の説明】
【0067】
1 静電変換モジュール
2 上受
3 中受
4 下受
5 上側基板
6 ロータ
7 スペーサ
8 下側基板
9,10 歯車
11,14,15 回転軸
13 あがき調整部
20 電子時計
21 裏蓋
22 回転錘
25 回路基板
31 五番車
40 アースばね
45 コイルばね